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円安 金融緩和 アベノミクスで日本企業は草刈り場 (日刊ゲンダイ) 
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/375.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 3 月 10 日 10:34:00: igsppGRN/E9PQ
 

http://gendai.net/articles/view/syakai/141310
2013年3月7日 日刊ゲンダイ


 シャープはサムスンにのみ込まれる

 6日発表されたシャープとサムスンの資本提携。金策尽きて、かつてのライバルに助けを求めたわけだが、円安のせいで、「日本企業を買いたたくのは今だ」と海外勢が舌なめずりしているという、恐ろしい背景もある。

 経営再建中のシャープの頭痛のタネは、9月に待ち受ける2000億円の転換社債の償還だ。メーンバンクに「返すアテ」を示せなければ、追加支援を受けられず、償還できずに“ジ・エンド”。サムスンにすがるしかなかった。

「サムスンと提携することで、主力事業である液晶パネルの安定供給先を確保できる。銀行にも、〈収益向上のメドが立った〉と申し開きもできます。が、今後シャープはサムスンに命綱を握られていく可能性が高い。今はまだ“お見合い段階”ですが、当然、サムスンは出資比率を高めてシャープをのみ込んでしまうことまで考えているでしょう」(経済ジャーナリスト・井上久男氏)

 サムスンは、シャープの第三者割当増資を約103億円で引き受け、株式の約3%を握る5番目の大株主に。3%とはいえ、金融機関を除けば、持ち株比率はトップだ。

「今のシャープは経営陣を含め、上から下までバラバラ、まさにシャープさに欠け、国内で救いの手を差し伸べてもらえない。だから、サムスンがたった100億円で、金額以上の発言権を持てるわけです」(経済評論家・倉多慎之助氏)

<外資ファンドや赤いマネーが舌なめずり>

 今後、シャープは、サムスンの下請け、部品工場と化していく。それを見たLGなどの韓国企業や海外勢はどう思うか。日本企業を買いたたこうと、触手を伸ばしてくる恐れがある。それを後押しするのがアベノミクスの金融緩和と円安だ。金融ジャーナリストの小林佳樹氏が言う。

「ここにきて海外のアクティブファンド、いわゆる“モノ言う株主”が日本株の買い増しをエスカレートさせています。欧米に加えて日本が金融緩和を進めることで、世界的なカネ余りが加速し、資金を調達しやすくなっているのです。ドイツ銀行の年次調査によると、13年の世界のヘッジファンドの新規資金は前年比3倍以上になる見通しです。ジャブジャブ余った世界中のマネーが、舌なめずりしてアベノミクスの日本に狙いを定めている。円安が進むほど安い円をどんどん調達でき、日本企業を買収しやすくなりますからね」

 日本企業は草刈り場になりかねないのだ。

 おまけに、欧米ファンドの資金には赤いマネーも入っている。中国政府系ファンドはすでに名だたる日本企業の株を大量保有し、時価総額は4兆円を超える。電機業界では、昨年9月末時点で、NECや日立(3位)、ソニー(4位)、パナソニック(5位)の大株主だ。今は「静かな株主」だが、いつ本性を現してもおかしくない。

「アクティブファンドは高い配当や資産売却を要求してきます。ハゲタカとなって日本企業に買収攻勢をかけてくることも考えられる。背後にいる中国系が日本の優れた技術や人材を狙ってきても不思議ではありません」(小林佳樹氏=前出)

 今回のシャープの一件は、ほんの序章に過ぎないのだ。


 

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コメント
 
01. 2013年3月10日 12:06:50 : KKUQv68ch6
日本が買い占められていいことは無くて奴隷が酷くなるよね。日本企業を買う金は、外資は米政府から貰ってるのだろうね。米政府は毎度の事だが、あべちゃんが貢予定の米国債の100兆円を流すのだろうからね。米国債をどんどん売れば[売らさない時は国民にドンドン米国の不法を言えばいいのよ。反日キャンペーンをするマスゴミは改易にして接収することだ]日本を買い占める資金はなくなる。法の前に国民がある。法は自由に変えていけばいい。今日、反日禁止法、愛国者法、反日者財産没収法を成立させればいいのよ。慣習法、民族生存法などの概念を作れば何でも出来る。

02. 2013年3月10日 13:27:26 : 37v53HTJaY
3%あれば、会計帳簿の閲覧・謄写請求が出来ますからね、乗っ取り前に、乗っ取るほどの価値がある会社か、シャープの業務、財務状況を知るためのまず手始めの3%でしょうね。。。

03. 2013年3月10日 16:14:39 : Ba3ERzHa4Y

なぜ?人気の公務員で内定辞退3割 「お試し就活」が増えた背景
産経新聞 3月10日(日)11時10分配信


大学(学部)卒業者の就職者数及び就職率の推移(写真:産経新聞)
 先日、神奈川県庁の内定辞退者数が78人に上り、内定者全体の3割に達したとのニュースがメディアを賑わせました。しかも、内定辞退率は、2009年以降、3割超が続いています。神奈川県庁は、内定者と神奈川県知事との懇談会を開くなど、多くの内定者が辞退せずに入庁してもらえるように懸命です。県庁が対策をとるほどの内定辞退者増について、その背景を考えてみたいと思います。

【大学ウオッチャー大予想】“氷河期”でもお買い得な30大学

 1つ目の背景はリーマンショックで業績が急激に悪化した際に、「内定取り消し」に踏み切った企業があらわれ、就職活動生が企業に対して、強い不信感を持ったことが尾をひいています。就活生の不信感は不安へと変わり、その不安は「内定取り消し」の備えとして、数多くの企業を受け、数多くの内定を持とうとする行動に表れています。

 2つ目の背景は、「試活」と呼ばれる行動です。そもそも入社するつもりは一切ない状態で、志望企業の選考に万全の状態で挑めるように、練習として選考に参加すること。つまり「お試しの就職活動」です。

 そもそもは、「内定取り消し」に対するリスクヘッジとして、数多くの企業選考に参加していた就職活動生ですが、リーマンショックによる影響が収まってきた、ここ1、2年でもこういった辞退者が減らないのは、こういった選考の受け方をする就職活動生が増えたからと言えるでしょう。本命企業の前に「準備」をしなくてはならないほど、学生が就職活動に対して身構えていることが分かります。

 これら2つの背景から、一部の優秀な就職活動生が、内定を複数持つこととなり、「内定辞退」者が数多く生まれ、その裏で、未内定者も生まれるのです。もちろん、今まで「内定辞退」が一切なかったとは言いませんが、一部の超人気企業を除いて、その人数が日本規模で急増したことは間違いのないことです。そういった民間企業における就職活動の仕方が、公務員志望者にも広がったのでしょう。

 企業の採用意欲向上と共に、「内定取り消し」に対する備えとして選考に参加する就職活動生は少なくなっていくと思います。しかし、それだけでは不充分で、お試しで受ける「試活生」への対策もしなければいけないことに、多くの企業は頭を悩ませることになるでしょう。(「内定塾」責任者 高嶌悠人)
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• 高学歴プア 東大院卒就職率56%、京大院卒はゴミ収集バイト
最終更新:3月10日(日)14時27分

 


高学歴プア 東大院卒就職率56%、京大院卒はゴミ収集バイト

2013/01/10 18:15
ポストセブン
 学歴は武器、どころか足かせとなった。名だたる大学院を出ても非正規雇用、あるいは無職となってしまう者たちが続々と生まれている。そんな高学歴ワーキングプアの実態を『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)の著者である評論家の水月昭道氏がレポートする。
 * * *
 京都大学大学院で博士号を取得したAさん。30代前半で他の大学の授業を週に2科目担当する非常勤講師だが、同時に毎朝の「ゴミ収集アルバイト」も続けている。生活を維持できないからだ。
 大学の非常勤講師は1科目を担当すると月4コマ(1コマ90分)の講義を行なう。報酬の相場は1科目3万円だから、Aさんは月収6万円。生活費に加え、資料代や研究費などの経費まで自己負担するため、アルバイトせざるを得ない。「超高学歴ワーキングプア」といったところだろうか。
 こうした非常勤雇用は私大に多く有名大学で半分、中には7割に達するところもある。大学全体でも正規雇用(教授、准教授など)17万人に対し、ポスドク、文系非常勤講師などを含めた任期つき非正規雇用は5万人程度で、ほとんどは任期1〜3年。その他に非正規の働き口さえない者が5万人程度いるとされる。
 発端は1991年に当時の文部省が始めた大学院重点化政策にある。21世紀には修士、博士の必要性が高まるとの予測のもとで始まり、1991年に10万人だった修士・博士は2011年には約26万人まで激増した(平成23年度 学校基本調査より)。
• “自己チュー”就活学生の実態 遅刻、…
• 過剰すぎる親の“就活サポート” 心配…
• 170万使っても…熾烈女子アナ採用
• 「大学は多すぎるか」問題意識に賛否
• 日本生き残りへエリート教育再建を
 問題は“出口”が用意されていなかったことだ。例えば今、博士が大学教員として正規雇用されるかは、研究実績よりも「ポストに空きがあるかどうか」という要素が強い。院生を増やしても、上の世代がポストを空けなければ行き場はない。また、ユニーク学科の相次ぐ設立で大学側が教科ごとに正規教員を抱える余裕をなくし、非常勤講師を増やしていく流れとも重なった。
 こうして大学院重点化以降、特に文系の修士や博士となった40代前半から30代前半までが分厚い高学歴ワーキングプア層を形成しているのである。
 大学を離れ、民間企業に就職しようにも彼らの活路は開けない。修士・博士の称号は民間就職にはむしろ足かせとなる。新卒一括採用、年功序列賃金を温存する企業にとって、「学部卒と同じく就労経験はないのに、年齢は上なので高い給与を払わなければならない存在」である修士・博士の採用は敬遠されるのだ。東京大学の大学院博士課程修了者の就職率はたったの56%。文系修士でも75%だ。
 文科省は修士・博士のキャリアサポートに乗り出し、企業とのマッチングを行なっているが、状況が改善する兆しは見えない。そもそもこうした施策が取られた背景には、少子化で学部への新入生が減少する中で「大学院生を増やして食い扶持を維持したい」という大学側の思惑がある。これからも新入生は減少を続ける。だから大学側は院生の数を適正化しようとしない。格差の底辺に突き落とされる高学歴プアは増加を続けることになる。
 ※SAPIO2013年2月号
男性経験人数11人以上の女性は高卒未満は15% 大卒は24%3高プラス3低がモテる男の条件になったと『下流社会』著者東京芸大卒の美人画家 「日本画を通してリアルを伝えたい」習近平総書記の博士号に秘書が代筆した疑惑浮上と香港紙報道内田篤人とデートのなでしこ安藤に「高学歴なのに隙あり」評

 

内定辞退者に「おまえのせいで計画が狂った」 圧力、罵詈雑言…違法すれすれ

2013/01/14 11:59
頑張れ!就活生


【プロが教える就活最前線】
 「おまえのせいで、育成計画が狂ったんだぞ。どうしてくれるんだ!?」
 内定辞退を告げた学生は、内定者リストおよび育成計画を見せられて、人事にこう言われました。
 内定辞退者に対する企業のこのような風当たりは、強くなる一方です。内定辞退は、職業を選ぶ権利を持つ学生にとって合法です。強制的に引き止められない企業は、違法すれすれの「引き止め」や「腹いせ」に走るようになりました。このような時代になった背景には、どのようなものがあるのでしょうか。
 近年は学生の大手志向が強くなった影響で、一部の企業に学生が集中しています。結果として、内定を獲得できない学生が増え、就職活動生の危機感をあおることになりました。さらに、リーマンショック後は「内定取り消し」という行為を企業が行ったため、企業への強い不信感が学生に募るようになりました。
 こうした状況は、就活のやり方をどう変えたでしょうか。リスクヘッジをしなくてはならなくなった学生は、数多くの企業を受け、数多くの内定を獲得するという行動に出ました。つまり、質より量を求め始めたのです。そして、企業が新卒に求める人物像が似通っている関係で、一部の学生に内定が偏るようになりました。複数社の内定を保持している学生であっても、当然ながら入社できるのは1社しかないため、その他企業は辞退する必要が出てきます。こうして、多数の内定辞退を生み出す状況になりました。
• 「就活=婚約」なんです!
• 就活戦線に薄日…景気後退なお不安
 企業によっては、大手であっても6〜7割の内定辞退が出ているのが現実です。これでは、1年前から莫大な予算をかけて準備してきた企業にとっては、たまったものではありません。こうなると、企業側も対抗措置を講じてきます。学生が安易に内定辞退することに対し、企業も感情的に対応するケースが増えているのです。以下は、実際に学生たちから聞いた話です。
 1. 某大手金融機関A社に内定辞退を伝えたところ、「どこの企業に行くのか?」と聞かれた。入社予定のB社の社名を伝えたところ、A社の取引先の企業であったため、圧力をかけられた。これにより、A社とB社の内定を失う結果となった。
 2. 某大手食品会社C社の内定を辞退したところ、椅子に座らされ、人事数名に1時間におよぶ罵詈雑言を浴びせられた。

 3. 某大手金融機関D社に内定辞退を伝えたところ、その場はいったん保留にさせられた。後日、研究室に行く際、人事が校門で待っていた。一緒に教授のところまで案内させられ、教授にあいさつをして帰っていった。お世話になった教授を裏切れず、そのまま入社を決意した。

 1の場合、信義則違反の範疇を超え、ほとんど違法すれすれの域に達した行為といわざるを得ません。いくら企業側があたまにきたとしても、学生にとって一生の問題である内定の取り消しにつながるような行動を取る権利があるはずはありません。
 また2も、学生にとっては不必要に不愉快な思いをさせられたわけですから、笑って済ませられるケースではありません。3はより陰湿なケースですが、こうまでして内定者を引き留めたとしても、結局企業側にとっても内定者にとっても不幸な結果に終わるだけでしょう。
 このように、企業側も紳士的とはいえない対応をとるケースが増えてきています。
 新卒の採用活動が構造的に改革されるか、大手企業入社へのハードルが低くならない限り、この負の連鎖は続くでしょう。このような新卒の採用活動における欠陥は、「就職氷河期」だけでなく、学生が無作為に企業を受検することによる「入社後のミスマッチ」まで生み出すようになってしまいました。ミスマッチは、もはや企業側の改善努力だけに任せておけない状況です。学生がじっくりと自分にあった企業を探せるようになるためには、企業や学生だけでなく、政府機関も一体となって、改善していく必要があると思います。(内定塾講師 石橋正行)
 ここ10数年で新卒の就職活動も大きく変化してきました。新卒の就職活動は、世の経済状況や世相を反映しやすく、年によって状況が異なります。就活塾・予備校最大手の「内定塾」講師が週替わりで、就活事情の最前線をご紹介します。


04. 2013年3月11日 10:22:21 : lqOPOFnyLE
いつも思うことだが、なぜ外資外資と騒ぐのか。金融緩和なのだから、国内投資家や国内機関も安価な国内企業のM&Aや経営再建に努力すればいいだけの話だ。そのリスクをとれないというのは、チャレンジ精神や方向転換、創造力のなさがなせる業だろう。その力をどうやって鼓舞するか、再発見するか、そんなことを論じるべきではないか。(TPPには反対だが。)

05. 2013年3月11日 15:45:50 : kPOeurwFuo
「首切り」の自由化は本末転倒だ
誰にも止められない安倍政権、野党はいま何をすべきか
2013年03月11日(Mon) 筆坂 秀世
 まるで何をやっても(やらなくても)上手くいくのが、いまの安倍政権のようだ。スポーツ選手が「ゾーンにはまる」という表現をすることがある。集中力が極限にまで高まった時、雑音や雑念から解放された状態とでも言うのか。

 アベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3つの柱からなっている。個別に言うと、2%のインフレ目標や日銀による無制限の金融緩和、国土強靭化ということでの公共事業の追加需要などとなる。要するに、民主党政権がやろうとした財政再建最優先や「コンクリートから人へ」の逆張りである。

 何かが具体的に動き出したわけではない。それでも株価は上昇し、円高は大きく是正された。高度に発達した資本主義というものが、マインドによって大きく左右されることをこれほど鮮やかに示したことはないのではないか。

正規社員の賃上げだけでは不十分

 だが、いつまでもマインドだけではもたないことも安倍晋三首相も分かっているのだろう。2月12日、安倍首相は日本経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体トップとの会談で、デフレ脱却に向けて「業績が改善している企業は、報酬の引き上げを行うなどの取り組みをぜひ検討してもらいたい」と要請した。

 3月1日には、麻生太郎財務相も米倉弘昌経団連会長らと会談を行い、「経済の成長は政府・日銀の話だけではない。労働分配率を考えてもらわないと消費は絶対に伸びない」と述べ、賃上げを求めた。

 かつての自民党政権時代、政官財の癒着がしばしば問題にされた。実際、自民党は財界から巨額の政治献金を受け取ってきた。その財界に対し、今回ほどあからさまに賃上げを要請したのは、自民党政権としては史上初めてのことではないのか。このことは大いに評価したい。GDPの6割を占めるのが個人消費であり、賃上げはデフレ脱却に不可欠だからだ。

 この要請に応え、ローソンが3500人の正社員の賃上げを表明したのに続き、セブン&アイ・ホールディングスがイトーヨーカ堂、そごう、西武など傘下54社5万3500人の賃上げを表明した。

 だが、内実を見ると喜んでばかりはおれない。ローソンが賃上げするというのは、わずか3500人の正社員だけであり、圧倒的多数派の18万5000人に上る非正規労働者は対象外だからだ。またセブン&アイHDも、この間、劇的に正社員を減らしてきた。その意味では、デフレを長引かせてきた一因を作ってきた企業でもあるからだ。

 経団連の米倉会長が安倍首相と会談した際、労働市場の規制緩和策の実行に注文をつけたように、安倍政権の経済政策の一翼を担う産業競争力会議の分科会では、「正社員の解雇をしやすくする」ということが議論されている。

 日本の産業が競争力をつけるためには、“首切り”をもっと自由化し、衰退産業から成長産業に労働者が移転できるように労働市場の流動化を図るというのがその趣旨である。

 これは決して新しい論建てではない。小泉政権以来、同じ論建てによって人材派遣など非正規雇用が劇的に増加してきた。これこそがデフレの大きな要因ではなかったのか。正規社員の賃上げだけで事足れりとしないよう安倍政権には強く求めたい。

経世済民の意味を忘れるな

 日本電産の永守重信社長は、「企業の最大の貢献は雇用だと思っています」と語り、「手塩にかける」という言葉が好きだと言う。一人ひとりの社員を手塩にかけて育てると大変身を遂げ、強くたくましくなっていく、いわば人づくりが企業の責任だと言うのである。

 またリコーの大植武士社長(在任1976-1983)も「社長にとって本当に大事なことは社員の首を切らないことを覚悟すること」だと語っている。

 3.11大震災で被災した企業の中にも、操業休止中も給与を支払い、1人の首切りもせずに立ち直った会社もある。

 もちろん首切りが不可避なこともあるだろう。だがそもそも経済の目的はいったいどこにあるのか。「経済」という言葉は「経世済民」という言葉から作られた。「世の中を治め、人民の苦しみを救うこと」(広辞苑)にこそその役割がある。

 企業が発展し、日本経済が全体として活力を取り戻すことは、いまの日本にとって最重要の課題である。だからといって首切りを自由化するなどというのは、本末転倒も甚だしい。安倍政権が、この道を進もうとすれば、いまの好循環はもろくも崩れ去っていくことだろうということだけは、警告しておきたい。

 ちなみに労働者の賃上げ問題は、共産党が熱心に提案してきた。このこと自体は驚くにはあたらない。一貫してそういう立場だからだ。

 この国会でも志位和夫委員長、市田忠義書記局長の衆参代表質問や予算委員会で取り上げてきた。2月8日の衆議院予算委員会では、笠井亮議員が取り上げ、麻生財務相が「企業はいま巨大な内部留保を抱えていると思っております。内部留保は賃金に回るか、配当に回るか、設備投資に回るかすべきものと考えております」という答弁を引き出している。

 この質問以降、「『賃上げは必要』という方向に世論の“空気”は変わりつつある」という自画自賛はいかがなものかとは思うが、地道にこうした問題を取り上げることは野党として大事なことである。

山口香さんが強調した能の教え

 先日、ある集まりで日本オリンピック委員会理事・筑波大学大学院准教授の山口香さんの講演を聞く機会があった。

 講演の中で山口さんが強調したことの1つは、「守破離(しゅはり)」という考え方だった。もともとは「能」の世界の教えで、武道や華道などでも使われる言葉だという。

 まず「守(しゅ)」は、師に教えられた形を徹底的に学び、身につける。形というのは、師が修練を重ね、考え抜いて完成させたものであり、そこには師の哲学も貫かれている。

 次の段階が「破(は)」である。形をしっかり身につけたあと、その形を破る、つまり自らの創造性、応用力を発揮していく力を身につけていく。

 最後が「離(り)」である。形にとらわれず、破も意識せず、新たな世界を切り拓いていく力を身につける。

 山口さんは、日本の柔道界にはこの精神が欠けているという。

 ロンドン五輪の柔道女子代表選手への監督らによる暴力問題が発覚し、大きな問題になっているが、女子選手から暴力の事実を聞き、全日本柔道連盟に訴えたのは、山口さんだった。

 だが、問題の深刻さが理解できない全柔連では話にならないため、山口さんは選手たちに次のように言ったという。「あなた方は何のために柔道をやってきたのか。女性として自立する力を身につけるためにやってきたのではないのか。納得できないなら、自分たちで声を上げなさい」

 これによって15人の女性選手がJOCに訴えることになった。これまでの柔道界では考えられなかった勇気ある行動だ。これがすなわち「離」である。

野党にいまこそ必要な「守破離」の精神

 いまの野党にもこの精神が必要ではないか。もはや自民党政権が早期に崩れることはない。衆議院の解散総選挙は、おそらく任期いっぱい近くになるだろう。安倍政権が今後、仮に失策を行ったとしてもこの点は変わらない。参議院選挙で大躍進する野党が出てくるとも思えない。こういうときには、目先だけしか見ないような合従連衡などは考えず、地に足を着けて地道な努力を続けることだ。

 そのためにも、まず「守」だ。まともな綱領すら持たない政党は、まず、どういう日本を目指すのか、どういう政党として存在意義を発揮するのか、その形を明確にすることだ。そうでなければ、選挙目当てに結党されたような政党は、いずれは消え去るのみとなるであろう。

 次に「破」だ。野党がバラバラでは、確かに力を持たない。合従連衡も必要となる。よく「小異を残して大同につく」と言われるが、その元には形が必要となる。形がなければ、そもそも大同もない。何もない者同士が一緒になっても大同にはならない。新党未来がその悪例だ。形を大事にしつつ、その形を抜け出すからこそ大同になる。つまり本当は「大異を残して大同につく」ということなのだ。

 最後に「離」である。「一寸先は闇」と言うが、政界であれ、どの世界であれ、将来のことは誰も予見はできない。何が起こるか分からないからだ。いま一見すれば、強力に見える自民党政権も、数年後にどうなっているかは分からない。

 民主党の轍を踏むことなく、いざ政権獲得のチャンスが到来すれば、堂々と政権の座に就けるだけの実力をつけ、力に磨きをかけることだ。政権担当能力を身につけるのは、政権に就いてからでは遅い。その前につけておくものだ。

 

 


緊縮疲れの欧州、社会の不満が爆発する恐れ
2013年03月11日(Mon) Financial Times
(2013年3月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 イタリアの総選挙以来、ユーロ圏の危機が戻ってきたのかどうかという議論が金融市場と欧州各国の首都を席巻している。この議論には、1つ、厄介な想定が含まれている。危機が1度は去ったということだ。

 ユーロ崩壊の実存的な脅威は消えたかもしれない。だが、この半年間、欧州の政府関係者の間で自画自賛ムードが広まる一方、多くの国では景気が一段と収縮した。失業率は域内全体で軒並み2ケタに上昇し、国債発行残高の水準は過去最高を記録している。

 我々はこの世の終わりを避けた。第2次世界大戦以来、最悪の景気後退で済んでいることを喜ぼう――。欧州連合(EU)の指導者たちはこう言っているようだ。

大恐慌時代の米国並みの苦境

 ギリシャの統計は信じ難いほどひどいため、何度繰り返してもいいだろう。ギリシャ経済は2008年以降、規模が4分の3に縮小し、労働者の4人に1人以上が失業している。ギリシャ財務省の経済諮問委員会の委員長を務めるパノス・ツァクログロウ氏が言うように、これに比類するのは大恐慌時代の米国とワイマール期のドイツしかない。

 ギリシャは常にユーロ圏の例外だったが、他国も追いつきつつある。スペインの失業率はギリシャと同じくらい高く、イタリアの景気収縮は、ギリシャの基準と比べると緩やかとはいえ、3カ月前に予想されていた不況より深刻になる。フランスでは、失業率が11%に達する可能性がある。

 こうした惨状の中で、イタリアの有権者が悲鳴を上げ、ユーロ圏における緊縮主導の危機対応は問題を軽減するどころか、悪化させているのではないかという議論を再燃させた。

 一部の論争は辛辣になった。シルビオ・ベルルスコーニ氏は選挙戦の最中に、イタリアの緊縮政策を「メルケルの絶対命令」と呼んだ。社会民主党(SPD)のドイツ首相候補、ペール・シュタインブリュック氏は、ベルルスコーニ氏と、やはり反緊縮を掲げる活動家のベッペ・グリッロ氏を「道化」と呼んだ。

 EUの欧州委員会で経済問題を率いるオリ・レーン氏が、各国は財政改革をためらうべきではないと述べると、ノーベル賞を授賞した経済学者のポール・クルーグマン氏がこれを「Rehn of Terror(Reign of Terror=恐怖政治=をもじった言葉)」と断じ、オンライン上の舌戦を引き起こした。

 だが、これだけ大騒ぎして、この議論は何らかの変化を生むのだろうか? 今から9カ月前、フランスは総選挙を実施し、反緊縮を掲げる候補が、EUの危機対応の主要設計者を押しのけた。それでもフランソワ・オランド氏の勝利はほとんど何も変えていない。

 オランド大統領の下で経済財政相を務めるピエール・モスコビシ氏は7日、EUの緊縮志向の政策を変えるのはなぜそんなに難しいのかと問われると、仲間のユーロ圏の指導者たちの「乏しい想像力」のせいにした。

 しかし今、想像力よりはるかに重要なものが抑制されて乏しくなっている。方向を転換する政府の力だ。

 すべてのユーロ圏諸国で財政協定が国法となっており、政策立案者はほとんど何もできず、赤字削減と改革の厳しい目標を守るしかなくなっている。欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁が述べたように、選挙結果に関係なく、イタリアの改革は「自動操縦」で進められるのだ。

 では、有権者が自分たちが反対する経済政策を理由に現職の指導者を選挙で落とし、その挙げ句、新たな指導者が全く同じ政策の実行を強いられることに気付かされたら、何が起きるのだろうか?

投票しても何も変わらないと・・・

 ブリュッセルに本拠を構えるシンクタンク、欧州政策センター(EPC)の政治アナリスト、ヤニス・エマヌイリディス氏は、これは社会の爆発を招くレシピであり、有権者をグリッロ氏のような比較的温和なポピュリストか、ギリシャのネオナチ政党「黄金の夜明け」のような厄介なポピュリストの元へ走らせることになると指摘する。

 「投票に行っても、何も変わらないように見える。簡単な答えを持っている人たちの魅力を高めているのが、この状況だ」とエマヌイリディス氏は言う。

 学術誌には、経済調整を強いられる国々で政治の安定がどれだけ続くかという試算が満ち溢れている。こうした研究の大半がそうであるように、「状況次第」というのが、その答えだ。

 大方の人が同意しているように思えるのは、政治の中道派がいつまでも持ち堪えられないということだ。ギリシャの経済収縮は6年目に入ろうとしている。スペイン経済は5年間で4度目の縮小となる。イタリア経済は6年間で4度目の縮小だ。1度も去っていない例のユーロ圏の危機はまだ当分続く可能性がある。

By Peter Spiegel in Brussels


 


 


 


欧州に吹き荒れる大量解雇の嵐
自動車不況でボルボも追加リストラ〜北欧・福祉社会の光と影(4)
2013年03月11日(Mon) みゆき ポアチャ
 2月下旬、ボルボ・カーズは従業員を1000人削減すると発表した。同社は昨年秋に工場で働く1100人を解雇したばかりだが、今年の解雇はホワイトカラーをターゲットとしたものだ。同社の社長兼最高経営責任者(CEO)、ホーカン・サミュエルソン氏が同20日、スウェーデンTVのインタビューで明らかにした*1。

 欧州市場における1月のボルボの販売台数は前年同月比で16.8%減と、スウェーデンにとってはショックな数字だった。

スウェーデン経済を脅かすボルボの不振


中国企業の傘下に入っても、ボルボはやっぱりスウェーデンのシンボル〔AFPBB News〕

 自動車はスウェーデンの基幹産業だ。2010年に中国企業に買収されたとはいえ、やはりボルボは依然としてスウェーデン人にとっては国民車であり、スウェーデン福祉国家をその両肩で背負っていると言っても過言ではない。

 ボルボが傾いたら、スウェーデン全体の経済状況に影響すると誰もが考えている。

 ボルボ・カーズの本社があるヨテボリ・トシュランダを訪ねてみた。 

 今回の解雇が予定されている1000人は、エンジニアリングなどのコンサルタント職が大半だ。

 そのうちの1人に声をかけ、話を聞いてみた。「心の準備はしていました」と話すのは、ケネス・ウィクベリさん。現在、ボルボの研究開発部門に勤めている。職場では近々人員削減がある、ということは周知の事実であったという。

 「不安がないわけではありません。しかし再雇用されるチャンスはありますから」

ノルウェーやデンマークへの「出稼ぎ」も視野

 ボルボは親会社である中国・浙江吉利控股集団と共同で、ヨテボリ・リンドホルメンに研究開発センターとなる新会社を設立する予定だ。新会社には中国とスウェーデンから合わせて技術者200人を雇用し、年内に稼動を開始する。ウィクベリさんが再雇用される可能性は十分にある。

 しかし、雇用されなかったらどうするのか?

 「ここで職が得られなければ、ノルウェーに行くかもしれません」

*1=http://www.svt.se/nyheter/sverige/1000-tjanster-bort-fran-volvo

 ノルウェーやデンマークで働いたほうが、為替レートの違いにより、スウェーデンで手にするよりもよい給与が得られる可能性が高い。また、この3カ国の言語はよく似ているので、意思の疎通もそれほど難しくはない。

 筆者自身も、以前に南スウェーデン・マルメに住んでいた時に、大学院で学ぶ傍ら週末にはデンマークまで通ってアルバイトをしていた。仕事を始めた時はスウェーデンから定期船でコペンハーゲンまで通っていたが、海峡をまたぐ大橋が開通してからは列車で行けるようになった。

 ノルウェーとスウェーデンは陸続きなので車で通勤できる。それほどの遠距離でなければ、「外国への出稼ぎ」とはいえ、さほど大変ではないかもしれない。

「過去最大のモデルチェンジで現状を打破」


新モデルのボルボS80(写真:ボルボ・カーズ広報提供)
 この前の週に、ボルボは今年の新モデルを発表した*2。

 ボルボS60、V60、V70、S80をはじめとする同社の主要モデルのほぼ全部に改良が加えられた。

 CEOのサミュエルソン氏は、「生産ラインの70%を刷新するという過去最大のモデルチェンジだ」と言い、欧州危機の今こそが新たなモデルを売り出すチャンスだと話す。

 さらに、同氏は「新モデルを打ち出していくことは戦略的に重要なため、財政の悪化が開発プロジェクトに影響することはほとんどない」としている。現在ヨーテボリの開発ユニットには約5000人が働いている*3。

 同社はこうして厳しい競争に勝ち抜こうとしている*4。

縮小が止まらない欧州自動車市場

 とはいえ、苦境にあるのはボルボだけではない。

 1月に入り、仏自動車大手ルノーは、2016年までに国内に4万4000人いる従業員の14%、7500人を削減すると発表した。これまでの2年間で、同社はすでに4000人を削減している。

*2=http://www.dn.se/motor/ansiktslyftning-volvos-recept-pa-tuff-marknad
*3=http://www.dn.se/ekonomi/1000-jobb-bort-fran-volvo-pv
*4=http://www.dn.se/motor/volvo-och-geely-startar-nytt-bolag


出展:ACEA*6
 また昨年6月、米ゼネラル・モーターズ(GM)はドイツ・ボフムのオペル工場を閉鎖し、2万人の従業員の賃金を凍結すると発表した。

 欧州全域で自動車の販売は落ち込み続けている。欧州自動車工業会(ACEA)によると、2013年1月の自動車販売台数は約91万8000台で、1990年以来の最低水準を記録した。

 昨年、ブジョーとシトロエンを所有するフランスのPSAグループは、450億クローナの損失を計上している。大手ブランドは軒並みマイナスだ。

 欧州における2013年1月の各自動車ブランドの販売台数増減率(昨年同月比)は右図の通り。

 自動車関連産業だけではない。欧州全域で不況と大量解雇の嵐が吹き荒れている。

過去最悪を記録する失業率

 この数週間に発表された経済統計を見ると、欧州、中国、米国における失業率と貧困率は急騰し、製造業生産高、経済成長率と個人所得の指標が軒並み悪化している。これと同時に社会支出の削減、公共部門の労働者の解雇と賃下げが進んでいる。

 3月1日、欧州連合(EU)の統計局ユーロスタットが発表したEU加盟国27カ国の失業率は10.8%で、これまでの過去最高値だった昨年12月の記録をさらに0.1%上回った*7。最悪はギリシャの27%で、次いでスペイン26.2%、ポルトガル17.6%となっている。

 同時期の米国の失業率は7.9%、日本は4.2%だ。

 統計によると、EU加盟国全体でほぼ2620万人の失業者を抱えていることになり、昨年12月から22万2000人増えている。

 特に深刻なのは若年層の失業だ。EU全体での25歳以下の失業率は23.6%。ギリシャの若年失業率は59.4%、スペインでは55.5%、イタリアでは38.7%となっている。


表:ユーロスタット統計より筆者作成
*6=http://www.di.se/artiklar/2013/2/19/volvo-rasar-pa-svag-bilmarknad/
*7=http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_PUBLIC/3-01032013-BP/EN/3-01032013-BP-EN.PDF

財政緊縮策は成功だったのか? 

 政府の財政緊縮策が貧困と大量失業を生み出している諸悪の根源だ。少なくとも、ギリシャやスペインをはじめとする南欧の人たちはそう考えている。

 これらの国々では、現在何百万、何千万もの人が極度の貧困状態に陥っている。

 ギリシャ銀行(中央銀行)が2月25日発表した年次リポートによると、2012年には人口の23%が貧困ライン以下で生活をしている。2011年には16%だった。子供の貧困も増え、貧困のリスクにさらされている家計は人口全体の31%に達したという。2010年から2012年にかけて、ギリシャ人の給与は平均で20.6%カットされている。

 現在ギリシャでは465万人が失業しているか、収入が何ら得られない状態にある。家族の誰一人として職に就いていない家庭は45万世帯に上る。2010年には民間企業全体で260万人が雇用されていたが、現在までに、そのうちの90万人が解雇されている。

 ギリシャのホームレスは公式発表で4万人に上っている。キリスト教会の炊き出しには長い行列ができ、栄養不足により子供が学校で失神するという報告が増えている。政府市庁舎の前で、抗議の焼身自殺をする失業者のニュースも報道される。

 が、このリポートを発表する際にギリシャ銀行総裁で欧州中央銀行(ECB)政策理事会のメンバーでもあるジョージ・プロボポラス氏が放った発言は、こうだ。「(緊縮財政措置により)金融崩壊の危機を克服し、信頼は着実に回復している」「(危機の)終わりが見えてきた。より一層の厳しい措置が必要だ。不況を言い訳にしてはいけない」*8

多くの犠牲の上に成り立つ小康状態

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙をはじめとする各メディアは、ユーロ危機はひとまず去ったと書くが、これは何千万という欧州人口の生活を破壊し、多くの犠牲の上にぎりぎり成り立っているものだ。

 緊縮財政策に反対する公務員や民間企業の労働者、農民も含めた大規模なストは続いている。これに対しギリシャでは、軍隊を投入して大規模反対運動を弾圧する用意をしている。ギリシャの元外交官で黒海経済協力(BSEC)事務総長を務めたレオニダス・クリサンソポロス氏は「社会不安の爆発」に対し「早急に」対処する必要があると英誌のインタビューで発言した*9。

 混迷する欧州経済に、果たして出口はあるのか――。

*8=http://bigstory.ap.org/article/bank-greece-output-down-201-percent 、http://www.france24.com/en/20130222-locksmiths-firemen-refuse-aid-evictions-spain
*9=http://www.newstatesman.com/world-affairs/2013/02/greece-promise-army-has-been-obtained-not-intervene-against-civil-uprising


06. 2013年3月11日 15:49:49 : kPOeurwFuo
ラストチャンスの「円安」を生かせるか、
崖っ縁の日本メーカーの先行きは?
2013年03月11日(Mon) 相場 英雄
 安倍晋三首相の主導するアベノミクス。日銀総裁に“金融緩和推進論者”を据えることが(ほぼ)決まり、円安→株高のシナリオがさらに勢いを増しそうな気配が漂っている。

 アベノミクスは果たして日本を救うことができるのか。円安が本当に日本企業と経済全般を再生させるのか。私は冷ややかな目線で見つめている。円安により、主要な輸出型企業の業績が改善するのは明らかだが、その先に明確な企業戦略が見えてこないのだ。

FTの強烈な見出し

 改めてアベノミクスの中身をチェックしてみよう。日銀にさらなる金融緩和と物価上昇目標を設定させ、円高を是正し、円安局面を作る。裾野の広い自動車や電機など輸出型産業を再生させ、これを日本経済全体の回復に寄与させよう、というのがおおまかな内容だ。

 安倍政権が始動する前段階から、市場は敏感に反応し、外為市場で円が急落し、株式市況も上伸した。

 日本株の凄まじい回復力を見た海外機関投資家が買い増しを続けたほか、今まで空売りを続けていた海外投機筋の買い戻しが加速した結果、日経平均株価は2007年のリーマン・ショック以前の水準をうかがう展開となっている。

 2月26日付の「日本経済新聞」によれば、現在の為替水準が続いた場合、製造業主要30社の営業利益は来期で計2兆円増える、という。

 株価は先々の企業の姿を映すという格言に照らせば、アベノミクスは初期段階から成功したように映る。だが、通信社の記者時代からこの国の市況と企業を見てきた私は、今回の市況好転と企業業績の改善期待には強い違和感がある。

 アベノミクスを実現させるべく、次期日銀総裁には金融緩和推進論者が就く。同人事を好感した株高も進捗しているが、果たしてシナリオ通りに事が進むのか。

 2月初旬、私は「フィナンシャル・タイムズ(FT)」の「日本の問題は通貨ではなく、競争力のない製品だ」という見出しを見て、思わず手を打った。安倍首相が主導するアベノミクスに関する強烈な皮肉を込めたコラムであり、強く共感した次第。以下がその内容の一部だ。

 

 当欄でなんども指摘してきたが、薄型テレビに代表される日本の家電は既に韓国や台湾、あるいは中国など新興国メーカーにシェアを奪われ、競争力が極端に落ち込んでいるのは明白だ。

 アベノミクスを賞讃する主要マスコミ、あるいは株高局面に便乗し、株式投資企画で販売部数を伸ばそうと企図する各種の週刊誌報道では、“円安メリット銘柄”として主要な電機や自動車関連銘柄を推すが、果たしてそうか?

