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TPPシリーズ1〜9:しのはら孝blog
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投稿者 ナキウナギ 日時 2011 年 11 月 09 日 21:06:44: SegEjh9L1v6ag
 

この人のブログ、次回は「敗戦の弁」を期待する。

http://www.shinohara21.com/blog/

TPPシリーズ1.過熱するTPP交渉参加の是非の議論 11.10.28
 まずは、ブログ・メルマガの更新が大変遅れている事をお詫びしたいと思う。
 今回は手短ではあるが、読者の皆様に私が現在取り組んでいることについてお話をしておきたい。
新聞やテレビ等で既にご承知のことかと思われるが、9月2日に誕生した野田佳彦総理が、11月にオバマ大統領の生誕の地のハワイで行われるAPEC首脳会談で、TPP交渉への参加を表明する意向であると報じられた。

(TPPの再来)
「TPP交渉への参加」、菅直人前総理が昨年10月1日に行った所信表明演説に、突然この一国の運命を左右しかねない言葉が織り交ぜられ、大きな騒動となった。当時閣内にいた私は、この最大の失点を修復することに全力を尽くし、結果、結論は先送りされた。かつ、3月11日の東日本大震災で東北は大被害を受けており、政治は外(外交)よりも内(内政)に全力を尽くすことが何よりも優先されるべきで、野田総理が拙速な結論を出す事は、当面ないだろうと考えていた。ところが、その案件が、突然再来したことに愕然とさせられた。

(国会を二分するTPP交渉参加の是非)
現在、TPPに「交渉に参加する」のか、「交渉への参加を慎重に見極める」のかという議論で、国内の関係団体はもちろん、与党民主党内もまさに二分している。下記の鉢呂PTでは圧倒的に反対の意見が強い。日本という国家の行く末を決める重要な決定が、11月初旬までという期限が刻一刻とせまる中、交渉へ参加するなら離党も辞さないという重大な決意をする議員が出てくるほど両派の議論は過熱しつつある。当然ながら、民主党内だけでなく、野党でも様々な意見が飛び交っており、どの党でも慎重派が優勢であると聞いている。

(反対派の会議と取りまとめ会議の両方に出席)
私は、TPP交渉への参加は慎重であるべき、更に言うなら、TPPには絶対に参加すべきではないと考えている。農林水産副大臣を辞した後ただちに「TPPを慎重に考える会」(山田正彦会長)副会長に就任し活動している。交渉参加は慎重であるべきとの趣旨への賛同署名を集め、現在201名(他党を含めると220名)の署名を集めることが出来た。閣内や党内役員などの役がついている100名程度を除く300人のうち、2/3近くの党内議員の賛同を得ている。
またもう一方で、TPP推進派ばかりで役員会が構成されていた党内「経済連携プロジェクトチーム」(鉢呂吉雄座長)に後から急遽幹事として名を連ねることで、一方的な議論の進行を防ぐ事に尽力している。しかし依然、推進派がひな壇(会議の座席の会長、事務局長等取り仕切りをする者が座る席)を占めることには変わりなく、初めに結論ありきで座長一任、交渉参加が決定などという、反民主的な採決が決して行われることがないよう全ての会合に1番前に陣取り眼を光らせている。

(TPPの誤った理解)
 TPPについては、既にご存知な部分も多いかと思うが、マスコミ等では「農業対輸出産業」に特化されて報道されるだけで、伝えられていない事実が多くある為、再度簡単に説明したい。
  TPPは、そもそも小さな4カ国、チリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの4カ国(P4と呼ばれる)で、2006年に発効した。この P4は、当初ほとんど注目も浴びていなかったが、そこに、オバマ大統領が2009年11月14日、日本のサントリーホールの講演でTPPへの参加を突然表明したことから、俄然注目を集めることとなった。翌2010年、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが相次いで参加を表明し、3月にオーストラリアでTPP拡大の初会合を持ち、現在9カ国で交渉が行われている。
まず、TPPについてよくある誤解の一番目は、TPPとFTA・EPAを同質のものとして捉えてしまっていることである。韓国が米国やEUとFTAを締結したが、これに焦った経済界がTPPに参加することにより、貿易の拡大、韓国との競争に負けないようにするという。FTA・EPAとTPPが同じ横文字で似ているために、単純に貿易協定の種類と捉えられているがとんでもないことである。FTA・EPAは、二国間それぞれの都合に配慮しつつ、関税を残しながら、両国の貿易拡大を図るものである。一方TPPは10年後に加盟国間の関税を全てゼロにするだけでなく、それぞれの非関税障壁までも完全排除し、なお且つ日本に根付いている制度そのものとアメリカ流に変えていこうというものである。いわば、多国間で交渉される構造協議なのだ。

(関税ゼロの悲劇)
関税がセロになるということは、他でもなく日本は丸太や製材の関税撤廃で経験している。詳細は省くが、1955年に94.5%あった木材の自給率は、2000年には20%を割ることとなった。今、日本の山の木は、安い外材のあおりを受け、切り出すと逆に赤字になるため、完全に放置されている。林業で生活をしていた里山に暮らす人たちは生活できず、どんどん山を下り、限界集落化していった。手入れをする人がいなくなった山は荒れ放題である。まさに関税ゼロの悲劇に他ならない。

(構造改革の恐怖)
また、構造協議の恐ろしさは、日本は日米構造協議で、日本の系列、排他的取引慣行、内外価格差、土地制度とか、全ての日本の仕組み自体について次々に俎上に載せられた。その結果、大店法が改正され、地方の商店街がシャッター通り化する元凶となった。今回は、9カ国から様々な注文がつけられることになる。現在指摘されているのでは、医療、食品の安全、公共事業への参入、郵貯への介入などが挙がっている。
つまり、FTA・EPAなどの通商交渉や貿易交渉では絶対に対象にならない、国内構造(政策や規制)すなわち日本の社会・経済システムそのものまでが対象とされるのである。

(報道の矮小化)
どういった理由か、この点に触れるマスコミは少ない。TPPは農産物の関税をゼロにすることにより農業団体からの強い反発といったことに終始矮小化され、TPPの交渉に参加するか日本の農業を守るかといった二極対立に焦点が移りすぎている。前述したが、その部分も大切な点ではあるが、TPP交渉の作業部会は24部会あり、農業はその1つの部会の1産業の案件に過ぎないのだ。日本がいままで大切にしてきた仕組み、しきたり、よき商慣習、これらがこの24の部会の検討項目に上がらないはずはない。

(「大輸出産業 対 地方」の戦い)
TPPの議論は「大輸出産業 対 地方」である。関税ゼロにより、日本の輸出金額は一時的に上がることはあることはあるだろう。しかし、輸出産業が地方の農林水産業、地域社会をバラバラにしてまで儲けたお金は、地方の限界集落に還元されるだろうか。そんなことは絶対ないと断言できる。また、輸出産業が儲けたお金は、国内の地方の工場に投資されるだろうか。これもまた怪しい。海外の金融商品や海外の工場への投資になるかも知れない。日本の雇用状況は更に悪化するだろう。地方の人たちは、第一次産業を失い、地域の工場も海外移転され、どうやって仕事をし、どうやって稼ぎ、どうやって生きていけばいいのだろうか。そもそも、その輸出産業自体も、自らまいたタネで地方の需要が激減する部分を、どうやって補うつもりなのか。自らの首を絞めることになるのではなかろうか。
 現在、これらTPPの問題点を指摘し、関連する「反原発」の意見をまとめた本を執筆中である。
出来上がり次第、上梓したいと思っている。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年10月28日 18:25 | パーマリンク

TPPシリーズ2.TPPで考える、アメリカの戦後の日本の食生活大改造の恐ろしさ 11.10.31
  アメリカは恐ろしい国である。もちろん長期戦略を造り、それに基づいて着々と手を打ってくる。
 日米修好通商条約以来、手なずけてきたはずの日本に牙を剥かれてびっくりしたのが第二次世界大戦である。
アメリカはやはり、国民がモンロー主義よろしく戦争に反対な中、意図的に日本を苛立たせ、先に攻撃させ日本を悪者にし、やむを得ず「リメンバー・パールハーバー」を国民に植え付けるために練られたとも言われている。

(強い軍人が育たない日本に改造)
 何よりも「天皇陛下万歳」と叫びながら突入してくる日本兵の勇猛果敢さに度肝を抜かれ、なぜそのような日本人ができるのか、秘かに研究を始めている。その一つの成果がルース・ベネディクトの『菊と刀』である。よく知られていることだが、日本に一度も来たことがないのに書き上げたのだ。
 従って、占領政策の大切な目的の一つが、簡単に言うと、日本人をもっと軟弱にすること、つまり、命を捨てて敵に向かってくる恐ろしい軍人を作れないようにすることであった。そして、二度と帝国海軍や陸軍を作れないようにしたのである。占領政策というと、財閥解体等が真っ先に浮かぶが、教育制度改革に力を入れた。出身地別の軍隊になっていたが、どこの師団が強力か承知しており、特に勇猛に戦った仙台、熊本、金沢等は有能な人を送り込んで、解体に取り組んだ。
 しかし、これがいかにもアメリカ的であるが、精神の解放を旗印にしたアメリカ教育使節団も、総合高校制、小学区制、男女共学等の大原則はあったものの、実行はそれぞれの担当の軍に任された。そのため、下記のように高名や統合振りが各県まちまちとなった。例えば、仙台は男女別学を許し、京都は統合高校が厳しく実施され、今日にいたっている。

