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3号機「高圧注水系配管損傷」説を否定した東電の“理”を検証:デタラメな説明とウソの主張でIAEA報告書を覆そうとする不遜
http://www.asyura2.com/11/genpatu15/msg/202.html
投稿者 あっしら 日時 2011 年 8 月 02 日 14:32:55: Mo7ApAlflbQ6s
 


東電は、これまで、3号機に関して高圧注水系(HPCI)の配管に損傷が生じている可能性を認めてきたが、この時期になって、配管損傷が疑われる要因となった原子炉圧力容器の異常な圧力低下を問題にしないという論理の組み立で配管損傷を否定する態度に転じた。

これは、原発立地の基幹県と言える新潟県の泉田知事と福井県の西川知事が、福島第一原発事故に関し地震による配管損傷の可能性を言及し、現状では定期検査後の再稼働を認めないという姿勢を見せていることへの“対策”の一環だと疑っている。

また、どうせ解体される保安院を叩いての国民世論の“ガス抜き”という側面も強いが、今さらながらに暴露されている税金を使った官民一体の原発推進妄動と同じように、東電にそのような転換をそそのかしたのは、経産省(保安院)の官僚だろうとも考えている。
どうであれ、東電が、政府(経産省)にお伺いを立てないまま、政府が提出したIAEA報告書の内容を否定する資料を公表できるはずもない。

(IAEAに報告した内容が絶対というわけではないから、まともな根拠と論理で覆すことに問題はない)

共同通信は、今回の東電の発表を受けて、1号機にも配管損傷がなかったと当該資料でまったく触れられていない話までオマケに付けて報じている。
そのような記事からも、原発事故原因の「津波一元説」固定化や定期検査明け再稼働を意識した“転換”であることがうかがい知れる。

※ 共同通信「地震で1、3号機損傷なし 配管破損の見方修正」
http://www.47news.jp/CN/201107/CN2011072801001051.html


様々な問題で平気でウソをつきデタラメな説明を繰り返してきた東電の主張にはインチキの烙印を押すだけで済むとは思っているが、この種の論理は、「やらせ事件」や「電力需給ダマシ扇動」と違って“科学”や“技術”の仮面をかぶっているため、もっともらしく聞こえたり、わかりにくいために見過ごされたりして、いつの間にか、結論だけがホントの話のように浸透してしまう危険性がある。

そのような思いから、“邪推”や怒りはひとまず封印し、東電の説明にまともな“理”があるかどうかをきちんと検証することにした。


検証の対象は、7月28日に東電が発表した資料「福島第一原子力発電所3号機の高圧注水系動作期間における原子炉圧力低下等のプラント挙動の要因について」である。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110728_02-j.pdf

※ 4ページという短い資料なので、お読みいただき持論の間違いや抜けなどをご指摘いただければありがたい。東電にはPDFファイルにプロテクトを掛けることをおやめいただきたい。同じ文書をキー入力するのは面倒なだけでなくミスも起きるので頭に来る。


最初に、発表資料冒頭にある“結論”的部分を引用する。

「3号機の炉心の状態の評価の記載の一部に、“HPCIが動作している部分において圧力の低下傾向が見られている。例えばHPCIの蒸気配管を通じて格納容器外へ蒸気がリークすると仮定して解析を行うと、原子炉圧力及び格納容器圧力の挙動と概ね一致する解析結果となる“旨、計測された挙動に合う条件の一例を記載している。
 その後、調査及び評価を進めたところ、今回の圧力挙動は、HPCIの運転により原子炉圧力は低下するが、一方で、ミニマムフローラインを通じて復水貯蔵槽を水源とする水がサプレッション・プールに流れ込むことで格納容器圧力を抑制していたものと推定された。
 なお、高圧注水系の作動期間において原子炉水位は維持されていることから、3号機の炉心の状態の解析結果には特段の影響はない」


この文章を読むと、前段のこれまでの説明部分と後段の新しい説明部分がどうにも結びつかない奇妙な論理展開であることに悩まされる。

原子炉の圧力低下が尋常なものではないという理由で配管損傷が疑われているのに、それについては注水で圧力は低下するものと説明しているだけで、ほとんど格納容器圧力に関する話で占められている。


それはともかく、今回の東電の主張や言い分が受け容れられるものかどうかを見ていこう。

高圧注水系(HPCI)の配管に損傷があるかどうかは、原子炉の水位と圧力の推移によって推し量ることになるので、事故発生の3月11日から水素爆発を起こす13日までの原子炉水位と原子炉圧力の推移を中心に考えていく。

■ 原子炉水位に関する東電のウソ

東電は、何も根拠を示さないまま、「高圧注水系の作動期間において原子炉水位は維持されている」と説明している。

果たして、そう言い切れるくらい、高圧注水系作動期間中、3号機の原子炉水位はきちんと維持されていたのだろうか?


