★阿修羅♪ > 経世済民73 > 154.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
誰のために? なぜ? 農業を保護するのか? 
http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/154.html
投稿者 sci 日時 2011 年 9 月 06 日 02:13:41: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110902/222417/?ST=print
誰のために? なぜ? 農業を保護するのか?
 ないがしろにされてきた根本の議論

2011年9月6日 火曜日
山下 一仁


 農業界では、農業の存在理由や政策の目的についての議論がなされないまま、政策が論じられることが多い。つまり、なぜ日本に農業が必要なのか、なぜ農業を保護するのか、という大本のところがなおざりにされているのだ。「農業なのだから保護するのは当然だ」というところから議論が始まる。

 政府は、地方の商店街がシャッター通り化しても、中小の商家に補助金を交付することはない。なのに、なぜ、農家には手厚い保護が与えられるのだろうか。

供給力が十分でも食料安全保障は危機に陥る

 理由の一つは、「食料の安全保障」を維持する必要がある、という議論だ。他の物資と異なり、食料は、人間の生命・身体の維持に不可欠だ。わずかの不足でも、人々はパニックに陥る。1993年に起きた平成の米騒動の際は、米が足りないというだけで、主婦がスーパーに押しかけた。1918年の大正の米騒動の時より食生活に占める米の比重は大幅に低下している。また、パンなど他の食料品は潤沢にあった。それにもかかわらずである。

 日本で生じる食料危機のうち最も可能性が高いのは、お金があっても、物流が途絶して食料が手に入らないという事態である。東日本大震災においてこうした事態が生じた。最も重大なケースは、世界全体の食料生産能力は十分あったとしても、日本周辺で軍事的な紛争が生じてシーレーンが破壊され、食料を積んだ船が日本に近づけない事態である。「世界全体の食料生産能力は十分だから、食料危機を論じる必要がない」という主張は誤りである。世界で食料が潤沢にあっても、輸送の途絶で入手できない場合がある。

 日本が戦争に巻き込まれる可能性が小さく、想定外だからといって、防衛力を持つ必要がないという人は少ないだろう。発生する可能性は低くても、生じた時に国民の生命そのものに危害が及ぶほど重大な事態であれば、「想定外」としてはならない。食料も同じである。日本のような食料輸入国で軍事的な危機が生じた時には、食料の輸入も途絶える。必ず食料危機が発生する。これに対処するためには、一定量の備蓄と国内の食料生産能力を確保しておかなければならない。

食料安全保障を訴えたのは農協

 ところで、食料安全保障とは、誰のための主張なのだろうか。食料安全保障は本来、消費者の主張である。農家や農家団体の主張ではない。1918年に米価が高騰したなか、米移送に反対して暴動を起こしたのは、魚津の主婦だった。農家ではなかった。終戦後の食糧難の際、食料の買い出しのため着物が一枚ずつ剥がれるようになくなる「タケノコ生活」を送ったのは、都市生活者であって農家ではなかった。近くは平成の米騒動の際、スーパーや小売店に殺到したのは主婦であって農家ではなかった。

 それなのに、政府は、農家団体である農協の強い要求により、「現在40%の食料自給率を今後10年で45%に引き上げる」計画を2000年に閣議決定した。消費者団体よりも農協のほうが、食料自給率の向上、食料安全保障の主張に熱心である。さらに民主党政権は、食料自給率の目標を50%に引き上げた。

農政が食料自給率を下げている

 誰のための食料安全保障かはさておき、食料自給率を高める政策は進んでいるのだろうか? 政府は食料自給率を向上させる目標をもう15年近く掲げている。だが、一向に上がらない。上がる気配さえ見えない。そればかりか、2010年度には40%から39%に低下し、遠ざかっているのである。普通の行政だったら、数値目標をかかげながら、かくも長期にわたり達成できなければ、責任問題が生じるはずである。

