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「絶望の国の幸福な若者たち」の古市憲寿さんに聞く 20代から働かされるのは魅力的じゃない 頑張るのは無駄
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/717.html
投稿者 MR 日時 2012 年 4 月 23 日 18:13:53: cT5Wxjlo3Xe3.
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120412/305443/
ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う

「絶望の国の幸福な若者たち」の古市憲寿さんに聞く

(前編)『終身雇用や年功序列前提で20代から働かされるのは魅力的じゃない』
(後編)『頑張って報われるか分からないのに頑張るのは無駄』

• 2012年4月13日(構成・文/加藤レイズナ 企画/アライユキコ)

2010年、中村うさぎさんを訪ねることからはじまったこのシリーズもいよいよ最終回。あえて、同世代の社会学者古市憲寿さんに聞いてみました。大人たちと僕らはどう接していけばいいですか? そしてこれから時代はどうなっていくんでしょう、どう生きていけばいいんでしょうね。
日本人は惰性で新聞を取っていただけ
――僕が様々な業界の大ベテランの人たちから教えを請うという連載の最終回です。
古市 あ、読みましたよ。作家の石田衣良さんみたいに叱ったりしたほうがいいですか?
――普通にお願いします(笑)。
古市 いままでどんなことを言われてきました?
――あー……、石田衣良さんからは「新聞を読め」と。1年間毎日2時間。読んでますか?
古市 読んでないです。必要な記事をあとから参照することはありますけど。だって、新聞って紙で来る。毎朝ゴミが送られてくるってことじゃないですか。
――ははは。電子版は?
古市 電子版も今のままでは読みにくい。新聞のダメなところってオーダーメイドされていない情報が届くってことですよ。発行部数が一千万とかじゃないですか。ということは、一千万人にとって、ほんのちょっとだけ必要な情報が詰め込まれている。本当に必要な情報はほとんど無いということですよ。そんなものを読んでいる暇はないでしょう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985年1月14日生。東京都出身。社会学者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶応義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻は社会学。大学院で若者とコミュニティについての研究をすすめるかたわら、有限会社ゼントでマーケティング、IT戦略立案等に関わる。近著に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)。代表作に『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』(光文社新書)、中沢明子との共著『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』(朝日新書)、上野千鶴子との共著『上野先生、かってに死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください』(光文社新書)がある。今度はスイーツパラダイスでインタビューしたいです。
――うーん。毎日はさすがに厳しいですけど、喫茶店に置いてあるのを読むようにはなりました。
古市 無理して読まなくてもいいんじゃないですか。「新聞を読むのが趣味」って人や、日経を読まないといけない銀行や証券会社の人ならともかく。日本人っていままで惰性で新聞を取っていただけで、実はほとんど誰も内容を理解していない。池上彰さんが人気になるってことは、みんなNHKニュースを理解していなかったってことでしょう。新聞も同じじゃないですかね。自分にとって切実で必要な情報なら、口コミやツイッターで入ってきますよ。石田さんは冗談で「新聞を読め」って言ったんじゃないですか? だって石田衣良さんの小説って新聞を頼りに書いていないと思う。
――すごいなあ。古市さんの著書『絶望の国の幸福な若者たち』の帯には、書評がたくさん出て「全国紙制覇」ってでかでかと書いてあるのに。本人はまったく読んでない。
古市 あ〜、そのギャップがいいんじゃないでしょうか。いや、でも新聞には本当にお世話になってるので、全力でフォローしておくと、中高年を中心にまだまだ新聞が必要な人はたくさんいます。そして僕自身も、「時代の空気」を記録する媒体としての新聞にもお世話になってます。文章を書く時には、過去のアーカイブスに頼りっぱなしです。ただ、新聞が今のスタイルを変えないならば、その世代の人とともに役割を終えてしまいかねないとは思います。
無理して教養を身に付けても意味が無い
―― ジャーナリストの加藤恭子さんからは、世界を立体的に見るためにも、地球儀を部屋においておくことが大切、とか。
古市 邪魔じゃないですか? H.I.S. のサイトを見て海外に行くかどうか迷っていたほうがいいですよ。地球儀を見て、どこ行こうとか思わないですし。
――冷静に言われるとそうですけど。でも、戦争を体験した人に「世界を見てこい」と言われるとけっこうぐっときますよ。震災後にもう一度お話を聞きにいったときに、〈瓦礫の下にはまだ遺体が埋まっているかもしれない。自分の眼で見て、考えるのは非常に大切なこと〉〈これは若い人たちにとって、こういうことが起きる。自分たちの足でもって立たなくてはいけない、というメッセージなのかもしれない〉って(エキサイトレビュー「〈82歳のジャーナリスト、加藤恭子が語る震災と戦争〉より」)。
古市 でも、いきなり来られても被災地の方も困るでしょう。被災地は教育機関じゃないんだから。
――あとはギリシャ三大悲劇を読め。アイスキュロスなど。
古市 すごいな。いまは情報が膨大にありすぎて、「これだけ読んでおけば正解」というものがまったくない時代です。そのときに、自分に必要だと思ったものを選んでいけばいいと思います。なんの役に立つか分からないものを膨大に読むことによってリベラルアーツを身に付けられるのかもしれないですけど、それは高校生や大学生の段階でやっておけばいい。学生時代にそれをやってないっていうのは、すでにそれが向いてないってことです。だったら、違う方法がきっとある。わざわざ無理して教養を身につけることはあんまり意味がないと思います。
――いきなり先制パンチをくらった気分ですけど……(笑)。でも、いままでこの連載で25人に話を聞いて来ましたけど、大人ってだけでは一括りにはできない。いろいろです。若いライターだと意識せずに、自然に受け入れてくれる人はやっぱり話しやすいので、いい記事になっていると思います。あ、ケーキ食べません?
古市 ほんとですか! もう、甘いものだけ食べて生きているくらい好きなんですよ。チョコレートケーキをいただきます。
――いただきまーす。