(各地の高校名も変える)
 私の身近には、長野市にいっぱい高校があるのに、一つだけに長野高校という名前がつけられるのは非民主的だとして、長野北高と変えさせられている。松本高校も松本深志、松本県ヶ丘、松本蟻ヶ崎と平等に扱われた。各地の高校が立派な人材を輩出しており、それをもとに団結しているのでその基盤を崩しにかかったのである。その後、長野では長野高校OBが運動して北をとり、長野高校に戻してしまったが、同じ長野でも松本や諏訪(清陵、双葉等)はそのまた下に地名をつけた高校名になっている。しかし、この名前の差の由来を知る人も今は少なくなっている。

(アメリカが全面援助した生活改善技術館)
 もう一つ強力に進めたのが農村の民主化である。アメリカは、農村出身の兵士のほうがずっと都会育ちよりもずっと上官の命令に忠実であり、戦い方も強烈なこともよくわかっていたからである。そこで、自ら金を出し力を入れていたのが、今は消えてしまった「生活改善普及事業」である。アメリカ大使館がホテルオークラの反対側にあるが、この間の道を六本木側に行くと右に曲がらないとならないが、その突き当たりに「生活改善技術館」があった。そこは、全国に1200人ほどいた生改さんが研修に来て集う場所だった。アメリカは土地も建物も自ら供給したのだ。これほどまでに母親の民主的教育にも力を注いだのは、2度と再び強い軍人を育ててもらいたくなかったからだ。生活改善館長はアメリカ留学し英語がペラペラの山本松代さんが17年も務めている。もちろんGHQのご指名だった。

(余剰小麦・乳製品のはけ口)
 教育改革は日本人の思想なり考え方を変えることであったが、もっと徹底したのは、日本人の胃袋を変え、アメリカの余剰食料のはけ口にするという商売、すなわち経済的利益の追求だった。
 アメリカやEUは今もそうだが、余剰農産物の処理が大きな課題である。この点でもアメリカは狡猾である。国際協力、国際貢献の衣をまとい、余剰小麦、乳製品を世界に売り込もうとしたのである。1954年、PL480法(通称:余剰農産物処理法)によりアメリカ政府の援助を受け、アジアを標的にしてパン食を普及するという遠大な計画である。戦後はいずれの国も食糧難にあえいでいた。日本ばかりでなく、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイと東南アジアの国々すべてに働きかけた。しかし、これらの国は食料がのどから手が出るほど欲しかったのに、いずれも拒否したのである。

(池田首相のとんでも発言の意味)
 時の大蔵大臣池田勇人は「貧乏人は麦を喰え」と放言し、マスコミを賑わした。当時は、生産者米価・麦価も消費者米価・麦価も政府によって決められており、食管法の下、米麦は生産者から高く買い入れ消費者に安く売り渡し、いわゆる「逆ざや」が生じる価格支持政策をとっていた。ところが、これも今と同じだが、アメリカ産小麦はずっと安く、消費者麦価はそれよりも高くなっており、「順ざや」が生じていた。池田蔵相は、安いアメリカ産小麦をたくさん消費すれば、順ざやを稼ぎ、国家財政に寄与するということを言いたかったのである。言ってみれば、順ざやは麦専用の消費税のようなものであった。
 かくして、日本の伝統的食生活や農業生産よりも時の財政を重視し、安い小麦と引き替えに大事なもの、すなわち日本型食生活をアメリカに売ってしまったのである。そして導入したのが、学校給食へのパン食である。

(キッチンカーと映画による洗脳)
 アメリカの売り込みはすさまじかった。全国にこれまたアメリカ業界団体が全面的に援助しキッチンカーを造り、アメリカ型生活の大々的宣伝が行われた。中心は、厚生省であり生活改善普及協会という団体だったが、上述の生活改善普及員も手足となって活動した。アメリカはちゃっかり見返りに実をとっているのだ。長野県の片田舎まで来たのかどうかは知らないが、私が明確に覚えているのは、小さな体育館で見た教育的映画である。毎日たくわんとみそ汁の食生活をしている田吾作さんが、やせて農作業に力が入らないのに、パン食の人は筋骨隆々で元気だという映画であり、今考えるとここまでやるのかということを子供ながら考えたものである。
 パンの学校給食を導入したのは、私が小学校3年生のときであった。1個5円のアンパン、10円のクリームパンは高嶺の花で、買ってもらえなかった。だから私は、パンを毎日食べられるのかと興奮し期待した。

(頑固者の正論、米飯給食)
 ところが、1人えごっ玉(文句ばかり言う人)がいた。曰く、皆んな百姓で米を作っているし、毎日朝ごはんを炊いているので、パンなんておかしい。おかずが粗末で隠して食べている子供がいては可哀相だから、おかずだけ学校で作ればよい。自分の娘には弁当を持たせる。この頑固者の父親も娘の説得に負けて、一人だけ弁当という事態は避けられた。ところが、この頑固親父の正論が、米余りになって米飯給食の導入という形で30年後にやっと実現する。当たり前のことなのに、日本では正論が無視される。
 当時は、農村が貨幣経済にそれほど取り込まれていなかった。数百円の給食費さえきちんと払えない人もいたのだ。給食当番ができた。盛り付けをする人をいうのではない。大半が農家だったので、家にある野菜を背中のカバンに対して前の風呂敷で首から下げ持って行かされたのである。現場調達であり、まさに地産地消をやっていたのである。今思うと、調理のおばさんも大変だったと思う。どこも同じ野菜しか作っていないので、明けても暮れても茄子とキュウリだけという時もあり、大根と白菜だらけというのもあった。そのうちパンにも脱脂粉乳にもあきておいしいとは思わなくなった。

(再び繰り返す過ち)
 日本のアメリカに言われて素直に従う姿勢が立派過ぎるのだ。私がなぜこの件を持ち出しているかというと、日本の際立った従順な対応が、戦後66年も経ったのにいまだみられるからである。TPPについて、韓国、フィリピン、インドネシア、台湾はアメリカの余剰小麦を拒否したのと同じように参加していない。それをまた日本だけがノコノコと入ろうとしているのだ。間違いの歴史は繰り返されるのである。

(伝統重視のフランスと何も気づかない日本)
 私は、この件について、1992年パリのOECD代表部勤務時の同僚たちと議論をしたことがある。同僚の1人が、東南アジアの近隣諸国との差について、日本は敗戦国だからアメリカの要求を受け入れざるをえなかった、ともっともらしく弁護した。私は次のように反論した。
それでは聞きたい。仮にフランスが戦争に負けて食糧不足に陥っている。アメリカに大量の余剰米がある。アメリカがフランスに米飯給食を導入したらどうかと言われ、フランスの大蔵大臣が貧乏人は米を喰えとのたまい、おめおめと米飯給食を導入するか。その同僚は沈黙した。答は明らかにNOだからだ。
 世界の主食も地産池消なのだ。隣国なのにフランスはフランスパンを食べ、イタリアはパスタ類を食べる。なぜか。私の娘は「お父さんそんなこともわからないの。フランス人はパンが好きで、イタリア人はスパゲッティが好きだからよ」と教えてくれたが、事実は異なる。硬水の多い土壌のフランスではパン用の小麦がよくでき、火山灰土壌のイタリアでは麺類にしかむいてない薄力粉しかできないからなのだ。同じように火山国の日本もパン用小麦はできず麺用小麦しかできない、だから、うどんやそばが気候と風土にあった食べ方なのだ。

(フランスの食生活を教える学校給食とひたすらケチる日本)
 フランスの学校給食費は約2万円である。日本は5000円に満たない。これをフランス人に言うと、高級ブランドを買い漁る金持ちの日本人が、子供の健康のもとになる学校給食費をケチるのかと質された。いまだ子供たちに先割れスプーンという便利なものを使わせている。それに対し、フランスは子供用のスプーン、ナイフ、フォークをちゃんと揃え、前菜(オードブル)、主菜、デザートときちんとしたフランスの伝統的食生活を小学校の頃から叩き込んでいるのだ。自国の食料なり食生活を守っていくことについて、政府も国民も一丸となって取り組んでいる。
 この延長線上に、反グローバリズムの旗手になったジョゼ・ボベがいる。フランスの田舎のミロでフランスの食文化を侵略する象徴のマクドナルドの店を襲撃し、器物損壊罪で裁判沙汰になった。しかし、フランス国民は彼を全面的に支持した。

