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中国は「中所得国の罠」にはまるのか:発展段階、人口構成、都市化、過剰投資   日本経済すでに景気後退局面GDP見通し↓
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/622.html
投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 24 日 09:18:56: cT5Wxjlo3Xe3.
 

中国は「中所得国の罠」にはまるのか:発展段階、人口構成、都市化、過剰投資の4つの視点から見た現状と展望
2012/11/22


三尾 幸吉郎
経済調査部門
電話番号:03-3512-1834
e-mail:mio@nli-research.co.jp

Weekly エコノミスト・レター2012/11/22号全文ダウンロード(347KB)
発展段階の視点から見ると、従来は追い上げる立場だった中国が、今後は後発新興国に追い上げられる立場となり、「中所得国の罠」にはまり易い位置に到達している。
人口構成の視点から見ると、生産年齢人口が減少に転じる中で、従来の高成長を支えてきた「安価で豊富な労働力」は曲がり角にある。
都市化の視点から見ると、従来は都市化の進展が高成長に貢献してきたが、今後は農村では大規模化の課題に直面、都市でも高付加価値産業の育成という課題に直面する。
過剰投資の視点から見ると、先行して経済発展したアジア諸国の投資比率が屈折したレベルに達しており、投資主導にも黄信号が灯っている。
以上4つの視点から見ると、中国の成長率が今後鈍化する可能性は高い。但し、成長鈍化だけで「中所得国の罠」にはまったというのはやや言い過ぎで、安定成長へのソフトランディングができれば、「中所得国の罠」を克服したと評価して良いと思われる。
安定成長へのソフトランディングで成否のカギを握るのは消費拡大。中国の消費比率は低く消費の拡大余地は大きい。但し、消費比率が低いのは構造問題があるからで、所得分配制度改革、社会保障制度充実、産業構造転換を進めて、構造問題を解消する必要がある。
財政には裁量余地があるため数年なら8%前後の成長は可能。但し、財政健全性が維持できている内に、既得権益層との折り合いを付け、所得分配制度改革、社会保障制度充実、産業構造転換などの構造転換を進めないと、「中所得国の罠」にはまる恐れもある。


http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2012/we121122chi.pdf

ニッセイ基礎研究所 2012-11-22
中国は「中所得国の罠」にはまるのか:
発展段階、人口構成、都市化、過剰投資の4 つの視点
から見た現状と展望

1. 発展段階の視点
日本が高度経済成長期にあった1960 年、中国経済
は日本の約1.4 倍の経済規模だった。その後の中国は
共産党内部の権力闘争が絶えず、1966-77 年には文化
大革命が起こり経済は停滞した。改革開放直後の
1980 年、中国の人口は日本の8.5 倍にあたる10 億
弱を擁したが、経済規模では日本の6 分の1程度に
留まっていた。その後、改革開放政策で高成長が続
いた中国経済は、2010 年には再び日本経済を規模で
抜き世界第2 位の経済大国となった(図表-1)。
一方、経済的豊かさを示す一人あたりGDPの推
移をみると(図表-2)、1980 年の中国は世界142 位
(対象146 ヵ国)と、インドを下回っていたが、そ
の後の目覚しい経済発展で、2011 年には世界84 位
(対象177 ヵ国)と第3 分位(上から40%-60%)
に順位を上げ、タイを追い抜いた。タイの場合、1980
年代後半から90 年代前半にかけての高成長で、第3
分位に世界順位を上げた。アジア通貨危機で外資が
流出すると大幅なマイナス成長に陥り、その後は安
定成長を維持しているものの、世界順位では1990 年
代のピークを超えられずに停滞、「中所得国の罠」に
はまった国のひとつといえるだろう。一方、韓国の
場合には、1970 年代前半に第3 分位へのランクアッ
プ直前で数年間停滞したものの、大きく順位を落と
すことなく先進国と並ぶレベルに上昇しており、「中
所得国の罠」を克服した国といえるだろう。
「中所得国の罠」にはまる確率をみるため、経済
の発展段階と成長率の関係をみたのが図表-3 である。
分析対象とした178 ヵ国のうち2000 年に第3 分位に
あった国は35 ヵ国で、これらの国々のその後10 年
間の成長率は平均して年率4.7%(1 標準偏差=2.8%)
と、第4 分位にあった国々の平均成長率よりも0.7
ポイント低い。また10 年後(2010 年)に第2 分位
へランクアップできたのは全体の7 分の1 に過ぎな
い。この統計から見ると、現在第3 分位に位置する
中国が、10 年後(2020 年)に第2 分位へランクアッ
プできる確率は低く、狭き門となりそうである。

(図表-1)
名目GDPの推移
0
20,000
40,000
60,000
80,000
1960 1970 1980 1990 2000 2010
(年)
(億ドル)
日本
中国
(資料)世界銀行の資料を元にニッセイ基礎研究所で作成
(図表-2)
一人あたりGDPの世界順位の推移
0%
20%
40%
60%
80%
100%
1960 1970 1980 1990 2000 2010
(年)
(相対位置)
日本
中国
インド
タイ
韓国
(資料)世界銀行の資料を元にニッセイ基礎研究所で作成
(注)相対位置=100%-〔(世界順位-1)÷対象国数〕、(100%が1位、0%が最下位)
第1分位
第2分位
第3分位
第4分位
第5分位
(図表-3)
発展段階と成長率の関係
平均
5.4
平均
5.4
平均
4.7
平均
3.4
平均
2.7
0
2
4
6
8
10
第5分位第4分位第3分位第2分位第1分位
(低い ← 発展段階 → 高い)
(成長率%)
(資料)IMFのデータを元にニッセイ基礎研究所で作成
(注1)発展段階は2000年時点の一人あたりGDPの世界順位、5分位で表示(例えば第1分位は上位20%以内)
(注2)成長率は、その後10年間(2001-2010年)の平均
平均 +1σ
平均 -1σ
3| |Weekly エコノミスト・レター 2012-11-22|Copyright ©2012 NLI Research Institute All rights reserved
2. 人口構成の視点
中国の人口は、中国国家統計局のデータによれば
13.47 億人(2011 年)で、過去10 年間に年率0.5%の
ピッチで増加、労働力となる生産年齢人口(15-64 歳)
も年率1.1%のピッチで増加してきた。これが「安価で
豊富な労働力」の源泉となり、中国が高成長を遂げる背
景となった。ところが、今後10 年を考えると、国連の
予測では、人口の増加率が年率0.3%に鈍化するととも
に、生産年齢人口の増加率は年率0.1%へ鈍化、2016
年をピークに減少に転じる見通しである(図表-4)。
図表-5 に示した中国の従属人口比率(0-14 才と65
才以上の人口の合計÷生産年齢人口)の推移をみると、
1970 年代に8 割弱の高水準にあった従属人口比率は、
若年従属人口比率(0-14 才の人口÷生産年齢人口)が
1979 年に導入された一人っ子政策の影響で子供の数が
減少したため急低下、現在では3 割弱に落ちている。今
後も若年従属人口比率の低下は続くとみられるものの、
今後は高齢化の進展で高齢従属人口比率(65 才以上の
人口÷生産年齢人口)が上昇ピッチを速めることから、
従属人口比率は2015 年前後をボトムに反転上昇する。
そして、先進国になる前に高齢化が進む「未豊先老(豊
かになる前に高齢化社会になる)」の懸念が中国国内で
は高まってきた。
中国よりも一足先に高齢化が進んだ日本の場合をみ
ると、従属人口比率は1990 年の43.4%をボトムに反転
上昇し、2010 年には56.4%に達した。そして、この反
転上昇とほぼ同時に成長率も低迷し始めた。欧州でも、
日本とほぼ同時期に従属人口比率がボトムを打った国
が多い。これらの欧州諸国の成長率をみても、平均的に
は成長鈍化の傾向を示している(図表-6)。但し、最大・
最小の乖離幅の拡大が物語るように、国によるバラツキ
が大きく、外部環境やその国の成長戦略次第では、悪影
響が緩和できた国もある。従って、中国の今後の従属人
口比率の上昇は、経済成長にマイナスのインパクトをも
たらす可能性が高いとは言えるものの、外部環境や成長
戦略の巧拙次第では、悪影響が緩和できる可能性もある
といえるだろう。
(図表-4)
中国の人口の推移と予測
800
900
1,000
1,100
1,200
1,300
1,400
1,500
2000 2005 2010 2015 2020
(年)
(百万人)
66%
68%
70%
72%
74%
76%
78%
80%
(注)2011年までは中国国家統計局、2012年以降は国連(World Population Prospects、The 2010 Revision)
   を元にニッセイ基礎研究所で作成
生産年齢人口
(15-64歳)
(左目盛り)
人口
(左目盛り)
生産年齢人口
÷人口
(右目盛り)
予測
(図表-5)
中国の人口構成の変化
0
20
40
60
80
100
1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050
(年)
(%)
(資料)国連(World Population Prospects: The 2010 Revision)を元にニッセイ基礎研究所で作成
(注)従属人口比率は0-14才と65才以上の人口の合計÷生産年齢人口、
   若年従属人口比率は0-14才以上の人口÷生産年齢人口、
   高齢従属人口比率は65才以上の人口÷生産年齢人口
高齢従属人口比率
若年従属人口比率
従属人口比率
今後
(図表-6)
欧州の従属人口比率と成長率の関係
3.4
2.7
1.8
2.1
2.4
1.9 50.2
49.4
48.1
49.0
53.3
56.4
47.0
-1
0
1
2
3
4
5
6
15年前
(15−10年前)
10年前
(10−5年前)
5年前
(ボトム-5年前)
ボトム5年後
(ボトム-5年後)
10年後
(5−10年後)
15年後
(10−15年後)
(%)
44
46
48
50
52
54
56
58
(%)
(資料)国連のデータを元にニッセイ基礎研究所で作成
(注1)欧州はドイツ、イタリア、オランダ、デンマーク、フィンランド、フランスの6ヵ国
(注2)従属人口比率はボトムを中心に5年毎、成長率の期間は横軸の括弧内に表示
従属人口比率
(右目盛り)
成長率(平均)
成長率(最大)
成長率(最小)
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3. 都市化の視点
生産年齢人口の減少による悪影響は、農村から都市
への人口移動(都市化)で軽減できる面がある。都市
での労働力不足が緩和できるとともに、人口が増える
都市では新たなインフラ整備需要が生まれて、経済成
長の牽引力となるからである。
中国の都市化は、中国が「世界の工場」に発展する
過程で進展した。1978 年の改革開放以降、沿海部では
外資系企業の進出が増え、輸出拡大を目指す国内企業
も続々と工場を建設したため、都市の労働力不足が深
刻化、それを農村の労働力で賄ったことから、都市化
が急ピッチで進んだ。現在の中国の都市化率(都市人
口÷総人口)は51.3%(2011 年)だが、これをアジア
諸国と比較すると(図表-7)、日本、韓国、マレーシア
のレベルに到達するには十分な余地が残っており、中
国の都市化は今後も進むと見られる。
しかし、供給サイドとなる農村では労働力を供給す
る力が衰えつつある。まず、中国の年齢別人口構成を
見ると(図表-8)、今後教育段階を終える14 才以下の
若者の数がピークを越えつつある。また、農業の労働
生産性を上げれば、新たな余剰労働力が生まれて都市
へ供給できるが、中国では農業の近代化が既に進んで
おり、1ha あたりの穀物収穫量は5,521kg(2010 年)と
世界でも最高水準に達している。従って、一人あたり
の耕作地を拡げる農業の大規模化で労働生産性向上を
図る必要があるが、農地の大規模化に対しては、農民
の抵抗感が強く、経済的な豊さよりも農民であること
を選ぶ人も少なくないため、農業の大規模化には時間
がかかると思われる。
一方、需要サイドとなる都市にも限界が見えてきた。
中国の賃金上昇で、安い労働力を求める資本は後発新
興国へ工場を移転、「世界の工場」が中国から後発新興
国へ分散し始めている(図表-9)。ところが、この工場
流出は、発展に伴う賃金上昇が原因なだけに、発展を
止めることもできず、食い止めるのが難しい。従って、
高い賃金に見合った高付加価値の産業を育成する必要
がでてきており、それができなければ、都市の労働需
要が衰えて都市化が進まないリスクを抱えている。
(図表-7)
アジア諸国の都市化率
0
20
40
60
80
100
日本
韓国
マレーシア
インドネシア
中国
フィリピン
タイ
インド
ヴェトナム
(%)
(資料)国連、World Urbanization Prospects(The 2011 Revision)
(図表-8)
中国の年齢別人口構成(2010年)
0%
2%
4%
6%
8%
10%
12%
0-4
5-9
10-14
15-19
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
80-84
85-89
90及以上
(歳)
農村(乡村)
町(镇)
都市(城市)
(資料)CEICのデータを元にニッセイ基礎研究所で作成
(図表-9)
世界の人口分布
(一人あたりGDP階層別、2011年)
0 1,000 2,000 3,000
1000ドル
未満
1000-
4000ドル
4000-
8000ドル
8000-
15000ドル
15000-
20000ドル
20000-
25000ドル
25000-
30000ドル
30000ドル
以上
(一人あたりGDP、
USDベース)
(資料)IMF(World Economic Outlook Database,October 2012)を元に作成(百万人)
インド
中国
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4. 過剰投資の視点
一方、中国では過剰投資の懸念も台頭している。中
国の投資(総固定資本形成)がGDPに占める比率は、
2011 年で45.7%と4 年連続で4 割を超えた(図表-10)。
この投資比率は主要先進国(G7)の2 割前後と比べ
ると約2 倍であり、一人あたりGDPが中国より低い
インドやインドネシアでも3 割強に留まることを勘
案すれば、中国の投資比率は世界でも突出して高い。
開発途上国が発展する初期段階では、先行的に投資
を増やすケースが多いため、アジア諸国には過去に投
資比率の高まりを経験した国が多い。1990 年代のタ
イでは投資比率が4 割前後で7 年間、マレーシアでも
5 年間続いたことがあり、韓国でも1990 年代に4 割
には達しなかったものの35%前後が8 年間続いた。
日本でも高度成長期にあった1970年前後には35%前
後が6 年間続いていた。しかし、その後の日本では、
高度成長が終わるとともに投資比率も3 割前後へ低
下、1974 年には石油危機も加わってマイナス成長に
落ち込み、安定成長に移行した。韓国、タイ、マレー
シアでも、アジア通貨危機でマイナス成長に落ち込ん
だ後、韓国の投資比率は3 割前後へ低下、タイ・マレ
ーシアでは2 割台へ低下しており、前例をみれば中国
の4 割超も長くは続きそうにない(図表-11)。
また、この4 ヵ国では、石油危機やアジア通貨危機
という危機をキッカケに一気に投資比率が屈折した
ため、一時的だがマイナス成長に落ち込むというショ
ックを経験している。これは外需依存で高成長に成功
した国に共通する特徴で、輸出向けの生産設備増強を
続けた結果、限界に達したことに気付かず(あるいは
気付いても過去の成功体験に拘り)、内需主導への構
造転換が進まず、外的ショックをキッカケに過剰投資
が一気に調整された。そして、その後の成長率は概ね
以前の半分程度に低下している(図表-12)。
中国だけが例外とは考え難く、数年以内には中国の
投資比率も低下に向かうだろう。但し、これは高成長
を続けた国の宿命でもあり、ショック無しにソフトラ
ンディングできるか否かの方が重要といえるだろう。
(図表-10)
中国の投資比率(対GDP)
20%
30%
40%
50%
1980年1990年2000年2010年
(資料)CEIC(中国国家統計局)を元にニッセイ基礎研究所で作成
(図表-11)
アジア各国の投資比率の屈折
15
20
25
30
35
40
45
-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
(年)
(%)
4ヵ国平均
マレーシア
タイ
韓国
日本
(資料)国連のデータを元にニッセイ基礎研究所で作成
(注1)投資比率は総固定資本形成÷名目GDP
(注2)基準年(=0年)は日本が1974年、タイが1996年、マレーシアと韓国が1997年
(注3)1969年以前の日本の投資比率はニッセイ基礎研究所で推計
(図表-12)
同時期の経済成長率の推移
-15
-10
-5
0
5
10
15
-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
(年)
(%)
4ヵ国平均
マレーシア
タイ
韓国
日本
(資料)国連のデータを元にニッセイ基礎研究所で作成
(注1)4ヵ国平均は日本、タイ、マレーシア、韓国の単純平均
(注2)基準年(=0年)は日本が1974年、タイが1996年、マレーシアと韓国が1997年
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5. 今後の展望
以上のように、発展段階の視点で見ると、従来は追い上げる立場だった中国が、今後は後発新興国に
追い上げられる立場となり、「中所得国の罠」にはまり易い位置に到達した。人口構成の視点で見ると、
生産年齢人口が減少に転じる中で、従来の高成長を支えた「安価で豊富な労働力」は曲がり角にある。
都市化の視点で見ると、従来は都市化の進展が高成長に貢献してきたが、今後は農村では大規模化とい
う課題に直面、都市でも高付加価値産業の育成というハードルの高い課題に直面する。過剰投資の視点
から見ると、先行して経済発展したアジア諸国の投資比率が屈折したレベルに達しており、投資主導に
も黄信号が灯っている。従って、中国の成長率が今後鈍化する可能性は極めて高いだろう。但し、長く
高成長を続けた国の成長鈍化は宿命でもあり、成長鈍化だけで「中所得国の罠」にはまったというのは
やや言い過ぎだろう。問題は円滑に安定成長へ移行できるか否かであり、大きなショック無しにソフト
ランディングできれば、それは「中所得国の罠」を克服したと評価して良いのではないかと思う。
安定成長へのソフトランディングにおいて、成否の
カギを握るのが消費拡大である。中国のGDPに占め
る個人消費の比率は2011 年で35.4%と世界でも突出
して低く、消費の拡大余地は大きい(図表-13)。消費
拡大に成功すれば、投資が減速しても消費が成長を牽
引すると共に、既存設備の過剰感も緩和でき、消費関
連の新たな設備投資にも結びつくことから、発展的に
投資・消費のアンバランスを解消できる道が拓かれる。
但し、消費比率が低いのは偶然ではなく構造問題が
あるからだ。中国では、労働者への所得分配が少なく、
汚職・腐敗の蔓延で所得が一部の既得権益層に集中す
る構造となっており、所得格差はなかなか縮小しない。既得権益層に偏った所得が広く分配されれば、
衣食住に所得の大半が費やされる貧困層が減り、耐久消費財や文化的サービスの需要が増え、消費に弾
みがつく可能性が高い。また、医療・年金など社会保障制度が充実すれば、生活不安が解消に向かい消
費を側面支援する。但し、分配できる所得のパイが限られる中では、既得権益層への増税が必要になる
ため、既得権益層の妨害・抵抗は避けられない。また、消費拡大には賃金の引き上げが有効だが、安易
に賃金を引き上げれば、企業利益が挙がらなくなり、リストラを余儀なくされて賃金上昇は持続できな
い。従って、低付加価値産業から高付加価値産業への産業構造転換を進め、労働生産性の向上を図るこ
とが重要である。但し、その実現には、国有企業が独占する領域に民間企業の参入を認めてイノベーシ
ョンの機会を増やす必要があるため、ここでも既得権益を侵害される国有企業などの妨害・抵抗は強い。
現在、中国の政府債務残高(地方政府分を勘案)は対GDP比5 割前後で、財政には裁量余地がある
ため、数年なら8%前後の成長が可能だろう。但し、警戒ラインとなる6 割を超えるのは時間の問題で
もあり、財政健全性が維持できている内に、既得権益層との折り合いを付け、所得分配制度改革、社会
保障制度充実、産業構造転換などの構造転換を進めないと、「中所得国の罠」にはまる恐れもある。
(図表-13)
世界各国の消費割合(2010年)
0%
20%
40%
60%
80%
トルコ
米国
メキシコ
英国
ブラジル
イタリア
南アフリカ
日本
フランス
カナダ
ドイツ
アルゼンチン
インド
インドネシア
オーストラリア
韓国
ロシア
中国
(対名目GDP)
(資料)国連’National Accounts Main Aggregates Database’

