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習近平の中国
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投稿者 あっしら 日時 2013 年 8 月 31 日 17:35:26: Mo7ApAlflbQ6s
 


習近平の中国[日経新聞]


(1)いったいどっちなんだ

 毛沢東の生誕120年に沸く毛の故郷、湖南省。経済自由化を主張する改革派の著名学者、茅于軾(84)は今年5月、講演のために訪れた同省の長沙市で群衆の罵声にさらされた。

 「毛沢東批判は許さない」「薄熙来を我々に返せ」。シュプレヒコールが飛び交い、「売国奴の茅」という横断幕を掲げて群衆が詰め寄ってくる。毛が1960年代に始めた文化大革命さながらの現場。講演会場の備品も乱入した暴徒に壊され、小規模な会場に変更せざるを得なかった。
 集まった群衆の一部は、保守層の中でも原理主義的に毛路線を信奉する左派が1時間30元(約500円)で雇った庶民とされる。茅は北京の自宅でも、夜中にかかってくるいやがらせ電話に悩まされる。
□   □
 文革により膨大な犠牲者を出した毛路線は、社会主義を厳格に守り市場経済を否定。共産党一党支配のために厳しい言論統制を敷いた。
 これを否定し、トウ小平が改革開放に踏み切ったのは78年。中国は成長軌道に乗り、左派の暴力行為は許されないはずだった。時代錯誤にも見える異様な光景は何を意味するのか。発端は今年1月にさかのぼる。

 共産党の幹部養成機関として大きな意味を持つ中央党校。前年11月に共産党トップの総書記に就任した習近平(60)は「重要講話」としてこう語った。「改革開放後30年の歴史で、改革開放前の30年(毛時代)を否定することはできない」
 5月、習は自らの権威を高めようと文革時代の毛とそっくりの言葉遣い、スタイルで政治運動を打ち出す。民主化につながる可能性がある「憲政」の議論も禁じ、共産党の決定が法に勝ることをにじませた。
 背景にあるのが汚職容疑で起訴された薄熙来(64)の存在だ。薄は毛時代の「格差の少ない古き共産党に立ち返ろう」と主張して大衆の支持を得た。権力基盤を確立する過程にある習が、左派をも支持層に取り込もうとする狙いが透ける。

 一方、習指導部で経済運営を担う首相の李克強(58)は、その姓から「リコノミクス」と呼ばれる構造改革を推進する。政治面で強権的な毛路線にすり寄る習と、トウ小平に連なる改革で経済自由化を掲げる李。いったいどっちなんだ――。股裂きになる現状を、老学者の茅は「現場は混乱している」と憂慮する。

 8月下旬。李は自由化の柱と位置付ける上海の自由貿易試験区(特区)で「現行の外資規制法の執行を停止したい」とぶち上げた。現行法にとらわれない大胆な規制緩和を進める意志を強調したもので、上海では人民元の取引自由化も視野に入れる。7月上旬の米中戦略・経済対話でも副首相の汪洋(58)が「改革への意気込みの証し」と米側に披露した。
 だが、同試験区については政府内にも「現行法との矛盾が大きい」と抵抗が強い。地元の上海市政府系企業は「うまみがない」として李の構想に無関心を装う。
 大規模な景気対策を避け構造改革を優先しようとする李は7月の政府の会議で、公共投資積み増しを求める国有企業などの大合唱にも直面した。
□   □
 中国最北の黒竜江省チチハル。習の「ぜいたく禁止令」で息をひそめていた「腐敗通り」が復活しつつある。開店休業だった高級飲食店には最近、党幹部が乗る黒塗りのアウディが乗り付けるようになった。高額接待の原資は街中で始まった道路整備で動くマネー。「高額の領収書は三分割されているだけ」。関係者は明かす。
 改革派の有力雑誌「炎黄春秋」の副社長、楊継縄(72)は「権力を持つ者と、持たざる者が競争する不公平な市場経済。必ず腐敗する」と中国の現状を喝破する。権力を監視する民主的な制度が整わなければ、汚職は消えず市場も育たない。

