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米国の衰退の現実 厳しさ続く2012年の米国経済 ゼロ金利が招くデフレの罠
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/882.html
投稿者 ts 日時 2012 年 2 月 07 日 00:48:04: kUFLMxTYoFY0M
 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34481
Financial Times
米国の衰退の現実

2012.02.07(火)2月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

ワシントンで不可解なことが起きた。イラク侵攻に反対したリベラル派の米国大統領が、かつてイラク戦争を後押ししたネオコン(新保守主義)の急先鋒を支持したのだ。

 バラク・オバマ大統領はロバート・ケーガン氏の論文「The Myth of America's Decline(米国の衰退の神話)」の内容を評価することで、同氏を助けることになった。問題の論文は2月に出版されるケーガン氏の著作『The World that America Made(米国が作った世界)』からの抜粋だからだ。
大物ネオコンを是認したオバマ大統領
オバマ大統領「富裕層に30%以上の税率必要」、一般教書演説

一般教書演説で「米国は復活した」と語ったオバマ大統領〔AFPBB News〕

 オバマ大統領は1月24日の一般教書演説で、「米国は復活した」と述べた。「米国が衰退している、我々の影響力は弱まっているなどと言う人は、何も分かっていない」と。

 後日、国家安全保障担当補佐官のトム・ドニロン氏は、チャーリー・ローズ氏がホストを務めるトーク番組に出演し、オバマ大統領はケーガン氏の論文を「大変気に入っている」と明かした。ホワイトハウスのある会議では、大統領がその内容を逐一読み上げる場面もあったという。

 イラク戦争後の世界をテーマにした挑発的な著作で「欧州人は火星から、米国人は金星から来た」と記したこともあるケーガン氏は、今回の論文でも、明確で強い主張を打ち出している。

 しかし、オバマ大統領はその内容を細かく検証した方がいいだろう。まずは経済関連の数字からだ。

 ケーガン氏によれば、1969年時点で米国は全世界の所得の「約4分の1」を担っていた。そしてこの割合は「今も変わらず約4分の1だ」とし、「全世界の国内総生産(GDP)に米国が占める割合は驚くほど安定している」と書いている。
世界経済に占める米国のシェアは驚くほど安定している?

 とても説得力のある主張に映るだろう。ここで、より正確な数字を提供しよう。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」によれば、1969年の米国は市場価格換算で全世界の所得の36%を占めていた。この数字は2000年までに31%に減り、その後、急落し始めた。そして2010年には、わずか23.1%を担うだけになった。

 米国は10年で7%のシェアを失ったことになる。しかもこの下落幅のうち半分以上は、先のグレートリセッション(大不況)以前に発生したものだ。

 一方、2000年時点での中国の経済規模は、何とか米国の8分の1を超えたところだった。それが今では41%まで拡大している。しかも、これは現在の為替相場に基づく数字だ。仮に中国政府が人民元に変動相場制を導入すれば、同国の経済規模の評価額は跳ね上がるだろう。過去10年の変化は「驚くほど安定している」どころか、史上例がないほど急激だ。

 このような状況がもう10年続けば、米国の優位はかなり怪しくなってくるはずだ。実際、アルビンド・サブラマニアン氏も書いているように、たとえ中国の成長率が年7%に減速し、米国がほぼあり得ないと思われる年3%のペースで成長しても、中国は12年以内に米国を追い越すのだ。

 しかし、ケーガン氏の新著の真の主題は、米国例外主義だ。米国の優位が今後も続くかどうかは米国の決断に大きくかかっているというのが、ケーガン氏の見解だ。1990年代の自身のビル・クリントン大統領への批判を明確に繰り返す形で、ケーガン氏は米国が力強い世界のリーダーになる意志を失いつつあるのではないかとの危惧を示している。

 「結局、決定権は米国人の手中にある」とケーガン氏は書いている。「(評論家の)チャールズ・クラウトハマー氏が指摘するように、衰退とは、1つの選択肢なのだ」
米国は衰退していないのに、政治家らが衰退を後押ししているとは・・・

