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ジョンとヨーコとアイスランド 世界一平和な国から発信するメッセージ〜北欧・福祉社会の光と影(30)
http://www.asyura2.com/12/kokusai7/msg/698.html
投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 17 日 01:06:20: rUXLhToetCnYE
 

JBpress>海外>欧州 [欧州]
ジョンとヨーコとアイスランド
世界一平和な国から発信するメッセージ〜北欧・福祉社会の光と影(30)
2013年10月17日(Thu) みゆき ポアチャ
オノ・ヨーコ平和賞のレディー・ガガさん、賞金はエルトン・ジョン・エイズ基金に
昨年レイキャビクで行われた「レノン・オノ平和賞」の授賞式では、レディー・ガガ(右)が賞を贈られた〔AFPBB News〕

 今年も10月9日、アイスランド・レイキャビクの「イマジン・ピースタワー」に灯がともった。

 この日はビートルズのメンバーだった故ジョン・レノンの誕生日で、存命であれば73歳になる。奇しくもレノンとオノ・ヨーコの子息ショーン・レノンの誕生日でもある。

 この「イマジン・ピースタワー」は2007年、オノ・ヨーコが愛と平和のシンボルとしてレイキャビクのヴィーズエイ島に建設した、世界平和を祈念するモニュメントだ。毎年10月9日から、ジョン・レノンの命日である12月8日までの期間と、大晦日などの数日に点灯される。

愛と平和のシンボル「イマジン・ピースタワー」

 設置の地としてアイスランドを選んだ理由について、オノ・ヨーコは「世界最北に位置する首都レイキャビクから『平和の光』を発信し、世界を包み込むという意味がある」と話している*1。

 今年80歳を迎えたオノ・ヨーコは、前衛アーティストとして、そしてミュージシャンとしても依然として精力的に活動している。

 2010年のタワーの点灯式には、彼女とショーン・レノンらが参加し、2人でその前年に再結成したプラスチック・オノ・バンドが演奏を披露した。このコンサートチケットは発売後10分で完売した。当時77歳だったオノ・ヨーコは舞台上をエネルギッシュに走り回り、独特の歌い方でこの日のために書いた新曲を披露した。

 コンサートの終盤にはビートルズの元メンバー、リンゴ・スターや、故ジョージ・ハリスンの妻オリビアさん、息子のダーリ・ハリスン、レイキャビクのハンナ・ブリーナ・クリスジャンスドッティル市長も登場し、全員で「Give Peace a Chance」を熱唱した*2。


http://www.visionofhumanity.org/sites/default/files/2013_Global_Peace_Index_Report_0.pdf
 アイスランドは、事実上「平和な国」として認定されている。

 「世界の国と地域の平和度ランキング」 による世界162カ国を対象とした調査では、アイスランドは2年連続で「世界で一番平和な国」であるという結果が出た。

 日本は昨年は5位、今年は6位にランクしている。ちなみに2012年のリポートでは、刑務所に収監されている人の数は上位10カ国の中ではフィンランドと日本が非常に低いことが特筆されていた。

*1=http://www.youtube.com/watch?v=Ia0EgTs-oFE

*2=http://www.mbl.is/myndasafn/mynd/241326/, http://grapevine.is/Home/ReadArticle/Yoko-Ono-Relights-The-Imagine-Peace-Tower?

 調査を実施した経済平和研究所(IEP)は、アイスランドを以下のように評価している。

 「アイスランドは、世界で最も平和な国である。この島国の国家は紛争から自由であり、欧州国家内でも犯罪や殺人の発生率が最小で、投獄される人数もかなり少ない」「現在の社会民主同盟(SDA)と左翼・緑の党運動(LGM)による中道左派連合の下で、政治はかなり安定している。2009年4月以降、改革派のヨハンナ・シグルザル首相の主導の下で緩やかな景気回復を実現させ、2012年に国際通貨基金(IMF)からの賞賛を獲得した」*3

近年の危機と大災害

瓶詰め火山灰を販売、収益は寄付 アイスランドのオンラインショップ
2010年5月、噴煙を噴き上げるアイスランド・エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山〔AFPBB News〕

 平和な国ではあるのだが、近年は災難続きだ。

 2010年にはエイヤフィヤトラヨークトル氷河が噴火し、欧州の広い範囲に火山灰が拡散、数週間にわたって空の交通がストップした。欧州の航空各社の損失額は数十億ドルに上り、さらに噴火灰の影響で遅延やキャンセルなどを被った乗客への補償金の支払いも膨大な額に達した。

 この火山灰は、国内の農業や放牧にも多大な影響を与えた。スウェーデンをはじめ欧州各地から多くの「おそうじボランティア」がアイスランドへ渡り、灰の除去を手伝っている。

 また、2008年の欧州金融危機と、これに続いた債務危機により、欧州で最も深刻な影響を受けた国の1つとなった。

 国内では銀行システムが破綻して通貨も暴落し、大手銀行が軒並み国有化され、社会保障が大幅に削減されるなど、国内金融体制の大変革を経験した。この事態は国民の生活に大きく影響を与え、非常に多くの人が国を出てノルウェーなどへ移住している。

