中野重治と妻で女優の原泉。

社説 週のはじめに考える　私たちを侮辱するな(東京新聞)

2012年11月18日http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012111802000111.html

　見出しの「侮辱」とは極めて強い言葉です。ひどい扱いを受けた者の発する言葉です。政治にせよ、原発にせよ、私たち国民は、侮辱されてはいないか。

　手元に一通の手紙があります。学校で国語を担当されていた元先生からです。この夏、東京であった脱原発の市民集会に出かけた時のことが記されていました。

　こんな内容です。

　…何人もの演説の中、一番心に響いたのは作家の大江健三郎さんが述べた「私たちは侮辱の中に生きている」という言葉でした。

◆大江さんのスピーチ

　その言葉は、大江さんも紹介していたそうですが、福井生まれの昭和の作家、中野重治の短編小説にある文句です。中野はプロレタリア文学で知られ、大戦前の思想統制では自身も激しい国家弾圧に遭っています。

　その短編小説は、昭和三（一九二八）年、全日本無産者芸術連盟（略称ナップ）の機関誌に掲載された「春さきの風」。検挙された同志家族をモデルにしています。

　思想をとがめられた検束で父とともに母と赤ん坊も警察署に連行される。その赤ちゃんの具合が悪くなる。ろくな手当ても受けられずに亡くなってしまう。母親はもちろん医師を頼みましたが、無視された。理由のない平手打ちを受けるばかり。

　小説はそれらの動きを、きびきびとした文体で描き、最後は母親が留置場の夫に手紙を書く場面で締めくくられます。

　母親は砂を巻く春風の音の中、死んだ赤ん坊はケシ粒のように小さいと思う。そしてこう書く。

　「わたしらは侮辱のなかに生きています。」（「中野重治全集第一巻」筑摩書房より）

　中野重治が実体験として記した侮辱という言葉、また大江さんが原発に反対する集会で引いた侮辱という言葉、その意味は、もうお分かりでしょう。

◆デモクラシーの軽視

　権力が民衆を、国家が国民を、ほとんど人間扱いしていないのではないかという表現にちがいありません。

　つまり倫理違反なのです。

　先日、東京電力は、原発事故時のテレビ会議記録を新たに公開した。二回目の公開です。

　その中に自家用車のバッテリーを集めるというやりとりがありました。原子炉の圧力が上昇し、蒸気逃がし弁を動かすためバッテリーをつないで電源を確保しようというのです。しかも足りなくて買うお金にも困る。

　備えも何もなかったわけですから、社員らの苦労も分かります。しかし、これを知った福島の被災者らはどう思ったでしょう。

　東電も国も、その程度の取り組みと真剣さしかなかったのか。住民の守り方とはそのぐらいのものだったのか。言い換えれば、それは侮辱に等しいでしょう。

　侮辱は継続しています。しかもデモクラシー、民主主義の軽視という形で。

　原発で言えば、大飯の再稼働はろくな検証もなく、電気が足りなくなりそうだという理由だけで決まりました。国民の安全がかかわる問題なのに、これほど非民主的な決定は前例がないでしょう。

　沖縄へのオスプレイ配備も、米兵事件に対するその場しのぎの対応も侮辱にほかなりません。国家が人間を軽視しているのです。

　原発から離れれば、一票の格差を放置してきた国会とは、デモクラシーの不在も同然です。立法府だけではなく、最高裁が「違憲状態」と判示しつつ、違憲であると踏み込めなかったことは、憲法の番人としての責務を果たしえたか。疑問は残ります。

　今の政治には、ほとほとあきれたと多くの人が口にします。それはおそらくはデモクラシーの軽視に起因していることで、国民は自分の権利の蹂躙（じゅうりん）を痛々しく感じているのです。政治に侮辱されていると言ってもいいでしょう。

　その状況を変えるには、何より変えようという意思を各人がもつことです。デモや集会はその表れの一つであり、選挙こそはその重要な手段です。

◆戦うべき相手はだれ

　冒頭の国語の先生の手紙は今、自分の抱える恐ろしさをこんなふうに表していました。

　…（中野重治の）戦前と違って現代は戦うべき相手の姿が明確に浮かび上がらない分、かえって恐ろしさを感じます…。

　戦うべき相手は広範で、しかも悪賢く、しっぽすらつかませないかもしれません。政財官などにまたがる、もやもやとした霧のようなものかもしれない。

　しかし、こう思ってその相手を見つけようではありませんか。一体だれが私を侮辱しているのか、と。私たち自身の中にそれは忍び込んでいないか、と。投票の前に見つけようではありませんか。 　

