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震災は日本国債「暴落時計」の針を進めたか   1次補正で実質GDP0.6%押し上げ・雇用増20万人、被災地
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/631.html
投稿者 sci 日時 2011 年 4 月 28 日 00:26:36: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://jp.reuters.com/articlePrint?articleId=JPJAPAN-20846920110427
特別リポート:震災は日本国債「暴落時計」の針を進めたか
2011年 04月 27日 18:48 JST

 [東京 27日 ロイター] 東日本大震災後の復興に必要な巨額の財政負担が、日本国債の先行きに新たな不安を投げかけている。数十兆円に達するとみられる復興コストを確保するには、国債の大量追加発行は不可避。

 しかし、経常黒字や民間金融機関の資金余力といった安定消化の原資にも縮小の予兆が見え始めた。そして、追い打ちをかける政権の迷走と処方箋の不在。日本国債の「暴落」を抑えてきた安全装置にきしみが生じる中、危機時計の針は再び前に進み始めている。 

 「日本の財政は破綻しないのか」、「日本国債に暴落の危険はないのか」。東日本大震災が起きた3月11日以降、都内にある大手銀行系証券の債券市場デスクには、欧米ヘッジファンドから、こうした問い合わせが目立って増えている。

 過去最大級の巨大地震と大津波による壊滅的な被害、それに続く東京電力(9501.T)・福島第1原子力発電所の放射能汚染事故。日本政府に降りかかる復興コストの膨張は避けられず、そうなれば国債相場には警戒信号がともる、つまり、日本のソブリン(国家財政)リスクが一気に高まる、という思惑からだ。

 ヘッジファンドが描いていたのは、トリプル安シナリオだった、と問い合わせを受けた担当者は推測する。ほぼ1年前、ギリシャをはじめとする欧州のソブリン危機で利益を得た手法だ。未曽有(みぞう)の震災被害で日本の株式、国債、円相場が下落し、日本の長期金利が上昇するというシナリオに沿い、実際に一部ヘッジファンドはスワップションなどのデリバティブ(金融派生商品)を使い、長期金利が跳ね上がれば大もうけできるポジションを組んでいた。

 「2009年秋以降、金利が上がらず萎縮していたヘッジファンドが、今回の震災でいよいよ出番だ、となって再び盛り上がった」と、その担当者は振り返る。 

  <揺らぐセーフガード> 

 日本国債の発行残高は、普通国債と財政投融資債を合わせ、2010年度末(見込み)で767兆円にも達した。国と地方の長期債務は869兆円と国内総生産(GDP)の200%に迫り、先進国で最悪の高水準。こうした途方もない借金を背負いながら、日本がこれまで深刻なソブリンリスクから無縁でいられたのは、投機筋の攻撃を許さない二重、三重のセーフガードが機能していたからだ。 

 日本の金融資産は国債発行残高を上回っており、高い貯蓄率が生んだ膨大な個人資産、比較的低い租税負担率とともに、日本国債に対する信認を支えてきた。発行済み国債の多くを外国人投資家が握っているギリシャなどと異なり、日本国債の95%は日本の銀行、生損保、郵貯、年金など国内の金融機関や個人(家計)が保有、投機的な取引に影響される可能性も少ない。

 さらに、そうした民間部門が国債を引き受ける資金量の目安ともなる日本の経常収支は、一貫して黒字基調を維持。その一方、国内景気の伸び悩みは皮肉にも金利上昇を抑え、国債の利払い負担を低位安定させる効果をもたらしてきた。 

 「ギリシャやアイルランドと比べると、日本政府が(負債を)制御できる余地ははるかに大きい」という米ワシントンのピーターソン国際経済研究所、マーカス・ノーランド氏の指摘は、世界の債券市場が共有してきた日本国債への信認に通じている。

 しかし、3月11日の大震災を境に、日本国債の先行きは一段と不透明感を増している。巨額の復興コスト、景気後退、輸出の減少という従来の発行環境では「想定外」ともいえる不安要因が、にわかに浮上してきたためだ。

 日本国債の膨張を可能にしてきた安全装置のきしみ。その兆候は、すでに見え始めている。 

 東京港で最大の貨物取扱量を誇る大井コンテナふ頭。通称「キリン」と呼ばれる巨大な荷物運搬クレーンが海に向かって立ち並ぶ姿は変わっていないが、震災前の日常的な風景だったトレーラーの渋滞は減り、ターミナルに入るまで5、6時間待ちという以前のにぎわいも影を潜めた。

 貿易貨物の減少は、震災による生産や部品供給の停止、東電原発事故による放射能汚染が大きな原因だ。一部に対日貿易を敬遠するムードが広がる中、「港にはスカスカ感がある」と、同港でコンテナトレーラー歴6年の運転手、横山悠さんは話す。2008年9月に経験したリーマンショックによる荷動きの激減よりも、「今回の影響のほうが大きいような気がする」という。 

 貿易の冷え込み、特に輸出の減少は、日本国債の安定消化にとって不安材料となる。貿易収支が赤字に転落し、国内に還流する資金が減れば、国債発行を支える企業や家計の資金余力にも影響する。

 日本人が海外にもつ資産からの金利収入を反映して所得収支は黒字が続いており、貿易収支と合わせた経常収支がすぐに赤字転落する可能性は低い。しかし、震災をきっかけに、国債受け入れに回る国内資金が縮小する懸念は高まっている。

 すでに3月の貿易黒字は、震災ショックで前年に比べ8割減と大幅に落ち込んだ。サプライチェーン(部品調達網)の寸断などで生産が停滞し、輸出が前年比2.2%減の5兆8660億円と16カ月ぶりに減少したことが要因だ。サプライチェーンの本格回復は6、7月以降と見込まれるうえ、原油高や復興需要の資材輸入などで、貿易収支は4─6月に赤字に陥る可能性が高い。

 「今回の震災は、構造的に経常黒字を減少させる要因になりうる」と第一生命経済研究所の永浜利広・主席エコノミストは予想する。日本の経常収支が2014年以降に緩やかな縮小に転じ、2038年に赤字基調になると予測していた同氏は、今回の震災で赤字基調の定着見通しを6年早め、2032年に修正した。 

 一方、貿易収支だけでなく、実際に国債を購入し、保有する金融機関の資金余力にも震災の圧力がかかっている。被災した生産・販売設備の復旧、運転資金の確保などのほか、電力供給減にそなえた事業融資への需要が急増しているためだ。

 緊急融資を必要とする企業の筆頭は、深刻な原発事故を引き起こした東京電力。すでにメガバンクが1兆9000億円の緊急融資を3月に行った。しかし、原発事故の収束度合いと補償スキーム次第でさらに融資が必要になる可能性がある。 

 東北電力(9506.T)も3月30日、日本政策投資銀行から300億円を借り入れた。同社では、福島県南相馬市にある原町火力発電所が大津波の直撃を受けた。同発電所は、同県の全電力消費をおおよそ賄うことができる200万キロワットの総出力を持つが、放射能汚染を起こした東電・福島第1原発から北へ約20Kmの屋内退避対象地域にあるため、被災状況も復旧コストも確認できないままだ。

 資金需要が強まっているのは電力会社だけではない。メガバンク3行が受けた融資要請額は、震災後の1カ月で1行あたり約2.5兆円、総額で約7.5兆円に上った。

 国債市場の参加者が懸念するのは、災害融資の増加で、過去最大規模にある現在の預貸ギャップが縮小、銀行の国債投資余力に影響が出る事態だ。銀行や生保など金融機関は発行残高の7割近くを保有しており、このうち銀行(日銀除く)は約4割を抱えている。 

 震災ショックで企業向けのつなぎ融資が急増しても、銀行の国債引き受け余力が直ちに低下するわけではない。融資を受けた企業がその資金を再び銀行口座に預けることが予想されるためだ。しかし、企業向け融資が対外投資など前向きの需要に使われれば、国債投資に回る資金は縮小する。復興需要が経済成長に結びつき、企業の資金需要が強まることが前提だが、長期的にみて銀行の貸出と国債保有額はこれまでも逆相関の関係を示してきた。

 「長期的に見れば、融資資金は銀行に戻ってくるので大きな影響はないとしても、貸し出し期間が長期になれば投資余力にネガティブに作用しかねない」とドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは予想する。 

  <3年後より10年後の不安> 

 国債市場への震災ショックは、安定消化を心配する市場不安を増幅し、くすぶり続ける「日本国債暴落説」を勢いづかせる結果にもなりかねない。「海外投資家なら誰でも不思議がる規模」(外資系証券)に膨れ上がった国債残高。17世紀初頭のジェノバ共和国以来といわれる日本の歴史的な低金利。そして、少子高齢化で予想される貯蓄率の低下などを理由に、日本国債の暴落を予想する投資家はなお多い。 

 その一人、「日本破綻にかける男」の異名をとる米ヘイマン・アドバイザーズの創設者、カイル・バス氏。昨年10月、ニューヨーク・タイムズスクエアのマリオットホテルで500人以上の投資家に対し、アイルランドやギリシャとともに、日本が債務不履行に陥る可能性を訴えた。

 会場でロイターの取材に応じた同氏は、「日本は数年以内に国内で借金をまかなえなくなる」と指摘し、「現在の債務の規模を考えると、どうやったらデフォルトしないで済むのか説明できない」と語った。

 ヘッジファンドは短期間で投資対象を変えることが珍しくないが、バス氏は今年に入っても日本売りの姿勢を継続。2月14日に送った投資家向けリポートで「われわれの具体的なポジションは明かさないが、今後数年、オプション価格決定モデルの欠点をついていく」と表明した。「(日本が)いくら危機を鎮めようとあがいても、どんな手立てを取ろうとも、すでにチェックメイトだということに気づくだろう」──。 

 国債暴落という決定的な転換点は、いつ訪れる可能性があるのか。みずほ証券が震災前に行った試算では、負債を除いた家計の金融資産が今後一定と仮定し、公債残高が現在のペースで増え続けた場合、2022年ごろにその規模が同じになる、つまり家計による公債保有余力がなくなる。

