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『from 911/USAレポート』第649回   「アメリカ政治の変質、危機回避のその先は?」  
http://www.asyura2.com/12/kokusai7/msg/711.html
投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 19 日 12:39:52: rUXLhToetCnYE
 

『from 911/USAレポート』第649回

    「アメリカ政治の変質、危機回避のその先は?」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』               第649回
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 先週の金曜日、10月11日の時点では「ベイナー下院議長の調整で週明けには早
々に合意か?」という空気が流れたのですが、その後、週末には下院議員が一斉に選
挙区に戻る中で、真っ二つに割れた下院共和党としては調整が難しいことが明らかに
なりました。これが、一つの転回点であり、結果的には全ての交渉は上院の与野党に
委ねられました。

 ここで、エミイ・クロブシャー上院議員(民主党、ミネソタ州選出)、スーザン・
コリンズ上院議員(共和党、メイン州選出)など女性超党派議員グループ(セネット
・シスターズ)などが調整を行い、最終的にはリード(民主)、マコーネル(共和)
の両上院院内総務が「上院案の一本化」に漕ぎ着けたのです。この時点では、17日
の「債務上限に達する期限」までに危機を回避するには、この上院案を下院は呑むし
かなくなりました。

 それが、今回の合意です。念のために内容を確認しておきますと、(1)「債務上
限は2014年2月7日」まで、そして「政府閉鎖に関しては1月15日まで」とい
う期間限定での危機回避、そしてこの「暫定合意」以降について(2)中長期での財
政規律を実現するための国家戦略を考える超党派の「スーパー委員会」を設置する、
また(3)健保改革(オバマケア)に関しては政府補助の新しい保険制度(アフォー
ダブル・プラン)への「加入条件審査の厳格化について議論を継続」という条件が入
っています。

 この内容で、16日の夕刻からまず上院での議決が行われ、こちらは「賛成81、
反対18」という圧倒的な大差で可決されました。問題は下院で、共和党から相当数
の「造反」が出ないと可決はできないのですが、結果は「賛成285、反対144」
となり、共和党保守派としては、この長い政治闘争に完全に敗北した形となりました。

 さて、この「政府閉鎖+債務上限バトル」の顛末ですが、一連の政争を通じて「ア
メリカ政治に変化が起きている」ということが言えると思います。今回の「バトル」
に加えて、シリア危機の問題まで含めて、ここ数ヶ月のアメリカ政治に起きている
「変質」について考えてみたいと思います。

 一つは、政治的に「荒っぽい手法」が横行しているということです。

 今回の「政府閉鎖」にしても、政治的な戦術としては極めて荒っぽいものです。確
かに1995年から96年の「ギングリッチ対クリントンの対決」という前例がある
と言えばあるのですが、あの「ギングリッチ版」の政府閉鎖というのは、戦術という
よりも、与野党が全議員団を挙げて対決した、しかも争点としては均衡財政をどう実
現するかという政治の中心的課題に取り組んだという点で、今回とは違います。

 今回は、動機が「オバマの健保改革が気に入らない」という小さな争点に過ぎず、
政府閉鎖に関しても「やむを得ずに突入した」というより、テッド・クルーズという
一人の上院議員のスタンドプレーに共和党議員団が引きずられての結果です。この一
連のエピソードは「荒っぽい」としか言いようがありません。

 もう一つの「債務上限バトル」にしても、前回2011年夏の「バトル第一章」も
確かに荒っぽい衝突ではあったわけです。ですが、この2011年夏の場合は、非常
に長いストーリーの帰結でもあります。というのは、2010年11月に中間選挙で
ティーパーティー系が躍進し、オバマが惨敗した時点で、「中長期的な財政規律の確
保」という課題は、与野党として最優先課題という認識ができたのです。

 そこから「超党派のスーパー委員会」ができ、その報告書が「軍縮と福祉カットを
含む歳出抑制と、増税による歳入増」という非常に辛口かつ超党派的であったために、
与野党の合意ができずに宙ぶらりんになっていったというプロセスがあるわけです。
2011年夏の政争は、この延長上にあるわけで、まだ「純粋かつ全力での衝突」だ
ったということが言えます。また、この夏の政争に対しては、S&P社から米国債の
格付けを1ノッチ下げるという大変な「お灸」を据えられたということも指摘できる
と思います。

