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9 総需要・総供給モデルによる復興過程の分析 野口悠紀雄 
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/453.html
投稿者 sci 日時 2011 年 4 月 12 日 10:42:58: 6WQSToHgoAVCQ
 

クラウディングアウトと悪いインフレを招く点まで、復興投資を行うのは危険であるというのが結論のようだが、定量的な数値予測も欲しいものだ。

あとIS-LMモデルは動学的モデルではないから、人々の予想をきちんと取りこんでおらず、今一つではあるが、定性的に現状をつかむには、そう悪くはないのか

http://diamond.jp/articles/-/11826
TOP経済・時事野口悠紀雄 未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか
【第9回】 2011年4月11日野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]総需要・総供給モデルによる復興過程の分析
 復興過程の経済的な変動を、マクロ経済学の標準的なモデルである「IS-LMモデル」と「総需要・総供給モデル」を使って述べると、つぎのようになる(注1)。
 IS曲線とは、財・サービス市場の均衡を表す曲線だ。政府の支出を所与としたとき、金利が下落した場合に均衡が達成されるためには、所得が低下し なければならない。なぜなら、金利が下落すると投資が増えるので、財市場での均衡のために、貯蓄=所得(1−消費性向)が増える必要があり、そのためには 所得が増える必要があるからだ。したがって、縦軸に金利(i)、横軸に産出量(所得)水準(Y)をとった図において、IS曲線は右下がりの曲線になる(図1−a)。

 LM曲線は、資産市場の均衡を表している。名目貨幣供給量と物価水準を所与としたとき、所得が増加した場合に均衡が達成されるためには、金利が上 昇しなければならない。なぜなら、所得が上昇すると貨幣に対する取引需要が増加するため、一定の名目貨幣供給量の下では、金利が上昇して貨幣に対する資産 的需要を抑える必要があるからだ。したがって、縦軸に金利、横軸に産出量(所得)水準をとった図において、LM曲線は右上がりの曲線になる(図1−a)。
 IS曲線とLM曲線の交点E0は、財・サービス市場と資産市場のいずれにおいても均衡が成立する金利と産出量の組み合わせを示している。
 総需要曲線は、縦軸に物価水準(p)、横軸に産出量(Y)をとって、IS曲線とLM曲線の交点の軌跡を示したものである。名目貨幣供給量や外生的 な支出が一定のとき、物価が下落すると実質貨幣残高が増加して産出量が増加する(この効果は、「実質残高効果」Real balance effectと呼ばれる)。したがって、総需要曲線は右下がりになる。図1−bでは、ADやAD'として示されている。

 総供給曲線は、物価に反応して供給量がどのように変化するかを示している。「フィリップス曲線」として知られている関係は、賃金が上昇すると供給 が増えることを示している。賃金と物価は比例的な関係にあると考えられるので、総供給曲線は右上がりになる。ただし、電力制約のようなボトルネックがある と、ある一定水準(Ys)以上に産出量が増えることはなく、総供給曲線はその産出量水準で垂直になる。図1−bのASは、そのような場合を示している。
(注1)IS-LMモデルの簡単な説明は、つぎを参照。野口悠紀雄、『日本を破滅から救うための経済学』(第2章)、ダイヤモンド社、2010年。
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(1)介入しなければ、復興投資の増加に伴って純輸出が減る
 復興投資の増加は、図1−aのIS曲線を右にシフトさせる(ISからIS'に)。均衡点はE0からE1に移動する。これによって金利がi0からi1に上昇する。閉鎖経済(海外との取引がない経済)ではE1が新しい均衡になる。
 開放経済では、金利上昇によって資金が日本に流入し、円高になる。このため、純輸出が減少して、IS曲線は元の位置に戻る。したがって、均衡はE0に戻る。これが、「マンデル=フレミング・モデル」の結論だ(注2)。
(注2)マンデル=フレミング・モデルの簡単な説明は、つぎを参照。野口悠紀雄、『世界経済危機 日本の罪と罰』(解説3−3)、ダイヤモンド社、2008年。
(2)金融緩和すれば、物価が上昇する
 円高を防ぐために介入すると、貨幣供給量が増えるので、図1−cのようにLM曲線が右にシフトする(LMからLM'に)。