 「円安という追い風があったにせよ、テレビや他の家電が国際的なシェアを奪還できるというのは絵空事」(米系証券アナリスト)との見方は根強い。 

新製品・新サービスを打ち出せ

 先の項で触れた通り、現状の為替水準が継続したと仮定すると、主要な製造業、すなわち輸出型産業大手の営業利益は2兆円近くに達するという。

 だが、足元の個別企業の業績を見れば、「ダブついた人員のリストラや工場設備の見直しに必死で、新たに得た利益をR&Dに振り向ける余裕のある日本企業は少数にとどまる」(欧州系証券)というのが実状ではないのか。

 先のFTのコラムをもう一度チェックしてみよう。

 

 個人的な見方で恐縮だが、私自身はアベノミクスの先行きを懐疑的に見ている。また、先のイタリアの総選挙で同国の政局混乱の懸念が台頭した直後、日経平均株価が一時的に急落する局面があるなど、“期待感だけで騰がった市況”の地盤は脆弱だ。

 今期、あるいは来期手にするであろう“円安メリット”をどう生かし、かつサムスンや他の新興国企業からシェアを奪回する新製品、あるいは新サービスを緊急で生み出す作業を急がねば、日本メーカーの先行きは一段と暗くなる。

 リストラや企業財務の掃除と同時に、“競争力のある製品”を生み出さねば、アベノミクスでメリットを享受するとされる輸出型の大企業は再浮上の機会を逸することになる。

 


 


行こうぜ! ぽっちゃりの向こうへ

モデルオーディションで体感した成長市場の息吹

2013年3月11日(月)  上木 貴博

 3月21日に創刊にされる女性誌の読者モデルオーディションに潜入した。雑誌名は「la farfa(ラ・ファーファ) 」。日本初の“ぽっちゃり女子”のための本格ファッション誌だという。当然、読者モデル(以下、読モ)の応募資格も、18〜40歳の服のサイズがLL〜8Lの女性である。

 応募総数は250人。書類選考を通過した約60人が、2月下旬の週末に発行元のぶんか社で最終選考に臨んだ。選考をくぐり抜ければ、読モとして同誌の誌面や、女性向けブランド「スマイルランド」のショーに登場できる。スマイルランドは、カタログ通販大手のニッセンが2002年から展開しているぽっちゃり女子の定番ブランドである。


ぶんか社の新雑誌「ラ・ファーファ」発行人の今晴美氏。(写真:稲垣 純也、以下同)
 ファッション雑誌のオーディション会場には通常、場慣れした読モ予備軍が集まる。しかし、ぽっちゃり女子が堂々とエントリーできるオーディションはこれまで皆無だった。控え室となったぶんか社1階の会議室を覗くと、千載一遇の好機を前にした参加者たちの緊張感が漂っていた。そんな彼女たちの前に颯爽と現れたのが、新雑誌の発行人を務める今晴美さんである。彼女もオーディション参加者同様にふくよかだ。今氏は参加者に向かってこんなふうに語りかけた。

 「ラ・ファーファはぽっちゃりさんによる、ぽっちゃりさんのための雑誌です。私も洋服が好きなのでファッション誌をよく見ますが、『欲しい』と思った服には自分のサイズがないという経験をずっとしてきました。私自身がこんな雑誌をずっと読みたかった。今日来てくれた皆さんの中から読者に夢や希望を与えてくれるカリスマモデルが出てきてもらえるとうれしいです。みなさん、一緒にぽっちゃりの向こうへ行きましょう」。

 参加者たちの表情から緊張がやや解けたように見える。やはり、自身の体型に多少なりともコンプレックスを抱えている彼女たちに向かって、同じ目線で語りかけられるのは強い。「この人は私のことを分かってくれる」。そんなふうに感じたのかもしれない。

 しかし、記者は疑問に思った。「ぽっちゃりの向こう」ってどこだろう。そこには何があるのだろう。当初は理解できなかったが、参加者と今さんら面接官とのやり取りを見ているうちにおぼろげながら見えてきた。

 かつて、おしゃれが好きな女性にはぽっちゃり体型は不幸であった。「着たい服ではなく、着られる服を探すしかなかった」。複数のオーディション参加者はそう語った。彼女たちは必然的に男性用ブランドや、ジャージーなどスポーツ系のファッションで我慢する機会が多かった。

 その反動から、「ガーリー(少女っぽい)」と称されるフリルなどがついたかわいらしい洋服を好きになる傾向があるという。なかなか着られないからこそ憧れるのだ。

 事実、オーディションには淡いパステルカラーのカーディガンや短めのスカートなどを身にまとい、事前に与えられていた課題である「春らしいコーディネート」に挑戦していた。「今日のファッションのポイントは?」といった面接官の質問にもすらすらと答える。自分のこだわりや自慢のアイテムについて語ったり、見せたりするのがとにかく楽しいようだ。少しばかり体は大きいけれども、おしゃれ好きな普通の女の子である。

 「身長はずいぶん前に止まりましたが、体重は生まれてからずっと右肩上がりです」。ある参加者の自虐的な自己紹介には思わず笑ってしまった。体型をネタにできるぐらいの機転や強さを彼女たちは備えている。「ダイエットなんて絶対しません」と宣言する人もいた。今の体型になった経緯を聞かれた際のやり取りでのことだ。彼女は「世の中にはおいしいものがたくさんあります。でもかわいい服も大好き。かわいいぽっちゃりを目指します」と語った。


それほどぽっちゃりには見えない参加者もいるが、体型を悟られない着こなし術を駆使しているのだという
 ただ、ダイエットを一切やらないという人は少数派である。「リバウンドを繰り返している」と苦しい胸の内を正直に明かす参加者も複数いた。だからこそ読モになりたいという。体重の増減を繰り返しつつも、明るくおしゃれを楽しんでいるうちに、細身のシルエットを作る着こなし、二重あごをさりげなく目立たなくして小顔に見せるメークなど、独自の技術を磨いてきた。オーディション参加者たちは読モになってそんなテクニックを誌上で披露して、同じ悩みを抱えてきた女性の力になりたいのだという。

 会場で彼女たちを見ながら、「雑誌の創刊はそこにカルチャーが誕生することだと思う」と感慨深げにつぶやいた人がいる。ニッセンのマーケティング本部ブランド戦略室の浪花勝史マネージャーである。

 同社はぽっちゃり女性向けのファッションを長らく牽引してきた。浪花氏も広報マンとして長年スマイルランドのブランド育成に携わってきた。現在、スマイルランドの顧客はニッセンの会員全体の1%ほどにすぎないが、売上高は女性アパレル全体の2割を占めている。

 スマイルランドがこの分野で特別な存在になれた理由の1つに、ぽっちゃり女性にとっての「ディズニーランドを目指した」という店舗が挙げられる。店内の試着室は通常より3倍広く、汗かきの彼女たちが快適に過ごせるようにスポットエアコンや扇風機を設置している。しゃがまなくても手に取れるように、膝より下の高さに商品は置いていない。

 ほかにも広々とした通路や軽くて大きなハンガー、体型がほっそりと映る特殊な鏡、そして自分らと同じようにぽっちゃりとした店員たち。スマイルランド店内には至る所に買い物を楽しんでもらう工夫が見られる。5店舗の年間売上高は5億円を超えている。

 もっとも、店舗の売上高はブランド全体の売り上げのごく一部にすぎない。店は本業のカタログ販売につなげるブランディングの意味合いが強い。店員との会話を楽しんだり、いくつもの洋服を試してみたりという、普通サイズの女性が当たり前に楽しむ体験を提供することで顧客のロイヤルティー向上につなげている。

 そんなニッセンに対抗しようと、同業のセシールは2009年に「プランプ」というブランドをスタートさせた。その売上高は2012年3月期、実質的な初年度である2010年3月期比で27%増である。同社にとってもぽっちゃり女性アパレルは「カタログ通販の市場全体が低迷している中で数少ない成長領域」(セシール広報室の秋山強氏)だという。

 同社レディスアウター商品企画部の白井美穂部長は「ふっくらした女性のおしゃれに対する意識は年々高まっている」と指摘する。市場の成長を前にセシールが抱く問題意識は、プランプ利用者がスマイルランドの顧客より若干年齢が高い点である。「いかに若い顧客を新たに呼び込めるかが鍵になる」(白井部長)。

 切り札は、昨年からプランプのカタログの巻頭ページで主力商品シリーズとして発表している「BaBachan collection」だ。お笑いコンビ「アジアン」の馬場園梓さんがプロデュースを手がけている。所属事務所である吉本興業のウェブサイトによれば、彼女は155センチ、65キロという、ややぽっちゃり体型ではあるが、女性誌の専属モデルを務めるなど、ぽっちゃり界のファッションリーダーとして知られている。

 馬場園さんがプランプ誌上に寄せたメッセージに記者は胸を打たれると同時に、ぶんか社の今さんが口にした「ぽっちゃりの向こう」についても腑に落ちた。次の文章は2012年冬号の巻頭ページからの引用である。

 「やせたらこんな服を着たい」という願望は女のコなら誰でも持っているもんやと思います。でも、正直いつやせられるかなんて誰にもわからないじゃないですか。だったら今の自分でおしゃれを楽しまなきゃ損やと思うんです。

 なぜ馬場園さんの言葉が響いたのか。実は記者が「隠れぽっちゃり」だからだ。身長は166センチ、体重64キロ。これは肥満としては軽度だろうが、体脂肪率は25%もある。あまり関係ないが、昨年からは痛風まで患っている。学生時代に相撲部にいた頃はいくら食べても56〜57キロ以上にならず困り果てていた。当時の体脂肪率は一桁だった。

 だから、ここ数年ずっと自分がちょっとしたぽっちゃりである事実に馴染めなかった。これは「仮の姿」だと思っていたので、3年ほど前から洋服も我慢してほとんど買っていなかった。「いつかそのうち痩せるだろう。それから買わないともったいない」と思っていたが、「いつか」がいつまで経っても来ない。妻が妊娠中だった半年前には2歳の娘に「パパもお腹に赤ちゃんいるの?」と聞かれた。

 ダイエットに失敗し続けて、買いたい洋服をあきらめてストレスを溜める記者。ぽっちゃり体型の自分を受け入れて、大好きなおしゃれを楽しむ馬場園さんと読モ志望者たち。記者は単なるぽっちゃりゾーンでとどまっていただけだが、彼女たちは明らかに「ぽっちゃりの向こう」にいるのだ。オーディションを後にした記者は、その足でスーツを2着新調した。手持ちのものより幾分サイズは大きいが、買い物に満足している。


上木 貴博(うえき・たかひろ)

日経ビジネス記者。2002年に日経BP入社。「日経ビジネス」「日経情報ストラテジー」を経て、2010年春から再び日経ビジネス編集部に所属。趣味は野球(やる、読む、観る)と献血(2011年7月現在で通算140回)。相撲二段。好きな作家は後藤正治。


記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。


 


 


P2Pレンタル:シェア経済の興隆
2013年03月11日(Mon) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年3月9日号)

インターネットでは、あらゆるものがレンタル物件になる。


カーシェアリングはもう当たり前?〔AFPBB News〕

 昨晩、世界192カ国3万都市で宿泊用の25万室を提供している1つのサービスを通じて、4万人が部屋を借りて泊まった。彼らはオンラインで借りる部屋を選び、支払いもすべてオンラインで済ませた。

 だが、その宿は、ホテルチェーンではなく、それぞれ個人が提供したものだ。

 個々の宿主と宿泊客は、サンフランシスコに本拠を置く企業エアビーアンドビー(Airbnb)が引き合わせた。2008年の創業以来、400万人以上が同社のサービスを利用している。うち250万人は、2012年の利用者だ。

 エアビーアンドビーは、新たに生まれた巨大な「シェア経済」の代表例と言える。シェア経済とは、個人がインターネットを通じて協力し合い、宿泊場所や車、船などの資産を直接貸し借りする経済の仕組みを指す。

 こうしたシェア経済は、B&B(ベッド・アンド・ブレックファスト=簡易宿泊施設)の経営や、共同別荘の所有、車の相乗りなどと同じようなものに見えるかもしれない。だが、テクノロジーのおかげで取引コストが下がり、これまでになく資産の共有が安く、簡単になっている。その結果、これまでよりもずっと広範囲でのシェアが可能になっている。

 大きく変わったのは、人やモノに関して入手できるデータが増えたことだ。その結果、物的資産を要素ごとに分解し、それぞれをサービスとして消費することが可能になっている。インターネットの登場以前にも、サーフボードや動力工具、駐車スペースを誰かから借りることはできたが、大抵はその価値よりも煩わしさの方が大きかった。

 だが今や、エアビーアンドビーのほか、米リレーライズ(RelayRides)、米スナップグッズ(SnapGoods)といったウェブサイトが、所有者と借り手を引き合わせている。

 GPS(全地球測位システム)搭載のスマートフォンを使えば、 借りられる車がある最寄りの駐車場を見つけることができる。ソーシャルネットワークにより、相手の身元が確認でき、信頼関係が築かれる。そして、オンライン決済システムが賃料の支払いを担う。

私のものはあなたのもの、ただし有料です

 米イーベイなどのピア・ツー・ピア(P2P)企業があらゆる人を小売業者に変えたのと同じように、シェアリングサイトでは、個々人がそれぞれの都合にあった時と形態で、即席のタクシーサービスやレンタカー会社、ブティックホテルになることができる。ウェブ上で登録をするか、アプリケーションをダウンロードするだけでいい。

 このモデルが機能するのは、買うには高価だが、多くの人が所有していて、かつフル活用されていない物品だ。最も分かりやすい例が宿泊部屋や車だが、例えばスウェーデンではキャンプスペース、オーストラリアでは農地、フランスでは洗濯機もレンタルできる。

 シェア経済の支持者がよく言うように、所有せずに利用する方が、所有するよりも優れているのだ。

 シェアについての著書があるレイチェル・ボッツマン氏によれば、一般消費者向けのP2Pレンタル市場だけでも、260億ドル規模になるという。シェア経済をさらに広く定義すれば、P2P融資(もっとも、現金は余剰固定資産とは言い難い)や、屋根にソーラーパネルを設置して余剰電力を送電系統へ売ること(これはむしろ電力会社的になっているが)も含まれる。

 シェア経済は、個人に限ったものでもない。企業も、空いたオフィスや使っていない機械をウェブで簡単に貸し出せるようになっている。とはいえ、シェア経済の核となっているのは、さまざまなものを互いに貸し借りする個人だ。

 こうした「協調的消費」は、いくつかの理由から良いことと言える。所有者は、使っていない資産でお金を稼げる。エアビーアンドビーによれば、サンフランシスコの宿主は年平均58晩自宅を貸し出し、9300ドルを稼いでいる。リレーライズで車を貸し出している人の収益は月平均250ドル。中には1000ドル以上稼ぐ人もいるという。

 一方の借り手は、自分で購入したり、ホテルやレンタカー会社といった従来のサービスを利用したりするよりも安く済ませられる(シェアリング企業の多くが金融危機の際に生まれたのは当然だろう)。加えて、環境面の利点もある。必要な時にだけ車を借りれば、一人ひとりが所有するよりも必要な台数は少なくなり、製造に費やされる資源も減るはずだ。

 社交的な人にとっては、部屋を借りて、その家の人たちと知り合えるのも魅力の1つだ。自宅を貸し出す者など、みな映画『サイコ』のノーマン・ベイツのような人物だと考える気難し屋は、従来のホテルに泊まればいい。それ以外の人にとっては、ウェブが信頼を築く手段になっている。

 仲介サービスの提供者が利用者の身元を確認していることに加えて、大抵の場合、各取引のオンラインレビューや評価が双方から投稿されている。おかげで、運転の下手なドライバー、バスローブを持ち帰る宿泊者、サーフボードを壊す人などを簡単に特定することができる。

 フェイスブックなどのソーシャルネットワークを使えば、サービス利用者が互いを確認し合い、共通の友だち(または友だちの友だち)を見つけることができる。エアビーアンドビーの利用者で、2011年に自宅をめちゃめちゃにされた貸し主もいる。だが、このシステムで大抵はうまく機能していることは、注目に値する。

シェアリングの未来

 シェア経済は、オンラインショッピングに似たところがある。オンラインショッピングは、米国で15年前に始まった。当初、消費者は安全性を不安視していた。しかし、例えばアマゾンなどで首尾よく目的のものを購入できたことで、別のサイトで買っても安全だと思うようになった。

 同じように、最初はエアビーアンドビーやP2Pレンタカーを利用した人も、その経験から、別のサービスを使ってみようという気になる。さらに、イーベイのケースを考えてみてほしい。P2Pのマーケットプレイスとして出発したイーベイは、いまやプロの「パワーセラー」(その多くはもともと普通のイーベイユーザーだった)に支配されている。

 同じことが、シェア経済でも起きるかもしれない。それは新たな起業のチャンスにもなる。実際、貸し出すためだけに車を購入した人もいる。

 既存企業も、シェア経済に参入しつつある。レンタカーの米エイビスは、レンタル業と競合するシェアリングサービスにも手を出している。自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やダイムラーも同様だ。

 将来的には、企業が余剰設備(自動車でも、装置でも、オフィススペースでも)をP2Pレンタルサイトに掲載するというようなハイブリッドモデルを作り上げるかもしれない。

 これまでも、オンライン化による新しいやり方が古いやり方を完全に駆逐してきたわけではない。だが、大抵、古いやり方は変化を迫られる。オンラインショッピングが米ウォールマートや英テスコに適応を強いたように、オンラインシェアリングも運輸、観光、設備賃貸などの業界を揺さぶることになるだろう。

不要な規制を防げ

 最大の懸念は、規制面の不透明さだ。例えば、部屋を貸す人はホテル税の対象になるのか? アムステルダムでは、役人がエアビーアンドビーの検索結果を利用して、無認可のホテルを取り締まっている。米国では、従来のタクシー会社のロビー活動を受け、P2Pのタクシーサービスを禁止した都市がある。

 消費者の被害を防ぐために一部の規則を改正する必要はあるが、危険なのは、既存の企業が競争を排除しようとすることだ。部屋を貸す人が税金を払うのは当然だが、リッツ・カールトンと同じような規制を受ける必要はない。それよりも軽い、B&Bの通常の規制でも十分すぎるくらいだ。

 シェア経済は、インターネットが消費者にもたらす価値の最新事例と言える。この新たなモデルは巨大で破壊的な力を持ち、今では規制当局や企業も関心を向けるようになった。それは、ここに測り知れない可能性があることを示している。今こそ、シェアリングに目を向けるべき時間なのだ。


07. 2013年3月11日 15:52:39 : kPOeurwFuo
貿易赤字、円安で当面拡大

2013年3月11日(月)  山本 康雄

円安進行によって日本の貿易収支改善が期待されている。しかし、当面は輸入価格の上昇によって、むしろ赤字拡大要因に。輸出産業の競争力回復による収支改善は夏以降になりそうだ。

 1月の貿易赤字が単月として過去最大の1.6兆円強となった。通年で過去最大の赤字幅だった2012年(6.9兆円超)に続き、円高是正もあって貿易収支の先行きに関心が高まっている。


 まず、貿易収支悪化の内訳を分析してみよう。6.6兆円の黒字だった2010年からの内訳を見ると、過去2年は輸出金額の減少より輸入金額増加の影響が大きかった。原油価格の上昇に加えて、東日本大震災後に原子力発電所がほぼすべて停止したことに伴う燃料需要の増加で、輸入金額は2年間累計で約10兆円増加した。

 ただ、足元で電源に占める火力発電の比率は90%程度まで上昇しており、原油やLNG(液化天然ガス)の価格がさらに高騰しない限り、燃料輸入の拡大は一服する可能性が高い。この間の輸出金額は、円高と海外経済減速で年間2兆円弱のペースで減少し続けた。

 では、大幅な赤字となった日本の貿易収支に対して、最近の円安はどう作用するか。日本の貿易取引において、ドル建て決済の比率は輸出で約5割、輸入は約7割と輸入の方が高く、円ベースの物価上昇幅は輸入物価の方が大きくなる。円安によって交易条件(輸出物価/輸入物価)は悪化するわけだ。

 2012年の収支バランスを基点に、海外景気などほかの条件を一定にして対ドルの為替レートが円安になった場合の影響を試算してみる。輸出数量の増加を考慮しても、円安による金額の増加幅は輸入の方が大きくなる。

 貿易収支の悪化幅は、対ドルの為替レートが2012年平均の1ドル=79.8円から90円になった場合で0.5兆円、100円なら0.8兆円と試算される。円安で輸出企業の競争力が高まると思われがちだが、当面は貿易赤字が拡大する。

輸出産業の競争力に期待


 このように貿易収支が大幅な赤字の状態での円安進行は、貿易収支を悪化させる方向に働く。特に、円安進行の直後は価格面の影響が先行するため、春先くらいまで貿易赤字は膨らみやすい。いわゆる「Jカーブ効果」と言われる状態だ。

 その後は円安による価格競争力の向上が徐々に輸出数量を押し上げると予想される。それでも輸入金額の増加が上回り貿易収支は悪化するというのが上述の試算結果だが、これは「ほかの条件を一定」としていることに注意する必要がある。

 輸出数量に最も影響を与える海外景気は、米財政の崖回避、ユーロ圏債務問題への不安の緩和、中国経済の持ち直しなどを受けて上向きつつある。今夏以降、円安と海外景気回復で輸出数量の増加が加速し、貿易赤字は縮小に向かうと予測している。

 結局、今後の貿易収支を左右する最大のポイントは、円高局面で苦しい競争を強いられてきた自動車や電機、機械などの輸出産業が円安を追い風にどの程度グローバルシェアを回復できるかである。今後の輸出の回復力に注目していきたい。

(構成:北爪 匡)


08. 2013年3月11日 15:57:29 : kPOeurwFuo
規制改革、速やかな実行へ政治決断あるのみ

八代尚宏・国際基督教大学客員教授に聞く

2013年3月11日(月)  松村 伸二

 アベノミクスで3本目の矢とされる成長戦略。その成否は規制改革にどこまで踏み込めるかにかかっている。第一次安倍内閣で経済財政諮問会議の民間議員を務めた八代尚宏・国際基督教大学客員教授は「政治決断あるのみ」と訴える。
アベノミクスが動き出しましたが、これまでの進め方をどう評価しますか。


(写真:都築雅人、以下同)
八代:アベノミクスでは、金融緩和や財政政策だけでなく、規制改革を通じて内需を増やすことが3本の矢ですが、この他に社会保障の給付を見直して危機的な状況にある財政を立て直すことも大事だと考えます。

 規制改革会議がようやく動き出しましたが、規制改革はすでに長い歴史があって、議論はし尽くされています。内需創出に有効な項目に絞って、速やかな実行への政治的な決断あるのみ、と言えます。同時に、時代の変化に合わない過去の規制の徹底したレビユーも必要です。例えば、駐車違反防止のために1960年代に定められた車庫の義務付けは、駐車違反取締りの民間開放をさらに進めれば不要になるはずです。その結果、カーシェアリングやレンタカーの乗り捨てが容易になり、国民の利便性も高まります。

 財政赤字の問題の基本は社会保障にあります。一部には「アベノミクスで公共事業を拡大すると、また赤字が増えるのではないか」という懸念が聞かれます。しかし、最大の赤字要因は高齢化によって増え続ける社会保障給付なのです。これは毎年2.5兆円(消費税の1%分に相当)程度、増加する一方で、これを賄う社会保険料は賃金に比例するため、2000年初めごろからずっと横ばいが続いているわけです。この社会保障収支赤字の持続的な拡大が財政を脅かす主因なのです。(詳細はNIRAの「国債に依存した社会保障からの脱却」を参照)

「行列ができるところ」に潜む参入規制

規制改革はどこから手を付けるといいのでしょうか。

八代:「需要はどういうところにあるか」と考えると、答えは簡単。旧社会主義国のような慢性的な行列があるところです。お客がたくさんいるにもかかわらず、提供する事業者が限られているサービス分野では、供給を増やせば確実に需要は付いてくるはずです。

 今、混雑しているサービスの代表例と言えば、都市部の保育所があります。なかなか子供を入れられないのに、なぜ供給が増えないのかといったら、参入規制があるからです。厚生労働省の明示的な規制はないものの、各自治体が事実上、社会福祉法人と競合する企業の参入をブロックしているところが多いのです。

 企業経営の保育所なら、子どもを預かってもらうだけでなく、同時に学習面の付加価値を付けてほしいというニーズにも対応できます。「幼保一元化」という大騒ぎをしなくても、今の保育所に、受益者負担で教育機能を付ければいいだけです。参入企業としても、追加的な収入が見込めれば採算性が向上し、さらなる参入が見込まれます。これを妨げているのが、厚労省の「保育所は福祉」という時代遅れの発想なのです。保育を介護と同様に、誰もが利用できる公共的なサービスとして位置づけるべきだと考えます。

介護サービスも新規参入しづらい分野です。

八代:介護分野は保育に比べればまだ自由化されていますが、やはり問題があります。例えば、10万円分の介護報酬のサービスを受け取れる場合に、なぜそれを政府の決めた公定価格でないと買えないのか。良質の介護サービスを提供する事業者に、それに見合った料金を払うことが許されていない。

 自分のポケットマネーも合わせて、平均よりも質の高いサービスに11万円払うような「混合介護」ができれば、事業者側もサービスの質を向上させる競争が働くようになります。服の選び方が「ユニクロ」からブランド品まで多様な選択肢があるように、介護でもいろんなランクのサービスを買えるようにすれば、財政負担なしに介護労働者の賃金も向上します。この一般のサービスであれば当たり前のことが、厚労省の行政指導で阻まれており、介護サービス市場の発展が阻害されているのです。

「宝の山」の厚生労働省所管の分野に首を突っ込め

どの分野の規制改革が最も成長に寄与しそうですか?

八代:規制改革の分野は無数にありますが、内需の拡大に即効性のある分野は都市住宅問題です。例えば、住宅の容積率の規制緩和。日本は欧州のパリやロンドンなどと比べると、圧倒的に都市の中心部が未開発です。高層マンションを建てるばかりでなく、容積率の基準を引き上げて、今ある2階建て住宅を欧米並みの4〜5階建ての中層住宅にできるようにすれば、多くの人々が都心に住むことができます。

 これから増える高齢者や共働き夫婦の世帯にとって、郊外ではなく都市部に住むことができれば利便性が大きく向上します。賃貸住宅への需要が増えれば、その採算性が向上し、供給も増えます。こうした規制を変えるだけで、政府がお金を一銭も出さなくても、住宅投資が刺激されることになるのです。

 高齢者の介護でも、ホームヘルパーが1軒ずつ家を回ると、移動コストが大きい。そこで高齢者専用の集合住宅を都市部に増やせば、少ないコストで質の高い住宅・介護サービスが実現できます。

アベノミクスでは、こうした規制の緩和は期待できそうですか?

八代:今後、成長が期待できる産業は、厚労省の所管分野に多く見受けられます。アベノミクスの成長戦略は産業競争力会議が中心となって進められますが、それが経済産業省の所管分野だけにとどまってしまうのでは、大きな効果は期待できません。「宝の山」である厚労省の所管にもっと首を突っ込むべきで、それを官邸主導でどこまでできるかが最大のポイントになります。

 例えば、身体障害者が使う電動車椅子は、自動車と電気製品の組み合わせのようなもので、日本企業が最も得意としている技術にもかかわらず、ほとんどが輸入品なのです。医療機器も大幅な輸入超過となっていますが、これには、少しでも改良を加えると一から治験がやり直しになるという過度な規制があるためのようです。これからの高齢社会では、いずれも確実な成長分野なのに、厚労省所管のままでは、国内で自由に作れない、従って輸出もできないという状況になっています。

 雇用対策では、企業に対し、雇用を促進すると法人税を下げるという案が出ています。しかし、雇用を増やす基本は生産の増加です。企業が入りたくても入れない参入規制を緩和・撤廃するというのが最大の雇用対策なのです。

公務員の有効活用は「パブリックビジネス」の発展を生む

八代さんは前の安倍政権時代に経済財政諮問会議の民間議員でした。


八代:その当時と比べて、労働市場の規制改革は今も全然進んでいないどころか、むしろ逆行しています。過去の高い経済成長の時代に、自然発生的に形成された雇用保障・年功賃金の雇用慣行を、低成長時代にもそのまま法律で保護しようとすることは間違っています。

 不況時の正社員の雇用を守るために、非正社員が必要とされている現状から目を背け、非正社員がいなくなれば格差問題がなくなるという前提で規制を強化することは、非正社員の雇用機会さえも失わせてしまいます。派遣をはじめとする有期雇用の働き方を正当に評価し、その労働条件を改善することが、本来の労働市場改革といえるのです。

 都市の再開発も潜在的に需要の大きな分野ですが、公務員ではなく民間に任せればいいのです。住宅地に片側三車線の道路を通すのは至難の業ですが、これも民間事業者に都市の再開発と同じ手法で道路を作らせれば良いのです。そのとき、クルマが走るだけの道路を造るのではもったいない。道路の上に蓋をして、その上に中層住宅を作って元の地権者に住んでもらえば用地買収は容易となるはずです。また、余った空間を第三者に販売すれば、道路の建設費用の一部も回収できます。現行の硬直的な道路法を改正し、民間の知恵をもっと都市開発にも生かすべきです。

 公務員制度改革も大きな課題ですが、これは必ずしも公務員の数を減らすことではありません。参入規制を廃止して、事後規制に置き換えれば、民間のコストは減りますが、より多くの公務員が必要となります。これに対して、例えば、貴重な国家公務員を市民への窓口業務に使っているハローワークの業務を民間に包括委託し、公務員でなければできない労働基準監督署等の人員を増強してブラック企業の取り締まりに当たらせれば、一石二鳥となります。

 このための仕組みは、前の安倍政権で、あと一歩のところまで行ったにもかかわらず、労働組合依存の民主党に潰されてしまいました。「官から民へ、国から地方へ」という観点からの公務員の有効活用は、行政サービスの効率化と民間による公共サービス(パブリックビジネス)の発展を生み出し、内需拡大にも貢献します。


松村 伸二(まつむら・しんじ)

日経ビジネス記者。


徹底検証 アベノミクス

 日本経済の閉塞感を円安・株高が一変させた。世界の投資家や政府も久方ぶりに日本に熱い視線を注ぐ。安倍晋三首相の経済政策は日本をデフレから救い出す究極の秘策か、それとも期待を振りまくだけに終わるのか。識者へのインタビューなどから、アベノミクスの行方を探る。

 


 

M&Aは「見える化」できます

〜日本たばこ産業 「買収の青写真は自分たちで作りました」

2013年3月11日(月)  谷島 宣之 、 中村 建助

 日本たばこ産業(JT)の新貝康司副社長とITリサーチ大手、ガートナー ジャパンの日高信彦社長がグローバル経営について語る対談の後編をお届けする(前編は『日本の「謙虚さ、品質重視、長期視点」は世界に通じる』を参照)。
 2007年にJTは英国のたばこ会社ギャラハー・グループを買収、短期間で経営統合を終えた。秘訣の1つは綿密な計画を立て、M&A(買収・合併)を「見える化」したこと。「統合の計画、遂行、ビジネスプロセスやITの統合、すべてを主体的にこなさないといけません」と新貝副社長は語る。
(構成は谷島宣之=日経BPビジョナリー経営研究所研究員、中村建助=ITpro編集長)
日高:JTは2007年に英国のたばこ会社ギャラハー・グループを買収しました。総額約2兆円、日本企業による過去最大の企業買収という規模もさることながら、わずか100日間で統合計画を策定し、後はそれに基づいて、短期間でギャラハーをJTI(Japan Tobacco International、JTのグローバル事業を統括するグループ企業)に統合した点が記憶に残っています。親会社のJTは日本、JTIは米国、ギャラハーは英国とそれぞれ出自が違うにもかかわらず、なぜここまで素早い統合ができたのでしょうか。

新貝:ベースにあったのは反省です。米RJRナビスコの米国外のたばこ事業部門であったRJRインターナショナルを1999年に買収し、JTIを作ったわけですけれども、統合計画を作るのに8カ月くらいかかった。グローバルな運営をしていた企業を買ったわけですから、8カ月でもよくできた方ではないかと当時は思っていたのです。

 ところが人間の気持ちというのは難しいもので、こういう買収が起きると、買われた企業の人たちは自分の将来がどうなるか、もやがかかったような気分になるわけです。もやがかかると仕事が手に付かなくなりますよね。自分はこの会社に残れるのか、残れたとしても今のポジションを続けられるのか、待遇はどうなるとか、色々なことが気になってくる。社員も役員もみんなそうなる。


(右)新貝 康司氏
日本たばこ産業 代表取締役副社長
1980年京都大学大学院電子工学課程修士課程修了後、専売公社(現JT)へ入社。たばこの工場現場を経験後、89年、同社ニューヨーク事務所所長代理、90年JT America Inc.社長。91年から米国NASDAQ上場バイオベンチャー企業Cell Genesys, Inc社外取締役を兼任。96年、JT本社に戻り経営企画部部長などを経て、2004年、JT執行役員財務責任者(CFO)、05年取締役、11年に副社長就任。06年、日本、中国以外のたばこ事業の世界本社であるJT International, SA(ジュネーブ)の副社長(現任)、副CEO(現任)に就任。ギャラハー社買収と統合を指揮。2007年からJT Internationalの最高財務責任者を兼任、現在に至る。

(左)日高 信彦氏
ガートナー ジャパン 代表取締役社長
1976年東京外語大外国語部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。96年アプリケーション・システム開発部長。2001年アジア・パシフィックCRM/BIソリューション統括。03年4月から現職。
(写真:的野弘路、以下同)
買収直後は高揚し、それから不安になるもの

 そうなってしまうと、買ったはいいけれども、経営統合を始めようと思ったら組織ががたがたになっていて、統合計画を作り始めたころの前提とは違った組織になってしまいかねません。

 もう少し詳しくお話すると、ギャラハーのときは私もつぶさに経験したのですけれども、買収を発表した直後は、買った方はもちろん、買われた方も高揚感があって、わーっと盛り上がるのですね。盛り上がった後、さっきお話ししたような心配が頭をもたげてくるわけです。

 この落ちていくモメンタムと、統合計画を実行したらもっと強くなれるぞという希望のモメンタムと、どちらが強いかで買収後の経営の成否は決まります。成功させるためは、できるだけ短期間に統合計画を作って、すぐにそれを実行しようと持っていき、盛り上がっているうちに進めなければならない。これが1999年の買収に伴う反省から得た教訓でした。

 ギャラハーの統合計画を作るにあたっては、買収完了から100日後に発表すると最初に決めました。発表日から逆算して、いつまでに何をやらないといけないかを示す詳細な工程表を作っていきました。100日しかありませんから、どの仕事をどうやったら短くできるかといった議論を重ねたのです。

日高:初めにまずゴールありき、という100日プロジェクトですね。

新貝:はい。エンジニアリングのプロジェクトで使うPERT図というものを作りました。やるべきことを洗い出してみると買収が完了する前からできることが沢山ある。2006年12月に買収の発表と同時にPERT図を描き始めて、買収完了前にできることと、買収後でなければできないことを峻別し、やれることは早めに進めた結果、07年4月の買収完了後、100日で計画を発表できました。

 100日間の計画作りは重要でしたが、なぜこなせたかというと、前段階があるのですね。かねてから我々は統合だけではなく、その後の経営の成功をもって買収が成功したとする、と定義付けていました。

 ですから事前の準備をしっかりやりました。ほぼ3年間かけて主要なマーケットでいったいどういう買収と統合をして、どういう経営をするのかという青写真を作りました。

日高:つまり、ギャラハーの買収用ということではなく、事業戦略としての買収準備に3年かけたということですね。

新貝:はい。相手を想定することは必要ですから、3年前から始めたとき、複数のターゲットについて検討を始めました。ギャラハーにしようと決めてからは、各マーケットごと、各国ごとの統合計画、あるいは経営のやり方といったものを決めていきました。

買収のシナジー効果をシミュレーション

 分かりやすく申し上げると、例えばJTIとギャラハー両社が展開する市場を考えた場合、これまでは別々だったJTIとギャラハーという2つの会社のオペレーションを一緒にしなければなりません。統合した本社をどこに置くのか、どういうブランドを配置するのか、どれぐらいの事業規模にするのか、セールスの体制や要員数はどうするのか、工場の配置はどうするのか。こういったことをマーケットごとに事前にしっかりと作っておきました。

 ここまでやると、いいことが沢山あります。まず買収と統合でどれぐらいのシナジー効果を出せるのかが、相当正確に分かります。

日高:買収効果をシミュレーションできるわけですね。

新貝:まさに表計算ソフトでシミュレーションしていました。どのようなリスクがあるのかということも各国ごとに分かってくる。そうすると、買収に伴うデューデリジェンス期間に何を相手に聞かないといけないかが明確になります。青写真そのものが統合計画のベースになるというわけです。このようなメリットがあるわけですから、買収の発表前にかなりの精度の青写真を作りました。

日高:それがあったから短期間で方向性を出せた。M&Aの「見える化」ですね。

新貝:まさに各国、各マーケットの経営を見える化するような作業でしたね。この青写真は全部、自分たちで作りました。主体的に買収を検討するという姿勢が成功に欠かせません。

日高:世間一般には、M&Aのアドバイザーに頼む場合が多いのではないですか。

買収や統合は平時ではなく有事


新貝:企業買収の実務についてプロのアドバイスは必要です。とはいえ、青写真までお願いするのは無理です。アドバイサーには事業運営の経験がないのが当然ですから。

 100日間で統合計画を出す、そのために青写真をあらかじめ書いておく。もう一つ注意したのは、統合を有事だと思って対処することです。平時の事業オペレーションではないのだと。

 買収や統合というのは自ら有事状態をつくっているようなものです。有事を乗り切るための工夫を随所に盛り込まないといけない。そもそも買収は自分たちがチャンスだと思うからやるわけですよね。ところが、先ほども申したように買収があるとみんな不安になって仕事に手が付かなくなりがちです。そこに主導権争いとか色々なことが重なると、チャンスだったはずのM&Aが、競合相手のチャンスに変わってしまいかねません。

日高:「有事」を乗り切る体制はどう作ったのでしょうか。

新貝:まず、インテグレーション(統合)のマネジメントオフィスを作りました。統合の事務局ですね。JTIが主体で、買収後にギャラハーの人にも入ってもらいました。

 事務局には買収の実作業をやる人たちと、経営計画を作る人たちを集めました。我々は毎年、3年間の経営計画を作っています。そういう計画を作る達人たちと買収の達人たちを一緒にしたのです。

 一つは、買収の達人に「統合計画の実行までやる」という意識を持ってもらうためでした。ともすれば買収の達人は買収を発表した段階で、もう自分の仕事は終わったと思ってしまう。そうなるとデューデリジェンスが甘くなってしまうかもしれない。そうならないように気を付けたということですね。

 もう一つは既にお話したように、しっかりした計画を作って統合に臨むことです。買収の達人は確かに達人なのですが、経営計画を作るプロではない。経営計画を作ろうとすると、世界中の主要な人たちを巻き込まないといけませんから。

日高:秘密裡に進めなければならない買収計画とは正反対ですね。

新貝:全くそうで、買収というのはごくごく一部の人で秘密をしっかり保持しつつ、計画を作って実行するわけです。だから買収の達人は大勢の人を巻き込む仕事に不慣れです。ただし、買収の達人の知見やデューデリジェンスで得た知見は実際の統合に極めて重要です。だから両方の達人を一緒にして統合事務局を作りました。

買収後の人事は買収前に決める

日高:一連のプロジェクトを振り返ってクリティカルなパスはどこにあったのでしょうか。

新貝:実際には買収完了前に全部済ませていましたから、正確に言えば統合計画の遂行にクリティカルパスはなかったはずなのですが、非常にクリティカルな案件がありました。それは買収完了日に誰が経営陣になるか、その下の部長クラスが誰になるか、を決めておくことです。

 その人たちが主体になって統合計画を作るわけですから、人事が決まってないと統合計画そのものを作れない。買収完了日その日からオペレーションはあるわけですから、意思決定のルートが不明確だと日々の仕事ができません。そういう意味でも、経営陣と上級管理職の人事は買収を終える前に決めておかないと、どうしようもないことになります。


日高:事業統合の中で重要な案件に情報システムの統合があります。ギャラハーの買収で、情報システムも全面統合しようという意思を持って、これまた短期間でやられました。ギャラハー買収当時、新貝さんは情報システムも所管していましたよね。

新貝:ギャラハー買収に伴って、JTIのCFO(最高財務責任者)を兼務しました。もともとJTIに行く前から、JT全体のCFOをやっていたわけですが、ジュネーブにあるJTIに行って買収をやることになった時に、CFOは要のポジションですからから、JTとJTIでCFOを兼務することになったのです。そうしましたらJTIのCFOにCIOの機能が付いていたので、システムの面倒も見たということです。結果から考えると、これは助かりましたね。

 情報システムとはいったい何かということですけれども、情報システムあるいはIT(情報技術)の仕組みを用意するということは、企業にとって組織づくりそのものでしょう。責任権限を具現化するツールそのものと言ってもいいし、経営管理の上で不可欠な要素でもある。日々の仕事のプロセスを作ることと情報システムの整備は同義です。従って、情報システムを早期に統合しないと経営統合できない。

 一方、買収したギャラハーの情報システムについては誤算がありました。ギャラハーそのものをグローバル化するため、我々が買収する前に4つの会社を買収していた。このことは知っていましたが、買収して調べてみると、情報システムはばらばらの状態で使っていた。人事の仕組みもばらばらのままです。「大英帝国の分断統治みたいなものか」なんて冗談を言っていたのですが、1社を買収したつもりが、4社を買収して統合しなければならないような状況でした。

 かなりの誤算だったのですけれど、逆にチャンスでもあった。これだけばらばらだと、統合の方法は1つしかありませんから。JTIのビジネスプロセスと情報システムをそのまま使うことです。JTがRJRインターナショナルを買収してJTIを作ってから、独SAPのERPパッケージを入れてビジネスプロセスを標準化し、日々のビジネスプロセスと経営管理を結び付けていく取り組みを進めてきました。それをそのまま使うことにしたのです。

IT統合で全従業員の気持ちを鼓舞する

日高:経営統合の全体の中で、情報システムが果たした積極的な役割がもしあったとしたら、どういうものだったのでしょうか。

新貝:大きく3つぐらいの役割があったと思います。第1は買収完了当初、全従業員の気持ちを鼓舞すること。買収を終えたその日に、統合したイントラネットを動かして、以前からJTIにいる人たち、新たに加わる旧ギャラハーの人たち、全員がWebサイトを見られるようにして、そこに買収に付きものの色々な疑問点に関する回答を掲示しました。

 自分たちが走っている、進んでいる方向をきちんと理解してもらうためです。経営統合の検討、あるいは統合作業が進むにつれ、Webサイトに置いた質問と回答を次々更新していきました。

 それからJTIが使っていた電子決済の仕組みを、旧ギャラハーからも使えるようにしました。これも買収完了のその日からです。全部のビジネスプロセスはまだ統合できませんでしたが、もう一体の会社として、意思決定のプロセスはJTIのものをそのまま使えますよ、というメッセージを伝えたかった。

