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ユーロ圏の危機は20年解決できない   キプロスの未来:ギリシャかノルウェーか? 欧州ガス事情に安堵するロシア
http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/825.html
投稿者 MR 日時 2012 年 7 月 10 日 06:52:15: cT5Wxjlo3Xe3.
 

Financial Times
ユーロ圏の危機は20年解決できない
2012.07.10(火)


(2012年7月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

欧州理事会から「歴史的」な声明文が発表された後にリスクの高い資産を買うのは一体どんな人たちなのか、筆者はかねて不思議に思っていた。声明を材料にした上昇相場は数時間で終わることもあれば、数日間で終わることもある。

 先日の上昇相場は1週間もたなかった。イタリア国債とスペイン国債のスプレッド(利回り格差)は今、首脳会議前のレベルを上回っている。

間違った方向に大きく踏み出したEU

 欧州連合(EU)は先の首脳会議で、銀行同盟に向けた道筋で合意して正しい方向に重要な一歩を踏み出したが、危機の解決については十分なことができなかった、というのが識者や市場関係者のコンセンサスだった。

 これには同意できない。筆者はむしろ、EUは間違った方向に非常に大きな一歩を踏み出したと考えている。


首脳会議の結果から論理的に考えるなら、ユーロ圏の危機は20年間は解決できないことになる・・・〔AFPBB News〕

 今回の首脳会議は危機解決に向けて具体的な決断を下したが、これは将来の決断に左右される内容になっている。そして、この将来の決断は合意に達するのがさらに難しく、それゆえ失敗に終わる可能性も高いからだ。

 首脳会議では、完全な銀行同盟が成立するまで銀行への資本注入を共同で行うことはしないことが決まった。そしてドイツ連銀は、政治統合が行われない限り銀行同盟はあり得ないとクギを刺した。

 従って、論理的に考えるなら、この危機は20年は解決されないことになる。

 今では、ドイツにはユーロ圏共通の預金保険制度に同意するつもりがないことが分かった。そしてドイツは、欧州安定メカニズム(ESM)に銀行免許を付与してレバレッジをかけられるようにすることにさえ同意できずにいる。

重要な分岐点を越えてしまったドイツの政治

 ドイツが現時点で必要最小限のことさえ実行できないとしたら、政治統合に同意できるなどとどうして考えられるのだろうか? これは、今後5年間で飲酒をやめるというアルコール依存症患者の約束よりも信用できない。

 ドイツでは、ユーロ救済を巡る政治が重要な分岐点を越えた。辛うじて過半数を超える国民がまだユーロを支持しているものの、過半数は追加の救済に反対している。

 Ifo経済研究所のハンス・ウェルナー・ジン所長をはじめとする160人のエコノミストのグループは先週、銀行同盟に反対する声明文を発表した。声明文は怒りの叫びに満ちていたが、この文書の重要性は、大多数の見解を反映しているということだ。

 これに対するドイツのアンゲラ・メルケル首相の答えは、示唆に富んでいた。首相は心配することは何もないと言い、銀行同盟の目的は共同監視だと述べた。共同の預金保険制度は設けないということだ。

 メルケル首相の銀行同盟の理解は、欧州中央銀行(ECB)のそれとは大きく異なる。筆者の見るところ、この新たな銀行同盟が対象とするのは、せいぜい上位25行の大手銀行で、スペインの貯蓄銀行(カハ)やドイツの州立銀行(ランデスバンク)は国家の管理下に残すことになる。これはまるで、今後は高級コニャックしか飲まないと約束するアルコール依存症患者のようなものだ。

 求められている銀行同盟は、ドイツが受け入れない類のもの、すなわち中央による規制と監督、共通の再建基金、共通の預金保険制度を備えた銀行同盟だ。こうした同盟を構築するには、何年もの歳月を要する。適切に実行するなら、各国憲法の改正が必要になるだろうし、ECBの役割を再定義するためにも欧州条約の改正が必要になる。

 歴史上最も大きな欧州統合となるプロセスの成功が条件となる危機解決策を定めることは、よもや正気の沙汰ではない。

イタリアとスペインの首相が首脳会議で訴えるべきだったこと

 10年物国債の金利が6%を超えている状況では、イタリアもスペインもユーロ圏の一員としての地位を維持できない。これこそが、先の首脳会議でイタリアのマリオ・モンティ首相とスペインのマリアノ・ラホイ首相がメルケル首相にはっきり述べるべきことだった。

 モンティ、ラホイ両首相は、政策が変更されないのであれば、両国政府はユーロ圏からの離脱に向けた準備を始めるとメルケル首相に告げるべきだった。危機の解決には、公的部門と民間部門の双方におけるユーロ共同債(あるいは何か別の形の債務の相互化)と、ECBによる国債購入が必要だ。ドイツは前者を認めておらず、ECBは後者を認めていない。

 もし何かが持続不能であり、自己修正もしないのであれば、取るべき行動は2つしか残されていない。1つ目は、状況が破綻を来たすまで辛抱強く待つことだ。この戦略を追求しているのが欧州理事会であり、アルコール依存症患者だ。

 もう1つは、離脱に向けた準備に着手し、その過程でユーロ崩壊の引き金を引かないよう注意することだ。国内法や欧州の法律で数百件もの法律違反を犯すことなく、ユーロから離脱する道筋は想像できない。誰も離脱していないのは、このためだ。離脱の弁護には、「不可抗力」を訴えるしかない。

 ユーロの創設には、10年の歳月がかかった。解体するにも、長い週末以上の時間がかかるだろう。ユーロが崩壊すれば、現代では最大の経済的ショックとなる。だが、解体に関する悪い選択肢のリストの中でも、一部の選択肢は他の選択肢よりましだ。こうした選択肢については、今後のコラムで論じていきたい。

ある意味では「歴史的」な首脳会議だった

 筆者は昨年11月、欧州理事会がユーロを救うには、あと10日間しかないと書いた。もしあの時、銀行同盟と財政同盟に向けた基礎を築いていたら、理事会は今、銀行の資本増強と国債購入から成る効果的な危機解決戦略で合意する立場にあったかもしれない。欧州理事会は当時、基礎作りをしなかった。その結果、今、危機を解決する立場にない。

 筆者が先の首脳会議から読み取ったメッセージは、ユーロ圏は危機を解決しない、というものだ。その意味では、確かに「歴史的」な会合だった。

By Wolfgang Münchau
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35628


 

 キプロスの未来:ギリシャかノルウェーか?
(英エコノミスト誌 2012年7月7日号)

キプロスは、欧州連合(EU)と自国が危機にある時にEUの舵取り役についた。

ガバナーズビーチの熱く浅黒い砂浜に立てば、キプロスが抱える問題と、将来の繁栄への夢、そして政治的な不確実性を同時に目にすることができる。砂浜と海と新鮮なイカは昔から外国人を引き付けてきた。以前は主に英国人だったが、近年は、キプロスの銀行に預金を隠しているロシア人が増えている。

 入り江の向こうにはヴァシリコス発電所がそびえている。2011年に、すぐ近くに不用意に放置された弾薬が爆発し、大きな被害を受けた発電所だ。水平線の彼方には、豊富な海底天然ガスが眠っている。この天然ガスは、もうすぐヴァシリコス発電所にパイプラインで送られるかもしれない。

