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“真意”はどこに? 衝撃に惑わされた「南海トラフ巨大地震」被害想定 「とにかく逃げろ!」。このメッセージだけで死者数8
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投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 16 日 04:43:28: cT5Wxjlo3Xe3.
 

“真意”はどこに? 衝撃に惑わされた「南海トラフ巨大地震」被害想定

「とにかく逃げろ!」。このメッセージだけで死者数8割減

2012年10月15日(月)  渡辺 実 、 原 如宏

 前回まで4回にわたって、切迫性が高まっている首都直下地震「東京湾北部地震」にスポットを当て、丸の内エリアを歩きながら防災・危機管理の必要性を説いた渡辺実氏。しかし9月某日、渡辺氏が姿を見せたのは東京ではなく、静岡県下田市だった。
 この地を訪れた理由は、8月29日に内閣府が「南海トラフ巨大地震」の被害想定を明らかにしたからだ。死者は最悪32万3000人、津波は最大34メートル。新聞やテレビがこぞって取り上げた、過去の被害想定を10倍以上も上回る数字の数々。それほどまで巨大な地震は、本当に起こるのか? この数字の意味するところは? 渡辺氏に直撃すると、意外な答えが返ってきた……。

1854年、ペリー提督が率いる7隻の黒船艦隊が姿を現した静岡県下田港。日米和親条約では函館とともに開港地に選ばれた。しかし、この日訪れたのはペリーではなく、防災の鬼……
 2012年9月某日、防災の鬼こと渡辺実氏が率いる“チームぶら防”は、静岡県下田市にいた。日本随一のオフィス街丸の内から、舞台は一転、伊豆南端の港町へ。日本はどこへ行っても、海、山、川、自然の3点セットが身近な場所は心地いい。

 「いやぁ、急に呼び出してすまないね」と、伊豆急行線の「スーパービュー踊り子号」から降りてきた渡辺氏。改札を抜けた途端、「首都直下地震の話はまだたくさんあるんだけど、急きょ、ここ下田で語らなければいけないことができた」と言いながら、厳しい目つきになった。次の瞬間、周りを見渡して違和感があったのか、「んっ? そういえば、何か人数が少ないな。学生たちはどうしたの?」と声を上げる。


伊豆急下田駅に到着した。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏。改札口で待っていたのは、いつもの学生たちではなかった……
 確かに今回は丸の内を一緒にぶらぶら歩いた、国際ボランティア学生協会(IVUSA)の活動に参加している岩村さんたちの姿が見えない。待ち受けていたのは執筆担当のライターH(原)と、カメラマン兼防災の鬼のお目付役のプロデューサーSのみだ。


前回までの丸の内編では同行した岩村さんたち。今回は一転して渡辺氏の独白となる
 「なんだ、若い子たちはいないのか。防災に関する私の知恵と知識を“遺言”として、次の世代へと残したいというのに……」と残念がる渡辺氏。その姿を見ていた、プロデューサーSから「学生たちだって、そうそう暇じゃありません。本日は大学のゼミのため欠席です。若けりゃいいってもんでもないでしょ。“R60、R50、R40”のオッサン3人で、下田の街をぶらぶらしながら防災について語るのも、なかなかいいものですよ(笑)」と事情が語られた。

 「……まあ現役の大学生だから、学業が最優先でも仕方がない。よし分かった、じゃあ今回は、君たちや町の人たちを想定読者として、防災の話を語っていくよ」といって伊豆急下田駅を飛び出した。


伊豆急下田駅へと降り立った防災の鬼。緊急取材として、ここ下田にぶら防スタッフを招集した理由とは……
下田を襲う津波だって最大33メートルだ


「思っていたよりも、古い建物が多いなぁ……」(渡辺氏)と、つぶやきながら下田駅から続く商店街を海(南方向)へ向かって歩き始めた
 東日本大震災では多くの被災地を回り、巨大津波の恐ろしさを肌で感じたという渡辺氏。下田のような港町に来ると、「変わり果てた、東日本大震災の被災地がフラッシュバックする」という。「巨大津波に襲われた東日本大震災の被災地だって、2011年3月11日の14時46分までは、今の下田市と同じように、人々が平穏に暮らしていた。でもね、ほんの一瞬で、全く別の街に変わってしまったのだよ」といって、再び目を閉じる。防災の鬼の目には、津波に襲われた後の街が見えているのだろうか……。


