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心に残った「死」の展示について 研究室に行ってみた 国立歴史民俗博物館 日本の葬儀と死生観  
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/661.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 5 月 21 日 12:20:52: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

心に残った「死」の展示について

研究室に行ってみた

国立歴史民俗博物館 日本の葬儀と死生観 山田慎也(6)
2016年5月21日(土)
川端 裕人
いま日本の葬儀が急速に変わりつつある。と同時に「死」の受け止め方も変容しており、日本の葬儀と死生観はある意味で混乱期にあるという。民俗学の立場から、日本の葬儀と死の受容を見つめ続ける山田慎也先生の研究室に行ってみた!

(文=川端裕人、写真=内海裕之)

国立歴史民俗博物館。
 山田さんが勤務する国立歴史民俗博物館は、その名の通り国立の博物館なので、大きな常設展を持っている。第1から第6まである展示室のうち、第4展示室が「民俗」をテーマにしたものだ。平成25年3月にリニューアルされたばかりなので、新しい民俗学のありようを示しており、新鮮だ。

形を変えつつ脈々と

 たとえば、エントランスから入ったところには、「2009年の年末にデパートで販売されていたおせち料理の複製」が展示されている。「デパートのおせち」のどこが民俗学なのか、とこれまでのイメージからするとピンと来ないかもしれない。でも、展示解説によれば、「現代社会における民俗について考える観点から、産業開発や消費文化の影響を受けつつ変貌する民俗」ということだ。今回、山田さんから伺った葬儀の話も、遺影の話も、まさにそういうタイプの民俗学だった。


 おせち料理といえば、日本の正月にかかわる伝統であり、それがデパートで売られている様子を調べてどうして民俗学? というふうな気もするかもしれないが、そもそも、おせち料理が今のようなさまざまな料理の重詰めになったのは、明治時代以降だし、それが普及したのは第2次世界大戦以降、デパートの影響もあったと聞いたことがある。民俗は変化するものであり、その変化のダイナミクスを追うのも民俗学だと、高らかに宣言するコーナーのように思えた。

 以下、そのような視線で、山田さん自身が関わった展示を見る。たくさんのトピックの中から、心に残ったものを取り上げるので、まとまりがなくなるかもしれないが、「こんなこともある」という認識は、将来を再編成(リアレンジ)する時に有益なはずだ。唯一無二、絶対無敵の「伝統」があるわけではないけれど、形を変えつつ脈々と流れていくものはあるかもしれず、ひたひたと感じ入った部分が伝わればと思う。


もちろん、古典的な民俗学の展示も充実している。こちらは「おそれと祈り」の「妖怪の世界」のコーナー。

ナショナル ジオグラフィック日本版2016年4月号でも、独特な葬儀と死生観をもつトラジャの特集「インドネシア 亡き家族と暮らす人々」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。フォトギャラリーはこちらです。
 命の認識をテーマにしたコーナーで「望まれない命」というコーナーには、水子供養の地蔵が置かれていた。これまで葬儀の話が中心だったけれど、ここは生まれることがなかった命の話から説き起こしている。


「──元々、日本は堕胎に関しては、抵抗感はなかったんですよね。農耕社会って、間引いて当たり前で。でも、明治以降、医療が進み、ヨーロッパ社会との交流が深まる中で、規制されていくんです。一方で、第二次世界大戦後になると、優生保護法で経済的中絶が認められる。当初は、胎内を出て命を維持できない期間なら中絶できることになっていたので、かなり成長して赤ちゃんの姿になっているのに堕胎する場合がありました。医療関係者には、すごい抵抗感があったそうです。だから、胎児の供養を始めたのは、医療関係者なんですよ。医療の技術の発達で、命の始まりの認識が先鋭化していくという」

命の始まりと可視化

 医療関係者から始まった水子供養は、1970年代になると水子専門の寺院が出るなど一般化する。それどころか、「水子のたたり」などというものが、女性誌を中心に語られた。その時はぼくも十代だったので、怪談の一種のように「たたり」の話を「消費」していたような気がする。

 ところで、山田さんは「医療の技術の発達で、命の始まりの認識が先鋭化していく」と言った。中絶手術が「水子」という「生命」を見出した経緯を指すのだと思う。しかし、さらに象徴的な一葉の写真が展示に添えられていた。胎内を写した超音波エコーの写真だ。