http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2012/we121122chi.html


2012 年11 月 第4 週号
(原則、毎月第2 週、4 週発行) 2012 年度 vol.16
<フォーカス> 2012−2014 年度経済見通し特集号

当社では、2012 年7−9 月期GDP 速報値の発表を踏まえ、「2012−2014 年度経済見通し」
を作成、11 月15 日(木)にプレス発表しました。全文は、当社ホームページ、「ニュースリリー
ス」 に掲載していますので、そちらをご参照ください。

http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/release/
主要なポイントは以下のとおりです。
1.日本のGDP成長率予測 (カッコ内は8 月時点の予測値)
実質GDP成長率: 2012 年度 0.8%(2.1%) 2013 年度 1.3%(1.4%) 2014 年度 0.4%
名目GDP成長率: 2012 年度 0.1%(1.4%) 2013 年度 0.9%(0.9%) 2014 年度 1.6%
2.要 点
@日本経済は、すでに景気後退局面に入っているとみられる。輸出環境の悪化に民需の息切
れが加わったことから、夏場以降減速度合いを強めているが、年明け以降は、新興国向け輸
出の回復に伴い、緩やかながら回復に向かうと予想する。ただ、中国向けの輸出動向次第で
は景気後退局面が長期化するリスクが残る。
A個人消費は、雇用・所得環境の回復ペースが鈍いなか、停滞気味の推移が続く可能性が高
い。住宅投資は支援策の下支えに加え、復興需要の顕在化や消費増税前の駆け込み需要
などから、来年度にかけて持ち直し傾向が続くとみる。設備投資は、昨年度からの繰り越し分
の顕在化や復興需要などが期待されるものの、緩慢な回復にとどまろう。公共投資は、復興
予算の執行により、年末まで増加基調で推移するが、年明け以降は減少基調に転じるとみ
る。
B2013 年度の後半にかけては、輸出環境の改善に加え、個人消費を中心に、消費増税前の駆
け込み需要が見込まれる。2014 年度については、輸出の持ち直し傾向が続くとみられるもの
の、消費増税の影響で、内需の落ち込みは避けられず、低成長を余儀なくされよう。
(Matsushita wrote)
目 次
<フォーカス>: 2012−2014 年度経済見通し特集号・・・・・・・・1
・ 経済情勢概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
・ 2012-2014年度経済見通し(要約版)・・・・・・・・・・・・・3
・ ドラギ・マジックはいつまでもつか・・・・・・・・・・・・・11
・ アイルランドは再び支援を受けるリスクが燻る・・・14
・ 広がるビッグデータの活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
・ 主要経済指標レビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
・ 日米欧マーケットの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
2
経済情勢概況 (※取り消し線は、前回から削除した箇所、下線は追加した箇所)
日 本
日本経済は、すでに景気後退局面に入った可能性が高い減速傾向が続いている。
個人消費は、伸びが鈍りつつある。雇用・所得環境の回復が鈍いなか、今後は、停滞色を強めるとみ
ている。住宅投資は、緩やかな回復基調が続いている。今後も住宅取得支援策に加え、や復興需要の顕
在化や消費増税前の駆け込み需要からにより、基本的には回復基調が続くと予想される。
設備投資は、緩やかに回復している。今後も、昨年度からの繰り越し分の顕在化や震災の復興需要な
どが期待されるものの、下支えとして見込まれるが、輸出環境の悪化など企業マインドの慎重化から、
緩慢な回復にとどまるとみている。公共投資は、復興予算の執行によって、2012 年末にかけて増加基調
で推移するものの、年明け以降は減少に転じるとみるしよう。
輸出は、回復が遅れている。当面、弱い動きになるとみられるが、年明け年末以降、中国をはじめと
する新興国景気が徐々に回復に向かうことでとともに、持ち直してくるとみている。生産は、足踏み状
態となっている。目先は弱含んでいる。むとみられるが、年明け以降の輸出の持ち直しとともに、緩や
かな回復へ向かうとみる。
依然としてマイナスの需給ギャップが大きく、今後もデフレ圧力が根強く残るため、利上げは2015
年度以降に持ち越されるとみている。
米 国
米国経済は、緩やかな回復が続いている。雇用環境がきわめて緩やかながらも回復基調を維持す
るとみられるほか、今後もすでに大きく低下した長期金利が景気を下支えする可能性が高い。ただ
し、借入に依存した過剰消費体質が修正を迫られていること、金融システムも脆弱な状況が続くこ
となどから、回復ペースは緩やかなものにとどまるとみる。
個人消費は回復基調が続くとみているが、家計のバランスシート調整が続くことが重石として残
ろう。
住宅市場は回復基調が続いている。大量の差し押さえによる隠れ在庫が懸念材料として残るもの
の、すでに大きく低下した住宅ローン金利などに支えられ、今後も堅調な回復が続くただ、差し押
さえによる供給圧力が強いことから、今後の回復スピードは鈍いものにとどまると予想する。
設備投資は、財政の崖への懸念から、当面停滞気味の推移を余儀なくされるとみる。ただ、大幅
な財政赤字削減は回避されるとみており、2013年春先以降は持ち直す目先弱含むとみるが、資本ス
トック調整の進展や企業業績に支えられ、回復基調は維持するとみる。
輸出は、足元では減速する可能性が高いが、新興国需要などに支えられ、年明け以降は持ち直す
と予想する。
FRB は異例の低金利を少なくとも2015 年半ばまで継続する見通しを示している。今後も景気の
回復基調が続くとみられ、利上げに踏み切るのは2015 年後半と予想する。
欧 州
ユーロ圏経済は、債務問題の影響や各国の緊縮財政強化を受け、停滞が続いている。今後は新興国景
気が緩やかに持ち直すとみられることなどから、2013 年年末以降は、きわめて緩慢ながらも持ち直し
に向かうと予想する。フランス、イタリア、スペインによる緊縮財政を背景に内需は低迷するとみるも
のの、ドイツがユーロ圏景気の牽引役となろう。
個人消費は、各国の緊縮財政に伴う雇用環境の悪化を背景に、当面年内は停滞が続くと予想する。2013
年の春先年明け以降は、企業活動の回復とそれに伴う所得環境の改善により、ゆっくり上向くとみるが、
回復感の乏しい状況が続くと予想する。固定投資は、銀行の貸し渋りや企業の先行き見通しの悪化に伴
い、足元では減少している。ただ、世界景気がゆっくりと回復するとみられることから、2013 年半ば
以降2013 年は、緩やかな持ち直しに向かうと予想する。
ECB は7 月に政策金利を25bp 下げて、0.75%とした。インフレ率は、ECB が物価安定の目安とする2%
を上回って推移しているが、中長期的には安定しているとの見方が維持されている。預金ファシリティ
ー金利が0%となったことから、今後追加利下げを行なっても、さらなる効果は期待しづらい。ECB が
来年半ばまでに年内に再利下げを行なう確率は3020%と予想する。ECB は、9 月6 日の政策理事会で、
新たな国債買入れプログラム(OMT)を発表した。来年4 月にスペイン国債の大量償還を控えているこ
とから、スペインの地方選挙が終わる11 月末頃には、スペインが救済基金への支援要請を行なう
とみられ、早ければ来年初めに来年3 月頃には周辺国の国債買入れが実施されるとみる。
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
3
2012−2014 年度経済見通し(要約版)
1.日本経済見通し
年明け以降外需の持ち直しを見込むものの、回復ペースは鈍い
7−9月期の実質GDP成長率は前期比▲0.9%(年率換算:▲3.5%)と、3四半期ぶりのマイナス成長に
なった。日本経済は、今年3月を山としてすでに景気後退局面に入っているとみられる。2012年1−3月
期以降は、輸出の回復に伴い、プラス成長に転じるとみるが、復興需要の景気押し上げ効果が徐々に減
衰していくと予想されることもあり、2013年度にかけての回復ペースは鈍いものにとどまろう。
個人消費は停滞色を強める
夏場以降の個人消費は勢いを失っている。需要側の
統計である家計調査で実質消費支出の推移を見ると、8
月は猛暑効果などが下支えする形で持ち直したものの、
9月は前月比▲1.9%と再びマイナスになっており、均
せば低下基調で推移している(図表1-1)。雇用・所得
環境の回復も鈍い。雇用の先行指標とされる新規求人
数も前月比▲1.5%と、4ヵ月連続の減少となるなど、
企業の採用意欲に陰りがみえる。9月の毎月勤労統計
(確報値)を見ても、定期給与は前年比▲0.4%と、4
ヵ月連続で減少した。所定外労働時間は同▲2.0%の減
少となり、これまで現金給与総額の回復を下支えして
きた所定外給与の伸びも見込みにくくなっている。
こうしたなか、シニア層による消費の押し上げ効果が期待されている。ただ、パック旅行などの一部
に選別消費の動きがみられるものの、消費全体をけん引するには力強さに欠けている。今後の個人消費
は、停滞色を強めていく可能性が高いとみており、10−12月期は2四半期連続の前期比マイナス、2013
年1−3月期も、ほぼ横ばいの推移になると予想する。2013年度については、年度後半にかけて消費増税
前の駆け込み需要が発生するとみているものの、電気料金の値上げや厚生年金保険料の負担増などの押
し下げ要因を差し引けば、実質GDP成長率の押し上げ効果は+0.2〜0.3%程度にとどまると予想する。
2014年度は、駆け込み需要の反動減などが、実質GDP
成長率を▲0.6%程度押し下げるとみる。
住宅投資は持ち直しが続く
7−9月期の新設住宅着工戸数(季調値)は、前期比▲
0.4%(4−6月期は同+1.9%)と小幅減少したが、季
調済年率換算戸数は87.4万戸と、2011年度の総着工戸
数(84.1万戸)を上回って推移している(図表1-2)。
地域別では、東北地区が引き続き前年比で2割近い伸び
を維持している。復興需要による着工増は被災3県で9
万戸程度、このうち2012年度が約1.2万戸、2013年度が
約2.5万戸、2014年度が約2万戸と予想しており、今後
(図表1-1)実質消費関連指数(季調値)の推移
94
96
98
100
102
104
106
108
110
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
10年=100
96
98
100
102
104
106
108
05年=100
実質消費支出〈左軸〉
実質コア消費支出〈左軸〉
消費総合指数〈右軸〉
(出所)総務省「家計調査」、内閣府「消費総合指数」