 当時のニュースは、「この国にはもう仕事も未来もない」と言って出国する国民や、子供が食事を終えた後に夫婦が残り物を食べている、といった話が紹介されていて、身につまされる思いだった。

 当時は何千人もの国民が連日議会につめかけて政府に対する批判の声を上げ、首都は数週間にわたって騒然とした。この国民の声により、ゲイル・ホルデ元首相のほか、元外相、元財務相、元通商相らが破綻の責任を問われる事態となり、政治体制も破綻寸前の危機に直面した。

 ではあるが、上記の平和リポートにもあるように、近年は忍耐強い施策により政治はかなり安定してきており、また経済面でも景気の回復を実現させてきている。

天地創造の原風景

あふれる観光客に懸命対応のアイスランド
巨大な露天温泉ブルーラグーンは人気の観光地〔AFPBB News〕

 北欧5カ国のうち、筆者が足を踏み入れたことがないのはアイスランドだけだ。

 そのせいもあるのかもしれないが、地球の原風景のような荒涼たる大地、ダイナミックに噴火する氷山や春先の大洪水、吸い込まれそうなブルーラグーンに非常に心を惹かれる。アイスランド風景の写真など、気がつくと何十分も眺めていたりする。行く機会を狙っているのだが、なかなか実現しそうにはない。

 だが、筆者がアイスランドに心を惹かれる理由は、その大自然によるものだけではない。

*3=http://www.visionofhumanity.org/sites/default/files/2013_Global_Peace_Index_Report_0.pdf

温かく素朴、そしてユーモアに富んだ国民性

アイスランド、ロシアに5600億円融資要請
アイスランドの首都レイキャビク〔AFPBB News〕

 以前、欧州の経済紙に北欧ニュースの翻訳記事を書く仕事をしていたことがある。

 北欧各国の主要な経済ニュースを訳すのだが、時々内容の詳細について、直接記事の対象やメディアに問い合わせをすることがあった。

 電話のこともあるが、通常はメールで問い合わせをする。返信をくれなかったり、担当者に連絡がつかなかったり、たらい回しにされたり、「アンタ誰?」と胡散臭そうな対応を受けたりしたことも多かったが、アイスランドだけはいつも全然違った。

 「ウチでは分からないが、○○さんに問い合わせたら」と紹介してもらったり、わざわざ当該の関係者を探して私のメールを転送してくれたり、それをさらに数人に転送してくれたり、その人たちが次々にメールをくれたりなど、とにかく問い合わせた人たちほぼ全員が真摯に答え、丁寧な返事をくれたのだ。

 アイスランド紙を読んでいて、「こんな面白いニュースがある」「さすがアイスランド」と驚いたり感心したりすることもたびたびなのだが、他国にはほとんど報道されないようなので、いつも残念に思う。

 恐らくアイスランド国民自身も、もう少し世界に注目されてもよいと思っているのではなかろうか。そして筆者の想像では、「日本のメディア」からの問い合わせに、内心は喜んでいるフシがあったのではないかとも思う。

 アイスランドの暖かく素朴な国民性の中からは、一風変わった、あるいは突出した人材も輩出されている。

傑出した逸材の数々

 筆者が逸材として真っ先に挙げたいのは、首都レイキャビクの名物市長、ヨン・ナール氏だ。

 同氏は2010年にレイキャビク市長に就任したが、彼の前身はコメディアンでパンクロッカーだ。金融・債務危機により国家が崩壊の危機にあった時、同氏が新党「ベスト党」を立ち上げて第1党となり、この結果市長に就任した。

 選挙時、同氏は「動物園に白クマを!(気候変動の影響で北極から白クマがアイスランドに渡ってきており、政府当局は射殺していたため)」「公営プールに無料のタオルを!(温泉での無料タオルの提供は欧州連合=EU=ルール基準であり、またアイスランドの観光資源である硫黄温泉の利用客増加を狙った)」「2020年までに麻薬のない議会を!(麻薬とは不正や賄賂のこと)」「首都空港にディズニーランドを!(経済復興策)」などを選挙公約に掲げたうえで、「公約は守らない」と公約し、34.7%の支持率を獲得した。

 市長就任後も、レイキャビクのニックネームをグナンレンブルク(ドイツの一地名でレイキャビクとはまったく無関連)にしようと提案したり、ドラァグクイーンの女装をしてプライドパレードに参加したり、深夜ラジオ番組でホワイトハウスや米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)にイタズラ電話をかけたりした。腕に市の紋章のタトゥーを入れてフェイスブックにアップした時には、化膿して大変な目に遭ったらしい。

 現在、レイキャビク市内の信号機は、青色が点灯すると「スマイル」のニコニコマークが見えるようになっている。これも市長の発案だ。

 昨年の夏には、何と「市長行方不明事件」を起こしている。レイキャビクの独立党ヘイムダルは、「市長の所在を確認した人には懸賞を出す」と発表していたが、懸賞としてかけられていたのは『Ég var einu sinni nörd(ボクはかつてオタクだった)』が収録されたVHSテープだった。

