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改めて確認された財政再建をめぐる原則 国会の参考人質疑の中で考えたこと(上)
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投稿者 MR 日時 2012 年 6 月 27 日 10:49:06: cT5Wxjlo3Xe3.
 

日経ビジネス オンライントップ>$global_theme_name>小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか

改めて確認された財政再建をめぐる原則

国会の参考人質疑の中で考えたこと(上)

2012年6月27日 水曜日 小峰 隆夫

 6月6日の午前、突然電話で「8日の衆議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会の参考人として出席してもらえるか」という打診があった。財政再建と経済について意見を述べ、議員の質問に答えてほしいというものだ。日程を調べると、1つ予定が入っていたのだが、国会からの要請である。民間人ではあっても国政は最優先と考え、予定を変更して出席することにした。

 出席者は、私の他は一橋大学の小塩隆士教授、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査本部長の五十嵐敬喜氏、経団連経済政策委員会企画部会長(東芝)の村岡富美雄氏である。

 手順は冒頭、各参考人が15分ずつ意見を述べ、その後各党の代表8人が15分ずつ参考人に質問する。所要時間は3時間である。今、終わってからあらためて考えてみると、参考人として国会に出席したことは、私にとって大変貴重な体験であった。これを機会に、私の財政再建についての考えをまとめなおすことができたし、議員の方々との質疑を通じても大いに得るところがあった。「無理をしてでも出席して良かった」というのが正直な感想である。

 以下では、まず私の冒頭の意見陳述の内容を紹介し、その後の質疑を通じて私が感じたことを書いてみたい。

財政再建と日本経済についての5つのポイント

 割り当てられた15分間で、私は5つのポイントに基づいて「財政再建と日本経済」についての私の考えを表明した。既に本コラムで述べたことと重複する部分も多いが、財政再建についての現時点での私の考えを集約したものになっているので、以下、その概要を紹介する。なお、以下の文中で(補足すると)という表現が出てくるが、これは、「国会で発言した内容には含まれていないが、本稿の読者のために補足すると」という意味である。

第1のポイント
財政再建は国民福祉の向上という観点からも急務である

 財政を再建するということは、言うまでもなく財政赤字をコントロールして、それを維持可能(サステナブル)なものとすることである。しかしそれ自身が最終目標ではない。最終目標はあくまでも国民福祉の向上であり、財政の再建はそのための中間目標である。

 今や日本の財政は、フロー(財政赤字の規模)、ストック(政府債務残高の規模)どちらで見ても深刻な状況である。特に、ストックの債務残高の名目GDP比が上昇経路に乗っていることは大問題である。債務残高のGDP比が無限に上昇することはありえないので、このまま推移すれば、いつの日かは日本の国債が市場の信認を失い、財政が破綻することは避けられない。つまり、いずれは日本が「ギリシャ化」するということである。

 日本がギリシャ化した時何が起きるのかを予測することは難しいが、いずれにせよ経済は大混乱に陥り、その結果、国民生活に大きな打撃が及ぶことは間違いない。

 それだけでは済まないだろう。日本ほどの経済大国がギリシャ化すれば、その影響は世界経済全体に及ぶ。ギリシャ危機によって、現在われわれは多くの負の影響を受けつつある。日本の財政が破綻すれば、今度は、日本が世界にそれとは比べものにならないほど大きな負の影響をまき散らすことになる。

 財政を再建することは、国民生活の安定のためにも、将来世代のためにも、そして世界経済のためにも必要なことである。

第2のポイント
財政再建のために残された時間は急速になくなりつつある

 日本の財政がこれほど悪化しているにもかかわらず、相変わらず国債は円滑に消化されており、市場の信認が揺らぐ気配はない。ではなぜ日本はギリシャ化を免れているのか。その理由としては次の三つが考えられる。

 第1は、国内の投資が少なく貯蓄が余っていることだ。日本では国内の投資活動が低迷しているため、金融機関は貸出先がなくて困っている。そのためやむを得ず国債を買っているのだ。つまり、国債が消化できているのは、「国内投資が不振である」というありがたくない現象のおかげだと言える。

 第2は、経常収支が黒字を維持していることだ。経常収支が黒字であるということは、国内の資金が余っているということを示しており、このため国債の消化を海外に依存しないで済んでいるのだ。

 第3は、消費税引き上げの余地が大きいと認識されていることだ。多くの市場関係者は、日本の税負担率の水準はまだ低く、この点を考慮すると、自力で財政を再建する余地がまだ大きいと考えているようだ。だから信頼が維持されているのだ。

