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飛幡祐規 パリの窓から「独立したジャーナリズムと内部告発」(レイバーネット日本)
http://www.asyura2.com/12/kokusai7/msg/584.html
投稿者 gataro 日時 2013 年 7 月 20 日 13:14:59: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.labornetjp.org/image/2009/takahatalogo/

第25回・2013年7月19日掲載
「私たちには知る権利がある」ー独立したジャーナリズムと内部告発
http://www.labornetjp.org/news/2013/0719pari

 7月14日の革命記念日(日本でなぜか「パリ祭」と呼ばれる)も過ぎて、フランスは長い夏のヴァカンスシーズンに入ったが、このところ「知る権利」について重大な出来事がいくつかあったので、記しておきたい。

 3年前の2010年7月にこのコラムでとりあげたが、インターネット新聞の「メディアパルト Mediapart」は、ロレアル社創業者の娘ベタンクール夫人(当時フランス第3の富豪、現在第1位)をめぐる脱税や不正政治献金の疑惑を報道するために、夫人の使用人によって秘密裏に録音されたテープを公表した。(「カネと権力」http://www.labornetjp.org/Column/20100727pari) 

 ベタンクール夫人側と彼女の会話相手の資産管理人(当時)ド・メストルは、この報道を「プライバシー侵害」として訴えたが、過去2度の判決では録音内容の「公益性」が認められ、却下されていた。メディアパルトは21時間にわたる録音テープのうち私的な内容の部分は避けて、脱税や政治家との結びつきなど公益性のある情報の抜粋1時間のみを報道したからだ。ところが今年7月4日のヴェルサイユ控訴院(高等裁判所)の判決で、録音テープの内容を公表したメディアパルトと週刊誌ル・ポワンが「プライバシー侵害」で有罪となり、録音内容を載せた記事すべてを削除しなければ厖大な罰金が課されることになった。

 これはなんとも不条理な判決である。というのも、録音によってタックス・ヘイヴンへの脱税を暴露されたベタンクール夫人は、スイスの口座にあった資産をフランスに戻したのだ。また、現在90歳の夫人は、当時すでに(娘が主張していたように)自発的な判断のできる健康状態になかったと判定され、資産管理人ド・メストルや弁護士、お気に入りの写真家など側近の一部は、財産横領など詐欺の疑いで起訴された。メディアパルトはある意味、夫人の弱みにつけこんで私腹を肥やそうとした人々からベタンクール家の財産を守ることと、国家財政の擁護に貢献したわけだ。メディアパルトがスクープした録音内容をもとに警察や司法の取り調べが進み、ヴルト元予算大臣はこの件以外にも汚職疑惑が露呈して起訴された。コラム「カネと権力」の中で述べたように、前サルコジ政権下では司法への露骨な圧力が強まっていたため、司法の独立を求める署名運動も行われた。そうした批判が報道された結果、ベタンクール事件は問題視されたクロワ検事の属するナンテール裁判所からボルドーの裁判所へと「移籍」され、予審判事3人が任命された。予審判事は今年の春、サルコジ前大統領の取り調べも行っている。メディアパルトなどいくつかのメディアはしたがって、民主主義における「反権力」の役割を担っているといえるだろう。

 3年前の記事を今になって削除させるこの判決の不条理さは、インターネット・メディアへの適用についてとりわけ顕著である。判決には詳しい指示がないため、削除すべき内容が当時の記事だけなのか、それに言及したすべての記事・ブログ、さらに読者のコメントまでも含むのか、インターネット媒体の「判例」がないので、わからない(1回の違法で24時間につき罰金10 000ユーロという判決を、記事数約800、ブログ約2000、何万ものコメントに適用させると、月に7億ユーロ以上もの罰金となる)。資本金400万ユーロ弱の小さな媒体メディアパルトにとっては、存続不可能になる法外な(しかし司法が定めた!)罰金額だ。パリの法廷(第一審と控訴院)とは正反対の判決を下したヴェルサイユ控訴院の判事3人は、市民の「知る権利」を代弁するジャーナリズムがよほど嫌いで、厳しい判決で口を封じようとしたのだろうかと、勘ぐりたくなる。判決後すぐメディアパルトが「検閲された!」(写真)と報じたゆえんである。

 ところが、これまた不条理なことに、判決は訴えられたメディアパルトとル・ポワン誌についてだけだから、他のすべてのメディアは同じ内容を掲載できるのである。それに、判決はフランス国内でしか適用できない。そこで、この件についてのメディアパルトの報道すべてを自分たちが替わって掲載すると、インターネット媒体の「リュー89(Rue89)」や「アレ・シュル・イマージュ」、リベラシオン紙などいくつもの国内メディア、さらに外国のメディアも名乗りを上げた。そして、たちまちインターネット利用者によってP2P共有ファイルがつくられ、「立ち寄った市民たち」というグループがそれを自主的に編集し、「ベタンクール事件」の記事、録音、ビデオ、写真のファイルは無数の人々によって世界じゅうでダウンロードされ、共有・拡散された。データの流布の自由を主張する"Datalove"という市民運動などがイニシアチヴをとったという。インターネット上では検閲は不可能などころか、隠そうとすればするほど、情報は飛躍的に拡散されるのだ。

