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「1円の円高」で上場企業の利益はどれほど吹き飛ぶか 為替レート感応度分析に見る 「メディアの惰性」と「危機感なき円高問題
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/715.html
投稿者 sci 日時 2011 年 8 月 12 日 10:44:36: 6WQSToHgoAVCQ
 

ドル建ての営業利益で見れば、トヨタですら利益への影響はかなり小さくなっているが
操業度まで考えた戦略利益で見ると日本の震災・電力不足&高騰で、リスク分散していても輸出系企業にとっては円高はまだまだ痛い

つまり今回の株価下落は、単純な円高による為替効果というよりも、世界的な景気後退が主因だから、売上減少と操業度の低下が大きく効いていると見るのが正しく

円高・重税・貿易障壁・雇用規制・CO2規制・電力不足・放射能に加えて海外移転のメリットはまだ大きいということか

http://diamond.jp/articles/-/13556
 前回コラムでは「円高の恐怖」を扱った。この2週間で政府・日銀が為替市場に介入し、米国債の格付け引き下げ問題も加わって、いまや「円高の泥沼化」である。そこで今回は、メディアなどで頻出する「為替レート感応度分析」というものを紹介しよう。輸出型企業であれば「1円の円高」によって「どれくらいの利益が吹き飛ぶか」という物騒な話である。

「当社の取引先は国内ばかりだから、円高など関係ない」というのは大間違い。取引先のさらにその先をたどっていけば販路は海外へと通じ、円高のシワ寄せは巡りめぐって国内の中小零細企業に襲いかかる。それが貿易立国を標榜するニッポンの産業構造である。

 為替レートといえば2010年10月に国会で、為替デリバティブを利用した中小企業の窮状が取り上げられた。11年3月に金融庁から「中小企業向け為替デリバティブ取引状況に関する調査の結果について」が公表されたが、その後のフォローを聞かない。東日本大震災で、ドサクサのウヤムヤになっているようだ。

 企業が円高対策を何ら講じることなく、円高コストを甘んじて受けているケースは想定しにくい。銀行がその間隙を、為替デリバティブで突いたようなものだ。

 生産現場が「銭」単位でコストダウンに取り組んでいるというのに、為替レートが「1円」異なるだけで数千万円の利益が吹き飛ぶ。為替デリバティブに手を出した中小企業にとって、「それは自己責任だ」といわれても、恨み骨髄に入る思いだろう。
為替変動の影響は本当に約3000億円!?
トヨタの営業利益増減分析に首を傾げる

 それに懲りて現在では、「ヘッジ取引」というものが多くの企業で採用されている──はずなのだが、トヨタ自動車の決算短信を見ていたとき、「ん〜、そうなのか?」と首を傾げる事項があった。次の〔図表 1〕は、その一部抜粋である。「為替変動の影響」と「原価改善の努力」以外の項目を、筆者のほうで「営業努力その他」にまとめている。

 企業会計基準適用指針19号『金融商品の時価等の開示に関する適用指針』3項(3)では、金利や為替などの「変動に対する金融資産及び金融負債の感応度が重要な企業」は、財務諸表への注記が求められている。今後、〔図表 1〕のような注記を行なう企業が増えていくことだろう。

 ところで、〔図表 1〕に示した両期の連結損益計算書のほうには「為替差益」683億円と143億円もそれぞれ計上されていた。これらと相殺しても〔図表 1〕で黄色に染めた「為替変動の影響」は、焼け石に水だ。それほどの大きさである。

 読者は、〔図表 1〕に計上されている「為替変動の影響」を見て、どのような印象を持たれるだろうか。「さすが、ニッポンを代表するトヨタだけあって、桁違いだ」と感心するのだろうか。

 筆者の印象は「トヨタは、これだけ巨額の為替変動を放置するほど無能な企業なのか」である。というよりも、トヨタの「為替変動の影響」が、こんなに巨額であるはずがない、というのが筆者の見解なのである。

 そこで今回は、上場企業やメディアなどが利用する「為替レート感応度分析」の真偽を確かめてみよう。

次のページ>> 自動車業界3社と電機業界8社の為替変動に対する「営業利益」の増減額

 トヨタの「為替変動の影響」を、筆者自製のソフト『原価計算工房ver.6』を使って独自に解析した結果を〔図表 2〕に示す。なお、最初に掲げる〔図表 2〕は、「1円の円高あたりの〜」ではなく、「総額」である点に注意して欲しい。

