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正しく怖がる放射能1「放射能」でなく「放射線」の正体を知ろう
http://www.asyura2.com/11/genpatu9/msg/147.html
投稿者 sci 日時 2011 年 4 月 12 日 09:08:07: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110411/219386/?ST=print日経ビジネス オンライントップ>IT・技術>伊東 乾の「常識の源流探訪」

正しく怖がる放射能【1】「放射能」でなく「放射線」の正体を知ろう

2011年4月12日 火曜日
伊東 乾

放射能  原子核  電子  放射性物質  アルファ線  放射線  ベータ線  中性子  原子 

 世の中には「放射能」について平易に書かれた良書がたくさんあります。でもあえてここで、新しい解説を書こうと思ったのには訳があります。それは、大半の本が「放射能」というものありきとして、つまり「放射能前提」で書かれているのが良くないと思ったからです。

 なるほど、よく読むと正しいことが書いてある。けれども、しょっぱなから「放射能」に馴染みのない人には、いつまでたってもピンと来ない、よく分からない話が続くことになってしまいます。やれα(アルファ)線だ、β(ベータ)線だといわれても、宇宙人の言葉のようで実感が湧かなければ、読んだ後、内容が身につきません。

 テレビや新聞など大半の報道機関は、何か「当たり前」のような顔をして「プルトニウムから放射されるアルファ線」とか「ベータ線熱傷」などと言ったり書いたりします。しかし正直なところ、テレビのアナウンス原稿を作った人も、それを読み上げているアナウンサーも、「アルファ線」の実体が何か、「ベータ線熱傷」の「ベータ線」が何ものか理解しているか定かでありません。

 よく分からずに書かれた内容を、よく分からない人が読んで、正確に内容が伝わるわけがない、当たり前です。結果的に大半の視聴者には、お経のようにちんぷんかんぷんなイメージだけが残る。原発事故の直後はそういう放送や報道を数多く目にして、当初は出来る範囲で訂正をしようと思い、生放送で喋っているおかしな内容をツイッターでの修正を試みたりもしました。

 基礎のないところに応用の話をしても、土台がありませんから混乱に混乱を重ねるだけです。しかし皆が気になるのは緊急性の高い話題で、基礎的な内容だけ講釈しても右から左に抜けて残りません。今、気をつけるべき問題を扱いながら、基礎からおさらいし直すような、そういう「放射能の話」が必要だと思いました。そこで「今を生き延びるために必要」な科学の基礎的な内容を、数回かけて補ってみたいと思います。

 直接のご指摘やご質問があるようでしたら、私のツイッターにいただければ、お答えできるものがあると思います。よろしくお願いします。

「お勉強」と思えばリスクへ一直線

 皆が知りたいのは「情報」だ、「お勉強」は必要ない、という、なかなか度胸のあるコメントを目にしました。が、必要な事を整理もせずに情報を「判断」出来ると思うのは慢心というものです。そういう人から順に、無用なものを恐れ、必要な判断ができず危険にまっしぐらに近づいてゆくのが目に見えるような気がします。少なくとも物理の学生実験指導などすると、そういう実例を目にします。そもそも「お勉強」などと思った時点で、リスクに向かってまっすぐに直滑降しているようなものです。

 以下では、私が2002〜03年度、東京大学工学部システム創成学科(旧原子力工学科)の3年生で担当した物性物理の入り口に、被曝量など保険物理の内容を加えて、必要なら中学高校の内容も補いながら、当たり前のことを当たり前に書くようにつとめて準備してみます。どんな最新情報が来ても理解のもとになる基本ですが、何かセンセーショナルな内容が書いてあるわけではありません(前回は「これから・・・」という序文相当の部分でした)。スキャンダルがお好きな向きにはお勧めしません。まじめに自分や家族の身を守るつもりのない方にはほとんど役に立たない基礎情報です。