 先ほどERPの話をしました。これこそまさに全世界共通の情報インフラで、日々のビジネスプロセスと経営管理の手法を統一するという役割を果たしてくれました。これが2番目ですね。

 3番目の役割はユーザーサポートです。世界3極に拠点を置いて、24時間体制で支援できるように強化しました。もともと24時間サポートになっていたのですが、有事に合わせて増強し、統合の後押しをしてもらいました。

 役割とは少し違う話になりますが、情報システムに関する責任や権限を規定したルールも、業務の標準化に資するような形に見直していきました。JTIも旧ギャラハーも対象です。

 分かりやすい例でいくと、パソコンやノートパソコンを各国でばらばらに調達していたので、一括購入に切り替えて購入コストを下げるとか、システムを保守するコストを抑えるためにアプリケーションを標準化するとか、そういうことを買収後、推し進めました。これはコスト削減にとどまらず、情報のセキュリティーを高いレベルで保つうえでも役に立つのですね。ガバナンス上の利点も大いにありました。

日高:今説明されたことを実行するには、情報システムのアーキテクチャーやビジネスプロセスに精通したチームがいないと、なかなかうまくいきません。そういうチームがいたということですか。

新貝:JTIにしっかりしたITのチームがいますから、テクニカルにどう実現していくかということは任せています。ただ大事なこと、こういうことをやってほしいというディレクションは出しました。いかに実現するかは、スキルのある人たちがしっかりやってくれます。

日高:お話を聞いていて、統合して1つの会社になるぞ、そのために変な遠慮はしないし甘やかしもしないという、やはりリアリスティックといいますか、合理的な経営の意思を感じますね。

新貝:買収完了の初日から統合したイントラネットを動かしたこともそうですし、全世界が同じビジネスプロセスで仕事をしているという連帯意識といいますか、そういうことがワンカンパニーになるために重要だと思います。

 同じ情報インフラをいち早く実現することが、「私は新しいJTIの一員である」と一人ひとりが思うことにつながる。電子メールの環境とか、そういうものもすべてそろえていきました。

日高:後になればなるほど大変なエネルギーがかかりますしね。

80点でいいからリーダーが決めて進める

新貝:おっしゃる通りです。情報システムにしても、業務プロセスにしても、変えようとすると大変なあつれきが出ます。だからといって先送りしていたら、いつになってもできない。

 どこかでリーダーが「これでやる」と決めて進めないと。問題は当然出てきます。100点満点はとれない。でも統合しているときには、80点でもいいからこれでやるんだと言い切って、やり抜かないといけない。

日高:なにしろ有事ですものね。

新貝:まさに自ら有事をつくるのが買収と統合です。統合の工夫として説明するのを忘れていましたが、1つの仕掛けとして、買収後の統合の基本原則というものを10個作りました。その中の一つが「80/20ルール」です。平時だったら100%まで詰めないとやれないことでもスピード優先で8割程度詰まっていたら、それでやろうというルールです。

 情報システムの骨格を決めていくときに、業務プロセスをどうしていくのかということになりますから、80/20ルールでどんどん決めていかないといけません。

日高:経営あるいはマネジメントといったとき、組織をどうするか、お金をどこに入れるのかといったことがありますけれど、そこに情報システムをどう組み合わせていくかとなると、案外、理解される経営者は少ないようです。そうなるとシステム投資は無駄ではないかとか、コストはとにかく削れとか、行き過ぎた判断につながりかねません。

新貝:情報システムに限りませんね。人材だってコストと思うのかアセットと思うのかという議論があります。ブランド価値を上げることをコストと思うのか、投資と考えるか。何事についてもコストと思うのか、本当に投資と思うのか、これによって立ち位置が違ってきます。

 もちろん日々の無駄、削れるコストはきちんと削らないといけない。ただし今、自分は何をやっているのかということをしっかりと考えておくことでしょう。

日高:もともとJTさんはITを使ったビジネスプロセスの標準化に早くから取り組まれていて、それをJTIにもうまく広げたという印象があります。

新貝:RJRインターナショナルを買収したとき、情報システムは当然あったわけですが、当時は借金が多くて投資が思うように任せない状態で、システムにも懸念すべき点がありました。だから見直したのです。

 それに、JTには情報システムとかITに対して意識が高い人が多かったのです。そういうことが好きな人たちが多かったと言った方がいいかもしれません。私がアメリカから帰ってきたのは1996年ですけれど、当時アメリカの拠点と日本はブロードバンドネットワークでつないでありました。96年の段階でそうしていた日本企業はほとんどなかったはずです。これも良かった。

資本、お客様、人材をめぐる競争に勝つ

日高:まとめとして今後の世界市場をどういうふうに見ているか。そして、この大きなJTとJTIはどこに向かっていくのか、といった点を伺えますか。

新貝:世界地図を見ると、私たちが必ずしも強くないマーケットがまだかなりあります。RJRインターナショナルやギャラハーのような大きな買収ではなくて、弱いところを補強していく買収を考えています。例えば2011年にスーダンのハガーというたばこ会社を、2012年にはベルギーのグリソンというたばこ会社をそれぞれ買いました。

 2回の大型買収で獲得した事業基盤を基に、世界各国に広げていく。そういう事業のやり方をとることになります。

日高:事業多角化の進展についてはいかがですか。

新貝:医薬事業は長らくR&Dの投資フェーズが続いていました。2012年の8月末に我々が作った抗HIV薬がアメリカで初めて、正確にはそれを含む合剤ですけれども、承認されました。やっと自分たちのR&Dの成果が出てきたところです。

 それ以外にも、承認申請間近な案件がいくつかあります。医薬事業の場合、R&Dを充実させて、プロダクトのパイプラインをちゃんとつくれる能力を磨くことが重要です。そういうことができつつあるという手応えは感じています。

日高:日本を代表するある製造業の社長と話した際、「日本の企業の良さの一つは、残すべきリサーチをきちっと残し、将来どうなるか分からないけれども長期の投資をしていくところだ」とおっしゃっていました。JTのDNAとして長期の視点を挙げておられましたが、それは強みになりますね。


新貝:そうだと思います。株式会社をどうとらえるかという見方は、世界各国で少しずつ違う。株式会社というのは売買をしてキャピタルゲインを得る対象である、極端に言うとそう考えている人たちもいる。いやいや、そうではなくて、やはりゴーイングコンサーンつまり継続が大事で、社会の役に立っていく公器だ、それを育んでいくことが重要だという見方もある。

 先にお話した通り(前編『日本の「謙虚さ、品質重視、長期視点」は世界に通じる』参照)、シェアホルダーズモデル一辺倒か、ステークホルダーズモデルをしっかり考えながらビジネスをしていくのか、大きく分けるとその2つがある。これから本当に社会にとって、どちらがいいのかということが問われるでしょうし、そういうことを自分たちもよく考えながらやっていく。

 そうは言っても競争はあります。資本市場で資本を巡る競争、ここに株主を巡る競争が入ります。そしてお客様を巡る競争。事業は人によって成り立っていますから、人材の獲得を巡る競争もある。まさにそれが、JTIの本社をジュネーブに置いている大きな理由なのですね(前編『日本の「謙虚さ、品質重視、長期視点」は世界に通じる』参照)。

 3つの競争で我々は優位に立たないといけません。だからこそ、我々のステークホルダーズモデルである「4S(satisfaction)MODEL」をベースに、お客様を中心として株主、従業員、それから社会に対する責任をバランスよく高い水準で果たし、4者の満足度を上げていく。そこをしっかりやっていきたいと思っています。


谷島 宣之(やじま・のぶゆき)

日経BPビジョナリー経営研究所研究員、コンピュータ・ネットワーク局編集委員。1985年に記者となって以来、情報システム関連のテーマを取材し続けている。関わった媒体は「日経コンピュータ」「日経ウオッチャーIBM版」「日経ビズテック」「日経ビジネス」「経営とIT」など。「ビジネスとテクノロジーの一体化」に最大の関心を寄せる。

中村 建助(なかむら・けんすけ)

日経ビジネス副編集長。日経デザイン、日経ストアデザイン、日経ソリューションビジネス、日経コンピュータ、日経エコロジーの各編集を経て現職に至る。


革新的経営問答

経営やビジネスを革新させることこそ、企業が成長し続ける最大の条件だ。IT(情報技術)の存在価値もここにある。「経営を革新させるIT」「ビジネスに役立つIT」を追い求める経営トップやCIO(最高情報責任者)を、ガートナー ジャパンの日高信彦社長が訪ね、経営とITのあるべき関係の真髄について語り合う。姉妹コラムにIT経営問答


09. 2013年3月11日 15:59:55 : kPOeurwFuo

【第255回】 2013年3月11日 広瀬 隆雄
アベノミクスで進行する円安、“ドル”側の理由
【今回のまとめ】
1.米国経済の好調がドル高バイアスの原因
2.米国の雇用統計はよかった
3.歳出強制削減でFRBは現状維持を選好
4.長期で見れば、最初に引締めに転じるのは米国

なぜドル高のバイアスがかかっているか

 これまでのところ、「アベノミクス」は具体的な金融政策が矢継ぎ早に打ち出されるというよりも、もっぱら“口先介入”的なトークが先行しています。それにもかかわらず、円安のトレンドが上手く演出できているのは、なぜでしょう?

 私はその一因として、比較感で見た場合、米国の経済がしっかりしていることが、大きく影響していると考えています。

 先週金曜日(3月8日)に発表された2月の非農業部門雇用者数は、+23.6万人と市場予想の+17.1万人を大きく上回る数字でした。


 2012年の12月の数字は+2.3万人、1月の数字は−3.8万人修正されています。


 2月の失業率は7.7%と、予想の7.8%よりよい数字でした。


 ただし労働力参加率は63.5%と前月より0.1%下落しており、1981年以来の過去最低でした。もしこの数値がリーマンショック前の66%程度だったと仮定するならば、現在の失業率は10.7%であることになります。

 言い換えれば失業率の改善は、長引く不況で求職を諦めてしまった人(=失業者には算入されません)に助けられた、下駄を履いた数字だということです。

 そういう割り引いて考えなければいけない点があるものの、全体としては今回の雇用統計は、米国経済の底堅さを確認するものだったと言えます。

 

【第1回】 2013年3月11日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]
経済的にも大成功した
ピカソに倣う「お金」の本質
生前、ピカソは言ったそうだ。「私は、対象を見えるようにではなく、私が見たままに描くのだ」。僕たちは、お金の正体を知らなければならない。そうでなければ、僕たちは自分の人生を自由に創造し、幸せに暮らすことがますます難しくなるだろう。

 ふたりの天才画家、ゴッホとピカソの偉大な名声なら、誰もが知っているだろう。だが、ふたりの生前の境遇には、天と地ほどの差があった。

 ゴッホの人生であまりに有名なのは、多くの職を転々としながら苦労して画家となり、ゴーギャンとの共同生活が破たんした後、みずからの耳を切り落としてしまったエピソードであろう。ゴッホは、弟テオの理解と援助のもとで創作活動を続けることができたが、その2000点にものぼる作品のうち、生前に売れた絵はわずか1点のみだった。

 ピカソは違った。その卓越した画才もさることながら、私人としても成功した。美術教師だった父親のもとで7歳から熱心な教育を受けたピカソは、幼少期から天才の片鱗を見せつけた。教えていた父みずからが「もう息子にはかなわない」と感じ、二度と絵筆を握ることがなかったというエピソードは、その才能の非凡さを物語っている。

 91歳でその生涯を閉じたピカソが、手元に遺した作品は7万点を数えた。それに、数ヵ所の住居や、複数のシャトー、莫大な現金等々を加えると、ピカソの遺産の評価額は、日本円にして約7500億円にのぼったという。美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家、つまり「儲かった」画家はいない(詳しくは西岡文彦『ピカソは本当に偉いのか?』新潮社、2012年参照)。

ピカソのセンスは芸術以外でも超一級だった

 では、両者の命運を分けたのはなんだったのか?

 それは、ピカソのほうが「お金とは何か?」に興味を持ち、深く理解していた点ではなかったか。というのも、ピカソがお金の本質を見抜く類まれなセンスを持っていたことが窺える逸話が、数多く残されているのである。

 たとえば、こんなエピソードがある。

★ピカソはなぜ小切手を使ったのか

 生前のピカソは、日常生活の少額の支払いであっても、好んで小切手を使ったという。
 なぜか?実は、次のようなカラクリがあったのだ。
 まずピカソは、当時から有名であった。その彼が買い物の際に小切手を使えば、それをもらった商店主は、小切手をどのように扱うだろうか?ピカソは次のように考えた。商店主は、小切手を銀行に持ち込んで現金に換えてしまうよりも、ピカソの直筆サイン入りの作品として部屋に飾るなり、大事にタンスにしまっておくだろう。そうなれば、小切手は換金されないため、ピカソは現金を支払うことなく、実質的にタダで買い物を済ませることができる。
 ピカソは、自分の名声をいかに上げるか、のみならず、それをどうやってより多くのお金に換えるか、という点についても熟知していたのだろう。これは現代の金融でいえば、信用創造、“キャピタライズ”の考え方である。

★ピカソはなぜ、ワインのラベルをタダで描いたのか

 シャトー=ムートン=ロートシルトというフランス・ボルドー地方にある有名シャトーのワインがある。この1本5万円は下らない高級ワインの1973年モノのラベルは、ピカソがデザインしている。そして、その対価は、お金でなくワインで支払われた。ピカソの描いたラベルの評判が高ければ高いほど、ワインの価値は高まり高値がつく。ピカソがそのワインをもらえば、自分で飲むにしろ売るにしろ、価値が高いほうがいいに決まっている。双方に利益のある話である。
 ちなみに、シャトー名のロートシルトは、英語の発音ではロスチャイルド。言わずと知れた、ユダヤ金融の頂点に君臨する一族である。ピカソだけでなく、その年ごとに異なる有名アーティストにラベルをデザインしてもらうアイデアを思いついたシャトーのオーナー、フィリップ・ド・ロッチルド男爵(ロッチルドは、ロスチャイルドのフランス語読み)もまた、お金の本質を知っていた。
 彼らは解っていたのだ。信頼関係の土台があれば、お金を介さなくても双方の価値を交換することができる。むしろ、お金という数値では、表現しきれない生の価値を伝えられる。経済は必ずしもお金という媒介を必要とはしない。お金の達人は、究極的には、お金を使う必要がないのだ。

 生前、ピカソは言ったそうだ。
「私は、対象を見えるようにではなく、私が見たままに描くのだ」。
 僕たちは、お金の正体を知らなければならない。そうでなければ、僕たちは自分の人生を自由に創造し、幸せに暮らすことがますます難しくなるだろう。

お金の有無と幸福であることとはリンクしない

 お気づきのように、僕が本当に伝えたいのは、ピカソとゴッホの人生ではない。「お金」の話である。
 ピカソもゴッホも素晴らしい画家だ。ふたりとも愛に満ちたとても幸福な人生を送った。お金のあるなしは、その人が幸福であることと直接的に関係ない。幸福とは、期待と実体が一致した状態だ。「心を満たすお金」だけでなく「心をコントロールする意思」との両方がそろって、初めて人は幸せになれる。

 だからこそ僕は、お金という一般的には得体の知れない存在を、若い時から俯瞰して見る力を養うべきだと思う。そうすることで、何かを産み出す「創造の武器」としてお金を使えるようになるからだ。

 念のため断っておくと、本連載はお金持ちを目指す内容ではない。それでもお金の本質を理解し、来るべき未来に備えをすれば、きっと経済的にも社会的にも自由に暮らすことができるようになるだろう。

 まずは次回、お金とは何か?について考えていこう。

(次回は3月12日更新予定です。)

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10. 2013年3月11日 23:16:00 : YGMN9KyYv6
公金投入を渋るからどんどん日本は劣化して行くんだね
原発と同じ原因
最悪政権は野田橋龍小泉
いい加減に国を守れって思う

11. 2013年3月11日 23:24:23 : We0zWS6cqM
kPOeurwFuo

長文コピペは単なるスレッド荒らし行為


12. 2013年3月12日 00:50:05 : SNljMa86tM
21世紀型の新たな国際分業体制を提示せよ

菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミストに聞く

2013年3月12日(火)  松村 伸二

 安倍晋三政権は税制や規制などを見直して、日本を世界で一番企業活動がしやすい国にするという。ただ、菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミストは賃金水準を維持するためにも、国際分業をさらに進める必要があると訴える。

日銀は2%の物価目標を達成できると思いますか。

菅野:2%のインフレ目標はかなり高い水準に設定した印象です。日銀の1月の金融政策決定会合では審議委員の2人が、目標が高すぎると言って反対票を投じたぐらいです。私も達成はかなり困難と考えます。


(写真:都築雅人、以下同)
 日本が2%のインフレ目標を達成する場合を考えると、2つの状況があります。日米のインフレ格差から見た場合、これまでの約20年間、日米のインフレ格差は、米国が日本を2.5%ポイント上回る形で推移してきました。第1のケースは、今後、日本のインフレ率が2%になり、米国が4%強になるケース。第2は、日本が2%インフレになるものの、米国のインフレ率はさほど上昇せず2%台で推移するケースです。

 前者の場合、日本の2%インフレが持続する可能性は低い。米連邦準備理事会(FRB)のインフレ許容範囲の上限が2.5%だから、それを超えるとFRBは金融引き締めをしなくてはなりません。米国の景気が減速すると世界的に景気が悪化し、日本も例外ではなくなり、インフレ率が低下してしまいます。

 一方、第2のケースの実現もかなり難しいと思われます。日本は2008年にインフレ率が一時2%まで上昇しましたが、このときは原油価格の上昇が押し上げた面が大きい。2%のインフレが持続するのは、賃金がほぼ同程度上昇するときです。今後、企業収益が改善すれば賞与は増えるとみられますが、賃金にまで波及するにはかなりの時間を要するでしょう。賃金水準の高い製造業から賃金水準の低いサービス業へのシフトが進み、かつ非正規雇用比率が上昇傾向を辿る中では、賃金は構造的に上がりにくい面もあります。新興国の安い賃金との競争が続くことが基本的な背景です。日銀の金融緩和は今後、かなりの期間続くでしょう。

欧米との金融政策姿勢の違いで円安が進む

日銀が金融緩和を当分、やめられないとなると、どんな影響が出てきますか。

菅野:日本とは対照的に、欧米は近い将来、金融正常化に転じる可能性があります。米国では来年前半までには量的緩和が縮小、ないし終了して、来年後半にはFRBのバランスシートが縮小する時期に入ってくるでしょう。欧州では、期間3年の無制限供給資金(LTRO)の返済が始まり、欧州中央銀行(ECB)もバランスシートがもう縮小に入り始めています。そうなると、日本と欧米との金融政策姿勢の違いが明確になり、円安がより進む可能性が高まります。

円安は、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」だけの効果ではないということですか。

菅野:アベノミクスには幸運な面もあります。日本の経常黒字が急速に縮小しつつあることも、円安の1つの背景です。これからは、外部環境次第で円安が進む可能性があります。確かに、円安が大幅に進めば、デフレ脱出には寄与します。1ドル=100円以上の円安がしばらく続くという局面になれば、設備投資がまた国内に戻ってきて、消費も増えるでしょう。株式相場が上がって、場合によっては地価も上がるような、そういう状況下でインフレ率が上昇するというのは当然あり得えます。ただし、それでも2%のインフレ率達成は容易ではないでしょう。

金融引き締め時には「日銀の独立性」がカギ

2%の物価上昇目標を達成できれば、日本経済はひとまず安泰と言えるのでしょうか。

菅野:現時点で将来のリスクを語るとあまり評判が良くありませんが、どの時点で金融引き締めをするかということも考える必要があります。今の段階で「2%達成まで緩和を強化する」と宣言することは、デフレ心理を払拭する上で有効かもしれませんが、実際にインフレ率が2%近くまで上昇してくると、金融市場が先に反応し、長期金利が先行きのインフレ率上昇を織り込む形で大幅に上昇する可能性があります。

 現段階では、まだそこまでのインフレ期待はないので、長期金利上昇リスクは小さい。そこで重要になってくるのが、「日銀の独立性」です。それが機能しないと、いざというときの利上げが手遅れになりかねません。また、インフレ率だけに注目して金融政策を行うと、様々な市場の歪み、行き過ぎを助長しかねず、それが将来の経済成長を阻害するリスクもあります。もっとも、この点を強調しすぎると、「日銀は金融緩和に熱心でないのか」と受け取られる可能性もあるので、市場へのメッセージの出し方は難しいでしょう。

 なお、政府の国債利払い費との関係で注目すべきは、政府がこれまでに発行した国債の平均満期にあたる期間7年の利回りです。財務省によると、足元の政府の資金調達コストは1.2%程度。一方、残存7年の国債の利回りは0.4%を下回っており、今後、長期金利が多少上昇しても、7年国債の利回りが1.2%を超えるまでにはまだ時間があるので、利払い費急増のリスクは小さい。もっとも、期待インフレ率が上昇し、その時点の国債の平均満期の金利が政府の資金調達コストを上回るようになると、利払い費が増加に転じます。実際には、発行残高が増加しているので、その前に転換点が到来します。そういうときに、日銀が早めにブレーキを踏まないと、金利急騰リスクが一気に顕在化してしまうでしょう。

「ヘリコプターマネー」に近づく恐れも

ほかに注視すべきリスクは何ですか。

菅野:もう1つのリスクは、実はもっと怖い話ですが、これだけ金融緩和をやったのに、インフレ率があまり上昇しない場合です。そうなると、もっと財政支出を増やして、同時にもっと金融も緩和しろという話になってきかねません。

 これは、まさに日銀による財政赤字ファイナンスです。実際にこのリスクが顕現化するのは、世界景気が再び悪化したときでしょう。そのときはいったん、デフレや円高に陥るでしょうが、そこから脱出するために、政府が日銀から調達した資金を歳出に充てるという「ヘリコプターマネー」の世界に近づいていく可能性があります。この政策は成功し、再びインフレに戻ると思われますが、このようにして生まれたインフレは止めることが困難です。財政歳出を削減することに、強い抵抗が予想されるからです。

そうならないために、アベノミクスで今後は何が重要政策になると思いますか。


菅野:金融緩和と同時に、中長期的な観点から日本経済の体質改善を進めることです。まずは、国際分業体制の中で、日本の目指すべき21世紀型の新たな分業体制をはっきり決め、国民に提示することです。例えば、新興国で需要のある製品の生産はアジアにシフトさせ、日本には高い付加価値を生む産業だけを残すのです。製造業の中でも、国内に残るのはサービス業的な部門で、企画や製品開発などが中心になるでしょう。そうしないと日本人の高い賃金水準は守れません。政府ではなく、民間の資金需要で経済成長が実現する必要があります。

 産業政策としては、代替エネルギーや医療、介護、福祉などの分野の競争力強化が議論されていますが、それだけでは不十分です。多くの産業において、海外に任せるものと、国内でできるものをはっきり分けていくことが大事なのです。高付加価値の産業を日本に残すような努力が必要です。

 典型例は農業でしょう。私も農業は残すべきだし、残さないといけないと思いますが、「守るべきかどうか」という二者択一の議論ではないはずです。強い農業を日本に残さないといけない、ということです。例えば、高品質の米や果物などの生産を増やせば、農業は輸出産業になります。一方で海外から輸入する安い米も、日本企業による現地での技術指導を通じ、徐々に日本人に合う質の向上が期待でき、輸入量が増えるはずです。そうなれば、消費者も生産者もハッピーになれます。

海外からの移民受け入れをもっと議論せよ

産業構造を根本から変えるということですか。

菅野:日本は人口問題など内部要因で成長力が鈍化している面もありますが、新興国が力を付けてくる中で、自国の産業構造をうまく変えられなかったことが問題だったのです。悩ましいのは所得格差問題です。新しい世界に適応できる人の所得が高くなる一方、そうでない人の所得は低くなる。政府の役割は、何をやったら高い所得が得られるかということを国民に提示し、誘導していくことです。低成長で非効率的な産業から、高成長で効率的な産業に生産資源を移すということが重要なのです。そこでは、教育の問題も当然浮かび上がります。

人口そのものが今後は減少し、働き手も減っていきます。

菅野:女性と高齢者の労働参加率を高めることがまず必要ですが、そのほか、海外からの移民受け入れの議論も重要です。移民と言うと、低い所得の人たちをイメージしがちですが、高い技術を持った人の受け入れも重要です。例えば、アジアの優秀な頭脳が入ってくれば、アジアのマーケットに向けて何をしたらよいのか、日本の企業が現地の需要を取り込むためには何が必要かが分かります。同時に、海外の異なる文化を有する人を交えて意思決定するようになると、日本人の考え方も変わってくる、というメリットもあります。

アベノミクスに対する海外からの評価はどうですか。

菅野:金融緩和に加え、財政状況が世界で最も悪い日本で、財政赤字を増やそうという政策が出てきたことにも、驚いているようでした。これで日本経済が長期的な上昇波動に乗った、という理解ではないようです。アベノミクスの中長期的な効果については半信半疑といったところでしょうか。日本株を買っている海外投資家はヘッジファンドなど投機筋が中心。年金・投資信託などのお金はまだ一部しか入ってきていないようです。日本の産業構造が本当に変わり、日本企業が高収益体質になっていくのかどうかを見極めようとしています。円安に頼った株高は、まだ本物の株高とは言えません。

日銀単体か官民出資のファンドで外債を購入する政策の議論は進んでいません。

菅野:基本的に、この考えは先日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で否定されたので、当分の間はお蔵入りになるでしょう。しかし、今後のことを考えると、水面下での検討は悪くないと思います。今は円安が進んでいますが、将来、再び大幅な円高にならないとも限らない。その場合には、財務省の為替介入以外の手段を用意しておくのも一案です。そのときになって議論しても遅すぎます。


松村 伸二(まつむら・しんじ)

日経ビジネス記者。


徹底検証 アベノミクス

 日本経済の閉塞感を円安・株高が一変させた。世界の投資家や政府も久方ぶりに日本に熱い視線を注ぐ。安倍晋三首相の経済政策は日本をデフレから救い出す究極の秘策か、それとも期待を振りまくだけに終わるのか。識者へのインタビューなどから、アベノミクスの行方を探る。


13. 2013年3月12日 00:58:37 : SNljMa86tM
新興国を苛立たせる欧州の苦境
2013年03月12日(Tue) Financial Times
(2013年3月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 欧州や米国、日本に住んでいる人はそう感じないかもしれないが、世界経済はこの10年間に、それまでの30年間より速いペースで拡大する可能性が十分ある。

 ゴールドマン・サックスは、世界全体の国内総生産(GDP)が2011年から2020年にかけて、平均して年間4.1%ずつ拡大すると予想している。2010年までの30年間は平均成長率が3.5%を超えたことはなかった。

12.5週間ごとにギリシャ一国を生み出す中国

 猛スピードで変化しているのは、その成長の源泉だ。世界最大級の新興大国の多くはついに勃興し、今や世界経済を拡大させる原動力となっている。ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国(最初のBRICs諸国)は2011年に、GDPで見てイタリア一国に相当する経済を新たに生み出した。


BRICs諸国は2009年から、首脳会議を開催している〔AFPBB News〕

 BRICsという頭文字の生みの親であるゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール氏は言う。

 「大方の人はまだ、中国の規模と中国が動く速さを理解していない。中国のGDPは現在、約8兆2000億ドルで、米国の半分の規模になっている。年間8%のペースで成長する中国は、年間4%成長する米国に等しい」

 「中国は12.5週間でギリシャ一国を生み出している。2010年以降、中国はインド一国を生んだに等しい」――。アンブロセッティ主催の金融フォーラムでのインタビューで、オニール氏はこう述べた。

世界的な重要性が低下する欧州

 この経済的な変化の速さは、金融危機の罠からまだ抜け出せずにいる多くのヨーロッパ人にとって畏敬の念を抱かせるものだ。

 ある出席者の言葉を借りるなら、イタリア北部のコモ湖畔で開催されたアンブロセッティ・フォーラムは概して、「欧州連合(EU)の政治を称える大ミサが行われる」場所だった。

 ところが今、欧州の指導者たちの間では、イタリアなどでの経済停滞と政治の混乱が急速に欧州の生活スタイルと世界における欧州の重要性を損ねているという不快な認識が広がっている。

 欧州以外の地域からフォーラムに参加した人の多くにとって、欧州は、欧州自身がよく自賛するような模倣に値するモデルというよりは、むしろ苛立ちを招く原因のように見える。

世界経済の不確実性が再び高まる恐れ

 アジア開発銀行のチーフエコノミスト、李昌縺iイ・チャンヨン)氏は、ユーロ圏数カ国で続く景気後退と、イタリアでの政治不安、英国のEU脱退説などから、多くのアジア諸国は欧州が再び世界経済の不確実性を招くことを懸念していると話す。


欧州中央銀行(ECB)の「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムなどは金融市場を安定させてきたが・・・〔AFPBB News〕

 李氏は、欧州が金融危機への対応で大きな前進を遂げ、銀行同盟および財政同盟の創設に向かっていることを称賛する。

 また、恒久的な救済基金の創設と、ユーロ圏諸国の国債利回りの抑制を目的とした欧州中央銀行(ECB)の「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムの設置も、金融市場を安定させたと言う。

 しかし李氏は、ユーロ圏は自らの利益のみならず世界経済のためにも、着手した改革を最後までやり遂げなければならないと指摘する。

 「制度作りはまだ不完全だ」と李氏。「欧州がここで改革をやめると、世界的に深刻な影響をもたらすことになる」

英国のEU脱退を不安視するアジア

 このため、英国の一部の政治家がEUからの脱退の可能性について話していることが一層厄介な問題になるという。

 「多くの人は、英国がEU残留について懸念している理由を理解している。しかし、我々が心配しているのは、英国が脱退したら、それが欧州でドミノ効果を引き起こすのではないか、ということだ。不安なのは、EUが瓦解してしまう事態だ」

 「これはアジアの観点に立った身勝手な見方かもしれないが、1つの国の決断は世界経済全体に影響を及ぼすのだ」

 今のところ、欧州はまだ多くの新興国にとって極めて重要な存在だと南アフリカ準備銀行(中央銀行)のギル・マーカス総裁は言う。マーカス総裁によれば、南アは欧州と歴史的に関係が深いだけでなく、南アの製品輸出の38%が欧州向けだという。

多角化を急ぐ新興国

 「けれども我々は欧州で起きていることを深刻に懸念している」と総裁は言う。「状況がこれ以上悪化しないと仮定しても、欧州はやはり、回復するまでかなり長い時間がかかる。そうなると、新興国としては多角化がいよいよ必須になる」

 時代を象徴するかのように、南アは2週間後にダーバンで次のBRICs首脳会議を主催し、世界のダイナミックな経済国との関係強化を図る予定だ。

By John Thornhill in Cernobbio, Italy


本能を抑え、変わらなければならないイタリア
政治家の世代交代こそが唯一最善の道
2013年03月12日(Tue) Financial Times
(2013年3月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 これはエスタブリッシュメントが示す昔ながらの反応だ。先月の総選挙でどの会派も決定的な勝利を収められなかったことから、イタリアのメディアや社会で影響力を持つ人々はこのところ――初めてではないが――「実務者」内閣の設置を求めている。

 この種の政権に課せられる仕事はシンプルなものになる。政治システム全体を改革し、新しい選挙制度を導入せよ、そして余った時間で経済改革をすべて実行し、債務をすべて返済せよ、といった具合だ。

 もしイタリアがその方向に進めば、深刻な事故に遭遇する確率が高い。そのような政権は政治的な正統性がないままに行動することになるからだ。

選挙結果が示す世代交代と「5つ星運動」の躍進

 筆者なら、これとは違うアプローチを支持する。まず、イタリアは今回の選挙結果を乗り越えようとするのではなく、そのまま受け止めるべきだ。この選挙結果で最も重要なのは、手詰まりになったことではなく、そこに示されている世代交代である。

 投票前のイタリア議会の平均年齢は欧州連合(EU)では最も高いグループに属しており、下院議員の平均年齢は54歳だった。ところが、今回誕生した下院議員の平均年齢は45歳で、EUで最も若い議会になっている。


イタリアの若者の半数近くがベッペ・グリッロ氏の会派に投票した〔AFPBB News〕

 この選挙ではベッペ・グリッロ氏の「5つ星運動」が獲得した票の絶対数が話題になっているが、それ以上にショッキングなのが投票者の年齢構成だ。

 イタリアの若者の約45%がグリッロ氏の会派に投票しており、それよりも年長の世代は従来型の政党を支持しているのだ。

 これではまるで、イタリアが以前経験した2つの革命――1970年代初めの世代交代と1990年代初めの政治の激変――を1つにまとめ、どういう結果になるかはまだ不透明だが、潜在的に大がかりな体制変革を進めているかのようだ。

 もし従来型の政党がこの国を統治したいのであれば、そうした変革の一翼を担う道を見つけなければならない。

期待の若手政治家はフィレンツェ市長

 最も良いのは、新しい世代の指導者たちに権力を委譲することだ。その場合、首相の最有力候補は現在38歳のフィレンツェ市長、マッテオ・レンツィ氏になるだろう。

 中道左派の民主党の有力政治家であるレンツィ氏は、イタリア政治の文脈に照らせば、変化を嫌がる英国労働党を改革した1990年代初めのトニー・ブレア氏よりも急進的だ。レンツィ氏は正真正銘の政党に所属して市長という正真正銘の政治職に就いていながら、本質的に腐敗している政治システムをグリッロ氏に劣らない勢いで批判しているのだ。

 レンツィ氏は、経済改革と財政緊縮が政治的なトレードオフの関係にあることは認識しているように思われる。両方を一度に追求することは(少なくとも、大きくて複雑な国では)できないこと、そして今優先しなければならないのは改革の方であって財政再建ではないことも分かっているようだ。


連立政権の樹立を目指すピエル・ルイジ・ベルサニ氏だが、安定政権はとても望めない〔AFPBB News〕

 多額の福祉予算を組んでいる大都市の市長として、同氏は財政緊縮による壊滅的な打撃の影響を直接受けてもいる。

 レンツィ氏の問題は、民主党の予備選挙でピエル・ルイジ・ベルサニ書記長に敗れているため、組閣を行う政治的な権限を付託されていないことだ。

 今のところベルサニ氏は、民主党が過半数を獲得していない上院で奇抜な連立を目指すことにより、自らを首班とする少数与党内閣をつくる決意のようだ。

再選挙になれば大混乱、イタリアの景気後退は恐慌に発展

 この構想は技術的にはうまくいくかもしれない。だが仮にうまくいっても、恐らく新政権は長続きしないだろう。もしベルサニ氏が政権を発足させられなけば、実務者内閣がいわば不戦勝で誕生する可能性がある。しかし、その内閣に何ができるかは読みづらい。

 もし再選挙になれば、グリッロ氏の会派が絶対多数を獲得する可能性がある。その場合、イタリアのユーロ参加は当然のこととは見なせなくなる。同氏はユーロ圏にとどまるか否かを問う国民投票の実施を公約に掲げているからだ。

 もしそんな公約が果たされたら、その投票日まで、イタリアは悪化する一方の不況に陥るだろう。そんな不確実性にさらされている国には誰も投資しないからだ。

 ユーロ圏経済の5分の1近くを占めるイタリア経済は、現在も縮小し続けている。イタリアの人々は家計のやりくりに苦労しており、貯金を取り崩している。蓄えを使い果たしてしまった人も少なくない。企業向けの貸付金利は再び上昇している。2月の総選挙は景気後退の最中に実施されたが、再選挙になれば、今度は恐慌の最中に行われることになる。

若い政権で緊縮を終わらせ、重要改革の断行を


景気後退が長引き、緊縮財政への不満が高まっている(写真は緊縮に反対する抗議デモ)〔AFPBB News〕

 ベルサニ氏とシルビオ・ベルルスコーニ氏が新しい世代の指導者たちにバトンを渡すことが、最良の結末だ。これこそがグリッロ氏の台頭を阻止する最良の方法になるだろう。

 そのようにしてできる若い政権が真っ先に取り組まねばならないのは、緊縮財政をすぐに終わらせると同時に、えり抜きの重要な改革に着手することだろう。

 国有資産の民営化、公的セクターの抜本的な見直し、政党、銀行および国家機関という3者の分離、財・サービス市場の自由化を目指した改革などがその主なところだ。

 新政権は恐らく、雇用・解雇関連の規制のさらなる緩和で政治的資本を浪費すべきではない。何しろこれは欧州の人々の感情を揺さぶる政治問題であり、経済的な利益は不確実だが、政治的なコストは確実かつ莫大だ。

 また、選挙制度の改革が、求められている結果をもたらすかどうかも筆者にはよく分からない。イタリアでは過去にも様々な選挙制度が取り入れられたが、完璧なものは1つもなかった。

最悪の結末は「モンティ抜きのモンティ内閣」

 筆者には、これ以外の良い結果がなかなか思いつかない。逆に、起こり得る最悪の結果は、エスタブリッシュメントたちの昔からの本能が幅を利かせることであり、イタリアが実務者内閣という方策に再度逃げ込むことだ。

 筆者と話をしたある人物は近く退任する現首相の名前を出し、これを「モンティ抜きのモンティ(内閣)」と評してみせた。テクノクラートの支配がどんな結末を迎えたかは、既に見られた通りだ。

By Wolfgang Münchau


歳出の強制削減:次の危機へ向かう米国
2013年03月12日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年3月9日号)

歳出の自動削減が3月1日に発動された。今後、さらなるドラマが待ち受けている。


米大統領官邸や庭園などを見ることができるホワイトハウスの一般見学ツアーも、歳出の強制削減に伴い中止された〔AFPBB News〕

 その集まりは緊急幹部会議と称されていたが、ボルチモア市庁舎のごった返した会議室の雰囲気は、パニックというよりは混乱だった。

 市長は連邦政府の歳出の「強制削減」措置が市に与える影響を議論するために補佐官たちを招集した。3月1日に発動された措置により、連邦政府の支出の大部分で、向こう7カ月間で850億ドルの歳出が削減されることになる。

 市長が到着するまで、市の職員たちは右往左往し、どれだけ予算が削減されるのか話し合っていた。ある職員が「高速道路信託基金には影響ないだろうね?」と尋ねると、もう1人は「大丈夫だと思うよ」と答えた。

 ステファニー・ローリングス・ブレイク市長の話では、ボルチモア市が強制削減の影響を受けることは疑問の余地がない。

強制削減に翻弄される市当局

 市長いわく、市の歳入のおよそ12%は連邦政府から直接配分される予算だ。メリーランド州の予算から今年受け取る予定の8100万ドルの一部も、本をたどれば連邦政府のお金だが、正確な金額については誰も知らないようだ。

 市の予算が1〜2%減ったところで深刻な事態とは思えないかもしれない。しかしボルチモア市は既に今後10年間で7億5000万ドルの赤字となることが見込まれている。市長はこれまでにも、市の職員数を今後8年間で1割減らし、年金や医療費を削減することを提案していた。

 それ以上の予算削減となると、市としては行政サービスをさらに縮小するしかない。また、広報担当官によれば、貧困層を援助するプログラムが最も深刻な打撃を受けるという。学校に通う児童の85%が食事の補助を受けるほど貧しいボルチモア市においては特に懸念される事態だ。

 財政局長のハリー・ブラック氏によれば、ボルチモア市はまだ正式な通知を受けていないため、全部局に対して、年内いっぱいは連邦政府から得られる予算が9%減ることを想定するよう指示したという。強制削減により、いわゆる「国防費以外の裁量支出」の全項目で全面的な予算削減が義務付けられているからだ。

 これを受けて各部局のトップは、反故にできる契約はどれか、職員を解雇、または一時帰休(furlough、強制的な無給休暇を差す財政用語)扱いにするまでどれくらいの通知期間が必要なのか、また州や連邦政府の予算から補助を受けている公共サービスの縮小に法的制約があるかどうかを検討している。

 ボルチモア市の交通局は、路面電車の新路線計画の予算は確実に消えると見ている。住宅局は830世帯への家賃補助を中止しなければならないと考えている。恐らく脱薬物依存プログラムからは600人程度が追い出されることになる。地元の学校は、新学期が始まるまではレイオフを実施せずに済むと考えている。

 警察、失業者向けの職業訓練プログラム、高齢者、貧困者、身体的弱者に対する食事補助、補助金が支給される子供向けの保育サービス、ホームレスのための避難所、無料のエイズ検査――。これらすべてのプログラムについて少しずつ予算が削られる見込みだが、実際の削減幅や時期についてはまだ何も分かっていない。

 ボルチモア市の職業訓練所の所長を務めるカレン・シトニク氏は、もっと多くの情報を集めるために「インターネット上を探し回っている」と話している。

大学の研究予算にも大きな影響


ジョンズ・ホプキンス大学のキャンパス(写真はWikipediaより)
 ボルチモア市最大の民間雇用主で、科学研究に対して連邦政府予算から多額の補助金を受けているジョンズ・ホプキンス大学でも、見通しはやはり混沌としている。

 研究担当の副学長を務めるスコット・ジーガー氏によると、医学研究に補助金を支給する米国国立衛生研究所(NIH)は新規の助成金を1割減額し始めた。

 既に進行中の研究に対する支払いも削減されるかどうかは、ジーガー氏にも分からないという。

 ジョンズ・ホプキンス大学の応用物理研究所では、予算削減の計算はもっと複雑だ。というのも同研究所は、年間の財政支援が約5%カットされる民間機関と、8%削減される軍事機関の双方と契約しているからだ。

