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「年金受給者4千万人」を「輸出」すると、貿易額も輸出額も倍増し、年金も消費税も廃止でき、老若ウィンウィンが実現します。
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投稿者 小沢内閣待望論 日時 2011 年 6 月 22 日 15:15:33: 4sIKljvd9SgGs
 

「貿易収支の赤字」は「日本の競争力の衰え」なのか  赤字そのものをあまり気にすることはないが
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/243.html
投稿者 sci 日時 2011 年 6 月 22 日 14:41:54: 6WQSToHgoAVCQ

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110620/221025/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論
「貿易収支の赤字」は「日本の競争力の衰え」なのか

国際収支を巡る議論 現状編

2011年6月22日 水曜日 小峰 隆夫

 前回は国際収支についての基礎的な事項を説明し、(1)貿易収支だけで見るのはあまり意味がない(経常収支はまだ意味がある)、(2)経常(貿易)収支の黒字が赤字より望ましいわけではない、(3)国際収支はそれ自身が政策目標となるのではなく、多様な経済活動を映し出す鏡だと考えるべきである、ということを説明した。

 今回は、その国際収支に最近現われている変化について考える。論点が多岐にわたるので、最初にどんな点を論じていくのかを明らかにしておこう。

 第1に、震災後、貿易収支が赤字に「転落した」ことがしばしば取り上げられている。「転落した」という言葉に象徴されるように、貿易収支の赤字化は日本経済そのものが経済の活力を失いつつあることを示しているように受け止められているようだ。これは正しいのだろうか。

 第2に、やはり震災と関連して、「外貨準備を復興財源として使ってはどうか」という考えが出てきた。確かに、日本は90兆円以上の外貨準備があるのだから、これを復興財源にするのは名案に見える。本当にそうなのだろうか。

 第3に、やや長期的に見ると、貿易収支だけではなく、経常収支もまた近い将来赤字に「転落する」と言われている。前回述べたように、経常収支は資本収支と(符号が逆で)同じ動きをすることになっており、経常収支が赤字になると資本収支は黒字となる。つまり、日本が借金をすることになる。すると、巨額の財政赤字についても海外からの資金に頼ることとなる。その時日本の国債の信用は維持できるのだろうか。

 第4に、経常収支は国際的な視点からも注目されてきている。いわゆる「対外不均衡」の議論がそれである。経常収支の反対側は資本収支なのだから、経常収支の不均衡が大きいと、それだけ国際的なネットの資金移動も大きくなりがちとなる。それがバブルを産むなどして経済を混乱させることが懸念されている。

 このように、現時点での国際収支をめぐる論点は多岐にわたっている。このうち今回は、震災との関係で生じている第1の論点を取り上げる。

 日本の貿易収支は、長い間黒字を続けてきた。しかし、震災を契機としてこれが赤字となった。新聞や雑誌で「貿易収支赤字に転落」と報じられた現象である。この原因を探り、それを評価するために、ステップを踏みながら考えていこう。

ステップ1 貿易収支と経常収支の関係を見る

 前回説明したように、震災前の日本の経常収支の標準形は、(1)貿易収支は黒字でサービス収支は赤字、(2)貿易収支黒字の方がサービス収支の赤字より大きいので、貿易・サービス収支は黒字、(3)所得収支は大幅黒字、(4)この結果経常収支は大幅な黒字というものであった。これが大震災を契機としてどう変わったのかを見ておこう。

 もっとも大きく変わったのは貿易収支である。国際収支統計によると、震災前2010年2月の貿易収支は4907億円の黒字、経常収支は1兆2200億円の黒字であった(季節調整値、以下同じ)。ところが、この貿易収支が、3月には333億円の黒字に縮小し、4月には5611億円の赤字になってしまったのだ。全く劇的な変化である。

 ただし、それ以外の項目については目立った変化は見られていない。この結果、経常収支は3月が7527億円、4月も5463億円の黒字であった。

 「貿易収支が単独で重要な経済的意味を持つということはなく、意味を持つとすれば経常収支だ」というのが前回の説明であった。この説明が正しいとすると、「貿易収支が赤字になったこと」それ自体に大きな意味があるわけではなく、意味があるとすれば「貿易収支が黒字から赤字に変化したことによって、経常収支の黒字が大きく減少した」ことだということになる。