 さて、放射能の話で誰もが気になるのは「健康」ですね。自分や家族、あるいは仲間の身体が放射能によって影響を受けたりしないか、「放射能」は目に見えないと言われるので、とても不安になります。そこで、私たち自身の身体から出発して、放射能を考えてみましょう。

「核」は我らの中にあり

 私たちの体を考えてみましょう。人間の体は器官から出来ています。頭、手足、目玉や耳といった外から見えるものもあれば、心臓、肝臓、肺、胃腸や脳など、体内で活動する臓器もある。この器官はすべて細胞が集まって出来ています。人間に限らず、生物の身体はすべて細胞が集まって成立しているものです。

 この細胞を1つ取り出してよく調べると、細胞の中に核と呼ばれるものがあり、その中に遺伝子が入っています。遺伝子の全体をゲノムと呼ぶこともあります。実際には細胞の核の中に染色体と呼ばれるものが入っていて、この染色体をよく解きほぐしてみると遺伝情報が書き込まれた巨大な分子だということが分かるわけです。すべての細胞はこの遺伝情報が書き込まれた遺伝子の中から、必要な部分を読み出して、私たちの身体を常に作ったり修繕したりしています。

 例えば指先に怪我をしたとき、消毒して薬を塗ってしばらくそっとしておくと傷が治っています。これはその部分で適切に細胞が遺伝情報を読み出して、元と同じ器官を修復するように働いているわけですね。指先の怪我を治そうと思っても、細胞は間違ってそこに、心臓や肝臓を生えさせたりはしません。心臓や肝臓を作るために必要な情報も、まるで巨大な辞書か電話帳のように、私たちのすべての細胞内のゲノムの中に収められていますが、普通は正しく情報が読み出されて、器官が正確に修復、再現されます(これがうまくいかなくなる1つのケースがガンにほかなりません)。

 さて、いま私たちの手足や脳などの器官は細胞で出来ており、細胞の中には遺伝子があるという話をしました。

 この遺伝子がデオキシリボ核酸(DNA)という巨大な分子で出来ているという話は、多くの方が聞いたことがあると思います。DNAはアデニンとチミン、グアニンとシトシンという2組4種の塩基が対になって並んだ2重らせん構造で出来ている巨大分子です。そして、こうした分子は炭素や水素、酸素など多数の原子が組み合わせられて出来ています。

 この原子を1つ取り出すと、その中心には原子核という小さな粒があり、その周りを電子と呼ばれる更に小さな粒がある「ように見えることがあります」。いま「ように見えることがある」などとヘンな書き方をしたのは、電子は時には粒のように見えるけれど、別のタイミングでは波のようにも見えるという、非常に不思議な代物(エネルギー量子)なのです。今、1個の原子が野球場ほどの大きさだとすれば、原子核は野球場のど真ん中に置かれた野球のボール1つくらいの小さなものです。そしてその周りを回っている不思議な存在である電子は外野席あたりを飛んでいるケシ粒1つ(最近はケシ粒では通じにくいらしいですね、しょせん例えですので、ゴマでも何でも結構です)くらいに小ささなのです。原子というのは実は中身がスカスカなものなんですね。

 ・・・と、ようやくここで「原子」とか「原子核」とかいう言葉が出てきました。でもこれって、元をただせば私たちの体を作っている材料を細かく見てきたものでした。

 実は「放射能」と呼ばれるものは、私たちの身体を作っている、極微の部品の一部と同じようなものにほかなりません。この同じ「ような」というあたりを、あとできちんとお話するようにしましょう。

 「原子力」とか「放射能」などと言うと、何か人間と全く違う世界のものであるような印象を持つかもしれませんが、「放射能」と言われるものは実のところ、私たち自身の身体を作っている器官、細胞そして分子を形づくっている部品と似たようなものが、ハイスピードで飛んできてぶつかるような現象なのです。先ほどの例えで言えば「野球のボール」(原子核)やその部品(陽子、中性子)、「ケシかゴマの粒」(電子)さらには、私たちが見慣れているつもりの「光」の極めて威力の強いものが、スカスカの野球場である原子の中から、やたら強力な場外ホームランでポコポコ出てくるというのが、放射性物質から放射線が飛び出してくるという現象の実体なのです。

 放射能が目に見えないのは、おのおのが極めて「小さい」からだと思って大きく外れません。原子1つが野球場の大きさだとして、その中の「ボール」1つや、「ケシ粒」あるいは光の粒1つなど、目にはよく見えなさそうでしょう?