自国のものを大切にせず、アメリカの意のままに変えられるのを放置するばかりでなく、自ら進んでその傘下に下ろうとしているのが、日本のTPP交渉への参加なのだ。愚かなことは止めなければならない。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年10月31日 12:16 | パーマリンク

TPPシリーズ3.TPP党内議論封じに反論する −11.11.1
 こういう内輪揉めをメルマガやブログにはしたくないが、慎重派の総意を代弁して訴えることとしたい。
民主党は、野党時代からいろんな政策決定過程が非常に不透明であり、最後にエイヤーと一握りの人たちに決められていることが多い。政権与党になってもその体質は残念ながら同じであり、昨年10月1日の菅総理の突然のTPP入り所信表明のように、政府が何の党内議論もなく、重要なことを言い出したり、物事を強引に推し進めたりすることが多々ある。
 重要なテーマについて、すぐプロジェクトチーム(PT)なり調査会が持たれる。これまた民主党の癖で、横断的な組織が持たれ集中討議が行われるのでよさそうには聞こえるが、結論の段階になると大体執行部が押し切って決めてしまう。会合の日時さえもその都度役員の都合で決められ、一般議員は他の仕事もかかえているため、なかなか出られないことも多い。また、自民党の会議と大きく違うのは、執行部が平場と同じく声を張り上げながら進行され、執行部対平場の反対議員の間で議論されることがほとんどだった。

(偏向する事務局人事)
 今、緊急の問題になっているTPPについて、経済連携PT(鉢呂吉雄座長)が設けられ、10月4日から突貫工事の議論が始まった。ところが、PTの役員の人選で早速変な動きがあった。初会合前に日本経済新聞にTPPに前向きな人として分類された、元外務政務官(元商社員)と元経産省官僚の2人の推進派と目される議員が事務局長と次長に名を連ねていた。当然この偏向した人事には冒頭のTV・記者入りの途中から大きなクレームが付き、翌週には役員に慎重派も加えられた。
これは民主党のマネージメント能力の欠如の代表的な事例である。よく言われるガス抜きのための形だけの会合にするために、平然とこういう信じがたい人事をして強行突破しようとしているのだ。自民党ならば、この重大ミスで会合を開くことさえできないはずである。いや、その前にこんな見え見えなことをするはずはない。

(推進派がほとんど出席しない理由―議論する前に結論が出ている)
 TPPは農業や医療だけではなく、日本のありとあらゆる制度をアメリカン・スタンダードに変える原因にもなりかねない重大問題を秘めている。そのため私も、1回も欠席せずに参加し、公正な議論を幅広く行うために意見を交わし、議論の場造りに専心してきた。
 その間に変なことに気が付いた。推進すべきという議論がほとんど皆無に近く、反対派の議員ばかりが集まっているのだ。私はこれではいけないと思い、早速鉢呂座長等に忠告した。仙谷官房長官時代の「熟議の民主主義」を党内議論で実践するためである。その夕方の議論から推進派が数人参加し、28日(金)の代議士会、参議院議員総会でも参加を促している。
なぜ推進派議員が出席しないか。答えは明瞭である。どうせ執行部がまた例によって押し切るんだから出なくてもいい、と考えているからだ。それに対し、「TPPを慎重に考える会」(山田正彦会長)の面々は、私も含めどうしても歯止めをかけたいために、他の会合等を犠牲にして出席しているのだ。このいびつな構図が執行部にはさっぱりわからないようだ。

(経済団体と初の本格的議論)
 経団連、経済同友会等経済4団体との議論が白熱した。はじめてそもそも今なぜ慌てて参加する必要があるのかといった根源的議論が行われたからである。それまでは上述のとおり、推進派が全くといっていいほど出席せず、外務省等の事務方ばかりと議論ばかりしていて、大局的な議論がなかったからだ。自民党の場合、あの喧々囂々の郵政民営化議論の最中、私の知るかぎりでは、党内の議論にも竹中大臣も自ら出席し討論をしていた。もちろん政調会長も関係議員も出席していた。
それに対し民主党は関係大臣はおろか、政調会長も1回も出席していない。TPP交渉に参加するか否かは、日本の安定した社会構造をグチャグチャにしかねない大問題であり、与党の政治家同士が真剣に議論すべきことなのだ。

(活発な議論を封じる問題発言)
 業界団体の意見を聞き、有識者の意見も聞き、10月28日(金)参議院本会議終了後15:30分から17時過ぎまで俄か仕立てで議員間の議論が始まった。
 ところが同じ日に夕刻から軽井沢で開かれた前原グループ(凌雲会)の研修会で仙谷由人政調会長代行が「党は合意を形成させないことを自己目的化して動くのは政党の形をなしていない」と全く真逆の発言をしたことがTVで流れた。また、「自分たちの信念なのか、宗教的関心なのかしらない」、「農協はTPP反対を叫んでいるが、ものの分かる人を何人か捕まえて中立化し、こちらから応援団を作る必要がある」と続けている。まさに放言である。たてて加えて、前原政調会長も「不満が残る人に配慮して物事を決めないのであれば、政策は前に進まない」と反対意見を聞いていられないといわんばかりのことを言っているのだ。民主党内の意見をとりまとめなければならない政調幹部が、反対ばかりしているとか、反対意見はきかないというのは、とりまとめ役の言うべきことではない。前述の議論を尽くさない体質が露呈してしまった。
 それよりも、派閥の会合を党の重要な議論をどちらを優先すべきか明らかである。それを出席せずに、場外で水を差しているのは、いかがなものかと思わざるをえない。
 仙谷政調会長代行は、交渉反対派は、農協に懐柔されているとでも言いたいようであるが、同僚議員は農協組織の推薦を受けず(農協は自民党議員を支援)当選してきたものがほとんどである。そのため農業団体も、民主党議員に要請はおろか、顔さえだししづらいというのが実情である。そのような中、慎重派の一部議員は、野田総理の突然の前のめりの姿勢に危機感を抱き、まさに日本の国益を考えて会合に出席し意見を言っているのだ。仙谷発言は、農業団体に対しても何たる侮辱的発言かと私の所にも抗議が寄せられている。

(万年執行部の弊害)
 どうしてこういう状況となってしまうのか。一つの理由は、民主党が政権奪取後、首相は3人目だが内閣・党の幹部となる衆議院議員の5期生以上は僅か45人程度で16%しかないことから、同一人物が一貫して執行部にいるからでもある。つまり自民党は総理が交代すると、執行部が一新されるので、自ずと逆の立場すなわち党内野党の意見にも理解を示すようになるが、民主党の執行部はずっと党内与党でい続けるため、知らず知らずのうちに独善的体質がしみついてしまっている。そしてこのことに本人たちが気づかずにいる。

(責任ある政党与党になるために)
 仙谷政調会長代行の放言は、党内の意見を取りまとめようと汗をかいている鉢呂座長等の努力に水を差すものである。2人の政調幹部は、TPP交渉への参加という結論しかない、つべこべ言うなという決めつけの姿勢を露骨に示しているのだ。それでは鉢呂PTの議論は一体何なのかということになる。仙谷政調会長代行の言葉を借りれば、これこそ政党の形をなしていないのではないか。
 仙谷政調会長代行の発言は、執行部の責任ある立場の者としては、とても捨ておけないので、10月31日(月)朝、TPPを慎重に考える会として、記者会見をして執行部に解任要求した次第である。
我々は、党内の意見をとりまとめるべく必死で議論をしている最中である。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月02日 21:20 | パーマリンク

TPPシリーズ4.元祖TPP:日米構造協議による大店法の改悪・廃止とシャッター通り化−11.11.2
 3回前のブログ(過熱するTPP交渉参加の是非の議論 11.10.28)でTPPと原発について執筆中と書いたが、TPPは急を告げているので、その一部をお届けする。
 今、私は鉢呂座長の党のPTと慎重に考える会の2つの会合に出ずっぱりである。役員会も加わり、ずっとTPP三昧である。そこでの主な議論は、医療、公共調達、資格、食品の安全性、共済等様々であり、日本の社会制度そのものの改変についてのものが大半である。予測は難しく、政府、推進議員、慎重(反対)議員間の議論がかみ合わない。
 なぜかというと、どういう内容の交渉になるかわからないからだ、となると、やはり過去の歴史なり事実から、TPPが日本にそのような影響を与えるかを学ぶしかない。2回前のブログ(TPPで考える、アメリカの戦後の日本の食生活大改造の恐ろしさ 11.10.31)がその一つだ。今回は日米構造協議の結果を受けた大店法(大規模小売店舗法)改正・廃止について、そして3回目には郵政民営化についてお届けする。


 日本の地方は疲弊した原因は、二つあると思っている。
一つは無節操な農林水産物の関税の引き下げであり、もう一つは日米構造協議の結果を受けた大店法の改悪による商店街のシャッター通り化である。地方の文化・伝統の担い手である商店街が空洞化し、日本の地方社会がいかにしてズタズタに引き裂かれていったかを示す。TPPは、この数倍の圧力で、日本を混乱させる方向性がある。

