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労働市場制度改革プロジェクト  最低賃金と貧困対策 WLB 生活保護ほか (RIETI)
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/407.html
投稿者 eco 日時 2013 年 3 月 21 日 17:14:21: .WIEmPirTezGQ
 

ここ30年で20−30代の若年層の貧困率は6%から10%近くに上昇した。
一方で、人数比が急増したにもかかわらず、高齢者の貧困率は15%から8−10%へと低下した(可処分所得ベース)。
原因としては、高齢者向けには年金水準のデフレによる実質的上昇、生活保護などの社会保障の充実が財政赤字を無視して継続したこと、若年層では失業、非正規化、賃金低下、税・社会保障負担が上昇したことがあげられる。
また貧困解消のための方策としては失業率の上昇を伴う最低賃金アップよりも、生活保護や子供手当など給付の強化が有効であることも示されている。


http://www.rieti.go.jp/jp/projects/program/pg-07/001.html

労働市場制度改革プロジェクト  

最低賃金と貧困対策
執筆者 大竹 文雄 (大阪大学社会経済研究所)

2009年に厚生労働省が日本の相対的貧困率が15.7%という高い水準にあることを発表した。実は、日本の相対的貧困率が先進国の中では高い方であることは、OECDの研究でも明らかにされている。貧困解消手段には、景気回復による所得上昇、所得再分配政策による低所得者の所得上昇、低所得者に対する職業訓練による生産性上昇と並んで、最低賃金の引き上げ政策がしばしば挙げられる。2009年の衆議院選挙では民主党が最低賃金を1000円に引き上げていくことを公約に戦って、政権を取ったのはその典型である。最低賃金の引き上げは、少なくとも短期的には財政支出を増やさない政策であり、財源を確保する必要がないので、政治的にも好まれる政策である。
最低賃金引き上げは、本当に貧困解消策として有効なのだろうか。結論から述べると、最低賃金引き上げは貧困対策としてあまり有効な手段ではない。川口・森(2009)の実証分析によれば、日本において最低賃金引き上げで雇用が失われるという意味で被害を受けてきたのは、新規学卒者、子育てを終えて労働市場に再参入しようとしている既婚女性、低学歴層といった現時点で生産性が低い人たちだ。貧困対策として最低賃金を引き上げても、運良く職を維持できた人たちは所得があがるかもしれないが、仕事を失ってしまう人たちは、貧困になってしまう。こうした人たちの就業機会が失われると、仕事をしながら技術や勤労習慣を身に着けることもできなくなる。最低賃金引き上げで雇用が失われるという実証的な結果は、労働市場が競争的な状況における最低賃金引き上げに関する理論的な予測と対応している。ただし、最低賃金引き上げによって仕事を失うのが、留保賃金が高い労働者から低い労働者という順番であったとすれば、雇用が失われることによる社会的余剰の減少よりも、雇用を維持できた人たちの賃金が上昇する効果による余剰の増加の方が大きくなる可能性がある (Lee and Saez(2012))。
最低賃金の引き上げよりも貧困対策として、経済学者の多くが有効だと考えている政策は、給付付き税額控除や勤労所得税額控除である。給付付き税額控除は、低所得層に対する定額の給付が、勤労所得の上昇とともに勤労所得の増加額の一部が減額されていくというものである。現行の日本の生活保護制度は、勤労所得が増えるとほぼその額が給付額から減額される。その場合には、勤労意欲を保つことが難しいとされている。給付付き税額控除制度は、カナダで消費税逆進性対策として導入された他、米国、英国、カナダ、オランダで児童税額控除として導入されている(森信(2008))。一方、勤労所得税額控除は、勤労所得が低い場合には、勤労所得に比例して給付額が得られ、勤労所得額が一定額以上になれば、その額が一定になり、さらに勤労所得額が増えれば、給付が徐々に減額されて消失していくという制度である。この制度は、給付付き税額控除よりも、労働意欲の刺激効果が強いとされている。勤労所得税学控除制度は、米国と英国で導入されている。Lee and Saez(2012)は、勤労所得税額控除と低めの最低賃金の組み合わせが望ましいことを最適所得税の枠組みで示している。
日本において貧困対策は高齢者層に集中してきた。高齢層の貧困率の水準は高いものの、貧困率は公的年金の充実のおかげで大きく低下してきている。一方で、図に示したように、かつて貧困率が低かった20歳代、30歳代の年齢層における貧困率が高まってきている。その結果、その子供の年齢層である10歳未満層の貧困率が上昇しており、中でも5歳未満の年齢層の貧困率が高まっている。このような子供の貧困率の高まりは、20歳代、30歳代の雇用状況の悪化や離婚率の高まりが影響している。保育や教育といった現物サービスを通じて、子供に対する貧困対策をすると同時に、若年層の雇用を促進する政策が必要とされている。その際に、勤労所得税額控除や給付付き税額控除をとりいれていくことが効果的だと考えられる。
図:年齢階級別貧困率の推移
出所:大竹・小原(2011) 「貧困率と所得・金融資産格差」岩井克人・瀬古美喜・翁百合編『金融危機とマクロ経済』、東京大学出版会、pp. 137-153

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j014.html


最低賃金の決定過程と生活保護基準の検証
執筆者 玉田 桂子 (福岡大学)
森 知晴 (大阪大学 / 日本学術振興会)
研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-013 [PDF:1.5MB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
本論文では、最低賃金制度の歴史の概観、最低賃金の目安額および引き上げ額の決定要因についての分析を行い、さらに生活保護制度における生活扶助基準が消費実態をどの程度反映しているのかについての分析を行った。日本の最低賃金制度は審議会方式をとっており、中央最低賃金審議会が各都道府県の地方最低賃金審議会に対し、地域別最低賃金額の改定についての目安を提示することになっている。この目安制度では、47都道府県をAランク、Bランク、Cランク、Dランクの4つのランクに分けて目安額を提示し、地方最低賃金審議会が目安額を参考にしながら最低賃金の水準を決定する。目安額は目安額決定の際の参考資料とされている『賃金改定状況調査』に示された賃金上昇率や経済状況を示す有効求人倍率などを考慮して決定されていると考えられるが、分析の結果、目安額は有効求人倍率の影響を受けていることが示された。賃金上昇率などは目安額に影響を与えていなかった。
地方最低賃金審議会は、中央最低賃金審議会が示した目安額を受けて前年から何円引き上げるかを決定するが、その引き上げ額は、下の図に示されている通り、目安額におおむね従っていることが明らかになった。中央最低賃金審議会が示す目安額は参考資料であり、地方最低賃金審議会に対して強制力を持っていないが、目安額が大きな役割を果たしていることが分かった。また、消費支出額、賃金上昇率、通常の事業の支払い能力に関する変数は引き上げ額に影響を与えないが、1998年以降の分析では、失業率は引き上げ額に負の影響を与えることが示された。
上記の分析結果より、地域別最低賃金は地方最低賃金審議会が決定することになっているが、地域別最低賃金はほぼ目安額通りに決められていることが明らかになった。目安額通りに引上げ額を決めるのであれば、地方最低賃金審議会の役割が問われることになるが、地方最低賃金審議会は中央最低賃金審議会よりそれぞれの地方の経済状況についての情報を把握しているため、地方最低賃金審議会は目安額を参考としつつも、これまでより地方の状況を反映した引き上げ額を決定すべきであろう。
図:引き上げ額と目安額
出所:『最低賃金決定要覧』各年
生活保護制度から受ける便益の水準(生活保護基準)について検討してみよう。生活保護基準の中でも、日常生活の需要を満たす生活扶助基準については、2008年施行の改正最低賃金法では、生活保護基準が最低賃金を上回っている場合は最低賃金を引き上げて生活保護基準と最低賃金の乖離を解消することとされている。すでに一部の地域では最低賃金の大幅な引き上げが行われており、最低賃金と生活扶助基準は切り離せないものとなっている。そのため、生活扶助基準の妥当性について検討することは重要である。
生活扶助基準については、低所得世帯の消費支出や物価の影響を受けると考えられる。消費者物価地域差指数が高くなると都道府県単位で再計算された生活扶助基準が高くなることが示され、生活扶助基準は、物価の地域差をわずかに反映していることが示された。しかし、消費支出や年収第1・五分位の年収の水準が影響を与えているという仮説は支持されなかった。
以上より、生活扶助基準が消費実態を反映していない可能性が考えられる。社会保障審議会生活保護基準部会[2013]でも生活扶助相当消費支出と生活扶助基準が乖離していることが示されており、本論文での結果が支持されている。そのため、2013年から開始される消費実態との乖離の解消を目的とした生活扶助基準の改定はある程度妥当であるといえよう。ただし、生活扶助基準は、最低賃金の水準や住民税非課税など重要な施策の基準の1つとなっていることから、今後も生活扶助基準の改定には慎重かつ厳正な対応が望まれる。
参考文献
? 社会保障審議会生活保護基準部会[2013]「生活保護基準部会報告書」厚生労働省

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j013.html

最低賃金と労働者の「やる気」―経済実験によるアプローチ―
執筆者 森 知晴 (大阪大学 / 日本学術振興会)
研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-012 [PDF:610KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
問題意識
最低賃金が変わった場合、今受け取っている賃金に対する感覚はどう変わるだろうか。労働者は最低賃金を手がかりに賃金の良し悪しを判断するかもしれない。そしてその良し悪しの判断は、労働者の生産性へと影響を与える。たとえば、最低賃金が上がったにも関わらず企業が賃金を据え置いた場合には、労働者のやる気は下がってしまうかもしれない。
行動経済学の立場から、最低賃金のような制度が心理面に影響を与えるかどうかを検証した研究が進んでいる。本研究では、実験経済学の手法を用いて、最低賃金が労働者の生産性に影響を与えるかどうか、またその影響は失業する可能性によって変化するかどうかを検証した。
実験手順と結果の要点
実験では、被験者は「企業」と「労働者」に分かれ、まず企業が賃金を選択し、その後労働者が努力水準を選択する(選択した賃金・努力水準に応じて報酬が支払われる)。この手順を繰り返す中で最低賃金の導入・撤廃を行い、努力水準が変化するかどうかを検証する。
実験結果によると、労働者に失業する可能性がない場合は、ある賃金に対する努力水準は低下する。これは、最低賃金が基準を上げ、同じ賃金でもより悪い待遇のように感じられることが原因であると考えられる。また、労働者に失業する可能性がある場合はこの限りではなく、努力水準は変わらない(または、上がる場合もある)。これは、最低賃金が失業を増加させ、働くことの価値が高くなることが原因であると考えられる。
政策的インプリケーション
最低賃金が心理面に影響を与え、労働者の努力水準を下げるのであれば、生産性が落ちるため企業の利益は減少するだろう。生産性が落ちるのを防ぐために賃金を上昇させても、やはり企業の利益は減少する。
このインプリケーションは、高い最低賃金が企業の利益を低下させるという最近の研究と整合的である。
一方、最低賃金が失業を増加させるのであれば、努力水準は減少しない可能性がある。
しかし生産性に悪影響がないとしても、そもそも失業が増加していることから、最低賃金は社会的に悪い影響がある。図は、労働者に失業する可能性がある場合の賃金分布を、最低賃金の有無で分けて示している。最低賃金(40)の導入により、その付近の賃金が増えていることがわかる。しかし、それ以上に雇用拒否率(労働者から見た場合の失業率)が増加しているため、全体としては悪い影響があるといえる。本研究で行った分析からは、最低賃金上昇を正当化することは難しそうである。

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j012.html

最低賃金と地域間格差:実質賃金と企業収益の分析
執筆者 森川 正之 (理事・副所長)研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-011 [PDF:844KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
問題意識
日本では、2000年代後半以降、格差是正や貧困削減が大きな政策イシューとなり、最低賃金の引き上げが段階的に実施されてきた。特に大都市圏で大幅な最低賃金の引き上げが行われた。この過程で、企業、特に中小企業からは企業経営への影響を懸念して強い反対意見が表明されてきた。最低賃金の経済的効果については、多くの研究が雇用、特に相対的に賃金の低い若年層の雇用への影響に焦点を当ててきており、企業収益に及ぼす影響に関する研究は少ない。
人口や経済規模の大きい大都市ほど生産性も賃金も高いという「集積の経済性」が存在することは、内外の多くの研究で確認されている。近年の最低賃金引き上げの議論では、最低賃金引き上げと生産性向上のいずれが先かをめぐって論争があったが 、生産性と賃金の間には強い関係があり、企業の生産性上昇なしに賃金の引き上げを強制することは地域の労働市場に歪みをもたらし、経済厚生を低下させる可能性がある。また、そもそも賃金水準を地域間で適切に比較するためは、地域による生計費(物価水準)の違いも考慮する必要がある。
こうした状況の下、本稿は、(1)物価水準を考慮した実質賃金の観点から最低賃金の地域間格差の推移について、統計データに基づく観察事実を概観するとともに、(2)実質最低賃金が企業収益に及ぼす影響を大規模なパネルデータを用いて実証的に分析した。
実質最低賃金の地域間格差
2007年以降、大都市圏を中心に最低賃金の引き上げが急速に進められた結果、名目最低賃金の地域間格差は拡大傾向にあるが、物価水準(=生計費)の地域差を補正した実質最低賃金の地域間格差は逆に縮小している。1990年代には名目最低賃金が高い都道府県ほど実質最低賃金が低いという逆相関があったが、2000年代に入ってから両者の正相関が強まってきている。集積の経済性により地域間で生産性や物価水準が異なることを考えれば、名目最低賃金に地域差を設けている日本や米国のような仕組みには合理性があり、生産性や生計費の地域差を考慮した適切な水準に設定することが重要である。ただし、依然として最低賃金の人口密度に対する弾性値は平均賃金のそれに比べると小さい。つまり、人口密度の低い地域では相対的に割高な最低賃金が設定されており、最低賃金近傍の労働者の雇用機会や企業収益に影響を与えている可能性がある。
最低賃金の企業収益への影響
1998〜2009年の企業パネルデータを用いた推計によれば、最低賃金(対平均賃金)が実質的に高いほど企業の利益率が低くなる関係がある。また、最低賃金の企業収益への負の影響は、平均賃金水準が低い企業においてより顕著である。賃金が平均レベルの企業では最低賃金が1標準偏差高くなったときの企業収益への影響は▲0.37%ポイントだが、平均賃金が1標準偏差低い企業では、利益率への影響は▲0.50%ポイントと大きい(下図参照)。また、産業別に分析すると、サービス業において最低賃金が企業収益に及ぼす影響が大きい。
図:最低賃金と利益率
この結果は、相対的に経済活動密度が低い都道府県の経済活力に対して、高めの最低賃金がネガティブな影響を持ってきた可能性があり、現在でもそうした影響が残っていることを示唆している。政策的には、過大な最低賃金水準の設定を避けることが最善ということになるが、仮に最低賃金引き上げを所与とするならば、影響を受ける企業に対して設備投資、研究開発投資、従業員の教育訓練への助成を行うなど補完的な政策を講じることが次善の対策として必要となる。
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j011.html


最低賃金が企業の資源配分の効率性に与える影響
執筆者 奥平 寛子 (岡山大学)
滝澤 美帆 (東洋大学)
大竹 文雄 (大阪大学)
鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-010 [PDF:684KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
最低賃金の上昇が雇用量に与える影響については、労働経済学者の間でも意見が分かれる。意見が分かれる1つの理由は、労働市場を競争的であると考えるか、買い手独占的であると考えるかという見方の違いにある。理論上は、労働市場が競争的である場合、最低賃金の上昇は雇用量を減少させることが予測される。一方、労働市場が買い手独占的であるならば、最低賃金の上昇は雇用量を増加させることもあることが知られている。したがって、現実の労働市場がどちらのケースに当てはまるのかを知ることは、最低賃金を上昇させる政策の是非を考える上で重要なポイントの1つとなる。本研究では、「工業統計調査」(経済産業省)の個票データを用いることで、現実にはどちらのケースが成り立っている可能性が高いのかを企業行動の内面から検証した。
本研究の分析方法を概念的に示したもの(競争的な労働市場を想定する場合)が以下の図である。競争的な労働市場において、できるだけ利潤を最大化しようと考える企業は、1人の労働者を雇うことの追加費用(賃金率w)と、その労働者を雇うことで得られる追加的便益(労働の限界生産物価値VMPL)を比較し、ちょうど両者が釣り合うところで雇用量を決定する(図中のE点)。もしも最低賃金の引き上げによって市場で与えられる賃金率がwからw'に上昇すると、利潤を最大化する限り、企業は図中のE'点に移動するように雇用量を減らすことが予測される。しかし、何らかの理由によって雇用量を調整できない場合、賃金率が労働者の貢献分であるVMPLを上回ることになり、(L−L')人の労働者は企業の利潤を損なう余剰労働者となってしまう。企業が利潤を最大化するような「ちょうどよい」数の労働者を雇っているかどうかを間接的に知るためには、VMPLと賃金率がどれほど乖離しているかを計測すればよい。本稿では、この差を「ギャップ(=VMPL−賃金率)」として推定した。
労働市場が完全競争の状態にあって雇用調整費用が全くかからないならば、最低賃金の引き上げがなされて、賃金引き上げが行われたとしても、負のギャップは拡大せずに、雇用量が減少するだけになると予想される。一方、労働市場が買い手独占的である場合、最低賃金の上昇にともなって正のギャップが縮小し、雇用量は増加する場合がある。最低賃金の上昇がギャップと雇用量にどのような影響を与えるのかを同時に見ることで、労働市場が競争的なのか、買い手独占的なのかを判断できる。
分析の結果、最低賃金の引き上げは、もともと雇用を減少させていた企業において、今期の負の賃金ギャップを拡大させ、雇用量を減少させることが示された。また、負のギャップの拡大の影響は、雇用量の削減という形で、部分的には1期で調整されている可能性があり、意外にも雇用調整速度が速い。つまり、本研究の分析結果は買い手独占仮説とは整合的ではなく、むしろ労働市場が完全競争であるというモデルと整合的である。
最低賃金の引き上げは、確かに労働者の賃金を引き上げることになるが、それは、企業の労働費用を増加させる。そして、その高まった労働費用と労働の限界生産物価値を一致させるために、企業が雇用量を減少させる。このような、教科書的な最低賃金の影響が日本の労働市場では観察されていることを前提に、最低賃金制度を運用していく必要がある。
図:企業の利潤最大化行動とギャップ

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j010.html


最低賃金と若年雇用:2007年最低賃金法改正の影響
執筆者 川口 大司 (ファカルティフェロー)
森 悠子 (日本学術振興会)

「労働市場制度改革」プロジェクト
問題背景
貧困問題への関心が高まる中、貧困解消の有力な対策として議論されているのが最低賃金の引き上げである。実際に、2007年7月には成長力底上げ戦略推進円卓会議の合意がなされ、2008年から施行された改正最低賃金法が地域別最低賃金の決定にあたって生活保護との整合性に配慮を求めたことを受けて最低賃金は上がっている。具体的には、2005年に668円であった平均最低賃金は2011年には737円に上昇した。最低賃金の引き上げは、低賃金労働者の賃金を押し上げることで貧困を緩和する効果が期待されるが、一方で雇用を減少させる効果が懸念される。特に経験が浅い10代労働者への雇用減少効果については、欧米の多くの実証分析で指摘されている。本研究はこのような状況を背景として、2007年以降の最低賃金の大幅な引き上げが、16-19歳男女の賃金分布や雇用率へ与える影響を検証した。
結果の要約
本研究の結果は以下の図に集約される。この図は、横軸に2007年と2010年の最低賃金の自然対数値の差、縦軸に同期間の16-19歳男女の就業率(%)の差を取ったものである。2007年から施行された新最低賃金法では、最低賃金額を設定するにあたって、生活保護水準との逆転現象の解消が求められるようになった。この生活保護水準の計算のなかには住宅扶助が含まれており地域差が大きい住宅費が反映されている。そのため住宅費が高い東京や神奈川といった地域では、最低賃金と生活保護基準の逆転幅が大きくなり、その解消のために最低賃金が大きく引き上げられている。
この図を見ると大まかに右下がりの関係を認めることができるため、最低賃金の引き上げが大きかった都道府県ほど16-19歳男女の就業率が落ち込んだことが確認できる。しかしながら、2007年から2010年という期間は金融危機の影響で労働市場が極端に冷え込んだ時期をふくんでおり、その影響に地域差があった可能性もある。そこで、最低賃金引き上げの影響が直接及ばないものの、労働市場全体の状況を反映すると思われる30-59歳男性の失業率を景気循環の指標として用いて、その影響を調整した分析を行った。結果は地域別最低賃金を10%引き上げると、16-19歳男女の雇用率は少なくとも5.3%ポイント低下するというものであった。これは分析期間中の16-19歳男女の平均就業率が17%であることを考えると約30%の雇用の減少を意味する。
政策的インプリケーション
最低賃金の引き上げは財源を必要とせず実行できる貧困対策だが、本研究によって10代男女の雇用機会を奪ってしまうというコストを伴うことが示された。雇用労働者全体に占める10代労働者の割合は高くないため、マイナーな問題であるような印象を与えるかもしれない。しかしながら、10代労働者、特に中学や高校を卒業して就業し始めたばかりの労働者にとって就業機会を得ることは職業訓練の機会を得ることでもあり、生涯にわたって雇用機会や賃金水準に永続的な影響を与える可能性がある重要な問題である。このように最低賃金制度引き上げによる貧困対策は副作用が大きいので、最低賃金に代わる対貧困策の導入を検討すべきである。たとえば、貧困世帯の労働者に対しての実質的賃金補助を行う制度として給付付税額控除があり、米国や英国ではすでに一定の成果を上げている。この制度は単純に言うと国民の税負担で貧困世帯労働者の賃金を補助する仕組みであり、賃金補助であるため生活保護のように受給者の勤労意欲をそぐという副作用が小さい。日本で導入しようとすれば、財源の確保、納税者番号制度の導入、世帯ベースでの課税・給付に向けての税改革といった数々の難問をクリアしていかなければならない。さらに賃金補助が低技能労働者の労働供給を促進し賃金を下落させ雇用主に政策効果が帰着する可能性にも目を向けないといけない。さまざまな困難は伴うが貧困問題を真剣に解決しようとするのであれば給付付税額控除の導入を検討すべきである。
図:最低賃金の上昇と就業率の変化、16-19歳男女
注:本文中の図3に該当。

