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[MM日本国の研究694]「東京電力の研究―埋蔵金は必ずある」
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/687.html
投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 19 日 22:33:02: cT5Wxjlo3Xe3.
 

      2012年04月19日発行 第0694号 特別
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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映るばかりで天皇の影は見当たらない」(「あとがき」より)

 巻末には作家・批評家の東浩紀氏との特別対談「今、ここにある皇室の危機」
が収録されました。

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 ソーシャルネットワークを使った情報収集・発信・即断即決→事後承認、
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 に今日を生きない……。大震災後、東京都を陣頭指揮するリーダーが、
 首都直下型地震対策として自ら実践しているノウハウを、ビジネスマン
 向けにアレンジして紹介!
    
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 本日4月19日発売『週刊文春』(4月26日号)に論考「東京電力『天下り全
リスト』公開」が掲載されました。

 値上げを利用者に強いる一方で、巧妙なからくりで天下り先の子会社、関連
会社、無数のゼロ連結子会社に巨大な利権を温存する東電の構造を徹底解剖し
ています。見開き2ページで公開した「子会社役員一覧」は圧巻。

                *

 今週のメールマガジンは『文藝春秋』4月号掲載の「東京電力の研究―埋蔵
金は必ずある」をお届します。
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「東京電力の研究―埋蔵金は必ずある」

 昨年の歳暮、一陣の風が永田町・霞が関の官邸、国会、議員会館を吹き抜け
た。12月19日夜から21日午後にかけ、大阪ダブル選挙で勝利した橋下徹市長は、
国家機能の中枢エリアを15分刻みで駆けめぐり、その姿をテレビカメラを抱え
た集団が追いつづけた。そして午後2時50分、前髪を垂らした若いリーダーの
姿は新宿の都庁の奥へと消えた。

 石原慎太郎知事との会談を控えて、その前に一時間ほど彼は副知事室で僕と
話し合う深刻なテーマを抱えていた。電力需給対策である。電力供給の危機は
我われの生活と職場と家族のすべての危機とイコールなのだ。

 日本の原子力発電所は54基、電力の約3割を原発に依存しており、福島第一
原発の事故の直後の東電管内はたちまち計画停電に追い込まれた。

 東京電力の原発依存率は2割だが、東日本大震災により福島第一の廃炉が決
まり、それにともない福島第二の稼働もないのだから900万キロワットの電
源が失われた。

 関西電力の原発依存率は5割で九つの地域独占の電力会社(北海道、東北、
東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州。注・沖縄電力を入れると十電力)
で比率はいちばん高い。5割という数字はかなり重たい。

 54基の原発のうち東京電力の柏崎刈羽原発が3月下旬に、北海道電力の泊原
発が4月下旬(5月上旬へ延期を検討中)に定期検査入りすると日本で稼働中
の原発がゼロという異常事態を迎える。いまのところ失われた電源のほとんど
は火力発電に委ねるしかない。そこから東電が燃料費高騰を理由に値上げの機
会を窺っていたことはひとつの常識であった。

■「値上げは権利である」

 12月22日付の日経朝刊の一面トップに華々しく値上げのリーク記事「東電、
企業向け値上げ」「来年4月、2割前後」の見出しが躍った。

 この時点で西沢俊夫東電社長は値上げを正式発表したわけではない。自分で
値上げを言わずに日経新聞にリークした。日経新聞に記事が載っているからと
いう理由で、午前11時、千代田区内幸町の本店ビル3階で記者会見、あくまで
も記者の質問に答えるかたちで「燃料費分相当の値上げ」が必要であり「時期
は大口の契約更改がある4月以降」と述べている。

 この発言のなかで「値上げは権利である」との“名言(迷言)”が飛び出し
て、いまもテレビで繰り返しそのシーンが映し出される。

 ただ仔細に発言の前後をみると「料金の申請は我われ事業者としての、まあ、
義務といいますか、権利ですのでこれはもう、会社の経営が成り立たないとい
う状況が見通せる時に、何もしないというのは経営者としてですね、株主の皆
さまに対しても代表訴訟の対象にもなりますので、これはきちっとした対応を
していかなければいけないという……」と、もう少し慎重な表現にはなってい
る。ただし物言いが低姿勢であるから、はい、わかりましたと受け入れるわけ
にはいかない。

