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 Q: 政府は経済成長にどの程度、どんな方法で関与できるか
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/850.html
投稿者 MR 日時 2012 年 5 月 05 日 12:06:28: cT5Wxjlo3Xe3.
 

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

   Q: 政府は経済成長にどの程度、どんな方法で関与できるか


   ◇回答
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授


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       ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:1258への回答、ありがとうございました。わたしがインタビュアーをつと
める『カンブリア宮殿』では、先週オンエアされたスターバックスのハワード・シュ
ルツ氏に続いて、アマゾン・コム会長兼CEO、ジェフ・ベゾス氏をゲストに迎えて、
先日収録を行いました。

 言うまでもなくアマゾン・コムは世界最大の書店であり、株式の時価総額はトヨタ
とほぼ同じで、キンドルという端末を擁し、電子書籍を巡る攻防戦でも先頭を走って
います。そのリーダーであるベゾス氏は、本国でもほとんどメディアに登場せず、ベ
ールに包まれた人物らしいのですが、実際に会ってみると、どんな質問にも積極的に
ていねいに答えてくれるナイスガイでした。

 ベゾス氏の資料を読んでいて気づくのは、これはスターバックスのハワード・シュ
ルツ氏とも共通していますが、正統性と冒険心が混在して、それが独特のダイナミズ
ムを生んでいるということです。アマゾン・コムは、シアトルのベゾス氏のガレージ
で、4人で創業されましたが、あっという間に巨大企業に変貌しました。

 アメリカのベンチャー企業が急成長するとき、人材の獲得において、日本の経営モ
デルからすると信じがたいような、ヘッドハンティングの嵐が吹き荒れます。それは
「柔軟な労働市場」というような表現ではなかなか理解できません。優秀な狩人の群
れが、疾風のように移動していくのを見るかのようです。

 アマゾン・コムは、ネット書店からスタートして、徐々に商品を増やし、倉庫を造
り、独自の流通を整備し、次々に他企業を買収して、巨大化・複雑化しています。つ
まり、何千という支流があり、圧倒的に多様な生態系を抱えている本物のアマゾン川
のような様相を見せつつあります。でもわたしは、ベゾス氏の資料を読み、ご本人と
話すうちに、ある確信を得ました。アマゾン・コムの戦略の核には、これもスター
バックスと同じですが、「顧客へのサービスを徹底的に最優先する」というサービス
業における「基本中の基本」があるような気がしました。

 ジェフ・ベゾス氏がゲストの『カンブリア宮殿』は、5月末のオンエアです。キン
ドルの日本上陸についても、淡々と語ってくれました。
 
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■今回の質問【Q:1259(番外編8)】

 政府はよく「成長戦略」という言葉を使います。日本政府は、日本経済の成長に、
どの程度、またどのような方法で、関与できると考えればいいのでしょうか。

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                                  村上龍
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

「わが国の成長戦略」

 政府が直接、民間部門に関与することは必ずしも適切ではないでしょう。その証拠
に、公的部門が関与して、最終的に成功をおさめたケースはあまりありません。基本
的に、民間企業が持つアニマルスピリッツが必要になるのだと思います。一方、成長
戦略として、具体的に政府ができることは主に三つあると思います。

 一つは、政府が、「経済を成長させる」という明確な意思を示すことです。「経済
を成長させて、国民が享受できるパイを増やす」という認識を、国全体のコンセンサ
スにすることはかなり重要です。多くの国民がそうした認識を持つことによって、国
全体が同じ方向に向かって進むことができるはずです。

 現在の民主党政権は、経済全体のパイを増やすよりも、むしろ、そのパイをいかに
分配するかに政策運営の主眼が置かれてきたと思います。その背景には、民主党の主
要支持者の中に労働組合があることが一つの要因になっているのでしょう。もちろん、
国全体で獲得したパイを、いかに公平・効率的に分配するかは重要であることに異論
はありませんが、それと同時に、パイ自体を増やすことを考えるべきです。政府が、
そうした政策意図を鮮明化すれば、わが国社会全体の雰囲気も変化すると思います。

 二つ目は、経済成長を望めるような経済環境を整えることです。実際に経済を成長
させるのは、国自身ではなく民間企業です。ということは、民間企業が、その活力を
発揮しやすいような環境を整備することが必要です。わが国の企業は、よく六重苦を
抱えていると言われていました。六重苦とは、1.高い法人税率、2.労働規制、3.円高、
4.環境制約、5.電力供給の不安、6.貿易自由化の遅れ、を指すことが多いようです。