 これより悲観的な見方も少なくない。UBSの経済アドバイザーをつとめるジョージ・マグナス氏は、日本の労働人口の高齢化ペースを考慮すると、3年後では早すぎるが10年後では遅すぎる、と指摘。都内のある外資系証券幹部は、「海外のヘッジファンドは、当面の情勢はともかく、10年先をにらんで日本国債の破綻シナリオと戦略を組んでいる」と語る。 

 短期的な懸念は、震災対応の増発が日本国債の新たな格下げを引き起こすかどうかという点だ。今年1月27日に日本の長期国債格付けを「AA」から「AAマイナス」に引き下げた米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は4月27日、その格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。「3月11日の地震、津波、そして原発事故が日本の財政赤字をこれまでの見通し以上に増加させる」などの理由からだ。

 S&Pは「今回の災害が日本の中期的な成長力を大きく傷つけるとは予想しない」とする一方、「もし政府債務が現在予想されるペースで拡大し続けたり、対外純資産残高が減少することになった場合には、長期・短期ソブリン格付けを引き下げる可能性がある」と警告した。

 また、今年2月22日に同格付け見通しを「ネガティブ」に変更した米ムーディーズも、震災3日後の3月14日、「日本の財政の先行きは一段と見通しがたたなくなっている」との見解を発表。「今回の地震によって日本の財政危機が切迫したものになることはない」としながらも、日本政府の財政規律に懸念を示し、引き続き厳しい視線を変えていない。 

  <司令塔不在の復興対策>  

 国債市場の行方を左右する最大の要因は、言うまでもなく、政府の国債管理政策だ。ねじれ国会、党内分裂、選挙敗退で足元が大きくゆらいでいる菅直人・民主党政権がどこまで市場の信認をとりつけることができるか。試金石のひとつは、震災復興への財源確保だ。

 内閣府の試算では、東日本大震災で破壊された住宅や工場、道路、港湾などの直接的な被害は16兆円から25兆円に達する。約10兆円だった95年の阪神大震災を大きく上回る見通しだ。しかし、これは東電原発事故の処理に必要なコストや補償費用は含まれていない。第1原発の廃炉投資や土地改良、風評被害などへの対応も含めると、総額で40兆円に及ぶとの見方もある。

 その財源をどう捻出するのか。政府の対応はここでも遅れをみせた。当初、第1次補正予算の編成は4月中旬をめざしていたが、復旧・復興をスローガンに掲げた4兆円規模の1次補正案の国会提出は4月末。早期編成の焦りがある一方、安易な国債発行は市場の過剰反応を招くとの懸念から、財源をめぐる調整が難航。被災地の疲弊が進むなかで、意思決定の混乱ぶりを露呈した。

 1次補正では、年金財源転用や借換債の一部を前倒し発行する手法でカレンダーベースの国債市中発行額の増加を抑制したが、2次補正での国債増発は避けられない見通しだ。国と地方の債務残高は阪神大震災当時の約2.4倍に膨らんでおり、財政に余裕はない。増税を前提に将来の償還を担保する復興国債を発行するアイデアも与党内に出始めている。 

 野田佳彦財務相や白川方明日銀総裁の強い反対でいったん立ち消えになったが、水面下では「日銀が国債を直接引き受けるべきだ」との主張も根強く残っている。

 しかし、中央銀行による市場を通さない直接買い取りは、歴史的にみてもインフレの要因となりやすく、法律で禁止している国も多い。「財政規律の弛緩」と市場が受け止めれば、金利が上昇し、利払い費が増加することで、国家財政が危機に陥る危険もある。 

 白川日銀総裁は「通貨の信認が毀損される」と反対の姿勢を崩していない。日銀内部では「万が一にも国会決議がなされたら、執行部全員が辞任する腹積もりでいる」(関係者)との声があるほど、行内の反発は強い。 

 与野党の果てしなき駆け引きと「司令塔不在」(政府筋)の復興財源対策。日本国債の先行きにとっての最善のシナリオは、震災復興を景気刺激と成長促進に結びつけ、税収を増やしながら財政規律を高める政策だ。それが実現しないと、市場不安の過熱をおさえる冷却水の水位は低下し、暴落への危機時計がさらに早く進む事態も否定できない。 

 (取材:伊賀大記、山口貴也、星裕康、久保信博、志田義寧 編集:北松克朗)


http://jp.reuters.com/article/economicPolicies/idJPnTK058505620110427
1次補正で実質GDP0.6%押し上げ・雇用増20万人、被災地復旧の公共投資が支え=内閣府試算
2011年 04月 27日 17:32 JST 

 [東京 27日 ロイター] 内閣府は27日、総額4兆0153億円の2011年度第1次補正予算が、11年度の実質国内総生産(GDP)を0.6%程度押し上げるとの試算をまとめた。東日本大震災の被災地復旧に向けた公共投資が進むためで、被災地を中心とする雇用の創出効果は今後1年程度で20万人強と予測。加えて、休業手当の一部を国が助成する「雇用調整助成金」などによる全国的な雇用の下支え効果は150万人強に達するとしている。

 1次補正予算案では、損壊した道路・港湾などの災害復旧公共事業に1兆2019億円、仮設住宅の設置など災害救助等関係費に4829億円、がれき処理などの経費に3519億円を計上。被災地以外の学校の耐震化経費や、被災した地方自治体に配分する特別交付税1200億円なども盛り込んでいる。

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コメント
 
01. 2011年4月28日 00:29:27: cqRnZH2CUM
震災税制特例法が成立

2011年 4月 27日 12:08 JST 

 東日本大震災の被災者支援策として、税負担の軽減措置を盛り込んだ税制特例法が27日午前、参院本会議で全会一致で可決、成立した。

 個人向けでは、被災した土地・建物の固定資産税や、買い替えた自動車の自動車取得税などを免除。企業には、過去2年以内に納めた法人税額から震災損失額を還付する。被災地の混乱を回避するため、ガソリン価格高騰時に揮発油税などを減税する「トリガー条項」は一時凍結する。 

[時事通信社]


02. 2011年4月28日 01:17:12: 4WV2HM1H9Y

マーケットも天災リスクまでは計算していなかったという事ですね。

現状なら、豊富な国内資金で問題ないでしょうが、もう一発大きな天災に襲われる

とパニックも伴うので、一気に押し寄せる可能性は高いでしょうね。


03. 2011年4月28日 08:15:44: cqRnZH2CUM
>マーケットも天災リスクまでは計算していなかったという事ですね。

リスクを無視していた人は、痛い目に遭ったり、消えていき
織り込んでいた人は、生き延び、儲かる
BlackSwanは、なかなか適切に織り込まれないね


日経ビジネス オンライントップ>投資・金融>宿輪先生の通貨のすべて
G20が国際通貨システムの強化と不均衡是正に本腰
日本はG20の“監視”を財政改革のてこに

2011年4月28日 木曜日


表1 G20参加国と監視の対象国(塗りつぶし) G7 G7以外の国 国際機関
日本 中国 IMF
米国 インド 世界銀行
英国 ブラジル など
ドイツ ロシア
フランス 南アフリカ
イタリア 韓国
カナダ オーストラリア
メキシコ
インドネシア
サウジアラビア
トルコ
アルゼンチン
EU

※太線内はBRICS

(出所)G20プレスリリースに基づき筆者作成

 4月14〜15日に米国ワシントンでG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催された。G20とは、表1にある20カ国と地域のこと。国際通貨システム(制度)など主要な国際経済問題について議論し、世界経済の安定的かつ持続可能な成長をその目的としている。首脳会合(サミット)や財務大臣・中央銀行総裁会議等がある。G20はアジア通貨危機などで国際金融システムの議論を進めるためには主要な新興国の参加が必要とされ、G7で設立が合意し1999年にスタートした。

 今回の会議では、世界経済、不均衡是正、国際通貨システムの強化、商品市場、金融規制について議論した。この中で、通貨に関係が深いのは、ずばり「国際通貨システムの強化」と「不均衡是正」である。今回の議論の中で、その方向性が見えてきた。
国際通貨システムを安定させるカギは各国の財務状況と資金フロー

 「国際通貨システムの強化」に関するキーワードは、流動性、外貨準備、通貨危機防止の取極めである。これらの3点について、参加国は基本的に“協調”の姿勢を示した。目指すところは、流動性の急激な動きを抑え、為替相場の動きを「安定」させること、であることが分かる。

 G20は「不均衡是正」を重視している。不均衡の巻き戻し、すなわち資金フローの逆転こそが「通貨危機」、すなわち国際通貨システムの危機だからだ。従って、そもそもの原因である不均衡を是正することが、国際通貨システムを安定したものにする。G20は均衡を是正すべき不均衡として、以下の2つを挙げた。第1は公的債務と財政赤字、民間貯蓄率と民間債務。これは要するに、国内の“財務”状況のチェックである。第2は貿易収支、投資所得及び対外移転のネットフローから構成される対外バランス。これは、貿易と投資を含めたネットの“資金フロー”を指す。

 今回の会議でGDP(国内総生産)がG20全体の5%以上の国を、“厳しく監視”することに決めた。世界経済に与える影響が大きいからである。表1に示した、中国を含めた7カ国が対象となる。やっと中国が議論の土俵に上がってきたというところである。強制力はないものの、不均衡の状況が世界的に公表されるということは、改善の動機付けになる。今後11月のカンヌ・サミットに向け、不均衡を是正するための具体的な対策と行動計画の検討に入る。不均衡が実際に是正されるまでには長い時間がかかるであろうが、議論は前進している。
国際通貨システムをめぐる米中の相克

 現在の国際通貨システムは、基軸通貨国であるアメリカと中国をはじめとしたアジアなどの周辺国の“非対称”な関係で成り立っている。基軸通貨を持つ中心国は、自国通貨を外貨準備として発行する特権を持っている。この特権が実力以上の為替レートと、そして同様の経済状態をもたらす。一方、周辺国は、実質的にドルとリンクした通貨制度を採用することで自国通貨の通貨安を維持し、それをてこに輸出主導型の成長を続けている。

 この関係は1950年代から70年代初頭まで機能した「ブレトンウッズ体制」と似ていることから、一部では「新ブレトンウッズ体制(Bretton Woods II)と呼ばれている。