 今回も同じ「債務上限への接近」という問題であり、デフォルトが懸念されたとい
うことでも同じです。ですが、2011年夏の政争と比べると、衝突は非常に荒っぽ
いものだと言えます。何よりも、中長期の財政規律について議論する枠組みはなく、
声の大きい議員が引っ掻き回す中で、共和党サイドは「米国債のデフォルトと世界経
済への影響」を人質に取り、民主党側は「そうした危険を冒した相手を罵倒すると共
に、政府閉鎖問題の解決に債務上限を使うということでは共犯」の立場でもあったわ
けです。同じ種類のバトルであっても、前回より荒っぽい政争だということが言えま
す。

 シリア情勢への対応にも、同じような荒っぽさが見て取れます。アサド政権の化学
兵器使用という状況を受けて、オバマ政権は、当初は英仏と協調しての空爆を真剣に
考えていたわけです。ですが、英国が議会の反対で腰が引けると、まるで「民主主義
のレベル合わせ」をするかのように、判断を議会に投げる一方で、諜報の世界では宿
敵であるはずのロシアとの協調で平和的解決を模索した、このプロセスは「ブレて」
いたかと言えば、確かに「ブレて」いたわけですし、何とも荒っぽいものでした。

 シリアに関して共和党はどうだったかというと、こちらは完全に分裂しており、軍
事外交タカ派的な長老は「シリアの反政府勢力に武器供与を」という間接的に地上戦
に関与せよという主張、その一方で「ティーパーティー的もしくはリバタリアン的な
若手」は「一切の関与に反対」という具合でした。この両者の主張もまた、落とし所
からの外れ方ということでは、相当に荒っぽかったと言えます。

 では、どうしてアメリカの政治は「荒っぽく」なったのでしょうか? これは与野
党のポジションが左右に離れていっている、つまり共和党の重心はより右寄りに、民
主党の重心はより左寄りになっており、合意形成が難しくなっているということの反
映だと思われます。特に上院共和党では、多くの穏健中道派の議員が去っており、ネ
ゴをしようにもするチャネルがないということが言えます。

 実現可能な「落とし所」は真ん中あたりに存在しているにしても、議論を前に進め
るためには、与野党ともに左右に極端な方向に議論を振らないと前へ進まないのです。
そのような構造の中で、どうしても「非現実的な左右の極論」を激しく衝突させて、
時間切れもしくは「隠密作戦での既成事実化」などの不可抗力を使って何とか落とし
所に落とす、それが最終的には真ん中あたりにある最適解に落とすためには仕方がな
い、そのような政治的状況があるように思われます。

 二点目は「前例の無視」ということが多くなっているということです。

 今回の「政府閉鎖」に関しては、そもそもテッド・クルーズ上院議員(共和党、テ
キサス州)が延々と21時間もかけて「オバマの健保改革への反対演説」を行ったこ
との結果です。こうした「長時間の演説」という議会戦術に関しては、米上院の場合
は「フィルバスター」という「悪習」があって、多数派が過半数は取ったものの10
0議席中の60票が取れていない場合は、長時間演説を行って法案を廃案に持ち込む
ことができるのです。

 今回のクルーズ議員の行動は、廃案狙いの「フィルバスター」に似せたものですが、
予算を人質にとって「時間切れでの政府閉鎖が起きるように」という悪意に満ちた戦
術であったわけで、完全に議会慣行に反するものだと言えます。

 問題の入り口が前例無視であるならば、最後の解決劇も前例を突き崩すものとなり
ました。16日の晩に妥協案が上院を通過して下院に回った時点で、下院の共和党で
は「賛成が少数」であったのです。下院共和党の議員団には、「ハスタート・ルール」
というのがあって、党内での過半数が賛成していない法案は、自分たちが議長を出し
ている場合に、その議長は「採決にかけない」ことになっているのです。

 そうではあるのですが、そんなことを言っていては本当にアメリカ国債は「デフォ
ルト」になってしまうので、ベイナー議長は採決を行いました。ちなみに、この決定
に当たって下院共和党は議員団の総会を行っていますが、賛成派・反対派に関わらず
ベイナー議長には拍手が贈られたのだそうです。それはともかく、「ハスタート・ル
ール」という党内ルールはこれで崩れてしまいました。