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j009.html

最低賃金の労働市場・経済への影響‐諸外国の研究から得られる鳥瞰図的な視点‐
執筆者 鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-008 [PDF:688KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
最低賃金政策の是非を巡って重要な判断基準となる雇用への影響については、日本でも実証分析の蓄積が進んでおり、大規模なミクロ・パネルデータを使い、より最低賃金変動の影響を受けやすい労働者へ絞った分析は、ほぼ雇用へ負の効果を見出している。一方、アメリカでの最近の研究をみると、新たなデータや手法を使い、正負の影響を巡って論争が続いている。
しかし、単に雇用への負の効果の有無のみを巡って論争を続けることは不毛であろう。なぜならば、第1に、完全競争を仮定したとしても最低賃金の上昇でさまざまなレベルで代替効果が起き、「勝者」と「敗者」が生まれるためである。最低賃金上昇は最もスキルの低い労働者への需要を減少させる代わり、よりスキルの高い労働者の賃金は相対的に割安になるため、彼らの需要は増加すると考えられる。また、労働コストの割合、中でも、最低賃金労働者の割合の高い企業(主に中小企業)・産業は相対的に不利になる一方、スキルの高い労働者をより多く雇い、スキルの低い労働者も最低賃金よりも高い賃金で雇っている可能性の高い大企業・産業などは相対的に有利になり、雇用を増やす可能性もあるのだ。
第2は、最低賃金の影響を考える場合、雇用への影響のみならず、所得再分配、企業の収益や価格、長期的には人的資本への影響まで考える必要があるからである。雇用への影響がみられない場合でも、最低賃金上昇の負担は、労働者の生産性が上がらない限り、労働者の労働時間が減少するか、企業の収益が悪化するか、企業が負担を価格に転嫁できれば、それを消費者が負担することになる。つまり、最低賃金上昇はその負担を誰かが担うわけであり、決して「フリーランチ」(ただの昼飯)ではない。
日本の最低賃金政策へのインプリケーションは以下の通りである。まず、第1は、最低賃金上昇に特に影響の受けやすい層への配慮である。日本の分析でも10代若年が雇用への悪影響を受けやすいことが明らかになったが、ヨーロッパ諸国のように、若年も年齢階層に分けて異なる最低賃金を適用する(より若年の最低賃金の水準を低くする)ことも検討に値しよう。日本の場合、OECD諸国の最低賃金・中位所得比率が国際的にかなり低いことを根拠に大幅な引き上げの必要性を訴える議論があるが、最低賃金の水準を購買力平価で評価した実質賃金でみると、OECD諸国の中では中程度であり(図)、慎重な議論が必要だ。第2は、最低賃金を引き上げる場合でも、なるべく緩やかな引上げに止めるべきであることだ。第3は、雇用への影響ばかりではなく、企業へのマイナスの影響を十分認識することである。第4は、最低賃金制度への依存は労使関係の機能不全の象徴と考えると、低賃金労働者の待遇改善を労使関係の中でいかに実現させていくかという方向の努力も重要であることだ。第5は、最低賃金政策も「エビデンスに基づいた政策」への転換が求められていることだ。イギリスでは、新しい全国最低賃金制度の導入とともに最低賃金政策の提案を行う低賃金委員会を発足させ、調査・分析機能を大幅に強化した。交渉の現場であり公益委員が労使の調整役を果たしている日本の中央最低賃金審議会においても、こうした観点からの組織見直しが必要であろう。
図:実質最低賃金(時間当たり、購買力平価USドル表示)の国際比較(2010年、OECD)
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j008.html


非正規労働者の雇用転換−正社員化と失業化
執筆者 久米 功一 (名古屋商科大学)
鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-005 [PDF:868KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
問題の背景
非正規雇用に対しては、無業者・失業者を雇用につなぎ、さらに正社員へ転換するステップとしての役割が期待されているが、非正規雇用から他の雇用形態への転換の実態はどのようであろうか。本研究では、2009年1月から6カ月毎に計5回にわたって(独)経済産業研究所が実施した『派遣労働者の生活と求職行動に関するアンケート調査』の結果を用いて、非正規雇用から正社員あるいは失業に転じる場合の決定要因について実証的に分析した。具体的には、非正規雇用の雇用形態の詳細な情報を用いて、雇用形態の違いが正社員化に与える影響の把握に努めた。また、非正規雇用から正社員または失業への転換を比較可能な範囲内で分析した。さらに、(人びとが働いてもよいと考える賃金である)留保賃金を取り上げて、標準的なジョブサーチ理論が示唆する留保賃金の大きさが正社員への転換や失業に与える影響の有無を確認した。
分析の結果
前職の雇用形態と正社員化・失業化の関係は、図1の通りであった。正社員化した人の前職は、製造業派遣や契約社員、失業の割合が高く、失業化した人の前職は、失業、製造業派遣が多かった。こうした傾向を把握した上で、回帰分析を行った。
図1:前職の雇用形態と正社員化・失業化(%)
推計結果をまとめると表1の通りである。前職が契約社員、卒業直後に正社員、前職の労働時間が長い、企業規模が小さい、人的ネットワークやインターネットを求職手段として活用する等の要因が非正規雇用から正社員への転換確率を高めていた。その一方、前職の雇用形態、業種、労働時間等の就業状態は非正規雇用から失業への転換に影響していなかった。雇用形態別にみると、他の雇用形態と比較して、失業者から正社員への転換が起こりやすいものの、正社員の職にこだわるほど失業期間が長期化していた。
表1:推計結果のまとめ
留保賃金が高いほど正社員になりやすく、留保賃金が低くても失業に陥る点は、ジョブサーチ理論の予想に反していた。失業期間を利用することによってジョブマッチングを高める一方で、正社員の職へのこだわりからくる失業の長期化は人的資本を減耗させることから、失業を経ることなく非正規雇用から正社員へ転換できるようなオン・ザ・ジョブ・サーチ(仕事を続けながら職探しを行うこと)の支援や多様な正社員制度の整備が望まれる。
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j005.html


ノンテクニカルサマリー
ワークライフバランスに対する賃金プレミアムの検証
執筆者 黒田 祥子 (早稲田大学)
山本 勲 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 労働市場制度改革ダウンロード/
関連リンク ディスカッション・ペーパー:13-J-004 [PDF:590KB]。

「労働市場制度改革」プロジェクト
概要と問題意識
これまで、企業におけるWLB施策については、費用対効果が見出せれば企業は積極的にWLB施策を導入するはずであるとの考えのもと、WLB施策と企業業績の関係性を検証する研究が多くなされてきた。それらの研究では、必ずしもWLB施策が企業業績を改善するとのコンセンサスは得られていない。たとえば、山本・松浦(2012)ではWLB施策の費用対効果がプラスになるのは、中堅大企業や製造業、労働保蔵を行う傾向の強い企業などで、それ以外の企業ではWLB施策は企業業績と関係がなかったり、むしろ企業業績を悪化させる可能性もあったりすることが指摘されている。しかし、WLB施策の費用対効果がない場合でも、柔軟な働き方と引き換えに、労働者が賃下げを許容することを通じてコストを負担するという補償賃金仮説の考え方が成立するならば、施策導入が進む可能性がある。そうなれば、現在のように「雇用は保証されているが長時間労働の正社員」と「雇用は不安定だが労働時間は短く柔軟な非正規社員」という二極化した働き方のほかに、別の働き方が普及する糸口を見出せるかもしれない。そこで、本稿では、費用対効果の観点から企業のWLB施策を検討する従来の研究とは一線を画し、WLB施策の受益者である労働者がその費用を負担する形でWLB施策が普及する可能性を見極めることを主たる目的とする。
本稿では、2つの企業・従業員マッチデータを用いて、WLB施策と賃金との間に補償賃金仮説が成立するかを検証し、WLB施策に関する負の賃金プレミアムの計測を試みる。すなわち、WLB施策と賃金との間に補償賃金仮説が成立しているかを企業・労働者のマッチデータを用いて検証し、成立している場合、賃金プレミアムを計測することによって、労働者や企業がWLB施策の導入に対してどの程度までの低い賃金設定が妥当と考えているか、という数値を導出する。
分析においては、観察されたデータと仮想質問形式のデータの2つのタイプの企業・従業員のマッチデータを利用し、伝統的アプローチと行動経済学的アプローチの双方を用いる。分析上の特徴点としては、従業員データだけでは補捉が不可能な企業側の情報を豊富に利用している点、勤務先企業にWLB施策があるか否かではなく、施策をその従業員が利用しているか(あるいは利用した経験があるか)という情報を用いている点、ホワイト力ラー正社員に対象を限定している点、仮想質問については、従業員だけではなく勤務先企業にも同じ質問を行い、賃金プレミアムに関する労使間の認識のギャップを検証している点などが挙げられる。
分析内容と含意
本稿の分析で得られた結果を要約すると、まず、観察されるデータを用いた伝統的アプローチによる推計では、フレックスタイム制度を利用している男性従業員について、補償賃金仮説が成立していることが認められた。また、フレックスタイム制度を利用することによる平均的な負の賃金プレミアムは、最大で9%と程度となることもわかった。こうした結果は、フレックスタイム制度導入企業は、非導入企業に比べて1割弱程度低い賃金で男性労働者を雇えていることを示唆している。ただし、女性については、フレックスタイム制度や両立支援制度に関する負の賃金プレミアムは検出されないケースが多かった。日本で補償賃金仮説が成立しにくい背景には、より良い労働条件を求めて人々が労働移動を行うような流動性の高い労働市場ではないことも関係している可能性がある。
そこで次に、「仮に施策が導入されたならばいくらの賃下げが必要か」という仮想質問データを利用して、行動経済学的なアプローチから、潜在的な労使のニーズを探ることとした。分析の結果、図にあるように、従業員側は「施策導入の代わりの賃下げは受け入れられない(0%の賃金プレミアム)」あるいは「10〜20%程度の賃下げなら受け入れる」とする回答が多かったのに対して、企業側は「導入は一切考えられない(-100%の賃金プレミアム)」という回答が圧倒的多数だったことが明らかになった。日本で、WLB施策が普及しない背景には、従業員側は施策を導入したとしても賃金は引き下げなくてよいと考えている人が多いのに対して、企業側は施策の導入を多大なコストと考えている先が多いという、認識の大きなギャップがあることがうかがえる。現実のデータを利用した推計結果で、負の賃金プレミアムが検出されにくかったが、その背景には、こうした認識のギャップが大きすぎて、施策を賃金を引き下げることで買い取るという取引がわが国では成立していない現状があると解釈することができる。
もっとも、「施策を導入したとしても賃下げは考えられない」とする従業員と、「施策導入は一切考えられない」とする企業をサンプルから除いた場合、図にあるように、フレックスタイム制度などの柔軟な働き方についての従業員側の平均賃金プレミアムは-25%程度であり、一方で企業側の平均賃金プレミアムは-12%程度であることも明らかになった。つまり、企業は施策導入には1割程度の賃下げが必要と考えているが、労働者は平均で2割以上を引き下げてでもこうした施策の利用を希望していることを示唆する。これらの結果は、労働市場の流動性が乏しいわが国においても、企業が労働者の潜在的なニーズをうまく汲みとることができれば、フレックスタイム制度などの導入により従業員の厚生を高めることができるだけでなく、人件費の大幅削減が実現可能となるケースもあることを示唆している。
図:仮想質問にもとづくWLB施策(柔軟な働き方)の賃金プレミアムの分布
参考文献
? 山本勲・松浦寿幸、「ワークライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか?― 企業パネルデータを用いたWLB施策とTFPの検証 ―」RIETI Discussion Paper Series 11-J-032、2011年
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j004.html


2011年度の成果
RIETIディスカッション・ペーパー
? 11-E-078
"Employment Protection and Productivity: Evidence from firm-level panel data in Japan" (OKUDAIRA Hiroko, TAKIZAWA Miho and TSURU Kotaro)
? 11-E-077
"What Does a Temporary Help Service Job Offer? Empirical suggestions from a Japanese survey" (OKUDAIRA Hiroko, OHTAKE Fumio, KUME Koichi and TSURU Kotaro)
? 11-E-047
"Evidence of a Growing Inequality in Work Timing Using a Japanese Time-Use Survey" (KURODA Sachiko and YAMAMOTO Isamu)
? 11-J-061
「非正規労働者の幸福度」(久米 功一、大竹 文雄、奥平 寛子、鶴 光太郎)
? 本稿では、ウェブアンケート調査の結果を用いて、日本の非正規労働者に対して必要な政策的対応について、その主観的幸福度の決定要因を包括的に分析して検討した。具体的には、非正規雇用における派遣労働・パート等の雇用形態、その選択理由、雇用契約期間、過去の経験等の違いに注目するとともに、継続調査されたデータの利点を活かして、個人の固体効果を考慮したパネルデータ分析を行った。

その結果、(1)未婚、(2)短い雇用契約期間、(3)非自発的非正規雇用、(4)高校卒以下の学歴、(5)過去の労災経験といった労働者の属性は、主観的幸福度を引き下げていた。このことは、今後の非正規雇用問題への政策対応として、家族政策との関わりも考慮した施策、雇用契約期間の延長、非自発的非正規雇用者に対する正規雇用への転換・登用等のキャリアパスの整備、教育機会提供や就学支援、職場での安全対策推進やその後のケアが、非正規労働者の主観的幸福度の増進に資する可能性を示唆している。
? 11-J-060
「有期労働契約法制の立法課題」(島田 陽一)
? 11-J-059
「『同一労働同一賃金』は幻想か?―正規・非正規労働者間の格差是正のための法原則のあり方―」(水町 勇一郎)
? 11-J-058
「規制強化に向けた動きと直視すべき現実」(小嶌 典明)
? 11-J-057
「『多様な正社員』と非正規雇用」(守島 基博)
? 11-J-056
「貧困と就業―ワーキングプア解消に向けた有効策の検討―」(樋口 美雄、石井 加代子、佐藤 一磨)
? わが国では就業していても貧困である世帯が多いということが、貧困の国際比較研究から明らかになっている。このようなわが国の貧困の特徴を踏まえて、本稿では、慶應家計パネル調査(KHPS)2004-2010のデータを用い、わが国における貧困と就業との関係について分析を行った。分析の結果、わが国では非正規労働者として就業している世帯において失業や無業世帯よりも貧困率が高いこと、しかしながら、貧困層からの脱却割合を前年の就業状態別に見ると、無業であった世帯に比べ、非正規雇用であっても就業している世帯のほうが脱却割合の高いことがわかった。一方で、正規雇用においては、貧困率がもっとも低く、非正規から正規雇用への転換が貧困解消の1つの有効な策であることが示唆された。そこで非正規雇用から正規雇用への転換の促進に有効な政策支援を分析してみると、自己啓発を行っている人の転換割合がとくに女性労働者において有意に高いことがわかり、自己啓発といった能力開発への専門家による助言や資金的・時間的支援が有効であることが示唆された。また、失業者の貧困対策として、失業保険受給の資格の有無、および実際に受給したかどうかの別に貧困からの脱却割合を比べると、失業保険に加入しており、給付を受けながら、就業支援を受けた人でその割合は高く、加入していなかった人で最も低いことがわかった。すなわち、失業給付は失業時の所得保障の役割を担うだけではなく、これとセットとして行われる就業支援により、その後の就業確率も高める効果をもっていることが確認された。他方、失業保険に加入していなかった失業者の場合、もともと雇用条件の良くない雇用機会に就いていた人が多く、今後、こうした人への所得保障と就業支援の強化が求められる。
? 11-J-055
「派遣労働は正社員への踏み石か、それとも不安定雇用への入り口か」(奥平 寛子、大竹 文雄、久米 功一、鶴 光太郎)
? 11-J-054
「派遣労働者に関する行動経済学的分析」(大竹 文雄、李 嬋娟)
? 11-J-053
「人々はいつ働いているか?―深夜化と正規・非正規雇用の関係―」(黒田 祥子、山本 勲)
? 11-J-052
「非正規労働者の希望と現実―不本意型非正規雇用の実態―」(山本 勲)
? 本稿では、『慶應義塾家計パネル調査』(2004〜10年)の個票データを用いて、正規雇用の職がないために仕方なく非正規雇用に就いている不本意型の非正規雇用の実態を明らかにするとともに、就業形態毎に人々の主観的厚生水準がどのように異なるかを検証する。検証の結果、非正規雇用の大多数は自ら選択している本意型であること、しかし不本意型の非正規雇用者は失業者の約1.5倍と無視しえない人数であること、不本意型の非正規雇用は独身、20歳代あるいは40〜50歳代、契約社員や派遣社員、運輸・通信職や製造・建設・保守・運搬などの作業職などで多く、また、景気循環との関係では不況期に増える傾向があることなどが明らかになった。このほか、就業形態の選択行動や就業形態間の移行状況をみると、不本意型の非正規雇用は、同じ非正規雇用であっても本意型とはその特性が異なり、むしろ失業との類似性が高いことがわかった。次に、個々人の主観的厚生指標として心身症状(ストレス)の大きさを点数化した指標を就業形態間で比較したところ、正規雇用よりも非正規雇用や失業、非労働力でストレスが大きくなっていることがわかった。しかし、個人属性や就業選択の内生性をコントロールすると、正規雇用よりもストレスが大きいのは、不本意型の非正規雇用と失業だけであることも確認できた。つまり、非正規雇用だからといって厚生水準が低くなっているとは限らず、その大多数を占める本意型については正規雇用や非就業と厚生水準は変わらない。一方で、不本意型の非正規雇用については、失業と同程度に、他の就業形態よりもストレスが有意に大きくなっており、需要側の制約のために効用が低下し、健康被害という形でその影響が顕現化していると解釈できる。
? 11-J-051
「非正規労働者はなぜ増えたか」(浅野 博勝、伊藤 高弘、川口 大司)
? 過去20年の間に、日本の雇用を取り巻く状況は大きな変化を遂げている。非正規化の進展は最も顕著な現象の1つであり、1986年には17%程度であった非正規労働者の比率は、2008年には34%までにも増大している。本稿ではこの非正規労働者の増加という長期的傾向の解明を試みる。まず同時期における非正規労働者の正規労働者に対する相対賃金は非常に安定的であり、このことは非正規労働者の相対的な需要のみならず供給も増大していることを示唆している。ただし、産業構造の変化や労働人口構成の変化は非正規労働者の増加の4分の1程度しか説明しておらず、残り部分については、女性労働者の非正規就業確率の上昇、あるいは卸売・小売業やサービス業における非正規雇用需要の増大などが大きな要因となっている。また、企業データを用いた分析からは、非正規労働者の増加の6割程度を、産業構造の変化と生産物需要の不確実性そして情報通信技術の導入によって説明できることが示された。

※本稿は、英語版のディスカッション・ペーパー(11-E-021)を日本語版にしたものである
? 11-J-050
「派遣労働者の生活と就業−RIETIアンケート調査から」(大竹 文雄、奥平 寛子、久米 功一、鶴 光太郎)
? 11-J-049
「非正規雇用問題解決のための鳥瞰図−有期雇用改革に向けて−」(鶴 光太郎)
http://www.rieti.go.jp/jp/projects/program/pg-07/001.html


生活保護制度をめぐる最近の動向
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 776(2013. 3.19.)

