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電気自動車は破壊的イノベーションを起こせるか? 中国・山東省の「低速EV」の衝撃
http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/889.html
投稿者 MR 日時 2012 年 5 月 08 日 18:45:32: cT5Wxjlo3Xe3.
 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35120
日本半導体・敗戦から復興へ
電気自動車は破壊的イノベーションを起こせるか? 中国・山東省の「低速EV」の衝撃
2012.05.08(火) 湯之上 隆  

「EV、EVって騒ぐけど、電気自動車のどこが破壊的技術なのか?」
 ある方から、このような問いかけを受けた。確かに、現在クルマ産業界が開発しているEVは、ガソリンエンジン車の延長線上にある。CO2は出さないかもしれないが、移動手段および運搬手段としては動力装置が換わるだけであり、何ら破壊的ではない(ただし、エンジン部品や材料を供給している下請けメーカーにとっては、EV普及によりビジネスがなくなるという意味では破壊的である)。
 現状では、リチウムイオン電池が高く、重く、1回の充電で走れる距離が十分でないため、ガソリンエンジン車並みの性能も価格も実現できそうもない。クルマを利用する側の立場からすると、環境に優しいこと以外は、良いことは何もないように思える。
 果たしてそうだろうか? 本稿では、EVが破壊的イノベーションを起こす可能性について考察する。
「ローエンド型」「新市場型」という2種類の破壊的イノベーション
 まず、破壊的イノベーションには2つのタイプがあることから話を始めたい。
図1 持続的イノベーションと2種類の破壊的イノベーション
 ハーバード大学ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンは、『イノベーションのジレンマ』(2001年、翔泳社)にて、ハードディスクドライブ(HDD)の歴史などを詳細に調べることにより、イノベーションには「持続的イノベーション」および「破壊的イノベーション」の2種類が存在することを示した。
 続いてクリステンセンは、『イノベーションへの解』(2003年、翔泳社)および『明日は誰のものか イノベーションの最終解』(2005年、ランダムハウス講談社)で、「破壊的イノベーション」にはさらに2つのタイプが存在することを示している(図1)。
 まず、既存市場に、より高性能・高品質な製品を投入する「持続的イノベーション」があるとする。伝統的な大企業がこの戦略を採用し、高いシェアを獲得する。
次に、同一の市場において、低コストのビジネスモデルでローエンドユーザーを攻略する「ローエンド型破壊的イノベーション」(1つ目の破壊的イノベーション)が起きる場合がある。ローエンド型破壊に対応できない企業はシェアを落とすことになる。
 さらに、まったく異なる性能尺度で、これまで消費者ではなかった人々を消費者に取り込む「新市場型破壊的イノベーション」(2つ目の破壊的イノベーション)が起きる。
 新市場型破壊は、既存の主流市場を侵略するのではない。これまでその市場には無関心だった無消費者をターゲットにする。したがって、既存の大企業は、破壊が最終段階に至るまで、まったく痛みを覚えず、脅威も感じない。しかし、気がついた時には、既存の主流市場が破壊され、パラダイムシフトが起こり、大企業が転落するというのである。
コンピューター業界の破壊的イノベーション
 「2種類の破壊的イノベーション」という視点から、コンピューターの世界を見てみよう(図2)。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/b/7/400/img_b77aa1e2a28afc9a744234395a8f904f55407.jpg
図2 コンピューター業界の破壊的イノベーション
 まず、IBMがメインフレーム市場を作り出し、世界市場を独占した。コンピューターが初めて世の中に登場した頃、IBM会長のトーマス・M・ワトソンは、「世界で、コンピューターの需要は5台ぐらいだと思う」と言った。また、メインフレームの次に登場したミニコンの時代に、DEC社長のケン・オルセンは、「個人が家庭にコンピューターを持つ理由など見当たらない」と断言した。
 ところが、1977年に、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックが、ガレージでアップルIIを作り、売り出したことから、パーソナルコンピューター(PC)の時代が幕を開けた。コンピューターのユーザーは、企業から個人へ移った。今まで無消費者だった個人が、PCの主流顧客となったのである。これは新市場型破壊と言っていいだろう。メインフレームメーカーの多くが撤退し、ミニコンメーカーはもはや1社も残っていない。
 2007年に、台湾のASUSTeKが、価格5万円の超低価格PC「Eee PC」を発売した。これは、既存の高性能PCに対するローエンド型破壊であった。Eee PCが端緒となった超低価格PCは「ネットブック」と呼ばれる。だが、ネットブックは爆発的なイノベーションを起こすことができず、線香花火的に終わってしまった。
 これは、ネットブックが従来型ノートPCの単純な小型化だったからだ。つまり、劇的に安いし、軽くて、持ち運びに便利だったが、PCの性能や使い勝手を犠牲にしてしまった。
 しかし、ネットブックの「安く、軽く、いつでも繋がる」思想は、次のステップへの布石となった。

