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問われる米大統領選後の対応 国民が音を上げるような歳出削減 厚生年金基金廃止  TPP経済面だけで判断してはならない
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/492.html
投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 12 日 12:59:29: cT5Wxjlo3Xe3.
 


問われる米大統領選後の対応
2012年11月12日(月)  FINANCIAL TIMES

莫大な資金を投じ、2年の戦いを繰り広げた米大統領選の末、米国民が得たのは何か。米国史上、最悪の政治的膠着状態に打開の糸口さえ見つけることはできなかった。オバマ氏再選の確率は高い。その場合、低い期待を逆手に力を発揮できるかが注目だ。
 大統領選挙から一夜明けた11月7日水曜日の朝、米国民は恐らく大統領選を巡る大騒ぎは一体何だったのかと脱力感を覚えるに違いない。
 選挙は、こんな結果になる確率が高い。バラク・オバマ大統領が再選され、上院は民主党が引き続き何とか過半数を確保し、下院では野党の共和党がこれまで通り多数の議席を握るというシナリオだ。
 つまり、2年もの歳月をかけて、60億ドル(約4800億円)もの選挙費用を投入し、約1億3000万人にも上る米有権者が投票したにもかかわらず、今回の選挙戦では近年の米国政治史上、最悪の政局の行き詰まり状態をほとんど打開できなかったという現実に直面することになるからだ。

