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≪関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を滅ぼす』 より抜粋(3)≫TPPと医療・薬品 その1
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/776.html
投稿者 Roentgenium 日時 2011 年 11 月 07 日 02:09:29: qfdbU4Y/ODJJ.
 

(前回、2頁からの続き)


〔関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を滅ぼす』 第4章 第2のターゲット 医療と薬品 より P.168−P.213〕


■TPPと医療分野

≪≪TPPの24のワーキング・グループには「医療」という分野は含まれていない。もし医療が関係してくるとすれば、それは「サービス貿易の自由化」という文脈においてであろうと推測出来る。

TPPにおけるサービス貿易に関連するワーキング・グループは越境取引、短期商用入国、金融、電気通信、電子商取引の5つである。越境取引と短期商用入国はWTOの「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)に基づく概念である。GATSはサービス貿易を以下の4つのモードに分類している。

@第1モード:越境取引。海外ネット通販や海外コールセンターなど。
A第2モード:海外消費。観光・旅行業など。
B第3モード:海外拠点サービス。銀行や小売業の海外店舗など。
C第4モード:自然人の移動。海外出張などの短期商用入国。

医療では、越境取引(第1モード)によるサービスの提供は現状では想定しにくい。自然人の移動(第4モード)に関して言えば、外国人医師の受け入れ問題ということになるが、現在でも日本の国家資格を所得すれば、外国人であっても医師免許を交付される。

ならば、米国の国家資格しか持っていない米国人医師を日本で受け入れよと、米国政府が圧力を掛けてくるかと言えば、その可能性は限りなくゼロに近いだろう。

「医療崩壊」と喧伝される程苛酷な勤務実態が常態化している医療現場や、厚生労働省の診療報酬制度によって医師の技術料が不当なまでに低く抑えられている現状を考えれば、少なくとも国民皆保険、保険診療を前提とする限り、日本への出稼ぎを希望する米国人医師などいるわけがない。

一方、最近では外国人患者に医療滞在ビザを発給して国内の医療機関で受け入れる医療ツーリズム(国際医療交流)が注目されている。これはGATSでは第2モードの海外消費に相当するが、TPPにはこれに対応するワーキング・グループがない。GATSにはこの他「健康に関連するサービス及び社会事業サービス」という分野もあるが、これもTPPにはワーキング・グループが設置されていない。

米国の大手病院チェーンなどが日本に上陸し、米国流の高度・先進医療を看板にして富裕層向けに特化した自由診療ビジネスを展開することも考えられなくはないが、それに対応するワーキング・グループが設置されていないのは不思議である。≫≫

何れにせよ、現在のワーキング・グループの設置状況を考えれば、TPP交渉の場で医療分野が直接採り上げられる可能性は低いと思われる。しかしだからと言って米国が日本の医療分野に関心がないかと言えば、とんでもない。

■日米投資イニシアティブと医療分野

≪≪日米の2国間では、医療分野はしばしば米国によって持ち出されてきた。それは、意外かも知れないが第2章で取り上げた「投資」分野に関する日米投資イニシアティブの場においてだ。


例えば2003年5月の「日米投資イニシアティブ報告書」には、米国側関心事項として次のような記述がある。

(2)人口動態の変化と投資(教育と医療サービス)

米国政府は、日本に置ける低出生率と高齢化に伴う人口動態の変化により、今後、日本において教育及び医療サービス分野における投資が重要になってくることを指摘し、米国の企業が、これらの分野における改革を達成する為に、質の高いサービスを提供出来ることを提案した。米国政府は、これらの分野における投資を促進する為、日本政府に対し、当該分野における投資を可能とする為の規制改革を要請した。

要するに米国は、日本の人口動態をじっと観察しながら、高齢化が医療ビジネスに有望な商機を齎すと睨んでいたわけだ。まさに日本人の健康や生命までもビジネスのネタにしようと、冷徹に策を巡らせていたのである。

翌2004年6月の「日米投資イニシアティブ報告書」には、より具体的な要望事項が明記されている。

B.医療サービス

医療サービスについては、米国政府は(a)医療サービス分野における営利法人による参入機会を拡大すること(構造改革特区における参入を含む)、(b)MRIやPETのような高度な機器を使用した検査など特定の医療行為の外部委託を認めること、(c)保険診療と保険外診療の明確化及び混合診療の解禁について要請した。