『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿/講談社

 若年層の多くは非正規雇用者として不安定な生活を余儀なくされている。大卒の内定率も低く、就職浪人をする学生も多い。高齢化の進む日本において、現役世代に対する負担が重くなっていくなか、なぜ日本の若者はこんな不遇な状況で立ち上がらないのか。古市憲寿は、「答えは簡単」だという。〈なぜなら、日本の若者は幸せだからです〉。
 ユニクロ、マクドナルド、ユーチューブ、Skype、お金をかけなくても、毎日楽しい生活をおくることができる。現代の若者の生活満足度はここ40年間のなかで一番高いそうだ。「国民生活に関する世論調査」によると、2010年の時点で20代の70.5パーセントがいまの生活に満足している。格差社会や世代間格差といわれ、上の世代は「いまの若者はかわいそう」と口をそろえて言うけど、そうは思わないと古市。電化製品やコンビニもなかった80年代に戻りたいか? この本では、各世代の「若者」を「ざっくり」と把握できる。
 俺も、いまの生活に十分満足している。高い車やクラブに行ったりなんてしたいとも思わない。家で毎日ゴロゴロネットをできればいいなと思う。オジサンオバサンたちの「いまの若い人はかわいそうだね、私たちの若いころなんて」みたいな思い出話がはじまったら、思いっきり言ってやりたい。「僕たちはいまが一番幸せです」と。
 あ、あとカバーにはちゃんとした著者プロフィールが載っているけど、奥付の〈入学当初はデザイン、CG、建築などアートっぽいことばかり勉強していたが〉〈老人のような国で、老人のような余暇生活を送る〉などの、「若者っぽいプロフィール」にはやられた。これは、真似したくなる。
古市 いつもこんなゆるい感じのインタビューなんですか?
――そんなことないですよ。あ、児童文学作家のひこ・田中さんのときは、場所が喫茶店だったので注文しました。それにしてもものすごい数のインタビューを受けてますよね。大宅文庫に下調べに行ってびっくりしました。業界紙から「プレイボーイ」とかまで。
古市 そうですね。って、大宅文庫まで行っているんですか、すごい、偉いですね。いま事前に資料を集める人はなかなかいない。人によりけりですけど、雑な人は本当に雑。本を読んでいない人もいますよ。
――ええー、ほんとですか。
古市 いますいます。「対談を企画したんで、献本してください」みたいに言われたこともありますよ。いや、パブリシティになるので大歓迎なんですけどね。
――うわー、取材者としてあるまじき行為ですね。
古市 原稿も基本的な日本語すら直ってなかったりする。日本って良い国だなと思いました。出版不況と言われていても、そんな人を抱えられる厚みがある。
――あははは。いつもどんなことを聞かれます?
古市 定番は生活満足度についてとか、若者が幸せってほんとうなのか。あと日本はどうしたらいいでしょうか、とかそんなこと分かるわけがないのに(笑)。
――著書の『絶望の国の幸福な若者たち』でも語られているからですね。マクロで見たときに、世代間格差をはじめ、日本の社会構造が若年層にとって「不幸」な仕組みになっている。でも、2010年の時点で、内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、20代の70.5パーセントが現在の生活に満足している。そういう話ですか?
古市 はい。もう同じことを100回くらい言っています。

古市さんは85年生まれ。入野自由さん(88年生)に続き、2回目の同世代インタビュー。
自分の考えが更新されていく感じが楽しい
――取材相手を怒らせたことってあります?
古市 うーん、ありますか?
――1回だけ。取材しているときから、ちょっと不機嫌そうで、終わったあと「君はダメだ。今日はサービスでしゃべってやった」って。原稿を送っても「ダメだ、全部書きなおす」って。
古市 へええ〜。僕はそういう小難しい人にインタビューしたことがないので、怒られたことはないです。
――逆に仲良くなったこととかは?
古市 けっこうあります。する方でもされる方でも。
――インタビュー楽しいですか?
古市 目的があってインタビューしているので、楽しいというよりかは埋めていく、自分の考えが更新されていく感じが楽しいですね。そして、僕の想定外のことを言ってくれた時には「うわっ」って思いますね。そして「これ使える」、みたいな。
――それは受けるときも?
古市 そうですね。言ったことないことだと、自分にも発見があるので楽しいです。それこそ、生活満足度とか、若者の幸せがどうとかは答えも決まっているし、こっちとしては発見がない。インタビューは楽しいですか?
――これはよく言っていますけど、聞いたら答えてくれる、というのがいいですね。
古市 それはまたプリミティブな。
――僕はもともと「プリキュア」というアニメのファンで、はじめてインタビューしたのが、「プリキュア」をつくったプロデューサー。当時は、「俺みたいなやつに会ってくれるわけがない」みたいに思ってました。
古市 そこまでですか。
――だから、まず話を聞けるというだけでも楽しい。「ここはAですよね」「はい、そうです」というような、答え合わせをしにインタビューしているわけではない。それは僕がやる意味はないなと思っています。それよりも、その人自身がいままでどう生きてきて、そこからどういう考えて作品をつくってきたのかが知りたい。って、気を抜くと逆インタビューされちゃう。あ、チョコレートケーキふたつめ食べます?
古市 いや、ひとつで大丈夫です。今、ダイエット中なんで。

『希望難民ご一行様』古市憲寿/光文社

 「世界一周、99万円」「地球一周の船旅148万円」。NGOピースボートの主催する世界一周クルーズの広告、街中や居酒屋でよく見かけるポスターだ。「こんなの、誰が乗っているんだろう? ほんとに乗船する人いるの?」と思っていたら、いた。古市憲寿だ。と、いっても自分から進んで乗ったわけじゃない。本書は、東京大学大学院総合文化研究科に提出・受理された修士論文『「承認の共同体」の可能性と限界:ピースボートに乗船する若者を事例として』に対して、加筆・修正を加えたものでもある。
 古市はピースボートに乗り込み、なかにいる若者たちに「どのようにピースボートに興味を持ち」「船内でどのような活動をし」「帰国後どうなったか」までを丹念に追っている。結果、ピースボートは、若者たちが希望を持って乗り込む船ではなく、「夢や希望をあきらめさせる」ための船だった。古市は希望難民になってしまった若者たちを、同じ若者の立場だけど、一人冷静に、俯瞰(ふかん)した視点からルポしていく。
緊張しても、なんの役にも立たないなって
――古市さんからインタビューすることも多い。
古市 友だちに聞くことが多いですけどね。インタビューみたいにちゃんとしたものではなくて、ふわっと話を聞きながらまとめていくことが中心ですよ。『希望難民ご一行様』はまさにそうですね。
――古市さん自身がピースボートに乗り込んで、乗客たちに話を聞いていく。どうやって話しかけています?
古市 「大学院生で、社会学の勉強しています」とか言いながら、話を聞きにいきます。街に行く時は、一人でインタビューというのはあんまりないですね。
――友だち何人かで。
古市 そうそう。水族館の代わりに、デモを見に行くみたいな。遊びに行く感覚ですね。お互いのグループでしゃべるから、向こうもそんな警戒しないし、応援してくれたりして、けっこう優しい人が多いですよ。
――いくら一人じゃないとはいえ、知らない人に話しかけるのは緊張しません?

