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韓国・国家情報院の幹部をスクープインタビュー 北朝鮮内部崩壊 金正恩の時代はまもなく終わる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34506
2013年01月08日（火）週刊現代 ：現代ビジネス
正恩大将はミサイル発射で意気揚々としているかと思いきや、もうヤケ気味なのだという。「平壌奥の院」でいま、大きな異変が起こり始めている。韓国の専門家が「危うい29歳の指導者」を分析した。
■こんなはずではなかった
本誌は、「韓国のCIA」こと国家情報院の幹部へのインタビューに成功した。国家情報院は、「自由と真理に向けた無名の献身」をスローガンに、北朝鮮情勢の諜報活動を行う、韓国政府の専門機関だ。
以下は、その一問一答である。
―日本で総選挙が行われた12月16日、平壌では、17日に死去1周年となる金正日総書記の中央追悼大会が開かれ、金正恩第一書記が出席しました。またその4日前には、金総書記の「遺訓」として、長距離弾道ミサイル「銀河3号」の発射実験を強行し、金正恩第一書記も衛星管制総合指揮所を訪れて激励しています。
このような現在の金正恩政権を、どのように見ていますか?
「金正恩は、表向きは威風堂々としているが、政権内部はもうメチャクチャだ。おそらく『こんなはずではなかった』と、苦悩とタメ息の日々だろう」
―それはどういうことでしょう。
「金正恩は26歳の誕生日、すなわち'09年1月8日に、父・金正日総書記から、内々に後継指名を受けた。この時、正恩は父親に向かって、次のように述べた。
『首領様(故・金日成主席)は主体思想によって党を掌握し、人民を指導しました。将軍様(金正日総書記)は先軍政治(軍最優先の政治)によって軍を掌握し、人民を指導しました。私は経済改革によって内閣を掌握し、人民を指導したいと思います』
つまり、正恩が進めたいのは、中国式の経済改革なのだ。実際、今年の6月28日には、金正恩政権のマニフェストともいうべき『新経済管理改善措置』を発表した。これは、経済運営の主管を朝鮮人民軍から内閣に移行し、一部で市場経済を容認していくという画期的な内容だった。
だが金正恩が今年後半に行ったのは、経済改革ではなく、その反対の政策、すなわち軍の強硬派が主導したミサイル発射だった」
―金正恩も、金正日と同様に、核とミサイルによって、自国の発展を図ろうと考えているのではないですか?
「金正恩という若い指導者は、父親の金正日と異なり、経済的観点から物事を判断するタイプだ。
北朝鮮は核とミサイル開発に、これまで約30億ドルもの費用をかけている。これは北朝鮮の国民全員に一日3食トウモロコシを配給したとして、丸3年配給できる額だ。
そもそも北朝鮮の国家予算は60億ドルに過ぎないので、核とミサイル開発に国家予算の半額がつぎ込まれていることになる。そもそも2400万人の小国で120万人もの軍人がいる。こうしたことは金正恩の本意ではない」
―では、金正恩の本意とはどういうものですか。
「正恩は、アメリカと敵対せずに、宥和策によって早期の国交正常化を図りたいのだ。北朝鮮と似たような立場にあったミャンマーは、経済改革を始動させたとたん、それまで長年にわたって経済制裁していたアメリカが制裁を解き、いまや日本や欧米企業が殺到している。金正恩は、北朝鮮をミャンマーのようにしたいのだ」
―しかし今回のミサイル実験で、金正恩が平壌の衛星管制総合指揮所を視察した写真と、発射を指示した命令書が公開されました。これはミサイル発射を金正恩が主導したという意味ではないですか?