共和党のロムニー候補(左)とオバマ大統領のいずれが当選しても、問題は「財政の崖」を含む課題にどう対応するかだ(写真2点:AP/アフロ)
健全な保守主義が消えた米国
 「大山鳴動してネズミ1匹」と感じるかもしれない。だがホワイトハウスにとっては、「最悪の中では一番ましな結果」ということになるだろう。再選を果たしたオバマ大統領には、単なる「希望」より「経験」の方がいかに意味があるか示す機会がある。
 共和党候補ミット・ロムニー氏は、自分と共和党がいかに国民が置かれた現実から懸け離れ、こんな結果を招くに至ったかを考えざるを得なくなるだろう。
 両陣営による激しい非難の応酬合戦は、オバマ大統領を支持することは、米国を「ユーロ圏のような社会主義的な国に変えることを意味するぞ」といったレベルにまで成り下がった。
 それだけにここで、米国には共和党が英雄視する故ロナルド・レーガン大統領が実践したような保守主義はもはや存在しないということを強調しておく必要があるだろう。
 そもそもロムニー氏は、レーガン大統領の信奉者だと標榜しているが、ジョージ・W・ブッシュ大統領の最悪の面ばかり踏襲している。非常に戦闘的で、宗教に訴える愛国心を見せつける一方で、ブッシュ大統領のようなユーモアのセンスはかけらもない(ましてやブッシュ大統領が実施した移民政策を展開する気もない)。
 2012年は米国にとって、経済の行方について真剣に議論する機が熟していた年だった。だが、米国民に実際に与えられたのは、実現しそうもない夢のような話か、現状維持に甘んじるかという選択だった。
 例えば、財政政策。ロムニー氏が提示したのは、嘘だろうと言いたくなるような矛盾に満ちた公約だった。上位2%を除く98%の米国民に何の犠牲を強いることもなく、米国が抱える困難な財政上の課題を克服できるかのような話を並び立てた。真実を語らなかったという点では、オバマ大統領も同じだが、ロムニー氏の公約はそれだけで終わらなかった。
レーガンは超現実主義者
 国民全体の税負担を引き下げる一方で、国防予算を冷戦当時の水準にまで引き上げつつも財政収支を均衡させると主張したのだ。そして、帳尻を合わせる方法については、有権者に信頼してほしいと訴えた。
 一般に言われているのとは異なり、レーガン大統領は徹頭徹尾、現実主義者だった。共和党は、レーガン大統領が冷戦に勝利した一因は国防費を急増させたことにあると考えている。
 しかし、ソ連はレーガン氏が大統領に就任するはるか以前から既に破綻していた。レーガン大統領の最大の功績は、タカ派を無視し、ソ連共産党書記長のミハイル・ゴルバチョフ氏を信頼したことだ。
 ソ連の政治や問題について高度な教育を受けた専門家に取り囲まれていたにもかかわらず、レーガン大統領は正しい選択をした。誤っていたのは、ソ連に詳しい専門家の方だった。
 このレーガン大統領による判断のおかげで、世界が受けた恩恵は計り知れない。だが、今の共和党ならレーガン大統領とオバマ大統領を一緒にして、現実に妥協する弱腰の「アポロジスト」とのレッテルを貼るだろう。
高まる景気後退と格下げのリスク
 唯一残念なのは、米国にとって最悪のライバルとなった国々に対して取ったレーガン大統領の手法を、オバマ大統領が真似られないと感じていた点だ。孫子の言葉にもあるように、敵を敗北させる最善の方法は敵を分裂させることだ。レーガン大統領はこれを明快に理解していた。
 この考え方をロムニー氏にしろといっても無理な話だ。彼は、あらゆる反体制派のイスラムグループを、民主主義派であろうと神政国家派であろうと、あるいはスンニ派でもシーア派でも、一切区別せず十把一絡げにして米国にとっての脅威と見なすからだ。
 レーガン大統領は増税法案(ただし、「増税」とは呼ばず「受益者負担」と呼んだ)に何度も署名するなど、財政の実務家としての面も示した。だが、現在の共和党はそうした面を全く持ち合わせていない。ロムニー氏と一部を除く共和党議員は、いかなる増税にも反対することをうたった、グローバー・ノーキスト*1が提唱する納税者保護誓約書に署名した。
*1=全米税制改革協議会会長を務める共和党のロビイスト
 「財政の崖」が間近に迫る中、共和党が現在の頑迷な姿勢を崩さなければ、今後数週間のうちに再び(一昨年夏のような)ロシアン・ルーレットの引き金が引かれ、新たな景気後退の訪れと格付け引き下げのリスクが高まる。ロムニー氏は10ドルの歳出削減を行う代わりに1ドルを増税する案でさえ、合意を検討しようともしないだろう。
 レーガン大統領が300万人の不法移民に恩赦を与えたのに対し、ロムニー氏は彼らに「自発的な国外退去」を求めている。レーガン大統領は、日本企業との不当競争を避けるため、企業と連携して米半導体業界を救った。一方ロムニー氏は、米国の競争力底上げを図るべく政府が関与するいかなる提案に対しても、「政府が介入すべきではない」として反対している。
 ほかにも両者の違いは多くある。社会政策についても大きな隔たりがある。レーガン氏はカリフォルニア州知事時代に中絶を合法化したが、ロムニー氏はレイプと近親相姦を除くすべての中絶に反対している。
 だからといって、ロムニー氏が有能な大統領になる資質を欠いているということではない。彼は大統領候補として「超保守派」の仮面をかぶっていたものの、実際にははるかに実務的な人間ではないかと思える。
 だが、それは筆者の直感にすぎない。今は賭けに出る時期ではない。
 このことは、オバマ大統領をいわば「未知の悪魔」よりは「既知の悪魔」の方がましだという程度の位置づけにしてしまうほど、今回の大統領選にはかくも時間とカネを投じたのに、ほかに候補はいなかったのか、という思いを起こさせる。(前回の選挙で「希望」と「チェンジ」を掲げ、大きな可能性を期待させた)オバマ氏は当時、まさに「未知の天使」だった。
重要事項は11月7日以降起きる
 選挙とは選択である。しかし、外交政策一つを取ってみても選択の余地はあまりなかった。オバマ大統領が実際の戦争や通貨戦争を仕掛ける公算は極めて小さい。これに対して、ロムニー氏は戦争をすると言い続けている。
 経済についても同じことが言える。オバマ大統領は回復を頓挫させるいかなる措置も導入することなく、時間をかけて徐々に財政再建を達成しようとするだろう。ロムニー氏は様々な数字や希望を掲げるが、そんなものを誰も真に受けることはないだろう。
 ここでオバマ大統領が1期目に犯した過ちを繰り返しても意味はない。だが、11月6日に起きることが、2012年の最も重要な出来事になるなどと考えない方がいいことだけは指摘しておく。
 米国は11月7日以降、いよいよ財政問題に真正面から取り組まざるを得ない。この先、いかなる事態も起こり得る。大統領選に勝利したとして、2期目に入るオバマ大統領への期待感は、1期目よりもはるかに低いだろう。
 その意味で2期目は1期目と天と地ほども違うが、恐らくオバマ大統領にとっては、その期待感の低さを追い風に変えられるかもしれない。
(編集部より:この論評は大統領選挙投票日より前の11月4日に書かれたものである)
Edward Luce
(cFinancial Times, Ltd. 2012 Nov. 4)
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【第38回】 2012年11月12日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員]
政府・民主党再生の道は国民が音を上げるような歳出削減
 民主党政権に残された時間は少ない。新聞報道では、総理は燃え尽き症候群で、あらたな課題を探しあぐねているという。