 11年3月期よりも、10年3月期のほうが、円高の影響が強かった、という点では、〔図表 1〕と〔図表 2〕の「方向性」は一致している。しかし、〔図表 1〕にある▲3000億円前後という金額と、〔図表 2〕にある▲150億円前後という金額には、かなりの開きがある。

 トヨタは内部資料を用いて〔図表 1〕を緻密に計算しているのだろう。筆者のほうはユーロを考慮せず、売上高もコストもドル建てで計算している。計算の条件として輸出比率(国内生産→輸出)と海外比率(海外生産→子会社配当)の違いも考慮すべきなのだろう。〔図表 2〕はそうした事情も捨象して算出している。

〔図表 2〕は、大雑把な条件の下で行なった解析結果だ。それにしても〔図表 1〕との差は大きい。
自動車業界3社と電機業界8社の
為替変動に対する「営業利益」の増減額

『原価計算工房ver.6』で計算違いでも犯しているのだろうか、と心配になった。そこで次の〔図表 3〕で、自動車業界3社と電機業界8社について「対ドル相場と営業利益の増減額」を調べてみた。以下、証券コード順で略称を使用している。この〔図表 3〕も「1円の円高あたりの〜」ではない点に注意して欲しい。

〔図表 3〕は、対ドル円相場が「営業利益」に対してどれだけの影響を与えたかを時系列で展開していったものだ。その計算構造は筆者オリジナルのものなので「タカダ式感応度分析」としている。オリジナルであっても、1社(トヨタ)を除いて各社とも「束」になって整然と推移しており、以下で示す図表を含めて、無茶な計算構造を採用していないことを一目で理解していただきたい。

 筆者の場合、こうした分析方法を展開するにあたって、学術研究機関などからの援助は一切得ていない。筆者一人で、米マイクロソフト社製「SQL Server」を駆使して『原価計算工房ver.6』を組み立て、各種の解析結果をこのコラムで紹介している。〔図表 3〕は、徒党を組んでも「為替レート感応度分析」の取っ掛かりさえつかめない人々への、筆者からの「残暑見舞い」である。

 その〔図表 3〕で下方を唯一漂っているのは、トヨタである。08/12(08年12月期)には▲5000億円を下回っており、08年9月に起きたリーマン-ショックの影響をもろに受けた形となっている。

 ところが、である。

 2010年以降、トヨタも他社と同じ「束」にまで上昇しているのが確認できる。なお、〔図表 2〕の10年3月期と11年3月期は、〔図表 3〕の10/3と11/3に対応している。〔図表 2〕で示した筆者の解析結果(タカダ式感応度分析)のほうが、どうやら正しいような気がしてならない。

次のページ>> トヨタ「1円の円高で▲300億円」は本当か

 トヨタが公表している〔図表 1〕のデータはむしろ、リーマン-ショックのときに受けた▲5000億円を、いまだにトラウマとして引きずっているのではないか。トヨタが「惰性の情報開 示」を続けているとまではいわない。少なくとも〔図表 1〕の「為替変動の影響」は卑下しすぎであろう、とするのが筆者の推論である。
 そうなると、〔図表 1〕の「原価改善の努力」や「営業努力その他」のほうはどうなるか。あちらを立てれば、こちらが立たず、となるのが情報開示の難しいところだ。
トヨタ「1円の円高で▲300億円」は本当か「1円の円高」の営業利益に対する影響
 次の〔図表 4〕は、ドルに対して「1円の円高」が、営業利益に対してどれだけの感応度を示すかをグラフ化したものである。〔図表 3〕の「総額」とは異なり、〔図表 4〕は「1円の円高あたりの金額」なので、縦軸の金額は「為替感応度」を表わす。