 しかし、農林水産省は目標未達成の責任を取ろうとしないばかりか、これを恥じる様子さえない。なぜだろうか? 食料自給率が上がれば、農業を保護する根拠が弱くなり、農林水産省にとって困る事態となるからだ。農林水産省は、本音では、食料自給率が低いままの方がよいのだ。食料自給率の向上を目標に掲げるのは、農業予算を獲得するための方便にすぎない。

 それどころか、農林水産省は、食料自給率向上を唱えながら、自給率の低下につながる政策を採っている。下の図が示す、国産米冷遇、外国産麦優遇という政策だ。

 自給率が低下したのは「食生活が洋風化したため」というのが農林水産省の公式見解である。米の需要が減少し、外国から輸入しなければならない麦(パン、スパゲッティ)の需要が増加することを見通していたのであれば、米価を下げて米の需要を拡大すべきであった。同時に、麦価を上げて麦の消費を抑制すべきだった。政府が取ったのは、この逆の措置である。

 また、WTOドーハ・ラウンド交渉において政府は、関税率の大幅な削減を回避する代償として、低い関税率で輸入する関税割当数量(ミニマム・アクセス)をさらに拡大してもかまわないという対処方針を採っている。これは食料自給率を確実に低下させる。WTO交渉における対処方針は、食料自給率を向上させるという閣議決定に反している。

 農協の要望を受けて交渉している農林水産省が食料自給率を犠牲にしてまでも守りたいのは、高い関税に守られた国内の高い農産物価格である。農業を保護するためには、消費者に負担や犠牲を強いてもかまわないとする立場に他ならない。WTO交渉では、誰のための食料安全保障なのか――むろん消費者のためである――という原点を政府は忘れてしまっている。

食料安全保障は有事のため。飽食を前提にした政策ではない

 そもそも食料安全保障とは、海外から食糧を輸入できなくなった時に、国民の生存を維持するための政策である。必要な農業資源、特に農地が確保されていなければ飢餓が生じる。この時には、牛肉など食べられない。従って、食料安全保障は、イモやコメなどカロリーを最大化できる農産物をどれだけ生産できるか、という問題だ。飽食の限りを尽くしている現在の食生活を前提としたまま食料自給率を云々することは無意味だ。

 畑に花を植えることは、食料自給率の向上には全く貢献しないが、農地資源の確保につながるので食料安全保障に貢献する。しかし、花農家に対して、政府は農業保護政策を実施していない。他方で、米などのカロリーを供給する土地利用型農業に対しては、関税や補助金などさまざまな農業保護政策を講じている。自給率向上を主張する背後にあるのは、土地利用型農業に対する保護の要求である。

 前回述べたように、農地を宅地に転用することで農家は潤ったが、農業は衰退し、食料安全保障に赤信号が灯っている。現在の農地では、「肥料や農薬が十分にあり、天候不順もない」という条件に恵まれた場合に、イモと米だけ植えて、やっと日本人の生命を維持できるだけである。不作になれば、餓死者が出る。

農政が多面的機能を破壊している

 農業を保護する根拠として、農業界は農業の多面的機能を挙げる。多面的機能とは、特定の農業生産は、水資源のかん養や洪水の防止など、市場では取引されないプラスの外部経済効果を生んでいるという主張である。しかし、農政はこの多面的機能を弱める政策を採ってきた。

 農業界が主張する我が国の多面的機能のほとんどは、水田が持つ水資源かん養、洪水防止機能などである。しかし政府は、水田を水田として利用しないどころか、水田を潰す減反政策を40年も採り続けている。水田面積は戦後一貫して増加し、減反政策を開始する1970年までに344万ヘクタールに達した。だが、減反導入後は一貫して減少し、現在は254万ヘクタールとなっている。

