短期間に同じ職種の4人の男性が同じ様な状況下で殺害された場合、名探偵モンクや刑事コロンボに登場を願うまでもなく、「4件の殺人事件には何らかの関連性がある」という判断が下されるだろう。そして「犯人は明確な目的を持っている」と推測せざるを得ない。

 この連続殺人事件がイランで起きた。過去2年間で核関連施設に従事する核学者や大学教授が遠距離操作の小型爆弾で爆死しているのだ。

 2010年1月12日には、テヘラン大学の核物理学者マスード・アリモハンマディ教授がオートバイに仕掛けられた高性能爆弾で殺害された。

 シャヒード・ベンシュティー大学工学部で核物理学の教鞭を取り、イラン原子力庁のプロジェクトにも関っていたシャハリアリ教授は同年11月29日、テヘラン北部の爆弾テロ事件で殺された。もう1人の核科学者は負傷。

 2011年7月23日には、テヘランの自宅前で同国の物理学者ダリウシュ・レザイネジャド氏が何者かに暗殺された。

 そして今月11日、首都テヘランで核科学者のムスタファ・アハマディロウシャン氏(32)がドアに取り付けられた爆弾で爆死した。その他、同国核物理学者のシャラム・アミリ教授はサウジアラビアへ巡礼に行って以来、行方不明となっている。

 当方は過去、3回、このテーマでコラムを書いてきた。「『イラン核物理学者連続殺人』の謎」2011年9月15日)、「誰がイラン核学者を暗殺したか?」11年9月22)、そして「イスラエル情報機関モサドの痕跡」11年11月17日)の3本だ。

 「イラン核科学者連続殺人事件」の犯人プロファイルを考えた場合、@連続殺人事件はイランの核問題と密接な関係があること、Aイスラエルはイランの核兵器製造問題を最も深刻に受け取っていること。Bイスラエルは過去、イラクの核関連施設、シリアの核施設を空爆したことがある、等が先ず考えられる。その結果、イスラエル諜報機関モサドの関与が限りなく濃厚という結論になるわけだ。

 もちろん、速断は要注意だ。殺害された核物理学者の中には反体制派活動に近い学者もいたからだ。イラン当局がテロに見せかけて彼らを粛清した「イラン当局犯罪説」も完全には排除できないからだ。

 その上、イスラエルがサイバー攻撃や軍事行動でイランの核兵器製造を一時的に妨害できたとしても、資金と能力を有するイランの核兵器製造計画を完全には破壊できないという現実がある。イスラエル当局もそれを知っているはずだ。



 以上、過去の動向を再度、考えてみた。イラン当局は11日の核科学者殺害事件直後、モサドの関与を主張し、「証拠が明確になれば、イスラエルとの軍事衝突も辞さない」といった強硬姿勢を示唆している。



 「イラン核科学者連続殺人事件」と平行し、イランの核問題に関連して、欧米諸国の動きが活発化してきた。欧州連合(EU)加盟国はイラン産原油の輸入禁止で基本合意。オバマ米大統領は年末、イラン制裁法案に署名し、イランの原油禁輸を決定したばかりだ。

 一方、イランは年末、ペルシャ湾で軍事演習を開始し、「ホルムズ海峡の封鎖」の可能性を示唆。今月2日には、長距離ミサイルの試射に成功。それに先立ち、イランは核燃料棒の製造に成功し、研究炉での試験を実施し、中部コム郊外フォルドウの地下施設でウランの濃縮作業を開始した。



 ちなみに、米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」によると、核戦争が勃発し、地球滅亡までの時間を示す「終末時計」が1分進められ、残り時間は「5分」となったという。




 
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