(図表1-2)利用関係別新設住宅着工戸数の推移
(季調済年率換算戸数)
0
10
20
30
40
50
60
08/03
08/06
08/09
08/12
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
万戸
0
20
40
60
80
100
120
万戸
持家〈左軸〉貸家〈左軸〉
分譲〈左軸〉総戸数〈右軸〉
(出所)国土交通省「住宅着工統計」
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
4
も増加基調が続くとみている。
住宅取得支援策のうち「住宅エコポイント」(被災地以外)やフラット35Sエコの金利優遇措置が終了
したものの、2012年度税制改正で延長・拡充された「新規住宅取得資金の贈与税の非課税措置」や「住
宅ローン減税」が継続しており、低金利環境も下支えするとみていることから、目先の住宅着工が軟調
な推移に転じる可能性は低い。2013年度は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が持家や分譲中心に発
生し、住宅着工を6%程度押し上げるとみており、住宅投資は緩やかな持ち直し基調が続くと予想する。
ただ、2014年度以降については、駆け込み需要の反動減から落ち込みは避けられないと予想する。
設備投資は緩慢な回復にとどまる
設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を
除く民需)や資本財国内出荷(除.輸送機械)を見る
と、足元では弱含んでいる(図表1-3)。ただ、建築物
着工床面積(非居住用、季調値)は、卸売・小売など
を中心に上昇しており、設備投資の下支え要因になる
とみている。
9月調査の日銀短観の設備投資計画(大企業、ソフト
ウェアを含む除く土地ベース)では、製造業が前年度
比+11.8%から同+11.5%へ、非製造業が同+5.1%か
ら同+4.7%へと、小幅な下方修正にとどまった。ただ、
企業業績見通しの下振れなどから、足元の企業マイン
ドは大きく慎重化に振れており、設備投資計画も、製造業中心に下方修正される可能性が高いとみてい
る。このため、2012年度の設備投資は、短観の設備投資計画から示されるような堅調な回復は期待でき
ず、より緩慢なものにとどまると予想する。2013年度は、2012年度からの繰越分が相当程度実行される
とみているものの、再び企業の中長期的な成長期待の低下が意識される可能性が高く、設備投資の回復
ペースは引き続き緩慢なものになると予想する。
公共投資の回復基調は鈍化
足元の動きについて、出来高に先行する公共工事請
負金額を見ると、夏場以降鈍化傾向となり、9月単月で
は前年比▲1.9%のマイナスに転じるなど(3ヵ月移動
平均では同+13.3%)、公共工事の勢いが弱まりつつ
ある(図表1-4)。被災地の動きを見ると、公共インフ
ラは、応急復旧段階から本格復旧・復興段階へ移行し
ているが、建設技能労働者は昨夏以降不足の状態が続
いており、資材不足も重なって工事執行の遅れの要因
になっている。こうした動きから、今後の公共投資の
回復は緩慢となり、2013年1−3月期には前期比マイナ
スに転じると予想する。2013年度以降は、復興特別会計予算の復興関係公共事業費などが、公共投資を
多少は下支えするとみるが、全体を押し上げるには力不足で、弱めの動きが続くと予想する。
輸出の持ち直しは年明け以降
輸出は夏場以降勢いを失っており、足元では減速基調を一段と強めている。財務省の貿易統計による
(図表1-4)公共工事請負金額(前払金保証実績)の
月次推移(前年比)<3ヵ月移動平均>
-30
-20
-10
0
10
20
30
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09

-180
-120
-60
0
60
120
180

合計<左軸>
関東<左軸>
東北<右軸>
(出所)東日本建設業保証
(図表1-3)設備投資先行指標の推移
<3ヵ月移動平均>
50
60
70
80
90
100
110
08/03
08/06
08/09
08/12
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
05年=100
機械受注(船舶・電力を除く民需)
建築物着工床面積(非居住用)
資本財国内出荷 (除.輸送機械)
(出所)内閣府、国土交通省、経済産業省
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
5
と、6 月以降の輸出金額の落ち込みは、EU、中国、アジアNIEs のマイナス寄与が大きく、9 月は、スイ
ス、オーストラリア、ロシアなどの落ち込みも影響し、前年比▲10.3%の二桁減となった(図表1-5)。
中国向けについては、尖閣問題の影響で日本メーカーが軒並み完成車輸出の減産を決めるなど、現状で
は輸出環境の好転が見込める状況にはなく、年末にかけての輸出は引き続き減速基調で推移すると予想
する。ただ、年明け以降は、中国の景気対策効果が徐々
に現れてくるとみている。すでに、総額1 兆元の投資
が発表されており、今後、一般機械などの生産財を中
心に日本の輸出の増加に繋がってくる可能性が高い。
中国の景気回復に伴い、経済面で中国との結びつきが
深まっているアジアNIEs やASEAN 諸国向けの輸出にも
好影響を与えよう。また、中南米向けなどでは、資源
開発やインフラ需要向けの輸出が堅調で、米国も緩や
かな景気回復基調であることが下支えとなって、2013
年以降の輸出は回復に向かうと予想する。
デフレ傾向は続く
9 月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く消費者
物価指数、以下コアCPI)は、前年同月比▲0.1%と5
ヵ月連続でマイナスとなった。当社では、2012 年7
−9 月期の需給ギャップは▲3.0%程度、年間15 兆円
程度の需要不足と試算している。マイナスの需給ギャ
ップ(デフレギャップ)は大きく、デフレ圧力は依然
として残っている。2013 年度には、輸出の持ち直し
や消費税率引き上げ前の駆け込み需要などから、潜在
成長率(0.7%程度と試算)を上回る成長を遂げると
みられるが、2014 年度については、その反動から低
成長を余儀なくされることが予想され、デフレギャップの解消は容易ではない。コアCPI については、
デフレギャップがもたらす物価下押し圧力が根強く残るとみられ、2013 年度については基本的に小幅な
プラス圏で推移するとみている(図表1-6)。2014 年度は、消費税率が5%から8%に引き上げられる
ことによって、コアCPI の前年比が1.8%程度押し上げられると予想している。(担当:謝名)
(図表1-5)輸出金額前年比と地域別寄与度
-15
-10
-5
0
5
10
15
11/9
11/10
11/11
11/12
12/1
12/2
12/3
12/4
12/5
12/6
12/7
12/8
12/9
米国EU 中国
NIES その他アジアその他
合計

(出所)財務省「貿易統計」
(図表1-6)全国コアCPIの推移(前年同月比寄与度)
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
12/12
13/03
13/06
13/09
13/12
14/03
14/06
14/09
14/12
15/03

