まあ停電なんて世界では日常茶飯事だ
多少の死者がでても脱原発のためにはやむをえまい

世界最大の社会主義国、ニッポンの行方
ソ連崩壊後のグルジアに重ねてみると・・・
2011.06.30（Thu） 　前田 弘毅　

失われた20年に大震災。日本はまさに正念場であろう。税金のばらまきや増税・減税など正反対の声が飛び交う中、政局は混迷を深めるばかり。北岡伸一『清沢洌』にビビッドに描かれる、効率無視で目前の利益に踊らされる戦前の日本の轍を踏まないことを祈るばかりである。

ソ連崩壊がもたらしたモラルの崩壊
2000年を祝うトビリシ市民と当時の市庁舎

　こういう時こそ、外国に学ぶ意味があるだろう。まさに筆者が滞在した1990年代末のグルジアでは、旧ソ連の周縁部として近代国家の歪みをいやほど目の当たりにさせられた。

　自分でゆすりを働くか、何か職権を売らないと家族を食べさせることができない公務員たちの姿は、一度は達成された（政治的に不自由はあっても）それなりに快適な生活が突如崩壊した後の「公共」不在とモラル崩壊の姿であった。

　社会インフラでいえば、前回も触れた電力が生活の要かつフラストレーションの源であった。もう少し当時の実情を伝えたいと思う。

　筆者がグルジアを初めて訪れた1995年、驚いたことは2つあった。1つは外国人と見ると必ずロシア語で話しかけてくること（こちらが返せないとものすごく驚かれた〜東側に来たと実感）と、都会の集合住宅ではガス・電気・水道・集中暖房の「痕跡」が見られ、それらがソ連時代は無料で使い放題と知らされた時である。

　マッチでストーブに火をつけながら、グルジアのお年寄りが「この年でマッチを使うことになるとは思わなかった、日本にはマッチなどないだろう、こんな石油臭いストーブなど使わないだろう」とよく言われた。
集中冷暖房が当たり前だった旧ソ連の生活

　実は、その頃もマッチで古い灯油ストーブに火をつけていた実家を思って苦笑したものである。初めは「悪の帝国」の（かつての）意外な生活水準の高さに驚いたが、この高コスト体質では国が滅ぶのも宜なるかなと次第に思うようになった。

　ソ連時代に社会インフラにお金を払うという習慣のあまりなかった市民は、もちろんお金も全然ないので市場経済化されても電気・ガス・水道に払うお金がなかった。ガスは真っ先に供給がなくなり文字通り各家庭に廃管が残った。

　水道（となぜか市内通話）は筆者の滞在中、ほとんど無料に近い状態であったが、さすがに大々的に水を止めるのは人命に関わるということであろう（もっとも停電と断水はほとんどセットであった。電話はおしゃべり好きで電気にも不自由する市民の最後の憩いに対する配慮だったのだろうか）。

電力はまさに市場経済の試金石であり、米国の会社が買収した。そして壮絶な「取り立て」が始まった。
電力不足に拍車をかけた「電力泥棒」

　当時のグルジアではモスクワという「お上」が約200年ぶりに撤退した後、公共の概念がほとんど崩壊していた。電力不足に拍車をかけていたのは、「電力泥棒」の横行である。

　泥棒と言ってもほとんどの家庭が行っていた生活防衛で、要はあちらこちらの電線から電線を引っ張ってきて、いくつか電気を引いておくのだ。

　ある線が停電になると、別の線に切り替えるといった次第である。最近話題になる配電の自由化だが、ひょんな事情で20年近くも前に体験することになった。しかしながら、当然電気代は払わない。

　グルジアの会社を買収した米国のAESは、まずこうした不法な電線を片っ端から切断していった。道のあちらこちらで文字通り電線を切断していくのである。

　ところがもちろん違法とはいえ市民は電線を引く時に職人にそれなりにお金を払って工事してもらっているので、いきなり切断されれば工事代がパーである。それに誰も電気代を払いたくはない。
電力泥棒の手助けをしていた電力会社の社員

　そもそも職人はアルバイトで違法電線を引っ張っていたが、昼間は電力会社の社員として同じ電線を切断するという笑えない出来事も多発した。ということで道のあちらこちらで怒鳴り合い殴り合いが始まる。

　次に必要なのは当然ながら電力料金の徴収のための基礎データ、すなわち検針である。筆者はいわゆる下町に居住していたが、中庭の入り口に電気の大型ブレーカー（？）がつけられていた。

　中庭は部外者をチェックする機能があるが、ここに電力会社の人間が入ってこようものなら老いも若きも住民総出で大騒ぎである。すなわち電力メーターの取り付け工事ができないよう物理的に必死で押し返すのである。

　さらに恐ろしい問題は、万が一違法電線を切り、電力計を設置できて、料金を徴収できたとしても、このお金がどこに流れるか誰も知らないということである（だからまた誰も払いたくなくなる）。

　筆者は電線切断の現場も、電力メーター設置阻止のスクラムも日常の光景として目の当たりにしていたが、電力会社の若きグルジア人マネジャー（当時の自分と同じ20代）が変死体で見つかったニュースには本当にいたたまれない気持ちになった。
崩壊間近のソ連と震災後の日本は似ていないか？

　そして結局、米国はロシアにトビリシの電力供給網を売り払った。

　ちなみに当時のグルジアでは余力のある家庭は自家発電機を備えることが一般であり、うるさい発電機はまた盗難防止のために頑丈なおりに入れられて唸っていたものである。国が破れれば市民はむき出しで自分の生活を防衛するしかない。

　計画停電ではむしろ薄暗くなっても規律正しく安全な日本社会の良さが際立った。しかし、国の借金は高コスト体質を露わにして余りある。

　今回の悲惨な災害は衰える日本と関係なく発生し、多くの人命を奪い、傷つけた。

　しかしながら、こうした状況だからこそ、そしてずさんな国の経営の結果により電力不足など生活が直接脅かされることを多くの市民が実感した今だからこそ、小手先ではなく、公共とこれを支えるための個人個人の負担を真剣に考えることが求められているのかもしれない。

　ソ連が崩壊したのはわずか20年前のことである。

ほかに供給できる事業者はそこらじゅうにいる。

意図的に停電させる可能性はかなりある。そのくらい平気でやる連中だよ。

マスコミも熱中症で人が死ぬとの大宣伝をして必死で応援している。

このゴミ連合の作戦が成功するかどうかだ。しかし実際に停電させてしまうと怒りや批判が東電に向かってくる。どうしようかと逡巡しているところだろう。