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「マズローの法則」が逆転した
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投稿者 sci 日時 2011 年 7 月 03 日 21:30:23: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://president.jp.reuters.com/article/2011/06/28/51AB29D2-9BDE-11E0-AFF3-94BF3E99CD51.php
「マズローの法則」が逆転した
特別連載『スペンド・シフト 希望をもたらす消費』【第1回】
PRESIDENT BOOKS

今我々の社会を覆っているこの問題がかなり解決されたとして、再び消費者はマズローのピラミッドを登り始めるのだろうか。

電通ヤング&ルビカム クリエイションフォース・シニアディレクター 戸川正憲
 

私が勤務する電通ヤング&ルビカムの米国親会社、ヤング&ルビカムで長年チーフ・インサイト・オフィサーを勤め、現在は同じグループのブランド・アセット・コンサルティング社社長であるジョン・ガーズマが2010年に著したSpend Shiftの邦訳がプレジデント社より『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』としてこの7月に出版されることになった。

この原書の副題にHow the post-crisis values revolution is changing the way we buy, sell, and live(危機後の価値革命によって、私たちの購買習慣、販売習慣、生活習慣はどのようにかわったのか?)とあるように、リーマンショックを発端に、アメリカ中を襲った経済・金融危機を経て、消費者の価値観や行動がどのように変わったかを、デトロイトからダラス、タンパ、ボストン、ニューヨークなど全米で行ったフィールドワークと、ヤング&ルビカム社が1993年以降世界中で行ってきたブランドと消費者価値観の調査、Brand Asset Valuator (BAV)のデータを重ね合わせてまとめたものである。

この世界的危機によって日本でも株価が暴落したり、非正規雇用者のカットや派遣切りなどに見られる大幅な人件費圧縮が行われたり、さらにそれによる個人消費の落ち込みなど多大な影響があったことは間違いない。しかし、ローンが払えずに多くの人が家を失ったり老後の資金が消えてしまったりという深刻な事態が進展したアメリカの現状にはいくばくかの距離感のあったことも否めない。

日本でも不景気感はそこかしこに漂い、「格差社会」といったこの国の課題が浮き彫りになった契機とはなったが、「クライシス」という言葉が持つ迫り来るような響きにその時はそれほど共鳴しなかった、というのが正直な実感であった。しかし、そんな輪郭がぼけたような感覚も「あの日」までであった。

3月11日のクライシスを経て

テレビで繰り返される津波の映像、日増しに増加し全貌すらつかめない被害の現状、そして今なお続く原発への不安。全ての日常が3月11日以降一変してしまった。その中でこの本を読み返すと、変わってしまった日常と同様、この本が発するメッセージの受け止め方も最初に一読した時とは随分変わった。

この本の第1章はデトロイトについて描いている。もともと長期的な低落に苦しんでいたこの自動車の街を金融不況は容赦なく直撃し、多くの人が職を失い、廃墟のようなビルが増え、治安も悪化し……というまさに「斜陽のアメリカ」の象徴のような姿となった。そういったいわゆるお約束の画を海外のテレビクルーが撮って帰ろうとしているところから、この章ははじまる。

しかし、この第1章の原書でのタイトルは「The New American Frontier=アメリカの新たなるフロンティア」である。著者のガーズマ達は、この惨憺たる街にあえて移住し倉庫街でこじんまりしたカフェを開いたフランス系シェフの話しを紹介している。シカゴや海岸沿いの大都市より生活コストが安いことに目を付けただけでなく、彼らはいかに地域に根付けるかということを考えこの地を選んだのである。彼らは、「地元で稼いだお金を地元で使い、皆で再生の日を見たいと」願っている。グローバリゼーションではなく、いかに「地元民に奉仕するビジネスを創造して近隣に賑わいを取り戻したい」と願っている人々なのである。そういった彼らに元々地元でレストランを開いていた人達も、協力を惜しまなかった。唯一競合しそうなクレープ屋はむしろレシピの見直しまで手伝ってくれたのである。

カフェの店主の「ここでは希望の光が渇望されている。だからみんな互いの成功を望んでいる」という、このセリフには、まさに古き良きアメリカの互助精神すら見ることができる。この章はそういった人々の姿であふれている。「デトロイトでは(自動車会社、州政府、労働組合など)大がかりな仕組みはうまく機能しなくなりました……」「しかし発想を転換して物事を構想しなおす機会があるのだから」「デトロイトはこれまでと違った理由で偉大な都市になれる」と信じている人の姿である。彼らは、デトロイトが一大産業都市として栄光を取り戻すなどとは思っていないのだが、着想をイノベーションへと昇華させる実り多い土地、温もり、思いやり、つながりに支えられたコミュニティになれると信じている、とガーズマは語っている。そして、この街にはすでに、再生のために走り出した人々が溢れているのである。とこの章を結んでいる。

どうだろう。経済危機と自然災害による危機という大きな違いこそあれ、再生に踏み出すには、何より「フロンティア」に立つ一人一人の気迫がいかに大切か、そしてそれをお互いに支えあうコミュニティの存在が何よりも重要であることが、この本からは伝わってきた。これこそが、「あの日」以降に読んでみて、胸に迫ってきたものである。

