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オバマ対ロムニー「ゆるい」拮抗の構図
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/195.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 20 日 18:27:27: cT5Wxjlo3Xe3.
 

(回答先: 「日銀外債購入」の危険な副作用 人民元が最高値更新 討論会第2戦はオバマ氏勝利 中国叩き「不吉な前兆」 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 17 日 20:31:56)

『from 911/USAレポート』第595回

    「オバマ対ロムニー「ゆるい」拮抗の構図」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』               第595回
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 10月3日の第一回TV討論については、オバマが「完敗」したばかりか「弱さ」
を見せたとして、以降はロムニーの支持率上昇が続いていました。「バイデン対ライ
アン」の「副大統領候補ディベート」でも、バイデンは挽回できず、この対決自体も
ライアンの方に僅差で軍配が上がったという見方が出ていました。

 そこで、10月16日(火)の第二回「大統領候補TV討論」は、オバマにとって
は「絶対に負けられない」戦いになった、メディアはそのような報道を続けたのでし
た。この第二回は、初回や三回目のような「司会者との質疑応答+候補者同士の応酬」
ではなく、タウンホール・ミーティング形式、つまり一般の有権者が質問に立つこと
で、候補者は有権者に対する臨機応変なコミュニケーション能力をチェックされると
いうものです。

 さて、その「勝敗」ですが、オバマ大統領の方が「徹底的に攻め立てた」というの
が評価されて、前回の「弱さ」を払拭したというのが一般的な評価のようです。とり
あえず、今回も箇条書き風に整理してみることにします。

(1)オバマは確かに相当に覚悟して臨んでおり、ロムニーを激しく攻め立てました
が、結果的に「大統領の威厳」はかなぐり捨てた姿、そんな印象を受けたのも事実で
す。「究極の善人」というイメージも、「現職の重み」も捨てた裸のオバマというの
は、私には「平均的な法廷弁護士の弁舌」以上でも以下でもなかったように見えまし
た。

(2)ロムニーも負けてはいませんでしたが、少々粘着気味で、細かな「ツッコミ」
に対していつまでもネチネチと反論していたり、こちらも「大統領を目指す人間の重
み」は感じられませんでした。

(3)前回よりも、話が細かくなった分、ディベートしての意義という意味ではかな
り軽かったという印象です。特に財政規律の問題や安全保障については、細かな材料
を突っついては相手を攻撃するような応酬ばかりで中身は空でした。

(4)ロムニーは自分の税制案について、これまで余り明らかにしていなかったので
すが、税率はダウンさせる一方で、控除の見直しなどで税収を確保するという部分を
かなり持っているようです。つまり、「共和党だから何でも減税」というのではなく、
ウラでかなり色々計算しているのです。その辺は、数字に強い経営者の感覚というこ
とで、ティーパーティー的な「減税への情念」とは全く違う実務的な姿勢を感じまし
た。

(5)ただ、その「控除見直し」で相当な原資を捻出することで軍事費を削減どころ
か増額するというのは要注意です。何となく、「レーガノミクス」の21世紀版をや
ろうというようにも見えるのですが、では「軍拡ゲーム」の相手はどこに設定するの
でしょうか? 中国でもなさそうですし、イランやシリアでは危険すぎるし、アフガ
ンは撤兵が世論との合意事項になっているし、どうにも不透明です。

(6)奇々怪々だったのが「銃規制論議」でした。AK47などの重火器の規制に関
する質問が市民から出たのですが、両候補共に「論点」から逃げまくったのです。オ
バマは、とりあえず規制をやるようなことを言いはしましたが、その前に延々と「狩
猟や護身用の武装はアメリカのカルチャーで自分も尊重する」と銃保有者への気遣い
をしていたのです。ロムニーはもっとひどく、問題は銃ではなく「アメリカに蔓延す
る暴力のカルチャー」だという全く関係のない話に振っていました。

(7)ちなみに、ここでのロムニーは「暴力カルチャー」を断ち切るためということ
で、「子どもというのは両親が揃うことで健全に育つのだ」ということを延々と力説
していました。一応「世間には立派なシングルペアレントも大勢いるが」と断っての
上ではあったのですが、その「両親が揃っているべき」という話への持って行き方は
いかにも唐突でした。銃規制への質問に対して、その「飛び方」は異様でした。

(8)ただ、この「家族観論議」の部分は恐らくはロムニーの信仰(モルモン教)か
ら来た「確信犯」だった可能性があります。核家族の結束と、健全な次世代の育成と
いうことでは、強い筋を通す宗教だけに、「問題はあるかもしれないが、この機会に
これだけは言わせてもらう」ということだったのかもしれません。いずれにしても、
この欄でも何度もお話したように、今回の大統領選では、銃規制を争点にすることは
双方とも全く考えていないようです。

(9)軍事外交に関しては、9月11日のリビアでの米大使館襲撃事件のことばかり
が話題になっていました。ロムニーが言いたいのは、オバマがこの事件を「ムハンマ
ド冒涜ビデオに端を発したデモの一環」だと思い込んでしまい、事もあろうに「悪い
のはアメリカだと謝罪」し、最終的に「アルカイダ系と思われるプロの仕業」だと発
表するまでに何日も要したというストーリーに持って行きたいわけです。そうすれば、
オバマは「素人で自国の外交官も守れない」ということになるからです。

(10)ただ、このリビアを巡る問題に関しては、とりあえずオバマがしっかり防戦
して、この問題ではこれ以上ロムニーは攻撃できなくなりました。ですが、アフガン
やシリアをどうする、イランをどうするといった問題に関する真剣な討議はゼロでし
た。