 前例の無視ということでは、オバマ大統領の「健保改革案に関しては一切妥協せず」
という強硬姿勢は「ホワイトハウスの対議会姿勢」としては異例でした(実際は微妙
に譲歩はしていますが)し、その際に「寝技と妥協のプロ」であるバイデン副大統領
は一切交渉の窓口に立たせなかったというのも、この政権の運営方法としては異例で
した。

 オバマがシリア情勢に関して空爆の是非を「議会に問うた」というのも、一種の前
例の「ひっくり返し」に見えます。憲政上確立していた大統領の交戦命令権を崩した
ものとして、以降のオバマ政権が機動的に軍事力・抑止力を行使できなくなるのでは
という懸念を持つ向きもあると思います。

 こうした政治的な行動では、確かに前例が無視されています。ですが、こうした変
化については、「新たなルール」や「新たな行動パターン」によって古い前例が上書
きされたわけではないのです。オバマも共和党も、その時その時の「複雑な状況に対
応するため」に柔軟な対応をしている、そのように見るべきだと思います。

 確かにクルーズ議員の「21時間演説」は感心しませんが、ベイナー議長が「ハス
タート・ルール」を崩したこと、オバマが「シリア攻撃に関して議会の意向を聞く」
として時間を稼いだというようなことは、これからも色々な形で起きてゆくと思いま
す。それぞれに複雑な事情があり、入り組んだ文脈の中で政治的な決定を行い、それ
を有効なものとしてゆくには、従来の政治的な慣行に従っているだけでは難しい、そ
のような時代であるということだと思います。

 三点目は「本質的な解決が難しく、暫定的な解決の積み上げることしかできない」
ということです。

 今回の合意ですが、一時は「6週間だけの債務上限緩和」という短期的な合意でデ
フォルトを回避するという動きがあり、それではダメだということで3ヶ月プラスと
いう猶予期間を設けたわけですが、例えば財政規律の問題について、そもそもこれか
らの中長期の連邦政府の財政をどうしてゆくのか、といった中長期の方針に関しては
合意はできていません。

 この問題に関しては超党派の「スーパー委員会」方式などで継続して審議して行く
のですが、前回の2010年の年末から2011年初頭にかけてがそうであったよう
に、現在の左右対立構図の中ではそうした「本質的な合意」というのは難しいわけで
す。どうしても暫定的な解決を積み上げて行って、その中から大きな流れができてく
るのを待つしかないようです。

 中長期的な課題を意識しつつ、とにかく個別の短期的な解決を積み上げていく、そ
の中で中長期的な課題に関しての「未解決状態」に耐えながら、現実が変化するのを
見てゆく政治、そのような政治も現代では必要なのだと思います。

 そのような時代にあって、次世代のアメリカのリーダーとしてはどのような人材が
考えられるのでしょうか?

 一つ象徴的なのは、今回の「危機回避劇」と同時進行で行われていたニュージャー
ジー州選出の連邦上院議員補選で、ニューアーク市長のコリー・ブッカー氏が圧勝し
たというニュースです。このブッカー氏は、民主党の次世代リーダーとして期待され
ている人物の一人です。ニューアークの貧困地区に隣接した地域の出身、アフリカ系
に加えて欧州やアメリカ原住民の祖先も持つ家庭に生まれ、高校ではフットボールの
選手として鳴らして、西海岸のスタンフォードに進学しています。

 その後、スタンフォードの学生委員長を務め、ローズ奨学金でオクスフォードに留
学後は、地元のニューアークで市議から市長を務め、NY近郊にあって貧困・格差・
犯罪に悩む地域の再建に尽力してきた人物です。歯に衣着せぬ言動も有名で、カリス
マ性もITによる発信力もあり、今回の上院入りで一気に中央政界で注目を浴びるこ
とになるでしょう。

 そのブッカー市長の政治的なポジションですが、「中道新世代」ということができ
ます。例えば、2012年の大統領選ではオバマ陣営が相手のロムニー候補のことを
「ベンチャー・キャピタルを経営して失敗した投資案件では多くの会社を潰して雇用
を奪った」という批判キャンペーンを張ったのですが、これに「噛み付いた」という
エピソードが有名です。

 ブッカー市長は「ベンチャー・キャピタルを経営していたからダメだというのは、
オバマが(黒人急進派の)ライト牧師と親しかったからダメだというのと同じだ。両
方共吐き気がする。もう十分だろう。」と吠えて大いに物議を醸しました。リスクを
冒して投資した案件が失敗したら、投資先の会社から解雇が出るのは仕方がないし、
それを「雇用の敵」だと批判する民主党は、オバマが急進派の牧師と親しかったから
ダメだという共和党の中傷戦術と同じだというのです。