救済申請とともにEU議長国になった小国

 ヴァシリコスでの爆発事故と銀行の問題は、キプロスがユーロ圏で5番目の救済申請国となった理由の一端を説明する。


キプロスが今のタイミングでEU議長国を務めることに懸念を表明する向きもある〔AFPBB News〕

 運命のいたずらか、トロイカ(欧州委員会、欧州中央銀行=ECB、国際通貨基金=IMFで構成される調査団)がキプロスを訪れたのと時を同じくして、キプロスは持ち回りによる欧州連合(EU)の議長国の役割に就いた。

 ガバナーズビーチから見れば、アテネよりもダマスカスやエルサレムの方が近い。しかし人口わずか85万人の(ギリシャ系キプロス人による)この共和国は、これから6カ月間、EUの運営に携わることになる。

 EU本部は、その見通しに苛立っている。キプロスのEU加盟は、島北部のトルコ系住民による国家と、国際的に承認されている南部のキプロス共和国の統合協定が結ばれるまで認めるべきでなかったと考える人は多い。

 EUとNATOとの関係は、両キプロスの対立によって麻痺している。EUとトルコとの関係は、キプロスが議長国になる前から険悪だった。これからは部分的に凍結するだろう。

 懸念する理由はもう1つある。ドイツのタブロイド紙「ビルト」は簡潔にこう書いた。「破綻した島が欧州の権力を握る」

 共産主義政権のディミトリス・フリストフィアス大統領は、キプロスのための救済策の交渉と、危機により迫られているユーロ圏統合の困難なプロセスの両方をさばけるだろうか? 債務国が、債権国による中央統制強化の要求を公平に処理できるだろうか? 

 恐らく幸いなことに、持ち回りの議長国の重要性は、2009年のリスボン条約以来小さくなっている。EUの首脳会議と外務相会議、またユーロ圏の財務相会議にも、常任の議長がいる。

 キプロスの閣僚たちは、他国と同じようにEUの仕事をこなせると主張している。外交官たちは、キプロスの行政は英国の植民地行政官の手腕を継承していると訴える。

爆発事故とギリシャ危機で窮地に


昨年7月、キプロス南部マリで、爆薬倉庫の爆発が飛び火し、煙を上げる発電所〔AFPBB News〕

 だが、そうしたキプロスの評判は、ヴァシリコスでの爆発でひどく傷ついた。

 2009年に、国連禁輸措置に違反してイランからシリアに向かっていた船舶から、弾薬や軍需品を満載した輸送コンテナ100個近くが押収され、2年近くにわたってヴァシリコス発電所に隣接する海軍基地に積み上げられていた。

 このコンテナが爆発した事故では、13人が死亡。南部の発電量の半分近くが吹き飛び、ただでさえ停滞していたキプロス経済は2度目の景気後退に陥った。

 損害を受けた発電所はタービンを1台ずつ修復している最中で、2013年までには完全に回復する見込みだ。だが経済の再建にはもっと長い時間がかかるだろう。

 キプロスは、2011年に債券市場から締め出され、ロシアから得た短期融資も急速に底を突きかけ、もはや救済を求めるしかなくなった。

 キプロスのヴァソス・シアルリ財務相にとって、危機の引き金を引いたのはヴァシリコスでの爆発事故だけではない。「ギリシャで金融の核爆発が起こり、我が国がその爆発に巻き込まれた最初の国となった」

キプロスの銀行はギリシャに対して多額のエクスポージャー(投融資残高)を抱えていた。ユーロ圏では、民間のギリシャ国債保有者に対して「自発的な」ヘアカットが課されたために、キプロスの銀行は同国の国内総生産(GDP)の25%に相当する巨額の損失を被ったと、シアルリ財務相は言う。

 だが、キプロスは現在の難局すべてを、事故や他国だけのせいにできない。キプロス経済は、世界金融危機が勃発するまで安定して成長していた。だが、その好景気は持続可能ではなかった。長年続く経常赤字はますます大きくなっていた。小さな島の経済なので、必需品のほとんどは海外から買える。


キプロスのリゾート地、アヤナパのニッシビーチでバケーションを楽しむ観光客〔AFPBB News〕

 だが、観光業とサービス業の伸びは、輸入の拡大に追い付いていなかった。特にメルセデスの自動車は首都ニコシアの道路にあふれ、渋滞を引き起こしている。

 企業と家計は巨額の借金を抱えている。そして、政府債務は、気前の良すぎる公務員への給与や手当の支払いで膨らんでいる(物価スライドによる昇給が年2回ある)。その一部はロシア、ウクライナ、セルビアからの預金によって賄われた。

 だが、トロイカがキプロスの銀行を精査し、ユーロ圏も銀行の集中的な監督に向かっている今、キプロスは魅力を保てるだろうか?

空中を漂う新たなにおい

 それでもなお、シアルリ財務相は明るい未来を描く。「1日が経つごとに、天然ガスのにおいをかぐ日が近付いてくる。そのにおいは美しい」。シアルリ財務相によると、キプロスは2017年までに天然ガスを生産するようになり、その2年後に輸出を始めるという。

 キプロスは既に、政府系ファンドを組んで将来世代のために炭化水素が生み出す財産を管理するというノルウェーの方法を学んでいる。

 理想的な世界であれば、東地中海でのガスの発見は、紛争地域に協力関係をもたらす可能性がある。北キプロスには、天然ガスの収入を分け合う動機があるかもしれない。キプロスは、トルコと欧州を結ぶ既存のパイプラインに連結する合意を取り付けるかもしれない。

 逆に、天然ガスが地域の緊張を高める可能性もある。トルコはキプロスの一部の海底採掘権に異議を唱え、武力行使をちらつかせている。イスラエルはまだレバノンとの間で排他的経済水域を確定していない。

天然ガスが変える地政学

 トルコとイスラエルの対立で、イスラエルはキプロスに接近している。この政略結婚は、一部で予測されているように、イスラエルがキプロス経由で天然ガスを輸出することを決断すれば、より恒久的な同盟になるかもしれない。一番可能性が高いのは、ヴァシリコスでガスを液化するという方法だ。

 天然ガスはこの地域の地政学を変えつつある。うまくいけば、東地中海はミニ北海のようになり、欧州にとって安全なエネルギー供給源となる。しかし悪くすれば、ミニ湾岸地域のようになり、欧州の境界線上の不安定地域になるかもしれない。

 EUは比較的早い段階で、キプロスを政治的な厄介者、経済的負担と考えるのではなく、戦略的利害関係を持つ国と考えなければならなくなる。欧州にとって今こそ目を覚まし、ガスのにおいをかぐべき時だ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35622

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120705/234158/?ST=print
欧州ガス事情に安堵するロシア
2012年7月10日(火)  FINANCIAL TIMES

ロシアへのエネルギー依存から脱却すべく、シェールガスに期待を寄せる欧州各国。だが、その採掘手法による環境汚染の懸念から、探査を禁止する国が相次ぐ。欧州の「シェールガス革命」到来が遠のく中、ロシアは安堵し始めているようだ。