当の連邦政府も混乱

 ボルチモア市やジョンズ・ホプキンス大学は連邦政府からの連絡を待っているが、当局側も同じく混乱しているように見える。米教育長官のアーン・ダンカン氏は先月末、強制削減を受けて、一部の教員が「今、解雇通知を受け取っている」と述べたが、後に発言を撤回することになった。

 国土安全保障長官のジャネット・ナポリターノ氏は先日、税関職員の超過勤務が見合わせられたことにより、一部の空港で大きな遅延が生じていると警告したが、挙げた空港名が間違っていた(いずれにせよ、遅延は一時的なものだったことが判明した)。


大統領や閣僚も事実を取り違えるほど混乱しているように見える〔AFPBB News〕

 バラク・オバマ大統領自身も、思いやりに欠ける連邦議会議員が立ち去った後に清掃するホワイトハウスの用務員の給与も削減されるだろうと話したが、これも後に事実と異なることが分かった。

 共和党はある程度正当に、こうしたミスは、強制削減が米国経済に深刻な痛手を与え、何百万人もの人に苦痛をもたらすという民主党の主張の綻びを示すものだと訴えている。

 共和党いわく、大統領とその側近らは、計画されている強制削減に代わって増税すべきだと訴えるために誇張している。財政赤字(昨年は国内総生産=GDP=の約7%に当たる1兆ドルに達した)を削減するためには歳出削減が必要であり、オバマ大統領やその部下に支出削減についての裁量権を与えれば、最悪の苦痛を和らげられるという。

 米下院で過半数を占める共和党は、先日まさにそうした裁量を認める法案を可決したが、国防費や国境警備、その他安全保障に関わる支出のみが対象だった。

そんなに悲惨ではないと言うが・・・

 オバマ大統領は引き続き、共和党は米国の一般市民を支援する政府のプログラムよりも、金持ちやコネがある人のための税制の抜け穴を大事にしていると非難している。だが、強制削減が招く惨事に関する厳しい統計の数々は、ここ数日でいくらか後退した。

 ホワイトハウスは共和党の法案に拒否権を発動すると脅すのではなく、「議会と協力して、法案に磨きをかけることを楽しみにしている」と述べた。上院を支配する民主党は、増税はおろか全体的な支出のレベルを変えることもなく、非軍事予算の削減に関する行政裁量の拡大を狙っている。

 両党とも、3月27日までにすべてに決着をつける合意を望んでいる姿勢を示唆している。

 議会はこの日までに今年度の残りの時期の暫定予算を可決させねばならず、それができなければ、最も差し迫った機能を除き、政府がシャットダウンされることになる。

まだ続くせめぎ合い


 こうした事情は、少なくとも今後数カ月間は、共和党が我意を通せる可能性が高いことを意味している。

 オバマ大統領もこの1月に共和党から一部の増税容認を引き出したとはいえ、この2年間というもの、共和党は何度も大統領の支出の野望を潰してきた(図参照)。

 だが、オバマ大統領はまだあきらめてはいない。むしろ、財政に関していくつかの期限が差し迫る中、いずれかの段階まで自身の主張を訴えるのを待つことにしたようだ。

 今夏には、議会は政府債務の上限を引き上げなければならない。10月までには、新年度の予算を通さねばならない。どちらも歳出と税制を巡る新たなせめぎ合いの機会となる。その頃までには、人的な意味でも政治的な意味でも、強制削減の影響がもっとはっきりしているはずだ。




アルゼンチンで高まる国民の不満
フェルナンデス大統領は気を逸らすのに躍起
2013年03月12日(Tue) Financial Times
(2013年3月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 アルゼンチンで経済的なプレッシャーが高まる中、クリスティーナ・フェルナンデス大統領は、フォークランド諸島が10日、11日の両日に主権を確定する住民投票を実施するのを喜んだはずだ。

 ブエノスアイレスでは、フォークランド諸島が正当にアルゼンチン領であることに議論の余地はない。そのため住民投票は――英国支持の結論が目に見えているにもかかわらず――、アルゼンチンが昨年、1996年以来初めて基礎的財政収支の赤字に転落したという事実など、手っ取り早い解決策のない差し迫った国内問題から注意を逸らす材料を提供してくれる。

支持率低下に苦しむ大統領


亡き夫の後を継ぎ、大統領を務めるクリスティーナ・フェルナンデス大統領〔AFPBB News〕

 軍事政権による1982年のフォークランド諸島の侵攻自体も、国内の経済難から注意を逸らすための試みだった。

 そして2011年に2度目の選挙に勝利を収めた後、フェルナンデス大統領の支持率は推定で35〜40%に低下している。

 フェルナンデス政権は、アルゼンチンが10年余りの間で2度目のデフォルト(債務不履行)に陥るシナリオを米国の控訴裁判所が帳消しにする可能性がある見込みを喜んでいる。

 控訴裁判所は3月初め、アルゼンチンが債務再編を拒否する債権者と繰り広げた12年間の争いで、同国の提案を検討する用意があるように見えた。

 フェルナンデス大統領が先日行った通常議会開会式の演説は、政府の他の施策にスポットライトを当てた。1994年にブエノスアイレスのユダヤ人施設が爆破され、85人が死亡した事件の捜査に向けたイランとの合意と、治安判事評議会の直接選挙を通じた司法制度の「民主化」計画の2つだ。

 だが、国民の関心を逸らすこうした施策によっても隠すことができない非常に重要な問題がある。

国民の最大の関心は「犯罪とインフレ」

 「フォークランド諸島、イランとの合意、司法制度についてクリスティーナが言っていることはどれも、国民の最大の関心事としてあらゆる世論調査の最上位に登場する2つの問題とは全く関係がない。犯罪とインフレがそれだ」。反政府系新聞ラ・ナシオンでコラムを書いているホアキン・モラレス・ソラ氏はこう言う。

 政府は、スーパーマーケットで売っている品物や多くの耐久消費財の価格を4月1日まで凍結しており、賃上げ率も20%程度に維持しようとしている。インフレ率は26%に達し、かつ上昇していると考えられているにもかかわらず、だ。政府が公式統計を操作している疑惑のせいで、アルゼンチンは国際通貨基金(IMF)に非難された。

 コンサルティング会社IHSグローバルインサイトのローレンス・アラン氏は、次のように話す。

 「クリスティーナがこれらの問題について語るのを避けるためにできる限りの手を尽くしているのは一目瞭然だが、価格の凍結や賃金交渉は、政府が彼らなりのやり方で問題を正すために手を打とうとしていることを示している」

闇市場のドル相場が高騰、国家財政も一段と悪化

 一方、18カ月近く実施されている外国為替管理のせいで、国民は事実上、ドルを手に入れられなくなっており、闇市場のレートは公定レートを50%上回る水準に急騰している。すでに急増している政府支出が10月の中間選挙に向けて加速するため、国家財政はさらに悪化する可能性が高い。

 今年の中間選挙は、3期目の任期を可能にすべく憲法を改正するというフェルナンデス大統領の計画にとって極めて重要だ。

 国民の不満は高まっている。フェルナンデス大統領も副大統領も最近、別々のイベントでブーイングを受けた。反政府系の労働組合の指導者たちは3月14日にストを計画しており、高いインフレ率、高い輸出関税、過大評価されたドルの公定レートにうんざりしている農家は、深刻な被害を与える恐れのある穀物販売の停止を検討している。

 だが、フェルナンデス大統領が債務再編を拒否する債権者やフォークランド諸島で自らの意志を押し付けようとしたように、近い将来、為替管理の緩和や、インフレに対する是正措置の実施、政府支出の抑制を予想する人は誰もいない。

 代わりに、大統領は先日、ベネズエラのウゴ・チャベス氏の足跡を称賛し、野党をさらに分裂させられるような問題に注意を集中させていた。それらの問題が有権者の最優先事項ではないにもかかわらず、だ。

 「大統領はそうせざるを得ない。クリスティーナや彼女を支持する政治グループ『勝利のための戦線』が中間選挙で好結果を収めなければ、こうした問題はどれも意味を持たなくなる」と政治アナリストで世論調査専門家のグラシエラ・ロメール氏は話している。

By Jude Webber





グルジア政治危機に見る「正統性」と「民主主義」
激しい攻防が続く大統領派と首相派
2013年03月12日(Tue) 前田 弘毅
 昨年秋、平和裏の政権交代を成し遂げたはずのグルジアで再び政治的緊張が高まっている。ビジナ・イヴァニシュヴィリ新首相率いる「グルジアの夢」政権によるミハイル・サーカシビリ大統領派のパージについては前回も若干触れたが、すでに「詰んだ」として全面降伏を迫る新政権に対して、大統領派「国民運動」も一定の権力と保障を求めて抵抗を続けている。


サーカシビリがトビリシに架けたイタリア製「平和橋」。美しいフォルムとLED照明で新たな観光名所となる一方、無駄遣いと批判の声も少なくない
 半年に及ぶ両者の激しい攻防は今月末から来月初めにかけて一定の決着がつく見通しだが、その過程で一層の社会混乱を招く可能性も皆無ではない。

 グルジア現代政治のダイナミズムを見ていくと、最近政権交代を経験した日本や他の国と比べても、権力闘争の生々しさを格段強く感じさせる。

 また、ヨーロッパ志向や民族主義、民族紛争の問題など、ロシア・旧ソ連情勢を考えるうえでも参考になることは多い。

 もう少し広く考えれば、米国の予算に関する大統領と議会の攻防に似ていないわけではないが、以下で見るように政治的な「死活」問題も絡んでいる。ここでは、これまでの流れと争点について簡単に紹介したい。

「すでに勝負はついた」大統領を追い詰める首相


ビジナ・イヴァニシュヴィリ首相〔AFPBB News〕

 2月26日、ビジナ・イヴァニシュヴィリ首相はミハイル・サーカシビリ大統領宛公開書簡の冒頭で次のように述べている。

 「グルジアにおける権力問題の決着はすでについている。したがって、何か議論を必要とする政治的対立相手としてあなたに呼びかけるものではない」

 さらに、書簡の終わりの方では後述する焦眉の憲法改正問題について「この改正に賛成する者は国家に対する奉仕を続けることができる。過ちの訂正が認められ、より良い政治的未来のチャンスを手にする」とした。

 しかし、もし反対すればどうなるのか?

 続けて「この改正に反対する者は9年間、あなた(=サーカシビリ)のグループの誰であれ行った行為の完全なる政治的責任を引き受け、これを一生背負い続けることになる」ときつい警告を発している。

 ここで、問題となっているグルジア国憲法改正の焦点とは、首相の任免を自由にできる現憲法における大統領権限についてである。現在、大統領は首相を罷免し、議会が3度大統領の推す候補を認めない場合は、議会を解散することができる。

 しかし、グルジアは今年(2013年)秋に新大統領を選出した後、首相に強力な権限を与える議会制共和国への変更を2010年に決定している。

 さらに、これが重要なことなのだが、大統領の任意の議会解散を縛るのが、新議会を(議会選挙日から)半年の間解散することができないとする現憲法の条項(3章51条)である。

 すなわち、昨年議会選挙が行われた10月1日から半年を経る今年4月1日までに、首相側は大統領が自由に首相を罷免する権利を憲法上も否定するために改正を急いでいるのである。

多数派工作、大統領側の必死の抵抗と提案

 現憲法において、改正には議会の3分の2の賛成、すなわち原則100人以上の賛成票が必要になる(グルジア議会は150議席―比例77議席、小選挙区73議席)。昨年の議会選の結果は勝利した首相派の「グルジアの夢」が85議席を獲得し、大統領派「国民運動」が65議席だった。したがって、首相派にとって憲法改正のハードルは高いはずだった。


2012年、受刑囚の虐待がきっかけで始まった政府に対する抗議デモ〔AFPBB News〕

 ここから権力を握った首相派の猛烈なパージとリクルートが始まる。特に首相派の力を見せつけたのは、昨年末の議会における攻防だった。焦点は「政治犯」の恩赦問題である。

 大統領派はそもそも政治犯の存在を認めておらず、首相派が議会で過半数の賛成で可決した恩赦法に大統領は拒否権を発動した。

 拒否権を覆すのは議会の5分の3が必要だった。恩赦法に対する大統領の修正要求がまず83対33で否決されたが、大統領派は櫛の歯が抜けるように離脱が相次ぎ、表だって大統領提案に賛成したのはこの時点でわずか33人だった。

 さらに間髪を入れず、大統領拒否権を覆すための採決が行われ、91対24で5分の3を超えて可決。1月に国会議長のサインで恩赦法が成立し、認定政治犯190人が釈放され、2月には恩赦で7000人以上が刑務所から解放され、グルジアの服役囚の数は半減した。

 この恩赦法を巡る攻防で首相派は完全に優位に立ち、憲法改正が可能な3分の2の確保も視野に入れた。そして、「最後の決着」をつけるべく、3月末の憲法改正に向けて突き進んでいる。

 当然、大統領側はこれに対抗しているが、2月8日には議会で認められなかった演説を大統領が議会図書館で行おうとしたところ、大統領辞任を求める市民デモが暴徒化し、逮捕者が出る騒動に発展した。

大統領側の「免罪要求」

 ミハイル・サーカシビリ大統領派は、大統領権限を制限する憲法改正(首相の自由な任免を認めない)への賛成への条件として、憲法への親西欧政策の明記と新たな憲法改正へのハードルを3分の2から4分の3へ引き上げること、議会の首都トビリシへの再移転と大統領間接選挙を行わないことを要求していた。

 2月の半ばまで断続的に交渉が行われたが、結局交渉は決裂した。

 上記の点については一定の妥協が成立したというが、さらに続けて「具体的な要求」が「国民運動」側からなされたという。それは「政治的恩赦」に関するものだった。

 下級官吏以外にも、およそ1500人の政府高官について大統領派は完全な免罪を求め、首相側は「部分的免罪」、すなわち罪を公に認めた上での5年間の官職追放の受け入れを迫ったが、大統領側はこれを受け入れなかったとされる。

 交渉決裂後、2月末にはミハイル・サーカシビリ大統領腹心で首都トビリシの市長であるギギ・ウグラヴァが尋問のうえ、テレビ局購入や公金不正使用の疑いで告訴された。

 現在まで、旧政権幹部は一部元閣僚を除いて身柄を実際には拘束されてはいないが、3月中には極めて激しい政治的駆け引きが繰り広げられる可能性が強い。それが、前述の賛成か、反対かという首相の厳しい言葉に表れている。

複雑な「正統性」を巡る戦い


ミハイル・サーカシビリ大統領〔AFPBB News〕

 極めて情勢を複雑にしているのは、議会選挙後、半年は議会を解散できないという憲法の縛りだけではなく、もう1つの「半年条項」、すなわち大統領選挙の半年前にも議会を解散することはできないという別の制限にもある(同じく3章51条)。

 大統領選挙は2013年10月に予定されているが、選挙日はこれまで大統領令で定められてきた。このまま憲法が改正されなければ、4月1日からしばらくの間、大統領派はいつでも首相を罷免できる状況が続くことになる。

 しかし、大統領派も現状で選挙に踏み切るのは至難の業であり、首相派が憲法改正を強行することを防ぎつつ、どこまで「妥協」できるか両者で条件闘争が続けられる可能性が強い。

 このように、政局の大勢はすでに決し、秋に向けて大統領の円満な退陣と大統領派要人の免罪に焦点は移っているようにも見える。

 しかし、イヴァニシュヴィリ首相は10月の選挙勝利直後には最初の外遊先として米国の名前を挙げていたにもかかわらず、訪米の目処は立っていない。新政権が国内外の全面的な信頼を得るには相応の時間がかかるだろう。本稿執筆現在(3月4日)には大統領と首相が直接会談を行ったが、具体的な成果は得られなかったようである。

 大きな混乱なく、政治的な闘争がこれまでのように市民生活に被害を及ぼすことなく、まさしく「国のかたち」を守ることができるか、今年のグルジア政治は試されている。

 なお、レジティマシー(正統性)の問題も含めて「ユーラシア研究」次号でもグルジア情勢を論じる予定である。


14. 2013年3月12日 01:12:27 : SNljMa86tM
ドルが対ユーロ・円で上昇、FRBの早期緩和解除観測高まる
2013年 03月 11日 23:31 JST 記事を印刷する | ブックマーク | 1ページに表示


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[ニューヨーク 11日 ロイター] 11日序盤のニューヨーク外国為替市場では、ドルが主要通貨に対し上昇。

8日に発表された2月の雇用統計が予想を上回る堅調な内容となったことで、米景気をめぐる楽観的な見方が強まったほか、連邦準備理事会(FRB)が予想よりも早く超緩和策を解除する可能性があるとの観測が高まった。

主要6通貨に対するICEフューチャーズUSドル指数.DXYは82.793と、8日につけた7カ月ぶり高水準となる82.924に迫っている。

ドル/円は0.1%高の96.12円。8日には96.60円と、2009年8月12日以来の高値をつけた。

ユーロ/ドルは0.1%安の1.2994ドル。8日には、3カ月ぶりの安値となる1.2955ドルをつけた。


コラム:日銀新体制下で予想される「円安第二幕」のシナリオ=唐鎌大輔氏
2013年 03月 11日 15:16 JST
唐鎌大輔 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト(2013年3月11日)

円安・株高を主軸とする堅調な相場、俗に「安倍相場」と称される動きは昨年11月から今年2月までを第一幕として、3月以降は第二幕に入った。

第一幕が政権交代に伴う漠然とした経済・金融政策のレジームチェンジ(体制転換)願望を背景に進んだ円安・株高相場だとすれば、第二幕は日米欧7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)会合を経て、国際的な監視の目を気にしながらの緩やかな円安相場である。

別の言い方をすれば、これまでの経験則を乗り越えて進んできた「金利差なき円売り」は、第二幕ではアクセルの踏み具合が浅くなり、時折ブレーキを交えながらの展開に収束すると思われる。事実、対ドルでの年初来変化率を見ると、英ポンドは円に匹敵する下落率を示しており(2月末までならば英ポンドの方が最弱通貨だった)、円の独歩安が常態化していた昨年11月以降の相場が明らかに変わりつつある(1月1日―2月28日では、円は6.3%下落、英ポンドは7.2%下落)。

<為替発言の減少に見る安倍政権の意識変化>

昨年来、筆者の日々の講演会などでは「金利差なき円売りに必要なもの」は何かを語ってきた。それは、端的に言えば、通貨安志向を露わにする政府と、その手助けとして通貨政策の機能を求められる中央銀行(金融政策)である。

仮に「金利差なき円売り」を続けたいのであれば、リフレ志向の政府下における「間断なき金融緩和」は必須である(望むらくは外債購入のように為替市場に直接影響を与え得る手段も欲しいところだ)。事実、12月と1月の日銀金融政策決定会合では大幅な景気認識の下方修正が求められない局面で、9年半ぶりとなる2カ月連続の追加緩和が決定された。重要なことは、こうした政策運営が行われていると、為替相場は完全なる変動相場足りえず、管理変動相場、極端な想定としては固定相場という話に至りかねない点だろう。

本当に製造業が国にとって要諦だというのならば、筆者は管理変動相場や固定相場というシナリオは悪いとは思わない。だが、日本のようなG7先進国においてそうした明示的な通貨安を実現するには、諸外国の理解が当然必要になり、結局は通貨外交能力が問われる展開になる。要するに「金利差なき円売りに必要なもの」とは、行き着くところは通貨外交能力であり、2月はそれが試された局面だったという整理になろう。

一連の国際会議を経た今後は、昨年11月から今年2月のように政府・与党の要人が為替相場の水準や話題に言及して円が下落するような場面はあまり目にしなくなるだろう。現に、国会での議論を見ている限り、与党関係者の発言にはそのような意識変化がうかがえる。こうした所作は通貨外交能力の重要な一部であると考えられ、「要らぬ嫌疑」が「要らぬ円高」に波及するリスクを押さえ込むと思われる。

実際、米議会証言の場で「日本の金融政策は日本国内への対応であり、特に為替を狙ったものではない」と理解を示した米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長をはじめ、現状の円相場の動きに好意的な解釈を示す海外高官の発言が最近散見されるようになっている。今後、通貨外交は市場が安心して見ていられるものに変容していくと期待したい。

<資産買入基金の廃止は印象操作の有力な選択肢>

むろん、第二幕で加わるキーポイントは新たな正副総裁を迎える日銀の金融政策運営であり、その立ち回り次第で「金利差なき円売り」の趨勢も変わるだろう。

衆参両院で政府人事案が同意を得られれば、3月20日にも黒田東彦総裁・岩田規久男副総裁・中曽宏副総裁を迎え入れた新体制が発足する。黒田氏、岩田氏の過去の発言から察するに、白川方明総裁率いる旧体制よりも強力なリフレ志向を備えた執行部となるのは間違いない。

ただし、思想信条としてリフレ志向が強いことと「現実に何ができるか」ということは冷静に切り分けて分析すべきである。リスク資産の買い増しは恐らく行われるだろうが、なにぶん市場規模が限られる。麻生財務大臣が「断固回避」とまで述べ、黒田氏も昔から消極的な外債購入に手がつけられる可能性も現時点ではゼロに近いだろう(「金利差なき円売り」にとって、これは大きな痛手である)。

だとすれば、基本的に「買えるものは国債」という状況は変わりようがない。そうなると、旧体制が苦手だった部分、つまり「いかにうまく見せるか(あるいは魅せるか)」が問題となろう。例えば、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)などを買い入れている中央銀行は海外には存在せず、その辺りのアピールはもっと巧みにやる余地があったことは否めない。

レジームチェンジを文字通り見(魅)せつけるための具体策に関しては、銀行券ルールの撤廃と輪番増額、これに伴う「資産買入等の基金」廃止などを予想したいところである。2月28日、木内登英審議委員が講演で述べていたように、基金で買い入れる国債の対象年限を延ばしていけば、輪番オペとの境目が曖昧になるわけで、基金を別立てで管理することの意味は薄れる。白川体制で生まれた「基金」を葬り去ることは、新体制が行う市場への印象操作として有力な選択肢だろう(これは日銀券ルール撤廃についても同じことが言える)。現に3月5―6日の会合では白井さゆり審議委員が「基金オペと輪番オペの統合」を提案し、否決されている。

基金残高という従前の目標が消えれば、当座預金残高へ目標が移るだろう。要するに、2000年代前半にとっていた方法に戻ることになる。岩田氏の持論を踏まえれば、この展開はむしろ自然だ。同氏は「当座預金残高10%増で予想物価上昇率が0.44ポイント上昇」と述べているが、01年3月から06年3月の量的緩和局面では400%以上当座預金残高を増やして、消費者物価上昇率(CPI、総合)の前年比は期間平均でマイナス0.4%だった。「量的緩和が物価に与える影響は限定的」という従前の史実を超えることができれば、確かにそれは異次元の所業であり、結果を見守りたいところである。

どのような手段をとるにせよ、新体制下の日銀が市場期待をどの程度うまくつなぎ止めることができるかという観点は第二幕の重要ポイントに違いないが、一気に政策の選択肢が増えるかのような期待を持つことは行き過ぎだろう。あくまで日銀金融政策決定会合は合議制による多数決であり、黒田氏と岩田氏の両人が大胆な緩和提案を行っても、既存メンバーがこれを支持するとは限らない(3月会合を終えた時点での票読みでは五分五分の印象である)。この辺りの足並みの乱れを市場、特に海外勢は見逃さないだろう。4月の初回会合、もしくは3月に臨時会合が開かれるようなことがあれば、全世界が注目するイベントになる。

<ドル90円を割り込むのは一時的か>

最後に、相場の具体的な水準について考察しておきたい。

2月24―25日のイタリア総選挙で安定的な政権樹立が難しいとの見立てから、ユーロ全面安の相場の中で久しぶりに「リスク回避の円買い」が進行した。あくまで国内政治への期待を礎(いしずえ)とする「金利差なき円売り」は、世界中を巻き込みかねない欧州発の「リスク回避の円買い」には押し負けてしまうという事実が浮き彫りになったと言えるが、このような事態は恐らく今後も覚悟すべきだろう。

ユーロ圏のファンダメンタルズに関しては、前向きに評価すべきポイントを見つける方が難しい状況であり、昨年来、ユーロ相場が上値を追う場面でも基礎的な経済指標は確実に劣化し続けていた。こうした状況下、今年も欧州要因に根差したリスクオフ局面が散発的に到来することは不可避と考えられ、その際、ドル円相場が一時的に90円を割り込むような展開は想定しておいた方が良い。

しかし、金利差以外の要因に目を向ければ円の先安感はやはり強い。具体的には需給環境と海外経済情勢が根強い円安要因として意識されるはずだ。

そもそも、円相場の需給環境は12年以降、文字通り「次元の違う」世界へ突入している。11年の基礎的需給が16.9兆円の円買い超過だったのに対し、12年は3.2兆円の円売り超過となっており、需給の傾斜度合いは180度変わったと言っても過言ではない(ちなみに、筆者は国際収支統計のうち、経常収支、直接投資、政府・銀行部門以外の対外証券投資、対内証券投資を合計したものから、外貨のまま海外に残る再投資収益を控除した計数を基礎的需給バランスとして注目している)。

恐らく13年も12年と大差ない需給環境となるだろう。少なくとも13年上半期中に火力主体の電源構成が変わる気配はなく、昨年対比で円安が進んでいる以上、輸入金額は増える。一方で、円安になったからと言って輸出数量が即座に増えるわけではない。こうした、いわゆる「Jカーブ効果」の発現が想定される状況にあって、上半期は「円安が円安を呼ぶ」ような収支悪化が見られる可能性が高い。

また、海外経済情勢については、上述したように、欧州に絡んで断続的に「リスク回避の円買い」が生じることは避けられまいが、米国の堅調な足取りが続く中で、一時期のように「米経済悪化」が「FRBの金融緩和」を促し「ドル安・円高」を招くといったパターンはあまり起きないだろう。「量」と「金利」の決別を図り始めているFRBは、超低金利を継続しつつも、量的緩和を早期縮小・撤収することをすでに議論し始めており、長らく悩まされ続けた米国要因での円高圧力は減じられそうである。むしろ、米経済情勢の現状と展望を踏まえれば、内外金利差の緩やかな拡大から円売りが進む可能性の方が高いのではないか。それゆえ、日銀の緩和も14年以降、極端なアクセルが控えられる展開になるのかもしれない。

なお、通貨売り(円売り)とは本質的には望ましくない動きである。この点に照らせば、今の日本には残念な円売り要因がいくつかある。仮に財政再建の目途がつかずに野放図に財政支出が拡大したり、あるいは消費税増税が先送りされたり、中央銀行の独立性をあからさまに無碍(むげ)にするような政府の動きが見られたりした場合、金利差や需給など関係なしに円売りが進むだろう。

むろん、このような動きは政府も望んでいないだろう。今のところ第二幕は、需給や海外経済堅調とそれに伴う内外金利差の拡大に支えられて円売りが進む「健全な円安」コースを歩む可能性が高いと筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほコーポレート銀行国際為替部のマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より現職。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位。




基金・輪番の統合議論、金融政策の枠組み変更のきっかけに
2013年 03月 11日 21:10 JST
[宇都宮 11日 ロイター] にわかに浮上した資産買入基金による国債購入と輪番オペの統合議論が、金融政策の枠組みの見直しに発展する可能性がある。

国会で行われた日銀の正副総裁候補の所信聴取からは、国債の大量購入を中心とした量的拡大が新体制の緩和策の軸になるとみられ、両者の統合を含めた新しい日銀の緩和議論が注目される。

基金による国債買い入れは、長めの金利を押し下げるという金融緩和を目的に実施されており、買い入れ対象は残存3年以下の長期国債となっている。一方、輪番オペは基金とは別に資金需給をならす金融調節の一環との位置づけ。対象年限は定めておらず、年間21.6兆円を買い入れている。3月の金融政策決定会合で、日銀の白井さゆり審議委員がこの2つの統合を提案。市場や日銀内で議論が一気に高まった。

11日に宇都宮市内で会見した石田浩二審議委員は、両者の統合議論について、現行の金融政策の枠組み自体の変更に踏み込むことは避けられない、との見解を示した。同委員は輪番オペを「日銀券見合いの国債購入」とし、それを他の政策手段として使うことは「金融政策の枠組みの変更であり、所定の検討がなされる事になると思う」と語った。

新たな正副総裁による日銀の新体制は来週にも発足する見通しだが、政府が日銀総裁候補に指名している黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁のこれまでの発言からは、2%の物価上昇率目標の早期達成に向け、大量の国債購入による量的緩和の拡大と長期金利の一段の低下を促す金融政策を重視している姿勢がうかがえる。現在、3年以下となっている基金での国債購入について「(現行よりも)長期の年限の国債を購入することが必要」と語っており、対象年限だけみれば基金と輪番オペの境界線はさらに曖昧になっていく方向だ。

こうした黒田氏らの発言からは、金融調節上のツールとなっている輪番オペについて、過去の当座預金残高をターゲットとした量的緩和政策のように、緩和手段として復活する可能性も否定できない。その際、輪番オペには年限の制約はないことから、全年限に影響を与える手段に位置づけられることも想定される。

市場では白井委員の提案について、新体制下での緩和議論を先取りしたとの見方もあり、国債の大量買い入れを緩和策の軸とする新体制下で、統合議論が一段と広がりをみせる可能性がある。

(ロイターニュース 伊藤純夫;編集 久保信博)




物価や長期金利の動向にきちんと目配りしないといけない=首相
2013年 03月 11日 17:48 JST
[東京 11日 ロイター] 安倍晋三首相は11日夕、東日本大震災から2年を迎えたことに関連して記者会見し、経済政策のリスクに関して、物価や長期金利の動向にはきちんと目配りしないといけないとの考えを示した。

安倍首相は「ハイパーインフレは考えられないといってもいい。2%は物価安定目標なので、2%を超えていけばその中に収れんしていくように、日銀も政策を進めていく」と語った。

安倍首相はまた「三本の矢で企業の収益機会を増やし、雇用や所得の拡大を実現していく。財政健全化にも取り組み、国の信認を確保していきたい」と述べた。

エネルギー価格上昇については「北米シェールガスの輸入実現など、供給源の多角化で輸入コストを下げる努力をしていきたい」と語った。

東日本大震災からの復興に関しては、この夏ごろまでをめどに、いつまでに道路や水道が復旧し、医療や福祉の体制が整い、住めるようになるかなど、(住民の)早期帰還に向けた具体的道筋を明らかにしていく考えを示した。また、将来的に日本経済をけん引していくことできるような産業振興を図りたいとし、福島沖で世界初の浮体式洋上風力発電所の技術開発や実証を行い、福島県に医療機器の研究開発、安全対策、事業化支援の拠点を整備するとした。

(ロイターニュース 石田仁志)

最近の為替動向により中小企業にも良い影響=安倍首相 2013年3月4日
黒田氏のもとで日銀が大胆な金融政策行うと期待=首相 2013年3月4日
焦点:アベノミクスで公的年金の運用配分乱れ、修正に「数兆円」の試算も 2013年3月4日
アングル:CPIは目先下落幅拡大へ、日銀新体制の緩和促す 2013年3月1日


ドイツ国民4人に1人がユーロ離脱主張の政党支持へ=世論調査
2013年 03月 11日 19:54 JST
[ベルリン 11日 ロイター] 11日明らかにされた世論調査で、ドイツ国民の4人に1人が9月の総選挙でユーロ離脱を主張する政党に投票する用意があると回答したことが明らかになった。ユーロ圏危機のコストに不安を抱く国民心理の一端が明らかになった。

ドイツの主要政党は、ギリシャなど危機国の支援に不満を抱いているものの、ユーロ支持の姿勢は変えていない。ナチス時代の反省からナショナリズムをタブー視する傾向も、ユーロ懐疑派抑え込みの背景となってきた。

フォーカス誌向けにTNSエムニドが行った調査では、26%がユーロ離脱を望む政党の支持を考えると回答。40─49歳では10人に4人の割合となった。

調査は3月6─7日に1007人を対象に実施された。


【第267回】 2013年3月12日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
日銀の緩和姿勢にFRBも同調
バブル懸念が表面化する米国
 新しい日本銀行総裁に黒田東彦氏、副総裁に岩田規久男氏、中曽宏氏が国会で同意される見通しだ。3月4〜5日に行われた所信聴取では、「資産バブルや国債の信用低下など積極緩和がもたらす『副作用』の議論はほとんど出なかった」(「日本経済新聞」3月6日付)。

 しかし、それと極めて対照的だったのが、2月26〜27日に行われたFRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長の議会証言である。多くの議員が、超緩和策の副作用やバブルに言及した。

 クラポ上院議員は「何人かの権威は、長期にわたる金融緩和策のコストは利益を上回るとの心配を強めている。BIS(国際決済銀行)の昨年の年次報告書は、そういった政策は、自律的な景気回復を妨げるだけでなく、中央銀行の信認と独立性への長期的リスクとなると結論付けていた」との懸念を表した。

 他にも、トゥーミー上院議員:「国債市場、農業不動産市場、株式市場で今バブルが起きていると言う人たちがいる」、キャンベル下院議員:「高利回り社債、農地、国債でバブルが起きている。バブルになっていないところでは、リスクの評価に歪みが生じ、経済を歪めている」との批判があった。

 確かに、最近の米国ではバブル的な過熱感が見られる。財政支出削減、増税というネガティブな要因がありながら、株式市場ははしゃいでいる。高利回り社債の発行量は昨年第4四半期だけで、金融危機前の2006年1年間の発行量の約2.5倍もあった。また、06年に比べ、アイオワの農地平均価格は2.6倍になり、エージェンシーREIT(不動産投資信託)の残高は8倍へと急膨張した。

 住宅市場では投資家が中古を買いあさっており、在庫は1999年12月以来の低水準だ。ニューヨークでは、優良な高級物件が売りに出されると瞬時に奪い合いが起きると業者は述べている。

 米議会では、FRBの膨張した資産を問題視する発言も相次いだ。バーナンキは、適切に対処することは可能だし、リスクを伴わない政策はない、と言明した。

 シェルビー上院議員に、正常化は困難ではないか? と問われたときのバーナンキの返答は興味深かった。「FRBがこれまでこれほどの資産を持った経験はない。しかし、日銀もやっている。日本の今の首相は日銀のやり方は不十分だと言っている」。意訳すれば、「日本はもっとやろうとしているんだから、こっちもいいでしょ」というニュアンスだ。今後は、日米双方で中央銀行がバブルを煽っていくことになるのだろうか?

 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)



【第2回】 2013年3月12日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]
「お金はメディアのひとつでしかない」
と知れば、呪縛と偏見から解き放たれる
お金は強力だが、絶対的存在ではない。それを理解しているだけで、僕たちはお金の呪縛から放たれ、お金に対する偏見から少し距離を置いて、冷静な目でそれを捉え直せるようになる。それは、僕たちがお金と良い関係を築くためのきっかけだ。

 人は、誰でもお金が好きだ。

 ピカソは画才のみならず「お金」に対するセンスも抜群に高かったが、多くの人は、お金とは何か、と問われても明確には答えられないだろう。グーグルで検索しても難しい定義ばかりで、「お金とは何か?」に対するダイレクトな答えはまず出てこない。

お金の定義は人それぞれ

 では、世の中の人びとは、お金をどのように定義しているのだろうか?

 まず、「何をするにも必要なものである」という考えが一般的だと思う。「究極の現実だ」と言う人もいる。

 インターネットの巨大掲示板2ちゃんねるには、「お金とは権力である」という書き込みがあった。

 尊敬するある証券会社の社長は、よく「お金は社会の議決権」と話す。人びとが何にお金を投じるかによって、社会がどう形づくられるかが決まる、という意味だ。お金は天下の回りもの、社会財だ、というのである。

 70歳になろうとする父は、僕が子どものころ、「お金は怠惰の原因であり、搾取の結果だよ」と言った。全共闘時代に青春時代を過ごした彼の目に、お金や資本主義はよいものに映らない。しかし、彼はこうも言った。「お金は可能性の原因であり、貢献の結果でもある」と。僕は、父のこの考え方の方が好きだ。

 このように、お金に関する定義は人それぞれだ。僕たちはみな、お金についてなんらかの“印象”をもっている。

 ただし、“お金そのもの”を深く知っているわけでも、それについて考える機会もあまりない。加えて、お金を不浄のものと捉え、近づくことや考えることを避ける傾向は今も根強い。性の話と同じように、お金自体について語ることは、いまだにある種のタブーとなっている。

お金はコミュニケーション・ツールの一つ

 むしろ一般的なのは、「お金はお金であり、絶対的なもので、他のものとは比べるべくもない」と捉え、思考停止に陥った状態かもしれない。

 だが、その考え方は間違っている。


 お金は絶対的なものではない。お金は、人と人とがコミュニケーションする手段(メディア)のひとつでしかない。しかし、それが“数字”という世界中すべての人が理解可能なメディアであるがゆえに、極めて強力な存在であるにすぎない(右図)。お金が絶対的な存在でなく、数あるメディアのひとつだからこそ、他のメディア-----たとえば、言語や宗教、ボディランゲージ、時には笑顔ひとつすら、お金の代わりになるのである。

 つまり、お金と代替しうる存在は無数にある。人がコミュニケーションを行うためのメディアには、宗教のように、文化や思想など深い文脈を伝えられるが、特定の信者など限られた領域でしか通用しないものもある。またお金のように、数字であるがゆえに背景の文脈は伝えられないが、世界中の誰もが理解できるものもある。

 お金は強力だが、絶対的存在ではない。それを理解しているだけで、僕たちはお金の呪縛から放たれ、お金に対する偏見から少し距離を置いて、冷静な目でそれを捉え直せるようになる。そして、その冷静な視点こそ、僕たちがお金と良い関係を築くきっかけとなる。

 それでは、お金はどうやってでき上がっているのか。ここで整理しておこう。

お金がどうやってできるか示すピラミッド


 「お金のピラミッド」図を見て欲しい。本図は、お金ができる仕組みを表わすフレームワークだ。覚える必要はないが、なんとなく雰囲気をつかんでもらえると、のちのち理解が進むと思う。

 お金ができる一番シンプルな方法が、お金でお金を殖やす”マネーゲーム”だろう。1990年代後半〜2000年代前半に、“ハゲタカ”と呼ばれたヘッジファンドが手持ち以上のお金を投機的にさらに殖やしていったのが、例のひとつだ。このお金でお金が殖えた時代を知っておくと、比較対象として、その後の「お金」の変化を理解しやすくなる。

 次に、「お金を稼ぐ(バリュー to マネー)」方法がある。自分の持つ価値や強みによって他人や事業などに貢献し、その対価としてお金を得る世界である。“マネタイズ”と言い換えられ、図中のaで示している。起業は、そのひとつの事例だ。

 そして、「お金を創る(クレジット to マネー)」方法もある。“信用創造”あるいは、”キャピタライズ“といわれ、図中のbで示している。一例では、日本銀行やFRB(米連邦準備制度理事会)などの中央銀行が行っている「お金を刷る」行為がそれだ。彼らは、国家の信用に基づいてお金を発行している。最近では企業が発行するポイントなど、お金に限りなく近いものを国家以外が発行し、大規模に成長中だ。21世紀は、この信用創造(キャピタライズ)を、企業のみならず個人がもっと行うようになるだろう。ピカソが好んで小切手を使ったというエピソードも、彼がキャピタライズの何たるかをよくわかっていたことを物語っている。

 続いて、「お金を使わないで価値を交換しあう(バリュー to バリュー)」方法がある。信用の土台がある関係では、お金を介さない“物々交換”が成り立つ。“非貨幣経済”と呼ばれ、図中のcがそれだ。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で不要品を直接やりとりする例などがある。ピカソがワイン現物による報酬で、ロートシルトのラベルに絵を描いたのも、この価値の直接交換に当たる。

 最後に、これからの新しい世界に対応するための基本的な知恵、つまり「新しい価値観のコミュニティを創る」ために信用のきずなを広げていくことを知る必要がある。その手法や意味についても、この連載でも触れていきたい。

(次回は3月18日更新予定です。)

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15. 2013年3月12日 01:15:05 : SNljMa86tM
スペインのカタルーニャ銀売却中止はマイナス−ムーディーズ

  3月11日(ブルームバーグ):米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、スペインが国有化したカタルーニャ銀行の売却中止を決定したことは同国銀行業界にとってマイナスだと指摘した。業界の再編プロセスに対する自信の欠如を示しているためと説明している。
ムーディーズは11日付の分析リポートで、売却のための入札中止は「スペインの銀行システム全体にとってクレジットネガティブだ。脆弱(ぜいじゃく)な銀行の再編・清算が成功するとの自信が民間セクターに欠如していると捉えられかねないためだ」と説明した。
スペインの銀行再建基金(FROB)は先週、2011年に国有化されたカタルーニャ銀行の売却入札をいったん中止すると発表。スペインは3月末までの売却を予定していた。
ムーディーズは「カタルーニャ銀は幅広い公的支援パッケージを受けているにもかかわらず、FROBはこれまでのところ同行の買い手を見つけられていない」とし、「売却の中止は、追加支援もしくは同行のバランスシートになお内在している可能性のあるリスクに対する予防措置なしには、民間セクターが買収に消極的だということを示唆している」と分析した。
原題:Moody’s Says Spain’s Halting of Catalunya Banc Sale IsNegative(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:マドリード Charles Penty cpenty@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Frank Connelly fconnelly@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/12 00:43 JST