 これによって、金利はi0のままで、図1−bの総需要曲線が右にシフトする(ADからAD’に)。AS曲線との交点で示される均衡点はE0からE1に動く。つまり、物価上昇を伴いつつ産出量が拡大する(Y0からYsへ)。
 復興投資がさらに増大すると、総需要曲線はAD'からAD"にシフトする。しかし、供給制約のため、総供給曲線はYsのところで垂直になっている。したがって、産出量は増加せず、物価だけがp1からp2に上昇する。
(3)「流動性トラップ」とは
 貨幣需要について、「流動性トラップ」という現象がありうることが、ケインズによって指摘された(注3)。
 これは、図1−dで説明されている。この図で、縦軸は金利(i)、横軸は実質貨幣(M/p)だ。MDは、所得を一定にした場合の実質貨幣に対する需要を表す。金利が低下すると貨幣の資産的需要が増える。しかし、金利が非常に低い水準imまで低下すると(すなわち、国債の流通価格が非常に高い水準になると)、「将来起こりうるのは金利の上昇(国債価格の下落)しかありえない」と考えられるようになる。したがって、金利はこれ以上は低下できず、MDはこれより右では水平になる。

次のページ>>「流動性トラップ」の領域ではクラウディングアウトが発生しない
 この図の垂直線は、実質貨幣の供給量を示す。物価水準が一定のとき名目貨幣供給量(M)を増やすと、実質貨幣供給量が増加する。つまり、供給線は 右にシフトする。名目貨幣供給量が一定で物価が下落しても、同じことが起きる。図の左の領域では、これによって金利が低下する。しかし、MD曲線が水平に なっている領域では、実質貨幣供給量を増やしても金利は低下しない。「貨幣の資産的需要が無限大になっていて、増加した貨幣はすべてここに吸い込まれてし まう」ような状態になるのだ。トラップ(わな)と呼ばれるのは、このためである。
 一般に、名目貨幣供給量と物価水準が変化すれば、LM曲線はシフトする。物価水準が一定の場合に名目貨幣供給量が増加すると、実質貨幣供給量が増 加するので、実質貨幣供給を表す垂直線は右に動く。したがって、一定の所得水準に対応する金利が低下する。つまり、LM曲線は右方向(下方向)に動く。こ れが、図1−eでLMからLM'への動きとして示されている。物価水準が下落した場合も、実質貨幣供給量が増加するので、LM曲線はやはり右にシフトする。

 ところが、流動性トラップの領域(図1−dの右の方)では、名目貨幣供給量が増えたり物価が下落したりしても、金利は低下しない。つまり、LM曲線は動かない。これが、図1−eの左の方でLMが動かないこととして示されている。名目貨幣供給量や物価がLM曲線に影響を与えるのは、金利が高い領域(図1−eの右の方の領域)においてだけだ。
 (1)、(2)で述べたのは、流動性トラップがない領域でのことだ。流動性トラップがある領域では、どうなるだろうか? 超低金利政策をとった日本は、流動性トラップに落ち込んでいると考えられるので、これに関する考察は重要である。それを以下に述べよう。
(注3)John Maynard Keynes, The General Theory of Employment, Interest and Money, Macmillan Cambridge University Press, 1936.流動性トラップの簡単な説明は、つぎを参照。野口悠紀雄、『日本を破滅から救うための経済学』(第1章)、ダイヤモンド社、2010年。
(4)「流動性トラップ」の領域ではクラウディングアウトが発生しない
「流動性トラップ」がある場合のLM曲線が図1−eに示されている。LM曲線は最低金利imの 水準で水平になっている。こうなるのは、金利が少し動いただけで資産的需要が大きく変動するからである(金利が少し下がっただけで資産的需要が大きく増え るため、所得が大きく減少して取引需要を大きく減少させなければならない)。この領域において、復興投資の増加でIS曲線がISからIS'にシフトして も、金利上昇は生じない。したがって、円高にもならない。
次のページ>>「流動性トラップ」の領域を過ぎると物価上昇が始まる
 つまり、クラウディングアウト(混雑による押し出し)は発生しない。これが、「ケインズ経済学的な状況」である。この場合、金融緩和をしても、ずっと右の領域でLMがLM'になるだけなので、均衡には影響が及ばない。つまり、金融政策は無効である。
 ケインズが考えていたのは、このような状況だった。「金融緩和をしても経済が拡大することはない。経済を拡大させるには政府支出を増やす必要がある」というケインズ的政策提言がなされる背景は、このようなものだ。
(5)「流動性トラップ」の領域を過ぎると物価上昇が始まる
 すでに述べたように、流動性トラップがない場合にAD曲線が右下がりになるのは、物価が下落すると実質貨幣残高が増加して産出量が増加するからだ。しかし、流動性トラップの領域では、すでに述べたように、この効果は働かない。図1−fで言えば、産出量がYs以下の場合には、物価が下落してもLM曲線に影響を与えないので、産出量が増えることはない。つまり、AD曲線はYsの水準で垂直になっている。AD曲線が右下がりになるのは、産出量がYsを超えた場合である。