 東電が正式に値上げを発表したのは年が明けてからだった。1月17日「電気
料金値上げ(自由化部門)のお願いについて」というA4判4枚のペーパーを
各企業へ郵便で送付した。
 
 平均すると1キロワット時当たり2.6円、17パーセントの一律値上げにな
る。東京都を例にとると水道や下水道、都営地下鉄や都立病院、都庁舎など各
施設で83万キロワットの電力を消費し、年間電気料金は380億円、値上げで
77億円の新たな支払いが生じる。利益率が数パーセントの中小企業にも「一律
加算」である。鍍金や金型など規模が小さくても大量に電力を消費する中小企
業は倒産の危機に瀕する。家庭向けは経済産業大臣の認可が必要だが、産業向
けは「自由化部門」と呼ばれタテマエ上は東電が決める「権利である」(西沢
社長)のだ。

 だが「自由化部門」に自由競争があるかないかといえば、地域独占に胡座を
かいている九電力体制の下では競争は実質的にない。九電力以外のPPS(特
定規模電気事業者)と呼ばれる独立系の電力事業は市場ではわずか3.5パー
セントでしかない。牛丼の吉野家やすき家や松屋が安値競争をしているが、2
60円とか280円などの価格を決定するのは当然ながら当事者の「権利であ
る」。市場社会では、下げすぎれば倒産し上げすぎると客が逃げる、その狭間
で経営者はリスクをとりながら権利を行使するのだ。

 東日本大震災の直後、計画停電が実施された時期から僕は都庁内に「新エネ
ルギー研究会」という勉強会をスタートさせていた。今後の東京の電力需給に
対するソリューションを探さざるを得なかった。勉強会の主要テーマは福島の
原発900万キロワット、柏崎刈羽800万キロワットが途絶えたら東京の産
業、とりわけ中小企業はどう生き残るのか、代替電源をどうするかだ。

 首都直下型にしろ東南海地震にしろ第二の震災に対する備えも必要で、長距
離の送電網に依存するのはリスクが高く、地域分散型、地産地消型の需給体制
も考えなければいけない。

 勉強会は転じて8月2日に「東京天然ガス発電所プロジェクト」チームの立
ち上げにつながる。環境局、財務局、都市整備局、建設局、港湾局、交通局、
水道局、下水道局、知事本局の9局に横串を刺したプロジェクトだ。100万
キロワットの天然ガス発電所を一基つくると幾らかかるか、当然、収支計算を
しなければならない。東電と競合するので、自ずから東電という特異な独占企
業を分析する必要が出てきた。

■六本木の一等地にある子会社

 六本木の四つ角の喫茶店アマンドの横から六本木ヒルズの南端にあるテレビ
朝日方面へ抜ける芋洗坂にちょっと洒落たデザインで人目を引く6階建てのビ
ル「ステップ六本木」がある。

 1階のファミリーマートは通常のコンビニよりかなり広い。2階と3階にヒ
ットチャートなど音楽情報の配信で有名なオリコン。6階は化粧品のクララン
スが入居している。「権力は腐敗する」との箴言に則するなら、やはり「独占
企業は腐敗する、だなあ」と僕は確信するにいたった。

 4階と5階のテナントが「東京リビングサービス」で、本社オフィスに28
2名が勤務している。東電職員の保養所や社員食堂など福利厚生施設を管理運
営するだけでリゾート各地に勤務する者を含め約1000名(半分が正社員、半分
が派遣社員)いるのだ。周辺家賃相場から推定すると月額830万円(年額1
億円)で、これも我われの電気代の一部である。

 そもそも建物自体が東電の別の子会社である東電不動産の所有である。敷地
は400坪(1300平方メートル)余、坪単価1000万円なら売却益は40億円にな
るはずだ。ただ東電不動産所有のこの物件、地下に変電所があるのでそのまま
売却はできないが賃貸ビルとして貸し出せば1棟で年間3億円の家賃収入が得
られるだろう。

 東電の経営は危機に瀕している。原発事故に起因していることも承知してい
る。電気料金を値上げしなければ債務超過に陥るという事情も皆知っている。
それでもなお腑に落ちないのは、メタボリック症候群的な企業体質とそれにと
もなう意識もいっこうに改善される気配がないまま、公的資金を注入され、し
かも値上げ。ならば虫がよすぎる。

