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バーゼル委、トレーディング規制の抜本的改革案を公表リスク計測指標として、VaR を廃止し、「期待ショートフォール」に変更
http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/485.html
投稿者 MR 日時 2012 年 6 月 08 日 19:44:14: cT5Wxjlo3Xe3.
 

金融システムの諸問題

バーゼル委、トレーディング規制の抜本的改革案を公表リスク計測指標として、VaR を廃止し、「期待ショートフォール」に変更


2012年6月7日 金融調査部 制度調査課 金本 悠希

【サマリー】

◆5月3日、バーゼル銀行監督委員会が、バーゼル規制(国際的な銀行の自己資本規制)に関して、トレーディング業務の扱いを強化する内容の市中協議案を公表した。9月7日までコメントが受け付けられている。

◆本市中協議案で最も注目される見直し案は、トレーディング業務に関するリスクを測定する指標として、現行規制の内部モデル方式で認められているVaRを廃止し、「期待ショートフォール」という指標に変更することである。これは、VaRでは、金融危機のような発生する確率が低い事象(テイル・リスク)が捕捉されないため、そのような事象をより適切に捕捉できる「期待ショートフォール」に変更するものである。この見直し案が実現すれば、トレーディング業務に関連する資本賦課額が大きく増加する可能性がある。

◆また、現行規制は、ある商品を銀行勘定に計上するかトレーディング勘定に計上するかは銀行の意図によって決定されるため、より資本賦課額が小さい勘定に計上しようとするインセンティブが働くという問題がある。そこで、市中協議案は、トレーディング勘定と銀行勘定を区別する境界のあり方を見直すことを提案している。見直し案の一つとして、公正価値評価の対象となる金融商品(現段階では「その他有価証券」を含む模様)はトレーディング勘定に計上する案が提案されており、この案ではトレーディング勘定の範囲が拡大することとなる。

◆他には、内部モデル方式の枠組みの見直し案(内部モデルを承認する単位を、銀行ごとではなく、銀行のトレーディング・デスクごとに細分化)や、標準的方式の枠組みの見直し案や、両方式の水準設定を整合的にすることなどにより両方式の関係を強化する案も提案されている。

◆なお、今回の見直し案は銀行に与える影響が大きく、合意まである程度の時間がかかると予想され、今回の見直し内容が合意されて実際に適用されるのは、数年後になるのではないかと推測される。

http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/financial/12060701financial.html

1.バーゼル委による市中協議案の公表と見直しの背景
(1)市中協議案の公表
○2012 年5 月3 日、いわゆるバーゼル規制(国際的な銀行の自己資本規制)を定めるバーゼル銀行監督
委員会(以下、バーゼル委)が、「トレーディング勘定の抜本的見直し」と題する市中協議案を公表
した1。2012 年9 月7 日までコメントが受け付けられている。
○本市中協議案は、バーゼル規制のうちトレーディング業務に関する規制に関して、(リーマン・ショッ
クを発端とする)金融危機において明らかになった不備に対処するため、抜本的な見直し案を示すも
のである。ただし、今回の案は基本的な見直しの方向性を示すものであり、具体的な規則文書の形式
はとっていない。バーゼル委は、今回の案に対するコメントを検証した上で、バーゼルVの枠組みを
見直すための詳細な案について改めて市中協議を行う予定である。
○なお、トレーディング業務に関する規制の見直しは、いわゆるバーゼル2.5 として、すでに2009 年7
月に見直しが合意された(各国は2011 年12 月末までに施行することが合意され、わが国では2011 年
12 月末から施行)2。しかし、これは金融危機で明らかになった不備に対していわば応急的に対処した
ものであり、今回の市中協議案において、より抜本的な見直し案が示されている。
1 バーゼル委ウェブサイト(http://www.bis.org/press/p120503.htm)参照。
2 バーゼル2.5 において、トレーディング勘定に関する主な見直しとして、ストレスVaR の加算や追加的リスク(デフォル
ト・リスク、格付遷移リスク)の導入、VaR モデルの運用条件の見直しがなされた。バーゼル2.5 に関しては、拙稿「バーゼ
ル2.5 ―市場リスク対応のための資本が増加」(2012 年1 月13 日付レポート)、「『バーゼル2.5』による銀行の情報開
示拡充の概要」(2012 年2 月1 日付レポート)参照。


