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Re: 成長限界のゴードン説に挑むダボス会議−ダイナミズム議論へ
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/903.html
投稿者 墨染 日時 2013 年 1 月 19 日 02:54:38: EVQc6rJP..8E.
 

(回答先: つくられたアベノミクスの壮大な実験/流動性の罠は「原因」では無く「結果」だ、問題は「成長の限界」 投稿者 墨染 日時 2013 年 1 月 19 日 02:49:09)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MGPC116TTDSQ01.html

1月18日(ブルームバーグ):2012年を振り返ると、米経済の回復は長い昼寝からぐずぐずと目覚める程度の勢いしかなく、債務を抱えてリセッション(景気後退)に見舞われた欧州では、スペインの救済やギリシャのデフォルト(債務不履行)懸念が強まり、さらにはユーロ崩壊の可能性さえ取り沙汰された。アジアでは、中国やインドの景気減速で新興市場の2大国である両国の成長物語に疑問符が付き、世界中の企業収益や商品相場の足を引っ張った。

こうした悪材料に追い打ちをかけるように、昨年夏、ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授(経済学)が「米経済成長は終わったのか」と題する論文を発表し、話題になった。

ゴードン教授(72)が意味した「終わり」というのは、幸せな日々はまだ戻っていないがあと1四半期待てばいいというような程度のものではない。完全な終わり、終えんであり、二度と幸せな日々は戻らないという意味だ。「1人当たりの実質国内総生産(GDP)は将来、19世紀後半以降の期間で最も低い伸びになる」と教授は論じている。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じている。

こうした厳しい景気停滞の証拠が出そろう中で、今年の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が「弾力性のあるダイナミズム」という明るいテーマの下で開催されるというのは意外であり、少なくとも時代の逆を行くものである。ダボス会議の出席者はゴードン教授の論文の中に楽観できる要因をさほど見いだせないだろう。

■6つの逆風
ゴードン教授は米経済成長を押し下げる6つの「逆風」を挙げた。人口の高齢化、学力到達度の低下、所得格差の拡大、海外への業務委託と自動化、気候変動と炭素税導入の可能性、そして家計と政府の高い債務負担がそれだ。これらの逆風が重なれば、1.4%の成長率はゼロに近づく可能性があると言う。

教授によれば、極めて低い成長率というのは、人類の歴史においてその早い時期には標準だった。教授は英イングランドのGDPの伸びが1300年から1750年の間に年平均でわずか0.2%だったことに言及し、それが再び標準になる可能性があると説く。

世界の成長が限界に達したという考え方は、ばかげたようにみえるかもしれない。アップルの製品のように、われわれの暮らしを変えることを約束する新製品が毎月のように発売されるからだ。それでもゴードン教授は、こうした製品は素晴らしいかもしれないが、生活水準にもたらした変化は屋内トイレの半分にも届かないと語る。

■大停滞
ジョージメイスン大学のタイラー・コーエン教授(経済学)もゴードン教授のイノベーション(技術革新)の停滞という考えに賛同する。2011年に出版した「大停滞」でコーエン教授は、歴史を通じて人口1人当たりのイノベーションに注目した米国防総省の物理学者ジョナサン・ヒューブナー氏の研究を引用。1人当たりのイノベーションは第2次産業革命の初期に当たる1873年ごろがピークだったと指摘した。

中国 とインドでは、2012年の経済活動の緩慢なペースが心配されたとはいえ、宴は終わったと考える理由はほとんどない。中国の一人っ子政策で人口が急速に高齢化しているが、国内に累積した貯蓄と需要も十分ある。インドはお役所仕事と保護主義、汚職がはびこり、インフラが不足している状況に取り組んでいる。