 このトラブルは、民主党本部が「利敵行為」だとして激しい圧力をかけたのでブッ
カー市長は最終的には黙りましたが、「もう十分だろう("Enough is enough!")」
というフレーズは一躍有名になりました。このエピソードは、無内容な中傷合戦を批
判したカッコ良さだけでなく、ブッカー市長のある種「中道新世代」というイメージ
にもつながっています。

 同じニュージャージーでは、共和党のクリスティ知事も「将来の国政を担う人物」
だとして期待が集まっています。クリスティ知事も、1年前の大統領選投票直前に起
きたハリケーン「サンディ」被災に当たっては、オバマ大統領と手を取り合って被災
地への激励を行い、これも自分の共和党のロムニーには失点になったとして敗戦後に
色々なことが言われました。

 そのクリスティ知事は、事あるごとに「ティーパーティー批判」を強めており、今
回の一連の騒動では、全国的に大きく点数を稼いだと言われています。そのクリステ
ィ知事ですが、中道派と言っても、州政にあたっては組合との対決や議会との対決で
は「べらんめえ調」の弁舌を駆使して強硬ですし、例えばオバマ政権の「高速鉄道網
構想」などには「ムダな公共投資」だとして全面的に反対するなど「共和党的な小さ
な政府論」から逸脱しているわけではありません。

 ですが、ブッカー市長の場合は、民主党の政治家でありながらニューアークの貧困
対策については公的資金だけに頼るのではなく、例えば「フェイスブック社」創業者
で大富豪のザッカーバーグ氏をスポンサーに引っ張ってきて、教育再建プロジェクト
を進めています。こうした手法は、従来の民主党政治家の限界を突き破る新感覚を感
じます。

 一方でクリスティ知事の場合は、ハリケーン被災に対して「徹底した連邦政府から
の援助」を引き出すロビイングを展開しています。危機に当たっては「小さな政府の
イデオロギー」には束縛されない行動力、これも中道新世代の政治姿勢と言えるでし
ょう。そのクリスティ知事は、来月の知事選で再選を目指しますが、中道票から民主
党支持者まで食い込んだ有利な選挙戦を展開していると言われています。

 こうした柔軟で超党派的な行動力というのを、最近のアメリカ政治の傾向の第四に
挙げてもいいかもしれません。超党派的な調整というのは、昔は「長老議員」の老獪
な交渉力に頼っていたわけですが、現代のそれは「実務的な最適解を持った新世代」
が率先して行動しているということに、新しさがあります。ちなみに、今回の騒動で
知名度を上げた前述のエミイ・クロブシャー上院議員(民主党)の名前も、期待され
る新世代リーダーの一人でしょう。

 ところで、2016年の大統領選という観点からすると、現時点での話題の中心は
ヒラリー・クリントンであることは間違いありません。ですが、彼女につきまとう
「80年代から90年代のフェミニズムとリベラルの闘士」というイメージ、そして
「2000年代からオバマ一期目までの、上院議員や国務長官としての軍事外交通の
イメージ」というのは、現在は「余り流行らない時代」なのです。

 今回の政争で明らかになった新しい時代の政治、つまり「時には荒っぽく」「時に
は前例を無視した柔軟性を発揮し」「時には本質的な解決にこだわらず短期の対策を
積み上げるしかなく」「また時には超党派的、中道的な位置で最適解の場所に立つ」
といった「複雑な現代に対応する政治家」というイメージと比較すると、ヒラリーは
今のところは「旧世代」に属しているように見えます。

 そのヒラリーは今回の政争では特に動くことはなく、無傷でしたが、これから20
14年の年初に予想される「財政規律バトル」そして2014年11月の中間選挙な
どでは、新しい政治の流れが恐らくは強まってくると思われます。ヒラリーがこれに
どう対応してゆくのか、注目されます。その一方で、ここニュージャージーの生んだ、
ブッカー(民主党)、クリスティ(共和党)という政治家がどれだけ国政レベルで通
用するか楽しみでもあります。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ
消えたか〜オーラをなくしたオバマの試練』。訳書に『チャター』がある。 最新作
は『場違いな人〜「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。