昨年は欧州のシェールガス開発に神経を尖らせていたプーチン氏だが...(写真:Mikhail Klimentyev / RIA-Novosti / AP / アフロ)
 「欧州におけるシェールガスの開発は、欧州に天然ガスを輸出しているロシアの国営ガス会社ガスプロムにとってどれほど脅威となると思うか」――。昨年末、ある夕食会の席で、当時首相だったウラジーミル・プーチン氏はこんな質問を受けた。
 気にくわない質問だったようで、気色ばんだプーチン首相はノートを鷲づかみにすると、シェールガスの開発に使われる「水圧破砕法」という論争の的となっている採掘手法がどんなものか図を描いてみせた。そして、その図をペンで突つきながら、欧州各国の人々が、地下水汚染の可能性というその環境リスクを理解すれば、破砕法の使用は禁止されるだろうと警告した。
夢破れたポーランド
 ガスプロムの経営陣も似た説明をしていた。だが、その強気な態度の裏には、彼らがこの「非従来型」のガスが米国で起きたのと同様の大変革を欧州のガス産業にもたらすのではないかという強い不安を抱いている様子が感じられた。そんなことが起きれば、欧州がロシアから天然ガスを輸入する必要性が激減するからだ。
 しかし、半年を経た今、欧州におけるガスプロムによるエネルギー支配に対するシェールガスの挑戦は、大したものではないことが分かってきた。
 米石油大手エクソンモービルが6月下旬、試掘井から期待したほど十分な天然ガスが得られないとして、ポーランドにおけるシェールガス探査から撤退した。この事実は、エネルギーをロシアからの輸入に頼らなくて済むようにしたいというポーランドの希望をさらに打ち砕くこととなった。
 というのも、その3カ月弱前には、ポーランドの国立地質学研究所がシェールガスの推定埋蔵量を90%引き下げていたからだ。
 新たに弾き出された推定埋蔵量は3460億〜7680億立方メートル。これでも、ロシアからの輸入がガス消費量の70%を占めるポーランドにとっては、輸入量を大幅に削減できる。

ポーランドのシェールガス開発に取り組む同国のガス会社PGNiG(写真:ロイター/アフロ)
 だが、ポーランドが昨年望んでいたように、「ガス輸出大国」に転じるという夢の実現は難しそうだ。米国のある機関は昨年、ポーランドに眠るシェールガスの埋蔵量を5兆3000億立方メートルと推定した。ポーランドの「ガゼタ・ビボルチャ」紙は、同国が「欧州の天然ガス王」となるのには十分な量だと報じた。
 ポーランドが発行した109件のシェールガス採掘許可のうち、エクソンが保有するのはわずか6件。米シェブロンや米コノコフィリップスといった企業は、まだ同国でシェールガス開発に取り組んでいる。ポーランド政府は、国内企業のPKNオーレンやPGNiGなどがシェールガスを開発するのを後押ししている。
欧州で相次ぐ水圧破砕の禁止
 しかし、エクソンのポーランド撤退は同国にとって痛恨だった。エクソンは撤退を表明したわずか数日後に、西シベリアに眠る「タイトオイル(シェールオイル)」をロシアの石油最大手である国営ロスネフチと共同開発することで合意したと発表。しかも、この開発にはプーチン氏が昨年激しく非難した水圧破砕法が使用される。
 欧州ガス業界は、それでもポーランドでの事態の推移を注視している。ポーランドは、大規模なシェールガス層を抱え、水圧破砕法を禁止していない数少ない国の1つだからだ。プーチン氏が予言した通り、地中の頁けつ岩がんに水と砂と化学薬品を高圧で注入して岩盤に亀裂を作り、ガスを採取する水圧破砕法については、少なくとも一時的に禁止にするという動きが広がっている。
 コンサルティング会社IHSエナジーは、昨年フランスが水圧破砕による石油・ガス開発を禁止したことで、ドミノ効果が生まれていると言う。ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州(ドイツで最も有望なシェール層がある)やブルガリア、ルーマニアがフランスに追随したのだ。チェコ上院は現在、禁止するかどうかを検討中だ。
 IHSエナジーの在モスクワアナリスト、アンドリュー・ネフ氏は、「欧州では、シェールガスが特効薬となって、欧州へのガス供給におけるガスプロムの役割は小さくなると見られていた。(主要な)シェールガス層があるのは、ロシア産ガスに大いに依存している国ばかりだからだ」と語る。
 唯一シェールガスの探査が始まっているのはウクライナだ。ウクライナはガスプロムにとって最大の市場だが、2006年以降2度にわたって、ガス価格を巡る争いのために、ガス供給を止められたことがある。
 ウクライナ政府は5月、かなり大きなシェール層の探査権をシェブロンと英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェルに与えたが、生産が実際に始まるのは先の話だ。ウクライナでは、一般家庭に販売される国内産ガスの価格を市場価格より抑え、その差を国家予算で埋め合わせている。このことがシェールガス生産に対する投資を抑制している。
難しい選択迫られるウクライナ
 逼迫する財政状況を打破するため、ウクライナは国際通貨基金(IMF)に156億ドル(約1兆2400億円)の融資を再開してもらう条件として、家庭向けガス価格の引き上げを余儀なくされるかもしれない。
 だがこの政策は国民の支持を得られないだろう。もう1つの選択肢は、ロシア産ガスをより低価格で仕入れることだ。だが、そのためにはウクライナを横切るガス輸送用のパイプラインを売ってほしいというガスプロムの要求をのまなければならない。その場合、ウクライナのロシアへの依存度は高まり、シェールガスは恐らく採算が合わないままとなるだろう。
 欧州のシェールガス産業は、それでも重要な可能性を秘めている。エクソンがポーランドで経験したように、欧州の岩盤から商業ベースの量のガスを取り出すのは、米国よりも難しいかもしれないが、技術は今後向上する。同時に、欧州連合(EU)が水圧破砕法の規制基準を定めれば、その基準に見合った範囲で水圧破砕法を利用する道が開けるかもしれない。
 しかし、欧州にシェールガスブームが到来するには、まだ時間がかかりそうだ。また、期待されたほど業界にとっての「金の卵」にもなりそうにない。従って今のところは、ガスプロムもプーチン大統領も、それほど目くじらを立てる必要はないということだ。
Neil Buckley
(©Financial Times, Ltd. 2012 Jun. 21)
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01. 2012年7月11日 12:13:12 : 3CNLte9sGM
主役欠席の中で「ドイツ包囲網」が生んだEU首脳会議の成果

財政統合にステップアップした「国境を越えたリストラ」

2012年7月10日(火)  渡邊 啓貴

 6月28〜29日の両日開催されたEU首脳会議は、スペイン・イタリアの財政危機に対する当面の対応と経済成長協定を取り決めて、一応成功裏に終了した。

 奇妙な会議であった。何しろ主役のいない会議だったからである。ユーロ危機はギリシャの財政危機に端を発している。5月の総選挙では緊縮派が大きく得票を減らし、「ユーロ離脱か」と騒がれた。この6月の再選挙を経て緊縮派のサマラス政権が成立したことで、ギリシャの政治危機はとりあえずの危機を免れた。そのギリシャの代表が今回の首脳会議に実質的に「欠席」。このため、ギリシャ問題は議論しないということが事前に決まっていた。