(大店法の制定による出店規制)
 大店法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律)は、1973年に成立(74年施行)された。中小小売業保護の立場から、一定以上の面積(1,500u 政令指定都市等では3,000u)を有する建物を規制の対象とし、店舗の新増設、開店・休業日数、閉店時刻について届出を課し、通商産業大臣は、周辺小売業に及ぼす影響が大きいと認めるときは、大規模小売店舗審議会の意見をふまえて勧告することができるという法律であった。
 しかし、経済の成長と共に、大規模店舗出店の勢いは止まらず、施行前の既存大規模店舗数 約1,700が、たった5年で2倍弱にまで膨れ上がっていった。同時に、中型店舗の新設も盛んに行われたことから、中小小売業者に対する大きな脅威となっていった。
そのため、1978年に規制対象を1/3の規模に引き下げるなど規制を強化し、さらに1981年には、通商産業省により、大規模店舗の出店を自粛する行政指導と、出店届出の「窓口規制」まで行われるようになった。

(日米構造協議により大幅規制緩和)
 この規制強化の流れが完全にひっくり返ったのが、アメリカの圧力ともいえる日米構造協議である。アメリカは、いろいろな日本的システムの中の一つとして大店法を厳しく攻撃した。外国製品をより自由に販売できる大規模店の出店が規制されているため、外国製品、なかんずくアメリカからの輸入品の販売が阻害されているという論理であった。常識的にみれば、とってつけたような難癖でしかない。ところが、驚くべきことに日本はこのアメリカの要求に屈していく。
 交渉の結果、大店法は改正され大幅に緩和されることになる。アメリカは通商301条(スーパー301と称された)による輸入停止や他の品目にも制裁措置を課すクロス・リタリエーションを楯にして日本を攻撃したが、日本国内の世論にも、大店法や複雑な流通機構は消費者の利益を侵害しているという米国の意見に同調する意見も多かった。
 1991年には、売場面積を、2倍の3,000u(政令指定都市等では6,000u)に引き上げ、商業活動調整協議会を廃止、出店調整は大規模小売店舗審議会に一本化、調整処理期間は1年以内とすること等を内容とする改正大店法が成立した。更に1994年には、1,000u未満案件は原則自由とされ、届け出をしなくてもよくなり、閉店時刻や休業日数の下限も緩和された。これらはすべて、アメリカの要望に沿ったものだった。

(大店法廃止で商店街が衰退)
 1991年の再改正大店法により、大規模店舗の出店はかなり容易になり、従業者50 人以上の大規模店は、改正前の1991年の9,009から2007年には2倍の17,547と着実に増え続けている。
また、1970年代後半から、大手資本を中心にしたコンビニエンスストアも普及し、個人商店を圧迫していった。1972年に2.3万店あったコンビには、1991年には4.2万店に増えた。
 その結果、従業者49 人以下の中小規模の店は、同期間に約160万から約122万と35万店も減少し、従業者1、2 名の個人商店になると、1982年に100 万軒以上あった店舗数が、1997年には71 万軒弱、2007年には50 万件を下回るほどになった。
 商店街団体に対して行っているアンケート調査によると、大店法改正後の1995年に商店街の抱える問題としもっとも多かったのは、「大規模店に客足がとられた」であったが、現在では退店・廃業の理由として62.6%が理由として後継者不足をあげている。若者が参入しない地域は衰退していくのは当然であるが、それもこれも大店法の改正が切っ掛けとなったのは明らかである。

(アメリカ型郊外店が地方の商店街を潰す)
 大規模店は、自家用車の普及やバブル期の地価の高騰を背景に、既存の商店街など町なかから、新たに開発された住宅地や幹線道路沿いなどの郊外に出店する傾向が強く、1990 年代に新規開業したショッピングセンター(SC)の60% 強が郊外地域に立地している。
 この結果、商店街のあちらこちらに廃業した空店舗が目立つようになり、シャッター通りという言葉が生まれた。郊外に進出するため商店街の既存の大規模店舗が閉鎖されるケースも相次ぎ、かつての賑やかなアーケード街はすっかりがらんどうになってしまっている。
 近代的消費のさきがけとして登場した百貨店でさえ、バブル崩壊以降の消費者の低価格志向や、近年は「ユニクロ」や「しまむら」に代表されるファストファッションと呼ばれる低価格衣料店に押されて、売上高、店舗数を減らし、とくに地域に根付いた地方百貨店の閉鎖は、アーケード街のシャッター通り化と相まって、その中心市街地の衰亡を強く印象づけている。
 商店街の衰亡は、商業の問題にとどまらず、中心市街地の空洞化という都市問題にまで発展し、コミュニティの崩壊にまでつながっている。また、消費者の側からみても、自家用車を持たない人々や高齢者などには、旧来の商店街の衰退は生活に大きな不便が生じる。いわゆる買い物難民もあちこちに増えている。

(地方の小さな市にも進出する全国チェーン店)
 私の選挙区に長野県最北の市、飯山市がある。かつては見事な商店街があったが、大規模店に押され、全国で見られる地方の商店街同様、今は閑古鳥が鳴いている。高速の豊田飯山インターから飯山市街地に行く間に、通称「群馬通り」と呼ばれる一大ショッピングセンターが田畑を潰して煌々と照明をつけている。しまむら、ガスト、サージ、かっぱ寿司、アメリカンドラッグ、タカギ、ワ−クマン、ベイシア、オートアールズ、カインズホーム、ツタヤ、ドコモ、・・・と、東京にも全国各地にもある店名が並ぶ。こののっぺらぼうな街並みは北信州の飯山の風景にはまったく溶け込まない。
 私は、アメリカとフランスで計5年間外国暮らしをしている。こののっぺらぼうな街のはずれの巨大なショッピングモールとウォルマートがどこにもあるアメリカ中西部と、どこでも小さな気のきいた店が並ぶフランスの街という両極端を見てきた。世間話をしながら、毎度おなじみのおじさんやおばさんの店を回るのと、ばかでかいスーパーで買い物するのと、どちらが住みやすくどちらが心豊かかは明かである。もちろんフランスにもスーパーはあるが、地元の商店街を木っ端微塵に蹴散らしてしまうような愚策は断じてない。むしろ、逆に、個人商店を守る工夫をしている。都市の魅力の根源がどこにあるか考えたらよくわかるはずである。
 EUは農産物64品目も守り、地方の商店街も守ったのだ。ところが、我が日本は、輸出しやすい環境を維持するために地元商店街を売り、自動車を売るために、丸太・製材から始まり、麦・大豆・菜種を次々にアメリカに差し出してしまった。この間違った政策が、日本の地方を不幸に陥れてしまった。彼我の政策の違いを見るにつけ、溜息がもれ、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。

(日本的なものを進めるジャパナイゼーション)
 NZのケルシー教授は、アメリカは自国の規格をそのまま、TPP加盟国の規格にするということを狙っていると指摘している。まさに日米構造協議の大型版であり、TPP参加により日本の仕組み自体、例えば、労働規制や食品の安全規制、裁判の仕組みまでも、それこそ国のかたちまでも変えられてしまう大きな変化に見舞われるのではないかとさえ言われている。
 日本には日本のルールがある。それなりにうまく働いてきたのに、なんでもすぐアメリカのルールにしなくていいのだ。外務省・経産省とか財界はなぜか自虐的で、進んで日本的なものを捨てたがる人が多いようだが、今は日本的なものを守り、工夫してもっとよいものにしていくこと、すなわちジャパナイゼーションのほうが大切ではなかろうか。都市のコミュニティを存続させ、暖かみのあるその土地その土地の特色のある町並みと、各地の町民文化を継続させていくことにもっと目を向けるべきではないだろうか。われわれは、日本の安定したシステムをこれ以上アメリカ流に変えるべきではないと考える。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月02日 21:47 | パーマリンク

TPPシリーズ5.郵政民営化とTPPの類似性-11.11.4
 TPPの議論は佳境を迎えている。政府と与党民主党幹部の不規則発言の中、我々は粛々と議論を重ねている。学校給食へのパン食の導入、大店法の改悪による地方商店街のシャッター通り化に次いで、第3弾として、それこそアメリカの言いなりになった郵政民営化の悪例を示す。
 TPPの中身の一つが郵政民営化だが、TPPはその数倍の内容の重さであり、日本のよさの大半を失わせてしまう危険性を秘めている。

