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［地球回覧］韓国覆う「ミニ６重苦」
親ビジネス路線 黄信号
忘年会や新年会のシーズンがやってきた。ソウルの日本人社会からも、いろいろな案内が届く。ここ数年、発足が相次いだ県人会もその一つ。顔を出して実感するのは日韓交流の広がりだ。大企業から中堅・中小企業、サービス業まで顔ぶれが多彩になった。
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背景には５年ほど前からの日本企業による韓国進出ブームがある。2012年の直接投資額は約45億ドル（申告ベース、約4600億円）と過去最高だった。ところが、最近どうも様子がおかしい。今年１〜９月の対韓投資は前年同期比41％の大幅減。日本貿易振興機構（ＪＥＴＲＯ）によると、今年上半期は投資相談の件数も約４割減った。
在ソウルの日系企業幹部は「円安のほか、昨年来の日韓関係悪化が大きな原因」と言う。気になるのは、朴槿恵（パク・クネ）政権の下で、企業の投資意欲をそぎかねない動きが相次いでいることだ。
11月６日、ソウルで開いた外国人投資諮問団会議。在韓商工会議所の役割を果たすＳＪＣ（ソウル・ジャパン・クラブ）が、韓国政府に４項目の制度改善を要望した。最初に取り上げたのが、残業手当などを計算する基準となる「通常賃金」だ。残業手当の場合、企業は法定労働時間を超えた分は、通常賃金をもとに割り出した時給の５割増し以上の金額を払う。
問題は定期ボーナスの扱いだ。これまでは通常賃金に含めなかったが、12年３月、大法院（最高裁）が「定期的、一律的に支払う場合は含まれうる」との判断を示し、大騒ぎになった。通常賃金の範囲が広がれば、人件費負担が急増するからだ。
大法院は年内にも最終判断を出す見通し。韓国経営者総協会は、司法判断通りなら今後、産業界全体で年８兆９千億ウォンもの負担増になると試算する。人件費が平均で15.6％増えるとの調査もあり、企業側は戦々恐々だ。
逆風はまだある。
▼電力料金引き上げによる「安すぎる電力」の是正
▼福祉財源の捻出を狙った企業への厳格な税務調査
▼「厳しすぎる」と批判がでる化学物質規制の強化
対応が遅れた環太平洋経済連携協定（ＴＰＰ）はやっと交渉参加に動き出した段階。ウォン高も心配だ。ＪＥＴＲＯソウル事務所の大砂雅子所長は「日本が苦しんだ６重苦に似た状況」と話す。ウォン安や低い法人税率などを売り物に「ビジネスフレンドリー」を掲げた前政権とは、どこか違う空気が流れている。
早計は禁物だ。ある日系大手素材メーカーは「韓国はまだまだ魅力的な投資先」と言う。電気料金は上がってもなお低水準。ウォン高もリーマン・ショック前の水準に戻る過程とみることもできる。現状は「ミニ６重苦」といった方がいいかもしれない。
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労働者の権利保護や環境規制は避けて通れない課題だ。ただ問題なのは、政府が事態を十分、制御できていないように見えることだ。
定期ボーナスを通常賃金に含めないのは、雇用労働省の指針に沿った対応だ。司法が突然、政府の方針をひっくり返すのは、日韓の懸案である戦時下の強制徴用工に関する訴訟と構図が似る。化学物質規制の法律も、産業界と擦り合わせた政府案は実現せず、議員立法で成立した。
朴政権は逆風を食い止めることができるだろうか。長い目で見たウォン高見通しもあり、韓国では製造業の空洞化懸念がくすぶる。成長を引っ張り、外資を呼び込んできたサムスンなど財閥系企業が「６重苦」に嫌気がさした時、本当の危機が訪れる。
（ソウル支局長 内山清行）
［日経新聞１２月１日朝刊Ｐ．１２］
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