エネルギー生鮮食品を除く食料
コアコアCPI コアCPI
⇒明治安田生命予測
 (出所)総務省「消費者物価指数」等より明治安田生命作成
予測予測
2011年度2012年度2013年度2014年度2012年度
4-6月7-9月10-12月1-3月4-6月7-9月10-12月1-3月
実質GDP -0.0% 0.8% 1.3% 0.4% 0.1% -0.9% -0.2% 0.4% 0.3% 0.5% 0.8% 1.0%
  前期比年率-0.0% 0.8% 1.3% 0.4% 0.3% -3.5% -0.8% 1.7% 1.1% 2.2% 3.0% 4.2%
 民間最終消費支出1.2% 1.0% 1.4% -0.1% -0.1% -0.5% -0.1% 0.1% 0.2% 0.4% 1.1% 1.6%
 民間住宅投資3.8% 2.9% 4.6% -4.8% 1.5% 0.9% 0.5% 1.4% 1.7% 1.9% 0.9% -2.1%
 民間設備投資1.1% 0.1% 1.3% 2.0% 0.9% -3.2% -0.1% 1.5% 0.4% 0.5% 0.4% 0.4%
 政府最終消費支出1.9% 1.7% 0.0% 0.2% 0.5% 0.3% 0.0% -0.1% -0.1% 0.1% 0.0% 0.1%
 公的固定資本形成2.9% 8.5% -2.1% -5.6% 2.6% 4.0% 1.0% -0.5% -1.2% -1.3% -1.2% -1.5%
 財貨・サービスの輸出-1.4% -0.7% 2.4% 5.1% 1.3% -5.0% -1.5% 1.2% 1.5% 1.4% 1.2% 1.7%
 財貨・サービスの輸入5.6% 4.8% 2.2% 2.4% 1.8% -0.3% 0.2% 0.5% 0.7% 0.6% 0.8% 0.9%
名目GDP -2.0% 0.1% 0.9% 1.6% -0.3% -0.9% -0.3% 0.3% -0.0% 0.6% 0.8% 1.0%
GDPデフレータ(前年比) -1.9% -0.7% -0.5% 1.3% -0.9% -0.7% -0.5% -0.7% -0.6% -0.6% -0.4% -0.3%
(図表1-7)日本のGDP成長率予測表(ことわり書きのない箇所は前期比)
2013年度
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
6
2.米国経済見通し
7−9 月期は緩やかな回復が続く
7−9 月期の実質GDP 成長率(速報値)は前期比年
率+2.0%と、13 四半期連続のプラス成長となり、7
−9 月期の同+1.3%から伸び幅が拡大した(図表
2-1)。10−12 月期以降は、財政の崖と呼ばれる大幅
な財政赤字削減への懸念や、新興国景気の回復の遅
れなどが足かせとなり、しばらく低めの伸びが続く
と予想する。ただ、実質金利マイナスといった緩和
的な金融環境が続いているのに加え、FRB(連邦準
備制度理事会)によるさらなる追加金融緩和も見込
まれることから、2012 年央から2014 年にかけては緩やかな景気回復が続くとみる。
家計の活動は緩やかに上向く
個人消費は、自動車などの耐久財消費などが持ち直した結果、回復ペースが加速している。11 月の
雇用統計では、雇用者数の増加幅が17 万人台へと改善したほか、過去2 ヵ月分も大幅に上方修正され
た。民間雇用者の増加数のうち、9 割以上を占める中小企業の採用計画は底堅く、雇用環境の改善が今
後も個人消費を下支えするとみる。ただ、住宅バブル崩壊後、住宅価格が大幅に下落した結果、家計の
不動産資産価格は住宅ローン残高を下回って推移している。今後も家計のバランスシート調整圧力が残
ることから、個人消費の回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。
住宅市場は、住宅ローン金利が過去最低水準に低下したことなどを背景に、堅調な回復が続いている。
大量の差し押さえが隠れ在庫となっていることは懸念材料であるが、すでに大きく低下した住宅ローン
金利や、政府による住宅ローン借り換え支援策などに支えられ、住宅市場は今後も堅調な回復が続くと
みる。
設備投資は春先以降持ち直しへ、輸出は徐々に持ち直すと予想
設備投資は、財政への崖への懸念から、当面停滞気味の推移を余儀なくされるとみる。ただ、予定ど
おり財政赤字削減を行えば、米景気はマイナス成長に陥る可能性が高いことから、大幅な緊縮財政を回
避する方向で与野党の協議が進むとみており、2013 年の春先以降は持ち直すと予想する。
輸出は、欧州の景気減速や中国の景気回復の遅れを受け、目先低調に推移する可能性が高いが、新興
国景気に底打ち感が広がるにつれ、持ち直しに向かうとみる。
利上げは2015 年後半を予想
FRB は9 月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、終了期限や購入総額を定めない方式によるMBS(住
宅ローン担保証券)の追加購入を決定した。また、現行の超低金利政策の維持を予告する「少なくとも
2014 年の遅くまで」という一節を「少なくとも2015 年半ば」へ変更するという、時間軸の強化も発表
した。バーナンキ議長は「(6 月に延長した)ツイストオペの終了時には、多岐にわたる資産購入を検
討する」と述べており、ツイストオペと同額程度の国債追加購入が早晩決定すると予想する。一方、足
元のコアCPI が前年比+2.0%なのに対し、長期金利は1%台後半で推移しており、実質金利はマイナ
ス圏での推移が続いている。きわめて緩和的な金融環境が今後も景気を下支えする可能性が高く、2015
年後半には利上げが必要になるとみる。(担当:信本)
(図表2-1)米国の実質GDP予測値 (前期比年率) (%)
2011

2012年2013年
2011 2012 2013 2014 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
実質GDP 1.8 2.1 1.9 2.1 4.1 2.0 1.3 2.0 1.6 1.6 2.2 2.3 2.3
個人消費2.5 1.9 1.9 2.2 2.0 2.4 1.5 2.0 2.2 1.7 2.0 2.0 2.2
住宅投資-1.4 11.6 9.9 8.6 12.1 20.5 8.5 14.4 9.0 9.2 9.3 9.7 10.0
設備投資8.6 7.2 2.8 3.5 9.5 7.5 3.6 -1.3 0.8 2.1 5.8 5.3 5.0
民間在庫
(寄与度)
-0.1 0.1 0.0 0.1 2.5 -0.4 -0.5 -0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1
純輸出
(寄与度)
0.1 0.0 0.0 0.1 -0.6 0.1 0.2 -0.2 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0
政府支出-3.1 -1.4 -0.8 -1.7 -2.2 -3.0 -0.7 3.7 -1.6 -1.7 -1.2 -1.0 -1.7
予測
暦年ベース
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
7
3.欧州経済見通し
ユーロ圏景気は来年第2 四半期以降ゆっくり上向く
ユーロ圏経済は、債務問題に収束の見通しが立
たないなか、足元では一段と減速基調を強めてい
る。7−9 月期のユーロ圏実質GDP 成長率(速報値)
は前期比▲0.1%と、2 四半期連続のマイナスとな
った(図表3-1)。2013 年は世界景気が緩やかに
回復するのに伴い、ユーロ圏経済もゆっくり持ち
直しに向かうと予想する。その後2014 年にかけて
は、紆余曲折を経ながらも、少しずつ欧州債務危
機への対応が進むとみられることから、ユーロ圏
景気は緩やかに上向くとみる。
回復感の乏しい状況が続くとみる
足元の個人消費は、減速基調が続いている。9 月の実質小売売上高は前年比▲0.8%と、13 ヵ月
連続の減少となった。世界景気の持ち直しに伴い、来年の春以降は企業業績の回復とそれに伴う所
得環境の改善が見込まれるものの、回復感の乏しい状況が続こう。
企業の生産活動も減速基調が続いている。9 月の鉱工業生産は前年比▲2.3%と、10 ヵ月連続で
マイナスとなった。年明け以降は、ECB(欧州中央銀行)によるOMT(Outright Monetary Transactions)
の稼働が見込まれることや、世界景気が徐々に上向くとみられることから、企業の投資マインドは
緩やかに改善に向かうとみる。2014 年にかけては、銀行監督一元化など、欧州債務問題への取り組
みの進展も企業マインドを緩やかに押し上げるとみられる。
政府支出は、各国の緊縮策の影響により減少傾向で推移する可能性が高い。今後も、景気の下押
し圧力として働き続けるとみる。輸出は目先減速する可能性が高いが、世界景気の持ち直しを背景
に春先以降は徐々に持ち直すと予想する。
ECB は、7 月に7 ヵ月ぶりに政策金利を0.75%に引き下げた。ECB 内で追加利下げによる効果は
期待しづらいとの見方が多いことや、インフレ率が来年に入っても目標を超えて推移するとみられ
ることから、来年半ばまでに追加の利下げを実施する確率は30%とみる。一方、来年4 月にスペイ
ン国債の大量償還が控えており、ECB はOMT を来年3 月にも稼働すると予想する。
英国景気は年明け以降徐々に上向くと予想
英国の2012 年7−9 月期の実質GDP 成長率(速報値)は、特殊要因により成長率が押し下げられた前
期の反動もあり、前期比+1.0%の大幅プラスとなった。うち6 割超を占める個人消費は、オリンピッ
クに伴う雇用の増加などを受け、改善したとみられる。一方、鉱工業生産は伸び悩んでおり、固定投資
は低迷が続くとみられるほか、輸出も、主要輸出先であるユーロ圏景気回復の遅れなどを背景に伸び悩
む可能性が高い。ただ、年明け以降は、緩和的な金融環境や、住宅価格の底打ちを背景に、個人消費が
緩やかながら回復に向かうと予想され、英国景気は徐々に上向くとみる。BOE(イングランド銀行)は
11 月のMPC(金融政策委員会)で、政策金利、資産買い取り枠ともすえ置いた。MPC 内では利下げや量
的緩和には消極的な見方が広がっており、今後さらなる利下げ、資産買い取り枠の拡大は行われないと
予想する。(担当:水野、山口)
(図表3-1)ユーロ圏実質GDP予測(%)
11年
(前期比:%)
10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
ユーロ圏実質GDP 1.5 -0.4 0.3 1.0 -0.3 0.0 -0.2 -0.1 -0.1 0.0 0.3 0.4 0.5
家計消費0.2 -0.9 -0.2 0.6 -0.3 0.0 -0.2 -0.3 -0.2 -0.1 0.1 0.2 0.3
政府消費0.0 -0.2 -0.2 0.1 -0.1 0.2 0.1 -0.8 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1
固定投資1.5 -3.4 -1.5 0.3 -0.4 -1.4 -0.8 -0.7 -0.5 -0.5 -0.1 0.2 0.2
在庫投資(寄与度) -0.1 -0.4 0.0 0.0 -0.3 -0.1 -0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
純輸出(寄与度) 1.1 1.2 0.8 0.6 0.3 0.4 0.3 0.1 0.1 0.2 0.3 0.3 0.3
予測
2013年
2013