コメント
01. 2012年11月19日 06:04:33 : jXaTmXcG3s 　もうすぐ崩壊する民主党政権だが、この「民主」という言葉を民主党所属国会議員達はどのように考えているのか？ 　彼ら政治家が「民主」という言葉を安易に用いて「政策を粉飾」してきた。 「民主党」より「政策粉飾党」が合っている。
02. 2012年11月19日 06:20:00 : ETzymnYtSk 中野重治なんか持ち出して、思わせぶりな。なにこれ？（笑） 「しかし、こう思ってその相手を見つけようではありませんか。一体だれが私を侮辱しているのか、と。私たち自身の中にそれは忍び込んでいないか、と。投票の前に見つけようではありませんか。」 　 東京新聞は、アメリカの新聞みたいに、支持政党を明らかにしたら？ その方が、こういう駄文を書くよりは、よっぽど国民のためになると思うよ。反対する人も、自分がなぜ東京新聞に反対なのか、具体的に考えを進める一助になるからね。 思考停止メディアの左翼的な格好つけ。それ以外の内容が全くない社説だね。
03. 2012年11月19日 07:27:18 : 57uSTKGRqk 拍手をします。
04. JohnMung 2012年11月19日 08:42:14 : SfgJT2I6DyMEc : yR9uivxSYU 02. 2012年11月19日 06:20:00 : ETzymnYtSk 　＞思考停止メディアの左翼的な格好つけ。それ以外の内容が全くない社説だね。 　　　　　↑ 　ID＝ ETzymnYtSk のコメには賛同しない。 　東京新聞の記者ではなく、ID＝ ETzymnYtSk が「思考停止」状態にあると推察する。
05. 2012年11月19日 08:47:01 : 01g8JRTuhE 東北電力が一番大きいバッテリーを持って行ったら、本店から来るから入らないと断られ、時間だけが過ぎヘリコプターでやっと届いたものの間に合わなかったと東北電力のひとから聞いた。原発事故は東電のプライドやエリート意識が起こしたものだ。侮辱の中で生きている…エゴイストのモロモロの権力者の下で。
06. 2012年11月19日 10:13:35 : 2e4zRHlgKo >>02 同意する。 東京新聞が言う「私たちを侮辱するな」の 「私たち」に「東京新聞」自身は含まれるのか？ 東京新聞が所謂、99％に含まれるのか？ そうは思ってないだろう。 この掲示板の多くのコメントに感じられる怒りを この文から感じとれるだろうか。 自分には感じられないのだ。 インテリのもったいぶったひけらかしにしか聞こえない。 少し前の「天声人語」そのものじゃないか。 自分たちは怒っているんだぞ。 インテリのそぶりはいらない。 阿修羅では東京新聞の評価が高いが 新聞テレビはすべて腐り果てていると自分は思っている。 腐り方が少ないからまだましだというのでは あまりにも情けないと思うね。
07. 2012年11月19日 10:45:24 : 7oRjaevU9M 東京新聞は脱原発だが、経済思想では社会主義でなく市場原理主義
08. 2012年11月19日 11:08:27 : Zcwfz3g8dU 侮蔑しつづけてきたのは、東京新聞も含めた気概のないマスコミです。 国民を侮蔑しても、これまで裁かれなかったのは、マスコミです。 今は、ネットでマスコミが侮蔑されている。
09. 2012年11月19日 11:35:11 : ABdV9ZgkGo 日米開戦上巻P341、1995 ISBN4-10-247201-0 トム・クランシー　訳者田村源二 彼のほんとうの望みは、少数の財界有力者たちの思いのままになる党による支配を 崩し、日本を真の意味での民主国家にすることだった。３０年前でも、腐敗の兆候 は目を大きくあけて見る者にとっては明らかだったが、二千年以上にわたって与え られたものをそのままうけいれることに慣らされてきた一般の人々は、それを容認 してきた。ここ日本では、真の民主主義は、つかみどころのない従順な水田の泥土 に植えられた稲よろしく、大地にしっかりと根をはらなかったのだ。日本に民主 主義が根づいたというのは真っ赤な嘘だった。それはあまりにも大きな嘘なので、 国の内外を問わず、誰からも信じられた。文化が真の意味で変化しなかったのだ。 むろん表面的な変化ならいくつもあった。たとえば女性にも選挙権が与えられた。 しかし女性は、これはどこの国の女性も同じだし、日本では男もまったく同じなの だが、金銭的利益のみを考えて投票してきた。さらに、日本の男も女も、さまざま な形で、すべての者に服従を要求する文化の一員なのである。結局、日本国民は 上から与えられるものを黙って受け入れるので、きわめて支配しやすいということ になる。 首相はそれを変えることは可能だと本気で思っていた。誰にも打ち明けなかったが 、本当に目指していたのは、祖国を根本的に変革するということだった。どういう わけか当時はそれほど大それたことには思えなかったのだ。政治家や官僚の腐敗を あばき、打ち砕くことによって、地位の高い者たちも服従を要求できるほどの人間 でないということを国民にわからせたかった。一般の市民にも、自分たちの人生や 政府を選ぶ良識や知力があるということを、自分たちの要求にしっかり応えてくれ る政府を選ぶ権利があることを、わからせたかったのだ。
10. 2012年11月19日 13:15:18 : FpcudWesAg 堂々と正論がかける東京新聞は信頼できる。段々ましな新聞がなくなってきただけに貴重な新聞。そのうちに圧力がかかるかもしれないが主張を通して欲しい。右だ左ではないのだ。自分の主張、ジャーナリズム精神を失わないことが大切なのだ。