(補足すると)このことは、仮に、現在提案されている消費税率の引き上げが実現しなかったとすると、かなり大きな市場の失望を生むことになることに注意する必要がある。

既に「いつ破綻するか」の議論に

 しかし、こうした条件はいつまでも続くわけではない。最近エコノミストの間で真剣に議論されているのは、「日本の財政が破綻するかどうか」ではなく「このまま行ったら日本の財政はいつ破綻するのか」ということである。

 この点については、市場の信認という非常に大きく振れやすい現象にかかわることなので、具体的に「いつ破綻するのか」を特定することは難しい。しかしそうも言っていられないので、何らかのメルクマールを使った議論が行われている。

 例えば、「日本の経常収支が赤字化するのはいつか」という議論がある。高齢化に伴う貯蓄の減少によって、日本の経常収支はやがて赤字化するだろうというのがエコノミストのコンセンサスとなっているのだが、問題はそれがいつかである。これについてはいろいろな見方があるが、2020年前後に赤字化するという見方もある。

 もう一つ、「日本の家計貯蓄がすべて国債になってしまうのはいつか」という議論もある。これについても、一定の前提を置いて機械的に計算すると、2020年前後に、国債残高が、日本の家計貯蓄残高を上回ってしまうという計算がある。

 もちろん、こうしたメルクマールを超えたら市場の信認が突然失われるというわけではないし、このメルクマールの範囲であれば安心というわけでもない。

(補足すると)同じく参考人として出席した五十嵐氏は、その後の議員からの質問に答える形で、次のように明言している。「経常収支が黒字であるということは、理論的には国内の金融債権をすべて国内の資金でファイナンスすることができるということではあるが、別に国内でファイナンスする義務があるというわけではない。日本の国債の大部分が国内で消化されているのは、国内の投資家しか買う人がいないからだ。もし国内の投資家が買わなくなったら、世界で誰も買う人はいなくなる。経常収支が黒字だとか、国内の消化率が高いといったことは、何の保証にもならない」

財政再建のゴールは、はるかかなた

 一方、日本政府は、2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化することを目標として掲げている。一応これが財政再建が軌道に乗る第一歩だとすると、われわれは、2020年前後をゴールとして、自力で財政再建への筋道をつけられるのが先か、市場の信認を失うのが先かという競争をしているのである。

第3のポイント
消費税の引き上げはもはや当然だが、それでも財政再建には不足

 財政再建の大前提はプライマリーバランスを均衡化することである。われわれは、過去の借金を背負ってこれを処理していく必要に迫られている。そのためにはまず、われわれ自身が借金を増してはならない。それがプライマリーバランスの均衡である。しかし、政府自身が試算で明らかにしているように、消費税を10%まで引き上げ、かつ名目成長率3%が実現したとしても、2020年度の基礎的収支はかなりの赤字が残る。

 このことは、消費税を引き上げるとともに、歳出構造の見直し、特に社会保障関係費の見直し・合理化がどうしても必要だということを意味している。

(補足すると)これまで、消費税の10%への引き上げをめぐって大きな議論が繰り返されてきた。こうした議論を聞いていると、知らず知らずのうちに「消費税を10%に引き上げると財政再建は軌道に乗るのだろう」と考えがちだが、それは全く違う。プライマリーバランスを黒字にするためには、さらなる努力が必要であるし、そのプライマリーバランスの黒字化でさえも、財政再建の第一歩にすぎないのだ。全く財政再建の道は長く、ゴールは、はるかかなたなのだ。

第4のポイント
消費税率の引き上げは景気に悪影響があることは否定できないが、それは耐え難いほどの大きさではない

 消費税率の引き上げは「増税」なのだから、景気にマイナスであることは当然である。消費税を引き上げると、物価が上昇し、家計の実質所得が減少するから、消費が落ちることになる。

 問題はその程度である。内閣府経済社会総合研究所の計量モデルによって消費税率を1%引き上げた場合の影響を測定してみると、成長率は0.15%低下し、物価(民間消費デフレータ)は0.74%上がり、財政バランス(財政赤字の名目GDP比率)は0.42%ポイント改善する。(国会ではこの結果をまとめた表も示しているが、これは5月30日の本コラム「景気が良くても悪くても消費税の影響は同じ」で紹介したものと同じである)

 この結果に基づくと、次のようなことが言える。

消費増税で税収が減ることはありえない

 第1に、消費税の引き上げだけで1997〜98年のような大不況に陥ることはありえない。確かに97年4月に消費税率を引き上げた後、成長率は96年度2.7%→97年度0.1%→98年度マイナス1.5%と大きく低下していった。しかし、97年度の消費税率の引き上げは2%だったから、成長率は0.3%低下する程度であったはずだ。この時の成長率の低下には、消費税以外の要因が作用していたとしか考えられない。