 7月下旬、元国家主席の江沢民(87)は自らが強い影響力を持つ上海で、習を褒めたたえた発言をあえて公表し影響力を誇示した。同じころ、江に対抗するかのように、共産主義青年団で李の先輩に当たる前総書記の胡錦濤(70)が上海を観光する姿が報道された。
 既得権益層が再び頭をもたげ、各派のさや当ては激しさを増す。そんななかで10月にも、中長期の経済政策を決める共産党の重要会議「3中全会」が開かれる。李が掲げる改革は成就するのか。「リコノミクス」は早くも、胸突き八丁にさしかかっている。
(敬称略)

[日経新聞8月27日朝刊P.2]


(2) 「釣魚島」は見えますか

 「歓迎光臨(いらっしゃいませ)」。コンビニエンスストア大手のローソンは21日、北京駅に近いオフィスビル内に北京旗艦店をオープンさせた。上海や重慶でも店舗立ち上げに関わってきた羅森北京公司副総経理の長谷部淳(56)は「北京が最も難しかった」と打ち明ける。


日本企業にとって中国が重要な市場であることに変わりはない(8月に北京進出を果たしたローソンの旗艦店)

 上海を拠点とするローソンが北京に準備事務所を構えたのは昨年5月。4カ月後に日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化し、中国全土で反日デモの嵐が吹き荒れた。
 営業許可を得るため役所に出向いても、担当者の個人的な感情で応対が異なる。「今日は相手を刺激しないよう日本人社員は同行するな」。細心の注意を払い、なんとか許可を取り付けた。中国の他の地域なら2〜3カ月で実現した現地法人設立は今年5月までずれ込んだ。

 尖閣国有化から9月11日で丸1年。日中間の政治交流はすっかり冷え込んだ。中国外務省の対日外交関係者は「我々は今、周囲から仕事がないと思われている」とぼやく。最近では、中国首脳とアフリカや南アジアの要人などとの会談にも駆り出されるようになった。

 今年5月、北京随一の繁華街、王府井にある老舗ホテル、北京飯店から「TOSHIBA」の看板がひっそりと下ろされた。長く親しまれた日本ブランドを象徴する広告は、薄型テレビの世界シェアで東芝に肉薄する中国家電大手「海信集団(ハイセンス)」に代わった。

 政治摩擦への抵抗力があるとされた日本製品の技術的な優位性は薄れ、競争力にもかげりが出ている。米調査会社NPDディスプレイサーチによると、中国市場で2007年は21.4%だった日系ブランドの薄型テレビのシェアが13年1〜3月期に8.4%まで落ち込んだ。

 「釣魚島(尖閣諸島の中国名)はハッキリ見えますか」。西安市にある家電量販大手、蘇寧電器のテレビ売り場。海信製の大型液晶テレビには、尖閣を含む東シナ海の地図が映っていた。画面上にごく小さく見える島もきちんと映し出す高い解像度があります……。街角の反日感情が今なお、くすぶっているのは明らかだ。

 それでも日本企業にとって世界第2位の規模を持つ中国市場は無視できない。ローソンの長谷部は話す。「日本であれ中国であれ、消費者により便利になってもらうことがコンビニ・ビジネスの使命。政治環境も国境も関係ない」
(敬称略)

[日経新聞8月28日朝刊P.2]


(3)ババを引くのは誰だ

 「7月15日午前10時、広場に集合せよ」

 北京から西へ約500キロメートルにある人口40万人の小都市、陝西省楡林市神木県。携帯電話に入ったメッセージを見た住民数百人が県政府庁舎前の広場を埋め尽くした。県の財政赤字が300億元(4800億円)に達し、教育・医療費が無料ではなくなると記されていたからだ。

 中国有数の産炭地、神木は国内で初めて医療、教育費を無償化した街だ。2008年のリーマン・ショック後の大型景気対策で石炭価格が高騰。歳入は年2割を超すペースで増え続けた。だが、昨年来の石炭価格急落で、1〜6月の歳入は前年同期比32%減に落ち込んだ。