 産出量がYvに達するまでは、投資の増加によって、AD曲線は右にシフトする(ADからAD’へ)。したがって、均衡点がE0からE1に動く。つまり、物価上昇を伴いながら産出量が拡大する。しかし、供給限界Yvに達すると、産出量は増加せず、物価だけが上昇してゆくことになる。
(6)現実にはどうなるだろうか
 以上で述べたのは、概念的なモデルだ。現実の動きがどうなるかは、現実が上で述べたどの領域に対応しているかに依存する。
 復興投資が増えても、最初のうちは産出量が図1−eのYs以下の水準に留まる可能性がある。そうだとすれば、(4)で述べたように、金利上昇も円高も発生せずに経済が拡大するだろう。
 しかし、復興投資の規模は大きいので、いずれ産出量はYsのレベルに達するだろう。そうなると、復興投資の増大は、金利上昇を招くことになる。つまり、クラウディングアウトが発生するわけだ。これは、図1−fで総需要曲線がADからAD'にシフトすることで表される。この過程で、産出量は増加するが、物価も上昇する。
 そして、産出量がYvに達すると、総需要曲線がAD'からAD”にシフトしても産出量は増加せず、価格だけが上昇することになる。


http://diamond.jp/articles/-/11818
【第8回】 2011年4月8日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 供給ショック時の経済政策の目的は、総需要の抑制

 大災害が経済活動に与える影響には、つぎの2つのものがある。
 第1は、災害によって生産設備や社会資本などが破壊され損傷し、生産力が落ち込むことである。これは、経済の総供給を減少させる。このフェイズ は、通常は震災後の数ヵ月間、あるいは1年程度続く。ただし、今回の東日本大震災では、電力制約が長期にわたって続くと考えられる。
 第2は、復興のために巨額の投資が行なわれることである。投資は、企業の設備投資、住宅投資、社会資本に対する投資で生じる。これは、需要の増加を意味する。このフェイズは、震災後数ヵ月たってから始まり、数年間続く。
 経済に極めて大きなショックが生じたとき、どのような過程を辿って回復するかを、概念図として、【図表1】に示す。

 この図において、フェイズ1は、ショックによる経済の落ち込みを示す。フェイズ2は、落ち込みからの回復過程である。このフェイズは、供給面の制 約があるかないかで、大きく変わる。なければ、復興のための投資が有効需要となって経済を拡大させる。しかし、制約があれば、復興投資はクラウディングア ウト(希少資源の奪い合い)を引き起こす。フェイズ3は、最終的な均衡に至る段階である。
 図に示すもののうち、東日本大震災、第1次石油ショック、戦災は、供給面で生じたショックである。これに対して、数年前の世界経済危機は、需要面で生じたショックである。
次のページ>>東日本大震災では、復興需要がケインズ政策にならない
 供給面でショックが生じたときの経済政策は、クラウディングアウトを調整するために、何らかの方法で総需要を抑制するものでなければならない。過去の供給ショックの際に、それがいかなる形で行なわれたかを、【図表2】に示す。