生活保護の受給者は近年急増しており、特に、稼働能力のある受給者の増加が
問題視され、制度改革は喫緊の政策課題である。
本稿では、生活保護制度をめぐる最近の動向を整理する。
現状と問題点では、受給者等の現状をデータで概観するとともに、報道等で取
り上げられている問題として、年金支給額・最低賃金額との逆転現象、医療扶助、
不正受給、「貧困ビジネス」、親族間扶養義務の厳格化問題を紹介する。
国と地方自治体の施策では、国の施策として、自立支援プログラム、学習支援
の制度化、第2 のセーフティーネット施策、地方自治体の施策としては、自立促
進施策、貧困の連鎖に対する対策、不正受給対策を取り上げる。
改革の議論等の状況では、政府に設けられた部会等での議論の状況を整理し、
その論点を概観する。

はじめに
T 現状と問題点
1 受給者数等の現状
2 最近取り上げられた問題
U 国と地方自治体の施策
1 国の施策
2 地方自治体の施策
V 改革の議論等
1 社会保障審議会生活保護基
準部会
調査と情報
第776号
2 生活保護制度に関する国と
地方の協議
3 社会保障審議会生活困窮者
の生活支援の在り方に関す
る特別部会
4 財政制度等審議会
おわりに


はじめに
生活保護の受給者は近年急増しており、特に、稼働能力のある受給者の増加が問題とな
っており、不正受給や生活扶助基準をめぐる報道、制度改革への議論が続いている。
本稿では、生活保護制度の現状と問題点、最近の国と地方自治体の施策、改革の議論等
の状況を概観する。
T 現状と問題点
1 受給者数等の現状
生活保護の受給者数は、平成23 年3 月末時点で、59 年ぶりに200 万人を超え1、その
後も増加を続けており、平成24年3月末現在では210万8096人となった2(図1参照)。
図 1 生活保護受給世帯数、生活保護受給者数、保護率の推移
(出典)厚生労働省『平成24年版厚生労働白書』2012, p.517.
平成23年度における受給世帯に占める「高齢者世帯」の割合は、42.5%と依然最多であ
る。一方で、高齢者世帯、障害者等世帯、母子世帯のいずれでもない「その他の世帯」が
平成20 年度まで10%前後であったものが、平成21 年度には13.5%、平成22 年度には
本稿におけるインターネット情報は、平成25年3月11日現在である。
1 厚生労働省『福祉行政報告例(平成23年3月分概数)』(平成23年6月14日)
<http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/fukushi/m11/03.html>
2 厚生労働省『福祉行政報告例(平成24年3月分概数)』(平成24年6月13日)
<http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/fukushi/m12/03.html>

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8094030_po_0776.pdf  

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コメント
 
01. 2013年3月22日 01:16:42 : 5FidTbXBPE
【第11回】 2013年3月22日 西川敦子 [フリーライター]
「男性の貧困化」と「3歳児神話」が元凶!?
なぜ母親たちは実の子を虐待してしまうのか
日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。

国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――出生や死亡の見込みが中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦直後の人口とほぼ同じ規模だ。

どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?

――この連載では、高齢になった未来の私たちのため、そしてこれからの時代を担うことになる子どもたちのために、日本の将来をいろいろな角度から考察していきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。

誰が子どもを虐待するのか

 1週間に1人――。

 虐待(ぎゃくたい)で命を落とす子どもは、今、年間約30〜50人にのぼっている。

 心中も入れると、昨年度は98人の子どもが虐待で亡くなっている。昨年1年間に虐待で児童相談所に通告された子どもは、1万6387人だ。

 とてもかなしい数字だけれど、ちょっとここで考えてみよう。子どもを虐待した挙句、殺してしまうのは家族のうち誰だと思う?

1.お父さん
2.継父
3.継母
4.お母さん
5.おじいさん、おばあさん

 答えは「4」。その子を産んだ実のお母さんだ。

 厚生労働省の調べによると、その割合はおよそ60%。次いでお父さん、その次がお母さんの交際相手(継父)の順になっている。なお、死んだ子どもたちのうち、一番多かったのは0歳児。半分近くにおよんでいる。3歳以下の乳幼児の割合は80%以上だ。

 なぜ、母親たちは自分の手で我が子をあやめてしまうのだろうか。今日は、少子化が進む裏で社会問題化している、「子どもの虐待」について考えてみよう。

無保険、養育費ナシの“貧困ママ”たち

 みんなも知っての通り、子どもの数は減り続けている。2010年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)は1.39。2055年にはさらに減って、1.26になると推定されているよ。

 一方、2011年度、児童相談所がおこなった児童虐待の相談対応件数は約6万件。この20年で約50倍に激増しているんだ。また、全国の警察が2012年に摘発した児童虐待の摘発件数は約470件で、前年より20%以上増えた。これは統計を取り始めた99年以降、もっとも多い件数だよ。


うえの・かよこ
徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 教授 おもな著書、共著、編著に「国境を越えるアジアの家事労働者 − 女性たちの生活戦略」(世界思想社)、「児童虐待の社会学」「児童虐待の<構築>」(ともに世界思想社)、「児童虐待のポリティクス − 「こころ」の問題から「社会」の問題へ」(明石書店)など多数。
「ただ、本当に子どもにひどいことをする親が増えているかどうかはわからない」と説明するのは徳島大学教授 上野加代子さん。

「2000年、児童虐待防止法が施行されて以来、児童相談所に加えて、市町村も子どもの虐待問題に取り組むようになりました。住民に『怪しいと思ったらすぐ通告を』と呼びかけ、その結果、相談処理件数が増えた――と考えられます。また、じつは1歳児未満の子どもの殺害である嬰児殺(ほとんどの加害者は親)の数をみると、1970年代中頃から大きく減ってきています。もちろん、数が減ってきても深刻な問題であることには変わりありません」

 一般的に、子どもの虐待の背景には格差問題があると考えられている。とくに注目されているのが“貧困ママ”の増加だ。

 昨年3月、TVや雑誌で話題になった「貧困女子」。「今や単身女性の3人にひとりは、可処分所得125万円以下」という衝撃のニュースが流れた。子どもを抱える単身女性の場合はどうなんだろう。    

 全国母子家庭調査(平成23年度・厚生労働省)の結果を見てみると、母子世帯のお母さんが働いて得る平均年収はたったの180万円程度。

 しかも、雇用保険に加入していない人は約40%いる。公的年金の未加入者も16%いたうえ、健康保険に入っていない人も6%いた。さらに、元夫から「養育費をもらったことがない」人はなんと60%以上にのぼっている。

母親を追い詰める「男性の貧困化」と「3歳児神話」

 母子世帯はおよそ124万世帯。5年前より8万7000世帯も急激に広がった。このうち、「離婚が理由」という世帯はほぼ80%。未婚の母も8%で、死別を初めて上回った。

 離婚するお母さんたちが増えている背景には、「男性の貧困」がある。長らく続いた不景気が災いし、夫の失業や借金がもとで離婚したカップルは多いにちがいない。仕事や職探しのストレスから妻に暴力をふるう夫も続出している可能性がある。2012年中、警察が認知したDVは約4万4000万件。統計開始以来、最も多い。

 苦しい生活に暴力夫。こんな環境で子育てするのはかなり大変そうだよね。

 非正規雇用が広がったおかげで男性の収入が減り、結婚できない人が増えた。その一方、離婚やDVも増えている。そしてもしかしたら虐待も――。少子化と子どもの虐待の根っこは同じなのかもしれない。

 だが上野さんは、「貧困と虐待を簡単に結びつけるのは危険なこと」と指摘する。

「たしかに貧しい母親の中には、子育てのストレスや不安を抱える人も多いでしょう。ひとり親の場合は、両親が揃っている家庭に比べ、子育ての負担も大きくて当然です。しかし、本当の原因は貧困ではなく、『子育ては母親の仕事』という社会意識そのものなのではないでしょうか」

「子育ては母親がするもの」というのは、日本人にとっては、ごく一般的な考え方だよね。とくに「3歳までは、母親が手元で育てなければならない」という“3歳児神話”は根強く定着している。とはいえ、この考え方はもともと日本にあったものじゃない。英国の精神科医の研究が、高度経済成長期に取り入れられ広がったんだ。

 企業戦士のお父さんにとって、育児を任せることのできる妻の存在なくして、家庭は成り立たなかったことだろう。なにしろ、同時並行で「核家族化」もどんどん進んでいたから。

 昔は、おじいちゃん、おばあちゃんだけじゃなく、親戚や近所の人たちがみんなで子育てを手伝ってくれた。野良仕事の間、幼い弟妹の子守をしてくれる兄姉たちもいた。今の時代なら「ネグレクト(育児放棄)」なんて言われてしまいそうだ。

 現代はそうはいかない。だから、子どもが生まれると親の助けがない女性の中には、仕事を辞める人もいる。前出の調査結果では、母子家庭になる前、つまり離婚などをする前の就業状態を見てみると、4人に1人が専業主婦となっているよ。

 家庭に戻ったお母さんたちは、ひとりで子育ての責任を背負わなければいけない、というプレッシャーに追い詰められてしまうこともある。1998年の厚生白書の調査結果を見ると、「育児に自信がない」という母親は、仕事を持つ母親よりむしろ専業主婦に多い。ワーキングママも大変だけど、保育所を利用することもなく、ひとり子育てに向き合う専業主婦も孤独なのだろう。

 つまり、今の日本は母親の子育てストレスが高まりやすい社会だといえる。そこに、経済苦が加われば不安が高まるのもうなずける。

 父親より、継父より、母親が我が子を虐待死させてしまうケースが多いのは、子育ての責任を負っているのがほかならぬ彼女たちだからなんだ。

「鬼母」の烙印に怯えるシングルマザーたち

 虐待事件が起きると、社会はとかく「鬼母」を非難し、「貧困」を問題視する。

「最近は、貧しい家庭、母子家庭というだけで、児童相談所から『虐待の可能性が高い』と判定されやすくなります」と上野さん。「完璧に子育てしなければ虐待で通告されてしまう」「周りから自分の子育てを監視されているのでは」という思いがお母さんをさらなる不安に駆り立てている、と話す。

「今の日本の虐待防止の取り組みは、そうした母親への『こころのケア』に重点が置かれすぎているようです。母親のカウンセリングだけでは子どもの虐待を解決することはできません。それ以前に、余裕をもって子育てができる社会の環境作りこそ重要なのでは」

 海外に目を向ければ、いろいろな創意工夫を盛り込んだ子育て政策がある。

「とくにシンガポールや香港などのアジアの経済発展国は、ユニークな政策を取っています。海外から人材を大量に受け入れており、一般家庭でも家事や介護、子育て労働を担ってくれる外国人労働者を雇い入れられる。しかも安い賃金で、です。

 だから女性は出産しても仕事を辞める必要がない。おかげで国の税収も増えます。こういう国の人たちに日本の母親の育児不安について話すと、『育児不安って何?』という反応ですね」

 育児支援先進国・ノルウェーの取組みも興味深い。女性の多くが仕事を持っているこの国では、1〜5歳児の約9割が保育所や幼稚園で育つそうだ。しかも、男女ともに有給の長期育児休暇が取得でき、9割の父親が育児休暇を取っている。おかげで、ノルウェーの合計特殊出生率は目下、回復中だ。1984年には1.65と最低だったものの、2011年には1.9に伸びている。

 日本でも方法はある。

「たとえば、介護保険の子育て版のような制度を整備する。かつて老親介護は子どもや嫁の責任とみなされ、自宅で寝たきりの親を看病するケースが圧倒的でした。今では施設やヘルパーなどのサービスを利用でき、家族で抱え込まずにすみます。もはや男性ひとりの給与で家族が生活できる時代ではありません。誰もが結婚できるとは限らず、離婚も増えています。介護保険と同じような発想の大転換が子育てにも必要です」(上野さん)。

 子育ての環境作りはそのまま少子化対策にもなるはずだ。

 産みにくいだけでなく、育てにくい国・日本。原因は長らく続いた不況だけではない。子育てを家族の問題とする政策、女性の働き方や子育てに対する “ひと昔前の常識”を、もっと見直す必要があるのかもしれないね。

「社会が全面的に子育てを支援する」。そんなの世の中になれば、児童虐待も少子化問題もきっと解決の方向に向かうはずだ。
http://diamond.jp/articles/print/33632


02. 2013年3月22日 01:46:13 : 5FidTbXBPE

ああ減収、どうする!老後のお金


60歳を過ぎても「ひっぱりだこ!」3つの条件

65歳定年 勝ち組さん、負け組さんの分かれ目

2013年3月22日(金)  野村 浩子

 今春から改正高年齢者雇用安定法の施行により、希望すれば全員が65歳まで働けるようになる。「これで老後は一安心」と思うのは早計だ。定年後の再雇用で激減する給与水準に耐えられるか。65歳定年時代を生き抜くために求められる「稼ぎ力」「家計力」を、日経マネー編集部が2回に分けて解説する。
 2回目は60歳を過ぎても働き続けるコツを探る。定年で肩書きがはずれても「俺にそんな仕事をやらせるのか」「そんなに給料もらってない」と、上司風を吹かせるようなシニア社員は次第に居場所がなくなり、65歳を前に自ら辞めていくケースもある。ではどんな人が求められるのか。

イラスト 白根ゆたんぽ(以下イラスト同じ)
 60歳を過ぎて会社に残って活躍できる人、退職後に他社でも活躍できる人、「シニアでも引っ張りだこ」の人には大きく3つの共通項がある。

 まず筆頭に挙げられるのが「目線の低さ」だ。

 「ボクはこう思うけど、どうだろう」「これをやっておこうか」。大手建設会社の海外営業部門で参与として働く山下正治さん(仮名、64歳)は、職場で言葉づかいに気を遣う。60歳定年を機に営業部長からプレイヤーとなり、元部下が上司になった。

 山下さんは海外営業畑30年、10年以上の海外駐在経験があり、英語とスペイン語を操る大ベテランだ。しかし、偉そうなそぶりは一切見せない。「年寄りのほうこそ、気配りをすべき」が持論。ただでさえ、シニア社員は使いにくいと思われがち。過去の成功体験をふりかざしたり、元部長のような振る舞いをしたりするのは禁じ手だという。

 山下さんの会社では60歳以降は単年度契約の嘱託社員で、A、B評価でないと契約が更新されない。職場で煙たがられては終わりだという。

 今春から、改正高年齢者雇用安定法の施行により希望すれば65歳まで働けるようになった。とはいえ、定年で肩書きがはずれても「上司風」を吹かせる人は、職場で浮いてしまう。「俺にそんな仕事をやらせるのか」「そんな給料もらってないぞ」と威張るシニア社員は次第に居場所がなくなり、65歳を前に自ら辞めていくケースもある。

監査役を退き、ハローワークに足を運ぶ

 定年後、どこかの会社で役員でもできないか。会社員の多くが夢見る転身を果たした鈴木洋介さん(仮名、64歳)。大手素材メーカーの子会社監査役を退いた後、ITベンチャー企業の監査役に就いた。鈴木さんの再就職を成功させた鍵もまた「目線を下げたことだ」。

 前職を退いた後、日本監査役協会やヘッドハンティング会社に登録する一方、ハローワークや区役所にも頻繁に足を運んだ。無料のカウンセリングや講習を何度も受けたという。「大企業の看板を自分の実力と思ったら大間違い。自分の力で何ができるか見つめ直そうと思ったんです」。いざとなったら、月収20万円の区役所のパート職員に応募しようと考えていた。健康なうちは年金をもらわずに働きたいと考えたのだ。

 現職は、人材紹介会社ジーニアスから情報提供を受けて自ら公募に手を挙げた。面接では「ベンチャー企業の監査役としてやりたいこと」をアピール。実際に入社してみたら、大手企業にはない問題が山積していることに気づく。「上司へのホウレンソウができていない」「経営層への企画提案が体を成していない」……。

 前職の物差しからすると、未熟なことばかり。しかし「上から目線」でダメだと決めつけることはしない。「成長産業は面白いねえ」と言いながら、平均年齢30歳の社員らと目線を合わせて課題に取り組んでいる。

「大手管理職病」は敬遠される


銀座セカンドライフの片桐実央社長。「先生と呼ばれたいという動機で、資格を取って独立しようとするのも危ない」と言う。(写真:大槻 純一)
 60歳で肩書きが外れても、また退職しても「目線が高い」人は敬遠され、次第に仕事が来なくなる。シニア起業を支援する銀座セカンドライフの片桐実央社長は、これを「大手管理職病」と呼ぶ。

 「大手管理職病」とは、例えばこんな症状だ。退職後に作った名刺に「元○○商事」と入れ、初対面では必ず「かつて○○商事で営業本部長を務めておりました」と名乗る。打ち合わせの席でも、片足組んで椅子の背に手をかけるなど「見るからに偉そう」な態度を取る。中には管理職が長く、コピーの取り方やファクスの送り方がわからない人もいる。そんな人が、小規模な企業に転職すると「俺にそんなことまでやらせるのか」と怒り出す。

 近年登録者が急増するシニア専門人材紹介会社では、大手企業の元管理職や役員を中小企業に紹介するケースが多い。そこでも引っ張りだこ人材と、そうでない人との差が開いている。「仕事が紹介できない」人には、やはり大手管理職の発想や行動パターンから抜け出せない人が多い。

 何百億円、何千億円単位のプロジェクトをまとめてきたため、数十億円単位の事業で苦しむ中小企業の課題がわからない。中には、「君らが足を運んでくるのが当然だよね」という態度を取ったり、ベンチャー企業の社長に「この若造が」という目線で接したり。自分の言うことを聞いていれば間違いないと、過去の成功体験を押し付ける人もいる。たとえ前職が一部上場企業の役員であっても、こうした人は「市場で必要とされない人材」となる。

中国、フィリピンでアジア動向を探るシニア起業家

 シニアでもひっぱりだこ人材となる第二の条件は、「現場力」だ。さびつかない専門性を持ち、フットワーク軽く現場で活躍し続ける力があるかどうか。


ジーニアスの三上俊輔社長。「専門分野の職能が時代に合わなくなっている人もいる。特に長年、管理業務に専念していた人は要注意です」
 シニア専門人材紹介会社ジーニアスの三上俊輔社長によると、登録者の中で最も評価が高いのは「業界、職能、地域の3つの軸で専門性が高い人」だという。たとえば、建設業界で決算まで経験した経理担当者で、ビジネスでも通用するほど中国語が堪能なら市場価値が極めて高い。このうち一つか二つでも秀でていれば、求められる人材となる。

 IT関連企業のシニアスペシャリスト鈴木誠さん(仮名、64歳)は、この3つの軸で専門性の高い人材と言えそうだ。60歳の定年を境に部長職を退き、単年度契約の嘱託社員となった。仕事内容は、海外の情報システムを日本で販売するプロジェクトの推進役。コンピューター業界で40年近く実績を積み、米国駐在も経験した。

 語学力はもちろん、コンピューターの専門知識、海外との交渉力、いずれも折り紙つきだ。十数年間部長を務めるなかで「どこを押して、誰に任せればプロジェクトが回るか」という社内調整力も磨いてきた。定年を過ぎても「是非会社に残ってくれ」と請われたのもうなずける。

 今春の完全リタイアを前に欧州に出張。会社を辞める数週間前のことだ。「ボクなんかが行っていいの?」と遠慮したが、「鈴木さんでないとまとめられない、ぜひお願いします」と頭を下げられたという。64歳の今なお、高い現場力を保っていることが窺える。

 「現場力」に長けた人は、会社を飛び出しても市場価値が高い。57歳で起業し、年商3億円まで会社を成長させたロイエットの池田眞一社長も、その一人だ。


池田眞一さんは57歳で、技術コンサルティングの会社を興す。現在は大手製造メーカーの工場の一角にオフィスを置く。(写真:大槻 純一)
 中堅の製造メーカーで技術者として活躍し、その後営業や総務、経理も手掛け、最後は役員にまで昇進した。「社長と意見が食い違い」退職。前職の取引先から、工場の業務改善を頼まれたのがきっかけで起業した。その工場の目覚ましい効率化が評判となり、現在は大手製造業の部品受注管理も手掛ける。今ではその工場内に自社事務所を置かせてもらうまでに信頼を築いている。

 一般的に退職時が知識、人脈のピークと言われるが、池田さんはインプットも怠らない。部品仕入れ先である中国やフィリピンに3、4カ月に一度は出張し、アジアの最新動向も押さえている。顧客のニーズに深く向き合ううちに、シニア技術者の内外派遣といった新事業のアイデアも沸いてきた。引退を考える余裕もないほど忙しい日々だ。

現場で共に汗を流して課題に取り組む

 シニア引っ張りだこ人材、第三の条件は「問題解決能力」。課題を見い出し、一緒に汗を流しながら解決する力があるかどうか。総論で語って指示を出すだけではなく、具体論に落とし込んで率先して課題解決にあたる力が問われる。

 上場企業の元部長、役員3000人ほどを抱える「顧問名鑑」(レイスマネジメントソリューションズ)の中でも、売れっ子顧問の田中昭義さん(仮名、61歳)。本業は医療系コンサルティング会社の経営者だが、顧問名鑑の紹介で常に2〜4社の顧問を引き受ける。依頼が途絶えず舞い込むのは、田中さんの問題解決能力の高さにある。

 「よし、俺も一緒に営業に行くぞ」。田中さんはある日、若手社員とともに取引先に出かけた。さながら営業部長だが、この会社では月4日出社する顧問である。大手企業との取引を始めたいと考える中小企業は少なくない。

 そんな企業に対し、外資系医療品メーカーで営業部長を務めていた田中さんは、大手製造業、医療界など幅広い人脈を生かして新規取引先を探る。単に助言をするだけではない。自らアポを入れ顧問先の社員を連れて営業に赴く。こうして「門前払いをされていた大手企業」との取引を切り開いてきた。

 営業販路の開拓だけではない。顧問先が新規事業の開発に悩んでいれば、事業アイデアも出す。既にiPhoneを使った遠隔診療システムなどいくつかの事業が動き始めている。

 田中さんは工学部出身、メーカーで技術者を務めた経験もある。大手医療品メーカーでは営業部長として部下200人を率いてきた。技術も営業もマネジメントも分かり、現場で共に汗を流しながら問題解決にあたる。3つの条件すべてを満たしていると言えそうだ。