 これらの条件の中には、必ずしも政府が独力で解決できない要素もあります。しか
し、少なくとも、政府が、「わが国の経済を強くして、経済を成長させよう」という
姿勢を明確にすると、相応の道筋が見えてくる条件もあります。それを政府が本気で
実行するか否かが重要なポイントになるはずです。

 例えば、企業に対する法人税負担に関しては、基本的に、主要国では税負担を軽減
して、民間企業を強くする姿勢が明確になっています。そのため、わが国企業の税負
担は、世界最高水準で止まったままになっています。あるいは、労働市場に関しても、
信用不安が危惧されている欧州諸国の中には、イタリアなどの様にかなり思い切った
労働市場の改革を行い、経済全体の効率化を図ろうとしている国もあります。そうし
た意味からも、政府の経済環境整備は重要だと思います。

 そして最後は、社会制度などの改革を行うことです。国の制度の中には、昔に作ら
れたまま残っていて、その後の環境変化に対応できない古い仕組みや制度があります。
そうした仕組みや制度を変えて、現在、あるいは将来の社会に適合する仕組みを作る
ことは重要なことです。それは、イノベーションという言葉で呼ばれます。

 特定の社会や社会を取り巻く環境は常に変化するわけですから、理論上、制度や仕
組みは常に改革することが必要になるはずです。それができないと、社会全体の効率
性が低下してモメンタムを失い、経済全体が衰退することが想定されます。特に、わ
が国は、戦後の"20世紀の奇跡"といわれるほどの高成長を享受しましたが、90
年代初頭のバブル崩壊以降、社会を変革することを怠ってきたように思います。

 イノベーションとは、特別に難しいことではないでしょう。例えば、自分の部屋の
中に書類がたまり、「いつか片付ければよい」と思っている間に、足の踏み場さえな
くなってしまいました。それを一念発起して片づけるという行動がまさにイノベー
ションです。イノベーションを、政府が率先して行う姿勢を示すことには大きな意味
があると思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家

 「成長戦略」という場合にいちばんイメージしやすいのは、特定の産業の成長を後
押しするような産業政策ではないでしょうか。しかしこれに関して私は、実効性が疑
わしいと思っています。

 産業政策はいわゆる「高付加価値」の、将来性のある産業を経産省など政府が見出
し、明日の基幹産業として育て上げるものです。明治時代の富国強兵・殖産興業もこ
れに近いもので、日本の産業化に一定の成果を挙げたと言えます。しかし、戦後のあ
る時期からは目立った成功例がありません。

 それもそのはずで、将来性のある産業を「官」が見出し育成するということは、
「官」の方が「民」よりも優れた情報なり見識を持っていることを前提にしているわ
けです。この前提がもう成立しなくなったからです。明治時代であれば、高級官僚は
官費で海外留学し、欧米の現地の情報を取り入れることで、次の時代の産業のあり方
について民間では得られない知識を持っていました。ですから、製鉄所や製糸工場の
整備、鉄道の敷設、官僚出身の渋沢栄一による様々な産業・企業の創設など、「官」
が民間をリードするのは当然のことでした。

 いまは全く違います。どのような産業についてであっても、政府がそのような圧倒
的な知識や見識を持っていると考えるのは非現実的です。ことに創造性が求められる
ハイテクやITの分野で「官」に期待するのは全く馬鹿げています。スティーブ・ジョ
ブスやマーク・ザッカーバーグのような人物を考えてみればわかります。独立心の強
い彼らが政府の指導を仰ぐことなどあるわけがありません。日本でもいまどき、政府
の指導のもと繁栄している産業など、ないのです。日本人は「官」への依存心が強い
ので、この期に及んでも政府に産業の育成ができると思う人は多いのですが、それは
幻想であることに早く気づいた方がいいと思います。

 それでは政府は経済成長にどのような形で関与するのでしょうか。経済成長は、三
つの部分に分けられます。投下される資本の増加、労働量の増加、そして人的資本の
増加です。