 この体制は、基軸通貨がモノサシとしての通貨価値を一定に保っているからこそ成り立っている。しかし、リーマンショック後、アメリカの通貨当局が量的緩和政策を採用してドルを大量に供給したため、ドルの価値は明らかに下がった。従って、ものさしとしての機能と信頼が弱まっているのである。

 国際通貨システムにおける焦点は「米国と中国の不均衡」である。今回のG20においても、米国はこの不均衡を是正するため、中国人民元の為替レートの切り上げ、あるいは変動相場制への移行を望んだ。しかし、これまでと同様に、中国が強く反対した。

 逆に中国は「BRICS」にSとして南アフリカ(South Africa)を加盟させ5カ国とした。南アフリカは新興国中GDPで第12位で、メキシコや韓国より下位である。しかし、経済的な関係の深さから、中国が強く推した。いまやBRICSは中国の意思を強く反映する、米国に対抗するフォーラムかもしれない。
日本は“監視”を改革の推進力に

 先に触れた“厳しい監視”の結果、各国の経済の問題点が注目を浴びることになる。米国の財政赤字もその対象となる。米国にとっては、面白くないことかもしれない。しかし、現在の不均衡の原因の一端は米国にあるだけに、その財政赤字が監視の対象になるのは当たり前と言えば当たり前である。
表2 監視対象国の問題点 国名 問題点
米国 財政赤字
中国 外貨準備(多)、貿易黒字
日本 経常黒字、財政赤字
ドイツ 経常黒字
英国 財政赤字
フランス 財政赤字
インド 経常赤字

(出所)G20プレスリリースに基づき筆者作成

 日本も当然厳しく監視される。日本の経常黒字と財政赤字が問題点として指摘される可能性がある。もちろん、現在、震災復興とその財源の確保が重要なのは論をまたない。だが、近未来にはこの外部からの動きを最大限活用し、財政を初めとする経済改革を進める推進力として活用してはどうだろうか。

 なお、本稿の内容はすべて筆者個人によるもので、所属する組織のものではないことをお断り申し上げます。
このコラムについて
宿輪先生の通貨のすべて

 テレビでもおなじみ! 第一線で活躍中の博士号(経済学)を持つエコノミストで、早稲田大学で教鞭も執る宿輪純一氏が、大きく変わりつつある国際通貨制度を独自の視点で斬る。通貨理論の基本を解説するとともに、現在進行中のパラダイムの転換を分かりやすく読み解く。
 通貨危機の発生を抑える処方箋はあるのか? 円の国際化に展望はあるのか? アジア共通通貨に導入可能性はあるのか? ドルが弱くなった時代の基軸通貨体制はどうなるのか? ユーロと人民元が果たす新たな役割は何か? 検討が進む新しい国際通貨制度は? 新興国通貨の今後は? 投資に必要な通貨の知識は? 通貨と経済の関係は?
 グローバル化と金融資本主義が進む今、ビジネスパーソンに必須の知識と視点を分かりやすく提供する。

⇒ 記事一覧
著者プロフィール

宿輪 純一(しゅくわ・じゅんいち)

宿輪 純一1963年生まれ、麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業
(職歴)1987年、富士銀行に入行。国際資金為替部、海外勤務、決済事業企画部などに勤務。1998年、三和銀行企画部に移籍。決済業務部、UFJ銀行(合併)、UFJホールディングス経営企画部、UFJ総合研究所国際本部などに勤務。
(教歴/兼務)2003年東京大学大学院非常勤講師(3年)、清華大学大学院(中国)顧問、2007年早稲田大学非常勤講師(現職)、2009年上智大学非常勤講師。
(現在)博士号(経済学)を持つエコノミスト。早稲田大学非常勤講師。ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。
(専門)通貨、国際金融、市場、決済。マクロ経済、国際経済。企業戦略。
(趣味)映画評論、シネマ経済学。
(委員)アジア開発銀行「アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)」、財務省「ASEAN為替制度と金融市場研究会」、経済産業省「グローバル財務研究会」、外務省「アジア太平洋経済委員会」、全国銀行協会「SWIFT委員会」、「大口決済システム検討部会」、「全銀 システム検討部会」ほか。
(単著)『通貨経済学入門』、『アジア金融システムの経済学』、『実学入門 社長になる人のための経済学―経営環境、リスク、戦略の先を読む』(以上、日本経済新聞社)。『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)。
(共著)『マネークライシス・エコノミーグローバル資本主義と国際金融危機』(日本経済新聞社)。『円安VS円高―どちらの道を選択すべきか』、『決済システムのすべて』、『証券決済システムのすべて』(以上、東洋経済新報社)ほか.
オフィシャル・ウエブサイト:http://www.shukuwa.jp/
過去のコラム:宿輪純一の「逆張り経済論」


04. 2011年4月28日 08:26:36: cqRnZH2CUM
>BlackSwan

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110425/219635/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>投資・金融>統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術
われわれは自然災害という「異常値」と共存するしかない 求められる統計学的思考によるリスクの分散
2011年4月28日 木曜日

 2011年3月11日、記録破りのマグニチュード9.0の大地震が東北地方を襲い、その後の大津波を伴って、死者と行方不明者を合わせ約3万人という第 二次大戦後で最大の災害が起きた。亡くなった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げ、その悲しみと苦しみに心を馳せ るものである。
 この地震の影響は実に広範囲の地域で感じられた。首都圏ではほとんどすべての交通機関が止まり、自宅に戻れない帰宅難民が出た。ターミナル駅では2万人 を超える人々が足止めにあったようだ。大規模な停電や石油精製所の火災も起き、電力が我々の生活のあらゆる局面でいかに重要な働きをしているかという事を 実感した。福島第一原子力発電所は我々が常に危険と共に生活している事を思い知らせた。正にほとんどの社会のインフラが機能しなくなったという事は、非常 に多くの教訓を与えた災害であった。
 この国を挙げての大騒動の最中、少々時期尚早の感はあるものの、災害の直接的被害を免れた我々としては、この惨事を振り返り、2度とこういう被害が起こらないように考えていく責務があろう。
 まず、この地震の予測がつかなかったのかという事である。たとえ、数分前でも良い、何らかの兆候が起きなかったのだろうか。今回の地震の予測に関して、 二つの可能性を考えた。私は地震の専門家ではないので、これはあくまで推測であるが、どうやら地震の専門家は、地震の起き方は前の地震が起きてから次の地 震が起きるまでの間隔は一定の期待値(平均値)を持った正規分布であるという仮定で予測しているようである。
 また、地震の強さも一定の期待値を持った正規分布と仮定しているのではないだろうか。もし、仮にそうであるなら、私はこの仮定には疑問がある。少々技術 的になるが、正規分布というよりStable Paretian Distributionに近いのではないか。つまり、平均値から非常に離れた値(非常に大きな地震)が起きる確率が通常の正規分布から得られる確率より も高いのではないかという事である。
 形状的に言えば、小尖塔分布(leptokurtosis)とでも呼ぶべき、通常の正規分布より中心部分がとんがっており、山のすそのが厚い分布 (fattail)である。つまり、平均から非常に離れた強さの地震が正規分布より起きやすいという事である(図1を参照)。この仮説が正しいのならば、 分布の前提を変える事によって予測の精度を向上させる可能性がある。
 もう一つの場合は、いかなる分布でも説明することのできない異常値が発生したと考えられる事である。今回の地震は、あまりにも大きいマグニチュードから考えて、こちらの可能性の方が高いのではないか。この種の異常値であるならば、残念ながら予測は不可能なのである。
 確率は過去のデータから得られた情報から作られた一定の分布を前提として一定の確率を計算する場合が多い。今回の災害に対して、誰もが言っている言葉に 「想定外」というのがある。「想定外」というのを統計用語に直すと異常値(outlier)であり、それはあまりにも平均値から外れているため、既知の確 率分布に基づいた理論では対処できない値をいう。
 しかし、起こらないという保証はないし、いつ起こるかを予測する事は統計学的には不可能と言える。つまり、そういう値を異常値だということもできる。異 常値に対して人間はほとんど無力である。人間は異常値を、自然災害も含めて、コントロールしたり防御したりすることはほとんど不可能であるという前提に 立って、生存の策を練るしかない。人間は、自然災害をも含め、異常値と共存するしかないのである。