ブラジル・レアル、10カ月ぶり高値から下落−中銀介入で

  3月11日(ブルームバーグ):11日の外国為替市場でブラジルのレアルが10カ月ぶり高値から下落した。同国中銀はレアル安を狙って10億ドルのリバース通貨スワップの入札を実施した。これは先物市場でのレアル売り・ドル買いに相当する。
サンパウロ時間午前11時26分現在、レアルは対ドルで0.6%下げて1ドル= 1.9555レアル。8日は1.9442レアルと、終値ベースで昨年5月8日以来の高値となった。年初からは4.9%高と、ブルームバーグが調査する新興国25通貨の中で上昇率が最も高い。
ブラジル中央銀行はこの日、2月15日以来初となるリバーススワップ契約(3万枚)の入札を実施、落札は2万枚だった。
原題:Brazil Real Drops From 10-Month High as Central BankIntervenes(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:サンパウロ Blake Schmidt bschmidt16@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:David Papadopoulos papadopoulos@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/12 00:29 JST



日銀総裁候補・黒田氏:物価目標実現へデリバティブの活用も検討 (2)
  3月11日(ブルームバーグ):政府が次期日本銀行総裁候補として国会に提示した黒田東彦アジア開発銀行総裁は11日午前、参院議院運営委員会で所信聴取に臨み、日銀が掲げる物価上昇率2%の目標を「1日も早く実現することが何よりも重要な使命」とあらためて述べた上で、具体的施策としてスワップ取引などのデリバティブ(金融派生商品)の活用も検討する姿勢を示した。
黒田氏は「日銀はこれまでもいろいろな措置を取ってきたのは事実だが、15年続いたデフレを是正できなかったことという意味では、明らかに不十分な金融緩和だった」と言明。「現時点の日銀の金融緩和の状況では2%の物価安定目標を早期に実現することは難しいと思うので、当然、さらなる金融緩和が必要だ」と語った。
具体的には、「国債についてどんどん長期を購入していって、長期金利への影響を強めていかなければならない。あるいは、民間の資産についても、リスクプレミアムが過大なところは縮める。そういう意味では量的、質的に大胆な金融緩和をしていく」と述べた。
さらに、具体的施策の一環として「スワップ、その他のデリバテイブ市場に出ていくのがいいのか、よくないのか、いろんな議論があるが、十分ご提案をうかがい検討していく」と述べた。
必ずや実現する          
また、「金利引き下げの余地が乏しい現状では、市場の期待に働き掛けることが不可欠だ」と表明。総裁就任後は「市場とのコミュニケーションを通じて、デフレ脱却に向けてやれることは何でもやるという姿勢を明確に打ち出していきたい」との考えをあらためて示した。
その上で、2%の物価目標は「必ずや実現するというつもりでいる」と言明。「2%の物価 安定目標の実現は日本銀行総裁に課された最大の使命であり、それを果たさなければならないし、私は任命されたら必ず果たす」と表明した。総裁就任後の政策については「スピード感は非常に重要だ」としながらも、「就任していない段階で、最初の会合でどのようにするかは申し上げる状況ではない」と語った。
日銀当座預金の超過準備に適用される0.1%の付利の引き下げ、ないし撤廃については「短期金融市場が機能しやすいというメリット」がある一方で、「短期金利が実際にゼロになることを妨げている」「金融緩和をより進めるためには障害になっている」「ゼロにするどころかマイナスにすべきだ」など、賛否両論あると指摘。その上で、「現時点で直ちに付利を下げるとか、マイナス金利を付けるとかは考えてないが、十分議論されるべきだ」と述べた。
方向性が間違ったら「大胆に変化」
自身の方向性が間違っていると考えられたら、持論を捨てて方向転換する勇気はあるか、と問われ、「もとより、そういった覚悟でいる」と言明。「経済の実態、金融の状況が変化すれば、当然、政策も大胆に変化させていくことになる」と述べた。
さらに、「2%の物価安定目標自体が簡単に変わるとは思わない」とした上で、「2%を上回ることも、下回ることも望ましくないので、当然、経済・金融の実態に応じて、機動的に政策は決定されなければならないと思っている」と語った。
この日で東日本大震災から2年が経過することに関連し、「いまだ復興が完全に実現したわけではなく、経済に傷痕が残っているのは事実であり、日銀としてもそういうものへも十分な対応を考えていかなければならない」とも述べた。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/11 13:47 JST




安倍首相:2%物価目標設定でハイパーインフレ考えられない−会見

  3月11日(ブルームバーグ):安倍晋三首相は11日の記者会見で、政府・日本銀行が2%の物価安定目標を掲げて大胆な金融緩和を進めることによってハイパーインフレを招く恐れはないとの認識を示した。
首相は、現政権の金融政策について「歴代の政権では財政出動等を行ってきたが、こびりついたデフレマインドを変えることはできなかった。この状況を変えなければならない、という中においてこれまでとは次元の違う政策を日銀の新しい体制で取り組んでいくことになった」と説明した。
大胆な金融緩和による副作用については「ハイパーインフレということが言われているが、これは考えられないと言ってもいい。2%は物価安定目標だから、2%を超えていけば2%の中に収れんしていくように当然、日銀も進めていく」との認識を示した。物価や長期金利の動向については注視する考えも強調した。
東日本大震災からの復興に関しては、被災者の高台移転を進めるため、「手続きを大胆に簡素化」する考えを表明。東京電力福島第一原発事故による避難指示区域の見直しも着実に進めていることも強調した。その上で、夏ごろをめどに、被災者の「早期帰還に向けた具体的な道筋」も明らかにしていく方針も示した。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 広川高史 thirokawa@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/11 18:15 JST




FRB議長発言で混迷する出口戦略−資産保有に懐疑的見方も
  3月11日(ブルームバーグ):バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長がFRB保有資産の売却に動く必要がないと先月主張した際、一つの問題が提起された。連邦公開市場委員会(FOMC)がインフレ加速を避けつつどのようにして記録的な規模の刺激策を解除することができるかということだ。
同議長は2月27日の議会証言で、2011年6月に概要を示した出口戦略を「近いうちに」再検討するつもりだが、その一環として、FRBがバランスシート 上に抱える市場から買い入れた証券を償還まで保有することを決める可能性があると述べた。この措置は購入資産の売却が借り入れコスト急上昇につながるとの懸念解消に役立つものだ。同時に金利上昇に伴うFRB保有資産の価値低下の回避を可能とする。
バークレイズの米国担当チーフエコノミスト、ディーン・マキ氏(ニューヨーク在勤)は、連邦準備制度が抱える総資産が3兆ドル(約288兆円)超と前例のない高水準に達したことを踏まえ、景気が回復した際に放置すればインフレが加速する恐れがあると指摘する。
マキ氏はFOMCが「十分な速いペースで資産を引き揚げなければ、オーバーシュートするリスクがある。金利を一般的な水準に戻し、景気が正常と見なされる状態に戻れば、膨らんだバランスシートを維持することで経済や資産市場に目立つ効果が及ぶだろうか。これまでの米経済ではそうしたことはなかった」と述べた。
バーナンキ議長は下院金融委員会で議員らの質問に答え、米国と比較し得る規模で中央銀行のポートフォリオを拡大・縮小した国はないと説明。米国以前に量的緩和策に踏み切った国は日本だけだが、日本はまだ「そうした状況」にあると語った。
「答え出ていない」
フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁は3月6日、ペンシルベニア州ランカスターでの講演後、購入資産をバランスシートに保持したままにすることが実行可能な戦略であると当局者全員が認識しているわけではないと記者団に言明。「決して資産を売却しないと言い切れるのか、私には分からない」と述べ、「答えは出ていない。インフレが上昇していても資産は売却しないと事前に確約することは難しい」と指摘した。
カンバーランド・アドバイザーズの金融担当チーフエコノミスト、ロバート・アイゼンバイス氏は、資産保有を継続するだけでインフレをコントロールすることはできないとし、「その意味でFOMCは世間知らずだ。FOMCのモデルと現実の世界は別物だ」と話した。同氏はアトランタ連銀で調査ディレクターを務めた経歴を持つ。
マクロエコノミック・アドバイザーズの上級マネジングディレクターで連邦準備制度でエコノミストをしていたアンツリオ・ボムフィム氏は、バランスシートを正常化することのほうが「フェデラルファンド(FF)金利を操作する取り組み全体をずっとはっきりさせるだろう」と述べた。
記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Caroline Salas Gage csalas1@bloomberg.net;ワシントン Joshua Zumbrun jzumbrun@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chris Wellisz cwellisz@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/11 11:25 JST


16. 2013年3月12日 01:23:06 : SNljMa86tM
マーケットウォッチ2013年 3月 11日 19:16 JST
「悲観論の帝王」ルービニ氏、今年後半の相場調整を予想

By BARBARA KOLLMEYER, BILL WATTS

 「ドクター・ドゥーム(悲観論の帝王)」と呼ばれる、経済学者で米ニューヨーク大学教授のヌリエル・ルービニ氏は、米国の財政問題が結局は米株式市場に影響を与えることになるとの見通しを示した。

 同氏は8日のCNBCとのインタビューで、投資家は今年後半の失望に備えるべきだ、と述べた。


Associated Press
ヌリエル・ルービニ氏
 ルービニ氏は「給与税や富裕層向け税金が可処分所得を著しく減少させだろうし、小売売上高は既に大いに落ち込んでいる」と語った。

  同氏が先週、ブルームバーグとのインタビューでも同様のことを語っていることから考えると、同氏は非常に懸念しているようだ。同氏は8日にはブルームバーグ・ニュースのインタビューにも応じ、そのなかで、2004年以上に大きな経済バブルが今年発生するとの見通しを示した。

 ルービニ氏はCNBCとのインタビューでは、「歳出強制削減に加え、既に消費の伸びの鈍化兆候がみられている。昨年ほとんど成長していない米経済だが、財政緊縮は(国内総生産の)1.5%に相当するだろう」と語った。

 ルービニ氏の予想では、今年の米経済成長率は良くても1.5%の伸びにとどまるもよう。

 同氏は、金融市場は今年後半には米経済の著しい鈍化に衝撃を受けることになる可能性がある、と述べた。同氏は常に、楽観的見方に水を差すような予想を示すことで知られている。ダウ工業株30種平均は7日にも若干、最高値を更新した。

 ルービニ氏は「市場は、米経済が昨年と比較してもどれほど鈍化するかに驚くことになるとみている」と語った。

 その結果、今年後半の企業業績や売上高の伸びに対する同氏の基本的見通しは失望を示している。

 ルービニ氏は、米国株式市場は幾分調整する可能性がある」と語った。

 同氏はブルームバーグ・ニュースとのインタビューでも同様の発言をした。今年は04年以上に大きな経済バブルが発生しているとの見方を示した。

 また、ノルディアバンクのシニアストラテジスト、ヘンリク・ドゥルセビエリ氏はマーケット・ウォッチに対し、金融市場は政治的な現状とややかけ離れているようだとの見方を示した。同氏のコメントは以下の通り。

 「低成長環境のなかで、これ(歳出強制削減)が目の前にあることを無視し、センチメント指標と実際の統計の両方がこれほど良好で、しかも明日のことなど考えないかのごとく、金融市場が上昇を続けていることには若干驚いている。歳出強制削減の影響がみられることから、今後数週間や数カ月間で、指標にやや現実味が出てくるのではないかと懸念している」


17. 2013年3月13日 13:24:08 : xEBOc6ttRg

2013年3月12日 橘玲
[橘玲の日々刻々]
日本は、政府や自治体が「ブラック企業」化している

 サービス残業というのは、就業時間外に働いたにもかかわらず残業代が支払われないことで、労働基準法では明確に禁じられています。それにもかかわらず、日本ではサービス残業が常態化しているとしばしば指摘されます。「法治国家」であるはずなのに、なぜ違法状態が野放しになっているのでしょうか?

 ほとんどのサラリーマンがサービス残業を仕方がないものとして受け入れていますが、この悪習が許されないのには理由があります。対価を払わずにひとを働かせるのは奴隷労働で、それを否定することで近代が成立しました。このままでは日本は、「前近代社会」といわれても反論できません。

 会社(雇用者)が労働基準法を遵守しているかどうかは、各自治体に置かれた労働基準監督署が監督し、サービス残業を見つければ正規の残業代を支払うよう指導することになっています。それにもかかわらず違法行為が常態化しているとしたら、そもそも労働者保護の制度に根本的な欠陥があることになります。

 何年か前に、霞ヶ関の中央省庁で「居酒屋タクシー」が問題になりました。終電がなくなった後の深夜帰宅の際に、官僚が公費で、馴染みの運転手から缶ビールやつまみなどの「接待」を受けていたというものです。

 官僚の帰宅が深夜になる大きな理由は「国会待機」で、政府答弁の原案を作成するために、議員からの質問がわかるまで関連する省庁の担当者が拘束されることをいいます。一部の議員(民主党の元首相が有名)が夜中まで質問を教えないと、担当者は仕事もないのに帰宅を許されず、省庁内にとどまることになるのです。

 ところで、官僚も労働者(被用者)ですから、国会待機による拘束に対しては残業代や時間外手当が支払われなければならないはずです。しかしなぜか、国家公務員は労働基準法の適用対象外とされていて、サービス残業が当然とされています。

中央省庁だけでなく、地方自治体でもサービス残業は常態化しています。

 さいたま市では2011年度に、40代の職員(課長補佐)が1800時間を超える時間外勤務をして、年間給与と同等の800万円ちかい残業代を受け取り、年収が1500万円を超えたことが市議会で問題にされました。1800時間というと、平日だけなら7時間超、土日を含め1日あたり5時間に相当しますから、じゅうぶん過労死が危惧されるレベルです。こうした異常な労働環境が明らかになったのは、さいたま市が正直に残業代を支払っていたからです。他の自治体も、裁量労働制などを使って不都合な現実を隠しているだけで、一部の職員に過重な負担をさせている実態は同じようなものでしょう。

 労働基準監督署は厚生労働省の出先機関ですが、国会待機などを見るかぎり、厚労省も「サービス残業」の温床になっているのは明らかです。この国では、「サービス残業を禁止する法律がサービス残業でつくられる」という話がブラックジョークにならないのです。

 政府や自治体がブラック化してるなら、労基署が民間企業を強く取り締まれるはずはありません。サービス残業は経営者の自覚の問題などではなく、日本の社会に巣食う構造的な病なのです。

作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

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【第272回】 2013年3月13日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
アベノミクスのメカニズムと日本経済の最弱点
アベノミクスは本当に危険なのか?
「リフレはヤバイ」とする意見の背景

 金融マーケットは、円安とこれを背景とした株高に湧いているが、「アベノミクス」については相変わらず賛否両論がある。

 筆者は、公共事業を中心とした財政出動に賛成でない点で、全面的に賛成するわけではないが、アベノミクスの中核である「インフレ目標付きの金融緩和」によって、デフレの脱却を目指すことには賛成だ。

 反対意見にはどのようなものがあるのかと思い、本屋に行くと、慶応大学准教授の小幡績氏の著作『リフレはヤバイ』(ディスカヴァー携書)がよく売れているようだ。筆者とは意見を異にするが、若手の著者らしい生きの良い文体で書かれていて、なかなか楽しめる本だ。

 しかし、感心ばかりしているわけにもいかない。小幡氏は、マイルドなインフレを求める政策の何が「ヤバイ」と言っているのだろうか。

 同書の前書きには、「日本経済が破滅してしまう恐れすらある」とあり、「それは、リフレが国債を暴落させるからである」と書いてある。詳しくはぜひ同書を読んでみていただきたいが、破滅のシナリオは第三章「円安で日本は滅ぶ」に書かれている。前書きの紹介によると、この章は「円安と同時に起こる日本の金融市場と経済の危機について議論」するとされている。

 小幡氏は、円安はドル・ベースでの日本国債の値下がりを意味し、投資家がこれを避けるために日本国債を売り、米国債に乗り換える公算が大きく、この場合、さらに円安になるので、日本国債に対する売りが売りを呼ぶ展開になる危険があるという。

 為替レートは3月12日時点で対ドルで96円台まで円安が進んだ。一方、長期金利は0.65%とむしろ低下している。

 危機は突然やってくるのかも知れないが、今のところ、円安に伴う日本国債暴落は起こっていない。幸いなことだ。

 他の要素を取り除いて単独で評価すると、「円安」はインフレ率の上昇を通じて長期金利の上昇材料ではある。しかし、市場はむしろ、新体制になる日銀が国債の買い入れ対象とする年限の延長と、買い入れ額の増額を行うのではないかと期待して、長期債を買い進んでいるようだ。

効果を発揮する経路は十分ある
市場は何を「期待」しているのか

 マイルドなインフレを目指す政策に対して批判的な人々は、インフレ目標付きの金融緩和で、円安や株高が起こる理由が納得できないらしい。

 しかし、「期待(=予想)への働きかけ」には、効果を発揮する経路が十分ある。

 投資家にとって、将来の物価変動は不確実だ。上昇する可能性と下落する可能性の両方がある。これは、誰もが認める点だろう。

 問題は、将来物価が小幅であっても、上昇した場合に何が起こるかだ。この場合、インフレ目標が0%あるいは1%であれば、中央銀行が金融緩和政策を止める可能性があるし、福井総裁時代のゼロ金利解除のように短期金利が引き上げられる可能性がある。しかし、インフレの目標値が2%だと明確になっていれば、こうした可能性はかなり遠のく。

 これは、確率的に評価した将来の実質金利の期待値の低下を意味する。また、現実的な問題として、ほぼゼロの短期金利で金利の上昇を心配することなく円資金を借り続けることができる期間が、より長くなることをも意味する。

 為替市場にとって、将来の実質金利の低下は円安材料だし、後者は、低金利の円を借りて、外貨建ての資産に投資する「キャリー・トレード」をよりやりやすくする効果を持つので、共に合理的円安材料だ。

 このあたりの事情は、昨年の2月14日に日銀が1%の目指すべき「物価上昇率のめど」を発表した、いわゆる「バレンタイン緩和」のサプライズと、その後の為替レートの動きからも理解することができる。

 もっとも、せっかく効果を発揮しかけたバレンタイン緩和だったが、その後、日銀の金融緩和が消極的だったために、その効果が減殺されてしまった。

 他方、株式市場にとっては、日本企業の国際的な競争条件を改善する円安は買い材料だ。特に近年は、株価に対する為替レートの影響が強まっている。

 為替、株式の両市場とも、インフレ目標が提示されたからといって、いきなり目標通りのインフレが来ることを確信しているのではない。市場にとっては、そのような遠大な期待が問題なのではなく、もっと現実的な損得につながる材料が重要だ。

 一方、債券市場へのインフレ目標の影響は少々微妙だ。インフレ目標によって起こる円安それ自体は長期債利回りの上昇要因だが、短期金利ゼロの期待継続期間延長は、短期金利と長期金利の裁定関係を通じて長期金利の下落要因だ。

 債券市場にあっては、それよりも、日銀が今後金融緩和の効果拡大を目指して、より年限の長い債券を買うことと、国債買い入れ額を増額することとの予想がより現実的な債券利回りの下落要因になっていると解釈するのが妥当だろう。こちらも、「現金な」市場なのである。

 この場合も、日銀がインフレ目標の実現を目指して、年限の長い債券を買い続けるだろうという投資家の「期待(=予想)」が重要だ。

 なお、市場から債券を買って投資家に現金を渡すことと、債券の利回りを低下させることは、共にポートフォリオ選択行動として、この現金が外貨建て資産や株式などに回る可能性を高める要因である。

インフレそのものを
信じていなくてもいい

 デフレ下で短期金利がゼロまで来ると、政策金利の引き下げという目に見えやすい形での金融緩和策がなくなるが、それでも、「期待」を通じて経済に影響を与えることはできる。

 円安、株高、加えて不動産価格の上昇といった資産価格の変化は、円安が日本企業(ひいては日本の労働者)の国際的な競争力を増し、景気にプラスに働くし、資産価格の上昇と金融緩和過程での長期金利の低下は、消費や投資を活発化する効果を持ち、共に日本の総需要にプラスに働き、ひいてはインフレ率の上昇につながる。時間的な道のりは長いが、理由に難しい点はない。

 国民がインフレ目標から直ちにインフレの実現を期待(=予想)するのでなくても構わないのだ。

 また、景気が良くなって、それでもインフレが起こらないということはないだろうと思うが、仮にそのようなことが起こるとすれば、失業が減り、国民が豊かになるのだから、これはデフレ脱却のさらに先の目的が達成された望ましい状態だ。再分配政策に工夫が要るかもしれないが、分配政策を考える上でも、好景気・低失業率の状態の方がより容易なはずだ。

国債暴落は困るのか?
銀行危機は考えるに値する

 ところで、小幡氏の心配するような国債暴落が円安から直ちに起こるとは思えないが、国債暴落が銀行危機を生むとの指摘は考えるに値する。

 日銀の白川方明総裁も、同氏が議長を務める最後の政策決定会合が行われた後の3月7日の記者会見で、次のように述べている。

「日銀の国債買い入れが内外の市場で財政ファイナンスと受け取られると、長期金利が上昇し、多額の国債を保有する金融機関を通じて実体経済に悪影響を与える」(日本経済新聞3月8日朝刊)

 昨年10月の「金融システムレポート」で、日銀は全期間の金利が1%上昇すると、国内債券投資で、大手行3.7兆円、地域銀行3.0兆円、信用金庫で1.6兆円の、合計8.3兆円の評価損が発生すると発表した。2%の金利上昇なら、この倍の損失だ。

 同レポートによると、銀行が運用対象としている国内債券の平均残存期間は大手行で2年半ば、長期ゾーンへの投資額が大きい地域銀行では4年半ばに達しているという。これは「平均」だから、個別の金融機関によっては、投資対象とする債券の残存期間がもっと長いケースもあるだろう。

 問題はどうやら、金利が上昇したときに、地域銀行に破綻リスクがある、というあたりにあるらしい。

 しかし、急に達成することは難しかろうが、たとえば将来物価上昇率が2%で実質成長率が2%といった「本来目指すべき」経済状況になったら、長期金利は3〜4%上がってもおかしくない。

 これはつまるところ、金融機関の破綻が怖いので、インフレ率も成長率も、実はまともなレベルに上げることができない、ということを意味する。

 白川総裁は、もともと本気でインフレになどしたくはなかったのかも知れない。だから、毎回効いて欲しくなさそうな様子で、小出しの金融緩和を発表していたのだろう。

大量の国債を持つ銀行の破綻懸念で
金融政策が制約を受けるのは問題

 だが、資本が脆弱な一部の銀行が大量の債券(大半は国債)を抱えていて、金利が上昇したら、これが潰れることの悪影響を心配しなければならず、そのために日本の金融政策が制約を受けているとしたら、それは問題だ。

 そもそも銀行が、十分あり得る程度の金利変動のリスクに対応できないなら、その経営は無責任だ。金融庁及び日銀の監督にも問題があると言わざるを得ない。

 まして銀行側に、潰れそうになれば政府に救済されるだろうとの意図があるならさらに問題だ。現実に長期金利の急上昇が起こった場合、いかにもありそうな対応は、時価評価のルールを曲げて弱体銀行を延命することだが、これは小幡氏が(時価会計を)「使わないといけません」と言う通り、やるべきではない。

 また、集めた預金を自らの判断で融資に回す機会と能力がなく、国債ばかり買うような銀行は、社会的にも役に立っているとは言い難い。独自の情報処理で、資金をより効率のいい場所に動かす役割を果たしていない。本音を言うなら、こういう銀行は、金利上昇前に整理してしまいたいところだ。

長期金利の上昇はまだ先だが
預金者はどうしたらいいか

 長期金利の本格的な上昇が起こるのは、まだ先のことだろう。

 だが、今後、日銀がより長期の国債を買い入れることになると、より期間の長い金利が低下することになるので、1つにはこれを狙って長期債を買う銀行があろうし、運用難から高い利回りを求めてより長期の国債を買う銀行が出てくる可能性がある。

 その場合、将来、ポートフォリオを長期化させて金利リスクを高めた状態で、長期金利の上昇を迎える銀行が出てくる可能性がある。これは現実に「危ない」し、預金者としては「ヤバイ」。

 銀行の問題なので、個別に名指しはしないが、銀行に多額の預金をお持ちの読者は、銀行の決算書類を見て、自分が預金している銀行の債券投資を点検してみるべきだ。

「そんな難しいことはできない」という人は、「一人、一行、1000万円まで」という預金保険の条件を満たすように、一行あたり(異なる支店の預金も通算される)の預金額を1000万円以下に抑えるべきだろう。

 金融機関に能力以上の資金を与えておくことは、社会的にも顧客本人にとっても、好ましくない。金融業の資金量に見合わないビジネス発見・開発能力と、その結果として経営が脆弱ないくつかの銀行が隠れた重荷になっていることが、実は日本経済の最弱点なのかも知れない。


18. 2013年3月13日 13:24:59 : xEBOc6ttRg
第10回】 2013年3月13日 太田直樹 [ボストン コンサルティング グループ(BCG) シニア・パートナー&マネージング・ディレクター],小林喜一郎
日本企業でもできる
リバース・イノベーションとは何か?
【対談後編:BCG太田直樹×小林喜一郎】
新興国市場は、もはや取り組まないほうがリスクとなっている――リバース・イノベーションの視点から見ると、日本勢の新たな活路となるどんな戦略が見えてくるのか。

前回に続き、ボストン コンサルティング グループのシニア・パートナー&マネージング・ディレクターの太田直樹氏と『リバース・イノベーション』日本語版の解説を執筆した慶應義塾大学大学院教授の小林喜一郎氏の対談です。前回明らかになった新興国の企業の躍進ぶりに対し、日本企業がどのような戦略をとれるかを中心に対談は広がります(構成/渡部典子、撮影/矢島幸紀)。

新興国の時間軸や物差しで
動かなければダメ

小林:この20年間、失われた時代やデフレを経て、体力的に落ちてきた日本企業は総じて、業績について非常に短期志向になっています。もちろんギャンブルではいけませんが、長期的な目線を持って、試行錯誤と学習を行っていかないと、いきなりすごいイノベーションは出てきません。

 以前イノベーションに関する研究論文で、企業の多角化の度合いを説明する変数の一つに、トップマネジメント・チームの平均在籍年度を用いました。すると、在籍年数が長いほどイノベーション(この場合は多角化)は進むという結果になったのです。実際、GEやP&Gなどの例を見ると、経営陣の腰を据えた取り組みが求められるなと感じます。


太田直樹(おおた・なおき)
ボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクター。東京大学文学部卒業。ロンドン大学経営学修士(MBA)。モニターカンパニーを経て現在に至る。BCGフェロー。BCGテクノロジー・メディア・テレコミュニケーション・プラクティスのアジア・パシフィック地域リーダー。BCGソーシャルインパクト(社会貢献)ネットワークのコアメンバー。
太田:確かに(日本の多くの大企業のトップの在籍期間の)4年くらいの任期では難しいですね。既存の意思決定や損益計算書の枠内では、長期的な時間軸でのリスクがとれないとすると、器を分ける、つまり会社を世界の大きな地域ごとに分けるのが一番現実的な答えだと思います。たとえば、シスコシステムズはバンガロールに、IBMは北京に、地域の本社を置いています。新興国の企業などを見る本社機能や担当を置くのも一つのやり方でしょう。

 このように、地域軸をうまく使う方法も、日本企業にもできる余地がありそうです。つまり、グローバル戦略や新興国戦略と一括りで捉えるのではなく、アメリカはアメリカで、アジアはアジアで、アフリカはアフリカでというように、地域ごとの戦略をしっかり構築して、その地域を任せる人材を何年かかけて育てることに取り組むべきです。そこからトップになる人が出てくれば、チャンスが広がってきます。

小林:そうですね。海外経験をさせると言っても、先進国の主要都市だけが出世コースという日本企業はかなりあります。新興国などそれ以外の場所の支店長が出世コースになってくれば、会社全体の認識も変わってくるのでしょうね。

 それから、去年まで円高で日本企業はずいぶん海外企業を買収しました。買収した企業をうまく利用して、海外は海外で独自に日本本社のコントロールを離れて頑張ってもらうのも、日本企業のグローバル化の一つのやり方かもしれません。そんな日本企業の事例をご存知ですか。

太田:日東電工の水ビジネスなどは、そういうふうに現地をうまく活用している例だと思いますね。同社はもともと粘着技術や塗工技術などをベースに幅広い製品を扱う化学メーカーですが、廃液処理など水の浄化を行うサービス事業を展開する際に、日本主導ではなく、シンガポール政府が作った国際研究施設「ウォーターハブ」内に事業開発拠点を設置し、すべて任せたのです。

 従来の物を売るビジネスからサービス事業への転換が必要でしたが、現地スタッフを中心に現地のニーズを踏まえて開発し、グローバルなマーケティングも任せました。下手に本社直轄のプロジェクトを行うよりも、現地のチームに自由にやらせて、その力を活用するやり方は、日本企業にとって学ぶところが多いと思います。リバース・イノベーションの文脈かもしれません。

小林:本社がリモート・コントロールで新興国など現地のニーズに応えようとしても、難しいからですからね。本社の製品やサービスを販売するために現地子会社をつくったら、あとはそこに新しい事業を起こすようなミッションを持たせたり、地域である部分は自由にやってもよいと許可を与えたりするのは、一つのやり方でしょう。


日本人の考えるものづくりと
世界のものづくりの違いは?

太田:よく日本の強みは「ものづくり」にあると言われますが、「ものづくり」と言うと、とかく日本人が日本で職人技を使ってやるというような先入観があります。しかし、日本企業でも発展している製造業の実態はかなり異なりますね。

 たとえば電子部品であれば、ヒロセ電機(コネクタ業界の世界的企業)もキーエンス(各種センサーの優良企業として有名)もほぼファブレスで、非常にスピーディーで、エンジニアリングとカスタマイズを価格に転嫁した戦略をとっています。

 モノ作り重視で、ファブレスは駄目だとする考え方には危うさがあります。たとえば最近、ハイテク自動車業界とICTの境界線がなくなってきています。台湾のラクスジェンというファブレス自動車メーカーは、差別化は空間づくりでやると決めて、HTCなどのIT企業と連携し、どうやって安全や快適な空間をつくるかに絞り込んでいます。デザインに特化し、車体を作る部分はバリューチェーンにないのです。

 一方、日本の完成車メーカーは「クルマはこうあるべし」という固定観念があって、そういう思い切った発想にはなかなか飛べません。台湾はIT企業が集積しているので、自動車に対する捉え方が日本とはまるで違うんです。


小林喜一郎(こばやし・きいちろう)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。『リバース・イノベーション』日本語版の解説を執筆。
小林:それはBCGの「デコンストラクション」のコンセプトでいう、レイヤーマスターの例になりますね。IDEOなどもデザインに特化していますが、業界や技術が成熟化してくると、そのレイヤーのみで差別化する、ニッチのダントツ企業が出てくるのでしょうね。

 その例で興味深い点は、ITと自動車業界は、もともと事業のライフサイクルがまったく違うということです。それが合わさると、スピードの速い方に引きずられて、ファブレスにならざるを得ない部分があり、ビジネスモデルのイノベーションが起こるのだと思いますね。

太田:その意味では、ITの部分だけがレイヤーマスターとして広がるかもしれません。これからは新車だけではなく、駆動部分をEV(電気自動車)に変える、エンタテインメントを入れるなど改造の部分だけで変わっていくのかもしれません。いずれにせよ、自動車の保有資産としての価値は下がっているので、自動車メーカーを揺るがしかねないすごい変化が起きる可能性がある。そうした動きはウォッチしておかないといけませんね。

「新興国の時代の終わり」は近づいている。
その時、日本は?

小林:『リバース・イノベーション』を読んで感じたことでもありますが、新興国で先進国企業のローカルのイノベーションがうまくいった領域を見ると、医療、環境、食糧、通信網など、贅沢品よりも生活に密着した領域が多いように見えます。

 マイケル・ポーター流に言うと「社会のニーズと企業の利益を両立しうるような領域」に一番チャンスがあるとされています。だからこそ、CSRやフィランソロピーという社会貢献の話ではなく、営利目的をうまく現地と一緒につくっていく、現地のニーズに合わせてリーズナブルな価格で、という形が入りやすいのでしょうか。

太田:まったくその通りだと思いますね。事業機会で考えると、一番当たると大きいのが社会的ニーズです。リバース・イノベーションが脚光を浴びたのは、そこに一番アプローチしやすいやり方だからでしょう。

 ただ、時間軸を伸ばして見ると、「新興国」という言葉の寿命は、使い続けてもあと5〜10年くらいだろうと、私は考えています。2025年には所得の差がだいぶ縮まり、それ以降は、新興国は存在しなくなる。おそらく5年後には社会的ニーズも変わっていて、たとえば都市化や高齢化などがどの国でも変わらぬ課題になってくる。そういうところのイノベーションをどう起こすかが、重要になってくると思うのです。

小林:前回の対談で、GEヘルスケア・ジャパンの星野和哉氏が「マルチポイント・イノベーション」というキーワードを用いて、日本は超高齢社会だから、日本でこそできるイノベーションに取り組み、安いものは新興国に積極的に任せればいいとおっしゃっていました。そういうふうに一段高い視点でグローバル競争を捉えて、いわゆる世界戦略を地域ポートフォリオ的な考え方でそれぞれの役割を決めたり、事業の特性やライフサイクルに応じて異なる物差しを持ったりすることが大切ですね。

 それができるのは経営者です。たとえば、コマツの元社長の安崎暁氏は、業績が低迷していた時代にもIT投資を積極的に行い、成長の基盤を築きました。後継者の坂根正弘氏がその後、腕をふるい、KOMTRAX(コムトラックス:建設機械の情報を遠隔地から確認するシステム)をはじめとするイノベーションでコマツは復活しました。そういう事例を見ると、サラリーマン企業でもできないことはないんです。

太田:昨今のモノやサービスには本質的に破壊的要素があるので、既存の事業部の中でリスクをとらせて、経営者がそのリスクを判断するのは非常に難しい。これは事実です。だからこそ、本社から離れたところに、ある程度の権限とリソースをどれだけ配備できるかで、10年後は大きく違ってきます。芽が出るまでに時間がかかりますが、そこは経営者の胆力が問われる部分です。

小林:日本は今まで一つの事業を中心に現場力の強さで伸びてきましたが(事業運営力)、それを強みにしつつも、本当に経営力が問われる時代に来たと思いますね(企業経営力)。これまでも製品開発などで研究者が勝手に取り組んで、結果としてうまくいった例もありますが、それだけでは一発屋で終わってしまうのです。そういうイノベーションを繰り返す、再現可能性を生み出すのが経営力です。今回は、興味深いお話をありがとうございました。

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◆主要目次
【第1部】 リバース・イノベーションへの旅
第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
第2章 リバース・イノベーションの5つの道
第3章 マインドセットを転換する
第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
終章 必要なのは行動すること
付録 リバース・イノベーションの実践ツール
ネクスト・プラクティスを求めて


19. 2013年3月13日 13:33:39 : xEBOc6ttRg
アベノミクス効果でミセス・ワタナベが市場に回帰
2013年03月13日(Wed) Financial Times
(2013年3月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ミセス・ワタナベが帰ってきた。日本の家計の貯蓄を管理しているこの想像上の人物は、長らく鳴りを潜めていた。円高が進み、海外経済の見通しも悪かった過去18カ月間には、外国証券を3兆6000億円売り越していた。

 しかし、「アベノミクス」の効果が世界第3位の経済大国の消費者や個人投資家にまで及び始め、世界経済回復の期待が膨らみ始めるにつれて、この抜け目のないプレーヤーは世界各国の通貨や債券の市場で再び動き始めている。

ファンドの新規設定が急増

 アナリストたちの説明によれば、日本の個人投資家による海外証券投資の大部分を占める投資信託の市場では、新しいファンドが次々設定されている。

 投信情報サービス会社リッパーによれば、今年2月に新規設定された公募投信は計70本で、1月の3倍以上に上った。野村アセットマネジメントが2月末に発売したブラジルレアル建てのファンドは620億円の資金を集めており、レアル建てファンドとしては3年ぶりの大型設定となっている。

 三菱東京UFJ銀行のグローバル市場調査部門で欧州の責任者を務めるデレク・ハルペニー氏(ロンドン在勤)は、今のところは、既存の海外投資ポジションについては利益の確定が行われており、日本の個人投資家による資金の引き揚げは新規の外国投資よりも多くなっていると指摘する。

 また、証券会社や資産運用会社の話によれば、今年になって外国のファンドから日本に引き揚げられた2050億円の大半は日本の小型株や不動産投資信託(REIT)に流入し、その値上がりを演出しているという。

 だが、流れはすぐにでも変わるかもしれない、とアナリストらは話している。景気ウォッチャー(タクシー運転手や理髪師、ホテル経営者など、景気の動きを間近で観察できる人たちのこと)を対象にした政府の調査の結果が先週発表されたが、これを見る限り、景気の現状はここ7年近くで最も良い状態に改善している。

 首相に返り咲いた安倍晋三氏が、金融・財政両面での積極的な刺激策により景気を浮揚させることを誓った公約が効いている格好だ。

 野村証券が行っている月次の「個人投資家サーベイ」では、最新の調査で「株式」に対する注目度が「預貯金」のそれを上回った。2010年1月の調査開始以来、初めてのことだ。

 「いい兆候だ。新規の投信設定が好調なこと、そして円安がさらに進むと予想されていることから、間もなく(日本からの)資金純流出が見られるだろう」。バークレイズの外為ストラテジスト、ビル・ディビニー氏(東京在勤)はこう述べている。

ドルに続きメキシコペソやロシアルーブルも人気

 こうした動きの恩恵を最もはっきり受けている通貨は米ドルだ。ここ数カ月間は、外国への投資で最も大きな割合を占めている。その大部分は、日興アセットマネジメントが昨年末に販売した「グラビティ・アメリカズ・ファンド」によるものだった。これは米国株式に投資するファンドで、当初設定額は2000億円超という史上第3位の規模に膨らんだ。

 メキシコペソもこの恩恵を享受している。バークレイズによれば、メキシコの資産への個人資金の流入が増え始めた昨年8月以降、ワタナベ家は約660億円を債券ファンドに投じている。

 HSBC投信の営業企画本部長、山本賢司氏は「メキシコは力強く、着実に成長している」と言う。個人投資家向けのメキシコ株ファンドを日本で初めて立ち上げた同社は、このファンドに約30億円の資金を集めている。

 メキシコペソは、日本からの投資資金流入も手伝って年初から対円で13%上昇しているが、まだ上昇する可能性がかなりありそうだと山本氏は述べている。「もし円の見通しに弱気だったら、ドルの代わりにメキシコペソを買ってもいいのではないか?」

 ロシアルーブルにも多額の資金が流れ込んでいる。その主役は売り出し債という、日本の個人投資家に販売される外貨建ての債券だ。

 今年に入ってからのルーブル建て売り出し債の発行額(純額)は2億7500万ドルで、通貨別のランキングで第2位につけている。長らく好まれているブラジルレアル建ての3億7300万ドルには及ばないが、トルコリラ建ての2億5000万ドルは上回っている。

 野村証券のチーフ為替ストラテジスト、池田雄之輔氏は、メキシコとロシアに流れ込む資金の大半は、オーストラリア資産の犠牲の上に成り立っていると指摘する。オーストラリア準備銀行(中央銀行)は2年間利下げを続けており、近く利上げに転じる兆候も見られないため、オーストラリアの債券の魅力が低下したという。

日中関係の悪化でオーストラリア離れに拍車

 だが、これに輪をかけたのが日中間の外交関係の悪化で、投資家は「中国関連リスク」を改めて見直すようになったと池田氏は言う。「日本人投資家は、中国経済に最も敏感に反応する通貨はオーストラリアドルだということを理解した」

 多くの人は、日本からの資金流出が増えることを確信している。日興アセットマネジメントの最高経営責任者(CEO)、チャールズ・ビーズリー氏によると、日銀の新総裁になる黒田東彦氏が実質金利を引き下げることを決意しているため、投資家は近く、現金にしがみつくと罰せられることに気付くかもしれない。

 日銀の統計によれば、家計が保有する金融資産総額1510兆円の半分以上が現預金だ。これに対し、米国では家計資産53兆6000億ドルの14%、ユーロ圏では家計資産19兆ユーロの37%が現預金となっている。

 だが、たとえ2%のインフレを目指す安倍首相の夢が実現しなかったとしても、投資家はどこかに利回りを求めなければならない。ビーズリー氏は「もっと多くのお金を日本から外へ持ち出す必要があるというのが当社の見解だ」と話している。

By Ben McLannahan and Alice Ross

 

社説:オランダの緊縮の教訓
2013年03月13日(Wed) Financial Times
(2013年3月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 トリプルA格付けを持ち、債務負担がドイツより小さいオランダは、ユーロ圏の緊縮結社の熱心なメンバーだ。強い薬を飲んだ後の苦い後味は、欧州の債務危機を道徳劇と見なしがちな人たちへの教訓だ。

 自由民主系と社会民主系の政党による連立政権は、オランダ経済の縮小を受け、欧州連合(EU)に義務付けられた財政赤字目標を達成するために新たな緊縮政策を探すことを余儀なくされた。だが、議会運営にあたり、厳しい要求を通す決意の少数政党に依存している状況に足を引っ張られている。

思った以上に似ている欧州北部と南部

 オランダの経済問題は、ユーロ圏周縁国の状況とはかけ離れているにせよ、欧州の北部と南部の類似性が公の議論の想定よりも大きいことを物語っている。例えばオランダ政府もスペイン政府も、危機の前は住宅バブルに乗って満足のいく財政運営を行っていた。どちらも今、民間債務は公的債務と同じくらい大きな問題になり得ることを理解している。

 幅広い議論については同じことが言えない。その点を主張しようにも、スペインには信頼性がなく、オランダは関心がない。

 自国の財政赤字を、他国に強く要求する規則の範囲内に抑えることに苦労するオランダの現状は、公的部門の緊縮は需要減退という犠牲の上に成り立つことも思い出させてくれる。

 財政赤字の削減は、好況期か、公共財政があまりにボロボロでほかに選択肢がない時に限るべきだ。すべての国――財政的にそこそこ健全な国も含む――による緊縮というユーロ圏の信条は、中核国と周縁国の双方に共通の苦痛をもたらす結果に終わる。

 これは経済的な窮状であると同時に政治的な窮状でもある。オランダの指導者たちは、景気低迷下で歳出削減を押し通すのに必要な政治的な努力について、もはや幻想を抱いていない。ここでもオランダは――たとえ緩やかな形とはいえ――、危機に大変苦しめられている国々と運命をともにしている。

ユーロ圏を建設的な方向へ導くことが国益

 従って、オランダがその道徳的権限と正式な権限――オランダ財務相のイェルーン・ダイセルブルーム氏はユーロ圏財務相会合の議長を務めている――を駆使し、ユーロ圏のパートナー諸国をより建設的な方向へ向けることはオランダの国益にかなう。

 民間部門の過剰債務問題の悪影響を取り除くためには、銀行同盟に向けた前進が欠かせない。予算に関するより賢明な政策も必要だ。

 著しく均衡を欠いた財政を是正するために大幅に歳出を削減しなければならないのは、一部の国だけだ。中核国は、その必要はない。中核国の需要を力強く保つことは、オランダ一流の伝統に則った賢明な利己心になるだろう。


20. 2013年3月13日 13:45:52 : xEBOc6ttRg
アベノミクス「規制改革」に落とし穴?