 労働者一人当たりに投下される資本が増えれば生産性は上がります。それだけ充実
した設備のもとで働くことになるからです。設備投資などを促進するために政府にで
きることとしては、金利を下げることであり、財政を再建することも(本来であれば)
金利を下げる効果があります。ただ、十分市場金利が低いにも関わらず、投資が一向
に振るわない現状では、この点については打つ手がないようにも感じます。(だから
インフレターゲットでデフレ脱却だ、ということならば話は別ですが、私はこれまで
何度か書いたように、政策でデフレを脱却するのは難しいという立場です)

 労働量の増加とは単純な労働者・労働時間の増加ですが、人口の減少・高齢化など
でブレーキがかかっている状況で、これも政策でできることは多くありません。

 人的資本、これは労働者の教育や技術のことです。教育は国が基本的な責任を負っ
ていますので、政府ができることは多いと思います。まずは教育の格差を是正し、貧
困家庭の子供にもしっかりした教育を受けられるように手当をすることです。現状を
放置すると、将来の労働者の質が下がるという形で日本経済の成長に悪影響が出る可
能性があります。さらに科学技術の振興のため、基礎研究から応用まで十分な投資を
すべきだと思います。結局、国が経済成長のためにできる一番大きな貢献は、教育レ
ベル・科学技術レベルの維持と向上なのです。

 それに比べればはるかに短期的な問題ですが、産業のためのインフラ整備、規制の
緩和や電力や通信分野などでの独占の制限も重要だと思います。一言で言えば民間の
創意をいかに邪魔しないか、ということであり、様々な分野での新規参入を促し、優
れたアイディアが正当に報われるような舞台づくりをする、ということです。海外か
らの人材と投資の受け入れをそれに加えてもいいかもしれません。

 政府は経済成長の主人公ではありません。成長を成し遂げるのは民間です。ただ、
政府にはそのための舞台を整え、国民の教育レベルを保つという形で、成長をバック
アップする重要な仕事が残されているのです。

                     日本語学校教師、評論家:水牛健太郎

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■ 中島精也 :伊藤忠商事チーフエコノミスト

経済成長における政府の役割とは、経済成長の原動力である民間企業が自由闊達に経
済活動を展開できるように、効率的な予算配分、成長重視の税制というチャネルを通
じて、或いは経済や社会の制度改革というチャネルを通じて、経済成長に貢献するこ
とだと思われます。政府の貢献が小さければ、民間活力が発揮されず、経済が刺激さ
れないわけですから、成長における政府の役割は極めて重要であると言えます。

経済成長率は労働力、資本ストック、全要素生産性のそれぞれの伸びで決まります。
日本のケースでは人口減少社会に突入ですから、生産性をいかに高めるかが成長の鍵
であり、成長戦略もその視点から論じなければなりません。生産性を上げるにはイノ
ベーションが不可欠です。特に成長戦略における政府の役割を考える際には、狭義の
イノベーションである技術革新だけでなく、人材イノベーション、そして、社会イノ
ベーションという広義のイノベーションが大切になってきます。

技術革新に関しては個々の企業の研究開発努力が軸となりますが、各国とも技術競争
に血眼になっており、各国政府も企業を側面援助すべく研究開発予算を計上していま
す。しかし、欧米諸国が研究費総額の30%程度負担しているのに対して、日本は
20%以下とダントツで低いのが実情です。その分、民間企業の負担が増し、競争上
不利ということになります。技術は資源のない日本の生命線ですから科学技術予算は
各国並みの負担となるように増やすべきでしょう。

人材イノベーションについては、上記の技術革新を生み出すのも所詮、人ですから、
個々人の努力は当然ですが、政府として教育制度を充実させて、より良き人材を育て
るという地道な努力が求められます。OECD調査によれば高等教育に対する各国の
財政支出は欧米がGDP比1%程度であるのに対し、日本はわずか0.5%しかありま
せん。お寒い限りです。これもせめて欧米並みに増やすことが必要でしょう。あと、
大学側も国際化にあわせて大学の質の向上のために9月入学を検討する事例が見られ
ますが、外国大学との単位相互承認など、大学改革ではまだまだやるべきことが山積
しています。政府はこれら教育改革を主導する重要な役割をはたしてもらわなければ
いけません。