 最近、地球環境が大きく変化している。そういう事がどの程度影響しているのかまだ証明されてはいないのだが、地震にかかわらず、集中豪雨や異常な夏の熱波や冬の豪雪など、以前よりも不確定要因が増えているような気がするのは、万人の認めるところである。
 ここでは、不確定要因のうち、分布が分かっているリスクと、分布が分からない異常値に分けて考えよう。つまり分布が分かっている不確定要因をリスクと呼 び、分布が分からない不確定要因を異常値と呼ぶ。そうすると、リスクは計算できる。例えば、ある程度の被害をもたらした自然災害というのは常に起きてお り、長い歴史にわたる多くの情報から一定の分布が得られているので、どういう状態ではどれぐらいの損害が出るのか大体の予測が可能だからである。
 一方、異常値というのは過去の既知の分布があてはまらない状態をそう呼ぶわけだから、異常とか記録破りというのは過去の記録が無い状態を言い、いつ起こ るか、どのように起こるかは予測がほとんど不可能である。異常値に対する対策は分散による損害の低減というのが、人間にできるせいぜいの対策と言える。
予測できない津波は来る
 岩手県釜石市では約1200億円を投じ、全長1960メートル、基礎部分は水深63メートルの海底に築かれていていたが、釜石港では予想を超える津波に よって破壊され、木造家屋、漁船や自動車が甚大な被害を受けた。全体では岩手、宮城、福島3県の海岸にある堤防の延長約300キロメートルのうち、190 キロメートルが全・半壊し、壊滅的な被害をもたらした。また、「日本一と言われる防潮堤」とか「万里の長城」とよばれた岩手県宮古市田老地区の津波防潮堤 が倍くらいの高さの波にやすやすと簡単に乗り越えられた。これに関連して思い出されるのは、どんな地震にも耐えられると言われた高速道路が阪神・淡路大震 災の時にいとも簡単に破壊されたという事である。
 地震の専門家も技術者達も、ある一定の予測のもとに防潮堤や高速道路を建設する。周知のごとく、三陸沖には活断層がある。それにリアス式の海岸は湾の奥 に行くに従って狭くなり、湾の入り口ですでに高かった津波の高さは湾の奥に行くにつれて何倍にも高くなる事は経験的に分かっている。したがって、他の場所 よりも、圧倒的に津波の被害に遭う確率は高い。
 この宮古田老地区はは1896(明治29)年の明治三陸津波で1859人が、1933(昭和8)年に昭和三陸津波で911人が、亡くなったという事である。そういう経験からの情報に基づいて、予測が建てられ、防潮堤が築かれ、避難訓練がなされてきた。
 しかし、今回の地震は、前地震予知連絡会会長の大竹政和・東北大学名誉教授によると4つの震源域が約5分の間に連動したそうで、「数百年に1回起きるか どうかの巨大地震だ」という事である。この地震を表現するのに「想定外」の地震とよくいわれるのはまさにこの地震の特殊性を表している。つまり、異常値の 発生であり、現在の人間の能力でコントロールするには無理のある規模のものであった。
異常値への対策は共存する道をとること
 対策を講じる場合、予測出来る事と出来ない事、そしてコントロールしたり防御できたりする事とできない事を分ける事が重要である。宮古市田老地区のよう な強固な防潮堤の建設はもちろん大変重要であるが、それは単に第一の防波堤であり、想定内での規模の津波に、つまりリスクに対して有効であるという認識が 大事である。異常値への対策としては、ある意味、津波を受け入れ共存する道を取ることで、少なくとも人的被害を最小にしようとすることである。
 一番に考える方策は、漁師の方たちがこのリアス式海岸から離れて、たとえ大津波が起こったにしろ、この地形よりもはるかに被害が少ないであろう場所に集 団で移動することである。また、岩手県のリアス式海岸の一部であっても、湾によっては形が異なり、比較的被害の少ない湾もあるのではないかと思われる。そ ういう場所に移住するのも良いだろう。
 今回の津波による大きな被害を被った地域は非常に豊かな漁場である。漁師として生業をたてている多くの人々にとっては、漁場から遠く離れる事は困難であるように思える。しかし、現在の場所にいる限り、たとえ何百年か先であっても同じことが起きるだろう。
 第二としては、今回津波に襲われた地域は農耕地区として人は住まず、居住地区は少なくとも海抜50メートル以上の地域を開発し、5、6階建てで耐震構造の公団住宅を建てることも考えられる。
 第三に、津波の通り道となった所へ住宅を建てる事を禁止するべきである。住民の心情は十分理解できるのだが、被害の少なかった自宅を修理して、継続的に 住む準備をする人達もいるであろう。そういう人たちも一時的に他の県に移住して頂き、町全体を新しい都市計画に基づいて抜本的に作り直す事が求められる。
 これらの巨額の財政投融資はマクロ経済の視点からも政府によって推進されるべきである。被災者たちは家も、船も、家財道具も失った方たちが多く、いずれ にしても政府の財政支援なしには回復は不可能である。そういう地域の開発を都市住宅整備公団のような組織を立ち上げ、政府の財政投融資で計画的な漁村を建 設すべきなのではないだろうか。これらの被災地に一時的でない、半恒久的な解決策に向けて国民が力を合わせ立ち向かうべきである。そして、これらの政策 は、乗数効果による経済への刺激として、景気浮揚に貢献するであろう。
生産機能を分散せよ
 今回の東日本大地震は、いわば日本全体の製造業に非常な打撃を与えた。そればかりではなく、広く世界のメーカーが大きな影響を受けているようだ。世界銀 行は東日本大震災による日本の経済的損失は、最大約19兆円にのぼり、被災地のインフラ再建に5年かかると予測している。日本では、これから30年間の大 地震の発生確率は東海地震87%、東南海地震60%、南海地震50%、首都直下型地震70%と言われている。どの程度の異常値が発生するかは適確に予測す る方法はない。被害を最小にするためには、建物の免震構造を高めるなどの技術を駆使する事は勿論のことであるが、異常値による壊滅的被害を食い止めるため には、分散の考え方でリスクを低減する事は必要不可欠の対策である。
 まず第一に指摘しなければならないのは、これらの地域には東京、横浜、名古屋、大阪などの巨大都市が集中している事である。この一つに大地震が発生すれ ば、日本の工業生産が非常な打撃を受けて、立ち直るのに非常な時間がかかるであろう。この対策としては都市機能の分散化が考えられるが、日本ではこの点に 対する対策がほとんどと言っていい位行われていない。この際、地方分権化の問題と兼ね合わせ、大きな一歩を踏み出すべきである。
 第二の点は、東海道線や東名高速という人の移動、物資の輸送の大動脈ともいる交通手段が壊滅的打撃を受けるであろうという事である。地上の交通網や通信網が完全に破壊された時に機能できる、海上による交通、輸送手段を周到に準備しておくべきである。
 第三の点は、今回経験したように、サプライチェーンの分断のために、日本中のほとんどの工業生産活動が長期にわたって停止する可能性である。この対策 は、どんなに巨大な企業であっても単独で解決できる問題ではなく、各業界が一丸となって、すべてのサプライチェーンがいくつかの独立した地域で自己完結的 なネットワークの構築を図る必要がある。
 たとえば、関東地方が巨大地震に襲われて壊滅的打撃を受けた場合、関西では独自のサプライチェーンを使って完成品の生産が続行できるような仕組みを作る ことである。その場合、リケンのような代替のきかない存在の部品メーカーは、少なくとも二つの工場を異なる地震帯の地域に全自動車会社が共同で建てるべき である。その場合、今後比較的大地震が来る確率の小さい地域を選ぶことが望まれる。
 第四に、さらに、それぞれ特殊な部品をつくる中小企業が、例えば、北海道、関東、九州等の、全国の異なる地方に点在し、お互いに横の連携を保つならば、 大地震が一地方を襲っても、日本全体としては、比較的小規模の損害で済み、日本の経済全体に与える影響は軽微で済むであろう。これを達成するためには、そ れぞれの業界で企業が協調し合う事が求められる。
 第五の点は、上記第一の点とかかわり合っているが、関東地方が巨大地震に襲われた時、日本の中央政府は機能することができるのだろうか。東北や北海道や 九州に今すぐにでも機能開始することが出来る情報、命令系統、人材、資材すべてをそろえた政府の司令塔としての拠点を備える必要があるのではないだろう か。いずれにしても、ほとんどすべての面で東京一極集中の現在の日本の状況は、非常時には最も弱いシステムである。統計的思考によるリスクの分散が、これ ほど必要な時はいまだかつてなかったのではないかと思うのである。
「競争」はばらつきを広げ「協調」は小さくする
 日本は、聖徳太子(この人物には異論があるようであるが)の十七条憲法に「和をもって貴しとなす」と定められて以来、協調を政治や社会や経済活動の根幹 の思想としてきた。明治になって、西洋の競争の概念が入ってきた時には、日本人は協調を排除することなく、協調と競争の絶妙なバランスをとった。それは第 二次大戦後も続き、80年代の終わりまで基本的には続いてきたのである。競争と協調も統計的思考の社会的応用として私が最も基本とする概念である。一言で いうと、競争はばらつきを広げ、協調はばらつきを小さくするという事である。
 しかし、80年代の終わりから90年代のはじめにかけてバブルがはじけ、多くの企業の業績は急激に悪化し、それまで長年にわたって続いてきた年功序列制 や終身雇用制など協調を促進する雇用制度が事実上廃止された。それに代わり、成果主義やリストラという競争システムが導入された。それ以来、日本企業にお ける従業員の会社に対する忠誠心や勤労意欲は急激に低下した。日本が元気を失って来たのはこの頃からではないか。職場環境の変化のみならず、国民生活を顧 みず、些細な事で常に政争に明け暮れている政治の中で、多くの人が働く喜び、生きる意味や目的、明日への希望を失い、競争にすら加われない人々が増え、閉 そく感という言葉が日常的に使われるようになった。
 しかし、今回のすさまじい惨事を目のあたりにし、被災者のために、そして、この国の危機のために、何かしたいという気持ちで人々が大きく動き出したよう に見える。多くの企業は利害を無視して、救援の手を差し伸べ、日本人の協調の精神は未だ健在であることを示した。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダは共同 で支援対策本部を置き、被害状況などの情報を共有化し、協調体制を敷いた。これは、新潟県中越地震で、エンジン部品を製造するリケンの工場が出荷不能にな り、多くの自動車工場で生産が停止した時、各社は総勢700人を超える応援部隊を送り、リケンはわずか1週間で生産を再開したという教訓から学んだ協調体 制である。民間からの義援金は3週間で700億円以上に達したそうだ。
 被災者達も、親族を何人も失い、家も家財道具もすべて失い、非常に困難な状況下にありながら、遅々として来ない救援の物資に、文句も言わず忍耐強く長時間列に並び、世界の賞賛を浴びている。都会では忘れられた地域の絆をテレビを通じて思い出させてくれた。
 また、無数のボランティアが多数出現し、彼等は状況さえ整えば、いつでも被災地に行く用意がある。これからはボランティアを全国的レベルで組織化するこ とが求められる。その他、被災者を村ごと受け入れようという地方行政体が多く申し出ているようである。自らの危険も顧みず働く自衛隊や東電関係の現場の 人々にも大きな感動を与えられた。
 こういう状況を見てくると、日本人の同胞を助けようという協調の精神は健在だと思えるのである。他の人の役に立ちたい、また、役に立つ喜びは閉そく感と は対極にあるものである。そればかりではなく、世界中の国々から支援の手を差し伸べて来ている。これは日本のこれまでの平和外交の成果でもあると思われ る。
 日本人のそして日本の社会の強みは協調にある。日本人は一定の条件を満たせば、一致団結して苦難を超え大目標を遂げる能力がある。そのキーワードは「競争から協調へ」である。協調をもう一度日本の価値として自覚するならば、日本の早期回復は間違いないであろう。
 若い年代層が国家的危機に面して、生まれて初めて大目標を意識し、ツイッターによって“ヤシマ作戦”と呼ばれる東京の節電運動を繰り広げ、少なくとも数 日はほとんど計画停電が実施されずに済んだという驚くべき成功を遂げたそうだ。彼等は一人ひとりの持つ力は小さくとも、協調することによって大きな成功が 得られる事を体験した事と思う。
 社会や政治のリーダーたちは、復興を成し遂げ新しい時代を築くためには、若い世代のこういう貴重な体験を無駄にすることなく、協調社会を作り上げて行くための基盤にすることが求められている。
統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術
「統計学」と聞くと、難しい数式とグラフを思い浮かべ、抵抗感を持っている人が多いでしょう。とくに文科系の人であればその思いは強いはず。でも、一度、 統計学の視点で世の中を見渡してみると、物事は大きく違って見えてきます。数学が苦手だった人でも吉田教授の“講義”なら大丈夫。難しいことはありませ ん。経営とビジネス、そして人生に役立つ統計学です。
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吉田 耕作(よしだ・こうさく)
カリフォルニア州立大学名誉教授、ジョイ・オブ・ワーク推進協会理 事長。経営学博士。1938年東京生まれ。1962年早稲田大学商学部卒業。68年モンタナ大学で修士号(ファイナンス)を取得。75年ニューヨーク大学 でデミング博士、モルゲンシュタイン博士に学び、博士号(統計学)を取得。75年からカリフォルニア州立大学で教鞭をとる。99年青山学院大学国際政治経 済学部教授。2001年から2007年まで同大学院国際マネジメント研究科教授。86年から93年まで、デミング4日間セミナー「質と生産性と競争力」で デミング博士の助手を務めた。統計的な考え方をベースとして、米国連邦政府、ヒューズ航空機、メキシコ石油公社、NTTコムウエア、NTTデータ、NEC などを指導。著書に『国際競争力の再生』『経営のための直感的統計学』、『直感的統計学』、『ジョイ・オブ・ワーク――組織再生のマネジメント』、『統計的思考による経営 』など