 中心部から車で約30分。中堅規模の趙倉●(やまかんむりに卯)炭鉱は静まりかえり、石炭在庫が黒い山となっていた。「今の販価は去年の半値以下。とても操業はできない」。留守役の営業担当者は年初に生産を停止したまま再開のめどが立たない現状を嘆く。楡林市によると、神木の99の炭鉱のうち1〜3月期に操業したのは7カ所だけだった。

 「集資大王(資金調達王)」として全国に名を知られた神木の劉旭明(30)。石炭バブルに乗って、個人から高利で集めた資金を炭鉱開発に投じた。運用額は少なくとも3億6000万元(約60億円)に達したが、市況悪化で返済に窮した今春、警察に逮捕された。
 「劉は昔から優秀で、大学の時に食堂を開いて大もうけしたらしい」。劉と小学校で同級だった地元のタクシー運転手、張耀華(30)は話す。その張も別の友人の紹介で25万元を炭鉱投資に充てた。収益はおろか、返済されるのかもわからない。「信頼できる友人だから大丈夫」と自分に言い聞かせる毎日だ。

 教育・医療費の有償化に反対するデモに参加した男性(63)も、民間金融会社に預けた31万元が満期後も戻ってこない。「民間といえども政府が設立を認めたのだから、政府が損失補償すべきだ」。不満の矛先は地元政府に向かうが、政府が住民に補償すれば、財政赤字は際限なく膨らんでしまう。

 英米格付け会社フィッチ・レーティングスは4月、地方債務の増加を理由に中国政府が発行する国債の格付けを引き下げた。石炭バブル崩壊の影響はすでに内モンゴル自治区や山西省でも深刻化しており、不動産バブル懸念は全国各地に広がる。「ババ抜き」のババは誰かの手に渡る。(敬称略)

[日経新聞8月29日朝刊P.2]

(4)「ちゃんと見てるよ」

 「私も記者だった。みなさんのことは身近に感じます」

 6月の香港。現地の中国政府代表機関で要職に就いたばかりの楊健(54)は地元紙の式典でこう語り、記者の冷たい視線を浴びた。「香港でも報道への圧力が増すんじゃないか」――。記者らの脳裏によみがえったのは、広東省で起きた週刊紙「南方週末」を巡る事件だ。

 今年1月、憲法に基づく民主政治を指す「憲政」の実現を年頭紙面で訴えようとした記事が、共産党当局の指示で差し替えられた。不満を強めた現場記者らは一時、職場を放棄し、事件は報道の自由を巡る論争を全土に巻き起こした。世界の注目も浴びた記事改ざんを編集部に迫ったのが当時、広東の党宣伝部副部長で同紙の発行会社トップを兼務していた楊だった。

 総書記、習近平(60)が率いる党指導部は事件後、安定を優先し一気に思想・言論の統制に傾く。「中国での憲政の実施は木に登り魚を探す愚行」。8月上旬には民主化につながる憲政をたたく論文が、3日連続で党機関紙に掲載された。

 「ポスト習」をうかがう広東省トップ、胡春華(50)の下で、事件の最前線にいた楊は香港に移り中央政府の次官級にあたる地位に栄転した。南方週末の首脳陣からは生え抜きが消え、当局関係者ばかりになった。

 出口を閉ざされた情報はネットに向かう。

 「国家工商総局の副局長を調査すべきだ」。広東省の日刊紙「新快報」の記者、劉虎は7月下旬、自身のブログで同副局長が重慶市時代に不正を働いていたと告発した。ほぼ同じころ、国営新華社の記者もブログで大型国有企業、華潤集団董事長の宋林が企業買収に絡んだ汚職に関わっていたと告発。南方週末の事件が明るみに出たのも、編集者らがブログで抗議声明を出したのがきっかけだ。劉はその後、ネット監視を強める当局に拘束された。

 広東省江門市で7月中旬に起きた核燃料施設の建設計画に反対するデモ。携帯電話のメールで知人に行進する場所を知らせたある女性は、突然の電話に驚いた。「あなたも参加したのか。ちゃんと見ているよ」。メールの発信者を特定した公安当局の警告だった。監視の目は一般市民にも広がる。

 一党支配を守るため言論統制を強める共産党と、身をていしてでも真実を発信しようとする人々。攻防は激しさを増している。
(敬称略)