やはり人柄


「顧問名鑑」事業部長の堤寛夫さん。「生涯現役で働きたいなら、現役時代からチームで課題解決にあたる力を磨いておきたい」
 そしてもうひとつ、引っ張りだこの理由がある。顧問名鑑の事業部長、堤寛夫さんによると「やはり田中さんのお人柄です」。中小企業の社長が「そんなのうちの会社では無理です」とあきらめ顔でも「不可能ではない。可能な線を探ってみよう」と難題に取り組む。60歳を過ぎたいま、年収は1500万円前後。大手企業の営業部長時代と変わりないのも、市場価値の高さを物語る。

 シニア人材に求められる目線の低さ、現場力、問題解決能力――。いずれも定年後にすぐに身に着く力ではない。現役時代から部下とどう向き合うか、取引先とどう対するか。40代、50代で仕事にどう取り組むかが問われる。

 では定年間近ではもう手遅れかと言えば、それは違う。目線を定め直す、マインドセットを変えるのは何歳からでも出来る。これまで積み上げてきたキャリアの棚卸しをしてみれば、現場で使える能力スキルも見つかるはずだ。


野村 浩子(のむら・ひろこ)

日経マネー副編集長

老後に必要な資金は1億円と言われる。このうち「7割程度は退職金や公的年金でまかない、残りを貯蓄などで備える」というのがこれまでの常識だった。だが減収・退職金制度の見直しなどで、新たな対策を打たないと、老後資金が不足する老後難民になってしまう。「これからの老後資金はどうなる のか」「老後難民になる人・ならない人の別れ目は」などを日経マネー編集部が解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20130318/245212/?ST=print


最近の若者と昔の若者を比べてみた

2013年3月22日(金)  横田 尚哉

 50代の人が、20代の人のことを、「最近の若者」と表現するのを良く耳にします。40代の人でも言う方もおられます。そもそもこの言葉は、大昔から言われ続けているようです。どの時代でも、言われているというコトは、そういうモノなのかもしれません。

 では、いったい、何と比べて「最近」なのでしょうか。ちょっと分析したくなりました。最後には、「昔の若者」と「最近の若者」をFASTダイアグラムで表現してみました。

時代は変わっている

 もう、時代は変わっているのです。「最近」の若者と比べているのは、「昔」の若者です。そして、昔の若者とは自分の若い時のことです。つまり、自分と同じ考えができない、自分と同じ行動ができないという、いらだちから来ている使い方が多いのです。その裏にあるのは、若者に自分と同じような考え方をさせたい、行動をさせたいというコトです。

 もちろん、時代が変わっても、基本的なスキルと言うものはあります。若者の中には、やる気がない、自分で考えられない、責任をとらない、考えない、工夫しないなど、ビジネスにおける組織的活動に適合できない人もいます。それが良いはずがありません。

 しかし、変化を受け入れ、進化することも大切なのです。在りし日の最高の状態は、既に過去のモノです。その過去を再現しようとしてもムリなのです。むしろ、来たる日の最高の状態となる未来を具現するコトの方が大切なのです。ネットワークのない時代に戻ろうとするような、世界人口を60億人にするような、コトなのです。

 だから、変わった時代とうまく付き合うことです。頑なに、過去にしがみついては時代に取り残されてしまいます。それができる上司、それができる経営者、それができる企業が、次の時代にも生き残り、勝ち続けていくのです。それこそが明日の決定なのです。

固定観念を捨てる、新しく再定義をする

 今までの定義を、一度、捨てるべきです。これまでずっと理解し続けてきた定義が、正しいとは限りません。その定義をいったん手放すトキがあるのです。手放す時に、邪魔になるのが「しがらみ、こだわり、おきにいり」です。仕事のやり方が変わってしまうとか、スキルを高めるにはこのやり方が一番効果的だとか言うのは、やめましょう。

 もっとも、定義をむちゃくちゃにしてはいけません。同じ定義を使って、多くの人が関わっている場合は、特に注意が必要です。混乱を招き、トラブルのモトとなります。リスクが増えることに対して、慎重に考えていくことも、当然必要です。

 といっても、いつまでも変えないでいるから問題なのです。後でいい、次の人に任せようという、事なかれ主義が問題なのです。私たちは、限界に来ています。時代の変化と昔の定義とがあまりに違ってきたのです。結局、それがリスクになるのです。変えるリスクよりも、変えないリスクの方が大きくなったトキ、それが変えるべきトキ、今なのです。

 そのためにも、再定義が必要なのです。未来の理想の姿からの再定義です。私が企業に対して、経営コンサルタントで行っているのは、再定義なのです。ファンクショナル・アプローチというのがそれを容易にしてくれます。再定義ができれば、一気に前に進めます。

例えば、「最近の若者」はこう考えてみる

 「最近の若者」に戻って、説明したいと思います。30年間の時代の開きは大きいものです。30年前は、1980年代です。第2次オイルショックの影響もなくなり、安心して消費ができる時代に突入しました。日本経済はバブル期により景気が上昇し、若い世代から社会人まで、お金をかけたファッションや娯楽の全盛となりました。

 つまり、ビジネスもプライベートも弾けていた時代です。若者は、動きたくて仕方がない状態でした。そのため、ちょっとした目標を示し権限を与えれば、いろいろ考えて、次々行動していくことができました。

 一方、2010年代はどうでしょうか。辛抱と我慢の時代に育ち、無理をしないで地道に生きていく人が増えました。弾けるのはネットの中だけで、リアルではクールな草食系に安住しました。そういう若者には、教育をしっかりし、指示をきっちり出せば、やる気になります。責任から解放してあげると、安心して行動できるようになるようです。

 若者は、この30年間の間で、時代と共に変わったのです。昔のように行動してくれない理由は、若者のスキルの問題ではないのです。むしろ、ビジネスの仕組みの問題なのです。30年前の仕組みで、今の若者を活用しようとするから、ムリが生じるのです。

ファンクションで考える

 そこで、ファンクショナル・アプローチ(以下FA)で考えてみたいのです。若者の《能力を引き出す》必要があるコトは、昔も今も変わりません。そして、その達成のための手段として《自律を促す》コトと《やる気を与える》コトで実現するところも変わりません。ただ、その先の手段が違うのです。ここに、時代no違い、若者の違いがあるのです。

 例えば、昔の若者は、《責任を課す》と《自律を促す》効用が生まれていました。最近の若者は、《責任を課す》とむしろやる気をなくしてしまいます。だから、《責任を除く》コトが必要なのです。その結果として、《やる気を与える》効用が生まれるのです。

 では、昔の若者には、どうやって《やる気を与える》コトをしていたのでしょうか。それは、《目的を示す》コトだったのです。最近の若者には、《目的を示す》効用はあまり得られません。逆に、《罰則を示す》コトが、《自律を促す》役割になっているのです。

 以上のように、FAで分析すると、目的(図の左側)は同じでも、手段(図の右側)が異なっているコトが分かります。若者の変化を取り入れたビジネスに進化する必要があるというコトです。昔の型にはめようとしないことです。目的意識で手段を手放すトキなのです。

※ FASTダイアグラム:目的手段のロジックでファンクションを整理したファンクショナル・アプローチで用いる重要なテクニックの1つである。右から左に向かって、「何のため」と問いかけて作成する。

横田 尚哉(よこた・ひさや)

株式会社ファンクショナル・アプローチ研究所代表取締役社長。顧客サービスを最大化させる経営改善コンサルタント。
世界最大企業・GE(ゼネラル・エレクトリック)の価値工学に基づく改善手法を取り入れ10年間で総額1兆円の公共事業改善に乗り出し、コスト縮減総額2000億円を実現させる。
「30年後の子供たちのために、輝く未来を遺したい」という信念のもと、そのノウハウを潔く公開するスタイルは各種メディアの注目の的。人間ドキュメンタリー番組「情熱大陸」(毎日放送)にも出演し大きな反響を巻き起こす。
全国から取材や講演依頼が殺到し、コンサルティングサービスは約6ヶ月待ち。「形にとらわれるな、本質をとらえろ」という一貫したメッセージから生み出されるダイナミックな問題解決の手法は、企業の経営改善にも功を奏することから「事業改善」「チームデザイン」「組織改善」の手法としても注目が高まっている。
著書に『問題解決のためのファンクショナル・アプローチ入門』『ワンランク上の問題解決の技術《実践編》』(ディスカヴァー刊)、『ビジネススキル・イノベーション』(プレジデント刊)がある。


「明日の決定学」

経営とは、未来の行動を決定することです。過去の行動を調べ上げることでも、現在の行動を徹底追及することでもありません。社員が、そして企業が、未来にどのような行動を取ればいいかを決めていくのが経営です。過去にとらわれず、現在に縛られず、向かうべき未来を見て、感じなければなりません。これが「明日の決定学」です。
このことは、経営だけではないのです。普段の仕事でも、プライベートでも、日常の決定と、「明日の決定」があるのです。本を読んでも、人に聞いても、ネットで調べても、誰も決めてくれない自分の明日は、自分で決めなければならないのです。
筆者は、これまでも『長期計画の作り方が分かるようになる「感性」「知性」「理性」』、『80年周期のサイクルで世の中を観てみる』、『2012年度は経営指標が使い物にならない』などで、その重要性を伝えてきました。10年後、30年後を見すえた時代のうねりを感じるようにならなければならないのです。
本コラムでは、これからの時代を担う方のために、これまで見えなかった大きな潮流を読み取るコツをつかんでいただきたいと思っています。日常の喧騒から少し離れ、物事の本質を感じとれる力を身につけてもらいたいのです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130318/245153/?ST=print



“働くママ”の子の約半数が22時以降に寝るという事実
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠学(7)
2013年3月22日(金)  川端 裕人

睡眠はとても日常的な「行動」だ。特別な事情がない限り、誰だって毎日眠る。でも、そんな当たり前の睡眠なのに、日本人の5人に1人が問題を抱えているらしい。何が問題なのか。どうすればぐっすり眠れるのか。その答えを探しに国立精神・神経医療研究センターの三島和夫先生の研究室に行ってみた!
 現在の睡眠学について取り上げた前回の連載に、大きな反響があった。
 睡眠をめぐる科学は、我々の日常に密着しているテーマであり、やはり興味を持つ方が多いようだ。
 その時のインタビュー記事は、特にぼくが興味深く感じたところをかいつまんでまとめたもので、「目次」は以下の通り。未読の方は、ぜひご一読を。
第1回 眠らなくなった日本人
第2回 体内時計25時間はウソだった!
第3回 理想は8時間睡眠もウソだった!
第4回 目からウロコの不眠症治療法
第5回 朝型や夜型だけではない。非同調型も見つかった
第6回 ぐっすり眠るための12の指針
 今回は、この6回でつくせなかった部分を掘り下げたり、広げたりしたい。読者から質問を受けてさらに突っ込んで話を伺う必要も感じ、もう一度、東京都小平市にある国立精神・神経医療研究センターに精神保健研究所・精神生理研究部、三島和夫部長を訪ねた。
 前回の「積み残し」と言える最初のテーマは「睡眠と女性・子ども」。
 日本の社会で、人々がどんどん「眠らなくなっている」ことについては前に紹介した通りなのだが、その上で、男女の平均睡眠時間の違いを見ていただきたい。

大反響のため追加取材!
有職者の男女別睡眠時間の各国比較

睡眠時間は調査紙ベースの「主観的」睡眠時間。従来の疫学調査のほぼすべてが主観データである。
 総務省統計局労働力人口統計室が2006年にまとめたこの調査によると、日本の有職者の睡眠時間が世界的にみて短いことに加えて、日本の有職女性が有職男性よりも睡眠時間が20分近く短いことを示している(こういう調査は、質問が書かれた調査紙によって得られた「主観的」睡眠時間であることには留意)。
 日本も含めた10カ国で男女を比較しているわけだが、まず恐るべき事実として、日本での調査結果は10カ国中最低だ。一番よく「寝ている」フランスの有職者女性の8時間38分に対して、一番「寝ていない」日本の女性は7時間33分と1時間以上短い。
 さらに、同じくらい、いやもっと驚くべきは、日本以外のすべての国で、女性の方が男性よりも睡眠時間が長い。言い換えれば、女性の方が睡眠時間が短いのは、日本だけなのである。これはいったい何を意味するのだろうか。この時点で、仕事を持つ日本の女性は、腹を立てても仕方がないかもしれない。
 さらに、母親が長い時間働くほど、子どもの就寝時間が遅くなっていくという調査がある。
 図表を見つつ、三島さんに解説してもらおう。


国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部、三島和夫部長
「まず、一番上の就労時間が週に20時間未満の母親。これは専業主婦を含む群です。そこでも、22時以降に寝るお子さんが昔から見れば増えていて、35%を超えています。それが、60時間のフルタイムワーカーになると、もう半数の子どもが10時以降まで起きているようになる。母親の仕事の時間につれて、階段状に伸びていってるところを見ると、やはり、女性に家事負担がかかっていて、夕食の時間なんかがずれ込んでこういうことになっていってるのかな、と」 
 この調査では「実態」を伝えているだけで、その背景に踏み込んで「原因」を探そうとしているわけではないのだが、三島さんの「解釈」に非常にリアリティを感じる。

 調査の対象になっている子どもは4歳くらいの未就学児だ。ぼく自身の子らがそれくらいの年齢だった頃、保育園に預けて仕事をしていた。当時の記憶では、午後7時に子どもを迎えに行ったとして、そのあと、食事、入浴を済ませ、夜10時までに、寝かしつけようとすると、ひとときも息をつく時間がなかった。会社員のつれあいはかなり帰りが遅い部署だったのだが、たまたま子どもが起きている夜9時半くらいに帰ってきたりすると、そこからまただらだらとコミュニケーションタイムが始まり、就寝時間は遅くなる。「そんな中途半端な時間に帰ってこないでくれ!」と真剣に思っていたことが、リアルに思い出される。
 と、男女逆転な体験談を語ることになってしまったが、夕方から子どもの就寝までの時間は、その時期が過ぎ去った今思っても、甘酸っぱさよりも、大変さの記憶の方が勝る。
 ぼくは、就寝時刻が遅くなった翌日、保育園や小学校での子どもの様子がどうなるか直接は知らない。とにかく直観的に生活リズムが大事だとは感じていたから、超高速で子どもたちを眠らせようと努力した(そして、必ずしも成功しなかった)記憶があるだけで、その点は前から気になっていた。
「遅く寝て健やかに生活してるんだったら全然問題ないんですが、実際には、ご飯食べながらでもガクッと寝てしまう子がいます」と三島さん。
「睡眠時間を要する年代ですので、夜間の睡眠が短ければ短いほど、昼間の眠気が強くなっていく。大人はそうでもないんです。眠気が強くなってもそれに打ち勝って、例えば『ここは寝てはいけない場面だ』とか、緊張することで眠気を打ち消す力があるんです。子どもはそれができないですから」
 なるほど、そういう子がいることは、以前、保育士さんの「お仕事小説」を書いた時に、聞いたことがある。保育士と親は、連絡帳でやりとりをしているし、それでなくとも、送り迎えの時の様子からだいたいのことを把握している。朝、眠たい目をしつつ、親に引きずられるようにして登園する子などはもちろん、だいたい一目見れば睡眠不足が分かるという。
 三島さんは、こんなふうにも付け加えた。
「日中の眠気が強い子どもたちが、自分で『眠いです』って言うと思いますか? 未就学児で食事しながら眠ってしまうというのは分かりやすいですが、眠りはしなくてもやっぱり影響はあるんです。アメリカなんかで、就学児についてよく指摘されてることですけれど、眠気を感じても、授業中は先生たちの目があるからそのままバタンキューって寝るわけにいかなくて、非常にいらだちが強くなる子がいる。それが、見かけ上、注意欠陥・多動児みたいな状態になることがあるんですね。また、一部は学習障害、しかも不思議なことに、特定の事象、例えば計算だけが非常にうまくいかなくなるとか。そのような精神症状になって出てくるものですから、この寝不足っていうのは侮れなくて、むしろ授業中に居眠りしてくれる子どものほうが、まだシンプルで分かりやすいかもしれません」
 単なる寝不足でも、注意欠陥・多動性障害や学習障害のような状態になる、という。話が突然大きくなったようで、正直、驚いた。慢性化したならば、睡眠不足に起因しつつも、紛らわしく区別できないこともあるのではないだろうか。

つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。脳病態統合イメージングセンター部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。秋田大学医学部精神科学講座助手、同講師、同助教授を経て、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員助教授。2006年6月より現職。2010年4月より日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員を務める。

川端 裕人(かわばた・ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider



研究室に行ってみた
世界の環境、文化、動植物を見守り、「地球のいま」を伝えるナショナル ジオグラフィック。そのウェブ版である「Webナショジオ」の名物連載をビジネスパーソンにもお届けします。ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトはこちらです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130315/245089/?ST=print


03. 2013年3月22日 01:50:43 : 5FidTbXBPE
「問題大国」であること、それが日本の強みです。

電通CDC 樋口景一氏 第3回

2013年3月22日(金)  清野 由美

(前回から読む)

樋口景一さんには前2回にわたって、企業経営と広告との新たな関係についてお話をうかがってきました。最終回となる今回は、個人的なことも聞いていいですか。って、樋口さんの睡眠時間はどのくらいなんですか、という質問なのですが(笑)。


樋口景一(ひぐち・けいいち)
電通CDCコミュニケーションデザイン・ディレクター/シニア・プランニング・ディレクター
1970年福岡生まれ。94年東京大学卒業、同年、電通に入社。IMCプランニングセンターを経て 2008年より現職。国内および海外において広告キャンペーンのディレクション、商品開発、コンテンツプロデュース、メディア企画開発を手掛ける。主な仕事にユニクロ「Tokyo Fashion Map」、グーグル/ユーチューブ「東日本営業中」、JR九州「祝!九州」、NHK「知らないって、ワクワク」など。カンヌ国際広告賞金賞、ロンドン国際広告賞金賞、アドフェスト銀賞、スパイクス銀賞、One Show銅賞など国内外の受賞多数。2008年より武蔵野美術大学非常勤講師。2011年クリオ賞インタラクティブ部門審査員、同年カンヌ国際広告賞メディア部門審査員、2013年NYフェスティバル審査員。著書に『発想の技術』(電通選書)。(写真:中村 治、以下同)
樋口:睡眠時間は本当にまちまちです。特に最近は、企業の経営者とのミーティング時間は、朝が早いんですよ。

何時ぐらいから始まるんですか。

樋口:朝7時スタートのプレゼンテーションなど、結構あります。

ああ、はやっ。

樋口:海外と電話をつなぎながらミーティングする、という状況も増えていますし。経営者にとっては、海外とのやり取りはもう日常になっていますから、海外の時間に合わせても大丈夫なようにミーティングの時間をセットすると、朝7時になるんです。ただ、経営者の方々はそれでOKですが、僕らは朝7時と言われると、つながっちゃう。

「つながっちゃう」? ああ、徹夜ということですか。

樋口:ということとかが、往々にしてあるわけで(笑)。

経営者は早寝をしているかもしれないけれど。

樋口:クライアントは、「その間にやっておいてね」で済むんですが、僕らはそういうわけにもいかないので。

そりゃそうですね。

樋口:ですので、どうしても朝早いプレゼンが入るので、睡眠時間は本当にまちまちなんですよ。

平均睡眠時間でいうと、どのくらいになるんですか。

樋口:もう僕の中には、平均睡眠時間という概念すらが、あまりなくなっています。

ないわけですね。

樋口:何とか頑張って5〜6時間は取りたいですけど、なかなか取れないという感じですね。

広告マーケットが動く国に引っ張りだこ

樋口さんは海外出張が頻繁にあるとうかがいました。直近では、どのような国に行かれましたか。

樋口:アジアですね。タイ、インドネシア、ベトナムあたりがすごく多いです。

経済の新興国家で、広告マーケットが動いているということでしょうか。

樋口:まさしくそうです。その3カ国への出張は本当に多いです。クライアントさんから、「タイでこの新商品を売り出したいから、ちょっと一緒に行ってください」と声を掛けられると、心の中で「僕、タイ出張は今月3回目なんですよね…」とつぶやく状況です。

もう東京駅から名古屋出張くらいのノリですね。

アジアでは、どの商品ジャンルが動いているのでしょうか。

樋口:新興国は今、飲料、食品など、いわゆるFMCG(Fast Moving Consumer Goods=日用消費財)といわれるものと、その周辺が多いですね。

もっと大きなものはどうでしょうか。

樋口:アジアでは、自動車、家電あたりはもう一通り日本企業の進出が終わっているんです。日本企業が今、一番進出しているのは、飲料、食品、日用品の領域です。

飲料、食品、日用品の企業は、車や家電に較べると、そんなに新興国の市場開拓に力を入れているイメージではありませんでしたが。

樋口:かつてはそうだったんです。でも、今はまったく違います。その意味でも、状況が刻々と変わってきているんです。

もし樋口さんがベンチャーを立ち上げるとしたら、どの国に、どのジャンルでいきますか。

樋口:僕がよく行くタイ、インドネシア、ベトナムの3カ国でいくと、もちろんすべてにポテンシャルが高いのですが、個人的にはタイがいいですね。経済の伸び率でいうとベトナムが一番高くて、この国は平均年齢が圧倒的に若く、労働力としても市場としてもポテンシャルがある。もちろん消費のポテンシャルでいうと、インドネシアが人口も含めて大きいのですが。

 でもまずベトナムは社会基盤がまさにいま発展している段階なので、読めない部分もある。
賄賂をめぐる「よくわからない」体験

樋口:余談ですが、ベトナムに赴任中の知人がこの間、交通違反で捕まったそうなんです。そういうとき、警察に渡す袖の下の相場があるらしく、それは日本円でだいたい2000円ぐらいらしいんですね。

 で、「これで見逃してくれ」と、2000円を払おうとしたら、5000円札しかなくて、「仕方ないや」と、その5000円札を出したそうなんです。そうしたら律義に3000円のお釣りがきたという(笑)。

なんていいやつなんでしょうか。

樋口:そのくらい、ほぼ「制度化」している。

賄賂が市場価格を形成している。

樋口:もはや、それは賄賂とは言えないかもしれませんね(笑)。というくらい、まだよくわからない部分があるわけです。

インドネシアはどうですか。


樋口:インドネシアは今、すごく大きく動いている、まさしくビッグマーケットなんです。ただ、実は、タイのように国民全体の生活水準が底上げされて豊かになっている状況とは違っていて、一部の人たちだけが急激に豊かになっているパターンなんですね。一部では超特A層が生まれていますが、社会格差が大きく、消費力の偏りが激しいんです。

インドネシアは、中国、インド、アメリカに次ぐ世界第4位の人口を持つ国ですが、ここも超格差社会になっているんですか。

樋口:格差がものすごく広がっています。だから極端に高額なものを売るマーケットとしては、インドネシアはいいんです。

富裕層マーケットなんですね。
樋口:アメリカの音楽業界が今、インドネシアをすごく狙っているんです。実際、小規模なコンサートでも、一席10万円のチケットが飛ぶように売れるんですよ。

それは庶民の生活相場とくらべて、どのくらいの感じなんでしょうか。

樋口:普通の人の一月の生活費は、だいたい2万円強と言われています。

じゃあ、日本の感覚でいうと100万円のチケット。

樋口:そういった、圧倒的富裕層を狙ったビジネスの場合により適しています。

では個人的にはタイと思っている?