 数日後に同氏はノルウェーで夏休みをとっていたことが判明している*4。

ロシアにも米国にも堂々と物を言う弱小国

 と言っても、筆者が同氏に最も魅かれるのは、彼の正々堂々とした政治姿勢だ。

 以前にも触れたが、ナール氏は今年7月、ロシアが制定した同性愛者弾圧法に対する抗議の表明として、「レイキャビクとモスクワ間の姉妹都市協定を破棄する」と発表した*5。

米国、商業捕鯨続けるアイスランドに制裁か
アイスランドにとって捕鯨は文化の一部〔AFPBB News〕

 吹けば飛ぶような弱小国が、核を持つ軍事大国にこう堂々と言ってのける姿勢は、賞賛に値する。軍備について言えば、アイスランドは常備軍を持たず、2006年に米軍がケフラヴィークからの駐留を引き揚げてからはほぼ無防備状態だ。

 ナール氏は米国の銃社会に対しても、以下のように言ったことがある。

 「あなたたちは私たちの捕鯨に対して不満を述べるが、捕鯨は私たちの文化の一部だ。あなたたちは『捕鯨をやめなければ、アイスランドの魚を購入しない』と言った。いいでしょう。しかし、私たちは米国の銃文化にどう対応したらいいでしょうか。コーラの不買運動をしましょうか?」*6

*4=http://www.mbl.is/frettir/innlent/2012/07/18/heimdellingar_leita_jons_gnarr/, https://www.facebook.com/events/361128883955911/

*5=http://www.icenews.is/2013/07/16/reykjavik-to-terminate-relations-with-moscow-over-lgbt-rights/

*6=http://www.ibtimes.com/iceland-plenty-guns-hardly-any-violence-1021958

 また、これは直接ナール氏の意向ではないのだが、米国の機密を暴露したエドワード・スノーデン氏の積極的な亡命受け入れに向けて準備していた政治家や民間人も多かったようだ。これも米国に対する一種の「異議申し立て」ではなかろうか。

大統領選に立候補した3児のママ

 また、昨年筆者を「さすがアイスランド」と思わせたニュースは、第3子の出産を控えた母親が大統領選に立候補したことだ。この女性は国営放送RUVのジャーナリスト、ソーラ・アルノルスドッティルさん(37)だ。選挙前の5月に3人目の子供を出産したが、このため選挙運動を一時中断し、僅差で現職に敗れた。4月に行われた世論調査では49%の人が彼女を支持しており、現職大統領の支持率は35%だった。

 ソーラさんが大統領に当選していたら、職務に就く彼女に代わって、パートナーであるスヴァヴァル・ハルドルソンが育児休暇へ入る予定だった*7。

アイスランド首相、同性愛パートナーと正式に入籍
ヨハンナ・シグルザルドッティル前首相は正式な同性婚をした世界初の国家首脳だった〔AFPBB News〕

 もう1人の例を挙げると、5月まで首相を務めていたヨハンナ・シグルザルドッティル氏は、早くからレズビアンであることを公言していた。同性の婚姻が法制化された後、直ちに婚姻届を出し、正式な同性婚をした世界初の国家首脳になった。

 ちなみに第4代大統領のヴィグディス・フィンボガドゥティル氏も、世界初の民選の女性国家元首である。

 こういった、己の道に一点の曇りもなく凛とした姿勢を見せる政治家と並び、こういった政治家を支持し選出する国民性が、また傑出していると思う。

 アイスランドに明るい話題をもたらしているのは、政治家だけではない。

 北欧最大級の野外音楽フェス「ロスキレ・フェスティバル」で行われる毎年恒例の「ビッグ・ヌード・レース」での昨年の優勝者はアイスランドのペトゥル・ゲイル・グレタルソン(22)だった。

 そそり立つペニスを堂々と誇示しながらレース直後のインタビューに答えたペトゥルさんは「今日はぼくの人生の中で最良の日です。自分でもビックリです。このヌードレースで優勝した初めてのアイスランド人なので、ニュースに大きく出るでしょうね」と話した。ガールフレンドは「彼をとても誇りに思います」と話している*8。

世界に平和は訪れるのか

 話を世界平和に戻すと、明るい光明は依然として見られる様子はないようだ。

 10月11日発表されたヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のリポートでは、シリア政府の転覆を狙う反政府軍は、親政府アラウィー派の村民少なくとも190人を殺害し、さらに200人以上を拘束している。殺害された中には、少なくとも57人の女性、18人の子供、14人の高齢者が含まれている。高齢者の中には、松葉杖で歩く人や、盲目の80歳の女性もいる。

*7=http://www.mbl.is/frettir/kosning/2012/07/01/dottir_oru_heitir_sdis_hulda/

*8=http://www.ruv.is/frett/islendingur-vann-nektarhlaupid, http://www.pressan.is/Frettir/Lesafrett/islendingur-sigurvegari-i-nektarhlaupinu-i-hroarskeldu---hitadi-upp-med-bjordrykkju

 国連リポートも、シリアでの反政府軍の大量虐殺などの戦争犯罪を次々と明るみに出している。シリアをはじめ、イラクでもアフガンでも、状況はますます凄惨を極めているようだ*9。