 ただし、これまた前回の説明で「国際収支は、経済活動を映す鏡である」ということだった。すると、「貿易収支が赤字になった」ことそのものよりも、「なぜ貿易収支が赤字へと劇的に変化するようなことが起きたのか」という背景の方が重要だということになる。以下、その背景を見ていこう。

ステップ2 輸出の変化と輸入の変化

 そこで次のステップとして、貿易収支がなぜ変化したのかを見るために、これを「輸出」と「輸入」に分けることにしよう。「貿易収支」自体が独立に変動することはなく、必ず「輸出の変動」と「輸入の変動」の結果として貿易収支が変動するからだ。

 まず輸出金額の前年比を見ると(原数値、以下同じ)は、2月は9.7%増だったが、3月は1.4%減、4月も12.7%の減少となった。明らかに震災以降輸出が減っていることが分かる。一方輸入は、2月は13.1%増だったのが、3月は16.6%増、4月も12.3%増となっている。つまり、輸入のほうは震災前から高い伸びとなっており、それが震災後も続いていることが分かる。貿易収支が赤字になったのは「輸入金額が高止まりする一方で、輸出金額が激減したからだ」ということになる。

ステップ3 名目と実質に分ける

 次に、「名目」と「実質」に分けることを考える。「名目」は我々が目にする金額であり、「実質」はこの「名目」から物価の変動を除いたものである。例えば、輸出金額(名目)が5%増えたとき、輸出価格が3%上昇していたとすると、実質輸出の伸びは2%だったことになる。前回の説明で、「GDPの外需」と「貿易・サービス収支」がほぼ同じだと説明した。ところがよく考えてみると、我々が普通見ているGDPは「実質」である。よって、我々が見ている「外需」も実質である。ところが、国際収支は基本的には「名目」の世界である。そこで貿易収支と成長率などの実体経済との関係を考える際には、輸出入についても「実質がどうなっているか」を考える必要がある。

 しかし、国際収支統計は名目値だけなので実質は分からない。そこで財務省の関税局が作成している「貿易統計」を見ることになる。ただし、国際収支統計の輸出入と貿易統計の輸出入は若干異なる。国際収支統計の輸出入には関税が含まれていないのだが、貿易統計の輸入には関税が含まれているからだ。ただしここでは前年比ベースの変化を見るので、この差はあまり気にしないことにする。

 この貿易統計を見ると、名目輸出入の動きを「数量」と「価格」に分けることができる。数量は例えば、「鉄鋼が何トン」「自動車が何台」という「量」の動きであり、価格はその値段の動きを示す。後述するように、厳密にはGDP統計の「実質輸出入」と貿易統計の「輸出入数量」は同じではないのだが、煩雑になるのでここでは同じだと考えることにする。

 表は、貿易統計によって、震災前後の輸出入金額の伸びを数量と価格に分けたものである。定義的に、「金額の変化率=数量の変化率+価格の変化率」という関係がある。

 この表を見ると、3月以降、輸出価格については目立った変化がなく、輸出金額の減少は、もっぱら数量の落ち込みによるものだったことが分かる。一方、輸入については、震災後数量の伸びは鈍化しているが、価格上昇の度合いが強まっている。つまり、輸入が高い伸びを続けたのは、「数量の伸びの鈍化を打ち消すほど価格上昇の影響が大きかった」ということになる。

 以上を総合すると、震災後貿易収支が赤字化したのは、輸出数量が激減したことと、輸入価格が高い上昇率を続けたことによるものであることが分かる。

貿易統計による震災前後の輸出入の動き(前年比、%)
2011年 輸出 輸入
金額 数量 価格 金額 数量 価格
2月 9.0 9.2 ▲0.2 10.0 4.9 4.9
3月 ▲2.3 ▲3.3 1.0 12.0 5.5 6.2
4月 ▲12.4 ▲11.6 ▲0.9 8.9 1.3 7.5
5月 ▲10.3 ▲10.8 0.5 12.3 5.5 6.5
出所:財務省「貿易統計」
 なお、ややマニアックになるが、GDPの実質輸出入と貿易統計の輸出入数量は、概念としては同じだが、いくつかの違いがある。その証拠に、GDPの実質輸出は2011年1−3月期2.1%の増加(前期比)、一方輸出数量は0.3%の増加である。同じく実質輸入は1.9%の増加、輸入数量は0.9%の増加だった。「大体動きは同じだ」と言えないこともないが、やはり違う。これには2つの理由がある。