05. 2011年4月28日 19:45:07: cqRnZH2CUM
3月緩和の効果見極める段階、先行き不確実性大きい=日銀総裁
2011年 04月 28日 17:58 JST 
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 [東京 28日 ロイター] 白川方明日銀総裁は28日、金融政策決定会合後に記者会見し、東日本大震災を受けた生産の減少など供給制約について、秋口以降に和らぐ可能性があるとしながら、日本経済の先行きの不確実性が大きいことは十分に認識していると語った。

 金融政策運営では、金融面から経済を下支えし、今後もどのような貢献が可能か検討していくとしたが、現在は3月の震災直後に実施した追加緩和の効果を見極める段階との見解を示した。

 28日の決定会合では、西村清彦副総裁が、資産買い入れ基金を5兆円程度増額し、総額45兆円程度とする追加緩和を提案したが、反対多数で否決された。西村副総裁の提案は、基金のうち資金供給オペ部分ではなく、資産買い入れ部分を増額するもの。白川総裁によると、西村副総裁は「震災の影響が長期化し、企業・消費者のマインド悪化を通じ、実体経済への悪影響を防ぐ観点」から基金増額を提案。これに対して他の委員は、3月に行った基金増額の効果を点検していくことが適当として反対したという。  

 会合では、年2回公表している「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を決定。2012年度までの日本経済の足取りについて、震災などの影響で2011年度前半は下押し圧力が強い状況となるが、後半以降に回復していく姿を描いた。白川総裁は、日本経済の先行きについて、秋口以降に供給制約が和らぎ、年度後半にかけて景気回復テンポが高まる可能性が高いと指摘。2012年度は潜在成長率を上回る成長になる可能性にも言及した。もっとも、震災の影響などで、日本経済の先行きは「不確実性が大きいことを十分に認識している」と述べ、供給制約解消に時間がかかればマインドが一段と悪化することに警戒感を示した。また、供給制約の解消は10月の段階では十分ではない可能性も指摘した。

 原油など国際商品市況の高騰が、物価の上昇圧力となっているが、白川総裁はインフレ期待の上昇に注意が必要とする一方、需給ギャップが存在する中で、物価が継続的に上昇するとの認識はないと表明。需給ギャップについては、供給制約が解消されれば、新興国などの高成長持続とともに改善していく方向との見方を示した。

 (ロイターニュース 伊藤純夫)


06. 2011年4月28日 20:20:50: cqRnZH2CUM
日銀の景気シナリオは強気との見方、足元は時間軸強化で対応
2011年 04月 28日 17:52 JST 
ビジネス
マツダの11年3月期当期損益は600億円の赤字、無配に転落
3月緩和の効果見極める段階、先行き不確実性大きい=日銀総裁
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 [東京 28日 ロイター] 日銀が発表した景気・物価見通し(いわゆる展望リポート)について市場関係者は、東日本大震災の影響で当面下振れリスクが高いとしながらも、12年度までの成長率や物価見通しでは強気の見通しを示してきたとみている。

 供給面での制約という景気回復の障害も時間の経過とともに回復し、復興需要もあいまって力強い回復軌道に復していくとのシナリオを提示しているとの理解だ。今回は、足元での追加緩和策は回避し「物価安定の理解」で1%という疑似目標を明確化する表現に修正し、時間軸をやや長期化することで対応したともいえる。今後は財政支出増大に伴う債券市場の安定に軸足を移す可能性があるとの見方もある。 

  <11年度マイナス成長見通しの委員はなし> 

 今回の展望リポートは、東日本大震災が日本経済に与えた影響について日本銀行の分析結果を示したともいえる。今年前半は下ぶれリスクが高い一方で、後半以降は強気の見通しを示している。

 市場関係者からは、政策委員の誰ひとりとして11年度の成長率見通しをマイナスとしてこなかった点を指摘する声があがった。フォーキャスト調査によれば、民間調査機関では11年度のマイナス成長を見通すところもそれなりにあり、平均では11年度が0.4%成長、12年度は2.6%成長となっているが、日銀は震災の影響について「不確実性」を強調しながらも11年度が0.6%、12年度は2.9%と高めの数字をおいてきた。日銀全体として下ぶれリスクをさほど大きく見積もっていないことがうかがえる。 

 みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「供給面の制約さえ解消されれば日本経済は緩やかな回復軌道に戻るだろうという日銀の基本強気の景気シナリオが明確に投影されている数字の並びになった」とみている。 

  <物価は2年連続で0.7%に上方修正、時間軸は長期化図る> 

 消費者物価(CPI)の見通しも、日銀は上方修正してきた。11年度、12年度ともに0.7%の上昇を見込んでおり、今年1月の見通しが上方修正された。「物価安定の理解」として中期的に物価が安定していると理解する物価上昇率について、今回日銀は「中心は1%程度である」としており、表面的には徐々に望ましい物価上昇率に近づいてく姿となっている。

 もっとも、この夏には基準改定が行われ、CPI上昇率は0.5%前後下方改定されるとみられている。日銀の見通しもいずれ修正されることは確実で、高めのCPI見通しも、市場では額面通りには受け止められていない。 

 しかも、「物価安定の理解」の表現がやや修正されたことも、次回利上げまでの期間が延びたことを示唆している。「中心は1%である」との表現は、前回までの「委員の大勢は1%程度を考えている」と比べて、「日本銀行としての中心は1%程度との判断が鮮明になっている」(伊藤忠経済研究所・主任研究員・丸山義正氏)と評価されている。このためこれまでよりも「時間軸」がやや長期化したとの受け止め方も浮上している。 

  <強気見通しは、緩和回避姿勢の表れか> 

 今回の展望リポートから受ける日銀のスタンスについて、市場からは「経済見通しはやや高め、物価見通しは引き続き前のめり」(農林中金総研・主任研究員・南武志氏)との受け止め方が目立つ。

 このため、金融緩和は可能な限り見送り、復興需要が出てくるのをひたすら待つ、というスタンスとの理解も浮上している。また金融政策決定会合では、西村清彦副総裁から資産買入基金の増額提案があり、反対多数で否決されているが、これは「日銀が打ち出す「次の一手」が追加の金融緩和である可能性が高いことが強く印象付けられた」(上野氏)との見方もある一方で、「一部で政府や市場からの『要請』がない限り自ら予防的に動くことはないだろう」(南氏)との見方にもつながっている。 

 前日銀審議委員の水野温氏・クレディスイスアジア太平洋地域債券担当副会長も、日銀は大きな下ぶれに直面しない限り、復興に向けて政府の影で受け身の対応をとると指摘、当面は時間軸の長期化を図るほか、財政支出の増大に対応してオペの強化で短期金利を安定させながら債券市場の安定を図ることが主たる任務となるとみている。 

