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プーチンの目論む地政学的戦略  京都産業大学世界問題研究所長 東郷和彦
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投稿者 大塩 日時 2012 年 2 月 13 日 11:26:24: .cSQld2Pk8LuA
 

プーチンの目論む地政学的戦略 京都産業大学世界問題研究所長 東郷和彦 
http://gekkan-nippon.com/?p=2736
『月刊日本』11月号


プーチンの大統領出馬宣言の意味
―― 9月24日、与党「統一ロシア」党大会での演説において、プーチン首相による次期大統領選への出馬宣言がなされた。また、プーチンは、首相ポストはメドベージェフ氏が引き継ぐべきだと述べた。
 これにより、引き続き「双頭体制」が維持される可能性が高くなった。昨年12月の憲法改正により、ロシアの大統領の任期は6年に延長されている。今後、プーチンは大統領として12年もの間、政権を維持することも考えられる。
 このようなロシア政治の動きを、どのように分析しているか。
東郷 私は9月11日から18日まで、シンポジウムに参加するためにモスクワを訪問し、その際、たくさんのオピニオン・リーダーと意見交換する機会をもった。そこで感じられたのは、圧倒的なプーチン人気だ。メドベージェフはプーチン権力の一齣でしかない、という意見も聞かれた。プーチンの大統領出馬宣言は、為されるべくして為された、といったところだろう。
 これまでメドベージェフが大統領、プーチンが首相というポストについていたことから、今回の決定を「権力のたすき掛け」と表現することがある。しかし、プーチンが大統領に就任することで、名実ともに権力はプーチンに一極的に集中することとなる。大統領は首相を解任することができるほどの強大な権力を持っている。次期プーチン体制とは、「二頭制」ではなく、まぎれもない「一頭制」だ。
 もっとも、ロシア国内には、プーチンが作ってきた社会に対する根深い不満もある。2000年にプーチン政権が誕生した際に彼が目標としたことは、国家権力の強化と安定であった。プーチンのリーダーシップと石油価格の上昇のおかげで、それはある程度成功した。
 しかし、その間にエネルギー産業は既得権益化してしまい、社会的な格差が急速に拡大している。エネルギー産業のポストは、プーチンの側近によって占められている。こうした状況に不満を持つ若年層などの間には、排外ナショナリズムが現れている。目立った暴動は起こっていないとはいえ、決して充足した社会であるとは言えないのだ。
 また、選挙活動では組織的な「一党体制化」が図られており、テレビは完全に統制され、地方の出版物は全般的に規制され、中央の出版物では自主規制が行われているなど、言論の自由も確保されていない。他方において、ネットの使用による情報伝達は速く、不満を伝える情報は事実上あっという間に拡散する。こうした状況から、貴重な頭脳や人材が逃げ始め、また、ロシアに対する投資も鈍化している。
 プーチンが再び大統領となり、これまでと同じようなやり方を続けていくとすれば、社会的矛盾が拡大することになるだろう。それ故、プーチンの側近は、これまでのプーチンとは違う「ニュープーチン」というイメージを作りだそうとしている。
 プーチンがメドベージェフを首相に推薦した意図もそこにある。それは、メドベージェフが4年の間にロシアに導入しようとしてきた、法の支配、汚職追放、西洋的なリベラルなものの良さを、今後も活かし、自分はそれを統括する更に強力な大統領になるということだ。