米国の生産性低下というゴードン教授の指摘は正しいとしても、将来に関する見方は間違いかもしれないと指摘するのは、元モルガン・スタンレーのチーフ・グローバルエコノミスト、スティーブン・ローチ氏。エール大学でアジアによる世界経済への影響を研究し、生産性に関して長年探究しているローチ氏は、ゴードン教授が挙げた逆風について、「永続するものは1つもなく」、重要性は薄れていくとみる。

■悲観ムード  
ニューヨークに本拠を置くシンクタンク、インスティチュート・フォー・ニュー・エコノミック・シンキング(INET)の幹部、ロバート・ジョンソン氏は、エコノミストは現在から未来を推測する傾向があるだけに、「今のセンチメントが増幅されがちだ。現在は下降局面のため、センチメントは少し悲観的だ」と指摘する。

コロラド大学の政治学者で環境やイノベーション政策を専門にするロジャー・ピールク氏はこうした悲観論を検証するため、ゴードン教授と同じ歴史データを分析した。同氏の結論は、経済成長のペースは変化し得るが、成長は尽きることがないというものだ。伝染病や戦争、景気下降を通り抜け、リスクを管理しながら成長を促進していく力は人類の歴史の中で永続している特性だ。

世界経済フォーラムが掲げる弾力性のあるダイナミズムというテーマもこうした信念に通ずるものだ。このスローガンを実現する方法を見いだしていくことは、ダボス会議にとどまらない世界の課題である。

 

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コメント
 
01. 2013年1月19日 11:15:10 : Pj82T22SRI
>6つの「逆風」

家計債務を除けば日本の方が遥かに悪い

日本化する(アベノミクスは失敗する)と言っているのに等しいな

ただ、こうした悲観的な見方は、昔から何度も出てくるが、あまり当てにはならない


>世界の成長が限界に達した

とりあえず、途上国の生活水準が、先進国に近づくだろうから、その分の成長は続くが
今後世界の経済成長率が低下していくことは間違いないだろう



02. 2013年1月21日 02:30:52 : mb0UXcp1ss
英国とEU、キャメロン首相の頭痛に妙薬なし
2013年01月21日(Mon) Financial Times
(2013年1月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


キャメロン首相は18日にオランダ・アムステルダムで英国とEUの関係について基調講演を行う予定だったが、アルジェリアの危機で延期された〔AFPBB News〕

 欧州に関する英国内の議論には、どこか現実離れしたところ――いや実際、かなり馬鹿げたところ――がある。

 破壊的な危機から5年経った今も経済は低迷したままだ。国家財政の修復は行き詰まってしまった。隣接するユーロ圏の健康はまるで保証されておらず、ユーロ圏の将来の形もはっきりしない。

 では、こうした状況にデビッド・キャメロン首相はどう対応するのか? 英国の欧州連合(EU)加盟について、(まだ5年くらい先の話とはいえ)投票を行うと約束しているのだ。

 諸外国は当惑しきった様子で事態を見守っている。米国は不安に駆られ、キャメロン首相に対し、もし英国をEUから脱退させたら、首相はワシントンにおける影響力に別れを告げることになると警告した。筆者は1月半ばに北京で、中国政府高官らがやんわりと、英国が世界一重要な経済圏から離脱しかねないことに困惑を表明するのを耳にした。

 盛んに喧伝されつつ遅れに遅れた、英国とEUの関係に関するキャメロン首相の演説は、何も解決しない。演説は、戦略を示すというよりは、無能さの表れ――ほとんど苦痛の叫び――になるだろう。

 キャメロン首相は英国が、EUから権限を取り戻しながら単一市場に対する特権的なアクセスを維持する「新たな合意」を求めている。首相は再交渉を約束し、2015年の選挙で勝てば、新たな合意を承認する住民投票を実施すると話している。

英保守党内の欧州嫌いと地政学の現実

 だが、いざ演説が行われた時には、それは失望を招く運命にある。ここは保守党内の欧州嫌いの高まりという不可抗力が、地政学の現実という動かせない物体と出合う場所だからだ。保守党が折り合いのつかないものと折り合いをつけようと奮闘する間、英国の同盟国や貿易相手国、投資家は何年にもわたる不確実性を約束されるのだ。