地中海でまた難民船沈没、死者多数
イタリア・ランペドゥーザ島に引き揚げられた難民が乗っていた小型船〔AFPBB News〕

 10月初めには、戦禍を逃れようとする数百人の難民が、イタリア・ランペドゥーサ島沖で溺死したことが大きく報じられたが、規模は異なるものの同様な事件はほぼ連日のように起きている。出国する難民数自体が日々記録を更新している状態だ。

 世界唯一無二の超大国も、今や瓦解寸前のような有様だ。万が一にも米国が吹っ飛んだら、世界にどれほどの影響を及ぼすだろう。

 この混沌とし混迷を深める世界の北辺で、人口32万という小国ながら、アイスランドはあふれるほどの誇りと真摯さ、そしてユーモアと熱意をもって一条の確かな平和のメッセージを、しかし強力に世界に発信し続けている*10。

*9=http://www.hrw.org/sites/default/files/reports/syria1013_ForUpload.pdf, http://www.hrw.org/news/2013/10/10/syria-executions-hostage-taking-rebels

*10=http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/pdf/c1.pdf

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38934  

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コメント
 
01. 2013年10月31日 13:46:29 : e9xeV93vFQ
JBpress>海外>欧州 [欧州]
福祉国家は死んだのか
壊れていく欧州〜北欧・福祉社会の光と影(32)
2013年10月30日(Wed) みゆき ポアチャ
 オランダのウィレム・アレクサンダー国王は先月17日、2014年の政府予算案提出に伴って議会で演説し、「20世紀型の福祉国家は終焉し、『参加型社会』へ変遷している」と話した。演説の草稿は内閣が作成しており、この内容は国家施策の政府方針を直接国民に通達するものとなっている。

 国王が言う、つまりオランダ政府が目指す「参加型社会」とは、国家の財政難により労働市場対策や公共サービスは賄えないので、国民は自助努力で何とかせよということだ。これまで国の福祉の保護下にあった失業者、病人、障害者、貧困層や年金受給者などへの保障が打ち切られ、その責任を国民とその家族が担うことが期待されていることになる。

福祉国家に別れを告げるオランダ

 オランダはこれまで「大陸型福祉国家」と言われる福祉システムを取っており、国家の社会保障制度は手厚い。昨年の国内総生産(GDP)に占める福祉支出(教育関連費を除く)の割合は24.3%で、北欧諸国ともほぼ拮抗するレベルだ。ちなみに日本は16.9%である。

 なのだが、国王の演説後に提出された2014年予算は財政赤字削減のためとして60億ユーロ(約8000億円)の追加緊縮策が盛り込まれており、社会保障が大幅に削減される見通しだ。

 こうしてオランダは、今年4月に退位したベアトリクス女王の後を継いで即位したばかりの国王の口を通じて「もう福祉国家を辞める」と宣言したわけである。


http://www.presseurop.eu/en/content/article/4211721-farewell-welfare-state
 このスピーチについて、英フィナンシャル・タイムズ紙は「緊縮策が一時的なベルトの引き締めではなく、『小さな政府』への恒久的な移行だとして議会に提示された。オランダ政府は、この10年間1960〜70年代に構築されてきた包括的な平等主義的社会モデルから距離を置いてきたが、この傾向を体系化した形だ」と書き、オランダの現状を追認したものだとしている*1。

 上記の国王演説について報じたマドリッドの日刊紙ABCは、これを「福祉国家」と彫られた墓石の前で、悲しみに沈む高齢者夫婦が描かれた挿し絵を添えて報じている。

 福祉国家はもう、現状を維持できないレベルに達したのか。欧州福祉国家は死んだのか。

オックスファムの9月リポート

 国連や欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)などの各国際機関が欧州の経済指標の統計や見通しなどのリポートを毎月発表しているが、そのどれもが欧州の危機が深刻化していることを明確に示しているようだ。

 IMFは8日公表した最新の世界経済見通し(WEO)で、新興国の展望悪化を理由に世界の成長率予測を2.9%と予測した。これは6回連続の下方修正だ*2。

*1=http://www.ft.com/intl/cms/s/0/934952a6-1fad-11e3-aa36-00144feab7de.html#axzz2iwFOylJ0

*2=http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/pdf/text.pdf

 ユーロスタット(欧州統計局)は、ユーロ圏とEU圏ともに、今年の実質GDP成長率はマイナス成長と予測している*3。

 貧困と不正の根絶を目指す国際組織オックスファムが9月に公表したリポート「警告:緊縮と不平等が欧州に与えた真のコスト」では、欧州においてすでに1億2000万人以上の人々が「貧困の罠」に陥っており、緊縮政策が続けば、これに加えて近い将来さらに2500万人がこの罠に陥る可能性があると分析している。

 さらに同報告書は、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、EUとIMFが導入した緊縮政策を「患者を殺すことによって病気を治す薬を求めた」ことに等しいとし、緊縮政策は過去5年で大規模な不平等と格差をもたらしたと書いている。

 オックスファムのEU事務所長ナタリア・アロンソ氏は、「ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン、英国など、政府予算が最も大幅に削減されている国々は、まもなく世界で最も不平等格差の大きい国のランクに達する」「英国とスペインでの貧富の格差は、まもなく南スーダンやパラグアイのレベルと同じになるだろう」と述べている*4。