〔図表 4〕からも、いくつかの特徴を指摘できる。1つめは、やはりトヨタだけが、かなり下方を彷徨(さまよ)っていたことだ。09/3(09年3月期)では、1円の円高に対して「▲300億円超の営業減益」となっている。
 2つめは、2010年以降、トヨタは他社と同水準にまで上昇していることだ。ところが、マスメディアなどでは、2年経った現在(11年7月)で も、「トヨタは1円の円高で、▲300億円の営業減益になる」という記事を配信している。1年前(10年8月)も同じ「▲300億円」としている記事が あったことを、筆者のほうで確認している。最近では「▲340億円説」や「▲350億円説」まで出回っている。
 確かに〔図表 4〕を見ると、2年前は「▲300億円超」であったから、上記の記事は誤謬にあたらない。しかし、1年前も現在も「3年連続して」同じ金額を用いるのは、 「情報の惰性」もいいところ。古来「三日会わざれば刮目して見よ」という。トヨタを侮るにも程があるというものだ。
 ブログやツイッターでも「トヨタは1円の円高で▲300億円の営業減益だって!」という内容が語り継がれている。昨今の円高問題は、円高という事実だけでなく、惰性に流れて現状分析をきちんと行なわない人々の「危機管理能力のなさ」にもあるような気がしてならない。
 なお、減益の金額頭部に▲印を付すのは、会計ルールとしては反則なのだが、表現を強調するために用いている。正しい表記方法については拙著『会計&ファイナンスのための数学入門』18ページ〔図表1-2〕を参照していただきたい。
 先日、NHK『クローズアップ現代/数学ブームの謎』の番組冒頭で、この『会計&ファイナンスのための数学入門』が登場したのには驚いた。2年前(09年7月)に出版したものなので、昨今の数学ブームに便乗しているという意識はない。
次のページ>>円高が株価を下げる時代は終わった!?
円高が株価を下げる時代は終わった!?海外への設備移転 → 国内の産業空洞化の流れ
〔図表 4〕に関する3つめの特徴として、08/3(08年3月期)から09/9(09年9月期)あたりまで、下から順にトヨタ → ホンダ → ニッサンと、自動車業界3社が連なっている点を指摘できる。電機業界に比べて自動車業界は、部品メーカーから完成品メーカーまで、国内でがっちりとしたピ ラミッド構造を形成しているため、「円高に対する耐性(円高耐性)」が相対的に弱いことを表わしているようだ。
 4つめとして2009年の半ばまで、自動車業界3社・電機業界8社ともに、円高は営業利益に対してマイナス要因に作用していた点を指摘できる。
 ところが、2009年後半あたりから、ほぼ全社が原点Oの横軸を上回るように推移している。東日本大震災によって11/3(11年3月期)は再び「おじぎ」をしてしまったが、円高はむしろ利益をもたらす方向へ転じているといえるだろう。
 5つめとして、マスメディアなどはときどき、ソニーや東芝を「為替レートの影響を受けない企業だ」と賞賛する。そんなことはない。〔図表 4〕を見れば明らかなように、他社も「束」になって相応の努力をしている。メディアに、分析能力がないだけの話だろう。
 いや、先ほどのトヨタの「▲300億円問題」も含め、上場企業やメディアなどが利用する「為替レート感応度分析」の計算構造と、筆者の「タカダ式感応度分析」の計算構造が異なっている可能性もある。それならば、こうした「見解の相違」も仕方がないといえる。
 されど、筆者は今後もオリジナルの「タカダ式感応度分析」で、各社の「為替レート感応度」を紹介する予定でいる。なにより「一騎当千」が好きな性分であり、先日“フェイスブックFacebook”に登録したのはいいが使い勝手がわからず放置するほどの、いい加減な性分でもある。
 6つめとして、2010年以降、11社がダンゴ状態になっているのは、各社がヘッジ会計に真剣に取り組むようになったのが原因か。それとも、政 府・日銀や行政の無策に嫌気して、企業は2009年の後半から「海外への設備移転 → 国内の産業空洞化」を進めている、と読むべきなのだろうか。
 いままで、円高は輸出関連企業の株価を下げる、といわれてきた。そういう時代は終わりを迎えたようだ。
「戦略利益」ベースの分析で分かった円高に苦しむ“企業の実像”
 以上の解釈は、現行の制度会計(財務会計)に基づいて作成された財務諸表(営業利益)を用いたものだ。ところが、「企業の実像」に迫っている気が しない。〔図表 4〕では2009年後半あたりから、円高が各社に利益をもたらす方向へと転じているが、これがどうにも納得できないのだ。
 そこで〔図表 4〕に「ひねり」を加えてみよう。すると、異なる実像が浮かび上がった。それが次の〔図表 5〕だ。