[日経新聞8月30日朝刊P.2]


(5)遠い法治国家

 7月中旬、中国南部・湖南省の長沙市中級人民法院(地裁)は1人の男の死刑を執行した。元不動産開発業者の曽成傑(54)。その死が伝わると、中国の法治を巡る議論がインターネットなどで改めて沸騰した。

 省都・長沙から西へ約400キロ離れた山あいの街、吉首市。曽は2003年、地元政府から民間資金を使った不動産開発の認可を得た。延べ6万人近くから約35億元(約560億円)を集め、商業施設や図書館を建設した。目ぼしい産業のない吉首の発展に貢献し、「誠実で信用のある企業家」として表彰されたこともあった。

 風向きが変わったのは08年3月。新たに就任した地元の共産党トップは突然、民間からの資金集めを違法とし、同9月には取り付け騒ぎが起こった。曽は「詐欺」の首謀者とされ、今年6月に死刑を宣告された。
 「ひと目会うことさえできなかった」。長女の曽珊(23)は面会も許されないまま死刑が執行されたことの無念をブログで訴えた。「党のトップが代わっただけで、地元の名士だった人が死刑になってしまった」と事件をよく知る法律家は嘆く。

 湖南省は司法省出身で最高法院院長(最高裁長官)の周強(53)が3月まで6年半トップを務めた。法治の先進地であるはずだが、曽の死刑以外にも疑問符が付く出来事が続く。
 同省中部の永州市に住む主婦の唐慧(40)。06年に当時11歳だった長女が3カ月にわたり監禁される事件が起こった。犯人グループの刑が軽すぎるとして関係当局への陳情を繰り返した結果、逆に9日間にわたり市当局に拘留された。中国には裁判抜きで市民を最長4年間、拘留し、思想教育や労働を強制する行政処罰制度が今も残る。

 省高級人民法院(高裁)は7月、唐に精神的な負担を与えたとして市に約2600元の賠償金支払いを命じたが、拘留そのものの違法性は認めなかった。「勝訴は勝訴だが、決してうれしくはない」。唐は悔しさをかみしめる。

 7月上旬。鉄道工事を巡る大型収賄事件の中心人物として死刑の判決が下った元鉄道相の劉志軍(60)には2年の執行猶予が付いた。「党員の死刑はどうせ執行されない」。ネットには中国の法治を皮肉るしかない庶民の書き込みがあとを絶たない。
(敬称略)

 中沢克二、山田周平、桑原健、菅原透、大越匡洋、土居倫之、島田学が担当しました。

[日経新聞8月31日朝刊P.2]

 

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01. 2013年9月06日 11:35:08 : e9xeV93vFQ
CHINA REAL TIME REPORT2013年 9月 05日 17:53 JST
中国人の糖尿病有病率11.6%、米国人を上回る

 中国は今では、世界で糖尿病患者が最も多い国だ。既に糖尿病にかかっているか、初期の兆候を示している人々の数は米国の人口を上回る。

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Agence France-Presse/Getty Images
北京の糖尿病対応病院で病室に入る糖尿病患者の男性(4日)

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 ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA、米国医師会雑誌)に掲載された調査によると、中国の18歳以上の成人の推定1億1390万人(内訳:男性6050万人、女性5340万人)が2010年に糖尿病を発症していた可能性がある。この調査は同年に中国の成人約9万9000人を対象に実施された。同調査によると、10年には4億9340万人の中国人が前糖尿病(血糖値が通常を上回る水準にあり潜在的にリスクの高い状態)の状況だった可能性がある。

 この結果は驚くべきで、中国が国民の大きな健康問題に直面していることを示唆していると調査報告書は指摘している。さらに「こうしたデータでは、中国の一般国民の糖尿病が警戒水準に達している可能性があり、効果的な国を挙げての予防策なしには、近い将来に同国で循環器疾患や脳卒中、慢性腎疾患などの糖尿病関連の合併症がまん延しかねないことが示唆されている」と明らかにした。