(2)トレーディング勘定に関する抜本的見直しの背景
○本市中協議案は、金融危機において明らかになった、マーケット・リスク規制の枠組みに関するさまざ
まな不備に対処するものであり、本市中協議案では主な不備として以下の点が指摘されている。
(@)マーケット・リスク規制枠組みの全体的設計に関する不備
○マーケット・リスク規制枠組みの全体的設計に関する不備として、まず、トレーディング勘定と銀行勘
定に計上される商品をいかに区別するかという問題(両勘定の境界の問題)に関する不備が指摘され
ている。現行規制上、トレーディング勘定に計上されるか否かは、その商品をトレーディング対象と
するかという、銀行の意図によって決定される。そのため、トレーディング勘定と銀行勘定の間で、
より資本賦課額の少ない勘定に計上するという裁定機会が生じる3。
○また、現行規制上、マーケット・リスクに係る資本賦課額を算出する内部モデル方式と標準的方式の間
で、水準設定とリスク測定の指標について明確な連携がなされていない。そのため、内部モデル方式
を採用している銀行の内部モデルのリスク測定に関するパフォーマンスが低下した場合でも、内部モ
デルの承認を撤回することは、その影響が大きいため困難である。しかし、内部モデルの承認撤回に
代わる有効な手段がないという問題も指摘されている。
(A)リスクを測定する方法に関する不備
○マーケット・リスクを測定する方法として、現行規制の内部モデル方式ではVaR(バリュー・アット・リ
スク)が用いられている。VaR は一定の確率(信頼区間)を前提として算出され、金融危機のような
非常に低い確率で発生する事態が捕捉されないため、そのような事態に耐えうるだけの自己資本の額
を算出できるか疑わしいという問題がある(VaR については後述2(2)参照)。
○また、(マーケット・リスクを測定する)VaR に関しては、信用リスクを適切に把握できない、市場流
動性リスクを把握できないという問題もある。さらに、上記のように金融危機のような、発生確率は
低いものの、実際に発生した場合に大きな損失をもたらすリスク(テイル・リスク)が捕捉されず、そ
の分の資本賦課額が求められないため、銀行にテイル・リスクを取るインセンティブを与えてしまう。
○一方、標準的方式に関しても、リスク感応性が欠けている、ヘッジ・分散効果の認識が制限されている、
複雑な商品に関連するリスクを十分捕捉できない、といった問題が指摘されている。
3 金融危機以前、証券化商品を、銀行勘定ではなく、より資本賦課額の少ないトレーディング勘定に計上するケースが見ら
れた。そのため、バーゼル2.5 において、両勘定における資本賦課額が整合的になるように、リスク・ウェイトの見直しが行
われた


(3)市中協議案における見直し項目
○本市中協議案で見直し案が示されている項目を列挙すると、以下の通りである。
◇銀行勘定とトレーディング勘定の境界の見直し
◇リスク指標の変更(VaR を廃止し、「期待ショートフォール」に変更)
◇ストレス時のデータを用いて資本水準を設定
◇市場流動性リスクを包括的に勘案
◇ヘッジと分散効果の取扱いの見直し
◇内部モデル方式と標準的方式の関係の強化
◇内部モデル方式の枠組みの見直し(内部モデルが承認される単位を、銀行ごとから、トレーディング・
デスクごとに細分化)
◇標準的方式の枠組みの見直し
(4)今後のスケジュール
○前述のように、本市中協議案は、2012 年9 月7 日までコメントが受け付けられる。その後、コメント
を検証した上で、バーゼルVの枠組みを見直すための詳細な案について改めて市中協議が行われる予
定である(具体的時期は不明)。
○今回の見直し案は、トレーディング業務に対する資本賦課を抜本的に見直すものであり、銀行に与え
る影響は大きく、合意まである程度の時間がかかると予想される。さらに、施行の際には、その影響
の大きさも考慮されると予想され、今回の見直し内容が合意されて、実際に適用されるのは数年後に
なるのではないかと推測される。
2.トレーディング勘定に関する抜本的見直し案(全般的論点)
○以下、トレーディング勘定に関する抜本的見直し案の各論点について説明するが、便宜上、この節で
はトレーディング勘定全般に関する論点について扱い、内部モデル方式と標準的方式のそれぞれの枠
組みに関する見直し案は次の節以降で扱う。
(1)銀行勘定とトレーディング勘定の境界の見直し
○前述の銀行勘定とトレーディング勘定の境界に関する問題(1(2)(@)参照)を踏まえ、バーゼ
ル委は銀行勘定とトレーディング勘定を区別する境界の見直し案として、次の案を検討している。

