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日本再生へ「貯蓄から投資」  いびつな年金制度、抜本改革にはどうすればいいか?「消費税」
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/169.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 19 日 00:23:07: cT5Wxjlo3Xe3.
 

日本再生へ「貯蓄から投資」

2012年10月19日(金)  馬場 燃

3メガバンクと2大証券トップが「次を創る金融」を議論した。日本再生を支える金融のキーワードは「貯蓄から投資へ」で一致。掛け声倒れが続いてきた言葉は日本で真に根づくのか。

 「実際に増えたのは預貯金ばかり。むしろ『投資から貯蓄へ』の流れが続いた20年というのが実態だ」

 東京都内で3日開催した日本再生に向けた金融のあり方を探る「ニッポン金融力会議」(主催・日本経済新聞社)。大和証券グループ本社の日比野隆司社長はこう語り、今こそ反転攻勢の施策が必要になるとの認識を強調した。

 日銀によると、日本の個人金融資産は2011年度に1518兆円。約20年前に比べ500兆円増えたものの、その内訳は5割前後を現金・預金が占める構図は全く変わらない。日比野社長は「証券会社は膨大な個人金融資産を有効活用し、企業活動にリスクマネーを供給する本来の役割を果たさないといけない」と語った。

 1990年代の金融ビッグバン以降、「貯蓄から投資へ」のキャッチフレーズが叫ばれて久しい。だが個人金融資産の国際比較を見ると、日本の「後進国」ぶりが目立つ。

 大和証券の調べでは個人金融資産に占める株式や投資信託など有価証券の割合は、日本が13%にとどまる。米国の53%、ドイツの24%に大きく水をあけられ、日本は現金と預金が膨張する傾向にある。


 野村ホールディングスの永井浩二グループCEO(最高経営責任者)も「日本の会社は借入金による資金調達が32%だが、米国は8%と非常に低い」と指摘。「日本の金融システムは欧米に比べ依然として間接金融に偏重している」との見方を示し、「日本の持続的な成長には間接金融と直接金融がバランスよく実体経済を支えることが必要」との意見を述べた。

 リスク性の資産になかなか向かわない日本の個人マネー。三菱東京UFJ銀行の平野信行頭取は「結果として個人金融資産の運用利回りが低く少子高齢化を乗り切るために必要なリターンを生み出せていない」と苦言を呈した。

 平野頭取は解決策の一歩として、グループ傘下の信託銀行や証券と連携し、個人に向けた投信など運用商品の販売に力を入れるほか、信託機能を活用して遺言といった相続、不動産の営業を強化する方針を掲げた。

問われる官民の実行力

 みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長も「金融資産の大半は60代以上の世帯が保有する。金融のホームドクターの役割を果たし、国民の資産形成を支援することで日本の国富増大につなげる」と力を込めた。

 金融機関首脳に共通した認識は、銀行、証券、信託のグループ力を結集する点だろう。政府も国家戦略室が日本の再生戦略として、毎年100万円まで上場株式、投資信託に非課税措置を導入する「日本版ISA」の活用や不動産投資信託の規模を倍増する目標などを掲げている。問われるのは、いずれも官民の実行力だ。

 日本の金融市場は現在、世界ランキングで5位に落ち込んでいる。三井住友銀行の國部毅頭取は「米アップルは既成概念にとらわれず、数々の革新的な商品やサービスを創った。日本の金融機関も顧客ニーズの変化やアジアの成長を捉え、未来を創る成長企業や産業を支援しないといけない」と口にした。もう掛け声倒れで済まないのは、誰しも認識している。


馬場 燃(ばば・もゆる)

日経ビジネス記者


時事深層

“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121016/238149/?ST=print

 


いびつな年金制度、抜本改革にはどうすればいいか?