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【編集】  村上龍
【発行部数】101,417部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )  

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コメント
 
01. 2013年10月26日 14:26:28 : e9xeV93vFQ
from 911/USAレポート』第650回

    「ケネディ大使着任に当たって、日米関係の当面の課題は?」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』               第650回
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 オバマ政権になって以来、日米の間には切迫した懸案が表面に出るということはあ
りませんでした。何度か首脳会談があり、また「2+2」という外交・防衛担当大臣
の会合があり、更には担当の国務副長官による実務的な外交も続いていますが、両国
の世論を揺るがせるような課題というのは発生することなく推移しています。

 勿論、沖縄の普天間移設の問題は難題です。ですが、この問題に関しては日米に緊
張があるというのは、「板挟みが面倒だ」という東京の論理であって、アメリカの軍
事・外交当局は問題の本質は理解しているように思います。

 事故防止のために普天間は移設したい、解決策としては辺野古で行く、だが辺野古
に反対が多いのは承知している、反対派が日米関係より日中関係を重視しているわけ
では「ない」のも承知していて反対意見に対しては低姿勢で臨むことを確認している、
全体的に米国側では軍事費のコストダウンを強烈に進めなくてはならないが沖縄での
軍事バランスを動かす意図は全くない、これがオバマ政権の立場であると思います。

 更に大きく、日米中の「三カ国関係」についても姿勢は明確です。尖閣をめぐる日
中の問題では日本側を支持、南シナ海での中国の島嶼支配と海洋支配には反対、その
一方で中国との経済関係は変更しない、中国が開かれた社会へソフト・ランディング
することへの支持と支援は惜しまない、その限りにおいて日中の双方が積極的にこれ
以上関係を悪化させることには反対する、この位置からオバマ政権は動いていません。

 この問題に関しては、アメリカの広範囲な世論は積極的な関心は持ってはいません
が、この方針に関して特に異論はないし、アメリカの世論一般の日本に対する好印象
というものは変わっていないと思います。

 ですが、この間、日米の間には重たい懸案事項が少しずつ累積しているように思い
ます。ケネディ大使が着任した後には、こうした問題への取り組みが期待されます。

 それは「核戦略」を中心とした問題です。この問題は、核の平和利用という観点と
軍事的な核抑止力の維持、更には核拡散の防止という三つの問題に分かれるのですが、
日本をめぐる現状はこの三点が複雑に絡み合っているのが現状です。

 平和利用というのは勿論、原子力エネルギーの利用の問題ですが、ここへ来て日本
の政界や世論には「脱原発」という動きが加速しているようです。野党系の人々だけ
でなく、小泉元首相や安倍首相夫人の言動などが少しずつ世論に浸透しているのと、
福島第一原発の廃炉過程における地下水のコントロールが上手く行っていない問題が
重なる中で、安倍政権としても「再稼働」には極めて慎重になっています。

 問題は複雑です。このまま「脱原発」となれば各電力会社は「資産である原発の価
値をゼロにしなくてはならない」ことになり、これは各企業としては財務的な苦境を
意味することから、公的資金を入れた「原発国有化」をやって廃炉をすることになり
ます。その場合に世論が「カネを出す」ことには反対してしまうと、最悪の場合はエ
ネルギー政策が立ち往生することもあり得ます。そこで株価なり景気がパニックにな
ると、過度の円安から化石エネルギーの輸入に支障を来す中で、本当に電気の供給に
問題が出る可能性があるわけです。

 それはともかく、アメリカが問題視しているのは、仮に日本が「脱原発」を進める、
その中でMOX燃料の使用もブリーダー(高速増殖炉)の推進も止めてしまうことに
なると、日本が保有している膨大なプルトニウムが「国際法の枠組みとして違法状態」
になるという問題です。少なくとも日米二国間の原子力協定を見直すことは必要にな
って来ます。

 別に、日本としては好きでプルトニウムを保持しているのではないのですが、原発
の使用済み核燃料対策に加えて、資源の少ない日本国が化石燃料に依存しないで国家
として存続するために必要なことだとして、いわゆる「核サイクル」を構想として推
進してきたわけです。アメリカは「プルトニウムの拡散阻止」を非常に厳格な国策と
して掲げていますが、日本の場合は核武装をする可能性がないことで二国間の協定で
容認してきたわけです。