〔図表 5〕は、戦略利益ベースでの「タカダ式感応度分析」である。これを見ると、前回コラムに続き、「トヨタ一人負けの構図」が浮かび上がる。
次のページ>>トヨタでもCVP分析(損益分岐点分析)は崩壊する
 また、1円の円高に対して、トヨタ以外の10社も凪(なぎ)のような推移を示しており、一見したところ積極的な経営戦略を模索していないかに見え る。ところがこれが曲者で、深く静かに、されど各社ともしっかりとした事業転換を行なっていることを、いずれ別の機会で紹介できるだろう。
〔図表 3〕や〔図表 4〕では、2010年になって原点Oの横軸を上回る企業が多かったが、〔図表 5〕ではパナソニックのみ。これは四半期データを利用した誤差の範囲内といえるだろう。少なくともこの3年間、円高は、すべての企業を苦しめてきたことが 〔図表 5〕から推測できる。これが「実像」だろう。
トヨタでもCVP分析(損益分岐点分析)は崩壊する
〔図表 5〕で利用している「戦略利益」は、拙著『実践会計講座/原価計算』345ページ〔式13-21〕で紹介しているように、筆者オリジナルの経営指標だ。次の式で表わされる。

〔図表 6〕の特徴は、右辺第2項の「基準固定費」と、第3項の「実際操業度率」にある。どちらも筆者オリジナルの分析道具であるSCP分析(Sale-Cost-Profit:タカダ式操業度分析)に基づいて算出する。詳細な計算手続は、拙著『実践会計講座/戦略ファイナンス』や『会計&ファイナンスのための数学入門』を参照していただきたい。
 まず、トヨタの「基準固定費」の推移を〔図表 7〕に示そう。

〔図表 7〕で描かれている黒色の「CVP年間固定費」は、管理会計や経営分析の世界で絶対的通説として君臨するCVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)に基 づいて計算している。▲2兆円に転落したり+10兆円にまで急上昇したりで、分析道具として完全に崩壊しているのがわかる。
 現在、企業が利用する会計システムには、このCVP分析(損益分岐点分析)が標準装備されている。月次決算(年に12件のデータ)に基づいているので、もう少しマトモな線が描けると推測するが、〔図表 7〕の上方に描かれている赤色の「SCP基準固定費」には及ばない。
「単利の体系」と「複利の体系」の乖離幅が10兆円
〔図表 7〕で描かれている赤色の「SCP基準固定費」は、〔図表 6〕右辺第2項の「基準固定費」にあたる。次の命題を基礎として導かれる。

〔図表 7〕の「CVP年間固定費」が、なぜ崩壊するかというと、CVP分析(損益分岐点分析)が「単利計算」に基づいているからだ。今日稼いだキャッシュは、明日へ再投資せずに、金庫に死蔵する。1円たりとも、次の企業活動に使わない。これが「単利の体系」である。
次のページ>>メディアの用いる為替感応度の信憑性を問う
 ところが、実際の企業活動は、昨日稼いだキャッシュは今日へ再投資され、今日稼いだキャッシュは明日へ再投資される、という「複利構造」を内蔵する。これが「複利の体系」であり、いわれてみれば「ああ、そうか」の話だ。
 ところが、過去何十年もの間、世界中の経済学者や会計学者の誰1人として気づいてこなかった。筆者が初めて〔図表 8〕の命題として指摘するものであり、指数関数(自然対数の底e)に基づいて計算していったものが、〔図表 7〕で赤色に描いた「SCP基準固定費」になる。もちろん、これも筆者オリジナルのコスト概念だ。
 空調のきいた部屋で本を読み、観念的な理論しか語れない人々が描くのが黒色の線であり、企業実務を理解している人々が辿り着くのが赤色の線である。「机上の空論」と「企業実務」の間には、トヨタ1社で約10兆円の乖離があることを、〔図表 7〕は表わしている。
メディアの用いる為替感応度の信憑性を問う
 書籍・eラーニング・会計システムなどで示される「固定費」も、そのすべてが「単利の体系」に基づいているので、〔図表 7〕の「CVP年間固定費」で描かれる世界に属している。「原価計算のプロ」を自認する専門家も全員「単利の体系」を信奉しているので、黒色の「CVP年 間固定費」を歩む。「複利の体系」によって描かれる「SCP基準固定費」との「落差」には、くれぐれも注意したほうがいいだろう。
〔図表 7〕で描かれている曲線は、年に4回のデータしか入手できない四半期報告書に基づいているので、波形の乱れについてはご容赦願いたい。もし、トヨタの月次 決算データを入手できるのであれば、「SCP基準固定費」はおそらく10兆円〜12兆円の間で安定推移すると推測している。それが売上高19兆円企業の実 像であろう。
 なお、「タカダ式感応度分析」も、〔図表 8〕の命題を前提に組み立てられており、〔図表 7〕にある赤色の線と同じ「複利の体系」の中にある。筆者以外の人々は「単利の体系」の中にいるので、〔図表 7〕にある黒色の線上を歩み、「トヨタは1円の円高で▲300億円の営業減益」と主張する。
 タカダ式感応度分析と、それ以外の感応度分析の間には、〔図表 7〕にある赤色と黒色くらいの落差があるのだから、メディアなどが説く「1円の円高で数百億円の営業減益」の信憑性はいかばかりであろうか。
トヨタの実際操業度が低迷するのは国内雇用のせいなのか
〔図表 6〕に話を戻そう。その右辺第3項の「実際操業度率」は、次の〔図表 9〕に基づく。