 さらにこの調査によると、中国人は米国人と比較して、低い肥満度指数で糖尿病を発症している。さらに、糖尿病は都市部で、しかも、太り過ぎの若年・中年層に一段と多いことが分かった。

 人口約13億4000万人の中国には、過去10年間に巨額の富が集まったが、国民が豊かになるにつれて、食習慣や都市部への移住などライフスタイルに大幅な変化が生じ、国民の健康が危険にさらされている。中国保健省の統計によると、死亡の主因は感染症や食生活に関連した欠乏症から、高血圧や肥満へとシフトし、今では国民のうち2億6000万人以上が慢性疾患にかかっている。

 調査によると、成人の糖尿病有病率は11.6%で、男性が12.1%と女性の11%を上回っていた。JAMAに発表されたこれ以前の調査によると、07年は9.7%(成人9240万人)だった。また、米国糖尿病学会(ADA)の統計によると、米国の20歳以上の成人の糖尿病有病率は11.3%。

 中国の医療保険システムがこうした高まる負担にどう対処できるかは疑問だ。世界保健機関(WHO)によると、既に、中国政府による医療関連支出の80%超が国民の慢性疾患に関連した費用に回されている。また、WHOによると、第1次予防に向けられているのは2%未満だ。

 また、今回の調査で、糖尿病にかかっている中国人の推定30%が自分の健康状態を認識していることが明らかになった。


02. 2013年9月09日 18:41:29 : niiL5nr8dQ
深層中国 〜巨大市場の底流を読む 第52回

大学生の就職難とがら空きマンションに共通するもの 〜限界に近づく中国の「過剰供給」

経営・戦略 田中 信彦 2013年09月06日
先に器を作って、後からそれを埋める

 中国経済の構造を考える時、さまざまな現象に共通しているひとつの傾向がある。それは「先に大きな器を作って、後からそれを埋める」という発想である。ある種、社会主義的なというか、強権を持った政府のみが取り得る方法である。とにかく先に大きく投資して、大きな「器」をつくる。そして市場が成長し、需要が追い付くのを待つ。そういう考え方が中国のあらゆる業界、あらゆる地方に普遍的に存在している。

 確かに、中国のような成長の速い経済環境下では、需要が顕在化してから、それを満たすために商品やサービスをつくるのでは間に合わない。ある程度は先の需要を見込んでさまざまなものを用意しておかなければ経済は回っていかない。それはその通りだろう。

 しかし、中国の場合、問題は「一党専制」の政治体制の下、「大きな器」をつくる過程で権力者とその周辺に巨大な利権が発生してしまうところにある。そのため、どうしても「器」が歯止め無く肥大化し、過剰投資、過剰生産、過剰供給になりやすい。「器」をつくること自体が利益を産むので、それが自己目的化してしまう。現在の中国経済は、この過剰生産、過剰供給が膨らんで経済効率はどんどん低下しており、このままではにっちもさっちもいかなくある恐れがある。

 権力や特権に支えられた、利益共同体としての構造的、作為的な過剰投資に、まっとうな民間の市場経済が太刀打ちしようとしても、しょせん無理である。最近よく言われる「国進民退(国有企業や政府関連企業が伸長して、民間企業が衰退する)」という状況は、つまるところこの構造によっている。中国経済の抱える最大の問題点はここにある。
「ゴーストタウン」はなぜ生まれるか

 上海に「松江新城」という住宅開発地域がある。上海市の南西部、街の中心から30qぐらいのところだ。松江区政府の計画では、最終的には広さ60平方q、人口60万人を見込んでいる。そもそも計画の発端は2001年にスタートした「大学都市」の建設である。学生増で手狭になっていた市内の有名大学の新キャンパスを郊外に誘致し、大学を中核にした新しいタイプの「文教都市」を建設する構想だった。

 しかし、現在のところ目論見通りに進んでいるとは言えない。これまでに上海外国語大学や東華大学、上海対外貿易大学など7校の有名大学が新キャンパスを設置、10万人を超える学生や教職員らが在籍するものの、大半は上海市街地からの通勤、通学組だ。現地に行ってみるとキャンパスの広さは驚くほどだが、活用されているのは一部で、遊休地になっている部分も少なくない。校内は昼間でもガランとしていて、人影もまばらだ。教育環境がよいと言えばそうだが、寂しい感じすらする。