「2007年にたまたま、村境の地蔵堂の調査を行ったときに見つけて撮っておいたものです。医療が進む中、だんだんと超音波検査が発達してきて、胎児が可視化されてくると、我々も命の始まりがいつかっていうのをどんどんさかのぼっていく。今のES細胞で倫理問題が生まれるのも、結局、命の認識をどこに見出していくのかというところですよね。堕胎なのか、流産なのかわからないけども、エコー写真を遺影とみなす。つまり一個の死者の人格としてみなすっていうのが、医療技術の発達で出てくる。そういうことです」

 伝統的な葬儀について、大きな展示があった。

 今はほとんど見られない「葬列」の写真が大きく掲げられている。山田さん自身が和歌山で撮影したもので、とても思い入れが強いコーナーのようだ。


奥の写真がその「葬列」。
「1994年の調査で撮影したものです。葬列というのは、遺体を運ぶ、あの世に送る儀礼であるとともに、社会関係の再編成の場であるんです。位牌を持っている人を中心にして、死者からだんだん遠くなっていく。誰が列のどこにいて何を持つかによって関係が明白化されて、親族関係を再編成し、認識していく場であった。葬列はすごい重要な機能を持ってたというのが、展示の趣旨です」

座棺、供養絵額、死絵

 ただし、このような葬列を行うには、遺体を持ち運べるようにコンパクトにしなければならない。和歌山では、いわゆる座棺が使われたが、これが結構、今の感覚ではええっというものだ。

「当時、葬儀を手伝っていたおじさん達に聞くと、みんな一度自分で入ってみてるんですよ。お尻からスポッと。そうすると、抜けなくなるんです。それほど狭いんです。じゃあ、現実、遺体をどうやって収めるかというと、膝から首にかけて、グッとさらしで引きつけて、ゆわいて、膝を体に思いっきりつけて、首を押して折って入れないと、入らない。さすがに遺族にはできないので、近所のおじさん達がやるっていうのが役割だった。それが、だんだんと共同体で送り出す葬列がなくなって、単に別れを告げる告別式が浸透していくっていうのが流れです」

 これが1994年のことだ、ということを心にとどめていただきたい。

 本編でも話題にした「遺影」の前段階として、「葬儀絵巻」を挙げたけれど、実はそれだけではない。寺社に飾られる「供養絵額」というものもある。

 そのうちの1つを山田さんは指差した。


「これは岩手県の遠野を中心にしてあるんですけど、基本的には、不幸な死者を集めて描くものです。ある人が亡くなったときに、その前に相次いで亡くなった夫婦と、さらにその前に亡くなった子どもを一緒に描き込んでます。死後もこんなふうに幸せであってほしい、というように。天寿をまっとうした人は、このような絵額は描かれないんです。不幸にして亡くなった人たちを供養するためのものでもあったわけです」

 そこに、明治時代、別の要素が入り込む。


「まずは、日清戦争の頃の戦死者なんです。よく見てほしいのですが、絵の中で座敷に入っていないんですよ。ある意味、出征の姿を絵にしている。それは、顕彰の視線なんですね。典型的な明治の軍人、もしくは政府高官の肖像写真の撮り方。それを一緒に描き込んでいる。これが日露戦争の頃になると、肖像画、もしくは写真に変わってしまうんです」

 これは戦死者に対する国の顕彰へと繋がるまなざしだ。

 そして、顕彰の考えは、国が「国葬」をしなくなった後も(最後にして「戦後唯一」の国葬は吉田茂だそうだ)、「社葬」がバブル期あたりまではよく行われていた、という話にもつながっていく。

 さらに、この供養絵額に影響を与えたと考えられる、いわゆる「死絵」の話題になった。

「役者が亡くなったときに出した浮世絵です。面白いのは、基本的に死装束とか、死後の姿を想像して描くんですね。やっぱり死後もこうあって欲しいみたいな、さっきの供養絵額と同じような世界があることです。葬儀写真集にかわると、この文化は下火になる。かろうじて昭和初期ぐらいまで続くんですけど。最後は昭和10年の初代・中村鴈治郎です。遺影になると、死後の存在とは言いながらも、あくまでも生前の姿なので、そのあたりで、死者に対するベクトルの向きが大きく変わったと」