10月に入って出された赤十字のリポートも、オックスファムの調査結果と同様の傾向を示している。

 今年上半期にEU28カ国に加え、バルカン諸国、東欧・中央アジアの社会調査を実施した赤十字が10日に発表したリポート「危機から5年:欧州の経済危機は貧困という遺産を残す」でも、現今の欧州危機の様相がまざまざと描かれている。

赤十字10月リポート

 国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)のベケレ・ゲレタ事務総長は、リポートの調査結果についてこう発言した。「欧州は戦後の60年間で最悪の人道的危機に直面しており、現今の危機は今後数十年にわたって継続する可能性がある。この5年間の経済・金融危機により欧州内では数百万が貧困層となったが、この状況がさらに悪化する兆候がある」

 同氏はリポートの導入部で、こう書いている*5。

 「静かな絶望がヨーロッパ人の間で広がっており、希望は失われ、うつ病、退行が蔓延している。 2009年に比べて、さらに増加した何百万人が、食物を得るための列に並び、薬を購入できず医療へのアクセスもできない。 何百万が失職し、まだ職がある人でも不十分な賃金と物価高騰のために家族を維持することが困難な状況だ」

 「中産階級の多くが下降スパイラル的に貧困状態に落とされている。調査対象となった22国で、赤十字の食糧の配給を受けている人の数は2009年から2012年にかけて75%増加している。多くの人々が貧困に陥り、貧困層はさらに貧しくなっている」。

*3=http://epp.eurostat.ec.europa.eu/tgm/table.do?tab=table&init=1&language=en&pcode=tec00115&plugin=1

*4=http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/eu/10303621/Millions-more-Europeans-at-risk-of-poverty-if-austerity-drags-on.html, http://www.oxfam.org/sites/www.oxfam.org/files/bp174-cautionary-tale-austerity-inequality-europe-120913-en_1.pdf

*5=http://www.ifrc.org/PageFiles/134339/1260300-Economic%20crisis%20Report_EN_LR.pdf

 同報告書の内容を一部ご紹介しよう。

 「この3年間に、欧州22カ国内で食糧援助を受けている人は200万から350万人に増加し、ラトビアでは3倍になった。この傾向はいわゆる『裕福な国』も含めて欧州全土で同様の様相を見せており、例えばフランスでは近年は『ワーキングプア』が顕著に増加し、2008年から2011年の間に収入が貧困線以下に低下した国民は35万人を上回った。ドイツでは、低賃金部門が大幅に増加しており、その結果、フルタイムの仕事に就いている60万の国民が生活するのに十分な収入を得られていない」

 さらに「欧州内で1800万人以上の人々が、EUからの食糧援助を受けており、それでも依然として4300万が毎日の食事が十分に得られずにいる。この人数に加えてさらに1億2000万人が貧困層に陥るリスクがある」としている。リポートは、増大する失業者に言及し、高まる社会不安と混乱のリスクが爆発する可能性について「秒読み段階の時限爆弾」として懸念を表現している*6。

 危機への対応策として、赤十字は戦後初めて、英国で貧しい人々のためのスープキッチンと呼ばれる配給を開始する予定だ。福祉団体 Church Action On Poverty and Oxfam は、今年5月に出したリポート「パンの列に並ぶ――21世紀英国の食糧危機スキャンダル」で、実質50万人以上の英国人が食物の配給に依存していると推定している。この数はこれから迎える冬期間にさらに増加すると予想されている。


http://www.church-poverty.org.uk/foodfuelfinance/walkingthebreadline/report/walkingthebreadlinefile
 リポートが発表された際、この内容を報じた英エクスプレス紙の見出しは「飢える英国、50万以上が配給に依存」、ロイター通信の見出しは「ディケンズ時代の英国」となっている。

 チャールズ・ディケンズは、『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』などで下層民の生活を描いたビクトリア時代の小説家だ。

 200年前の英国社会と言っても筆者には想像がつかないが、近いイメージとしては、釜が崎などの寄せ場で行われている、年末年始の越冬闘争ではないかと思う。それと似た現場が街中に突如できたという状態だ。

 が、炊き出しの大釜の列に並んでひとすくいのスープをもらうのは、その日暮らしの日雇い労働者ではなく、一般的な市民と子供たちだ*7。

欧州人権委員10月リポート

 スペインの緊縮財政政策が同国内の子供たちに与えたコストは、欧州人権委員ニルス・ムイズニクス氏が現地を視察し9日に発表した調査で明確に書かれている。

 リポートでは「食事が不十分なため、学校で失神している」「貧困のために、学校に3週間連続して同じ服を着て行っている」といった子供たちの状況が描かれている。

*6=http://www.redcross.eu/en/News-Events/NEWS-ROOM/Report-on-the-Economic-Crisis-in-Europe/

*7=http://www.express.co.uk/news/uk/403663/Starving-Britain-More-than-half-a-million-reliant-on-food-banks, http://rt.com/news/poverty-uk-food-banks-028/