 ここで我々はこの本が提起する最大の謎にぶつかる。ケーガン氏は米国が相対的な衰退の途上にあることを否定し、衰退を裏付ける経済的な証拠はないという誤った主張を展開している。

 しかし、その一方で同氏は、名前を挙げていない「政治家と政策立案者」が米国の衰退を積極的に後押ししているとも述べている。こうした人たちが「国力が衰えるかもしれないという根拠のない恐怖から、早まって超大国としての自殺行為に走る危険がある」というのだ。

 こうした葛藤が、この著作には一貫して流れている。もし米国が衰退していないのであれば、何も問題などないのではないか? 一方で、もし米国が自らの衰退を望んでいるのであれば、レミングのような自殺願望者とは、一体誰なのだろうか?

 1つの手がかりは、オバマ大統領だろう。ミット・ロムニー氏(ケーガン氏は同氏の外交政策に関する上級顧問を務めている)からはさらに分かりやすいヒントが出ている。

 共和党の大統領候補指名争いでトップを走るロムニー氏は最近、「我々の大統領は米国が衰退していると考えている」と述べた。「彼(オバマ大統領)が大統領であれば、確かにそうだろう。私が大統領になれば、そうはならない」

 ロムニー氏による次の言葉をケーガン氏の本の主題ととらえても、それほど大げさではないだろう。

 ロムニー氏は1月31日にフロリダ州で「世界のリーダーとしての米国の役割はもう過去のものだと、オバマ大統領は考えている」と述べた。「しかし、私は誰もあえて挑む気を起こさないほど強力な軍を要求する」

 現実には、オバマ大統領が取り決めた米国国防予算の削減は、潤沢な現在の基準値から今後10年で8%引き下げるというもので、控えめかつ、実体はないに等しいと言ってもいい。

 これらの削減がすべて行われても、米国の国防費は2001年9月11日の同時多発テロ直前と比較して、はるかに高くなる見込みだ。ロムニー氏はこの削減案を覆すと公約している。

 米国の未来は、この国の外交政策と国防総省が現在進んでいると思われる方向から大転換を図れるかどうかに大きくかかっているというのが、ケーガン氏の考えだ。自由で開かれた国際秩序の存続は、強く行動的な米国の存在にかかっていると、同氏は主張する。

 中国がナンバーワンになった場合の筋書きを想像してみるといい、とケーガン氏は述べる。中国は自国をトップに押し上げてくれたシステムを維持するだろうか? 同氏はその答えとして寓話を引き合いに出す。
カエルとサソリの物語

 カエルがサソリを背中に乗せて川を渡ることになった。その代わり、サソリはカエルを刺さないと約束した。「自分も一緒に溺れてしまうのに、どうして刺したりできるだろう?」とサソリは言った。

 ところがサソリはカエルを刺してしまう。なぜ約束を破ったのかと溺れていくカエルが尋ねると、サソリから次のような答えが返ってきた。「なぜって、自分はサソリだから」

 この寓話をもって、ケーガン氏は2世代にわたる中国の戦略をほぼ否定している。世界の統合によって中国が獲得した富、そして貧困から抜け出した多数の人をもってしても、結局のところ中国の本質はほとんど変わらないのではないかと、ケーガン氏は指摘する。

 ここで話はケーガン氏の著作が抱える大きなジレンマに戻る。この本の真の標的は米国の衰退主義者だ。しかし、米国最大の衰退主義者たる大統領は、この本の主張を大いに気に入っている。

 ひょっとすると、これも多くの大統領が得意とする反対意見の取り込みの一例なのかもしれない。その場合、浮かび上がってくるのは、むしろどちらがカエルでどちらがサソリなのかという疑問だろう。
By Edward Luce


http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120202/226785/?ST=print
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厳しさ続く2012年の米国経済

