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つくられた「避難弱者」 高齢者福祉施設の過酷な避難生活から得た教訓
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/428.html
投稿者 SRI 日時 2013 年 10 月 17 日 00:53:33: rUXLhToetCnYE
 

つくられた「避難弱者」

高齢者福祉施設の過酷な避難生活から得た教訓

2013年10月17日(木)  田中 太郎

福島原発事故は、寝たきりや車いすでしか移動できない高齢者に過酷な避難を強いた。老人ホーム(高齢者福祉施設)の利用者と、家族の安否もわかないまま介護に尽くす職員たちの姿を追った『避難弱者』の著者、相川祐里奈氏にこの事故からどのような教訓を学ぶべきか聞いた。
(聞き手は田中太郎)
相川さんが『避難弱者』を書いたきっかけは、「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(国会事故調)に参加されたことだそうですね。そもそも、国会事故調に参加したのはなぜだったのでしょうか。

忘れられない悲しい表情


相川祐里奈(あいかわ・ゆりな)
1986年愛知県生まれ。2010年に慶應義塾大学総合政策学部卒業後、読売新聞社に入社。2012年3月、「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(国会事故調)に事務局調査員として参加した。現在は、フリージャーナリストとして活動するほか、著書『避難弱者』をテーマに講演などを行っている(撮影:鈴木愛子、以下も)
相川:東日本大震災が起きた当時、私は読売新聞の記者として石川県の金沢支局で警察取材、いわゆるサツ回りを担当して1年ほどたった頃でした。震災後の4月に東京で被災地への電話取材をすることになり、福島県の南相馬市に電話をかけ続けていたのですが、現場を取材したいという気持ちが強くありました。そんな時に、デスクから「福島県に行かないか」と言われ、5月から6月にかけて約2週間、現地取材をすることになったのです。

 福島第一原子力発電所から20キロメートル圏の警戒区域は立ち入りが禁止されているため、その周辺の南相馬市原町区で人々がどのように暮らしているのかを取材しました。この地域は、急に避難できない高齢者や妊婦などが住んではいけない緊急時避難区域に指定されていました。3月15日に市長が避難命令を出してから多くの住人が避難し、私が行った5月になっても町は人影を失っていました。そんな中で、避難所で生活している人や市内に残って住人のケアをしている市職員にお話をうかがいました。

 その頃、宮城県や岩手県では復興の兆しが見えてきていましたが、かたや原発周辺の南相馬市では放射性物質の汚染の影響で全く復興の兆しが見えない状況でした。沿岸部にはがれきが残ったままで、警戒区域内には亡くなった家族の遺体も探しに行けないという話でした。しかし、取材した方々は自分を鼓舞するような笑顔で、空元気とは言わないけれど、びっくりするくらい明るく接してくださいました。でも、ふとした時にすごく悲しい表情をされるのです。その表情が目に焼き付いてしまいました。

 その人たちの絶望感とどうしようもできない状況を目にしてしまって、「このまま石川県に帰って普通の生活を続けてもいいのだろうか」という気持ちが自分の中で大きくなりました。それが福島にかかわろうと思った大きなきっかけです。

 そんな時に、親友から国会事故調が人を探していることを聞き、紹介してもらったんです。

国会事故調の事務局調査員は様々な内部資料に触れるため、それまで所属していた組織を辞めることが参加の条件だったそうですね。


相川:新聞記者になることは学生時代からの夢だったし、仕事の継続性を考えたら新聞記者を続けた方がよかったのですが、「今起きていることが本当はどうなのか」を知るには、国会事故調に参加することは2度とないチャンスなのだろうと考え、決断しました。2012年3月から9月まで国会事故調で、原発事故は実際にどのような被害を生んだのか、その背景は何だったのか、関係者にヒアリングし、地元の人たちの声を集め、報告書にまとめる作業を担当しました。

その経験が『避難弱者』を書くことにつながったのですね。

相川:そうです。取材で知り合った福島県社会福祉協議会老人福祉施設協議会の人たちも今回の経験を本として残したいという思いを持たれていて、その協力で本を書くことができました。

避難所で亡くなっていく高齢者

この本では、福島県内の高齢者福祉施設の職員の方たちに避難当時の模様を取材しています。自分も被災者であり、家族の心配もしながら、福祉施設の利用者の命と精一杯に向き合い、施設長はリーダーシップを発揮する。自分が同じ立場になったら、こんなふうに行動できるのか、という思いを突き付けられながら読み進めました。

相川:私も取材している時には同じような思いの連続で、本当にこの人たちのように守れるのか、正直自信が持てないなと思いました。

最初の章に登場する富岡町の養護老人ホーム「東風荘」の施設長、志賀昭彦さんの話が私は印象的です。震災当日に休暇を取っていた志賀さんは利用者や職員たちを心配して、自宅で寝たきりの母親を連れて施設に向かう。それから警察や行政の職員に追い立てられるように集会所、イベント施設へと避難が続く。

相川:東風荘では避難の途中で利用者3人が亡くなっています。高齢者福祉施設の利用者が避難することがどれだけ大変なのか、こうした原発事故による避難がいかに事前に準備されていなかったのか、この章を読むとよく分かると思います。