 そんな極小の、私たちの身体を作っている究極の部品と似た「ボール」や「ケシ粒」あるいは「光」の場外ホームランが飛んでくると、ちょうどビリヤードの玉がぶつかるように、私たちの身体を作っている細胞内の原子・分子の「ボール(原子核)」や「ケシ粒」(電子)とぶつかって、傷つくことがありえます。

 放射能が健康に害を及ぼす、というのは、実はこういう玉突き状態を考えると、決して目に見えない、お化けの世界のような出来事でないことが分かります。

正体不明の「放射能」はやめよう!

 さて、多くの報道が「放射能」という言葉を使っていますが、ここから先では内容がより明確な2つの別の言葉を明確に区別して使いたいと思います。

 1つは「放射性物質」、そしてもう1つは「放射線」です。

 「放射性物質」というのは、先ほどから言っている「場外ホームラン」が中から出てきやすい野球場、つまり原子のことです。おのおのの原子は物質ごとに名前があります。その名前を「元素」といいます。

 水素、ヘリウム、ナトリウム、塩素、金、銀、銅、ヨウ素、セシウム、ウラン、プルトニウム・・・、これらはすべて異なる「元素」です。元素が異なるとはどういうことか、といった話は、少し先でお話するようにしましょう。中世のイスラム世界やヨーロッパには数多くの「錬金術師」がいましたが、誰一人として「銀」や「銅」を混ぜ合わせて「金」を作ることは出来ませんでした。その理由は「元素」として違うものだからで、実際は先ほどの「野球のボール」(原子核)が違っているのです。核の種類が違うので、これを「核種」と呼びます。

 ここでは「ウラン235」と「プルトニウム238」は別の元素、別の核種だ、と大雑把に考えておいてください。ヨウ素131とかセシウム137なんて言葉を耳にすると思いますが、131とか137などの不思議な数字については、もう少し話に慣れた頃に改めてお話しましょう。

 代表的な「放射線」の名前として「α(アルファ)線」「β(ベータ)線」「γ(ガンマ)線」という名前を聞くと思います。あるいは原子力発電所の中で反応を促進する「中性子線」であるとか「陽子線」なんて名前も目にするかもしれません。(陽子線は「ようしせん」で「ようこせん」ではありませんので念のため)。

多くの放射線は容易に遮蔽できる

 19世紀最末年、日本で言えば明治中期に「放射線」の仲間が発見され始めた当初、それらの正体は分かりませんでした。何かのビームが出ている。それは間違いありません。そこで人々はこれを「X線」とか「α線」「β線」「γ線」などと、とりあえず区別のつくごとに分類して名前をつけました。アルファ線は数センチの空気の層を突き抜けることができず、紙1枚でも遮られるけれど、ベータ線は紙は突き抜けてしまう。ところがこのベータ線も数ミリのアルミ板や1センチほどのプラスチック版があれば遮ることが出来る。ところがこれよりも遥かに透過性の高いガンマ線は厚さ10センチの鉛のブロックで遮らないと、外に突き抜けてしまうのです。

 現在では、これら放射線の正体が分かっています。「アルファ線」と呼ばれているものはヘリウム4原子核、つまり先ほど「野球場」に例えた原子の中心にある野球のボールで、ヘリウム4と呼ばれる核種のものです。先に答えだけ書いておくとベータ線の正体は電子、ガンマ線の正体は光線です。