 キャメロン首相は、EUにとどまることを望んでいると言う。まだ詳細が明示されていない適用除外規定(オプトアウト)と譲歩を得られれば、英国はEU内で「より快適」になるという。ただ、今から10年後も英国がEU加盟国でいるかどうか問われると、ジョージ・オズボーン財務相は「そう願っている」と答えるのが精一杯だった。

 現在政策を主導している、欧州統合に極めて懐疑的な保守党の閣僚や議員の多くにしてみれば、住民投票は英国にとって今より有利な取り決めではなく、脱退につながる道だ。

 英国のパートナー諸国は、ユーロ圏内の政治的、経済的な統合進化が必然的に関係を変えることを認めている。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、単一通貨ユーロの「非参加国」には、より幅広いEUの協議――中でも誰の目にも明らかなのは単一市場に関する決定――において自国の主張を守る安全装置が必要だという考えに共感している。

 欧州諸国の指導者たちはしばしば英国の例外主義に苛立つものの、大陸欧州からキャメロン首相を追い出そうとする大きな動きは見られない。フランスでさえ、時にそうではないふりをしつつも、不実なアルビオン(英国)がEU内にとどまることに利益を見いだしている。


英国はもともとEU内で異端児的な存在だった〔AFPBB News〕

 しかし、メルケル首相やその他の指導者にも譲れない一線がある。国境を越えた自由な往来を定めたシェンゲン協定から通貨ユーロに至るまで、英国には既にたくさんの適用除外規定がある。

 もし今キャメロン首相の求めている対価が、過去の誓約や義務の取り消しだとすれば、それはあまりにも高すぎる。

 確かに、社会立法や地域政策に関する協議が行われることはあるが、EUの中核的な「acquis(アキ、蓄積されてきた法体系)」の解体は、欧州域内で最も英国に友好的な国でさえ渡ろうとしない橋だ。

 壮大な戦略は決してキャメロン首相が得意とするものではないが、首相はこれを理解しているはずだ。では、なぜ演説をするのか? 

 キャメロン首相は、19世紀の穀物法や20世紀初頭の帝国貿易特恵を巡る動乱に似た保守党内の大分裂の不安に捕らわれている。当時と同じように今も、世界における英国の地位に関する議論が、国家のアイデンティティーと主権に関する保守党内の議論に巻き込まれてしまっている。

英国のEU脱退は今のところ可能性にすぎないが・・・

 今のところ、英国によるEU脱退は、起こりそうな出来事というよりは可能性にすぎない。保守党の連立相手である自由民主党の党首、ニック・クレッグ氏は、キャメロン首相の計画を否定している。労働党も欧州統合に懐疑的なポーズを取った時期があったが、今では住民投票を支持する誘惑を退けている。

 労働党で外交問題のスポークスマンを務めるダグラス・アレクサンダー氏は先日、EUは英国の利益と価値観の大事な増幅装置だと述べた。また、悲惨な経済状態を考えると、2015年の選挙で保守党が過半数を押さえることは、分かりきった結果とは決して言えない。

 EUからの完全脱退を提唱している英国独立党は、保守党のユーロ嫌いの火に油をそそぐ。だが、有権者はEUのことがあまり好きでないものの、実際は世論調査が示唆しているよりも現実的な態度を示すかもしれない。

 EUの干渉を非難することはそれとしても、英国にとって最も重要な貿易・投資相手に対して跳ね橋を上げ、自国の繁栄と雇用を危険にさらすことは、まるで別の話だ。

 危険なのは、ポピュリスト的な求めに屈することで、キャメロン首相が脱退に向かう政治力学を生み出し、欧州が、英国が自ら招いた経済不振のスケープゴートにされてしまう事態だ。首相のパートナーである各国指導者は、「より少ない」欧州を求める英国の要求によって、「より多くの」欧州を目指す自分たちの計画がカタに取られるのを許すつもりはない。