 周辺の人口増を見込んで建設された膨大なマンション群は、発売と同時にほぼ完売状態になった。しかし、購入者は投資目当てが大半で、実際の住人はわずかである。こちらも昼間の人通りは少なく、夜になっても明かりのない窓が多い。地元の不動産業者に聞くと「売れ残りは少ないが、オーナーが賃貸に出しても借り手はほとんどいない。問い合わせもない」と話す。つまり、所有者はいるが、住民がいない。ネット上では松江新城を「中国7大ゴーストタウン」の一つと揶揄する声もある。
大学の誘致で土地の値段が25倍に

 どうしてこういうことになるのか。

 ここにあるのが、まさに「大きな器を造って、後から埋める」という発想だ。松江新城の場合で言えば、区政府が広大な農地を農民から買い取り、道路や公園、体育館などのインフラを政府のカネで整備する。その土地を大手デベロッパーが買い取り、マンションを建てる。大学に関してはキャンパスや校舎をデベロッパーが建設して大学に長期リースする方式をとった。そして周辺のマンション群を販売する。こういう地元政府とデベロッパーの二人三脚で中国の都市開発は成り立っている。

 松江新区には01〜06年にかけて大学が相次いで進出、さらに07年末、上海市内と結ぶ地下鉄9号線が開通、土地の価格が急騰した。05年に1u当たり3000元ほどだったマンション販売価格は、10年には2万元台へと急上昇、投資目当ての購入で多くの物件が完売したのは先に触れた通りだ。

 このプロセスで最も大きな利益を得たのは地元政府である。地元メディアなどによれば、当初、地元政府が農民から買い取った農地の価格は1ムー(約6・67アール)当たり25万元ほどと言われている。それが現在では同900〜1100万元になっている。つまり地元政府は大学誘致をタネに、地元の土地の値段を25倍にすることに成功したわけだ。

 考えてみてほしいのだが、土地を農民が所有している(正確には「耕作権」の所有だが、説明が煩雑になるので「土地の所有」としておく)状態で、地元政府のインフラ投資などによって地価が上がれば、地価の上昇ぶんの利益は地元住民が得る。それで「民」は豊かになる。しかし、中国では通常そうはならない。政府がまず、時としてほぼ強制的に農民から土地を買い取ってしまう。政府が本気で地価を上げるのはそれからである。つまり土地の増価ぶんの大半は政府と開発業者が取ってしまう。「公」であるはずの権力が自分の利益のために仕事をしているのである。

 デベロッパーにしてみても、周辺にマンションを建て、将来性を謳って販売すれば莫大な利益が生まれる。一度売ってしまえば、仮に将来価格が暴落しようとも、それは新たな所有者の問題であって、デベロッパーには関係はない。つまり供給しさえすれば儲かる構造になっているため、「供給のための供給」になってしまっているのである。

 政府とデベロッパー双方にこうした巨大な「うまみ」があるため、開発の件数はどんどん増えていき その規模はどんどん大きくなる。そして、必然的に供給過剰になる。もともと「人が住む」という実需に基づいた計画ではなく、投資物件として売って利益を上げることが目的なので、当面、実際に住む人がいないのは最初から織り込み済みなのである。まさに「後は野となれ山となれ」であって、権力者にこういう姿勢で仕事をされたのでは、「民」としては如何ともし難い。

開発側の思惑に便乗する買い手

 もちろん「供給」したところで買い手がいなければ売ることができない。過剰な開発投資の一方には、これらの「権力者の商売」に乗じて資産を増やそうとする「利殖好き」な個人や企業の買い手がいる。「なにしろ政府の商売だから、メンツにかけても簡単に相場が暴落するようなことはさせないだろう」と買い手のほうは考える。ここにも市場原理から離れた安易な投資が誘発される要因がある。

 かくして、地方政府は濡れ手に粟の利益を上げる一方、民間の投資家の手元には、買うには買ったが、誰も借り手はなく、自分も住む気はまったくない「投資のための住宅」が大量に残ることになる。焦点は「いつ手放して利益を確定するか」だけである。
大学生の就職難、原点は「供給過剰」