 青色の「予算操業度100%ライン」は、SCP分析(タカダ式操業度分析)から得た「予算操業度売上高」を100%と置いたものだ。ここが「量産効果」を最も発揮するところとなる。黒色の「実際操業度率」は、実際売上高を百分率に置き換えたものだ。
次のページ>>1円の円高で企業はこれほど苦しんでいた!
〔図表 9〕を見ると、トヨタは2009年まで、操業度率の低下に悩まされていたことがわかる。10年になって回復を見せたが、11/3(11年3月期)には東日本大震災の影響で再び大きく落ち込んでいる。前回コラム(ホンダ&ニッサン編)でも述べたように、「国内雇用」を最優先とする企業としては、実際操業度率の大変動は避けられないのかもしれない。
〔図表 4〕の営業利益ベースよりも、〔図表 5〕の戦略利益ベースのほうが優れているのは、実際操業度率を加味している点にある。1円の円高といっても、例えば90円からの円高と、80円からの円高は、実際操業度率の「感応度」が異なるからだ。
 それを踏まえて〔図表 5〕と〔図表 9〕の、2010年における「山の形」を見比べると、〔図表 5〕のほうが大きいことがわかる。トヨタは、ただの「生産管理の鬼」ではない。為替レートの変動に対しても、他社以上に努力をしてきたことがうかがえる。
 企業が海外へ脱出しようとするのは、円高・重税・貿易障壁・雇用規制・CO2規制・電力不足・放射能などの「七難」のせいだけではない気がする。「色の白いは〜」の喩えがあるからといって、白物製品を並べただけでは問題は解決しない。
 第三者がきちんと分析し、評価する能力を持っていないことも、企業を苛立たせる要因の一つであろう。まぁ、企業自身に分析能力がなくて、第三者に 対して反論できない可能性もあるが──。先ほど紹介した「為替変動に対する金融資産及び金融負債の感応度」について開示される注記は、眉にたっぷりと唾を 付けて読まないといけないかもしれない。
1円の円高でこれほど苦しんでいた!戦略利益で浮かび上がる企業の実像
 いままでに紹介した基準固定費〔図表 7〕と実際操業度率〔図表 9〕を掛け合わせて、年間利益(当期純利益など)を加えたものが、〔図表 6〕の「戦略利益」になる。
 その最大の特徴は、戦略「損失」にならない点にある。営業「損失」や当期純「損失」とは異なる。したがって、「戦略利益」は前回コラムでも紹介したように、輸出型企業の「円高限界点」を求めるベースにもなる。
「暑気払い」として、今回取り上げた11社の、11年3月期における実績値を〔図表 10〕に紹介しておこう。