社会イノベーションは時間の経過と共に制度疲労が限界に達し、時代の要請に答えら
れなくなった経済社会の様々な制度改革を実施することを通じて人材や技術の水準
アップを経済力向上に直結させることです。1つは保健、医療、農業、電力、運輸な
どの規制緩和を実行することで新規ビジネスの創出、企業の新規参入を呼び込むこと
が可能となります。第2は「局あって省なし、省あって国なし」と揶揄される狭い権
益優先の非効率的な行政システムが成長の障害になっていることが以前から指摘され
てきました。この弊害を根絶するためにも、地方分権改革とセットにした行政改革は
極めて重要な課題です。

構造改革が成長刺激に直結した事例を世界に求めると、ほぼ10年ほど前にコスト高で
競争力の低下に直面したドイツがシュレーダー政権のもとで労働市場改革、社会保障
制度改革を軸とした「アジェンダ2010」という構造改革を実行したことを上げる
ことができます。強い解雇規制など硬直的だった労働市場の柔軟化に取り組んだ結果、
10年後のいま、ドイツ経済は欧州で一人勝ちと言われるほどの強い経済体質を作り上
げるのに成功しました。シュレーダー首相の強い政治的意志がなければ、今日のドイ
ツ経済はなかったでしょう。これは政府が経済成長に大きく関与することを如実に示
した事例であり、構造改革が道半ばで頓挫した我が国も、ドイツに見習い、構造改革
に再チャレンジして成長促進に邁進すべきでしょう。

                   伊藤忠商事チーフエコノミスト:中島精也

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■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

最近、政府に対して、よく「成長戦略」という言葉が使われます。言い換えると、以
前は、政府に対して「成長戦略」という言葉をあまり使いませんでした。実際「政府」
と「成長戦略という二つの言葉を含む記事数が増えたのは2006年以降です。20
00年から2005年までの6年間をみると、年平均の記事数は15件です。それが、
2006年は1年で153件と10倍に増えました。2010年は1030件です。

政府を対象にした「成長戦略」という言葉の歴史は、このように古くはありません。
この言葉を流行らせたのは、おそらく自民党の中川秀直氏です。2005年10月に
自民党の政調会長に就任した中川秀直氏は、2006年1月にダボスで開かれている
世界経済フォーラム年次総会に参加し、「名目成長率4?5%を目標とする自民党の
中期的な成長戦略をまとめる方針を明らかに」(2006年1月28日付日本経済新
聞)しました。中川氏の成長戦略と言えば、「上げ潮」路線です。当時の彼の政策は
「上げ潮の時代」(講談社)という本に纏められ、2006年10月に出版されてお
ります。

一方、「成長戦略」の流行に反比例するように使われなくなったのは「景気対策」と
いう言葉です。「景気対策」を含む記事数は、1990年前半には4845件、同後
半には4849件を数えましたが、200年前半には2127に半減しました。リー
マンショック後の2009年に1946件と「景気対策」は復活しましたが、前述の
ように翌年2010年には成長戦略の1030件にとって代わられました。この年の
景気対策は595件です。

「景気対策」を繰り返しても、持続的な成長が実現できないなか、「景気対策」とい
う言葉には、「場当たり的」というネガティブなニュアンスがついてしまったのでし
ょう。一方、「成長戦略」という言葉には、今のところまだポジティブなイメージが
ついているようです。したがって、この言葉を使うだけで、何か良いことを言ってい
るような気分になるのかもしれません。似たように、ポジティブなニュアンスをもつ
言葉には、例えば「志」や「コミュニティ」などがあります。一方、「成長戦略がな
い」と言えば、それだけで政策批判になります。

さて、成長戦略で語られる政策は、相変わらず規制緩和や自由化、あるいは法人税減
税といった企業寄りの経済政策です。したがって、「国民の生活が第一」を標榜して
民主党が政権を握りそうになると、一気に民主党批判、鳩山政権批判が「成長戦略が
ない」という格好で吹き出しました。「成長戦略」というと聞こえは良いのですが、
早い話が、「民主党は企業よりではない」という批判です。

そのころ、「自民と民主は成長戦略の具体策で競え」(2009年8月2日)と訴え
ていたのは日本経済新聞です。「民主党の政権公約には、成長戦略の項目すらない」
と批判していました。では、何をすればよいのかと言えば、「企業が利益を上げ、新
規採用を増やせるような経済成長の環境をどう整えるのかという政策が重要になる」
と。「成長戦略 本格回復の展望が見えない」(2009年8月24日)と嘆いてい
たのは読売新聞です。民主党に対しては、「成長率などで具体的な目標を掲げなかっ
た。・・・政権を担うなら、明示すべきだ」と注文をつけておりました。