A公正価値評価対象となるか否かに基づく境界
(@)「トレーディングの証拠」に基づく境界
○この案は、「トレーディングの証拠」が認められる商品をトレーディング勘定に計上し、それが認め
られなければ銀行勘定に計上するというものである。本案は、現行規制の、「トレーディングの意図」
に基づく境界の改良(強化)版であり、(公正価値評価に基づく境界と異なり)銀行自身がトレーデ
ィング目的で保有しているかどうかと、自己資本規制上のトレーディング勘定に計上されるかどうか
のつながりが維持される。
○具体的には、以下の条件などを満たし、「トレーディングの意図」が示される商品はトレーディング
勘定に計上され、それ以外の場合は銀行勘定に計上される。
◇トレーディング目的で(又はトレーディング勘定のリスク・ポジションのヘッジのために)保有され、
日次で時価評価される商品である。
◇どの商品がトレーディング勘定に計上されるかを決定する、公式な文書・方針(policy)を備えている。
◇商品が適切にトレーディング勘定に振り分けられているか、内部管理部門が継続的に評価している。
◇トレーディング対象商品が積極的に(actively)管理されているという客観的な証拠を示す。
◇市場の流動性をモニターする。
◇トレーディングの実行可能性がある。
○本案では、(上記条件を満たす必要があるため)トレーディング勘定の範囲が現行よりも狭くなると
考えられるとされている。
○本案の主なメリット・デメリットとして、以下の点が指摘されている。
メリット
◇銀行がトレーディング/ヘッジを意図して保有している商品が、(短期間に自由にトレー
ディング/ヘッジできる場合であれば)マーケット・リスク規制の枠組みで捉えられる。本
案では、(トレーディング勘定に計上できるかについて)より客観的な基準を導入する。
◇(公正価値評価に基づく境界よりも)現行規制からの変更が少なく、銀行・監督当局の混
乱が少ない。
◇トレーディング勘定に計上される商品の範囲が、銀行が内部的に「トレーディング」扱い
とする商品の範囲に近く、銀行にとって実施しやすく、監督当局にとって監督しやすい。
デメリット
◇依然、トレーディング勘定の境界を銀行がコントロールできる(裁定機会が存続)。
◇(マーケット・リスク規制が適用されない)銀行勘定に、公正価値評価され、マーケット・
リスクをもたらす商品が計上されてしまう。

◇トレーディング勘定に計上されるかが、トレーディングの実行可能性があるかについての
各国の判断に依存するため、国によって境界が異なる可能性がある。
(A)公正価値評価に基づく境界
○本案は、現行規制の「トレーディングの意図」という概念を放棄し、公正価値評価(時価評価)の対
象となる金融商品をトレーディング勘定に計上する(それ以外の商品は銀行勘定に計上する)という
ものである。
○本案は、(銀行の意図にかかわらず)金融商品がもたらすリスクを自己資本規制の設計に連動させよ
うとするものである。現行規制上、銀行勘定に計上される金融商品でも、公正価値評価の対象となり
マーケット・リスクをもたらす金融商品であれば、トレーディング勘定に計上されることとなる。わが
国の現行規制上、「その他有価証券」に該当するものは銀行勘定に計上されているが、この案ではト
レーディング勘定に計上されることとなる。
○本案では、現行規制よりもトレーディング勘定の範囲が拡大する可能性があるが、会計基準の相違の
ため国によってトレーディング勘定の範囲が異なる可能性がある。
○なお、本案に関しては、金利リスクをヘッジするための金融商品は例外扱いとし、(公正価値評価の
対象となるものでも)銀行勘定に計上することを許容する案も検討されている。これは、公正価値評
価の対象とされる金融商品を全てトレーディング勘定に計上することとすると、銀行勘定での金利リ
スクをヘッジするインセンティブがそがれてしまうためである。
○本案の主なメリット・デメリットとして、以下の点が指摘されている。
メリット
◇公正価値評価の対象となり、マーケット・リスクをもたらす全ての金融商品が、マーケッ
ト・リスク規制に服する。
◇トレーディング勘定に計上されるかどうかが、会計上の取扱いと連動する。
◇トレーディング勘定に計上するか否かについての銀行の判断が、会計基準・自己資本規制
に従って行われ、裁定機会が減少する可能性が高い。
デメリット
◇トレーディング勘定の境界が、(バーゼル委のコントロールが及ばない)会計基準の変更
や監査法人の判断の影響を受ける。
◇各国間で、会計基準の相違によりトレーディング勘定の範囲の相違が生じうる。(公正価
値評価される金融商品はトレーディング勘定に計上されるため)トレーディング勘定が大
きく増大する可能性がある。
◇公正価値評価の対象とされる金融商品は、銀行がトレーディング対象としていない商品も
含む可能性があるため、銀行の内部管理とトレーディング勘定計上商品が連動しない。