「市内の中心部は海抜2〜3メートルってところか。街全体が、下田湾へ流れ込む稲生沢川に沿って構成されている」と言いながら、街並みを確認するようにぶらり
 沈んだ気持ちを振り払うように渡辺氏は前を向き、「では早速、下田にやってきた理由を話そう。君たち、先だって新聞やテレビがこぞって取り上げた『南海トラフ巨大地震』のニュースを覚えているだろ?」と目の前にいる2人のスタッフに語りかけた。

 「もちろん知っていますよ。津波が最大34メートル。死者の数は最悪の場合32万3000人にもなるという巨大地震ですよね。新聞の見出しに大きく出ていましたから」とライターH。隣にいたプロデューサーSも「あの数字には本当に驚きました。地震の規模もM9クラスですよね。東日本大震災があっただけにリアリティがあるし、メディアの取り上げ方も衝撃的でしたね」と言葉を続けた。

 2人が話しているのは、いずれも2012年8月29日に内閣府の中央防災会議防災対策推進検討会議の下に設置された「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が発表した『南海トラフ巨大地震』の被害想定のこと。全11パターンで被害想定が計算され、その中の“最も悪い数字”が、新聞の一面やテレビのニュース番組上で大きく取り上げられた。スタッフ2人は「巨大地震がまた起こるかもしれない……」と報じられた数字を鵜呑みにしている様子だ。


ここ下田市も南海トラフ巨大地震の被害想定で、最大33メートルの津波が来ると予測された。しかし、この最大値は下田湾外の狼煙(のろし)崎付近、誰も住んでいない岬での数値。市内は最大15メートルと予測されている。もちろん15メートルでも安心できるわけはく、甚大な被害がでることに変わりがない
 「そう、その南海トラフ巨大地震が起きた場合、首都圏だって無傷というわけにはいかない。ただ、この伊豆半島によって東京湾エリアの都市は大きな津波の被害から守られているんだ。感謝しなければいけないね。さらに、今回の被害想定で最大34メートルの津波が来ると発表された高知県黒潮町にスポットが当たっているけれど、ここ下田だって最大33メートルだ。下田市内でも最大15メートルと予測されている。その現場を、実際に君たちに見てもらいたかったんだ」と渡辺氏がこの地に集結した理由を明かした。

今回の被害想定を単なるニュースで終えるな!

 しかし、すぐに防災の鬼の表情が曇った。2人の発言がどうも引っかかっているらしい。

 「南海トラフ巨大地震の報道だけど、君たちの頭に残っているのは、大見出しを飾った“数字”だけのようだね。しかも最悪の数字……まあ、それが普通かもしれない。ただ、あれだけの衝撃を与えながら、南海トラフ巨大地震を大きく報道したのは、被害想定が発表された日と、翌日の昼までだった。夕方には別のニュースが報じられていたからね。我が国にとって非常に大きく深刻な問題なのに、わずか1日で報道はピタリと終わった……。困ったものだよ」(渡辺氏)と、お手上げという顔を見せた。

 さらに渡辺氏は「余談だけれど」と言いながら、「テレビの報道スタッフに『すぐ終わらせずに、なぜもっと継続して報道しないのだ』と聞いたら、明確な答えが返ってきたよ。『それはニュースだからです』とね。彼らにとっては、南海トラフ巨大地震の被害想定は日々起きるニュースの一つに過ぎなかったわけ」と苦笑い。

 「でも、我々ぶら防は違う。南海トラフ巨大地震の被害想定を、正しく理解してもらうことが使命だと思っている。実は我々が注目する首都直下地震についても、現在政府では同じように被害想定を見直している真っ最中なんだ。間もなく出てくる被害想定を、どう読み解けばいいのか? そのヒントにもなるから、今回は急きょ、南海トラフ巨大地震について語ることにした」と下田取材の意義を語った。


衝撃的な数字が並んだ南海トラフ巨大地震の被害想定。しかし、大事なのは「最悪の数字が並んだ、新聞の大見出しやニュース番組のテロップではない」とペリーの像を前に渡辺氏は熱い主張を展開
南海トラフ巨大地震の被害想定の“考え方”とは?

