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覇権国を巡る国際関係論の学説を基にして考える。 (古村治彦の酔生夢死日記)
http://www.asyura2.com/13/ban6/msg/221.html
投稿者 五月晴郎 日時 2013 年 10 月 24 日 22:01:15: ulZUCBWYQe7Lk
 

http://suinikki.exblog.jp/20847244/

今回は、覇権国(hegemonic state、ヘゲモニック・ステイト)について考えてみたい。副島隆彦先生の本を読まれている皆さんには「世界覇権国」という言葉はお馴染みだ。これは現在で言えばアメリカのことを指す。歴史的に見ればスペイン(17世紀)、オランダ(18世紀)、イギリス(19世紀)、アメリカ(20世紀)の各国がそれぞれ歴史の一時期に覇権国として君臨してきた。日本は第二次世界大戦でドイツと共に新旧の覇権国であるアメリカとイギリスに挑戦して敗れ、戦後、アメリカの従属国(tributary state、トリビュータリーステイト)になったというのが世界的な認識である。

覇権国と覇権(hegemony、ヘゲモニー)というのは政治学(Political Science)、特に国際関係論(International Relations)で使われる概念だ。簡単に言うと、「他からの挑戦を退けるほどの、もしくは挑戦しようという気を起こさせないほどの圧倒的な力を持つこと」が覇権である。国際関係論で言えば、圧倒的な外交力と軍事力と経済力を持ち、他国を従わせることのできる国のことを覇権国と呼ぶ。現在の覇権国は言うまでもなくアメリカである。歴史上、覇権国は交代してきたが、アメリカの次は中国が覇権国なるという見方も出てきている。これまでの歴史を考えると覇権国の地位はある程度の期間で交代しており、アメリカが永久に覇権国であるとは言えない。

 現在のアメリカは景気が低迷し、巨大な軍事力を持つ負担に耐えられなくなっている。アメリカは巨額の国債を発行し、中国や日本、サウジアラビアが買い支えている。他国のお金で巨大な軍事力を維持しているのはおかしな話だ。「アメリカの軍事力があるから世界の平和は保たれているのだ。だからその分のお金を払っていると思えば良いのだ」という主張もある。しかし、他国のお金頼みというのは不安定なものだ。国債を買ってもらえなくなればお金が入ってこなくなる。そんなことになれば世界経済は一気に崩壊するから、あり得ないことだという意見もあるが、不安定な状況であることは間違いない。

 現在、アメリカの政府機関は閉鎖状態にある。これは、アメリカ連邦議会が2013―2014年度の連邦予算を可決していないためである。現在、アメリカ連邦上院は、民主党(Democrats)が過半数を占め、一方、連邦下院は共和党(Republicans)が過半数を占めている。日本風に言えば、「ねじれ国会」の状態にある。民主党側と共和党の一部は予算を通したいのだが、共和党の中にいるティーパーティー系の議員たちがオバマ大統領の推進した健康保険政策(オバマケア)の廃止を目論んで、民主党と対立している。また、上院と下院の間でも対立が起きている。これに加えて、アメリカ国債の上限問題も再燃し、2013年10月17日までに予算の執行と国債の上限が引き上げられないと、アメリカは国債の償還に応じられない、デフォルトに陥ってしまう。こうなると、アメリカ発の世界規模での景気後退が発生してしまう懸念もある。このように、アメリカの覇権国としての地位も危ういものであることが今回露呈された。

ここからは、国際関係論の分野に存在する覇権に関する理論のいくつかを紹介する。これまで国際関係論という学問の世界で覇権についてどういうことが語られてきたのかを簡単に紹介する。私の考えでは、国際関係論で扱われる覇権に関する理論は現実追認の、「アメリカはやってきていることは正しい」と言うためのものでしかない。それでもどういうことを言っているかを知って、それに対して突っ込みを入れることは現実の世界を考える際に一つの手助けになると私は考える。