(郵政民営化とTPPの違い)
 小泉首相は郵政を民営化するとわめきちらして解散まで持ち込んだ。国民がほとんど関心を持っていなかったものをシングル・イッシューに仕立て上げ、解散総選挙をやるというのも大変な博打であるが、日本の国民は完全に乗せられてしまった。
アメリカの金融資本が日本の郵便貯金226兆円、簡易保険119兆円と、300兆を超える資金に目を付け、それに手を付けさせろという要望が1995年の第2回の「年次改革要望書」に出され、1999年版には、Kampoと名指しして簡易保険を攻撃した。2004年には小泉の構造改革、郵政民営化の動きと呼応して、保険、銀行、宅配便に攻撃を仕掛けてきた。そして、それに応える形で郵政民営化が行なわれた。この場合は、アメリカの業界団体、金融資本がぜひそうしろという姿勢を示していたのである。
しかし、今回はアメリカの諸々の団体が日本をTPPに入れろとか、ここを直させろと声高に言っているわけではない。もちろん、例えば医薬品業界のようにアメリカの医薬品がもっと日本に入りやすくするようにという要望はあるにせよ、どうしてもTPPに日本を入れ込んでやろうということまで言っていない。あまりにも扱う範囲が広すぎてよくわからないのだ。専らオバマ大統領の再選に向けた格好付けが主目的で、それに日本政府が付き合わされているに過ぎない。


(劇場型一人芝居は全く同じ)
 ところが郵政民営化との大きな類似性は、アメリカのそこはかとないプレッシャーに負けて、TPP交渉ぐらいは参加しようとしていることである。菅前総理も野田総理も気が付いていないが、結局、日米同盟が基軸だが、普天間問題で少々ぐらついているので、アメリカの困っていることは聞いてやらなくちゃいけないというような態度を知らず知らずのうちにとっている。
 アメリカがそれほど要求していないものを、日本国内でやたら農業と輸出産業界との対立を煽るような形にして、劇場型にしているという点では、郵政民営化と全く同じことである。自らAPEC前に決断などというのは、自分で自分を追い込むばかりで、自虐的ですらある。
 外務省は、早速、医療制度や保険制度は今回の対象には入っていないと適当なことを言ったが、アメリカは次々と要求をし続ける国である。

(しつこく繰り返す郵政民営化要求)
 TPPの24分野で、アメリカが一番力を注いでいるのはサービス(金融)と投資の2つの分野であり、郵政なかでも特に保険についてのアメリカの強烈な要求が続けられている。農協に興味を示すのも共済に関心があるからである。
 2011年9月17日に公表された米日経済協議会の「TPPへの日本の参加の実現に向けて」で、日本郵政などの国営企業が公正かつ対等な競争条件が満たされない状態で国内外の民間企業と競争することを引き続き実施している、と批判している。ゆうちょ銀行とかんぽ生命を合わせた世界最大の金融機関(300兆円を超える)は、100%国有であり、政府の支配下にあり、日本政府により様々な優遇措置を享受していると指摘している。
 執拗な要求はまだ終わっておらず、TPP交渉に入ろうとすれば、またまた無理難題を押しつけてくるのが目に見えている。アメリカの得意分野は、金融・サービス、投資、知的財産、そして農業、高性能武器くらいしかないのだ。

(狙いは金融と共済)
 我々は外国との交渉を終えると一区切りでホッとする。しかし、アメリカという国はすぐまた次の注文を言ってくる。郵政分社化の後は、同じく金融と共済を持つ農協に目を付け、それを分社化しろという要求である。それを受けて宮田義彦オリックス会長を議長とする政府の規制改革・民間開放推進会議が提言しようとした内容がひどいものだった。日本の軟弱な対応にほくそえんだアメリカは、貯金76兆円、共済41兆円と、郵貯・簡保に次ぐ巨大な117兆円の農協資金に目を付け、農協を信用、共済、経済(購買・販売)の3つに分けろというものである。農協の大事な営農技術指導など端から念頭になく、まさに農協の解体である。しかし、農協では、営農指導員が一斉貯金日には各農家を回り貯金集めを手伝う。また、お金を貸すときは、営農指導員が融資担当者に農家の能力を見極める大事な情報を提供する。一人が何人分のあるいは何種類の仕事をし、人と人とのつながりでもっている。
 もちろん、こんな無鉄砲な案は最終提言には残らなかった。しかし、アメリカの外国貿易障壁報告書には、正直に、共済に関する規制や監査を競争相手である民間企業と同じ条件にすべきと明確に書いてある。これが、TPPで白日のもとに晒され、県民共済、全労済にも拡がっていく。それを、連合はなんと考えているのか、TPPに参加すべきと言っているのは、外務省の情報開示が足らないばかりではあるまい。

(郵政分社化が山奥の絆まで奪う)
 長野県の私の選挙区内等では、郵便局が各地方自治体と契約を結んで、自治体の情報を提供するサービス、産業廃棄物の不法投棄に関する情報提供、徘徊シルバーSOS、お元気訪問、道路の損傷等の情報提供、土砂災害防止協定、三次災害防止協定等、各種のいろいろな仕事(施策)を実施していた。何のことかおわかりだろうか。人のあまりいない山間部で郵便配達の折、道路の傷み具合を見て報告したり、一人暮らしの高齢者がちゃんと元気でいるかどうかを回ってきたりしているのである。また、分社化前の郵便局では、郵便配達人が時に年老いた一人暮らしの老人に頼まれて貯金を下ろしてくることもできた。
 こういったサービスは、郵政の三分社化でできなくなっている。山奥に培われた郵便配達人とお年寄りの絆を郵政分社化・民営化がこわしているのだ。

 私はこのようなアメリカの内政干渉を許すわけにはいかない。TPPには、このような日本のよき社会システムをこわしてしまう種が目白押しだということを肝に銘じておかなければならない。


投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月04日 08:13 | パーマリンク

TPPシリーズ6.自由貿易・国際分業論を捨てグッズ・マイレージの縮小を-11.11.5
 環境の世紀21世紀には、環境に優しい生き方をしなければならない。その具体的な例が、物の輸送をなるべく少なくすることだ。なぜならば、物の輸送には必ず、CO2の排出が伴うからである。

(現地生産は環境上もコスト面からも当然の帰結)
 自由貿易というのは一種のイデオロギーになっていて、これは絶対的善で、これはしなければいけないという強迫観念に駆られている人たちが大半である。自由貿易というのはなるべく貿易量を増やす、このことにつきている。それに対して、貿易量はなるべく少なくし、人の行き来や、技術の交流、知識の交流は増やすべきだけれども、その国に必要なものはその国でなるべく作るというほうが理にかなっている。
 この問題は今やもう解消しつつある。ホンダの車もトヨタの車も現地生産をし、現地でもって調達されている。輸送コストを考えたら当然のことである。最近の企業の海外移転は、日本の法人税が高すぎる、賃金が高すぎるからなどと言われるけれども、最終消費地の一番近くで製品化するのが一番安く、特に輸送コストが安くなっているということを考えると理にかなっている。従って、TPPで相手国の関税をゼロにしたり、人件費の差が少々縮まったり、投資をしやすくしたりしたところで、海外移転を食い止められるわけではない。


<フード・マイレージからグッズ・マイレージ>
 私は食べ物の世界で「地産池消」そこで獲れたものをそこで食べる、「旬産旬消」そのとき獲れたものをそのときに食べることを主張してきた。そして、前者を計量的にバックアップするものとして、フード・マイレージという概念を使い始めた。韻を踏んで、木材の貿易に関わるウッズ・マイレージ、そして、全ての貿易に関わることがグッズ・マイレージと主張を広めている。環境に優しい生き方をするのは、これらのマイレージをなるべく少なくするのが理にかなっている。
 農業の場合は新鮮さ、ポストハーベスト農薬等を考えても、あるいは冷凍・解凍に伴う無駄なエナルギーを使うことを考えても、そのときその場所でできたものを食べるのが一番いいとうのはすぐにわかるはずである。

(加工畜産・動物工場は長続きせず)
 TPP推進論を説く経済学者や評論家が決まって言うことがある。さすがに米等についてはあまり言わないけれども、園芸作物、あるいは中小家畜等に競争力があり、オランダと同じように輸出国になれる。オランダは日本よりも面積が狭いのにもかかわらず、世界第2の農産物輸出国だ。日本もTPPに参加し、その技術力を活かしてオランダ型農業を目指すべきだというご高説だ。
 オランダは、飼料作物を山のようにアメリカから輸入し、農場を工場代わりにして、肉や卵や牛乳を加工生産する。しかし、その結果、家畜の糞尿の処理能力を超え、いつでもどこでも牧場の匂いがする国となっている。取り返しのつかない土と水の汚染である。残念ながら南九州の一部ではオランダと似た状況になりつつある。そのように国土を汚してまで加工畜産をやる必要があるのか。答えは明らかにNOである。
 農業というのは、自然に働きかけて、人間の都合のいい食べ物を分け与えていただく、まさに「いただきます」の精神でやらなければいけないものだ。生産にしろ消費にしろ、日本人はもう少し原点に立ち返って、倫理的なことも考えていかなければならない。小さな日本に1億2800万人がひしめいて暮らしている。一にも二にも日本人に食料を、そして美しい景観を維持することを考えて農業生産をするのが王道である。