 「それでは、2人に質問だ。今回発表された最悪の被害を出す南海トラフ巨大地震の発生確率は、以前からいわれていた東海・東南海・南海連動型地震と比べて、高いか、低いか、それとも同じくらいか?」(渡辺氏)


「今回は学生たちがいないから、スタッフの君たちと南海トラフ巨大地震の被害想定がもたらした問題について見ていこう」と渡辺氏
 ライターHとプロデューサーS、こそこそ相談して出した結論は「同じくらい……いや、あれだけの報道だから、ちょっと『高い』かも」だった。ちらりと渡辺氏の表情をうかがうプロデューサーS。「やばい……無表情だ」。渡辺氏は何か気に入らなかったり、呆れた時には表情がなくなり、仏像のように固まってしまう。本当に、“サーッ”という音が聞こえてくるくらい、冷めてしまうのだ。2人の間違いは明らかだった。

 「ぶら防スタッフにあるまじき回答だな。どうやら君たちは、被害想定の報告書を読んでいないようだね。自分で、報告書の1ページに書かれている文言をしっかり読んでごらん。ここには“驚くべきこと”が書かれている」といって内閣府が出した報道発表の資料を手渡した。

 まず書かれているのは、「最大クラスの地震・津波への対応の基本的考え方」という項――。

1.最大クラスの地震・津波の性格

(1)平成23 年に発生した東北地方太平洋沖地震で得られたデータを含め、現時点の最新の科学的知見に基づき、発生しうる最大クラスの地震・津波を推計したものである。

(2)この「最大クラスの地震・津波」は、現在のデータの集積状況と研究レベルでは、その発生時期を予測することはできないが、その発生頻度は極めて低いものである。
 「(1)の記述は分かりやすいよね。簡単に言えば、東日本大震災後に乱発した“想定外”という言葉を2度と使わないよう、最悪の可能性を考えたという意味だ。続いて(2)の記述。そのまま受け取れば、発生確率は極めて低いってことになる。つまり、先ほど聞いた質問の答えは『極めて低い』だ」と渡辺氏。

 「問題は次なんだよね……」といって顔をしかめ、2つめの「最大クラスの津波をどのように受け止めるべきか」という項目を読み上げ始めた。

2.「最大クラスの津波」をどのように受け止めるべきか

(1)南海トラフにおいて次に発生する地震・津波が、今回示される「最大クラスの地震・津波」であるというものではない。

(2)東日本大震災の教訓から、命を守ることを最優先として、この最大クラスの津波への対応を目指す必要がある。

(3)しかしながら、この地震・津波の発生頻度は極めて低いものであり、過度に心配することも問題である。最大クラスの津波の高さや津波到達時間が、実際に避難するに当たって厳しいものであるからといって、避難をはじめから諦めることは、最も避けなければならない。なぜなら、最大クラスの津波に比べて規模が小さい津波が発生する可能性が高いにもかかわらず、避難を諦めることで、助かる命を落としかねない。

(4)これまで取り組んできた避難訓練などが無意味になるものではなく、条件が厳しくなったと受け止め、「非常に大きな津波が起こりうるということ」を念頭に置き、「強い揺れが起きたら逃げる」ということを一人ひとりがしっかりと認識して頂きたい。敢えていえば、正しく恐れてほしい。
 「どうだい。この報告で何を我々に伝えたいのか、分からなくなってきただろう?」と苦笑いの渡辺氏。話しかけられたスタッフも難解な日本語の文章に混乱しているようだ。「一方で危機感をあおりながら、その一方で心配するなと。でも備えろと……」とプロデューサーS。

 渡辺氏がかみ砕いて説明する。「私なりに解釈すると、次の南海トラフ沿いの地震が起きても、今回想定した被害をもたらす巨大地震になる可能性は低い、いや、ならないとも読める。けれど発生直後は地震の規模を正確に、的確に判断(情報発信)できるとは限らないし、10数メートル以上の大津波は必ず来る。だから、一目散に逃げろ!! という感じかな」。

 この歯切れの悪い文章から、今回は想定外を無くすため、従来からの地震予測のセオリーである「地震の履歴(過去に発生した地震の記録)から推定していくという手法ではなく、考えられる限りの最悪ケースを積み重ねたことがうかがえる」と渡辺氏は指摘する。「この件については、まだまだ言いたいことがあるから最後に話す」と、鬼の一面をチラリと見せた。


「今回、想定外を無くすため地震予測のセオリーを破ったことになるが、そこから導き出された数字の意味について、もっと真剣に考えないといけない」と渡辺氏
死者が6万1000人に激減する条件こそが被害想定の肝