環境規制の役割を改めて考えてみる

2013年3月13日(水)  尾崎 弘之

 安部晋三政権の「3本の矢」のうち、具体的な内容がよく分からないと言われているのが、3本目の「成長戦略」である。ただ、全体の輪郭はある程度、見えてきた。首相官邸の「産業競争力会議」では、「イノベーション/IT政策の立て直し」「攻めの農業政策の推進」「クールジャパンの推進」など10個の検討項目が挙げられている。

 ここで注目したいのは、10項目の先頭に「規制改革の推進」がうたわれていることである。規制改革は「雇用関連、エネルギー・環境関連、健康・医療」に重点が置かれており、民主党政権の政策と大して変わらない。規制改革の重要ポイントは政権が変わっても一緒ということだ。また、規制改革が成功しなければ、ほかの項目も実現できない構造になっており、三木谷浩史楽天社長をはじめ、会議メンバーは規制改革の必要性を声高に主張している。

 小泉純一郎政権時代にも、ビジネスにとって規制はとかく「悪者」にされた。ところが、金融規制の緩和がリーマンショックや欧州危機を招いたことも事実である。すなわち、「規制=悪」と一元的に片づけられないのであり、改めて規制の役割について考える必要がある。今回は、環境規制に絞って、その役割を分析する。

規制が必要な4つの理由

 米ハーバード大学教授のマイケル・ポーターは、『環境、イノベーション、競争優位』と題した1995年の論文で、社会が環境に関する規制を必要とする理由として、表1の4つの項目を挙げている。これらのタイプ別の規制の役割を分析すると、悪者だけではない存在意義が見えてくる。

表1 環境規制が必要な4つの理由

筆者作成
新規産業を育成する「外圧」となる規制

 環境規制は、企業に新しい行動を取らせる外圧として働くことが多い。例えば、再生可能エネルギー(再エネ)は高コストなので、補助金などで市場を作り出す規制が不可欠である。太陽光発電、風力発電、燃料電池、電気自動車の研究開発に対する補助金、再エネの導入目標の設定、車の燃費規制、CO2(二酸化炭素)排出規制などがこれに相当する。

 研究開発に補助金が出れば、企業は技術革新やコスト削減を行い、新規事業に挑戦しやすくなる。同時に、燃費規制やCO2排出規制をかけると、ペナルティーを払いたくない企業は必要な投資を行う。

 米カリフォルニア州の「ゼロ・エミッション・ビークル規制(ZEV規制)」は、ペナルティーを利用した規制の例である。ZEV規制によると、州内で製品を販売する自動車メーカーは、自社製品の平均的な燃費を一定水準以上に保たなければならない。

 言い換えると、メーカーにとって利益率が高いガソリン車を販売したければ、燃費は良いがあまり儲からない電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)を一定割合作らなければならないのだ。

 この規制により、米国では、EV生産を行うベンチャーが数多く存在する。真面目に製品開発している企業もいるが、「ゼロエミッション・ビークル・バンク・クレジット(燃費改善権)」を狙っている企業が少なくない。

 EVを生産すれば燃費改善権を得ることができるので、その権利をZEV規制の対象である自動車メーカーに販売する。そして、自社製品だけではZEV規制をクリアできない自動車メーカーが、買い取った燃費改善権を合算して、トータルで規制をクリアする。後述するCO2排出権取引と同じ考え方である。

「初期段階だけ支援」する規制

 補助金と似た効果があるが、期間限定であることを強調して、企業に早く新規事業に参入させるタイプの規制がある。

 代表的なものは、再エネ導入に使われる「フィードインタリフ(FIT)」である。FITは、風力、太陽光など割高な再エネを普及させるために、火力、原子力との価格差を一般電気ユーザーが負担する仕組みである。2012年7月から日本で施行されている「再生可能エネルギー固定価格買取制度(再エネ買取制度)」はFITの一種である。(図1参照)

図1 再エネ固定価格買取制度の仕組み

資源エネルギー庁
 FITは短期間での再エネ推進を目的としているので、当初の買取価格は割高で、時間がたてば安くなるよう設計されている。つまり、いつまでもFITを頼っていては非効率が放置されるので、企業にコスト削減の努力を促すのである。

 1月30日の本コラムの記事(再生可能エネルギーは一般消費者にとって“おトク”になり得るか?)で書いた通り、FITは再エネのコストが火力・原子力発電などと同水準まで下がる「グリッド・パリティ」が達成されるまでの橋渡しの役割を持つ。

企業の製品プロセスを環境に良いものに「浄化」する規制

 課税以外で企業の活動を制御する方法がある。「CO2排出権割り当て」は、国別のCO2排出量の上限を国際合意によって決め、世界全体のCO2排出量を削減する取り組みである。1998年の京都議定書において制度が導入された。

 CO2排出量を十分に削減できなかった場合はペナルティーを課せられる。対策として、自国内で目標とする削減量に届かない場合は、他国からCO2排出権を「調達」することができる。京都議定書で認められた3種類の調達方法の1つである「クリーン・ディベロップメント・メカニズム(CDM)」では、日本企業が、省エネコストが安い中国で行うCO2削減事業が、日本のポイントとしてカウントされる。

環境投資を「公平化」する規制

 多くの企業や個人が環境投資を行えば、規制の効果が上がる。そのためには、環境投資を行わなかった場合の罰金や税金といったペナルティー以外に、環境投資を行う褒美(インセンティブ)を設ける仕組みもある。燃費が良い車を買うユーザー(環境投資を行った人)に報いるエコカー減税・補助金が、その例である。

 トヨタのハイブリッド車(HV)「プリウス」は1997年の販売開始後10年以上も、海外販売が主流であった。その後、プリウスの国内販売が急に増えたのは、2009年4月にエコカー減税・補助金が開始されてからである。それ以降、エコカー減税・補助金の対象車が販売上位に並んでおり、環境投資のインセンティブは有効に働いていることが分かる。

市場を歪める環境規制

 以上のように規制はグリーンビジネスにとって重要な役割を果たしている。ただし、環境規制には市場を歪めるリスクが内在されている。マイケル・ポーターは2011年に発表した『共通価値の戦略』という論文において、「政府は規制による社会的利益と経済的利益にトレードオフがあるのは当たり前と考えている。環境規制の多くはいまなお企業をまごつかせる」と述べている。

 規制によって企業活動が何らかの誘導を受けている分野では、その反動が出ることも想定しておく必要がある。エネルギー・環境分野は、とりわけ規制の影響が大きい。

 規制が市場を歪めている例として、再エネ固定価格買取制度と太陽光発電の関係について述べる。

割高な太陽光発電に偏重する再エネ固定価格買取制度

 再エネ買取制度は太陽光発電が集中的に推進される構造になっている。まず、太陽光の初期投資負担は全再エネのなかで最も低い。政府の価格算定委員会によると、太陽光の施設建設費は発電量1キロワット(kw)あたり 32.5万円である。これに対し、地熱は79万円、中小水力は80万円、ガス化バイオマスは392万円である。

 また、太陽光以外のエネルギーは、技術的な問題で参入障壁が高い。プロジェクトを準備して実際に発電できるまでの期間を見ると、太陽光が1年であるのに対し、風力が4〜5年、地熱は9〜13年もかかる。工事の手間が多いだけでなく、風力や地熱では環境アセスメントや地元の住民との交渉に時間を割かなければならない。

 以上の理由で、買取制度では、太陽光に資金が集中してしまう。資源エネルギー庁によると、2012年8月末までに設備認定を受けた再エネ発電容量(住宅用太陽光は除く)のうち、メガソーラーが73%を占めている。第二位は風力の26%、中小水力、地熱の認定はゼロであり、太陽光が圧倒的に多い。

 太陽光発電に投資が集中し過ぎると、なぜ弊害があるのか? それは、太陽光のように夜間と曇りに発電しない効率が悪いエネルギーに資金が集中すると、再エネ全体の比率が高くならないのに一般電気ユーザーの負担が増えてしまうからである。

「最大の失敗」と酷評されたドイツの太陽光発電推進策

 FIT規制による市場の歪みは、日本が模範としているドイツでも起きている。ドイツは1990年にFITを国レベルで初めて採用した。ドイツ環境省によると、2011年の全電力消費量に占める再エネの比率は20.3%で、過去5年間でほぼ倍増した。このうち、太陽光の比率は3.2%で、8.2%の風力や6.1%のバイオマスと比べると少ない。

 ドイツの週刊誌シュピーゲルの2012年1月18日記事『太陽光発電補助政策の落とし穴』によると、ドイツの太陽光発電推進の累計コストが2000年からの11年間で約1000億ユーロ(10兆円)もかかったのに、それに見合う効果が出ていないという批判が起きている。同誌は「太陽光発電補助政策はドイツ環境政策の歴史で最も高価な誤りになりうる」と指摘した。

政策と市場のスピードが異なるために起きる弊害

 FITの導入によって、通常であれば赤字の太陽光発電事業者が、長期間安定して利益を出すことができる。作った電気は、電力会社が買い取りの価格と期間を保証してくれる。しかも、条件は法律で決められているので、投資リスクはほとんどない。銀行も安心して再エネ発電事業者に融資できる。ここに市場を歪める原因があるのだ。

 規制が市場を歪める原因は、製品・サービスの価格は予想以上に早く変化することが多く、規制で取引価格を調整しても変化についていけないことである。太陽電池の取引価格は随時公開されているわけではないので、市場調査をするにも時間がかかる。結果的に市場価格と規制で決めた買取価格の間にギャップが生じやすい構造になる。

 FITなどの規制は新たに市場を作るうえで不可欠だが、市場メカニズムを過度に歪めない柔軟な設計が必要である。既得権益化して、再エネの普及やコスト削減といった規制の本来の目的から乖離しないような設計が必要である。

 国際的ノンフィクション作家のダニエル・ヤーギンと英ケンブリッジ大学のジョセフ・スタニスローは『市場対国家』(日経ビジネス人文庫)において、次のように述べている。

 「経済が政治より優先され、国の求心力、経済ナショナリズムが意味を持たなくなったと考えるのは大きな誤りである。各国政府は、ある部分では介入を減らし、別の部分では介入のための新たな手段を整備して焦点を絞り直すことで、国民の信頼を維持しなければならない」

(敬称略)


尾崎 弘之(おざき・ひろゆき)

1984年東京大学法学部を卒業。90年米ニューヨーク大学でMBA(経営学修士号)を取得、2005年早稲田大学大学院博士後期課程を修了、博士(学術)。野村証券、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス投信執行役員、ディナベックCFO(最高財務責任者)などを経て、2005年から東京工科大学教授。環境省委員、研究・技術計画学会理事。主な著書に『社会変革期の成長戦略――グリーンラッシュで生まれる新市場を狙え――』(日経BP社)、『環境ビジネス5つの誤解』(日経プレミアシリーズ)、『次世代環境ビジネス―成長を導き出す7つの戦略』『投資銀行は本当に死んだのか―米国型資本主義敗北の真相』(いずれも日本経済新聞出版)。TBS系テレビ「みのもんた朝ズバッ!」に毎週金曜日出演中。ホームページはこちら→http://hiroyukiozaki.jp/


戦略論で読み解くグリーンラッシュの焦点

 再生可能エネルギーの推進やシェールガスの実用化などによって、エネルギービジネスはどう変貌するのか。産業発展論と経営戦略論の視点からエネルギービジネスをとらえ直す。戦略論のフレームワークをを駆使して、最新の動向を読み解く。


 

 

アベノミクスに沸く教育産業

2013年3月13日(水)  瀬戸 久美子 、 山崎 良兵

教育資金贈与の非課税措置を受けて、教育産業に追い風が吹いている。特に恩恵を受けそうなのが、幼児英才教育や個別指導などの高額サービス。制度の利用に伴い、受け皿となる金融機関の顧客獲得争いも熾烈化しそうだ。


幼児向けの英才教育や中学受験向けの個別指導など、高額の授業料を要するサービスへの恩恵が期待される(写真上:陶山 勉)
 「授業料が高額な当社にとって、大きな追い風が吹いている」。学習塾大手、リソー教育の岩佐実次会長は、こう顔をほころばせる。

 孫への教育資金の贈与が1500万円まで非課税になる──。安倍晋三政権の下、突如として決まった新制度に教育関連ビジネスが沸き立っている。

 この案は2013年度税制改正大綱の目玉の1つで、祖父母などが教育資金を一括して30歳未満の子や孫に贈る場合、1人につき1500万円を上限に贈与税を非課税にするもの。2013年4月から2015年末までの限定措置ではあるが、高齢者の資産を現役世代に移すことで子育て世代の教育費負担を軽減し、消費拡大につなげるのが狙いだ。

 教育費の対象をどこまで広げるかは検討中だが、学校の入学金や学費のほか、学習塾など習い事の費用も500万円まで対象となる見通し。そんな中、特に恩恵を受けそうなのが、高額な授業料が必要な民間の教育サービスだ。

 例えばリソー教育が提供するのは、小学校受験の対策や個別指導など授業料が高額なものが多い。その1つ、慶応義塾幼稚舎などに代表される名門小学校の “お受験”対策で有名な「伸芽会」の受講費用は、年間140万〜150万円程度。児童の父母だけでは金銭的な負担が大きいため、祖父母の支援を受ける比率は極めて高い。「生徒の7割が、費用に関して何らかの支援を祖父母から受けている」(岩佐会長)という。

 小学校受験の対策に加えて保育サービスも提供する「伸芽’S(しんが〜ず)クラブ」の場合、年間費用は220万〜230万円程度に達する。年収1000万円以上の高所得世帯でも、家計への負担は大きい。個別指導塾の「TOMAS(トーマス)」や家庭教師派遣の「名門会」なども展開するが、いずれも生徒の約25%が受講費用に関して祖父母の支援を受けているという。

 教育資金の非課税措置は、こうした祖父母から孫への支援を一層後押しすると期待される。現状では、教育資金は必要な時にその都度贈与する場合は非課税扱いになるが、まとまった額を一括で渡せば課税対象となる。祖父母が亡くなると遺産扱いになり、今度は相続税がかかる。今回の措置により、生前に非課税でまとめて贈れるようにすることで、先々の教育費まで出してあげることが可能になる。

 「孫への教育資金の贈与が非課税になる制度をご存じですか」。リソー教育では受講を検討する親に対して、こう問いかけるようにしている。現在、新年度の生徒を募集している最中だが、「非常に好調に推移している」という。

 個別指導塾で大手の明光義塾も「教育資金贈与の非課税がフォローの風になることを期待している」(同社)。祖父母と見られるシニア世代から、費用などに関して質問されるケースが目立つという。

 グローバル化が進む中、高額な授業料が必要となる英語関連の教育機関でも減税措置への期待が高まる。

 「アベノミクスにより、(自社の事業に)先々いい影響が出ると見ている」。そう話すのは、個別指導学習塾「スクールIE」のほか、幼児教育「チャイルド・アイズ」や英語での保育・学童スクール「キッズデュオ」などを展開する拓人の広報担当、本田真氏だ。

 中でも期待感が高まるのは、2013年4月の開校を控えるバイリンガル幼児園「キッズデュオ インターナショナル」だ。幼稚園と保育園の機能に加え、英語と日本語によるバイリンガル教育を主軸に、知育やスポーツ指導などを取り入れ、授業料は年間120万円ほど。月換算で10万円近くの高額だが、今回の教育資金贈与の制度は「これまでバイリンガル教育機関への入学を考えなかった家庭の申し込みにつながり得る」(本田氏)と期待を込める。

 留学費用の捻出を図るうえでも、今回の新制度は効果的だ。留学情報の提供や留学先の斡旋事業を手がける留学ジャーナルによると、留学にかかる費用は学費や生活費など総額で年間平均300万円ほど。「留学はしたいものの、最大の障壁になるのは費用面。そこを少しでもサポートする施策になるのでは」(留学ジャーナル)。

金融機関がボトルネックに?


 教育資金贈与の非課税化に沸くのは、教育産業だけではない。金融機関も商機に目をつけて積極的に動き出している。

 「注目! お孫さんへの教育資金贈与が非課税に」。三菱UFJ信託銀行は、同社のホームページ上に教育資金贈与に関する特設ページを設けた。祖父母世代の関心は高く、「1日当たり10件を超える問い合わせを受けている」(三菱UFJ信託銀行)という。

 非課税制度を利用するには、教育資金贈与のための専用口座が必要となる。税務署への非課税申告書を、金融機関を経由して提出しなくてはならないからだ。孫は授業料の領収書などを金融機関に提出。孫が30歳に到達した段階で資金が残っている場合には、残額に贈与税が課税される。

 祖父母に加え、資金の受益者である若年層とも口座を通じて関係を構築できるため、客層拡大につながることを期待する。「信託スキームを使って、商品を取り扱う銀行や証券会社が出てくるだろう」(社団法人信託協会)。教育資金を巡って、金融機関でも熾烈な顧客獲得争いが生じそうだ。

 ただ、課題も少なくない。1つは商品化の時期の問題だ。制度そのものは4月開始の見通しだが、「国税庁と非課税の様式などを検討する必要があり、4月1日に商品を提供するのは現実的ではない」(信託協会)。制度が開始されても、実際に贈与する際のスキームが間に合わない可能性がある。

 領収書の偽造のような不正を防ぐ仕組みの構築も急務だ。「チェック漏れなどが起これば、塾や留学市場への後押しは限定的になる」と、TOMAコンサルタンツグループ副理事長で税理士の市原和洋氏は指摘する。

 教育資金減税に対しては、富裕層の相続税増税の影響を緩和してしまうのに加え、一層の教育格差を招きかねないとの指摘もある。不確定要素も少なくないため、今回の減税措置が「若者世代の消費を促す」という当初の目的を果たすことができるかどうかは未知数だ。


山崎 良兵(やまざき・りょうへい)

日経ビジネス記者。

瀬戸 久美子(せと・くみこ)

日経ビジネス記者。日経ホーム出版社に入社後、『日経TRENDY』(家電の実験に追われる)、『日経WOMAN』(働く女子のホンネを聞き続ける)を経て、日経BP社との合併を機に『日経ビジネス』へ。特技は女子の内なる悩みや不安を聞き、共感できる誌面に仕上げること(経済誌にどう生かせばいいのか未だ模索中)、裁縫。趣味は読書、歌うこと、ラグビー&箱根駅伝観戦


時事深層

“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。


 


 

 

安くても欲しいものがないスーパー

顧客視点を忘れていませんか

2013年3月13日(水)  山崎 良兵

 思ったよりも見切りが早かった。

 「大丸」「松坂屋」を運営するJ.フロントリテイリングが、4月1日付で傘下の食品スーパー「大丸ピーコック」を展開するピーコックストアの株式をイオンに譲渡することを決めた。ピーコックストアは販売不振が続き、業績が低迷。スーパー同士の値下げ競争や、生鮮品や総菜を強化するコンビニエンスストアとの顧客の奪い合いなどが響いている。

 昨年11月に取材した際、Jフロントの奥田務会長は「ピーコックは自主再建が基本。東京などの都心にある店舗は利益が出ており、郊外の不採算店を減らして2014年2月期に黒字化させたい」と意欲を見せていた。一転して売却を決めたのは、大丸ピーコックの販売不振が想定以上に深刻で、グループ全体の業績の足を引っ張っていたことが鮮明になったからだ。

 実は都内にある私の自宅マンションから一番近いスーパーは大丸ピーコック。歩いて5分の距離にある。自分で料理をすることもあり、オープン以来6年にわたって利用しているが、足を運ぶ頻度は減っている。改めて理由を考えてみた。

 正直言って、欲しいと思える商品が少ないのだ。値段はと言うと、肉、野菜、牛乳、卵、加工食品などは近くの競合スーパーとあまり変わらない。以前はやや高かったが、最近は安い商品も増えており、価格にあまり不満はない。

 それでも自分が「おいしいからぜひ買いたい」と感じられる魅力的な商品は、残念ながらあまりない。例えば、ミートソースのパスタなどにかける「パルメザンチーズ」。一番目立つ場所に置かれているのはアルゼンチン産だ。安くて量は多いのだが、イタリア産と比べると味は見劣りする。肉でも魚でも、ちょっと値段が高くても質の高い商品をもっと置いてほしいと思うことが多い。このため、家から遠くても、欲しい商品がある別のスーパーや専門店で買い物をする機会が増えていた。


販売が苦戦する大丸ピーコックの店舗(東京都港区)
 スーパーは先を争って値下げを打ち出しており、「消費者は安いものを求めている」と多くの企業は信じているようだ。大丸ピーコックも同じで、最近になって低価格商品の品揃えを大幅に増やしていた。

 百貨店系スーパーが弱い安価なPB(プライベートブランド)商品を、岐阜県に本社を置くスーパーのバローから調達。500ミリリットルで58円のペットボトルのお茶や88円のカップ麺など激安商品が代表選手だ。確かに安いが、味や品質面で商品としての魅力はあまり感じられない。

 大丸ピーコックの店舗が多い首都圏の都心に近いエリアでは、食にこだわりが強い消費者が明らかに多い。だから価格以外の魅力が少ない商品が増えていくのは、顧客の要望とミスマッチを起こしているような気がして仕方がなかった。

 安くても質が伴わないとがっかりする。最近、あるスーパーでそんな経験をした。2月上旬の週末、家族で食べるお鍋の材料を買うために野菜売り場を訪れたところ、一番目立つ場所で128円の白菜を見つけた。だが、20個ほど並んだ白菜の大半で葉っぱの一部が茶色く変色している。献立を変えたくなかったので、1つずつ手に取って比べて、状態が良さそうなものを選んで買ったが、残念な気持ちになった。

 「安くしたら、きっと販売は伸びるはずだ」。そんな先入観に捉われて、顧客が何を求めているのか十分に理解していない企業が少なくないように思う。大丸ピーコックに限らず、スーパー業界では販売が苦戦する企業が多い。

 総合スーパー(GMS)ではイオン、イトーヨーカ堂、ユニー、ダイエーなどで足元までの既存店売上高のマイナスが目立つ。食品スーパーもいなげや、マルエツなどがさえない。多数の品目で値下げを打ち出しても、「販売は伸びず、消費者にはあまり響かない」とある総合スーパーの役員は嘆く。

逆風でも販売好調なスーパーの秘密

 だが、そんな逆風下でも販売が好調なスーパーもある。埼玉県を中心に首都圏で約120店舗を展開するスーパー、ヤオコーだ。既存店売上高は今年1月まで6カ月連続でプラスだった。ほかのスーパーとはいったい何が違うのか。

 安さを重視する一方、少々高くても思わず手が伸びる商品を充実させる。そんな価格帯の幅を広げた商品展開が特徴だ。ヤオコーの店舗では、肉や魚など生鮮品から牛乳や豆腐など日配品まで、売り場では手頃な価格の商品が目立つ。オーストリア産の牛肩切り落としが100グラムで99円、牛乳1本158円、豆腐が300グラムで38円などだ。

 一方で目線を周辺の陳列スペースに移すと、ちょっと高いがおいしそうな商品も充実している。1枚(180グラム)1380円程度と、値が張る国産の黒毛和牛ステーキや、一匹2480円の金目鯛も扱う。集客に欠かせない安さはもちろん重視するが、価格と品質の高い(利益率も高い)商品を豊富に品揃えする。


99円のアジから2480円の高級魚まで扱うヤオコーの売り場(埼玉県の川越的場店)
 調理を実演したり、料理に関する主婦の悩み相談に応じたりする「クッキングサポート」というコーナーも各店舗に設けている。人件費がかかるため、一見すると非効率に思えるが、売り場で提供する食材を使った様々なレシピを提案。来店客の満足度向上に役立つだけでなく、どれだけ売り切れるかが採算のカギを握る生鮮品などの販売にも貢献する。

 顧客と同じ目線で考えられる地元の主婦中心のパート社員への権限移譲も重視する。何が売れるかという感覚が鋭いので、商品の発注や値引きも任せているという。このため「商品を売り切る比率が高く、(廃棄ロスが抑えられるので)競合スーパーと比べて利益率も高い」(ヤオコーの川野清巳社長)。

 既存店売上高の好調さでは、東京都や神奈川県を中心に約30店舗を展開するオオゼキも光る。

 チェーンストア経営の常識に反する「個店主義」を掲げ、それぞれの店舗で来店する顧客が欲しいというなら1品からでも商品を仕入れるのが哲学だ。例えば、おでん店の経営者が毎朝買い出しをする店では、一般的なスーパーにはない大根の4Lサイズを欠かさない。自宅で豆腐作りをする人のために「ニガリ」を扱っている店もあるという。

 オオゼキでは仕入れと販売の担当者が同じであるため、顧客が求める商品をきちんと調達して店舗に並べることができる。会員数が110万人を突破した「キャッシュバックカード」も活用。利用客の購買行動を把握して品切れを減らす一方、商品の廃棄ロスも減らしている。

 安さばかりを追求するのではなく、顧客が欲しいと思うような価値の高い商品もお得感ある価格できちんと揃えてほしい。不毛な価格競争がひたすら繰り広げられる現状に辟易としている消費者は私だけではないはずだ。

■変更履歴
2ページ5段落目でヤオコーの川野清己社長としていましたが、川野清巳社長の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/3/13 10:30]

山崎 良兵(やまざき・りょうへい)

日経ビジネス記者。


記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。


21. 2013年3月13日 13:59:22 : xEBOc6ttRg

焦点:米労働市場、生産性低下でも人員削減の可能性小さい
2013年 03月 13日 13:16 JST
[ワシントン 12日 ロイター] 米国の非農業部門労働生産性が昨年第4・四半期に大きく落ち込んだことで、企業収益は圧縮される可能性があるが、企業が人員を削減し始めるまでには至りそうにない。

米政府は先週、第4・四半期の同生産性が年率換算で1.9%の低下と、過去4年間で最大の低下幅になったと発表した。この結果、単位労働コストは4.6%と大幅に上昇し、企業収益の下押し圧力が高まりつつある兆しが示された。

しかし今のところ、利益の圧縮によって採用が滞ったりレイオフが増えるといった兆候は見られない。多くのエコノミストは、賃金の上昇が依然緩慢なためそうした状況は起こりにくいと指摘する。

JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は「最近の生産性伸び率の減速は、せいぜい企業利益率の小幅な縮小をもたらす程度だろう。時間当たり名目賃金は2%弱の伸びで、企業が販売する製品の価格上昇率とほぼ等しい」と述べた。

第4・四半期の労働生産性が1.9%も低下したのは、在庫積み増しペースの減速や軍事費の大幅削減といった一時的要因による景気の急減速に関連している。つまり今後は反動が出て企業利益が守られそうだ。

アナリストはS&P総合500種.SPXの構成企業について第1・四半期の利益見通しを下方修正したが、最大の懸念材料に挙げられたのは個人消費の弱さだ。最新のトムソン・ロイターのデータによると、予想平均は1月1日時点の4.3%から1.5%に下がった。

2013年通年で見ると、企業収益の伸び率予想は9.2%。1月1日時点では10.9%だった。

フェロリ氏は「生産性の伸びが高まるに越したことはないが、そうでなくても企業の利益率は当面脅かされそうにない」と話し、多くの企業にとって最大のコストは原材料投入コストだと指摘した。

実際、最近のレイオフ動向はこうした見方を裏付けるものだ。

新規失業保険申請件数は11月の45万1000件という高水準から、3月初めには34万件前後に減少し、正常とされる水準になった。

政府が12日発表したデータでは、1月のレイオフ件数は2000年以来最低となっており、失業保険統計と整合的だ。レイオフの減少に支えられ、採用が低迷を続ける中でも非農業部門雇用者数は増加している。

<レイオフ減少が支え>

RBCキャピタル・マーケッツのシニア米国エコノミスト、ジェーコブ・オービナ氏は、「通常は生産性が低下すると雇用が減るが、レイオフが抑えられているため、そうしたことは起こらないだろう」と述べた。

オービナ氏はさらに「生産性と企業利益の動向から分かるのは、雇用がほぼ横ばいで推移しそうなことだ。しかし失業保険申請が突然悪化を始めれば、非農業部門雇用者数は差し引きで減り始めるだろう」と言う。

コーンレズニックの調査責任者、パトリック・オキーフ氏は、企業は職員の採用に非常に慎重なため、需要が弱まっても人員を削減する必要がないと説明した。

オキーフ氏ほかのエコノミストらが主張するのは、生産性の伸び鈍化は、企業が既存従業員から最大限搾り取ったことの表れかもしれないという点だ。オキーフ氏は「採用拡大の必要性を示している可能性がある」との見方をしている。

民間部門の雇用者数は2月までの6カ月間で平均20万人増え、中でも建設部門の雇用拡大ペースが高まっていた。オキーフ氏は、建設企業のスリムさと需要の強さを考えれば、生産性の上昇に結び付く可能性があると指摘する。もっとも、生産性が上昇しなければ企業は現在の採用ペースを維持できないとみる専門家もいる。

みずほセキュリティーズ(ニューヨーク)のチーフエコノミスト、スティーブン・リチュート氏は「利益追求型企業の利益と雇用は既に限界に達したことがうかがえる。売上高を増やす必要があるが、それは実現しそうもない」と語る。

リチュート氏は、第2・四半期に雇用の伸びが減速すると予想。「利益が圧縮されるのに人員採用を増やし続けることなど考えられない」と述べた。

(Lucia Mutikani記者)

 


 


 
楽観強まる市場、「ブラックスワン」のリスクに警戒も
2013年 03月 12日 13:07 JST
[東京 12日 ロイター] 「恐怖指数」が約6年ぶりの水準に低下するなど、市場の楽観心理が強まっている。日米株がともに高値を更新するなど短期的な過熱感は出ているものの、景気回復と金融緩和期待を背景に円安・株高が止まらない。ただ、楽観一色の心理状況は、誰もが予想しなかった事象が起きる「ブラックスワン」リスクへの反動も大きくする、との警戒感も出始めている。

<07年との相違点>

投資家の不安心理の度合いを示し、「恐怖指数」とも呼ばれるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー・インデックス(VIX指数).VIXが11日、7.2%低下し11.69と、2007年4月以来、約6年ぶりの水準に低下した。指数算出に利用されるオプション銘柄が今週から新たに変更されたことが影響している可能性もあるが、米ダウ.DJIが高値警戒感にもかかわらず連日の史上最高値更新となるなど、市場心理は楽観の度合いを強めている。

VIX指数は米S&P総合500種.SPXを対象にしたオプションの取引価格から計算されるボラティリティの数値だ。11.69であれば今後1年間に1標準偏差(約68%の確率)で11.69%の範囲で変動すると投資家が判断しているということを示す。株価が上昇すれば、VIX指数は低下する傾向があり、高値を更新する米株と整合的な動きだが、VIX指数の低下は急激な株価上昇の可能性が低下したことも表すため、株価の天井が近いことを示すケースもある。

前回、VIX指数が急激に低下した2007年4月当時は、前年までの金融引き締めもあり、不動産価格が下落し、後の「サブプライム問題」の原因を作る現象が起きていながら、「景気がそれなりに強かったこともあり、市場では何とかなるとの雰囲気が強かった」(国内証券)という。米ダウは、同年8月の「パリバ・ショック」などを経ながらも、10月には当時の史上最高値を付けている。しかし、サブプライム問題は徐々にその病根の深さが明らかになり、08年9月のリーマン・ショックを機に世界は金融危機に陥った。

今回も楽観の強まりは「終わりの始まり」を示唆するのか──。マネックス証券チーフ・エコノミスト、村上尚己氏は07年当時とは経済環境が違うと指摘する。「米国の短期金利はほぼゼロで、企業収益も過去最高レベルだ。PERなど株価のバリュエーションも高くない。VIX指数の低下は市場環境の不確実性が低下したことを示している。米株はさすがに高値警戒が強いが、出遅れている日本株はまだ上昇余地が大きい」という。

<過剰な楽観は反動のリスクも増大>

ただ、「ユーフォリア」的に広がる楽観に警戒感を示す声も出始めている。

「VIX指数は株価が上昇すれば低下するため、おかしな動きとは言えないが、同指数を市場の行き過ぎの指標として見ている米当局者もいる。10ポイント前半のレベルが長い間続けばバブルが起きていると判断されよう。市場のリスクテークが過剰であるとの意見がFOMC(米連邦公開市場委員会)内で強まっていることが明らかになれば、今の楽観ムードがガラリと変わるかもしれない。また強すぎる楽観はブラック・スワンのリスクも高めることになる」と三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は警鐘を鳴らす。

「ブラック・スワン(黒い白鳥)」のリスクとは、ほとんどあり得ない事象や誰もが予想していなかった事象が起きることで、非常に大きなインパクトをもたらすことを示す。住宅バブルに沸いていた米国で起きた「サブプライム問題」はその一例だ。

米財政問題や欧州の債務問題、中国の景気減速など多く懸念要因を忘れたかのようにリスクオンに突き進むマーケット。中央銀行の国債大量購入も財政ファイナンス懸念には結びつけられてはいない。インフレが落ち着いているおかげで、景気回復期待と金融緩和期待という、通常であれば同時に併存しない好環境を享受できているが、楽観の行き過ぎは「ブラック・スワン」出現による反動も大きくする。

(ロイターニュース 伊賀大記;編集 山川薫)


22. 2013年3月13日 17:52:54 : xEBOc6ttRg

「安倍相場」の先行き占う春闘、市場は賃上げの持続性と広がり見極め
2013年 03月 13日 15:49 JST
[東京 13日 ロイター] 企業の賃上げムードが高まっているが、市場はその持続性と広がりを見極めようとしている。「アベノミクス」による円安は輸出面でのプラスもあるが、輸入物価の上昇などマイナス面も小さくない。家計の負担を減らすためにも賃金上昇は不可欠だ。

企業の労働コスト負担増を打ち消すような、所得増、消費増、経済拡大の前向きな循環に入ることができるか、「安倍相場」の先行きを占ううえでも重要なポイントになる。

<持続的な賃金上昇にはまだ懐疑的>

2013年春闘の集中回答日である13日。製造業で焦点になっている一時金は、トヨタ自動車(7203.T)など自動車大手で満額回答が相次いだ一方、電機大手では組合の要求を下回る回答が続いた。依然として賃上げの動きはまだら模様であるほか、一時金を超えて、ベースアップなど賃金の底上げを図る企業はまだごく少数だ。

2月ロイター企業調査(調査期間は2月1日から2月18日)では、人件費や賃上げに前向きに転じた企業はわずか1割にとどまった。安倍晋三首相はデフレ脱却に向け、異例ともいえる産業界への賃上げ要請を行っているが、先行き不透明感が晴れないなかで、企業は依然として慎重な姿勢を崩していない。

「賃上げはまだ一部の大企業にとどまっており、9割を占める中小・中堅企業には広がっていない。いまは流通業が先行しているが、来年の消費税増税や円安の悪影響もあるなかで、持続的に賃金を上昇させていけるかは不透明だ」と、シティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏は話す。

賃上げをいち早く発表したローソン(2651.T)だが、株価の反応は芳しくない。発表した2月7日から12日までに同社株は1.1%下落し、同期間の日経平均.N225の上昇率8.4%に対し、大幅なアンダーパフォーマンスとなっている。「賃上げは社員のモチベーション向上や優秀な人材確保につながればポジティブ材料だが、直接的にはコスト増要因だ。賃上げが広がり、消費全体が増加して初めて株価にも効果が出る」(かざか証券・市場調査部長の田部井美彦氏)という。

「アベノミクス」は円安による輸入物価の上昇など「副作用」も大きい。来年には消費増税も待ち構えており、家計の実質所得を減らさないためにも賃金上昇の波が広がることが不可欠だ。賃金が上がらなければ2%の物価目標を達成しても、家計には負担だけが残る。

三井住友アセットマネジメントのチーフエコノミスト、宅森昭吉氏は「2度目のアベノミクスはない。今回失敗すれば、市場はもう反応しない。円安・株高が続いているうちがチャンスであり、安倍政権は、企業が先行きに対し前向きになれるような政策を打ち出し、賃金引き上げに踏み切れるようにする必要がある」と指摘している。

<「安倍相場」にも見極めムード強まる>

「アベノミクス歓迎相場」もやや調整気味だ。13日の東京市場では、ドル/円は95円台に下落し、日経平均も続落、円債先物も小反落した。日銀の新体制による「大胆な金融緩和」期待が強く、リスクオンの底流は途切れていないとの見方が依然強いが、急ピッチの上昇で高値警戒感が強まる中、各マーケットでは利益確定売りが優勢となっている。

「米国がけん引してくれているほか、日銀緩和期待もあり、リスクオンの流れは続いているが、短期的な過熱感も強まっている。賃金上昇などが広がる形でアベノミクスの効果がきちんと出るか、徐々に見極めムードも強まってきそうだ」と、ITCインベストメント・パートナーズのシニアポートフォリオマネージャー、山田拓也氏は話している。

(ロイターニュース 伊賀大記;編集 久保信博)




政府が企業に賃上げ要請
何かがおかしい
2013年03月06日(水)原田 泰
 アベノミクスが効いている。安倍晋三首相が、大胆な金融緩和に言及しただけで、為替が下落し、株価が上がった。新しい日銀総裁・副総裁が金融緩和論者になることもほぼ確定的となったことも好影響を与えている。

 これまで金融緩和しても、すでにマネーはじゃぶじゃぶであり、銀行貸出を増やすことはないから景気は良くならないという説が流布されていたが、私は従来から次のようなサイクルを主張してきた。

 為替が下がればやがて輸出が増え、輸出企業の利益と雇用が拡大する。利益が拡大すれば、株価が上がり、投資も増える。雇用が増えれば給与総額が増えて消費が増える。投資と消費が増えれば、やがて物価も上がる。

 現時点では為替下落と株価上昇までは来た。あとは、これが企業の投資や雇用の増加につながるかどうかである。

 政治家もそこが気になっているのか、企業の経営問題について発言することが多くなっている。安倍首相は、2月5日の経済財政諮問会議において、「業績が改善している企業には、賃金の引き上げを通じて所得の増加につながるよう協力をお願いしていく」と述べ、産業界に賃金上昇に向けた取り組みを要請する考えを示した(共同通信2月5日)。

 麻生太郎財務相も、2月12日の閣議後の記者会見で、ローソンがアベノミクスに賛同して給料を3%アップするということに対して、「1社でもこういった傾向が出てくるのはいい傾向。大して金利もつかない内部留保が、賃金、配当、設備投資にまわらずじーっとしているという意味が分からない」と発言した(日本経済新聞2月8日)。

 しかし、賃金を決めるのも、内部留保をどう使うかも企業の経営判断の問題である。

 これまで、世界需要の急減、急激な円高、海外勢との厳しい競争、海外企業の買収の難しさなど多くの困難を経験してきた企業にとってみれば、一度賃金を上げれば下げるのは難しいから、慎重になるのは当然である。内部留保をため込むのは、急激な市況悪化への備え、設備投資や海外企業買収の機会を見計らっているからだ。政治家が、外からどうこう言う話ではないだろう。

保守政党の役割は企業の自由を守ること

 世界的に、保守政党とは、企業家精神の旺盛な人々の自由な行動こそが、国を富ませ、強くすると考えるものである。アメリカの共和党やイギリスの保守党がそうである。それに対して、左派の政党は企業の自由な活動を抑制し、彼らの意図としては、企業が人々のために良きことをするように指導すべきと考える。例えば、解雇をさせない、最低賃金を上げるなどの規制をすることが良いことだと考える。

 日本の保守政党は、企業の活動を制約しようとする。左派の政党は当然そうするのだから、これでは日本の企業は自由になれない。日本経済の停滞には、このことが関係しているのではないだろうか。