(イギリスの空輸シール)
 CO2を大量に排出して運んだ輸入木材を使って作った家に住むのは、環境上好ましくないはずである。しかし、日本には残念ながらそこまで考える人は少ない。ところが、環境先進国イギリスはナショナルトラストを始めただけではない。食べものの世界で、空輸された場合、空輸シール(Air Freighted)を貼り、「あなたは、これだけ環境を汚して海外から送られてきたものを、それでも食べるのですか」と警告を発している。日本人の常識では、店主が貼るのを拒否するだろう。理想は、そんな罪深い食べ物を販売すべきではないのだろうが、イギリス流の妥協の産物で判断を消費者に委ねているのだ。
 これを更に一歩進め、私は環境によくない運ばれ方をした材木ということで、輸入制限をしてもいいのではないかと考えている。これは何も材木に限ったことではない。世界中で環境保全するためには、国内の環境税だけでなく、国際的にこそ環境税をかけていくべきなのだ。なぜなら、国際交易のほうがずっとCO2の排出が多いからだ。つまり、グッズ・マイレージへの課税を考える時期がくるかもしれないということだ。

(企業の海外移転はグッズ・マイレージ削減の結果)
 企業の海外移転は紛れもなく、コスト削減のために行なわれている。その上で結果としてこのグッズ・マイレージを少なくし、輸送に伴うCO2の削減という副次的効果を生んでいる。前述のように法人税やそういった問題ではないのである。消費者の一番近くで最終製品をつくる。これが一番コストが少なくなる。日本が原材料を輸入し、それを加工して製品を造り、輸出するというのは、技術格差や人件費格差が相当にある一時のことにすぎない。かつての日本の花形輸出品である繊維製品は、1960年代にはアメリカを日米繊維交渉で悩ませたけれども、今や日本から消えている。その時にアメリカの交渉担当者は、日本もすぐにアメリカの傷みがわかるようになると予言している。今、テレビやカメラや家電製品までも、東南アジアや台湾、中国で作られているのと同じように、いずれその最終消費地の国で作られるようになっていく。従って、いつまでも日本だけが貿易立国というのはあり得ない。それをまだ在りし日の夢を追って、自由貿易自由貿易と唱えているほうが時代遅れでおかしいということになる。日本には、環境の世紀21世紀にふさわしい行き方こそ求められているのだ。

<加工貿易国はゴミだらけの運命>
 私はこのことを、2001年5月15日の朝日新聞 私の視点「地産池消で循環型社会を」で明らかにした。フード・マイレージという言葉もそのとき始めて使った。日本は世界一の輸出国であると言われているけれども、それは金額ベースであって、物ベースでいうと、7億トンを輸入し、1割の7千万トンしか輸出していない、6億3千万トンが日本の空気や、水、土地に残されている。圧倒的輸入大国なのだ。これをニュートラルにするには、例えば飼料作物の運搬船に日本の糞尿を積み、中西部に戻って撒いてもらわないとならないことになる。さもなければ、日本は窒素過多になり、飲み水さえも汚されてしまうことになる。つまり農業はオランダ型の畜産が長続きしないのは勿論、今の日本の加工畜産さえ長期的には問題なのだ。
 その延長線上で考えると、ゴミ問題が一番深刻化したのは、愛知県名古屋市だと言われている。理由は簡単である。浜松も含めた中京地区が、遅れてきた高度経済成長地域であり、一番大量の原材料が名古屋近辺に運び込まれているからだ。したがってゴミも大量に出て、そのゴミの行き場所がなく、岐阜県の山の中に捨てられることになる。そして、とうとう三崇町長がゴミ問題で狙撃されたりする事件が起こることになる。これを同じように言えば、ゴミ・マイレージということになる。ゴミの輸送コストなど尚更少なくしなければいけない。東京近辺の千葉、神奈川、埼玉などの農地がゴミ捨て場として狙われているのも、ここに原因がある。

環境に優しく生きることこそ、21世紀の世界共通の理論であるとしたら、自由貿易・国際分業論に代わるべきルールは、グッズ・マイレージを少なくすることではないだろうか。


投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月05日 00:43 | パーマリンク

TTPシリーズ7.TTPで米の輸出という矛盾-11.11.6
 連日TPPの議論が白熱している。そんな中、よく繰り広げられる、農業を強化して輸出産業として位置づけるという、耳障りよいことこの上ない主張。今回は、この矛盾に切り込みたいと思う。

<楽観的すぎる農業とTPPの両立、TPP農業刺激活性化論>
 TPP推進論者が決まって言うことに、TPPを機に日本の農業を輸出産業にすべきというものがある。曰く、「日本の農業は大切であるが、現在の農業の現状は、減反し小規模零細農家も多く、競争力がなさすぎる。貿易の自由化を契機に大規模化を進め、競争力ある農業をつくり、自給率も向上させる」である。
 言葉にすればもっともらしいが、関税をゼロにしたら、大規模専業稲作農業こそ競争で潰れていき、自分(や親戚一同)の食べる米ぐらいは自分で作ろうという健気な兼業農家しか生き残ることはできないだろう。経済学あるいは農業経済学上の常識なのに、素人ばかりか専門家までも同じようなノーテンキなことをいう人が多いのに驚かされる。たとえ、現在の農地を集積し20〜30haに規模拡大しても、そもそもたかがしれているのだ。その200倍の規模のアメリカ、1000倍の規模のオーストラリアにどうやって太刀打ちができるというのだろうか。大量に安い米が輸入され、今の大豆(6%)や菜種(0.04%)や小麦(9%)の自給率並みになるのは明々白々である。
 それならば、今の戸別所得補償を使って農家に、内外の米の価格差分を補償すればいいという人もいる。しかし、3〜4兆円にもなる財政負担を国民が許容してくれるのか、私には疑問である。更に楽観的な主張で、米は例外になるかもしれないからとにかくTPP交渉には参加すべしという、かなり乱暴なものまでもが横行している。


<イチゴと米は別の競争力>
 日本の米が、中国の米の20倍の価格で売られている。りんごふじが1個3000円、いちご一粒が200円という具合だ。それでも飛ぶように売れていると、小泉政権のときにまことしやかに言われていた。最近は聞かれなかったが、鹿野農相の地元山形県のサクランボを例に、体力を強化した結果国内でも高級品として売れるようになった、などととってつけたことを言う閣僚も現れた。
 しかし、食べ物は、そこで取れたものをその時に食べる、地産池消・旬産旬消が原則であり、あまりあちこちに輸送することは好ましくない。特に生鮮品は劣化するため、保冷輸送にも無駄なエネルギーが必要になる。
 ましてや、これが米や小麦や大豆なのどの土地利用型の基幹作物には、全くあてはまらないことがわかっていない。

<原発事故で傷ついた日本食品の安全性>
 日本の食べ物はおいしく、安全で、健康的ということがブランドであった。しかし、3月11日の福島第一原発事故でその名声は大きく傷ついてしまった。食品の安全にうるさいEUだけでなく、毒入り餃子、残留農薬野菜等数々の危なげな食材を日本に持ち込んだ中国までもが、輸入もほぼ全面禁止している。放射能検査をした13都県については、全て検査証明をつけ、それ以外の県は、その県で生産されたことの証明書をつけなければ輸入させないという厳しい輸入制限を実施している。
 一方、いつも難癖をつけてくるアメリカは、日本で生産制限を解除した品目を、ほぼそのまま輸入制限解除品目にしている。この点だけは感心する。日本ほど放射能や安全性にうるさい国はないということを知っており、また大した輸入額でもないことから、日本の基準をそのまま認めているのだ。いくら放射能は目に見えず国民が心配しているとはいえ、中国やEUのしていることは厳しすぎると思うが、日本の食べ物の安全神話は、完全に傷つけられてしまった。

<日本の米輸出の可能性>
 日本の米の輸出は生産量840万tのたった0.02%しかない。中国は18倍の1.3億tの大消費国で市場としては魅力があり、ジャポニカ米(短粒米)と日本式炊飯器も人気を博している。鹿野農相は、ことのほか米の中国輸出に熱心であり、農相就任前から筒井農林水産副大臣等とともにその推進に当たってきた。大臣就任後も同様で3月11日の震災さえなければ、3月の春分の日をはさんだ連休に、関係都道府県の知事と一緒に中国へ米の輸出の最終打ち合わせに行くことになっていたが、全てキャンセルされた。原発事故はこんなところにも悪影響を与えている。
 また、差別化差別化というが、同じ食べ物、そんなに大きな差があるはずがない。また、同じ気候、同じような土壌・環境さえあれば、同じものを作ることもできる。日本の優れた品種や栽培技術は、どんどん海外に流出しており、現にアメリカやオーストラリアで和牛が生産され、韓国では日本で育種されたイチゴが生産されている。米にしても、アメリカ、オーストラリアではコシヒカリやあきたこまちも作っている。工業製品と同じく、栽培技術もやがて追いつき、価格差は、規模や人件費の違いになってくる。規模の面では、前述したように、アメリカやオーストラリアに太刀打ちできない。関税が撤廃されれば、今は長粒種しか作っていない所でも、すぐ短粒種に転換し、日本向けに輸出してくることは明らかだ。
 だから、日本が超高級米を外国に輸出するなどということは、ニッチ(隙間産業)で考えられても、これを主流としていくとは考えられない。

