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20年経てよみがえる「経済こそ問題」曲がり角の米国財政再建
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/852.html
投稿者 sci 日時 2011 年 8 月 25 日 09:18:56: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110822/222182/?ST=print
20年経てよみがえる「経済こそ問題」曲がり角の米国財政再建

2011年8月25日 木曜日
安井 明彦


 「ばかげている」「うんざりする」「がっかりした」「子供じみている」

 8月2日に成立した米国の財政管理法。債務不履行(デフォルト)回避と財政赤字削減という2つの目標を成し遂げた財政合意の結果であるにもかかわらず、世論の評価は散々だ。

悪評ばかりの財政合意

 冒頭にあげた単語に代表されるように、7月末にピュー・リサーチセンターが実施した世論調査では、合意までのバラク・オバマ政権と共和党の交渉を7割以上が否定的な表現で評価した。8月7〜9日の米FOXニュースによる世論調査でも、「良い合意だった」とした割合はわずか14%に止まっている。

 目を引くのは、合意内容では分が良かったはずの共和党の不評ぶりである。8月2〜3日に行なわれたニューヨーク・タイムズ紙の世論調査では、オバマ政権の交渉姿勢には賛成(46%)と反対(47%)が拮抗しているのに対し、共和党については反対(72%)が賛成(21%)を圧倒的に上回った。CNNの調査でも、民主党の好感度が合意の前後で2ポイント上昇したのに対し、共和党の好感度は8ポイント低下している。

 「小さな政府」を目指す共和党の路線は、大勝した昨年の議会中間選挙から変わらない。今回の財政管理法では、債務上限の引き上げと引き換えに財政赤字削減への道筋がつけられる一方で、削減策の具体的な内容には増税が明記されなかった。

 こうした結果は、もっぱら歳出削減による財政赤字の削減を目指す「小さな政府」の原則に沿っている。共和党は選挙公約の実現に一歩前進したにもかかわらず、なぜ世論に背を向けられたのだろうか。

一貫して経済の好転を求める有権者

 謎を解く鍵は、財政赤字は決して有権者の最優先課題ではなかった点にある(図表1)。むしろ有権者の最大の関心は、一貫して「経済・雇用」にある。

 中間選挙で「小さな政府」が幅広く支持されたのは、オバマ政権が進める「大きな政府」からの転換が暮らしを良くするきっかけになるという期待があったからだ。「小さな政府」自体を支持する人だけでなく、これを経済を好転させる道具として好感した人たちがいなければ、共和党の歴史的な勝利は難しかった。

 ところが実際には、債務不履行の可能性が報じられるなど、「小さな政府」に固執する共和党の姿勢は、むしろ経済に混乱をもたらす元凶として位置づけられてしまった。世論が幻滅するのも当然である。

 それどころか、一度は高まったはずの「大きな政府」への警戒感が和らいでいる気配すら感じられる。8月11〜12日にラスムッセン社が実施した世論調査では、経済問題への政府の対応について、「不十分になる」ことを心配する割合(49%)が、「多くをやりすぎる」ことを心配する割合(36%)を久々に上回った。政府の対応不足を危惧する割合は、経済金融危機以来なかった高水準である。

 実はオバマ政権も同じような経験をしている。

 2008年の大統領選挙でやはり歴史的な勝利を収めたオバマ大統領は、2010年3月に公約の医療改革の実現にこぎ着けた。ところが、オバマ政権の支持率は上がらず、医療改革も不評のままだった。当時のオバマ政権と今の共和党は、有権者が経済や雇用を重視しているにもかかわらず、これとの関係が明確ではない論点で持論に固執して混乱を招いた点が共通している。

 経済金融危機が発生して以来、経済・雇用を重視する有権者の問題意識は揺らいでいない。有権者が政治に求めているのは、最大の関心事項である経済・雇用の問題で結果を示すことであり、それぞれの党の主義主張も、そのための「道具」として評価される。有権者にとっては、あくまでも経済こそが問題なのである。

財政赤字は「病気」か「症状」か

 そもそも論争の中心となった米国の財政赤字自体も、経済の力強さと切り離して考えることはできない。近年の米国の財政赤字は、それ自体が「病気」であるというよりも、経済金融危機という「病気」の「症状」としての性格が強いからだ。