 さて、今ここではアルファ線の話から始めましょう。このアルファ線の正体、つまりヘリウム4、これがなぜ4と呼ばれるかというと4つの部品から出来ているからなのです。ヘリウム4は陽子が2個、中性子が2個、あわせて4つの部品から出来ています。このうち陽子の数で元素の種類が決まります。ヘリウムというと、宙に浮く風船の中に入っていたり、吸い込むと声が変になる(ヘリウムヴォイス、などといいます)をご存知の方もおられると思いますが、ある元素がヘリウムであるというのは原子核に陽子を2個持っているというのと同じ意味なんですね。そこでこの陽子の数を「原子番号」と読んでいます。
 陽子が1つの元素を「水素」といいます。原子番号1番。
 陽子が2つの元素を「ヘリウム」といいます。原子番号2番。

 「水素」はよく見る言葉ですね。実は「陽子」といっているのは水素の原子核なのです。どうして「陽子」なんて名前になったかというと、水素原子は陽気な性質の粒子なのです。ふざけているわけではなく、プラスの性質がある。陽子はプラスの電荷を帯びているのです。ちなみに、次に出てくる電子(でんし)は、陽子のプラスの電気とちょうどぴったり同じ量のマイナスの電気を帯びています。

 テレビの原発事故報道で出てくる、いろいろな物質名は、実はすべてこの「元素番号」で考えると整理整頓できます。
ナトリウムは原子番号11、つまり原子核に11個の陽子が含まれている元素
塩素 は原子番号17、つまり原子核に17個の陽子が含まれている元素

 塩素とナトリウムから作られる「塩化ナトリウム」は、私たちが生きてゆくのに欠かせない「食塩」つまり「しお」のことです。上と同じように
ヨウ素 は原子番号53、つまり原子核に53個の陽子が含まれている元素
セシウム は原子番号55、つまり原子核に55個の陽子が含まれている元素
ウラン は原子番号92、つまり原子核に92個の陽子が含まれている元素
プルトニウム は原子番号94、つまり原子核に94個の陽子が含まれている元素

のことを、おのおのその名前で呼ぶのです。

核子の数に気をつけろ!

 さて、いまお話しているのは「ヨウ素」とか「プルトニウム」とか言う元素、つまり物質の名前ですが、テレビでは「ヨウ素131」とか「セシウム137」とか、ヘンな数字がついています。サイボーグ009とか銀河鉄道999みたいですが、この数字の正体も実に簡単なものです。

 ヨウ素131というのは、その原子核を作っている部品が131個あるヨウ素だよ、という意味です。このうち、原子番号53で陽子が53個あるものをヨウ素と呼ぶわけですから、残りの部品を考えると

 131−53 =78

 で、78個の別の部品が入っているわけですね。それが何かというと中性子なのです。原子核の部品は陽子と中性子しかありません。実は中性子は陽子とよく似た双子の兄弟で、大きな違いは陽子がプラスの電気を帯びているのに対して、中性子は電気を帯びていない、つまり電気的に中性だ、というのが大きな特徴なのです。

 この陽子と中性子、どちらも核の材料ですから核子(かくし)と呼ばれますが、核子の数を足すと

陽子53個 + 中性子78個 = 合計131個の核子で でヨウ素131原子核

 になります。

 先に高度な話を1つしておくと、物質名のあとについた数字が奇数か偶数か、といったことに注意することが、実は大事なのです。007とか999みたいなもので「ヨウ素131」とか「セシウム137」とか奇数ですね。奇数だから危険、偶数だから安全、などとは言えないのですが、実は質量数の小さな原子核では陽子と中性子の数が等しい、数字が偶数の核が基本的に安定なのです(アルカリ金属とかハロゲンとか、いろいろ例外がありますが)こういう話は、知ってる人には常識以前ですが、知らなければそれまでの情報ですので、記しておきましょう。

なぜいつまでも放射能が出るのか?