 内閣府の中央防災会議防災対策推進検討会議が、自ら、発生する可能性は“極めて低い”と言い切る最大クラスの被害想定。多くの国民が「極めて低いのであればなぜ発表したのか」と、この情報に対して危惧を抱くのは無理もない。しかし、こうした数字を前面に出す戦略は必ずしも悪くなく、「ある意味では正しい面もある」と渡辺氏は話す。なぜなら「死者32万3000人、津波34メートル」という数字が大きなインパクトとなり、多くの関心を集めたからだ。

 その一方で誤算だったのは、あまりに衝撃的な数字だっただけに「そんな巨大地震や巨大津波が来たら、絶対に逃げられない……」という諦めに近い声が下田をはじめ、想定される地元住民から聞こえてくることだ。チームぶら防だってメディア側にいる。数字とそれが与える効果(悪影響)について十分考慮し、扱いには細心の注意を払う必要があると肝に銘じるのであった。


ペリーロードと呼ばれる情緒のある通りをぶらりしていたら、夕涼みをしている“自称28歳”というお嬢さん? と出会った
 南海トラフ巨大地震の被害想定で、「メディアが強く訴えなければいけなかったことがある」と渡辺氏。それは「国や自治体、地域や自分たちの努力次第で、想定する最大死者数32万3000人を、6万1000人までに減らせる」ことだ。

 どうすれば助かる確率を上げられるのか? それは地震発生後、10分以内に住民全員が高台、もしくは津波避難ビルへと避難することだ。もちろん高齢化が進む市区町村では、足が不自由だったり、寝たきりのお年寄りなどをどう助けるかという大きな課題がある。住民全員が迅速に避難するのは極めて困難かもしれないが、今回の被害想定が設定した条件「10分以内に避難する人は2割」を上回ることは十分に実現可能ではないか。


防災の鬼から「大きな地震が起きたら下田は、すぐに津波が来るよ。大丈夫?」と質問されると、「私、まだまだ長生きしたいのよね。だから、身体はつらくても近くの避難場所に一生懸命に逃げます」とにこやかに話してくれた。それを聞いた鬼も、満面の笑みに。そう、一目散に逃げるのだ
南海トラフ巨大地震の津波は「逃げるチャンスは少ない」

 我々ぶら防としては、南海トラフ巨大地震が起こっても「10分以内の避難で、津波による死者は8割以上減らせる!」(渡辺氏)ということを標語として、想定される被災地域住民の方に防災・危機管理の徹底を訴えていきたい。


「とにかく逃げろ!!」。南海トラフ巨大地震の津波から逃れるには、「揺れがおさまったらすぐ高台に避難。これしかない!」(渡辺氏)ようだ
 この10分以内という迅速な避難について、疑問の声はあるだろう。就寝時なら揺れが収まってから家族の無事を確認し、それぞれが身近な衣類を羽織って、財布やカギ、ケータイなど最低限の貴重品ととりあえずの食料や飲み物だけを何かに詰め込んで家を出るまで、5分程度はかかる。ちょっともたつけば、10分なんてあっという間だ。なぜ、これほどまで早い時間で避難しなければいけないのか。思い起こすと、東日本大震災の津波は地震発生から40分〜1時間後に東日本の沿岸を襲った。避難は早いに越したことはないが、もう少し余裕があるのではないか?

 「東日本大震災で襲ったのは、言い換えるなら『逃げるチャンスのある津波』だった。しかし、南海トラフ巨大地震の津波は『逃げるチャンスの少ない津波』だ」(渡辺氏)というのだ。


「下田は地震発生後、わずか22分で市内全域が津波によって浸水する」という渡辺氏
 理由は地震が起きる場所にある。震源域が陸地から離れていた東日本大震災に対し、南海トラフ巨大地震の震源域は陸地に近い。このため「あっという間に津波にのみ込まれる」(渡辺氏)という。渡辺氏は南海トラフ巨大地震の被害が想定される地域で講演するとき、「亡くなった方には申し訳ないけれど、東日本大震災を教訓とはせずに、別のケースとして考えるように」と訴えているそうだ。

被害想定という「SF」が生み出された背景

 「さあ、南海トラフ巨大地震の被害想定に対して理解を深めたところで、もう一つ語っておきたいことがある」と防災の鬼は目を輝かせて話題を変えた。「それは、我々はもちろん、自治体や地元住民が振り回されている“被害想定”とは、そもそも何なのか」(渡辺氏)という。