サッチャーはもっと奥が深かった


英保守党内のEU懐疑派はマーガレット・サッチャーを英雄視している〔AFPBB News〕

 EU懐疑派はマーガレット・サッチャー元首相を英雄視している。

 サッチャー元首相は確かに、連邦制の超国家というEUの未来を描く人には厳しかった。だが、表向きの発言の裏では、英国の国益に関する冷徹な見解を貫いていた。EUの政治的な性質も理解していた。

 EU加盟の是非を問う1975年の住民投票では、サッチャー元首相は国民に批准を求め、加盟を支持する根拠は、英国の力を増幅する欧州の役割にあると主張した。EUは、さもなくば帝国時代が終わった後に閉ざされていった「世界の窓」を開ける、というわけだ。

 欧州委員会の委員長だったジャック・ドロール氏との対立がピークに達していた時期でさえ、サッチャー元首相は中堅どころの欧州国家が直面する厳しい政治的現実を理解していた。

 元首相は悪名高いブルージュ演説で「英国は、欧州共同体(EC)の端の快適で孤立した存在など夢見ていない。英国の運命は、共同体の一員として欧州に存在することにある」と述べた。ここにはサッチャー元首相の後継者を自ら名乗る人々が考えるべき思想がある。

By Philip Stephens
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36958


 

ニッポン企業のための新興国ガイド ベトナム編
ベトナムは「チャイナプラスワン」で居続けられるか?

外国投資がピーク時の約60%に落ち込む

2013年1月21日(月)  川島 佑介 、 後石原 大治

 これまでベトナムは、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に次ぐ新興国、VISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの頭文字を並べた造語)に名を連ね、世界から投資を集めてきた。最大のODA(政府開発援助)提供国である日本からも、多くの企業が進出を果たしている。

 しかし、ベトナム経済は今、苦境に立たされている。進出した日系企業も韓国・中国勢との争いで苦戦が続く。

 本連載では、苦しむベトナム経済、そしてベトナムで奮闘を続ける日系企業の現状と課題を、ベトナムで活動する日系企業をクライアントに持つコンサルタントの視点からお伝えする。

市場開放による外国投資が経済成長を牽引

 ベトナムの経済成長はこれまで、市場開放に伴う外国投資の増加が牽引してきた。1990年代前半、中国やアメリカと国交を正常化させたベトナムに多くの企業が注目し、資金を投入(第1次投資ブーム)。まさに現在のミャンマーと同じ位置づけで、コスト競争力を持つ「アジアの工場」の獲得を狙った外国投資が急増した。ベトナムがASEAN、そしてWTO(世界貿易機関)への加盟を申請したのも、ちょうどこの頃、1995年であった。

 その後、数々の障壁を乗り越え、WTO加盟が決まったのが2007年。翌年には、海外直接投資額は前年の3倍以上に跳ね上がった。これをてこにベトナムは年平均7.4%の高い経済成長率(2006〜08年)を達成した(第2次投資ブーム)。

 日系企業の多くもこの第1次、第2次投資ブームに乗ってベトナム市場に参入した。特に第2次投資ブームが起こった2000年代後半は、日系企業はいわゆる“チャイナプラスワン”の候補としてベトナムを選択。投資を中国に一極集中するのではなく、ベトナムへの進出も併せて行うことで、リスクをヘッジしてきた、というわけだ(図表1)(図表2)。

図表1:ベトナムに対する外国からの直接投資(FDI)の推移

市場開放をきっかけに増え続ける外国直接投資
期待度の高さをうかがわせる
(出所)JETRO資料を基に、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)にて作成
図表2