「嵐の相葉くんに似てますね」と言ったら「川越シェフに似てるとはよく言われます」と返ってきました。
古市 う〜〜ん、あんまりしない。緊張すること自体ないかもしれないです。
――すごいですね。
古市 無駄というか、緊張しても、誰のなんの役にも立たないなって。挙動不審なんで、緊張しているようには見えるらしいんですけど。
――コントロールできている?
古市 にぶいのかも。一瞬「これどうしよう」って思うことはありますけど、いざ始まるとなんにも考えない。あるかなあ、緊張……緊張した経験。
――例えば、2月に「朝まで生テレビ」に出演していたじゃないですか。
古市 「朝生」は、出演していても、テレビを観ている感覚と変わらなかった。「みんなしゃべってるな」って、だから緊張はなかったですね。視聴率数パーセントの世界なんて、世の中から見たらノイズにすぎないですよね。
――数パーセントといっても何百万人じゃないですか。
古市 でも、ちゃんと観ている人は意外と少ない。テレビをつけているだけとか、観ていてもまったく分かっていないとか。そういうことを考えたら、気にする必要はないのかなと。
――講演会とか、スピーチをするときとかもそれはかわらない? みんなが分かって観にきている場合。
古市 講演自体あんまりやらないんですよ。対談やシンポジウムはありますけど。
――依頼たくさんきているんじゃないかと。
古市 くるけど一人で長時間喋り続ける系のものは、断っています。僕はそんなに声を張り上げて世の中に人に伝えたいことがあるわけでもないので。
かじれるスネがあるんだったら
――『絶望の国の幸福な若者たち』では、各世代の若者を取り上げていますけど、「この世代が羨ましい」ということは。
古市 特にないですね。
――本の最後で、俳優の佐藤健さんとも対談していて、「生まれ変わるなら、絶対に、幕末より現代がいい」って言ってて、ああそうだなあって。上の世代の人たちには「こんな時代を過ごすのは不幸せだ」って言われますけど、そうじゃない。どんな時代よりも現代に生まれたほうがいい、僕も思う。
古市 そうですよね。加藤さんはニコニコ動画でゲーム実況をやっていて、そこからライターになって、本(『プリキュア シンドローム!』)まで出す。あ、ご出版おめでとうございます。
――ありがとうございます!
古市 今っぽいルートですよね。すごい面白いと思います。
――5年前でも5年後でも絶対にないですよね。
古市 だからいまはチャンスな気がします。先行世代から受け継いだものがすごい多いから、自由に冒険もできる。一方で、先行世代のものが崩れ始めているから、新しいものが注目される。転換期という意味では若者にとってもチャンスな時代だと思います。
――お友だちのゲームデザイナー、米光一成さんが「大人たちがすでに『モノポリー』をやっている場所にビルを建てようとするな。新しく『いたスト』をつくれ!」って言っていました。そういう風にチャレンジしようとしている若者がいる一方、「今が良ければいい」と思っている若者もきっと多い。
古市 今が良ければいいってわけでもなくて。みんなそこそこ世の中を考えていると思いますよ。20年前だったら、大企業に入ったり、正社員になればいいという形で、みんな共通の答えがあった。いまは万人に提供できる共通の答がない。それこそシェアハウスで新しいことをやろうとしてみたり、ニコニコ動画発でクリエイターになってみたりとか、いろいろな可能性が生まれている。新しいロールモデルがたくさんできているのはいいことだと思います。
――でも、全部成功するとは限らない。
古市 イノベーターってそういうもので、みんなができるかは重要ではない。一部でも成功すればよくて、その後に追従者が出てくればいい。……まあ、今の20代の親は、50代60代だから、あと2、30年は生きるので大丈夫なんじゃないですか。
――スネをかじれと。
古市 それは悪いことではなくて、いまの若者は世代間格差という形で、日本の負債を背負っていることになるので、恥ずかしいことではない。かじれるスネがあるんだったら、かじっていけばいいんじゃないですか。
――いまは一人暮らしですか?
古市 はい。僕は親のスネはかじってないですが、いっしょに会社をやっている友だちのスネはかじっています(笑)。僕が自由にやっているのは、その友だちのおかげですよ。お金も稼いでくれるし。