● 7時間にわたる3号機水位計の電源切れを無視する東電

東電は、格納容器の圧力と温度が抑制された理由を語るために、運転員がHPCIによる原子炉への注水量を調整していたと説明している。

【引用】
「HPCIが起動した後、原子炉水位高によるHPCIの起動と停止の繰り返しを回避するため、原子炉水位を確認しながらHPCIの流量調整を実施していた」


【コメント】
このような操作が実際にあったかどうかは、東電が5月中旬に発表した運転日誌の他どの資料にも記述が見当たらないのでなんとも言えない。

“原子炉水位高による起動と停止の繰り返し”に関しては、事故発生後3日間近く動作を続けた2号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)が、原子炉水位低低(L−2)と原子炉水位高(L−8)のあいだで運転と停止を繰り返した経緯が発表されているから、それが問題につながるかどうかは別として、類似的仕組みで動く3号機のHPCIも同じようになった可能性はある。

だからといって、「原子炉水位を確認しながらHPCIの流量調整を実施」したという東電の説明をすんなり受け容れることはできない。

なぜなら、HPCI作動中を含む3月12日20:36から翌13日03:51までの7時間あまり3号機の水位計電源が切れており、この間、3号機の原子炉水位を知ることができなかったからである。

東電が「原子炉水位を確認しながら」と主張したいのなら、HPCIが動作していた14時間のほぼ半分にあたる6時間の“水位不明”状態を踏まえた上で説明をしなければならない。
そうでないのなら、人々が断片的なデータや資料しか見られないことを利用して、デタラメの理由を付けながら自分たちに都合がいいウソを垂れ流しているという謗りを免れることはできない。
まさか、運転員が、過酷事故が進行という重大な局面で、プラントの重要な基礎データもわからないままHPCIの流量調整を実施する蛮勇をふるったと言いたいわけではあるまい。


※ 7時間にわたって水位計の電源がなかった事実は、東電資料「3,4号機当直長引継日誌」のP.20の「20:36」の項と同じページの「03:51」の項で確認できる。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/plant-data/f1_4_Nisshi3_4.pdf


事故発生直後の福島第一は、いつ切れるかわからない非常用バッテリー(とっかえひっかえしながら)のみでメルトダウンを回避する対応を続けていたのだから、原子炉水位の変化を見ながらHPCIの流量調整をする余裕があったとはとうてい思えない。

● 維持なんかされていないHPCI動作期間中の3号機原子炉水位

政府のIAEA報告書での3号機の原子炉水位データは、HPCIが停止した後の3月13日05:00時点のマイナス2000mm(マイナス2m)が初出のものである。

3号機の原子炉水位の変化がわかる出来事を時系列で示す。

※ 時系列的経緯は、日本政府のIAEA報告書のなかの「W.福島原子力発電所等の事故の発生と進展」のP.71に基づく。以降の時系列的記述も、特記をしない限り同じ。
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/pdf/04-accident.pdf

「3月12日
11:36 RCICトリップ(停止):水位広帯域200mm
12:35 HPCI“自動”起動(L−2) :水位広帯域マイナス1220mm
12:45 原子炉圧力降下傾向(7.53MPa(12:10)→5.6MPa)
20:15 原子炉圧力降下傾向(0.8MPa)

※20:36 水位計電源切れ:水位(広帯域1350mm・燃料域400mm)


3月13日
02:42 HPCI停止

※3:00 DD(ディーゼル駆動消火ポンプ)でFP(消火ライン)による注水開始

※3:51 水位計の電源回復:広帯域マイナス3600mm・燃料域マイナス1600mm

04:15 原子炉水位が有効燃料頂部(TAF)に到達したと判断
05:10 HPCIが停止したため、RCICによる原子炉への注入を試みたが、RCICが起動できなかったことから、原災法第15条事象(原子炉冷却機能喪失)に該当すると事業者が判断
06:00 原子炉水位マイナス3500mm(ワイド:広帯域)」