 (ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1104a.pdf
2011年4月28日
日本銀行
経済・物価情勢の展望(2011 年4月)
【基本的見解】1
1.はじめに
わが国経済は、本年入り後、景気の改善テンポが鈍化した状態から脱し
つつあったが、3月11 日に発生した東日本大震災により、状況は大きく変
化した。震災により、当面、わが国経済に対して大きな下押し圧力がかか
り続けることは避けられない。今回の展望レポート(「経済・物価情勢の
展望(2011 年4月)」)で示す2012 年度までの日本経済の見通しを点検
するに当たっては、以下のような視点を持っておくことが重要である。第
1に、震災による経済への下押し圧力は、基本的には資本設備の毀損等に
よる供給面のショックとして現われており、海外経済の高成長など、震災
前まで日本経済の回復を支えていた基本的な条件に大きな変化はない。こ
の点、金融ショックによって世界的に需要が急減したリーマン・ショック
時とは異なる。第2に、震災の影響は、時間の経過とともに変化していく
ことに留意する必要がある。短期的には供給面の制約に伴う影響が大きく
出るが、その後は、供給面の制約が和らいでいくうえ、毀損した資本スト
ックを復元していく動きが顕現化してくる。さらにより長期的には、震災
が、わが国経済の趨勢的な成長力にどのような影響を与えていくかという
点も重要である。第3に、これらの震災の影響の現われ方については、そ
の時期や規模を含め様々な点で不確実性が大きい。このため、先行きの経
済・物価動向を見通すに当たっては、中心的な見通しだけではなく、従来
以上にリスク要因を注意深く点検していくことが重要である。
1 4月28 日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。
2
以下では、上記の留意点を念頭に置いたうえで、まず、わが国経済の基
調的な動きを左右する海外経済や国際金融資本市場の動向を記述し、その
後、わが国の金融環境を評価する。そのうえで、相対的に蓋然性が高いと
判断される見通し(「中心的な見通し」)を記述した後、中心的な見通し
に対する上振れ要因・下振れ要因を検討する。最後に、金融政策運営の基
本的な考え方を整理する。
2.海外経済および国際金融資本市場
海外経済は、2010 年夏場以降、回復初期局面における在庫復元の動きが
一巡したこともあって、成長ペースが幾分鈍化した。もっとも、海外経済
の回復基調自体は途切れず、新興国・資源国の高成長に牽引される形で、
昨年秋以降、世界経済の成長率は、再び、歴史的にみてかなり高い水準と
なってきている。こうした高成長を背景に世界的に物価上昇圧力が徐々に
高まりつつあり、新興国・資源国では金融引き締めの動きが続いているほ
か、先進国においても、一部で金融緩和を修正する動きがみられ始めてい
る。地域別にみると、米国経済は、2010 年秋以降、金融緩和や減税措置延
長などの財政刺激策などもあって、先行きの回復傾向の持続性に対する懸
念は後退している。欧州経済は、輸出が伸びているドイツなど一部の国と、
ソブリン問題を背景とした緊縮財政の影響から低調な動きが続く域内周縁
国の間で、景気回復ペースの格差が顕著となっているが、全体としてみる
と、緩やかに回復している。この間、新興国・資源国経済は、旺盛な内需
や海外からの資本流入のもとで高成長が続いている。
先行きの海外経済については、新興国・資源国経済の高成長に牽引され、
回復を続けることが想定される。世界経済全体の成長率は、2010 年に続き、
2011 年、2012 年も、高い成長率を記録した金融危機前の10 年間の平均を
上回って推移する見込みである2。地域別にみると、米国経済については、
2 因みに、IMFが4月に発表した世界経済の成長見通し(各国・地域の実質成長率見
3
新興国・資源国向けを中心に輸出が増加基調をたどるほか、緩和的な金融
環境を背景に、個人消費や設備投資が引き続き緩やかに増加するため、回
復を続けると考えられる。欧州経済については、輸出の増加が徐々に内需
に波及し、中心国と周縁国の格差を伴いながらも、全体として緩やかな回
復が続くとみられる。新興国・資源国経済は、インフレ懸念の高まりを背
景に、金融引き締めの動きが続くとみられるが、旺盛な内需や海外からの
資本流入が続くもとで、高めの成長を維持する公算が高い。このうち、中
国経済は、所得水準の向上や都市化の進展を背景として、個人消費や住宅
投資、各種のインフラ投資が増加基調をたどるため、高成長を維持すると
考えられる。NIEs・ASEAN 諸国の経済は、輸出に加え、設備投資や個人消
費などの国内民需も増加が続くと見込まれるため、景気は拡大基調をたど
ると予想される。
国際金融資本市場の動きをみると、2010 年秋以降は、米国景気に対する
見方が改善したことなどを背景に、投資家のリスク回避姿勢が後退し、多
くの国で株価が上昇基調をたどった。債券市場では、米国の長期金利が上
昇し、これにつれて、各国の長期金利は上昇した。この間、欧州では、ギ
リシャ危機以降、安定化に向けた各種枠組みが整備されつつあるもとで、
アイルランドやポルトガルが金融支援を要請するなど、欧州周縁国のソブ
リン問題とその国際金融資本市場への影響が懸念される状況が続いている。
わが国における震災発生直後は、一時的に、経済の先行きを巡る不透明感
の高まりから各国で株価や長期金利が下落するなど、市場のリスク回避姿
勢が高まったが、その後は概ね落ち着きを取り戻している。為替市場では、
ボラティリティが大きく高まり、円の対米ドル相場は一時史上最高値の76
円25 銭を記録したが、G7諸国による協調介入を機に、82 円〜83 円での
通しを購買力平価ベースで集計したもの)をみると、2011 年、2012 年の成長率は、そ
れぞれ4.4%、4.5%となっている。なお、金融危機前の10 年間(1998〜2007 年)の平
均の成長率は、4.0%となっている。
4
推移となった。今後も、国際金融資本市場については、欧州周縁国のソブ
リン問題の帰趨、世界的な金融緩和修正に伴う資本移動の変化など、投資
家のリスクテイク姿勢の変化に留意しつつ、その動向を注意してみていく
必要がある。
3.わが国の金融環境
わが国の金融動向をみると、震災後も、金融機能は維持されており、資
金決済の円滑も確保されている。金融市場も、日本銀行による潤沢な資金
供給を背景に安定して推移している。わが国の金融環境は総じて緩和の動
きが続いているが、震災後は、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しく
なったとする先がみられている。
今後の金融環境を展望すると、当面は、震災の影響による売り上げの落
ち込みを主因に、資金繰りが厳しくなる先が、中小企業を中心に増えると
みられるほか、先行きの不透明感の高まりから手元資金を積み増す動きも
みられており、企業の資金需要が増加する可能性が高い。もっとも、企業
の資金調達環境について、CP・社債市場をみると、CP市場では、良好
な発行環境が続いているほか、社債市場についても、不透明感の高まりか
ら、震災後に発行を見送る動きがみられていたが、このところ信用スプレ
ッドの実勢が震災直後と比べて幾分低下するなか、社債発行の動きが徐々
にみられ始めている。一方、中小企業の資金調達に占めるウェイトの高い
銀行貸出を巡る状況をみると、民間金融機関は、これまでの増資や内部留
保の蓄積を通じて自己資本の充実に努めていることから、今後の資金需要
の増加に十分応えられる状況にある。また、信用保証協会による災害関連
保証など、金融面での各種措置の効果も見込まれる。そうしたもとで、金
融環境は、日本銀行による強力な金融緩和策が一段と浸透していくにつれ
て、基調的には緩和の動きが続くと考えられ、国内民間需要が回復に向か
う動きを下支えしていくと予想される。
5
4.わが国の経済・物価の中心的な見通し
(1)経済情勢
上述の海外経済の動向と内外の金融情勢を踏まえたうえで、わが国経済
の先行きについて、相対的に蓋然性が高いと判断される見通し(「中心的
な見通し」)を検討する。
わが国の経済は2010 年秋口以降、耐久消費財に関する駆け込み需要の反
動の影響が大きかったうえ、海外経済の成長ペースが一時的に鈍化するも
とで、夏場の円高の影響や情報関連財の在庫調整の動きも加わり、輸出が
横ばい圏内の動きとなった。このため、景気は改善の動きが弱まった。も
っとも、2011 年入り後は、海外経済の成長率が再び高まるもとで、震災前
には、輸出や生産が増加基調に復する動きがみられるなど、改善テンポの
鈍化した状態から徐々に脱しつつある状況となっていた。このように、震
災前までの景気展開は、前回(2010 年10 月)の展望レポートにおける見
通しにほぼ沿った動きとなっていた。
こうした状況は、今回の震災によって大きく変化している。震災後は、
わが国経済が、供給面で大きな制約を受けているため、海外経済の回復を
起点として輸出や生産の増加がわが国経済の回復を支えていくというメカ
ニズムが弱まっている。すなわち、震災により、広範囲に及ぶ被災地域で、
多くの資本設備が失われたほか、全国的に、材料・部品調達の困難化から
サプライチェーンに大きな障害が生じている。また、電力不足の問題も供
給面の制約となっている。このため、一部の生産活動が大きく低下してお
り、輸出や国内向けの出荷・販売に大きな影響が及んでいる。このように、
震災の影響は主として供給面の制約を通じてわが国経済に現われているが、
需要面でも、今回の原子力発電所の事故による影響をはじめ、先行きに関
する不透明感を背景とした企業や家計のマインドの悪化を通じて、設備投
資や個人消費を下押ししているとみられる。今回の原子力発電所の事故は、
6
上記のマインドを通じる影響に加えて、海外からの訪日者数の減少などを
通じて、個人消費や観光などに悪影響を与えている可能性も高い。
今後の経済の見通しは、電力を始めとする様々な供給面の制約が、いつ、
どの程度のペースで解消していくかに大きく依存する。そのうえで、先行
きを展望すると、わが国経済は、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状
況が続くと考えられる3。すなわち、企業は、被災設備の復旧、代替施設で
の生産、代替調達先の確保などを進めつつあるが、サプライチェーンの再
構築にはある程度の時間を要するとみられる。さらに、電力の供給不足の
問題は、電力需要がピークを迎える夏場には経済活動に対して相応の制約
となる可能性がある。しかし、秋口以降は、サプライチェーンの再構築も
一段と進むとみられることから、電力の需給逼迫が改善に向かうもとで、
供給面の制約は和らいでいくと見込まれる。そうした状況になれば、海外
経済の改善が輸出や生産の増加につながり、わが国経済の回復を支える原
動力として、再びはっきりと作用してくる。さらに、震災によって毀損し
た資本ストックの復元に向けた動きも、次第にわが国経済を押し上げる方
向で寄与してくるものと考えられる。
以上のような動きを背景に、わが国経済は、2011 年度前半は、下押し圧
力が強い状態が続いた後、年度後半にかけては、輸出や生産がはっきりと
した増加に転じるもとで、年度前半からの反動もあって、景気回復テンポ
が高まる可能性が高い。2012 年度入り後は、輸出・生産を起点とする所得・
支出への波及メカニズムの働きがはっきりし始めるとともに、資本ストッ
クの復元に向けた需要の増加も続くため、潜在成長率を上回る成長が続く
3 阪神・淡路大震災発生時(1995 年1月)の全国の生産は、前月比−2.6%と落ち込ん