2012年2月6日 月曜日
ノリエル・ルービニ氏


 ノリエリ・ルービニ氏はニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。
 その先を読む力は折り紙つきだ。
 2008〜2009年の金融危機の到来を数年前から予測したことで知られる。 危機が起こるまで、経済の先行きに対する見方は楽観論が主流であった。にもかかわらず、ルービニ氏はこれに抗い、かつてないほどの破綻が訪れると警告した。
 フィナンシャル・タイムズの編集者、ライオネル・バーバー氏は、危機が起こる前「『破滅を予言した』と賞賛されるリービニ氏など、ほんのわずかの人間だけが先を適切に読むことができた」と表現している。

 過去数カ月にわたり、米国では予想を上回るマクロ経済指標の発表が相次いでいる。雇用が増え、製造業やサービス業の景況感指標も穏やかに改善している。住宅業界でさえ改善の兆しが出てきており、個人消費も相対的に底堅く推移している。

 だが、こうした明るい経済指標にもかかわらず、2012年を通じて米国経済の成長は低空飛行を続け、従来のトレンドを下回るだろう。景気に関する最近の好材料をなぜ、額面通りに受け取るべきではないのか説明しよう。
依然としてのしかかる債務負担

 第1の理由は、米国の消費者が依然として所得低下や資産減少に直面し、債務負担に喘いでいるからだ。可処分所得は穏やかに拡大しているが、その大半は減税と社会保障関連の給付によるもので、実質賃金は伸び悩んでいる。

 こうした状況は長続きせず、最終的には財政赤字削減の必要から、社会保障費の削減と増税を余儀なくされるだろう。直近の個人消費は既に数カ月前に比べ弱含みで推移しており、年末商戦の小売り売上高は辛うじて踏みとどまったというのが実態だ。

 一方、米国の雇用拡大は依然として遅々としたペースにとどまっており、失業率を下げたり、労働所得を大幅に改善させる効果を上げるに至っていない。

 米国は失業率を悪化させないためだけでも毎月15万人の雇用を創出する必要がある。失業者の40%以上は既に長期失業者で、こうした人たちが再び仕事を見つけられる可能性は少ないだろう。事実、企業は人件費を圧縮する方法をいまだに模索している。

 所得格差の拡大も、消費の伸びを抑制する方向に働くと見られる。消費性向の高い層(つまり、労働者や低・中所得層)から貯蓄性向の高い層(つまり、企業や裕福な家計)に、所得分布がシフトするためだ。

 加えて、2012年は減税が期限切れとなるのに伴い、企業はいわゆる「テールリスク(発生確率は低いが発生すれば甚大な影響を及ぼすリスク)」を危惧して投資を控えると思われる。最終需要の低迷を受け、設備稼働率も低下するだろう。こうした厳しい見通しを背景に、設備投資及び住宅投資の最近の反発は腰折れする公算が大きい。

 しかも、設備投資の大半は引き続き省力化技術に向けられると予想され、その意味でも力強い雇用拡大は期待できない。
6年経ても下落続く住宅価格

 住宅市場も深刻な不況に陥って以来6年もの歳月を経たにもかかわらず、いまだ回復の兆しが見えない。
住宅ローン残高が住宅価格を上回る家計が200万を超え、差し押さえが価格の下落を招く悪循環が続く(写真:AP/アフロ)

 新築住宅の需要はピークから8割も落ち込んでいるが、今年も住宅価格の下方調整は続くだろう。というのも新築住宅及び中古住宅の供給が需要を上回る状況は解消しそうにないからだ。

 住宅ローンを抱えている家計の最大4割、すなわち200万に上る家計で、住宅ローン残高が住宅価格を上回っている可能性がある。こうした状況では、差し押さえが増加し、それがさらに住宅価格の下落を招くという悪循環は、当分続くと考えた方がよい。