樋口:国民みんなが全体的に盛り上がっていて、マスマーケティングレベルで元気なところという意味では、やはりタイがそういう状況だと思います。すでに評価が確定しているところなので、保守的に聞こえるかもしれませんが。

樋口さんだったら、そこで何を売りますか。

樋口:タイの中で今、情報発信源になっている場所があるんです。それはバンコクにあるチュラーロンコーン大学という大学です。そこは、学業も優秀で、流行に敏感な若者たちが集まってくるというところで、めちゃくちゃ金持ちの子女であることと、めちゃくちゃ遊びが好きなことと、めちゃくちゃ勉強ができるということの、三つ全部が揃っているという。

キーワードは「仲間内で楽しく」

ははは。

樋口:それら三者に垣根がないんですよ(笑)。

 それで、その大学にいる人たちに「今、一番やりたいことは何?」と聞くと、「仲間内で楽しくやるのが一番です」という答えが返ってくるんですね。

へええ。中国のように、「ビジネスで成功したい」ではないんですか。

樋口:そういう風にはあまり思っていないんです。彼らに「どんなことをイメージしているの?」と聞くと、「仲間内で小さいお店をやりたい」「仲間内で小さいレストランをやりたい」って、そういう夢を語ってきます。

日本のゼロ年代の若者と通じますね。

樋口:そうなんです。

裏原宿で店を出したい、みたいな。

樋口:そうでしょう。で、そういうことなら、僕らはめっちゃノウハウを持っているぞ、と(笑)。

本当にそうです! 何も自動車メーカーや商社のやり方だけが、日本の売り物ではないっ。

樋口:日本は戦後の高度経済成長の時代から、短期間でいろいろなことをクリアし、経験して、ハードもソフトも、あらゆる分野のノウハウとして持っているわけじゃないですか。アジアや他の新興国の現在は、日本で僕らが経験してきたビジネスなり、ライフスタイルなりが、全部生きる素地がある状態なんです。だからそういうところで仕事をしていると、「あ、これは使える」「あ、これも使える」と、ひらめくことがたくさんあるんです。

電通の社員でありながら、タイでビジネスを始めるということは、アリなんですか。

樋口:いや、だめじゃないですかね(笑)。

もし会社からお許しが出て、週末起業でも、月末起業でもやるようになったら、別口で取材に行きます(笑)。

先に課題に突き当たる宿命がチャンスを呼ぶ

樋口:新興国を回っていると、日本は本当にいろいろな課題を突き付けられ、解決してきた国なんだなあ、と感じ入るんです。敗戦後の経済の復活はまさにそうですし、今、成熟した消費市場で僕たちは数々の課題に直面している。高齢社会も先取りしているし、少子化という問題に対しても、苦しいながらもアプローチを試みている。あと5年ほどしたら、新興国も直面する課題を、僕らはその前に経験しているんですよ。

なるほど。

樋口:高齢者向けの商品群でも、日本では一昔前と違って、きちんとデザインされたものやおしゃれなものが登場しているでしょう。あるいは図書館、幼稚園などの施設が「人が集う場」として新しい表現の場となっている。それは数年後に、新興国でも必要とされるようになってくるんです。

 もちろんモノだけではなく、目に見えないさまざまなサービス、仕組み、考え方もそうです。今、日本で僕らが試行錯誤していることが、数年後は新興国で必要なノウハウになる場面が予想されます。そういう意味では、日本にはまだまだ海外に売れるものがたくさんあるんです。

明るい展望が開けてきました。我々は、だてに失敗しているわけじゃない、と(笑)。

樋口:日本は問題大国ですけど、だてに問題山積みなわけではないんです(笑)。

問題って、こういう風にポジティブにとらえることができるんですね。

樋口:いや、真面目に言って、日本人にとっての最大の資産は「問題大国であること」だと僕は思います。だってこんなに長い間、デフレで苦しみ続けた国もないじゃないですか。ということは、デフレ対策に関して、何をやったら失敗するか、という一連の経験は、僕ら、持ってるんですよ、ということで。

そこからソリューションを導き出していくことが樋口さんの仕事だとすると、ケーススタディーのネタはいっぱいありますね。まさしく今、日本経済が急激に変化していますから。

(樋口さん回はこれで終わりです。CDCシリーズは続きます)


清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130304/244471/?ST=print


それでも「倫理に関しては、正論を説く」ことだ

技術倫理に見る、企業の社会的責任(第3回)

2013年3月22日(金)  田中 芳夫

 日本にも、倫理観や責任感の高さを示す、素晴らしい取り組みを実施している企業があります。例えば、ヤマト運輸は、宅急便1個あたり10円の寄付金を寄付し続けていました。

株主のためだけに事業に取り組んでいるのではない

 このヤマト運輸の取り組みを、経済同友会の委員会で紹介してもらったところ、真っ先に出てきた質問は、株主から訴訟された時の対応についてでした。ヤマト運輸の答えは、「戦っていきます。われわれは社会のために事業に取り組んでいるのであって、株主のためだけに、事業に取り組んでいるのではありません」というものでした。ここまで回答できるのは立派で、オーナー経営的な企業だからできることなのかもしれません。

 日本の場合、オーナー経営の企業の方が正しいことを積極的に実行し、悪いと判断すればしっかりと止めていく傾向が強いように感じます。合議制で、取締役会の意見を集合するような運営の企業の場合、たとえば営業とマーケティング、開発との間に立ち、意見の違いを調整する人物が必要になってきます。

 こうした人材を育てようとする、経済同友会の「プロデューサー型人間」の育成の取り組みに、倫理の項目を加えてほしいと考えています。技術者の懸念を正しく判断できる人物がこうした役割を担わないと、日本の企業が今後、世界に進出していった時に、日本の中では運営できていたつもりでも、世界ではうまくいかない場面が出てくるでしょう。米国なら、懲罰的賠償が課されたり、損害を被った人であれば、誰でもまとめて訴訟することができるからです。

正論を説くと煙たがられるが……

 わたしの技術倫理の講座は、受講生10人のうち外資系企業の所属が3人、残りの7人は日本企業の所属です。講座の中で、いつも外資系企業の従事者と日本企業の従事者との間で、意見の違いが出てきます。外資系企業の従事者の場合、とことん指摘すると主張します。外資の場合、指摘しないと後々、共同責任を問われるからです。

 これに対して日本の企業の場合、正論を説く人物は煙たがられて嫌われてしまう。それでも、倫理に関しては正論を説かないといけないと考えます。

 現在の日本の企業は、立派なCSR関連の文書を作っています。また、多くの企業で目安箱のような仕組みを設け、誰が投じたのかは伏せたまま、問題を提起できるようになりつつあります。ですから、倫理に関してかなりの情報を集めることができるはずです。

 時々、見受けられるのは、そういった仕組みにもかかわらず、問題を提起した人物の氏名をその当事者の相手に知らせてしまうといったことです。こうしたことが起きた場合、その企業の仕組み自体が信用を失い、同時に世間からの信用も失います。

似たような事件を、同じ企業が繰り返すDNA

 また、何か問題が生じた際に、日本では責任を取るという発想に乏しいように感じます。よく米国人から指摘されるのは「原子力発電でこれほどの事故を引き起こしていながら、誰も個人として責任を取っていない」ということです。何が起きても、日本では個人の責任を追及されることはあまりありません。最後は全体で責任を取るということは、何もしないのと同じで不思議だと思われています。

 もし、同じことが欧米で起きていたら、個人の責任が問われているでしょう。設計の問題であれば、設計図に署名した人物、承認した人物など、確認できる範囲で必要な責任が問われることになります。日本のような、みんなまとめて承認印を押すような仕組みは、変えた方が良いでしょう。

 いくつかの企業では、個人で責任を取らないために、同じような事故や事件を、同じ企業が繰り返します。こうしたことを「企業のDNA」と呼んでいます。

 最近では、M自動車がリコールに関する不誠実な情報開示によって、以前のリコール隠しの際に批判された隠蔽体質が再び問われています。前回のリコール隠しの後、当時の社長は辞任しましたが、そのほかは結局責任を取っていなかったということなのでしょう。それでは、その企業の従事者は基本的に変わらないままです。

 ミドリ十字の流れをくむM薬品会社も同じです。同社はかつてのミドリ十字、Y製薬、T製薬、M化学の医薬品部門という4社・部門で構成されている企業です。そしてM社は試験データなどの改ざんを3年前にも起こしています。

 ミドリ十字は、旧・日本軍において、人体実験のうわさが絶えない731部隊の関係者が、創業からその事業の根幹に多く関わってきたことで知られています。ミドリ十字時代に薬害エイズ事件を引き起こして、最終的にM社に吸収されましたが、その後のC型肝炎の問題は、旧・ミドリ十字の人物が起こしているといわれています。薬害エイズ事件とC型肝炎のいずれも、人口血漿から治療薬が作られる際に、非加熱のプロセスで製造するために引き起こされました。

 こうして見ると、日本では最初に入社した企業のDNAを植え付けられてしまうようです。長時間の勤務が続き、その中で出世していった人の姿を見て、染まっていくのでしょうか。こうした企業の「負のDNA」が変わらないのは、やはり、人の動きが少ないからでしょう。

負のDNAを払拭するには、意識の持ちようがカギ

 負のDNAをうまく断ち切ろうとする企業もあります。

 例えば、イタイイタイ病を引き起こした三井金属工業は、二審で負けて、その後、控訴しませんでした。控訴しなかった理由は、それまで数十年間争ってきて、これ以上争ってはいけないとの判断だったそうです。そして、今でも忘れないためにイタイイタイ病資料館を開館し、文献なども大切に残しています。その後、現在まで同じような事件を引き起こしていないので、忘れないように努力しているのでしょう。

 こうした事件は、「忘れたい!」と思った瞬間に忘れてしまう気がするので、残すこと自体が一つの取り組みになります。その点で、パナソニックには感心させられます。今でも、同社のサイトのトップページには、不完全燃焼の可能性があるファンヒーターを探し求める情報を掲示しています。

 パナソニックは、最後の1台まで探し出すことを強調していますが、現実には廃棄されているものも多いため、実現は難しいでしょう。社長も交代し、現実的な回収への効果も低くなってきているので、そろそろ掲示をやめようと考えても不思議ではありません。それでもトップページに掲示し続ける姿勢に、もう一度起こしてはいけない、忘れてはいけないという同社の強い意思を感じます。

技術倫理は一般常識として共有を

 技術倫理の講座で強調しているのは、倫理については、とにかく正論を説いて伝えようということです。その結果、何が起きるのか観察し、変化に合わせてその後の伝え方を考えていこうと話しています。もし、倫理を強調した者の身が危うくなるような企業なら、退社することを含めて考える時期に来ていると思います。

 このように、技術倫理はわれわれだけでなく、一般常識としても共有していかなければなりません。大学の教養課程の基礎として取り組んでもいいでしょう。事例を学んで、意識付けされるだけでも成果はあります。

 文系であっても会計や法務など、倫理を問われる事件の絶えない分野があります。そこでも、不正な会計処理などの指示を受けることがあるかもしれません。その指示に、いけないと思いながらも素直に従うのか、それとも論理的に対処するのかでは大きな違いがあります。粉飾決算がいつまでたっても無くならないのは、倫理の問題です。

 欧米では現在、粉飾決算が発覚したらまず最高財務責任者(CFO)が逮捕されるでしょう。それぞれの事業部単位でも、事業部長は自身の事業部の決算に署名していますので、失職するだけでなく、逮捕されるでしょう。こうした意識が、日本人の一般感覚にはないのではと感じます。

最初に入社した企業に染まる日本のビジネスパーソン

 日本では、企業から別の企業へとあまり人が移動しないため、入社してからの教育や、意思の有無にかかわらない“刷り込み”の影響が大きくなります。わたしがIBMに在籍していた時代には、中途採用で入社してきた従業員の出身企業は、接しているだけで、ほぼわかりました。それぞれの企業ならではの特殊な言葉を使うことでもわかりますが、考え方や雰囲気によるところが大きいのです。こうした従業員たちは、その後、IBMで10年間以上過ごしても、その考え方や雰囲気が変わることはあまりありません。それだけ日本の人材は、最初に入社した日本の企業の色に染まっていきます。

 日本の企業に染まった人の考え方や雰囲気が変わりづらいのは、年が上の順に上役を決めていく人材の配置にも一端があると思います。人の動きが流動的であったり、年下の上司の下で働くといったことは、世界の企業では一般的です。日本も次第に変わりつつありますが、それが当たり前とまでは言えないでしょう。こうなると、考え方や雰囲気が変わりにくく、規範や倫理は、最初に植え付けられたものが正しいと思い込んだまま、過ごしていくことになりがちです。

 こうした倫理の課題について日本の企業に問うと、倫理規範や目安箱などを挙げて、「仕組みを用意しています」と答えると思います。CSRや、内部監査、外部監査などと同じようにです。しかし、仕組みが用意されていても、それをどのようにして、その企業の末端まで機能させているのかが問われます。

 わたしの受講生だけでは、年に10人程度の活動になりますが、受講生が倫理観の重要性に目覚め、それを会社や社会へと広げていくことを望みつつ、これからも講義を通じて議論をしていきます。


田中 芳夫(たなか・よしお)

東京理科大学大学院
イノベーション研究科
教授

昭和48年東京理科大学工学部電気工学科卒業。
IBMにて研究・開発部門企画・事業推進担当理事、マイクロソフトCTOを経て、平成19年1月、青山学院大学大学院客員ビジネス法務専攻客員教授、同年7月独立行政法人 産業技術総合研究所 参与就任。
平成20年より現職。その間、業界団体、官公庁委員会、OECDなどにて委員として参加。
詳細なプロフィールはこちら


http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130304/244502/?ST=print

笑う知性の飛翔・・・山口昌男さんを送る

山口昌男「中心周縁理論」から考える現代日本の閉塞感(3)

2013年3月22日(金)  伊東 乾

 人生には理屈で説明がつかないことがあるものだ。2月初め、何気なく「日本に社会を活性化する装置はあるか?山口昌男『中心周縁理論』から考える現代日本の閉塞感(1)」を入稿した。煎じ詰めて言えば、青く空に抜けるような「笑い」が不足しているという思いから、久しぶりに山口さんのことを書きたくなったのだ。

 すぐ続けてシリーズの2として「グアムとアルジェリアに見る『社会の通気』」を書いたあと、少し間を置いてシリーズの3を書こうと思っていたのだが、突然の山口さんの訃報を受けることになった。3月10日、今ここでこうして僕が原稿を書いている原点を作ってくれた、いわば「父親」の一人、文化人類学者の山口昌男さん(1931-2013)が亡くなられた。

 僕の勝手な事情を言えば「亡くなってしまっていた」という方が実はぴったりくる。山口さんが肺炎のため、都内の病院で息を引き取られた頃、僕は奈良の東大寺の通称「お水取り」修二会のフィールドワークのためほとんど情報メディアとプラグオフしていて、しばらく経つまでその事実を知ることがなかった。お通夜もお葬式にもうかがうことが出来なかった。ずっと奈良で若い連中と現場に張り付いていたからだ。申し訳ないような気もした。だが、いまこういうフィールドワークをしているのも山口さんのお陰なわけだしこういう送り方をさせていただくのも、ひとつの縁なのかもしれない、と思うことにした。

 『なぜ猫は鏡を見ないか』『笑う親鸞』『反骨のコツ』・・・僕は書籍に変なタイトルばかりつける。すべて山口昌男に原因がある。責任がある、とは言わない。実際山口さん自身の書籍は『道化の民族学』とか『文化の詩学』とか、むしろオーソドックスで品格あるものが多い。山口さんの訃報を聞いて、ふと最初に思ったのは、そろそろオドケたタイトルの本を出さなくてよい、ということなのかな、というようなことでもあった。

 4月からの日経ビジネスオンラインのリニューアルで、創刊直後から足掛け7年連載してきた「常識の源流探訪」も、今回を含めてあと4回で一区切りとなる。別の媒体で再開するかもしれないので、ひとまず「休筆」という形を取るが、足掛け7年ずっと書いてきて思うのは、連載があるということは寝ても覚めても気になっているものがある、子供を育てているようなものだということだ。一種の脅迫観念といってもいいだろう。そしてその強迫観念、というより一種の「明るい狂気」のようなものを。僕は山口さんからいただいたと思う。

 幾度か書いた話だが、山口さんとの出会いは本当に偶然だった。1986年、いまからもう27年前のことになる。毎年5月に行う大学の学園祭で実行委員をしていた僕は、作曲家の武満徹さんと三善晃さんの対談を企画した。三善さんはOKだという。だがその時期武満さんは在米で居ないという。正直言うと「東大」で「三善さんと」という設定を忌避されたように思う。後々武満氏の下で働いてみて、そういう判断だったのだろうと想像がつく。で、このおかげで僕の人生は大きく道が開かれた。

 学園祭実行委員会室の黒電話から、手元にあった文化人名簿のようなもので、かたっぱしから電話をかけて三善対談の相手を探した。府中の山口さんのご住所もその中にあったが、正直僕は山口さんの本は2、3冊しか読んだことがなく「現代思想」など青土社の雑誌で書き下ろしの論考を読むほうが多い著者だった。

 山口邸に電話すると、お出になったのは奥さんだった。山口ふさ子さんは「パパは予定空がいてたら出ると思うわよ」とおっしゃる。いきなり電話してきた見ず知らずの学生に、こんなオープンな語り口で親しくしてくださるふさ子夫人の存在は、実は山口昌男を語る上で欠かせないと思う。ふさ子さんの手作りホームページのちょっとした引用を見ても分かる通りだ。山口さんは私を含め若い人間をとてもかわいがってくださった。そこには常に、表裏一体でふさ子さんの二人三脚のサポートがあった。

 「山口昌男という作品」は、本人と、奥さんと、それから多数の編集者たちとの「工房」による共同制作の面があったと思う。原稿は徹底して、特徴的な丸字で、ねじり鉢巻で彼自身が書く、というかほとばしるように生み出してゆく。だがその創造的な状態をバックアップし、資料を整え、仕事に集中できる環境を作ったのは、ふさ子夫人と「山口組」の若い衆とりわけ、共にテニスなど楽しんだ編集者たちであったのも間違いない。そういう人の輪を作るのが天才的にうまい人でもあった。

 突然の電話に「パパはやると思うわよ」と教えて下さったふさ子さんは、すぐ続けてこういった。「パパと三善さんは大学の同級生なんですって。予定が空いてたらきっとやると思うから、ちょっと待っててね」と、電話口を離れ予定を見に行って下さった。

 「たぶん大丈夫だと思うから、夕方もう一度確認で電話してもらえる?」

 夕刻、当日の予定がOKであり、三善さんとの対談を快諾するというご返事をいただき、再来週のいついつに府中のお家におうかがいして打ち合わせをしようということになった・・・