先ず最初の項目についてだが、日本では株式会社などの営利法人による病院経営は認められていなかった。人の生命を預かる医療の分野に、利潤追求を優先するビジネスの論理がそぐわないのは当然である。

しかし小泉政権は2004年に「構造改革特区」における特例として、公的保険が適用されない保険外診療での高度な医療に限ると言う条件付きではあったが、株式会社による医療機関経営を解禁した。これを受けて2006年、横浜市に再生医療を使った美容外科のクリニックが開業している。

2番目のMRIやPETというのは、癌検診などに使われている画像診断装置のことである。1台数十億円と極めて高額で、多くは米国からの輸入品である。医療機器は日本が対米貿易赤字となっている数少ない分野となっている。米国には画像診断専業のPETセンターという検診施設がある。これを日本にも普及させ、医療機器の更なる輸出拡大を目論んでいるわけである。

3番目の「保険診療と保険外診療の明確化及び混合診療の解禁」は、小泉政権時代に国論を二分すると言っても過言ではない、激烈な論争を巻き起こした大問題であった。

2004年3月12日の日本経済新聞夕刊は、米国のラーソン国務次官が日本の医療分野への外国資本の参入拡大を期待する意向を表明し、混合診療の解禁を求めたと報道している。米国の厚生省ではなく国務省の高官が、何故医療分野に関してコメントしたのかは、今も残る謎である。

ラーソン発言から半年後の9月、小泉総理は唐突に、混合診療の解禁について年内に結論を出すよう関係閣僚に指示した。この時点で「年内」と言ったら僅か3カ月しかない。タイミング的に見て米国からの圧力に拍車が掛かったことが窺える。

小泉総理の緊急指示を受けて、激烈な論争に火が点いた。小泉総理の尖兵となって混合診療解禁を主張したのは、竹中平蔵大臣が率いる経済財政諮問会議とオリックスの宮内義彦会長が率いる総合規制改革会議の連合軍であった。

最終的には、12月に厚生労働大臣と規制改革担当大臣の間で「『混合診療』問題に係る基本的合意」が締結されることで決着した。

厚生労働省や日本医師会が3カ月間、粘り強く反対したこともあり、混合診療が全面的に解禁されたわけではなかったが、高度・先進医療に限定した「保険外併用療養費制度」という、混合診療の部分的解禁と言うべき結果となった。

かくの如く小泉政権時代には、日米投資イニシアティブでの米国の要望に応える形で、医療分野での規制緩和が強力に推し進められたのである。≫≫

〔資料〕日米投資イニシアティブ|経済産業省 対米経済政策総合サイト
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/n_america/us/html/invest_initiative.html

■混合診療とは?

混合診療という言葉は一般に馴染みが薄く、何が問題なのか何故米国がその解禁を要求するのか、直ぐにはピンと来ないと言う人が少なくないだろう。混合診療が投げ掛ける問題とは、安全性などの問題もあるが、基本的には「医療の値段」の問題である。

米国が日本に解禁を求めていた混合診療とは、公的保険が適用される保険診療と、保険が適用されない、つまり厚生労働省が認めていない保険外診療(自由診療)を併用することである。

小泉政権以前は全面的に禁止されていた為、例えば日本で承認されていない海外の薬を投与すると、その薬代は勿論、本来保険が適用されるはずの入院費や検査日までもが全額自己負担になっていた。

しかし混合診療が認められると、厚生労働省が承認していない部分のみが全額自己負担で、それ以外の部分は保険が適用され、患者の金銭的負担が軽減される〔※一見この説明ではどういうことなのか分かり難いが、後に詳しく説明されているのでそちらを参照〕。

この為、混合診療が解禁されれば、米国の製薬会社が開発し、米国の医療現場で使われているのに日本では未だ厚生労働省によって承認されていない薬や治療法などが日本国内で使いやすくなる。これが、米国政府が混合診療の解禁を迫る理由の1つである。米国政府の背後にいるのは、言うまでもなく米国の製薬業界である。

ここ迄の説明だと、混合診療は最新の薬を求める患者にとっても有益な、非常に好ましい制度に思えるかも知れない。しかしそれは、保険外診療の何たるかを知らないからだ。多くの国民は、保険外診療とは殆んど縁がないだろう。私自身も、再発癌患者の家族の立場になる迄は、頭では理解出来たつもりでいても今一つ実感が摑めなかった。