<中国の金持ちがコシヒカリを食べ、日本の非正規雇用者が外国米を食べる矛盾>
 中国は13億の民、10%の富裕層がいるとしたら1億3千万人、たった1%の超富裕層でも1300万人、それが北京とか上海とかの大都市いるとすれば、確かにそれだけでも魅力的な大市場になる。世界の超高級品が一番売れるのはアメリカで、次が中国であると言われるが、納得せざるを得ない。ところが、我が日本ではそれら高級品はほとんど売れないそうだ。日本の平等社会、社長の給与も新入社員のせいぜい10倍程度ということに起因しており、日本はそういう点では格差の少ないいい国なのである。
 この海外の格差が日本に持ち込まれるなら、稼ぐ人はいいものを食べ、稼げない人は安い食べ物にしかありつけなくなる。つまり、中国人の富裕層が、日本の安全でおいしいコシヒカリを食べ、日本の何百万人もの年収が200万円に満たない非正規雇用者が、東南アジアや中国から輸入された質の悪い米を食べることになるのだ。果たしてこんなことを国策として推進すべきだろうか。

 それよりもやはり食べ物もエネルギーも、なるべく近くて、自分の近くの人たちに提供していく地産地消が基本である。いざという時を考えても地産地消が一番いいということは、3.11の震災にいやというほど教えられたばかりである。
 この期に及んで枝野経産相が再び農業輸出産業論を振りかざし始めた。自由貿易は一つの手段でしかないのに、それこそ目的化してしまい、それにそった社会構造や産業構造にしないとならないという強迫観念にとらわれているのである。あたかも輸出していなければ産業でないというのは、明らかに間違っている。日本はまずは1億2700万人の日本人に質のよい食料を供給することを考えるべきであって、輸出など二の次三の次でよいのだ。


投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月06日 13:54 | パーマリンク

TTPシリーズ8.韓国と日本の大きな違い-11.11.7
(したたかな韓国、出遅れる日本)
 財界、経産省、外務省はなにかにつけて韓国のFTAを絶賛・推奨し、だから日本はTPPに入らなければいけないと言う。いわゆる「韓国脅威論」である。何を言っているのか、私は理解に苦しむばかりである。百歩譲って韓国を見本とするなら、米等重要品目を例外とするEPA・FTAをEUやアメリカと結べばいいのであって、関税ゼロを前提とするTPPなどは全く方向が違っていることである。
 日本の財界は、韓国の米・EUとのFTA締結という矢継ぎ早の自由貿易への転換に浮足立っている。EUとの関税 自動車10%、薄型液晶14%は大きいかも知れないが、それ以前に韓国には追い越されているのだ。2010年にトヨタは欧州で初めて販売台数で現代に追い抜かれているし、世界最大の市場中国でも現代に及ばない。関税をゼロにすればいいというほど単純ではない。

(貿易依存度のバカ高い韓国)
 それよりも何よりも、日本と韓国の違いは国の大きさである。人口は、日本は、1億2700万人、韓国は、4000万人強、約3分の1である。また、韓国のGDPは10,145億ドルと日本の5分の1強にすぎない。韓国は小さい国内市場だけでは生きていけず、グローバル化が必要なのだ。そして、国民がある程度その考えを受け入れていることだ。
 次に違うのは輸出依存度が、韓国は43%(GDPに占める輸出入総額は82%)なのに対し、日本はわずか11%にしか過ぎない。日本より低いのは、アメリカ(7%)とブラジル(10%)ぐらいしかない。韓国はWTO交渉が停滞する中、日本やアメリカのように国内市場だけで成長できる国ではないことから、2国間のFTAに活路を求めたのだ。
 日本は加工貿易立国であるといわれてきたが、実は違う。日本の成長は確かに一時は輸出が支えたこともあったけれども、基本的には団塊の世代を中心とする内需が支えたのである。これは三種の神器なり、3Cなりを国民がこぞって買い、内需を拡大することによって、日本の産業界を潤わせてきたことを考えると一目瞭然である。日本は幸いなことに、大国になり過ぎたのであり、韓国の5倍のGDP5.5兆ドルの国が輸出拡大を図るとすれば嫌がられるのは当然である。米議会が米韓FTAは許しても日米FTAをおいそれと認めることはあるまい。その延長線上で、私は米議会が日本のTPP入りをすんなりと認めるとは思えない。
 となると、日本もまたぞろ外需すなわち輸出に頼るのではなく、今度こそ内需拡大で日本を活性化していくべきなのだ。それも乗用車とか家電製品といった特定の製造業に偏りすぎず、食品産業や木材産業等の地場産業の振興に努めるとともに、介護、医療、教育といった新しい需要に向けていくしかないのだ。これらの新しい分野にこそ、新しい雇用の場なのに、TPPに入り、介護や医療の分野まで外国に開放せんとするのは、愚かとしかいいようがない。

(韓国の危険な試み)
 韓国は、盧武鉉政権の時の1997年の財政危機を契機に2004年チリとのFTAを皮切りに、通商国家体制に大きく舵を切った。李明博政権はそれを引き継いで加速させている。日本と違って人口は4000万ほどで国内市場は限られている。北朝鮮という危うい隣国を抱えている。そうした中でのやむにやまれない方向転換かもしれないが、非常に危険な試みであると思う。
 EUとのFTAが2011年7月発効、アメリカとのFTA交渉も2007年には米の16品目を除き、牛肉、豚肉等の重要品目の関税撤廃も受け入れ、合意にこぎ着けている。韓国はかなりアメリカに妥協していて、今後のTPPを占う参考になることが多い。例えば、郵政の保険関係では、新商品を販売しないと約束し、特区内での自由診療拡大、営利病院の許可を明文化している。日本が今、何の情報もなくTPPに入ったら、すぐさま同じ要求を突きつけられ、受け入れざるをえなくなる可能性が強い。
 アメリカは外交交渉においては、本当にしつこい勝手な国である。次々と新たな要求を出してくる。2009年1月オバマ大統領は「米韓FTAについて見直しが必要」と発言。韓国は「再交渉はあり得ない」と主張したが、事実上再交渉させられた。その結果、韓国産乗用車に対するアメリカの関税撤廃時期の5年先延ばし、米国産乗用車に対する韓国の安全・環境基準の緩和という妥協を強いられている。日本のTPPに入ればなんとかなるという楽観主義者には、この際限なきアメリカの要求はどう映るのだろうか。

(羨ましく映る韓国をじっくり観察)
 延び延びになっていた米議会の米韓FTA実施法の承認も済み、両国が目指す2012年1月の発効に一歩近づいた。しかし、一方で、韓国の批准となるとそう楽観視できない。韓国内には妥協しすぎの政府に対し、野党は反発を強めている。今まで韓国がどれだけ妥協したか国民には明らかにしていないようだが、やはり、政治は一寸先もよくわからない。
 2011年10月26日のソウル市長選で野党連合が支持した無所属候補朴元淳が当選、一度は農畜産業の追加補償策などで妥協が成立したが、毒素条項(ISSID)すなわち投資家が不利益を受けた際には、相手国を訴えることができることに対し、韓国に不利な「毒まんじゅう」と反発している。やっと危険性に気付き始めた野党民主党は、FTA問題は4月の総選挙で国民の意見を聞いてから処理すべきだと越年論議も辞さない構えとなっている。医療や食品の安全性等について、アメリカの要求を相当のまされたことが明らかになれば、激しい韓国の民衆が大騒ぎしてくる可能性もある。BSE牛肉を危険にだとして小・中学生まで参加して100万人デモをする国なのだ。
 日本は韓国の先行をうらやまし気に見ているが、ことはそう簡単に進みそうにない。やっとTPPの全容に気づいた農業関係者の不安も高まっている。日本は焦ってTPP交渉に入る前に、韓国がどうなるかじっくりと見極める必要がある。

