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イラン危機扇動との対決 アメリカ民衆こそ「制御棒」にならなければならない  かけはし
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投稿者 ダイナモ 日時 2012 年 3 月 21 日 19:17:51: mY9T/8MdR98ug
 

 イランをめぐってきなくさい動きが続いている。悲惨な結果しかあり得ない緊張だが、ここでも米国が決定的な鍵を握っている。それを見すえて米国民衆としていかに運動を進めるか、この観点に立って事態を検討している論考を以下に紹介する。(「かけはし」編集部)

イスラエル政権の「高等数学」

 一つの戦争に敗北後、社会に起きる可能性のある最悪なものの一つは、人々がそれは「勝利」だったと告げられることだ。イラクにおける米国の敗北の教訓から学ぶことの不能性、あるいは学びそこなうことは、次の悲惨な冒険への飛び込みをあり得るものとする。
 米国あるいはイスラエルのイランに対する直接軍事攻撃は、本当に、近頃のいくつかの報告が示しているように見えるほど切迫しているのだろうか。私はおそらくそうならないと考えるが、いくつかの出来事の方向には不気味なものがある。イランとイスラエルは(伝えられるところによれば)、暗殺の相互応酬に入っている。イスラエルの情報機関と軍部の諸部局は、来る戦争の実現可能性と時期に関して米国紙の中に仕込まれた緒論文を通して、公然たる分派的戦闘か緊張の戦略的引き上げのどちらかに取りかかっている。モッッシェ・マコーバーが行った重要な分析は、イスラエル政権があやつる高等数学を次のように概括している。
 すなわち「(A)イランに対する戦争に火をつけるという決定は、どのようなイスラエルの指導者でもたやすく行えるようなものではない。そこには、イスラエルが多くの死者という苦しみを受ける、という無視できない危険がある。……しかしその場合でもシオニストの観点から見れば、戦利品はあり得るものの中で最高の部類だ。つまり、ユダヤ人の民族国家体制としてのイスラエルの将来に対する人口統計上の脅威の排除だ(パレスチナ人のあり得る大量排除を通して)。それゆえネタニヤフは、ひどいことだが、より大きな民族的商品を求めて、彼自身の民衆を犠牲に供する方に惹かれるだろう」。
 「米国の政策決定者たちは、対イラン紛争の軍事的解決における、米国のそれとは完全に同じわけではないイスラエルの特別な利害に気づいている。私はそれが当然だと思っている。これこそが、彼らが気をもんでいる、そしてネタニヤフとバラクへの断固たる警告を発している理由だ――特に共和党の常軌を逸した敵対者を前にすることとなるこの選挙年には、臆病者に見える危険を冒すことなどオバマにはできない以上、もちろん、慎重にかつこっそりと」。
 「しかしながらネタニヤフは、これ見よがしに進むことも、米国の承認なしに戦争を始めることもできない。それゆえ最もありそうなシナリオは、紛争を激化させ、米国を一歩一歩ほふく前進的特命作戦に引き込む目的をもつ、大部分は人を欺くような手段を使った、イスラエルによって扇動された一連の挑発となる」。