2011

2012

2012年
2014

経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
8
4.中国経済見通し
年末以降景気回復
中国の7−9 月期の実質GDP 成長率は前年同期比+
7.4%となった(図表4-1)。これで7 四半期連続の伸び
鈍化だが、前期比ベースの伸びは+2.2%と、4 四半期ぶ
りの高い伸びとなるなど、下げ止まる兆しも見える。
9 月以降の経済統計は、生産、固定投資、小売、輸出な
どの主要指標がいずれも上向いている。政府が認可した1
兆元規模のインフラ投資の効果が徐々に現れ始めており、
景気は7−9 月期に底を打ち、10−12 月期以降、緩やかに
上向く可能性が高い。一方で、政府は不動産価格抑制策
を緩めない姿勢も堅持にしている。ブレーキとアクセル
を同時に踏む状況は変わっていないことから、以前のよ
うな高成長は期待できず、2014 年にかけても世界景気のけん引役としては力不足の状況が続くとみてい
る。2012 年の実質GDP 成長率は7.5%、2013 年は8.2%、2014 年は8.0%と予想する(図表4-2)。
企業活動は上向く
企業マインドは上向きつつある。国家統計局発表の10 月PMI(製造業購買担当者指数)は50.2 と、9
月の49.8 から0.4 ポイント上昇、3 ヵ月ぶりに好不況の分岐点となる50 を超えた。1−10 月の固定資
産投資は前年比+20.7%と、1−9 月の同+20.5%から伸びが小幅加速した。昨年7 月の高速鉄道事故の
影響で、鉄道運輸は一時期前年比で4 割以上のマイナスとなっていたが、5 月以降、段階的にマイナス
幅が縮小してきており、11 月はプラス転換がほぼ確実な情勢となっている。
国家発展改革委員会は9月5日に約8,000億元、25件の鉄道建設プロジェクトを一挙に認可するなど、
昨年の高速鉄道事故以降、凍結していた鉄道分野への投資を本格的に再開する方針を明らかにしている。
中国鉄道部によると、10 月単月の「鉄道インフラ投資額」は前年同月比+240.8%を記録したとのこと
で、9 月以降加速している。今後、鉄道投資が固定投資のけん引役となる可能性が高い。
個人消費は底堅い
10 月の小売売上高は、前年同月比+14.5%と、9 月の同+14.2%から小幅加速した。今年の春以降、
当局は、エネルギー効率の良い家電製品に対する補助金支給、排気量が1.6 リットル以下の自動車販売
を促進、地方住民が燃料効率の良い車両に買い替えた場合の補助金付与などの個人消費の刺激策を次々
に打ち出している。全体的に小粒ということもあって、これまで大きな成果を上げるには至らなかった
が、金融緩和に伴う資金調達環境の改善、インフレの落ち着き、都市部の堅調な雇用などもあって、秋
以降の個人消費は底堅く推移すると予想する。
不動産価格抑制策は緩めず
春先以降、政府が景気刺激策を強化しつつあることもあって、不動産投資にも下げ止まりの兆しが見
える。もっとも、当局は、リーマンショック後に実施した4 兆元の景気対策の資金の多くが不動産セク
ターに流れ、地方銀行中心に不良債権の山を築いたという反省もあって、不動産価格規制を緩めない姿
勢を堅持している。インフラ投資を奨励する一方で、不動産価格の上昇は許さないという政策スタンス
は変わらないとみられ、景気回復ペースの抑制要因となろう。(担当:小玉)
(図表4-1)中国実質GDP成長率の推移
(前年比)
5
6
7
8
9
10
11
12
13
01年02年03年04年05年06年07年08年09年10年11年12年
(出所)中国国家統計局
%
(図表4-2)中国実質GDP成長率予測
前年比(%) 11年12年
(予測)
13年
(予測)
14年
(予測)
実質GDP成長率9.2 7.5 8.2 8.0
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
9
5.その他アジア新興国・豪州経済見通し
アジア新興国の景気回復は遅れる
アジア新興国の景気は、内需が堅調に推移している一方
で、輸出の低迷が続いているため、回復が遅れている(図
表5-1)。韓国の2012 年7−9 月期の実質GDP 成長率(速
報値)を見ると、前期比+0.2%と、前期(2012 年4−6 月
期)の同+0.3%から小幅鈍化した(図表5-2)。台湾は同
+0.9%と、前期の同+0.6%からやや加速したものの、一
部の電子部品の輸出に支えられた面が大きく、当面の景気
回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。一方、
インドネシアの2012 年7−9 月期の実質GDP 成長率は前
年比+6.2%と、高成長を維持した。海外からの直接投資
は活発であり、小売売上高も前年比二桁増が続いている
ため、今後も内需がけん引する状況が続くと予想する。
アジア新興国の景気回復は、輸出の動向が鍵を握って
いる。韓国や台湾の輸出は9〜10 月に前年比プラス転換
し、輸出回復の兆しがでてきている。ただ、今後につい
ては、韓国・台湾とも、輸出シェアが3〜4 割を占める中
国景気の持ち直しに負う部分が大きい。ASEAN 諸国の輸
出も、中国向けシェアが2000 年から2011 年にかけて4%
から12%まで拡大するなど、東アジア域内での分業体制の発達とともに、中国との結びつきを強めてい
る。中国は、政府の景気対策の強化などに伴い、年末以降、景気が徐々に上向いてくるとみており、ア
ジア新興国の輸出も、2013 年度以降、緩やかながらも回復へ向かうと予想する。
金融緩和へ舵を切る
アジア新興国は、食料価格などの上昇によるインフレ圧力が依然として残っている一方で、外需回復
の遅れから景気下振れ懸念が高まっているため、金融緩和に舵を切っている国が多い。韓国では、10 月
11 日に政策金利を3%から2.75%へ引き下げたが、景気低迷が続いているため、再度利下げを行う可
能性が高い。タイやフィリピンでは、利下げを発表したが、堅調な内需が利下げを支えているため予防
的な面が強く、今後は慎重なスタンスをとると予想する。台湾では、このまま個人消費の低迷が続けば、
利下げに踏み切る可能性があるとみている。インドでは、インフレ圧力が高まっているものの、個人消
費の刺激策として、年明け以降、利下げの機運が高まってくるとみている。
豪州景気は緩やかな減速傾向が続くと予想
豪州の4−6 月期実質GDP 成長率は前期比+0.6%と、個人消費や固定投資などが減速した結果、低い
伸びにとどまった。今後の豪州景気は、中国の景気回復の遅れを受け、輸出を中心に減速傾向が続くも
のの、来年半ば以降、世界景気の底打ちに伴い、徐々に上向くと予想する。個人消費は、所得環境の回
復ペース鈍化から、今後も緩慢な回復にとどまろう。固定投資は、企業業績の悪化を背景に、高い伸び
は期待できない。一方、住宅投資は、低金利などに支えられ、持ち直しに向かうとみられる。固定投資
の減速に伴い、2013 年の成長率は2012 年から減速するとみる。(担当:謝名、落合)
2011年2012年2013年2014年
(実績) (予測) (予測) (予測)
韓国3.6% 2.0% 2.5% 3.0%
台湾4.0% 1.1% 2.9% 4.0%
香港5.0% 1.4% 3.7% 4.1%
シンガポール4.9% 1.7% 4.0% 4.5%
インドネシア6.5% 6.3% 6.4% 6.5%
タイ0.1% 5.0% 4.6% 4.3%
マレーシア5.1% 4.5% 4.8% 5.0%
フィリピン3.9% 4.8% 5.0% 5.3%
インド6.5% 5.2% 6.0% 6.7%
豪州2.1% 3.5% 2.7% 2.9%
(図表5-1)その他アジア新興国・豪州の実質GDP成長率予測
(図表5-2)実質GDP成長率(前年同期比)の推移
(韓国、台湾、シンガポール、インドネシア)
-10
-5
0
5
10
15
20
08/03
08/09
09/03
09/09
10/03
10/09
11/03
11/09
12/03
12/09

韓国
台湾
シンガポール
インドネシア
(出所)各国統計より明治安田生命作成
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
10
6.商品相場見通し
原油価格は年末以降緩やかな上昇へ
足元の原油価格は、世界景気の減速と中東の地
政学リスクの綱引きによって動いている。9 月以降、
世界景気の減速懸念などから、再度調整局面に入
っており(11 月15 日現在:85.4 ドル/バレル)(図
表6-1)、投機筋の買いポジションも減少に転じて
いる。WTI とブレントの価格差が20 ドルを超えた
状況が続いているのは、北海油田のメンテナンス
の遅れや米国での原油在庫の積み上がり、米国に
比し欧州の方が中東の供給懸念を受けやすいことなどが背景にある。
EIA やOPEC の世界の原油等需給見通しでは、前年比の伸びは2012,2013 年とも1%を下回る緩や
かなものにとどまっている。イランの核開発問題の早期解決は期待できず、イスラエルの動向にも
目が離せない状況が続くが、OPEC の原油生産量を見ると、イランの生産量の減少分については、リ
ビアの生産回復や、サウジアラビアの増産によって補填されている。
今後については、イランなど中東情勢の地政学リスクに加え、米欧などの金融緩和の長期化に伴
う投機資金の流入が引き続き下支え要因となるとみている。ただ、中国景気の回復の遅れや米国の
「財政の崖」問題などから、WTI 価格は年末に向けて横ばい圏の推移となろう。2013 年については、
中国を中心とする新興国景気が回復に向かうことや、財政の崖のソフトランディングから、原油価
格は均せば緩やかな上昇に向かうと予想する(2013 年は年平均:94 ドル/バレルを想定)。
その他商品は追加緩和による価格上昇が一服
CRB 指数の主要分野の動き(10 月末日現在)を見ると、過去1 ヵ月では、貴金属が▲6.1%、穀物
が▲2.4%、産業素材が▲1.6%と世界景気の先行き不透明感の高まりを背景に調整している。
貴金属分野のうち金価格は、米国の追加緩和期待から、9 月には一時1,800 ドルを試す場面もみ
られたが、足元では1,700 ドル付近で推移している。今後は、米国の「財政の崖」問題の燻ぶりが
プラスに働くほか、中期的には欧州債務問題への懸念緩和から、緩やかな上昇に向かうとみている。
産業素材分野のうち銅価格は、欧州債務問題の燻りや、最大の消費国である中国景気の回復の遅
れから調整している。中国内の在庫の積み上がりを受け、目先は弱めの動きとなる可能性が高いも
のの、年明け以降は中国景気の持ち直しに伴い、緩やかな上昇に転じると予想する。
穀物のうち、米国の干ばつの被害が最も大きかったトウモロコシは、価格上昇に伴う需要抑制か
ら消費量も頭打ちとなっている。10−12 月に作付されるブラジル、アルゼンチンなどの輸出大国で
は、過去最高であった前年と同程度の生産量が予測されており、今後、価格上昇圧力はやや弱まる
と予想する。大豆価格は、9 月以降、米国の収穫期における供給増加を背景に価格が調整している。
南米諸国の生産量、輸出量の増加が見込まれており、今後もやや軟調な推移が続くとみられるが、
輸出量の多い米国の期末在庫率が低水準であることや、年明け以降、中国の在庫調整一巡による輸
入量の増加予想が価格の下支え役となることから、一層の低下余地は限られる。小麦価格は、ロシ
アやウクライナの輸出規制観測、豪州の減産、干ばつの影響による米国冬小麦の作付の遅れなど、
小麦輸出国での減産が懸念されており、当面は高値圏での推移が続くだろう。(担当:松下)
(図表6-1)WTI価格と投機筋のポジション
-100
0
100
200
300
400
500
08/01
08/07
09/01
09/07
10/01
10/07
11/01
11/07
12/01
12/07
千枚ドル/バレル
30
50
70
90
110
130
150
投機筋のネットポジ
ション(左軸)
WTI(右軸)
ブレント(右軸)
(出所)ファクトセット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
11
ドラギ・マジックはいつまでもつか
OMT で市場のマインドが改善
9 月6 日に発表された、ECB(欧州中央銀行)の新たな国債購入策(OMT : Outright Monetary
Transactions)は、市場に歓迎された。それまでも、証券市場プログラム(SMP)という国債買い取り
スキームはあったが、OMT の場合は、「無制限の購入」を宣言したことや、ECB が購入の国債に優先弁
済権は設定しないとしたことなどが、大きな前進と受け止められたためである。
信用不安を防いだLTRO
考えてみれば、ドラギ総裁はこれまでも種々の「画期的な」政策を繰り出してきた。その手腕は「ド
ラギ・マジック」と評され、金融市場から高い評価を与えられている。
2011 年12 月には、政策金利の水準で、期間3 年の資金を、無制限に供給するという、長期資金供給
オペ(LTRO:Long Term Refinance Operation)を打ち出したことが、市場に大きなインパクトを与え
たのは記憶に新しい。2011 年12 月に実施され
た第1 回目の3 年物のLTRO の応札額は4,890
億ユーロ、今年2 月に行われた第2 回目の応札
額は5,295 億ユーロと、最初の2 回で100 兆円
という多額の資金が供給された。2 回目の入札
では、対象となる金融機関の3 分の1 にあたる
約800 行もの金融機関が参加した。
この「ウルトラ・モンスター・オペ」とでも
呼ぶべき大胆な資金供給策は、金融市場のマイ
ンド改善に大きく貢献した。短期金融市場の緊
張度を示す指標となるLIBOR-OISスプレッドは
大きく縮小し(図表1)、欧州の金融市場がクレジットクランチに突入する懸念は後退した。
LTRO が周辺国からの資金逃避を助長
ただ一方で、副作用的なマネーフローの変化も生じた。低金利で大量の資金を借り入れることが可能
となった銀行は、それを自国の国債購入に振り向けるだけで容易に利ざやが抜ける状態となったため、
LTRO の実施後、イタリアやスペインの銀行は自国の国債を大量に買い増した。その結果、両国は欧州
財政問題の本質ともいえる、財政悪化と金融
危機の負のループに一層脆い体質になってし
まった。逆に、ドイツやフランスにとっては、
周辺国の国債を「売り逃げ」しやすくなると
いうメリットが生じ、問題国からの資本流出
が進んだ。
異なる通貨を使用する国同士の取引であれ
ば、こうした形で資本流出が続くと、いずれ
外貨が枯渇して通貨危機が起きるといった事
態が生じるが、統一通貨を用いているユーロ
圏の場合、最終的には、当該国の中央銀行同
(図表1)短期金融市場の動向
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
10/3
10/5
10/7
10/9
10/11
11/1
11/3
11/5
11/7
11/9
11/11
12/1
12/3
12/5
12/7
12/9
12/11 円
LIBOR-OISス