 2000年WTO交渉におい日本は、多面的機能を前面に打ち出した提案を行った。この過程において、パブリック・コメントを求めるなど国民合意プロセスを取った。WTO農業協定では補助金を交通信号方式で分類した。「緑」は金額を削減しなくてもよいし、増額してもよい補助金、「黄色」は一定額まで削減しなければならない補助金、「赤」は出すことを禁止する補助金である。多面的機能は農業生産と密接不可分に結びついていることから、生産との切り離しを要求している緑の補助金の要件見直しを、日本提案のコアとして主張した。しかし、米などにかけている高い関税率を維持できるかどうかが我が国農業界の重大関心事項となったため、2002年11月に行った再提案で、農林水産省はこのコアの提案部分を、与党自民党にも十分な説明を行うことなく、こっそり削除してしまった。

農業保護と高関税に利用された食料安全保障と多面的機能

 これまで、食料安全保障や多面的機能という理念から農林水産省が政策を導いたことはない。農業生産が拡大すれば多面的機能も向上する前提で議論をしているが、農薬を多投する場合、農業生産の拡大は環境への負荷を増大してしまう。場合によっては、農地を林地に戻したり、特定の農業や農法は縮小する方が多面的機能に役立つ。しかし、このような議論は農業界ではタブーである。

 農業界は農業保護を維持したり増したりしようとする時だけ、食料安全保障や多面的機能の主張を利用してきた。だから、農業界は、高い農産物価格と、それを維持するために必要な関税を確保したい時は、食料自給率向上や多面的機能という主張を捨ててしまう。、食料安全保障の基礎となる農地を転用・潰廃して平気なのである。

 農業界は、農業保護や高関税が必要だという理由とするために、食料安全保障や多面的機能の概念を利用してきただけである。農政の欺瞞である。
このコラムについて
山下一仁の農業政策研究所

農業は儲からない。
日本の国土は狭く、農業には適さない。
だから日本の農業に競争力はない。
農業貿易が自由化されれば、日本の農産物はひとたまりものない。

などなど。
日本の農業には“弱い者”のイメージがつきまとう。

しかし、これらは本当だろうか?
強くなるための手段を講じてこなかっただけではないのか?

本コラムでは、日本の農業に関するこんな疑問に答えていく。
そして、日本の農業が成長、拡大するための方策を考える。

⇒ 記事一覧
著者プロフィール

山下 一仁(やました・かずひと)

経済産業研究所 上席研究員。キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹。
専門は食料・農業政策、中山間地域問題、WTO農業交渉、貿易と環境、貿易と食品の安全性。
1977年に東京大学法学部卒業、農林省入省。
1982にミシガン大学行政学修士、1982年にミシガン大学応用経済学修士、2005年に東京大学博士(農学)
農林省において以下を歴任。ガット室長、地域振興課長、食糧庁総務課長、農林水産省農村振興局整備部長、農林水産省農村振興局次長。
 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2011年9月06日 08:23:28: FUviF2HWlS
農業は産業ではない。
自衛隊は政府の現業だが、産業とは言わないのと同じである。
安全保障のための食料自給率の一定限度の維持に必要な、政府の現業部門であるべきだ。

02. 2011年9月06日 18:03:23: uBx0ZtljjI
今のトヨタ等自動車メーカーが、ここまで成長したのは、それが「国家事業」だったから。かつて「車の為の道路は作るが、人の為の道は作らない」と言った程、自動車企業を優遇したのだ、日本政府が。家電もマスコミと一体で同じ事、国家主導の下で行われた。が、それはもちろん、アメリカ政府による戦後統治による指導の下で、である。

農業も、米GHQにより、戦後、主食であるコメに取って代わり、小麦の消費を”恒久的に増やす為”、意図的にパン食を普及させた。
これは、農業という国家の根幹を、アメリカが支配するという、キチンとした「政策」であった。
それは、「農地解放(小規模事業者のみとする)」という形で、日本の農業を、トヨタのように成長できなくさせてしまったのだ。

今の資本主義では、個人、企業の利得しか尊重されないシステムなので、例えば、美しい街並み、機能的な都市、効率の良い社会、国家を作る事は、絶対に無理。それは、農業も同じ。