 これほど多くの家計で信用枠が厳しく圧迫されている点を考えると、たとえ消費者の信頼感が改善に向かっているとしても、低迷の域を脱するのは難しい。

 内需の伸びが弱い以上、米国経済が潜在成長率に近づき得る唯一の方法は、巨額の貿易赤字を削減することだ。だが2012年の純輸出は、複数の理由から成長の足かせになると予想される。
輸出拡大目指すも厳しい環境

 理由(1) 貿易収支の大幅な改善には一段のドル安が必要だ。しかし、そうした状況は考えにくい。

 多くの国の中央銀行が、米連邦準備理事会(FRB)に追随して追加的な「量的緩和」に踏み出しているからだ。ユーロには一段の下げ圧力がかかるだろう。さらに、中国をはじめとする新興国が、通貨の急ピッチな上昇を食い止めようと積極的に市場介入していることからも、一段のドル安を見込むのは難しい。

 理由(2) 多数の先進国及び中国、そのほかの新興国の成長鈍化は、米国の輸出品に対する需要の落ち込みを意味する。

 理由(3) 中東の地政学的リスクの上昇を受けて原油価格が高騰しかねず、米国のエネルギー輸入額も高止まりすると予想される。

 こうした状況を打開すべく、米国がさらなる政策発動に動くかと言えば、その余地は小さい。むしろ2012年は、財政政策が成長の足かせになりそうだ。11月の大統領選挙に向け、民主共和両党は激しい選挙戦を繰り広げるため、政策の手詰まり感は強まるだろう。そうした中で当局が長期的な財政問題に取り組むことは困難だと思われる。

 こうした脆弱な米国経済の成長見通しを受け、FRBがさらなる量的緩和に踏み切る可能はある。だが、FRBは政治的制約に直面しているため、量的緩和を導入したとしてもその規模は経済を浮揚させるには力不足だろうし、時期の面でも遅きに失するだろう。

 加えて、FRBの金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)の一部委員は、少数ながら声高に追加緩和に反対している。いずれにせよ、金融政策が対処できるのは流動性の問題に限られるし、銀行は過剰なまでに資金を抱え込んでいるというのが実態だ。
債務圧縮は始まったばかり

 何より重要なのは、米国を筆頭に多くの先進国が、依然としてデレバレッジ(債務圧縮)過程の初期段階にあるという事実だ。

 多額の債務と、借金で資産を膨らませる高レバレッジ(これは民間部門で始まり、やがて公的部門のバランスシートに波及した)によって招いた景気後退局面では、長期にわたる支出削減と貯蓄の拡大が避けられない。今年もその意味では例外ではない。公的部門の債務圧縮はようやく始まったばかりである。

 最後に、テールリスクの存在が、投資家、企業、消費者を極度に慎重にさせている点に触れたい。ユーロ圏は債務再編を余儀なくされるだけでなく、悪くするとユーロ圏崩壊という展開も排除できない状況にあり、これは連鎖的な金融危機につながりかねない。

 加えて、米大統領選挙の行方、「アラブの春」をはじめとする地政学的リスクの台頭、イランとの軍事的対立、アフガニスタン及びパキスタンの政情不安、北朝鮮の権力継承問題、中国の首脳交代、世界経済の減速が及ぼす影響など、数々のテールリスクが存在する。

 こうした大小様々なリスクに直面している現状では、企業も消費者も投資家も、しばらくは様子見に徹し、積極的な動きは手控えるという強いインセンティブが働く。

 そしてその最大の問題は、多くの人が様子見に回って行動を控えると、回避しようと懸命に努力しているまさにそのリスクが、現実のものとなる公算が大きくなるという点である。

Nouriel Roubini (c) Project Syndicate
このコラムについて
Project syndicate

世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。

Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。

Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。

その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。

先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。

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著者プロフィール

ノリエル・ルービニ氏

ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。米住宅バブルの崩壊や金融危機の到来を数年前から的確に予測したことで知られる。