11. 2012年11月19日 15:09:18 : irIG272ijY 砂を巻く春の嵐というのは放射能を運ぶ福島からの風という意味を暗示している 権力からの侮蔑と原発事故による汚染という二つの意味を古い文学作品から 見出す才能はさすがノーベル文学賞作家というところか 怖いことにこの作品には人間的な感情の麻痺という表現も含んでいるのだが こればかりは現実とリンクしてほしくないものだね
12. 2012年11月19日 21:47:41 : Eb8uULPm9g >>07 7oRjaevU9M さん ＞東京新聞は脱原発だが、経済思想では社会主義でなく市場原理主義 ほだからどったの？ 新聞だからそれぞれに独自の主義主張があって良いと思うよ。 ただここ一番国民の命がかかった時に真実を書かなければ新聞では無い。 無実の人を３年も陥れる記事を書き続けるのは新聞とは言わない。 　　　それはゴシップ記事、ゴミ珍聞と言う。
13. 2012年11月19日 23:31:44 : 7oSKGju5kA ＞ 自分たちは怒っているんだぞ。 ＞ インテリのそぶりはいらない。 そういう役割にあたるものは他にあるわけで、例えば赤旗とかね。 まあ機関紙ではあるのですけどね。 だから東京新聞はまた別に、彼等の編集権の中でその辺りの節制で動いて居てもまあ良いだろうみたいな思うですよ。 皆が同じ毛色で怒りを露にしているってのも其れはそれで気味が悪いわけで。 まぁ逆説的な言い方をすれば、今まさにクソ役立たずな大本営下血報道で足並み揃っちゃってる一群のマスコミがまさにその有様なわけで。 じゃあ、…まぁつまり、反原発サイドが同じスタンスでやってた日にゃ、そりゃそういうのの裏返し的な意味で不健康な物じゃないのかなみたいな思うですよ。 「こっち側」の報道ってのも「こっち側」のデモ同様、有象無象でいいんじゃないかなと思うです。 寧ろ其の方が自然な有様だし、スタンスが違い続けてる方が役割分担が機能もすれば、相互チェックも働き易い。 マスコミ全般が御用に走ってる中、健康さを保っている証左でないでしょか。 …と、ウチとしては好意的に受け取ってます。
14. 2012年11月20日 07:31:15 : PxDfaa2sd9 新聞も書く人が替われば変わってくる。 東京新聞も小沢氏の件では検察に利用されて風を吹かせていた。 結果的にそれに嫌気がさして購読を止めたわけだけれど最近は編集委員も替わりまともになってきている。 編集委員の能力によると思う。 脱原発応援でいいと思う。こういう新聞がなければいけない。 他の新聞が政官財に寄り過ぎているそちらのほうが異常だ。
15. 2012年11月20日 09:33:21 : n2c2R7mpd2 東京新聞はマスコミがゴミと化している今日、反原発を貫いている貴重な存在で す。小沢問題では弱点をさらしながらも、他の新聞、TVとは一線を画して検察の言 うがままにはならず、検察から出入りを禁じられていた。こういう新聞を盛りたて て味方にしていかなければ我々は孤立するばかりである。弱点があるからと攻撃す るのは愚者の所業といわざるをえない。