本来、農業(他の生産も含む)とは、生活そのものであり、人間の営みそのものなのである。それを、一部の資本と称した「商人」が、その権利を、勝手に剥奪することは、絶対に許されない。食料安全保障以前の問題なのである。

この事に気が付いている政治家は、ほとんどいない。今の市場原理という洗脳の「囚われの身」となっている。

これは、今で言う「雇用(労働と所得)」の問題にも大きく関わる。今若者でも、農業従事を希望する者は少なくない。地方と都市の格差も現在、郵便、交通、治安、インフラ、情報、等を、国家規模で行っているのだから、農業(その他産業含む)も、国民の希望、アイデアを活かし、一体となって、今こそ動かねばならない。これは、民主主義日本の義務である。

今後、貨幣(権利)の問題も含め、大きな改革が、必ず行われる事になる。
その暁には、日本の優れたあらゆる物(品)が、世界で喜ばれることになる。
それは、延いては、永続的な文明として評価され、定着してゆくことになる。
その時には、円高も、少子化も、失業も、無くなっているのである。これは、現実的な技術、システムによって、実現される。

欧米の世界的支配は、もう終わったのだ。既存の概念に囚われる必要など、微塵もない。
だから我々は、自分達の力で、前進する事が出来るのである。


03. 2011年9月06日 22:20:58: 7rY3lOijTw
日本政府は、議員や年功序列国家地方公務員天下りたちを保護している場合ではないぞ。
農業同様、日本企業従業員も保護する必要はあるぞ。

議員や年功序列国家地方公務員天下りたちは今まで恩恵受けたお返しをする番だぞ。


04. 2011年9月15日 02:45:07: NoB4T4uYVg
阿修羅さんへ
日本円を安くすれば解決する。
しかし為替への介入は、輸出企業へ金をやるのと同じことになる。
方法はただ一つ。
バラ撒きである。
子ども手当てでバラ撒くのは日本にとって「良い」
生活保護でバラ撒くのは、本当に探しても仕事の見つからない人に渡す分は、日本にとって「良い」
生活保護を下回る年金の補填にバラ撒くのは、日本にとって「良い」
生活保護より低い最低賃金をなくすためにバラ撒くのは、日本にとって「良い」
なぜ良いのか理由の分からない人は、反論してはイケナイ!

財源は……政府の保有するアメリカ国債を担保にして日銀から引き出す!!
(100兆行けます!)


05. 2011年10月02日 19:59:42: tMYERY29YU

 我が国の食糧自給率が年々低下していることは、多くのメディアが取り上げているところである。1965年には73%を誇っていた我が国の食糧自給率は、1975年には54%まで落ち込み、その後しばらくは横ばい状態が続いたものの、1985年以降は再び減少傾向をたどるようになった。そして、1998年には40%にまで落ち込み、現在はその40%も切っていると言われている。

 この自給率は、主要先進国の中では最低水準である。食糧の中でも穀物に限ってみれば、さらに自給率は低くなっており、日本の穀物自給率は28%。世界173カ国の中で130番目、先進国の集まりであるOECD加盟30カ国の中では28番目という低さである。人口1億人以上を抱える国の中では、’栄えある最下位’に甘んじている。

 アメリカは新たな国家戦略としてアフリカ大陸をアメリカ製の遺伝子組換え作物の実験場にしようとしている。その背後にはビル・ゲイツやヘッジファンドの帝王たちの新たな野望が見え隠れする。今、世界の自然環境と食糧ビジネスは新たなマネーの流入で大きく変貌しようとしている。

 2009年5月5日、ニューヨークはマンハッタンにあるロックフェラー大学の学長でノーベル化学賞の受賞者ポール・ナース博士の邸宅に世界の大富豪とヘッジファンドの帝王たちが集まった。この会に名前はついていないが、参加者たちは「グッドクラブ」(善意の集まり)と呼んでいる。