 特例公債法、一票の格差是正など自民党の力を借りなくてはどうにも決まらないという状況だが、総選挙までの残された時間で、民主党政権の信頼回復に少しでも寄与する政策は、「歳出削減」を本気で行うことである。

「ポピュリズム歳出削減」には限界

 そもそも民主党の歳出削減は、全く手つかずに終わった。08年マニフェストでは、「国の総予算207兆円を全面組み替え。税金のムダづかいと天下りを根絶。……衆院定数を80削減……(これらにより)公共事業費で1.3兆円、人件費で1.1兆円、庁費・施設費、補助金などで6.1兆円、そのほかの経費を合わせて9.1兆円の歳出削減が国の予算からできる」とされていた。

 これらが実行に移せなかった最大の原因は、民主党が、歳出削減の本質を理解していなかったことによる。

 国民が拍手喝采を送る歳出削減というのは、一部の既得権益者だけが利益を受けていて、政・官・財のスクラムの中で温存されてきたような歳出をカットすることだろう。以下、これを「ポピュリズム歳出削減」と呼ぶ。

 いまだ、政・官・財のトライアングルの中で温存されている既得権益は少なからず存在する。このような歳出を、徹底的に削減・廃止することは、政府の信頼を高めるために重要なことである。

 しかし、「ポピュリズム歳出削減」では、GDPの2倍の借金を抱え、国の一般会計で毎年40兆円を超える赤字を出してきたことへの対策としては、スズメの涙に終わってしまう。

 必要なのは「財政再建のための歳出削減」である。

「ポピュリズム歳出削減」と「財政再建のための歳出削減」との区別ができなかったところに、民主党の敗北がある。

「財政再建のための歳出削減」とは

 では「ポピュリズム歳出削減」と「財政再建のための歳出削減」とはどう違うのか。前者は、基本的に個別事業レベルの見直しの話だが、後者は、制度のあり方を変える、構造的な問題への切り込みであるという点だ。

 その際重要なことは、「国の負担を軽減する(歳出削減)場合、特定の国民にその負担が付け替わる」という冷徹な事実である。

 社会保障費削減について、国民医療費の増加を抑制するために、自己負担割合を引き上げる場合を考えてみよう。自己負担割合を引き上げた結果、過度の受診は抑制され国民医療費は抑制される(歳出削減)。他方で、個人の自己負担は増える。

 年金の国庫負担を抑制するために、年金の支給開始年齢の引き上げを行う場合も同じである。年金財源は抑制される(歳出削減)が、年金支給が遅れるということで個人はその分負担増になる。

 消費税率を上げてその分を賄う場合には、患者や年金受給者という特定の人の負担はかわらないが、国民全員が負担増となる。しかし、だれかが負担増になるという点においては、変わらないのである。