だが、翌2月には同+2.2%と反動増となった。輸出についても、同様の動きを示した。
このように、短期間のうちに震災の全国的な影響が減退したのは、電力供給やサプライ
チェーンの面で制約が生じなかったこともあって、代替生産が短期間で可能になったた
めと考えられる。
7
と考えられる4。こうした見通しの内容を、企業・家計の部門別にやや詳し
く述べると、以下の通りである。
まず、企業部門をみると、製造業では、当面、供給面の制約から、生産
活動が大きく制約され、輸出も大きく落ち込むと考えられる。非製造業部
門についても、電力供給の制約や製造業の生産活動水準の低下の影響から、
当面、業況が悪化する可能性が高い。企業収益は、輸出・生産の大幅な減
少に、国際商品市況上昇の影響も加わり、大きく下押しされるとみられる。
このため、震災前に緩やかに持ち直していた設備投資も、いったん弱含み
となる可能性が高い。もっとも、2011 年度後半を展望すると、供給面の制
約が和らいでいくため、海外経済が高めの成長を続けるもとで、輸出や生
産は、再び増加していくとみられる5。また、震災によって毀損した資本ス
トックを復元する動きも顕現化してくると予想される。そうしたもとで、
震災の影響によっていったん下振れた企業収益は再び改善に向かい、つれ
て設備投資も持ち直しに向かうと考えられる。
次に、家計部門について、雇用・所得環境をみると、震災の影響により
生産活動の水準が低下し、雇用の過剰感が高まるため、弱めの動きとなる
可能性が高い。また、先行き不透明感を背景とする消費者マインドの慎重
化もあって、当面、個人消費はいったん落ち込む可能性が高い。その後、
2011 年度後半以降は、生産活動の回復に伴う雇用・所得環境の改善を背景
4 見通し期間中の潜在成長率を、生産関数アプローチに基づく一定の手法で推計すると
「0%台半ば」と計算される。ただし、潜在成長率については、推計手法に依存する面
が大きいほか、今後のデータ蓄積を経てより正確な認識が可能になる性格のものである
ため、相当幅をもってみる必要がある。なお、今回の震災の影響による供給制約につい
ては、一時的であり、やや長い目でみた供給能力の増加ペースに相当する潜在成長率に
は基本的に影響しないと考えられる。
5 生産や輸出が増加基調に復していく過程では、これまで抑えられてきた需要が顕現化
することや、取り崩した在庫を復元していく動きも考えられるため、その伸び率がいっ
たん大幅なものとなる可能性が高い。もっとも、生産が増加に転じていくタイミングに
ついては、サプライチェーンが再構築されていくペースや、電力の需給動向に大きく左
右されるため、不確実性が大きい。
8
に、個人消費も緩やかに持ち直していくものとみられるが、雇用者報酬の
増加が明確となるのは、景気の自律的な回復がよりはっきりする2012 年度
以降になるとみられる。このため、個人消費の回復ペースも暫くの間は緩
やかなものに止まる公算が高い。この間、住宅投資については、震災の影
響による資材不足などから、当面、住宅建設が一部で遅延する可能性があ
る。もっとも、見通し期間を通じてみれば、借入金利の低下や毀損した住
宅ストックの復元に向けた動きなどを背景に、緩やかに改善していくと考
えられる。
(2)物価情勢
以上の経済情勢の展望を踏まえ、物価の動向を点検する。まず、消費者
物価(除く生鮮食品。以下同じ。)の現状をみると、前年比下落幅は縮小
を続けてきた。最近では、高校授業料無償化等の影響を除けば、マクロ的
な需給バランスが緩やかに改善するもとで、国際商品市況高の影響もあっ
て、消費者物価の前年比は小幅のプラスに転じている6。
先行きの物価を巡る環境を展望すると、個別の財やサービス市場では、
震災の影響による供給制約が、ボトルネック状況などにつながり、これが
物価上昇圧力となる可能性はあるものの、マクロ的な需給バランスは、震
災の影響により供給面での制約が厳しくなると同時に、需要も減退すると
みられるため、その変動については、短期的には不確実性が高い7。もっと
も、やや長い目でみれば、景気が緩やかな回復経路に復していくに従って、
マクロ的な需給バランスは徐々に改善していくと考えられる。中長期的な
予想物価上昇率は、家計や企業、エコノミストを対象としたアンケート調
6 2010 年度の消費者物価指数については、物価の基調的な動きを判断するため、前年比
を1年間大きく押し下げる要因となった高校授業料無償化等の影響を除いている。
7 もともと、マクロ的な需給バランスの計測値は、やや長い目で、かつ幅をもってみる
べきものである。足もとは、電力の供給不足やサプライチェーンの障害など異例の現象
が生じているため、その点に特に注意する必要がある。
9
査等からみて、これまでのところ大きな変化は窺われず、見通し期間にお
いても安定的に推移すると想定している。市場参加者やエコノミストによ
る中長期的な予想物価上昇率は、ここ数年、概ね1%程度で安定的に推移
している。国際商品市況については、新興国・資源国の高い成長などを背
景に、持続的に上昇しており、先行きについても、緩やかに上昇を続ける
ことを想定している。
以上の環境を前提に、物価情勢の先行きをみると、国内企業物価指数の
前年比は、マクロ的な需給バランスが改善基調で推移するもとで、国際商
品市況の上昇を反映し、見通し期間を通じて上昇が続くと見込まれる。消
費者物価についても、国際商品市況上昇の影響がラグを伴いつつ波及する
と考えられる。加えて、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移すると
の想定のもと、マクロ的な需給バランスが基調的にみて改善していくこと
から、消費者物価の前年比は、見通し期間を通じて、小幅のプラスで推移
すると見込まれる8。
5.上振れ要因・下振れ要因
(1)経済情勢
以上は、現時点で相対的に蓋然性が高いと判断される見通し(「中心的
な見通し」)である。こうした見通しに対する上振れまたは下振れ要因と
しては、以下のような点に注意する必要がある。
第1に、今回の震災がわが国経済に与える影響については、不確実性が
大きい。まず、電力の供給不足やサプライチェーンにおける障害の帰趨に
ついて現時点で見通すことは難しく、このため、供給面の制約が解消する
時期については、不確実性が高い。その経済活動に対する影響も、問題の
8 今回の消費者物価の見通しは、現行の2005 年基準の指数をベースにしているが、統
計作成当局は、同指数について2011 年8月に2010 年基準の指数に切り替えるとともに、
前年比計数を2011 年1月分に遡って改定する予定であることを公表している。その際
には、前年比上昇率が下方改定される可能性が高い。
10
解決テンポや企業による対応の進捗度合いに大きく依存している。さらに、
毀損した資本ストックを復元していく動きについても、その時期と規模に
ついては不確実性が大きい。より長い目でみると、今回のサプライチェー
ンの障害や電力インフラの毀損などへの対応を機に生産拠点の海外への移
管が加速する可能性がある一方、新たなサプライチェーンの構築、震災の
経験を踏まえたリスク管理体制の見直しや、農漁業の再興などの過程で、
各経済主体の前向きかつ創造的な動きが新しい需要の創出に繋がっていく
可能性もある。一方、マインドを通じた影響については、原子力発電所の
事故の帰趨が及ぼす影響に加え、企業収益や雇用者所得見通しの不確実性
等について留意する必要がある。他方、震災後の上記懸念材料が早期に解
消方向に向かい、経済の先行きに対する不確実性が低下していけば、企業
や家計のマインド好転を通じて、わが国経済が見通しに比べて上振れる可
能性がある。
第2に、中心的な見通しでは、企業や家計の中長期的な成長期待は維持
されることを想定しているが、震災を契機とした企業や家計の成長期待の
変化にも注意を要する。この点、わが国経済は、これまでも、成長力強化
という基本的な課題に直面してきたが、その重要性は一段と増している。
震災の影響からわが国経済の中長期的な成長力に対する懸念が高まる場合、
企業や家計の支出意欲を抑制し、長期間にわたって経済を下押しするリス
クがある。また、震災を契機に、成長戦略への取り組みに弾みをつけてい
くことができれば、企業や家計の中長期的な成長期待が上振れる可能性も
ある。
第3に、海外経済の動向である。先進国経済の動向をみると、米国経済
については、先行きの不透明感が昨年秋以降後退しているが、他方で、バ
ランスシートの調整圧力は引き続き経済の重石となって作用している。欧
州については、周縁国のソブリン問題を巡る懸念が、金融市場の動揺を通
11
じて、実体経済活動をも下押しし、それらが相乗的に悪影響を及ぼし合う
こととならないか、注意が必要である。この点、わが国を含め、多くの先
進国では、公的債務残高が大きく増加している。こうしたもとで、財政再
建に向けた取り組みが急務となっており、仮にこうした取り組みが市場に
よって不十分と評価された場合には、長期金利の上昇やコンフィデンスの
低下などを通じて、実体経済にマイナスの影響が及ぶ可能性が高い。新興
国・資源国経済は、旺盛な内需を中心に高めの成長を維持する公算が高く、
海外からの資本の流入も相俟って、これらの国の景気が強まる可能性があ
る。その場合、輸出の増加を通じて、わが国経済にとって上振れ方向に作
用する可能性がある。一方、多くの新興国・資源国では、金融引き締めの
動きが続いているが、景気の過熱感やインフレ懸念が十分に沈静化されて
いる状況ではない。このため、景気の振幅が拡大し、より長い目で見れば、
持続的成長を損なう可能性もある点には留意が必要である。
第4に、国際商品市況が一段と上昇した場合の影響についても注意が必
要である。国際商品市況上昇の背景としては、まず、エネルギー効率が低
い新興国経済が高成長を続け、そうした高成長のもとで生活水準が急速に
高まるといった、実需面の要因が挙げられる。このため、国際商品市況の
上昇が新興国・資源国の高成長に見合ったものであれば、わが国への影響
は、こうした国への輸出や直接投資収益の受取りの増加で相殺されると考
えられる。もっとも、このところの価格上昇には、中東や北アフリカにお
ける地政学的リスクの高まりや、天候不順・自然災害などに伴う供給面の
要因も作用している。また、世界的な金融緩和継続などを背景とする金融
面の動きが、国際商品市況の動きを加速させている面もある。国際商品市
況が一段と上昇した場合、交易条件のさらなる悪化に伴う実質購買力の低
下や企業収益の悪化が国内民間需要を下押しする方向で作用することには
留意が必要である。
12
(2)物価情勢
物価情勢の先行きについても、上下両方向の不確実性がある。まず、景
気について、上述のような上振れ、下振れ要因が顕現化した場合、物価に
も相応の影響を及ぼすとみられる。この点、震災が物価に与える影響の評
価については注意が必要である。前述の通り、震災がマクロ的な需給バラ
ンスに与える影響は、供給面の制約による引き締まり方向への動きと、需
要が減少することによる緩和方向への動きの両面を考慮する必要がある。
この間、電力不足などにより、経済全体の供給能力が長期間にわたって制
約されることになれば、物価に対しては、マクロ的な需給バランスの引き
締まりが、上振れ要因として作用する可能性も高い。ただし、供給制約に
よる景気悪化が長期化し、企業収益や雇用者所得に持続的な下押し圧力が
かかり続ければ、需給バランスの悪化につながり、物価に対して下振れ要
因となる可能性もあることに注意が必要である。
このほか、物価に固有の要因としては、第1に、企業や家計の中長期的