まずは覇権安定論(Hegemonic Stability Theory)という有名な理論がある。これは、覇権国が存在すると、国際システムが安定するという理論である。覇権国は外交、強制力、説得などを通じてリーダーシップを行使する。このとき覇権国は他国に対して「パワーの優位性」を行使しているのである。そして、自分に都合の良い国際システムを構築し、ルールを制定する。このようにして覇権国が構築した国際システムやルールに他国は従わざるを得ない。従わない国々は覇権国によって矯正を加えられるか、国際関係から疎外されて生存自体が困難になる。その結果、安定的な国際システムは安定する。

ロバート・コヘイン(Robert Keohane)という学者がいる。コヘインはネオリベラリズム(Neoliberalism)という国際関係論の学派の大物の一人である。ネオリベラリズムとは、国際関係においては国家以上の上位機関が存在しないので、無秩序に陥り、各国家は国益追求を図るという前提で、各国家は協調(cooperation)が国益追求に最適であることを認識し、国際機関などを通じて国際協調に進むという考え方をする学派である。

コヘインが活躍した1970年代、アメリカの衰退(U.S. Decline)が真剣に議論されていた。そして、コヘインは、覇権国アメリカ自体が衰退しても、アメリカが作り上げた国際システムは、その有用性のために、つまり他の国々にとって便利であるために存続すると主張している。コヘインは、一種の多頭指導制が出現し、そこでは、二極間の抑止や一極による覇権ではなく、先進多極間の機能的な協調(cooperation)が決定的な役割を果たすだろうと書いている(機能主義)。

ロバート・ギルピン(Robert Gilpin)は、1981年にWar and Change in World Politics(『世界政治における戦争と変化』、未邦訳)という著作を発表した。リアリズムの立場から、国際政治におけるシステムの変化と軍事及び経済との関係を理論化した名著だ。本書は国際関係論の古典の一つともなっている。ギルピンは、覇権安定論(hegemonic stability theory)の唱道者の一人である。覇権安定論は、ある国家が覇権国として存在するとき、国際システムは安定するという考え方である。しかし、ギルピンは『世界政治における戦争と変化』のなかで、覇権国の交代について考察している。

本書の要旨は次の通りである。歴史上国際システムが次から次へと変わってきたのは、各大国間で経済力、政治力、社会の持つ力の発展のペースが異なり(uneven growth)、その結果、一つの国際システムの中で保たれていた均衡(equilibrium)が崩れることになる。台頭しつつある国が自分に都合がいい国際システムを築き上げるために、現在の国際システムを築き上げた覇権国と覇権をめぐる戦争(hegemonic war)を戦ってきた。台頭しつつある国が勝利した場合、その国が新たに覇権国となり、自分に都合の良い国際システムを構築する。逆に現在の覇権国が勝利した場合、そのままの国際システムが継続する。

現在、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)という各新興大国の経済発展はすさまじい勢いである。先進国である欧米、日本の経済成長はほとんどなきが如しであり、日本のGDPは中国に既に抜かれた。現在世界最大のGDPを誇るアメリカも10年から20年以内に中国に抜かれてしまうという予測もある。ギルピンの理論は、世界各国の不均衡な発展は覇権戦争を導くとしている。理論通りになると、アメリカが既存の覇権国で挑戦を受ける側、中国が新興大国で覇権国に挑戦する側になって戦争が起きるということが予測される。このギルピンの理論は歴史研究から生み出された理論である。スペインが打ち立てた覇権をオランダが奪い、オランダに移った覇権をイギリスが奪取するが、やがてアメリカに奪われるという歴史を踏まえての理論である。

それでは、未来のある時点でアメリカと中国が覇権をめぐって戦争するかと問われると、「ここ数年以内という直近の間では戦争はない」と私は考える。こう考えるにはいくつかの理由がある。第二次世界大戦での日本とドイツ、冷戦でのソ連とアメリカの覇権に挑戦して失敗した国々を見ていれば、「戦争をして覇権を奪取する」と言うのは危険を伴うということは分かる。だから中国の立場からすると戦争をするのは慎重にならざるを得ない。米中それぞれの軍人たちはスポーツ選手が試合をしたくてうずうずしているように「戦争をしてみたい、手合わせをしてみたい」と思っているだろう。しかし、政治指導者たちはそんな危険な賭けをすることはない。