 電話が切れてから、ふと、すごい事になってしまったと思った。それまでにも作曲家や演奏家のオムニバス・ゼミナールなどを組織して、どちらかというとオーガナイズに積極的ではあったけれど、大家のお家にこういう案件でお邪魔する、という経験はなかった。失礼があってはならない。1週間ちょっと日があったので、まずは手に入る限りの山口さんの既刊書を図書館でリストアップした。46冊あったと思う。文庫になっているものなどまだ出ているものは極力買って目を通した。親譲りの速読のお陰で、本をざっと読むのだけは速い。速いが浅い。深く味読するのは別の話だ。浅いが要点は押さえられる。この本にはこんな印象的な事が書いてあった。ここはイイなぁ、と思うフレーズなどはわりに簡単に頭に入ってくる。絶版になっていたものはあちこちの図書館へ借りに出かけ、コピーをとり、ざっと目を通し、自分の中でそれなりに「山口昌男の今まで仕事の全体像」と「これからの可能性」を、あれこれメモなどみてシドロモドロしなくてもいい程度に作りこんだ上で、府中のお家をお訪ねした。

 多磨霊園駅から緑の中を抜けて、けっこうな距離を歩く。実は中学時代この近くに母の友人が住んでいて、毎週日曜日に英語を習いに通った道と重なっていた。変な懐かしさを持って初対面の山口さんにお目に掛かったためだろうか、最初から変な懐かしさのオーラが山口さんの周辺に漂っているような気がした。浅いけれど一応46冊、手に入る限りの彼の本は読んできたので、話が著作や仕事に向かうとたいがいはピントのあったやり取りが出来た。三善さんの話は何かと深刻になりやすい。それを「祝祭的な笑い」に転化しうる切り口があるとしたら? たとえばロシアにもフォルマリズムの土壌になった、深刻な現実を笑劇に転じるような「仕掛け」がある気がする、日本で言うならどんな狂言回しが、それに相当するんでしょうね? Etc etc

 山口さんとの最初の対話はとても楽しく、また一通り著作を読んでうかがったのはよかったようで、「これ以降山口家書庫お出入り自由」と言っていただき、実際には10回もなかったけれど、主人不在の山口家で、膨大な蔵書を好きに読ませていただく機会が何度かあった。

 2時間ほどお話したあと、これから都内に出る所だけれど一緒に行こう、と誘っていただいた。かばん持ちなどしなきゃいけないかな、と思ったが、そんなへんな気は回さなくていいとニコニコされ、歩きながら、また電車の中でも道化アルレッキーノや笑劇コンメーディア・デラルテの話が続いた。

 ところが、京王線が揺れ過ぎたからだろうか、新宿駅に近づくころ、山口さんの体調が悪くなってしまわれた。大丈夫かな、と心配していると・・・ほかの方の追悼文ならこういう話は書かないが、ほかならぬ山口さんなので、書かせていただくと、実は駅のホームで嘔吐してしまったのだ。

 初対面の碩学、と思って緊張していた僕は、いきなり、前日の酒が残っていた二日酔いの山口さんの介抱をすることになった。ポカリスエットを買いにゆこうとしたが水でいいと仰る・・・ものの数分で復調すると、何事もなかったように歩きながらアルレッキーノとヘルメスと水銀の話の続きになった・・・

 すごい人がいるものだ、これは本物だ・・・と21歳の僕はしずかに衝撃を受けた。この話を書くのは初めてと思う。苦しそうにしゃがんでホームから線路に嘔吐するおじさん、としての山口さんは、ゲロゲロしている最中も思考が止まることなく、駅の水のみで口をゆすぐとすぐ、笑いによる日常と世界の転倒を、モノに取り付かれたかのように語り続ける山口昌男その人であった。「全身文化人類学者」とでも言うべき、彼の生き様そのものに、出会った最初の日から、二日酔いのケアという形で僕はご一緒させていただいた。

 思えば、携帯電話もなかった時代に、どうやって連絡を取っていたのだろう?と思う。媒介には「お母さん」たちがいた。山口さんは頻繁にいろんなものに誘ってくださり、僕はそのお供をした。たいがい家に電話があり、母の伝言を聞いて山口邸にお電話すると奥様が出られ、確認をお伝えする。

 思えば過保護というか、手間の掛かる時代だった。でもその分、家族がひとつで居られた時代でもあった。コンサート、芝居、映画の試写会・・・さまざまな場にお供させていただいたのは、当時山口さんが東京外語大アジア・アフリカ研の教授で、指導学生が少なかったからだと思う。多くは編集者がお供していた。たまたまみなが忙しいようなとき、家に電話があったのだろう。だが、それはそれなりに結構な頻度だった。作品と対峙したあと、食事の円卓を囲みながら交わす会話は、かなり贅沢な場だった。舞台関係者、映画なら川喜多和子さんやデビューしたての林海象監督、音楽は僕のホームグラウンドなので、むしろ関係者を僕から山口さんにお引き合わせした。生まれて初めてボトルをキープした今は無くなってしまったバー、新宿の「火の子」に連れて行ってくださったのも山口さんだ。山室静、伊藤信吉、大江健三郎、武満徹、渡邊守章、蓮實重彦、秋山晃男、車谷長吉、青木保、田之倉聡、あるいは畑中純といった酔客としてのそうそうたる人々、あるいはI書店のO氏、S社のM氏など微妙に苦手だったよっぱらいの編集者たち・・・そこでの出会いが現在にいたるまで、仕事の大事な骨格になっている。基本的な「文化の作法」とでもいうべきものを、僕は山口さんから伝授していただいたと思う。

 乱暴を承知で、山口さんの仕事と人生を一語に集約せよと言われたら「笑い」と答えると思う。もう1、2語加えてよいなら「逸脱」「転倒」といったキーワードが並ぶかもしれない。これらを合せたものとして「祝祭」の意味が成立する。「中心と周縁」ははるかに後に来る言葉であるように思う。

 笑いと逸脱、それによる、ややもすれば退屈になりやすい通常の「秩序」の転覆と、転覆によって新鮮なものとなる新しい秩序=ノモス。

 たとえば現在の欧州、通貨統合などによって戦争の危機回避に大きく成功したEUに欠けているかもしれないのが、こうした逸脱と転倒による秩序の更新儀礼だと思う。あえていえば「祝祭」がないことで、これと表裏の「笑い」も失っている。

 で、これは欧州ばかりの話ではなく、日本においてもまったく同じことが言えると思う。たとえば前々回総選挙での民主党の圧勝は、山口さんの意味で極めて「祝祭」的だったと思う。そういう意味では前回選挙での「第三極」もまた、祝祭的な存在が目についた。

 たとえばタレント候補というのは、議員でも首長でも、多くが「3日天下」のマレビト、であればいいようなものだと正直思う。あえて固有名詞は挙げませんが、元芸能人、元俳優、元お笑い芸人、元小説家・・・本来は政治のトップなどに頂いてはいけない。

 祭りの期間中だけ「王」を一時的に神輿の上に担ぐから、カーニヴァルは盛り上がり、そのミスマッチをみなが笑い飛ばすことが出来る。でもそうした「転倒」時の王、周縁部からやってきて一時的に中心に据えられた存在たちは、祭りの期間が終わるとともに、ふたたび去って行くからこそマレビトであって、常時胡坐をかいて居れば稀でも何でもなく、さらにその子だ孫だというのが真顔で出馬を検討、などというなら、別段悪い冗談などとは言わないが、少なくとも社会を活性化する活力源などにはまったくならない。山口さんの「中心と周縁」の議論ほど、いまの閉塞した日本の空気を明快に説明し、またそれを打ち破るヒントを力強く示唆するものはないように思う。

 かつて、戦後のやや硬直化した学術思想界がへびとかえるとなめくじらの三つ巴にらみ合いのような状態に陥っていたとき、それらをあざやかにひっくり返し、新たな知の運動を笑いをもって捲き起こしたのが山口さんの仕事だった。

 いま、やはり、ややもすれば動脈硬化状態に陥りかねない21世紀10年代の日本の現状を打破するうえで、山口さんの自由で闊達な知の運動ほど力になるものはないように思う。そう考えてシリーズ(2)を入稿したわけだったが、いま山口さんがヘルメスの飛翔でかなたに跳んだとき、「次」を考え、行動してゆくべきなのは、実は僕たち自身なのだと改めて強く感じる。

 山口さんと話せないのは寂しい。でも、葬儀告別式の間、奈良の山の中にいて最後のお別れをしていない僕の脳裏には、50代の山口さんの闊達な口調と笑い声がこだましている。だから、山口さんとはまだ離別していないのだ。むしろもっと身近な存在として、空気のように共にいるとの思想とともに、新しい笑いと活力を呼び起こしてゆきたいと思う。

 そう考えるとき、もうひとつどうしても避けて通れないのが、25年前の東京大学駒場キャンパス「中沢新一人事」の一件だ。次回はこれについて、やはりあれ以来初めてになるが、書いておきたいことを記すつもりである。


伊東 乾(いとう・けん)


1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学SFC研究所などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。


04. 2013年3月22日 01:55:19 : 5FidTbXBPE
ドイツ労働市場改革は成功だったのか
「アジェンダ2010」、10年目の評価
2013年3月22日(金)  The Economist


 今からちょうど10年前の2003年3月14日、ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相が連邦議会の演壇に立ち、一連の社会保障・労働市場改革「アジェンダ2010」を提案した。当時ドイツは「欧州の病人」と呼ばれ、失業手当受給者は400万人を超えていた(失業率は11.6%に達した)。
 シュレーダー内閣で労働・経済大臣を務めたヴォルフガング・クレメント氏は、失業問題を解決できると考える人は、当時はほとんどいなかったと振り返る。せいぜい「管理」するのが精一杯というのが大方の見方だったという。
 ところがシュレーダー首相は、こうした風潮に流されず、アジェンダ2010を発表した。当時の野党、キリスト教民主同盟(CDU)党首で、まださほど名前を知られていなかった東ドイツ出身の物理学者アンゲラ・メルケル氏は、この計画を新味がないと嘲笑した。
 しかし、アジェンダ2010がドイツの労働市場に変化をもたらすことがはっきりするまで、さほど時間はかからなかった。
ドイツ国内で揺れる評価
 それから10年、改革はどう評価されているのか。
 忌まわしい金融危機こそあったものの、ドイツは欧州経済を牽引している。失業率は史上最低、若年層の失業率は欧州で最も低い(グラフ参照)。アジェンダ2010を手本として学ぼうとしている国もある。シュレーダー氏は世界中の会議に招かれ、賞賛を浴びている。

出所:ユーロスタット  (★)2012年は11月まで
 しかし、当のドイツ人だけは、アジェンダ2010の成功を確信できずにいるようだ。特にシュレーダー氏自身の社会民主党(SPD)と、当時連立を組んだ緑の党は、この計画を恵みと見るか災いと見るか、迷っているように見える。
 SPDは、今年の総選挙でメルケル氏のCDUからの政権奪回を目指している。現在は野党の立場にあるとはいえ、SPDは、もともと自分たちが計画した改革をまっこうから否定することはできない。しかし同党は、支持基盤である労働者層や党内の左派に対して、改革の一部撤回を匂わせる発言をしている。
「支援し、かつ要求する」
 アジェンダ2010が目指したのは、ドイツの労働市場に柔軟性を取り戻すことだった。小規模企業が社員を容易に解雇できるようにして、雇用のリスクを軽減した。パート労働やアルバイトに対する規制なども緩和した。
 一番大きな制度改革は、失業者に対する連邦政府の補助と、自治体による福祉給付を、基本的な生活水準を保証する給付制度へと一元化したことだった(この改革は、新制度を提案した独フォルクスワーゲン元経営者の名前を取り「ハルツIV」と呼ばれている)。
 シュレーダー政権は失業者が職を求め、就職するよう促す措置も進めた。失業手当の給付は、55歳未満は1年、55歳以上は18カ月で打ち切った。紹介された仕事の選り好みも許さなかった。シュレーダー氏はこのやり方を、ドイツ語の語呂合わせで「フェルデルン・ウント・フォルデルン」(支援し、かつ要求する)と呼んだ。
 旧東独の共産党と旧西独の急進派(多くはアジェンダ2010後にSPDを離党した者たち)とが結成した左翼党のディートマー・バルチュ氏らは、この「要求」は労働者の尊厳を奪うものだと考える。バルチュ氏によれば、ドイツの雇用が堅調なのは、実は、国が主導する貧困計画のおかげなのだという。雇用されていても十分な仕事を与えられない数多くの「就業者」たちが、将来性のない仕事をしながら、わずかな賃金で暮らしているのが実情だとバルチュ氏は言う。
一定の成果は認めるべき
 一方、ケルン・ドイツ経済研究所(IW)のミヒャエル・ヒューター所長は、そうではないと言う。IWは経営側が出資するシンクタンクだ。
 ヒューター所長によれば、低賃金の仕事は、主にアジェンダ2010開始以前に増加し、以後は一定しているという。パートの仕事は増えているが、パートで働く人の多くは、例えば子育てをしながら働けるよう、望んでその仕事に就いているのだ。
 ドイツの成功は、アジェンダ2010だけによるものではない。小幅な賃金上昇や輸出製品への好調な需要も、少なくとも同程度に寄与している。しかし、ドイツがアジェンダ2010の現実的な成果と、そこから得た大切な教訓に目を向けないとしたら、それは愚かというものだろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130319/245263/?ST=print


05. 2013年3月22日 02:21:19 : 5FidTbXBPE
65歳まで働いても赤字転落の理由
65歳定年 勝ち組負け組の分かれ目
2013年3月21日(木)  野村 浩子

 今春から改正高年齢者雇用安定法の施行により、希望すれば全員が65歳まで働けるようになる。「これで老後は一安心」と思うのは早計だ。定年後の再雇用で激減する給与水準に耐えられるか。65歳定年時代を生き抜くために求められる「稼ぎ力」「家計力」を、日経マネー編集部が2回に分けて解説する。
 1回目は、65歳まで働いても、79歳時点で1200万円超の赤字に転落!という驚くべき試算結果について。試算したファイナンシャルプランナーは、「40代半ばから収入減に備えないと老後資金は危うい」と言う。65歳定年時代の収入をどう見込めばいいのか。収支はどう変化するのか。
 「返済が79歳まで続くのか」。
 住宅ローンの返済書類を手に、山田明さん(仮名、61歳)は呟いた。60歳を迎えたところで、定年退職。グループ会社の派遣会社に登録して、元の職場に派遣されている。自動車制御部品メーカーで定年まで課長を務め、現在は技術職エキスパート。決裁権はなくなったものの、以前と同じ開発業務を手掛ける。年下の課長を立てながら、取りまとめの雑務を率先して引き受けている。
 現在、ローン残債は900万円。貯金は500万円。家計を考えると1年でも長く勤めたい。単年度契約という不安定な身分のため、今から契約更新の地盤固めをしている。新しい開発プロジェクトを自ら仕込んで「山田さんがいないと回らない」状況を作っているのだ。
 「稼ぎ力」に長けた山田さんだが、「収入の見込みが甘かった」と言う。50歳を目前に3000万円のローンを組んでマンションを購入した際には、60歳まで年収キープ、定年後は転職して同程度稼ごうと考えていた。繰り上げ返済を進めれば定年時にはほぼ完済できるはず、そんな予定が狂ったのは想定外の収入減が原因だ。
60歳で年収はピークの45%
 年収ピークを迎えたのは55歳のときのこと。1000万円まであと一息の950万円まで上がった。その後「給与65%で65歳まで働く」「給料75%で60歳まで働く」のいずれかのコースを選ぶよう迫られ、後者を選ぶ。年収は750万円にダウンした。60歳で定年を迎えたら再就職しようと考えていたが、現実は厳しかった。結局人事部と交渉し、派遣社員として残してもらう道を選んだ。年収はピーク時の45%ほどの450万円となった。(損得としては成功=0.65*15 =0.75*10+0.45*5)
 山田さんの例を見ても分かる通り、一般的に役員にならない限り50歳以降に給料は2段階で下がる(下の図参照)。55歳前後の役職定年で1割前後減少、60歳定年後の継続雇用で4〜5割減る。もしもピーク時の年収が額面800万円だった場合。役職定年で720万円となり、60歳定年後の継続雇用で430万円(4割減の場合)となる。
 40代、50代のミドル世代の収入は、今後さらに下がることが見込まれる。その原因は「65歳までの継続雇用義務化」である。
50歳以降、給与は2段階で下がる
60歳定年後は4〜5割減に・・

65歳定年でミドル世代の給与が引き下げられる?!
NTTグループは給与体系を改定する

 2013年4月から改正高年齢者雇用安定法の施行により、希望者全員を65歳まで雇用するよう企業に義務付けられた。シニア社員の雇用により総人件費は膨らんでいく。経団連の試算によると、65歳までの継続雇用の比率が現在の74%から90%に上がると、賃金総額は今後5年で2%引き上げられる。そこで40代、50代社員の人件費を引き下げることで、シニア社員の人件費をねん出しようとする企業が増えているのだ。
 昨年末、NTTがグループ内の組合員約18万人を対象に、2013年10月から新賃金体系を導入するとのニュースが流れた。現役時代の給与は、人事考課により現在よりも差が大きく開くようになる。その一方で、60歳以降の給与は現在の200万円台から、標準レベル300万円前後、ハイレベル400万円前後へと引き上げる(上の図)
 「60歳以上のシニア社員のやる気を引き上げるための改訂」(同社広報)と強調するものの、人件費の原資が限られるのは事実。「現役世代の給与は、平均値でみると下がるだろう」と言う。
 継続雇用の影響を受けるのは、給与にとどまらない。「現役時代の収入減は、退職金や老後の年金額の減少に直結する」とファイナンシャルプランナー(FP)の和泉昭子さんは注意を促す。
 「65歳定年時代」を迎え、いま家計の見直しが欠かせない。まず押さえるべきは、収入カーブの変化。企業によって給与体系に違いがあるが、前頁の図も参考に今後の収入見込みを立ててみよう。「45歳」を迎えたら、生涯を見通してのマネープランを立てることをお勧めする。65歳まで働くなら、職業人生のちょうど折り返し地点。勤務先でどの程度昇進できそうか、今後の収入はどう推移しそうか、見当が付き始める時期でもある。
 そこで45歳で年収800万円、金融資産1200万円の会社員Aさんが65歳まで働いた場合、生涯収支がどうなるか。FPの和泉さんに試算をしてもらった。すると、驚くような結果が出た。
65歳まで働いても79歳で1200万円の赤字に!
95歳まで長生きすると赤字は4000万円近くになる

 Aさんの場合、妻は専業主婦、子供2人は大学から私立文系に進むと仮定、住宅は35歳で3000万円のローンを組んで購入したとする。すると住宅ローンや教育費の負担が重い40代後半から50代にかけ、年間収支は度々赤字に転落する。
 65歳まで継続雇用で働いても、男性の平均寿命79歳まで生きると1200万円超の赤字に転落することが分かった。さらに90歳まで生きると2800万円超、95歳まで生きると4000万円近い赤字となる(上の図)。90歳時点での男性の生存率は21%、つまり5人に1人は存命ということ。家計プランは90歳まででも万全ではない。
 Aさんの家計は、どこに問題があるのか。Aさんの退職金は手取り2000万円、このうち650万円を住宅ローン残債の返済に充てている。「退職金で住宅ローンを完済しようと考えると、老後資金は不足しがちだ」と和泉さんは指摘する。「老後資金づくりのポイントは60歳定年を迎える時点で、住宅ローンを完済していること」だと言う。
 60歳までにローン返済を終え老後資金を用意するために、どんな手を打てばいいのか。家計黒字化に向けての最大の攻めは、専業主婦の妻が働くこと。「最大の家庭内埋蔵金を活用することです」(和泉さん)。
 妻が年100万円の収入で20年間働けば、86歳まで家計が黒字となる。守りの対策としては、住宅ローンの借り換えや生命保険の見直しなどが考えられる。詳しくは、「日経マネー」2013年5月号の特集「生涯現役の『稼ぎ力』&『家計力』キープの道」を参考にしてほしい。

野村 浩子(のむら・ひろこ)
日経マネー副編集長



ああ減収、どうする!老後のお金
老後に必要な資金は1億円と言われる。このうち「7割程度は退職金や公的年金でまかない、残りを貯蓄などで備える」というのがこれまでの常識だった。だが減収・退職金制度の見直しなどで、新たな対策を打たないと、老後資金が不足する老後難民になってしまう。「これからの老後資金はどうなる のか」「老後難民になる人・ならない人の別れ目は」などを日経マネー編集部が解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20130318/245149/?ST=print


06. 2013年3月25日 12:54:56 : GnRfb4ci8o
【第21回】 2013年3月25日 高野秀敏 [株式会社キープレイヤーズ代表取締役]
企業が欲しがる「グローバル人材」とは何か
転職希望者が勘違いしているその定義
 ここ最近、「グローバル人材」というテーマが頻繁に語られるようになってきました。少子高齢化、成熟化した日本社会のなかで、各企業が海外での売上拡大を求められているからです。

 中国、韓国と比べても海外進出が遅れている日本。特に外資系企業というわけでもなく、そして海外との取引も少ない会社に勤めているビジネスパーソンの方も少なくないことと思います。しかし、楽天の英語公用語化であるとか、そのほかにも様々な会社が昇進試験に英語力を問うようになってきたことを受けて、にわかに英語を勉強し始めたという方が増え始めています。自らを「グローバル人材」にするための第一歩を踏み出そうとしているのです。

企業が指す「グローバル人材」は
現地法人の立ち上げ、運用ができる人

 ここで1つ疑問があります。そもそもこの「グローバル人材」とはいったいどんな人を指すのでしょうか。

 言葉の意味をそのまま考えますと、「世界に通じる人材」ということだろうと思います。実のところ私自身は、「グローバル人材」という言葉を積極的には使っていません。言葉の意味がやや曖昧だと感じているからです。流行り言葉、バズワードのようにも感じます。

 近い意味合いとして「global talent」という言葉がありますが、日本人でいうと、ファーストリテイリングの柳井社長がまず挙げられます。日本発の企業として世界で大活躍し、世界No.1企業を目指して邁進しているからです。そのほかに、サッカーの香川選手、最近では話題のスキージャンプの高梨沙羅選手はインターナショナルスクール出身で、世界で大活躍中です。アーティストの村上隆さんも海外で有名ですよね。様々な分野で日本人が世界で活躍をしています。

 では、ビジネスパーソンにおいては、どうなのでしょうか。日本企業がよくいう「グローバル人材」が欲しいという言葉は、私が思うに、このような意味で使われていると思います。

「日本企業が、海外に進出するときに、その立ち上げから、運用まで実行できる人」

 縮小する国内市場だけではもはや企業は成長できないので、海外売上を伸ばしたい。もちろん外国人の方でも問題ないのですが、当初の立ち上げは日本人を派遣したい。なぜなら、自社のことを理解してくれるだけでなく、意思疎通を日本語でできるからです。

 最近は海外のなかでもアジア地域での経験者がかなり求められています。ヘッドクォーターをシンガポールに置き、そこからタイやマレーシア、ベトナムも管轄するなどのことができる方が欲しいという要望は少なくありません。

 本来、各国ごとに精通している方を採用するならば、現地の優秀な方をヘッドにしたほうが良いとは思うのですが、最初の立ち上げの部分は、やはり日本人が行うのがまだまだ日本では多いのが実情でしょう。

 とはいえ、実際に海外事業立ち上げ経験・実績×語学力(英語力+その現地の言葉)をふたつとも持っている方はなかなかいらっしゃらないもの。希少性が高いだけに、グローバル人材が欲しいという話は各所で上がってきても、なかなか見つからないのです。

経営者が求める人材は
今も昔も変わっていない

 もちろん、日本だけではなく、世界で活躍できる人材を目指すことは素晴らしことです。しかし、まったく自信がないという方も多いことでしょう。では、世の中全員がグローバル人材にならなくてはいけないのでしょうか?一方の企業経営者はこれから欲しい人材について、どう考えているのでしょうか?