 経済金融危機は、2つの回路を通じて米国の財政赤字を急増させた。

 第1は、景気の減速による財政赤字の自然増。いわゆるビルトインスタビライザーによる効果である。景気が減速すると、何もしなくても税収の伸びは低下し、失業保険などのセーフティーネット関連の支出は増加する。政策対応を講じなくても発生する財政の動きには、景気循環の波を穏やかにする働きがある。

 今回の経済金融危機の局面では、こうしたビルトインスタビライザーによる財政赤字の水準が、1980年代以来の高水準を記録した(図表2)。

 これに第2の要因として政策対応が加わった。オバマ政権が2009年に実施した大型の景気対策を筆頭に、相次ぐ景気対策が米国の財政赤字を膨らませてきた。

 もちろん米国財政には、それ自体の問題がある。中長期的な視点では、医療保険関連の歳出の増加が主因となり、米国の債務残高は維持不可能な水準にまで上昇してしまう。米国財政の中長期的な健全性を確保するには、その「病気」を治癒する医療改革を欠かすことはできない。

 しかし、こうした米財政の「病気」は時間軸の長い問題であり、足下にある「症状」としての財政赤字とは性格が違う。足下の財政赤字が「症状」である以上、その行方は根本である「病気」、すなわち経済の力強さに左右される。経済成長が力強さを増せば、財政赤字には減少の余地が生まれる。ビルトインスタビライザーの働きは自然に弱まり、景気対策の必要性も薄れるからだ。反対に経済成長の弱い期間が長引けば、それだけ財政赤字は減りにくくなる。

何もしなければ緊縮財政だが…

 米国の財政再建は、経済成長への目配りが問われる時間帯に差し掛かっている。経済の回復力に改めて疑問が呈されるなかで、米国は既に敷かれた緊縮財政への路線を走り始めている。

 「財政再建機運が強く政治が機能していない現状では、景気対策の積み増しは不可能」という見方が多いが、このまま何もしなければ、2009年に始まった景気対策の効果は時間とともにはく落し、今年末には社会保障税減税、来年末にはブッシュ減税の期限切れが控えている。イラク・アフガニスタンからの米軍撤兵も、歳出が減るという意味で景気の観点からは逆風だ。

 1992年の大統領選挙で民主党のビル・クリントン陣営は、3つのスローガンを掲げた。

 「変革か旧態依然か。経済こそが問題だ。医療問題を忘れるな」

 財政問題での党派対立は、いわば旧態依然の米国政治の現実。医療改革の重要性を忘れてはならないが、肝心なのは経済の力強さである。当時とは文脈こそ違うが、約20年前のスローガンは、まるで今の米国財政の論点を言い当てているかのようだ。

安井明彦さんの近著

『アメリカ 選択肢なき選択』
(日経プレミアシリーズ、850円+税)

豊かなはずの彼らが、何に失望しているのか。揺れ動く米国の今とこれからを「選択」をキーワードに読み解きます。
このコラムについて
Money Globe- from NY(安井 明彦)

変わりゆく米国の姿を、ニューヨークから見た経済の現状と、ワシントンの政策・政治動向の両面をおさえながら描き出していく  

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コメント
 
01. 2011年8月25日 13:21:08: Pj82T22SRI
>中長期的な視点では、医療保険関連の歳出の増加が主因となり、米国の債務残高は維持不可能な水準にまで上昇してしまう  

>財政問題での党派対立は、いわば旧態依然の米国政治の現実。医療改革の重要性を忘れてはならないが、肝心なのは経済の力強さである

短期的な経済刺激、増税回避と、中長期的な歳出削減や経済・社会保障の効率化を同時に進めなくてならないのだが

民主主義国家では、政治的強者である高齢者のための社会保障や、公務員の福利厚生が膨張して、民間経済を圧迫し、財政が持続不可能な水準まで至ることが多い

また競争を嫌い、楽な道を選ぶ若年層が増えていけば、ますます経済力は衰退していくことになる

そうやって豊かな先進国が衰え、新興国が発展し、入れ替わっていくというのが歴史の必然なのだろう


02. 2011年8月25日 18:11:47: Pijo5v1olc
世界経済は経済効率優先の時代に入ってしまった。バブルでかさ上げされた経済水準は維持するべきでない。健全財政の下で雇用改善を推し進めるが正しい政策である。日本を反面教師にしないでどうする。