トレーディング勘定の構成についての開示の強化
◇トレーディング勘定と銀行勘定の間で、商品を銀行が自由に移し替えることを厳しく制限
(2)リスク指標の変更 ―VaR 廃止、「期待ショートフォール」へ
○市中協議案は、リスクを測定するための指標として、現行規制のVaR を廃止し、「期待ショートフォ
ール」に変更するとしている。
○単純化して言えば、VaR は、一定の確率(信頼区間)を前提としたとき(信頼区間外の事象を除いた
とき)の最大損失額を計測する指標である。たとえば、信頼区間99%のVaR が100 億円であった場合、
99%の確率で損失額は100 億円に収まるということを意味する。逆に、残りの1%の確率で、損失額
が100 億円を超えることとなるが、その場合の損失額がいくらになるかは、VaR では表現されない。
よって、金融危機のような、実際に実現すれば非常に損失額が大きくなるものの、実現する可能性が
低いリスク(テイル・リスク)は、VaR では捕捉できない。
○このような問題が認識されたため、バーゼル委は新たなリスク指標として、「期待ショートフォール」
を導入することを提案している。これは、単純化して言えば、損失額がVaR を超える場合における、
損失額の平均値を指す。上記の例で言えば、損失額が100 億円を超える場合における損失額の平均値
となる。「期待ショートフォール」では、テイル・リスクが捕捉されることとなる。
○なお、現行規制上、VaR は内部モデル方式のリスク指標として利用されているが、標準的方式では所
定のリスク・ウェイトが定められており、VaR によってリスクが計測されるわけではない。しかし、市
中協議案は、内部モデル方式のリスク指標をVaR から「期待ショートフォール」に変更するだけでな
く、標準的方式についても、所定のリスク・ウェイトを「期待ショートフォール」に基づく水準に修正
するとしており、内部モデル方式・標準的方式の双方についてリスク指標が変更されることとなる。
(3)ストレス時のデータを用いた水準設定
○先般の金融危機以前、トレーディング勘定の資本賦課額の水準が、平時の市場状況に基づいて設定さ
れていたため、金融危機時に資本不足に陥る銀行が見られた。しかし、資本は良好な状況のときより
も、金融危機のようなストレス状況において(損失吸収のために)必要であるため、市中協議案では、
内部モデル方式・標準的方式双方について、ストレス時のデータを用いて、資本賦課額算出のための水
準設定を行うこととしている。


こととしている。この「流動性ホライズン」は、以下のよ
うに定義されている。
◇ストレス状況にある市場において、市場価格に大きなインパクトを与えずに、金融商品を売却、また
はその重要なリスクを全てヘッジするのに必要な時間
○「流動性ホライズン」は、10 日間、1 ヶ月間、3 ヶ月間、6 ヶ月間、1 年間の5 段階が設定されており、
各金融商品(のリスク・ファクター)がいずれかの「流動性ホライズン」に割り当てられる。たとえば、
ある金融商品が1 ヶ月間の「流動性ホライズン」に割り当てられることは、ストレス状況にある市場
において、市場価格に大きなインパクトを与えずに、1 ヶ月間でその金融商品を売却、またはその重
要なリスクを全てヘッジできるという評価がなされたということを意味する。また、「流動性ホライ
ズン」が大きいほど、その金融商品の(ストレス時における)市場流動性は低いことを意味する。
(B)資本賦課額算出の際に市場流動性リスクを勘案する方法
○市中協議案では、市場流動性リスクを(「流動性ホライズン」という概念を通じて)マーケット・リス
クに係る資本賦課額を算出する際に勘案することとされているが、その方法としてバーゼル委は以下
の2 点を検討している。
4 追加的リスク・包括的リスクを測定する際に勘案される。