先頭に※印が付いている項目は、東電発表「東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所プラントデータ集」の「3,4号機当直長引継日誌」P.17〜22の内容に基づき付加したものである。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/plant-data/f1_4_Nisshi3_4.pdf


上記時系列のなかに、3月12日から13日にかけての崩壊熱で3号機原子炉の水位がどのように変化するかを知る手がかりがある。

「11:36のRCICトリップ時の水位広帯域200mm」と「12:35のHPCI起動時の水位広帯域マイナス1220mm」というデータである。

注水が何もされていない状態でほぼ1時間経過しているから、そのあいだの水位変化は崩壊熱による蒸発で起きたことになる。
データから、3号機の原子炉水位は、崩壊熱で毎時1420mmほど下がることがわかる。

このデータをベースに、「高圧注水系の作動期間において原子炉水位は維持されている」という東電の主張が事実かどうか検証してみよう。

20:36の水位計電源が切れた時点の水位は、広帯域で1350mmである。
03:51の水位計電源が回復した時点の水位は、広帯域でマイナス3600mmである。

HPCIは、水位計の電源が回復する1時間ほど前の02:42に停止している。

崩壊熱で下がる1時間あたりの水位1420mmを適用すると、HPCIが停止した時点の水位は、03:51時点の−3600mm+1420mm=2180mmで、およそマイナス2150mmだったと推測できる。

それなのに、東電は、平気の平左で、「高圧注水系の作動期間において原子炉水位は維持されていることから、3号機の炉心の状態の解析結果には特段の影響はない」と見得を切っている。
しかし、とんでもないことに、高圧注水系の作動期間にも関わらず原子炉の水位は下がり、燃料棒が半分ほど露出する事態に至っていたのである。

20:36から03:51までの7時間20分で、水位は5950mm低下しているが、量はわからないとしてもそれなりの時間にわたってHPCIによる注水が行われていた可能性を考慮すると、HPCIが停止する2時間前の深夜12:30頃には燃料棒の露出が始まっていたのではないだろうか。

配管損傷を否定する資料のなかに「調査及び評価を進めたところ」ともっともらしく書いているが、東電は、基本データの扱いさえこのように杜撰なのである。

■ 原子炉圧力の異常な低下をデタラメの説明で“無問題”にしようとする東電

配管損傷を疑われた原因でもある原子炉圧力に関わる問題を見ていく。
最初は原子炉水位の問題と原子炉圧力の問題をつなぐ話で、水位問題が中心になっている。


● 配管損傷問題を大げさに“配管破断”と決めつけ話を進める奇妙な東電

東電は、「設備の設計という観点でHPCI配管が破断し大量の蒸気が漏洩していたということは考えられない」と書き、次のように理由を説明している。

【引用】 
「HPCI動作期間においては原子炉水位が維持されていたことから、原子炉から発生する蒸気はHPCIに供給され、原子炉に注水が行われていた」


【コメント】
ここでも「HPCI動作期間においては原子炉水位が維持されていた」と平気で書いているが、既に書いたように、3号機の原子炉水位が維持されていたというデータはどこにもない。

それどころか、HPCI動作期間中に、原子炉水位は炉心が半分ほど露出するまで低下している。

引用部分に続いて、「仮にHPCIの蒸気配管が破断し、格納容器外に蒸気が流出した場合、HPCI蒸気管破断(蒸気流量大)により隔離信号が発せられる」と説明し、最後は、「隔離信号が発せられることから、HPCIは動作しない、もしくは停止すると考えられ、原子炉水位が維持できていたことと整合しない」という説明で結んでいる。

最後の部分は、原子炉水位が維持できていなかったことが明らかになっているのだから、虚しい主張でしかなく根拠にはなり得ない。

私は、原子炉圧力の低下状況と原子炉水位の変化状況から、3号機の蒸気配管に損傷があるとしても、破断というひどいレベルではないと考えている。

配管からの蒸気漏れがありながらも、しばらくはHPCIのタービンを十分に回せる量の蒸気が送られていたからこそ、原子炉の水位はある時点まで回復傾向を見せていたはずだ。
このことから、配管に損傷があるとしても、蒸気が大量に漏れ出すレベルのものではなく、水位が回復する注水もできる時期もあるレベルの損傷と考えている。