 東京電力の「有価証券報告書」(平成22年度)をめくっていくと「当社グル
ープ(当社及び当社の関係会社)は、当社、子会社168社及び関連会社97社
で構成され……」とある。さらにめくると連結対象の子会社の社名と本社所在
地の一覧表が載っているが40社のみで備考欄に「その他128社」との記述は
あっても、どこに存在しているのかすらわからない。別に持分法適用関連会社
が「70社」ある。子会社とほぼ同じようなものだが出資50パーセント以下・20
パーセント以上が「持分法適用関連会社」とされている。

 とりあえず「有価証券報告書」に記載されている40社のうち24社は都区内に
本社を構えており、うち17社が都心中の都心である千代田区、中央区、港区、
渋谷区にある。

 17社の推定賃料を合計すると年間34億円だ(自社ビルおよび一部所有権を持
つビルについても、周辺相場で賃貸していると仮定して計算)。

 これを例えば品川エリアに移転し、子会社を整理・統合してスペースを半減
させれば、家賃は14億円にまで下げることができる。年間20億円のコスト削減
だ。さらに東電(&子会社)所有のオフィスビルを売却すれば、コストダウン
は大幅に進む。東電は都心に自社ビル3棟、一部所有権を持つビル4棟を所有
している。これらのうち、変電所が併設されているオフィスビルについては売
却することが難しい。そこで、変電所付きを除く自社ビル2棟(東電環境エン
ジニアリング、東京計器工業)、一部所有権を持つビル1棟(東電フュエル)
を売却すると78億円の売却益が得られる(現在の賃料相場から収益還元法で取
引価格を試算)。子会社本社の移転および整理・統合による削減と合わせると、
約100億円の削減効果となる。

 だが、まだこれはほんの氷山の一角にすぎない。
 
 1月17日、東京電力から各企業に送られた「電気料金値上げのお願い」には、
値上げの根拠の説明が不明確だった。2008年度(平成20年度)の燃料費は2兆
3700億円だった。原発が動かない2012年度の想定燃料費は3兆500億円。そ
の差6800億円。休眠中の火力発電をあわてて復活させ急場を凌いでいるので燃
料費が嵩んでしまったというのが値上げの理由だと思ったら、根拠がよくわか
らない。

 火力燃料だけと思っていたら註記に「燃料費等」とあり、「等」がついてい
て「火力燃料費、核燃料費、購入電力料など」と別の「など」もついている。
原発が停まっているので「核燃料費」は増えないはずだ。他の電力会社から買
い漁った「購入電力」は明細をつけるのがふつうだろう。

 もうひとつ、「値上げのお願い」は燃料費が増加したけれどその増加分を全
部押しつけるのではなく「経営合理化によるコストダウン」で努力して、最低
限の値上げだけをお願いする、という論理構成になっている。だが先に示した
一等地の子会社の例で明らかだが、「経営合理化によるコストダウン」をして
いるのかと怪しむのである。

■謎だらけの有価証券報告書

 東電は売上高5兆円の企業で社員数3万9000人(うち子会社への出向2000人)、
連結子会社を合わせると5万4000人の規模である。

「有価証券報告書」は謎だらけだ。所在地が記されているのは40社のみ。「ス
テップ六本木」ビルの東京リビングサービスもそのひとつにすぎない。「ステ
ップ六本木」を所有している東電不動産は、送電線や変電所など東電施設の管
理からスタートしてオフィスビルの賃貸、オール電化住宅の分譲、ビジネスホ
テルの経営としだいに電気事業とかけ離れた収益構造をもつにいたった。川崎
市や山梨県都留市で釣り堀、新潟県長岡市、神奈川県藤沢市で「スーパー銭湯」
を経営したが失敗、撤退した。総資産額1800億円になるが、地下鉄銀座線京橋
駅から2分の一等地にある東電不動産本社ビルは「三井住友海上テプコビル」
の名称で11階建て、三井住友海上火災保険が61パーセント、東電不動産39パー
セントの比率で所有権がある。

 ミズバショウで有名な尾瀬を管理している尾瀬林業はもともと東電の水力発
電所計画が頓挫した結果、尾瀬の環境保全と水源管理のためスタートしたが、
本社オフィスは山手線日暮里駅の正面に4年前に新築されたピカピカの40階建
ての「ステーションガーデンタワー」ビルの5階に入居している。