(日本がTPPに現を抜かす間に韓中が接近中?)
 TPP推進論者が、二言目にはアジアの成長を取り込む必要があるというが、TPPは中国も韓国も入っておらず、ASEANの主要国も全く入っていない。ベトナムはあまりの中国進出に恐れをなして、かつてあれだけ痛めつけられたアメリカにすり寄っているにすぎない。他のASEAN諸国は、胡散臭い目で見ているのだ。中国はアメリカへの対抗上TPPを無視、韓国は米韓FTAで精一杯で、今更関税ゼロが原則のTPPなどにかまける余裕はない。
 しかし、中韓二ヶ国は北朝鮮をはさんではいるものの隣国に等しい。普通に考えるならば急接近してもおかしくない。日本は中韓と三ヶ国のFTAについて共同研究中だが、そんな呑気なことをいっておられないかもしれない。もしも、本当にアジアの成長を日本に取り込みたいなら、中韓とこそFTAを締結していくべきなのだ。三ヶ国ともアメリカのように押して押して押しまくり、次々と青天井の要求をしてくるようなえげつない国ではない。お互いの痛みを分かち合える国である。
 受け身の盲目的TPP入りではなく、前向きに東アジアの仲間造りをしていくべきなのだ。韓国は、似た構造の日本とのFTAは難しいが、中国となら補完関係を作れると踏んでいるはずである。日本はむやみやたらにアメリカに追随するのではなく、近くの隣人を大切にしていくべきなのだ。日本は中国をとるかアメリカをとるかの二者択一で、単純にアメリカになびいているようだが、韓国は北朝鮮もあり、アメリカと同盟関係を維持しながら、中国とも接近をすることは間違いない。それが大国の狭間にある小国の生きる唯一の道なのだ。
 日本も韓国にならい、米中両国と平等につきあっていくべきであろう。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月08日 00:53 | パーマリンク

TPPシリーズ9.TPPの経済的メリット、デメリット-11.11.8
<まちまちの関係各省影響計算>
 TPPで各省庁の意見が真っ向から対立したが、TPPの影響試算がまちまちであった。
農林水産省は、TPPに参加した場合、農業で4.1兆円、関連食品産業を合わせると、7.9兆円の損失になり、340万人の雇用が減るという数字を出した。それに対して経産省は、不参加の場合は、20年後に輸送機器と家電と機械工業の大輸出産業でもって、GDPで10.5兆円の減になり、雇用は84.2万人が減ってしまう計算した。内閣府は、TPPに参加した場合、GDPの増加は2.4〜3.2兆円、しなければ6〜7000億円の減という見積もりを出していた。大きく各省庁の計算が違っている。

<経済的メリットが小さすぎて出せなかった経産省>
 農林水産省の計算は、内外価格差をもとに単純計算しただけのものだが、経産省の試算は、輸出比率の減を誇大に見せようとして、本来TPP不参加とすべき仮定を変えている。

 まず、仮定のごまかしその1が、TPPだけではメリット(あるいはデメリット)が小さすぎるので、わざと日本がEUとも中国ともEPAを締結しなかった場合としている。EUも中国もTPPに無関係なのに、この2国を入れなかったら数字が大きくならないからだ。
2番目に韓国との差だが、これまた今の米韓FTA、EU韓FTAでは差が小さすぎるので、わざと中韓FTAが結ばれた場合としている。TPPとFTAの比較もおかしいが、それは譲るとして、締結した米、EUとのFTAでなく、今後どうなるかわからない中国とのFTAも締結し、日本は結ばないとして差を大きくしようとしているのだ。
 3番目が、他の2府省が、今現在で計算しているのに、わざと2020年に日本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響を計算して過大にみせている。
これはとりも直さず、TPPのGDPへの影響があまりにも小さいために、上記の3つの仮定をせざるを得なかったのだろう。それにしても、仮定がすぎる。経済学者の野口悠紀雄は、TPPによる輸出増はたった0.4%と断じている。こんな数字など、為替レートの変動ですぐ吹っ飛んでしまうことは度々述べたとおりである。

<具体的メリットなし>
 2011年10月24日の経済連携PTで経団連の意見を聞く際に用意されたペーパーは、はっきりいってお粗末だった。たった1枚で、下半分が農政についての提案だった。肝心のTPPがなぜ経団連にとって必要かということは箇条書きで抽象的に書かれていただけであった。TPPに参加しないと日本は世界の孤児になるとか大仰なことを言っているわりには、少しも熱意が感じられなかった。具体的メリットがないのだろう。こんなことで日本社会をぐちゃぐちゃにされてはたまらない。


 推進論者の論調は、新聞の6段ぐらいのインタビュー記事や社説は見つけても、著書がほとんどない。つまりは、一冊の本にするには論理矛盾が多すぎ、また牽強付会にやろうとしてもろくなメリット数値を示せなかったのであり、とても書物にできないからであろう。例えば、大胆な金融緩和によってインフレにし、景気をよくしなければならないといった経済学者、評論家が、明らかにデフレを招くと思われるTPPに賛成するとおかしなことになる。
 また、TPPに参加するかしないかは、私が繰り返し述べているように、多国間構造協議をアメリカの圧力で行うものであり、内容が多岐にわたる。あまりに分野が広く、節度ある学者や評論家はとても適当な推進論をぶてないからだ。

<利益は国民に均霑化せず>
 メリットとして、一つ上げられるのは、TPPにより輸出企業が儲かった場合、それが、トリクルダウンして他のところに転化するということ。ところが、ほとんどそうなっていないのではないか。失われた20年の間も、一時期輸出が伸びて、輸出企業は相当業績が上がっていたはずである。例えば、一部上場のトップ30社ぐらいは、それでもって内部留保を相当溜め込んでいる。輸出企業はぼろもうけしたのだ。しかし、その配当や役員報酬は増えたけれども、従業員の給与は上がっていない。なおかつ、長期的な投資、研究開発のような投資には、お金を向けていない。そして企業合併をくり返し、あるいは余ったお金を外国に投資するなど、日本の成長にはほとんど寄与していないのではないか。TPPに仮に入ったとしてもまた、こういうことを繰り返すことになり、日本国民がメリットを受けるということはそれほどないのではないか。

<検証すべきNAFTA(北米自由貿易協定)後のメキシコ>
 我々は、ここで過去の自由貿易協定の結果を検証してみる必要がある。
地域協定の一つである北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に成立して17年経った。これが一つの典型であるが、アメリカ、カナダ、メキシコはどうなったか。日本のTPP推進派の書物や論壇には一つも登場しない。理由は、少なくともメキシコにとっては惨憺たる結果になっているからだ。
 アメリカからメキシコへのトウモロコシの輸出は3倍に急増した。アメリカの農産物の3分の1は輸出されており、国内補助金がそのまま輸出補助金と同じ役割を果たしている。零細なメキシコ農民はトウモロコシ生産ができなくなり、アメリカからメキシコへの大豆、小麦、豚肉、牛肉等の輸出も急増した。そのため、農地を手放し密入国する者も増え、一旦、米国の多国籍企業の製造業に雇われたものの更に安価な労働力の国に工場が移転され、リーマン・ショック時には50万人が職を失っている。
 NAFTAは、結局のところ、独占と集中をもたらしただけで、メキシコには製造業の成長も雇用の拡大もなく、全く逆の結果しか生まなかった。勝者は、メキシコ市場を手にしたアメリカの多国籍企業だけだったのだ。

<数%の関税引き下げよりも為替変動の影響大>
 アメリカはTPPを輸出を倍増する梃子にしようとしているのであって、輸入を増やすつもりはない。そして輸出先として一番期待が持てるのは、現交渉参加8カ国ではなく他ならぬ日本なのだ。オバマ大統領は「巨額の貿易黒字のある国は輸出への不健全な依存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」と言っている。
 昨今のドル安の放置(?)も、輸出戦略の一環だ。さらに言えば、今や日本メーカーの自動車などは半分以上(66%)が、アメリカの現地生産で関税は無関係である。アメリカは高関税のうちに現地工場を作らせ、雇用の拡大を確保し、その後にドル安にして、輸出攻勢をかけることを考えているに違いない。

<景気浮揚にはTPPより財政出動が先>
 日本の景気をよくするためには、まず日本のデフレを脱却しなければならない。そのためにやるべきことはなにか。TPPで輸出を増大することではない。TPPで関税ゼロにすると更に安価な輸入が増え、デフレが加速する。正解は、公共投資の拡大なり、大型減税であり、大規模な量的緩和であり、内需振興なのだ。それを今日本は増税しようとし、はたまた、TPPで関税をゼロにしようとしているのである。どこかネジが曲がっている。
 通貨当局日銀と財務当局財務省とが協力し、日銀が国債の買い取り枠を増やし、同時に政府が財政出動と減税をすれば、日本のデフレを終わらせることができる。そうすればTPPによる輸出に依存しなくて済む日本ができ上がるはずである。経済界はなぜこの声を上げないのだろうか。
 日本の経済の活性化には、やはり国内経済の需要を拡大し、成長路線に繋げることであり、対外的に見れば円安にすることである。長期的には、それによって税が増え、名目GDPも成長し、財政が健全化することになるのではないか。このことを忘れてTPPだけに固執し、日本の社会システムを変え、またまた混乱させるというのは、金融財政政策として賛成できない。

投稿者: しのはら孝 日時: 2011年11月08日 23:28 | パーマリンク
 

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コメント
 
01. 2011年11月09日 21:36:20: c5Q9r1TjEM

若葉マークのやさしいニュース/ TPPは怖い! 【中野剛志】
http://www.youtube.com/watch?v=0ZIKZAXf15s

主婦でも中学生でもわかるTPPの解説です。

政治に鈍い人でも、これを見れば目を覚ますかも知れません。


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