 他方で新たな危機に直面しているスペインとイタリアに対する支援策が前面に出た。

 欧州経済は緊縮と成長のジレンマに悩んでいる。だがEUはこれまで、危機に直面するたびに、それをバネとしてステップアップを繰り返してきた。今回の首脳会議でも、銀行同盟・財政統合の議論をめぐって、独仏の摩擦、「南北欧州の角逐」が生じた。たが、ともかく次の一歩の方向性は確認した。その意味で、欧州統合の「ガバナンス」の真骨頂を示したと言えよう。

綱渡りが続くギリシャ危機

 世界は6月17日に行われたギリシャでの再選挙を、固唾を呑んで見守っていた。結果次第ではギリシャがユーロから離脱する懸念があったからである。ギリシャに対する次の融資は6月末。それまでにEUと合意した116億ユーロの歳出削減策をまとめねばならなかった。だが、再選挙で反緊縮派が多数派になった場合には紆余曲折が予想されたからである。

 幸い、6月の再選挙では、緊縮派の「新しい民主党(ND)」が第1党に、同じく緊縮派の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が第3党となり、合わせて過半数の162議席を獲得した。これらを与党として、アントニス・サマラスND党首を首班とする連立政権が誕生した。

 この選挙結果について間違ってはいけないのは、ギリシャ国民が緊縮政策を受け入れたのではない、ということだ。国民は、ユーロ離脱という最悪のシナリオを避けるため、やむを得ない選択を行った。5月の選挙において、反緊縮派の「独立ギリシャ人」に投票した人の約21%、ユーロ離脱を主張する極右政党「黄金の夜明け」に投票した人の18%が、今回はNDに投票したという調査結果が出ている。

 ギリシャでは、「自分たちはむしろグローバリゼーションの犠牲者である」という声も強い。サマラス首相が率いるNDに投票したのは、EUとの間で結んだ厳しい緊縮政策について、「再交渉」すると同党が公約したからであった。国民はこれに期待した。

 6月23日にサマラス新政権は、これらの緊縮策を見直す提案を発表した。緊縮目標達成期限の2年間、先送りする。公務員15万人削減計画と、付加価値税の一部引き上げ(23%から9%へ)も延期する。

 6月21日に開かれたユーロ圏財相会議では、ギリシャについて実質的な決定は何もしなかった。ユンケル・ユーログループ代表は「合意計画の変更はない」と断言した。

 6月末のEU首脳会議では、ギリシャに対する融資条件が、喫緊の話題のひとつとなるはずであった。ところが、ギリシャ新政権の首相と財務相が健康上の理由からそろって欠席。会議前に行われる予定だった、EU基金の代表団――IMFとEU、ECB――によるギリシャ視察も実現していなかった。奇妙な話ではある。

 支援を受けつつ緊縮政策を実施していかねばならないギリシャにおいて、国民の感情が萎えていることは、ギリシャ経済の将来を今後さらに深刻化させる可能性を秘めている。経済システムだけではなく、ギリシャ国民の政治的、心理的側面を修復するための努力が不可欠であろう。

ユーロ圏の「南北格差」

 ユーロ圏においてこうした苦境にあるのはギリシャだけではない。ユーロ圏では今や、南北格差が明白なのである。

 OECD(経済協力開発機構)が5月下旬に発表した予測によると、2012年のユーロ圏全体のGDP成長率はマイナス0.1%。このうちドイツとフランスの成長率はそれぞれプラス1.2%とプラス0.6%(仏政府の6月発表では、フランスは0.4%)。これに対して、イタリアの成長率はマイナス1.7%、ギリシャはマイナス5.3%となっている。ポルトガルとスペインの成長率はEUROSTATの調査によれば、それぞれマイナス3.2%、マイナス1.8%である。

 2013年について見ると、ドイツはプラス2%、フランスはプラスは1.2%(同1.3%)。イタリアはマイナス0.4%、ギリシャはマイナス1.3%である。

 少し煩雑だが、もう少し数字を並べる。2012年の失業率はスペイン24.3%、ギリシャ21.7%、ポルトガル15.2%、アイルランド14.2%(IMF統計)。2012年のGDPに対する政府債務の比率が110%を超えるのは、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガルとなっている。

 なかでも、ギリシャについで欧州理事会前に危機感を強めたのがスペインであった。不動産バブルがはじけて巨額の不良債権に苦しむ大手銀行バンキアに対して資本注入するため、スペイン政府は国債を担保にECBなどから資金を調達する手段をECBに対して提案した。ECBは「中央銀行が、各国財政を直接支援することを禁止する」したEU条約を盾にとって、いったんはこれを拒否していた。しかし切迫する実情にかんがみて、EU基金から1000億ユーロを融資すると6月9日に決定した。

 ただし、具体的にどのような形で融資を実施するかについては、首脳会議前に合意できていなかった。ギリシャの政府首脳が欠席したため、首脳会議における議論がこの点に集中した。

 スペイン経済の苦境は外国資本の逃避にも歴然と表れている。2011年11月から2012年春までに、スペイン国債における外国投資家の保有率は約55%から38%にまで下がった。スペイン10年債の利回りは5月末には6.5%を、6月には7%に達した。7%を超えると、一般に持続不可能な水準と言われる。いっぽうのドイツ10年債利回りは5月末に過去最低の約1.2%となった。フランス同債の利回りは、5月6日の大統領選挙前には2.83%だったものが5月下旬には2.32%となった。

用意周到に準備されたEU首脳会議

 6月末のEU首脳会議は、実は、南欧諸国および彼らに組したフランスと、ドイツとの立場の相違が背景にあった。

 ギリシャ不在の首脳会議の目玉は、この7月に発足する欧州安定メカニズム(ESM)が、ユーロ加盟国が発行した多額の国債を抱えて苦しむEU域内の銀行に対して、直接資金注入をできるよう決定したことであった。不安定なスペインの財政を救済するための措置である。ESMは本来、各国の政府に対して融資する。しかし、スペイン政府に融資すると、同国の政府負債がさらに膨らんでしまう。これを回避するための決定であった。

 加えて、イタリアの要求も同様に受け入れた。デフォルトの懸念のあるイタリアとスペインの国債をEU基金が市場で買い支えることにした。これにより、市場の攻撃にさらされていたスペインをはじめとする各国の国債市場は落ち着きを取り戻している。翌日の両国の国債相場は上昇し、利回りは低下した。

 銀行への直接資金注入にはドイツが反対していた。しかし、「銀行同盟」を年内の早い時期に実現することと引き換えに、直接資金注入に関する合意が成立した。「銀行同盟」は、銀行監督機能と預金保険制度をユーロ圏内で統合するという提案である。何はともあれ、、財政統合への一歩を踏み出した。

 EU首脳はこのほか、以下の政策にも合意した。1)EU加盟国のGDPの1%(1200〜1300億ユーロ)を成長目的に支出する成長協定の締結。2)ユーロ圏において財政危機に苦しむ諸国に対する資金援助のために欧州投資銀行の貸付枠組みを拡大する。3)EUからの資金捻出、4)プロジェクト債を発行する、などでも合意した。

ドイツ「包囲網」の形成

 実はこれらの諸決定の多くに対して、ドイツは首脳会議前、「ノー」の姿勢を示していた。関連諸国が事前に根回しを巧みに行い、ドイツを説得した成果が、今回の首脳会議における決定であった。