 同じフロアに東電用地株式会社が隣合わせで入居している。広さから周辺の
家賃相場で換算してそれぞれ月額200万円、両社で年額5000万円支払ってい
る。尾瀬林業のオフィスを駅の真ん前に置く必然性はない。東電用地は東電不
動産から派生した会社で、駐車場やトランクルームも経営している。40階建て
のビルが竣工した2008年に誕生した新しい会社だ。

 いまほんの一例を紹介しているところだ。あらゆるタイプの子会社があるが
子会社が増える理屈は単純である。道路公団のファミリー企業を調べたときに
も同じだったが、子会社が増えれば天下りポストが増える。誰も介入しない限
り増殖が止むことがない。九電力会社は後述するが「総括原価方式」なので、
その子会社への委託費が高値で発注されていたとしてもあくまでも原価なのだ。

■5000億円は電力以外で稼げ

 2月1日に東電側と副知事室で話し合いの場を持った。「有価証券報告書」
記載の40社に加えて「その他128社」、合計168社の業務内容、東電から
役員が何人送り込まれているか、明らかにるするよう迫った。

 帰り際、封筒をスッと差し出した。開けると1月26日に公表の「電気料金の
値上げに対する緊急要望」への「ご回答について」で西沢社長の赤い印鑑が押
されたA4判2枚紙だった。

 木で鼻をくくる慇懃無礼で無内容なペーパーだった。あれほど求めたのに中
小企業への配慮がまったくない。

「(中小企業に対しても)値上げにおける『一律加算』につきましては、この
たびの値上げは、現行料金の前提に対する燃料費等の増加分のうち徹底した合
理化により賄いきれない費用のご負担をお願いするものであり……」 

 翌々日の2月3日、皷紀男副社長を副知事室に呼んで「東京都はこれを受理
するわけにはいかないのでお返ししたいんですよ」と回答を突き返した。

 その後、東電側からさらに経営合理化についての説明を受けた。子会社につ
いての資料を持参してきた。しかし、小出しにする示し方で不充分だった。そ
れでも明らかになった都区内に本社を置く子会社(一覧はこちら http://bit.ly/J7aW4H )
の設立年月日を調べてみると、[図1 http://bit.ly/J78GKK ]で示したように
子会社は、この10年、急速に増殖していた。なぜか。

 じつは「総括原価方式」は、わかっているようでわからない面がある。これ
までの説明では利益を含めて、電気を生産し、販売するためのすべての費用
(総括原価)と、電気の販売収入が等しい、という制度である。発電所や送配
電網の投資(減価償却費)、人件費、広告費、燃料費、固定資産税など公租公
課、さらに原発の立地対策である電源開発促進税も原価に含まれておりこれら
「適正原価」に、事業報酬率3パーセントを上乗せする。利益率が3パーセン
トしかないように見えるが、「適正原価」のなかに利益が隠されている。ふつ
うならコストが嵩めば、利益は減る。しかし、事業報酬率は電気事業資産の額
に掛け算する。つまり費用をかけて発電設備をつくれば、事業資産の規模が増
えるのでそのぶん利益も増える。ふつうの企業は効率を上げコストを減らすこ
とで利益が出るから真逆のような仕組みなのである。

 だが1999年に電力の自由化が決まり、翌年から産業向けの特別高圧部門、04
年から05年にかけて高圧部門が「自由化」されはじめた。同じ時期、電力需要
が頭打ちになり始めた。バブル経済が崩壊した後、GDP(国内総生産)が横
ばいになったにもかかわらず、90年代はまだ電力需要は右肩上がりだった。だ
が〔図2 http://bit.ly/IA0YZB 〕のように2000年代は横ばいないしは減少傾
向に入った。

 電力需要が見込めなければ、新たな設備投資は要らない。総括原価方式では、
新たな設備投資がなければ収入が目減りする。その予感が東電内部に膨らみつ
つあったのは「自由化」が始まる2000年ごろだ。

 このときに「5兆円の売上のうち1割の5000億円は電力以外で稼げ」という
大号令がかかったのだった。

■不十分な企業年金の削減
 
 東電の連結子会社には東電OBが大勢いる。民間だから「天下り」は正確で
はないかもしれないが、110人が社長や常務取締役などで平均年収1085万円、
他に東電出向者が60人、役員ではないが顧問という肩書が31人とかなりの数が
いる。さらに東電は55歳を過ぎた職員で、役員ではなく嘱託として関係企業へ
行く場合には東電時代の40パーセントの報酬を保証し、関係会社でなく自分で
就職先を見つけてきた場合には30パーセントの報酬を60歳まで保証している。