 つまり、歳出削減と国民負担増とは、コインの裏表である、これを民主党政権は理解しなかった。

本質を理解していた小泉元総理

 実はこの点について、最も理解していた政治家は、小泉元総理である。小泉総理は、「骨太06(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006)」を決定する経済財政諮問会議で、きわめて興味深いことを述べている。

(小泉議長)(私が)消費税を上げないのは無責任だ、と言っているが……現実に、私の言っているとおりになっている。……歳出削減をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税をしてもいいから必要な施策をやってくれという状況になってくるまで、歳出を徹底的にカットしないといけない。そうすると消費税の増税幅も小さくなってくる。

 これから、歳出削減というのは楽ではないことがわかってくるだろう。今はまだ分かっていない。歳出削減の方が楽だと思っている。……歳出削減を徹底していくと、もう増税の方がいいという議論になってくる。ヨーロッパを見ると消費税は10%以上、ドイツは19%、与野党が反対、反対と言っていたのが一緒になった。みんな10%以上である。野党が提案するようになっている。(2006年6月22日経済財政諮問会議議事要旨)

 この発言は、歳出削減を続けていると、いずれ国民から、安定財源を確保してきちんとした社会保障をやってくれという声が出る、そこではじめて消費税引き上げに国民が賛同する、という趣旨だ。

 民主党政権は、この点が逆転した。社会保障・税一体改革といいながら、消費税増税だけ行ったのだから。

老人向けの人気取り政策をやめる

 今からでも遅くない。社会保障国民会議という時間稼ぎのための仕掛けを待つのではなく、残された時間で、国民が音を上げるような歳出削減を行うべきだ。

 たとえば後期高齢者の医療費自己負担問題である。70〜74歳の医療費自己負担割合は、法律上では2割となっている。これに対して、毎年2000億円の予算を投じて1割に据え置くという、いわば法律違反の予算措置してきた。2013年度の予算編成で本来の2割に戻すかどうか、というのが焦点となっている。

 1割に据え置くための税金の投入をやめれば、70〜74歳の医療費自己負担は上昇する。しかし、真に払えない人には別途措置を講じればいいのであって、お金持ちも多いこれらの人たち全員の自己負担を、法律に違反してまで、一律に補助する政策はただちにやめて、2000億円の歳出削減につなげるべきだ。

 もうひとつ例をあげるなら、年金の過払い問題がある。過去の物価下落時に減額しなかったため、本来より2.5%高い年金額(特例水準)を払っているのだが、これを本来の水準に引き下げること、つまり特例水準の解消である。

 厚生・国民年金や公務員の共済年金の金額は、前年の物価の増減などに連動して決まる。しかし00〜02年度は物価が計1.7%下がったにもかかわらず、当時の与党、自民・公明両党は高齢者の反発を懸念して年金額を据え置いた。これが膨らみ今は本来水準より2.5%高くなっている。早急に、3年で年金を2.5%減らすことを実行すべきだ。この点については、すでに法案が出ているし、本来水準より高くなっている責任は野党にもある。

 今度の選挙、第3極政治勢力は、「歳出削減」を掲げて選挙を戦うだろう。その際、彼らが、「ポピュリズム歳出削減」と「財政再建のための歳出削減」とをきちんと区別したうえで、「後者は、国民負担増とコインの裏表だ」ということを理解しているかどうか、正直に国民に訴えるかどうか、そこが彼らの評価のメルクマールとなる。


〈お知らせ〉
このたび、朝日新書『消費税、常識のウソ』という本を出版しました。これまでダイアヤンド・オンラインに掲載してきた消費税に関連する記述をもとに、新たな視点も加えてまとめ上げたものです。消費税引き上げと価格の問題、経済との関係、消費税の税制としてのメリットなどが中心です。あわせて、「日本維新の会」の主張するフラット・タックスや給付付き税額控除の説明と、私の意見も掲載しています。是非、ご一読いただければと思います。
http://diamond.jp/articles/print/27665