 水道水の中から検出され、健康に影響が出るといわれるヨウ素131の正体は、こういう物質で、元素記号を使ってかくと 「I131」になります。この最後の数字を質量数と呼びます。I131は放射性物質で「ヨウ素131の半減期は8日」なんて具合に報道されます。この「半減期」についてはあとでゆっくり説明します。今はまずアウトラインを見ておきましょう。

 さて、同じようにして、ニュースに出てくるほかの放射性物質の正体も見ておきましょう。

セシウム134(原子番号55)
陽子55個 + 中性子79個 = 合計134個の核子で セシウム134原子核 
                       (半減期 約2年)
セシウム134は 中性子数 − 陽子数=79−55=24で 24個の中性子過剰。
セシウム137(原子番号55)
陽子55個 + 中性子82個 = 合計137個の核子で セシウム137原子核
                       (半減期 約30年)
セシウム137は 中性子数 − 陽子数=82−55=27で 27個の中性子過剰。

 さきほど質量数の小さな原子核では陽子と中性子の数が等しいとき安定と言いましたが、ウランやプルトニウムなどの大きな重い核になると、後に記す理由で中性子の数がたくさん必要になります。これが核分裂してヨウ素やセシウムなどになると、陽子と中性子の数がアンバランスになって中性子過剰という不安定な状況になります。そこで電子を放出して陽子を増やし、数のバランスを取り続けようとするのが使用済み核燃料から出るベータ線・ベ−タ崩壊のアウトラインで、この際に延々と熱が出るわけです。

 こんな具合でいろいろな核種の正体が何であるのか、数字がついていること、またその陽子と中性子の数をちょっと引き算するだけでも、実は大まかな見通しがついたりするのです。

 同じセシウムなのに134とか137とか面倒なことを言わないで、一緒にしちゃえば良いじゃないか、と思われるかもしれませんが、うえにちょっと書き添えた「半減期」を見てください。詳しい事はあとでお話しますが、セシウム134は2年で半分の量に減ってしまう放射性物質ですが、セシウム137は30年たってやっと半分、という、より長寿命な各種なので、要注意なのです。放送でいちいち物質名に質量数をつけて核種を特定しているのは、こういう大事な理由があるからなんですね。

 こういう、同じ元素だけれど質量数が違う兄弟同士を同位体(アイソトープ)といいます。放射線を発する「放射性同位元素」はカタカナで「ラジオ・アイソトープ」と呼ばれることもあります。

「中性子過剰」な不安定核

 せっかくですから、放射性同位元素に関する簡単な足し算/引き算の練習問題をつけておきましょう。「お勉強」の不要な方はどうぞ飛ばして下さい。この種の話題に詳しくなく、かつ一定のメカニズムをきちんと知って、公開情報からより多くを知りたいという方だけ、どうぞ□の中を埋めてみてください。
問題
【1】
ウラン235(原子番号92)
陽子92個 + 中性子□□□個 = 合計235個の核子で ウラン235原子核
(半減期約7000万年 自然界存在比率約0.7%)
【2】
ウラン238(原子番号92)
陽子92個 + 中性子146個 = 合計238個の核子で ウラン238原子核 
(半減期約4億年 自然界存在比率約99.2%)
中性子146個 − 陽子92個  = □□個の中性子過剰