「成長戦略 縦割りのリセットを」(2009年8月26日)と提言していたのは毎
日新聞です。「優れた技術が日本には数多くあるにも拘らず、要素技術の段階にとど
まっている」のは、「縦割り行政にも原因がある」。 従って、「業界と結びついた
縦割りの仕組みをリセットすることも、日本の成長戦略にとって大きな課題」とのこ
とでした。

こうした記事を書いている人たちは、心から日本経済の成長を願っておられるかもし
れませんが、2009年以降、一段と増えた「成長戦略」を求める議論は、成長とは
いうものの実際はパイを大きくするような話ではなく、企業への分配を増やせという
パイの切り分け方の議論になっている面もあるように思います。

多くの方が、当たり前のように使っておりますが、その割には定義があいまいで、内
容空疎な言葉としては、ほかには「構造改革」もそうでしょう。私は、市場の解釈に
おいて数々の間違いをしておりますが、一つ守っているのは、「成長戦略」や「構造
改革」という言葉を、自分の主張としては使わないということです。ちなみに、経済
成長に向けての私の主張は、企業金融への理解を深め、ガバナンスを機能させること
です。特に、株主資本コストの水準についての議論を深める必要があると考えており
ます。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
 
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 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長


「邪魔しない」

 企業の成長戦略の中にも、実効性の高そうなものと、まったく言っているだけに聞
こえてしまうものとがあります。たとえばアジア地域に全面的に事業展開しようとし
た場合一つとってもいろいろです。ある企業Aは今からアジアを重点地域と定めてや
ろうと説明し、別の企業Bはアジア地域で根付いているローカル企業と提携して事業
展開することを発表したとします。どちらがうまくやれるでしょうか。

 クレジットアナリストが企業を見るとき、その信用力の判断に成長戦略はそれ程重
要なものではないですが、それでも、事業オペレーションで利益を創出できるかどう
かは、継続性を見る上では大事なポイントになります。もちろん、事業を海外で展開
しようというのは、リスキーと見るのが基本です。当該地域経済に符合したものが根
付く、海外のものでもブランド価値が高いものが根付く、わけですので、前述AとB
の説明だけで結論を読み込むのも無理な話と言えるでしょう。しかし、やっぱりどち
らの実効性が高いのかを考えれば、企業Bです。企業Bはリスクを排除するべく、ロ
ーカル企業と提携しながら、現地のニーズを取り込むことと販路を確保することを実
行したわけですから、アジア地域からの収益を確保できる可能性は高いと言えるでし
ょう。

 さて、ここまでの比喩でわかったことは、企業の成長戦略でさえ、実効性の度合い
にはばらつきがあるということです。収益をあげるために悪戦苦闘している企業でさ
え、成長戦略がうまく描けないことがあるのです。国に過剰に期待するのは酷かもし
れません。国が言う成長戦略というのも同じで、実効性の度合いにはばらつきがつき
ものである、というのは前提だと思ったほうがこちらの精神的にも楽です。政府や国
が成長戦略と言ったからといって、常に具体的な方策があるはずはありません。

 しかし、最近国が成長戦略というときには、あまりにも“スローガン”の連呼に聞
こえてなりません。方針や具体論が描けない希望的観測というと言い過ぎでしょうか。
財政再建か成長戦略か、という二者択一の際(本来二者択一という話ではなく、バラ
ンスの問題です。これをバランス良くやっていこうとしてこそ政府や国の価値が出て
きます。労働法改正という難題にぶつかっている割に、イタリアのモンティ首相が最
近支持率をあげているのは、このバランスを意識しているから、に他なりません)に
は、成長戦略の聞こえが圧倒的にいいのは間違いないところですので、どうしても、
財政再建とセットで成長戦略を口にしてしまうのでしょう。

 では成長戦略といってこれまで何が具体的に示されたのでしょうか。2010年6
月菅政権の際に、7つの分野として、1グリーン・イノベーションによる環境・エネ
ルギー大国戦略、2ライフ・イノベーションによる健康大国戦略、3アジア経済戦略、
4観光立国・地域活性化戦略、5科学・技術立国戦略、6雇用・人材戦略、7金融を
あげ、成長することを示していました。環境、介護、科学・技術、金融市場の成長な
ど、右肩上がりの成長がほぼ難しくなった我々が現時点で思いつくのはこの程度、と
いうものがきちんとリストアップされているように思えます。