 主な顔触れはデービッド・ロックフェラーJr、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、マイケル・ブルムバーグ、テッド・ターナー、オプラ・ウィンフレーと言った超豪華メンバー。この集まりを呼び掛けた人物はパソコンソフトの標準化を通じて寡占状態を築き上げ、個人資産5兆円を超すビル・ゲイツである。

 これほどの大富豪たちが一堂に会し、密かに議論したテーマは何であったのか。実は世界の人口増大をいかに食い止めるか、そのために彼らが所有する巨万の富をいかに有効に活用すべきか、ということであった。

 議長役としてこの会を取り仕切ったビル・ゲイツによれば、「人類の未来に立ちふさがる課題は多いが、最も急を要する問題は人口爆発である。現在67億人が住む地球であるが、今世紀半ばには100億人の可能性もありうる」

 「このままの状況を放置すれば、環境・社会・産業への負荷が過大となり地球環境を圧迫することは目に見えている。なんとしても人口爆発の流れを食い止め、83 億人までにとどめる必要がある。各国政府の対応はあまりにスローで当てにはできない。潤沢な資金を持ち寄り、我々が責任をもって地球の未来を救うために独自の対策を協力して推し進める必要がある」とのことであった。

 ゲイツはその思いをすでに具体化するために、あるビッグプロジェクトに資金を注いでいる。それが現代版「ノアの方舟建設計画」に他ならない。

 この計画は2007年から本格的に始まった。人類がこれまで手に入れてきたあらゆる農業遺産を保護することを目的としている。

 あらゆる国の農業で不可欠の役割を果たしてきた種子を未来のために保存するということである。見方を変えれば、生き残れる人類とそうでない人類を区別することもできる。

 この計画を推進してきたのは、ノルウェー政府であるが、資金面で協力してきたのがビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金。この慈善事業団体を通じて、毎年 15億ドルを使わなくてはならないゲイツ氏はこれまでエイズの撲滅やがんの治療ワクチンの開発等に潤沢な資金を提供してきた。

 その彼が、2007年、ノルウェーのスピッツベルゲン島に建設された「あらゆる危機に耐えうるように設計された終末の日に備える北極種子貯蔵庫」に巨額の資金を提供していることはほとんど知られていない。ゲイツのお陰で、この貯蔵庫は2008年2月26日に正式オープンを迎えた。

 核戦争が勃発したり、地球温暖化の影響で種子が絶滅したような場合でも、未来の人類がこれらの種子を再生できるように保存するのが目的だという。しかし、この種子の提供を受けなければ将来は食糧を手に入れることはできなくなってしまう可能性は高い。

 しかも、ゲイツ基金の他にロックフェラー財団、モンサント、シンジェンタ財団、CGIAR(国際農業調査コンサルグループ)なども、未来の作物の多様性を確保するため300万種類の植物の種子を世界から集めて保管し始めたのである。ちなみに、シンジェンタはスイスに本拠を構える遺伝子組換え作物用の種子メーカー。CGIARはロックフェラー財団とフォード財団が資金提供を行っている組織。

 この計画に共同提案者として協力しているグローバル・クロック・ダイバーシティー・トラスト(GCDT:世界生物多様性信託基金)のカーリー・パウラー博士によれば、「我々は毎日のように作物生物の多様性を失いつつある。将来の農業のため、そして気候変動や伝染病などの危機から人類を守るため、あらゆる環境に適用する種子を保存する必要がある。いわば、あらゆる危機に生き残る種子を集めたフエール・セーフの金庫が必要だ」。

 このGCDTは国連食糧機構(FAO)とCGIARによって設立された。この会長はフランスの水企業スエズの経営諮問委員会に籍を置くマーガレット・カールソンである。

 ビル・ゲイツをはじめ農薬や種子をビジネスとするモンサントやシンジェンタは、いったいどのような人類の未来を想定しているのであろうか。

 また、ロックフェラー財団はかつて食糧危機を克服するという目的で「緑の革命」を推進した中心組織である。当時の目論見では在来種より収穫量の多い高収量品種を化学肥料や除草剤を投入することで拡大し、東南アジアやインドで巻き起こっていた食糧不足や飢餓の問題を解決できるはずであった。