16. 2012年11月20日 11:57:54 : No3OwnXCZ2 戦うべき相手はだれ？ 植草さんがもう何万回も述べている。 未だにそれさえわからないとは、非常に悲しくなります。 それは、アメリカ。 もっと言えば、アメリカを建国前から支配し、今も軍事、経済、金融、政治を支配している 国際金融資本家達。 アメリカ人口の1%の彼らがアメリカを支配し、アメリカ政府を通じて日本の 官僚組織を支配し、政府を支配し、日本国民から搾取、侮辱している。 官僚に怒りを向ける気持ちはよくわかる。 でも、自分の心に目を向けて見てください。 アメリカを支配する人達に対する怒り、薄らいでいませんか？ マスコミに怒り、官僚に怒り、肝心要のアメリカを支配する人達に対する怒りが 綺麗に薄められている。 我々の生活を守り、命を守る為に戦うべき相手は、我々の敵は、国際金融資本家達。 その為、当面の敵は、彼らの指示で動いている民主、自民党、公明党、維新、みんなの党を 倒す事。 その後、官僚組織を、マスコミを解体的に改革し 、アメリカから独立する。 アメリカからの独立なくして、日本人の生活を守る事は経済成長の時代が終わった今、不可能になっているんです。
17. 2012年11月20日 16:30:15 : y70hllD9Ds 悪人が善人を侮辱するなど許されない蛮行である。邪な人間が正しい人間に対して侮辱するななど言うは偽善者の詭弁を用いるが如しだ！。
18. 2012年11月21日 08:24:20 : 7oSKGju5kA 純化は怖いな
19. ozappaer 2012年11月21日 09:09:21 : Mg33Iasvtit4M : ifsXOUAZKQ >１６さん アメリカにとって日本は、ミルク。稼がして収奪する対象。韓国は北に対する防衛線。アメリカのやることは全部こんなのばっかり。 話は違いますが、制御電源喪失でベント弁が開かなかったって？　制御電源喪失したら、何も操作できなくなる。したがって、緊急ベント弁は、電源喪失で開になるように設計するのが化学プラントの常識。それすら知らないのかしなかったのか、国、東電は、安全なんて何も考えていないです。
20. ozappaer 2012年11月21日 09:22:43 : Mg33Iasvtit4M : ifsXOUAZKQ 追加です 計装空気配管が破損したから、ベント弁がひらかなかったって？　制御電源と同じで、計空がなくなったら、緊急ベントが開くように設計するのが常識。これも、国、東電が技術力がない、安全なんて真剣に考えていないということです。 NHKの特番では、「７０ｍもの配管が一番強度が低いクラスで作られていました！」とかやってたけど、７０ｍなんて珍しくもなんともないし、基準の範囲で一番低いクラスでで設計していても、全然驚かない。なにかあったときに、正しい制御が行われるように設計しなければ、一番高いクラスで設計しても、壊れるときは壊れますからね、意味がないですからね。NHKに出てくる専門家なんて、現場を知らない研究屋さん。

21. ozappaer 2012年11月21日 14:31:19 : Mg33Iasvtit4M : ifsXOUAZKQ また、追加 NHKの特番の再現フィルムで、ベントを開いても圧力が下がらないと作業員が叫んでいるシーンがありますが、あんな縦型の圧力計なんてないですよ（ごく例外的にはありますが、原発ではありえないでしょう）。だいたい、原子炉の中の圧力を、どうやれば、あんな計器で指示できるのか？　原子炉の内気をチューブを計装室まで引き込んでいる？　ありえませんね。電空変換で計装室に電気信号で引き込んでいるなら、あんな圧力計はあり得ません。あの特番は、東電監修の嘘ばっかりと考えた方がいいと思いますね。

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