 実はこの決定には一幕の演出があった。EU首脳会議の初日である6月28日、市場では、スペインの10年物国債の利回りが、危険域と言われる7%を超えてしまった。スペインはこの機会を逃さなかった――同国はEU首脳会議の前に、EU基金によるスペイン国債の買い戻し実質的な肩代わりを提案したが、EUに拒否されていた。同夜ラホイ・スペイン首相とモンティ・イタリア首相が、昼間の会議で既に合意していた成長協定への調印を拒否。国債の利回り上昇への対策を迫ったのである。

 フランスのフランソワ・オランド大統領は即座にこれに対応。翌日に議論する予定だった危機対策を、晩餐会後に急遽、討議することにした。成長戦略の旗振り役として、オランド大統領も動かざるを得ないという展開に表向きはなったからである。

 緊縮財政の主唱者であるメルケル独首相は安易な資金投入には当然反対である。議論は白熱し、29日の夜明けになってようやく合意に達した。最終的にドイツが同意したのは、先に述べた銀行同盟の早期実現について各国が合意したからであった。

 この首脳会議の演出には複線があった。実は6月半ばに、オランド大統領はローマを訪問し、仏伊両国の立場の一致を確認した。モンティ首相は当初、緊縮派であったが、最近になって成長重視を強調するようになり、オランド大統領と歩調を同じくしている。

 この仏伊会談を受けて22日、独仏伊西の4カ国首脳会談がローマで開催された。そこで28日に控えたEU首脳会議で合意する内容について確認した。先の欧州投資銀行やEU構造基金による銀行への資金注入やスペインへの融資などについて、ドイツは合意した。しかしユーロ共同債や支援の方法については、メルケル首相は了承しなかった。銀行同盟についても、当初は「政治統合優先」を説いて孤立していた。

 EU首脳会議を翌日に控えた27日には、仏独首脳会談が行われた。メルケル首相は、1)欧州投資銀行による、債務危機にあるユーロ加盟国に対する融資枠拡大、2)EU構造基金の資金利用、3)貯金金庫とドイツの相互銀行を対象から除外した銀行同盟建設という点で譲歩した。他方でオランド大統領は、持論であるユーロ共同債導入を諦めた。これにより両者の妥協が成立した。

 結果として、譲った点が大きかったのはドイツのほうであった。仏独首脳会談直後にフランス側が「両国の間に齟齬はない」と強調するのを尻目に、ドイツ側は「ノーコメント」であったと伝えられる。

欧州統合はガバナンスの問題〜法と経済だけでは語れない

 しかし当面、独仏は連帯を強調する。EU崩壊というシナリオはない。欧州統合の発展は、筆者の表現で言うと「国境を越えたリストラ」である。つまり、どこかの国が困難に直面した時は、他の国が共同で支えあう、簡単に言えばそれだけのことである。しかしそのためには構造改革や制度改革が必要である。協力のための合意のレベルは次第にアップし、収斂の度合いは強くなる。

 わが国のメディアは「緊縮政策」対「成長政策」といった対立的図式で語ることが多い。だが、両者は相互補完的な関係にある。つまり緊縮政策がブレーキだとすると、成長政策はアクセルである。どちらが欠けても、目的地にたどり着くことはできない。

 オランド大統領の戦略はブレーキとアクセルのバランスを調整することにある。決して緊縮と成長を対立させ、二者択一の路線選択をしたわけではない。そして問題となるのが、ガソリンをどこからどのように注入するか、という点である。その妙案のひとつがユーロ共同債の導入である。

 「ギリシャはユーロ離脱か」――投機筋の話としては、顧客の関心を買うシナリオである。だが、ここで離脱するくらいなら、ギリシャはもともとユーロに加盟する必要はなかった――と言っては言いすぎであろうか。つまり経済合理主義では割り切れないところに今般のユーロ危機の肝はある。

 それは、いわば「ガバナンス」の実験だ。法制度上の協力にとどまらす、さまざまなチャンネルを使い、多角的かつ多国間協力によって問題を解決していこうという試みである。EUを議論する時にこの点は忘れてはならない。


渡邊 啓貴(わたなべ・ひろたか)

東京外国語大学国際関係研究所長
東京外国語大学大学院総合国際研究学院教授
在仏日本大使館広報文化担当公使2008−10年

1954年3月1日、福岡県生まれ。
1976年、東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒
1980年、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了
1983年、パリー第一大学大学院パンテオン・ソルボンヌ校 現代国際関係史専攻 DEA修了
国際学修士, DEA

主な著書に『ヨーロッパ国際関係史』(有斐閣、2002年)、『冷戦後の国際関係』(芦書房、1998年)『ミッテラン時代のフランス』(芦書房、1992年)、『フランス現代史』(中央公論新書、1998年)、『ポスト帝国』(駿河台出版、2006年)、『米欧同盟の協調と対立』(有斐閣、2008年)など。

ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。


02. 2012年7月11日 12:13:53 : 3CNLte9sGM
コラム:南欧危機というユーロ圏統合深化のきっかけ=武田洋子氏
2012年 07月 11日 11:49 JST  
トップニュース
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武田洋子 三菱総合研究所 チーフエコノミスト

[東京 11日 ロイター] 将来ユーロ圏の統合深化の過程を振り返る際に、6月末の欧州連合(EU)首脳会議はエポックを画す出来事の一つだったと認識される可能性があると考えている。

具体策はほとんど詰め切れておらず、今後も紆余曲折が予想されるものの、今回の合意内容からは、これまで当面の防波堤を築くことばかりに明け暮れてきた欧州の首脳陣がようやく次の段階に進む「政治の意思」を示したと感じ取れる。

たとえば、欧州安定メカニズム(ESM)が域内の民間銀行に直接資本注入できる仕組みやスペイン支援に関してESM融資返済の優先権を放棄するといった合意内容は、域内での財政移転機能強化(特にドイツから南欧諸国への流れ)に向けてさらに一歩踏み出したことを意味する。

そして、その条件として主にドイツ側が求めた欧州中央銀行(ECB)主導の銀行監督の強化・一元化は、域内銀行の救済・破綻処理などを担う機関設立の道を開き、具体策を詰めていく過程では、預金保険制度の統一化も真剣に議論されていくことになるだろう。ユーロ圏全域の預金者を保護する制度創設まで話が進めば、これはもう財政とかなり1対1の議論だ。

ユーロ圏共同債については依然、ドイツのメルケル首相が「自分が生きている間にはあり得ない」と語るなど表向きは実現する気配はないが、現実の歩みは統合深化の方向へと少しずつ進み始めているように映る。

改めて指摘するまでもないだろうが、そもそもユーロの問題は、通貨は一つでも財政政策はバラバラな点にある。この矛盾を市場に突かれて、財政問題や不良債権問題を抱える南欧諸国の国債が売られているのが現状だ。つまり、スペインの不良債権問題の解決は急務だが、たとえ資本注入などによって目先は事態が収まったとしても、ユーロ圏の危機的状況は再燃し得るということだ。ユーロ崩壊論者たちは、この点に注目している。