 厚生労働省が企業経営者に調査をした結果、今求められている人材とは、このような人だとわかったそうです。

「未知の世界、時に非常に厳しい環境に、『面白そうだ』『やってみたい』という気持ちで、積極的に飛び込んでいく前向きな気持ち、姿勢・行動力を持っていること。そして、入社後に一皮、二皮剥けるため、『最後までやり抜く』『タフネスさ』があること。しっかりと自分の頭で考え、課題を解決しようとすること。」(厚生労働省、第9回雇用政策研究会資料)2012年7月23日)

 ポイントをあげると、@積極的な姿勢と行動、Aタフネスさや貫徹力、B問題解決力ということになります。

「グローバル人材にならなければならない」という焦燥感や不安感を多くのビジネスパーソンの方が抱えている時代です。一方で、今の企業経営者が求めている人材は、昔から言われていることとそう違いはありません。一方で、経営者が求める、市場が求めている能力を持つ方がなかなか見つからないだけなのだと思います。

 私自身、毎日リクルーティング活動に勤しんでいますが、上記の3要素を満たしている方が非常に少ないように感じています。まさに100人に1人というところでしょうか。私自身にも足りないところですので、自己研鑽を怠らずに、求められる人材になっていきたいと思います。

【第9回】 2013年3月25日 林 正愛 [アマプロ株式会社社長]
フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが新著で語る5つのマインドチェンジ


 フェイスブックのCOO(最高執行責任者)、シェリル・サンドバーグが“Lean In”という書籍を3月11日に出版しました(日本語版は今夏に発行される予定)。

 サンドバーグと言えば、当連載の第1回で「なぜ女性はすべてを手に入れられないのか」という議論を紹介しています。プリンストン大学の教授で、ヒラリー・クリントン元米国務長官の下で国務省政策企画本部長を務めたアン・マリー・スローターが、米アトランティック誌に“Why Women Still Can’t Have It All”という記事を寄稿したのに対して、真っ向から異議を唱えたのが、フェイスブックのシェリル・サンドバーグでした。彼女は、女性はもっと積極的に自己主張し、家事をシェアできるライフパートナーを見つけ、昇進や成功を目指し、キャリアをあきらめてはいけないと言います。

 今回の書籍はその視点を深く掘り下げた内容のものです。サンドバーグはハーバード大学を首席で卒業し、ラリー・サマーズ米財務長官の補佐役を務め、その後グーグルで6年半働き、フェイスブックにリクルートされました。能力と地位を手に入れ、報酬は20億円とも言われます。2人の子供がいて、子育てを積極的にサポートしてくれる理解のあるご主人もいる中で、女性がもっと積極的になるべきだと主張する同書に対して、賛否両論含めて、多くの議論が起きています。

 たしかに彼女には恵まれた面がありますが、一方で、その恵まれた環境にたどりつくまでにさまざまな苦労があり、葛藤があった様子も同書では描かれています。試行錯誤でキャリアを積んできた今だからこそ、女性がもっと積極的に関わり、前に進むべき必要性を痛感し、自分が声を上げるべきだと考えてこの書籍を記したと言います。

 今回は、この書籍の中で、彼女が示し、私なりに読み取った5つのマインドチェンジについてご紹介します。

その1 キャリアははしごではなくジャングルジム

 キャリアはよく「はしご」にたとえられますが、上に行くにはいくつもの方法がある「ジャングルジム」だと彼女は言います。彼女がこのことに気付いたのは、eBayのマーケティング・ディレクターだったロリ・ゴラーを採用したことによってです。サンドバーグがフェイスブックに入社して1ヵ月くらいたったときに、ゴラーはフェイスブックで働きたいと連絡をしてきて言いました。「あなたの問題は何ですか?私はそれをどう解決できますか?」

 サンドバーグはそれまでに数千人を採用した経験がありましたが、彼女にそんなことを言った人は一人もいません。サンドバーグはゴラーに、採用が一番の問題だと伝え、その担当をするようにオファーしました。ゴラーは採用部門で働いたことはなく、提示した職位もそれまでよりも低いものでしたが、このチャンスをつかみました。そして新しいスキルを手に入れるために、低い職位をいとわず、実際にとてもよい仕事ぶりで、数ヵ月ですぐに昇進したそうです。

 キャリアははしごと言われますが、その考え方はもはや当てはまりません。2010年のデータによると、平均的なアメリカ人は18歳から46歳の間に11種類もの仕事をします。日本でも、一社で働き続ける人の数は減少傾向にあり、厚生労働省の調査によると、大学卒業後3年以内に会社を辞める人は28%にのぼります。これが意味するのは、ある一つの会社に入って、その会社にとどまり、その会社のはしごを登るという時代は終わったということです。

 はしごだと、上に行くには一つの方法しかなく、自分の上にいる人を見ながら進むことになります。ジャングルジムならば、上に行く方法は多数あります。この考え方はあらゆる人にとって有効な考え方ですが、特に女性にとって有効です。女性はキャリアをスタートし、外的な障害で壁にぶつかったり、一定期間休みを取った後にまた仕事に復帰することがよくあります。ときに横に行ったり、下に行ったりしながら、上を見ていけばいいのです。

その2 笑っていれば気分が明るくなる

 自信が持てないときの戦略として、ときに自信があるように見せかけることも大切だとサンドバーグは言います。彼女は1980年代にエアロビクスのインストラクターをしていましたが、自信がなかったり、やる気がもてないときでも、1時間笑っていると、徐々に気分が明るくなってきたとか。“fake it till you feel it”(その気になるまで嘘をつけ)戦略です。

 この戦略を裏付ける生理学的な研究もあるようです。腕を広げたポーズを2分間維持すると、男性ホルモン(テストステロン)のレベルが上がり、ストレスホルモン(コルティソル)のレベルが下がります。自信を持つことは大切で、自信があるふりをするだけでも、それを本物にする機会をつかむことができます。

 サンドバーグはグーグルで働いた際に4000人の採用をしましたが、ポジションが空くと男性のほうが積極的に手を挙げ、女性は自信がないと手を挙げず、結果として昇進が遅れることがよくあったそうです。

「それが得意なことかどうかわかりません」「これまでやったことがありません」「今の仕事でまだまだ学ぶことがたくさんあります」という言葉を数々の女性から耳にしたものの、男性から聞くことはめったにありませんでした。

 自信を持てなくても、笑ったり、自信があるようにふるまうことは、ときに欠かせないということなのでしょう。

その3 ロケットの座席をオファーされたらまずは乗る

 サンドバーグはサマーズ米財務長官のもとで4年間働いたときに、テクノロジーがコミュニケーションの方法を変え、アメリカだけではなく、多くの先進国で人々の生活を変えている姿を目の当たりにしました。クリントン政権が終わったときに仕事を失い、就職活動をしようとシリコンバレーに移ることを決めました。ただ、2001年でちょうどネット・バブルがはじけた頃。その影響は大きく、仕事を見つけるまでに1年かかったそうです。

 財務省で働いていたときに出会っていたエリック・シュミットが、グーグルのCEOになったので会いに行ったところ、その後何時間も話をすることになり、グーグルへの入社をオファーされました。ただ、その仕事とは、グーグルで最初の事業部長だと言われましたが、実際には、当時のグーグルには事業部はなく、マネジャーの仕事などありませんでした、一方で別にオファーされていた仕事があり、そこでは一緒に働くチームが用意されていました。

 そのことを悩んでいてシュミットに相談すると、仕事を選ぶ際に必要なのは「速い成長」だとアドバイスされました。組織の成長が早いときは、人がこなしきれない多くのことが存在する。成長が遅いときは、やることがなく、人は何もすることがなくなる。「ロケットの座席をオファーされたら、どのシートかなど聞かず、ただ乗るんだよ」と言ってくれたとか。

 そのアドバイスによって、職責やタイトルよりも、速い成長や会社のミッション、成長の可能性をキャリアを選ぶ際に重視するようになったと書いています。変化の激しく、大きなパラダイムシフトが起きている今のような時代には、成長の早い産業を選ぶ、ロケットの座席を用意されたらまずは乗ってみる、そんなマインドチェンジが必要なのでしょう。

その4 正直なリーダーになる

 リーダーシップのあり方も変わりつつあり、conscious leadership(気にかけるリーダーシップ)という考え方が浸透しています。効果的なコミュニケーションは、自分と相手にはそれぞれの見方があることを理解することから始まり、聞く能力は話す能力と同じくらい大切です。

 サンドバーグは、フェイスブックに入ったときマーク・ザッカーバーグに毎週フィードバックをくれるように、不快に思ったことがあればすぐに話すように頼みました。すると、彼もすぐに同意し、逆に自分にも同じことをしてほしいと言われたそうです。

 リーダーは、ときに自分の弱みについてもオープンに話すことも必要です。涙を見せることを悪いことと言う人もいますが、それが当てはまらないこともあります。フェイスブックで勤めて1年くらいたったとき、かなりひどいと思われることがあり、それをザッカーバーグに話すと自然と涙が出てきて、彼がハグしようかと尋ねてきたので、自然にお願いすることになりました。

 感情を分かち合うことでより深い関係をつくることもあります。他の人を本当に理解するためには、彼らが何が好きで嫌いか、考えること、感じることを理解する必要があります。本当のリーダーシップは、正直にそしてときに不完全な形で表現された個人から出てくるもので、完全であることよりも正直であることを選ぶほうがよいという結果も、ある調査で出ています。

 正直であることはこれからのリーダーに必須と言えるのです。

その5 完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること

 女性を取り巻く環境には、外的な障害ももちろんありますが、一方で、女性が自らかけている内的な障害もあります。36%の男性が上層部に昇進することを望むのに対して、それを望む女性は18%しかいません。女性の内的な障害を取り除くことから始める必要があるとサンドバーグは言います。

 完璧を目指していても何も始まりません。思いたったら完璧でなくても行動してみる。想定外のことを受け入れること。驚きはよいことで、自分の気持ちはいつでも変えられます。完璧さを求めるのではなく、サステナブルなこと、実現可能なことを目指すことが大切です。

 タイトルの「Lean In」は直訳すると「傾いて入っていく」ですが、「積極的に関わっていく」という意味が込められているそうです。サンドバーグは女性の活躍を支援し、議論をしていくために、Leanin.orgというNPO(男女ともに参加可能)を設立し、この書籍の売上はそのNPOの運営に充てられるとのこと。

 賛否両論はあるものの、働き方が多様化し、特にITのような変化に激しい業界では、キャリアをジャングルジムと考え、手を挙げ、正直なリーダーであり続けることが必要で、それは女性だけでなく、すべての働く人にも当てはまるのではないかと感じたのでした。


07. 2013年3月25日 17:32:53 : GnRfb4ci8o

各国の最低賃金・実勢賃金 


JETROなどの資料を基に各国の一般労働者の最低賃金・実勢賃金の状況を調べた結果は以下の通り。金額はUSD。

国名 地域 最低賃金 実勢賃金 法定最低賃金の改正状況
タイ バンコク 243 286 2013年1月より、現状維持
タイ チェンマイ 243 2013年1月より、対前年比20%増
インドネシア ジャカルタ 246 2013年1月より、対前年比44%増
ベトナム ホーチミン 117 2013年1月より、対前年比17%増
ベトナム ハノイ 117 2013年1月より、対前年比17%増
ベトナム ダナン 105 2013年1月より、対前年比18%増
ベトナム ナムディンなど 85 2013年1月より、対前年比18%増
カンボジア プノンペン 61 82 2010年10月改正、2014年まで据え置き
ミャンマー ヤンゴン 68
バングラデシュ ダッカ 39 78
ベトナム
2013年1月より下記の最低賃金が適用される。
・第1地域:235万ドン(約117ドル)
・第2地域:210万ドン(約105ドル)
・第3地域:180万ドン(約90ドル)
・第4地域:165万ドン(約82ドル)
2012年の時点でベトナムの民間企業の最低賃金は、地域により4段階に分かれており、都市部の第1地域で月額200万ドン(約7,800円)、農村部の第4地域で140万ドン(約5,500円)である。縫製業などはこの地域にも多くの企業が立地している。
外資系企業、国内企業の区別は2011年10月の改正時に解消され、ともに共通の最低賃金が適用されている。

インドネシア
最低賃金は、毎年州知事が州単位で決められる。県市単位や地域単位、産業セクター単位というのもある。
有効期限は通常1月1日から1年間。
インドネシアの首都ジャカルタ周辺で、2013年の公定最低賃金(月収)が対前年比で4割以上引き上げられている。ジャカルタでは44%高い220万ルピア(約1万8700円)となったほか、工業団地が多いブカシでも210万(40%増)と急上昇した。

タイ
タイでは、地域によってばらつきがあった最低賃金(日額)を、全国一律300バーツ(1バーツ=約2.5円)にすると決定され、2013年1月1日から適用される。

カンボジア
縫製、製靴企業の最低賃金は2010年10月1日から月額61ドルに改正され、これが2015年まで固定されているが、これとは別に、皆勤手当、食事手当 などの各種手当があり、2012年9月1日以降、家賃手当あるいは通勤手当の7USドルおよび出勤手当3USドルが追加される。
結果的には、縫製工場労働者は、各種手当を含む73USドルの最低賃金を得られることになる。
ミャンマー
2012年になって、ようやく労働法の整備が進行し、最低賃金の規定が設けられる動きが出たが、法制化はされていない。
http://mylang.com.vn/home/biz/info/topics/minimumwage121227

 


家計の金融資産、株高で3.1%増の1547兆円 12月末時点
2013/3/25 15:05

日本銀行が2013年3月25日に発表した12年10〜12月期の資金循環統計(速報)によると、家計が保有する金融資産の12月末時点の残高は、前年と比べて3.1%増の1546兆7085億円だった。
暦年で比べると2006年の1586兆円、05年の1572兆円に次いで過去3番目に多い。外国為替市場で円安が進んだほか、株価上昇で家計が保有する株式や投資信託などの評価額が大きく上昇したことが、家計の金融資産残高を押し上げた。
家計の株式・出資金は12月末時点で105兆5742億円と、前年に比べて12.3%増加した。一方、家計の現金・預金残高は同2.0%増の853兆9401億円。統計でさかのぼれる1997年12月末以降の過去最高を更新した。個人が自由に引き出して使える預金や現金を手元に確保する動きが相変わらず強いこともうかがえる。
http://www.j-cast.com/2013/03/25170948.html


訂正:家計の金融資産3.1%増、株高・円安で05年以来の高い伸び
2013年 03月 25日 16:02 JST
[東京 25日 ロイター] 日銀が25日公表した2012年10─12月期の資金循環統計によると、昨年12月末の家計金融資産残高は1547兆円となり、前年に比べて3.1%増加した。株高や円高是正に伴って保有資産の時価評価額が上昇したことが要因で、暦年ベースの伸び率は2005年の6.8%増以来の高い伸びとなった。

<家計の金融資産、残高ベースで過去3番目>

家計の金融資産残高の1547兆円は、暦年ベースで過去最高となる2006年末の1586兆円以来の高水準で過去3番目。増加要因は、株高にともなう保有株式の時価評価額の上昇や、円高是正によって外貨建資産の円換算の価値が上がったため。2011年末は日経平均株価が8000円台で推移していたが、2012年末は1万円台に上昇、ドル/円相場も当時の70円後半から80円半ばに円高是正が進行していた。

<株高・円安で投資行動の変化に注目>

このため、保有資産の内訳をみると、株式・出資金残高が106兆円となり、前年比12.3%増、投資信託が61兆円で同13.3%増と高い伸びとなっている。一方で、家計の金融資産の半分以上を占める現金・預金も854兆円、同2%増となっており、積極的にリスクのある資産に資金を振り向ける動きが出ているわけではない。その後も株高・円安は一段と進んでおり、家計の投資行動に変化がみられるかが注目される。

<政府債務残高、家計の純金融資産の範囲内に>

また、資金循環統計によると、12月末の一般政府の債務残高は1112兆円となり、過去最高を更新したが、家計の金融資産から負債を差し引いた金融純資産も1193兆円(訂正)に増加し、政府債務が家計の金融純資産内に収まる構図は維持された。

<海外の国債投資が鈍化>

国債(国庫短期証券、財融債含む)の保有者別内訳では、これまで日本国債投資を積極化してきた海外投資家の伸びが鈍化している。12月末の保有残高は84兆円と、9月末の86兆円から減少した。残高に占める構成比も8.7%と同月末の9.1%から低下したが、着実に国債市場における存在感を高めている。

(ロイターニュース 伊藤純夫;田中志保)

*本文4段落目の金融純資産の額を「1193億円」から「1193兆円」に訂正します。

2月の米CPIは約4年ぶりの大きな伸び、ガソリンが大半占める 2013年3月16日
円が対ドルで1週間ぶりに反発、円安基調変わらずとの見方=NY市場 2013年3月13日
中国貿易統計、輸出伸び率は予想上回る:識者はこうみる 2013年3月8日
ドル/円が一時95円台、日銀の追加緩和観測で円安加速 2013年3月8日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92O01C20130325?sp=true


米国の若年層が好む自動車、日本産から韓国産へ
2013年03月25日15時40分
[ⓒ 中央日報日本語版] comment33hatena0
米国の若者たちが好む自動車ブランドが、この数年間で日本産から韓国産と米国産に変わったことが明らかになった。

24日(米国時間)、ワシントンポスト(WP)によれば米国の自動車専門市場調査業者「エドモンズ」の調査結果で、2008年に24〜34歳の若年層の50.6%がトヨタやホンダなど日本ブランドを選択したが、昨年はこの比率が42.9%と低くなった。

その一方で韓国の現代(ヒョンデ)・起亜(キア)車の青年層の占有率は2008年の5%から10%と2倍に増加し、クライスラーフォード、ゼネラルモータース(GM)など米国“ビッグ3”自動車の市場占有率も同じ期間で35.4%からから36.8%へと小幅上昇した。

WPは「若い消費者が日本自動車に背を向けて、デトロイト(米国)と韓国を眺めている」とし「この4年間の市場占有率の側面では、最大勝者は韓国自動車メーカーなどだ」と言及した。
http://japanese.joins.com/article/732/169732.html?servcode=800§code=860



08. 2013年3月27日 17:38:40 : GnRfb4ci8o
日本労働研究雑誌 87
BOOK REVIEWS 86 No. 627/October 2012


宮本みち子 著
鶴 光太郎
(慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
─仕事・福祉・コミュニティでつなぐ

みやもと・みちこ
放送大学教養学部教授。
●ちくま新書
2012 年 2 月刊
新書判・224 頁・798 円
(税込)
『若者が無縁化する』

ニート,フリーター,就職氷河期など雇用を巡る
若者の問題が取り上げられるようになって随分久し
い。しかし,最近,若年雇用は,日本経済の中でも
その対応に向けてかなり優先順位の高いイシューと
して認識されるようになってきた。例えば,評者が
委員として参画し,7 月に公表された厚労省の「雇
用政策研究会」報告書においても若年の就労支援が
最重要課題として議論された。そんな中で,若者を
取り巻く現在の状況を多面的に映し出し,包括的な
理解を与えてくれる格好の書が本書である。