 ですが、日本が「脱原発」で「MOXは燃やさないし高速増殖炉の研究開発も止め
る」ということになると、これを見過ごすことはできないことになります。瞬時に日
米が緊張するということはないと思いますが、仮に第三国が「イヤミ」を言い始める
とアメリカとしては期限を切らざるを得ないことになるでしょう。

 この間に、安倍首相が国連総会で「非核三原則を国際社会に誓約する」とか、アメ
リカの核抑止力を間接的に支持する立場から見送ってきた「核兵器不使用宣言」に突
然加わったりしています。党内という意味でも、世論という意味でもタカ派的な勢力
に支えられている安倍政権が、極めて明確な「反核姿勢」を打ち出しているわけで、
一見すると不自然ではありますが、その背景にはこの問題があると思います。

 こうした「脱原発」と核政策の問題に加えて、核抑止力の問題があります。日米は
核抑止に関して、アメリカの「核の傘」に加えて「MD(戦略ミサイル防衛)」とい
う方策で自国並びに同盟国が核攻撃を受けることを抑止するという考え方を取ってき
ました。

 この「傘」と「MD」というのは報復力によって仮想敵の自制を促す一方で、万が
一先制された場合は撃ち落とすという二重の防衛体制であり、基本的にはアメリカと
その同盟国を包括して防衛する戦略だと言えます。ですから、「傘」と「MD」のカ
バーする範囲というのは重なっているわけです。

 欧州の場合は、基本的にロシアを対象に西欧をカバーすることになりますし、アジ
アの場合は中国の巨大な核兵力には「傘」と「MD」で対抗しているし、北朝鮮が核
ミサイルを完全に保有することを前提に、こちらに対しても「傘」と「MD」で対抗
しているわけです。

 ですが、一つ問題が出てきているのは韓国の動向です。冷戦期以来、日米と韓国は
事実上の軍事同盟として大きく歩調がずれることはありませんでした。ですが、ここ
へ来て韓国は、日米によるMDには参加を渋ってきています。理由としては、高額な
コスト負担の問題、そして北朝鮮に至近である韓国には余りメリットがないというこ
とで、とりあえずこうした動きを日米は静観しているわけです。

 この問題は、表面的にはそれ以上でも以下でもありません。ですが、仮に今後の韓
国の外交姿勢として、より中国に接近して日米に距離を置くようになるとか、北朝鮮
の核開発を曖昧なままにしておいて、仮に南北が統一した場合は「核保有国」になる
という選択肢を「数%だけ残しておく」という姿勢が顕著になるようですと、話は変
わってきます。

 勿論、この問題が深刻になるとしてもそれは、問題が現状よりもはるかに深刻かつ
顕著になった場合であり、現時点で日米と韓国の間で核戦略における緊張があるわけ
ではありません。ですが、このまま日韓関係が悪化の一途を辿るようですと、真剣な
調整が必要になってくると思います。現時点では、両国にはやや関係改善の兆しがあ
るので、このままズルズルと行くわけではないと思いますが、かと言って日米韓に中
ロを加えた五カ国が北朝鮮に「六者会合」の開催を迫るような「一枚岩」の状態から
は遠いわけで楽観はできません。

 日本としては、六者会合を復活させ、その一方でMDの枠組みに韓国が戻るように
持っていくことで、北朝鮮の核武装の意図を断念させるとともに、将来南北韓国が統
一された場合に朝鮮半島の非核化が保証されているという状態を実現させなくてはな
りません。

 こうした核戦略の問題というのは、そうは簡単に動かないように見えますが、例え
ばこの間、アメリカ社会が「政府閉鎖と債務上限」の問題で大騒ぎをしている間に、
オバマ政権は大きな2つの外交問題と向き合っています。一つは、イランのロウハニ
新政権による軟化を受けて、核開発に対する査察拡大を受け入れてきたことに反応し
て、「制裁緩和」の動きを開始しています。その一方で、エジプトの軍政に対しては、
軍事援助の打ち切りを決定するなど基本的には「緊張緩和を進めつつ、アメリカの関
与を軽減する」という方向で動いています。

 これは決して無視できない動きであり、シリアの化学兵器問題を最終的には「諜報
合戦での宿敵」ロシアとの外交で当面の落とし所へ落としたことと合わせて、オバマ
=ケリー=ヘーゲルの体制が動き出している証拠とも言えます。