エコノミスト・飯田泰之氏に聞く「消費税」

2012年10月19日(金)  金野 索一

 日本政策学校代表理事の金野索一です。
 「日本の選択:13の論点」では、2012年の日本において国民的議論となっている13の政策テーマを抽出し、そのテーマごとに、客観的なデータ・事実に基づきロジカルな持論を唱えている専門家と対談しています。政策本位の議論を提起するために、一つのテーマごとに日本全体の議論が俯瞰できるよう、対談者の論以外に主要政党や主な有識者の論もマトリックス表に明示します。さらに、読者向けの政策質問シートを用意し、読者自身が持論を整理・明確化し、日本の選択を進められるものとしています。
 さて現在、社会保障費のための消費税増税法案が可決され、政府は消費税導入を着々と進めています。今回は「消費税」をテーマに飯田 泰之氏(エコノミスト、駒澤大学准教授)と対談を行いました。
 確固たる数字・データを基に、年金は賦課方式から積み立て方式へ、切り替えのための財源は、相続税を抜本改正すべきとのお立場です。また、税としての消費税について利点と欠点を論じ、財政赤字を解消するための消費税増税には反対の立場から、プライマリーバランスの赤字と社会保障費の負担増を分けて検討することを提起されています。また、消費税の地方分配分に着目し、政府の提示している財政再建試案に疑問を呈ししており、社会保障目的税として増税する選択肢をセカンドベストと位置づけています。
 社会保障目的税としては、特に相続課税や資産課税の増税を強調されており、気鋭の新進エコノミスト飯田氏の議論を出発点に、政策としての消費税について、読者自身が日本の選択について議論を深めて頂ければ幸いです。
(協力:渡邊健、藤代健吾、岩尾建)
飯田 泰之
エコノミスト/駒澤大学経済学部准教授/財務省財務総合研究所客員研究員/株式会社シノドス マネジング・ディレクター東京都生まれ、東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得中退。
専門は経済政策、マクロ経済学。
著書に、「世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ! 日頃の疑問からデフレまで」(エンターブレイン)、「経済学思考の技術 ― 論理・経済理論・データを使って考える」(ダイヤモンド社)等がある。
公平性担保されていない日本の税制。消費税だけでなく所得税も

飯田:消費税というのは極めていい性質を1つ持っています。それは課税ベースが広く、明確で、徴税コストが安いこと。裏を返せば租税回避(節税と脱税)が困難ということです。これは税金としては大きな長所です。その意味で消費税というのは、税務当局にとって理想的な税制だという議論は全くよくわかるところだと思います。

 ただ、これは「一般的な消費税」のよいところです。ところが、日本の消費税は、まず課税ベースを自ら狭めている。例えば、簡易課税方式やインボイス方式でないことによって、必ずしも明確に課税ベースがわかっているわけではない。益税問題とよばれることがありますが、中小事業者が取引の間に介在することで、どこまでが消費課税のベースなのかというのは極めて見えにくくなってしまっている。もし消費税の利点を100%生かすのであれば、しっかりとしたインボイス方式にもとづく正確な申告に打ち直さなければいけない。

 その一方で、消費税には欠点もあります。

 消費税では、よく逆進性が問題とされます。すなわち、低所得者にとって極めて負担が多い税制になってしまっている。一生をとおしてみれば逆心的ではないという人がいますが、これは全くナンセンスです。消費税の問題は累進的でないことです。ある程度お金持ちの人は、公共サービスや国によって財産が守られている度合いも大きいでしょう。それなりに大きな税金を払うはずという構造を消費税は持っていませんので、税の垂直的公平を全く考慮しない税金になっています。

 消費税における問題は、実は日本のありとあらゆる税制の縮図を1つ提供しています。税制における公平性には垂直的公平性と水平的公平性があります。

 垂直的公平というのは、要するに経済力の大小に応じて税金が決定されるということです。一方で、水平的公平というのは、同一の経済活動を行っているならば税額は同じにならないとおかしいということです。まず消費税は税金の本質として垂直的公平は捨てている税金ですが、その上、日本のシステムだと簡易課税の存在により水平的公平も守られているかどうか、わからない。