 ロックフェラー財団の農業専門家ノーマン・ボーローグ博士はこの運動の指導者としての功績が認められ、1970年にノーベル平和賞を受賞している。しかし、緑の革命は石油製品である化学肥料や農薬を大量に使用することが前提であった。

 メキシコの小麦やトウモロコシ栽培で見られたように、導入当初は収穫量が2倍、3倍と急増した。しかしその結果、農作地は疲弊し、新しく導入された種子も年を経るにしたがい収穫量が減少し始めた。そのためさらに化学肥料を大量に投入するという悪循環に陥ってしまった。

 最終的には農薬による自然破壊や健康被害も引き起こされ、鳴り物入りの緑の革命も実は伝統的な農業を破壊し、食物連鎖のコントロールを農民の手から多国籍企業の手に移そうとするプロジェクトにすぎなかったことが明らかになった。

 とはいえ、このおかげで石油産業をベースにするロックフェラー一族やセブンシスターズ、そして世界最大の種子メーカーであるモンサントをはじめ、大手アグリビジネスは空前の利益を上げたことは言うまでもない。

 ノルウェー政府が推進している「ノアの方舟計画」に参加しているモンサントやシンジェンタにとって、どのようなメリットが種子銀行にはあるのだろうか。
種子を押さえることで食糧生産をコントロールできるのである。

 これら遺伝子組換え作物の特許を所有する多国籍企業にとっては「ターミネーター」と呼ばれる技術特許が富を生む源泉となっている。要は、この技術を組み込まれた種子を捲いて育てても、できた種子は発芽しないように遺伝子を操作されているのである。

 言い換えれば、どのような状況においても一度この種子を導入した農家は必ず翌年も新たな種子を買わなければならないのである。いわば種子を押さえることで食糧生産をコントロールできるようになるわけだ。

 緑の革命を推進してきたロックフェラー財団やターミネーターを開発し、世界に普及させようとしている巨大なアグリビジネス、そしてマイクロソフトを通じて独占ビジネスに経験と知識を持つゲイツが世界の終わりの日に向けて手を結び、世界中から植物や作物の種子を収集している狙いは明らかだ。

 この種子貯蔵庫が建設されたスピッツベルゲン島のスエルバードという場所は北極点から1100キロメートル離れた場所に位置している。周りに人は一人も住んでおらず、まさに氷に閉ざされた場所であり、種子の保存には最適の自然環境かもしれない。とはいえ、この地下130メートルの収蔵庫は鋼鉄で補強された厚み1メートルのコンクリート製の壁で覆われ、核攻撃にも耐えうるといわれるほどの堅固なつくりとなっている。

 スピッツベルゲン島自体が永久凍土の一部を形成しており、マイナス18度が最適と言われている種子の保存にとっては理想的な環境といえるだろう。しかも、この一帯は地震の恐れがまったくないという。

 この地下貯蔵庫に集められた多くの種子は数千年の保存期間が保障されている。大麦の場合は2000年、小麦で1700年、モロコシでは2万年もの長期保存が可能といわれる。現在は300万種類の種子が保存されているが、今後さらに保存対象の種子を増やす計画のようだ。

 実はこのような植物や動物の種を保存するための種子貯蔵庫は世界各地に作られている。その数1400。にもかかわらず、既存の種子貯蔵庫を遙かに上回る規模でノルウェー政府がこのような巨大な地下貯蔵庫を建設した理由は何であろうか。

 意外に思われるかも知れないが、各地に作られた種子貯蔵庫は最近の経済金融危機の影響を受け、管理維持が難しくなりつつあるという。

 我が国で議論されている自給率の低下、耕作放棄地の増加、農業後継者の不足、農業の株式会社化といった問題とはまったく異質の食糧問題が、世界を飲み込もうとしている。アメリカの動きはやはりすさまじい。バイオ、IT、金融、農業を統合する戦略を追求しようというわけだ。