〔図表 10〕にある「対ドル」の列は、〔図表 5〕の右端(11/3)に対応している。全社について、戦略利益ベースで見ると「対ユーロ」よりも「対ドル」の影響額のほうが大きいことを確認して欲し い。ニッポンの企業にとってはいまだ、欧州市場よりも北米市場が事業の中心である姿が浮かび上がる。
 ソニーや東芝の「対ドル」と「対ユーロ」の戦略利益が、ともに▲200億円前後になっている。円高は、両社の「利益」に影響を及ぼさない、とする のがメディアなどの解釈だが、「基準固定費」と「実際操業度率」には影響を与えるようだ。基準固定費が「輸出」されることはないので、〔図表 10〕にある▲印の正体は、海外子会社で発生したものを円換算した目減り分になるのだろう。
次のページ>>メディアの分析能力のなさが企業を海外に追いやる
〔図表 10〕の右端に「戦略利益がゼロとなる円高限界点」を示した。自動車3社の円高限界点については、前回コラムで説明した。富士通の円高限界点(52円16銭)がかなり低い点については、第51回コラム(ソニー・富士通・NEC編)で、筆者なりの解釈を述べているので、そちらを参照していただきたい。
メディアの分析能力のなさが企業を海外に追いやる
 筆者の分析手法に対し、「企業は、データや数値だけでは語れない」という声がある。ただし筆者は、日本証券アナリスト協会『企業価値分析におけるESG要因の研究』などの「非財務情報」を理解した上での話をしているつもりだ。
 されど、「非」を取り去った「財務情報」そのものに対する「分析の眼」を持たなければ、企業やメディアの「惰性」を指摘することはできない。貸借 対照表や損益計算書の上っ面をなでるだけで、あとは「上場企業が情報公開している事項だから」「マスメディアの記事だから」と妄信するのは、「一虚万実の 罠」に陥る。なお、この「一虚万実」とは、第52回コラム(自動車業界編)で紹介したように「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」を略した、筆者の造語である。
〔図表 3〕や〔図表 4〕などの営業利益ベースの解析結果を見る限りでは、自動車業界や電機業界の「円高耐性」はそこそこ強いというべきであり、円高に嫌気がさして海外脱出を 図る根拠にはならない。むしろ、メディアなどによる「情報分析能力のなさ」が、ニッポン企業に誤った「円高の恐怖感」を与えている、というべきだろう。
 さて今回は〔図表 3〕〔図表 4〕〔図表 5〕を示して、本連載では初出の「タカダ式感応度分析」を紹介した。こうしたデータ解析は、『原価計算工房ver.6』を使えば秒殺で完了する。むしろ、文章のほうが味気なかったかもしれない。
 というのも今回は、辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』を読みながら書き進めていたからだ。気を抜くと内容がホラー色に染まりそうで、苦労した。同じ高校生群像を描いた恩田陸『夜のピクニック』であれば、もっと異なる内容になったであろう。
〔図表 10〕にある日立とパナソニックの円高限界点が90円を超えていて、両社は果たしてどこへ向かうのだろうか、という「怖いもの見たさ」で始めた分析が、実 は今回の取っ掛かりである。ところが、三菱重工業との経営統合の話が飛び出して、日立などについては今回ボツにした。コトの推移を確かめた上で、いずれ機 会を見て斬り込んでみたい。
 そのときは、池波正太郎『鬼平犯科帳』あたりを併読しようと考えている。ちなみに、本連載でときどき登場する柴犬クメハチ(16歳)は、この小説に登場する密偵の名を拝借したものである。  

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コメント
 
01. 2011年8月13日 19:23:55: GnAgotNVqE
ドル決済輸出を基調とビジネスが次第に苦しくなるのは、ずっと昔からわかって
いた事実。
ここ数年に始まった話ではない。

にもかかわらず大企業のトップは、百年一日のごとく同じビジネスを継続して
きた。
そりゃまあ努力はして、体力を付けてはきたかもしれないけど、根本的な対処は
やってない。忌避し続けてきた。
で、苦しくなったら政府に泣きついて、為替介入だとか、カンフルを打って貰って
その場を凌ぐ。

トップの怠慢を、功罪を、きっちりと明らかにすべきだと思うよ。
そしてたった今この瞬間からでも、民間企業は生まれ変わるべきだと思うよ。


02. 2011年8月15日 11:05:07: 8Md2pqF94Q
円高で損すると言うが、
輸出企業が儲ける分まるまる全てをアメリカ様に
あの手この手でもって行かれているのが現状だから、
日本全体としてはなんら意味が無い。
為替介入して絶対に帰ってこない資産という名の米国債買う位なら、
全輸出企業に円高での損を例えば5円分還元する方が余程ましじゃないか?
米国債買う金はあっても日本国債買う金は無いというのがそもそもおかしいんだよね。
米国債を買うのは資産を買っているという形になるのに、
日本国債買うのは負債を買っていると言う様なイメージがぬぐえないのっておかしな話だよな。
日銀引き受けで大量に日本国債買って為替介入分輸出企業に補填した方が
日本全体にとっては100倍ましじゃないのか?
私は何かおかしな事言っているかね?

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