多くの外国直接投資を受け、建設ラッシュが進むベトナム
アジアの工場を支える原動力

 企業はなぜ、数ある新興国の中で、ベトナムを選んできたのか。その理由として、以下の3つが挙げられる。

 1つ目は豊富で安価な労働力だ。ベトナムの人口はASEAN加盟国の中で3番目に多く、およそ9000万人に達する。平均年齢は28歳と若い。この豊富な若年人口が「現在」の労働力を支え、「将来」的には大規模な市場として企業の事業拡大に寄与すると考えられてきた。(図表3)

図表3:ベトナムの年齢別人口構成比

ベトナムの人口の半分以上を占める20代以下の若年層は労働力・購買力の両面でベトナムを支える存在
(出所)Economic Intelligence Unit資料を基に、DTC作成
 第2はまじめで勤勉な国民性だ。ベトナム人は「約束を守る、時間を守る」というビジネスの基本を身に付けている人が多い。「そんな当たり前のこと」と思われる方も多いかもしれないが、アジアの国ではその「当たり前」が通用しない。筆者はベトナム以外の国で活動する日系企業にもサービスを提供してきた。その経験から、ベトナム人は他国に比べて、より真面目で勤勉という印象を強く持っている。また上下関係を重んじ、上位者を尊敬する気持ちを強く持っている。このため、日本の製造業のような「部下に丁寧に教え込むタイプ」の人材育成方法が馴染みやすい。

 3つ目は地理上の優位性である。ベトナムは南シナ海に面しており海上交易が盛んだ。南シナ海は、シンガポール、香港、上海といった世界有数の交易港が面する海で、交易量は世界最大である。一方、大陸側では、世界最大の人口を有する中国と国境を接している。現在成長が著しいミャンマーを含めたメコンエリア(タイ・ラオス・カンボジア・ミャンマー)も目と鼻の先だ。近年、このメコンエリアを結ぶ東西経済回廊が整備されてきており、経済的な繋がりがさらに増しつつある。(図表4)

図表4:ベトナムとメコンエリアをつなぐ道路網

海側での地の利に加え、陸側の輸送も新道路建設によってより便利に
投資拡大と経済成長に陰り

 ところが活発だったベトナムへの投資に2009年以降、少しずつ陰りが見え始めている。2012年は約130億ドル、ピーク時(2009年)の約60%に留まる見通しだ。2007年には年間8.5%と高い値を記録したGDP成長率も、2012年上期には4.8%まで下落した(図表5)。ハノイやホーチミンといった大都市では建設ラッシュが見られるものの、ホテル、オフィスビルの空室も目立つ。いったい何が、ベトナムへの投資を鈍化させたのだろうか。

図表5:ベトナムに対する外国からの直接投資(FDI)とGDP成長率推移

2008年の第2次投資ブーム以降、FDIは減少し、経済の成長にも陰りが見え始めている
(出所)JETROとベトナム計画投資省の資料を基にデロイトが作成
 1つ目の理由は、経済成長率を超える高いインフレ率だ。2007年以降、ベトナムのGDPは平均6〜7%であったが、その一方で同時期の物価は平均13%上昇している。

 インフレの要因は様々だが、大きな要因の1つとして貿易収支の悪化が考えられる。WTOに加盟した2007年以降、輸入が輸出を大きく上回り、貿易赤字が積み重なった。特に対中国の貿易赤字が大きく、全体の半分以上を占める。この結果、自国通貨ベトナムドンの価値が下がり、急激なインフレが起こった。さらに、経済成長によって需要が急拡大したのに対し、供給力の源泉となる交通網・電力などのインフラや、製造業における部品業界などの産業基盤整備が追いつかなかったこともインフレの要因として挙げられる。進出した企業からは、「人件費や経費が毎年のように10〜20%上昇するため、予算を立てづらい」といった声が聞かれる。(図表6)