 こうした長期的な食糧独占計画を、アメリカ政府は、かつて「緑の革命」を推進した国際開発庁が中心となり、モンサントらとともに進めているのである。これほど強力な外交交渉における武器はないだろう。なぜなら、アメリカの政策に反対するような国に対しては、「食糧生産に欠かせない種子の提供を拒む」という交渉カードを切ることができるからだ。すでにアメリカ政府は、アフリカ大陸における遺伝子組み換え農業の推進に着手している。

 遺伝子組み換え作物の普及が広まる一方で、農業の世界には新たな波が押し寄せようとしている。それは「分子農業」である。分子農業とは、植物に、人間など他の生物の遺伝子を導入して、その遺伝子がつくり出すタンパク質を植物内でつくらせ、抽出・精製して医薬品をつくること。植物医薬品工場、植物細胞工場ともいう。遺伝子組み換え食品が消費者の反発を受けたことから、植物バイオ企業は分子農業へと方向転換を始めている。

 米ヴァージニア大学の研究チームが、クロップテック社と共同で、タバコを用いて人間の遺伝子を発現させ、タンパク質をつくり出す研究が、この分野の先駆けとなった。

 「工場」として用いる植物は、大量にタンパク質をつくり出すものでなければ効率が悪い。そのため、タバコとトウモロコシが最初の候補となった。タバコは葉にタンパク質を蓄積させるため、葉を収穫して分離・精製する。トウモロコシは種子にタンパク質を蓄積する。その後、稲やジャガイモなどさまざまな作物で開発が行われている。組み換え体をつくるだけでなく、効率よく生産させるための栽培条件や、密集栽培が研究されている。

 日本でも、農水省とアレルゲンフリー・テクノロジー(AFT)研究所のグループが、人間の乳腺から取り出した、ヒトラクトフェリン生産遺伝子を、トマト「秋玉」に入れて発現させた。

 AFTでは、すでに稲にヒトラクトフェリン遺伝子を導入して発現させ、この研究は現在全農が受け継いでいる。この米は、通常の稲の約2倍の鉄分を含むため、機能性食品としての販売を目指している。また、抗生物質耐性遺伝子を用いない方法の開発が、全農と農業生物資源研究所、日本製紙で進められている。しかし、消費者や患者には、正確な情報は知らされない。分子農業のプラス、マイナス面を明らかにし、国民にきちんろした形での情報公開を行う必要があるのではなかろうか。

 我が国における農業ベンチャーの取り組みは、海外の動きと比べれば、極めて保守的と思われる。欧米のアグリビジネスは遺伝子組み換え作物の研究開発に加え、分子農業や種子の遺伝子特許取得に先行投資を振り向けている。彼らの狙いは、種子や遺伝子情報を押さえることによる「農業の世界制覇」である。

 日本も無策のまま衰退の道を歩もうとしているわけではない。我が国農林水産省と経済産業省は新たな取り組みを模索し、共同事業を打ち出した。それが「植物工場計画」である。人工的な光や温度を管理することによって、通常の10倍から20倍もの増産が可能になるという、夢のような技術農法である。必要な補助金制度も創設されることになった。すでに各地で実験的な植物工場が稼働し始めている。

 日本の誇るIT技術や食の安全にかける衛生管理技術の蓄積をテコに、この種の植物工場や野菜工場が軌道に乗れば、日本の農業にも海外と太刀打ちできる可能性が生まれてくるだろう。


  拍手はせず、拍手一覧を見る

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
 重複コメントは全部削除と投稿禁止設定  ずるいアクセスアップ手法は全削除と投稿禁止設定 削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告」をお願いします。 最新投稿・コメント全文リスト
フォローアップ:

 

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      ★阿修羅♪ > 経世済民73掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。

     ▲このページのTOPへ      ★阿修羅♪ > 経世済民73掲示板

 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