東日本大震災では、復興需要がケインズ政策にならない
 東日本大震災の場合には、つぎのような経路を辿ると考えられる(図表1の1)。
 まずフェイズ1において生じた工場等の生産設備の損傷は、日本全体の製造業のサプライチェーンに被害を与え、被災地以外の生産活動をも麻痺させた。自動車の場合、海外生産拠点の生産にも影響を与えている。
 したがって、震災後の国内総生産(GDP)は、落ち込むことになる。内閣府の試算(内閣府、東北地方太平洋沖地震のマクロ経済的影響の分析、月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料)によれば、2011年度の生産減は最大2.25兆円だが、これは実質GDPの0.5%程度に相当する。
 しかし、ここからの復旧はかなり早期に行なわれるだろう。
 つぎにフェイズ2において、復興のための投資が増加する。
 これが有効需要となって経済を拡大すると期待する向きがある。内閣府の試算も、「ストック再建のための投資が経済にプラスの影響を与える」としている。
 問題は、このようになるかどうかだ。これは、ケインズ理論の乗数過程が働くとの考えだが、ケインズ理論が想定しているのは、供給能力に十分な余力 があるにもかかわらず、需要不足のために生産能力をフルに活用できない状態だ(「不完全雇用状態」)。ここに需要が追加されると、それまで稼働していな かった生産設備が使われて、生産が拡大する。それによって所得を増やした人が消費をすることで、有効需要がさらに拡大する。それがさらに生産を拡大し…… というプロセスが発生し、最初の追加需要の数倍の生産拡大が実現するとされるのである。
 しかし、問題は、電力制約が解決できないことだ。このため、GDPは、震災前より低い水準で頭打ちになるだろう。
 経済全体では供給余力があり、全体の需給ギャップがあるとしても、ボトルネックがあれば、生産は拡大しないのだ。今回は、電力制約がボトルネック になる。このため、生産設備の復旧が進んでも、生産力が回復しないと考えられる。電力制約は主として夏の期間の問題であり、しかも東日本に限って生じてい る。それにもかかわらず、東日本の経済活動の規模が大きいため、日本全体としての問題になってしまうのである。
次のページ>>阪神大震災は巨大なケインズ政策だった
実際、生産活動が西日本に移動しても、問題は解決できない。なぜなら、そうなると今度は西日本で電力不足が発生してしまうからである。
 このような制約があるため、復興需要は、有効需要にならない。つまり、ケインズ的な乗数過程が生じることはなく、経済は拡大しないのである。
 増加した復興需要は、超過需要になってしまう。つまり、クラウディングアウトが起きる。このため、金利上昇、円高などによって、有効需要が調整されなければならない。
 復興のための財政支出が国債でファイナンスされるなら、金利が上昇する。これによって、復興投資が遅れることになる。また、金利上昇は円高を引き 起こし、輸入の増加や生産拠点の海外移転をもたらす。輸入が増えれば総供給が増加するため、超過需要は緩和される。また、生産拠点の海外移転は、復興投資 を国内でなく海外で行なうことを意味するので、これによっても超過需要が緩和される。
 金利上昇を抑制するために日銀引き受けの国債が発行されれば、インフレが引き起こされて、消費が強制的に削減される。
 復興支出のファイナンスが増税によって行なわれる場合にも、消費が削減される。ただし、インフレによる消費削減は低所得者にも及ぶのに対して、増税による消費削減は、主として高所得者の消費を削減するだろう。その意味で、インフレよりは増税のほうが望ましい。
 新設原発が困難であるため、電力制約は長期にわたって日本経済を束縛するだろう。したがって、フェイズ3におけるGDPは、震災前より低い水準に留まるだろう。
阪神大震災は巨大なケインズ政策だった
 1995年に起こった阪神大震災は、東日本大震災の半分程度の大きな被害をもたらした。しかし、被害地が地理的に限定されていたため、経済活動に与えた影響は、東日本大震災とはかなり異なるものだった(図表1の3)。
『平成7年年次経済報告(経済白書)』によれば、被害額は、名目GDPの約2%に及んだ。しかし、都市地域であったため、生産設備の損傷は大きくなかった。また、企業が余剰設備や余剰在庫を抱えていたため、インフレ圧力も回避された。
 このため、フェイズ1においては、震災地で生産や消費が落ち込んだものの、全国的な影響はなかった。白書は、このことをつぎのように述べている。 「マクロの経済指標では、1月は被災地域の減少を中心に全国でも明らかに落ち込みがみられたものの、2月以降はほぼ震災前の水準にまで戻った」