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ゼロ金利が招くデフレの罠

2012年2月7日 火曜日
市村 孝二巳


米連邦準備理事会(FRB)は2014年終盤までゼロ金利政策を継続すると表明した。欧州中央銀行(ECB)も3年物の固定金利オペで銀行に資金供給し、資金繰りを支える。だが、超低金利が長く続けば続くほど、日銀と同じデフレの罠に捕らわれかねない。

 激しい舌戦を繰り広げている米共和党の大統領候補たちでも、珍しく意見が一致することもある。米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長についてである。

 「あいつはクビだ」。ニュート・ギングリッチ元米下院議長が息巻く。もう1人の有力候補であるミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事も「別の人を選ぶ」と再任を否定した。

 なぜ、これほど共和党の評判が悪いのか。その理由はFRBの量的緩和政策が「将来のインフレ期待を生んでいる」(ギングリッチ氏)から。日本における日本銀行批判とは全く逆である。
「2014年の終わりまで続ける」

 1月25日、FRBの最高意思決定機関、米連邦公開市場委員会(FOMC)はゼロ金利政策を2014年終盤まで続けると決めた。その後の記者会見でバーナンキ議長にこんな質問が飛んだ。

 「11月に共和党が政権を取って、辞任を迫られたらどうしますか?」

 議長の2度目の任期は2014年1月末まである。「政治的な質問にはお答えしない」と前置きしながら、「私にはやるべき仕事がある」ときっぱり答えた。

 その後に続けた金融緩和効果に関する説明が興味深い。「経済が非常に弱くなろうとしている状況から、完全雇用に近いところに戻し、成長率を高めるには低金利が必要だ。最後は貯蓄家にとっても投資家にとっても、あらゆる資産の収益率向上につながるのだ」。

 これは伝統的な金融政策の説明としては正しい。しかし、それは政策金利がゼロになる前までの話だ。

 世界最大の債券投資ファンド、ピムコの共同CIO(最高投資責任者)であるビル・グロス氏は昨年12月19日、英フィナンシャル・タイムズ紙への寄稿で「ゼロに張りついた超低金利は金融システムのレバレッジを再開させるどころか収縮させ、実体経済の拡大ではなく後退を招いている」と、日米欧の超低金利政策の罪を激しく批判した。

 グロス氏は「流動性の罠」といった従来の表現を超え、「名目金利がゼロに近づき、インフレ率を差し引いた実質金利が大きなマイナスになると、通常の金融機能は崩壊する」と指摘する。銀行はゼロ金利で資金を調達してもFRBの準備預金に預けたままで企業や家計には貸し出さず、金融市場が凍りついてしまうからだ。

 この現象は、ユーロ圏でも起きている。欧州中央銀行(ECB)は昨年12月21日、523の域内金融機関に5000億ユーロ(約50兆円)近い資金を固定金利で3年間供給するという前代未聞のオペレーションを実施した。

 これは、信用不安で流動性資金に飢えていた欧州銀行の渇きを潤した。一部は南欧諸国の国債入札などにも回り、ユーロは対ドルで1ユーロ=1.3ドル台、対円でも100円台を回復し、市場の小康を取り戻すのに成功した。

 マリオ・ドラギECB総裁は1月27日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、「5000億ユーロ弱のうち、銀行が短期調達資金の償還に充てた分を除いても2200億ユーロと、この間の銀行の社債償還資金に相当する金額を供給できた」と実績を強調した。

 だが問題は、その資金が実体経済に回るかどうかである。この2200億ユーロとほぼ同額が1月半ばまでにECBのマネタリーベース(現金と準備預金の合計)に積み上がったのも事実だ。ドラギ総裁は「ECBから借りた銀行と預けた銀行は違う。無担保の社債市場の取引もある程度戻ってきた」と言うが、安心するのは時期尚早だ。ドイツでは1月9日、6カ月物短期国債の入札利回りがマイナスになるという椿事が出来した。いくら金利をくれてもイタリア債やスペイン債はごめんで、金利を払ってでもいいから安心なドイツ債を買いたい人が多すぎるのだ。