 同様の構造は教育の世界にもある。その典型が大学生の就職難、つまり大学生の「過剰生産」による供給過剰である。

 2013年7月に中国の大学(短大、高専クラスを含む)を卒業した新卒学生は699万人。しかし毎年「生産」されるこの膨大な「高級人材」にふさわしい仕事が足りない。新卒学生の職探しは年々難しくなっており、中国の国営通信社・新華社の日本語ニュースは今年の新卒就職の状況を以下のように伝えている。

 「新卒者の就職内定率は52.4%と前年同期から7%下落した。上海市は44.4%で、前年同期から2ポイントの下落、北京市では33.6%、広東省は約30%と、前年同期から10ポイントも下落している。

 しかし、このような惨憺たる数字の中にも水増し分がある。大学の中には就職証明の提示と引き換えに学位証書を発行するところもあるため、学生が就職契約書を偽造することは半ば公然たる秘密となっている。そのため、新卒者の就職状況の実情は、不透明なままである」。(XINHUA.JP、2013年 6月4日付)

 繰り返しておくが、これはいわゆる「反中」報道などではなく、中国の国営メディアのニュースである。新卒就職が企業側の極端な買い手市場になる根底には、1990年代末から始まった大学生の増加政策がある。中国教育部(文部科学省に相当)によると、98年の中国の新卒は83万人。13年が699万人だから15年間で8倍以上に増えた計算だ。
既成事実をつくって社会を変える

 政府による大学生の増加政策には「人材の高度化」という狙いがあった。組み立て加工中心の「世界の工場」を脱却し、産業の高度化、高付加価値化を実現するため中国政府はまずハイレベルの人材育成に手をつけた。そこには「経済や社会の変化に対応して政策を立てる」のではなく、先に政策を実行することで、既成事実をつくり、それによって経済や社会の構造を変えていくという「政府主導の号令経済」的思考パターンがある。つまり「まず能力のある人材を育て、それに見合う需要をつくり出す」という発想である。

 この発想に一理もないとは思わないが、大学生の増加の速度があまりに急で、産業構造の転換が追いつかない。そのため企業が求める人材と供給される人材の間に大きなミスマッチが発生してしまった。

 その背後には大学の経営的な要因、つまり大学当局の増収策という面もあった。政府の教育予算は充分ではなく、大学は経済的自立を求められている。中国の大学は事実上全て国立だが、1年間の学費は日本円で20〜30万円と決して安くない。仮に中国の学生数が2800万人、学費が年25万円とすると、年間の学費の総額は7兆円という巨額になる。この大きな市場を狙って各大学は競うように新学部の増設や募集定員増、地方の分校設置などに励んだ。その結果、学生数の増加に歯止めがかからなくなり、人材の偏りが拡大した。「実はあれは政府の内需拡大策のひとつだった」との指摘もあるくらいだ。ここにも独占体質の政府機関が自己の利益のために仕事をしてしまう体質の弊害が見て取れる。

「大卒ブランド」を大量販売した大学

 しかし、いかに大学が供給を増やしたくても、それに応じて入学する学生の需要がなくては話にならない。ここでもマンションの場合と同様、巨大な需要が発生した。それが中国社会の学歴信仰の強さに支えられた大学入学志願者の急増である。

 中国ではかつて社会主義計画経済の時代、長いこと大卒以上を「幹部」、高卒以下を「労働者、農民」として事実上の階級社会を構成してきた。加えて、1300年以上も続いた「科挙」に象徴される高級官吏崇拝、文人優位の学歴社会の思想は根強い。何が何でも子女を大学にという両親の熱意は強烈だ。そのため学力が比較的下位の受験生や家族は、経済的に多少は無理をしてでも大卒のステイタスを獲得しようとする状況がある。そうした人々の強い思いに乗じる形で、いわば学位のハードルを下げて収入を増やしたのが大学だったとも言える。