敗北の事実突きつける今の現実

 イラク戦争の教訓が適切に知らされていたとすれば、「ほふく前進的特命作戦への引き込み」を米国の民衆が受け容れる危険ははるかに小さくなっていたと思われる。八年の占領期間をかけてあれほど注意深く建設された「イラクの安定と民主主義」というポテムキン村が崩壊するには、最後の公式米軍部隊がイラクからクウェートへと国境を越えてから、約二〇分しかかからなかった。そうである以上、イラクにおける敗北という真実が不明瞭、などということはほとんどない。
 「おろかだ」と指弾してきた戦争を引き継ぎ、その継続を選択したオバマ大統領は、安定し自由かつ民主的なイラクをもたらしたとして、帰還部隊を称えた。その一方で、ノウリ・アル・マリキ首相の政権は、副大統領のタリク・アル・ハシミをテロリズムとして告発した。そして後者は即座に北へと、中央政府の支配が届かない自治イラククルディスタンへと向かった。
 スンニ派と独立的な(イランから――訳者)シーア派の政治家たちは、米国の支援を基に新たな独裁体制を組織していると、アル・マリキを告発している。そして米国はイラクに向け、近代化された兵器という形で何十億ドルも運んでいる最中だ――アル・マリキの政敵たちが彼をイランの代理人と責め立てている限りは少々つじつまの合わない話しかもしれないが、あり得るイランの脅威からの防衛がその表面的な目的。その一方ニューヨークタイムスは、一万一〇〇〇人を抱えるバグダッドの米国大使館居留域は五〇〇〇人の傭兵会社部隊によって守られていると、そして、「大使館員が国内を移動する時は、攻撃の場合に援護するために車列の上を小型ヘリコプターが飛び回っている。ヘリコプターの外側にはしばしば、機関銃で武装した傭兵二人がくくりつけられている」と報じた(二〇一二年一月二九日)。
 イラクのもろいシステムは完全に崩壊するのだろうか。それを予言することは難しい。しかしその「解放された」国の人々は、これからやって来ようとしていることについては、おそらく相当に現実的だ。何十万人という市民の死、戦争がもたらした荒廃、そして八年の占領という屈辱を経て、サダム・フセインのぞっとするような専制は、終わりのない宗派間の虐殺という見通しで置き換えられた。そしてその中で、他の荒廃に向けた発展を交えつつ、イラクは、イランとサウジアラビアの代理戦争の戦場となっている。

真実に蓋された米国民衆も敗者

 しかし他の敗者の中には、真実が隠されている人々――米国民衆――がいる。明らかに、帝国主義がイラクに負わせた大量死や物理的破壊に似た何らかのものにわれわれが苦しんだわけではない。しかし、四〇〇〇人以上の兵士の死、さらに他の何万人もがこうむった恐ろしいほど生涯にわたる負傷は、胸が悪くなるに十分な荒廃だ。
 反戦運動が真実をはっきり語ることが必要だ。これは犯罪的な戦争であり、そしてそこで、米国が敗北したのだと。ブッシュ――チェイニー徒党が開戦時に約束したこととその結果を、きっちり見比べよう。その約束こそ、米国並びに戦争同盟諸国と連携した、再建にはその原油資金による国内調達しか必要としない、そのような解放され民主的なイラクというおとぎ話だったのだ。
 イラクに関する最大の嘘はおそらく、大量破壊兵器という詐欺ではなかった――ともかくも過去の帝国主義的冒険もまた、「メイン号を忘れるな」(一八九八年、訳注)からねつ造のトンキン湾事件(一九六四年)まで、嘘の口実を基に始められてきた。大嘘は、この戦争にカネを出すことはない、実際戦時に減税は可能だと、米国民衆に語ったことだ。
 われわれはまさしくそこにカネを出している――そして、肉体的にまた精神的に破壊された退役兵を治療するすべての費用を計算に入れるや否や、いくつかの見積もりによって四兆ドル以上のどこかまで跳ね上がるカネを、われわれは今後数十年間支払い続けることになるだろう。しかし戦争を始めたブッシュ――チェイニーのネオコン徒党も、それを引き継いだオバマ政権も、この敗北について真実を告げるつもりなどない。

