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日本の対中輸出減少の原因は、 ユーロ安でなく、対中直接投資の減少
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/882.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 11 日 16:01:16: cT5Wxjlo3Xe3.
 

【第38回】 2012年10月11日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
日本の対中輸出減少の原因は、
ユーロ安でなく、対中直接投資の減少

 日本の鉱工業生産指数は、7月、8月とも対前年同月比でマイナスになった。この大きな原因は、日本の対中輸出が減少していることであるとされる。そして、その原因は、ユーロ安によって中国の対EU輸出が減速していることだとされる。

 以下では、この理解が正しいものかどうかを検討する。

 本稿の結論は、「日本の対中輸出を減少させている基本的な原因は、ユーロ安による中国の輸出減ではなく、中国への直接投資の減少による中国輸出産業の投資減である」というものだ。

 中国への直接投資を減少させている大きな原因の1つは、ユーロ危機による投資家の「リスクオフ」行動だ。ユーロ危機は、ここでも国際的な資金移動を攪乱することにより、実体経済に大きな影響を与えていることになる。

中国の輸出と
経済成長が減速している

 最初に、最近の経済データを確認しておこう。

 2011年の中国の実質GDP成長率は9.2%となった。政府目標である8%成長は達成したものの、10年の10.4%を下回った。12年に入っても緩やかな低下が続いており、12年第1四半期の実質GDPは前年同期比8.1%増にとどまった。国際通貨基金(IMF)は9日発表した半期経済見通しの中で、中国の2012年経済成長率見通しを、7月時点予想の8%から7.8%に引き下げた。

 中国の12年1〜8月の輸出入額の対前年比は、図表1に示すとおりである。対EU輸出は、マイナス4.9%となっている。


 他方、日本の対中国輸出の対前年同月比は、11年10月以降(12年5月を除いて)10%近いマイナスを続けている(8月にはマイナス10.0%)。

 8月の鉱工業生産指数は、前月比マイナス1.3%(前年同月比はマイナス4.3%)と、2ヵ月連続の低下となった。

 なぜこのような減速現象が生じているのだろうか?

 日本の対中輸出減少について一般に言われているのは、冒頭で述べたように、「中国の対EU輸出の減少が原因」というものだ。つまり、図表2のようなメカニズムが考えられていることになる。ここでの主要なファクターは、ユーロ安である。


中国輸出減速の原因は、
ユーロ安だけでない

 しかし、図表2で示したメカニズムには、疑問がある。その理由は次の3つだ。

 第1に、仮にユーロ安が中国輸出減速の原因なら、EU向け輸出が、他の地域向け輸出より大きく減少するはずだ。しかし、実際には、他の地域への輸出も減少しているのである。

 図表1に示されているように、台湾への輸出減少率(5.8%)は、対EU輸出の減少率(4.9%)を上回っている。

 第2に、仮にユーロ安が原因なら、欧州からの輸入が増えてしかるべきだ。しかし、EUからの輸入増加率(3.1%)は、輸入総額の増加率(5.1%)を下回っているのである。

 ユーロ安が中国の貿易に影響していることは、言うまでもない。しかし、最近の輸出入動向には、それ以外の要因も影響しており、その要因のほうが大きな影響を及ぼしているようなのである。つまり、図表2で「ユーロ安」と「中国の対EU輸出の減少」をつなぐ因果関係(⇒で示してある)には、疑問があるということだ。

日本の対中輸出減少の原因は、
中国の輸出総額減速だけでない

 図表2のメカニズムに疑問がある第3の理由は、中国の輸出総額は減速しているだけであるにもかかわらず、日本の対中輸出は減少しているということだ。これは、日本の対中輸出には、中国の輸出総額以外の要因が働いていることを示唆している。つまり、図表2で「中国の輸出減速」と「日本の対中輸出の減少」をつなぐ因果関係(⇒で示してある)には、疑問があるということなのである。

 なお、「中国の経済成長率の鈍化も、中国輸出の減速によって生じている」とされることが多い。しかし、この考えにも疑問がある。なぜなら、GDPに与える影響を考える際には、純輸出を考える必要があるからだ。