 しかし、二年経って、何か成長したっけ?と頭をひねらざるをえません。雇用・人
材戦略といっても就業率をいくらまであげるといっているだけで、実際の雇用市場を
拡大する戦略にならなければ、あまり意味のないことに見えます。金融市場は、英文
開示を認め外国企業が日本で資金調達しやすくするというのですが、状況はまったく
変化していないのが現状です。

 ようは政府が描く成長戦略は、正しいリストアップをしているのですが、実効性を
伴うものになっているのか、あるいは本質的なポイントをついたものになっているの
かという点が欠けているということなのではないでしょうか。やはり、すべてのこと
は民間に任せるべきだと思います。民間は利益をあげるために日々頭をひねっていま
す。何をすれば収益につながるのかを考えることについては、国が頭の体操をしてい
るのとは真剣さも次元も違うと言わざるを得ません。

 では国が何をしなければならないか、ですが、大事なことがあります。「民間の邪
魔をしないこと」、です。何も新しいビジネスを生み出すことだけが成長戦略ではあ
りません。民間がやろうとしてできない場合、制度や枠組みがネックになっていない
のかを見て、政府が取り除けることなら取り除くということも一つの大事な成長戦略
だと思います。法人税をいい加減下げるべきというのもその一つですし、各企業の開
示義務の簡素化などもその一つでしょう(もっとも開示義務などは年を追うごとに厳
しくなっていると感じられますが)。独占禁止法などの見直しなどはしたほうがいい
のかもしれません。このところ、日本の電機セクターが苦境に立たされていますが、
それを横目にサムソンは大変元気です。独占禁止法などによって、規模の経済を追求
できない日本勢は、韓国勢に比較してハンディキャップが大きすぎます。円高につい
ての日本政府の動きの遅さを改めることや、電力政策の方向性を示すことなども、日
本政府が出来ることです。

 国が何か新しい成長戦略を考え出し、そこに民間を導こうとすると、またぞろ、援
助金という話になります。それ目当ての動きが出て、成長分野に広がりを見せないこ
ともままあることです。必要な予算をつけることもあるのでしょうが、それよりは、
民間の邪魔をしないこと、が重要です。今の日本は、各所に右肩上がりの成長がある
と信じた制度設計が放置されたままになっています。成熟した日本経済にはあわない
ものを変えていく役割は日本政府にあるはずです。

                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
「法人税の減税が正攻法だが、その前に金融政策でデフレを止める」

 政治家や官僚組織が、特定の消費・サービスの産業や企業を発見し育成するという
ことは、追いつき追い越せの殖産興業の時代ならともかく、成熟した資本主義国家の
現在の日本では非常に困難です。政府にできることを考えてみます。

 政府の経済活動の本質を、公共財や公共事業の支出や所得の再分配であるとすると、
この経路を通じた成長戦略はありえるでしょう。

 たとえば、老人人口が拡大する日本では、福祉や医療に金をつけてやれば潜在需要
が有効需要となることは明白ですが、財政赤字をにらんだバランス調整は政治システ
ムを通じた政府にしか出来ないことです。

 冒頭に政府による産業育成そのものは困難だと書きましたが、政府は都市計画など
を通じた産業立地政策やインフラ整備を通じて、一定地域の産業の方向性をきめるこ
とは可能でしょう。たとえば観光産業を発展させると決めるならば、そのためのイン
フラや公共サービスの整備は、地方政府がやることになるでしょう。

 公共財としての性格を持ったエネルギーなどの重厚長大産業については、政府の規
制が大きな影響力を持ちます。エネルギーコストは日本産業に共通するコストで全体
成長に影響をあたえるとともに、電力使用の割合に応じて産業間に成長の差が出てく
ることでしょう。また、将来の発電方法の選択が発電・電力インフラ産業の盛衰を決
定することでしょう。エネルギー政策が原発依存か代替エネルギーかで、全体の成長
率あるいは企業間の勝敗に差が出ることはありそうな話です。

 また、政府は法人税の課税を通じて、企業に蓄積され再投資される金額を左右でき
ますので、法人税を下げることで拡大意欲のある企業の成長は確実に上昇することで
しょう。資本コストの引き下げを意味しますので、社会全体の投資は刺激され、企業
の対外競争力も強化されることでしょう。