 この報告によると、スペイン内で貧困層にある子供たちの割合は2011年に30.6%であったが、以来、大幅に上昇した。スペインの教育予算は過去3年間で21.4%から14.4%に削減されており、それに加えて、2007年の不動産市場の崩壊以来、ほぼ40万に対し強制立ち退きが執行された。

 貧困家庭数が増加し、特に移民の家族で、適切な医療やヘルスケアを受けることができず、栄養失調に苦しんでいる子供や生徒数は増加している。 

 同報告書は、「子供の権利に関する国連条約に違反している」としてスペイン当局を非難している。子供が子供らしくいられる最低限の権利を定めたこの条約を遵守できていない先進国は、これまでほとんど例がない。

 子供の権利をないがしろにすることと同時にスペインで起きていることは、社会の極端な二極分解――つまり「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に」という現象だ。これについては後述する*8。

出生率の低下

 公共支出プログラムの大規模削減と戦後獲得されてきた福祉や医療給付の廃止、これと同時に起きている大量失業と実質賃金の目減りは、出生率に劇的に反映している。

 8月の終わりに、EU統計局は、欧州の「ベビーリセッション」、いわゆる「赤ちゃん不況」が来ると予測する報告書を発表している。これによると、不況が開始した2008年以降に、それまで上昇傾向にあった出生率が劇的に減少に転じていることが分かる。

 ギリシャ保健省の数字によると、ギリシャの出生率は、2009年の債務危機の開始以来、10%以上下落している。現在同国内では女性1人当たり約1.3人を出産しているが、この数字は継続的に低下傾向をたどっている。人口の安定と経済成長を維持するために、女性1人が約2人の子供を出生することが必要であると推定されている。  

 こうして、国民生活のあらゆる側面を犠牲にして「財政赤字削減のため」としてEUやIMFが主導し各国に導入させてきた緊縮財政政策が、果たして財政赤字を削減させ、国家財政を健全化させる方向へ向かわせているのか?

 冒頭に挙げたオランダの例で言えば、8000億円をさらに追加で歳出カットしてもEUの基準を満たせず、2014年には赤字は3.3%に拡大する見通しだ。

*8=https://wcd.coe.int/com.instranet.InstraServlet?command=com.instranet.CmdBlobGet&InstranetImage=2356735&SecMode=1&DocId=2056522&Usage=2

*9=http://www.neurope.eu/article/greek-birthrates-decline-crisis, http://www.presstv.ir/detail/2013/09/14/323801/greece-birth-rates-fall-by-10-ministry/

 こうして国民から生皮をはぎ取るようなやり方で歳出を削減して得たカネを、EUは銀行への直接資本として注入しているわけだが、その結果起きていることは歴史上前例のない社会の格差と不平等だ*10。 

カリタス・リポート

 先に、「スペインでは社会の極端な二極分解が起きている」と書いたが、カトリック教会が主催する国際援助組織カリタス・インターナショナル欧州支部の報告では、現代ヨーロッパにおいて最も二極化が進んだ不平等な社会はスペインである。

 このリポートによると、 「極度の貧困状態」にあるスペイン人の数は2008年から2012年の間に倍増して300万となり、同期間に、スペイン内の億万長者の数は劇的に増加した。 大手銀行クレディ・スイスによると、2011年のわずか1年間に、スペインの億万長者の数は13%増加して計40万2000人となっている。

 つまり、緊縮財政策というのは社会の大多数から富を吸い上げ、金融システムに注ぎ込んで株価を押し上げ、政治家と社会の富裕層をますます富裕にするシステムと言えるのではないか*11。

 先に挙げた赤十字リポートのタイトルは「考えを改めよ」だ。これは弱々しくも、緊縮策を遂行し続ける国際機関と政府の責任者らにあてた批判だと言える。



http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php?title=File:Unemployment_rates,_seasonally_adjusted,_August_2013.png&filetimestamp=20131001065748
 このシステムの下で、一般の国民の雇用と生活は大規模に破壊されている。

 銀行や株式市場の株価の高騰と同時に、欧州全体の一般世帯の収入と購買力が大幅に目減りした。 2010〜12年の間に、英国とポルトガルでの実質賃金は3.2%以上下落し、英国の賃金の実質的な価値は2003年のレベルに後退した。イタリア、スペイン、アイルランドもこの期間に同様のことが起きた。ギリシャでは実質賃金が平均10%以上落ちている。

 こうして貧困層が劇的に増加し、特に仕事に就いていても基本的な生活費をカバーするのに十分に稼ぐことができないワーキングプア層が広がっている。南欧では、すでに2人に1人以上の若者が失業している。

 作家・村上龍氏が『希望の国のエクソダス』で描いたのは、「失業率は7%を超え、円が150円まで下落した日本経済の中で崩壊するシステム」だった。

 映画「バトル・ロワイアル」の冒頭で描写された近未来は「完全失業率15%、完全失業者数1000万人」と設定されていた。

 が、欧州の失業率はそのレベルをはるかに超えた。

 数字上で言えば、欧州では「壊れた社会」が、すでに現実化している。

*10=http://www.eu2013.lt/en/news/pressreleases/ecofin-ministers-approve-bank-supervision-discuss-steps-towards-banking-union