いつもインタビューでは生活満足度や若者の将来について聞かれている古市さん。このインタビューは、「ショートケーキのイチゴ」の話題でスタートしました。僕はいらない派です。
貯金してもしょうがない
――古市さんは研究者、社会学者とは別に、友だちが立ち上げた会社、有限会社ゼントで働いているんですよね。
古市 その友だちは高校時代からプログラミングの仕事を始めてて、大学から会社をやっていた。僕も大学で知り合って、一緒に仕事をやっていました。来ないか、と誘われたので大学院に行くことにしました。今の会社がなかったら大学院にも行ってなかったと思います。
――大学生のとき、就職しようとかは思ってました?
古市 んー、就活したくなくてノルウェーに留学したくらいですからね。終身雇用や年功序列という建前が崩れているにもかかわらず、さもそれがあるような前提で20代のうちから働かされることに対して、魅力的じゃないなと思いました。だったら初めから入らないほうがいい。さっきのモノポリーの例じゃないですけど、日本の大企業って、大人たちがつくってきた仕組みのなかに入ることなので、そこに新しく入る人が不利益なのは当然。
――会社でやっていることは、その友だちの話し相手、とインタビューでも言っていますよね(「webマガジン幻冬舎 お前の目玉は節穴か 第12回より」)。具体的には?
古市 いっしょにご飯食べたり。いっしょになにかつくったり、色んなことをやっていますけど、基本的にはご飯を食べています。
――ご飯ばかり(笑)。大事なことだから二回言ったんですか?
古市 いやいや、ほんとうに夜中に焼肉行ったり、そんなのばっかりです。
――どういう勤務形態なんでしょう。
古市 同じマンションの違う部屋に住んでいるので、出勤という概念はないですね。行こうかなって思ったら行く。ふらっとしゃべったことがアイデアになって、たまたま仕事になる。そういうことばかりです。僕がやっている文章仕事のお金も全部会社に入れています。
――給料制?
古市 まあ、欲しい分だけもらうみたいな。
――え、本の印税とかも。
古市 そうですね。原稿料とか出演料とかは全部会社に入れてます。
――それじゃ全然茶飲み友だちじゃないですよ。
古市 個人個人好きな仕事をやっていて、それを会社という場所で共有しているイメージですね。もともと仕事のつもりはなかったけど、結果的にお金になっている。個人でお金をもらってもいいことないじゃないですか。税金のことも考えて、会社でいっしょにやっています。
――貯金はあります?
古市 会社にはありますけど、個人の貯金は考えない。貯金してもしょうがないというか、だったらいま好きなことすればいいんじゃんって。いくら貯金してもインフレになって2倍になったら価値が2分の1になって終わりじゃないですか。
――まあそうですけど。
古市 加藤さんは一本原稿書いてどのくらいもらってるんですか。年収は?
――自分の貯金は考えないけど、人のは気になるんですね。
古市 研究者ですから。
――それ便利ですね。何でも聞ける。
古市 取材としてって言えばいいんじゃないですか? なんでも聞けますよ。
仲間と豊かに暮らすほうが大事
――会社は何人?
古市 3人から増やさないと決めています。プロジェクトによって組み方を変えたりしますけど、コアメンバーは3人です。人数を増やすとマネジメントコストがかかってしまうし、仲良くない人と一緒に仕事をするメリットは感じないですから。
――増やさないのはいいですね。会社はすぐ大きくしたがるイメージがある。
古市 そうです。上場したら監査も厳しくなって、好きなことがどんどんできなくなっていく。上場した人は、そこで得た創業者利益を持って、中の人と新しい会社をまたつくることも多い。だったら、初めからそれをやればいいじゃんって。
――上場なんてしたくもない。
古市 意味がないですよ。仲間たちと豊かに暮らしていることのほうがよっぽど大事。
――すっごい理想的ですね。仲のいい友だちと集まって、遊んでいるうちにそれが仕事になって……。会社に入るんだったらそういうことしかありえない。
古市 いまほど雇われて働く日本人が多い時代はありません。自営業者は減少し続けています。戦後は、自動車屋さんとか八百屋さん始めたりって、特別なことじゃなかった。気楽な気分で起業していた。でも、だんだんみんなサラリーマンになってしまった。それでも別にいいんけど、起業や自営業がもうちょっとカジュアルにできる社会になれば、もっと生きやすくなる人も増えるのかなと思います。
――それはずっと思っていて、同世代の人たちを見ると、会社に勤めていることにすごく誇りを持っている人が多い。「結局あいつは会社に勤めたことがない」とか「就職しないと人生がヤバイ」みたいな。それ以外にも生き方はたくさんあるだろうと。
古市 まあ、そこしか自分のプライドの拠り所がないからじゃないですか。社会が安定している時代だったら、大企業に就職するのが理想的な構図なんでしょうけど。中流で安定ということは、3.11の震災のような突発的なリスクに対してもろいことだと分かったと思いますよ。震災で困ったのは、持ち家もあって、会社に勤めている人。
――逃げ場がない。
古市 もう3.11はないとしても、いろいろな形でのリスクが起こる社会で、かつて安定と思われていたものが、どんどん当たり前じゃなくなっていく。リスクになってきているなかで、フレキシブルに働くような人とか、働き方が増えればいい。不安定な時代に最も安定する方法は、いくつかの居場所を確保することです。週3日は企業に勤めて、週2日はNPO、週1日は大学とか。
以下、後編の『頑張って報われるか分からないのに頑張るのは無駄』、「絶望の国の幸福な若者たち」の古市憲寿さんに聞く(後編)に続く。後編ではネットでの批評や批判、仕事に取り組む姿勢、研究者の視線で読む本、意外と老人趣味な旅行、など古市さんにさらに深く伺いました。
皆様からお寄せいただいたご意見(5件)
1. 読んでいて、すごく腹が立った。なぜだろう?
羨ましいのだろうか? (おじさん) (2012年04月23日 11:51)
2. 古市さんは、高等な教育を若いうちに受けることができたから、そういう見方ができるのかと思います。
そのような環境下に生まれたことを、もっと感謝すべきだと思いました。

「勉強に来られても迷惑」
その通りかもしれませんが、社会は迷惑を互いにかけながら日々成長するものだと思ってます。
ちなみに、私は35歳を過ぎてから猛烈に教養をつけたいと思いはじめました。 (いいじま) (2012年04月21日 22:22)
3. 後編を楽しみ待ってます。
前編ではその時代の寵児の話を聞かせて頂いてる感じで受け止めてます。 (roly poly) (2012年04月19日 16:37)
4. 若い奴が今幸せと言うのは本当だと思います。
キリギリス的で老後の事を考えなければの話ですが。
大きく苦労しなくても面白おかしく緩く過ごすことが出来ます。

ですが、上を目指して従来のような仕事で出世してどうこうという人には昔より厳しいかもしれません。
沢山働いて儲けようとしても老人を支える為に吸い取られる分で歯がゆい思いをするので
自分の為、稼ぐ為に働くという方向のインセンティブが阻害されやすいかもしれません。
年をとって子供が欲しいと思ったときにはもう色々遅くて苦労するかもしれません。

生涯を通して結局幸せだったか?と言えば、まだわからないだけ。 (としろう) (2012年04月17日 23:51)
5. 定年を待って日本を後にしブラジルで余生を送っています。毎日が習慣のギャップで楽しんだり悩んだりの連続です。歴史書に因ればこの国の原住民も質素な生活ながら幸福な日々を送っていたそうですが、日本でもアイヌ、琉球に見るように戦闘好きな民族に平和を砕かれています。鎖国こそ日本の唯一選択肢だと実感します。 (山田 正) (2012年04月16日 19:12)