「5000億円を稼げ」との号令で有料老人ホーム、データーセンター、人材派遣、
コールセンター、ハウスクリーニング、賃貸マンション経営、賃貸オフィス、
ビジネスホテルなど子会社の業務は多岐にわたるが、これらは余分な人員に食
い扶持をあてがうようなものと見てよい。

 東電側が副知事室に説明のために持参した41ページの資料に「資材・役務調
達コストの削減」との項目があった。コスト削減額・245億円と記されてい
る。ところがこれもまた内訳に「関係会社との取引における発注方法の工夫」
「外部取引先との取引構造・発注方法の見直し」「工事効率の向上」「その他」
とあるが金額の表示がない。

 そこで再度、内訳の金額を求めると結局、このうち「関係会社との取引にお
ける発注方法の工夫」が7割、166億円が目標額とされていた。年間1700億
円の取引があり、その大半は随意契約で、1割は軽く削減できるというだけの
ことだ。これまでコスト削減をしなくても、総括原価のなかに組み込まれてい
た。確認した。

「総括原価を算定するときに、東電本体の支出から割り出すということ? つ
まり子会社への発注も原価ですね」

「そういうことです」

 値上げの前に発電に関係が薄い子会社とその資産をすべて売却すればよいの
である。

「東京電力に関する経営・財務調査委員会」(下河辺和彦委員長)の「委員会
報告」(2011年10月3日)は、東電に対して10年間で2兆5455億円の合理化計
画を提示し、それを受けて「原子力損害賠償支援機構」と東電の両社で話し合
い、「改革推進のアクションプラン」を作成した(12月9日)。少し額が上が
り2兆6488億円とされた。

 この3月末に原賠機構と東電の両者でさらに中身を詰め「総合特別事業計画」
がつくられることになっている。

 だが2兆6000億円のコスト削減、単純に言えば、年間2600億円のコスト削減
だが、まず2012年は1900億円削減でスタートする。売上が5兆円企業で4パー
セント。ふつうの会社でも3パーセントや4パーセントのコスト削減はあたり
まえだ。「値上げは権利」と言うから、都心の子会社のオフィスの存在を指摘
したのである。これは1900億円の削減に入っていなかった。

 さらに理解し難いのは「アクションプラン」で企業年金の削減が、10年間で
1036億円にすぎない点だ。

 経営破綻した日本航空の企業年金が話題になったことがある。東電の場合は
公的資金が入ることで破綻は免れている。最初の疑問は10年間で1036億円の削
減で、標準モデルで年金がどのくらい減額されるのか、だった。経営合理化計
画としてはあまりにも金額が少ないと思ったからだ。

 これも繰り返し訊ねて、ようやく輪郭が見えてきた。東電の年金資産は5191
億円で、東電がOB社員に約束している責任準備金4978億円を上回っている。

 東電は厚生年金は基礎年金部分(夫と妻が6万6000円で約13万円)を加えて
だいたい23万円、そこに企業年金11万円〜15万円が加わる。東電で定年まで勤
務して2006年で退職した65歳の管理職OB(役員ではない)は約3000万円の退
職金をもらい月額38万円の年金生活を送る。

 ただし企業年金は有期で60歳から75歳の15年間だが2007年からは65歳から80
歳に移行した。

 今回のリストラ案は企業年金の月額11万円〜15万円を10万円〜12万円に下げ
るということ。何だ、それぐらいなの、が正直な感想である。責任準備金4978
億円が800億円減額されるだけ、金利分を入れて上記の10年間で1036億円の
削減の数字が導き出されていたのだ。

 ただ東電の説明によれば確定給付企業年金法で下限が決められており、この
案でもOBの3分の2の賛成を得なければならずその見通しが立っていない、
と深刻そうに言うのである。

 しかし、5191億円の積み立てのうちたかだか800億円の取り崩しでさえO
Bが納得しないのは奇妙な話だ。東電側は「法律の壁が……」と口籠もるが、
「だったら年金をもらっているOBはその一部を義援金として出したらどうか」
と提案したが、黙り込んだ。僕は、僕の思いをぶちまけた。「福島第一原発の
電源のレイアウトを放置してきたのは、はっきり言いますがあなたたちの先輩
ではないか。年金削減は歴史的な清算なのですよ」