東電に必要な調査や評価は、HPCI蒸気配管の損傷を破断と決めつけ、そんなことはありえないと居直るためのものではなく、どの程度の配管損傷ならわかっている原子炉圧力の低下状況に適合するのかを明らかにするものでなければならない。

設備の設計を根拠に配管の“破断”を否定しようと、「隔離信号」や「温度検出器」の話を持ち出しているが、水位計さえ電源がなくなっているのだから、それらがきちんと動いていたという保証はないだろう。


● 原子炉圧力低下によるHPCIの能力低下を説明しない東電

3号機の高圧注水系配管の損傷を否定する今回の資料を読んで不可思議なのは、原子炉圧力が低下している事実があるのだから、原子炉で発生する蒸気を利用してタービンを回すことで注水を行っている高圧注水系の能力もそれとともに低下し、原子炉に注水できる量も“自然”に減少していく事実をまったく説明していないことである。

12:35にHPCIが自動起動した時点の水位が広帯域マイナス1220mmで、20:36の水位計電源OFF時点の広帯域水位が1350mmだから、当初の8時間では水位が2570mmほど回復していることがわかる。

しかし、それから6時間後のHPCI停止時点(02:42)では、広帯域水位がマイナス2150mmまで下がっている。
同じくHPCIが作動を続けているのに、この6時間では、水位が3500mmも下がったことになる。

東電は、HPCIが動作していた期間中、ある時点までは水位が回復傾向を見せながら、ある時点からは水位が減少する傾向に変わってしまった理由を説明しなければならない。

原子炉から送出される蒸気の圧力が高いうちはタービンが十分に回り、漏出で圧力が下がっていく過程でタービンが十分に回らなくなり、原子炉への注水量もそれにつれ減少していったはずである。
3号機の原子炉水位が回復傾向から低下傾向に逆転したのは、東電が“無問題”のように扱う原子炉圧力の低下が要因だと考えている。

02:42にHPCIが停止するが、その時点の原子炉圧力は0.58MPa(絶対圧で7気圧弱)しかないから、その時点で原子炉から送出される蒸気の圧力ではタービンを回すことが出来なくなりHPCIが停まったと考えるのが自然だろう。

HPCIが自動起動した時点の原子炉圧力は、近傍の時刻のデータはないが、7.53MPa(絶対圧で76気圧)と5.60MPa(絶対圧で57気圧)の間と見られる。

資料のなかに、HPCIのポンプ流量は、RCICの90トン/時の2倍、180トン/時もあることが書かれている。
HPCI停止時点の7気圧弱と言えば、消防車のポンプの吐出圧力よりも低い。大容量のポンプを稼働させるために70気圧超の圧力も想定して付けられているHPCIのタービンが回らなくなるのも当然だろう。


【原子炉圧力推移:3月12日】
17:00 2.90MPa
18:30 1.35MPa
19:00 0.95MPa


このような原子炉圧力の変化状況と原子炉水位の関係から、原子炉水位は、18:00頃には低下傾向へ転じたのではないだろうか。

東電は、原子炉水位が高(L−8)にならないよう「HPCIの流量調整を実施していた」と説明しているが、運転員が調整せずとも、原子炉圧力の低下に従い“自然”に流量が調整されていたのである。
逆に、原子炉水位が低下しているからHPCIの流量を増加させようとあがいても、その“自然”に逆らった内容で流量を調整することはできない。


※ 圧力などのデータは、東電資料「8.プラント関連パラメータ[2011年6月13日 訂正後:水位・圧力に関するデータ:P.65からP.68を参照
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/plant-data/f1_8_Parameter_data_20110613teisei.pdf