 石原裕次郎がなくなっても、死後の世界の裕次郎を想像した絵が描かれ、流通することはなかった。やはり、今から考えると、なにか異質なものがここにはある。

 なお、この手のもので、一番の人口に膾炙したのは、江戸時代の八代目・市川團十郎だ。

 人気も絶大だったし、亡くなり方としてもセンセーショナルだった。

「八代目團十郎は自殺しているので、書き置きをしてる図とかがあります。あと、絵を前に女性が嘆き悲しんで、雌猫まで泣いている。尼さんも泣いている。閻魔と首っ引きをして、女たちが応援してる絵とか。女の人が爪をなめたりとか、股をまさぐってるとかそういうのもあります」


猿白院成清日田信士こと八代目市川団十カ死絵  国立歴史民俗博物館蔵

猿白院成清日田信士こと八代目市川団十カ死絵  国立歴史民俗博物館蔵
 そして、やっと現代にたどり着いた。

 簡素でモダンな印象のラックに、葬儀に関連する様々な物や写真が展示されている。


「今のことについては、あえて簡単に展示を変えられるように作っています」と山田さん。

 ラックの中に入れる形式だから、新しい動きが出てきた時に簡単に変えられるようになっているわけだ。

トートバッグで隠す

 現時点の展示の中では、樹木葬・散骨・手元供養といった、最近、よく聞く「送り方」を示すものが並べてあった。そして、特に目についたのは、なんと、トートバッグ。


「火葬場から遺骨を持って帰るときに、人に見られると不快感を与えるかもしれない、ということです。この感覚は、そんな古いもんじゃないんですよ。80年代ぐらいだと、電車とかで遺骨を抱いてる人は普通にいました。風呂敷にはくるんでましたけど。今はむしろ自己規制で、骨壷を持っていると分かる状態で歩いたら、まわりは嫌なんじゃないか、と。それで、こういうトートバッグの需要が出てくる。つまり、死者を隠す、自分以外の者はもう嫌なんだっていう感覚です。これはやっぱり社会的に『死者がいる』という感覚が、急速に狭まって、家族以外はもう嫌だというのとつながっていってるという点で、あえて展示したんですね」

 再び、死への感覚についての、現代的な課題が出てきた。

 死が、葬儀が、家族化、個人化、孤立化する21世紀、山田さんが関わってきた民俗学的な知見をどれだけ活かしていけるだろうか。知らなかったことをさまざまに可視化していただきつつ、重たい課題も同時に可視化され、ぼくたちに投げかけられたのだと思う。


おわり

国立歴史民俗博物館 総合展示室

開館時間:9時半〜17時(10-2月は16時半閉館)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜(祝日の場合は開館し、翌平日閉館)、年末年始
住所:千葉県佐倉市城内町117
http://www.rekihaku.ac.jp
山田慎也(やまだ しんや)
1968年、千葉県生まれ。国立歴史民俗博物館准教授および総合研究大学院大学准教授を併任。社会学博士。専攻は民俗学。葬送儀礼の近代化と死生観の変容を主な研究テーマとする。1992年、慶応義塾大法学部法律学科卒業。1997年、慶応義塾大大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学後、国立民族学博物館COE研究員、国立歴史民俗博物館民俗研究部助手を経て、平成19年8月に現職となる。単著に『現代日本の死と葬儀 葬祭業の展開と死生観の変容』(東京大学出版会)、共編著に『変容する死の文化 現代東アジアの葬送と墓制』(東京大学出版会)、『冠婚葬祭の歴史』(水曜社)、『近代化のなかの誕生と死』(岩田書院)などがある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

このコラムについて

研究室に行ってみた
世界の環境、文化、動植物を見守り、「地球のいま」を伝えるナショナル ジオグラフィック。そのウェブ版である「Webナショジオ」の名物連載をビジネスパーソンにもお届けします。ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトはこちらです。
 

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コメント
1. 2019年4月30日 15:03:12 : LY52bYZiZQ : aXZHNXJYTVV4YVE=[743] 報告
あれっ、飛鳥(倭・百済)や奈良(新羅)の時代に対応する説明が抜けてる!安羅伽耶=任那も!古代から災害列島→南海トラフ?【全員集合!?先史・古代史展示リニューアルオープン!塚本素山の国立歴史民俗博物館!
.
TweetTV JP
2019/04/29 に公開
https://www.youtube.com/watch?v=rOHdGzs87-w

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