*11=http://www.caritas-europa.org/code/EN/abou.asp?Page=1565, http://www.theguardian.com/world/2013/oct/10/spanish-wealth-gap-inequality-charity, http://bottomline.nbcnews.com/_news/2013/10/12/20939672-imf-chief-us-default-would-bring-massive-disruption
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/39036

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02. 2013年10月31日 13:47:50 : e9xeV93vFQ
JBpress>海外>欧州 [欧州]
大人の学力テストに表れたドイツの隔靴掻痒
子供に自由を与えすぎた旧西独は東独に惨敗
2013年10月30日(Wed) 川口マーン 惠美
 OECD(経済協力開発機構)が、このたび初めて、いつもの子供の学力テストではなく、大人の学力テストを行った。24カ国の産業国の16歳から65歳が対象だ。

 その結果が、去る10月8日に発表されたのだが、それによると、ドイツ人の大人の学力が全くトップクラスではなく、読解力においても、簡単な計算においても、ごく中庸であることが判明した。

 ドイツ人はショックを受けているが、私にしてみれば、当たり前。一般のドイツ人の学力は、私が普段感じることだけを取ってみても、日本人と比べるとかなり貧弱だ。

 テストされたのは、高度な知識の有無ではなく、ごく基礎的な内容だ。第1次世界大戦がなぜ始まったかとか、なぜ月には上弦と下弦があるかなどという難しいことは問われない。温度計を読めるかどうか、そして、その温度より20度下がると何度になるかというような、中学1年生程度(あるいはそれ以下)のものだ。

 ただ、今回のこの問題の場合、答えがマイナスの温度になったので(例えば、17.5度から20度下がるとマイナス2.5度)、間違う人が増えた。日本の読者は信じてくれないと思うが、ドイツ人には、負の数字、分数、小数点以下の計算、そして%が分からない人が少なくない。もちろん、子供ではなく、大人の話だ。

 ちなみに、今回のテストで上位を独占したのが、国語も算数も日本とフィンランド。要するに、一般的日本人の学力が高いということだが、これも私にしてみれば当然の結果だ。

宅配便の複雑なシステムを維持できる日本人の学力レベル

 いつも書いていることだが、日本は義務教育の質が良く、したがって国民の、昔の寺子屋でいう「読み、書き、そろばん」という基礎知識のレベルが揃っている。つまり、学力レベルの最低線が抜群に高い。

 良い国家を運営する上での最大の利点、かつ、必要不可欠な要素は、超優秀な人が何人いるかではなく、国民の学力レベルの底辺がいかに高いかだと、私は常々思っているので、私の考えが正しいなら、日本は大変恵まれたスタート地点にいるということである。

 そもそも、国民の学力水準が低い国では、民主主義はうまく機能しない。民主主義は数が勝負なので、烏合の衆の意見が通ってしまうと都合が悪いだけでなく、多数決の力を借りて、皆で積極的にとんでもない指導者を選ぶ可能性もある。良い民主主義の前提は、国民に考える力があることだ。

 また、国民の学力水準が低ければ、社会にロスが多くなる。社会というのは分業で、高度な社会ほど複雑な分業になっているが、分業の末端にいる人たちの能力が低いと、システム全体がスムーズに動かない。

 日本の宅配便は全世界に誇れる高度なシステムだが、彼らが、お客の、「いくらお客様は神様と言っても、こんなことをまで」と思うほどの過度な要求に対応できるのは、社内の規律が厳しいからだけではない。従事している人全員の質が揃っているからだ。

 末端まである程度の能力のある人たちが配置されていなければ、いくらお尻を叩いても、あのような高度なシステムは機能するはずがないのである。

 全員が頭を使って働けるか、それとも、頭を使える人が一部しかいないかでは、全体の仕事の質やスピードに想像できないほどの差が出る。そういう意味では、分数のできない従業員を相手に四苦八苦しなくてもよい日本の雇用者は、とても幸せである。

義務教育の充実は住みよい社会をもたらす

 さらに、社会の質を決める道徳や倫理などというものも、学力水準とは切っても切れない縁がある。自分さえよければいいという社会はもちろんのこと、単に公衆道徳が悪いだけでも、社会は大変住みにくくなる。そんな嫌な経験を、日本人は今まであまりせずに暮らしてきた。

 日々の生活に精一杯では、よほどの聖人でない限り、他人のことまで考えが及ばず、特に、お行儀などもどうでもよくなるのは当然のことだ。ドイツの劇作家ブレヒトも、有名な『三文オペラ』の中で言っている。「まずは腹ごしらえ、それからモラル」と。

 確かに、貧富の差が極端に大きい社会にはモラルの根づくチャンスは少ない。裕福な人は富を守るために、そして、貧しい人は少しでも富を得るために自己中心的になる。

 その貧富の差を作るのが基礎学力の差だ。そして、基礎学力の差をもたらすものが、義務教育の差。つまり、義務教育がうまく機能すればするほど、学力の格差は少なくなり、知的水準が上がり、社会は平等になる。