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120419/306176/
『頑張って報われるか分からないのに頑張るのは無駄』、「絶望の国の幸福な若者たち」の古市憲寿さんに聞く(後編)
• 2012年4月20日
• 前編の「絶望の国の幸福な若者たち」の古市憲寿さんに聞く(前編)、『終身雇用や年功序列前提で20代から働かされるのは魅力的じゃない』からお読みになる方はこちらから。
ネットリテラシーが低いのは高齢者
――ネットだと本の反応が逐一分かるから面白いですよね。常に検索していて仕事にならなかったり。
古市 昔はどうしてたんだろうなと。反応がすぐにかえってこないじゃないですか。きても読者ハガキくらい。
――出して数カ月は読者の反応が分からない、分かるのは書店の売れ行きくらい。つらいですよね。
古市 動くのも好意的なメディアくらいじゃないですか。だからすごい天狗になりやすかったと思います。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985年1月14日生。東京都出身。社会学者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶応義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻は社会学。大学院で若者とコミュニティについての研究をすすめるかたわら、有限会社ゼントでマーケティング、IT戦略立案等に関わる。近著に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)。代表作に『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』(光文社新書)、中沢明子との共著『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』(朝日新書)、上野千鶴子との共著『上野先生、かってに死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください』(光文社新書)がある。今度はスイーツパラダイスでインタビューしたいです。
――大先生になりやすい。
古市 そういう構造だったんでしょうね。
――いまはネットがあるから、そういうのがよく見えますよね。批判の声の方が多かったりして、気に病んだり。
古市 攻撃的な意見のほうが目を引きやすいから、多く見えるだけで、それはネットのなかでのごく一部だったりする。そもそもツイッターやフェイスブックを使っていない人のほうが割合でみたら圧倒的大多数なわけじゃないですか。そこだけ見て考えちゃうのは危険ですよね。
――攻撃的な人が書き込むから、好意的な人が逃げてしまう。
古市 好意的な人はあまり書きこまないから可視化されないといいうことはあるかもしれない。攻撃的な人は昔からいたと思います。
――きっと「死ね」みたいな手紙が届いたりもしてた。
古市 昔は閉じられた場所でしか言わなかったことを、いまは言ってもいいという風潮は確かにあるかもしれない。
――言ってもいいんだって。それは若い人のほうが多いのかなあ。
古市 ネットリテラシーが低いのは圧倒的に高齢者ですよね。中高年の知識人に多いのは、作法が分からなくて、ツイッターやブログを炎上させてしまうこと。だから、あんまり世代論ではないのかな、という気はします。
胸がキュンとなっちゃう
――エゴサーチ(自分の名前や本のタイトルでネット検索)ってしてます?
古市 しますします。どういう評価されているのか興味があります。
――それに対して反応したりは。
古市 ツイッターで僕宛だったりするとしますね。うーん、でも気分次第ですね。寂しい夜とかだと、無駄にエゴサーチして、誰かにからんじゃうかも。でも意味がある批判だと楽しいけど、本って書いている本人が一番欠点を分かっているので、9割は想定内です。そうだよね、って言って終わる。本を出されて、反応どうですか。
――ほんとに同じで、意味のある批判ならうれしいですよね。小さなことからいろいろ言われますね。
古市 けっこうへこみますか?
――うーん。ちゃんと教えてあげたくなります。たとえば古市さんの『絶望の国の幸福な若者たち』は約300ページで1800円。まあこれはふつう。僕の『プリキュア シンドローム!』は約600ページで1890円。これが「高い!」って言ってなぜか怒ってたり。表紙がイラストなので、著者名を入れるなとか、文章がつまらない、ライターとして未熟、ただのファンだな、とか。
古市 そんなレベルで言われるんですか。
――インタビュー本ですけど、エッセイ部分もあって、そこでの一人称は「俺」にしていて、それが失礼だって。
古市 面白い。
――若い、ってことは絶対に言われますね。
古市 そこで叩かれるんだ。僕の本だと、30代の不安定な仕事についている人とか、就職が決まっていない研究者とか。あんまり年齢が違わないけど、そこまで恵まれてもいないという人の批判が多いのかなという印象です。そういうのを見ると胸がキュンとなっちゃう。
――相手の立場を考えると?
古市 30歳過ぎて仕事が決まらないとか、何も言えないです。胸が熱くなる。

『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿/講談社

 若年層の多くは非正規雇用者として不安定な生活を余儀なくされている。大卒の内定率も低く、就職浪人をする学生も多い。高齢化の進む日本において、現役世代に対する負担が重くなっていくなか、なぜ日本の若者はこんな不遇な状況で立ち上がらないのか。古市憲寿は、「答えは簡単」だという。〈なぜなら、日本の若者は幸せだからです〉。
 ユニクロ、マクドナルド、ユーチューブ、Skype、お金をかけなくても、毎日楽しい生活をおくることができる。現代の若者の生活満足度はここ40年間のなかで一番高いそうだ。「国民生活に関する世論調査」によると、2010年の時点で20代の70.5パーセントがいまの生活に満足している。格差社会や世代間格差といわれ、上の世代は「いまの若者はかわいそう」と口をそろえて言うけど、そうは思わないと古市。電化製品やコンビニもなかった80年代に戻りたいか? この本では、各世代の「若者」を「ざっくり」と把握できる。
 俺も、いまの生活に十分満足している。高い車やクラブに行ったりなんてしたいとも思わない。家で毎日ゴロゴロネットをできればいいなと思う。オジサンオバサンたちの「いまの若い人はかわいそうだね、私たちの若いころなんて」みたいな思い出話がはじまったら、思いっきり言ってやりたい。「僕たちはいまが一番幸せです」と。
 あ、あとカバーにはちゃんとした著者プロフィールが載っているけど、奥付の〈入学当初はデザイン、CG、建築などアートっぽいことばかり勉強していたが〉〈老人のような国で、老人のような余暇生活を送る〉などの、「若者っぽいプロフィール」にはやられた。これは、真似したくなる。
――たぶん、そういう人は、おなじ社会学の先輩とかだったりする。
古市 人ってまったく違うものに対しては批判をしないじゃないですか。ちょっと近いものは欠点が目立つから。ファンがいる市場の本は大変そうですよね。ファンも勝手だから。まあお金を出して買ってくれるうちはいいんじゃないですか。僕の本みたいな朝日新聞読者が好きそうな本って基本的に図書館で借りられている。
――そうなんだ!
古市 自分の本を検索すると120件予約で21ヶ月待ちとかあって、ありがたいけど、そんなに待ってまて読む本でもない。そもそも売れない。
――えー、だって『絶望の国の幸福な若者たち』は10刷じゃないですか。累計だとどのくらい?
古市 いや、ちょびちょび重版しているんで、そんな売れてないです。近藤麻理恵さんの『人生がときめく片付けの魔法』なんて100万部を超えてとんでもないですよね。こういう人文系の本にしては売れただけで、基本的に売れない。10万部にも届かない。
――最初の著書『希望難民ご一行様』を出すとき、売れるだろうなとかは。

ちょびちょび重版。あやかりたい!
古市 若者論っていまさらだろうな、と思ってたので、あんまり売れないかなと。逆に上野千鶴子さんとの対談本はもっと話題になると思っていました。
――『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』ですね。すごい好き。古市さんが上野さんに親の介護や世代間格差について聞きに行って、「あんなそんなことも知らないの!」「ほおーん」「なにがほおーん、よ」って叱られたり。この連載で僕がいろいろな人にインタビューしているなかで、たびたびこういうことがあったなあと。
古市 ああ、そういえば似てるかも。
何かを頑張る発想がない
――仕事をする上で大事にしていることってありますか?
古市 仕事という感覚があんまりないですね。最近ではメッセージのやり取りもフェイスブックとかツイッターが多いし。名刺もあんまり管理しないし。ありますか?
――そこまで仕事とプライベートが分かれている仕事でもないですからね。面白いことをやりたいってのが一番ですし、面白くなかったらライターも辞めようかなと思っているくらいなので。努力してるとか頑張ってるって自覚はないですか?
古市 ないです。努力しようと思ってする努力には意味がないと思っているので。好きなことなら結果的に身に付いているはずじゃないですか。そういうものが人からは努力に見えるんでしょうけど。努力を意識したことはないですね、がんばっても報われるかどうか分からないじゃないですか。それなのにがんばるのは無駄というか、それなら好きなことをやっていたい。
――努力はするものじゃない、というのはまったく同意見です。報われる、というのはどういう状況のことを指している?
古市 目的に対して、叶うことが報われることだと思うけど、僕は目的に対してなにかを頑張る発想がないので、報われるという発想もない。
――いま夢とか目的みたいなのもない。
古市 将来こういう地位に達したいとか、これくらいのことを成し得たいというのは基本的にないです。目的設定してもあんまり意味がないと思っていて、いまある自分の周りを見渡してみて、そのなかで何ができるのかを考えています。
――なにかをやらなきゃ、つくらないとって気持ちは。
古市 それもないですね。僕は子どものころから好きなこと、同じことをやっているだけ。
――子どものころ?
古市 宇宙とかサメの図鑑をたくさん買ってもらって、それを自分で編集して、自分にとってベストな図鑑をつくる、ということをやっていました。いまと変わらない。
――ほんとに、会社で仲のいい友だちと、好きなことをやっているだけ。
古市 自分の好きなことを、無理しない範囲で、社会に受け入れられる形で編集するということはしていますけどね。

