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善良で熱心で迷惑なハエ男たち そして、寡黙で頼りになる一流の男たち 遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」
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投稿者 rei 日時 2015 年 6 月 12 日 10:29:00: tW6yLih8JvEfw
 

善良で熱心で迷惑なハエ男たち

そして、寡黙で頼りになる一流の男たち

2015年6月12日(金)  遙 洋子

(ご相談をお寄せください。こちらのフォームから)

 ご相談
会議で意見を述べるたびに、男性上司が微妙に苛立つのを感じます。女だからと発言を遠慮するつもりはないのですが、毎度イライラが伝わってくると、こちらも疲弊してきます。気をつけるべきことなど、ご教示いただければ幸いです。(30代女性)

 遙から
 前回に引き続く話になるが、甲子園で始球式を体験してきた。今までメディアの立場で球場内に入ったことはあるが、ほかならぬ自分がマウンドに立つために、ユニフォームを着てそこに居るとなると、途端に風景が変わって見えた。

 想像と、やってみるとでは天と地ほどの違いがあった。この経験で遭遇した数々の新たな発見について今回は書いてみたい。

私、においます?

 まず「甲子園で始球式に出してもらえる」と公表するだけで、おっそろしい数の男性たちが「教えてあげる」と近づいてきた。

 ムゲにできない理由はそれが善意であるからだ。でも私はすでに元阪神タイガースのプロの投手にピッチングのコーチをお願いしている。それも全員承知している。でもやってくるのだ。それこそもう、好みのにおいに誘われたハエたちが一斉に集まってくるように「俺が教えてあげる!」と。

 私を女だからと舐めているのか、元プロ投手のコーチの存在を舐めているのか、野球をやった経験のない人までが「教えてあげる」とやってくる。数? 無数だ。もう無数としか言えないほど次々とやってくるのだ。

 この現象で、それほどまでに野球好きの男性が多いことを改めて知った。まあ野球経験者が自分が投げたくって仕方がない気持ちを"教える"行為で代替するという気持ちはわからないでもない。しかし、明らかに運動と縁がないような男性までも教えにきた。私には"珍現象"としか思えない事態だ。

 つまり今回判明したのは、男性がとても"教えたがり"な生き物であること。でも、私にはハエのようにしか感じられなかった。

 このハエ騒動で一番困ったのは、自主練ができないことだった。元プロ野球選手に教わるのと、それを自主練で身につけることは別モノだった。一人の時間がほしかった。だが、グローブをはめ、構えたとたん、それを偶然見た男性が「教えてあげる」とやってくる。

 婉曲に「大丈夫です。プロに指導してもらっていますから」と断っても、教えたくって仕方がない男性は、私の練習をじっと見つめ、口を出してくる。断られてもその場を離れず、「違う。こう投げるんだ」と、自分が投げるフォームをする。

 私が最もしたくてできなかったこと。それが自主練だった。教わったフォームを身体で覚える行為がことごとくハエによって邪魔された。いまだに悔やまれてならない。あのハエ男どもめ。

マネジャーよ、おまえもか

 ようやく本番の日を迎え、甲子園に移動中、助手席に座る男性マネジャーが私に言った。

 「いよいよ本番ですね。最後に教えてあげますね。投げる時に…」

 私はハンドルを握る両手でそのまま男性マネジャーの首を絞めてやろうかと思った。

 その洗礼は球場のベンチに入っても終わらなかった。緊張感漂う試合前のベンチに入ることを私は許された。コーチたちや過去お世話になった球団関係者にご挨拶することが、私にとってのベンチでの最優先行為だった。

 だがやってくるのだ。ハエ男が。

 とても無邪気に顔見知りの男性が(たぶん関係者かと思う。なんせベンチに入れるのだから)、「いいかい? 投げる前にこうやって…」と、ピッチングフォームを"頼みもしないのに"やってくれるのだ。善意だから無視もできず、が、その時間の長さに私の最優先行為の"ご挨拶"ができなくなった。

 私が依頼したプロのコーチは、教えるべきタイミングで、教えるべきことを教えてくれた。ハエ男たちは「俺が俺が」と教えようとたかってきた。プロとアマの違いをご理解いただけようか。

 一度でも甲子園を本気で目指した男性や、プロ、元プロで現在コーチ、の方々は不用意には教えようとしなかった。元プロのピッチャーで現投手コーチの前で、「いいかい? こうやって…」と私に教えてくれる男性を、彼らはにこにこと黙って見ていただけだ。

 本気で、本当に野球をやってきた男たちは、自らは教えようとしない。それが発見だった。

処刑台へ、ようこそ

 時間が迫り、ブルペンでの最終ピッチング練習に案内された。

 土が盛られたマウンド。「こんなに高い山なのか」と驚愕した。ブルペンの静けさは壁ひとつ向こうの球場の喧騒とは断ち切られた空間だ。そんなこと、過去に取材した時に知っている。だが、自分がそこで登板直前の練習をするとなると、違った空間になった。