 義務教育の充実ほど、将来に希望をもたらす前提はない。そして、この素晴らしい前提を享受してきたのが日本だ。なのに、日本人はその素晴らしさにあまり気づいていない。

 ただ、間違ってはいけない。いくら義務教育が良く、国民に基礎学力があり、貧富の差が少ないからといって、では日本人が一様にドイツ人より優秀かというと、それは違う。ドイツ人に優秀な人が多いことは、私が別にここで力説しなくても、ノーベル賞受賞者を見ただけで分かる。


ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク(通称ハイデルベルク大学)の図書館(ウィキペディアより)
 先のOECDのテストは、いわゆる寺子屋の「読み、書き、そろばん」という基礎知識のテストであったが、打って変わって大学生、大学院生を対象に、もう少し高度な知識のテストをするなら、ドイツはおそらく上位につけるだろう。少なくとも、日本の大学生が1位で、ドイツの大学生が中庸とはならないはずだ。

 その理由は、日本の大学が玉石混交であるのに比べて、ドイツにはほとんど国立大学しかなく、それも、アビトゥアという高校(ギムナジウム)の卒業試験に合格した者しか、大学に行くことができないからだ。

 アビトゥアは、州ごとで一斉に行われ、日本でいえばセンター試験に似ている。そして、とても難しい。ドイツの大学生というのは、少なくともこの難しい関門を通り、ギムナジウムを卒業できた人たちなのである。

崩壊するドイツの初等教育システム

 そんな優秀なはずのドイツ人が、大人も子供も、OECDのテストで良い成績が取れないのは、つまり、ほかに理由があるということになる。それが初等教育システムの欠陥だ。

 ドイツは戦前までの長い間、アカデミックな層と職人の層が確固たる2本の屋台骨となって、しっかりと社会を支えてきた国だった。学問を究めた者はもちろん尊敬されたが、職人で修業を積んでマイスターの称号を得た者も、社会でそれなりの地位を確保し、人々の尊敬を集めることができた。

 この両者の棲み分けと、互いの立場の尊重こそが、ドイツのよき伝統であり、発展の要だったことは疑うべくもない。

 したがって、当時の学校制度はそれに見合うものであった。全生徒が一斉に教育を受けるのは4年生までで、そのあと、進路は3本に分けられた。大学に進む生徒が行くギムナジウム、職人になる生徒が行く基幹学校、そして、その中間の、学問はしないが職人にもならない生徒が行く実業学校だ。

 職人の行く基幹学校には、当然のことながら、良き職人を目指す志の高い生徒がいたのである。ところが、今、ドイツの職業地図は様変わりし、昔のような職人の世界は消滅しつつある。職人がコツコツと身につけた技は、今ではコンピューター制御の機械がやってくれる。

 なのに、学校制度だけが残っている。ドイツでは、今でも多くの州では、小学校4年生が終わった時点で進路を3本に分けている。しかも、4年生のときの、国語と算数の成績だけで分けているのだ。

 その結果、何が起こったかというと、基幹学校の崩壊だ。今やここには、家庭からのサポートを受けられない、あまり恵まれない環境の子供や、外国人でドイツ語を満足に解せない子供ばかりが流れ着いてしまう。もちろん、職人になるつもりもない。

 ただ、基幹学校だけは、どんなに成績が悪くても、誰でも入れてくれる。そうでなくては、義務教育を終了できない生徒ができてしまう。

 良貨は悪貨を駆逐するがごとく、実業学校の程度もあまり芳しくない。皆が大学に行きたい時代なので、多くの人がギムナジウムに殺到するからだ。だから、辛うじてレベルを保っているのは、現在、ギムナジウムだけ。

旧西ドイツの学力が旧東ドイツに劣った理由

 ドイツでは、知的水準の二極化が起こっている。この状態のまま、無作為に人間を抽出してテストをすれば、もちろん平均値がぐっと下がる。これが、ドイツ人が学力テストで良い成績を取れない理由だ。

 このひずみを直そうという声は、すでに20年以上も前からある。しかし、ギムナジウムの優越性に執着する人は多い。だから、教育制度の改革は、かけ声だけで一向に進まない。

 なお、今回の大人の学力テストで、大変面白かったもう1つの現象は、旧西独の人の学力が、旧東独にくらべて、軒並み低かったことだ。これは、東西ドイツで、教育の方法が明らかに異なっていたことを示す。

 戦後の西ドイツでは、権威主義を嫌い、教師が教壇の上から生徒に教えることさえ疑問視し、自主的授業やグループ授業を優先した。

 基礎的な知識を徹底的に教え込もうとすると、それは押しつけであると非難されたものだ。うちの子供たちが小学校時代、教師は、長い休み中に宿題を出すことさえできなかった。

 東ドイツには、この問題がなかった。生徒たちは基礎学力だけはちゃんとねじ込まれていたのだ。

 その違いが、今回のOECDのテストに表れたのは興味深い。子供を教育する過程で、あまりにも自由を強調すると、かえって子供の能力をスポイルすることになる証拠かもしれない。

 いずれにしても、国民の学力の最低レベルの高い国とは、単純労働しかできない人の割合が少ない国だ。労働効率におけるポテンシャルが高い。日本は、今、手にしているその貴重な財産を手放さないよう、十分に気をつけた方がいい。エリートを育てるのは、その後のことだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/39021

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