■医療の値段

ここで、医療の値段の話に入る。

≪≪そもそも保険診療の世界では、医師の診察料(技術料)や病院の入院・検査費であれ、処方薬の価格であれ(これらを合わせて診療報酬という)、価格の水準自体が厚生労働省によって低く抑えられている。

診療報酬は全国一律であり、病院や製薬会社が自由に決めることは出来ない。日本は医療に関しては社会主義的な国家による統制経済を採用しているのだ。社会主義を忌み嫌う財政保守派も、自分や家族が病院に掛かれば、この統制経済の恩恵で経済的負担が軽くて済んでいるのである。

しかし、自由診療を基本としている唯一の先進国である米国の医療費が世界一高いことは誰でも知っている。製薬会社は政府の制約を一切受けない為、米国の薬価(やっか)は青天井で高騰の一途を辿っている。

何故、医療には通常の価格メカニズムが機能しないのか。

薬価に関しては単純なことで、製薬会社は新薬を開発すると直ちに特許を取得して独占権を確保してしまうから競争が発生しない。特許が失効した途端、競合する後続薬がゾロゾロ出てきて価格が急落するという経過を辿る。

医療機関に関しては、供給サイドである医師と、需要サイドである患者は、情報面や選択肢の綿における非対称性が極めて著しく、供給サイドが圧倒的な優位を保っている為価格メカニズムが貫徹されず、事実上、売り手市場になってしまうからだ。

この非対称性は、ディスクロージャーなど制度的な要因によるものだけでなく、医療が高度な科学的専門性に立脚していることに起因する。

医療費は国家が統制しなければ、米国の現実が証明しているように必然的に高騰する。従って、日本で混合診療を解禁し国家の統制が及ばない保険外診療が普及すれば、日本の医療費も高騰する。

尚、保険診療の保険とは、あくまでも公的保険のことである。公的保険が適用されないならば、民間保険に加入してリスクをヘッジしておこうというニーズが発生する、ここに、米国政府が混合診療の解禁を迫る第2の理由がある。米国政府の背後にいるのは、言うまでもなく米国の民間保険業界である。≫≫

〔動画〕「NEWSアンサー」:“対象外”もTPPに医療界が反対なのは・・・ - テレビ東京 [5分17秒]
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/newsanswer/newsl/post_9577

〔動画〕川田龍平議員が語る TPPで医療もアメリカ化する - YouTube [12分46秒] ※何故「みんなの党」に籍を置くのか解せないが・・・・必見
http://www.youtube.com/watch?v=2zMNAvb0-vU

■「癌難民」になってからが本当の闘い

≪≪米国と違って日本には国民皆保険制度が存在するので、全ての国民が公的保険によって担保されており、その上医療費の水準自体が国家によって高騰を抑えられている。いわば日本の国民は、国家によって2重に守られているのである。

日本国内にも、実は保険外診療の世界は広範に存在する。最も「市場規模」が大きいと推定される保険外診療は、癌治療関連である。

癌は今や日本人の死因の断トツ1位であり、毎年35万人もの日本人が癌で亡くなり、その数は年々増加の一途を辿っている。日本人の2人に1人は癌になり、3人に1人は癌で亡くなるというのが統計上の事実である。癌対策は今や国家の至上命題の1つになったと言っても過言ではない。

癌は早期に発見されれば、保険診療の範囲内で完治する可能性が高い。手術、抗癌剤、放射線の3大療法で完治した者は、公的保険の恩恵をフルに享受することが出来、保険外診療の世界を知ることがないまま日常生活に復帰していく。だが、進行期癌や再発・転移癌の患者は、保険診療の世界では完治出来ないケースが圧倒的に多くなる。≫≫

手術と放射線は基本的にピンポイント治療である為、複数の部位に転移した患者には抗癌剤しか選択肢が残らない。しかも、抗癌剤は投与を繰り返す内に薬剤耐性が生じて、癌の増殖を止めることが出来なくなる。そうなると他の抗癌剤に切り替えるわけだが、それを繰り返している内に保険が適用される薬を全て使い果たしてしまう。

ここ迄来ると、最早治療の打ち切りを告げられ、ホスピスへの転院を勧められ病院を出て行かなければならなくなる。これがいわゆる「癌難民」である。

癌難民は藁(わら)をも摑む思いで保険外診療の門を叩く。そして保険診療との対価の余りの落差に愕然とすることになるはずだ。経済的な面でも、癌との本当の闘いはこの時から始まるのだ。