@資本賦課額を算出するリスク指標に「流動性ホライズン」を組み込む。
A流動性プレミアムが急騰する可能性がある場合、追加的資本賦課を行う。
(ア)リスク指標への「流動性ホライズン」の適用
○現行規制のマーケット・リスクの大きさを測るリスク指標であるVaR は、ポジションの保有期間として
一定の期間(10 日間以上5)を前提としている。市中協議案は、このように、リスク指標(市中協議案
では「期待ショートフォール」が提案されている)でマーケット・リスクの大きさを測る際に、その前
提とするポジションの保有期間として、その金融商品に割り当てられた「流動性ホライズン」を適用
することを提案している。
(イ)流動性プレミアム急騰の場合における追加的資本賦課
○市中協議案では、銀行が保有する商品の市場流動性が低下し、即座に売却できない商品を抱え込むこ
とによって、その銀行が投資家から要求される追加的補償を「流動性プレミアム」と呼んでいる。流
動性プレミアムが急騰すると、資金調達力が低下し、債務支払い能力(solvency)が低下するため、
市中協議案はその分の追加的資本賦課を求めることを提案している。
○しかし、流動性プレミアムは、(マーケット・リスクを計測する)リスク指標の水準設定に織り込まれ
ているため、追加的資本賦課を求めることはリスクのダブル・カウントになりうる。そこで、市中協議
案は、追加的資本賦課を求める場合を特定の場合に限定するとしている(どのような場合かについて
は検討中)。
(C)内生的流動性リスクの勘案
○市場流動性リスクは市場一般について生じるだけでなく、当該銀行自身の(つまり、銀行の内生的な)
事情によっても生じうる。たとえば、市場規模と比較して特に大きなエクスポージャーを持っていた
り、その銀行の集中度が高いという場合、そのエクスポージャーを解消するのは容易ではなく、市場
流動性リスクが生じうる。
○市中協議案は、このような内生的な市場流動性リスクを勘案することも検討している。その方法とし
て、内生的な市場流動性リスクがある場合には、より長期の流動性ホライズンを適用するという案と、
ポートフォリオの公正価値評価を保守的に行うという案を検討している。
5 追加的リスクの場合は1 年以上。


(5)ヘッジと分散効果の取扱いの見直し
○先般の金融危機に見られたように、ストレス時には、ヘッジ・分散効果は失われるため、市中協議案は、
ヘッジ・分散効果の勘案を抑制することを検討している。
○また、ヘッジ・分散効果に関して、内部モデル方式と標準的方式の間で取扱いに差がある。たとえば、
不完全なヘッジの効果は内部モデル方式では実際上勘案されるのに対し、標準的方式ではその勘案を
制限している6。市中協議案は、このようなヘッジ・分散効果の取扱いを、両方式で整合的にすること
も提案している。
(6)内部モデル方式と標準的方式の関係の強化
○バーゼル委は、現行規制の枠組みは、銀行の内部モデルに依存しすぎており、リスクに対する銀行独
自の見方を反映した枠組みとなっていると認識している。また、標準的方式と内部モデル方式との間
で資本賦課額が大きく異なっていることが、競争条件の平等に関する大きな懸念をもたらし、さらに、
内部モデル方式のパフォーマンスが十分でない場合に内部モデルの承認を取り消すという選択肢に代
わる有効な手段が監督当局には与えられていない。
○そこで、市中協議案は、内部モデル方式と標準的方式の関係を強化すべく、以下3 点を提案している。
@両方式の水準設定について、整合性を向上させる。
A(内部モデル方式採用銀行を含む)全ての銀行に対して、標準的方式に基づく計算を義務付ける。
B内部モデル方式による資本賦課額に対して、標準的方式に基づく資本賦課額の何%か(具体的水準は
未定)を下限7(又は追加的賦課額)とする。
6 内部モデル方式では、直近のヒストリカル・データに市場から示唆される相関関係が反映されてさえいれば、実際上制限な
しにヘッジの認識を認める。他方、標準的方式では、ヘッジの認識を完全なヘッジが行われている場合など限定的にしか認
めていない。
7 標準的方式に基づく資本賦課額ではなく、その何%かの水準を下限としているのは、標準的方式に基づく資本賦課額を下
限とすると、内部モデル方式の資本賦課額は標準的方式の場合の水準以上となってしまうため、内部モデル方式を選択する
インセンティブが失われてしまうためと考えられる。
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3.内部モデル方式の枠組みの見直し案
(1)内部モデル方式の枠組みの見直し案の全体像
○内部モデル方式の枠組みの見直しのポイントは、内部モデルを承認する単位を、現行規制の銀行ごと
から、(国内株式や外国金利デリバティブといったトレーディング業務ごとに区分けされた)トレー
ディング・デスクごとに変更することである。現行規制上、内部モデルのパフォーマンスが不十分な場
合、当局はその銀行全体について内部モデルの承認を取り消すという対応策しかないが、この見直し
により、内部モデルを承認・取り消すかどうかをトレーディング・デスクごとに行うことができるよう
になる。
○見直し案による内部モデル方式の枠組みは以下のようになる。
図表1 内部モデル方式における資本賦課額算出プロセス
(※)不適格指定は恒久的ではなく、パフォーマンスが改善されれば、適格指定に変更される可能性がある。
(出所)バーゼル委「トレーディング勘定の抜本的見直し」に基づき、大和総研金融調査部制度調査課作成
【第1段階】
トレーディング勘定全体について、内
部モデルと組織上のインフラを全般的
に評価
トレーディング勘定全体
に、標準的方式を適用
基準を満たさない場合
基準を満たす場合
【第2段階】
トレーディング・デスクごとに、内部モデルのパフォーマンスを定量的に評価
(バックテスト・損益要因分析)
パフォーマンスが十分な場合
(適格トレーディング・デスク)
当該トレーディング・デスク
に、標準的方式を適用して
資本賦課額を算出
パフォーマンスが
不十分な場合
(不適格トレーディ
ング・デスク(※))
期待ショートフォ
ールを利用して資
本賦課額を算出
モデル化可能
なリスク・ファクター
の場合
ストレス・シナリ
オに基づいて資
本賦課額を算出
モデル化可能
でないリスク・
ファクターの場合
左とは別に資
本賦課額を算