 もちろん、アベノミクスでいくら金融緩和をしても、物価が上がるだけで賃金が上がらないのではかえって生活が苦しくなるとマスコミが言うので、政治家としては賃金を上げろと言いたくなってしまう。また、民間企業の労働組合を自民党の方に引き寄せようという政治的な思惑もあるのだろう。

 しかし、先述したように、金融緩和の目的は雇用を増やすことで賃金を上げることではない。もちろん、金融緩和で雇用が伸びて、失業率が下がっていけば、いずれ賃金は上がる。しかし、雇用が伸びる前に賃金を上げては、かえって雇用の伸びを妨げることになりかねない。

 ただし、現在、賃金を上げると言っている企業のほとんども、業績連動型のボーナスを上げるだけのようであるから実害はほぼないだろう。企業が儲からなかったときにはボーナスが減っているのだから、儲かるようになったらボーナスを上げるのは当然のことだ。しかし、実害が少ないから良いというものではない。問題は、企業に対する哲学の違いである。

 そもそも日本社会は、会社に様々な役割を押しつけてきた。高度成長期の会社は、雇用を安定させ、失業を出さず、医療保険や年金を引き受け、住宅を提供し、保養所を作り、社内運動会などのリクリエーション活動を行い、実業団スポーツ選手も抱えていた。低成長期になって、会社はそのような負担に耐え切れず、社宅や保養所を売却し、スポーツから手を引き、年金や医療保険からも逃げ出したがっている。

 もちろん、企業は人を雇って利益を得る存在だから、雇用から手を引くわけにはいかない。しかし、人をどれだけ雇い、どれだけの賃金を払うかは企業の自由のはずである。自民党が左派政党と同じになっては、日本の企業は窒息する。

政府がすべき仕事は社会の安定

 そもそも会社の目的は利益を上げることで、それに社会の安定や福祉の役割を求めるのは筋が違う。社会の安定や福祉は政府の役割である。会社に社会の安定の役割を求めるのは、しばしば高コストである。

 政府が会社に求めることは、発展して雇用を生み出させることである。そのためにも、アベノミクスの第3の矢の成長戦略は、特定産業への補助ではなくて、企業が投資や雇用を増やしたくなるような環境整備であるべきだ。そのための構造改革や規制緩和の論点は、これまでの各種有識者会議で十分に示されている。あとは実行するのみだ。

 TPP(環太平洋経済連携協定)への参加や、国際的に見て遜色のない法人税減税などを通じた、国際競争におけるイコールフッティング(事業環境の同一化)も重要である。さらに、本欄で繰り返し述べてきたように、社会保障改革も大切なテーマである。これまでの社会保障は企業におんぶに抱っこになりすぎていたのである。

 親が育てない子供も、子供が面倒を見ない高齢者も、働きたいのに職がない人々も、働くことができない人々も、誰かが面倒を見なければならない。そういう人々が充満している世の中は、右から左まで誰も望まない。企業はそんな世話をする義理もないのだから、政府がするしかない。企業に注文を付けても、そんなことはやってくれないのだ。


23. 2013年3月13日 17:55:25 : xEBOc6ttRg
米国の中・低所得層が支出抑制、株高の裏で消費二極化
2013年 03月 13日 13:00 JST
[12日 ロイター] 米国ではダウ平均株価が最高値を更新し、失業率も4年ぶりの水準に低下したが、中・低所得層の間ではガソリン高や給与税増税を受けて消費を抑える動きが出ている。

ロイター・イプソスが3月4─8日に1538人を対象に実施した世論調査によると、3分の2の回答者が月々の支出を減らしていると回答。残りの3分の1は、ほぼすべての回答者が支出に変化はないと答えた。

支出を減らす理由については、72%が貯蓄・債務返済、63%がガソリン高と答えた。

ガソリン価格や増税を理由に支出を減らした回答者のうち、81%は外食費を削ったと回答。73%は映画やコンサートなどの娯楽費、62%は旅行費を減らしたと回答した。

別の世論調査では、富裕層の消費心理が改善していることを示す結果も出ており、消費の二極化で所得格差への懸念が強まる可能性もある。


 


英統計局が新たな物価指標を公表、金融緩和余地拡大も
2013年 03月 13日 16:14 JST
[ロンドン 12日 ロイター] 英国立統計局(ONS)は12日、新たな物価指標を公表した。将来、英中銀のインフレ目標に採用されれば、金融緩和の余地が広がるのではないかとの見方が出ている。

現在、英中銀は消費者物価指数(CPI)上昇率を2%とするインフレ目標を採用しているが、CPIの対象品目には、住宅を保有する人が支払う住宅関連コストの大部分が含まれていない。

オズボーン財務相とキング中銀総裁は、国立統計局に対してこうした品目を反映する指標の作成を求めていた。

国立統計局が今回発表した新指標は「CPIH」。住宅ローンの返済、保険、メンテナンスコストは直接の調査対象とはせず、帰属家賃を用いている。

同局が発表した2005─2012年のCPIHによると、CPIH上昇率は2006年以降、CPI上昇率を約0.2%ポイント下回っている。2010年3月─2011年9月には両者の差が0.5%ポイントに達することも少なくなかった。

RBCキャピタル・マーケッツのアナリストは「中銀がCPIではなくCPIHを採用すれば、インフレは目標に比較的早く目標に到達する」と指摘。中銀にとっては「魅力的な」選択肢になるとの見方を示した。

国立統計局は、今後も試験的にCPIHを公表し、今年半ばまでに評価を終える予定。


 

焦点:イタリア問題は市場の動揺誘わず、ECBの国債買入策などで
2013年 03月 13日 14:03 JST
[ローマ 12日 ロイター] イタリアでは、先の総選挙でどの政治勢力もはっきりした主導権を握ることができないという、投資家からみて想定される中で最悪の結果となった。景気後退の深刻化は続き、債務は増加、このほど格下げにも見舞われた。だがなぜ、市場はほぼ無関心のように見えるのだろうか。

イタリア国債の指標利回りは選挙前の4.5%から4.6%程度に上がっただけ。ドイツ国債との利回りスプレッドも約2.9%ポイントから3.1%ポイントに拡大したにすぎない。

イタリアの経済のひどさや政治の停滞に対する動きとしては無視できる範囲内といえる。ユーロ圏債務危機が最も深まった2011年11月に利回りが7%を超えたというのも、今は遠い記憶になった。

ドイツ銀行の欧州経済調査責任者、ギレス・モエク氏はこうした状況について「驚いている。市場が無関心になっているのかもしれない」と話した。

他のエコノミストも首をひねり、現在は嵐の前の静けさかもしれないとの疑いを抱いている。その嵐は、新たな格下げや政権の枠組み作り失敗、あるいは米国の経済指標悪化がきっかけに起きる可能性がある。

ただ、市場がイタリア問題に比較的無頓着でいる論理的な根拠は存在する。第1の、そして最も重要な点は、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が昨年夏にユーロ圏防衛のためにやれることは何でもやると発言して以来、ユーロ圏全体の危機が沈静化し、イタリアがその恩恵を受けているという事実だ。そのほか、海外経済の成長見通し改善に伴う市場心理の好転や、イタリア国債における国内投資家の保有比率上昇といった要因も挙げられる。

ECBが、支援要請があれば実施すると約束した新たな国債買い入れプログラム(OMT)には多くの疑問点があるが、実際に失敗が証明されない限り、市場は局面転換をもたらす道具だとの見方を維持し続ける。

ウニクレディトのチーフ・ユーロ圏エコノミスト、マルコ・バッリ氏は「OMTの効果は本当に強力だということが目の当たりになってきている。1年前にイタリアが今の状況に置かれていれば(国債利回りは)天井を突き抜けていただろう」と述べた。

<ギリシャ型の不況に陥るリスク>

ユーロ圏危機がもたらしたもう1つの結果は、イタリア国債の国内保有比率が上がったことだ。逃げ出した外国投資家の穴を国内の銀行が埋めた。このために海外勢のイタリアに対する心理変化が、イタリア国債に影響しにくくなった。

昨年のイタリア国債の外国人保有比率は、2010年半ばの51%から35%まで落ち込んだ。

同時に海外経済の情勢は改善している。米国経済が持ち直し、世界経済の成長は加速しつつあり、イタリアで何が起きようともあまり重要でなくなったようだ。強気の市場は今、イタリアの状況がいかに厳しくなっても前途に光明を見出せるようになった。

ただ、これはイタリアが何カ月も完全に機能する政府を持てず、予見しうる将来には構造改革が視界に入ってこないかもしれないという事実を無視するものだ。

みずほのチーフエコノミスト、リカルド・バルビエリ氏は「事態が早急に打開されないと、イタリア経済は政治の行き詰まりに苦しみ、ギリシャのような不況に陥るリスクがある」と指摘する。

2011年は、市場はあらゆる良いニュースに目もくれずに悪材料にのっかってイタリアの国債利回りを押し上げるという正反対の状況だったが、動きの甚だしさでは当時と今で良い勝負だろう。

実際、国債利回り以外の要素を見れば、イタリアの状況は1年半前よりもずっと悪くなっている。

経済成長率は6四半期連続のマイナスで景気後退の長さは20年ぶり。経済規模は実質ベースで2001年よりも小さくなった。つまり11年間、平均して景気後退の状況にあるわけで、これは欧州では例がなく、世界でもまれな事態といえる。

経済の落ち込みが和らぐ兆しはなく、税制にも深刻な影響を与え続けるだろう。企業の資金調達環境はなお引き締まり、不良債権は増加している。

フィッチは8日にイタリアの格下げを発表した際に、今年の同国の成長率はマイナス1.8%と、昨年のマイナス2.4%に続く低調さになるとの見通しを示した。

アナリストによると、こうした経済不振の一因は2011年初め以降、市場を落ち着かせ、公的債務を抑制するために導入してきた緊縮策にある。もっとも市場は静まったが、債務は増え続けている。昨年の公的債務の対国内総生産(GDP)比率は127%と過去最悪になり、フィッチは今年末までに約130%に達すると予想している。

<指導者不在で自動操縦か>

モンティ氏が首相の職にあった間は、市場はイタリアが抱える問題を無視してきたが、先月の選挙でモンティ氏も退場してしまった。選挙結果は政治を不安定化させるための完璧なレシピを提供し、議会はベルサニ氏率いる中道左派、ベルルスコーニ氏率いる中道右派、グリッロ氏の「五つ星運動」という3つの勢力が並存する形となった。

連立政権が速やかに発足するかどうかは疑わしく、仮にそれが実現できたとしても、新政権の政策姿勢はモンティ氏が推進した市場に友好的な路線を追求しそうにはない。ただ市場は、ECBのバックストップの存在もあって、イタリアの新しい指導者が誰でもかまわないと考えている可能性もある。

ECBのドラギ総裁は7日の会見で、イタリアがこれまでに打ち出した緊縮措置の大半は「自動操縦」で実施されるとの見方を示した。

みずほのバルビエリ氏は、イタリアの停滞は民主主義における通常の「ひとこま」で心配は無用だという趣旨のこの発言を「政治的な傑作」と評したが、それが信じられるかどうかはまた別の問題だと強調した。

一方、ドイツ銀のモエク氏はドラギ総裁の発言は「言い過ぎ」としつつ、恐らくは2013年の予算が承認済みなので、新政権が即座に減税や歳出拡大をやらない限り、今年の財政赤字はそれほど増えないという意味だろうと解釈している。

いずれにせよこれは今年の話にすぎず、イタリアの債務の持続性はどんなケースであれ、すべて経済成長にかかっていて、財政政策の調整とはほとんど関係しない、というのがエコノミストの一致した見解だ。

(Gavin Jones記者)

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中国の不動産売買が急増、不動産規制さらに強化か
2013年 03月 13日 15:09 JST
[北京 12日 ロイター] 中国政府が1日に不動産規制を発表したことを受けて、北京の不動産売買が急増している。政府は住宅価格が公式統計以上に急上昇しているとみて規制に踏み切った可能性もあり、市場では今後も不動産規制を強化するのではないかとの見方も出ている。

中国政府は1日、不動産取引のキャピタルゲイン税(20%)課税や2軒目の住宅購入者の頭金比率引き上げなど、一連の不動産規制計画を発表。

これを受け、地元政府統計によると、3月2─8日の北京市の中古住宅売買は前年同期比で280%、前週比で141%急増した。

不動産を保有する投資家が利益を確定するため、保有不動産を販売したとみられている。

不動産大手、華潤(集団)の宗林董事長は「今回の規制は、投機的な需要を抑制しようという政府の決意を示すものだ」と述べた。

国家統計局によると、1月の主要70都市の新築住宅価格は前年同月比で0.8%上昇と、11カ月ぶりに上昇に転じた。70都市中53都市で住宅価格が上昇している。

ロイターが国家統計局のデータを基に算出した加重指数によると、北京の1月の住宅価格は前年同月比12.2%上昇と、政府が過去に不動産対策に乗り出した2桁の上昇となっている。

中国政府は3年間にわたって不動産の投機抑制策を講じているが、公式統計では不動産需要が底堅いことが浮き彫りとなっている。

1─2月の住宅販売は前年比55%増。2010年1─2月の37%増を上回っている。

みずほ証券アジア(香港)の中国担当エコノミスト、Jianguang Shen氏はロイターに「こうした統計を受けて、政府は直ちに行動を迫られた」との見方を示した。

<新体制の指示か、旧体制の指示か>

今回の不動産規制をめぐっては、退任する胡錦濤国家主席・温家宝首相の指示だったのか、現在開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で発足する習近平・李克強新体制の指示だったのか、さまざまな憶測が出ている。

新体制の指示だった場合、新指導部が不動産投資を通じて経済のテコ入れを図るとの期待が後退する可能性が高い。

全人代前に規制強化のシグナルを送ったことで、新指導部が長期的に不動産市場の沈静化に取り組む決意を示したとの見方も一部で出ている。

政府は、都市化を重要政策に掲げており、向こう10年間で40兆元(約6兆4000億ドル)を投じ、4億人を都市に移住させる計画だ。

ソシエテ・ジェネラル(香港)の中国担当エコノミスト、 Yao Wei氏は「都市化を急ぐなら、低価格住宅が必要だ」とし、「住宅価格が下がらなければ、地方からの移住は不可能だ。新指導部は不動産市場に対するスタンスを強めるしかない」との見方を示した。

(Langi Chiang and Nick Edwards 記者;翻訳 深滝壱哉 編集 吉瀬邦彦)


24. 2013年3月13日 17:59:16 : xEBOc6ttRg
悲哀の5段階踏む大震災後の日本、成長戦略に危うさ-ペセック 

  3月13日(ブルームバーグ):マグニチュード9の巨大地震と大津波が東日本を襲った大震災から2年。精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの悲哀に関する研究に思いが及んだ。
キューブラー・ロスの1969年の著書「On Death and Dying(邦題:死ぬ瞬間)」に記された悲哀の5段階は、大震災で日本の原子力発電所と自然の関係が永久に変わったこの2年間に日本人の心理がどう変遷したかを理解する上でうってつけだ。
私がキューブラー・ロスを初めて知ったのはニューヨークで死別カウンセラーを務める母からだ。90年代にキューブラー・ロスと時折、情報交換していたという母によれば、キューブラー・ロスは「死をクローゼットから取り出して」、多くの末期患者の不安を和らげたという。
大震災から2年の間に私は、日本も末期患者と同じように否認、怒り、取引、抑うつ、受容という死を受け入れるまでの悲哀の5段階をたどっているのではないかと感じた。
否認という段階は、2011年3月11日の大震災の数日後に訪れた。一部では41メートルに上る大津波が町全体をのみ込み、東京から135マイル(約217キロ)にある福島第一原子力発電所の施設にも大打撃を与えた。原発から放射性物質が漏れたが、政府は日本国民に全て大丈夫だと断言。怠慢によってチェルノブイリ原発事故後で最悪の惨事を招いた東京電力は危機の重大性を公表しなかった。
怒り
首都東京を失いかねない状況にあるとの報道が相次ぐ中、次に来たのは怒りだった。福島原発がメルトダウン(炉心溶融)して、東京が滅亡の危機一歩手前だったことを知らされた。東北地方の被災者が悲惨な状況に置かれ、復興作業は遅々として進まないことに、国中が強い怒りを覚えた。
そうした中で日本人は変化を求めた。指導者に一層の透明性を求め、20年にわたり惰性で進んできた国政の改革を望んだ。東電幹部を刑務所に送って官僚の解雇を望む声も上がった。こうした怒りは1960年代以最大の街頭デモにつながった。
その後日本人は、神と取引しても新時代への変化は期待できないことに気付いた。原発に代わる代替電力源を探し、東北地方を再建することは望み薄で、政治家は目が覚めてすべては悪夢だった信じるほうがましだと思ったほどだ。仮設住宅や放射性物質に汚染された学校、復興予算の浪費に関して頻繁には報道されなくなった。
大震災から1年を迎えるまでは、ほとんど変化がないことが明らかになり、抑うつの段階が来た。日本の軌道修正からは程遠い現状は、日本の政治・社会の強い硬直性を浮き彫りにした。地震や中国の汚染、北朝鮮の脅威という日本が直面するリスクの多くは制御不能であることを思い知らせるものでもあった。有権者は幻滅し、総選挙では自民党政権を復活させる道を選んだ。
受容
2006−07年の在任中に辛酸をなめた安倍晋三氏が再登板した今は受容の段階だ。2年前に運転停止となった50余りの原発を安倍首相が再び稼働させることを有権者は覚悟しているかのようだ。「ショウガナイ」、つまり運命を受け入れて耐え忍ぶしかない時期と呼べよう。
今のところ、日本再生の期待で日経平均株価 は急上昇し、日本経済は再び世界の注目を浴びている。だが「アベノミクス」をめぐる楽観論は大部分が海外の現象だ。国民は選挙で自民党を選んだが、安倍首相を長年待望された救国者と見る人は少ない。
だからこそ今のような耐え忍ぶ段階は非常に気掛かりだ。デフレから脱却するには、これから5年後に物価が著しく上昇すると投資家や企業、消費者を確信させる以外に道はない。安倍首相が財政刺激策を拡大し、日銀が近く新指導部を迎えることは結構なことだが、所詮は信頼感の問題だ。信認を得るには疲弊した経済に大量の資金を投入する以上の策が必要だ。
白紙小切手
アベノミクスは新しい経済政策のように見えるかもしれない。だが、実際にはマーケティング戦略にすぎない。その効果は円の大幅下落と輸出業者の円安歓迎論に早々と表われているとはいえ、安倍首相は国の借金を原動力にした旧態依然の成長戦略を踏襲しているだけで、自ら受容プロセスのわなにはまっている。
安倍首相は規制緩和や企業統治の改善に取り組み、東電を機能不全にした政府と企業の密接な関係を断絶し、次の大地震までにより安全なエネルギー源を探し出さなければ、日本の資産バブルを再発させるだけに終わろう。
日本人が安倍首相に白紙小切手を振り出し、深い傷を負った国の立て直しを任せているなら危険だ。賢明で大きな視点で目標を定めた計画を打ち出さなければ、結局は悲哀の新たなサイクルが発生しかねない。(ウィリアム・ペセック)
(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
原題:Grief’s Five Stages Explain Post-Quake Japan: WilliamPesek(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:東証 Willie Pesek wpesek@bloomberg.net
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更新日時: 2013/03/13 08:20 JST

 


ゴールドマン、モラルの王として君臨を−コーハン 

  3月11日(ブルームバーグ):皆が欲しがるマネジングディレクターの肩書を毎年ではなく2年に1回付与することにしたゴールドマン ・サックス・グループの決定は、ニューヨーク本社のバイスプレジデントたちに激震をもたらしたことだろう。しかし世界や、ゴールドマン以外のウォール街にとって何かが変わったということはない。
ロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)は本当に業界に活を入れたいと思うなら、ウォール街の群れからもっと距離を置き、リーダーらしく振る舞うべきだ。慎重にリスクを取る人に報い、愚かなリスクを取る者を罰する報酬システムへの改革を率先して行ってもらいたい。
私はそういうシステムを2年以上も前に提案した。旧来のパートナー制度の下でのインセンティブやリスク管理習慣に戻るのが最良だろう。パートナーたちは自分の金を賭けていたし、税引き前利益が出なければ取り分はなかった。これと比べると信じられないことだが、現在の報酬システムは巨額ボーナスを期待して他人の金で巨大なリスクを取るバンカーやトレーダー、経営幹部に、常に報い続ける。
現行システムはウォール街で働く人々を大金持ちにする一方、社会には次々と金融危機をもたらした。このシステムは金融業界の人間に悪行・愚行の責任を取らせようとしない。ウォール街は預金者や取引相手方、債権者、株主の金でリスクを取ったことで報酬を受け取り続ける一方で、賭けが失敗したときの責任はほとんど問われずに済まされる。2008、09年の経験の後、報酬システムは危機の再来を防ぐように変革されたと思うのが常識だが、実際はそうではない。
非ウォール街にとっては迷惑
バンカーのボーナスを固定給の2倍までに制限する欧州連合(EU)の計画など、業界に正気を取り戻させる試みは失敗に終わる運命だ。バンカーらは既に、ボーナスが元通りの水準を維持できるところまで基本給を上げるという極めて賢い方法を考えついている。
ウォール街の報酬システムは危機以降、事実上何も変わっていないし、バンカーらの行動を実際に変えるようなシステム改革を呼び掛ける声すらない。バンカーとトレーダー、経営陣は依然として、他人の金でリスクを取ることによって高報酬を得ている。このところの傾向ではウォール街の収入の40−50%が報酬・ボーナスに消える。ウォール街で働く人にはいいだろうが、そうでない人には迷惑な話だ。
今こそゴールドマン が真のリーダーシップを発揮するチャンスだ。同社は1999年5月に株式を公開。ウォール街でパートナーシップから公開企業に転身した最後の企業として、かつての文化の名残をどこよりも色濃く残している。ゴールドマンの最上級幹部は期末に税引き前利益が出ていた場合にのみ、報酬を受け取る。同社従業員3万2600人中450人余りを対象としたこの制度はもちろん、慎重なリスクテークと利益に対して彼らを極めて敏感にする。
昔かたぎならではのリーダー
ゴールドマンは旧来のパートナーシップ精神の名残を土台に、業績悪化や巨額損失の場合には経営陣の資産を債権者と株主が差し押さえることが可能になるよう、制度を整備するべきだ。
08年9月にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻(はたん)した時にそのような仕組みがあったなら、債権者らはリーマンのバンカーやトレーダー、経営陣が貯め込んだ資産−マンハッタンの集合住宅やハンプトンズの海辺の別荘、米国債や美術品を押さえて数十億ドルを取り戻すことができただろう。
実際、そのような仕組みが同社破綻の何年か前に既にあったなら、リーマンは今も存続していただろう。リチャード・ファルド会長(当時)とその補佐役らはもっと慎重になり、自社が取っているリスクについて時間をかけて分析しただろう。ゴールドマンは06年の遅い時期にこの分析をした結果、住宅ローン関連商品をショートにして競合他社の愚かさから利益を上げる戦略を立てることができた。
腐った報酬システム
ウォール街は深刻なリーダーシップ不在の問題を抱えている。ゴールドマンがそんなに賢明なら、この欠落を埋めてほしい。最上級幹部が会社に利益が出た時しか報酬を受け取らず、悪い状況の時には金銭的に責任を負うことを債権者と株主、顧客、取引相手方に対して表明すれば、ウォール街に対する米国民の信頼を回復させる大きな一歩となるだろう。さらに、この25年間、自ら招いた金融危機の繰り返しと過剰報酬を当然とするバンカーやトレーダー、経営陣しか生み出さなかった腐敗した報酬システムを打ち倒す一撃になり得る。
ゴールドマンが望ましい報酬システムを導入すれば、ウォール街の他の真面目なプレーヤーらが追随することを私は保証できる。脆弱(ぜいじゃく)な金融システムが今よりはるかに安全になることも確実だ。(ウィリアム・D・コーハン)
(ウィリアム・D・コーハン氏は「Money and Power: How GoldmanSachs Came to Rule the World(マネー・アンド・パワー:ゴールドマンはいかにして世界の支配者になったか)」の作者で元バンカー、ブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
原題:Goldman Can Also Be Wall Street’s Moral Leader: William D.Cohan(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ワシントン Max Berley mberley@bloomberg.net
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更新日時: 2013/03/12 06:00 JST


 

JPモルガンCEO、1.3億円の追加収入も−増配承認なら 
  3月13日(ブルームバーグ):米銀JPモルガン・チェース のジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、米連邦準備制度理事会(FRB)が先週のストレステスト(健全性審査)結果は同行の増配計画を正当化しないと結論付けた場合、年間で約139万ドル(約1億3300万円)の追加収入を得る機会を逸することになる。
これはアナリストの予想通りの増配が実施された場合、約600万株を保有するダイモンCEOが得られる追加配当収入の額だ。一方、バンク・オブ・アメリカ(BOA )とゴールドマン・サックス・グループ、ウェルズ・ファーゴの3行のCEOの同様の収入見込み額は合わせて7万3300ドルと、ダイモンCEOにはるかに及ばない。ブルームバーグがまとめた予想に基づいている。
FRBは大手18行の資本計画に関するストレステスト(健全性審査)第2弾の結果を14日に公表する。その際、増配の可否が分かる。
米銀行調査会社SNLファイナンシャルのアナリスト、ナンシー・ブッシュ氏は「先週公表されたストレステストの結果には、銀行、特に大手行は増資が必要になるとの極めて明確なメッセージが込められている」とした上で、「増配できるだろう。しかし積極的な形にはならない」と指摘した。
18行のうち4行はまだ増配予定額を開示していない。またシティグループ とモルガン・スタンレーの2行は増配を申請しなかったと表明している。
原題:Dimon’s Extra $1.4 Million Payout Hangs on Fed DividendDecision(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Margaret Collins mcollins45@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Christian Baumgaertel cbaumgaertel@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/13 13:18 JST


 


円全面高、対ドル95円後半−日銀人事案採決やアジア株安警戒 
  3月13日(ブルームバーグ):東京外国為替市場では、円が主要通貨に対して全面高。日本銀行の正副総裁人事案の国会採決を控えた警戒感やアジア株安などを背景に、リスク回避の円買いが優勢な展開となった。
ドル・円相場は午後3時53分現在、1ドル=95円78銭前後。一時は95円59銭と8日以来の水準まで円高・ドル安が進んだ。ユーロ・円相場は1ユーロ=124円88銭前後と、午前に付けた125円台から円が水準を切り上げている。ブルームバーグ・データによれば、円は主要16通貨全てに対し前日終値比で高く推移している。
みずほ証券の鈴木健吾FXストラテジストは、ドル・円について「昨日の夕方から欧州時間にかけて、民主党が岩田規久男日銀副総裁候補に反対したことを受けて、96円台から95円台に下落した」とした上で、日銀の正副総裁候補は「3人とも国会の同意を通ることが大勢の見方だ」と指摘。また、「アジア市場で韓国以外は株価が下落していることを背景に、ドル・円は96円台の上値が重くなっている」と語った。
安倍晋三政権が国会に提示した日銀総裁に黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁を充てるなどの人事案は、衆院が14日、参院は15日の本会議で採決が行われる。黒田氏と中曽宏副総裁候補(日銀理事)は民主党、岩田副総裁候補(学習院大学教授)はみんなの党、日本維新の会などが賛成することで与党が過半数割れしている参院での同意にほぼめどが立った。
一方、通貨オプション市場でも、ドル・円の3カ月物リスク・リバーサル(25デルタ)が一時マイナス0.0975%と、昨年6月5日以来の水準まで低下し、円を買ってドルを売る権利を確保しようとする動きが強まっている。
スピード調整と株安
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作シニア為替・債券ストラテジストは、ドル・円について「年明け以降の2カ月半で10円以上も一方的に円安・ドル高が進んだので、期末が意識される中で、スピード調整となっている」との見方を示した。
前日の海外市場では、民主党の岩田日銀副総裁案への反対方針決定を背景に、円が対ドルで5営業日ぶりに上昇した。この日の東京市場はこうした円上昇の流れを引き継ぐ格好で始まった。各金融機関の仲値が公表される午前10時前後にはドル・円が96円台に戻す場面もあったが、株安が進行するとともに円買い圧力が再び強まった。
東京株式相場は続落し、日経平均株価の終値は前日比75円15銭安の1万2239円66銭。直近の連騰を受けた相場過熱への警戒や中国株の軟調な動きが株売りにつながった。中国深セン市が住宅価格の値上げを禁じたとの一部報道を受け、香港ハンセン指数は一時1.1%安と3日続落、上海総合指数は同1.5%安と5日続落している。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 崎浜秀磨

 


「黒田総裁」国会同意へ、みんな・維新は「岩田副総裁」に賛成 (1) 

  3月13日(ブルームバーグ):安倍晋三政権が国会に提示した日本銀行総裁に黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁を充てるなどの人事案は今週中に開かれる衆参両院本会議で承認される見通しとなった。黒田氏と中曽宏副総裁候補(日銀理事)は民主党、岩田規久男副総裁候補(学習院大学教授)はみんなの党、日本維新の会などが賛成することで与党が過半数割れしている参院での同意にほぼめどが立った。衆院は14日、参院は15日の本会議で人事案を採決する。
民主党は12日、政策決定機関である「次の内閣」で黒田氏の総裁就任と中曽宏氏を副総裁に充てる案に賛成、岩田氏の副総裁就任には反対する方針を決定した。同党の桜井充政調会長は会見で岩田氏への反対理由について「金融政策について極端なリフレ派、日銀万能論という人たちには一線を画す」と語った。
参院は与野党勢力が逆転。総定数が242人で、欠員が6人あるため、通常は議決に加わらない議長を除いた過半数は118人。自民、公明の連立与党は合計で102人(院内会派)にとどまる。
岩田氏の人事案は、民主(参院勢力87人)が反対しても、他の野党や無所属議員から16人が賛成に回れば可決できる。みんなの党と日本維新の会などが賛成を決定、これにすでに賛成する方針を示している新党改革(2人)を加えれば17人となり、参院でも過半数を確保できる。
維新とみんな
日本維新の会は13日の総務会で日銀人事案について協議。黒田、岩田両氏に賛成、中曽氏には反対する方針を多数決で決めた。みんなの党も同日の政策調査会の定例会合で岩田氏に賛成、黒田、中曽両氏に反対する方針を決定した。
また、新党改革(同2人)の荒井広幸幹事長は2月27日、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、日銀人事案について「3人は組織的にも対外的にも政府との関係においても非常にバランスの取れたいい人事で評価している。所信を聞いて決めるが、同意する方向だ」と述べている。
黒田氏は今回の国会承認後も、前倒しで退任する白川方明現総裁の本来の任期が4月8日に訪れるため、再任案が国会で採決される。民主党は、黒田氏の人事について今回は賛成するものの、再任案には反対する可能性も示している。これに対し、みんなの党の渡辺喜美代表は13日、国会内で記者団に対し、黒田氏に今回は反対するが、再任時には同氏が民主党などの賛成で日銀総裁に就任することを前提に、日銀の政策決定会合などでの対応を見て判断する考えを示した。
民主党の桜井氏は、黒田氏の国会での所信聴取に関して「アベノミクスが本当に実現できるのかどうかについて、まだ十分に議論ができていない。2%の物価上昇目標に向けてどういう政策を打って、どういう形で実現していくかの道筋について納得できるだけの答弁はなかった」と指摘。
その上で、桜井氏は再任人事案への対応については、総裁就任後の国会論戦で「納得のいく答弁をもらえればその時点で同意するし、そうでなければ不同意になる」と述べた。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 広川高史 thirokawa@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/13 13:58 JST


25. 2013年3月13日 20:50:14 : xEBOc6ttRg
時給800円と8万円――仕事をしていて、なぜ100倍もの差がつくのか
Business Media 誠 3月13日(水)11時53分配信

自分の得意分野を“混ぜて”、1万人に1人の存在になることが大切(写真と本文は関係ありません)

仕事をしたら“10年後のサラリーマン”が見えてきた(中編):
 マクドナルドの時給は800円、マッキンゼーのシニアコンサルタントは時給8万円――仕事をしていて、なぜ100倍もの差がついてしまうのか。リクルートで働き、中学校の校長を務めた藤原和博さんに、その謎を解説してもらった。

【他の画像】

●「レアカード」になれ

土肥:前編で、藤原さんはこのような話をされました。「今後、サラリーマンの給料は『二極化』する。年収は200万〜400万円、800万円以上の人になるだろう」「年収800万円以上をもらうためには『情報編集力』を身につけなければいけない」と。

 日本経済が成長していた時代のサラリーマンは「情報処理力」があれば、メシを食っていくことがでました。でも、今後は違う。正解はひとつではない時代なので、人と人の脳を結びつけることで、自分が考えてこなかった“答え”を導きだせるチカラ――つまり「情報編集力」が必要であるとも話されました。

 ではその情報編集力を身につけるには、どうすればいいのでしょうか?

藤原:「レアカード」になれば、いいんですよ。

土肥:レアカード?

藤原:いまの20代の人たち……ひょっとしたら30代前半の人たちもポケモンカードで遊んでいたかもしれません。ポケモンカードで遊んだことのある人だと分かると思うのですが、希少価値の高いレアカードは魅力なわけですよ。つまり、自分自身をレアカードにするという感覚をもてるかどうか。これがものすごく大事になってくるでしょう。

 例えば「年収」について語るとき、私は「時給」で語らなければいけないと思っています。マクドナルドでアルバイトとして働くと、時給は800円ほど。夜だったら1000円くらい。コンピュータのプログラムを組める人は時給1000円は超えるし、ゲームのプログラムを組めたら2000円を超える人も多い。

 ところで、サラリーマンの時給はいくらくらいか分かりますか?

●サラリーマンの時給

土肥:5000〜6000円くらいかな。

藤原:給料から労働時間を割ると、多くの人は3000〜5000円くらいなんですよ。家庭教師でサラリーマン並みの時給をもらっている人は多い。そう考えると、サラリーマンの時給って高くない。

 会社の取締役になったAさんは、年収2000万円もらっている。身を粉にして、年間4000時間(月20日働いて、労働時間は1日16〜17時間)働いたとすると、時給は5000円。朝も夜も働き続ける……といった生活ですよね。常務取締役から「Aさん、すぐに来てください!」と呼び出されたら、飛んでいかなければいけない(笑)。

 高度な専門技術をもった人で、時給は1万〜3万円くらい。弁護士が3万円くらいですね。ちなみにマッキンゼーで働くシニアクラスのコンサルタントは時給8万円ほど。

土肥:おおー。

藤原:このように考えると、日本人の時給は800円から8万円くらいの幅がある。なぜ100倍もの差が生まれるのか。100倍の差があるには、ワケがあるんですよ。

土肥:ど、どんなワケですか?

藤原:中学校でも同じような授業をしたことがあるのですが、自分のナニを変えると時給が800円から8万円になるのか。中学生に聞いたところ「大変さ」「社会貢献度」といった答えが返ってきました。でも、そういったことではないと思っています。「大変さ」だったらマクドナルドのアルバイトの仕事も大変。「マッキンゼーのコンサルタントが一番大変」と言えるかもしれませんが、そうとも言えない。結局のところ、“レアであるかどうか”だと思うんですよ。

 時給というのは、需給の相場で決まってしまう。どのくらい希少性があるのか。医者や弁護士の時給は3万円、世界の経営者にインパクトを与えるコンサルタントは極めてレアなので、時給8万円をもらっている。そのレアさをどのように演出していけばいいのか。こういったことについて、学校では教えません。親も教えません。せいぜい「弁護士になれ」「医者になれ」といった程度のことしか言いませんよね。

●自分の戦略を考える際、大事なポイントは2つ

土肥:でも弁護士も医者も数が増えてきて、レアではなくなってきています。今後10年間で、どんな職業がレアな存在になってくるのでしょうか。

藤原:そうした問いかけがものすごく大切になってくるんですよ。自分の戦略を考える際に、大事なポイントが2つあります。1つめは、逆張り。みんなが行く方向ではなく、逆の方向に進むということですね。

 例えば、道の先にリンゴの樹があるとします。一緒に歩いている人たちはリンゴを食べたいのですが、道は2つに分かれている。そのときどちらの道を選択すればいいのか。もし全員が右の道を選んだときには、左の道を進めばいい。なぜならみんなについていって、リンゴの樹があったとしても、分け前は1〜2個かもしれない。足が遅かったら、その分け前すらもらえないかもしれない。

 左の道を進んでいけばどうなるのか。大きなリンゴの樹があるかもしれない。そうしたらすべてのリンゴを独占できる。リスクはあるかもしれませんが、逆張りをしていかなければ大きなリターンは得られないでしょうね。

土肥:ハイリスク・ハイリターンを選択せよ、ということですね。では、レアな存在になるための、もう1つのポイントはなんでしょうか。

藤原:「レアな存在になれ」と言われても、10万人に1人、1万人に1人の存在になることって難しいですよね。例えば、いまからiPS細胞を研究して、山中伸弥教授を越えることは難しい。20〜30年黙々と研究を続ければ山中教授を追い越すことはできるかもしれませんが、その可能性はものすごく低い。それほどの時間をかけても、教授に追いつけるのは1万人に1人……いや、100万人に1人もいないかもしれません。

 1万人に1人の存在になることは難しいことですが、100人に1人だったらかなりの確率でなれると思うんですよ。例えば、パチンコをするのかどうか、電車の中で寝ているのか本を読んでいるのか。こうした違いだけでも、2分の1、4分の1……となっていき、すでに25人に1人になっている。このように考えると、100人に1人になることはそれほど難しいことではないんですよね。

 仕事が終わってから英会話学校に通ったり、資格試験の勉強をしている人は、ひょっとしたらもう100人に1人になっているかもしれません。でもここで終わってしまうと、1万人に1人というレアな存在にはなれません。

●自分の得意分野を“混ぜる”

土肥:では、どうすればいいのでしょうか?

藤原:もうひとつの100人に1人になることが大切になってくるんですよ。考え方としては「100人に1人×100人に1人=1万人に1人」ということですね。

 ひとつの領域で1万人に1人の存在になることは、ものすごく難しい。ところがふたつの領域を混ぜて、「100人に1人×100人に1人=1万人に1人」になることはそれほど難しくはありません。掛け算をすることで1万人に1人の存在になる……これが情報処理力でもあるんですよ。

 例えば、Aさんは「お笑い芸人になりたい」と思っているとします。しかし、明石家さんまさんを越えるためには10万人に1人、100万人に1人の存在にならないといけません。またAさんは「美容師にもなりたい」と考えているとします。カリスマ美容師になるには、10万人に1人、100万人に1人の存在にならないといけません。そこでAさんはお笑い芸人として100人に1人の存在になって、かつ美容師として100人に1人の存在になれば、「お笑い美容師」というカテゴリーができてしまう。つまり「自分で混ぜて」つくってしまうんですよ。

 これからの10年間で、サラリーマンは何らかの領域で100人に1人の存在になるだけではなく、もうひとつの領域でも100人に1人の存在になってほしい。ただし、他人がつくった土俵で戦うのは難しい。自分の得意分野を混ぜて、自分だけの土俵をつくることがポイントですね。

 ところで、Business Media 誠の読者は何歳くらいの人が多いのですか?

土肥:読者アンケートによると、平均年齢は30代半ばですね。

藤原:30代半ばのサラリーマンだと、多くの人が会社の中で100人に1人の存在になっていると思う。「自分はこの領域で、会社の誰にも負けない」といった感じで。みんなもっと自信をもってほしい。1000人に1人、1万人に1人の存在になれるように、チャレンジしてほしいですね。

 ただし、ひとつの領域で勝負をして、45歳までに結論が出ない人は注意が必要です。どういうことかというと、そこで負けてしまうと復活が難しいから。20代で負けても、別の領域で這い上がることはできますが、年を重ねれば重ねるほど、敗者復活が難しくなる。

土肥:年齢のリスクがあるわけですね。そのほかに、なにかありますか?