■保険外診療の世界(その1) 未承認薬と適応外使用

混合診療の有無による経済的負担の違いを一般の読者に理解して頂く為に、思い切って単純化した比較で試みた。実際には癌の種類や進行期、それに伴う治療法の違いによって全く違ってくるが、1つの概念図として参考にして頂きたい。


<図H 混合治療とは?>

入院費(3日)+検査費(PET-CT)+抗癌剤(未承認薬)

保険治療:自己負担3割 6万円+3万円+9万円=18万円 高額療養費制度上限月額8万円

全額保険外治療:20万円+9万円+30万円=月額59万円

混合診療:6万円+3万円+30万円=月額39万円


或る癌患者が抗癌剤の点滴治療の為3日間入院して、入院中にPET-CTによる画像検査を受けた場合、1カ月に自己負担しなければならない治療費を比較してみたものである。抗癌剤の価格は全て点滴1回30万円とする。

先ず、保険診療のケースだが、入院費、検査費、承認された抗癌剤治療費全てに保険が適用され、3割負担とする為、6万円+3万円+9万円=18万円となるが、更に高額療養費制度の上限が適用されるので総額8万円で済む(通常の所得層の場合。地域によるが高額所得層の場合は上限が15万円になるケースもある)。

ところが、承認されている抗癌剤が利かなくなると、未承認薬や適用外薬の使用を検討することになる。海外で承認されているが日本では未だ薬そのものが承認されていないものを未承認薬と言う。

また、抗癌剤は癌の種類毎に承認されるので、例えば大腸癌では海外でも日本でも承認されているが、乳癌に対しては海外でしか承認されていない場合、その薬は乳癌治療に関しては適用外使用となり、全額自己負担となってしまう。

次に、混合診療が認められないケースだが、未承認薬か適用外使用の抗癌剤を使う為、抗癌剤治療費だけでなく、入院費と検査費も全て保険が適用されず、全額自己負担となる為、20万円+9万円+30万円=59万円となり、高額療養費制度も勿論適用されないので、これがそのまま負担額となる。

そして混合診療のケースだが、未承認薬か適用外使用の抗癌剤治療は全額自己負担で高額療養費の上限も適用されないが、入院費と検査費は保険診療となるので6万円+3万円+30万円=39万円となる(保険診療部分に高額療養費の上限が適用されれば8万円+30万円=38万円)。

混合診療推進派は、混合診療を認めれば自己負担が59万円から39万円へと20万円も減るのだから患者の利益は大きい、混合診療を認めないということは59万円という途方もない負担を患者に強いている、非人道的だ、などと主張する。

≪≪それはあながち間違いではないのだが、問題は59万円よりは安いとはいえ39万円なら安いのか、1カ月にこれだけ払える人がどれだけいるのかということである(抗癌剤は毎月1回程度なので、この概念図は検査をする月を想定している)。

癌と無縁の読者の中には、1回の点滴30万円は法外だと感じる人もいると思うが、これは抗癌剤としては標準的な価格である。最近、注目されている分子標的薬(癌細胞のみを攻撃し、正常細胞を傷付けない為副作用が比較的少ないとされる最新癌治療薬)は、単独で使われることは少ないので他の抗癌剤との併用で毎月、100万円位掛かるものもある。

従って、抗癌剤や分子標的薬自体の価格が下がらない限り、混合診療を認めても、それを享受出来るのは支払い能力のある層に限られ、所得による医療の格差が生じてしまうのである。これが、厚生労働省や日本医師会が混合診療に反対する理由の1つである。

これに対して、オリックスの宮内会長が「金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けると選択する人もいるでしょう」と豪語したのは有名な話だ(宮内義彦インタビュー記事「規制改革で日本を世界の負け組みから勝ち組にしよう」『週刊東洋経済』2002年1月26日号)。≫≫

〔資料〕宮内義彦ジャーナルに掲載されていた『週刊東洋経済』2002年1月26日号の記事 - Guideboard 2007年10月8日
http://guideboard.wordpress.com/2007/10/08/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%9A%86%E4%BF%9D%E9%99%BA-6-%E5%AE%B6%E3%82%92%E5%A3%B2%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%A7%E3%82%82%E8%B3%87%E6%96%99/

http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/kaigi.html

≪≪2番目に大きな問題は、混合診療を広く認めると、製薬会社にとっては政府の価格統制を受けずに自由価格で薬を販売出来るようになる為、コストの掛かる治験をしてまで厚生労働省の承認を得て保険に収載してもらおうという動機が薄まるという問題がある。