03. 2011年8月26日 23:18:12: Pj82T22SRI
>>03 失業率と大幅財政赤字続く=米議会予算局・年央経済見通し

2011年 8月 26日 11:47 JST
 

 米議会予算局(CBO)が24日発表した年央経済見通しで、高水準の失業率と大幅な財政赤字が続くとの予想を示し、発足したばかりの議会の財政赤字削減特別委員会は冷水を浴びせられた格好となった。

 CBOによれば、現在9.1%の失業率は来年末には8.5%と小幅低下するものの、14年まで8%台を維持する見込み。完全雇用状態になるのは17年以降とみられている。この予想が正しければ、オバマ大統領はルーズベルト大統領以来の高水準の失業率の中で大統領選を迎えることになる。

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イメージ
AFP/Getty Images

米連邦議会議事堂

 今年度(10年10月〜11年9月)の財政赤字予想は1兆3000億ドル(対国内総生産=GDP=比は8.5%)で、1月の年初経済見通しの1兆4800億ドルからは縮小した。議会が歳出を切り詰めたことや、個人所得税の予想を上回る増加が貢献した。12年の財政赤字は8730億ドル(同6.2%)とみられている。

 財政問題では、民主党側は景気刺激のため歳出拡大を求め、一方共和党側は歳出削減と規制緩和を主張して鋭く対立している。来年末に期限切れとなるブッシュ前大統領導入の大幅な所得減税の取り扱いも火種となりそうだ。オバマ大統領は、高所得層向けについてはそのまま失効させたいと望んでいるが、共和党はいかなる増税にも反対している。

 CBOはまた、今後10年間の財政赤字累計については3兆5000億ドルになると予想し、1月時点の見通し(7兆ドル)から大幅下方修正した。これは、政府と議会が8月初めに2兆1000億ドルの財政赤字削減で合意したことが影響している。ただCBOは、所得減税や給与減税が予定通り打ち切りとなることなどを前提にしている。

 もっと現実的な想定である減税延長の場合には、10年間の赤字累計は8兆5000億ドルに膨らみ、21年の国家債務残高の対GDP比は82%に達すると見込まれている。

 議会の財政赤字削減委は11月24日(感謝祭)前に作業を完了させることになっている。合意が成立しなければ、歳出の一律削減が実施される。

記者: Damian Paletta


04. 2011年8月27日 18:21:48: Pj82T22SRI
>>04 GSAM会長 ジム・オニールの視点  2008年の再来か?

先週に続いて非常に厳しい1週間が過ぎました。しかし、まだ8月20日です。8月以降これまでの展開は、直近、あるいは過去に経験した厳しい市場状況に比べても、非常に過酷なものとなっています。過去とは本質的に状況が異なるという理由は多くあるものの、多くの方が2008年と比較をしたいという衝動を抑えられないと思います。よって今週はこの比較についてお話ししようと思います。

週前半には、前週の下落分をほとんど取り戻すところまで回復を見せた世界の株式市場でしたが、水曜日以降は壊滅状態となりました。状況はどこの国でも同じようなものですが、あえて違いを探すならば「世界市場へのエクスポージャー」が最も大きな国々の市場、例えばドイツや韓国がより大きく下落しました。このことが示唆しているのは、今や世界規模の景気後退、あるいは景気が低迷している国々の状況が、まだ好景気を維持している国々に伝播することが主な懸念となってきたということです。ドイツ株式指数(DAX)は今月に入って20%も下落し、他国対比パフォーマンスの良かった市場が、一転劣後する市場になってしまいました。また、先進国と新興国との間には、どのような動きがあるのかも、まだよく分らない状況です。それは、多くの国の市場が、おしなべて低迷しているからです。中国はその中で、他国に比べて良い状況を維持していると言えますが、それ以前の低迷状況を考え合わせると、期待するのは酷かもしれません。
株式市場が、7月終盤からの大きな下げを取り戻す勢いを維持できない状況を見て、チャーティストの多くが、上昇相場が終わったと言うだけではなく、長い下落相場が新たに始まったのだと言っています。S&P500が200日移動平均線を下回ったことや、50日移動平均が200日移動平均を下に抜けてきたことなどが、こうした大きな潮流変化の証拠だと言う人もいます。

