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【津山恵子の欧州最新ルポ】
ユーロ圏から離脱したくない！ 長い混乱に限界のギリシャ
2012年 5月 23日 8:51 JST
日本版コラムニストの津山恵子氏が先月末から約1カ月間、欧州を縦断取材。財政問題や金融不安に揺れる各国の市民生活の今、5年に一度の大統領選が行われたフランスの現地の様子など、最新事情をリポートする。
ユーロ圏で最も高い失業率を抱えるスペインから、ユーロ危機の中心となっているギリシャにやってきた。首都アテネの人々から聞く話は、スペインを上回る悲惨な状況だ。
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Keiko Tsuyama
テナントが入らず、落書きされたアテネ市内の物件
折しも、海の向こう米国では主要8カ国（G8）首脳会議（サミット）が開かれ、ギリシャ問題が取り上げられた。しかし、アテネからは首脳会議の映像は空虚にみえる。
「違う惑星でやっていることだね」と皮肉るのは建築士のジョルジュ氏。
G8の結果として、ウォール・ストリート・ジャーナル（WSJ）は、首脳宣言に「われわれはギリシャが公約を守りながらユーロ圏に残ることへの関心を確認する」という表現が盛り込まれたと伝えている（「欧州債務危機の処方箋で認識の違い浮き彫り」）。
フランスのオランド新大統領などは、ギリシャがユーロ圏にとどまるという強いメッセージを送りたかった。しかし、ドイツのメルケル首相は、ギリシャが公約つまり救済条件を守ることを重要視し、慎重な態度だった。このため、前述の奥歯にものがはさまったような首脳宣言の文言になったという。
翻って、ギリシャ市民は「Grexit（Greece とExit＝ユーロ離脱を掛け合わせた造語）」をどうとらえているのか。
「とんでもない、ユーロから離脱なんかしたくない、ドラクマ（ユーロ前のギリシャの通貨）なんてまっぴらだ。ユーロと欧州連合（EU）は僕らにとって『安定』を意味しているんだ」と語るのは、政府を批判して現在の職を失いたくないため匿名を希望する35歳の男性。
「自分の母親は預金を引き出して、海外の銀行に預けると言っていた。みんな同じようなことをしている」
メディアによれば、ギリシャ国民の70％以上が、ユーロ離脱はしたくないと考えている。価値が7割下落するとみられる「ドラクマ」に対する不信は強く、WSJによれば、5月13日だけで7億ユーロ（8億9000万ドル）もの預金が引き出された。クレディ・スイスは、市中銀行の預金残高が、ピーク時より30％も減っているという。
「私の預金はどうなるの」。英字紙に書いてあるGrexitの説明をすると、ペット用品店を営むマリアさんは手を振り回しながら、何度も繰り返したずねてきた。夫は失業中だ。
「ドラクマになっても、私の預金はユーロと同じ価値で引き継がれるんでしょうね。8歳の娘の将来がかかっているのよ」
5年目に入ったリセッション（景気後退）と緊縮財政の影響で、人々の生活は追い詰められる限界まできている。失業率は21.7％とスペイン（24.4％）よりやや低いが、若者だけでみれば約5割に跳ね上がる。たとえ、職に就いていたとしても、就業日・時間の大幅削減や賃金カットで、働いている気がしない上、いつクビになるかも分からない。若い人ばかりではなく、増税や年金の減額は高齢者の生活も直撃する。
生きていくためには何でもする。路上で、アコーディオンで同じ曲を繰り返し奏でて施しを求める赤ん坊連れの母親を見た。恐らく知っている曲が1曲だけなのだろう。スーパーマーケットの裏では、賞味期限切れの食品を求める老若男女がうろついている。アテネに到着した途端に財布をすられた観光客に2人会った。
「ギリシャ人は誇りが高く、スーパーの裏に集まったり、すりなんかする国民ではなかった。でも今はそういうことをする同僚を責められない」と前述の男性。
その鬱屈の水がコップからあふれるように、5月6日の選挙では、急進左翼連合（SYRIZA）の党首アレクシス・ツィプラス氏などへ有権者の支持が急速に高まった。ドイツのメルケル首相らが要求する緊縮財政を覆しつつもユーロ圏にはとどまる、という夢のような主張で人々の注目を集めている。アテネの英字紙アセンズ・ニューズは、急進左翼連合の政策に関する記事に「さらば、（EUとの）公約よ」という見出しを付けた。
「構造改革には時間がかかる。それを短期間でやれという公約には無理がある。人の国にやってきて、銃を突きつけて『財政を緊縮しろ、さもなくばみんなのたれ死んでしまえ』というようなものだ」と語る学生ティボー君（17）。
しかし、ここにフランス大統領選挙にみられたのと同じような（前々回コラム）、海外とギリシャ国内の人々との考えに乖離（かいり）がある。構造改革という課題は、借金を続けて来た同国政府の内政問題だが、対外的には、ユーロ圏にとどまるために財政の切り詰めを急がざるを得ない。ユーロを離脱すれば、ギリシャ経済はさらなる大混乱に陥る可能性が高い。G8は、首脳宣言の文言に歯切れの悪さはあるものの、そのことが再確認される場になった。
晴れ渡った青空の下、古代ギリシャの遺跡をそぞろ歩く多くの観光客はギリシャ危機とは無縁かのごとく、頼み綱である観光産業を支えている。しかし、ユーロ圏から離脱した途端に彼らの足はぱったりと途絶えるだろう。
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津山恵子（つやま・けいこ） ジャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任 まで取材し、ＡＥＲＡに執筆した。米国の経済、政治について「ＡＥＲＡ」「週刊ダイヤモンド」などに執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』（アスキーメディアワークス）など