ここで、私のスタンスを明確にすれば、そのようなユーロ圏の構造欠陥の大きさと問題解決の難易度の高さを認識しつつも、ユーロ崩壊論に同調はできない。

欧州は経済統合の過程において過去何度も深刻な危機に陥りながら、乗り越えてきた歴史を持つ。しかも、乗り越えるたびに、最後は前に進んでいた。10歩進んで9歩下がるときもあれば、9歩退いて10歩進むときもあった。1992年の欧州通貨危機でイギリス・ポンドとイタリア・リラが欧州為替相場メカニズム(ERM)から離脱した後も、通貨統合の流れは途絶えず、99年には単一通貨ユーロが導入され、そこにはリラも加わった。今回の南欧諸国発の危機も、「雨降って地固まる」の故事そのままに、統合深化へのきっかけとなる可能性が高いと、6月末のEU首脳会議を見て思った。

<ギリシャをユーロ圏に残す意義とは>

そもそも、巷間でいまだに語られているギリシャの離脱シナリオについても、現時点で私は否定的だ。もちろん、未来永劫ないとまでは言い切らないが、以下の理由から、近い将来に起こる可能性は限りなく低いと考えている。

まず、経済的インパクトの大きさだ。確かに、離脱するのがギリシャだけであれば、膿を出す程度にすぎない。だが、事態はギリシャだけでとどまる状況ではない。ギリシャが出れば、市場はスペイン、イタリアと「ネクスト・ギリシャ」を狙い撃ちにしよう。ギリシャだけでも金融システムが相当痛むのに、スペインやイタリアの国債価格の下落に拍車がかかれば、結局損を抱えるのはドイツやフランスの銀行だ。そんなリスクを負う覚悟が欧州の首脳陣にあるのだろうか。

また、ユーロ圏を縮小して、何のメリットがあるのか。ユーロ導入の恩恵を享受してきたのが誰かと言えば、国債利回りが下がった南欧諸国もそうだが、実力よりも低い為替水準で輸出セクターが潤ったドイツ、そしてフランスだ。弱者を追い出したら、その分為替レートが切り上がり輸出競争力の面では独仏も厳しくなる。金融システムと輸出セクターへの二重の痛手を、独仏が自ら選択して受け入れるのだろうか。

さらに言えば、もともとユーロは経済合理性を追求するために生まれたわけではなく、地域の平和と安定のために、「政治の意思」の結晶として作られたものだ。もう一度思い起こしてほしい。東西ドイツ統合を認める代わりに、フランスの故ミッテラン大統領(当時)がドイツのコール首相(同)に要求したことが通貨統合だったことは公然の秘密だ。数百年前の話ならいざしらず、わずか数十年前の政治の先人たちの強い思いを簡単に反故にできるのか(しかも、一部の人たちは存命だ)。

加えて、欧州の対外的な安全保障の面から考えても、単一通貨圏の維持のメリットは大きい。2008年のリーマンショック以降、米国の力が急速に落ち、中国が台頭し、世界が多極化する中で、欧州が各国ごとにモノを言える情勢かと言えば、難しい。域内最大の経済大国であるドイツにしても、その経済規模は日本の6割程度にすぎない。欧州として、ある程度まとまっている必要がある。

むろん、5年先、10年先を見通せば、ギリシャの離脱を許しても、さほど大きなインパクトはないという議論はできよう。経済規模で域内4位のスペインと同3位のイタリアが立ち直りさえすれば、ギリシャ一国が抜けたところで、ユーロは崩壊しないし、上記のメリットも維持できる。つまり、現時点では中核国への危機伝播の可能性が高いことが問題なのであって、ギリシャの離脱そのものが最大の問題なのではない。

<ドイツの頑迷な姿勢は、政治的駆け引きか>

しかし、ユーロ圏の崩壊懸念が杞憂だとしても、今年前半のような危機的な状況が再燃する可能性は私も否定しない。ユーロ圏の根本的問題への対応はまだ始まったばかりであり、銀行監督の一元化など主権国家の根幹にかかわる大作業が続くことを考えれば、物事が一気に進む可能性は低い。統合深化に向けて各国の間で押したり引いたりの駆け引きが繰り返され、その間に財政問題や不良債権問題が何度もクローズアップされ、世界経済のかく乱要因となり続けるであろう(それでも、ユーロ崩壊に比べれば、遥かにましだ)。

欧州の喫緊の課題は、不良債権問題を抱えるスペインの銀行への資本注入を速やかに行うことだ。また、セーフティネットであるESMの規模を迅速に拡大することも必要だ。その結果、各国の財政負担は増えるので、必然的にその次の段階として財政統合をどこまでどう行っていくのかという議論に進んでいくはずだ。

銀行監督の一元化については、具体的な措置と実行の時間軸を決めて、その先には預金保険制度の統一に向けて議論の次元をさらに上げていく必要がある。周縁国から中核国へとバンクラン(大規模な預金引き出し)の連鎖が起こるような状況だけは避けなければならない。日本はバブル崩壊後の1996年から2005年まで預金の全額保護措置を行った。同じことをやるかどうかは別として、ユーロ圏の預金者をユーロ圏全域で支えるという安全網は、危機の伝播を防ぐためには不可欠だ。

このように書くと、域内最大の大国として大きな負担を余儀なくされるドイツが、そのような統合深化をのむはずがないとの反論が聞こえてきそうだ。確かに、報道を見聞きする限り、ドイツは現状でのユーロ圏共同債導入には反対している。しかし、メルケル首相の強硬な発言は、選挙も意識した国内向けのメッセージであることを忘れてはならない。

ユーロが崩壊に追い込まれるような事態へと発展すれば、ドイツ経済にも大きな影響が及ぶことは明らかである。ドイツの頑迷な姿勢は、最終的には財政統合の方向へ進まざるを得ないと知りながらの、南欧諸国との駆け引きであるとむしろ捉えるべきではないか。実際、メルケル首相は、加盟国が財政や経済政策をめぐる権限を移譲すればユーロ圏共同債の検討は可能とも発言している。

<新興国融資では邦銀勢に好機も>

最後に、欧州問題の日本経済への影響について補足しておきたい。まず、その前提となるEU27カ国平均の今年の成長率は、ソブリン問題がだらだらと続くという標準シナリオでは、ゼロから小幅マイナスになると見ている。南欧諸国はマイナス成長で、ドイツはプラス成長。加重平均でほぼゼロ成長になるという計算だ。スペインやイタリア、ギリシャのマイナス成長の幅が大きくなれば、若干のマイナス成長となろう。

このシナリオを踏まえた上で、日本経済の見通しを述べれば、2012年度は復興需要に牽引され、2.1%の成長を達成すると見ている(復興需要の寄与分は1%程度)。中国も含めた海外経済の減速が下振れ要因として懸念されるが、国内では復興需要は着実に出ているし、個人消費も底堅いので、今この段階で景気回復の流れが途切れるとは見ていない。

むろん、市場、金融システム、輸出という3つのルートを通じた欧州ソブリン問題の日本経済に与える負の影響には引き続き注視する必要がある。特に見落とされがちなのは、欧州ソブリン問題の新興国経済への影響だ。新興国における欧州金融機関の信用供与の額は、米国勢や邦銀勢に比べて、ケタ違いに大きい。