 さて、3年前に司法の独立を求める署名運動が起きたように、今回も「私たちには知る権利がある」という署名が始まった。市民には公衆の益に関わるすべての情報を知る権利があるから、不当に隠されていた違法行為や不正を公表するのは、正当な行為である。したがって、公益性のある事実を一般に知らせたジャーナリストの調査やその情報源、警告を発する人々(内部告発者)を擁護しなければならない、という趣旨だ。7月11日、「国境な記者団」と共に記者会見して始まったこの署名は、1週間で39 000人を超えた(7月18日現在)。
http://blogs.mediapart.fr/blog/la-redaction-de-mediapart/110713/lappel-nous-avons-le-droit-de-savoir-deja-39000-signataires

 メディアパルトの公益性への貢献は、ベタンクール夫人事件にかぎらない。前回触れたカユザック予算大臣補佐の脱税疑惑も、昨年12月初めにメディアパルトが録音テープをネット上で公表してスクープした。その後、司法警察と予審判事による取り調べが始まり、カユザックは脱税を認めて辞職した。また、企業家ベルナール・タピとクレディ・リヨネ銀行間の「民間調停」詐欺疑惑についても、資料をもとにスクープ記事を発表している。2008年の民間調停時に批判が起きたこの「タピ事件」では最近になって、調停を行った元判事(元ヴェルサイユ控訴院の裁判長!)や当時の財務省官房長だったステファン・リシャール(現フランス・テレコム=オランジュ社長!)などが「組織的詐欺」の疑いでつぎつぎと起訴されている。

 詳しくは割愛するが、疑惑が証明されればこの事件は、不当な高額の公金(=税金)が個人に横領されることを、国の中枢部(大統領府、財務省)が故意に計画・実践した組織犯罪、フランス国家の大スキャンダルの一つになるだろう。このほかにもメディアパルトは、サルコジ政権時に大統領府の官房長と内務大臣を勤めたクロード・ゲアンをはじめ、サルコジの側近や元大臣何人かに関わるいくつもの事件、サルコジがリビアのカダフィ大佐から大統領選用に政治献金を受けた疑惑など、真実が証明されたら国家的スキャンダルになるであろう調査をつぎつぎと公表している。サルコジ政権下で遅滞したり、もみ消されたりしていたそれらの疑惑はこのところ、一斉に明るみに出てきた。司法への圧力がなくなった点だけは、オランド政権になって改善されたといえる。カユザック事件についてはしかし、大統領と政府の対応に問題があった(嘘がみぬけなかったのはなぜか、司法の調査結果を待たずとも辞職を求めるべきではなかったのか?)と批判されたため、議員によって調査委員会がつくられ、国会で現在も聴取が行われている。

 民主主義が機能するためには三権分立と、市民や独立組織による諸機関の監視、反権力としての独立したジャーナリズムが必要不可欠だが、このところにわかに注目されているのが「内部告発」の必要性だ。というのもタックス・ヘイヴンへの脱税問題に関しては、スイスの銀行で働いた人たちの内部告発によってようやく、銀行とファイナンス専門家による組織犯罪の実体が明るみに出始めたからだ。ラ・クロワ紙のジャーナリスト、アントワーヌ・ペイヨンによれば、フランスだけで現在、約5900億ユーロの資産がタックス・ヘイヴンに逃れているという。

 2008年にHBCSジュネーヴ支社の脱税者リストをコピーしてフランス国税庁に通報したエルヴェ・ファルチアーニは、昨年6月末にスペインで逮捕され、投獄された。スイスから「銀行の秘密漏泄」の罪で捜索願いが出されたからだ。しかしスペイン当局は、ファルチアーニがスペイン人を含む脱税者リストを提供して各国の脱税抑止に貢献したとして、6ヶ月後に釈放し、スイスへの引き渡しを拒んだ。フランスはカユザックの失脚後ようやく、本気でファルチアーニの情報と証言を活用する気になったようだ(オランド政権になった後も、スイスの銀行を使って脱税したカユザックが予算大臣として脱税と闘う役割についていたため、脱税抑止の措置は進まなかったのである!)。フランスでの身の安全を保証されたファルチアーニは、今年の6月から7月初めにかけて国民議会や上院の調査委員会、予審判事のもとで証言を行った。

 もうひとり、スイスの銀行で富豪の財テクを専門にしていたピエール・コンダマン=ジェルビエも今年になって、脱税のメカニズムについて、国会の調査委員会や判事のもとで証言を重ねた。内部の事情を知る人たちは、銀行やファイナンスの専門家がいかに巧みに法律や規制を回避・迂回して脱税を発展・拡張させたかを語る。しかし、コンダマン=ジェルビエは7月初めにスイスで、「銀行の秘密漏泄」罪で逮捕された。フランスの国会では今、脱税や汚職を防ぐための新たな立法が議論されている。そこで国会・元老院の議員20人(国民運動連合UMPと国民戦線を除くすべての党)は連名で7月17日、「内部告発者」の保護を保証する法律を早急につくるよう、首相に求めた。マフィアの「改悛者」を保護するのと同様、金融界の絶大な力に対抗して脱税と闘うには、内部告発者の協力がなければ不可能だからだ。

  独立したジャーナリズムと内部告発。市民の知る権利にとってこの二つがいかに重要であるかは、福島原発事故以降、日本でも顕著に示されたのではないだろうか。

2013年7月17日  飛幡祐規(たかはたゆうき)


 

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