 翻って、逆に垂直的公平を達成するための所得税についてはどうか。所得税についても同様に大きな問題があります。所得税は水平的公平がまるで守られていない。「9・6・4(くろよん)」、「10・5・3(とうごうさん)」が一番有名ですけれども、それよりもセンセーショナルなものとして、日本では1億円を超えたあたりから税率が下がっていきます。

 これは証券所得等に関する分離課税が原因です。1億円以上の人は収入の中心は資産所得です。1億円以上を給料でもらっている人はスポーツ選手など少し特殊な人中心ですからね。それに関しては分離課税方式なので、2割しか取られていない。2割といったら、それこそ中金持ちといいますか、ちょっと稼いでいるサラリーマンぐらいの税金しか払っていない。

 このように、ありとあらゆる税において、税金の基本である垂直的公平、水平的公平がきちんと担保されていない。このような穴だらけの税制において税金を増やすのは、僕自身は状況を先送りしている、問題を先送りしているだけだと思います。

問題はプライマリー赤字と社会保障負担の増加。消費税で解決?

飯田:財政学の古典命題に「ワグナーの法則」というのがあります。アドルフ・ワグナーという人の経費膨張の法則です。財政における経費は、それが維持不可能になるまで拡大を続けるというのが、経費膨張の法則、あるいはワグナーの法則と呼ばれるものです。経費膨張の法則のとおり、日本ではどんどん経費が膨張していきます。日本の場合、問題の核心は実は経費膨張なのに、まずは税金を増やす方向にすることで、問題の先送りをしているだけなのではないでしょうか。

 実際にこれについては学習院大学の教授である鈴木亘氏が行った今回の社会保障と税の一体改革に関する鈴木試算という有名な試算があります。

 鈴木氏の試算を見ても面白いのですが、もう増税分は全部使い道が決まっている。何一つ赤字は減らない。それどころか、第1次の政府案には地方分配分が含まれていなかったため、地方分配分をまともに計算すると国の財政赤字が増えるという仕組みになっています。これは鈴木氏がご自分のブログでも掲載されています。

 まさに財政再建のために増税をしようと言っているのは表面上で、本当は何かというと、さらなる経費膨張傾向の限界が近づきつつあることを知りながら、何とかあと数年、その限界を先延ばしするための増税です。ですから、実は増税こそが一番の問題の先送りです。

 日本の財政の問題は2つに分けなければいけない。プライマリーバランスの赤字と社会保障費負担の増加への対応です。この2つは解決策がまるで違います。

 プライマリー赤字への最大の対応は景気対策です。金融緩和によるインフレ化しかない。その一方で、社会保障費負担の増加については、何らかの意味の増税しかないわけです。

 では、その増税の手段として果たして消費税が正しいのかどうかというふうに分けて考えることができる。今起きているプライマリー赤字も、社会保障も、両方、消費税で対応することは不可能だと思います。実際に今回の社会保障と税の一体改革もそうですが、社会保障対応だと言って増税して、プライマリー赤字は拡大します。つまりは増税して赤字がふえるという増税です。「こんなに財政が苦しい。したがって増税します」と言うと、もう何も聞かずとも何となく財政再建に使われると雰囲気で思ってしまっています。ところが、中身を見たら、財政再建には全く使われず、かつ、むしろ財政赤字がふえる。

金野:それが先ほどの鈴木氏の試算になるわけですか。

飯田:鈴木氏というか、単純にいうと政府試算に地方への分配分を足しただけです。鈴木氏の試算といっても鈴木氏が勝手に出してきた数字ではないんです。政府・民主党が出してきたものに落ちていた地方分配分や予定されている支出を入れただけで赤字になります。一応、財務省または厚労省側は、社会保障目的税なので地方分配は通常の消費税よりも小さくすると言っていましたが、消費税は何%地方への交付に使うというのはルールですから、地方自治体としてはこれをすんなり通すわけには行かないでしょう