「あの一連の写真は、非常に不可解だった。例えば金正恩は、指揮所の椅子に座ってタバコを吹かしていた。発射直前で指揮所が一番緊張している時に、タバコを吹かすなどということは、いくら最高指導者とはいえ、あり得ない。正恩のヤル気のなさを感じる。実際、14日に平壌で行われたミサイル発射の成功を祝う集会に、正恩は出席していない。
あの写真を分析して分かったのは、金正恩は軍の強硬派からの強い要請で、本意ではない指揮所への視察に、発射当日ではなく数日前に行かされたということだ。もしくは、発射を中止するよう命令するために、自ら出かけたのかもしれない。実際、12月9日の深夜に、朝鮮中央通信は、発射の無期延期を示唆する至急伝を流している。これこそが、正恩の真意だったのではないか」
―それでも12月12日午前9時49分に、ミサイルは発射されました。
「つまりは、正恩は軍の強硬派の圧力に屈したのだ。正恩は9月以降、地方視察へ行かず、平壌に引き籠もっていた。今回のミサイル発射に際しても、平安北道東倉里の発射場へは行かなかった」
■幹部が次々に消されている
―北朝鮮は、金正恩が最高人民会議を召集して権力を掌握した4月にも、失敗こそしましたが、長距離弾道ミサイルの実験を行っています。それによって、直前に決まっていたアメリカからの24万tの食糧援助を棒に振りました。
「あの時は、正恩の命令で、ミサイル発射台に細工をし、わざと失敗させたという有力な説がある。その証拠に、失敗からわずか4時間後に、朝鮮中央テレビが発射失敗の臨時ニュースを放映した。北朝鮮が自国の失敗を速報で伝えるなど、前代未聞だ」
―わざと失敗させるなどということがあり得ますか?
「北朝鮮の動向は、常に予測不能だ。通常の国の常識で考えると見誤る。
昨年12月17日に金正日総書記が突然死し、それを丸2日間も隠していた。われわれ(国家情報院)もそれを見抜けなかったため、韓国国会で囂々たる非難を浴びた。
他にもまったく想定外のことがあった。
昨年12月28日、雪の積もった平壌で、金正日総書記の告別式が挙行された。あの時、金正恩第一書記を始めとする8人が霊柩車に手を当てて行進した。車の右手に金正恩を先頭に文民4人が、左手に軍人4人が行進した。彼らは金正恩時代を支える『7人組』と称された。
だがその後、軍人4人のうち、最前列の李英鎬・総参謀長兼党中央軍事委副委員長は、今年7月15日にすべての職位を剥奪され、すでに処刑されたとも言われる。2番手の金永春・人民武力部長(国防相)も、4月10日に電撃的に人民武力部長を解任され、やはり行方知れずだ。
3番手の金正覚・総政治局第一副局長は、金永春を継いで4月に人民武力部長に就任したものの、11月に早くも失脚し、行方知れずだ。そして4番手の禹東則・国家安全保衛部第一副部長も、4月に解任され、同様に行方知れず。
つまり軍方の4人全員が、この1年以内に粛清されてしまったのだ。こんなことを1年前に、誰が予測できただろうか」
―この4人組が粛清されたのは、金正恩第一書記の強い意思だったということですか。
「金永春と李英鎬に関して言えばその通りだ。
金正日は、'09年1月に正恩の後継指名をした翌2月に、軍強硬派の金永春を人民武力部長に昇格させ、同じく強硬派の李英鎬を総参謀長に昇格させた。これは、正恩が将来、軍を軽視するのではないかと懸念を抱いたからだ。
実際、'09年から3年間にわたって、金正恩が指導した経済改革を、特に金永春がことごとく潰した。
そんな中で、昨年末に金正日が死去した。それでその4ヵ月後、金正恩は最高人民会議を召集し、一気呵成に、政敵の金永春を粛清してしまったというわけだ」
―それによって金正恩は、軍を掌握した?
「それほど甘くない。金正日総書記は、国家の事実上の最高権力機関である朝鮮人民軍の突出を抑えるため、表の顔である人民武力部長、内部の指揮権を握る総参謀長、そして思想や軍需産業を握る総政治局長と、軍の権力を3分割して統治していた。そのため、この重要3ポストをすべて掌握しないと、軍を掌握したことにはならない」
■異論を言えば殺される
―ではその後、残る二つの軍の重要ポストはどうなったのですか?
「まず、総政治局長のポストは、たまたま空席になっていた。そこで、金正日総書記の妹で、金正恩政権の後見人と言える金敬姫書記兼党軽工業部長の強い意向で、軍歴もない崔竜海書記を、4月に総政治局長に据えた」
―軍歴もない男が、「軍3大ポスト」の一角に就任できるのですか?