【第251回】 2012年11月12日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
厚生年金基金廃止にどう取り組むべきか
 厚生労働省が厚生年金基金制度の廃止方針を打ち出して、話題になっている。内容の詰めは今後の問題だが、廃止まで10年程度の予備期間を設けることと、「代行割れ」の損失部分について、全部ないし一部を厚生年金本体で負担することを検討しているようだ。

 この問題には、厚生年金基金を設立している母体企業、年金基金、厚労省、それに年金関連業界の利害が複雑に絡んでいる。

 母体企業では、率直に言って厚生年金基金を設立したこと、あるいは基金に加入したことを後悔している経営者が多いだろう。経営者の感覚としては、それが「まとも」だ。実際に、ピーク時には1800以上あった厚生年金基金は、大企業の基金を中心に代行返上や解散が相次ぎ、今や基金の数は600を切った。後者は、主として、こうした足抜けの際の損失処理の負担に母体企業が耐えられないことで、やむを得ず残った基金だ。これらの基金は大半が積み立て不足を抱えており、その約半分で、損失が「上乗せ部分」に必要な積立金の額を超えて、厚生年金からの代行部分の積立金まで食い込む「代行割れ」の状態になっている。

 代行割れしていないことをもって「健全」な基金だとする報じ方が一部にあるが、これは正しくない。厚労省が、積み立て不足に対処する基準を甘くし過ぎたことと、積み立て不足の基金の資産運用で大きなリスクテークを認めたことの組み合わせが、今日の厚生年金基金の惨状を招いた。

 さて、母体企業の経営者としては、厚生年金からの「足抜け」の方法が悩ましい。自社が負担すべき分の損失の補填を厳格に求められるなら、少しでも早く、自社だけでも基金を脱退したいはずだ。ただし、この負担に耐えられない経営状態なら、基金から借金をしているのと同じだから、これを引っ張りたいと考えるかもしれない。

 ところが、健全な会社であっても、代行割れの損失部分について、国ないし厚生年金本体が損失の負担をしてくれるという場合、運用で大きなリスクを取って、資産の回復を目指したくなる誘惑が発生する。例えば、基金が現在代行割れぎりぎりの状態にあって、基金の解散時に代行割れ分の半分を公的に負担してくれるなら、運用のもうけは全額上乗せ部分の積立金の回復になる一方で、運用の損失は半分が国の負担だ。これは有利な賭けであり、10年という期間も、運用でギャンブルを行うに十分だ。

 基金の担当者は、自らの雇用機会と面白い仕事を確保できるから、このギャンブルには賛成だろう。また、基金を相手にする運用会社にしても、このビジネス機会を逃すはずはない。年金運用としては、これまで以上に危険な10年が始まりそうだ。

 一方、厚労省は、「曖昧な10年」をつくることによって、基金に在職する官僚OBの反発を和らげることができるし、人事異動によって、厚生年金基金廃止の方針を決めた人と、これを最終的に実行する人を別々にすることができる。

 ポイントは二つある。まず、基金の財政状態に不相応なリスクを取る運用を一刻も早く止めることが肝心だ。「大負けしたギャンブラー」をカジノに留め置いてはいけない。この点こそが、問題の本質だ。10年という移行期間は無駄に長く、危険でもある。

 また、運用失敗の帳尻を、失敗に何ら責任のない厚生年金加入者の資産で穴埋めすることは、やってはならない不正義だし、これを利用しようとするあしきインセンティブを生むことに気付くべきだ。

「早くて正しい」処置を求む。
http://diamond.jp/articles/print/27725


【第19回】 2012年11月12日 伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長]
TPPを経済面だけで判断してはならない

政治的・社会的な意義まで含めて考えることが重要
ECFAで激変した中台関係

 地域貿易協定は域内の関税を撤廃し、さまざまな分野での経済協力を進めていく協定である。その意味では、経済分野での協力を目指したものである。しかし、現実的には多くの地域貿易協定は政治外交的な意図を含んだものであり、経済を超えて政治や社会などに幅広い影響を及ぼす存在である。