 一つは対象範囲の違いだ。前回説明したように、GDPの輸出入は、貿易・サービスを合わせたものだが、貿易統計の輸出入数量は貿易面だけで、サービスは入っていない。

 もう一つは、名目から差し引く「物価指数」の違いだ。GDPの場合は、通常の物価統計と同じように、特定の輸出入品目についての価格変化を調べ、それを基準年のウェイトで合成して輸出入デフレータを計算する。これに対して、貿易統計は数量そのものである。すると、高い車を輸出しても安い車を輸出しても「同じ1台」ということになる。したがって、貿易統計の価格は、物価指数ではなく、輸出入金額を量で割った「単価」なのである。

 余談だが私は、経済企画庁時代、国際経済第一課長という職務についていたことがあるのだが、このポストの一つの任務に、年2回OECDの経済専門家会議に出席して、日本経済の現状と見通しを各国代表の前で説明するということがあった。30分程度で説明を終えると、各国の代表者から質問が山のように飛んでくる。その中でしばしば登場したのが、「GDPの実質輸出入と貿易統計の輸出入数量の動きがなぜ違うのか」ということであった。これを英語で説明するのは結構大変だったのだが、その時を思い出しながらこの原稿を書いているわけだ。

 ついでにもっとマニアックになると、GDPの輸出入デフレータの動きと貿易統計の輸出価格の動きを比較することによって、輸出入品の「高付加価値化」の程度を分析するということも行われている。例えば、同じ自動車でも輸出品の構成がより高級車になると、輸出デフレータは変化しないが、輸出単価は上昇するからだ。ここまで行くと「ワンクラス上」ではなく「ツークラス上」の領域かもしれない。

ステップ4 数量と価格変動の要因を説明する

 次に、実質ベースの動きと価格の動きをそれぞれ説明しよう。実質ベースの動きは通常、「所得要因」と「価格要因」によって説明できる。「所得要因」というのは、需要側の所得が変化したことによるものだ。例えば、アメリカの景気が良くなると日本の自動車の輸出が増えるのがこれに当たる。「価格要因」は、価格の変化によってもたらされるものだ。例えば、日本の自動車メーカーがアメリカ向けに今までよりも安い値段で売るようになったので、輸出が増えるといったことがこれに相当する。

 このうちで、日本の景気変動を考えるときに大変重要な役割を果たすのが「所得要因」である。例えば、2008年後半のリーマンショック後、日本の景気は急激に悪化したが、これは世界経済の冷え込みで日本の輸出が激減したからだ。この輸出の激減は、貿易相手国の景気が悪化したことによるものであり、「所得要因」が作用した結果である。同じように、日本の景気は2009年3月を底に回復過程に入るのだが、これは世界経済の回復によって日本の輸出が増加し始めたからである。これも所得要因によるものだ。日本の景気が良くなったり悪くなったりするきっかけになるのは、所得要因が実質輸出に作用することによる場合が多いのだ。

 所得要因と価格要因という区別は、身近な経済事象を考える時にも広く応用できる便利な考え方だ。例えば、ある百貨店の売り上げが増えた時、それが消費者の懐具合が良くなったことによるものであれば、「所得要因」である。または、百貨店サイドが努力して品揃えを改善したり、価格を下げたりしたことによるものであれば、広い意味での「価格要因」である。この時重要なことは、所得要因の場合はライバルも売り上げを増やしており、価格要因の場合は自分だけ売り上げが増えているのだから、マーケットシェアが上昇しているということである。

 ついでに、やや脇道にそれるが、これを輸出と海外市場の関係に応用すると、所得要因によって輸出が増えている場合は、相手国の競争相手も売り上げが増えているはずなので、相手国の雇用に影響を及ぼすことはなく、摩擦にはならないということでもある。日本が中国にどんどん輸出を増やしても全く摩擦にならないのは、日本からの輸出が増えているのは(競合するメーカーがないという事情もあるが)、中国の市場が高成長しているからであり、もっぱら所得要因によるものだからだ。