 「はじき出された想定死者数を見て分かるように、条件(パラメーター)を少し変えれば、死者数は大幅に減少する。一ケタ変えることなど造作もない」(渡辺氏)

 渡辺氏は「被害想定なんてものは、これから起きるであろう地震の規模を想定し、被害規模をコンピューターで計算したものに過ぎない。想定という限り、出てくるものは予測。言うなれば“フィクション”だ。しかし地震などの被害想定は、科学的な知見に基づいたアプローチで被害規模を考えている。だから私は、被害想定とはそもそも“サイエンスフィクション”(SF)だと考えている」という。その上で、今回公表された南海トラフ巨大地震の被害想定を「これこそ“SFの極み”ではないか」と断言する。


中央防災会議防災対策推進検討会議では、今年3月31日、第1次報告として検証を進めていた「南海トラフ巨大地震の被害想定」の一部を公表した。このときに震度分布や津波高が明らかになっている。その発表後、「間を置かずに正式の報告書を発表するはずだったが、この数字が社会に与えたインパクトの大きさをふまえて、死者数を減らすためのシミュレーションを加えるため、正式発表が5カ月間も後ろにずれ込んだ」(渡辺氏)という
 では、南海トラフ巨大地震の被害想定は、どういう状況の中で作られたのか? 渡辺氏は「東日本大震災という巨大地震が起きて、それ以降、地震関係の研究者や専門家たちは極めて慎重になっている」と指摘する。

 「なにしろ、自分たちが今まで研究してきたことが、ある意味否定されたわけだからね。東日本大震災で最初に揺れたのは、宮城県沖地震という30数年周期でM7クラスの地震が起きている場所。この地震は99%という30年発生確率が極めて高い、いつ起きてもおかしくない状態だった。だからこのエリアで地震が起きたのは想定内の出来事だ」と渡辺氏。しかし、実際には隣接する震源が連動し、その震源域の範囲は南北に約500キロメートル、東西に約200キロメートルにまで広がり、その結果、想定外のM9という巨大な地震を引き起こした。

 こうした“トラウマ”もあって、「二度と想定外とは言わないように、発生確率が極めて低い最悪ケースをモデルとした南海トラフ巨大地震の被害想定を作り上げた」(渡辺氏)というのだ。


下田公園の「お茶ヶ崎展望台」から臨んだ下田湾。右下にあるのは、下田海中水族館。この水族館のすぐ右側に、最大33メートルの津波が来ると想定された狼煙崎がある。南海トラフ巨大地震の想定では、下田市を最大震度は6強。静岡県全体では自治体の半数以上の23市区町が震度7と想定している
震源域が2倍に! 科学的根拠による説明がほしい

 「まあ被害想定がSFなのはよいとして、肝心なのは“S”の方。科学的な根拠なのだ。しかしながら南海トラフ巨大地震の被害想定は、極めて“F”の方、フィクションの要素が大きい」と渡辺氏は指摘する。地震予測では、過去に起きた地震の記録が重視されている。しかし、最大クラスの南海トラフ巨大地震で想定する震源域の規模(での連動型地震)は、「過去に1度も起きていない」(渡辺氏)のが実態なのだ。


想定される津波は下田市内で最大15メートル。この数値は静岡県が東海地震で想定した5.5メートルの約3倍という、とてつもない数字だ。つまり上の写真を見れば分かるように、5.5メートルの津波でさえ圧倒的な大きさだ
 昔からいわれている、東海・東南海・南海3連動型地震。これは3つのエリアで立て続けに地震が起こるというものだ。

 歴史を振り返れば、南海トラフ沿いでは100〜150年の周期で必ずといっていいほど、これらが連動した巨大地震を起こしている。しかし、「今回の南海トラフ巨大地震被害想定では、想定する震源域のエリアを広げた。東南海の西にある日向灘沖を加え、さらに四国全体をほぼ覆うように想定震源域を陸側へと拡大させた。つまり従来の3つのエリアが連動する地震を、4連動とも5連動ともいえる地震にした」(渡辺氏)わけだ。「震源域だけ見ると、従来の東海・東南海・南海連動型地震の2倍だよ」とさすがの防災の鬼も驚きを隠さない。