 ここはこれからもめると思いますが、社会保障と税の一体改革法案によって、消費税の地方・国間分配ルールにかわる細則をつくったのか、つまり、今回は消費税ですが、消費税ではない、もう地方には分配しない税金だという理屈が通るのか、通らないのかは、はっきり言ってわからないと思います。財務省としては、これまでは、シレッとやってしまおうとしていましたが、鈴木氏や他の有識者に加え自民党の地方財政に詳しい先生が騒ぎ出しているので、ただでは通らないと思います。

金野:そんないい加減な進め方なんですか。

飯田:そうです。消費税5%分のうち、まず1%は地方消費税です。これは直接、地方の税収になります。地方にとっての純粋な自主財源です。その上で4%の約3割ですから1.2%が地方に別途分配されます。つまりは日本の財政方式では消費税5%のうち合計2.2%が、地方に配られることとなっています。

 当初、驚くべきことに、5%増税分のうち、前者は1%とされましたが、残りの1.2%部分が0%として計算されていたのです。そんなのはありかと文句を言われたので、一応、最近は1.54%にすると言い始めています。でも、よく考えてみるとおかしいわけです。もともと5%のうち2.2%が地方分だったのに、今度の5%はなぜか1.54%に抑制されている。

金野:政府の試案というのはどの数字で出されたものでしょうか。

飯田:5%増税分のうち1%のみが地方に分配されるという前提です。この前提でやっとトントンです。これを1.54%にしただけでかなり支出が増える。仮に地方分配分を2.2%にしなければならないとなったらもっと赤字になります。

景気にプラスの相続税、資産課税。税金は高齢者から取る

飯田:しっかりと使い道を決めた消費税の増税であれば、選択肢としてはセカンドベストではあります。

 税金の中には、景気に対してマイナス/プラス/中立的な3つのタイプの税金があります。景気にマイナスの税金の1つの典型例が法人税です。例えば、仮に今、財政再建を法人税でやろうといったら、多分、全経済学者が反対します。景気を悪くするだけです。一方、消費税については、僕は中立的だと思っています。中立的か、ややマイナスぐらい。法人税ほどひどいマイナスではない。でも、何よりも最初に増税すべきは景気に対してむしろプラスに働く増税です。何かといったら、相続課税または資産課税です。

 国際的に見ても中間層への日本の相続税は安い。相続税が安い国はどこも固定資産税が高い国です。逆に、相続税が比較的高い国は固定資産税がそんなに高くありません。要するに、資産課税で生きている間にちまちま取るか、相続課税で死んで一括で納めてもらうかの差であって、これはどちらでもいいと僕は思っている。

 何となく、若いうちから取られるより、自分が死んだ後に取られたほうがいいかなという程度で相続税の方がベターでしょう。相続税などの資産課税が高くなるというのは、資産を残すことにペナルティが課せられるということです。そうすると、使ってしまおう、生前贈与してしまおうという形での使用がふえますので、これは景気にプラスです。

 大体僕の予想でいうと、現行で8兆円、将来的には年間10兆円の相続税が取れます。何らかの増税のときは、消費税を10%、相続税を一律20%、配偶者以外の世代を超えた相続については控除はなしとしてはどうでしょう。

 例えば、夫婦間相続の場合、だんなさんが亡くなって家がなくなりましたということになると、おばあちゃんは困ってしまうので、今までどおりの控除枠を設ければいいと思います。ですが、次の世代への相続、つまり、子供の代への相続に関しては、一律20%控除なしが一番きれいなのではないか。または、控除300万円ぐらいにして…要するに手元のちょっとした現金以外は控除しないという形です。現在日本では1年間に80兆円の相続財産が出ています。

 しかし、80兆円の相続財産から税収は1兆円しかあがっていない。平均税率1.4%です。この80兆円のうち、世代間をまたがない奥さんへの相続が半分ぐらいだとすれば、40兆円。それに20%の課税で大体8兆円。1億円以上は30%、5億円以上は40%というふうにして相続税を取るともう少し大きくなるでしょう。

 ただし、ある程度の累進はつけてもいいかもしれませんが、今より累進をきつくするのは僕は反対です。相続財産は今後増加します。すると相続税収は近いうちに大体10兆円弱ぐらいになるだろう。これで今回の消費税増税分がおよそ賄えます。