『上野先生、かってに死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください』上野千鶴子、古市憲寿/光文社

 元東大教授の上野千鶴子と古市憲寿の対談で本文は進んでいく。まず、「はじめに」にあたる部分で、古市が上野千鶴子に宛てた手紙からはじまる。古市が常日頃疑問に思っていることを、上野千鶴子に「相談」しにいくという内容だ。〈個人的なことをご相談させてください〉〈僕の両親は、今年ちょうど還暦を迎えます。だからまだ介護は先のことだと思うのですが、最近ともに両親の老いを感じる機会が増えてきました〉と、介護のことや、ほかにも世代間格差、日本の将来に関する問題について聞きに行く。
 親の死に方で、どれがいいかを聞かれる古市。1番ガン死、2番心臓・脳の血管疾患、3番老衰(ほとんどの場合、認知症が入っている)。こう答える。〈突然死だから、2番。いきなりがいいですね〉〈こういう子どもたちを育てちゃったんだね。怖いよー〉〈だってガンは苦しそうだし、老衰もいきなり死ぬわけじゃないんですよね? 本人も大変なんじゃないですか〉〈老衰は長いですよ〉
 古市がなにも知らず、すっとぼけている設定で話を聞きにいき、上野千鶴子に呆れられ、ときには怒られながら、介護や世代間格差についてわかるようになっている。
 ところどころ、この連載を思い出しながら読んでいった。うーん、面白い、くやしい!
子どもたちが夢と思う職業の実態を
――小さいときの夢ってなんでした?
古市 小学生のころは公務員とか言ってましたね。
――そうなんだ。堅実な考えですね、すごい。
古市 中学生くらいから夢という夢はなくなりました
――夢を持て! とか言われたりは?
古市 僕の周りではなかった。進学校なので、夢なんて必要ない。学校としての目的は、大学に行くことなので。
――そうなんだ。僕は小学生のころ「将来の夢を発表しなさい」って言われて、なんでいま考えないといけないんだって納得がいかなかった。発表して何の意味があるんだ、その仕事についてなんにも分からないのにって。まあ、なんとかなるだろうって思っていただけですけど。
古市 うん。自分の持っているリソースの夢とギャップってすごくあるはず。夢を考えさせるんだったら、子どもたちが夢と思う職業の実態を教えるべきですよね。
――幼稚園のころは周りみんなサッカー選手でしたよ。Jリーグが始まったころなので。
古市 サッカー選手なんて特に悲惨。県で数人しかプロになれない。プロになっても何年働けるか分からない。そこからこぼれた人が何をするかというと、大学に行っていない人も多いので、タクシードライバーとか配送業だとか、サッカーの能力を生かさないで働いている人もすごく多い。そういう状況を一切教えないで、「サッカー選手になりたい」という子どもに、頑張れって言うのはすごく無責任だと思います。目的意識をもたせるのは悪くないけど、言いっ放しな。
――大人は、子どもが夢を持っているだけで安心する?
古市 するんじゃないですか。分かりやすいから。
――そういうのもなんとなく分かっていて、みんなサッカー選手になりたいって言っているのをケッと思いながら、屋台のラーメン屋になりたい、とか書きましたね。たまたま食べたかったんでしょうね。
古市 でも、屋台のラーメン屋って堅実な夢ですね。
――そうですか?
古市 うん。上海とか屋台がたくさんありますよ。田舎から出てきた人が簡単に始められる仕事が人力タクシーか屋台。
――手持ちが少なくてもはじめられる。
古市 日本だとあまりにも規制が厳しいから街なかではあんまりできないですけど、もっと屋台が増えていいと思います。これから来ると思いますよ。小商い的なものは。
毎日お風呂で漫画を一冊読む
――休日って何してます? あ、仕事って意識はないから。
古市 休日の概念もないですね。あ、でも人と会う会わないでオンオフを切り分けているのはあるかもしれない。
――家にひとりでいるときはなにを?
古市 本を読んだり、ゲームをしたり、ネットをしたり……。毎日たいしたことをやってないですよ。
――どんな本?
古市 研究書から漫画まで。読んでも、研究者目線というか「これは何かに使えるんじゃないか」と思ってしまう。「これはこの時代の何かを象徴しているんじゃないか」とか。
――研究者目線って?
古市 たとえば田村由美の『7SEEDS』って漫画。地球が滅んで、シェルター内の若者が崩壊後の地球でサバイバルをして暮らすという、設定はチープなんですけど、人間ドラマがすごい。普通に選ばれた人と、教育を施されていたエリートのグループがあって、教育を施されていたグループは、サバイバル術とかを持っているけど、メンタル面が弱い。これはエリート教育の限界の話だなとか。
――へええ〜。
古市 『ドラえもん』の連載開始は1969年。これは日本がある意味過渡期というか、高度成長が終わりかけていて、公害や食品汚染という問題がクローズアップされて、万能科学みたいなことに違和感を感じていた時代。そこで未来からやってきたドラえもんというロボットが世界を救う、という話ではない。21世紀のテクノロジーを集結しているはずなのに、のび太ひとりも救えない、という設定が面白い。日常が大事になった時代の、ある種象徴的な作品なんだなって。そういうことを考えながら読んでいます。
――目線が全然違うなあ。漫画を買う基準は?
古市 僕は毎日お風呂で漫画を一冊読む。だから、漫画を買わないといけない。
――そこまで(笑)。
古市 今日お風呂で何を読もう、って探さないといけないんです。
――ゲームは?
古市 格闘アクションが好きです。「バーチャファイター」や「鉄拳」とか、現体験として90年代半ばに流行ったゲームがいまでも好きですね。でも、一回プレイしたら満足して飽きちゃうことが多いです。
――小さいころから?
古市 小学生のころはもうちょっとやっていました。あのころは毎日がゲームより充実していなかったのかもしれない。ゲームってルールに従っていれば、自己実現もゴールもできるじゃないですか。絶対報われる世界。だけど現実はそうじゃない。いま現在において、現実世界のほうが自分のやったことがちゃんと反応として返ってくるから、ゲームが楽しくないのかも。
――リア充みたいな。