ドルLIBOR-OISスプレッド
ユーロLIBOR-OISスプレッド
ポンドLIBOR-OISスプレッド
(出所)Factset

(図表2)TARGET2の国別バランスの推移
-600
-400
-200
0
200
400
600
800
11/01
11/03
11/05
11/07
11/09
11/11
12/01
12/03
12/05
12/07
12/09
10億ユーロ
ドイツギリシャ
イタリアポルトガル
フランススペイン
(出所)ユーロスタット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
12
士の取引でファイナンスされる。「ターゲット2」と呼ばれるシステムに基づくもので、12 月以降、ド
イツの中央銀行の債権と、問題国の中央銀行の負債が両建てで大きく拡大する状況となった(図表2)。
これは民間(銀行)のリスクが、政府のリスクに移転されたことを意味する。銀行にとってはリスク軽
減に成功した形だが、問題国の国債にデフォルト(債務不履行)が生じた場合、ドイツ政府に大きな損
失が及ぶことになる。
また、資金供給ではソルベンシー(支払い能力)の問題は解決しない。ギリシャの総選挙を巡る混乱
や、スペインの大手銀行のバンキアの支援要請などをきっかけに、今年の5 月前後から、再び周辺国の
ソブリンリスクが問題視される状況となった。ドラギ総裁は7 月26 日、「ユーロを救うためならなん
でもする」と宣言したうえで、有言実行という形で、9 月6 日にOMT を打ち出した。
ECB にOMT を積極活用する意思はない
中央銀行が無制限に国債を買い支えてくれるのであれば、対象国にとってこれほどありがたく、心強
いことはない。逆に、ECB にとっては、財政ファイナンスの領域に事実上大きく踏み込むということで
あり、ルビコン川を渡ったとでもいうべき大きな決断である。
市場はこうしたECB の決断を、ユーロ防衛に向けた本気度の現れと評価したわけだが、その後のドラ
ギECB 総裁の発言からは、実はOMT がそれほど「物凄い」政策ではなさそうなことも徐々に明らかにな
ってきている。
たとえば、10 月4 日のECB 定例理事会後の会見で、ドラギ総裁は、ポルトガルはOMT の対象にならな
いのかとの記者からの質問に対し、「財政改革プログラムの管轄下にある国は、完全な市場アクセスを
回復するまでは、OMT の対象外」と答えている。完全な市場アクセスというのがポイントで、この論理
でいけば、ポルトガル以外にも、ギリシャはもちろんのこと、アイルランドなども現時点では対象外と
いうことになる。また、OMT の買い取り対象は残存期間1〜3 年の国債だが、ドラギ総裁は、OMT は政府
の資金調達の戦略的な短期シフトを誘発することを企図したものではなく、そうしたシフトが起きない
か監視する姿勢を明らかにしている。また、市場アクセスを回復した政府であれば、そもそもそうした
シフトは起きないだろうとも付け加えている。つまりドラギ総裁は、ECB が、金利上昇によって資金調
達難に陥った国の「最後の貸し手(ラストリゾート)」となることを、あくまで拒否している。
もともとOMT は、無制限ではあっても無条件ではない。対象国の支援要請に基づき、ESM が発行市場
で国債を購入することを前提にしており、またその結果、対象国は厳しい緊縮財政や、構造改革などの
条件を課されることになる。スペインは、支援要請を行った場合に課される条件を見極めたいというス
タンスで、今のところ支援要請を先延ばししている状況である。ECB も積極的に活用する意図はないと
いうことになれば、無制限という触れ込みと、実際の運用はずいぶん違ってくる可能性がある。
OMT の発表当初、7%近い水準で推移していたスペインの10 年国債利回りは、安全圏である5%台ま
で一気に低下した。ドイツの主要株価指数であるDAX も、発表前の6,000 ポイント台から、9 月21 日
には7,451 ポイントと約500 ポイント上昇、1 ユーロ=1.26 ドル近辺で推移していたユーロ相場も、1
週間あまりで1.31 ドル台まで上昇した。しかし、スペインの長期金利は10 月後半以降再び上昇しつつ
あるほか、株価やユーロ相場も、市場の過剰な期待が徐々に剥落する形で、発表前の水準に近いレベル
にまで下落してきている。OMT は早くも賞味期限切れの様相を呈している。
OMT でユーロは支えられない
かといって、OMT を積極的に活用すれば問題が解決するわけではない。ECB 自身が、不良債権を大量
に抱えたバッドバンクになってしまっては、通貨ユーロの信認が揺らいでしまう。問題国の国債を買い
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
13
取るという行為自体が、通貨ユーロの信認を貶める行為であるがゆえに、OMT で通貨ユーロを支えるこ
とはできない。また、OMT にしても、LTRO と同じで、結局は「時間を買う政策」である。この間に問題
国が財政再建をしっかり進める必要があるが、すでに限界まで緊縮財政を推し進めている対象国にとっ
て、金利低下が進めば、どうしても改革に向けたスピードと意欲が鈍ってしまう。だからこそ、財政改
革が順調に進まなければOMT による買取りをやめるという建前になっているわけだが、実際そうした行
動に踏み切れば、当該国にとって死刑宣告になりかねず、ユーロ全体が崩壊の危機にさらされる。いっ
たん大規模な買取りを始めたら最後、出口戦略を円滑に進めるのは容易ではない。
結局OMT は、ECB にとって「抜かずの宝刀」にしておくのが望ましいということになるが、抜かずの
宝刀をちらつかせるだけで市場を落ち着かせる効果が長続きするはずがない。スペインは、来年4 月に
は国債の大量償還を控えている。すでにスペインの長期金利は再上昇しつつあるが、支援要請が遅れれ
ば遅れるほど、上昇ペースが加速する可能性は高い。OMT は、春先までには稼働する可能性が濃厚だが、
市場も効果に懐疑的になりつつあり、もはや市場環境に劇的な好転をもたらすには至らないだろう。ド
ラギ総裁の「時間を稼ぐ」手腕は見事だが、金融市場は、欧州債務問題を解決に導くうえで、中央銀行
にあまり過大な役割を期待することは禁物であることも、再認識する必要がある。(担当:小玉)
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
14
アイルランドは再び支援を受けるリスクが燻る
2012 年7 月に国債市場に復帰
アイルランドは、ユーロ導入により英国以外
の欧州向けの輸出を増やしたことや、欧州連合
の助成により教育やインフラへの投資を増加さ
せたことにより、90 年代以降金融危機で頓挫す
るまで高成長が続き、「ケルトの虎」と呼ばれ
た(図表1)。この間、ユーロ導入に伴う大幅な
金利低下のほか(図表2)、所得環境の改善や移
民の増加による住宅需要の増加がみられ、住宅
価格は90 年代前半から2007 年にかけて、約5
倍に上昇した(図表3)。しかし、2008 年のバ
ブル崩壊以降は、住宅価格が大きく低下した結
果、銀行の不良債権が大幅に増加し、政府は経
営が悪化した銀行への巨額の資本注入を余儀な
くされた。
政府の財政負担が増したことで、2010 年の公
的債務は対GDP 比で92.5%と、2008 年の44.2%
から大幅に増加した。アイルランドの10 年国債
金利は9%を超え、国債発行による自力資金調達
が困難となった結果、2010 年11 月からはEU と
IMF(国際通貨基金)の支援を受けることになっ
た。ただ、2013 年までの再建計画が順調に進ん
でいることや、景気の持ち直しを背景に、政府
は2012 年7 月に5 億ユーロの3 ヵ月物T ビル、
同月末には52 億3000 万ユーロの長期国債を発
行し、約2 年ぶりに国債市場に復帰した。アイ
ルランド国債管理庁によれば、発行した長期国
債は主に海外投資家が購入し、利回りは5 年物
が5.9%、8 年物が6.1%で、入札は好調であっ
た。堅調な輸出が法人税などの歳入の増加につ
ながっており、2013 年末までの再建計画を達成
できる可能性が高まっている。
生産コスト低下による国際競争力の強化
支援を受けている国のなかで、アイルランド
がいち早く市場に復帰できた背景には、主に単
位労働コストの低下による国際競争力の向上を
受けて、輸出主導で景気回復が進んでいること
(図表1)アイルランドの実質GDP成長率の推移(前年比)
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
1980年
1982年
1984年
1986年
1988年
1990年
1992年
1994年
1996年
1998年
2000年
2002年
2004年
2006年
2008年
2010年
2012年

(出所)IMF
→推計
(図表3)各国住宅価格(1992年9月=100)
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
92/09
93/09
94/09
95/09
96/09
97/09
98/09
99/09
00/09
01/09
02/09
03/09
04/09
05/09
06/09
07/09
08/09
09/09
10/09
11/09
12/09
スペインアイルランドイギリスドイツ
(出所)ファクトセット
(図表4)アイルランドの輸出推移(3ヵ月後方平均前月比)
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
(出所)ユーロスタット

(図表2)実質金利の推移
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
96/03
97/03
98/03
99/03
00/03
01/03
02/03
03/03
04/03
05/03
06/03
07/03
08/03
09/03
10/03
11/03
12/03 %
実質金利 ※5年物国債金利-HICP
(出所)ファクトセット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
15
がある。輸出は2009 年第4 四半期以降、緩やか
な伸びが続いている(図表4)。
単位労働コスト(賃金÷労働生産性)は、分子
の賃金の低下を受け、2008 年冬頃から低下傾向
が続いている(図表5)。マクロ経済政策の手
段としては、大きく金融政策、財政政策、為替
政策などがあげられるが、共通通貨ユーロを導
入している国は、各国で独自の金融政策や名目
為替レートを切り下げる為替政策をとることは
できない。財政政策の実施は各国に委ねられて
いるが、ユーロの信認維持のためには財政規律
の順守が重要視されているため、柔軟に活用することは難しい。財政危機に陥った国はむしろ厳し
い緊縮財政を課される。そこで、アイルランド政府がとった手段は、大胆な賃金カットを実施する
ことで生産コストを抑え、実質為替レート(=名目為替レート×(他国の物価水準÷自国の物価水
準))を切り下げて競争力を高める政策であった。このような対策をとったため、アイルランドは
激しいデフレや失業率の上昇を招いた。しかし、同国が英語圏のメリットを活かし、2000 年代から
育成していた外資の高付加価値産業が高品質かつ相対的な安値を背景に輸出を伸ばしたのに加え、
実質為替レート切り下げにより他国製品が割高になったことで、輸入が減少し内需に振り替わった。
こうした経緯を通じ、政府は景気を回復に導くことに成功した。
同国の景気は来年も低成長にとどまると予想
それでは、今後は同国の経済は順調に推移す
るのであろうか。2012 年7 月の輸出先の内訳を
見ると、EU 向けが全体の56.9%を占める。また
アメリカの移民が多く、従来から商用的な繋が
りが大きいことを背景に、アメリカ向けも
22.6%を占める。EU 向け輸出先の内訳では、ベ
ルギー、イギリスが過半を占める(図表6)。
世界的に景気の減速基調が強まっていること
から、輸出は目先減速する可能性が高い。年明
け以降は世界景気が徐々に上向くとみられるこ
とから、緩やかに持ち直しに向かうとみるが主
要輸出先の欧州では引き続き緊縮財政が景気の
下押し圧力となるため、回復感の乏しい状況が
続くと予想する。
一方、内需は低調な推移が続くとみている。
2012 年第2 四半期の個人消費は前年同月比▲
1.9%と、6 四半期連続のマイナスとなった(図
表7)。背景には、家計の債務が高止まりして
いることがある(図表8)。不動産バブル崩壊
(図表5)ユーロ圏各国の製造業単位労働コスト(2005年=100)
60
70
80
90
100
110
120
130
140
150
95/03
96/03
97/03
98/03
99/03
00/03
01/03
02/03
03/03
04/03
05/03
06/03
07/03
08/03
09/03
10/03
11/03
12/03
(出所)OECD
アイルランドユーロ圏スペインフランス
ギリシャイタリアポルトガルドイツ
(図表7)アイルランドの個人消費(前年比)
-10%
-5%
0%
5%
10%
15%
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
(出所)ユーロスタット
(図表6)アイルランドの輸出先(2012年7月)
イギリス
13.3%
ドイツ
6.9%
アメリカ
22.6%
中国
2.6%
日本
2.6%
その他
15.4%
フランス
EUその他4.7%
6.3% スペイン
2.6% イタリア
2.8%
オランダ
3.9%
ベルギー
16.5%
(出所)ファクトセット
EU
56.9%
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
16
後、家計部門は債務の返済を進めているが、住
宅価格が大きく下落した結果、家計のバランス
シート調整が今後も個人消費の下押し圧力とな
る可能性が高い。また、堅調な輸出を主導する
企業の多くは外資系であることから、輸出によ
って得られた所得が海外に流出し、国内の所得
増加につながりにくい面もある。足元の銀行の
不良債権比率が14.8%と高水準で推移するなか
では、銀行による貸出態度の厳格化した状態が
続くこともあり、内需は引き続き停滞気味の推
移が続こう。対策がゆっくりと進んでいるもの
の欧州債務問題は根本的な解決には遠く、今後もイタリアやポルトガルなど国を変えて欧州債務危
機は続くとみられることから、輸出主導のアイルランドは、来年も低成長での推移が続き、安定的
な回復には至らないだろう。短期的な景気見通しに不透明感が漂っていることが、同国の中期的な
景気見通しにも影響を与え、それが国債の金利上昇を招き財政悪化につながっていく可能性が高い。
銀行への直接支援がアイルランドにも適用されるかに注目
6 月のEU 首脳会談では、銀行監督の一元化を背景に、ESM(欧州安定メカニズム)から銀行へ直
接支援することが決定した。ただ、10 月のEU 首脳会談では、ドイツが銀行監督一元化前に実施さ
れた銀行への支援にまで直接支援を適用すべきではないとの意見を表明している。これまでのアイ
ルランドへの支援が、ESM が政府を介さずに銀行に直接行なったものと認められれば、その支援額
は政府の債務とはならないため、再建計画は大きく前進するものの、ECB(欧州中央銀行)の監督
が及んでいなかったときに経営悪化した銀行まで、後になって政府に責任を負わせることなく支援
したことにするのは、ドイツを中心に反対する国が多く、実現に至らない可能性が高い。
EU とIMF によれば、これまでのところアイルランドは輸出主導による景気回復によって財政再建
を順調に進めており、2013 年12 月に支援が終了し、2014 年1 月から完全に国債市場へ復帰する予
定である。財政再建計画では、政府は2015 年までに対GDP 政府債務を115.6%にまで低下させるこ
とが求められており、IMF の予測では、2015 年に対GDP 政府債務が115%と、目標に収まることに
なる(図表9)。ただ、試算の前提となっている実質GDP 成長率は、来年で欧州債務危機が収束す
るという前提で、2014〜2017 年の年平均成長率が2.75%と高めの水準となっている。一方、2012
年から2021 年までの年平均成長率を0.5%とした試算では、2021 年には対GDP 政府債務が146%に
まで達する見通しとなっている(図表10)。来年以降の成長率が、IMF の基本見通しより下振れる
と、財政再建が厳しくなるが、11 月7 日に発表された欧州委員会の秋季経済見通しでは、同国の成
長率が引き下げられ、2012 年が0.4%、2013 年が1.1%、2014 年が2.2%とされた。元々の基本シ
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
→予測
対GDP政府債務(%) 24.8 44.2 65.2 92.5 106.5 117.7 119.3 118.4 115 111.5 108.4 105 101.2 97.6 94.1
実質GDP成長率(%) 5.2 -3 -7 -2.6 1.4 0.4 1.4 2.5 2.8 2.8 2.9 2.5 2.5 2.5 2.5
(出所)IMF
(図表9)アイルランドの対GDP政府債務と実質GDP成長率
(図表8)家計債務残高、純借入額の推移
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
02/12
03/06
03/12
04/06
04/12
05/06
05/12
06/06
06/12
07/06
07/12
08/06
08/12
09/06
09/12
10/06
10/12
11/06
11/12
0
50
100
150
200
250
純借入額家計負債残高(右軸)
(出所)アイルランド中央銀行
10億ユーロ10億ユーロ
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
17
ナリオでも、2015 年に何とか目標を達成するレ
ベルであるため、この見通しのまま行くと、目
標達成は厳しい。債務問題の深刻化によって、
主要輸出先の欧州は景気が停滞気味に推移する
可能性が高いほか、銀行システムが脆弱ななか
では、内需下振れリスクがあることを考えれば、
アイルランドが第二次支援に追い込まれる可能
性は否定できない。(担当:水野)
(図表10)経済成長率を変化させた場合の対GDP政府債務見通し
成長率引き下げ
基本ライン
(出所)IMF
基本ライン成長
成長率引き下げ
過去10年実績