 福島第一原発の炉心にも用いられている核燃料は放射性同位元素ウラン235の方で、自然界には1%も存在していません。1945年8月6日、広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」には約50キログラムのウラン235が使われていました。ウラン235は単に高純度に濃縮して寄せ集めるだけでも、核分裂(あとで詳しくお話します)が雪崩れ状の連鎖反応となる「臨界」に達して爆発してしまいます(高濃縮ウラン:純度20%以上のもの)。広島の原爆はそのような原理で作られたものです。このウラン濃縮率を低くして、穏やかな核分裂反応を起こすように工夫されたものが低濃縮ウラン(純度20%以下のもの)です。原子力発電所の核燃料にはこの低濃縮ウランが使われています。
【3】
プルトニウム238(原子番号94)
陽子94個 + 中性子□□□個 = 合計238個の核子でプルトニウム238原子核
(半減期約87年 自然界にほとんど存在しない元素)
【4】
プルトニウム239(原子番号94)
陽子94個 + 中性子145個  = 合計239個の核子でプルトニウム239原子核
(半減期約2万4000年 自然界にほとんど存在しない元素)
中性子145 − 陽子92  = □□個の中性子過剰

 福島第一原発の3号炉にはプルトニウムが使われていますが、いま環境内に漏出が懸念されているのはプルトニウム238の方です。いっぽうプルトニウム239は原子爆弾などの核兵器に使用されるアイソトープです。1945年8月9日に長崎に投下された原子爆弾「ファットマン」は、広島に投下されたウラン235型ではなくプルトニウム239を用いた最初の核兵器でした。
 計算問題の答え  【1】143 【2】54 【3】144 【4】53

まじめに計算された方に:核が安定するマジックナンバー

 今まじめに計算してくださった方に、もう少しだけ進んだ内容として『魔法の数』をお教えしましょう。この魔法数は原子核理論でマジックナンバーと呼ばれる、マリア・ゲッパート=メイヤーとハンス・イェンゼンが1963年にノーベル賞を受賞した、まじめな理論物理の話題です。

 さっき陽子はプラスの電気を帯びているといいました。ということはプラスの陽子とプラスの陽子はお互いに反発し合ってくっつきません。

 ところがどうでしょう、実際の原子核は陽子が10個も20個もくっつき合っている。なぜかというと、それと同じくらい多くの中性子が一緒にあることで「核力」という電気の反発力よりケタ違いに「強い力」で互いに結びついているからなんですね。

 そしてこの核力が働く上では、核子の数が「2」、「8」、「16」、「20」、「28」、「50」、「82」、「126」個の陽子+中性子が集まるととても安定になる事が知られています。これを安定原子核のマジックナンバーと呼んでいます。このうち「マジックナンバー16」は日本の理化学研究所で小沢顕さん、谷畑勇夫さんらが発見したものです。「マジックナンバー2」はヘリウム4つまりアルファ粒子で陽子2個と中性子2個、合わせて4個が集まっています。ここでは陽子数=中性子数になっています。

 原子番号が大きくなって、陽子の数が多くなると、電気的反発力も強くなってゆきます。それに逆らって核を1つにまとめるためには、中性子の数をだんだん多くして、核力も強くする必要があり、大まかに言えばその安定の目安がマジックナンバーなわけです。上に記したように82と126はおのおのマジックナンバーで、2つを足した鉛208はとても安定な元素として知られています。

湯川秀樹の仕事とは?

 プルトニウム235のような放射性元素は、自然界の中でも実はこの鉛のような安定な物質に変化するまで、延々と原子核崩壊を続けるんですね。その時間は何十、何百年、いや何万年にも及びます。そしてその間、原子核崩壊に伴うエネルギーの放出があります。これを崩壊熱と呼びます。また使用済み核燃料では、ウランやプルトニウムが大きく2つに割れて出来た、中性子過剰な娘核が、安定な物質になるまでいつまでもベータ崩壊を続け崩壊熱も出し続けます。

 ちなみに、この原子核を1つにまとめている核力のメカニズムを最初に提案したのが湯川秀樹博士のノーベル賞受賞業績である中間子の理論的予言にほかなりません。原発の報道の中には湯川さんの名はほとんど出てきませんが、せっかく名前は知っているはずの湯川さんです、核燃料の挙動を考える上では整合した全体を理解している方が有利です。