小泉政権下で認められた混合診療の部分的解禁は、あくまでも保険に収載される迄の経過措置として、高度・先進医療に限り混合診療を認めるというもので、何れは保険診療に移行するということが前提だった。この前提が崩れると、政府の価格統制を受けない高額の薬が、いつまで経っても保険に収載されないまま日本で使われ続ける事態を招くことになってしまう。≫≫

■保険外診療の世界(その2) 代替療法

≪≪混合診療の問題は、こうした未承認薬や適用外薬に係ることだけではない。厚生労働省が承認していない、つまり治験で有効性や安全性が実証されていない民間療法やサプリメント、健康食品の類を売り物にした保険外診療が広がるという、安全性や倫理性の問題もある。これが混合診療に反対する3番目の理由である。≫≫

最近では、2010年夏頃にマスコミで話題となったホメオパシーが記憶に新しい。ホメオパシーは植物や鉱物の微量成分を稀釈して作った丸薬を服用させる民間療法である。これ以外にも上がりクスやサメの軟骨など、様々な民間療法がある。勿論自由診療なので保険は適用されないし、中には法外な値段のものもある。

だが、これらに新興宗教のように帰依してしまい、医師の治療を拒否するようになってしまう患者もいると報道されている。

再発癌患者の家族である私は、代替療法を必ずしも100%は否定しない。再発した場合の、3大療法の限界をも思い知らされているからだ。免疫細胞療法やワクチン療法の可能性にも期待を掛けなければならない立場だ。だが、保険外診療の現場の状況には問題が多いことも事実である。

これは私自身の経験だが、「自然療法」を掲げる某有名クリニックを家族と共に訪れた時のことだ。クリニックは都心の一等地にあり、診察室にはソファが置かれ、応接室のような内装だった。其処でセカンド・オピニオンを受けたのだが、マスコミへの露出頻度も高いその医師は、ひたすらこちらの治療経過を聞くだけで脈1つ診るわけでもない。

最後に「それだけやっていれば、きっと治りますよ」というだけで何の診断もされなかった。ふと時計を見ると約束の60分を過ぎていたので慌てて診察室を退去した。

「無駄足だった」と舌打ちしながら会計窓口に赴くと、3万円を請求されて驚いた。保険外診療なので60分で2万3千円ということは承知の上で来院したのだが、約束の時間を僅かに十数分過ぎただけで、30分刻みで7千円の延長料金をしっかり加算されたのである。こんなクリニックが3カ月先迄予約が一杯だと言うのだ。

家族の癌が未だ再発する以前、癌専門病院で保険診療を受けていた頃、主治医と治療の方針に関する相談の機会を持ったことがあった。

主治医は様々な画像データを提示しながら懇切丁寧な説明をしてくれて、こちらのあらゆる質問にも納得いくまで答えてくれた。この時も60分を大幅に超過していたのだが、帰り際に会計窓口で請求されたのは、僅か210円だった。

60分で2万3千円と210円(3割負担なので全額でも700円)。これが、端的に言えば保険診療と保険外診療の違いについての私の個人的な「実感」なのである。このどちらが妥当なのか、一概には言えない。だが、日本の医療費は、先進国の中で最も低いという厳然たる事実がある。

人間の生命の価値ということも勘案すれば、我が国の保険診療の診療報酬(とりわけ医師の技術料)は、不当とも言える程低過ぎると考えざるを得ない。

それにも係らず、何故医療の水準が維持されているかと言えば、それは「医は仁術」という「赤ひげ」の伝統を誇りにしている、我が国の医師達の倫理観、使命感、自己犠牲を厭わない崇高な精神という、経済外部の要因によって支えられているからである。

小泉政権下での二度にわたる診療報酬の前例のない引き下げは、医療現場の崩壊を齎し、医療従事者と患者の双方を激甚(げきじん)に痛めつけた。私はこれこそ小泉政権の最大の失政であると、予(かね)てから論難してきた。