 朝鮮半島を巡る問題に関しても、もしかしたらオバマ政権としては「緊張緩和」へ
と大きく状況を動かす方向で出てくるかもしれません。現状では日韓の関係悪化がネ
ックになっていますが、この点に関しても動いてくるように思われます。アメリカは、
今回の「債務上限、政府閉鎖」のバトルでも明らかなように、財政規律に関しては極
めて敏感になっています。

 そんな中で、軍事費の削減に関しては与野党の立場はかなり近くなっています。中
東への関与に関しては、民主・共和の両党に「関与を強力に継続すべき」だというグ
ループが存在しますが、アジアに関しては「もっとカネをかけて米国の覇権を維持す
べき」という政治的な勢力はありません。アジアにおける米国の軍事プレゼンスに関
しては「影響力低下は困るが、コストダウンは是非やりたい」というのは国策として
合意事項であると見て構わないでしょう。

 そうであるならば、宿命的な構造があり米国も深くコミットしている「日中」に比
べれば「日韓」については、関係が悪化することによる米国の不利益は明らかであり、
改善することのメリットも明らかです。この問題は、米国の対日外交のテーマになっ
てくると思われます。

 ところで、この欄でも何度かお話したように、ケネディ新大使は既に広島、長崎を
訪問していることを明言しており、もしかすると「オバマ大統領の広島・長崎献花」
の実現へ向けて動くかもしれません。安倍政権の首相による非核三原則発言、そして
核不使用宣言という動きも、これを後押しする格好になっています。

 ですが、仮に日韓関係が険悪な状態で、オバマの「広島・長崎献花」という話が進
むようですと、韓国側から反発の声が出る可能性があります。つまり、日本の軍国主
義を叩いた原爆投下は正義であり、アメリカ側が謝罪のニュアンスを持つ行動をする
ことには反対という種類の声です。

 残念ながら韓国ではこうした「史観」というのは以前からあり、そのために在日韓
国人被爆者への慰霊という行動も、長い間できなかった経緯があります。現在は広島
の平和公園の一角に在日韓国人犠牲者の慰霊碑がありますが、その建立に至るには紆
余曲折があったことが知られているのです。

 ですが、この21世紀の今日に、仮にアメリカ側でケネディ大使なりホワイトハウ
スから「大統領の広島・長崎献花」という動きが出た際に、韓国側から改めて反発が
出たとしたらどうでしょうか? この間、様々な歴史認識における応酬がある中で、
日本国内では「嫌韓意識」のようなものが広がりを見せていますが、それでも同じ西
側のイデオロギーを共有する中で、最低限の好意的なものは残っていた訳です。です
が、仮に韓国から露骨な形で「原爆投下肯定論」のようなものが噴出したとしたら、
日本国内の「嫌韓」が激しく反応してしまう可能性があります。

 ケネディ大使が仮に「オバマの広島・長崎献花」ということを真剣に考えていくの
であれば、またそれに安倍政権が応えてゆくのであれば、その際には日韓関係が現状
より改善しており、更に改善の勢いがついているということは必要条件になってくる
と思います。

 いずれにしても、日本をめぐる「核」の問題は、エネルギー政策で「脱原発を進め
るのか?」「その場合にプルトニウムをどうするのか?」「そもそも全原発の資産価
値を減算した場合に、電力会社の財務的基盤は維持できるのか?」という問題がまず
あります。そして「MDによる東アジアの核抑止力構築に韓国をどう組み込むのか?」
「北朝鮮の核問題に関して不拡散という原則を貫くためにどうしたらいいのか」とい
う問題には日韓関係の改善がどうしても必要です。

 ケネディ大使という人個人の役回りは、こうした「広義の核問題+日韓関係」とい
う複雑な方程式にいきなり首を突っ込むようなものではないかもしれません。ですが、
大使着任を契機として、また内政問題が一段落するのを待って、オバマ政権はこうし
た問題について日本とのコミュニケーションを強化してくると思われます。

 こうした点に関して、安倍政権は印象論としての右派政権から、事実上は中道政権
にシフトを始めたように見えます。求心力維持の観点から、日本国内ではそうした姿
勢を明らかにはしていませんが、やがて日本国内でも世論に対して、核戦略について、
そして日韓関係の改善について立場を明確にしてゆかねばならない状況になると思い
ます。

[12削除理由]:無関係な長文多数


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