 現役社員はじつはこのとき頷いた。精一杯の彼らの表現なのである。西沢社
長は陣頭指揮でOB社員に対して企業年金からもう1000億円の追加削減を表明
したらよいではないか。

■送配電を一つのネットワークに

 今年の夏の電力はどうなるのか。また今後、将来の電力会社のあり方をどう
すればよいのか。

 [図3 http://bit.ly/HOBDto ]をご覧いただきたい。高速道路をイメージす
るとわかりやすい。東電の有価証券報告書を見ていて、ある日、眼からウロコ
が落ちた。「電気事業固定資産」のうち原子力発電所、火力発電所、水力発電
所など「発電設備」が2兆4000億円、送電・変電・配電・業務の「送配電設備」
が5兆2000億円である。発電所は高速道路に対してサービスエリアぐらいの位
置づけにも見える。しばしば自由化の究極は「発送電分離」と言われるが、ネ
ットワークの部分が九電力会社の独占の力の源泉なのである。

 [図3]右上に「東京電力の発電所(原子力・火力・水力)」があり、左に独
立系の発電・小売りのPPS(特定規模電気事業者)、真ん中に卸し専門のI
PP(独立発電事業者)を描いた。卸しのIPPは右に売電→で東電に卸すこ
とができるが、売電←×でPPSに卸すことができない。値上げでPPSに注
文が殺到しても捌けない。それでも「自由化」で競争は始まっている。

 だがPPSは東電の送配電網を使わないと利用者に届かない。託送料が2割
も取られる。1万円の品物に宅配便が2000円取るだろうか。送配電網を独占す
る東電の一方的な値付けである。

 しかもPPSは火力が主体で原子力発電所を持っていない。託送料のなかに
電源開発促進税の負担がなぜ含まれなければいけないのか。これが託送料の2
割を占める。不合理な話だ。

 インバランス料金とは30分単位で供給と需要をつねに一致させていなければ
罰金が取られる。あるPPS事業者は40万キロワットの火力発電が不具合で5
時間送電がストップした。そのときの罰金は8000万円だった。小さな事業者は
年間の利益がすっ飛んだ。東電側による供給保証の保険金のようなものだがこ
れも一方的な言い値である。

 九電力の独占によってつくられた参入障壁を低くすれば、つまり送配電網に
自由に接続できれば、新しい発電の形が生れる。新規の発電事業者、工場の自
家発電で余っている電力などが送配電網に乗れる。高速道路にインターチェン
ジがあちこちにできるように。

 橋下市長が憤然として僕に言った。

「原発事故を受けて僕は原発について考え直したいと発言した。新規の原発建
設を止め使えるものを使う。まずは節電と言っただけで原発の再稼働まで止め
ると言ったわけでない」

 ところが関西電力が「一自治体の首長が何を言う。電力問題は国が語ること
であって、大阪府知事がそんなことを言うんだったら、いっさい大阪府には協
力しない」とまで述べた。橋下氏によると関電は最初は「電力は足りる」と主
張していたが原発の再稼働が難しい状況になりいよいよ電力供給が危なくなっ
て来ると「僕ら自治体とは無関係のところで急に電力が足りないと言い始めた」
のだ。

「じつはそのときに電力の供給量と需要量のデータが関電からは一切開示され
ていなかった。自治体も持っていなかった。関電が『足りない』と言えば『足
りない』となり『原発が必要だ』と言えば『必要』となっていた。電力会社に
唯唯諾諾と従っていたのが自治体だったというわけです」

 東電だけが問題なのではない。この際、九電力に共通した総括原価方式は克
服すべき課題である。送配電網は九電力で地球約30周分の長さがある。東電エ
リアで電力が不足する、関電エリアで電力が不足する、というあり方がおかし
いのだ。電力の安定供給のため地域独占会社はむしろ壁になっている。送配電
がひとつのネットワークであれば、しかも参入障壁を低くすれば将来の電力不
足は解消される。原発事故という大きな犠牲を払ったいま「驕れる者は久しか
らず」(『平家物語』)という言葉が九電力会社にあてはまるのではないか。

 橋下氏は関電の株主総会へ、僕は東電の株主総会に出席する。


                      (『文藝春秋』4月号掲載)


                *


 「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp


猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■出演情報

・4月23日(月)21:00〜21:54 テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」 
 に出演します。テーマはエネルギー問題です。