必要なのは診療報酬の引き上げであり、その為に公的医療費を拡大することである。未承認薬や適用外薬の問題についても、患者にとって真に望ましい解決策は、混合診療の拡大ではなく、新薬の保険収載の促進であると考える。それ故に私は、保険外診療の普及に繋がる混合診療の拡大には反対の立場である。

■規制・制度改革分科会と医療

≪≪ところが、ここに来て数年ぶりに、株式会社による医療機関経営への参入や、混合診療の拡大といった規制改革を推進しようとする動きが復活してきた。

規制・制度改革分科会の傘下のライフ・イノベーション・ワーキング・グループは、2010年6月に発表した「第1次報告書」で17項目、更に2011年1月に公表された「中間とりまとめ」で新たに16項目、合わせて33項目の規制改革案を打ち出した。

〔資料〕国民皆保険の崩壊に繋がりかねない最近の諸問題について By 社団法人 日本医師会(PDF、全35頁)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000u8kz-att/2r9852000000u8sh.pdf

極めて多岐にわたっており、とても全ては紹介し切れないので、「第1次報告書」と「中間とりまとめ」の中から、私なりに重要と思われる項目をピックアップし、更にそれらを勝手に解釈して大きく5つの分野に分離してみたのが表1である。


<表1 医療分野の主な規制改革案>

(1)医療保険
・保険外併用療養の範囲拡大
・高額療養制度の見直し

(2)医療現場の再建
・医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し
・医療行為の無過失補償制度の導入
・病床規制の見直し
・医療保険におけるリハビリの日数制限の見直し
・救急患者の搬送・受入実態の見える化
・救急救命士の職域拡大
・地域主権の医療への転換
・レセプト等医療データの利活用促進(傷病名統一、診療年月日記載など様式改等)
・ICTの利活用促進(遠隔医療、特定検診保健指導)

(3)医薬品・医療機器の審査
・ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグの更なる解消
・未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の明確化
・再生医療の推進
・医薬品・医療機器の審査業務に係る法的責任の明確化
・医薬品・医療機器におけるイノベーションの適切な評価の実施

(4)薬剤流通
・一般用医薬品のインターネット等販売規制の緩和
・調剤基本料の一元化

(5)医療の国際化
・医療の為に来日する外国人を受け入れる国際医療交流への取組
・査証発給要件等の緩和
・外国人医師の国内診療
・EPAに基づく看護師、介護福祉士候補生への配慮

http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/meeting/2010.html#bunkakai


「第1次報告書」では「保険外併用療養の範囲拡大」が筆頭項目に挙げられていた。「保険外療養」というのは、混合診療を改称したものである。

小泉政権下で部分的に解禁された混合診療は、厚生労働省が予(あらかじ)め指定した高度・先進医療のみに対象が限定されているが、規制・制度改革分科会が打ち出した案は、厚生労働省が指定していない医薬品や治療法でも、一定の要件を満たす医療機関には、厚生労働省に届け出るだけで保険外診療の併用(つまり混合診療)を認めるというものである。

一言で言えばこれは、厚生労働省の権限を縮小して、医療機関の自主裁量の余地を広げるということだ。規制・制度改革分科会はこれを「事前規制から事後チェックへの転換」と称している。「判断は病院に任せろ、役所は結果だけ見張ってろ」という意味だ。≫≫

■懐かしいフレーズ

≪≪この「事前規制から事後チェックへの転換」というのは、私にとって実に懐かしいフレーズだ。『拒否できない日本』を執筆していた頃、よく目にしたものだ。

これは小泉政権下で実施された司法制度改革の最も重要なキーワードで、2001年に司法制度審議会が小泉政権に提出した最終報告書に使われていた。その最終報告書は、「この国のかたち」を「事前規制型の社会」から「事後調整型の社会」に転換すると、高らかに謳い上げていたのだ。

「事前規制型の社会」というのは、行政が予(あらかじ)めルールを定めておき、常に目を光らせて問題や紛争の発生を未然に防ぎ、ルールに違反した者は行政が処罰するという思想によって設計された社会である。

これに対して「事後調整型の社会」というのは、行政による規制を出来る限り撤廃して、民間の活動を自由放任(レッセフェール)に委ねるべきだという思想に基づく社会である。官(役人)が勝手に何でも決めてしまうのではなく、民の好きなようにやらせろということだ。

