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原発問題と日本の政治を考えるヒント=内田樹の研究室『浜岡原発停止について』
http://www.asyura2.com/11/senkyo112/msg/900.html
投稿者 wordblow 日時 2011 年 5 月 12 日 01:30:19: 0b5D99uguBdUI
 

ここにご紹介する内田樹氏のブログ記事、『浜岡原発停止について』は、なかなかタイムリーな論考である。

すべてを数量の大小に還元して論じるのが、3.11から今日まで、2ヶ月間にわたる原発問題のドミナントな論調だったからだ。問題点を量に還元して論じるためには、原発や地震、津波に関する詳細な情報と高度な専門知識が必要である。そこで議論の多くは、専門家と、福島原発の現状を把握しているはずの東電にゆだねられた。大多数の国民主体と原発被災者は、東電と政府の発表に一喜一憂するだけで放置され、原発を議論する舞台からは阻害された。これが東電と菅内閣の意図する危機対応の世論誘導だと気づきながら、原発問題への有効な視点を国民が奪われる最大の障壁になった。

たとえば、この論理上に「想定外」発言がある。原発の安全性は襲ってきた津波の高さに還元される、というわけだ。10mまでならOKなのに、15mだからOUTだったというように。また菅内閣は、人体に与える放射能の許容量、「年間被曝線量」の上限を引き上げて国民の恐怖を緩和し、原発被害の拡大を見せかけの上で押さえ込もうとした。だが、この政治手法は、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏による指摘や小佐古敏荘氏の内閣官房参与辞任などを通して、多くの者に気づかれるに至った(参考:『5月7日 子供に年間20mSvは許されるのか』投稿者 gataro氏)。ここにも、すべての問題を量の大小に還元して危機をやり過ごそうとする、菅内閣の権力的で皮相的な意図が隠されている。

とりあえず内田氏は、
「浜岡原発の運転の可否についての議論はもちろん専門的な機関で行っているのだろうが、結論はわかっている。『安全性に問題はない』である。でも、東海大地震が起きて、放射性物質が漏出するような事態になったら、政府機関も中電の経営者も原子力工学の専門家たちも、口を揃えて『想定外の事態だった』と言うに決まっている」
と述べ、
「福島に続いて静岡で原発事故が起きたら、もう『日本というシステム』に対する国際社会の信用は回復不能のレベルにまで下がるであろう。メーカーへの送電や、株主への責任や、天然ガスの手当てといったレベルでの不安はあるだろうが、それは首都圏が福島・静岡の事故に挟撃された場合に日本が失うものとは比較にならない」
と畳みかける。

よく内田氏が口にされる「リスク」と「デインジャー」の異次元性が論じられている(「リスク」は数量的に論じることができるが、「デインジャー」の結果は壊滅であり、数量的次元を超える)と読める。今日まで原発問題は「リスク」としてのみ論じられてきたが、それは「デインジャー」の問題なのだ、というふうに。ここに数量的還元を行うペテンの仕掛けが隠されていたのだ。原発問題は日本の壊滅ではなく、ちょっとした技術的、地方的な災厄に関係するかのように。

しかし内田氏の指摘はそこに留まらない。
「それにしても、高い確率で大地震が起こる地盤の上に原発を建てた人間はいったい何を考えていたのか。何も考えていなかったと私は思う」。

こうして原発問題は、人間論、ないし他者論に接続される。

「『どうせ地震が来て、原発事故が起きるなら、日本列島が全壊してしまうような規模の破局の方がありがたい』と。というのは、そのとき(つまり、『北斗の拳』的世界においては)、彼らの旧悪を追求するような司直の機能はもう日本列島上には存在していないはずだからである。だから、無意識的に彼らは活断層の上に原発を建てることを選んだのである。私はそう思う」
と結論の第一が説得力をもって述べられるが、詳しい理路にご興味のある方は冒頭のリンクをたどられたい。