リスク・ファクターが
デフォルトリスク・
格付遷移リスクの場合
(マーケット・リスクの)合計資本賦課額








(検討中)
【第3段階】
(適格トレーディング・デスクに含まれる)個別の
リスク・ファクターについて、モデル化が可能かを判断
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(2)第1 段階:トレーディング勘定全体の評価
○内部モデル方式の見直し案では、第1 段階として、トレーディング勘定全体について内部モデルと組
織上のインフラを全般的に評価する。この段階で、その内部モデルが基準を満たさなければ、その銀
行のトレーディング勘定全体については標準的方式に基づいて資本賦課額が算出される。一方、基準
を満たす場合、次の第2 段階に進む。
(3)第2 段階:トレーディング・デスクごとの評価
○第2 段階では、トレーディング・デスクごとに、内部モデルのパフォーマンスが十分かを定量的に評価
する(パフォーマンスが十分であれば「適格トレーディング・デスク」、不十分であれば「不適格トレ
ーディング・デスク」となる)。不適格トレーディング・デスクとされた場合、そのトレーディング・
デスクについての資本賦課額は標準的方式に基づいて算出される。一方、適格トレーディング・デスク
とされれば、次の第3 段階に進む。
○トレーディング・デスクの区分は、一般論としては、銀行内部の組織構造、方針(policy)、手続き、
及びトレーディングのインフラに基づいて行われるが、概ね以下のように区分することが求められる。
株式
国内株式
国内株式デリバティブ
定量的株式ストラテジー
外国株式
新興国株式
フィックスト・インカム/
為替
国内金利・デリバティブ
外国金利・デリバティブ
スポット為替
為替デリバティブ
国内ストラクチャード・プロダクト
グローバル・ストラクチャード・プロダクト
ディストレス債券
ハイ・グレード・クレジット
ハイ・イールド・クレジット
シンジケート・ローン
コモディティ
農産品関連コモディティ
エネルギー関連コモディティ
貴金属関連コモディティ
複合資産トレーディング
( Multi-asset trading
units)
スペシャル・オポチュニティー(Special opportunities)
ストラテジック・キャピタル(Strategic capital)
定量的戦略(Quantitative strategies)
○トレーディング・デスクごとに内部モデルのパフォーマンスを定量的に評価(し、適格トレーディング・
デスクか不適格トレーディング・デスクかを判断)する手法として、バーゼル委は、@損益要因分析、
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Aバックテスト評価、の2 つを検討している(詳細は検討中)。損益要因分析は、理論上の損益と実
際の損益を比較し、実際の損益の変動要因となるリスク・ファクターを、銀行のリスク管理モデルがど
の程度捕捉できているかを評価する分析である。バックテスト評価は、実際の損益と予想損失を比較
する日次のバックテストである。
○なお、上記手法によって不適格トレーディング・デスクに指定されたとしても、この指定は恒久的なも
のではなく、内部モデルのパフォーマンスが十分改善されれば、適格トレーディング・デスクに指定を
変更することが可能である。
(4)第3 段階:個別リスク・ファクターごとに内部モデル化が可能か分析し、資本賦課額を算出
○第3 段階では、適格トレーディング・デスクについて、個別の「リスク・ファクター」ごとに内部モデ
ル化が可能かどうかを分析する。この「リスク・ファクター」とは、たとえば、自国為替の為替レート
水準(為替関連)、世界全体の金利水準(金利関連)、世界全体の株式インデックス(株式関連)、
コモディティ価格インデックス(コモディティ関連)などの、トレーディング対象商品の価格に影響
を及ぼす要因であり、金利、株式、為替、コモディティといった区分ごとに設定される。
○個別のリスク・ファクターのうち、内部モデル化が可能な場合は、そのリスク・ファクターに関する資
本賦課額は、「期待ショートフォール」というリスク指標によって算出される(2(2)参照)。一