 いま福島第一原発で懸命に水を注入して冷やしているのは、使用中・使用済みの核燃料に含まれる放射性原子核の崩壊熱を逃して、過熱によって燃料棒や原子炉自体が解けたり(「メルトダウン」、既に一定の範囲で起きているようですが)、制御不能の連鎖反応(「再臨界」)を起こしたりしないよう、頑張っているものです。核を1つに結びつける湯川の力に対抗しながら、電磁気とよく似た力(弱い相互作用)が媒介するベータ崩壊によって、陽子と中性子の数のバランスのとれた安定核種に到達するまで、バランスが悪く不安定な放射性核種は非常に長い時間(何年〜何万年以上にも及びます)原子核崩壊を繰り返し、崩壊熱も発し続けます。それがどれくらい続くかは、放射性物質の種類と量を知れば大まかに推察がつきます。

 ごくごく普通の基礎があれば、公開情報だけでもかなりの内容が分かります。逆に「手っ取り早く情報だけ」と思っても、なかなか先は読めません。

 結局は基本から、が一番の早道です。こんな具合で、これからそこそこ以上の期間続くと思われる、この状態を乗り切るうえで、必要と思う内容を引き続き、出来るだけ小学生の算数の範囲までは併用しながら、お話してみようと思います。

(つづく)
このコラムについて
伊東 乾の「常識の源流探訪」

私たちが常識として受け入れていること。その常識はなぜ生まれたのか、生まれる必然があったのかを、ほとんどの人は考えたことがないに違いない。しかし、そのルーツには意外な真実が隠れていることが多い。著名な音楽家として、また東京大学の准教授として世界中に知己の多い伊東乾氏が、その人脈によって得られた価値ある情報を基に、常識の源流を解き明かす。

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著者プロフィール

伊東 乾(いとう・けん)
伊東 乾

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学SFC研究所などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。
日経BP社  

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コメント
 
01. 2011年4月12日 10:09:41: u8T2aRIP9Y
別に基本なんて知らなくても、政府が包み隠さず情報公開をして、国民が今何をすべきかを伝えれば済むことだと思うのだが。

02. 2011年4月12日 13:29:47: iQq6dZDasY
これって余計に分かりにくくないか?

03. 2011年4月12日 13:36:41: uh4ihpwQrK
むずかしーよぉー。

04. 2011年4月13日 00:15:23: tEuMUcieh
東海村原子炉で臨海事故にあわれたかたのDNAの顕微鏡写真を、みたが
1つのDNAが20数個にバラバラに切断されていた。

ある放射線1ベクレルが、細胞を通過するとき分子DNAを破壊する
であろう確率と、破壊された細胞が死滅、変形し生存、あるいは正しく
修復されるかなどの生体的影響など、医学的説明がききたい。


05. 2011年4月15日 13:02:46: tzj2bUUO2Y
基礎知識の理解も持たずに、どうやって与えられた情報を理解するんだ?その情報が適切ではなく、何か隠蔽された情報があるのではないかなどと、なぜ判断できるのだ?今何をすべきかを伝えられて、それを信用できるかどうか判断できるのか?
妄想で騒ぐな。それは害悪でしかない。それしかできないのなら、もっと馬鹿になって無関心になる方が良い。

06. 2011年4月28日 18:51:12: 2l8HuK9Svs
わかりやすいです

07. Ikura 2011年5月01日 10:42:13: 6claqM19wqqIA : zTJJK09xE6
丁寧な口語体のためか,
文章が冗長になっています。

理論的な部分は,余分な言葉を挟まない方が
分かり易いです。


08. 2011年5月01日 17:28:37: j94QUIzxrI
1.[透過性の高いガンマ線は厚さ10センチの鉛のブロックで遮らないと、外に突き抜けてしまう]ということは、防護服は意味ないということですか?

2.「中性子線」の透過性と影響は?

3.プルトニウムはゼオライトなどで本当に除洗可能ですか?

4.放射性物質(一番強烈な)の内部被曝の人体への影響は、どの程度分かっているのですか?


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