3号機の原子炉圧力は、HPCIが停止した後、

【原子炉圧力推移:3月13日】
02:44 0.580MPa
03:00 0.770MPa
03:44 4.100MPa
05:00 7.380MPa

と、急速に高まっている。

注水がなくなり蒸発一辺倒になったことが主たる原因だが、HPCIが停まったことで蒸気漏れがなくなったことも一因になっているはずだ。

05:10にRCICの再起動を試みたのも、原子炉圧力が高まったことを受けての対応だったと推測する。

HPCIを再起動しようとしなかったのは、作動中の原子炉の圧力や水位の変化などから、“HPCI配管に不都合”があることがわかったからではないだろうか。
メルトダウン寸前という事態に陥っているのだから、RCICのみならず、HPCIの再起動にもチャレンジするのが当然である。


3号機高圧注水系配管の損傷を否定する資料には、MAAP解析のグラフも付いているが、水位のグラフ(P.3の図1)を見てわかるように、「実機計測値」が長時間にわたりしかも重要な時間帯で抜けている。

このようなMAAP解析のグラフを提示するのはコケ脅かし以外のなにものでもない。


● 同じ話を違うものであるかのように説明する詐欺師体質の東電

冒頭に引用した“結論”について、この文章を読むと、前段のこれまでの説明部分と後段の新しい説明部分がどうにも結びついていない奇妙な論理展開であることで悩まされると書いたが、肝心な原子炉圧力低下の要因に関する箇所でも何も説明できていない。


【引用】
「・ 通常はHPCIによる注水が開始すると、原子炉圧力はHPCIの注入に伴い減少するが、HPCIの注入に使用された蒸気はサプレッション・プール(S/P)で凝縮されるためS/Pの水温は上昇し、格納容器圧力は上昇することとなる。」


原子炉の圧力低下が尋常ではないことが配管損傷を疑う主な理由なのだから、このようなピントがずれた説明をされても、何を言ってるの?である。

また、「HPCIの注入に使用された蒸気はサプレッション・プール(S/P)で凝縮されるためS/Pの水温は上昇し、格納容器圧力は上昇することとなる」という意図不明の説明も、IAEA報告書の添付資料に書かれている「格納容器圧力は、炉内発生蒸気をS/Cへ放出するためD/W及びS/Cの圧力は上昇を続ける」と、表現が違うだけで、実質的な内容は同じなのだから、わざわざ持ち出すような話ではない。

「炉内発生蒸気をS/Cへ放出する」は、そのすぐ後ろで「SRVの開放」(逃がし安全弁の開放)に関する記述が別にされているから、「HPCIの注入に使用された蒸気はサプレッション・プール(S/P)で凝縮される」ことを指していることになる。

原子炉の蒸気は、圧力容器自体や格納容器を通る配管に“穴”が開いていない限り、逃がし安全弁の開放か、RCICやHPCIのタービンを回したあとにのみ、S/C(S/P)に導かれる。


● 原子炉圧力低下問題をウソで矮小化しようとする東電

東電は、肝心要の異常な原子炉圧力低下を説明できないことから、驚くことに、技術的にウソの理由を付けて、圧力低下は何ら問題ではないというとんでもない作戦に打って出た。


【引用】
「・ 今回の挙動は、HPCIの継続的な運転により原子炉圧力は低下するものの、原子炉水位高(L−8)によるHPCIの不必要な停止を避けるためHPCI注水量を調整し、その際にミニマムフローライン(ポンプ流量が約180t/hより少ない場合に開く)が開くことで、当該ラインを通じて復水貯蔵槽を水源とする冷たい水がサプレッション・プール(S/P)へ流れ込むことでS/P水温の上昇を抑制し、格納容器圧力上昇が抑制されていたものと推定される」


【コメント】
この部分で最大の問題は、「HPCIの継続的な運転により原子炉圧力は低下する」というウソの説明をしていることである。

一つ前の項目でも、「通常はHPCIによる注水が開始すると、原子炉圧力はHPCIの注入に伴い減少する」と似たような説明をしている。

まず、それまで注水がなかった原子炉の圧力は、注水が開始されると炉内の蒸気が一気に凝縮されることで当初減少するが、その後すぐに7MPa近くまで上昇する。

(蒸気が冷やされて水になることで体積が千分の一ほどになるので、炉内の圧力は当初大きく低下する)

これについては、高圧注水系の配管損傷を仮定すると様々な事象を統一的に説明できるとしたIAEA報告書の添付資料のなかで、「原子炉圧力は、RCIC、HPCIが停止するまでの間は、SRV作動圧力近傍で高圧状態に維持される」と記述されている。