民の中には当然のことながら不心得者や変わり者もおり、そうした者まで放任すれば様々な犯罪や不正、紛争や摩擦が発生するだろう。だがそれは起きたら起きたでその時調整すれば良いという考え方だ。どうやって調整するのかと言うと、犯罪の場合は刑事裁判、紛争の場合は民事裁判、つまり法定で争うことによって決着を付けるということだ。

司法制度審議会が打ち出したこの思想のルーツは、1994年に経済同友会が発表した提言書『現代日本社会の病理と処方』の中にある。

この提言書を纏めたのが誰あろう、後に混合診療の解禁推進の急先鋒となったオリックスの宮内義彦会長だったのだ。宮内会長こそ、司法から医療まであらゆる分野に顔を出し、構造改革を仕掛けて回った張本人なのである。

宮内会長が言う「日本社会の病理」とは「行政権限の肥大」のことで、それに対する処方箋が「司法の役割の強化」、即ち司法制度改革だという理屈であった。規制を緩和して自由放任に委ね、問題が起きれば裁判で解決する。これは米国発の新自由主義思想そのものだ。≫≫

■ゾンビのように蘇る新自由主義

≪≪新自由主義、別名:市場原理主義とも言うが、その元祖は米国シカゴ学派の頭目で、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンである。フリードマンが書いた新自由主義の教典『選択の自由』(西山千明 訳、日本経済新聞社 1980年刊行)を読むと驚くべきことが書いてある。

米国では食品、医薬品、化粧品などの安全性を事前に審査しているのは食品医薬品局(FDA)だが、フリードマンはこれを廃止せよと主張する。

何故かと言うと、食品医薬品局の規制は「有害で効き目のない薬の販売を防止することによって社会に良い結果を齎した以上に、価値ある薬の生産・販売技術の進歩を遅らせることによって社会に弊害を齎している」からだと言う。

そしてフリードマンは、「我々が自らの生命に関してどんな危険を冒すかは、我々自身の選択の自由に任せるべきだ」と言い切っている。

これが、市場原理主義者達が呪文のように唱える「消費者の選択の自由」の本質である。要するに「安全かどうかは自分で判断して選びなさい。結果がどうなろうと自己責任なのだから、役所に泣き付いても駄目。自分で弁護士を雇って裁判で解決しなさい」ということだ。

〔動画〕TPPの影響、民法も「開国」か - YouTube [2分57秒] ※外国人弁護士活動の規制緩和も年次改革要望書に既にあった内容
http://www.youtube.com/watch?v=ilQeIyLg5Pg

極限的なまでに孤独な、荒涼たる「自己責任」世界である。果たしてどれ位の日本人が、こうした社会に耐えられるだろうか。

食品公害や薬害に遭った被害者達は、治療や仕事の合間を縫って、巨大法律事務所がバックに付いている巨大食品メーカーや巨大製薬メーカーを相手に闘わなければならない。役所も誰も助けてくれないので、腕利きの弁護士を雇い、時間的にも金銭的にも裁判闘争に耐えられるような一部の富裕層にしか救済される道は無く、それが出来ない弱者は泣き寝入りをする他は無い。

まさに剥き出しの強者の論理で、これこそが米国流新自由主義の実相なのだ。だから日本を米国のような国にしてはいけない。日本の米国化を断固阻止すべきだ。

私は2004年に刊行した『拒否できない日本』でそう書いた。小泉総理の退陣以来、久しくこうした思想に接する機会は無かった。とりわけリーマン・ショックの後などは、自分から懺悔する者まで現れた。

それ故に、規制・制度改革分科会のライフ・イノベーション・ワーキング・グループの文書の中に「事前規制から事後チェックへの転換」という表現を見つけた時は、随分懐かしい思いがしたのである。と言うより、ゾンビに出会ったようにゾッとしたと言うのが正直なところだ。≫≫


(後日、4頁へ続く)

※尚、これ迄TPPに関する資料(対日年次改革要望書含む)や見解などを下記投稿の本文及びコメント欄に纏めてありますので併せて参照して下さい。全体像が見えてくると思います。

≪TPPについて危険認識する為に全国民がこれらの動画を見るべきだ(2011年10月28日)≫ Roentgenium
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/380.html

〔資料〕如何にして富が世界に貧困を齎すのか By Michael Parenti - Anti-Rothschild Alliance
http://www.anti-rothschild.net/material/12.html  

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