今後、欧州系金融機関の経営がさらに厳しくなって、与信圧縮の動きがいっそう加速すれば、プロジェクトファイナンスの減少などを通じて新興国経済に大きな影響を与える可能性がある。実際に与信圧縮の動きは顕在化している。

ただ、視点を変えれば、この状況は邦銀勢にとっては案件によっては好機だと言えよう。欧州に対する見方もそうだが、行き過ぎた悲観論で目が曇っていると、底流の変化に気づかず、チャンスを逃すことになる。

*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)

*本稿は、個人的見解に基づいています。

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03. 2012年7月11日 14:47:21 : 3CNLte9sGM
スペイン小口投資家にも損失転嫁−ユーロ圏支援の見返り条件に
2012年 7月 11日 9:26 JST 

 【ブリュッセル】ユーロ圏財務相会合で合意したスペインに対する最大1000億ユーロ(約10兆円)の金融支援で、救済に付随する見返り条件の草案によれば、スペインは銀行支配の大半の放棄と地元投資家に対する損失転嫁を余儀なくされる見通しだ。

画像を拡大する

Agence France-Presse/Getty Images
ギリシャの造船所で行われた抗議集会
 これら諸条件は、スペイン国内で政治的に大きな反発を招く恐れのあるものもあり、救済対象銀行によって発行された劣後債や優先株の保有者は損失を被る可能性がある。スペインのこうした債券や株式の投資家の大半が銀行の支店を通じて購入した小口の預金者であるとみられている。 

 こうした見返り条件は、6月のユーロ圏17カ国首脳会合での合意に基づき、強力な権限を持つ監督システム確立後に採用されるユーロ圏の銀行の新たな枠組みがどのようなものであるかを初めてうかがわせた。 

 6月のユーロ圏首脳会合では、救済基金が当該国政府を通じてではなく、困難に陥っている銀行に資本を直接注入できるようにする前提条件として、ユーロ圏の監視システム強化で合意していた。最終的にスペイン政府がはるかに巨額の救済を受けないで済むようにする動きだ。 

 しかしウォール・ストリート・ジャーナルが確認した救済合意案によれば、ユーロ圏の支援を受ける見返りに、短期的にスペイン政府が放棄しなければならない支配権がどの程度に及ぶかが記されていた。この救済合意案は今月20日に加盟国財務相によって正式署名される見通しだ。 

 政策立案者たちは、より厳格なストレステストと、欧州委員会と欧州中央銀行(ECB)による監視強化によって、スペインの不動産価格の容赦ない崩落がやっと底を打ち、銀行は不良債権による損失を認識せざるを得なくなろうと述べている。 

 初秋までに実施されるストレステストの後、資本不足の銀行は市場で資金調達するか、あるいは政府からの支援を要請しなければならない。政府はその時までに救済資金を確保することになっている。 

 しかし、決定的に重要なのは、銀行は、投資家との損失分担で合意できない限り、納税者から集められた救済資金が得られないという点だ。 

 合意草案では、損失を分担させられる投資家には株式保有者だけでなくハイブリッド資本(負債性資本)と劣後債の保有者も含まれている。 

 こうした措置の背景には、銀行に注入しなければならない納税者の負担する救済資金の規模を限定することにある。だがスペインの場合、数十万人が地元の銀行で優先株を購入しているため、こうした損失を一般市民が直接担わなければならない可能性がある。その実行には、スペインは今後、国内法上の手当てが必要になる。

 文書草案では優先債の保有者には言及しておらず、彼らは当分の間、最近の欧州の大手銀行救済案件でそうであったように、損失を回避できるかもしれないことが示唆されている。 

 経済シンクタンク、リ・ディファインのマネジングディレクター、ソニー・カプール氏は「スペイン国内外の優先債保有者は保護される一方で、年金生活者や劣後債や優先株を売りつけられた小口預金者は負担を背負うことになるかもしれない」と語った。 

 スペインのデギンドス財務相は9日、優先株を保有する小口投資家たちが損失を被るかどうか明言しなかったが、その可能性を排除しなかった。 

 同相はユーロ圏財務相会合が開催されたブリュッセルで記者団に対し、救済合意には優先株への「明示的な言及はない」と語った。 

 しかし草案文書は、支援を受ける銀行への民間投資家との間での損失分担について、極めて厳格なようにみえる。 

 同草案は「SLE(損失負担の分担)の履行にあたって生じる問題に起因するいかなる資本不足もEFSF(欧州金融安定化基金)支援によってカバーされない」と明記している。 

 こうした義務付けに加えて、救済合意草案はまた、スペインの現在の監督システムの改革を指示しており、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会の担当者に対し、支援を受ける銀行に対する立ち入り調査権を認めている。 

 カプール氏は、いったんユーロ圏に銀行同盟が設立された場合には、「これはより緊密な経済統合に向けた一歩であり、どのように物事を処理するかのテンプレート(原型)を提供するかもしれない」と述べた。

記者: Matina Stevis 、Gabriele Steinhauser

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04. 2012年7月11日 18:04:46 : 3CNLte9sGM

日本は3.5億ユーロ、全体の5.8%を購入−EFSF新規発行分
  7月11日(ブルームバーグ):日本政府はユーロ圏の救済基金である欧州金融安定ファシリティー(EFSF )の新規発行債のうち、全体の5.8%に当たる3.5億ユーロ(約340億円)を購入した。日本政府関係者が11日、ブルームバーグ・ニュースに対し明らかにした。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 乙馬真由美 motsuma@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2012/07/11 16:57 JST



スペイン首相:向こう2年半で650億ユーロ規模の財政措置発表
  7月11日(ブルームバーグ):スペインのラホイ首相は向こう2年半に650億ユーロ(約6兆3200億円)相当の追加の財政措置を取ると発表した。
・付加価値税の主税率は21%に引き上げる(従来18%)・付加価値税の割引税率は10%に引き上げる(従来8%)・付加価値税の特別割引税率は4%で据え置く・その他の措置は失業関連の補助金減額や環境税
原題:Rajoy Announces Budget Measures Worth EU65Bln Over 2 1/2 Years(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:Madrid Emma Ross-Thomas erossthomas@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:
更新日時: 2012/07/11 17:34 JST



主要通貨の騰落率:韓国ウォン、対ドルで上昇一位
日本の6月国債決済の不処理発生状況:日本銀行アンケート(表)
今日の国内市況(7月11日):株式、債券、為替市場
円が底堅い、リスク回避くすぶる−対ユーロで一時5週間ぶり高値更新
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M6ZLP96K50YA01.html


05. 2012年7月12日 17:34:32 : 3CNLte9sGM
コラム:ドイツがユーロ共同債を受け入れる日=亀岡裕次氏
2012年 07月 12日 16:32  

為替フォーラム
焦点:預金データ取り繕う中国の銀行、当局との「だまし合い」続く
焦点:対中国輸出に依存する中南米経済、中国減速で打撃か
焦点:世界景気回復の地平遠のく、信用バブル崩壊の影響深刻
日銀は緩和見送り、札割れ対策導入:識者はこうみる