IAEA報告書と東電のどちらが正しいのか、「HPCIの継続的な運転により原子炉圧力は低下する」という東電の主張は正しいのかという問いは、HPCIが自動起動する1時間ほど前まで実際に動作していたRCICが原子炉圧力にどのような影響を与えていたかを見れば解決する。


【3号機原子炉圧力変化:事故発生の3月11日から12日にかけて】

※ RCIC動作中

19:37 7.17MPa
20:30 7.10Pa
21:30 7.25MPa
22:30 7.30MPa
23:35 7.32MPa
00:30 7.35MPa
01:25 7.10MPa
02:30 7.34MPa
03:30 7.40MPa
04:35 7.40MPa
05:30 7.29MPa
06:30 7.49MPa
07:30 7.23MPa
08:30 7.52MPa
09:30 7.46MPa
11:23 7.53MPa

※11:36 RCIC停止

12:10 7.53MPa

※12:35 HPIC自動起動

12:45 5.60MPa


このように、IAEA報告書に書かれている通り、「原子炉圧力は、RCIC、HPCIが停止するまでの間は、SRV作動圧力近傍で高圧状態に維持される」のである。

HPCIの作動で原子炉圧力が激しく下がっていくことは“異常”なのであり、東電は、それを無問題で済ますのではなく、それが何に起因したのかをきちんと説明する責任を負っている。
東電が、もしも、「原子炉圧力はHPCIの注入に伴い減少」し続けると主張するのなら、その根拠として実証的な説明をしなければならない。

通常運転時も、復水貯蔵槽ほど低い温度ではないが、復水器で凝縮された水が原子炉に大量に注ぎ込まれているから、そのために、原子炉の圧力が低下を続けてもおかしくないという奇妙な話になりかねない。

3号機の原子炉圧力は、HPCIの注水量減少で原子炉水位の低下傾向を招き、ついにはHPCIそのものを停止させてしまうレベルまで低下している。
それが通常のことで、なにも問題ではないと主張するなら、東電は正気を完全に失っていると言える。

S/P水温の上昇抑制や格納容器圧力上昇の抑制も、配管損傷による蒸気漏れに起因する原子炉圧力の低下で炉内の沸点が下がり、蒸気の温度が圧力ともども低下したことで説明するほうが理にかなっていると思われる。


3号機の原子炉圧力は次のように推移している。

【原子炉圧力変化:3月12日から13日】
12:10 7.53MPa

※12:35 HPCI自動起動

12:45 5.60MPa
13:38 4.00MPa
14:25 3.56MPa
17:00 2.90MPa
18:30 1.35MPa
19:00 0.95MPa
19:42 0.82MPa
20:30 0.82MPa
21:00 0.72MPa
22:00 0.97MPa
23:00 0.96MPa
00:00 0.97MPa
01:00 0.97MPa
02:00 0.85MPa

※02:42 HPCI停止

02:44 0.58MPa
03:00 0.77MPa
03:44 4.10MPa
05:00 7.38MPa
06:00 7.39MPa」


蛇足だが、「原子炉水位高(L−8)によるHPCIの不必要な停止を避ける」という表現は、緊急時に原子炉水位を安定させる自動制御機能に関するものとしてはきわどいものだろう。
原子炉水位高(L−8)によるHPCIの停止は、「不必要な停止」ではなく、必要な停止である。


※ 参考資料

日本政府IAEA報告書のなかの「福島第一原子力発電所1〜3号機の炉心の状態について」のP.42からP.64の内容が、3号機高圧注水系の配管損傷を疑っているものである。
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/pdf/app-chap04-1.pdf

「3号機の炉心の状態について」から関連部分を引用する。

「原子炉圧力は、RCIC、HPCIが停止するまでの間は、SRV作動圧力近傍で高圧状態に維持される。HPCI停止後のSRV開放により原子炉は急速に減圧され、その後大気圧近傍まで低下する。なお、解析ではRCICとHPCIは継続して運転していると仮定しているが、HPCIが動作している部分において圧力の低下傾向が見られている。例えばHPCIの蒸気配管を通じて格納容器外へ蒸気がリークすると仮定して解析を行うと、原子炉圧力容器圧力変化及び格納容器圧力変化は概ね一致する結果となる。但し、実際にHPCIの系統にリークパスが形成されていたのか、計器の問題なのかについては現状では特定できない。
 格納容器圧力は、炉内発生蒸気をS/Cへ放出するためD/W及びS/Cの圧力は上昇を続ける。また、SRVの開放により圧力は一時的に大きく上昇するが、S/Cベントにより圧力は低下する。その後においてもベント操作に応じて圧力は増加・現象を繰り返す。」P.44