債券市場では、多くの市場において、週の前半に、ここ何10年間も見ることのなかったような価格上昇が起こりました。現在起こっている経済的不安の原因が、国家財政の持続可能性に対する不信であるという状況が続いているにも拘らず、皮肉にも国債は買われたのです。その中心となったのは、英国、米国あるいはドイツといった国々で、これらの国々が、引き続きリスクを回避する資金の逃避先となったことによるものです。興味深いことに、ここ2日ほどで株式が再び下落に転じたものの、この3カ国の債券市場はもはや上昇しませんでした。このことの理由を考えると、ここまでの今月の債券市場の異常なほどの値上がりは、空売り玉の買戻しのためだっ
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たとも思えますし、投資家がいよいよ真剣に政府の信用力に対して懸念を示し始めたためとも考えられますが、そこはよく分かりません。どちらでもないという可能性もあります。債券投資家が、今週行われるジャクソンホール・シンポジウムでの、ベン・バーナンキ連邦準備制度理事会議長の需要な政策動向に関する発言等を前にして、小休止しているためかもしれません。あるいは、単に、何か他の理由を前にした休息かもしれません。

為替市場では、円が史上最高値を更新し続けています。リスク回避資金の逃避先になるというやや奇妙な役割を引き受け続けているためです。奇妙と申し上げるのは、日本の政府債務が、欧州地域平均の2倍を超え、米国の2倍を超えているからです。このように考えると、近々東京で新たな為替介入が行われる可能性は高いように思えます。興味深いのは、市場で「リスク回避」の心理が働いているにも関わらず、スイス・フランは、スイス当局が自国通貨に対する大幅な過大評価を少しでも反転させようと動いて以降、新たな高値をなかなか更新できずにいることです。人民元は、一時期の高値から反落しました。このことで、当局が意図的な人民元高政策を採り始めたという多くの見方に疑問が投げかけられています。

商品市場では、当然ながら、多くの商品が値下がりしました。

こうした混乱が進む中、引き続き金に資金が集まっています。2008年のような世界規模の景気後退が再び到来することへの恐怖感、あるいは、それを防止するための強力な金融(そして財政?)政策が採られることへの期待、そのいずれもが金が買われる理由だと考える人たちがいるようです。

先週末は、今週予定されていた3つの重要なイベントに注目していましたが、やはり今週の話題を独占したのは、これらのイベントとなりました。
期待の高かったサルコジ仏大統領とメルケル独首相の会談は火曜日に実現し、その日遅くまで続きましたが、この会談で、両首脳が欧州通貨同盟(EMU)の抱える大きな課題に対して、直ちに対応策を提示することを望んでいないことがはっきりしました。この点については後述することにしますが、この結果が相場下落の大きな要因となりました。

水曜日に行われたスイス当局の会談の結果、スイス国立銀行(SNB)はより積極的な策を打ち出し、フラン高を是正するような新たな抜本的措置の発動をにおわせました。これにより、フランが通常果たしている「リスク回避先」の役割を果たす可能性が、ますます小さくなったのです。

3つめに、これも発表が大いに待たれていた木曜日のフィラデルフィア連銀製造業景気指数は、期待値範囲の最下限さえも下回る結果で、マイナス30.7ポイントというものでした。この数字は、すでにアメリカ経済が景気後退期に入った、あるいは、まさに入ろうとしていることを示すものです。フィラデルフィア連銀製造業景気指数がブレの大きい統計であるとはいっても、その景気先行指標としての統計的精度もすでに証明されています。おそらく、連邦準備制度理事会のメンバーを含む多くの見方は、第3四半期、第4四半期のGDPは、2%プラス程度の緩やかな成長をするというものであったと思われます。事実、フィラデルフィア連銀の発表が行われるまで、継続的に発表されていたデータが、そうした見方を裏付けていました。このような期待に加えて、鉱工業生
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産も予想を上回る数字を示し、毎週発表される失業保険受給申請件数も緩やかな下降トレンドを引き続き示していました。しかしながら、フィラデルフィア連銀製造業景気指数が低く出たことにより、景気の先行きの暗さを示唆することになったのです。この統計が弱い数字になったのは、7月終盤以来の株式市場の低迷や、債務上限問題をめぐる不協和音が明らかになったばかりか、失望に終わったことなどが影響したのかもしれません。それが真実か否かはともかく、フィラデルフィア連銀の統計が間違っていたとは言い切れません。結果として、一時的なものと思われていた米国株式市場の低迷が、この発表後も続くことになってしまいました。これは、9月早々に発表される8月の米国供給管理協会(ISM)指数が、これに関連して大きく悪化することを織り込んだためと思われます。この指数の発表は、今や米国のとって非常に大きな意味を持つものとなっています。