金野:資産家、お金持ちから取る

飯田:資産家、お金持ちというよりは、僕が今税金を取らなければならないと思っているのは、高齢者です。相続税は高齢者から取れます。そういった意味では、消費税も非常にいい性質を持っている。

年金は賦課方式で。消費税は給付付き税額控除とセットで

金野:飯田さんは、年金は賦課方式を積み立て方式にして、景気との連関性を全く断つとおっしゃっていますね。

飯田:社会保障については積み立て移行が自然だと思います。賦課方式は人口構成上も無理ですし、また、一旦、増税により年金の財源を確保しても、景気が悪くなり税収が減少すれば再び増税の議論をしなければいけなくなる。

 小黒一正氏(『2020年、日本が破綻する日』、第3章など)によると、事前積み立て方式に転換する場合、100年償還国債の発行により、現在の年金を完全に清算出来るという。現在年金を受け取る権利のある人たちに対して支払いを続ける旧年金精算機構と新しい事前積み立てによる新年金システムとふたつにわけて行うべきです。

 そういう形にすると、小黒氏をはじめ、一部専門家の間では、最大で750兆円ぐらい必要だと言われています。100年で換算すると1年間7.5兆円です。これは先ほどの相続税収でカバー出来てしまう。ですから、これがちょうどいいのではないか。

金野:相続税を原資に積み立て式に移行するということですね。

飯田:ただ、僕は目的税というものが全部嫌いなので、目的税化という言い方は避けたいのですが,イメージとしてはそうでしょう。目的税というのは、お財布を食事用の財布と、飲み会用の財布と、家賃支払用の財布というように幾つも持つということで、効率的ではない。

 例えば、家賃の財布はお金が余っているのに、きょう食べるお米がないというのは、どう考えてもおかしいわけです。お金は1回プールしてから使う方が効率的でしょう。財政の専門用語でいうと、予算の単一性原則から逸脱しているという言い方がありますが、予算というのは単一がベストです。それをわざわざ社会保障とか何とかと分けると、どんどん制度が複雑になっていく。一番有名なのは、塩川財務大臣の「離れですき焼き、母屋でおかゆ」という言葉がありましたが、それが生まれる原因になるのが目的税です。相続税の税収を財源に積み立て方式へ移行というのはあくまでイメージ解説だと思って下さい。

 消費税に関しては、消費税というのは極めていい制度です。これは間違いない。ですから、10%、または場合によっては15%ぐらいまで上げるかわりに、弱者に対してしっかりとした割戻し減税ができる、つまり、給付付き税額控除ができる体制を整えなければなりません。

金野:ベーシックインカムの7万円という話を絡めておっしゃっていますね。

飯田:そのとおりです。僕が7万円というのは、単純に老齢基礎年金をやめたいというのが一番の理由です。

 この老齢基礎年金というのは極めておかしな制度です。老齢基礎年金は年間給付総額が大体20兆円です。最盛期で35兆円ぐらいになると言われています。そのうち半分は税金です。そうしますと、若いころお金が払えた、つまり、保険料を納められた人は、×2で税金を乗せて返してもらっているような状態になります。

 一方で、非常に貧しくて掛け金が払えない人たちは、年をとってから消費税などで税金を取られるのに、老齢基礎年金は十分に受け取れない、税金による補助は受けられないということになる。これは国民全体の最低限の生活を支える原資としてはおかしな制度です。

 普通はある意味で7万円で豊かな生活できる人はいませんから、老齢基礎年金は、死なない最低限、一番下のレベルのセーフティネットだと僕は思っています。それを税金を納めた人限定にするというのは、何か形容矛盾を起こしているのではないか。ですから、僕自身は、この7万円の部分はベーシックインカムスタイルでやる。

 子ども手当も僕は実は大賛成です。子ども手当と老人手当で、例えば、子ども手当を月3万円、老人手当を月7万円。それに加えて、その真ん中の世代も給付付き税額控除になると、事実上、日本国民にはベーシックインカムがあるということになる。