また中国は、アメリカの覇権下で急激な経済成長をしてきたのだから、今のままの環境が維持されるほうが良い。アメリカとの貿易がこれからもどんどん続けられ、輸出ができればそれで良い。アメリカが不況で輸入が鈍化すると中国も困る。だから輸出先を多く確保しておくことは重要だが、アメリカがこのまま世界一の超大国であることは現在の中国にとっても利益となることである。ギルピンの理論では自国にとって不利なルールが嫌になって新興大国は、戦争をすることの利益と損失を計算したうえで、戦争を仕掛けるということになっている。現在の中国にとっては、現状維持、アメリカが超大国であることが重要だから、自ら戦争を仕掛けるということはない。アメリカが覇権国としての地位を失い、経済力を失うことを一番恐れているのは、チャレンジャーと目される中国だと私は考える。

また、イギリスからアメリカに覇権が移った過程を考えると、「覇権国が勝手に没落するのをただ見ているだけ」「覇権国の没落をこちらが損をしないように手伝う」という戦略が中国にとって最も合理的な選択ではないかと私は考える。イギリスは「沈まない帝国」として世界に君臨し、一時は世界の工業生産の過半を占め「世界の工場」と呼ばれるほどの経済大国となり、その工業力を背景に軍事大国となった。イギリスはアメリカの前の覇権国であった。
しかし、ヨーロッパ全体が戦場となった第一次、第二次世界大戦によって覇権国の地位はイギリスからアメリカに移動した。第二次世界大戦においてはアメリカの軍事的、経済的支援がなければ戦争を続けられないほどだった。アメリカは農業生産から工業生産、やがて金融へと力を伸ばし、超大国となっていった。そして、自国が大きく傷つくことなく、イギリスから覇権国の地位を奪取した。イギリスとアメリカの間に覇権戦争は起きなかった。外から見ていると、アメリカに覇権国の地位が転がり込んだように見える。中国も気長に待っていれば、アメリカから覇権が移ってくるということでどっしり構えているように見える。

現在の中国はアメリカにとって最大の債務国である。中国はアメリカの国債を買い続けている。中国にとってアメリカが緩慢なスピードで没落することがいちばん望ましい。「急死」されることがいちばん困る。覇権国が「急死」すると世界は無秩序になってしまい、経済活動が鈍化する。中国としては自国が力をためながら、アメリカの延命に手を貸し、十分に逆転したところで覇権国となるのがいちばん労力を必要とせず、合理的な選択なのである。

「覇権をめぐる米中の激突、その時日本はどうするか」というテーマの本や記事が多く発表されている。日本でも「日本はアメリカと協力して中国を叩くのだ」という勇ましいことを言う人たちも多い。しかし、その勇ましい話の中身も「日本一国ではできないがアメリカの子分格であれば、中国をやっつけられるのだ」というなんとも情けないものである。

米中が衝突することでその悪影響は日本にも及ぶ。日本は中国や韓国といった現在の「世界の工場」に基幹部品を輸出してお金を稼いでいる。米中が戦争をすることは日本にとって利益にならない。だからと言って、日本が戦争を望まなくても何かの拍子で米中間の戦争が起きるという可能性が完全にゼロではない。このとき、日本がお先棒を担がされて戦争や挑発に加担しないで済むようにする、これが日本の選ぶべき道であろうと私は考える。そして、大事なことは。「日本は国際関係において最重要のアクターなどではない、ある程度の影響力は持つだろうが、それはかなり限定される。そして、アメリカに嵌められないように慎重に行動する」という考えを持つことである。そう考えることで、より現実的な対処ができると思う。

(終わり)  

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