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ユーロ離脱は破局、緊縮策以外に選択肢ない＝ギリシャ前首相
2012年 5月 23日 8:47 JST
【ロンドン】ギリシャのパパデモス前首相は22日、ウォール・ストリート・ジャーナル（WSJ）とのインタビューで、ギリシャは痛みを伴う緊縮策を実行する以外に選択肢はないと述べ、さもなければユーロ圏からの脱退に直面し、経済荒廃やインフレ高進といった新たな社会的緊張に見舞われるだろうと警告した。
パパデモス氏は先週の首相辞任以降初めてインタビューに応じたもので、ユーロを放棄すれば、ギリシャは経済の「破局的な」結末を迎え、ユーロ圏の他の参加国に深刻で広範な悪影響が及ぶだろうとの考えを示した。一部の欧州諸国や機関が、最終局面に備えて緊急対応計画を検討しているのはこのためだという。
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Associated Press
ギリシャのパパデモス前首相
同氏は「こうしたシナリオは実際には起こりにくく、ギリシャにとっても他国にとっても望ましくないが、ギリシャがユーロを離脱した場合に起こりうる結末を封じ込めるための準備は排除できない」と語った。
欧州中央銀行（ECB）の副総裁を務めたこともあるパパデモス氏は、首相辞任後も選挙管理内閣に助言を続けている。今月6日の総選挙では緊縮策への反対票が多く、どの党も過半数を取れない状況に陥った。これを受けて同氏は首相を辞任、選挙管理内閣が先週発足した。
新たな総選挙は6月17日の予定で、ユーロ圏にとどまるかどうかの事実上の国民投票になる。総選挙の直後に誕生する新政権にとっては、政府支出の追加削減計画を打ち出す最終期限が到来する。これは、国際通貨基金（ＩＭＦ）などによる第2次救済計画に基づく救済支援の条件とされているものだ。
パパデモス氏は、多くのギリシャ人が状況の深刻さを完全に理解していないことを懸念していると述べ、「欧州の政治指導者たちは2つの部分からなる明確なメッセージを出している。つまりギリシャはユーロ圏に残留すべきだということと、約束を順守すべきだということだ。ギリシャのユーロ離脱リスクは現実で、それはギリシャ国民が経済プログラムの履行継続を支持するかどうかに実質的に左右される」と語った。
同氏はギリシャのユーロ離脱の総コストが5000億ユーロ（約50兆5000億円）ないし1兆ユーロ（101兆円）との数字を引用した。これは市場評価に対する影響、国境を越えた危機のコンテージョン（伝染）、実体経済への打撃に関する想定を反映している。
同氏は、時間的猶予はなくなりつつあると述べ、一層の支援がなければギリシャは程なく年金や公共部門の賃金を支払えなくなると警告した。
財務省の10日前の算定では、支出と収入の見通しからみて、政府が経費をカバーするのに十分な財源があるのは6月20日までとなっている。
しかし算定の後、税徴収テンポが緩み、歳入が目標を下回ったため、資金繰りは6月20日ではなく、6月最初の2週間で苦しくなりそうだ。
必要なら、政府は銀行再編のために使われる「ヘレニック金融安定基金（HFSF)」から資金を取り出すこともできる。HFSFは週内にギリシャの銀行に対し、流動性資金として180億ユーロの新規救済資金を配分する見通しだ。
パパデモス氏は、ギリシャのユーロ離脱にメリットは全くないと述べ、離脱の場合にはインフレ高進、実質所得の減少、銀行システムの極度の緊張に直面し、ギリシャの資本市場参入はさらに遠ざかるだろうと述べた。またギリシャの公的債務が増加するだろうとも述べ、これは債務が新通貨建てとなり、その後為替レート安定とインフレ制御の必要上、実質金利が上昇するためだと語った。
同氏は「一部の推定では、インフレが30％あるいは50％にも加速しかねないとされている。それは、こうした動きがインフレ期待（予想）と、物価上昇が賃金に及ぼす二次的な効果の度合いに左右される」と語った。
同氏は、こうしたインフレスパイラルは、ユーロに代わる新国民通貨が切り下げられて、価格競争力に及ぼす短期的なプラス効果を実質的に相殺してしまうだろうと付け加えた。
同氏は「全体として、経済的な結末は破局的だ。さらに、ユーロ離脱に伴う政治的、社会的な悪影響は深刻で、長い間続くだろう」と述べた。
一方、パパデモス氏は、ギリシャは突きつけられている厳しい救済条件を回避ないし再交渉できるとの政党指導者たちの約束は誤りだと強調した。
さらに、先の総選挙で第2党に躍進した急進左派連合（SYRIZA）が、たとえギリシャが緊縮措置を凍結し、融資をデフォルト（債務不履行）したとしても、ユーロ圏の他の加盟国のほうがひるんで、ギリシャにユーロ離脱を強いることはないと予想しているが、これも同様に誤った見方だと指摘した。
同氏は「これらユーロ圏諸国は既に、第2次救済計画の承認を自国の議会に説得するのに大きな困難に直面しており、スペインやイタリアなど深刻な財政上の難題を抱える他の加盟国もギリシャの資金支援に一層貢献するよう要請される」と述べた。
同氏は「救済計画に基づいて支援される国（ギリシャなど）は調整疲労に直面しているが、それと同時に債権国では救済疲労に直面している」とし、「われわれはこれを決して忘れるべきではない」と強調した。
記者: Costas Paris、Jenny Paris
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_447063?mod=WSJWhatsNews
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