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投稿者 梵天 日時 2012 年 5 月 16 日 14:53:39: 5Wg35UoGiwUNk
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20120509/308141/?ST=rebuild

建築基準法「最大の弱点」を問う──大地震に弱い建物を合法的に供給してきた、「地震地域係数Z」の功罪


放置されてきた「地域係数Z」の問題
 2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、巨大地震にともなう予想震度の見直しが急ピッチに進められている。そして、震度6弱、震度6強、震度7などのエリアが、広範囲に及ぶ事実が判明しつつある。

 こういった新事態に対処するためには、建築基準法が定める「地震地域係数Z」を、早急に、「1.0」以上に引き上げる必要性がある。しかし、実際には、「旧耐震基準並み」の数値である「0.9」「0.8」の地方が、国土の約半分のスペースを占める。また、沖縄県は、信じられないことに、「0.7」のまま放置されている。

 今回は、大震災を経て、建築基準法の「最大の弱点」として浮上した、「地域係数Zの問題」に焦点を合わせる。

 さて、1981年(昭和56 年)に施行された「新耐震基準」が要求しているのは、分かりやすく表現すると、「震度6強から震度7程度の地震が来ても、建物が倒壊しないこと」である。ここで注意したいのは、設計の目標はあくまでも「倒壊しないこと」である。すなわち、建物の「大破、中破、小破を防ぐこと」を求めてはいない。

 東日本大震災において、地震地域係数Zが1.0とされる仙台市に建つマンションが、震度6強の揺れにより、日本建築学会の判定基準では「倒壊、大破が0棟」と判定されたにもかかわらず、内閣府の被害認定基準では「全壊が100棟超」と判定し直された事実は、すでに本コラムで書いた。

係数Zが1.0以下の地方は要注意

 建物を新築する場合、建築基準法が定める「新耐震基準」にしたがって、耐震設計を行う。耐震設計では、大地震時の「地震力」を、次の式で定める。

 「地震力」=「地震地域係数Z」×「標準地震力」

 ここで、「標準地震力」とは、「おおむね震度6強から7程度の地震力」を意味する。すなわち、次のような関係が成立する。

(1)「震度7」で倒壊しないことを目標にする場合、Zを1.0超にする必要がある。
(2)「震度6強」で倒壊しないことを目標にする場合、Zは1.0とする。
(3)「震度6強」が来ないと想定する場合には、Zは1.0未満とする。


 これをシビアに表現し直そう。

(1) Zが1.0の地方は、「震度7」に「無警戒」なエリアである。
(2) Zが0.9や0.8の地域は、「震度6強」で倒壊することを、事実上、「容認」した地域である。
(3) Zが0.7という沖縄県への扱いは、建築基準法第1条に違反している可能性が強い。

建築基準法第1条

 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする
 Zが0.7のままで、「最低の基準」に達していると言い切れるのであろうか。

「震度分布図」と「地震地域係数Z」の比較
 さて、中央防災会議は、東日本大震災を受けて、「南海トラフの巨大地震による震度分布図」を、3月末に公表した。関東から四国・九州にかけて、広範囲にわたり、震度6弱以上の地域が広がる。

 震度6弱以上──24 府県 687 市町村
 震度6強以上──21 府県 395 市町村
 震度7──10 県 153 市町村

図1
img src="http://img.asyura2.com/us/bigdata/up1/source/8525.jpg"

 また、文部科学省の「首都直下地震対策」プロジェクトチームは、3 月上旬、「東京湾北部地震」により、首都圏を震度7の揺れが襲う可能性があると発表した。

図2


 これら「震度分布図」は、建築基準法が定める「地震地域係数Z分布図」が抱える弱点を、まざまざと浮き彫りにした。

図3


表4

 建築基準法では地震地域係数Zとして、「1.0、0.9、0.8、0.7」の4種類しか定めていない。すなわち、震度7にはまったく無警戒である。さらに、国土の約半分は震度6強にさえ無警戒である。

 ただし、防災対策先進県とされる静岡県では、独自に「建築構造設計指針」を制定。県全域で係数Zを「1.2」と定めて、東海地震・震度7に備えている。


震度7に無警戒の首都圏、中京圏、近畿圏
 「震度分布図」と「地震地域係数Z分布図」を比較すると、次のようなことが推測できる。

【Zが1.2】(静岡県)
 非木造──「中程度の震度7」なら倒壊しない
 木造 ──「弱い震度7」なら倒壊しない
 これから分かるのは、震度7の地震に襲われたとき、建築基準法のうえで倒壊を免れるのは、静岡県の建物だけということだ。(非木造とは、鉄筋コンクリート造や鉄骨造を意味)。