マズローの法則がひっくり返った

ガーズマはかつてADWEEK誌で、“Maslow Upended”という短い記事を書いたことがある (2009年4月7日)。1980年代の景気拡大期を経験したアメリカ人にとって消費に身をやつし、富を築くことが、まさにマズローの欲求階層のピラミッドを登るがごとく「帰属意識」や「地位」、そして「自己実現」というより高度な欲求(あるいは野心)を追い求めることと重なりあっていたであろうことは想像に難くない。

しかし、不動産価値が暴落し、年金が消え、毎月65万人(記事執筆段階)が失業するという事態になり、食べ物や衣服といった「安全欲求」すら満たされることが自明ではなくなったのである。マズローの階層を何段階か突き落とされる経験をすることで、アメリカ人にとって、マズローの階層でも下位にある「安全」がむしろ共同で分かつべき「今」の欲求の対象となったとガーズマは述べている。そして今の日本では、この「安全欲求」は恐らく戦後で最大の値を示しているのである。

マーケティングに携わるものは、多かれ少なかれマズローを消費者理解の拠りどころとしていることが多い。往々にしてそれはマーケターの経験則もしくは希望的観測によるものであるが、肉体的欲求より精神的欲求、均質より多様の方が「上位」として位置づけられ、「過去」より「現在」、「現在」よりは「未来」の消費者の方が優れていると考えてしまうことの方が多い。

こういった消費者に対するいわば「進歩主義的理解」についての批判は今に始まったことではない(松井剛「消費社会の進歩主義的理解の再検討」一橋ビジネスレビュー2000)。しかし、つい実務上都合が良いという理由で、この左から右(あるいは下から上)というチャートを描いてしまうのである。

それでは幸いにして、今我々の社会を覆っているこの問題がかなり解決されたとして、再び消費者はマズローのピラミッドを登り始めるのだろうか。

ガーズマは前述の記事の最後で、それを「ブランド」が担うべき役割の一つに挙げている。「今日のブランドの役割は、人々が憧れるようなファンタジーの世界を作り上げることではない。人々が再び一歩ずつさらにゆっくりとマズローの階段を上るための自信を与えるのか、あるいはここにとどまりながらも、爽快なほどにリアルであるこの世界を楽しむことを勧めることかである。」と述べ、一方的な答えは出していない。

震災直後に若いプランナーが、「消費者インサイト(消費者の行動を動機付け、ブランドの選択・非選択の理由となる価値観・真理)のパート、全部書き直さなきゃ……」と呟いていたのをとても鮮明に覚えている。彼女がどう書き直したか見ていないのだが、消費者に向き合いながら自分自身にも向き合わねばならない日々が当分続きそうだ。

まだまだクライシスは過ぎ去ってくれそうにないが、この連載では、先述したBAVのデータを使って少し過去にも遡り、あるいは海外の消費者と比較したりすることで、日本の消費者の変相について考え、あわせてブランドが果たす役割についても考えてみたい。

※BAVについて:BAVは、ヤング・アンド・ルビカム独自の世界最大規模のブランド診断のデータベース。1993年より、世界51カ国、合計71万人の消費者(18〜69歳の男女)を対象にしたグローバルな調査をもとに、44,000以上のブランドを評価・測定できる。ブランド診断を国別にできることと、カテゴリーにとらわれず相対的なブランドパワーを測定できることも、大きな特徴である。ブランドの現在のポジション、および強みと弱みを明らかにし、ブランドの育成、強化に関する新しい視点、具体的な解決策をプランニングするための方向性に示唆を与えてくれる。ブランド診断と平行して消費者価値観調査(4Cs)も行われている。

>>特別連載『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』の目次はこちらから

『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』(プレジデント社)
フィリップ・コトラー=序文 ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ=著 有賀裕子=訳
「何を持つか」より「どう生きるか」――買う力は、変える力である。危機を乗り越えて覚醒した消費者は、絆、信頼、未来のためにお金を使っている。

>>『スペンド・シフト〜希望をもたらす消費』の詳細はこちらから

※この書籍は7月21日発売です

【書籍目次】
 フィリップ・コトラーによる序文
 序 章 「より多く」から「よりよく」へ ミズーリ州 カンザスシティ
 第1章 「どん底」というフロンティア ミシガン州 デトロイト
 第2章 「モノを集める」から「知識を集める」へ テキサス州 ダラス
 第3章  支出を伴わないステータス・シンボル マサチューセッツ州 ボストン
 第4章 ソーシャルメディアという「方法」 フロリダ州 タンパ
 第5章 「町内会的」資本主義 ニューヨーク州 ブルックリン
 第6章  失われた信頼を取り戻す ネバダ州 ラスベガス
 第7章 「顔の見える企業」だけが信頼される ミシガン州 ディアボーン
 第8章  生活を豊かにするイノベーション カリフォルニア州 サンフランシスコ
 終 章  危機を乗り越えて生まれ変わる カリフォルニア州 ロサンゼルス  

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コメント
 
01. 2011年7月04日 05:53:27: wGaSu5Yb0U
アメリカにはフロンティアスピリットが健在なのか、それは救いだね。
それに引き換え日本では・・・

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