 純輸出が減少しているのは事実である。しかし、純輸出がGDPに占める比率はさほど高くないので、経済成長率に与える影響もそれほど大きくない。純輸出の減だけでは、中国経済の減速を説明することはできないのだ。

中国輸出の伸びが
1桁に減速

 この問題を考えるために、ここ数年の中国の貿易動向について見ておこう。図表3には、日中両国の輸出量の対前年増加率を示す(2012年の計数は、IMFの予測)。


 経済危機前、日中両国とも輸出は増加を続けていた。中国の輸出量の年増加率は20%程度と、きわめて高い伸びを示していた。

 リーマンショックのあった08年に輸出量の伸び率が低下し、09年にマイナスになったのは、日中とも同じである。つまり、世界経済危機の影響は、両国の輸出にきわめて大きな影響を与えたわけだ。ただし、09年の落ち込み率は、日本のほうが激しかった。10年に伸び率がプラスになったのは、日中同じだ。

 11年には、東日本大震災やタイ洪水の影響などで、日本の伸び率はマイナスになった。他方、中国はプラスの伸び率を続けた。ただし、伸び率は1桁に減速した。そして、12年の伸び率はさらに低下している。IMFの予測では、5%程度にまで減速する。

 以上をまとめると、つぎのようになる。

 第1に、総じて中国の輸出の伸び率は、日本に比べて高い。

 第2に、経済危機前後を別とすれば2桁の伸びを続けていた中国の輸出が、1桁に減速してきた。これがいかなる原因で起きているかが問題である。

中国輸出産業における
FDI(対内直接投資)の重要性

 中国の輸出産業は、もともと外資の進出によって始まった。現在でも外資企業の比率は高いと考えられる。

 最近のFDI(対内直接投資)を見ると、図表4のとおりだ。香港のウエイトが圧倒的に大きい。香港は、対中直接投資の国際拠点なのである。つぎに、台湾、日本、シンガポールが来る(なお、日本の対中投資の伸び率が突出して高い。このことの意味は、後の回で述べる)。


 ところで、FDIは、中国民間企業の設備投資にどの程度の意味を持っているのだろうか?

 FDIと固定資本形成の推移を示すと、図表5のとおりである。


 2011年の数字は、FDI1160億ドルに対して、固定資本形成が約3.5兆ドルだ。これで見ると、FDIは固定資本形成のごく一部にすぎない。しかし、中国の場合、資本形成に占める政府固定資本形成の比率がきわめて大きいことに注意が必要である。

 固定資本形成は、政府固定資本形成、民間企業設備投資、民間住宅投資等から成る。しかし、中国では、国有企業が多く、政府と民間の分類が曖昧なこともあり、内訳が不明である。

 これに関して参考となるのは、つぎのような中国国家発展改革委員会の幹部の発言だ(http://jp.jnocnews.jp/news/show.aspx?id=52489)。

(1)2010年以降、民間投資規模は大幅に増加し、固定資産投資中の比率は上昇し続けている。2012年の上半期、民間投資の総額は2010年同期の約2倍になった。

(2)2012年、固定資産投資の中で製造業への投資が占める割合は3分の1以上、そして製造業への投資の中で民間投資が占める割合は80%以上になる。

 これを元として計算すると、最近時点での製造業の民間投資が固定資本形成に占める比率は、

 80%÷3=27%

 となる。仮に2011年の比率がこの半分とすれば、固定資本形成の比率は13%程度だ。したがって、民間設備投資は、

 3.5兆ドル×0.13=4550億ドル

 程度ということになる。他方でFDIは1160億ドルであるから、製造業の設備投資に対するFDIの比率は、25%程度ということになる。多分輸出産業では、比率はもっと高いだろう。したがって、FDIの動向が、輸出産業の活動に大きく影響するのだ。

 ところが、以下で述べるように、FDIが減少しているのである。つまり、中国の輸出動向には、価格要因(為替レート)、需要要因(世界的景気停滞)だけでなく、供給面の要因が働いている可能性があるのだ(以下のデータは、http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/stat_06/による)。