(11)ロムニーは今回は相当踏み込んで「嫌中国論」を展開していました。為替操
作国だと言って徹底的に罵倒し、知的所有権を含む貿易ルールに従わないと相当な剣
幕でした。そうした中国の不正な貿易を打倒すれば、製造業はアメリカに戻ってくる
とまで言い放ったのです。ですが、軍事外交の問題での中国への警戒ということは依
然として一切言っていません。

(12)ちなみに、ロムニーの「製造業が戻ってくる」という発言に対しては、オバ
マは「そんなことはない」と切り捨てていました。「アメリカは先端技術で生きてい
くしかなく、大量生産の拠点に再び戻すことで中産階級を養うことはできない」とい
う認識は実に正確だと思います。そういうことを言ってのけるというのは、それはそ
れで立派なのですが、そのことと「大きな政府にして格差是正」ということとは、ど
う結びつくのか、依然としてオバマの経済に関する哲学というのは明確な像は結んで
いません。

 TV討論の印象としてはそんなところです。一つ感じたのは、お互いに激しく相手
を攻撃しておきながら、どこか対立の構図に「ゆるさ」があるのです。ある戦争を続
けるのか止めるのか、危機をどう脱するのかといった過去二回の大統領選にあったよ
うな「切迫した対立」は今回は感じられません。

 その背景には、両候補が「中道実務家」であり、レトリックとその背後のイデオロ
ギーには相容れないものがあっても、論点自体の衝突の仕方は「ゆるい」ということ
があるように思います。また、更に言えば、この討論を取り囲む世相のムードとして
「景気を何とかしてくれ、雇用を何とかしてくれ」という問題に関する、切迫感が少
し緩んでいるということがあります。

 ここへ来て、消費に関する様々な指数は相当良くなっています。体感としても、例
えば今月末はハロウィンですが、ここ数年は緊縮気味だったハロウィン商戦が今年は
やたらに派手なのです。2008年の「70%、80%オフは当たり前」的な投げ売
りのハロウィン商戦があり、09年から11年まではお祭り騒ぎをする気分でもない
し、使うカネもないというムードがあったのが、臨時の「ハロウィン衣装屋」がニュ
ージャージーの田舎でもニューヨークでもあちこちに出来ていますし、価格も「値引
きなし」の強気なのです。

 その一方で、歳末商戦へ向けて富裕層の購買意欲が相当高まっているというニュー
スもありますし、そうした動きに合わせての小売店の改装や、新規開店などの投資も
目立つようになってきています。雇用の指数も、さすがに先週までは「良すぎた」の
で今週の雇用統計は少し悪化しましたが、ここ数ヶ月のトレンドは堅調です。

 ということなら現職のオバマが有利なのかというと、民主党支持層の中では確かに
そういうムードだと思います。ですが、共和党支持層や富裕層からすると、「もう我
慢できない、もっともっと経済成長を、景気の加速を」という貪欲なセンチメントも
出てきているように思うのです。

 例えば今週の水曜日、10月17日にはシティバンクのパンディットCEOが電撃
辞任するという事件がありました。2007年に就任以来、金融危機への対処で政府
と渡り合い、TARPという公的資金注入を経て、それを返済し、順次経営内容を良
化させてきた手腕は定評のあるところです。そのパンディット氏の辞任に関しては、
全く真相は不明なのですが、多くの市場関係者の「見立て」としては、もっと業績回
復を加速させて欲しい、もうガマンできないという株主の声を代弁して会長以下の役
員会が強硬に改革を迫ったというストーリーが流れています。

 仮にそうであれば、投資家ないし金融の世界では「もう不況は脱したのだから、と
にかく成長の加速を、景気の加速を」という貪欲な渇望感、つまり「現状ではダメだ」
というムードがあるわけで、それが「オバマ下ろし」がやりたいという政治的なモメ
ンタムになっているように感じられます。

 一方で民主党の側には、これだけ景気が落ち着いてきたのだから、現職への信任が
されてもいいのではないかというムードが勿論出てきているわけです。つまり、景況
感が良くなったから「現職でいいじゃないか」という力学と、「こうなったら景気の
加速を」という貪欲な力学が拮抗している、それが今週の大統領選の構図だと言える
でしょう。

 そうは言っても、それでは景気が力強いのかというと、そうそう強気一本で行ける
わけでもないようで、19日の金曜日までには、GEなどの決算が弱かったのと、グ
ーグルの決算データが発表前に「流出」してしまい、しかも相当に悪かったなどの材
料で、急に「財政の崖が怖い」ということになって、市場が弱気になったりもしてい
ます。では、弱気になったらなったで、真剣に「政権交代を」というムードが出てく
るのかというと、そうでもないわけで、対立の「ゆるさ」というのは変わらないよう
です。

 来週の月曜日、22日にはいよいよ最後のTV討論があります。今回は外交がテー
マで、もしかしたら双方ともに「ボロを出さぬように、また政策のフリーハンドを維
持するように」安全運転で来るかもしれません。反対に、もしかすると接戦という状
況を打開すべく、どちらかが仕掛けてくるかもしないし、あるいは、最後のTV討論
に合わせて両陣営共に「取っておきの中傷ネタ」を出してくるかもしれません。20
12年の大統領選はいよいよ佳境を迎えました。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。

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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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JMM [Japan Mail Media]                No.710 Saturday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】101,417部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )  

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