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原発事故賠償の理不尽 この国のｻﾗﾘｰ族は余りに｢お人好し｣
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2011/7/20 日刊ゲンダイ ：「日々担々」資料ブログ
収入の全額を捕捉されているｻﾗﾘｰ族の所得税が値上げされ地震原発災害賠償の原資にされようとしているが､それでいいのか
--悪政に怒りもせず､女子ｻｯｶｰが世界一だと大喜びし､賃金がﾄﾞﾝﾄﾞﾝ国にｼﾎﾞﾘ取られ勝手に使われているのに､それでも猛暑の中を牛馬の如く働いている被害者が加害者に代わって賠償金を支払う――｡そんな常識では考えられないﾃﾞﾀﾗﾒが､この国でまかり通ろうとしている｡
稲わらを与えられた肉牛はもちろん､その肉を食べた消費者も､放射性ｾｼｳﾑまで入っているとは思っていなかった｡稲わらを与えた農家やそれを売った業者､牛肉の小売店も､汚染していると知らなければ責められない｡重大なﾐｽを犯したのは､稲わらの汚染情報を徹底的にｱﾅｳﾝｽしなかった政府だ｡畜産農家への通知は徹底していなかったし､稲作農家や販売業者には｢売るな｣という指導すらしていなかった｡
おかげで､今月8日に東京都の検査で問題が発覚するまで､ｾｼｳﾑ牛は日本中を流通し､食卓にのぼってきた｡きのう(19日)までに確認された出荷頭数は648頭｡山形県酒田市では､複数の保育園で汚染牛肉が給食に使われていた｡取り返しのつかない事態になっているのだ｡
きのうは菅首相が｢防止できなかったのは大変申し訳ない｣と謝罪し､枝野官房長官が風評被害による価格下落についても｢国の責任でしっかり補填する｣と大見えを切った｡
前代未聞の延命政局でﾜｰﾜｰと大騒ぎし､国民の安全や暮らしを置き去りにした結果がこれである｡責任を感じるのは当然だが､いくら問題を起こしても自分たちは一銭も出さない｡損害賠償金の請求書は､汚染牛肉を食べさせられた被害者である国民に回されるのだ｡
◆不手際の代償を国民が支払わされる不条理
経済ｼﾞｬｰﾅﾘｽﾄの荻原博子氏が言う｡
｢原発災害の賠償金は最終的に国民が負担するｽｷｰﾑです｡賠償金を支払う東電を新設される機構が支援し､機構は電力会社が拠出するｶﾈでつくられ､電力会社は負担を電気代に上乗せする｡加害者である東電の役員は首を切られず､株主責任も不問に付され､4兆円といわれる銀行の融資も残る｡国民だけが負担を強いられるのです｡汚染牛の問題も同じ｡不手際の代償を払わされるのは､国民なのです｣
政府も国債を発行して機構の資金確保を支える｡これも最終的に東電が払うとなっていて､電気代から支払われることになる
が､賠償金額が増え続ければﾁｬﾗにされかねない｡
原発事故の被害総額は20兆円とも30兆円ともいわれている｡これだけでもｾﾞﾛ歳の赤ちゃんから寝たきりのお年寄りまで､1人当たり20万円前後を負担させられる計算だ｡これに汚染水処理や放射性物質拡散を止めるためのﾃﾝﾄ､汚染物質を海に捨てたことによる周辺諸国への賠償費用などが加算されていけば､国民負担は2倍､3倍に膨らんでいく｡なにしろ汚染水の処理だけで､｢20兆〜40兆円かかる｣(事情通)との試算があるくらいだ｡最終的にどれだけのｶﾈがかかるのか､今の段階ではまったく見えないのである｡賠償に使われた公的資金は返済されず､いずれ税金で補填される公算は大だ｡