 いろいろ案は出ていますが、例えば、大阪は労働義務を伴う生活保護制度を考えているようです。生活保護を与える代わりに区の仕事をさせる。それを条件に生活保護を渡す。つまり、生活保護だから何もしなくていいということにはならない。それを許されるのは、橋下市長の考えだと、障害がある人だけだという考え方です。ただし、これは詐病のリスクを伴いますので中々難しいのではと思っています。

プライマリーバランスの改善はインフレ、金融緩和

飯田:プライマリーバランスに関しては、まず日銀が中長期的物価上昇率の目処という宣言を発表した2月14日から4月第1週までの円・ドル相場及び株式相場を見ていただきたい。それだけで円・ドル相場、株式相場ともに大きく動いた。

 この段階ですと、「とうとう日銀は本気だ。本気の金融緩和だ」と言う人が半分、「毎度のリップサービスです」と言う人が半分。ところが、4月の頭に、日銀は、河野龍太郎氏、要するに、インフレ、金融緩和に反対な人を審議委員候補で挙げてきた。また、ここ1年間をかけて、昨年比でマネタリーベースが減少していることがわかった。つまりは、日銀は、金融緩和しますと言って、数値上は引き締めていた。すなわち、今まで半信半疑だったけれども、やはり嘘だったというのがわかってしまった。

 こういった日銀の対応を防ぐためには日銀法を改正するしかない。そうすることで、明確な法的なインフレーションターゲットになるので、これは1つ、プライマリーバランスの達成にとっては非常にプラスの材料です。僕としては、GDP名目3%増を数値目標とし、その達成のためにも日銀法を改正する。

 そうすると、プライマリーバランス、すなわち社会保障以外の赤字の部分は解消できます。どう解消するかについては、僕の3月23日付のブログでシミュレーションを出しています。これによれば大体それほど非常識ではない範囲で5年でプライマリーバランスは達成できます。

 しかも、これは数字を僕の推計ではなくて、すぐ増税しなければいけない一番厳し目の数字を出している小黒氏の数字をそのまま使っているので、「どうせそれはおまえが甘いシミュレーションをしたんだろう」というわけでもありません。

金野:これまで飯田先生がされてきた話は、優秀な財務官僚であれば普通に分かっている話ですね。

飯田:でも、別に財務官僚は、私が説明した政策のパッケージを実行しても、何の得にはならないですね。例えば、財務官僚にとっては、予算の配分権が強まることが重要ですから。

金野:結局、要は国益ではなくて省益という形で。

飯田:そうです。

金野:ということは、まさに霞ヶ関主導では、ここまでおっしゃられた改革はなされないということですね。

飯田:できないと思います。別にこんな大変なことをする必要がないですから。例えば、今回、消費税増税が実現できれば、財務省と厚生労働省ともに大きな利益となるでしょう。財務省は悲願の増税を果たし,その使途を自身が裁量できる.そして,それを財源に厚生労働省が,一時的ではありますが,年金の抜本的な改革を避けられるのですからこちらも利益が大きい.

民主党は財務省に完全にやられた

金野:一方で、野田内閣はなぜここまで消費税増税にこだわるのでしょうか。

飯田:各選挙後の衆議院には、その期の顔というのがあると思います。現在の衆議院、つまりは2009年の選挙による衆議院は何をやったのか。その前の衆議院は完全に小泉改革をやった。では、現在の衆議院はどうかというと、まだ何もない。恐らく野田首相がすごく増税に積極的なのも、単なる邪推ですが、何かこの衆議院、このメンバーでやりましたと言えるものが欲しいのではないですかね。

 衆議院が現在のメンバーになってから野田氏で3人目の首相ですが、それまでに何も決められなかった。このままいくとこの衆議院のメンバーは何も決めなかった人たちということで終わってしまいます。一方で、財務省は一生懸命増税したいですから、利害が一致したということではないでしょうか。