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト

[東京 12日 ロイター] 欧州連合(EU)は、景気刺激策、銀行監督制度統一、銀行への直接資本注入、欧州安定メカニズム(ESM)の優先債権者待遇不適用、ESMの柔軟かつ効率的な運用などで合意した。実現までに時間のかかることも含まれ、必ずしもすぐに信用不安を後退させるわけではないが、信用不安の抑制効果はあると考える。

ESMが柔軟かつ効率的な運用として、発行・流通市場で利回りが上昇した国債を購入すれば、ユーロ圏が共同して重債務国の財政を補完することになる。そして、債務共有化に否定的なドイツが、要求基準を満たすことを条件に債務共有化を一部容認することにもなる。ドイツのメルケル首相は「利回りの上昇は債務状況の悪化につながり、実体経済にも悪影響を及ぼすため、解決策が必要だった」と述べている。安易な債務共有化には断固反対しながらも、信用不安を抑制して市場を安定化させる政策の必要性を認めたわけである。

欧州債務問題の解決には、欧州の債務共有化が不可欠であり、それにドイツが同意する必要がある。今回の対策では問題の抜本的解決には不十分であるにせよ、債務共有化に対するドイツの姿勢が柔軟化したことで、危機解消に向けて一歩前進したことは間違いない。今後さらに必要なのは、ESMの融資能力拡大、銀行同盟(共通の預金保険制度と破綻処理基金)、ユーロ共同債の導入などだろう。

ESMに銀行免許を与え、欧州中央銀行(ECB)から借り入れた資金で銀行増資や国債購入を行えるようにすれば、融資能力は何倍にも拡大し、信用不安抑制効果が増す。ECBはマネタリー・ファイナンシングにあたるとしてESMへの銀行免許付与に否定的だが、政府の責任のもとでECBが政府基金に資金援助することは、ECBが国債を直接購入するよりも財政規律を保持できるのではないか。また、ドイツも反対しているが、各国の拠出金を増やしてESM規模を拡大するよりも抵抗は少ないのではないか。

メルケル首相は、財政同盟のない銀行同盟に意味はないとの主張をする一方で、欧州預金保険について、監視と基準の改善につながる(その一方で連帯責任にはつながらない)ことを条件に、すぐにでも賛成する用意があることを明言している。銀行と国家財政の信用連鎖を断ち切るために銀行同盟を作ろうとしているのに、財政同盟を銀行同盟の条件とするのでは意味がない。欧州単一の銀行監督制度設立から長い時間を置かずに、預金保険制度の統一に動く可能性もあるのではないか。

重要なことは、債務共有化の決め手であるユーロ共同債に関する行程が示されるか否かだ。メルケル首相は、債務(責任)を共有化するうえでは、そのコントロールが必要との考えを示している。言い換えると、債務をコントロールできれば債務を共有化できるということだ。ドイツは欧州の財政統合によるコントロール強化を目指す一方、フランス、イタリア、スペインなどはユーロ共同債の導入による債務共有化を目指している。「財政統合が進展した段階でユーロ共同債を導入」などの行程で合意すれば、どの国もユーロ共同債を無条件に拒否できなくなるし、あとは財政統合をいかに進めるかが問題になる。

ユーロ圏の税制や社会保障制度を統一するなどの「完全」な財政統合をユーロ共同債の条件にすれば、いったい何年かかるかわからないし、永遠に無理かもしれない。歳入を超える歳出部分など、国家財政主権の一部をユーロ圏財政機関に委任する「部分的」な財政統合を条件にすれば、主権移譲に同意する国が増えてユーロ共同債実現に近づくだろう。

<ドイツのユーロ離脱は非現実的>

ユーロ共同債のもう一つのポイントは、ドイツ国民の世論だ。ドイツ国民は、「他国への財政支援を増やすべきではなく、財政統合(国家主権移譲)に反対」との考えと、「ドイツはユーロの恩恵を受けており、ユーロ維持とユーロ圏成長のために他国を支援すべき」との考えに二分されている。前者が優勢だが、ドイツにメリットがあるのはどちらか。

前者は、債務危機の深刻化、ユーロ圏およびドイツの景気悪化、ドイツの責任追及を招き、デメリットが大きいだろう。単独ではなくユーロ圏の統合を深化させるなかでドイツのプレゼンスをさらに強化したい政府の考えにも反している。通貨ユーロへの国民支持は強いものの、ユーロ圏経済が落ち込めば、いくらドイツに優位性があっても、ドイツの成長は見込めない。もし財政支援の呪縛から逃れるためにドイツがユーロ圏を離脱すれば、ユーロ圏の不況や崩壊危機だけでなく、通貨高によるドイツの競争力低下やユーロ建て債権の減少にもつながる。

おそらく、ドイツにメリットがあるのは後者だろう。ドイツの財政支援なくして、ユーロ圏の市場安定や経済成長は望めない。重債務国に対し財政緊縮を迫り、財政支援を早急に減らそうとすると、信用不安拡大と経済悪化を招き、むしろ長期的にはコストが膨らんでしまう。重債務国に構造改革や財政規律強化を求めつつも、信用不安抑制と景気安定化を図りながら財政支援するほうが、長期的なコストは抑えられるだろう。

ギリシャ国民に財政緊縮への賛否を問えば、国民負担を強いる財政緊縮への反対が優勢となろうが、それでも総選挙で財政緊縮支持派の政党が勝利したのは、ユーロ圏からの支援継続を選択したほうがギリシャ経済にプラスになると考えたからだ。

ドイツ国民の多くは、他国への財政支援が国民負担を増やすとの懸念から、ユーロ共同債に反対している。だが、ユーロ共同債が市場安定化を通じてドイツ経済にプラスに働き、国民負担以上に国民所得が増えると考えるようになる可能性もある。結局は、「良い結果」を招くと考える方に世論は傾くはずだ。今後、欧州当局が現実に即した有効な危機対策で協力し、ユーロ圏とドイツの景気が回復するようであれば、他国支援やユーロ共同債への国民理解が広がるだろう。重要なのは、政策がもたらす結果である。

欧州当局がなすべきことを尽くしたにもかかわらず、債務危機が発生したわけではない。なすべきことをしてこなかったから、債務危機が発生した。危機意識の高まりが欧州をようやく動かし始めたが、規律強化を優先しすぎて債務共有化に時間をかけすぎれば、信用不安と経済悪化の悪循環が深まってしまう。欧州当局が現実を直視し、責任共有とコントロール強化をバランスよく推し進めてこそ、危機解消への道は開くだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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[13日 ロイター] ムーディーズ・インベスターズ・サービスは13日、イタリア国債の格付けを「A3」から「Baa2」に2段階引き下げた。格付けの見通しはネガティブ。

イタリアは13日、国債入札を実施する予定。ムーディーズの格下げを受け、利回りの上昇が予想される。ムーディーズの発表が伝わった日本時間13日朝方の外為市場では、ユーロ/ドルが下落した。

「Baa2」は、スタンダード&プアーズ(S&P)やフィッチ・レーティングスの格付けよりも低い。

ムーディーズは「イタリア経済の見通しが一段と悪化したり、改革の実行が困難になれば、同国債をさらに格下げする可能性がある」と警告。

「債券市場へのアクセスが一段と難しくなり、外部の支援を要請する事態となれば、ソブリン格付けを大幅に下げる可能性がある」と指摘した。

*情報を追加して再送します。

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