 第2に、消費税の引き上げによって景気が後退し、かえって税収が減るということはありえない。消費税の引き上げで景気が後退することは事実であり、それによって消費税以外の税収が減ることも事実である。しかし、前述の計量モデルの計算は、こうした間接的な影響を含めても、やはり消費税率を引き上げれば税収は増え、財政バランスが改善することを示している。

 第3に、景気の局面によって消費税の負担が軽くなったり重くなったりするということはない。例えば、3%消費税を引き上げれば0.45%程度成長率が低下するのだが、この成長率の低下は、景気が良い時でも、悪い時でも同じである。しばしば、消費税の引き上げは景気の好転を待って実施すべきだという指摘があるが、景気が良くなったからと言って、消費税の負担そのものが小さくなるわけではない。

第5のポイント
財政再建と共に、成長戦略の着実な推進により、サステナブルな形で成長率を引き上げていくことが必要

 財政再建は言うまでもなく重要なことだが、成長を図ることも同じように重要である。日本経済は、2012年度は復興需要に支えられて、比較的高めの成長が見込まれているが、復興需要は一時的なものであり、当面の景気は明らかにサステナブル(持続可能)なものではない。

 財政再建と経済成長は、二つの独立した政策目標なのであり、「財政が赤字だから成長政策を緩めて良い」というわけではないし、「成長すれば財政再建策は講じなくてもよい」というわけでもない。この二つは同時に追求すべき政策目標なのである。

ほとんど一致した参考人4人の見解

 私が国会で冒頭述べた見解は以上である。同じように他の3人も15分ずつ意見を述べたのだが、この4人の意見陳述の内容は、次のような点で驚くほど一致していた。

 第1に、全員が消費税の増税は当然必要という意見であった。言うまでもなく、財政の再建が急務だからだ。

 第2に、消費税を上げれば景気にマイナスであることについても同意見であった。小塩氏は「経済学者の中には、消費税を上げると将来不安がなくなるので成長にプラスだという人もいるが、額面通り受け止める必要はない。何といっても増税なのだから、経済にある程度のマイナスとなるのは当然だ」と述べたし、五十嵐氏も、3%の引き上げによって成長率は0.5%程度低下するという試算を紹介した。これは前述の計量モデルの計算(3%引き上げれば成長率は0.45%低下する)という計算結果とほぼ同じだ。

 第3に、消費税の逆進性対策として、食料品に軽減税率を適用するという案については、全員が反対であった。この点はわざわざ民主党の勝又恒一郎議員が4人の参考人に1人ずつ見解を質したのだが、4人とも明確に反対した。この点については次回で詳しく取り上げる。

 第4に、問題は消費税を上げた後であるという指摘も共通していた。私は前述のように、「今回の消費税の引き上げでは財政再建に全く足りない」と指摘し、小塩氏は「今回の税・社会保障改革でようやく議論のスタートラインに立ったと認識すべきだ」と述べ、五十嵐氏は「今回の消費税引き上げで、実はそれほど財政赤字が減らないことが分かってきた時が心配だ」と述べた。

 そして、この後繰り広げられた、各党代表者との質疑においても、上記4点については議員の側からこの点を質すような意見は出なかった。ということは、この4点については、参考人だけでなく、国会議員の方々もほぼ同意見という印象を受けた。

 このように、一人ひとりの議員の方と議論すると、上記4点のような健全な常識的見解で意見が一致する。にもかかわらず、政党間、党内グループ間の議論になると、意見が対立して紛糾するのはなぜなのか。これが国会の議論を聞きながら私が抱いた大いなる疑問であった。この点については、次回、意見陳述の後繰り広げられた質疑の模様を紹介しながらさらに考えてみたい。

(次回も、参考人質疑の模様を紹介します。掲載は7月4日の予定です)。


小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか

進まない財政再建と社会保障改革、急速に進む少子高齢化、見えない成長戦略…。日本経済が抱える問題点は明かになっているにもかかわらず、政治には危機感は感じられない。日本経済を40年以上観察し続けてきたエコノミストである著者が、日本経済に本気で警鐘を鳴らす。

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小峰 隆夫(こみね・たかお)


法政大学大学院政策創造研究科教授。日本経済研究センター研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか』、『超長期予測 老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図』『女性が変える日本経済』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』ほか多数。新著に『最新|日本経済入門(第4版)』

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120622/233699/?ST=top  

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