本の中には「野戦病院」という言葉が何度も出てきます。高齢者福祉施設の利用者は通常時でも移動に困難が伴う人が多いうえに、突然の大災害で何の準備もなく、行政は混乱して指示が次々に代わってしまう。先の見通しも立たないまま、過酷な避難生活を送らざるを得ない利用者や職員たちがどのような思いだったのかは、想像もつきません。

相川:浪江町の特別養護老人ホーム「オンフール双葉」では、避難もままならない状況でした。施設長の吉野和江さんは、警察や町役場の職員にかけあい、避難用のバスが来ると何度も聞かされながら、そのたびに「裏切られる」という事態に直面していました。最後は自衛隊の中隊長の腕をつかんで“人質”にとり、バスを手配させました。自分の家族の安否が分からない中で、利用者たちのためにあらゆる手を尽くす姿勢は本当にすごいと思います。

物資が不足する中で同業者からの支援

大熊町の特別養護老人ホーム「サンライトおおくま」は避難先が新築の工場だったそうですね。寒い工場で十分な水や食料はなく、オムツなどの介護用用品も不足して排泄処理もままならない。そこで、知り合いの施設に支援を求めた。それに全面的に応じて、会津地方のすべての特別養護老人ホームに声をかけ救援物資を集めた「会津みどりホーム」の施設長、小林欽吉さんの話はとても印象に残りました。同業者同士の助け合いがすごい。

相川:そうなんです。会津みどりホームが派遣した3人の職員が工場にいるサンライトおおくまの人たちの様子を見て愕然とし、涙で前が見えないぐらい悲しい気持ちで会津みどりホームに戻り、事態を報告しました。そこから小林さんが動き始め、助け合いの輪が広がっていきました。会津でも救援物資がなかなか入ってこない状況の中でです。

それにしても、どの施設でも職員の方たちの献身的な姿勢は驚きです。不眠不休の状況で介護を続けている。「被災を言い訳にしてサービスの質を落とさない」という言葉がとても印象的でした。

相川:利用者と家族のように接していますよね。この業界は周知のように離職率が非常に高いのですが、その中で中堅職員になった人たちは非常に人柄が良く、しっかりしていらっしゃいます。その背中を格好いいと思ってついていく若手職員も多いのではないでしょうか。

ただ、家族と避難しなくてはならないなどの理由でやむなく施設を辞職した人もかなりいたようですね。


相川:家族と施設利用者と一緒に避難はできないですからね。正解はありません。妊娠が分かって施設を辞めた職員の話を書くところは一番つらかったです。職員が施設を辞めて避難したことを批判的に言われる面が多いのですが、避難するまでにはいろいろな葛藤があったことをぜひ分かってほしいです。そして、残るか避難するかを個人に判断させることがいかに残酷なことかを知ってほしいと思います。

震災後も不完全な防災計画

 だからこそ、災害時に慌てて避難しないという選択肢も含めて、高齢者福祉施設をどう安全に避難させるかの計画を立てる必要があります。震災後に全国の原発から30キロメートル圏内の157自治体は、避難計画を含めた地域防災計画を立てなければならなくなりました。しかし、高齢者福祉施設の避難は施設独自で行うと記載しているところがほとんどです。一部には自治体と調整するとありますが、急速に進展する事態に直面したその時になって本当に調整して動けるのかどうか。

 国会事故調報告でもふれられているように、国際原子力機関(IAEA)は、原子力安全対策として5層の深層防護という考え方を提示しています。(1)異常が発生しないようにする、(2)異常をすぐに修理する、(3)炉心の損傷を防ぐ、(4)炉心が損傷しても周囲への影響を緩和する、(5)周辺住民を避難させる。この5層にわたってあらかじめ達成可能な防護を尽くすことが重要とする考え方は世界の常識なのです。


出所:国会事故調報告書
 福祉施設の高齢者は災害時には、本当に行き場がありません。例えばホテルに避難するといっても、介護する職員がいなければ避難できないのです。県外施設などに避難できるように事前に調整しておく必要があります。

 タイトルについては、全面的なご支援をいただいた福島県老人福祉施設協会の皆さんとご相談して決めました。「災害弱者」とは災害時要援護者。すなわち、災害時に自力で避難することが困難な方のことを指します。しかし避難しなければならない時に事前の徹底した備えがなければ避難しようにも避難できない。「避難弱者」は人の不作為によってつくられます。そのような思いを込め、タイトルにしました。

今後はどんな活動をしていくのですか。

相川:今は『避難弱者』で書いた内容を講演や執筆などで伝える活動をしています。以前、このコラムに登場した石橋哲さんが中心になって有志の学生や社会人とともに進めている「わかりやすいプロジェクト 国会事故調編」にも参加しています。勉強会やワークショップ、講演、国会事故調の内容を分かりやすく伝える動画の作成など、福島原発事故とその後の経緯から何を学ばなければならないのか、1人でも多くの方と共有し、一緒に考えることに取り組んでいきたいと思っています。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20131016/254656/?ST=print
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