藤原:ありますね。サラリーマンにとって、最大のリスクがあるんですよ。

土肥:そ、それは……?。(次回、3月20日掲載予定)

[土肥義則,Business Media 誠]

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最終更新:3月13日(水)11時53分

 

 

 


 


 


なぜ給料が二極化するのか? 年収200万円と800万円の人
Business Media 誠 3月6日(水)11時54分配信

10年後のサラリーマンはどんな姿になっているのだろうか(写真と本文は関係ありません)

仕事をしたら“10年後のサラリーマン”が見えてきた(前編):
 人には「聞かれたくない」質問が、ひとつくらいあるのでは。記者にもあるのだが、そのひとつが「未来」について。

【グラフ:サラリーマンの平均年収、ほか】

 10年後、ドイさんはどうなっていると思いますか? と聞かれても、答えに困ってしまう。なぜなら「考えたくない」という気持ちがあるからだ。そんなことを言っていると、ビジネス書なんかでは「ビジネスパーソンよ、未来の目標を持て!」などと書いていそうだが、どうもこの類の話が苦手。

 なぜ苦手意識があるのか考えてみたところ、たぶんいろいろなことを“逆算”しなければいけないからだ。例えば「10年後、自分はこうなる」と決めたら、その目標に対してこのように逆算しなければいけない。「2〜3年以内に、コレとコレとコレをしなければいけない」「ということは、1年以内にアレとコレとソレを身につけなければ」「そう考えると、毎日、しっかり生きなければいけない。1分1秒が勝負だ!」という話になって、息苦しくなってしまうのだ。

 しかもその目標というのが、どうもあいまいなので、逆算していても不安に感じてしまう。「こんなことをやっていて、いいのかオレ?」といった感じで。このような話をしていると、ちょいちょい仕事をご一緒させていただいているH氏が、こう言った。

 「じゃあ、『10年後はこんな世の中になるよ』というヒントがあれば、目標をもてるでしょう? フジハラさんにインタビューしてみては?」――。

 フジハラさんとは、藤原和博さんのこと。リクルートを退職された藤原さんは、その後、都内では義務教育初の民間校長として活躍された。最近は「10年先のビジネスパーソンにとって必要なこと」について、講演会などで語っているという。

 「2023年」と聞いても、まだまだ時間はたっぷりあると思いがちだが、環境変化のスピードは速い。私たちの親が生きてきた時代とは、きっと違う働き方が求められているはずだ。10年後の社会はどうなっているのか?――そのヒントを探るために、藤原さんに会いに行った。

 藤原さんに話を聞く前に、彼の経歴を簡単に紹介しよう。藤原さんは1978年、大学を卒業後、リクルートに入社。30代前半で営業本部長に就任し、その後は欧州にも駐在した。40歳のときに同社を退社し、会社とパートナー契約を結び「フェロー」(客員社員)に。そして47歳で、東京都では義務教育初の民間校長に就任した。5年後に退任してからは「教育改革」を広めながら、東日本大震災の支援活動なども行っている。

 さて前フリが長くなってしまったが、そろそろ藤原さんの声を紹介しよう。

●サラリーマンの給料は「二極化」

土肥:藤原さんには「10年後のサラリーマンはどうなっている?」といったことをうかがいたいのですが、まず「給料」についてはどのように見られているのでしょうか。

 下の図を見ていただけますか。サラリーマンの給与は15年ほど前からダウントレンドで、2〜3年前になってようやく底が見えてきた感じ。昨年秋ごろからは「アベノミクス」効果もあって株価が上昇し、一部の企業では「給料をアップさせる」というニュースがありました。デフレは脱却して、サラリーマンの給料も上がっていくと思われますか?

藤原:給料の話の前に、少し歴史を振り返ってみましょう。20世紀の日本は「成長社会」でしたが、21世紀は「成熟社会」になると思っています。もっと細かくいうと、成長社会は1997年で終わって、1998年からは成熟社会。この成熟社会に入ってからもう15年ほど経ちましたが、今後10年間で成熟社会がさらに成長するのではないでしょうか。

土肥:1998年からは給料が下がっただけでなく、消費指数や自動車販売台数などの数字が右肩下がりで落ち始めましたね。で、成熟社会が成長すると、どのような社会になるのでしょうか?

藤原:サラリーマンの多くは年収400万〜800万円だったのが、10年後には「二極化」するでしょう。

土肥:二極化とは?

藤原:では予言しましょう。200万〜400万円の人たちと、800万円以上の人たち――このような格差が生まれるでしょうね。

土肥:サラリーマンにとっては、き、厳しいご意見ですね(汗)。

藤原:人間には「情報処理」と「情報編集」というチカラがあって、成長社会では情報処理力だけで通用していました。情報処理力が高い人は、年収400万〜800万円ほどもらって、課長クラスになっていた。小さい会社だったら、部長になれたかもしれない。

 でも10年後は情報編集力がなければいけません。このチカラを持っていないと、年収800万円以上もらうのは難しいでしょうね。

●情報処理力の時代

土肥:情報処理力というのはどういったモノでしょうか? もう少し具体的に教えていただけますか?

藤原:情報処理力が重視されていた時代は、いろいろなことが単純でした。例えば、何かが起きると、全員が同じモノを見ていればいい。そして全員が「これはこういうことだよね」と合意していました。

 しかし情報編集力の時代になると、何かが起きても、正解がなくなってしまった。10人いたとしたら、10人とも違う現実を見ている。そこで納得できる解を見つけなければいけません。自分が納得しているだけではダメで、ほかの人も納得できる解でないといけない。この解を導くチカラが、情報編集力になるわけです。

 ちょっと質問してもいいですか? ドイさんがタイヤメーカーの社長だとして、これまでになかったタイヤを考えてくれますか? 技術のことやコストのことを気にせずに、発想してください。

土肥:い、いきなりそんなことを言われても……(焦)。

藤原:この質問に対して、1人でどれだけブレストできるのか。または数人をすぐに集めて、ブレストを縦横無尽にできるのか。数人というのは会社でもいいし、友だちでもいいし、インターネットの中でもいい。それによって自分がこれまで考えてこなかった解が、人と人の脳を結びつけることで導き出せるかもしれません。

 こうしたチカラを持っている人が、年収800万円以上を手にしていくでしょう。一方で、処理だけに頼っている人は仕事がなくなっていく。なぜなら事務処理はさらにIT化が進み、工場にはロボットがたくさん導入される。単純な処理は、中国やインドといった国に奪われてしまうので、仕事がなくなっていくんですよ。厳しい言い方になりますが、そのおこぼれにあずかろうとする人は、年収200万〜400万円になってしまう。

土肥:グローバル化の流れはもう止めようがありませんので、サラリーマンの給料も二極化するということですね。

●会社は半分になる

藤原:いまお話ししたのは、ひとつの大きな流れで、もうひとつ大きな流れがあります。その流れとは「今後10年間で、すべての業界で会社が半分くらいになる」ということ。またそのうちの半分くらいは外資系になると思っています。

 実は、こうした流れは、この15年間の成熟社会の中で起きているんですよ。例えば、金融機関。銀行だけでなく、証券や損保でも、会社の数が減りました。このほかにも流通や医薬業界などでも会社の数が減少しました。今後も各業界で再編の流れは止まらないでしょうね。

 これまでは日本という狭いマーケットで商売をしていましたが、それなりに豊かだったので、会社がうじゃうじゃ存在していました。成長社会では“おこぼれチョーダイ”的な会社があったわけですが、成熟社会に突入して、そうした会社が淘汰されてきました。

土肥:会社が半分になって、そのうちの半分が外資系になると、かなりの確率で「自分の上司は外国人」ということになりますね。

藤原:上司が欧米人になるのか、中国人になるのか、韓国人になるのか、インド人になるのか――それは分かりません。ただ情報処理力だけの人は中国やインドに仕事を奪われていくので、今後のサラリーマンは情報編集力が必要になってくるわけです。

 ちなみに35〜45歳の人は、覚悟してくださいね。

土肥:えっ、な、なんでしょうか? 私もその層に入るのですが……。

藤原:35〜45歳の従業員を対象に、多くの会社では「この人はココまでだな」と決めてしまう。「あなたは係長まで。来月からは○○支店に行ってください」といった感じで、会社は動いてきますよ。

 会社から仕切られる前に、この年代のサラリーマンは仕掛けていかなければいけません。「自分はこういうことがしたいのだ」ということを会社に提案する……いわゆる“取引”ですね。こういう関係が必要になってくるのではないでしょうか。「組織内自営業者」の意識をもっていないと、結局は会社に仕切られてサラリーマン人生が終わってしまうかもしれません。

 だから35〜45歳というのは、非常に大切な時期なんですよ。

土肥:だんだん、未来が怖くなってきました(苦笑)。ところで、成熟社会で必要となる情報編集力はどのようにすれば身につくのでしょうか? 教えていただけますか?

藤原:分かりました。(次回、3月13日掲載)

[土肥義則,Business Media 誠]

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最終更新:3月6日(水)11時54分


26. 2013年3月13日 21:12:26 : FfzzRIbxkp
米国ファンドによる日本企業の買収が加速しているのでしょうか。
西武HDの話は、かつてライブドアーがフジテレビに仕掛けたものと似ていると思いますが、今度は、一人の人間を悪者扱いして事が済むような状況ではなさそうですね。

不勉強で申し訳ないのですが、
米韓FTAによって、韓国企業の年金制度がどうなったのかご存知の方いませんか?
米国の巨大企業がかかえる年金問題との関係。

リーマンショックは団塊の大量定年に合わせるかのように、貯蓄から投資へ動いたお金をごっそり持っていきましたが、
今度は、年金あたり。 年金生活者の年金給付停止なんてことは、考えられますか?
例えば長年勤めていた企業が買収された場合など。

サブプライムローンのような悪質なファンドを作るのですから、
TPPやら企業買収やらでごっそり持っていくなんてこと、やりかねないですよね。


27. 2013年3月14日 00:20:52 : xEBOc6ttRg

QEが招く10の問題点

2013年3月14日(木)  ノリエリ・ルービニ

先進各国では低迷する経済から脱すべく、QEという非伝統的金融政策が広がっている。だが、先進国が一斉に実施すれば、それは通貨戦争の代わりにQE戦争をもたらす。また、資産バブルやインフレなど意図せざるリスクをも招くだけに、警戒が必要だと説く。

 長引く低成長局面から景気を大きく上向かせるには、量的緩和(QE)をはじめとする非伝統的な金融政策が必要だ、ということで市場関係者の見方はおおむね一致している。

 だが、QEの効果やそのリスクに対して疑念が高まり始めていることも事実だ。とりわけ以下に掲げた10の問題点は、そうした政策の潜在的なコストとして注意を払うべきである。

ゾンビ企業の跋扈を招く

 (1)純粋な「オーストリア学派」のアプローチ(つまり緊縮策の採用)によって、資産や信用バブルを崩壊させようとすれば不況を招く恐れがある一方、QE政策に依存し、必要な民間・公共部門の債務削減を先送りしすぎれば、至る所で「ゾンビ」が跋扈する事態となりかねない。

 ゾンビとは実質的には破綻しているのに、金融緩和策によって延命している金融機関や家計、企業のことを指す。そして、いずれは一部の政府までが、こうしたゾンビグループの仲間入りをすることになるだろう。従って、オーストリア学派が掲げる緊縮策と極端なケインズ主義の間のどこかで、QEを段階的に終息させる必要がある。

 (2)繰り返しQEを導入すれば、いずれ実体経済活動への波及経路が目詰まりを起こし、効果がなくなる可能性が出てくる。

 国債経路は既に国債利回りが下がっていれば機能しない。信用経路も、銀行が現金をため込み、マネーの流通速度が極端に低下すれば機能しない。

 事実、借金が可能な高格付けの企業や信用度の高い家計は借金したいと思っていないか、その必要がないのに対し、莫大な債務を抱える企業や信用力の劣る家計は、借金する必要があっても金融機関が貸し渋りをしているため、思うに任せないのが現状だ。

 しかも、QE導入直後は資産価格の上昇につながった株式市場経路も、経済成長が冷え込んだままでは効果は長続きしない。さらに、無期限のQEを実施して期待インフレ率を押し上げ、それによって実質金利を引き下げるという経路は、やがてインフレ期待そのものをあおる危険性をはらむ。

 (3)金融緩和により通貨安を実現するというQEの為替経路は、いくつかの主要中央銀行が一斉にQEを実行すれば、効果はなくなる。すべての国の通貨が同時に下落することなど不可能である以上、すべての国の貿易収支が同時に改善することもあり得ない。

通貨戦争でなく「QE戦争」が勃発

 主要国の中央銀行数行が一斉にQEに踏み切れば、QEはゼロサムゲームになるだけだ。その結果、「通貨戦争」の代わりに「QE戦争」が勃発することになる。

 (4)先進国がQEを実施すれば過剰な資本が新興国に流入するため、新興国は困難な政策誘導を迫られる。

 例えば新興国が為替市場に不胎化介入*1しても、国内金利は低下しないため、海外資本の流入を止めることはできない。だが不胎化措置を行わない形で為替市場に介入したり、国内金利を引き下げたりすれば、過剰な流動性が生み出され、国内のインフレ加速や資産・信用バブルをもたらす。

*1=為替市場介入に伴う通貨需給の変動を公開市場操作により調節し、市中金利などに影響を及ぼさないようにすること
 同時に、介入を行わず通貨が上昇するに任せれば、国際競争力が低下し、対外赤字が危険なまでに膨らんでしまう。流入する海外資本に資本規制をかけるのは困難で、抜け道も多い。

 信用成長に対するマクロプルデンシャルな規制*2は効果的だが、資産バブルの抑制に効果があるとは限らない。とりわけ金利低下を受けて潤沢な流動性が維持される場合には、資産バブルを抑え込むのは困難だ。

*2=過剰な信用拡大などマクロ経済上の課題を把握・対処し、金融システムの安定性の維持に焦点を当てた政策アプローチ
金融緩和こそが金融危機の遠因


2月のG20財務相・中央銀行総裁会議前、ドイツ連銀のワイトマン総裁(前列左端)は日本の金融緩和策は円安政策だと批判、QEは様々な軋轢を招いている(写真:AP/アフロ)
 (5)持続的なQEは、QE実施国のみならず、QEの影響が波及する国でも資産バブルを招く恐れがある。そうしたバブルは株式市場から住宅市場、国際商品市場、国債市場、信用市場まで、様々な市場で起こり得る。

 例えば住宅市場については香港とシンガポールで、国債市場については米国、ドイツ、英国、日本でバブルの兆しが出ている。信用市場も、一部の新興国の国債と米国債の利回り、あるいはハイイールドの社債と高格付け社債の利回りスプレッド(高格付け国債との利回り格差)が過剰に縮小するなど、バブルの萌芽が見られる。

 景気や成長のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が冷え込んでいる現況に照らせば、QEは正当化できるかもしれない。だが、金利をあまりに長期にわたり極端な低水準に抑え続ければ、やがてこうしたバブルを助長することになろう。

 まさに2000〜06年にかけてそうした事態が発生した。米国は2001年に景気後退に突入、その後の景気回復もはかばかしくなかったことから、米連邦準備理事会(FRB)は大胆な利下げを実施、政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートを1%に据え置いた。これが信用、住宅、サブプライムの分野でバブルを招く結果となった。

 (6)QEは必要な経済改革を断行する政府の意欲をそぐという問題を引き起こしかねない。巨額の財政赤字が通貨の増発により賄われ(マネタイゼーション)、しかも金利が過度に低水準に維持されれば、市場が政府に財政規律を課すことが妨げられ、必要な財政の緊縮が先送りされてしまう。

 (7)QEからの出口戦略は難しい。QEからの脱却が遅れて時機を逸すれば、インフレが加速し、資産と信用のバブルが膨らむことになる。

 また、QE実施中に購入した長期資産を売却することでQEからの脱却を図った場合、その過程で金利が急騰すれば景気回復は腰折れし、長期国債の保有者は大幅な損失を被ることになる。

 さらに、膨らんだベースマネーを収縮させ、信用成長への効果を不胎化すべく、超過準備への利息を引き上げるという形でQEからの脱却を図れば、中央銀行は巨額の損失を抱え込むことになるだろう。

 (8)長期にわたり実質金利をマイナスにとどめることは、所得と富を債権者と貯蓄者から債務者と借り手に再配分することを意味する。

 債務を削減するには、経済成長の加速、貯蓄率の引き上げ、秩序だった債務再編、資産課税の強化など様々な調整方法がある。そうした調整方法の中で最も非民主的で、年金受給者や年金基金を含む貯蓄者と債権者に最も深刻な打撃を与えるのが、債務のマネタイゼーションと、それに伴うインフレ高進だ。

 (9)QEを含む非伝統的な金融政策は、深刻な意図せざる結果をもたらしかねない。銀行が貸出金利と預金金利の差である純資金利ざやの極端な低さに直面し、リスクに比べてリターンがあまりに不十分だと判断するに至った場合、最終的には行きすぎたインフレが発生するか、信用成長の加速ではなく減速をもたらすことになるだろう。

長期的コストに目を向けるべき

 (10)伝統的な金融政策に戻るための道筋を完全に見失うリスクもある。事実、一部の国はインフレターゲットを廃止することを検討し始めるなど、物価期待に対する抑止力を持たない未踏の領域に踏み出そうとしている。

 米国はQE1からQE2を経て現在はQE3に移っており、QE3は失業率が改善するまで無期限に続けられる公算がある。政府関係者は、今やマイナス金利のメリットについても積極的な議論を始めている。そして、政策当局らはQEの効果が衰えるにつれ、危険な信用緩和政策へと移行している。

 つまり、政策は伝統的な政策に回帰するどころか、一層非伝統的な手法に傾斜しており、短期的な効果や意図せざる結果、長期的な影響がますます不透明になっている。

 確かに短期的に見れば、QEをはじめとする非伝統的な金融政策には重要なメリットもある。だが、そうした政策があまりに長きにわたり維持されれば、深刻な副作用が生じ、長期的なコストは極めて多大なものとなる危険性があることに留意すべきである。

国内独占掲載:Nouriel Roubini © Project Syndicate

ノリエリ・ルービニ

ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。米住宅バブルの崩壊や金融危機の到来を数年前から的確に予測したことで知られる。


Project syndicate

世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。

Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。

Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。

その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。

先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。


 


 


 


大型補正で問われる「公共事業復権」の是非

リーマン・ショック後も上回る大盤振る舞いの波紋

2013年3月14日(木)  木村 駿

 政権奪還の余韻もそこそこに、安倍晋三内閣は10.3兆円の財政支出を伴う緊急経済対策を打ち出した。金融政策と並ぶ柱が公共事業だ。まずは怒とうのような年初の動きを整理しつつ、始動した「国土強靭化」の今後を占う。
(前回の「特別インタビュー 太田昭宏国土交通大臣に聞く」から読む)

 「今年は皆さんの表情が明るい」。デフレ脱却をうたう緊急経済対策の閣議決定を間近に控えた1月初旬、建設関連の業界団体の賀詞交歓会ではこんな挨拶が繰り返されて笑いを誘った。駆け付けた国土交通省幹部は「詳しいことは申し上げられないが、執行に向けてよろしくお願いしたい」と満面の笑みで告げた。

 果たして、政府は1月11日に真水(国の財政支出)で10.3兆円もの緊急経済対策を発表した。半分を占める公共事業は5.2兆円の国債を追加発行して賄う。重点分野は「復興・防災対策」、「成長による富の創出」、「暮らしの安心・地域活性化」の三つ。2012年末の笹子トンネル事故を受け、老朽化対策を目玉とした。

 国交省は1.8兆円の公共事業関係費からなる史上最大規模の補正予算を組んだ。リーマン・ショック後の09年度の大型補正予算でも1.5兆円だから、異例の大盤振る舞いだ。国交省からは「2兆円の大台には届かなかった」との声すら漏れ聞こえる。さらに規模が膨らんだ可能性もある。

■公共事業に関する「安倍語録」

(写真:ケンプラッツ)
13年度当初予算は14%増に

 公共事業を復活する動きは続いた。「どう、落ち着いた?」、「いや、次が。『切れ目ない対策』だから」。12年度補正予算案の閣議決定から一夜明けた国交省では、こんな会話が交わされた。切れ目ない対策とは、12年度補正予算と13年度当初予算を「15カ月予算」と捉えて景気浮揚を図るという意味だ。

 政府は補正予算案の決定から間を置かず、1月29日に13年度当初予算案を閣議決定。地域自主戦略交付金(一括交付金)を廃止したので、公共事業関係費は12年度当初予算比15.6%増の5.3兆円となった。国交省分は同14.1%増の4.5兆円だ。

 12年度補正予算と合わせると、政府は公共事業関係費に7.7兆円を投じることになる。日本建設業連合会は「補正予算、新年度予算の一日も早い成立と早期の予算執行を図っていただきたい」と歓迎する声明を発表。民主党政権下でぎくしゃくしていた土木と政治の関係は、あっという間に元のさやに収まった。

■2012年度補正予算と13年度当初予算の公共事業関係費は合計7.7兆円

財務省「日本の財政関係資料」の公共事業関係費の推移をもとに日経コンストラクションが作成。2012年度当初予算は地域自主戦略 交付金への移行分を加えた額。12年度補正予算と13年度当初予算は見通し額
■国交省の「15カ月予算」における公共事業関係費の内訳

(資料:国土交通省)
■2013年度の建設投資は大型補正予算の影響で大幅増

(資料:建設経済研究所)
「14年度予算に国土強靭化を反映」

 「公共事業イコール無駄遣い、悪との単純なレッテル貼りから卒業しなければならない」。安倍晋三首相は国会でこう答弁するなど、公共事業に積極的な発言を連発している。

 念頭には、自民党が主張してきた「国土強靭化」がある。「多極分散型の国土の形成」を掲げ、大規模災害に備えて事前に防災対策を施す。10年間で200兆円、当初3年間で15兆円を追加投資するという数字が、政権交代前から飛び交っていた。

 安倍内閣は国土強靭化をどのように進めるのか。投資規模や財源は定かではないが、人事や組織面では着々と布石を打っている。

 まずは国土強靭化担当相を新設して古屋圭司衆院議員を任命。次に、国土強靭化の理論的支柱である京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授を首相のブレーンである内閣官房参与とした。さらに、元国交省住宅局長の和泉洋人氏を国土強靭化を担当する首相補佐官に据えた。内閣官房に国土強靭化推進室も設けた。

 藤井教授は「まずは復興事業に徹底的に投資し、次に南海トラフ巨大地震などの想定被災地を整備する。その後、多極分散化のために日本海側や北海道、九州へと投資を回す」と持論を展開している。

 野党時代に国土強靭化基本法案を作成した自民党参議院国会対策委員長の脇雅史参院議員は「法案を国会に再提出する。並行して長期計画をつくり、14年度当初予算の概算要求に落とし込む」と構想を披露する。

■国土強靭化の推進に向けた体制

取材をもとに日経コンストラクションが作成
噴出するバラマキ批判

 国交省大臣官房会計課の横山征成企画官は補正予算について「太田大臣からの指示もあり、かなり筋肉質な内容になった」と自負する。厳格に絞った事業を核に、経済対策として求められた規模になるよう積み上げていったという。それでも、国土強靭化の名の下に公共事業が大幅増に転じることへの批判が噴出した。

 財政学が専門の東京大学大学院経済学研究科の井堀利宏教授は「政権交代を果たして気合が入るのは分かるが、参議院選挙に向けて無理な予算編成をしている印象だ」と語る。

 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「補正予算は短期で作成しなければならず、10兆円といった大枠に達するまで要求を入れ込んでいくので無駄を生みやすい」と構造的な問題を指摘する。

 安倍首相や太田昭宏国交相は「従来型のバラマキだ」との批判を繰り返し否定し、必要な公共事業を選別したと強調するが、著書『震災復興 欺瞞の構図』(新潮新書)で復興予算の無駄を指摘した早稲田大学政治経済学術院の原田泰教授は、「バラマキではないというが、具体的に今までと何が変わったか説明していない。従来と同じだ」と切り捨てる。

道路特定財源の復活を撤回

 そもそも、自民党も一枚岩ではない。13年度の与党税制改正大綱に、自動車重量税を道路の維持管理・更新などの財源として位置付けるとしたことで、党内から道路特定財源の復活だとの批判が上がったのだ。安倍首相や関係閣僚は「重量税は一般財源だ」と火消しに追われた。


自動車重量税を道路の維持管理などの財源として位置付けるとして波紋を呼んだ2013年度の与党税制改 正大綱。14年度税制改正で具体的な結論を得るとしている(資料:自民党)
 今後は、財政規律を重視する財務省との駆け引きも激化する。同省の「財政制度等審議会」は、「費用便益比(B/C)が1以上であることは、事業採択の必要条件であって十分条件ではない」とくぎを刺した。自民党が、防災や地域生活に不可欠な道路はB/Cにとらわれずに積極的に推進すると総合政策集に明記したことを意識したとみられる。

 費用便益分析に詳しい東北大学大学院経済学研究科の林山泰久教授は「道路事業では防災面の便益が反映されないなど、B/Cは完璧ではない。しかし、公共事業の『ふるい』として外してはならない。説明責任が果たせなくなる」と指摘する。

 何をもって必要な事業と判断したか、納得のいく形で説明できなければ、国民の理解は得られない。国土強靭化を推進するうえでの火種となりそうだ。

[経済対策の是非]

斎藤 太郎
ニッセイ基礎研究所
経済調査室長
カンフル剤を打つタイミングではない
 景気対策には即効性が求められるので、実施する必要があるのであれば、公共事業を中心とすること自体は間違っていないと思う。
 しかし、いま景気対策を実施する必要性は薄れている。リーマン・ショック後のような局面であればともかく、景気は昨年のうちに底入れしていた可能性が高いからだ。株価の上昇や円安の進行は紛れもなく政権交代に伴うものだが、実体経済は民主党政権のままでも違いはなかったはず。政府が示す「実質GDPの2%押し上げ」という効果は過大で、せいぜい1%というところだろう。
 笹子トンネルの事故を受けて、新設だけでなく補修や更新に力を入れた点は評価できるが、補正予算で実施することには疑問を感じる。補修や更新には長期的なビジョンが必要だ。本来、当初予算でしっかり実施すべきだ。
 当初予算を控えめに見せようとする傾向も良くない。国債の発行額などを当初予算ベースで比較するからだが、いくら13年度当初予算で新規国債発行額の44兆円枠を守っても、補正を組んでしまえば、実質的には膨らんでいる。それでは意味がない。(談)
[公共投資と政治]

井堀 利宏
東京大学大学院
経済学研究科教授
選挙制度が公共事業を歪めている
 参院選を意識して、無理な予算編成をしているように見える。国債を5兆円以上も追加で発行してまで公共事業を増やす必要があるのかは疑問だ。
 消費増税を判断するときまでに、景気を良くしないといけないという事情もある。しかし、消費税の引き上げ時には駆け込み需要をもたらすので、大抵は景気が良くなる。怖いのは、駆け込み需要後の落ち込みだ。景気対策を実施するならば、むしろその時だ。
 公共事業に経済効果があるのは確かだが、人口減少時代に、造った物が利用されない恐れは十分にある。慎重に事業を選ばないといけない。首都圏の更新投資は重要なので、きちんと進める必要があるが、全国一律でやることはない。地方にとって厳しい言い方だが、公共事業でもう一度、過疎地を振興しようというのは無理だ。
 ただ、普通の人が考える以上に、地方の声が政治に反映されやすいという実情がある。参院では1人区は地方ばかりだ。2人区や3人区では全ての議席を取れないから、決戦場となる1人区にターゲットを当てて政策を打つようになる。そのため、公共事業が増える。日本の選挙制度の問題だ。(談)
(この記事は、日経コンストラクション2013年2月25日号の特集「国土強靭化の正体」を再編集したものです。次回は3月19日火曜日に掲載する予定です)


木村 駿(きむら・しゅん)

日経コンストラクション記者


もう1つのアベノミクス 「国土強靭化」の正体

 「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を掲げ、公共事業による景気対策に積極的な安倍晋三内閣。自民党が野党時代から提唱してきた「国土強靭(きょうじん)化」の推進に向けて、まずは2012年度補正予算と13年度当初予算に合計7.7兆円もの公共事業関係費を計上した。建設業界は歓迎の意向を示しているが、事業の中身や進め方によっては、世間の批判が一気に高まる危うさもはらむ。おぼろげながら見えてきた国土強靭化の正体を、大型補正予算の内容と公共事業を巡る議論から探る。


 


28. 2013年3月14日 00:37:22 : xEBOc6ttRg

>26

米国ファンドに限らず、円安で海外からの日本企業の買収が加速しているのは間違いありません

>米韓FTAによって、韓国企業の年金制度がどうなったのか

FTAとは無関係に、以前から韓国の年金制度は貧弱です
高齢化と家族制度の崩壊が加速していくので、生活保護も含め、今後の社会保障政策の改善が必要でしょう

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK816593420120724
  韓国の高齢化:link.reuters.com/tam29s
  高齢者の負債:link.reuters.com/xuk29s
 
>今度は、年金あたり。 年金生活者の年金給付停止なんてことは、考えられますか?
>TPPやら企業買収やらでごっそり持っていくなんてこと、やりかねないですよね。


国民年金など公的年金の場合は、インフレ加速による実質的な目減りリスクがありますが、それに加え

外資による買収とは無関係に、企業年金は会社が倒産し基金が枯渇すれば削減または停止のリスクがありますね


29. 2013年3月16日 14:26:32 : e9xeV93vFQ
国債依存の弊害 認識を
ホーム > 寄稿・企画 > 新聞・雑誌等 (2012年度) > 現在のページ
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/iwaisako/01.html 
祝迫 得夫
安倍晋三政権のマクロ経済政策が金融市場に与える潜在的リスクとして、日本国債金利の急上昇への懸念が議論の的になっている。明示的なインフレターゲット(物価目標)政策への転換で、名目金利が急騰するかもしれない。積極的な財政出動は財政状況を一層悪化させるだけに終わり、将来、日本国債の暴落とハイパーインフレ、円安が同時発生するかもしれない。
これらの懸念は理論的には十分に根拠があり、長期でみたマクロ経済政策の潜在的な含意として、政策担当者が当然検討しておくべき課題だ。
◆◆◆
個人的には、今後3〜4年の間に、欧州危機で一部の南欧諸国が経験したような急激な金利上昇が起きる可能性は極めて低いと考える。無論デフレ脱却がうまくいけば、ある程度の金利上昇は避けられないだろうが、3〜4%もの国債利回りの急上昇の引き金になるとは考えにくい。
初歩的な議論から始めると、市場で取引される国債の金利は、満期時の支払額を現在の市場価格で割ったもので定義される。つまり、国債の金利と価格は常に逆方向に動くので、急激な金利上昇は国債保有者からみると、大きな損失の発生を意味する。
欧州の政府債務危機後、仏ベルギー系金融大手デクシアが、保有していたギリシャ国債の大幅な価値下落により2011年10月に経営破綻したのを受け、欧州金融市場は大きく動揺した。すなわち保有国債の損失という経路を通じて、欧州の金融システム全体に負のショックが広がったわけで、日本で同じことが起きないという保証はない。
では、日本は先進国の中で最も政府債務の水準が高く、財政危機のリスクが強調されているにもかかわらず、なぜ日本国債の金利は低いままなのだろうか。その最大の理由は、日本国債の9割以上が国内で保有されているからだ。今の日本は、浪費家の夫(政府)が倹約家の妻(家計と企業)から借金している状態である。家計の外、つまり海外から借金をしようと思った途端、日本政府は今よりずっと高い金利でしか国債を発行できなくなってしまう。
次に、民間はいつまで政府の借金を補い続けられるのかという問題についてはミクロ経済的な視点から議論する。
図1:日本の金融機関の預金・国債保有額
(出所)日銀資金循環統計をもとに筆者作成
図2:うち中小企業向け+農林水産系
(出所)日銀資金循環統計をもとに筆者作成
図1に示したように、近年の日本の預金金融機関は、預金の増加にほぼ比例して国債の購入を増やしてきた。しかし高齢化が一層進行すれば、家計が新たに預ける預金の増加に歯止めがかかることは避けられない。近い将来、預金の増加が大きく減速すると予想され、それにより国債金利が上昇し始めるに違いないという予想が広まる。そうなると、値下がりすることがわかっている資産を買う投資家はいないから、金利はすぐに上昇し始める。従って、本当の財政危機の可能性がかなり先のことであっても、マーケットの予想が自己実現することで金利の急騰が発生するリスクは常に存在している。
こうした突発的な金利上昇の可能性は低いかもしれないが、野党時代の自民党は11年に「X-dayプロジェクト」と題する国債価格の急落がもたらす潜在的リスクに関する報告書をまとめている。
◆◆◆
そして、金利の急騰は日本の金融システムにどのような潜在的リスクをもたらすのだろうか。図2では、図1の預金金融機関全体のうち、ゆうちょ銀行を含む中小企業向け金融機関と農林水産系金融機関を取り出し、両者の預金と国債保有額を示した。図1と比べると、図2では預金の増え方がより緩やかである一方、国債の増え方がより急であることがわかる。また保有国債の内訳をみると、満期の短い国庫短期証券の比重は、図2の方がより低い。
つまり、図1と図2の差に相当するメガバンクを中心とする大手金融機関は、既に金利リスクの存在を見越して、国債保有量を相対的に減らしつつ、保有資産の満期を短期化させることで、リスク管理を進めている。その結果、金利急騰のリスクは金融システム全体ではなく、図2に含まれるような中小企業向けや農林水産系の金融機関に集中してしまっている。
このグラフには登場していない重要な国債保有者のグループは生命保険会社と年金基金である。これらの金融機関は、負債の大部分があらかじめ時期の定まっている保険金や年金の支払いである点で、預金金融機関とは大きく異なる。このため生保は、負債支払いのタイミングに保有国債の満期を一致させるような「デュレーション(平均満期)・マッチング」と呼ばれるリスク管理手法を進めている。生保はこの10年ほどの間に長期・超長期の国債保有を増やしており、そうした傾向は今後も数年は続くと予想される。
支払いが名目額で確定している生保と違い、実質額が確定していることが好ましいと考えられる年金の場合、リスク管理はより困難な問題といえる。とはいえ年金業界全体については、公開されている財務資料などにはごく一部しかそうした言及がみられないことから考えて、デュレーション・マッチング的なリスク管理の視点が希薄なことの方がより大きな問題であろう。
また、政府・日銀が今後デフレ脱却策を本格的に推進するつもりならば、民間にインフレリスクのヘッジ(回避)手段を提供し、国債の円滑な消化を継続するための政策対応を急ぐべきであろう。具体的には、インフレに応じて元本が調整される、すなわち実質の元本額が固定された国債である「物価連動債」の発行を再開し、その市場の活性化を図る必要がある。物価連動債はリーマン・ショックの際に市場機能がまひして以降、新規発行停止状態にある。こうした物価連動債は、政府にとっても民間の期待インフレの情報を収集する効率的なチャンネルである。
◆◆◆
ここ数年、日本経済はリーマン・ショックや東日本大震災など、相次ぐ大きな外的ショックヘの対応に追われ、景気対策のための財政出動が繰り返された。その一方で、長期金利は低下を続け、デフレ期待が長期化・固定化してしまった。デフレ期待の定着は、結果として国債発行による政府の財政赤字の穴埋めを容易にしたが、同時に一部の金融機関による過剰な国債への依存を促してきた。
本稿では、マクロ経済政策の是非を問う気はないが、過剰な金利リスクを背負い込んでいる金融機関側の責任は明確だ。金利リスクの存在を前提としたリスク管理を進める他の金融機関がある以上、それに気づかなかったということはあり得ない。にもかかわらず、金融システムの一部にリスクが集中する状況が発生した背景には、金融機関同士の横並び意識や、金利の急上昇が起きるころには自分は一線を退いているとか、政府・日銀が助けてくれるといった経営陣の甘えの意識があったことは想像に難くない。
国債金利の上昇でこれらの金融機関が経営困難に陥った際には、預金者や年金加入者に最低限のセーフティーネット(安全網)を提供するにしても、彼らも含んだすべてのステークホルダー(利害関係者)が応分の痛みを感じるように、十分な責任を取らせるべきである。政府による全面的な救済は、財政の悪化に拍車をかけるだけでなく、無責任なリスク管理にお墨付きを与えることになり、将来により大きな禍根を残すだろう。
2013年3月4日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

30. 2013年3月16日 17:09:48 : e9xeV93vFQ

日銀、量的緩和復活へ…黒田新体制で転換
読売新聞 3月16日(土)3時0分配信
 日本銀行は、金融政策の路線を転換し、世の中に出回るお金の量を増やすことを目的とする「量的緩和」を7年ぶりに復活させる検討に入った。

 日銀の次期総裁に黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁が就く人事が15日、国会の同意を得たことを受け、「金融政策のレジーム・チェンジ(体制の転換)」を鮮明にする。

 政策転換は、黒田氏が21日に予定されている就任記者会見で表明する方向だ。

 日銀は現在も、銀行などが保有している国債を買って代金を支払うことによって、出回るお金の量を増やしている。ただ、その目的は金利引き下げにあり、お金の量を増やすのは手段に過ぎないとの立場だ。

 政策転換後は、お金の量を増やすこと自体を目的にする。具体的には、金融機関が日銀に開いている当座預金の残高や、マネタリーベース(市中に出回っている現金と当座預金残高の合計)などに、一定の目標を設定することが検討されている。

最終更新:3月16日(土)3時0分

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31. 2013年3月18日 14:50:41 : e9xeV93vFQ
アングル:日銀の量的緩和復活に期待、「当預100兆円」提唱も
2013年 03月 18日 12:44 JST
[東京 18日 ロイター] 日銀が金融政策の基本方針を転換し7年ぶりに当座預金残高を目標とする量的緩和政策が復活するとの観測が広がっている。元日銀審議委員で安倍晋三首相のブレーンのひとりとされる中原伸之氏が提唱しているうえ、新たに副総裁に就任する岩田規久男・学習院大教授が当座預金拡大による円安・株高効果を繰り返し強調していることなどが理由だ。

日銀が2010年以降進めてきた現行の金融政策は、資産買い入れ基金を通じて国債や社債、上場投資信託(ETF)などを買い入れ、企業の資金調達を容易にすることで景気や物価を刺激するのが狙い。この結果、大量の資金供給により当座預金残高は昨年12月に48.5兆円と過去最高水準まで拡大したが、量の拡大はあくまで手段で、金利や各種金融資産のプレミアム引き下げが主眼との立場だ。

これに対して日銀が2001─06年に実施した量的緩和政策は、当座預金残高そのものが目標で、資金供給の手段として国債の大量の買い入れなどを進めていた。資金を大量供給することが、どのように景気や物価を刺激するかメカニズムが不透明との指摘もあったが、当時課題であった金融システムの安定化には寄与。株式市場などを通じて一定の景気刺激効果があったとの主張も根強い。

中原氏は15日のロイターとのインタビューで、日銀が量的緩和政策に戻るべきと提唱。現在40兆円台の当座預金残高を年末までに100兆円に増やすことを提案した。そのために基金で買い入れている国債の年限を現在の3年よりも延長し、長期国債を中心とした買い入れを拡充するよう主張していた。

20日に副総裁に就任する岩田規久男・学習院大教授も、「当座預金残高が10%増えると予想物価上昇率が0.44ポイント上昇する」との試算を公表しており、「期待物価上昇率が2%ポイント上がれば為替は15円の円安、日経平均株価は4000円上昇する」(4日の講演)と主張している。

これまでの資産買い入れで当座預金残高は増え続けており、日銀内では当座預金残高の引き上げを新たな目標とすることに大きな抵抗を示す声は少ない。資金余剰期となる4月半ばには60兆円台に膨らむとみられており、あらためて量的緩和の復活に対する期待が取りざたされるのは、これまでのアピール不足との見方もある。

市場でも「現行の基金買い入れで年末には残高は80兆円程度まで増える。毎月の国債買い入れを2兆円程度増やせば100兆円の実現はさほど難しくない」(東短リサーチの寺田寿明研究員)とみられている。

(ロイターニュース 竹本能文;編集 佐々木美和)


 

ドル94円後半、キプロス支援策受けた欧州市場待ち
2013年 03月 18日 13:16 JST
[東京 18日 ロイター] 正午のドル/円は、前週末のニューヨーク市場午後5時時点に比べてドル安/円高の94円後半。ユーロ圏財務相が決定したキプロス支援策が銀行預金者に負担を求めるという異例の内容になったことで、未明にユーロ/円とともにドル/円は急落した。

証拠金取引を手掛ける個人投資家の積極的な買いなどで大きく値を戻したものの、週明けの欧州市場を見極めたい向きが多く、ドル/円の上値は徐々に重くなった。

ユーロ圏財務相会合では、キプロスに100億ユーロ(130億ドル)を支援する代わりに、10万ユーロ超の預金に預金額の9.9%、それ以下の預金に6.7%の課徴金を課すという、一連のユーロ圏加盟国支援策としては前例のない措置が決められた。この決定を嫌気して、週明けとなるこの日は未明からリスクオフムードが強まった。ユーロ/円は早朝に121.58円まで急落したほか、ドル/円は未明に93.45円まで大幅に下げた。

ドル/円はその後、約1.5円の戻りを演じ、一時94.99円をつけた。証拠金取引を手掛ける個人投資家の買いや実需の買いが流入したという。「(証拠金取引を手掛ける投資家が)ものすごく買っているようだ。今年はよく利益が上がっているようで、下がったら買い、上がったら売りということでガンガンやっているようだ」(大手邦銀)との声が出ていた。

もっとも、アジアの主要株価指数が軒並み下げるなかでドル/円は95円を回復できず、市場参加者の関心はキプロス救済策の決定後初めての取引となるこの日の欧州市場の動向に向かった。ユーロは対円、対ドルで戻りが鈍かった。

キプロスで、金融支援の見返りに少額の銀行預金への課税までも求められたことに対する、市場関係者の衝撃は大きい。前出の大手邦銀関係者は「ユーロ圏がキプロスにこういうことを要求したことで、『周辺国』にも同様なことが要求されるのではないかという『いけない連想』を呼んでいる」と指摘、この日のロンドン時間の周辺国国債利回りや株価の動向を注視する姿勢を示した。キプロス支援策の議会での採決は、きょう行われる予定となっている。

ドル/円は2月下旬、イタリア総選挙をめぐる不透明感から急落したが、その後は着実に水準を戻して急落前の水準を上回る堅調推移となった。しかし、大手商社の関係者は、同じ欧州でもキプロスのケースは預金流出の連鎖に発展するリスクをはらんでおり、「事情が違う」と話す。

ドル/円については「高値をどんどん追いかけていくことはしたくない、もう少し落ちたところで買いたいという感じだろう」とし、輸入企業などドルの手当てをしなくてはならない向きは押し目買いが引き続き基本スタンスとなるものの、新規でポジションを作る場合にはこの日未明の安値である93円台まで下がらないと買いは入りにくいとみていた。

(ロイターニュース 和田崇彦)


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