 これは、データでも確かめられる。鉱工業生産指数は、94年12月の95.1から95年1月の92.6に低下したものの、3月には早くも95.5 に回復した。GDP(国内総生産)の減少は、日本全体ではまったく見られなかった。それどころか、県民所得統計における兵庫県の数値はおろか、神戸市の数 値さえ95年度に低下しなかった。
 つまり、阪神大震災は、供給面のショックにはならなかったのである。
 このため、フェイズ2の復興過程において、復興投資が巨大なケインズ政策として機能した。
次のページ>>石油ショックも供給面のショック
 経済白書によれば、毀損されたストックを再建するための復興需要は、被害額の復元分だけでなく、耐震構造の見直しに伴う新規需要もあった。このため、GDPの2%を超える規模となった。だから、震災は経済にプラスに働いたのだ。
 これは、被災地域が限定されていたため、生産設備の損傷が大きくなく、しかも、震災地以外での生産代替が迅速に行なわれたからだ。そのため、乗数過程が働く余地があったのである。
 また、震災後しばらくの間円高が続いて輸入が増えたことも、国内の供給制約を緩和した。
石油ショックも供給面のショック
 1973年秋に生じた第1次石油ショックも、供給面で生じたショックだ(図表1の4)。この時は、石油輸出国機構(OPEC)加盟の中東産油国が 原油生産の削減とイスラエル支援国への禁輸措置をとったので、石油の供給に制約が生じた。このため、需要抑制が必要となり、「総需要抑制策」が取られ、 1974年度予算で公共事業などの支出が削減された。また、金融引き締めが行なわれた。さらに、石油使用抑制のため、エレベータの休止や照明の節減などが 行なわれた。今回の状況はこの時と似ている。
 石油ショック後の政策対応は適切なものだった。総需要が抑制され、また円高が容認されたため、超過需要が調整されたのである。
 その後、省エネルギーのための技術革新が進み、生産能力は回復していった。
戦後復興過程では、インフレで復興投資が賄われた
 第2次大戦も、経済の供給サイドに大きな影響を与えた。空襲によって日本国内の生産設備、社会資本、住宅が破壊されたからである。これによって、日本国民は耐乏生活を余儀なくされた。
 フェイズ2において、復興のために政府が行なったのは、1947年から実施された「傾斜生産方式」である。これは、石炭、鉄鋼、電力、海運産業な どを重点的に復興させようとする国策だ。厳しい供給制約の中で投資が行なわれたため、インフレが発生して消費が強制的に削減された(インフレが発生したの は、復興金融公庫が復金債を発行して日銀に引受けさせ、その資金を融資したからである)。今回の復興投資も、国債(とくに、日銀引き受けの国債)によって ファイナンスされれば、この時と同じことになるだろう。
 その後、50年に朝鮮戦争が勃発し、日本経済は特需景気に沸いて経済成長を果たしたが、これは、生産力が回復してから後のことだ。これがフェイズ3であり、その後の高度成長につながっていった。
次のページ>>過去の経験から何を学べるか
世界経済危機
 以上で述べたのは、経済の供給側で生じたショックである。2007年以降の金融危機と世界経済危機も、経済活動に大きな影響を与えた。ただし、これは、需要が大きく落ち込むことによって引き起こされた需要ショックであった。
 供給力が十分あるにもかかわらず需要が不足している経済、つまりケインズ経済学が想定する典型的な経済になったのだ。だから、需要が追加されれ ば、総生産が拡大する。このため、エコポイント等の需要喚起策が効果を発揮したのである。また、中国に対する輸出が増大して、総需要を増加させた。
過去の経験から何を学べるか
 以上をまとめれば、つぎのようになる。
(1)世界経済危機は需要の急減という需要ショックであったため、総需要の追加が必要だった。ところが、東日本大震災は供給側で生じたショックであるため、総需要を抑制する必要がある。このように、向きが正反対の政策が必要とされていることに注意が必要である。
(2)阪神大震災は供給側のショックではあったものの、被災地域が限定的であったため、日本全体としての供給制約は生じなかった。このため、復興投 資が「巨大なケインズ政策」になり、経済を拡大させた。しかし、今回は供給制約が厳しいため、復興投資は有効需要とはならず、クラウディングアウトを引き 起こす。
(3)石油ショックは、資源の使用に強い制約がかかったという意味で、東日本大震災と同じ供給ショックであった。この時の経済政策は総需要抑制策と 金融引き締め、そして円高容認であり、正しい方向のものであったと評価できる。われわれはいま、この時の経験を手本とすべきである。
(4)戦災によって生産設備が破壊されたことも、供給ショックである。この時の復興投資は日銀引き受けの公共債(復興金融金庫債)によってファイナンスされたため、激しいインフレーションを引き起こした。この経験は、反面教師とすべきものだ。
 

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