 日本が取り組んでいるTPP(環太平洋経済連携協定)もその例外ではない。米国と中国というアジア太平洋地域の二つの大国のこの地域での主導権争い、そしてそのなかにおける日本の立ち位置とも深い関係を持っている。経済問題に限定したナイーブな捉え方をしてはいけない。

 地域貿易協定が政治的な意味を強く持っていることは、いろいろな例で確認することができる。以下でいくつか取り上げてみたい。

 最初は台湾と中国の関係である。

 5年ほど前、台湾の総統が民進党の陳水扁氏から国民党の馬英九氏に代わった。陳総統の時代、台湾は中国からの独立を打ち出す姿勢を見せていた。台湾は中国の一部であるという立場の中国にとって、これは容認できることではない。中国からはさまざまな締め付けが行われ、中台関係は緊張していた。

 民進党を選挙で破った国民党の馬英九総統は、こうした中台関係の緊張をほぐす手法として、中国との経済連携であるECFA(経済協力枠組み協定)の締結に動いた。域内の関税を撤廃するという自由貿易協定ではないが、ECFAによって中国と台湾の経済交流は大幅に拡大することになる。

 象徴的な事例として、台湾と中国大陸の航空路線がある。民進党政権の時代には、台湾と中国大陸を結ぶ直行便は一便もなかった。当時から、多くの台湾のビジネスマンが中国大陸で事業を展開していたが、台湾との行き来は香港経由、沖縄経由、成田経由などであったという。

 しかし、ECFAが結ばれて中台間の直行便が認められるようになり、今や1週間に500便以上が就航しているという。大変な変化である。これで中台間の移動が便利になっただけでなく、新幹線の建設で国内線が縮小していた台湾の航空会社も息を吹き返したようだ。

 その直行便に乗って、大量の中国人観光客が台湾に来るという。台北の観光名所である故宮博物院は中国人観光客で溢れているそうだ。多くの観光客がお土産で購入するパイナップルケーキの業界は突然の好景気に沸いている。

 台湾の識者のなかには、あまりに中国に経済的に依存するようになると、政治的にも首根っこを抑えられると警戒する人もいる。台湾にとって、台湾海峡の平和が今後どのような展開を示すのかはわからない。ただ、中国側から見れば、ECFA締結は、外交戦略から大きな意味があったことは確かだ。

米国の理念をメキシコに輸出?

 いま世界のあちこちで進んでいる地域貿易協定の流れを加速化させる上で重要なエポックとなったのが、1990年代初めに締結されたNAFTA(北米自由貿易協定)である。米国が隣国のカナダやメキシコと自由貿易協定を締結した。ただし、米国とカナダは、すでに米加自由貿易協定を結んでいた。

 米国は他の2国に比べて圧倒的に大きな国である。当時、米国内にはメキシコのような国と自由貿易協定を結ぶことに意味があるのか、という懐疑論があった。自由貿易協定の締結によって工場などが大挙してメキシコに移ってしまい、米国内の雇用機会が減少するのではないかと懸念する声もあった。

 その当時、米国のある識者の発言が面白かった。「メキシコと自由貿易協定を結ぶ最大の目的は、米国の理念をメキシコに輸出することである。経済的利益は二次的なものである」と発言したのだ。

 この発言の意味は、メキシコの国内政治と深い関係がある。メキシコに限らず中南米の国には、親米で経済自由化を志向する勢力と、反米で保護主義的な姿勢を示す勢力がある。各国内の政治は、こうした二つの勢力間の対立という側面も持っている。

 米国にとっては、隣国のメキシコの政治が親米的で、市場原理を推進してくれることが好ましい。メキシコの経済が活性化すれば、メキシコからの大量の非合法移民の流入を抑えることにもつながる。メキシコ国内の親米派勢力を支援するためにも、NAFTAを結んで経済関係を緊密にし、メキシコの経済発展を支援することが米国の利益にかなうと考えたのだ。