金野:野田首相は、消費増税を本質的なテーマとして取り組もうと思っていたわけではないと言われていますね。

飯田:そうですね。「税金を減らすことが政治家の使命です」と述べた有名な演説がありますね。

金野:そもそも松下幸之助が無税国家と言っていて、その教え子ですからね。民主党政権下で、野田氏が藤井財務大臣のもとで財務副大臣になり、あの辺りから野田氏に対する財務省の影響が大きくなったとよく言われますが、飯田さんはどうお考えですか。

飯田:財務官僚はものすごく優秀です。霞が関の中でもやはり財務官僚はひと味違います。タフだし、能力は高いし。僕は一応、財務省では理論研修も、高等理論研修も、留学研修も全部やっていますが、彼らはのけぞる優秀さです。経済理論も法律もわかっていて、そして、データも知っています。ですから、そういう優秀な人間が言っていることは全部正しいのではないかと思ってしまっても不思議はない。

 また、民主党はブレーンが薄いし各先生の専門性も低い。自民党を褒めるわけではないですが、自民党の場合、各先生が最初から政調会の中でどの部会に所属するかによって専門が決まり、その中で官僚と腹を割っていろいろしゃべる。

 だから、官僚とべったりになり、よく批判を浴びる族議員というものにもなるわけですけどね。しかし、族議員は悪いことばかりではなくて、その分野の専門家や民間の学者にもたくさんの知り合いができる。あるいは、官僚にも知り合いができる。ですから、官僚からレクチャーを受けても、別の官僚に、「そう言われたけど、おかしくない?」という確認やチェックがとれる。

 それで一応パワーバランスがとれていましたが、民主党の場合、「これはおかしくない?」と言ったときに、教えてくれる人がいない。官僚の言うことの真意、本当は何のインセンティブで言っているのかということを耳打ちしてくれる別の官僚が余りいない。

 この論点について、朝日新聞の特集、「民主党政権失敗の本質」という記事が非常に面白い。この記事では、民主党が財務省内閣といわれるようになってしまったタイミングを、予算案策定時と言っている。当初、民主党は、みずから予算案の策定を進めようとしたが、結局、何も決められなかった。そんな中、財務官僚が「全部うちが予算案を組みましょう」と言って、民主党の意向もある程度組み入れた、恥ずかしくないものを実際に組んできてしまった。民主党が「こいつらはすごい」と思ってもしょうがないですね。これが民主党政権での財務省主導の原因だというのが朝日新聞の分析です。

 財務省がこの記事には公式に抗議をしていますが,細部についてはともかく、官僚の能力を目の当たりにして考え方をがらりと変えたという点は、あながち間違えていないのではないかと思います。

官僚のコントロールは人事権と世間相場の給与の導入で

金野:そうすると、民主党が言っていた政治主導というのは失敗したということかと思いますが、では、政治主導を実現するために対官僚という部分は、どうすればよかったのでしょうか。

飯田:それは結構はっきりしていて、人事権を行使すべきでした。人事権を行使するというのは、政治家にとって一番重大な官僚をコントロールする手段です。最初は、鳩山元首相が「おれが総理になったら局長以上は全員辞表をとる」と言っていました。結局、何もやりませんでした。

 あれを本当にやっていたら、潮目が変わったと思います。官僚としては、そのときの政権政党の方針に従わないならば局長以上にはなれない。昔でいう勅任官に当たりますが、勅任官以上はそのときの時の政権党の理念を達成するコマになるわけで、各官僚が身過ぎ世過ぎを考えるわけです。自民党に政策協力をする人、民主に政策協力をする人、風見鶏で行く人。少なくとも霞が関の見方だけをしている人はもう上へ行けないわけです。

 となると、民主党が政権をとって、民主党子飼い組の高級官僚と、よく言えば中立派、悪く言えば風見鶏派のうちで比較的民主寄りだと思う人を組み合わせて、各省の上層部を組めばいい。政権交代したら、今度は自民党秘蔵の人と、まあまあ近いかなというくらいの中立の人が組み合わさればいい。