ユーロ危機による
「リスクオフ」で、FDIが急減

 2011年の対内直接投資額(実行ベース、金融分野を除く)の伸び率は、図表4に示すように、9.7%と1桁台に低下した。

 これは、ドイツを除く欧米からのFDIが急減したためである。ただし、11年においては、アジアは伸びていた。

 ところが、11年秋から状況が大きく変化した。11月以降5ヵ月連続で、減少が続いたのである。12年3月には、前年同月比6.1%の減少となった。12年第1四半期の前年同期比は、2.8%の減少となった。

 国・地域別に見ると、つぎのとおりだ(http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/biznews/506b95dd6a338による)。

(1)韓国

 2012年上半期の韓国の対中直接投資(実行ベース)は、前年同期比21.2%減となり、11年通年(1.3%減)からさらに減少率が拡大した。業種別では、製造業が37.9%の減、非製造業は31.3%の伸びを示した。

(2)台湾

 2012年上半期における台湾の対中直接投資額(認可ベース)は、前年同期比26.2%減だった。とくに製造業での投資抑制の動きが目立った。

(3)香港

 2012年上半期の香港の対中直接投資は、契約件数が前年同期比16.2%減、実行額が前年同期比6.9%減となった。

 FDIが減少している理由は複合的であって、簡単には割り切れない。

 中長期的には、労務コストの上昇が原因と言われる。

 それもあるのだろうが、投資家の「リスクオフ」行動の影響もあると考えられる。11年の秋は、ユーロ危機が一段と進行し、イタリアやスペインの国債利回りが急上昇した時点だ。こうした状況が投資家のリスクオフ行動を強め、南欧国債からの資金引きあげだけでなく、新興国からの資金引きあげにもつながったのだろう。

 実際、中国商務部は、第1四半期の減少の原因について以下のように指摘しており、ユーロ危機が対中FDIに大きな影響を与えていることを認めている(http://www.jetro.go.jp/world/gtir/2012/pdf/2012-cn.pdfによる)。

(1)欧州債務危機の影響

 EU27が前年同期比31.3%の大幅減となったのは欧州債務危機の影響。英国は52.9%減、ドイツは17.7%減だった。

(2)国内の不動産市場引き締めの影響

 ここ2年ほど不動産業への直接投資が全体の約4分の1を占めていたが、不動産市場引き締め政策の影響により、前年同期の38.6%増から今期は6.3%減になった。

FDI減少による中国輸出産業の投資減が、
日本の対中輸出を減少させている

 以上のように、中国の輸出産業に大きな影響を与えているのは、ユーロ安や世界経済減速だけでなく、FDIの減少もある。

 これが中国輸出産業の投資減少をもたらし、日本から中国への投資財の輸出を減少させているのだ。実際、上で見たように、中国へのFDIも日本から中国への輸出も、11年秋から対前年増加率がマイナスに転じている。

 日本からの対中輸出は、中国の内需に影響されるというよりは、輸出産業の動向、とくに投資行動に左右される面が大きいのだ。

 そのメカニズムをまとめれば、図表6のようになる。


 この政策的なインプリケーションは大きい。なぜなら、日本が為替介入して円安を仮に実現できたとしても、中国へのFDI減少が続く限り、日本の対中輸出を増やすことはできないからだ。

 なお、中国GDPの減速は、中国の輸出減少によるというよりは、FDI、公的投資などの投資の減による。

 ところで、「リスクオフ」によって新興国から引きあげられた資金は、どこに向かっているのか?その投資先の一つとして日本があることは言うまでもない。

 そのことの政策的なインプリケーションも大きい。

 第1に、日本への資金流入によって円高が進んでいると考えられるが、これに介入して円高を阻止するのはきわめて難しい。円安を実現するためには、世界的な投資資金の流れに逆らう必要があるからだ。

 第2は、将来に関するものだ。現在の日本への資金の流れは、正確には「投資」というよりは、「逃避」である。一時的に避難して、適切な投資対象が見つかれば、それに振り向けるというものだ。したがって、何らかのきっかけで資金の流れが逆転し、日本から流出することがありうる。そのとき、日本には大きな問題が生じるだろう。

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