経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
18
広がるビッグデータの活用
多種多量のデータが生成
ブログへの書き込みなどの文字情報や、動画、GPS(全地球測位システム)に基づく位置情報、防犯
カメラの映像など、爆発的に大量に発生するデータをビッグデータといい、最近注目を集めている。こ
の背景として、インターネットなどICT(情報通信技術)の進展により、デジタル化され、生成・収集・
蓄積等が可能・容易になった多種多量のデータが日々生成されるようになったことが挙げられる。
当初、ビッグデータを活用したのは、米国のネット企業である。例えば、グーグルは、検索と無料ア
プリケーションをもとに集まった膨大なデータを広告に活用している。フェースブックなどのソーシャ
ルメディアは、会員データをもとに広告やソフトウェアなどの販売を行っている。アマゾンは、購買履
歴などのデータを用いて、おすすめの商品を提示するなど、購買意欲を高める工夫を行っている。この
ようなビッグデータの活用は、利用者個々のニーズに即したサービスの提供を可能とし、業務運営の効
率化や新産業の創出に寄与している。
公共分野での活用も
わが国の例を見ると、本田技研工業は、ドライバーの快適なカーライフを実現するため、より安全で
環境にも配慮したドライブ情報サービス・ネットワークとして、安全・安心、防災、天気、省燃費ルー
ト等の情報を提供する「internavi」を2002 年から提供しており、会員数は145 万人にのぼっている。
会員が運転する車には「internavi」が装着され、自らがセンサーとなり、交通情報を集める。そのデ
ータは、インターナビ情報センターに共有され、5 分毎等の間隔で収集するVICS(渋滞・交通規制情報)
を補完し、広範囲のインターナビ情報が会員に提供される。このシステムの利用者は、目的地へ約20%
早く到着するルートの案内を受け、渋滞を回避することができる。これは、CO₂ 換算で約16%の温室効
果ガスを削減する。
「internavi」装着車の走行データは、埼玉県の道路行政にも活用されており、急ブレーキポイント
を抽出し、街路樹の剪定や路面表示をすることで、急ブレーキ回数の約7 割減少という成果をあげてい
る。また、東日本大震災では、@津波警報と地震震度情報や首都圏の通行止め状況のカーナビ画面への
配信、A地震時の位置情報付きの家族へのメールによる安否連絡、B国土交通省河川局が設置した11
ヵ所の浸水センサー観測値のカーナビやスマートフォンへの配信等が実施された。
この他、徳島大学病院では、HER(電子健康記録)について、分散処理ソフト等を組み込んだシステ
ムによって、医療機関等の診療データや検査結果を集積し、疾病を管理・分析している。このように、
ビッグデータは、交通、災害、医療など、公共部門においても利用が広がっている。
急拡大する市場規模
総務省の情報通信審議会に設置されているICT 基本戦略ボードは、今後のICT 戦略の立案を担うが、
その議論において、ビッグデータをわが国の戦略分野に位置づけるべきとの意見が強調されている。ま
た、主要シンクタンクの調査において、ビッグデータは、ICT 分野における重要な潮流や戦略的な技術
として位置づけられている。
矢野経済研究所は、ビッグデータ市場の短期、中期、長期の成長シナリオを公表している。それによ
ると、短期的には、ビッグデータへの注目度の高さとデータ処理技術の向上によって、マーケティング
や商品開発を目的としたシステムへの投資が促進されるとしている。中期的(2015 年頃)には、データ
活用の大幅なコスト低減と普及を狙って、様々なデータがクラウド(データのパソコン上ではなくイン
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
19
ターネット上へ保存するサービス)に集約され、インフラとして多数の企業が利用するようになるとし
ている。長期的(2017 年頃)には、クラウドのデータは社会のインフラとなり、ビッグデータの活用で、
社会の無駄や余剰の最適化が推進されるとしている。
矢野経済研究所は、ビッグデータ
利用の活発化にともない、ビッグデ
ータ市場のIT 投資金額に占める比
率が2011 年の2%から2020 年には
10.6%へ、市場規模が2011 年の1900
億円から2020 年には1 兆6 百億円へ
と、ともに大幅に増大すると予測し
ている(図表1)。
個人情報保護の必要性
ビッグデータは、性別や年齢、住
所などの個人属性のほか、消費行動、
行動エリアなど幅広い個人の情報も
含む。これらは、集計・加工される
ことで、事業や行政の運営上貴重な
データとなるが、個人が望まないに
もかかわらず、知らない間に自分に関する情報が他者に利用され、さらに拡散する危険をはらんでいる。
わが国において、この問題を規制する法律は、個人情報保護法である。個人情報保護法における個人
情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる、氏名、生年月日その他の記述等
により特定の個人を識別することができるものをいう。個人情報取扱事業者は、個人情報の取得に当た
って、利用目的の明示と本人の同意が必要であり、また、本人の同意なく第三者に譲渡してはならない。
したがって、ネット企業がインターネットを通じて、個人情報を取得したり、個人情報をビッグデータ
のデータベースとし、解析結果を第三者に提供するには、本人の同意が必要である。
情報に関する権利の尊重
ICT の進展によって、従来、消費履歴や近所の風景写真など、個人情報に該当しないとされていた情
報でも、他の情報と組み合わされることで特定の個人を識別することが可能になろうとしている。例え
ば、一部の携帯端末で撮った写真には位置情報が埋め込まれ、写真を公開すれば、いとも簡単にその場
が特定され、個人の識別が容易になる。
したがって、個人情報保護法が規制の対象としない情報も、新たなルールを設け保護する必要性が高
まっているといえる。ルール策定に当たっては、事業者が個人の消費履歴等を収集・活用するには、本
人の事前同意を必要とするべきである。また、本人のサイトへの書き込みが、リンクやコピーによって
外部に拡散し、消去できない状態になった場合、ソーシャルメディア等の管理者に対して、自身のデー
タの消去を要求する権利を認めることも検討すべきであろう(EU では、忘れられる権利として認められ
ている)。情報は、物品や金銭とは異なり、いったん喪失すると回復不能という性質をもつ。ビッグデ
ータが広く活用される時代こそ、個人が自己に関する情報をコントロールする権利が尊重されるべきで
ある。(担当:心光)
(図表1)ビッグデータ市場規模推移
(出所)矢野経済研究所
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
20
主要経済指標レビュー(11/5〜11/16)
≪日 本≫
○ 9 月景気動向指数(11 月6 日)
9月の景気動向指数では、一致CIが91.2(前月差▲2.3
ポイント)と6ヵ月連続の下降、先行CIは91.7(前月差▲
1.5ポイント)と2ヵ月ぶりの下降となった。内閣府の基
調判断は、8月の「足踏みを示している」から9月は「下
方への局面変化を示している」に下方修正された。下方
への局面変化とは、事後的に判定される景気の山が、そ
れ以前の数ヵ月にあった可能性が高いことを示す。日本
経済は世界景気の減速に伴う輸出の悪化に加え、内需も
息切れしつつあることから、年内は減速基調で推移する
と予想しているが、年明け以降は、中国を中心とする新
興国が回復に向かうことで、緩やかながら回復に向かう
とみている。ただ、年末以降も中国向け輸出の減速傾向
が続くようなら、後退局面が長期化する可能性も現実味
を帯びてこよう。
○ 10月景気ウォッチャー調査(11月8日)
10月の景気ウォッチャー調査では、現状判断DIが前月
差▲2.2ポイントの39.0と、3ヵ月連続で低下、横ばいを
示す50ポイントは6ヵ月連続で下回った。内訳項目の家計
動向関連、企業動向関連、雇用関連の3項目すべてで低下
した。景気ウォッチャー調査による基調判断の文言は、9
月の「景気は、このところ弱まっている」から、「景気
は、さらに弱まっている」へと下方修正された。5月以降、
基調判断は8月を除き毎月下方修正されている。ウォッチ
ャーの判断理由を見ると、日中関係の悪化を指摘する声
が非常に多い。エコカー補助金終了の影響を指摘する声
も目立つ。先行き判断DIも前月差▲1.8ポイントの41.7
と、6ヵ月連続で低下した。年明け以降も中国向け輸出の
回復が鈍いようであれば、景気後退局面の長期化も覚悟
する必要が出てこよう。
○ 9月機械受注(11月8日)
9 月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比▲
4.3%と、2 ヵ月連続のマイナスとなった。前年同月比で
も▲7.8%と、2 ヵ月連続のマイナス。内閣府による基調
判断は、8 月の「一進一退で推移している」から、「足
元は弱い動きもみられるものの、基調としては一進一退
で推移している」へと下方修正された。今後は、輸出産
業を中心に製造業の受注がさらに弱含む可能性があり、
機械受注はさらなる下振れリスクに警戒が必要な局面が
続こう。7−9 月期のGDP 速報における実質設備投資は大
幅マイナスとなり、10−12 月もマイナスとなる可能性が
高く、年度内の設備投資は軟調な推移が続くと予想する。
一致CIの推移
65
70
75
80
85
90
95
100
105
110
02年
03年
04年
05年
06年
07年
08年
09年
10年
11年
12年
2005年=100
7ヵ月後方移動平均
3ヵ月後方移動平均
一致CI
  (出所)内閣府「景気動向指数」
景気ウォッチャー調査 現状判断DI
0
10
20
30
40
50
60
08/07
08/10
09/01
09/04
09/07
09/10
10/01
10/04
10/07
10/10
11/01
11/04
11/07
11/10
12/01
12/04
12/07
12/10
ポイント
現状判断DI
現状判断DI 家計
現状判断DI 企業
現状判断DI 雇用
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」
機械受注(船舶・電力を除く民需)の推移
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
02/9
03/9
04/9
05/9
06/9
07/9
08/9
09/9
10/9
11/9
12/9
兆円
単月3ヵ月移動平均
(出所)内閣府「機械受注統計」
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
21
○ 2012年7−9月期GDP速報(11月12日)
7−9月期の実質GDP成長率は前期比▲0.9%(年率換
算:▲3.5%)と、3四半期ぶりのマイナス成長となっ
た。世界的な景気低迷の影響を受け、輸出が落ち込ん
だことに加え、内需も民需中心に息切れしつつあるこ
とが主因。輸出は、中国や欧州の景気減速を受け、前
期比▲5.0%の大幅減となった。民間最終消費支出は、
エコカー補助金の終了や、震災後の反動増的な動きの
一巡を受け、同▲0.5%と2四半期連続の減少。民間企
業設備投資は、輸出減を受けた企業マインドの悪化が
下押し材料となり、同▲3.2%の大幅減となった。
10−12月期の実質GDP成長率は、2四半期連続のマイ
ナスとなる可能性が高い。1−3月期以降は、輸出の回
復に伴い、プラスに転じると予想するが、復興需要の
景気押し上げ効果が徐々に減衰していくと予想される
こともあり、回復ペースは鈍いものにとどまろう。
○ 10 月企業物価指数(11 月12 日)
10月の国内企業物価指数は前年同月比▲1.0%と、7ヵ
月連続のマイナスで、全23種目中、14種目がマイナスと
なった。世界的な景気減速、国内消費の伸び悩みから、
情報通信機器(同▲10.1%)、鉄鋼(同▲9.9%)、電子
部品・デバイス(同▲3.6%)などが大きくマイナスとな
った。ただ、石油・石炭製品のプラス幅が拡大、非鉄金
属がプラスに転換したことなどを受け、全体では9月の同
▲1.5%からマイナス幅が縮小した。輸出物価指数は、金
属・同製品や化学製品、電気・電子機器などの下落が続
き、契約通貨ベースで同▲1.8%と、10ヵ月連続のマイナ
ス。輸入物価指数も、金属・同製品や木材・同製品、化
学製品、電気・電子機器の下落から、契約通貨ベースで
同▲1.9%と、6ヵ月連続のマイナスとなった。この結果、
交易条件は、ほぼ横ばいの推移にとどまった。
○ 9 月第3 次産業活動指数(11 月12 日)
9月の第3次産業活動指数は前月比+0.3%と、2ヵ月
連続で上昇した。業種別に見ると、金融業・保険業(同
+2.8%)、生活関連サービス業・娯楽業(同+1.3%)
など、13業種中10業種がプラス寄与となった。金融
業・保険業では証券や生損保のプラス寄与が目立っ
た。一方、卸売業・小売業(同▲1.2%)、学術研究,
専門・技術サービス業(同▲2.8%)などがマイナス
寄与となった。卸売業・小売業では自動車や織物・衣
服・身の回り品関連のマイナス寄与が目立った。9月
の第3次産業活動指数は小幅改善したものの、金融
業・保険業が指数全体を押し上げた影響が大きく一
時的な要因とみられることから、今後は停滞気味の推
移が続くと予想する。
第3次産業活動指数の推移
90
92
94
96
98
100
102
104
106
08/06
08/09
08/12
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
2005年=100
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6