■ 「現場の状況と操作」に見られるいい加減な説明

オマケと言ったらなんだが、東電が配管損傷を否定するために持ち出している別の問題にも簡単に触れておく。

● 「現場の状況」に関する東電の言い分

【引用】
「HPCIの蒸気配管を通じて格納容器外へ大量に蒸気がリークしていた場合は、HPCI室を含め原子炉建屋内は高温又は高い蒸気雰囲気となり建屋に人が立ち入ることは不可能であると考えられるが、3月13日にHPCIが停止した後、RCICの再起動を試みるためHPCI室を経由してRCIC室に入った運転員がいた」


【コメント】
HPCIの配管とRCICの配管は、格納容器内から外に出てしばらくまでは共通(同じ配管)だから、RCIC作動時に蒸気漏れがなく、HPCIが作動したことで蒸気漏れが起きたとすれば、漏出場所は格納容器の外で共通部分を超えたどこかということになる。

まず、運転員の立ち入り実績を蒸気漏れ問題と結びつけているが、時間経過を曖昧にしたままの説明では言い分として通らない。
HPCIの停止とRCIC再起動の試みが時間的に連続した出来事と思われるように語られているが、実際は、HPCIの停止からRCIC再起動への試みまでに2時間以上のあい間がある。


【経緯】
「(3月13日)
02:42 HPCI停止
05:10 HPCIが停止したため、RCICによる原子炉への注入を試みたが、RCICが起動できなかったことから、原災法第15条事象(原子炉冷却機能喪失)に該当すると事業者が判断」


そして、損傷と言っても、長い配管のどこなのかで蒸気の漏れる場所は変わるし、傷口の大きさによって漏れる蒸気の量も変わる。
損傷箇所が運転員の通路から離れたところで、傷口が小さく漏出した蒸気量も元々それほど多くなく、さらに圧力低下で徐々に減少し、沸点の低下で蒸気の温度も徐々に下がっていたのなら、HPCI停止後2時間以上経過していた時点での立ち入りは可能だと言えるだろう。

02:00時点での原子炉圧力は0.85MPaだから、漏出蒸気の温度は、7MPa時の280℃といったレベルではなく、170℃程度である。

このことから、配管損傷がないと判断した根拠の一つは、説明内容ではほとんど根拠になり得ていないと結論づけられる。

最後に:

このように、デタラメとウソで塗り固められた配管損傷否定の資料を平気で公表することからも、経産省と東電(電力会社)が、福島第一原発事故の原因を津波に限定し、電源車やドリルという有効性が疑われる対策で十分と再稼働を実現し、今後も原発そのものを存続どころか推進していきたいと強く考えていることがわかる。

毎時10シーベルトというとんでもないレベルの空間線量が公表されても一瞬の驚きで終わってしまいかねない「原発事故マヒ症状」が世の中で進んでいる気もする。

原発事故に対するあきらめや飽きのムードに抗して、今後も機会があるたびに思いを発信していきたいと思っている。
 

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コメント
 
01. 2011年8月02日 15:57:32: esmsVHFkrM
すばらしい。よくわかる。いつもながら、あっしら氏には敬意を評する。

東電、経済産業省官僚、御用学者、「原子力等に関する不正確な情報又は不適切な情報に対する常時モニタリング」なるものを請け負ったADK等原子力村関係者による反論を見たいものだ。

もっとも、まともな反論ができればの話だが。


02. 2011年8月02日 18:13:44: hMSQ53G7t6
もっともらしく、あれこれ、長々、うだうだ書いているが、
全ては「4号機東電爆破」から来ていると本人が間接的に述べているのだから恐れ入る。原発事故論に踏み込んだ動機は「4号機爆破」だったんだと。