方、内部モデル化が可能でない場合は、(「期待ショートフォール」ではなく)ストレス・シナリオを
適用して、資本賦課額が算出される。
○なお、資本賦課額の算出の際、リスク・ファクターがデフォルト・リスク、格付遷移リスク(格下げな
どが行われるリスク)の場合は、上記とは別に資本賦課額を算出することが検討されている。これは、
デフォルト・リスク、格付遷移リスクは変動が不連続(デフォルトや格下げがあった場合に、一挙にリ
スクが増大する)であり、(価格の変動が連続的な商品を対象とする)マーケット・リスクの枠組みに
統合することは困難なためである。
(5)合計資本賦課額の算出
○上記のプロセスにより、それぞれの場合における資本賦課額が算出されるため、これらを合計したも
のが、マーケット・リスクに係る合計資本賦課額となる(図表1 参照)。
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4.標準的方式の枠組みの見直し案
○市中協議案は、標準的方式の枠組みの見直し案も示しており、現行規制の標準的方式の延長(カテゴ
リーは細分化)である「部分的リスク・ファクター方式」を提案している。さらに、その代替案として、
「より完全なリスク・ファクター方式」も提案している。
(1)部分的リスクファクター方式
○部分的リスク・ファクター方式は、現行規制の標準的方式と同様、商品を所定のカテゴリーに分類した
上で、各カテゴリーについて規定されるリスク・ウェイトを、商品の市場価格に乗じることによって資
本賦課額を算出する、というのが基本的な考え方である(ただし、資本賦課額算出の際、ヘッジ効果
や分散効果を勘案するため所定の相関係数が投入される)。
○カテゴリーは、金利、株式、信用(credit)、為替、コモディティの5 個のリスク分類のそれぞれに
ついて、20 個ほどのカテゴリーが設けられる予定である。
○各カテゴリーのリスク・ウェイトは、商品の収益分布の「期待ショートフォール」に基づいて設定する
とされており(2(2)参照)、(内部モデル方式だけでなく)標準的方式においても「期待ショー
トフォール」がリスク指標となる。
(2)より完全なリスク・ファクター方式
○より完全なリスク・ファクター方式は、商品を所定のリスク・ファクターに分類し、各リスク・ファクタ
ーについてのリスク・ポジション(リスク額)を測定し、そのリスク・ポジションを所定の合算アルゴ
リズムに投入することによって資本賦課額が算出される。
5.市中協議案には盛り込まれなかった論点
○市中協議案には盛り込まれなかったものの、検討が行われた論点として、以下の2 点について触れら
れている。
(1)銀行勘定における金利リスクの資本賦課額の算出
○2(1)で述べたように、市中協議案は、銀行勘定とトレーディング勘定の間で取扱いが相違してい
ることにより、裁定機会が発生するという問題は認識しつつも、両者を区別することは継続する(境
界の存在は維持する)こととしている。
○銀行勘定とトレーディング勘定の間で取扱いが相違しているものの一つとして、金利リスクがある。
金利リスクは、トレーディング勘定では、いわゆる「第1 の柱」(最低限遵守すべき規制としての自
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己資本規制)の下で明示的に捕捉され、資本賦課額が算出される。一方、銀行勘定では、いわゆる「第
2 の柱」(銀行の自己管理型のリスク管理が求められる)の下で、金利リスク量を適切に管理するこ
とが求められるものの、自己資本規制における資本賦課額が算出されるわけではない。
○この点に関して、バーゼル委は、銀行勘定における金利リスクについて、「第1 の柱」の下での資本
賦課額を算出することに関して準備的な検討を行った。バーゼル委は、本件に関する更なる検討のタ
イミングと範囲について、2012 年後半に検討する予定としている。
(2)マーケット・リスクの枠組みにおけるカウンターパーティー・リスクの捕捉
○バーゼルVでは、デリバティブ取引に係るエクスポージャーが、相手方の信用力低下により変動する
リスクとして、新たに信用評価調整(CVA)の変動リスクが捕捉され、資本賦課額の算出が求められる
