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日本経済の活性化に高生産性サービス業が不可欠  問題は、価格下落でなく所得下落
http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/788.html
投稿者 sci 日時 2011 年 10 月 27 日 03:23:02: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://diamond.jp/articles/-/14606
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
日本経済の活性化に高生産性サービス業が不可欠  日本経済の問題は、価格下落でなく所得下落
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 前回、過去10〜20年間程度の期間にわたる給与の動向を見た。
 ところで、「給与」としていかなる指標を見るかで、結果はかなり違う。
 前回は、「所定内賃金」を見た。この指標では、産業全体の給与水準は、1990年代末からほとんど頭打ちである。ただし、低下はしていない。
 ところが、事業所規模5人以上の現金給与総額を見ると、【図表1】のとおりであり、97年をピークに、かなり顕著に下落していることが分かる。

http://diamond.jp/mwimgs/6/3/600/img_63b8d6abb50d71b8af0ba022f486586819850.gif
 産業別に見るとどうであろうか。
 製造業では、この指標で見ても、2006年までは賃金が下がったとは言えない(図表1)。
 しかし、他の分野では、給与は下がっている。
【図表2】には、サービス産業における賃金の推移を示す。これらの分野では、給与は顕著に下落した。しかも、後で述べるように、水準自体も低い。

 誠に意外なことに、医療・福祉でも賃金が低下している。「意外」と言ったのは、消費者物価指数で見れば、医療関係の物価は上昇しているからだ。この問題については、後述する。
 したがって、製造からサービスに雇用が移ると、全体の所得が下がることになる。つまり、製造業が放出する受け皿が、製造業より生産性の低い産業であったために、所得が低下するのである。
次のページ>> 製造業が減らした雇用をどこが引き受けたか?
なお、すべてのサービス業で賃金が低下したわけではない。
 卸売・小売業は、2008年までは下落しなかったし、金融業は、金融危機までは増加した(【図表3】)。

製造業が減らした雇用を
どこが引き受けたか?
 つぎに、この期間に産業別の労働者がどのように変化したかを見よう。「就業者」を見るか「雇用者」を見るかで若干の差があるが、ここでは就業者の状況を見ることとする。この状況は、【図表4】に示されている。
拡大画像表示
 2002年と09年を比べると、減ったのは建設業、製造業、卸売・小売業、飲食店・宿泊業、複合サービス事業だ。
 減少数で言うと、製造業の82万人が大きい。卸売・小売業がそれに次ぐ。
 率でいうと、建設業、飲食店・宿泊業、複合サービス事業が高い。
 他方で、大きく増えたのは、情報通信業、医療・福祉、サービス業だ。
 増加数でも増加率でも、医療・福祉154万人が顕著だ。これは、福祉サービスの向上を反映したものだ。なお、この分野で増えたのは、後述するように、医師でなく介護士であると考えられる。
 大ざっぱに言えば、製造業と卸売・小売業で減少し、医療・福祉で増えたのである。
給与の低いサービス産業に
労働が移動した
【図表5】は、2010年における主要産業別の給与を示したものである(企業規模10人以上)。ここでは、「給与」として、「きまって支給する現金給与額」、「所定内給与額」、「年間賞与その他特別給与額」の3つのものを示した。