第3次産業活動指数(季調値)(左軸)
前年同月比(右軸)
(出所)経済産業省「第3次産業活動指数」
実質GDP成長率と寄与度
-2.5
-1.5
-0.5
0.5
1.5
2.5
10/4Q
11/1Q
11/2Q
11/3Q
11/4Q
12/1Q
12/2Q
12/3Q
前期比(%)
個人消費民間住宅民間設備民間在庫
公的需要純輸出実質GDP
(出所)内閣府「四半期別GDP速報」
企業物価指数(前年比)の推移
-60
-40
-20
0
20
40
60
05年
06年
07年
08年
09年
10年
11年
12年

-15
-10
-5
0
5
10
15

素原材料(左軸) 中間財(右軸)
最終財(右軸) 国内企業物価指数(右軸)
(出所)日銀「企業物価指数」
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
22
○ 9 月毎月勤労統計(確報、11 月16 日)
9月の毎月勤労統計では、現金給与総額(事業所規模5
人以上:調査産業計)が前年同月比▲0.5%と、2ヵ月ぶ
りにマイナスとなった。内訳を見ると、定期給与が同▲
0.4%と、4ヵ月連続の減少となったものの、特別給与は
同+1.6%と、2ヵ月連続でプラスとなった。定期給与の
内訳項目では、所定内給与が同▲0.4%と、4ヵ月連続の
減少、所定外給与は同+0.1%と、辛うじてプラスとなっ
た。一方、総実労働時間は同▲1.5%と、2ヵ月連続のマ
イナスとなった。内訳項目の所定内労働時間が同▲1.5%、
所定外労働時間も同▲2.0%と、いずれも減少した。9月
の現金給与総額は再びマイナスに転じ、これまで現金給
与総額の伸びを支えてきた所定外労働時間もマイナス基
調となっており、所得環境の改善は、今後も期待しにく
い状況が続くと予想する。
現金給与総額(前年同月比)の推移
(事業所規模5人以上:調査産業計)
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
08/06
08/09
08/12
09/03
09/06
09/09
09/12
10/03
10/06
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09

-25
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15

現金給与総額  〈左軸〉
所定内給与  〈左軸〉
所定外給与  〈右軸〉
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
23
≪米 国≫
○ 10 月小売売上高(11 月14 日)
10月の小売売上高は前月比▲0.3%と、4ヵ月ぶり
に減少し、市場予想(同▲0.2%、ブルームバーグ調
査)をも下回った。業種別に見ると、自動車・部品
や建材が大きく落ち込んだ。月末に発生した大型ハ
リケーン「サンディ」による影響が大きいとみられ
る。振れの激しい自動車・部品、ガソリン、建材を
除くベースでは、同▲0.1%と、減少幅は小幅なもの
にとどまった。雇用環境が改善傾向を保っているほ
か、ハリケーンで破損した自動車の買い替え需要も
見込まれることなどから、今後の個人消費は緩やか
な回復基調を維持すると予想する。
○ 10 月CPI(消費者物価指数)(11 月15 日)
10月のCPIは前月比+0.1%と、伸び幅が9月の同
+0.6%から縮小した。これは市場予想(同+0.1%)
どおりの結果。ガソリンなどのエネルギーが同▲
0.2%と、3ヵ月ぶりに低下し、全体を押し下げた。
一方、エネルギーと食料品を除いたコアCPIは前月比
で+0.2%と、賃貸料、アパレル、教育・通信などが
上昇した結果、9月の同+0.1%から伸び幅が拡大し
た。ただ、前年比では9月の+2.0%から伸び幅は変
わらなかった。賃金の上昇ペースは緩やかなものに
とどまっており、コアCPIは今後も安定的な推移が続
くとみる。
○ 10 月鉱工業生産(11 月16 日)
10月の鉱工業生産は前月比▲0.4%と、2ヵ月ぶりに減
少し、市場予想(同+0.2%)を下回った。産業別に見
ると、製造業が同▲0.9%、公益事業が同▲0.1%と、大
型ハリケーン「サンディ」の影響を受け、ともに減少し
た。一方、鉱業は2ヵ月連続の増加となった。製造業の
内訳を見ると、耐久財が同▲0.6%、非耐久財が同▲1.0
と、ともに2ヵ月ぶりの減少となった。設備稼働率は9
月の78.2%から77.8%へと、2ヵ月ぶりに低下した。今
後は、大型ハリケーンによる生産への悪影響が和らぐと
みられるほか、新興国景気の底打ちが見込まれることか
ら、生産は徐々に持ち直しに向かうと予想する。
小売売上高の伸びと自動車・ガソリンスタンドの寄与度(前月比)
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
11/8
11/9
11/10
11/11
11/12
12/1
12/2
12/3
12/4
12/5
12/6
12/7
12/8
12/9
12/10

除く自動車・ガソリンスタンド自動車・部品
ガソリンスタンド小売売上高
(出所)米商務省
CPIの伸び(前年比)
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
03/10
04/4
04/10
05/4
05/10
06/4
06/10
07/4
07/10
08/4
08/10
09/4
09/10
10/4
10/10
11/4
11/10
12/4
12/10

CPI コアCPI
(出所)米労働省
鉱工業生産と設備稼働率の推移
80
85
90
95
100
105
01/10
02/10
03/10
04/10
05/10
06/10
07/10
08/10
09/10
10/10
11/10
12/10
65
70
75
80
85
90
鉱工業生産(左) 設備稼働率(右)
(出所)FRB
2007年=100 %
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
24
≪欧 州≫
○ 9 月ユーロ圏鉱工業生産(11 月14 日)
9 月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比▲2.5%と、
市場予想の同▲2.0%を下回り、2009 年1 月以来の大幅
減となった。財別に見ると、消費財が同▲2.7%、中間
財が同▲2.0%、資本財が同▲3.1%と軒並み減産となっ
た。主要国では、ドイツが同▲1.8%、イタリアが同▲
1.5%、スペインが同▲2.8%、フランスが同▲2.7%の
減産となった。また、アイルランドが同▲12.6%、ポル
トガルが同▲12.0%と、大きく落ち込んだ。新興国景気
の持ち直しペースが遅れているほか、各国で緊縮財政政
策が本格化していることから、今後も鉱工業生産は停滞
気味の推移が続くと予想する。
○ 10 月ユーロ圏CPI(確定値)(11 月15 日)
10 月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)は前年比+
2.5%と、5 ヵ月ぶりに伸び幅が縮小した。内訳を見ると、
食品が同+2.7%→同+2.9%と、伸び幅が拡大したもの
の、エネルギー価格の伸びが鈍化したことを背景に、工
業製品は同+3.4%→同+3.0%と、伸び幅が4 ヵ月ぶり
に縮小した。一方、物価の基調を表すコアCPI は同+
1.5%と、伸び幅は前月と変わらず。主要国別では、ドイ
ツが同+2.1%、スペインが同+3.5%と、伸び幅が変わ
らなかった一方、イタリアが同+3.4%→同+2.8%、フ
ランスが同+2.2%→同+2.1%と、伸び幅が縮小した。
ECB は11 月の理事会で、景気悪化への懸念を示したほか、
インフレについては、エネルギー価格の上昇などで年内
は2%を上回って推移するが、中期的にほぼ安定してい
るとの認識を示している。
ユーロ圏鉱工業生産の推移(前月比)
-3.0
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
10/09
10/12
11/03
11/06
11/09
11/12
12/03
12/06
12/09
%
(出所)ユーロスタット
ユーロ圏CPI・コアCPI(前年比)の推移
-1
0
1
2
3
4
5
06/10
07/04
07/10
08/04
08/10
09/04
09/10
10/04
10/10
11/04
11/10
12/04
12/10
CPI コアCPI
%
(出所)ユーロスタット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
25
日米欧マーケットの動向 (2012年11月16日現在)
▽各国の株価動向
▽外為市場の動向
日経平均株価
8000
9000
10000
11000
12000
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(円)
(出所)ファクトセット
ダウ工業株30種平均
9000
10000
11000
12000
13000
14000
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ドル)
(出所)ファクトセット
ドイツの株価指数(DAX)
4000
5000
6000
7000
8000
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ポイント)
(出所)ファクトセット
英国の株価指数(FT100)
4500
5000
5500
6000
6500
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ポイント)
(出所)ファクトセット
円/ドル相場
75
80
85
90
95
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(円)
(出所)ファクトセット
ドル/ユーロ相場
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ドル)
(出所)ファクトセット
円/ユーロ相場
90
100
110
120
130
140
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(円)
(出所)ファクトセット
円/ポンド相場
110
120
130
140
150
160
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(円)
(出所)ファクトセット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
26
▽各国の金利動向
▽商品市況の動向
政策金利(日本、無担保コール翌日物)
-0.1
0.0
0.1
0.2
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
長期金利(日本、10年国債)
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
政策金利(米国、FFレート)
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
長期金利(米国、10年国債)
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
政策金利(ユーロ圏、定例オペ最低入札金利)
0.0
1.0
2.0
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
長期金利(ドイツ、10年国債)
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(%)
(出所)ファクトセット
原油先物(WTI、中心月)
60
70
80
90
100
110
120
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ドル)
(出所)ファクトセット
CRB先物指数
220
260
300
340
380
09/11
10/02
10/05
10/07
10/10
11/01
11/04
11/06
11/09
11/12
12/03
12/05
12/08
12/11
(ポイント)
(出所)ファクトセット
経済ウォッチ 2012 年 11 月第4 週号
27
●照会先● 明治安田生命保険相互会社 運用企画部 運用調査グループ
東京都千代田区丸の内2−1−1 TEL03-3283-1216
執筆者:小玉祐一、心光勝典、松下定泰、謝名憲一郎、信本将己
水野有香、落合翔太、山口範大
本レポートは、明治安田生命保険 運用企画部 運用調査G が情報提供資料として作成したものです。本
レポートは、情報提供のみを目的として作成したものであり、保険の販売その他の取引の勧誘を目的と
したものではありません。また、記載されている意見や予測は、当社の資産運用方針と直接の関係はあ
りません。当社では、本レポート中の掲載内容について細心の注意を払っていますが、これによりその
情報に関する信頼性、正確性、完全性などについて保証するものではありません。掲載された情報を用
いた結果生じた直接的、間接的トラブルや損失、損害については、当社は一切の責任を負いません。ま
たこれらの情報は、予告なく掲載を変更、中断、中止することがあります。
http://www3.keizaireport.com/file/economy201211_02.pdf
 

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