・4月21日(土)8:00〜9:25 日本テレビ「ウェークアップ!ぷらす」に生出
 演します。エネルギー問題などについて語ります。

・4月22日(日)13:30〜15:00 読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員
 会」に出演します。(西日本のみ放送)

■掲載情報

・本日4月19日発売『週刊文春』(4月26日号)に論考「東京電力『天下り全
 リスト』公開」が掲載されました。

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号。
 「東京都、東電以外にも売電し独占体制崩す 水力発電を自由化市場にも供
 給、条例改正を視野に」はこちら。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120409/305068/

・4月5日木曜日発売、月刊『潮』5月号の特集「『大地震』に備える」に
 「『首都圏直下型地震』に東京都はこう立ち向かう」が掲載されました。

・4月10日火曜日発売、月刊誌『経(kei)』に巻頭言を寄せました。“ないな
 い尽くし”の状況を克服して成功を収めるために何をすればいいか。猪瀬の
 実体験に基づいた方法を紹介しています。

・3月31日土曜日発売、月刊『正論』5月号の特集「歴史捏造への反撃」に
 「緊急鼎談 『日本は自衛のために戦った』〜マッカーサー証言を取り上げ
 た都立高校教材の衝撃 東京都副知事 猪瀬直樹/高崎経済大学教授 八木
 秀次/東京都議会議員 野田数」が掲載されました。

・3月26日発行『一個人』5月号に、連載エッセイ「解決する力」の第8回が
 掲載されました。猪瀬の東京マラソン完走までの軌跡、初心者がフルマラソ
 ン完走するにはどうすればいいかの方法論としてもお楽しみいただけます。
 「元旦を含めて二〇キロ走ったのはわずか三回、走るのはいつも夜で早朝に
 走った経験はほとんどゼロに近い」(本文より)。

・東浩紀氏が編集長の『思想地図β Vol.2』(税込2000円)に、村上隆氏・東
 浩紀氏との鼎談「断ち切られた時間の先へ―『家長』として考える」が掲載
 されました。1冊あたり635円が義援金として被災地に送られます。
http://www.amazon.co.jp/dp/4990524314

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━             
  
        □■『東條英機 処刑の日 』■□
       〔アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」〕
          (文春文庫 税込630円)     
   
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            猪瀬直樹氏は、
      子爵夫人の日記に残された謎を解き明かしながら、
           アメリカが日本に仕掛けた
     対日占領政策の大きな構図を浮かび上がらせていく。
    それによって、現代の日本と占領期の日本との間に漂う
        霧のような薄闇を払っていくのである。

                      梯久美子(「解説」より)

                *

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              大増刷出来!

    □■『言葉の力――「作家の視点」で国をつくる 』■□
         (中公新書 税込777円)

「東京都副知事で作家の言葉論。ツイッターで文章力を鍛えるには口語体では
なく文章語で書くことだと説く。読書は『10ページ読書』を勧める。それだけ
で頭の中に検索のキーワードができ上がると言う。また、小泉純一郎は<俳句
のように凝縮した1行の力強さがある>が、菅直人は<ページに言葉が埋まっ
ているだけ>といった分析等も興味深い」(読売新聞 8月14日付)

                *

     作家として、東京都副知事として進める「言語力再生」。
 サッカー界にも導入された「言語技術」やツイッターやフェイスブックなど
のソーシャル・ネットワークのほか、三島や太宰の文体にいたるまで、グロー
バル時代に不可欠なコミュニケーション力の目的・手段を独自の視点で解説。
 
  第一部 「言語技術とは何か」
  第二部 「霞が関文学、永田町文学を解体せよ」
  第三部 「未来型読書論」

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          □■『昭和16年夏の敗戦』 □■
              (中公文庫)

              8刷出来!               

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 1983年に世界文化社から刊行され、文春文庫になり、『猪瀬直樹著作集』に
入り、ロングセラーとして版を重ね昨年6月に中公文庫に収録された作品です。

 巻末には勝間和代さんとの特別対談「日米開戦に見る日本人の『決める力』」
が収録されました。

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  □■『突破する力』青春出版社 税込800円■□

              7刷出来!  


  道路公団民営化をはじめ、作家として、東京都の副知事として、
      さまざまな世間の“壁”を突き破ってきた著者が、
     自らの体験を踏まえて綴る、人生を面白くする
          本気の仕事&生き方論。

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