 給与水準は、産業によってかなりの差があることが分かる。
「きまって支給する現金給与額」について見ると、製造業より高い産業としては、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業がある。また、金融・保険業と不動産・物品賃貸業も、製造業より高い。
 他方で、医療・福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)は、製造業より1割以上低い。
「所定内給与額」や「年間賞与その他特別給与額」で見ても、ほぼ同様の傾向が見られる。
次のページ>> 日本経済の問題は、価格下落でなく所得下落
 このことと前節で述べたことと合わせれば、経済全体の給与が低下したメカニズムが分かる。すなわち、過去10年程度の間に、給与が比較的高い製造 業の雇用が減少し、給与が低いサービス産業に労働が移動したのである。しかも、それらの部門では賃金が下落した。このため全体の賃金が下落したのである。
 ごく大ざっぱに言えば、「低賃金労働の比重が高まったために、全体の給与が低下した」ということになる。
 このように、産業間の労働の移動が、全体としての給与を下落させた要因である。
 ここで、「医療・福祉」部門について、若干の補足をしておこう。この部門では、男女間で著しい賃金の差がある。すなわち、「所定内給与額」について見ると、女性は男性の7割未満でしかない。
 これは、医師と看護師・介護士の格差を反映していると考えられる。すなわち、医師には男性が多く、給与が高い。それに対して、看護師・介護士には女性が多く、給与が低いのだ。
 前節でみた医療・介護部門の就業者の増加は、医師ではなく、介護士の増加によるものと考えられる。そのために医療・介護部門の給与が低下したのだ。
日本経済の問題は、
価格下落でなく所得下落
 しばしば、「デフレが日本経済の問題だ」とされる。そこで「デフレ」とされているのは、財やサービスの価格の低下のことである。
 しかし、仮に所得が下落せずに価格だけが下がるのであれば、実質所得は増加するから、なんら問題とする必要がない。むしろ、それは望ましいことである。
 問題は、上で見たように、所得が下がったことなのである。
 つまり、デフレ(財・サービス価格の継続的下落)が問題なのではなく、所得の低下が問題なのである(実際、すべての財・サービスの価格が下落しているわけではない。下落しているのは主として工業製品価格であり、多くのサービス価格は上昇している)。
 所得下落をもたらすメカニズムも、しばしば言われる「デフレスパイラル」(製品価格が下がるので、賃金を下げざるをえなくなる)ではない。もしそうであるなら、価格下落が激しい分野の賃金がより大きく下落するはずである。
 しかし、実体は逆になっている。1990年から2008年の期間において、保健医療の消費者物価指数は18%上昇している。それにもかかわらず、すでに見たように、医療・介護分野の賃金下落は激しい。
次のページ>> 「デフレからの脱却のために金融緩和」はナンセンスな政策
 他方で、同期間にテレビの価格は77.5%下落し、カメラの価格は87.9%下落した。それにもかかわらず、製造業の賃金は穏やかではあるが上昇している。
 上で述べたように、経済全体の賃金の下落は、製造業の労働者が減少して低生産性サービス業の労働者が増加するために引き起こされる現象である。
 このことは、政策を考える際に重要な意味を持つ。「デフレからの脱却のために金融緩和が必要」という議論があるが、上記のメカニズムを考えれば、まったくナンセンスな政策であることが分かる。
 上で見たように、問題は所得が下落していることである。そして、これは、製造業の雇用が減少して、それを賃金が低い部門で吸収しているために生じているものだ。
 金融政策をいかに緩和したところで、この過程に影響を与えることはできない。
 そして、このような変化は、今後もさらに続くと考えられる。製造業の海外移転が進めば、製造業の雇用者はさらに減少するだろう。他方で、介護サー ビスに対する需要は大きく、かつ今後も人口高齢化に伴って増加する。実際、介護部門は、日本で有効求人倍率が1を超えている唯一の部門だ。
 上で見た給与格差が今後も変わらなければ、今後も産業全体の平均給与は下がり続けることになる。そうであれば消費は増えず、日本経済が活性化することもない。
 しばしば、「日本の人口構造が高齢化するため、需要が減少する」と言われる。しかし、こうした見方は誤りである。雇用構造の変化で所得が減少するために消費支出が伸びないのである。
 このように、問題は雇用構造であり、産業構造なのである。製造業の雇用縮小が不可避であるなら、その受け皿として、生産性の高いサービス業をつくることが不可欠だ。それなしに、金融政策のようなマクロ経済政策で日本経済を活性化することは不可能である。
 これまでは、製造業の雇用減を介護関係の人員増が補う形で、雇用が量的に確保されてきた。これは、介護需要の増加に対応するものであり、その限り では必要な過程であった。しかし、介護関係者の所得が低いことから、経済全体の所得を低下させる要因ともなったのだ。これをどう変えてゆくべきかが考えら れなければならない。

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• 第36回 日本経済の活性化に高生産性サービス業が不可欠 (2011.10.27)
• 第35回 製造業が国内に留まっても、雇用は減少する (2011.10.20)
• 第34回 自動車は輸出立国を支えられるか? (2011.10.13)
• 第33回 生産は回復したが貿易赤字は拡大 ――大きな曲がり角にきた「輸出立国モデル」 (2011.10.06)
• 第32回 製造業の海外シフト加速! 雇用創出に残された時間はない (2011.09.29)

 

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