先に申し上げた通り、2008年から2009年にかけての時期との比較を、避けて通ることは難しそうです。そこで、先週の出来事を受けて、私の思うところを述べてみたいと思います。
1. 当時、ゴールドマン・サックス経済調査部のチーフ・エコノミスト兼経済調査部責任者として、長年かけて開発した自社の先行指標、一致指標にいつも以上に注目していました。考えうる政策の選択肢についても検討しました。今の状況は、当時と同じです。
2. 私の考えでは、2008年から2009年において、危機が高まっていったプロセスは、今の状況とは異なっていたと思います。信用バブル崩壊はすでに2007年には始まっており、2008年にはその勢いが増してはいましたが、大手金融機関が迎えることとなった結末については、政策立案者を含めて、誰も知らなかったのです。考えてみれば、われわれは皆そういう経験をしたばかりです。「思い出す」というには、あまりにも最近の出来事です。
3. 上記2点に照らし合わせて考えてみると、財政面の逼迫を図るデータや、その他の信頼に足る指数をしっかりフォローすることが、現在の状況を把握するためには非常に重要です。こうしたデータは、例えば、GS 金融ストレス指数(GSI)、GS 金融環境指数(FCI)、GSグローバル先行指標(GLI)などがあります。
4. これまでのところでは、この3つのうちGSグローバル先行指標(GLI)が、他の2つに比べて悲観的な方向を指し示しています。フィラデルフィア連銀の統計発表後は、8月の先進国グローバル先行指標(GLI)がマイナスを示しており、世界経済が今後より低迷することを示唆しています。米国連邦準備制度理事会の反応が速かったために、米国の金融環境は、今月に入りほんの少しだけ緊張した状態になりました。その結果、OECD金融環境はまったく緊張した状態を呈していません。このことから言えるのは、金融環境指数(FCI)がまったく機能しなくならない限り、グローバル先行指標(GLI)が示すような経済の低迷水準は、長くは続かないということです。金融環境指数(FCI)は過去2週間に、かなりの緊張状態を示してはいますが、2008年に見られた状況とはかけ離れたものです。
5. 弱気派の多くが、2009年に何とか景気回復が可能であったのは、米国、欧州、そしてG20の政策立案者達に、金融財政政策面での伝統的手段が多く残されていたためだと言っています。そして、現在は、それらがすべて使い果たされてしまっていると言うのです。
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6. もっともな見方だと思いますが、しかし賛成はできません。2008年までに、多くの金融財政面での伝統的手段が使われたのは事実ですが、使い果たされたわけではありません。まだ多くの政策実行の余地があるのです。まず、米国連邦準備制度理事会はすでに「更なる手段」を講じることを強調していますし、来週のベン・バーナンキ議長の発言は、間違いなくそのことを示唆することになるでしょう。また、スイス国立銀行は、まだ政策の選択肢はあるのだということを、この1週間で示しました。そして、欧州中央銀行(ECB)には、今年になって早い時期に行った2回の利上げ(間違いなく、誤った政策だったと思われます)の反転を含めて、多くの伝統的な政策実行の余地が残されています。
7. 財政政策面については、債券市場が見張り役としての力を発揮していますが、ユーロ圏以外の問題国の債券市場の動きを見てみると、明確な目標を設定した財政政策が実施されるべきであると思われます。こうした観点から、今後目標を設定した税制措置を採る国が出てくると考えられます。米国では、給与税率段階の引き上げによる雇用創出が可能であり、英国では、所得税の最高税率の引下げなどが可能でしょう。

8. では、BRIC諸国の状況を考えてみます。2008年に市場崩壊が始まるまでは、多くの株式市場のバリュエーションは、特に中国やインドで、現在よりもかなり高い水準にありました。しかし、今は状況が異なります。特にこの2週間の間に、なかでも中国でバリュエーションの低下が起こりました。現在は、どの市場でも、株価収益率は極めて低くなっています。経済状況を見ると、現在BRIC諸国や成長国にとって、景気循環に関わる最大の課題は、食料品価格やエネルギー価格が引き起こすインフレです。最近の金融市場にとって数少ない好材料のひとつが、多くの国においてインフレが今後沈静化することが確実と思われ、各国の政策立案者は、もはや金融政策を引締める必要がないということです。これまでに何回も書いてきましたが、この10年間に、成長国8ヵ国の創出したGDPは約16兆ドルであり、これは米国と欧州を合計したものの2倍を超えています。このように見ると、このところの金融市場の混乱の中で、成長国の相対的な強さが確固としたものになるのでと考えています。成長国への投資を望んでいる投資家にとっては、今がまさにその好機と言えるのではないでしょうか。