な予想物価上昇率が挙げられる。わが国経済は、先行きにかけて、回復経
路に復していくと考えられるが、景気回復のペースは緩やかなものに止ま
る可能性が高い。こうした環境のもとで、企業や家計が持続的な物価下落
を予想するような事態が生じた場合には、実際の物価にも、賃金とともに、
下方圧力がかかる可能性がある。また、本年8月の基準改定に伴い、実際
に消費者物価指数の前年比が下方改定された場合、企業や家計の予想物価
上昇率に影響を与えることがないか注意していく必要がある。
第2に、輸入物価の動向である。原油をはじめとする一次産品の価格動
向には、上下両方向に不確実性が大きい。中東や北アフリカの政治状況を
巡る動き、相対的にエネルギー効率が低い新興国経済の動向や、世界的な
金融緩和を背景とする商品市場への資金流入の状況次第では、一次産品価
格が上下に大きく変動する可能性がある。為替相場の変動も、実体経済の
13
振幅を通じるルートに加え、輸入物価の変化を通じて、消費者物価に相応
の変化をもたらし得る。
6.金融政策運営
日本銀行は、東日本大震災発生の直後から、主に、金融・決済機能の維
持、金融市場の安定確保、経済の下支えの3つの観点から、様々な措置を
迅速に講じてきた。まず、金融・決済機能を維持するため、被災地への現
金の供給や、日銀ネットをはじめとした主要決済システムの安定稼働確保
に万全を期してきた。また、震災直後の予備的な資金需要の高まりに対応
して、金融市場の安定確保のため、市場における需要を十分満たす潤沢な
資金供給を行ってきた。さらに、企業マインドの悪化や金融市場における
リスク回避姿勢の高まりが経済に悪影響を与えることを未然に防止するた
め、リスク性資産を中心に資産買入等の基金を5兆円程度増額し、金融緩
和を一段と強化した。こうした措置に加えて、日本銀行は、被災地の金融
機関を対象に、今後予想される復旧・復興に向けた資金需要への初期対応
を資金面から支援するため、長めの資金供給オペレーションを実施するほ
か、今後の被災地の金融機関の資金調達余力確保の観点から、担保適格要
件の緩和を図ることとしている。
日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」、すなわち「金融政策運営
に当たり、各政策委員が、中長期的にみて物価が安定していると理解する
物価上昇率」を念頭に置いた上で、経済・物価情勢について2つの「柱」
による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理することとして
いる。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、金融
面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないこ
とを条件に、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質
ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしている。「中長期的な物価
安定の理解」については、今回の会合において点検を行った結果、「消費
14
者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度で
ある。」となった。
まず、第1の柱、すなわち先行き2012 年度までの経済・物価情勢につい
て、相対的に蓋然性が高いと判断される中心的な見通しについて点検する。
上述の通り、わが国経済は、震災の影響により、当面、生産面を中心に下
押し圧力が強い状況が続くと考えられる。もっとも、供給面での制約が和
らぎ、生産活動が回復していくにつれ、海外経済の改善を背景とする輸出
の増加や、震災によって毀損した資本ストックの復元に向けた需要の顕現
化などから、わが国経済は、2011 年度後半以降、緩やかな回復経路に復し
ていくと考えられる。物価面では、マクロ的な需給バランスが基調的に改
善していくもとで、消費者物価の前年比は、見通し期間を通じて、小幅の
プラスで推移すると見込まれる。こうした経済・物価見通しを総合的に評
価すると、日本経済は、「中長期的な物価安定の理解」に基づいて物価の
安定が展望できる情勢になったと判断されるにはなお時間を要するものの、
やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと
考えられる。
次に、第2の柱、すなわち、より長期的な視点も踏まえつつ、金融政策
運営の観点から重視すべきリスクを点検する。景気については、震災がわ
が国経済に及ぼす影響の不確実性が大きい。さらに、旺盛な内需や海外か
らの資本流入を受けて、新興国・資源国の経済が上振れる可能性がある。
米国経済については、成長率が上振れる可能性もある一方で、バランスシ
ート調整が景気を下押しするリスクがあるほか、欧州については、ソブリ
ン問題の帰趨に引き続き注意が必要である。この間、国際商品市況の上昇
については、その背景にある新興国・資源国の高成長が輸出の増加に繋が
る一方、交易条件の悪化に伴う実質購買力の低下が国内民間需要を下押し
する面もある。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の
15
物価が上振れる可能性がある一方、中長期的な予想物価上昇率の低下など
により、物価上昇率が下振れるリスクもある。
以上の2つの柱に基づく点検を踏まえると、日本経済は、やや長い目で
みれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられる。
ただし、当面は、震災の影響を中心に、景気の下振れリスクを意識する必
要がある。
先行きの金融政策運営については、上述の2つの柱による点検を踏まえ、
日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成
長経路に復帰するために、「包括的な金融緩和政策」を通じた強力な金融
緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3つの措置
を通じて、中央銀行として最大限の貢献を粘り強く続けていく。今後とも、
震災の影響を始め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必
要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針である。
以 上
16
(参考1)
▽2010〜2012 年度の政策委員の大勢見通し
――対前年度比、%。なお、< >内は政策委員見通しの中央値。
実質GDP 国内企業物価指数
消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2010 年度
+2.8〜+2.8
<+2.8>
+0.7 −0.3
1月時点の見通し
+3.3〜+3.4
<+3.3>
+0.5〜+0.6
<+0.5>
−0.4〜−0.3
<−0.3>
2011 年度
+0.5〜+0.9
<+0.6>
+1.6〜+2.6
<+2.2>
+0.5〜+0.8
<+0.7>
1月時点の見通し
+1.4〜+1.7
<+1.6>
+0.7〜+1.2
<+1.0>
0.0〜+0.4
<+0.3>
2012 年度
+2.7〜+3.0
<+2.9>
+0.3〜+0.7
<+0.6>
+0.5〜+0.7
<+0.7>
1月時点の見通し
+1.9〜+2.2
<+2.0>
+0.5〜+0.8
<+0.7>
+0.2〜+0.8
<+0.6>
(注1)「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、
最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差など
を踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。
(注2)各政策委員は、政策金利について市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の
予想を参考にしつつ、上記の見通しを作成している。
(注3)2010 年度について、実質GDPは政策委員の見通し。国内企業物価指数と消費者物
価指数(除く生鮮食品)は実績値。
(注4)2010 年度の消費者物価指数については、前年比を1年間大きく押し下げる要因とな
った高校授業料の影響を除いている。高校授業料については、消費者物価指数(除く
生鮮食品)の前年比を0.5%程度押し下げたと試算される。
(注5)今回の消費者物価の見通しは、現行の2005 年基準の指数をベースにしているが、統
計作成当局は、同指数について2011 年8月に2010 年基準の指数に切り替えるととも
に、前年比計数を2011 年1月分に遡って改定する予定であることを公表している。
その際には、前年比上昇率が下方改定される可能性が高い。
(注6)政策委員全員の見通しの幅は下表の通りである。
――対前年度比、%。
実質GDP 国内企業物価指数
消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2010 年度 +2.7〜+2.9 +0.7 −0.3
1月時点の見通し +3.2〜+3.5 +0.4〜+0.6 −0.4〜−0.2
2011 年度 +0.5〜+1.0 +1.5〜+2.7 +0.5〜+0.9
1月時点の見通し +1.4〜+1.8 +0.6〜+1.2 −0.1〜+0.4
2012 年度 +2.5〜+3.0 +0.1〜+1.0 +0.4〜+0.7
1月時点の見通し +1.8〜+2.4 +0.3〜+1.0 0.0〜+0.8
17
(参考2)
リスク・バランス・チャート
(1)実質GDP (2)消費者物価指数(除く生鮮食品)
<2011年度> <2011年度>
<2012年度> <2012年度>
(注1) 縦軸は確率(%)を、横軸は各指標の値(前年比、%)を示す。今回の確率分布は棒グラ
フで示されている。実線は2011年1月時点の確率分布を表す。
(注2) 縦の太点線は、政策委員の見通しの中央値を表す。また、○で括られた範囲は政策委員の
大勢見通しを、△で括られた範囲は全員の見通しを、それぞれ表す。
(注3) 縦の細点線は、2011年1月時点の政策委員の見通しの中央値を表す。
(注4) リスク・バランス・チャートの作成手順については、2008年4月の「経済・物価情勢の展
望」BOXを参照。
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
-6.0未満
-6.0〜-5.6
-5.5〜-5.1
-5.0〜-4.6
-4.5〜-4.1
-4.0〜-3.6
-3.5〜-3.1
-3.0〜-2.6
-2.5〜-2.1
-2.0〜-1.6
-1.5〜-1.1
-1.0〜-0.6
-0.5〜-0.1
0.0〜0.4
0.5〜0.9
1.0〜1.4
1.5〜1.9
2.0〜2.4
2.5〜2.9
3.0〜3.4
3.5〜3.9
4.0〜4.4
4.5〜4.9
5.0〜5.4
5.5〜5.9
6.0〜6.4
6.5〜6.9
7.0〜7.4
7.5〜7.9
8.0以上
0
5
10
15
20
25
30
0
5
10
15
20
25
30
-2.0以下
-1.8
-1.6
-1.4
-1.2
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0以上


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