 人事のほかにもうひとつ、僕は、公務員の給料を民間給与実態に完全にリンクさせてしまえばいいと思っています。シンガポールはそれに近いことをやっていますが、公務員の給料を民間給与実態×幾つ、例えば、国家一種官僚(キャリア組)は×1.4、国家二種官僚(ノンキャリ組)は×1.2、国家三種及び特別職員は×1.0といったようにする。

 そうすると、今の給料よりも天下り先が重要な官僚は言うことを聞かないかもしれませんが、手足となるべき中堅官僚、ノンキャリ組は日本経済の動向と無縁ではいられなくなる。民間の経済を悪くするような政策について、言うことを聞いてくれなくなるでしょう。実際の資料収集やロジスティックはノンキャリ官僚の役割が大きい。その彼らを動かせない政策はまるで機能しなくなります。高級官僚、いわゆる天下りが人生の生涯所得を決めるタイプの人というのはわずかで、多くは、要するに、なんとか省に勤めているサラリーマンです。その彼らの力を活用するためにも彼らの給与を民間給与実態と連動させる、または名目GDPに連動させる、そういう方法を採用することが重要だと思います。

 今だと人事院勧告を待って云々、ちょっと高過ぎる、ちょっと安過ぎるとかゴチャゴチャやっていますね。そうではなくて、毎年、給与実態に併せて給料を払う。ボーナスも民間ボーナス平均をそのまま使う。これがいいのではないかと思います。給与実態も、例えば、対象労働組合を幾つか決めて、そこの平均月数×掛け率というのをそのまま公務員に適用する。これは何ら不思議な方法ではないはずです。

金野:いずれにしても政治決断というか、自民党でも民主党でもどちらでもいいのでしょうが、対財務省というところが大きな課題ですね。

注釈:マトリックス表、論点表における有識者、政党の見解、ポジションについては、各有識者・政党の公表されている資料や著作物、発言等を参考に、著者と日本政策学校専門チームが、独自のフレームワークで分析・推察したものです。

金野 索一(こんの・さくいち)

日本政策学校 代表理事
コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程修了。
政策・政治家養成学校、起業家養成学校等の経営、ベンチャーキャピタル会社、教育関連会社、コンサルティング会社等の取締役、公共政策シンクタンク研究員を歴任。
このほか、「公益財団法人東京コミュニティ財団」評議員など。
《主な著作物》
・『ネットビジネス勝者の条件ーNYシリコンアレーと東京ビットバレーに学ぶ』(単著:ダイヤモンド社)
・『Eコミュニティが変える日本の未来〜地域活性化とNPO』(共著:NTT出版)
・『普通の君でも起業できる』(共著:ダイヤモンド社)


13の論点

2012年の日本において国民的議論となっている13の政策テーマを抽出し、そのテーマごとに、ステレオタイプの既成常識にこだわらず、客観的なデータ・事実に基づきロジカルな持論を唱えている専門家と対談していきます。政策本位の議論を提起するために、1つのテーマごとに日本全体の議論が俯瞰できるよう、対談者の論以外に主要政党や主な有識者の論もマトリックス表に明示します。さらに、読者向けの政策質問シートを用意し、読者自身が持論を整理・明確化し、日本の選択を進められるものとしています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121015/238094/?ST=print  

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コメント
 
01. 2012年10月19日 12:40:09 : F1AgCCpFh6
1行にてまとめると、
「ボクは官僚様よりも頭が悪いので、降参しました」
ということだな。

02. 2012年10月19日 21:51:28 : sgolhP60mA
「貯蓄から投資へ」・・・確かに言い古された言葉ですね。

この言葉に一般が動くのは、株価が上がるのを見てから。だから、一般が買ったら下がる運命にある。そして、また貯蓄へ。
年金も同じ動きをする。そして、また運用損を出す。
専門家の銀行が株を買って損を出して、銀行の株保有が制限された。一般は銀行より賢いのだろうか。


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