 メキシコは、いまやシンガポールやスイスと並んで、世界で最も多くの国と自由貿易協定を締結している国である。NAFTAの成功もあったのか、メキシコ国内での自由化派の政治基盤は強化されているということなのだろう。国内的には麻薬組織のテロや殺人などやっかいな問題を抱えている同国だが、自由貿易協定の締結によって経済は順調に成長を続けている。

EUにノーベル平和賞

 今年のノーベル平和賞はEU(欧州連合)に授与された。ユーロ危機に苦しむEUになぜいまノーベル平和賞なのかといぶかる人も多いだろう。しかし、ユーロ危機で悪い面だけが強調されがちだが、平和、人権、政治的安定という意味では、EUは大きな成果をあげている。地域経済統合が非経済的な側面でいかに重要な意味を持っているのかを理解する上でも、ノーベル平和賞の下した評価について考えてみる必要がある。

 いま財政問題に苦しむスペインやポルトガルは、1970年代中頃までは独裁政権下にあった。特高警察による弾圧などが横行し、市民の人権が抑圧されていた。これらの国が民主主義国家に移行したのち、順調に民主国家としての成長を果たす上でEUの役割は大きかった。

「アラブの春」で独裁政権が倒れたエジプトなどを見てもわかるように、政権打倒後に順調に安定した民主政権に移行することは容易ではない。スペインやポルトガルが非常にスムーズに民主主義体制に移行できたのは、これらの国がEUに加盟していったことと深い関係がある。

 1989年にベルリンの壁が崩壊した後、東欧諸国は共産党政治の抑圧から解放された。ここでもEUの存在は大きかった。EUからの支援があっただけでなく、EUに加盟していくことで、東欧諸国は順調な体制転換を果たすことができた。経済的にも大きなメリットを受けている。

TPPとアジア太平洋の安定

 TPPが持っているアジア太平洋地域の政治的、社会的な意味についても考察を進めていく必要があるだろう。TPPは一義的には経済連携の枠組みであるが、政治的にも外交的にも大きな影響を及ぼすからだ。

 あるアメリカの元高官が言っていた。TPPを積極的に進めようとするところに、米国のアジア太平洋地域へのコミットの意気込みを感じてほしい、と。今後、アジア太平洋地域が世界経済のなかでますます重要な存在になっていくことは明らかだ。当然、米国もそこに深く関与したいと考えているだろう。TPPは、そうした米国の意図を反映している。

 日本も含む多くのアジア太平洋地域の国にとって、米国がこの地域により深く関与することには好ましい面が多い。今後ともアジア太平洋が平和で安定的であるためには、米国のコミットが欠かせないからだ。

 急速に台頭してきた中国は、周辺国とさまざまな軋轢を生み出すようになっている。領土問題がその典型だ。東南アジア諸国のなかには、中国の理不尽な膨張をチェックするためにも、米国の関与が必要と考えているところが多いはずだ。この点は日本にも当てはまる。

 米国にとっても、米国抜きで中国中心のアジアの秩序が構築されることは好ましくないだろう。共産党一党独裁という政治体制が、民主主義国家の理念とぶつかる面も多い。チベットなどの問題もある。

 アジア太平洋地域で米国と中国が対立するのは好ましいことではない。中国国内の民主化を進め、国民の目を外に向けて開放し、中国自身の変化を促していくことができるのが望ましい。TPPは中国を排除する仕掛けではなく、中国をもアジア太平洋地域の大きな経済連携の枠組みのなかに引き込む仕掛けにすべきである。

 中国を排除したTPPも、米国を入れないASEAN+6も、その先にあるアジア太平洋全域の地域貿易協定へのステップであるべきだと言われる。アジア太平洋での広域での経済連携を形成するのは容易ではないが、そうした方向を意識することは重要だろう。
http://diamond.jp/articles/print/27710


 

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