「南海トラフの巨大地震の想定震源断層域」。従来想定していた震源域(黄色の線)と今回の想定震源域(グレーの線)を見ると、その違いは明らかだ(内閣府「南海トラフの巨大地震に関する津波高、浸水域、被害想定の公表について」の「資料1-1 南海トラフの巨大地震による津波高・震度分布等」より抜粋)

「全国地震動予測地図」に掲載された、「海溝型地震の評価結果」。国内ではこのように地震が起こるエリアをいくつも分け、エリア毎の地震発生確率を研究が進められてきた(出展:文部科学省、2010年発行)
「防災」とは、すなわち「国策」である


「最悪のことを想定するのはいいのだけれど、東日本大震災を受けて学者の議論も、大きく振り子が振れてしまった感じだね。この点については、学者の中でも議論が分かれるところだ」と渡辺氏
 想定外と思われている人が多い、東日本大震災の震源域。だが、渡辺氏は「東日本大震災が起こる前に、869年に起きたとされる『貞観の地震』がクローズアップされつつあった。今となっては後の祭りだが、この地震は東日本大震災と同じような震源域で起こり、巨大な津波を発生させたと考えられている。当時は切迫していた宮城県沖地震が、貞観の地震になり得るという学説が発表されていたのだよ。地震調査委員会も、『真剣に考えなければいけない』と考えていたところに、東日本大震災が起きてしまった。震災後、この地震を研究していた学者の話を聞いたけれど、後悔されているようだった……」と打ち明ける。どんなに遠い昔であっても、歴史(地震)は繰り返すと言いたげな渡辺氏であった。

 渡辺氏は「被害想定をまとめたワーキンググループが、科学的な裏付けに基づいているのは重々承知している」としながらも、「なぜ今回の想定では日向灘で起きる地震まで含めたのか、さらに想定震源域を2倍にも広げたのか、など被害想定の前提についてもっとわかりやすく国民に、特に想定被災地域の住民や自治体へは説明をする必要がある」と不満を漏らす。


今回は南海トラフ巨大地震の被害想定について、いつもにもまして熱く語った防災の鬼。後ろ姿にこの国に対する憂いを漂わせながら、下田でのぶらり防災はまだまだ続く……
 結果として南海トラフ巨大地震の被害想定は、「ニュースとしてしか取り上げられずに、翌日には、何もなかったかのように違う話題で持ちきりになった。さらに政府は、この被害想定を受けても対策に動き出そうというそぶりを見せない。防災とは、すなわち国策なのだ。どうやって国を動かすか、もっと考えてもらいたい」と渡辺氏は苦言を呈する。

 思いを吐き出し、少し気が楽になったのか、渡辺氏は表情を緩めて「ちょっと大きな話になってしまったかな。でも、これは防災・危機管理の面では大切なことなのだよ。巨大地震が起こるまでの対策や戦略を間違えれば、それこそ日本は滅びるかもしれない。私個人は、“国滅”の危機に直面していると考えている。そんな最悪の事態について説明する前に、何はともあれ、下田の人たちの生の声を聞こうじゃないか」(渡辺氏)といって、再び地元の方と交流するために下田市内へと姿を消した。

(構成・文=原 如宏)

“ぶら防”に参加した学生による
防災ラジオ番組も放送開始!

 この連載に登場している国際ボランティア団体「IVUSA」に参加する岩村友香里さん(日本大学4年生)、生田目有美さん(法政大学3年生)、石井将さん(国士舘大学3年生)ら、現役の大学生。現在、彼らは防災番組「大学生が防災ラジオを始めました」を制作している。この番組内の連動企画として、「渡辺実のぶらり防災・危機管理」も放送される。

 放送は10月から全国25局あまりのコミュニティFM局で、順次拡大していく予定。お近くの地域に該当するコミュニティFM局のある方は、こちらのラジオ番組もお楽しみに。なお、一部のコミュニティFMはPCやスマートフォンでも聴けます。