図表6:ベトナムの対中貿易赤字と物価上昇率

対中国の貿易赤字がベトナムの高い物価上昇の要因の1つ
(出所)General Statistic Office of Vietnamを基に、DTC作成
 2つ目の理由は、一貫しない産業政策である。ご存知の通り、ベトナムは社会主義国家で、ビジネスや投資に必要な認可が取得しにくい。加えてベトナム政府の産業政策が短絡的で一貫性に欠けることが多い。

 自動車を例に取ると、自動車販売を促進するために消費税や自動車保有税の税率を下げたかと思えば、翌年には元の税率に戻してしまう。さらにその2年後には税収を確保するため自動車保有税の税率を高める、という具合だ。企業は、ベトナム政府が長い目で見て協力的なのかどうか、判断するのが難しい。

 3つ目は投機マネーの存在である。1990年代、アジアの株式市場・為替市場に投機マネーが流入し、通貨危機を起こった。急激なインフレや為替の大幅な変動など、不安定なマクロ経済をチャンスと見る投機マネーが、2000年以降も流入し続けている。株価は2006〜2007年にかけて、わずか5カ月で3倍に跳ね上がった。都市部の地価も2007年の1年間で3倍近くまで上昇した。現在の株価と地価はピーク時より下がっているが、それでもハノイの地価はフランスのパリ並みと言われる。このような投機マネーの存在が、インフレをさらに促進し、経済を不安定にし、企業の投資意欲を削いでいる。

さらなる市場開放がもたらす国内産業の停滞・後退リスク

 これまでベトナムは、市場開放による投資の拡大という恩恵を受けてきており、今後も、市場開放路線を継続する意向だ。中国・ASEAN間のFTA(自由貿易協定)が2015年に本格発効し、中国製品の取引品目の90%に対する関税を撤廃することになる。ASEAN域内関税撤廃も2015年に控える。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加も決定している。この狙いの1つはアメリカとの関係強化による“脱中国化”であろう。これまで多額の赤字を出してきた対中貿易から、黒字を出している対米貿易へ徐々にシフトすることにより、貿易収支の改善、インフレの改善を図る。

 一方で、市場開放は、国内産業を停滞・後退させるかもしれない劇薬である。特にTPPは、関税と共に各種の外資参入障壁(外資規制、許認可制度)を100%撤廃することが前提だ。市場開放の大きな流れの中で、「アジアの工場」「チャイナプラスワン」として自国の産業を維持・発展させることができるか。ベトナム政府の手腕が試される。

 今回は、ベトナム経済の現状、そして今後立ち向かうべきリスクを紹介した。第2回では、ベトナムにおいて奮闘する日系企業に焦点を当て、ベトナム市場における最大のライバル、韓国系企業との力関係を紹介する。


川島 佑介(かわしま・ゆうすけ)

デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー

ASEAN地域における自動車メーカー・部品サプライヤーを中心とした製造業の支援を担当。
事業・渉外戦略の立案から現地オペレーション改革・システム構築・人材育成まで幅広い案件に従事。
現在Deloitte Consulting Southeast Asia(DC SEA)に出向中、インドネシアを拠点としながら、ASEAN全域で活動している。
慶應義塾大学経済学部卒。

後石原 大治(ごいしはら・たいじ)

デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント

販売・マーケティング領域を中心にASEAN地域の自動車メーカー・部品サプライヤーの支援を担当。
ベトナム・タイ・シンガポール・インドネシア・インドの5ヶ国で現地の日系企業に常駐しながら、市場調査、戦略立案、オペレーション改革等の幅広い分野のプロジェクトに従事。
現在DC SEAに出向中、ベトナムを拠点に活動している。
慶應義塾大学経済学部卒。


ニッポン企業のための新興国ガイド ベトナム編

新興国への進出を真剣に検討する企業が増えている。では、いまどの国にチャンスがあるのか。その国の魅力は何か。一方で進出におけるリスクは何か。新興国進出のサポートを手掛けるコンサルタントが現地からの情報を活用しながら、わかりやすく解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121213/240977/?ST=print


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