敗北はすでに占領初期に確定

 イラクにおける米国敗北のお膳立ては事実上、ファルージャの町を米軍部隊が破壊した二〇〇四年から二〇〇六年の間の占領初期に整えられた。その時点までに、イラクの諸派間の内戦という現実は、否定できないものとなった。ジュアン・コールは、決定的な転換点を以下のように振り返っている。
 つまり「結局分かったことだが、米軍がイラクで敗北した日付けは二〇〇七年九月一六日だった。それは、傭兵会社、ブラックウォーター社の全員勲章授与者である元軍人の傭兵が、そこを通りかかったバイクに乗った普通の市民から攻撃を受けるという間違った印象の下に、ニスール広場で発砲した日だ。その時、一七人が殺害され、数十人が負傷し、そして事件は、イラク人エリートが彼らの国における外国軍の存在の終わりを見ることを熱望する、一つの原因となった。米国の司法がこの虐殺の手配者(ブラックウォーター社――訳者)に対する処罰を拒否したことは、治外法権の破滅を早めるものだった。いずれにしろイラク人はそれを容認しないだろう」。
 「……米国はこの不法な侵略戦争から、ただ一つの利益も、ただ一つの恒久的な米軍基地も、イランに対するただ一つの砦も、イスラエルに対する新しいアラブの友人もまったく、そしてバレル一四ドルの原油すら一滴も――ワシントンはこれらすべてを夢見ていた――受け取ることなどないだろう。それは、根拠薄弱で見かけ倒し、そして痛ましい夢だった」。
 それと共に次いで、ブッシュが、次にオバマ大統領が勝利への新戦略として広告した「急派」が来た。事実においてはこれは、イラクの完全な分解に向かう地滑りを止めるための、いわば緊急救難作戦だった――そしてそれは、「メソポタミアのアルカイダ」が鎮圧された(もちろん米軍侵攻前には、そんなものは存在したことがなかった)という意味では、また多大の犠牲を払ってスンニ派部隊の協力を得たという意味では機能した。
 この時期に米国の政治――軍事戦略は基本的にギアを切り替えた。それは、大量の「脱バース党化」を強制し、イラク軍を解体するという、この国を混沌に投げ込んだ、ポール・ブレマーとウォルフォウィッツ(両者とも占領初期の軍政責任者――訳者)のイデオロギーに駆り立てられた侵攻後構想から離れようとするものだった。「急派」は、土着の(いわゆる部族の)エリートの支持を買い取ろうとする、より「古典的な」植民地様式に基づいていた。この戦略は雑な政治的妥協をもたらし、信頼性が中途半端なイラク人による選挙と連立政権の形成を可能にした。
 それは、米軍部隊がこの地を離れるにつれ、分解することとなった取り決めだ――イラク内の誰もがいずれそうなるに違いないと分かっていたように。イラクに残留しているアメリカの軍事的「下請け契約要員」は、情勢をもっと面倒なことにすることはあっても、政治的均衡を変えることはない。

そして次にイランがやって来た

 被侵略国と侵略国双方の民衆が敗者であるとすれば、では誰が勝者だろうか。ただ一人のはっきりした勝者は、主要な敵であったサダム・フセインが地図から消えることを見たイランの体制と言える。今やわれわれが知るところだが、イランの政権は二〇〇三年素早く、包括的な地域協定に向け米国との取引を申し出た。攻撃リストの次にイランを載せていたブッシュ―チェイニー政権は、これを軽くあしらって拒絶した――そしてそれが、今日の不気味に迫る悲劇と帝国主義の惨害につながるもう一つの章を開いている。
 来る年月バラク・オバマ――ある程度は、イラク戦争に反対したが故に選出され、大統領にいったん就任するやそれに同調した――は、「イラクでの敗北」を罪状に、共和党の激怒にさらされるだろう。これが国内政治につきものの不条理の一つと見えるとすれば、もちろんその通りだ――しかしそれは、オバマが行った悪魔との取引の必然的な結果だった。そしてこの状況が浮上している時期は、パキスタンの軍機構並びに情報機関と米国との相互依存的な関係に起きた機能障害が、アフガニスタン戦争において、米帝国主義を次の不可避的な敗者にしているその時期に重なっている。
 おそらくすべての中で最も危険なことは、イランとの対立へと傾くワシントンの動きについて、大衆的理解が今日、あまりにと言うほどほとんどないということだ――イラクでの敗北の真実が民主党と共和党の二党間合意によって隠されているが故に、また、アフガニスタンへの介入が残したまったく破壊的な結果が都合よくほとんど忘れられているが故に。こうして過去三〇年の教訓は学ばれないままにされている。
 米欧の経済制裁とイラン原油に対する一歩一歩の禁輸を正当化する口実はむろん、イランの体制による、核兵器を求める巷間言われている突進だ。しかしそれは、ほとんど二義的な問題にすぎない。つまり帝国の真の目標は、イランを強力な地域大国にするイランの通常兵器による軍事的能力の破壊であると思われるからだ。この目標は、単なる空軍やコンピューター仕掛けの兵器、あるいは特別軍の攻撃部隊によって達成可能なものではない。それは、地上に加えて海上の大規模な軍事作戦を必要とする。
 この点について、再びモッッシェ・マコーバーから借用すれば、イスラエルの攻撃を支持して米国が飛び込むよう仕向けるための、何人かの絶望的なネオコンと何も見ようとしない福音派宗教原理主義者による熱烈な鼓舞があるとしても、イスラエルが彼らだけでイランとの戦争を始めることを可能とする方法はまったくない、ということだ。