「北朝鮮で大事なのは、どんな業績を収めたかとか、どんなキャリアを積んできたかということではない。ひとえに、最高権力者にどれだけ近いかということが、重用される基準だ。
その点、崔竜海は、長年にわたって金敬姫の愛人だった。金敬姫の夫は、張成沢・国防委副委員長兼党行政部長だが、二人は若い頃から仮面夫婦で、金敬姫は年下の崔を愛人にしてきたのだ。
崔竜海は、金日成主席の側近だった崔玄・人民武力部長の子息だが、不肖のドラ息子で、'90年代には平壌ボウリング場の地下に大量の外貨を隠しているのが発覚して、金正日が処刑しようとした。だがこの時も、金敬姫が兄に泣きつき、水道局への左遷で免れた。兄が死去した現在、金敬姫は満を持して、長年の愛人を人目もはばからず大抜擢したというわけだ」
―まさに末期的な閨閥政治ですね。「軍3大ポスト」のうち、残る総参謀長は?
「総参謀長は、金正恩の軍の〝家庭教師〟である李英鎬が、'09年2月以降、務めてきた。
李英鎬は、今年4月に〝先輩格〟の金永春が失脚したことで、軍の強硬派を掌握した。それで金正恩が進めようとする経済改革に、正面から異を唱えるようになった。加えて、軍歴のない崔竜海・総政治局長を失脚させようとした。
こうした李の専横に、金正恩、金敬姫、崔竜海が7月に鳩首会談を開き、日曜日に中央政治局会議を緊急召集して、李英鎬を粛清してしまったのだ」
■生命の保証はなくなった
―金永春と李英鎬という強硬派の「2大長老」を粛清した結果、軍は金正恩が掌握したのではないですか。
「そんなに甘くない。新たに、朝鮮人民軍の最強硬派の金格植が台頭したからだ。
金格植はかつて総参謀長を務めていたが、'09年に金正恩と諍いを起こして解任され、わが国と直接対峙する西海岸の第4軍団長に飛ばされた。第4軍団長時代は、たびたびわが国を挑発し、金正恩が国内で進める経済改革を邪魔した。
その金格植が、この11月に人民武力部長として復活を果たした。そして復活するや直ちに、穏健派の玄永哲・総参謀長と、金敬姫の愛人である崔竜海・総政治局長の二人を、次帥から大将へと、降格させてしまったのだ」
―なぜ最高権力者の金正恩第一書記を差し置いて、金格植人民武力部長が台頭してきたのですか。
「それは、金正恩の後見人である、叔母(金正日総書記の妹)の金敬姫が、糖尿病の悪化で重篤だからだ。12月17日の父と兄が眠る錦繍山太陽宮殿の開館式出席が、公の場に出る最後かもしれない。近未来の金敬姫の死は、金正恩にとって、1年前の金正日の死に匹敵する衝撃となるだろう。
もう一人、金敬姫の夫である張成沢というバックがいるが、金正日と金敬姫亡き後の張成沢など、何の力もない。張は人民軍に何の影響力もないからだ。
そのため金正恩は、経済改革などと言っておられなくなり、金格植を始めとする軍の強硬派の傀儡となったのだ」
―12月17日の開館式には、久々に美人妻の李雪主も顔を見せました。
「彼女はいま妊娠していて、普段は平壌市中区域にある金正恩の公邸で安静にしていると聞く。出産予定は来春だという。実は二人にはすでに一人、子どもがいるので、今度生まれれば、二人目となる」
―では今後、金正恩は、どのような行動を取るでしょうか。
「来る2月16日の『光明星節』(金正日総書記の誕生日)の時に、3度目の核実験を強行する恐れがある。'06年のミサイル実験の時は3ヵ月後に、'09年のミサイル実験の時は1ヵ月後に核実験を強行しているからだ。
軍の強硬派にとって、ミサイル実験と核実験は一体だ。ミサイルに核兵器を搭載し、アメリカ本土まで飛ばせる技術を持つことで、アメリカからの脅威をなくせるというのが、金正日総書記の遺訓であり、軍の強硬派の悲願だからだ。
われわれは、東海岸近くにある咸鏡北道吉州郡豊渓里の核実験場を、ずっと注視してきた。この地区は夏に台風被害に遭ったが、すでに回復していて、いつでも核実験できる環境が整っている」
―近未来に、金正恩に対するクーデターが起こる可能性はありますか。
「正恩が、金格植ら軍の強硬派に抵抗すれば、クーデターに遭う危険性が増すだろう。正恩もそのことは重々承知しているので、自身への警備強化を図ると同時に、ひたすら軍の傀儡となって生存を図ろうとしているのだ。だが正恩政権が続く保証など、どこにもない」
*
'13年の北朝鮮は、2月に核実験を強行する危険を孕んでおり、年初から物騒な国になりそうだ。
「週刊現代」2013年1月5日・12日号より
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