 ドラギ総裁は「実体経済に波及効果が出てきたという証拠はまだない」と語る。ECBは2月29日にももう一度3年物の固定金利オペを実施し、国債や銀行社債の大量償還に備えて潤沢な資金を供給する構えだ。

 FRBやECBが直面している試練は、1999年2月、世界で初めてゼロ金利政策を導入した日銀にとっては、いつか来た道である。1月10日、白川方明総裁はロンドンでの講演で日銀がたどってきた、失われた20年の道筋をザ・ビートルズの名曲「The Long and Winding Road」になぞらえた。

 日銀はかつて「デフレ懸念が払拭されるまで」あるいは「消費者物価の前年比が安定的にゼロ%以上になるまで」、ゼロ金利を長く続けると宣言することによって、1年物より2年物、さらには3年、5年、10年と期間の長い金利に緩和効果を波及させる手法を「時間軸効果」と名づけた。

 リーマンショック後に導入した「企業金融支援特別オペ」を端緒に、政策金利と同じ水準の固定金利で期間の長い資金を供給することが、銀行の資金繰り対策としていかに有効かを実証したのも、やはり日銀だった。

 日銀の足跡をたどるような金融政策は今、米独の長期金利を全般に低下させ、期間別の国債の利回り水準をなぞったイールドカーブを平坦にする効果を発揮している。それは米欧がデフレを助長しかねない手段に依存せざるを得なくなったことの証左でもある。

 日本の失われた20年が実証したように、低金利政策には収益率の低い事業を温存させ、潜在的な成長力を低下させてしまうという、抜きがたい副作用がある。欧米も相次いで日本と同じ罠に捕らわれてしまうのか。
「もう一段の金融緩和」に含み

 FOMCは今回、前年比2%のインフレ率を「ゴール」として示した。バーナンキ議長は「我々は物価安定と雇用の極大化という、議会から与えられた2つの目標に等しく重きを置く。雇用で良い結果を得るために、物価が目標水準に戻るまで時間をかけた方がいい場合、我々はそうするだろう」と語り、杓子定規に目標をとらえるつもりはない、という立場を明確にした。物価上昇率が目標水準を超えても、昨年11月、12月と続けて利下げに踏み切ったECBと同様、柔軟に対応する姿勢だ。

 さらにバーナンキ議長は、雇用と物価の雲行きによっては「もう一段の金融緩和の用意がある」と語り、QE3に含みを残した。デフレの罠から抜け出そうとする中央銀行の新しい実験が始まった。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120203/226819/thumb_500_01.jpg

このコラムについて
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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。

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著者プロフィール

市村 孝二巳(いちむら・たかふみ)

日経ビジネス副編集長 兼 編集委員。

 

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コメント
 
01. 2012年2月07日 02:36:20 : IOzibbQO0w
>欧米も相次いで日本と同じ罠に捕らわれてしまうのか 

ユーロ圏の場合、完全な金融恐慌、つまり銀行破綻危機だから、ECBによる緩和が経済の安定化と信用収縮による倒産の連鎖を防ぐのに効果が大きい

しかし金融システム自体は安定している日米の場合は、量的緩和は、投資家は儲かるが、
通貨安競争による外需の奪い合いになってしまって、雇用には投入した金額ほど効果がないし、通貨安競争に負けた国では企業利益は減り、雇用が減少する

しかも投資家や資源国が儲けた分、大衆には通貨安&インフレによる生活低下の害悪だけが目立つことになる

全体のパイを拡大し、市場参加者全体の生活水準を向上するには、人々が必要とする財とサービスの生産性の向上、つまり投資の拡大しかないのだが

それには将来型のインフラ整備、既得権者排除、新規参入の促進などが必要で、少子化が進む日本では、成果が出るには大分時間がかかる

さらに労働などの規制緩和と同時に、BI的な社会保障の強化も必要で、なかなか政治的・財政的に実現は難しい

やはりメインシナリオは先進国は当分、衰退ということになりそうだな


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