菅は今年の念頭に政策目標のひとつとして､｢政治の不条理をただす｣とか何とかｴﾗｿｰに言っていた｡しかし､最大の不条理は菅本人である｡退陣をｴｻに延命を図り､失政のﾂｹを国民に回す｡そんな理不尽が許されていいわけがない｡
◆所得税増税だけ強行の菅政権
列島は､女子ﾜｰﾙﾄﾞｶｯﾌﾟで優勝した日本代表の話題で持ちきりだ｡ﾃﾚﾋﾞ局は朝から晩まで｢なでしこ｣一色｡酒場もﾒﾃﾞｨｱから仕入れたﾈﾀを披露するにわかﾌｧﾝであふれている｡だが､世界一に浮かれていると､国民はしゃぶり尽くされる｡
とりわけ狙い撃ちにされるのがｻﾗﾘｰﾏﾝだ｡政府は被災地の再建に復興債を活用する見込みだが､その償還財源の主役になるのが所得税の増税である｡
｢政府は当初､ﾄﾞｻｸｻに紛れて消費税を上げようとしたが､今は所得税の増税にｼﾌﾄしています｡財務官僚とﾍﾞｯﾀﾘの野田財務相や仙谷官房副長官が音頭をとり､自民党も同調しています｣(政界関係者)
民主も自民も｢法人税増税とｾｯﾄ｣と言っているが､信用できない｡いずれｳﾔﾑﾔになる運命だ｡｢増税すれば企業が海外に逃げる｣｢産業の空洞化は雇用を悪化させる｣などと脅されて､反(ほ)故(ご)にされるのがｵﾁ｡結局､所得税だけが増税されそうだ｡
これも不条理で許し難い｡ｻﾗﾘｰﾏﾝは収入のすべてを税務署に捕捉されているが､自営業者や農林水産業者､政治家にはいろいろと抜け道がある｡｢ｸﾛﾖﾝ(9･6･4)｣｢ﾄｰｺﾞｰｻﾝﾋﾟﾝ(10･5･3･1)｣といわれる捕捉率の業種間格差は解消されていないのだ｡その問題に手を付けず､増税だけを強行すれば､ｻﾗﾘｰﾏﾝが割を食うことになる｡中でも重い負担を背負わされるのが､平均して地方よりも給与が高い都市部のｻﾗﾘｰﾏﾝだ｡
◆国民に奉仕しない政府はﾎﾞﾗﾝﾃｨｱで働け
悪政の連続で日本中を混乱させている菅は､ﾎﾞｰﾅｽも給料もたんまり受け取っている｡だが､そのｶﾈを復興の足しにしようという考えはｾﾞﾛだ｡口先だけの謝罪でお茶を濁すのである｡
同志社大教授の浜矩子氏(国際経済学)が言う｡
｢本当に申し訳ないと思っているのなら､私財をなげうってでも国民に奉仕するという気概や覚悟を見せてもらいたい｡国家を担っている人たちは､それほど重い責任を背負っているはずです｡国民が国家の求める税負担に応じるのは､“奉仕”を受けるから｡国家が契約を十分に履行できないのなら､国民も契約に忠実である必要はありません｡菅首相はもちろん､与野党問わず､すべての政治家は歳費を受け取る資格などありません｡政治家は寄付できないというのは逃げ口上｡政府の職員が受け取るのも実費だけにして､残りは被害者の補償に回す｡大した金額にならないかもしれませんが､それが契約を破棄して国民を裏切った政府の責任の取り方です｡“ﾎﾞﾗﾝﾃｨｱでやります”と申し出る政治家や官僚がひとりもいないのは不思議ですよ｣
これほどのﾃﾞﾀﾗﾒをやられているのだ｡なぜｻﾗﾘｰﾏﾝは怒らないのか｡汗水流して稼いだｶﾈを国に吸い上げられ､政府の尻拭いに使われるのを黙って見過ごすつもりなのか｡
｢政府がちゃんと説明をしないから､反論する材料が少ないのでしょう｡しかも､大局観を持って考えれば､負担増はしようがないと思ってしまう｡しかし､黙って見過ごすようでは､あまりにお人よしです｣(浜矩子氏=前出)
収束しない原発事故に振り回され､子供や孫がｾｼｳﾑ牛肉まで食べさせられた上に､｢農家や酪農家への補償だ｣とｶﾈをむしり取られる｡
これほどひどい目に遭わされながら沈黙するのなら､ｻﾗﾘｰﾏﾝは牛馬のごとく働くしかない｡
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