 企業が成長を認識するのは、名目的な売り上げが上昇するときです。物価下落を考
慮した実質値で成長しているといっても全く意気があがりません。デフレ状態のまま
では、自治体が新規産業の振興を構想するとか、ベンチャービジネスの企画書を書く
といった作業そのものが困難になります。デフレ期待が蔓延しているということは、
投資リスクを負って新規の投資を行いたいという投資家に、現金でそのまま持ってい
たほうが良いと勧告しているようなものです。金融政策を動員して、せめて名目的な
成長を達成するのは政府の重要な仕事となってくるのかと思われます。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 津田栄   :経済評論家

「真の「成長戦略」とは、政府が関与しないこと」

 「成長戦略」は、最近になって言われる言葉です。それは、90年代バブル崩壊以
降経済が低迷し、回復する兆しが見られなかったからです。その後も経済が伸び悩ん
で一向に成長する道が見いだせず、しかも少子高齢化、人口減少の問題が経済の低迷
に一層拍車をかけるのではという恐れが広がるなかで、日本経済を成長させる方法は
何か、今、この成長戦略が、最近政治における大きな問題になりつつあります。

 しかし、成長戦略は、マクロ的には難しいことではありません。成長戦略は、潜在
成長率をいかに上げるか、そしてそれをどのように持続可能にしていくかが目標です。
経済成長の三大要因として、労働投入、資本蓄積、技術進歩があります。そのうち、
労働投入は少子高齢化と人口減少により、今後大きく期待できません。そうすると、
重要になってくるのは資本蓄積と技術進歩ですが、貯蓄の頭打ち、需要の伸び悩みな
どで設備投資が停滞する中では、技術進歩が経済成長において最も重要になってきま
す。つまり、技術進歩によって、生産性が上昇し、潜在成長率が上がることになるは
ずです。

 それでは、技術進歩をいかに進めるかですが、それは、イノベーションを起こすこ
とです。すなわち、技術革新による生産などにおける効率の向上、新製品や新商品、
あるいは新サービスの開発、企業経営の効率化、流通その他の経済システムの効率化
などの改革、そして教育水準の向上による労働の質の改善などです。

 そのイノベーションを起こすにはどうすればいいかというと、競争する環境を整え
ることです。つまり、個人や企業など民間が競争を通じて活発な経済活動を行う環境
を整えることです。そして、それは、これまでの言われてきた構造改革を行うことで
す。これまで日本経済が成長できなかったのは、時代遅れの経済構造を持っていてイ
ノベーションを起こせなくなったために、経済のグローバル化に対応できなかったか
らです。

 それでは、イノベーションを起こすための構造改革は大変かというと、それほどで
もありません。その中心は、規制の緩和や廃止などの規制改革であり、そして(可能
であれば)減税を含めた税制改革です。そうすることによって、個人や企業が、競争
して成長する産業や市場を生みだし、生産性を上昇させ、それが需要を創造して、経
済を活性化し、成長につながっていくのです。

 その点で、成長戦略は難しい政策ではないのですが、問題はそれを実行するのが難
しいことなのです。というのは、それを実行すると既得権益を失う勢力がいて抵抗す
るからです。その最大の抵抗勢力が政府です。成長の主役は、民間であって、政府で
はありません。本来、「成長戦略」を言う場合、民間をいかに自由に経済活動させる
か、いかに政府が民間の経済活動に関与しないかということです。

 しかし、そうした成長戦略として規制改革や税制改革を行うと、官僚が民間に関与
する割合が減って、権限やそこから得られる既得権益を失うことになります。そうし
ないために、補助金や規制を設けて特定の産業を育成しようとして政府の関与を続け
る、あるいは強めるのが、政府が言う「成長戦略」であって、おかしい話です。そう
いう補助金をつけたり、規制を設けて特定の産業を育成しようというのは成長戦略で
はなく、古い途上国型の産業政策であって、その結果として競争が制限され、国際競
争力が伸びず、生産性が低下して、イノベーションを起こさないことになります。そ
の典型が農業でしょう。