ジョブズ率いるアップルがスマートフォン「iPhone」とタブレット端末「iPad」を発売した。これは、従来の高性能PCに対する新市場型破壊となった。PCが仕事のためのツールだとすれば、スマホやタブレットは、老若男女が何時でもどこでも、楽しみ、役に立つ、いわば生活のツールとなった。その結果、2011年には、販売台数において、スマホ+タブレットがPCを上回った。
 スマホとタブレットの普及により、最も慌てているのはインテルであろう。これまでプロセッサ市場において、世界シェア8割以上を独占してきたが、スマホやタブレットのプロセッサーには、全く食い込めていないからだ。
 今年になってやっと、モトローラやレノボと提携してモバイル用プロセッサーに参入することを発表し、「ウルトラブック」(という「Mac Book Air」の真似っこのようなもの)を作ったりしているが、明らかに出遅れてしまった。
 インテルがどうなるかは、今後も行く末を注目していきたい。話をクルマとEVに戻そう。
EV化による破壊的イノベーションの可能性はあるのか
 前述したように、破壊的イノベーションにはローエンド型破壊と新市場型破壊の2つタイプが存在する。EV化により、このどちらかが、クルマ産業に起きる可能性があるだろうか?
三菱自動車のEV「i-MiEV G」(写真:三菱自動車)
 例えば、三菱自動車工業が発売しているEV「i-MiEV」のGタイプは、価格380万円、車両重量1100キログラム、1回の充電による走行距離は180キロメートルである(「JC08」モード)。これと同型のガソリン車は、価格150万円以下、車両重量900キログラム程度、1回ガソリンを満タンにすれば恐らく300〜500キロメートル以上走行できるであろう。
 EVが高価で重い理由は、リチウムイオン電池が高く、重いことに原因がある。電池性能が飛躍的に向上し、劇的に価格が下がらない限り、イノベーションは起きそうもない。この現状を客観的に判断すれば、誰もがそう考えても不思議はない。

 日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、「2020年に世界新車販売台数9000万台の10%、EVが普及する」と最も強気な予測を発表している。これに対して、野村総合研究所は(補助金や税制優遇があれば)150万台、米J.D.Power and Associatesは130万台と予測している。現在の電池開発の状況からすると、この程度しか普及し得ないという予測になるのだろう。
 では、EV化による破壊的イノベーションの可能性なないのか?
 私の答えは、「ある!」だ。さらにそのイノベーションは、ローコスト型破壊であると同時に新市場型破壊であると思っている。その根拠を以下に示す。
中国・山東省で普及している低速EVの衝撃
 京都大学経済学部の塩地洋教授によれば、中国・山東省にはクルマ統計には現れてこない新たなカテゴリーの電動車が相当数、普及しているという(『中国自動車市場のボリュームゾーン』2011年、昭和堂)。それは、最高速度が時速50キロメートル程度であることから、「低速EV」と呼ばれている。
 低速EVは、高級なリチウムイオン電池ではなく鉛酸電池を使うことから、1回の充電で50〜100キロメートルしか走れない。乗り心地も悪く、安全対策も不十分である。しかし、ナンバープレートなし(届け出なし)、よって税金なし、免許も保険も必要なし。ランニングコストはガソリン車の10分の1。価格は10万〜50万円と激安である。
 山東省には低速EVを作る「スモールハンドレッド」と呼ばれる企業群があるという。年間数万台の生産能力があり、電気自転車を起点として、「2輪 → 3輪 → 4輪」「2人乗り → 3人乗り→ 4人乗り」「2輪車 → 農用車 → 乗用車」という流れで、低速EVを製造している。
 「スモールハンドレッド」は、安価に手に入る部品だけで、兎にも角にもEVを作ってしまったのである。
 前掲の『中国自動車市場のボリュームゾーン』によれば、「世界中の電気自動車がスタート時点にある現在、国情に合致する環境の中で自然発生し、『過剰要素を背負わない日常生活移動用車両』をコンセプトとする電気自動車の現物が目の前にあり、人びとが乗り回している光景が、『実在している現実』として確認できた」とある。