iPhoneとガラケーの両手持ち姿をみたときに「できる人オーラ」をものすごく感じたのに……、二台持ちがそんな理由だったなんて!
古市 うわー、それは嫌。嫌なかんじですけどね。ただ実際、リアルが充実していればゲームをする必要はないんじゃないですか。
――アプリもやらないですか?
古市 ないですね。結局インストールしてもいじらないままが多かったりとか。だからiPhoneもiPodの機能くらいしか使ってなくて。
――ガラケーとふたつもっていますよね? 使い分けているんじゃないんですか?
古市 ガラケーは電話やメール、iPhoneは音楽とか。あと、電話しながらカレンダーを見られるので便利。
――それはガラケー二台でもいいですよね。なんでiPhoneを。
古市 なんか欲しいじゃないですか(笑)。
――それだけ!?
古市 新しいものは一応好きなので、いろいろ試すけど、すぐ飽きる。だから使いこなせない。
ゆとりがあるのも当たり前、老人なんだから
――クールですね。我を忘れるとかないんですか。ん〜、趣味は?
古市 本を書くことですね。人に会ってまとめて文章を書いて。
――はー、ほんとに仕事って感覚がないんだ。
古市 はい。あと、子どものころは一日乗車券でバスに乗って東京のいろいろなところに行ってました。バスは歩く高さと同じ目線で街が見渡せるから楽しい。最近はやっていないですけど。
――なぜ?
古市 できるだけ乗りたいけど、なかなか機会がなくて。品川から新宿まで無駄にバスで行きたいけど、ほんとうに無駄なので(笑)。
――電車で行けば早いし、安い。
古市 あとは半分仕事、半分趣味ですけど、最近は中国が楽しいですね。海外にいる時間は、基本的に好きです。
――海外! どこが楽しいんですか?
古市 なんだろう。日本の街ってあんまり進化しないじゃないですか。たとえば上海だと、3ヶ月ごとに街が動いているというか、雰囲気が変わる。旅が好きなんじゃなくて、なんか行きたい。向こうに友だちがいるというのも大きいですね。
――日本と地続きな感覚ですか? 国外のほうが安いから行くみたいな。
古市 ほんとうにそんな感じです。どうしてもそこの場所を見たいってないかもしれない。
――海外に行くことの意味が分からなくて、日本でいいじゃんって思う。何が楽しくてわざわざ行っているのかなあと。ずっと疑問なんですよね。
古市 中国だったら、単純に日本より物価が安いじゃないですか。それに、食事も想定外のものが出てくるし、ことばも当然通じない。これは日本だとないじゃないですか。
――こわいですよ。ことばが通じない。野垂れ死にます。
古市 なんとかなりますよ。でもまあ、海外というか、本当は旅行自体に行く意味はないですからね。東京で行ってない店や場所に行けばいい話。円高がいつまで続くか分からないし、円の価値はこれから確実に下がっていく。なら、いま行っとこうかなとか、それくらいですよ。

――古市さんのツイッターを見ていると、いつのまにか海外に行ってますよね。いままで何カ国くらい行きました?
古市 うーん。ピースボート乗ってますから。
――ああ、そっか。
古市 たくさん行ってますけど、ピースボートって、6時間でエジプトの街なかをまわってスフィンクスとピラミッドを見る、みたいな弾丸ツアーなので、行ったかどうか分からない。ピラミッドは10分ですし、スフィンクスは5分ですよ。「はい、もう移動時間です」って。
――いいんだか悪いんだか分からないですね。
古市 ですよね。でも、実際ピラミッドを5時間見られるかっていったら、ないですよね。
――無理です。
古市 ただの岩ですから。行ったからってなにがあるわけでもない。観光というものの価値が下がっているのは、みんな賢くなってきたからなのかなと思います。本物を見ても、結局写真と同じで、記念写真は撮りますけど、それはフォトショの合成とあまり違わない。ちょうどこの前初めて香港行ったんですけど、なんの感動もしませんでした。
――安心しました。「この国いいよ」と言われた、なんて返せばいいのかと。
古市 国内旅行なら行くんですか?
――……熱海。
古市 老人みたいですね(笑)。