 では、震災後の輸出数量はなぜ減ったのか。残念ながら、今回は通常の所得要因と価格要因は使えない。日本の貿易先の経済が3月以降、特に後退したわけではなく、日本の輸出品の品質や価格が特に変化したわけでもないからだ。

 3月の大震災以降日本の輸出が急減したのは、所得要因でも価格要因でもなく、「需要はあるのだが、作れない」という状態になってしまったからだ。いわゆるサプライチェーン問題である。

 自動車、電気製品など機械類の生産は多くの部品から成り立っている。こうした部品を調達し、生産現場間を流通させるのがサプライチェーン・ネットワークである。このネットワークに一カ所でもボトルネックが生じると、最終製品の生産がストップしてしまう。今回災害に見舞われた東北地方は、自動車、電気機械関係の部品生産の集積地であった。しかもその部品の中には、電子制御装置など他の生産地では代替できないような部品類がかなりあった。このため震災後にボトルネックが広範に生じ、輸出したくても出来ない状態に陥ったのである。

 では、輸入価格はなぜ高止まりしていたのか。これは主に一次産品価格が上昇したからである。例えば4月の貿易統計によると、原粗油の輸入金額は7.9%増えているのだが、数量は14.0%減っている。ということは、価格が20%以上も上昇しているということである(輸入金額の増加率=輸入数量の増加率+輸入価格上昇率だから)。同じく穀物類の輸入金額は36.9%も増えているが数量は7.1%の増加である。価格はこれまた30%近く上昇していることになる。

 このような一次産品価格の輸入価格の上昇は、交易条件を悪化させ日本経済にとっての重荷となるのだが、これは日本の震災とは無関係であり、別の問題として考えた方がいいだろう。

震災後の貿易赤字の原因とは

 以上詳しく検討してきたが、主な結論は次の通りである。

 第1に、貿易収支の赤字そのものをあまり気にすることはないように思われる。

 震災後に貿易収支の赤字化という大変化が生じたのは、一次産品価格の高止まりという基調が続いている中で、生産のサプライチェーンが途切れたことにより、輸出ができなくなったからである。つまり、本当の問題は「貿易収支が赤字になったこと」ではなく「サプライチェーンが分断されてしまったこと」である。サプライチェーンが分断されてしまったら、需要があっても供給が不可能になり、その分、経済活動が縮小してしまう。これこそが真の大問題だったのであり、貿易収支の赤字化はその結果として表面化した現象だったといえるだろう。

 国際収支という観点からは、経常収支は依然として黒字なのであり、その意味からも貿易収支の赤字が問題となるわけではない。ただし、さらに貿易赤字が拡大していけば、いずれは経常収支も赤字化することもあり得る。すると今後の問題は、サプライチェーンの回復がどの程度速やかに進むかだということになる。

 この点は将来展望の話になるので色々な意見があり得るが、私は、思ったよりも生産体制の復旧は早いのではないかと考えている。各方面で、競争相手のメーカー、製品メーカーと部品製造メーカーなどが協力し合って、生産体制の復旧が進んでいるという話を多く聞くようになった。いわゆる「現場力」の発揮である。日本には、構成員全体が共通の危機に瀕し、その危機をもたらしている問題点が明確になると、現場の人々が寄ってたかって問題を解決していってしまうという伝統があるようだ。

 統計的にも、鉱工業生産指数の動きを見ると、3月にマイナス15.5%という空前の落ち込みを記録した後、4月には1.0%増となって早くも落ち込みが止まった。さらに同予測指数によると、5月は8.0%、6月は7.7%の急回復が予想されている。この通りになるとすれば、6月の生産のレベルはほとんど震災前に戻ることになる。いかに生産の復旧が急テンポで進んでいるかが分かる。

 生産体制が復旧してくれば輸出も急回復するはずだ。輸出が元に戻ってくれば貿易収支の姿も元に戻ると考えるのが自然だ。

「黒字」「赤字」という言葉遣いの問題も

 第2に、ここで述べた以外の要素は今回の貿易収支赤字化とは関係がない、ということも重要な点だ。

 本論では、貿易収支赤字化の背景を詳しく検討してきた。「なるほど分かった」と思われた方に考えて欲しいのは、「ここで述べたことが背景であるとすれば、それ以外のことは背景ではない」ということだ。