ロシアに軽視される日本
―― プーチン政権の再登場によって、ロシアの外交政策はどのように変化していくと考えられるか。
東郷 内政面に対して厳しい評価がなされているように、ロシアのこれまでの対外政策についても、ロシア国内では大きな評価が得られているとは思えなかった。例えば、「ロシアには今、統一的な対外戦略は存在しない。文書によるつじつま合わせ的なものはいくつかあるが、本当の国家目標、それを担保する明確な手段、実際にそれを実行する戦術となると、ほとんど何もない。」といった厳しい批判も聞かれた。
 現時点におけるロシアの対外認識においては、他の国家と同様、中国という存在が極めて大きなものとなっている。非常に多くの懇談者が中国の力を認め、この急速に力をつけてきている中国に対しては、正面から対立する政策をとることはあり得ない、もっぱら、経済的・知的・社会的交流を拡大していかなければならない、という見方を示していた。中国の海軍力の増強に関しても、それは西太平洋からインド洋に向かっているのであるから、ロシアが本質的な懸念を抱く必要はない、という見解も耳にした。
 他方で、急速に台頭する中国と良好な関係を保つことができるのか、ただ仲良くしているだけで本当によいのか、という意見も聞かれた。中国はロシアにとって、「経済力・人口・シベリア極東への進出、全ての面で脅威である」ということを、率直に述べる人もいた。
 これに対して、現時点におけるロシア外交においては、日本は軽視されている。私が参加したシンポジウムでは、ロシアのロガチョフ上院議員(元平和条約作業グループソ連側議長、後に中国大使)が「アジア太平洋外交」と題する短い演説を行ったが、アジア太平洋における協力国として日本の名前を挙げることはなかった。それを受け、シンポジウムのロシア側議長が「ロガチョフ議員の発言の中になぜ日本が言及されなかったかについて、日本の皆さんはよくお考えになった方がよい」と発言した。
 これは、2010年7月2日に、ラブロフ外相がハバロフスクで行った演説において、アジア太平洋諸国における潜在的な協力の可能性について触れる際に、日本の名前を挙げることがなかったことの延長線上にある。
 こうしたことの根底には、現大統領であるメドベージェフの対日不信がある。露骨な「日本外し」も、メドベージェフ体制におもねっているという面がないわけではない。それ故、プーチン体制に移行することにより、こうした傾向に変化が見られると私は考えている。もっとも、これは日本に対する目つきの善し悪しの問題ではない。プーチンとメドベージェフとでは、考え方に大きな違いが見られるという点が、更に重要だ。


プーチンとメドベージェフの違い
―― プーチンとメドベージェフの間に見られる本質的な違いとは何か。
東郷 ロシアの日本に対する見方は、大きく分けて二つある。第一の見方は、欧米の価値観を共有するアジアにおける先進工業国としての日本、といったものである。OECDのアジア代表と言ってもよい。これに対して、ユーラシアにおける中国の台頭を前にして、ロシアにとって地政学的・戦略的に有益な提携国としての日本、といった見方もある。この発想は、ユーラシア大陸における冷徹なパワーポリティクスに基づくものである。
 これまでのロシアの対日外交は、この二つの見解に基づいてなされてきた。エリツィン大統領の初期と後期の違いを見れば、それがよくわかる。エリツィン大統領は権力を握った当初、西側的な市場経済制度の導入と、そのための西側諸国との協力によってロシアの改革を実現しようとした。日本はアジアにおける西側先進国として、協力対象国の筆頭だった。このエリツィンの発想は、西欧の価値観を取り入れて社会主義を発展させようとしたゴルバチョフの発想を飛躍させたものと言ってもよいだろう。
 しかし、西側諸国との協力は思っていたような成果をあげなかったし、冷戦時代の反ソ組織の代表であるNATOが東方に拡大してきた。エリツィン大統領の後期は、地政学的なロシアの位置に基づき、アジアにおける独自の歴史と立場を持つ日本との提携を考えた。同じ日本重視でも、視点が違っていたのである。アジア太平洋への橋頭保としての日本重視と言ってもよいかもしれない。
 このような視点から見てみると、メドベージェフにとっての日本は、明らかに前者の立場と共通する。ゴルバチョフ以上に西洋的な思考の持ち主とさえ言われたメドベージェフは、法の支配、代表制民主主義、汚職追放など、近代国家としてのロシアを確立するための政策を行おうとしていた。
 これに対して、プーチンは後者の立場を基礎としている。それ故、大国化する中国に対するロシアの立場を考え、ユーラシアにおけるロシアの地位を確立するために、プーチンが戦略的に日本を重視する可能性は大きい。もっとも、これは、プーチンが西洋的な価値観を否定している、ということでは決してない。ロシア経済を発展させるためには、効率的な市場原理の運用は不可欠であり、OECD諸国とも上手く付き合って行く必要がある。そのためにこそ、これからは、メドベージェフが首相としてそういう近代化推進の課題を担っていくことになる。
 しかし、プーチンのより大きな課題は、ユーラシアという地政学的な空間に、欧米ともアジアとも違う、ロシアという独自の空間を作り上げることである。プーチンはこれまでの発言で、哲学者であるイワン・イリンについて言及することが多かったが、それもこうした考えの上になされているものであろう。(以下略)

*本稿は編集部の許可を得て投降しています。  

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