戦争煽動に民衆の圧倒的反撃を

 イラン支配者のホルムズ海峡封鎖に関して言えばそれは、差し迫ったシナリオと言うよりもむしろ、戦争を抑止するための脅しだ。そのような試みは、イランのタンカーに対する帝国主義による物理的封鎖(それは国際法上戦争行為となり、それに対しイランには反撃権が与えられることとなる)という極端な場合にのみ理にかなっている。それがない以上、住民の大多数からひどく嫌われているイランの支配者が、言葉上の空威張りという彼ら自身の商標の形で取りかかっている攻撃の水準は、疑いなく、彼らの内部的分派闘争に関係している。
 ワシントンの側に立って見れば、選挙年にあるオバマ政権が、原油価格に大きな衝撃を引き起こし、アフガニスタン、イラク、さらにペルシャ湾岸の米国の利益をイランの隠密的報復にさらす、そのような行動を始めるなどということは、ほとんどありそうにない。ブッシュ―チェイニー徒党すらもが、彼らの中東戦争という冒険においては疑いなくイランを中心の標的にするつもりだったのだが、イラクで彼らが首を絞められるに従い、その攻撃を棚上げしなければならなかったのだ。
 中長期的に見れば、イスラエルの戦術的なゲームは明らかに、オバマ政権が――現段階では――明確に欲していない紛争に米国を時ならぬ形で押し込むような、何らかのイランの対応を引き起こす可能性がある。イランで暗殺を遂行するためにアルカイダタイプのテロリストを募集することを、イスラエルの手先がCIAとして提案していた。この今明らかにされている事実は、この死のゲームの真相を告げる糸口だ。
 危機が帯びる温度は、そこに実体があろうと、また小細工されていようと双方で、参加者の制御を超えて高まり始める可能性がある。それはまさに、事故や計算違いから原子炉が「臨界点を超え」るかもしれないという状況に似ている。
 原子炉では破局的なメルトダウンを防ぐために、連鎖反応を停止するものと想定されている制御棒がある。戦争への大宣伝を前にした時、「制御棒」とならなければならないのは民衆だ。米国民衆はすでに、イラクとアフガニスタンの戦争にうんざりしている。これらの戦争のすべての費用と結末が理解されるならば、この薄気味悪く近づく新たな冒険に対する民衆的な反対は圧倒的なものになると思われる。
 破壊から離れる道は、核のない世界における、核のない中東を必要としている。反戦運動にとって、またオキュパイの活動家にとって(実のところ、わが国のすべての健全に声を上げている人々にとって)、上述の現実を政治論争の中に取り入れることが今ほど決定的であることはほとんどない。

▼『アゲンスト・ザ・カレント』は、米国の急進的な社会主義者の再結集グループであるソリダリティーの雑誌。(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年三月号)

訳注)米国がその勝利を通してプエルトリコとグアム島、そしてフィリピンの植民地化を、さらにキューバの実質的支配を達成した米西戦争は、この年の二月にハバナ港で起きた、米国戦艦、メイン号の爆発沈没事件を口実とした、米国による一方的な宣戦布告で始まった。ところが最初の戦闘はフィリピンで起きている。(以上は、山川出版「アメリカ史」に基づく) 


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