 例えば、貿易収支が赤字になった(輸出よりも輸入が多くなった)という現象を目にすると、多くの人は「日本の競争力が衰えた」と考えるようだ。私は、これは「マクロとミクロの混同だ」と考えている。この点はやや複雑だが、次のようになる。

 本論における説明では、貿易収支を内外景気の動きや資源価格の動きで説明してきた。これは、貿易収支というマクロ(経済全体)的な現象はマクロ的な変数で説明するというのが基本だからである。ただし、ミクロ的な貿易収支、例えば、自動車の貿易収支、繊維製品の貿易収支には、日本の競争力が反映される。日本が自動車部門で黒字、繊維部門で赤字となっているのは、日本の産業が自動車で強い競争力を持ち、繊維製品では競争力が弱いからだ。しかし、こうしたミクロ的な競争力によってはマクロ的な貿易収支の変化を説明することはできないのである。

 競争力という概念を安易に持ち込むと、貿易が「勝った、負けた」の議論になってしまうことにも注意が必要だ。ミクロ的には競争力に優る産業で貿易収支が黒字になり、劣る産業では赤字になりやすいことは事実だ。その意味では「勝った、負けた」の世界なのかもしれない。しかし、これも前回説明したように、貿易においては、輸出が善で輸入が悪ということではない。輸出が日本国民の所得と雇用機会の源となり、同時に海外の人々の暮らしをより豊かにしているのと同じように、輸入もまた海外の人々の雇用機会を提供するとともに、同時に日本国民の生活を豊かなものにしているのだ。

 第3に、以上のような説明にもかかわらず、多くの人が貿易赤字を大変気にするのはなぜか、という点も重要な論点だ。

 私は、この点は「言葉遣い」にも大きな原因があると考えている。前回説明したように、貿易収支、経常収支は黒字の方が望ましいとは必ずしも言えない。しかし、普通の人であれば「黒字」の方が「赤字」よりも望ましいと考えるのが自然だ。黒字だったのが赤字になったことを、黒字から赤字に「転落した」と表現されることが多いのも、「黒字が望ましい」という潜在的な価値判断があるからだ。しかし、これは一国全体の経済と家計経済を同一視しているからであり、誤解の元である。私の考えでは、貿易収支、経常収支は、景気、資源価格、貯蓄投資の関係などを反映して動くのであり、その背景を分析して初めて評価することが出来るものだ。結果的な黒字や赤字の大きさだけで「望ましいかどうか」を判断できるものではない。

 私は、「黒字」「赤字」「転落する」といった表現は、言葉自体に価値判断が含まれたもので、「経済的差別用語」に相当するものであり、撲滅すべきだとさえ考えている。言葉自体に価値判断が入ってしまうと、クールな議論が阻害されかねない。黒字ではなく「輸出超過」、赤字ではなく「輸入超過」、「赤字に転落した」ではなく「輸入超過に転じた」と表現すべきではないか。


小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論

「ワンクラス上」というタイトルは、少し高飛車なもの言いに聞こえるかもしれません。でもこのタイトルにはこんな著者の思いが込められています。「タイトルの『ワンクラス上』は、私がワンクラス上だという意味ではありません。世の中には経済の入門書がたくさんあり、ネットを調べれば、入門段階の情報を簡単に入手することができます。それはそれで大切だと思います。しかし、経済は『あと一歩踏み込んで考えれば新しい風景が見えてくる』ということが多く、『その一歩はそんなに難しくはない』というのが私の考えなのです。常識的・表面的な知識に満足せず、もう一歩考えを進めてみたい。それがこの連載の狙いであり、私自身がその一歩を踏み出すつもりで書いていきたいと思っています。コメントも歓迎です。どうかよろしくお願いいたします」。日本経済、そして自分自身の視点を「ワンクラス上」にするための経済コラムです。

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小峰 隆夫(こみね・たかお)


法政大学大学院政策創造研究科教授。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動』、『超長期予測 老いるアジア』『女性が変える日本経済』、『最新日本経済入門(第3版)』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会』ほか多数。  

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