こととなる。
○このCVA リスクは、信用リスクの枠組みにおいて捕捉される。しかし、一部の銀行は、CVA リスクを
(信用リスクに係るマーケット・リスクの要素として)マーケット・リスクの枠組みの中で捕捉すべき
と考えている。
○バーゼル委は、この点に関して検討することには合意したものの、CVA リスクと他のマーケット・リス
クを、単一の統合されたモデルにおいて効果的に捕捉できるかについては慎重に考えている。そのた
め、結論としては、マーケット・リスクの枠組みにおいてカウンターパーティー・リスクを捕捉するこ
とに関して、特段の提案はなされていない。
6.若干の検討
○本市中協議案における見直しで最も注目される点の第一は、リスク指標としてVaR を廃止し、「期待
ショートフォール」に変更することである(2(2)参照)。本市中協議案では、資本賦課額を算出
する際の具体的なパラメーターの水準が未定であり定量的な評価はできないが、前述のように、「期
待ショートフォール」の基本的な考え方は、損失額がVaR を超える場合の損失額の平均値を求める指
標である。そのため、この見直しによって、(マーケット・リスクに係る)資本賦課額が大きく増加
する可能性が高い。また、この見直し以外でも、ストレス時のデータを用いた水準設定や市場流動性
リスクの包括的な勘案も、(マーケット・リスクに係る)資本賦課額を増加させる方向に作用する。
○ただし、多くの銀行においては、トレーディング業務に関連するマーケット・リスクの額は、信用リス
ク・アセットの額より自己資本比率の分母に占める割合が相対的に小さい。特に、わが国の銀行は、
一般的には欧米の銀行よりもトレーディング業務が相対的に小さく、本市中協議案による見直しの影
響も相対的に小さいのではないかと推測される(ただし、銀行勘定とトレーディング勘定の境界の見
直しについて、公正価値評価に基づく境界の案が採用された場合は、トレーディング勘定の範囲が拡
大する可能性があることには留意が必要である)。
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○わが国では、一部の大手証券会社グループにもバーゼル規制同様の自己資本規制比率(連結)が適用
されているが、証券会社グループでは銀行グループよりも(銀行勘定の占める割合が小さく)トレー
ディング勘定の占める割合が大きいため、本市中協議案の見直しの影響が相対的に大きいと推測され
る(ただし、銀行勘定とトレーディング勘定の境界の見直しについて、公正価値評価に基づく境界の
案が採用された場合、トレーディング勘定の範囲は証券会社グループと銀行グループで大きな違いは
なくなる可能性がある)。
○第二の注目点として、銀行勘定とトレーディング勘定の境界の見直しについて、公正価値評価に基づ
く境界の案が提案されていることも注目される(2(1)参照)。仮に、(現行規制の延長である「ト
レーディングの証拠」に基づく境界の案ではなく、)この案が採用された場合、トレーディング勘定
の範囲が拡大することになる。具体的には、わが国の現行規制上、銀行勘定に計上されている「その
他有価証券」が、トレーディング勘定に計上され、マーケット・リスク規制の枠組みでの自己資本賦課
が求められると予想される8。
○上記以外では、銀行勘定における金利リスクの扱いの見直しが検討されていることが注目される(5
(1)参照)。具体的内容は不明であり、今後の見直し内容次第ではあるが、仮に銀行勘定における
金利リスクについて資本賦課が求められることとなれば、国債を大量に保有し、比較的大きな金利リ
スクを負っているわが国の銀行の自己資本比率には、一定程度の影響が出ることは避けられないだろ
う。
(以上)  

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コメント
 
01. 2012年6月08日 19:45:52 : cqRnZH2CUM

VaRの不完全性が、やっと規制にも反映されることになる

JPモルガンのクジラのおかげか


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