しかしながら、内田氏の主張の核心は次のところにあるだろう。
「テクノロジーは価値中立的なものである。テクノロジーに良いも悪いもない。でも、愚鈍で邪悪な人間たちに原子力テクノロジーの操作を委ねることには反対する。そして、『愚鈍で邪悪な人間たち』というのは端的に『人間というもの』と言うのとほとんど同義なのである」

「愚鈍で邪悪な人間たち」と「人間というもの」が同義だとしたら、自分をふくめた人間らしさの前提に怪物性を置くことを意味し、遠くは、近現代の思想史を一変させたアウシェヴィッツの理解とも呼応する。しかし、このホラー的な人間論(他者論)は、なおも「隣人を愛せ」と言明した内田先生の大恩師、レヴィナス氏の根底に疑問を投げかけることにならないか――と論じたてるのは、この場に与えられた分を超えているだろう。

5月10日、菅首相は浜岡原発の停止要請に加えて、政府のエネルギー政策の白紙撤回を表明した。また、自然エネルギーの利用や省エネ社会の構築など、新機軸への期待も述べられた。だがラジオ放送の出席者が一致したように、こうした首相の表明は官僚や閣僚、党内で根回しされたものではなく、おそらく個人の私案を超えるものではないだろうと推測される。党内で菅氏の求心力は低下しており、また統一地方選に見られるように、いまや民主党自体が国民に見放されている。思えば菅氏は、スタート時点から党内の抗争に明け暮れてジャコバン党のロベスピエールを演じ、突然の消費税アップ宣言によって参院選の惨敗を招き、まことに奇妙な閣外協力を唱え、思考力と指導力の欠如、マニフェスト違反の公然化などによって国民の支持を失ってきた。いまなお首相の座を欲望する、そのことをもって、首相にふさわしくない人格とすら診断できる。

現在の日本は不幸な国である。大地震と津波によって尊い人命と基幹産業を失い、原発事故の収束も予想できず、放射性物質は大気中に海中に垂れ流し同然である。その東電は巨額の公的資金(税)を政府に要請し、一方では、早くも各地で地震不況が広がりだしている。政権の指導力は弱く、土下座したり四国行脚にでかけるのと同じ個人的なパフォーマンスを反復する首相は、その役割に不向きである。野党は政権の崩壊を虎視眈々と願っている。その不幸のさなか、国と国民を心配しているのは国民自身であることを、これほど強く印象づける日々はなかった。人間の怪物性にもかかわらず、世界が奇跡と呼ぶにふさわしい出来事に、いま、この国は満ちている。

この日本は復興し、世界に誇れる人間的な国になることを誓おうではないか。
その夢がいつ実現するとは予想できなくても。
 

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コメント
 
01. 2011年5月12日 12:33:24: 8qh0RpcuXs
>「それにしても、高い確率で大地震が起こる地盤の上に原発を建てた人間はいったい何を考えていたのか。何も考えていなかったと私は思う」。

これは、何も考えていなかったのではなく、考慮しなかったのだと思いますね。
つまり、日本の地震予想学がインチキなことは科学界(原子力工学を含む)では
既知の常識であるということか、
または学問分野の縦割りで地震予想学と原子力工学には何の連結もない、ということか。
(おそらく本当の原因は前者だと思いますが)

内田氏は科学界にうといので、日本の地震予知学の虚構性を無視して真理でも発見されていると思い込んでいるのかも。


02. 2011年5月12日 14:59:19: SqOcK4D0Q6
東海地震が起こったら、「想定外」といえばいいんですよね。
わかります。

03. 2011年5月13日 15:51:25: keIubE8Ivw
浜岡停止による経済活動打撃の「リスク」と浜岡原発事故の「リスク」を天秤にかける論議などが横行していますが、これは、「リスク」と「リスク」とを同レベルで(量的に)評価できる問題ではなく、「リスク」と「デインジャー」という異質なものであること、これは納得できることです。
「精緻」な専門理論を繰り広げる人たちが、このように根本的で単純なことを理解できない現状への告発として、この投稿に共感します。

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