 今政府が言っている「成長戦略」は、補助金をつけたり、規制を設けることで、競
争を阻害して、イノベーションを抑制する一方、政府の仕事が増え、その分財源が必
要となり、増税して、大きな政府に向かうものであり、それは、極端なことを言えば、
日本を衰退させる政策といえましょう。そして、それが分からない政治家が、自ら既
得権益者であるため、なぜ日本が成長できないのか理解できないまま、官僚の政策を
採用していることに、日本経済の長期低迷の問題の深刻さがあります。

 したがって、成長戦略は、規制を緩和・廃止して、労働や資本などが自由に、かつ
スピーディに必要な成長市場に移転でき、新しい成長市場を創造させるようなイノベ
ーションを起こす環境を作ることであり、そのために政府が経済や産業などに口を出
さないことといえます。すなわち、真の「成長戦略」は、経済に対して政府の関与を
できるだけ減らして政府の役割を小さくすること、すなわち小さな政府にすることで
す。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

「政府が経済成長率を制御することはできない」

2009年の政権交代前後で、自公連立政権も、民主党政権も、ともに政府として
「成長戦略」を策定しました。幸か不幸か、この両者の「成長戦略」は、よく似てお
り、政府周辺で出せる知恵があるとすれば、こうしたものが出るのかなというものは
出ています。

しかし、政府が、民間よりも、詳細にどの産業が成長分野であるかを見極められるは
ずはありません。政府にできることは、経済成長を阻害する要因を除去することです。
このことは確かに重要で、法人税減税、規制緩和など、企業活動の制約を取り除くこ
とで、我が国の経済成長を落ち込ませないようにする一助にはなるでしょう。

とはいえ、政府が経済成長率をコントロールできるはずはありません。政府が、(願
望も含めて)経済成長率の「目標」めいたものを設けることは(あまり意義がないと
はいえ)あったとしても、その「目標」が実現できるか否かは、ある意味で「運任
せ」と言わざるを得ません。仮に「目標」が達成できたとしても、政府が施した政策
によるものなのか、同じ時期に日本経済にとって好条件が現出したからなのか、容易
に峻別できるはずがありません。もちろん、時の政権は、自らの政策によって成長率
が高まったと喧伝するかもしれませんが、それはしょせんプロパガンダの域を出ない
ものです。もちろん、「目標」を達成できなかったからと言って、すべてが政府のせ
いといえるものでもありません。

ただ、ケインズ政策の印象が人々の心の中に刷り込まれてしまった今日、経済成長率
が低下すれば政府の不作為のせいとみる向きがあるのも事実です。それは日本だけに
とどまらず、4月22日に投票が行われたフランス大統領選挙でも、目下失業率が
10%に達していることについて、現職のサルコジ大統領を責める向きがありますが、
これもそうした人々の印象によるところが大きいと考えます。

そろそろ、我々は、政府が、経済成長率を上げたり下げたりするような影響力を持っ
ていないという認識をしっかり持つべき時期に来ていると考えます。もちろん、でき
もしないことを政治家は掲げるべきではないのですが、有権者も政府の能力には限界
があることを知り、政府に過剰な期待を持たないようにする良心も持つべきだと思い
ます。

だからといって、私は、経済成長を促す必要がないといいたいわけではありません。
私の認識を、強く裏付けているのは、ベンジャミン・M・フリードマン著『経済成長
とモラル』(東洋経済新報社)です。この書では、先進民主主義諸国の歴史をたどり
ながら、経済成長が国民の生活水準の向上をもたらすと、タイム・ラグを伴いつつも、
経済的・社会的な立場の向上に関する機会の開放性、多様な利害を持つグループの社
会内への受容、貧者に対する気前良さや公平性への指向、デモクラシーの重視といっ
た社会的道徳心の向上につながることを示しています。また、この書の中で、成長し
ている社会とそうでない社会を対比し、所得と生活水準が長く停滞すれば、経済的な
向上感を失い、進歩がしばらくすると再開されるだろうという信頼感をも喪失してし
まい、さらには他人に対しても不寛容となり、政治における論争の礼節が失われるこ
とを明らかにしています。この書で示した「経済成長が社会的道徳心の向上につなが
る」という現象からみても、経済成長が重要であると考えます。

その観点からも、政府が、政策によって経済成長を促進できることには限界があるが、
経済成長を阻害しないようにすることはまだ色々と策は残っている、という認識のも
とに政府の役割を再検討する必要があるように思います。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 < http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >
 
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