【Zが1.0】(首都圏、中京圏、近畿圏など)
 非木造──「震度6強」ならほぼ倒壊しない
 木造 ──「中程度の震度6強」なら倒壊しない
 この地域では、震度7の地震に襲われたとき、新耐震建物でさえ、最低でも、木造で15%以上、非木造でも5%以上が倒壊すると予想される。


【Zが0.9】(中国、四国、南九州など)
 非木造──「中程度の震度6強」でも倒壊する恐れがある
 木造 ──「中程度の震度6強」でも倒壊する恐れがある
 この地域では、震度7ではなく、震度6強でさえ、建物が倒壊する恐れがある。


【Zが0.8】(山口県、九州北部など)
 非木造──「弱い震度6強」でも倒壊する恐れがある
 木造 ──「弱い震度6強」でも倒壊する恐れがある
 この地域の建物は、例えていうと、「旧耐震基準並み」の強度になっている。


【Zが0.7】(沖縄県)
 非木造──「強い震度6弱」でも倒壊する恐れがある
 木造 ──「強い震度6弱」でも倒壊する恐れがある
 なぜか、沖縄県だけが、「特別に弱い構造」になっている。


「全国地震動予測地図(2005年版)」の重大性

 ここで、改めて、「震度分布」と「地震地域係数Z分布図」の関係を考える。昭和27年(1952年)7月25日付け、「建設省告示第1074号」において、係数Zが初めて定められた。

図5


 1952年の「Z分布図」では、「1.0」の地域は、おおむね、3大都市圏の周辺に限られた。これは、当時の地震学において、地震に関する情報が得られていたのは、3大都市圏に限られていたための措置だったとされる。

 これが、現在のような「Z分布図」になったのは、「昭和55年建設省告示第1793号」が出された、1980年である。このとき、Zが1.0の地域はかなり広がったが、Zが0.9と0.8のまま取り残された地域もあった。

 また、沖縄県が本土に復帰したのは、1972年(昭和47年)であるが、Zは0.7となった。当時、沖縄県では、地震が少ないと思われていたからである。

 いずれにしても、1980年以降、Zの値は変わっていない。その一方で、政府の地震調査研究推進本部は、2005年、「全国地震動予測地図」を公表した。これは、今後30年以内に、震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した分布図である。

図6


 この図6は、図3「地震地域係数Zの分布図(1980年)」の弱点を、明白に示している。四国において、震度6弱以上の発生確率が26%以上であるのに、地域係数Zは1.0でなく0.9なのである。

 しかし、2007年6月に施行された改正建築基準法では、何の対策も講じられなかった。なぜだろう。2007年の改正は、姉歯元建築士が引き起こした、耐震偽装事件の後始末のために行われた。国土交通省の担当者は耐震偽装事件に気を取られて、「全国地震動予測地図」の重大性に気づかなかったのであろうか。

「全国地震動予測地図(2009年版)」の衝撃

 次いで、2009年、改訂版の「全国地震動予測地図」が公表された。

図7


 2009年版の分布図は、関係者に衝撃を与えた。今後30年以内に、震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が、一気に急上昇したのである。例えば、東京都中央区役所は25%から61%へ、横浜市役所は33%から67%へ、千葉市役所は27%から64%へと上昇している。

図8


 2009年版では、今後30年以内に、震度6強以上の揺れに見舞われる確率も公表された。この地図を見ると、Zが0.9の「中国、四国、南九州…」、Zが0.8の「山口県、九州北部…」、Zが0.7の「沖縄県」をこのまま放置しておくことは、もはや許されないと思われる。

 しかし、今回も、国土交通省は何の対策も講じなかった。そして、2012年3月11日、東日本大震災という悲劇に遭遇した。

 建築基準法は、今や最大の弱点になっている、現実無視の「地震地域係数Z」を介して、大地震に弱い建物が、合法的に供給される状態を容認し続けている。

 従来は、建築基準法の耐震基準を強化しようとすると、必ず「コストがアップする」「過剰投資である」という反論が起こった。けれども、静岡県で地域係数Zを1.0から1.2にアップするとき、強い反論があったとは聞かない。静岡県民は、震度7に耐えるためには、必要な投資であることを理解していたのである。

 国土交通省は国民の命を守るために、重い腰をあげるべきではないのか。国交省が動かないのなら、各都道府県が独自で動くしかない。

 

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