2008年に実行された個々の政策はさておき、この時期には、強いリーダーシップが発揮されました。その好事例は、2008年11月にG20首脳会談が初めて開催された後、再び2009年春にも開催され、景気後退に立ち向かうという集団的な意思表明が行われたことでしょう。
今、こうしたリーダーシップが必要です。そして、欧州では特に求められています。この春以降、米国での景気循環の流れを読み誤ってしまいましたが、中国やBRICsの強さについては、まったく見方を変えていません。懸念しているのは、過去15ヶ月を通して欧州通貨同盟が直面してきたさまざまな課題です。もはや、市場が欧州通貨同盟の安定性に信頼をおいていないことは、何ヵ月も前から明白であり、また、政府債務と欧州金融制度間の悪循環という問題は、さらに深刻化しています。
欧州の問題の中心にあるのは、欧州通貨同盟が意図した通りに機能していないということでしょう。これが、真の意味で、現在の世界経済が抱えている唯一のジレンマと言えるかもしれません。今年になって幾度も書きましたが、後から振り返ってみれば、あまりに多くの国が欧州通貨同盟への加盟を認められたということが要因でしょう。加盟国に財政規律を確実に守らせるしくみがないのです。つまり、生産性と競争力の進展を奨励するしくみです。市場はこのことに気づいたため、間違いなく恐れを抱いています。多くの欧州政策立案者がこのことを
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否定しているようですが、だからと言って、こうした状況の改善を妨げるような発言は、一向に減る気配がありません。

1週間前までは、この地域における頼みの綱と見られていたドイツが、他の欧州通貨同盟加盟国に対して、「ドイツと同じような行動をとれば、すべてうまく行くのだ」と提案するような独善的な態度を取ることが、わずかばかりではあっても可能でした。しかし、この1週間でこのような間違った考え方は退けられたに違いありません。それは、非常に重要なことが2つ起きたからです。まず、ドイツの第2四半期のGDP成長が、わずか0.1%と欧州の平均値を下回りました。もうひとつは、8月に入って以来、ドイツの株式市場は他国以上に下落し続けました。ドイツ株式指数(DAX)は他国対比パフォーマンスの良い市場であり、いわば先進国中のBRIC的な存在であったものが、一転パフォーマンスが大きく劣後する市場になったのです。
第2四半期の数字が示す通り、ドイツ経済が弱い状況であるかということについては疑問ですが、市場はそう思ってはいないようです。しかも、初めてのことではないのですが、GDPの中味を見てみると、内需がまったく貢献していません。最大のメンバー国が消費をしなければ、欧州通貨同盟の持続はありません。特に今は、消費しすぎた国(米国)が、大幅な政策変更をしなければならない時期ですから。同じことがギリシャ、ポルトガル、スペイン、そしてイタリアで起きています。世界中のすべての国が、同時に輸出することはできないのです。

ドイツの政策立案者は、国内にかなり込み入った政治問題があっても、欧州通貨同盟の問題が過ぎ去ることを、ただ単に望んではいられません。この解決には、より強いリーダーシップが必要であり、ドイツの支援が求められるのです。ドイツの首脳たちは(そして少なくとも公にはフランス首脳も)、9月に欧州連合から、新たなより厳しい財政規律のしくみが提案されることを望んでいるようです。そうなれば、それを他の加盟国にも適用することが可能だからです。これが、真の欧州共同債券の基礎となると思われますが、より厳しい財政規律がなければ共同債券発行はあり得ません。少なくともドイツ首脳たちはそう考えています。ドイツは、どのような欧州通貨同盟を望み、どのような欧州通貨同盟なら支援できるのかについて早急に考えを示さねばなりません。自国が支援するつもりのない欧州通貨同盟に関する意見を述べている場合ではないのです。

私はこれまでの経験で、危機の後にはチャンスが到来することを学びました。今日の状況についても同じことが言えますが、それには、その機会を引き寄せるリーダーシップが求められています。経済政策に関するリーダーシップが欠如していることへの懸念から、多くの市場で混乱が起こっています。リーダーシップが発揮されれば、この危機が創り出す投資機会をきっと投資家が見つけ出すことでしょう。
そんな中でも幸いなことに、今週末は多くのサッカーの試合を観ることができそうです。
ジム・オニールゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:8月20日) 


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