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東電福島第１号原発事故は最悪の事態（メルトダウンからチャイナシンドローム）だけは避けられたようだ。この事故拡大を防ぐ作業に従事した人たちの献身的な働きが無ければ、おそらく８６年に旧ソ連で起きた、チェルノブイリ原発事故並みのレベル７の原発事故になっていただろう。この作業に従事した人、今なお作業している人、これから従事する人たちに対し、改めて敬意と感謝の気持ちを述べたいと思う。
この事故は、最終的にはどのような形で終結するのだろうか。海水が注入された原子炉の廃炉は間違いない。また、原発構所内は高濃度の放射能で汚染されており、人が通常作業できる環境ではなくなったと推測される。この事故による原発周辺の放射能汚染区域がどの程度になるかも問題だ。なるべく狭い範囲であって欲しいものだ。そしてこれからは、農産物・海産物の放射能汚染が深刻な問題になるだろう。
既に、福島・茨城県産の牛乳やホウレンソウから、食品衛生法の暫定基準値を超える放射性物質が検出されたとの報道がなされた。今後もこの種の報道が、相次ぐことが予想される。今回、枝野官房長官は「ただちに皆さんの健康に影響を及ぼす数値ではない。冷静な対応をお願いいたしたい」と呼びかけた。政府高官が冷静な対応を呼びかけることは必要である。だが、少し非科学的で、無責任な内容・例示であった。
枝野氏は、今回の検出と同量の放射性物質のホウレンソウと牛乳を１年間とった場合の被曝線量に関し、牛乳がＣＴスキャン１回分、ホウレンソウが５分の１程度だと説明したそうだ。これは全くの誤魔化しである。枝野氏は専門家でないとしても、放射能と放射線との違い、放射性物質ごとの影響の違いくらいは勉強しておくべきだ。
放射能と放射線の違いは、テレビで何度も解説されているので、多くの人は理解されていると思う。分からなければ電球と光線の関係を考えればいい。放射能が電球で、放射線が光線だと考えると分かるだろう。そしてこの放射線を出す物質を、放射性物質と言う。放射線にはα線、β線、γ線、中性子とⅩ線などがある。ＣＴスキャンはＸ線で、核分裂して生じる放射性物質から出る他の４つの放射線とは違う。
α線は紙１枚で、β線は数ミリ厚のアルミ板で遮蔽できる。γ線は透過力が強く、コンクリートなら５０センチ、鉛でも１０センチの厚みがないと遮蔽できない。中性子は透過力が強く、コンクリートや鉛では遮蔽できない。中性子の透過力を弱めるのは水である。なお原子炉が、軽水炉と呼ばれるのは、原子炉内で核分裂により発生する中性子を、軽水（重水に対して普通の水のこと）で封じ込めた炉だからである。
放射性物質が発する放射線の量は、時間の経過と共に減衰する。電球（＝放射能）の明るさ（＝放射線量）が半分になるまでの時間を半減期と言う。この半減期は放射性物質によって違う。新聞は、既に放射性ヨウ素と放射性セシウムが各地で測定されたと報道している。放射性ヨウ素の半減期は８日と短いが、放射性セシウムは３０年もかかる。従って、これからは、何がどれくらいの量あるかが問題になる。
ホウレンソウや牛乳から放射線が測定されたと言うことは、付着したか、或いは牛乳の中に溶け込んだ放射性物質から出る放射線を測定したことになる。ＣＴスキャンとは胸部レントゲンと同じくＸ線写真である。胸部レントゲン写真に比べＸ線の線量が多いが、体内を通り過ぎて行くのは同じである。これに対して、ホウレンソウや牛乳は食物として体内に摂りこむ。その時放射性物質も一緒に摂り込むことになる。
食物と一緒に体内に取り込んだ放射性物質が、全て２４時間以内に体外に排泄されるなら、被曝線量で比較してもいいだろう。だが、体内に摂り込まれた放射性物質がどのような挙動をとるかは全く分からない。核分裂で生じた放射性物質からはα線が出るが、紙１枚で遮蔽できるα線は、体内に入った後、その線量を測定できない。逆に言うと、体内はα線を発する放射性物質により絶えず被曝していることになる。
体内に摂り込まれる食物の放射線量と、体内を通過するだけのＸ線の放射線量を比較することは、科学的にみて妥当な比較ではない。比較するなら放射線量ではなく、人体に影響を与える放射線の強さを表わす単位・ベクレルを使うべきだ。ＣＴスキャンと比較するなら、そのベクレル量で比較すべきなのである。それをせず、体内に摂り込む食物について、軽々しく「直ちに健康に影響が出る量ではない」などと言うのは無責任だ。そのような発言が、国民の信頼を失うことになる。
http://www.olive-x.com/news_30/newsdisp.php?n=105565
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