4号機を東電なり政府なりが爆破したとすれば大犯罪だ。
愚論をこねくりまわしていないで、さっさと吉田所長らを告発しろよ。


03. 2011年8月03日 00:58:09: gf7OQcxcqA
気象庁の予測で過ごしやすい日々
フォトマルかゲルマは見えるらしい
IAEA報告書を見たが端麗な総括に
綻びが観える人は4月から茶目に成った
知る悲しみは幸福を予感しないし、突然に
世を離れる、往くたびかの季節を残して

04. 2011年8月03日 20:59:34: gT7RlRbStI
4号機東電爆破は、本稿とは無関係な内容。02はアンチあっしらなストーカーか、さもなくば工作員。

05. 恵也 2012年7月23日 13:09:45 : cdRlA.6W79UEw : DJ8mUQMIc6
>> いつの間にか、結論だけがホントの話のように浸透してしまう危険性がある。

いまだに東京電力がこんな調査をしてるのがおかしい。
安全といいながら大事故を起こし、まともな技術力もないくせに背伸びして調査する。
最も日本で信用ができない連中が調査してるのでは、時間とお金の無駄使いだ。
しかしデータを持ってるのはこいつらだけなのに・・・・・

東京電力を少しでも早くつぶし、信頼できる技術者を集めて再度調査してくれ。
潰さないのは銀行債権と企業年金をゼロにしたくないからなのかね。
本当にこいつらの言うことは、どこまで信用したら良いのやら・・・・


06. 2012年8月06日 12:05:14 : y5Anvm4qPw
「IAEAに提出された保安院の資料で示されている福島第一原発3号機の原子炉水位が、
東電の発表と異なっているのだ。原子炉水位は通常時で、約5000mmに保たれている。
これは、燃料棒の頭よりも5m高いところに水面があるという意味だ。保安院の資料によると、
3月12日の水位は0mmで、燃料棒の頭の高さまで水位が下がっている。(略)しかし、
東電が発表した資料では、この日の水位は4170mmとなっているのだ。誤差というには
あまりにもかけ離れている。東電の説明によれば、水位の計測法には2種類あり、
それぞれ基準点の0が異なっている。その差が数字の差となっているだけだというのだ。
しかし、そうであれば、他の日でも同様の差があるはずだが、保安院が示した他の日の
水位データは東電の資料と一致している。『(本誌に)指摘されるまで分からなかったの
ですが、基準点を変更したデータであることを、保安院に報告し忘れていました。
3月12日までは基準点を高い位置に設定していましたが、13日からは低い位置の数値に
変えて報告していたんです。そのため、12日の水位が低いかのようになったのです』
(東京電力総務部広報グループ) ちなみに保安院の資料には基準点の変更については
記載されていない。これだけを見た人は、実際は水の量が変わっていないにもかかわらず、
グラフや数値上では水位が回復したかのように見える。改竄に他ならないだろう。
広報グループは、意図的な情報隠蔽ではないかという本誌の指摘に『意図的に日本の
みなさまに何かを隠して、世界には先に発信するというつもりはありませんでした。
しかしながら、結果的にそうなってしまったことは、配慮が足りず申し訳ございません』
と平謝りを繰り返すばかりだった。」
フライデー2011/5/13.20

3月12日20:36〜13日03:51までの7時間
3号機の水位計電源が切れて水位がブランクになっているということですが
この間東電が勝手に水位計を校正して計測基準点を変更し、高水位にみせかける操作をしていたと
いう事ですよね?
計測基準点を低く変更したら、それまでより高水位に表示されるようになります


07. 2012年8月06日 12:10:30 : y5Anvm4qPw
事故調報告 20ページ http://icanps.go.jp/SaishyuHon02.pdf
 
圧力容器の圧力が急激に下がったり、格納容器内が高温になると
差圧式水位計の基準面器内の水が蒸発し
基準水位が低下することで水位計が実際より多めに表示される可能性がある事
について書かれています

SR弁が自動作動しないような格納容器高圧の場合、すでに水位計が狂いはじめている可能性があるという事です

週刊誌の取材に東電広報が「3月12日までは基準点を高い位置に設定していましたが、13日からは低い位置の数値に変えて報告していたんです」と言っていますが
基準水位は相対的なものであり、これによって表示される水位まで数メートルの誤差でちがってくるわけです


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