最後にお互いの本を持って記念撮影。
[画像のクリックで拡大表示]
――友人と行くから楽しいというところもありますね。でも、結局行ってもみんなで部屋のなかでダラダラして、たまに温泉入って、それで終わり。
古市 老人会の旅行と同じ。でも、まあいいですよね、のんびりできて。成熟社会ってどういうことかというと、みんなが老人化していく社会です、きっと。ガツガツしていない。余生があと10年か50年かの違いなだけで、価値観もそこまで老人と変わらない。日本もそういう社会になっているんだなと思います。ゆとりがあるのも当たり前ですよね。老人なんだから。
――僕たち老人でしたね。
古市 って、こんな締めでいいんですか? いままで25人にインタビューしてきてこれですか(笑)。
取材のあとに
 2010年3月、中村うさぎさんのインタビューから、ビズカレッジ(当時の名前は「キャリワカ」だった)「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」の連載がはじまった。今回、2012年4月に古市憲寿さんのインタビューで最終回を迎える。
 それまでは(といってもライター始めて1年くらいだったんだけど)自分が好きな作品に関わった人に話を聴いたことしかなかった。  この連載でインタビューをするのは、知らない人だった。もちろん名前くらいは知ってる人もたくさんいるけど、おぼろげにしか分からない。インタビューするうえでのキーワードも分からない。安保闘争、高度成長期、デフレ政策などなど、学校では教わったかもしれないんだけど、ぜんぶ頭から抜け落ちてた。オウム事件のときは7歳。ギリギリ記憶にある。編集さんから「そんなことも知らないの?」と言われ、ネットで調べまくる、大宅文庫で片っ端から資料を漁る。作品を読む。
 実は、こんなことをしてなんになるのだろう、と思った時期がある。俺がなりたかったのは職業ライターなのか? 思えば、初めてライターという職業に向きあったのがこの連載なのだ。「なんで知らないひとに知らないことをいちいち聞きに行かなくちゃいけないんですか?」。編集さんとも大げんか。細かい経緯はここでは省くけど、2010年夏ごろ、結果的には、おれはライターを続けていく、ということを選択した。それで良かったと思っている。
 その時期のインタビュー記事は、自分でもなかなか読み返せない。まだ消化できていないのかも。2年くらいたったら、心に落ちているのだろうか……。自分でも読み返せないものを、これまで読んでくださったみなさんに改めて感謝したい。おれはライターとしても未熟で、まだまだ手探り状態。必死でやっていくしかない。でも、ぼんやりとだが成長したのかな、みたいな実感はある。
 第2回の森達也さんのインタビューのあと、森さんを含め、さまざまな出版社や新聞社の方たちと飲むことになった。ライターたるものそこで自分を売り込みにいくものだろう。だが当時の俺は端っこの席に座ったまま、誰とも、ほとんどしゃべることができなかった。なにをしていいかが分からなかったのだ。いまだったら仕事の話もたくさんできるだろうに!
 石田衣良さんのインタビュー(2010年12月)では、「このままではダメだよ」といわれ、現場で頭が真っ白になりかけた。原稿を書くときも、どう構成すれば面白く読んでもらえるだろうと苦労したいろいろと思い出深い回。今でもライター、編集者が集まる場で「石田衣良さんのインタビュー読みましたよ」と言われることが多い。やった! と思う。今回の古市さんも面白がってくれた。
 2年間、25人にインタビューしてきた。だから古市さんの「大人は勝手」という意見が実感として分かる。よく「大人のせいで、いまの、俺たち若者がつらい」と言っている人がいるけど、そういうんじゃない。大人たちは、若者を潰そうだなんて思ってない。愛情がある。大人も若者もみんな、好き勝手に生きている。少なくとも、この連載で話を聞いてきた大人たちはみんなそうだった。
 「その年で何も知らないってのは罪だよ」。土屋敏男さんにインタビューしたとき、ポツっと言われた。「何も分からない」ということを半ば武器にして、大人たちに話を聞いてきた身にはかなりショックな言葉だった。でも、今の俺には聞くことしかできない。聞けば、人は答えてくれる。俺がインタビューをやっていて、いちばん楽しいと思うところだ。
 何も知らないなら、聞きに行けばいい。そう思いながら、これからもどんどん聞いて行きたい。
 あ、5月からは「世の中、これでいいんですか?〜ゆとりの社会学習」というタイトルで新連載が始まる予定ですので、よろしくお願いします。よかったらコメント欄に感想などいただけるとうれしいです。もう逃げません……(多分)。

『プリキュア シンドローム!』
加藤レイズナ/幻冬舎
 2004年にスタートしたアニメ「ふたりはプリキュア」。年数を重ねるにつれ巨大コンテンツに成長していく「プリキュア」シリーズ。本作はそのなかでも、シリーズ4、5作目の「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」に注目。「シリーズの転換点」を合い言葉に、プロデューサー・鷲尾天の他、監督、キャラクターデザイン、作画、演出、美術、音楽、声優、歌手、漫画家、映画版監督、おもちゃ会社バンダイまで、「プリキュア5」に関わったクリエイターたち25人に密着。インタビュー200時間超! 592ページの超大作。 キャラクターデザイン川村敏江さんの描き下ろし装画のほかにポストカード3枚つき!ほかにも、「プリキュア」はここから生まれた伝説の「鷲尾ノート」。企画段階のコンテ、キャラクターの設定案、おもちゃのアイデア画像など盛りだくさん。そして「プリキュア5」のもとになった、あの作品とはいったい……!? ひとつのアニメ作品ができるまで、これだけの時間と労力をかけるのか。「ものをつくる」ということが「プリキュア5」を通して、いろいろな角度から描かれています。
(構成・文/加藤レイズナ 企画/アライユキコ)
加藤レイズナ(かとう・れいずな)
1987年生、フリーライター。「 エキサイトレビュー」レギュラーライター。webマガジン幻冬舎「お前の目玉は節穴かseason2」連載。「プリキュアぴあ」(ぴあ)に参加。NHK-BS2NHK-BS2「MAG・ネット」プリキュアシリーズ特集に出演。初の著書となる「プリキュア5」インタビュー本『プリキュア シンドローム!』(幻冬舎)が2012年3月9日に発売。(著者撮影:市村岬)

ブログ レイズナブログ
twitter http://twitter.com/kato_reizuna


皆様からお寄せいただいたご意見(6件)
1. 「未熟」と言うか、『成長の余白がある』と言うのが感じられて、面白かったです♪

個人的には、特撮マニアなんで、プリキュアとスーパー戦隊の相似と差別化での記事を今後は期待してみたいです。最初期のプリキュアは、1号、2号ライダーのWライダーからの影響っぽく思えるのですが、その後のプリキュアは集団ヒーローモノとしてスーパー戦隊の影響が出ていると捉えてます。特撮とアニメの違いはありますが、比較した評論って少ないので。 (赤彗星) (2012年04月23日 11:11)
2. 知らないっていうのはまた謙遜で実際は知ってるはずです。
まぁ私も年齢変わらないですが、ほぼ虚勢はって生きています(笑)
だって全ての事なんてわかるわけないんですから、他のオトナの人も同じですよ。分かる範囲で答えているだけです。知らないことがあって当たり前。

だから次の連載からは「自分はこう思う」って主張を少しずつ混ぜていくと、今回の連載以上にいいものになるんじゃないでしょうか。
同世代、私のほうが年上ですけど期待してます。 (2012年04月23日 08:38)

1. おつかれさまでした。
大変、面白かったです。

大人は「潰そうとは思っていない。愛情がある」けれども、
「好き勝手にやっている」から、
結果的に

若者が潰れてしまっている。
のが、悲劇なんだなと思いました。 (いいじま) (2012年04月21日 22:37)
2. 気張らずに、でもしっかりとわかっていける文章って、少ないと思います。
やわらかな姿勢で入っていけて、そしてたくさん、はっとしています。

新連載も、楽しみです。 (スイ) (2012年04月21日 00:40)
3. おつかれさまでした。
「何も知らないインタビュアー」が手探り状態で大人たちの話を聞きに行く、という設定がおもしろくて、ずっと楽しみに読んでました。
自分が知らないことでも、プライドが邪魔して素直に聞けない人も多いので、素直に聞けば(呆れられたとしても)答えは返ってくる、という実例を示したのはすごいと思います。おもしろかったです。

新連載も楽しみです。これからも好きなことをぜひ続けてください。 (kalt) (2012年04月21日 00:12)
4. 若い世代の目線で、読んでいてとても面白いです。
自分自身もそんなに歳がかわらないので、腑に落ちる事が多々あります。

新連載も楽しみにしています。 (きんとき) (2012年04月20日 14:47)
 

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