 そう、中国・山東省では、2輪車〜4輪車合計で、(正確な数値はではないが)1億台程度の電動車がすでに普及しているのである。この事実に、私は大きな衝撃を受けた。
日本で「コンビニカー」を走らせるには
 中国・山東省の低速EVは、日本クルマ産業が想定しているEVとは、まったく別の乗り物である。日本のクルマ関係者に言わせれば、このような低速EVは「クルマとは言えない代物」かもしれない。そもそも中国政府は、低速EVをクルマとして認めていないため、これが産業として発展するかどうかも分からない。
 しかし、中国・山東省の低速EVは、破壊的イノベーション創出の大きなヒントになる。前出の京大・塩地先生は、次のような「コンビニカー」を提唱している。
 (1)まず、航続距離が50キロメートルと短くても我慢する。すると、電池の数を減らすことができ、大幅にコストを削減できる。その結果、車両重量が軽くなり、電池効率が改善される。
 (2)次に、速度を30キロメートル以下に制限する。すると、衝突安全性の対策を軽減できる。その結果、やはり車両重量が軽くなり、電池効率が改善される。
図4 専用レーンの設計(出所:京大経済学部・塩地洋教授の発表資料より抜粋)
 このように航続距離と最高速度を制限したコンビニカー(低速EV)を、軽自動車の下の新たなカテゴリーとして設け、さらに、低速車両の免許が容易に取得できるようにする。ナンバープレート登録も別にする。税金は「消費税+低額の環境税」のみとする。保険料金も低額とする。そして、走行レーンを、人、低速車両、自動車と分離する(図4)、という提案である。
 このようにすれば、安価で、手軽で、安全で、環境にも優しいEVが可能になる。そして、ローエンド型破壊+新市場破壊的イノベーションを一挙に実現できるに違いない。
 その上で、コンビニカーという低速EVのグローバルスタンダードを、日本の企業と政府が一体となって、世界市場に売り込みをかけたらどうかと、京大・塩地先生は提唱しているのである。
 エルピーダが経営破綻した。ルネサスの苦戦も漏れ聞こえてくる。ソニー、パナソニック、シャープは3社合計で1兆7000億円もの損失を計上し、いずれも社長が交代した。日本の半導体と電機は大崩壊した。
 日本製造業のもう1つの柱であるクルマ産業がもし崩壊したら、日本という国自体が成り立たなくなるのではないか(昨年31年ぶりに貿易赤字に転落し、黒字化の見通しは立たない)。
 いつも、日本の技術は、韓国、台湾、そして中国に真似されてばかりである。そして苦境に陥っているのだ。低速EVは、中国初のアイデアかも知れないが、今回は、日本がやり返すチャンスである。日本発の破壊的イノベーション創出に期待したい。
湯之上隆有料メールマガジン 「内側から見た『半導体村』 −今まで書けなかった業界秘話」をイズメディア・モールで販売中。日本の半導体産業の復興を願う筆者が、「過去の歴史から学ぶ」材料として、半導体技術者として経験した全てを語る問題作。1月の連載開始以来、草創期のエルピーダに出向した著者だからこそ語れる「エルピーダ失敗の原因」を赤裸々に綴っています。5月10日配信号では、NEC組との対立の末、やむにやまれぬ思いでエルピーダを去った湯之上が、坂本幸雄社長の就任でV字回復を遂げたエルピーダに乗り込み、経営学の研究者として技術者ら12人にインタビューをした内容を明らかにします。メルマガは申し込み初月無料。申し込み月以前のバックナンバーは月単位で購入可能です。
 

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コメント
 
01. 2012年5月09日 05:06:36 : YbxisJSZgs
見栄や面子を重んじる中国人気質を考えると難しいね。耐久性に影響を与える道路状況も電気自動車の市場投入を難しくさせる一因だとか。それに、自動車に乗ると自然とスピードを求めるようになるし。要するに、電気ゴルフカートは以前からあったのに公道を走らせる国はいまだに無いということ。

考え方の問題で、街乗りならプリウスは発電式電気自動車。充電のみに頼るのか燃料電池も含めた発電式電気自動車なのか、欧米メーカーもどちらかと言うと後者にシフトしている様子。


02. 2012年5月09日 13:29:24 : sgolhP60mA
電動アシスト自転車の延長程度の低速EVなら日本でもあり得るかとも思う。
車体が軽いならリチウム電池は20万円くらいで済むのではないか?
一家に2台(小型と軽)の軽の代替。高速道路不可。でも時速50kmくらいでないとほかの邪魔か? 頑丈さ(安全性)の問題もある。

03. 2012年7月25日 11:30:34 : HxhcnNTppw
突っ張ることが男の〜タッたぁ一つの勲章だって〜この胸ぇ信じて生きて〜来た♪馬利!罵詈!夜露死苦ゥ!!

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