・FMびゅー(北海道室蘭市) (土)17:30〜18:00
・ラジオふらの(北海道富良野市) (水)16:00〜16:30
・ラジオカロスサッポロ(北海道札幌市) (日)12:30〜13:00
・AIRてっし (北海道名寄市) (木)11:30〜12:00
  再放送(土)13:00〜13:30
・e-niwa(いーにわ)FM77.8(北海道恵庭市) (月)18:00〜18:30
  再放送(土)16:00〜16:30
・FMねむろ(北海道根室市) (日)15:30〜16:00
・FM AZUR(青森県むつ市) (月)10:00〜10:30
・エフエムゆーとぴあ(秋田県湯沢市) (火)14:00〜14:30
※サイマル放送あり
・おおふなとさいがいエフエム(岩手県大船渡市) (月)14:00〜14:30
・ラジオ石巻(宮城県石巻市) (火)9:00〜9:30
※サイマル放送あり
・BAY-WAVE(宮城県塩竃市) (土)14:30〜15:00
※サイマル放送あり
・南相馬ひばりエフエム(福島県南相馬市) (金)13:00〜13:30
※サイマル放送あり
・SEA WAVE FMいわき(福島県いわき市) (日)10:30〜11:00
※サイマル放送あり
・KITAKATA CITY FM(福島県喜多方市) (日)15:30〜16:00
※サイマル放送あり
・RADIO AGATT(新潟県新発田市) (木)13:00〜13:30
・FM OZE(群馬県沼田市) (月)14:30〜15:00
・いせさきFM(群馬県伊勢崎市) (日)18:30〜19:00
・かつしかFM (東京都葛飾区) (火)9:30〜10:00
※サイマル放送あり
・伊豆伊東なぎさステーション (静岡県伊東市) (木)14:30〜15:00
  再放送(土)16:00〜16:30
・Hits FM (岐阜県高山市) (日)21:00〜21:30
・FMジャングル (兵庫県豊岡市) (月)13:30〜14:00
※サイマル放送あり
・FMマザーシップ (和歌山県有田郡湯浅町) (金)21:00〜21:30
※サイマル放送あり
・FMいずも (島根県出雲市) (木)19:30〜20:00
・エフエム萩(FM NANAKO)(山口県萩市) (水)10:00〜10:30
・FMからつ (佐賀県唐津市) (金)15:30〜16:00
【サイマル放送での聴取方法】
・PCでお聴きになる場合は以下のURLにアクセスしてください。
 → Simul Radio サイマルラジオ

・スマホの場合は以下のアプリをご利用ください。
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 「サイマルラジオ for Android」

原 如宏(はら ゆきひろ)

ゲーム雑誌、インターネット雑誌、パソコン雑誌の編集者を経て、2005年7月からフリーライターとして活動。パソコン、インターネットの話題から、車、経済、食べ物まで、ジャンルにこだわらず手がける。主な連載は、日経トレンディネット「クラウド調査隊」、Yomiuri Onlineの「トラブル解決Q&A」やフロム・ナウ「ライターHの“デジモノ放談”」など。Twitterの公式アカウント(@raitanohara)にて、最新のクラウドサービスや機器のテスト状況、記事の後日談などをつぶやいている。

渡辺 実(わたなべ・みのる)

防災・危機監理ジャーナリスト。株式会社まちづくり計画研究所所長、NPO法人日本災害情報サポートネットワーク理事長。日本災害情報学会理事。国内外の被災地へ即座に入り、都市・地域防災へのアドバイスやマスメディアの災害報道への協力をはじめ、さまざまな角度から防災・減災に取り組む。全国の講演・研修活動を通じて各自治体や企業、市民の防災への取り組み方や課題も伝え続けている。著書『都市住民のための防災読本』『大地震にそなえる 自分と大切な人を守る方法』『高層難民』他多数、防災アプリ『彼女を守る51の方法』も監修。


渡辺実のぶらり防災・危機管理

正しく恐れる”をモットーに、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が街に繰り出し、身近なエリアに潜む危険をあぶり出しながら、誤解されている防災の知識や対策などについて指摘する。まずは東京・丸の内からスタート。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121009/237839/  

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コメント
 
01. 2012年10月17日 11:51:01 : cqRnZH2CUM

>とにかく逃げろ

まあ、海辺の危険地帯で低コストに住んでる人々には、それが、ほぼ唯一の対策だろうが

現実には、逃げても逃げても、ほとんど毎回空振りになる

そして何年もたつと、逃げる人は減っていく

そうやって、何十(百)年かして、リスクテイクが好きな人、うっかりな人が、たまに自然淘汰されることになる

それも悪くはないかもしれない


02. 2012年10月17日 19:18:00 : SKuxdlJRCw
日本の海岸線を高さ100メートルの塀で列島全体を囲めば津波なんか恐くない。
総工費2兆8千万円あれば工事できる。
そうすれば日本は永久に安泰ってことですよ。野田さん。
作る勇気は無いのか?

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