 後に、そのブルペンもマウンドも経験した元投手である私のコーチから聞かれた。

 「ブルペンに入って何を感じた?」

 「…屠場みたいだと感じました」

 コーチの返事は意外なものだった。

 「正しい。僕は処刑台だと感じてきたから」

 これからとんでもない修羅場に引きずりだされ、死ぬ気で球を投げる前の静けさを体験した男性の言葉と、私の感想が一致した。

 「では最後の練習を…」と球団に促され、また驚いた。
 「キャッチャーは?」
 「おりません」

 しまった!と思った。球は硬球か軟球か、など想定できる確認はしてきたはずが、まさか直前練習にキャッチャーがいないとは。

 「どうしよう」

 その時、やにわに同行している撮影スタッフが声をあげた。

 「僕がします。僕、元野球部でしたから」

 彼もまた、ただの一度も私に教えようとしなかったタイプの男性だった。だから野球部だったことすら私は知らずに長年仕事してきた。

 能ある鷹は爪を隠す現実を目の当たりに、感動の思いでピッチンング練習ができた。

 あとは、本番で死ぬ気で投げるだけだ。

厚み5倍の男たちの聖地

 コーチがよく指導時に言った言葉だった。

 「死ぬ気で投げろ」

 繰り返し言った。それは、その人自身がまさしく死ぬ気で投げてきたから吐ける言葉だと思った。

 ブルペンの練習が終わり、球場の廊下を歩くと幾人もの野球解説者たちとすれ違う。

 「今日、投げるんだって?」と微笑んでくれるその肩の厚みは私の5倍ほどある。そもそもはこんな肩の人がやる行為なのだ、と、私はすくみ上った。

 球団の人が言う。
 「練習には汚れた球を使いますが、本番では新品を使います」と背広の胸に収めた球をチラと見せてくれた。「さわらせて」と頼んでも、なかなか承諾してくれない。すべてが、彼らにとっては神聖な行事であり儀式であり、甲子園は野球の聖地なのだと改めて感じた瞬間だ。

 ある投手には「マウンドには魔物がいるからね」と言われ、ある投手には「思っている以上に緊張するからね」と釘を刺されていた。

 撮影スタッフやら関係者やらに囲まれて押されるように移動し、押されるがまま私の名前が呼ばれ、手を振りながらマウンドに登場することになった。

 気がつけばマウンドだ。360度に客の入る中心部に初めて立った。360度の人たちにクルリクルリと回ってご挨拶をした。途端に、正面がどこかわからなくなった。

 球場にはトラッキー君とラッキーちゃんがいる。キャラクターだとわかっていても思わず聞いた。

 「どこに向かって投げればいいんですか!?」

球は届き、内筋は切れた

 笑顔だが、私自身、顔面蒼白だった。

 キャッチャーを指さされ、そこに向かって、"死ぬ気"で投げた。

 それたが球は届いた。

 太ももの内筋が切れ、翌日は広範囲の内出血となった。

 後にコーチにそれを見せると、「僕もよくそうなった」と言われ、いかに"死ぬ気"で投げたかの証明に、結果としてなった。

 後に局のスポーツ部から言われた。

 「甲子園は他の球場と違います。他はある意味コンサート会場。でも甲子園は野球の聖地とも言えます。相撲の土俵と似ています。だから甲子園だけはあまりチャライ芸人さんとか、こんな言い方は失礼ですが、女性は立たせてもらえることが少ないのです。遙さん、よく立てましたね。スポーツ部では、そう見ています」

 本気で甲子園を目指し、ずっと黙って私を治療し続けてきてくれた青年から聞かれた。

 「…マウンドはどんな土でしたか」

 そう。これが本気で野球をやってきた人の質問だと胸に熱いものが走った。

 「とてもきれいな土だった。硬すぎず柔らかすぎず。今まで見た土の中で一番きれいだった」

 「そうですか」

 聖地…って、あるのだと思う。聖地感覚というか。宝塚だっていわば女の聖地だ。そこに男性客が行儀悪くいるだけで私なんかは「チッ」と思う。でも聖地であることを自覚し、女性の邪魔にならぬようそっと堪能する男性がいれば喜ばしく思う。

 思えば、仕事、ということそのものが過去は男性の聖地だった。そこに女たちが踏み込んだ途端、「チッ」と思う男性もおり、あるいは「僕が教えてあげる」とハエ化する。それらの現象は「僕の聖地」感覚がそうさせるのではないかと思う。邪魔だとするか、ようこそと歓待するか。その根っこは「僕の聖地」だ。野球などそのいい例だ。

ハエ男は振り払え

 管理職の会議室もまた男性の聖地だった。そこでの女性の発言に波風が立たないわけがない。

 何といっても聖地なのだ。男性の聖地なのだ。だから男性全員がその聖地を守るために必死…か? そうではない。

 ざわついているのは、そこを「僕の聖地」と勝手に決め込んで、そこでは自分こそが正義と考える人たちだ。「チッ、僕と違う人は入るなよ」と排除の論理を振りかざす人は、ある意味わかりやすい。

 厄介なのは「教えてあげる」と笑顔で近づいてくるハエ男だ。一見優しげだが、しかしその実は「教えてあげるから、僕のルールに従いなさい」と服従を迫る。そこで服従しなければ、排除だ。

 でもよくみれば、そうではない人たちもいる。真摯に扉を叩く者には、真摯に遇する。一流の人たちは、そこが「僕だけの聖地」などではないことを知っている。そこを大切に思う者たちにとっての大切な場所であることを知っている。

 女だからといって排除せず、不用意に介入もしない。彼らは静かに見極めている。あなたが真摯に発言するのなら、ハエ男などは振り払い、話すべき相手を見極めて堂々と伝えてほしい。


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このコラムについて
遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」

 働く女性の台頭で悩む男性管理職は少なくない。どう対応すればいいか――。働く男女の読者の皆様を対象に、職場での悩みやトラブルに答えていきたいと思う。
 上司であれ客であれ、そこにいるのが人間である以上、なんらかの普遍性のある解決法があるはずだ。それを共に探ることで、新たな“仕事がスムーズにいくルール”を発展させていきたい。たくさんの皆さんの悩みをこちらでお待ちしています。
 前シリーズは「男の勘違い、女のすれ違い」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150610/284111
 

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