 産業界の人材ニーズを顧みず、政府や大学は自らの都合で競うように大学生を大量生産して供給過剰に陥り、その結果、価格(賃金)が暴落する。これは先に紹介した空室だらけの巨大マンション開発のプロセスと基本的に同じである。
産業界を覆い尽くす供給過剰

中国の産業界における供給過剰は、これまでもさまざまなところで指摘されているのでご承知の方も多いと思う。中でも象徴的なのは主要グループ企業のひとつが今年3月、転換社債の債務不履行を起こし、事実上倒産した中国最大手の太陽光電池・太陽光発電システム製造企業、サンテックパワー (尚コ太陽能電力有限公司、江蘇省無錫市)の例だろう。

 同社は2001年9月の設立。民間企業ではあるが、創業当初から無錫市政府の仲介の下、同市の有力国有企業6社などが創業者の施正栄氏らとともに800万米ドルの資金を拠出して誕生した。無錫市政府の工業団地「無錫新区」が専従の職員を同社に派遣し、企業の設立登記から工場土地の斡旋、土地使用料の減免、税務対策や銀行口座の開設、人材募集まで丸抱えでバックアップしたとされる(週刊誌「法治週末」2013年3月20日付など)。ブームに乗って設立わずか4年目の05年にはニューヨーク証券取引所に上場、翌06年末には世界第3位の太陽光発電メーカーにのし上がった。

 無錫市の地元紙「無錫日報」06年1月5日付に掲載された「サンテックパワーの成功経験を大いに力を入れて社会に広めよう」という記事がある。そこには同市が属する江蘇省の共産党委員会トップの李源潮氏(現・国家副主席)が創業者の施正栄氏らと会い、「サンテックパワーの発展は江蘇省にとって大きな意義がある。このような企業が無錫に誕生したことに誇りを感じる」などと話したことなどが伝えられている。

 さらにそこには「サンテックパワーは無錫市が世界の最先端の科学技術の方向に向けて発展するための新しい大きな産業の誕生であり、無錫市に世界レベルの先進技術と巨大な潜在市場をもたらした。これは省共産党委員会や省政府の決定が非常に英明であり、正確なものであったことを証明している」などと、いかにも宣伝臭の強い文章で高らかにうたいあげている。

 こういう調子で、権力と民営企業がまさに一体となった商売をするので、そこには市場原理が働きにくい。本来の民営企業であれば、おのずと市場調節機能が働いて、無茶な投資にはブレーキがかかる。しかしこうした「政府系民営企業」は、資金に困れば政府の一声で銀行はおカネを貸してくれる。土地が必要なら政府が融通してくれる。そうやって事業規模が拡大していけば、地域のGDP が増え、政府の指導者にとっては政治的業績になり、昇進の材料になる。

 こういうサイクルが機能しているので、供給能力ばかりが際限なく大きくなっていく。同様のことを全国でやるので競争相手が続々と現れる。典型的な過当競争で、商品の価格が暴落して誰も儲からなくなり、行き着くところまで行って政府も銀行もいよいよ支えきれなくなり、支援を諦めたところで破綻する。その典型的な例がサンテックパワーだった。

 土地も人材も商品も、需要を顧みずにとにかく供給がどんどん増えていく。これまでの中国は、なんのかんの言いながら、その膨大な供給をかろうじて支えるだけの需要が生まれてきた。しかし、その需要とは、実は「中国の将来に対する期待」というかなり漠然とした前提の上で存在してきたものである。「今は過剰なマンションも、国が発展すればいつかは埋まる」。そう思ってだが、大多数の人はまだ売らずにいる。

 だが、この前提はどうも息切れ状態に見える。

 全国に数百万戸とも言われる空室マンションのオーナーたちは、いつの日か「これ以上待っても部屋は埋まらない」と判断すれば、どこかで損切りに走るだろう。「大金をかけて大学を出たところでロクな仕事もない」と大学生の多くが悟れば、国に対する若者たちの失望感はますます高まるに違いない。中国国民の多くが長いこと暗黙の前提としてきた「中国の輝かしい将来」というこの条件が、実は幻想だったかもしれないと多くの人が判断したら、クラッシュはその時に起きる。その可能性は確実に大きくなりつつあるように思う。

(2013年9月6日掲載)


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