雇用・労働・社会を描く書物として気を付けなけ
ればならないのは,特定の恵まれない,過酷な状
況の人々をクローズアップさせて「**かわいそ
う論」を展開してしまうことである。アドホックな
現場の活写が問題の所在を曇らせてしまうことは
稀ではない。イギリスの経済学者マーシャルの言葉
である「冷徹な頭脳と温かい心」で物事を分析しよ
うとすれば,必ず分析対象の「相対化」が重要とな
る。具体的には,個々の事例を相対化する「理論的
視点」,現在を過去との関係で相対する「歴史的視
点」,日本の状況を海外の状況と比較し,相対化す
る「国際的視点」といった 3 つの視点が過不足なく
盛り込まれている必要があるのだ。その意味で筆者
持前の多彩な活動から得られる豊富な事例ともに 3
つの視点が本書にしっかり埋め込まれているのをみ
て評者は大変好感を覚えた。

例えば,理論的視点については,第 4 章で非正規
雇用の格差是正の方策として,労働法学者の水町氏
が強調し,現在の政策的な方向付けともなっている
「合理的な理由のない不利益取り扱い禁止原則」の
議論が紹介されているのは目を引いた。また,第 3
章「崩壊する若者の生き方」で,若年者問題が出て
きた背景を「日本型青年期モデルの崩壊」として捉
え,「歴史的な視点」からじっくり議論している。
さらに,あとがきにも記されているように,近年で
の筆者の研究において海外における若者の実態,政
策調査を精力的に行っており,各章で展開される
「国際的視点」も豊かである。

しかし,本書の真骨頂はやはり,第 6 章「いま若
者にとって自立とは何か?」,第V部「解決の道」
で示されるさまざまな若者支援の具体例の紹介であ
ろう。例えば,社会的存在としての「私」を取り戻
すため,半就労・半福祉の「中間的就労」を活用し
た釧路市における生活保護受給者の自立支援,「地
域のおせっかいおじさん・おばさん」が仕事に就い
て働けるように若者に伴走型支援を行う NPO 法人
青少年就労支援ネットワーク静岡,アルバイトとイ
ンターンシップを合体した有給の教育的アルバイト
である「バイターン」を実践する神奈川県立田奈高
校などの例である。それぞれが画一的なやり方では
必ず隙間から零れ落ちてしまうような問題を丁寧に
きめ細かく掬っていることが印象的であった。その
意味で第 1 章で紹介されている野球部に入った中学
生が家庭の貧困でユニフォームや靴が小さくなって
も新調できず,その理由を言えないまま部活,学
校,進学から遠ざかってしまったエピソードはきめ
細かな対応の大切さを迫る事例として心に残った。

生活保障を扱う第 8 章では,広井氏の提唱する
「若者基礎年金」(すべての若者に一定金額の年金を
支給する制度)を紹介しつつ,「世代間の公平性を
高めつつ,同時に若者世代の内部での平等性を高め
る」仕組みとして,ベーシック・インカム的なアプ
ローチへの親近感も垣間見せている。しかし,どの
ような事情があるとすれ,「働く」ということに向
かうことでしか若者問題の解決の出口はないと評者
は思う。若者に限らず,働き方への視点で最も重要
と評者が考えているのが「未来に開かれた働き方」
である。組織の中で自分の役割は何か,どうすれば
貢献できるか,その結果,どのような「未来」が
待っているのか,に対して明確に答えられるような
働き方である。言いかえれば,「使い捨て」でなく,
自分の「成長」が実感,期待できる働き方といって
も良いであろう。しかし,過去 20 年ほどを振り返
ると企業の中での様々な信頼関係が弱まる中で「未
来に開かれた働き方」は最も失われてしまった働き
方かもしれない。だからこそ,その影響を一番受け
ているのが若者たちであるのだ。その再構築は容易
ではないが,そのヒントは本書にもあると思う。本
書を若者の現在を真摯に考えてみたい読者に是非推
薦したい。


大内 伸哉・川口 大司 著
諏訪 康雄
(法政大学大学院政策創造研究科教授)
─働くことの不安と楽しみ
『 法と経済で読みとく雇用の
世界』
●有斐閣
2012 年 3 月刊
B6 判・320 頁・1995 円
(税込)

かわぐち・だいじ
一橋大学大学院経済
学研究科准教授。 ●
おおうち・しんや
神戸大学大学院法学
研究科教授。88 No. 627/October 2012


 どんな本か?

身の回りには,普段わかっているつもりでいて
も,正面きって尋ねられると,きちんと答えられな
い現象がたくさんある。現在では日本の就業者の 9
割近くが雇用形態で働くにもかかわらず,「雇用」
をめぐる出来事の背景や意味について,どれだけの
人が自信をもって答えられるだろうか。
本書は,労働法学と労働経済学の研究者が協働し
て読みといた「雇用の世界」の物語である。各章の
冒頭では現場にありそうな話が「プロローグ」とそ
の後日談として進行する。これを受けて採用から退
職,転職までと労働組合活動にまつわる諸事象が解
説されていく。体裁は一般人向けであり,読みやす
い文章だ。先へ先へと進まずにはいられない。
だが,中身は相当に濃い。雇用労働問題につい
て,報道や政治の場面では即効的な対応策ばかりが
求められがちであるけれども,専門家の視点から検
討すると,そうは簡単に解決できない理由が説き明
かされる。また,自分の身にでも起きないかぎり,
通常は見すごしてしまったり,なんとなく当然だと
思ったりしがちな現象について,その奥や裏に何が
あるかをさぐっていく。しかも,法学と経済学の課
題,視角・発想,考察方法,理論などの違いを浮き
彫りにする仕掛けもある。一方の理論から他方の理
論を切って捨てるのではなく,建設的に対話してお
り,結論のバランスにも配慮する。並大抵の力量で
はない。まさしく単眼でなく複眼の思考が展開され
る。そのせいか,著者たちの議論についていこうと
すると,かなり頭を使う。
本書を読むことは,知的に興味深く,楽しいし,
読みごたえもある。

 構成は?

序章から終章まで全 15 章,各章は平均 20 頁くら
いと,手ごろな長さである。1 章ずつ読み進めてい
くと,雇用の世界だけでなく,労働法と労働経済の
基礎も理解ができるように工夫されている。各章の
冒頭ストーリーの巧みさや基礎概念の説明コラムと
あいまって,半期 15 回講義という入門的な大学 2
単位科目の教科書や副読本として使える(当然,そ
れを狙っての章立てだろうが)。以下に,各章の表
題を挙げよう(これがまた,洒落ていて,読む気を
そそる)。

序   章 法学と経済学の協働は可能か─自由
と公正のあいだで
第 1 章 入社する前にクビだなんて─採用内
定取消と解雇規制
第 2 章 パート勤めの苦しみと喜び─最低賃
金と貧困対策
第 3 章 自由と保障の相克─労働者性
第 4 章 これが格差だ─非正社員
第 5 章 勝ち残るのは誰だ ? ─採用とマッチ
ング
第 6 章 バブルのツケは誰が払う ? ─労働条
件の不利益変更
第 7 章 残業はサービスしない─労働時間
第 8 章 つぐない─男女間の賃金・待遇格差
第 9 章 わが青春に悔いあり─職業訓練
第 10 章  捨てる神あれば,拾う神あり─障害
者雇用
第 11 章 快楽の代償─服務規律
第 12 章 俺は使い捨てなのか─高齢者雇用
第 13 章 仲間は大切─労働組合
終   章 労働市場,政府の役割,そして,労働
の法と経済学

序章と終章が「総論」にあたり,1 章から 13 章
までが「各論」である。これにより,現在の雇用問
題の広がりと課題が,ほぼ網羅的に扱われている。

 さわりを示すと ?

第 6 章(労働条件の不利益変更)と第 10 章(障
害者雇用)を例にとろう。第 4 章では,@経営不振
による賃下げや退職勧奨の挿話を導入に,A労働契
約の合意原則,不完備契約性,賃金変更の経済学的
な意味にふれたのち,就業規則変更論と企業年金減
額という現実的に面倒なだけでなく法的にも厄介な
問題を論じ,さらには「コースの定理」も補論す
る。第 10 章では,@労働災害による車椅子生活化
やうつ症状などの挿話を導入に,A障害者雇用をめ
ぐる雇用率方式と障害差別禁止方式の対比をし,効
率的な障害者雇用制度のあり方を求め,さらに公平
性と効率性の両立を論じる。現行制度の問題点を指
摘し,差別禁止法を検討し,付随してメンタルヘル
ス,労働災害などにもふれる。

このように,事例と法学的説明と経済学的説明が
絡みあいながら,多層サンドウィッチのように展開
する。読者を飽きさせないようにコラムまで用意さ
れている。歴史や国際比較や環境変化とのかかわり
の検討など,さらにふれてほしいことの注文をつけ
ようとすればきりがないだろうが,全体としてよく
できた入門書だと感心した。
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/10/pdf/086-088.pdf#dokush
o_1


09. 2013年3月28日 01:40:34 : GnRfb4ci8o
【最終回】 2013年3月28日 
ヘンリー・ミンツバーグ教授 特別インタビュー
「米国型経営から本来の日本型経営へ回帰せよ。
失われた20年を脱するコミュニティづくりの精神」
古典的な経営理論を批判する異色の経営学者、ヘンリー・ミンツバーグ教授。欧米ではピーター・ドラッカーと並び称される経営学の大家である。氏が考案した「リフレクション・ラウンドテーブル」(グローバルでの呼称は「コーチング・アワセルブズ」)は、自らの経験を題材にして実践と学びを融合させたミドルマネジャー向けの経験学習で、多くの国の企業で導入されている。

そのミンツバーグ教授が来日し、日本でコーチング・アワセルブズのファシリテーターを務めるコンサルティング会社・ジェイフィールが開催した「リフレクション・ラウンドテーブル スペシャルイベント【ミンツバーグ教授と語る】」に登場したのは、去る2月19日。当日は、企業の経営者・マネジャーらが多数参加し、教授が提唱する「コミュニティとして組織を再生する」をテーマに、組織の変革について、自由闊達な対話が行なわれた。

イベント後、インタビューに応じてくれたミンツバーグ教授に、元気を失った日本企業が復活するためにはどんなコミュニティづくりが必要かを、詳しく尋ねた。教授は、紳士的な態度ながらも力強い口調で、日本の進むべき方向性を指し示してくれた。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/鈴木愛子)

(この記事は、株式会社ジェイフィール、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、ダイヤモンド・オンライン編集部がミンツバーグ氏に対して行ったインタビューの内容を再構成し、氏がイベント中に行ったスピーチの内容で補足したものです)

コミュニティシップを大切にする
日本型経営が強い経済を支えてきた

――今回、日本企業の経営者やマネジャーたちに向けた組織変革プログラム「リフレクション・ラウンドテーブル」の特別セッションで来日されました。セッションを終えて、どんな感想を持ちましたか。


Henry Mintzberg(ヘンリー・ミンツバーグ)
1939年生まれ、カナダ・マギル大学経営大学院教授。伝統的経営論やMBA型の教育に異を唱える異色の経営学者で、故ピーター・ドラッカー氏と並び称される経営学の論客。「いいマネジャーは教室では生まれない」を信条とし、企業の現場を詳しく研究。「リフレクション・ラウンドテーブル」(グローバルでの呼称は「コーチング・アワセルブズ」)は、自らの経験を題材にして実践と学びを融合させたミドルマネジャー向けの経験学習で、多くの国の企業で導入されている。 主な著書に『マネジャーの仕事』『人間感覚のマネジメント』『戦略計画 創造的破壊の時代』『戦略サファリ』『MBAが会社を滅ぼす』『マネジャーの実像』など。
Photo by Aiko Suzuki
 期待通りの心地よいセッションとなりました。自分たちが進むべき道を熱心に考える日本企業の方々の姿勢に、感銘を受けました。私は以前から日本型経営のファンでした。コミュニティシップを大切にする日本型経営には非常に合理性があり、それが強い経済を支える柱になってきたと思います。

 しかし、「失われた20年」と呼ばれる経済停滞により、今の日本には元気がないと言われます。日本で今、何が起きているのか。それをこの目で見て、皆さんのお話を聞き、私なりに考えてみたいと思いました。それが来日した大きな理由です。

――ミンツバーグ教授は、現在の日本経済が元気を失っている理由をどのように捉えていますか。

 かつて日本企業にはお互いを慮る文化がありました。しかし、先に述べた経済停滞の中で、コミュニケーションよりも利益を重視する風潮が広まった。そして米国型の成果主義が導入された結果、多くの社員は殻に閉じ籠って自分のことしか考えないようになり、コミュニティが崩れていったのです。

なぜ今、限界を露呈している
米国型経営を導入するのか?

 これまで日本経済が強かったのは、日本型経営がうまく機能していたからに他なりません。日本人は、エコノミストが唱える「失われた20年」などという言葉に、翻弄される必要はない。今でも日本は非常に豊かで成功している国だし、他の国と比べて何でもうまく機能していると思います。これまでのやり方を反省する必要などないのです。

 それなのに、なぜすでに限界を露呈している米国型の経営を導入するのか。今日の米国経済の停滞も、米国型経営の影響です。彼らのマネをするのではなく、日本企業が本来持っていた強いコミュニティをもう一度復活させることが必要です。

――コミュニティが根付いている企業とそうではない企業は、どう違いますか。

 コミュニティが根付いている企業は、社員同士のつながりがしっかりできており、強い経営基盤を確立しています。日本企業で言えば、かつてのトヨタ自動車、ソニー、ホンダなどがそうでした。

 逆に、コミュニティが根付いていない企業では、何かうまく行くと「それは全部自分がやったことだ」とリーダーが宣伝して回ります。経営者が社員を下に見ているわけですね。このタイプは今の米国企業に多い。

 米国型の経営では、リーダーシップや株主価値の向上などがまるでカルト宗教のように唱えられ、毎年CEOが従業員の何十、何百倍もの法外な報酬を受け取っています。そして、業績が悪くなれば容赦なく社員をレイオフ(解雇)する。そんな企業の経営が、果たしてうまくいくでしょうか。

――教授が提唱する「コーチング・アワセルブズ」(日本での呼称は「リフレクション・ラウンドテーブル」)は、自らの経験を題材にして実践と学びを融合させたミドルマネジャー向けの経験学習です。なぜ、ミドルマネジャーの経験学習を重視するのですか。

 企業に変化を起こせるのは、ミドルマネジャーだと私は思っています。CEOやシニアマネジャーよりも、ミドルのほうがより現場に深く関与しており、そこでの課題を知っています。それに加えて、能力のあるミドルは会社の全体像まで捉えてビジネスを進めることができます。


Photo by Aiko Suzuki
 松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は、かつて「大きなことと小さなことをやるのが私の仕事であり、中間にあることは他の人に任せる」と言っていました。つまり、企業で大きなことをやりたいのであれば、小さなことにも目を配らないといけない。それができるのは中間管理職です。だから私のプログラムにおいては、ミドルがキーになります。

 彼らが定期的に集まってお互いにリフレクション(内省)を行ない、それを職場に持ち帰って実践する。こうしたサイクルの中で、強いコミュニティができていくのです。

「コーチング・アワセルブズ」の
スピリットは日本人の精神に近い

――「コーチング・アワセルブズ」はすでに多くの国の企業で導入されていますが、日本での普及についてはどんな手応えを感じていますか。

「コーチング・アワセルブズ」は、全ての国の人々に共通するベーシックなプログラム。日本においては、ファシリテーターを務めてくれているジェイフィールさんのお蔭もあり、日本の文化によりフィットした形で運用されていると思います。

 日本は、これまで欧米からベストな文化を採り入れ、それをうまく自国流にアレンジし、根付かせてきました。そうした国民性もあり、このプログラムのもともとのスピリットは、日本人の精神にとても近いものだと思います。

――確かに日本人は、他者を尊重してつながりを大切にする国民性を持っています。その国民性は、コミュニケーションを通じてリフレクションを行なう「コーチング・アワセルブズ」の手法に合っているかもしれません。ただ、自分自身を厳しく内省し、確固たるリアクションを1人で意思決定して推し進めることは、苦手な気もします。

「コーチング・アワセルブズ」には、興味深いアイロニーがあります。確かに、日本人は控えめ過ぎて、なかなか自分自身を見つめ直すことができない。しかし、米国人がうまくやれるかと言うとそうでもない。彼らは彼らで、あまりにも放漫過ぎてなかなか自分自身を見つめ直すことができないのです。

 リフレクションはどこの国でも重要なものですが、日本は米国などと比べて、内省に向いている国民性だと思います。同様に、欧州の一部や私の地元のカナダでも、このプログラムは受け入れられ易い傾向があるようです。それに対して、米国ではまだそれほど普及しているとは言えない。私が米国の企業経営に対して批判的なのも、その理由かもしれませんね。

東日本大震災は日本にとっての
ウェイク・アップ・コールだった

――東日本大震災を経て、日本ではより「絆」が重視されるようになりました。今後日本人は、コミュニティづくりをどう考えればいいでしょうか。

 ある部分において個人主義をもっと強くしたいと思うのなら、それでもいいでしょう。ただし、コミュニティを犠牲にしてはいけません。本来コミュニティは、さらに強めていくべきもの。あくまでバランスが大事です。

 東日本大震災は、ある意味、日本に対する「ウェイク・アップ・コール」(目覚まし)だったのではないでしょうか。もちろん歓迎できることではありませんが、それまでの日本は国として進む方向を見失っていたのかもしれません。そこに大震災が起き、絆の大切が問われ始めたのは、「自分たちはこういう国だった」ということを、もう一度思い出させようとするものだった。

 日本のコミュニティは、古くから風土に根付いてきたもの。日本は島国で災害が起こりやすく、もともと助け合う必要性のある国だったのです。その国に、ウェイク・アップ・コールが訪れたのだと思います。

全ての人々をリスペクトするのが
あるべき「コミュニティ」の姿

――では、あるべきコミュニティの姿について、さらに詳しくうかがいます。経験学習では、1つのテーブルで、やはり1人か2人はコミュニティに参加できない人が出て来ると思います。そうした人は放っておいたほうがいいのか、それとも積極的に参加させるべきなのでしょうか。

 全ての人がコミュニティに参加しなければいけないということではありません。たとえば、クリエイティブ系の社員があまりグループをつくりたがらず、単独で仕事をやりたいと言うなら、それでもいいでしょう。私がコミュニティを推奨する意味は、会社が全ての人をリスペクトできる環境づくりです。仕事をきちんとした上で孤立しているなら、それはリスペクトすべきであり、コミュニティへの参加を強制する必要はありません。

 ただし、企業のトップであるCEOは別です。CEOが社員とパートナーシップをつくれなければ、企業は回りませんから。

――日本企業は縦割り組織です。謙虚な日本人は、上司の言うことは良く聞いても、自分ではなかなか意見を出しません。指示を待って言われたことだけをやる風潮を打破するには、どうしたらいいですか。

 ミドルマネジャーが、組織をこれまでと全く逆の状況にしようとする意思を示すことも大事です。難しいかもしれませんが、「今まで通りではダメだ」というシグナルを出さないと、やはり企業は変わりません。

 それには強制ではなく、相手の行動を促すこと。人の行動を変えるには、考え方を変えることです。そうしたアプローチが必要になります。

――グローバル社会では、企業のコミュニティの中に複数の民族が入ってくる場合もあります。文化的同一性が高い社会と比べて、意思疎通がなかなかうまく行かないことや、軋轢が生じる場合もあるでしょう。どうやってそれを乗り越えればいいのでしょうか。


Photo by Aiko Suzuki
 国民性や文化の違いによって、そうしたことは起こり得ますね。しかし、バルセロナやモントリオールなど、クリエイティビティに溢れた興味深い街では、色々な文化を持つ人が集まって、一緒にビジネスをしているケースが多いのです。

 1つの文化に閉じ籠もるのではなく、お互いの文化を認め合うからこそ、初めは軋轢があっても、魅力的なコミュニティに育って行きます。皆、自分たちの文化を捨てるわけではなく、混ざり合っている。企業のコミュニティも、そうあるべきではないでしょうか。

 私のプログラムには、いくつかのモジュールがあります。1つ目は10日間内省(リフレクション)をする、2つめはそれを基に組織マネジメントを分析する、そして3つ目は文脈をマネジメントする。これは、「自分の世界は大切にするけれど、相手の世界も大切にする」ということです。

 英国には、「我々の探索の終わりは出発点に戻ることだ」という諺があります。色々な世界を知ることは難しいですが、それは素晴らしいコミュニティをつくる上でチャンスでもあります。

コミュニティとネットワークは違う
厳しい評価制度はそもそもが不自然

―― 一昔前の日本企業では、お互いの仕事を越えてそれぞれが助け合っていました。日本人は、ミッションや役割が細かく決められていたのではなく、もっと大きな役割の中で仕事をしていた気がします。さらにその時代には、職場だけでなく地域のコミュニティもあった。かつての年功序列・終身雇用の中でそうしたものがうまく回っていたのかもしれません。しかし、今は評価制度で役割が細かく決められています。そうした状況で、新しい時代に即したコミュニティをどう捉えればいいのでしょうか。

 それはおそらく、私が日本のカルチャーに精通していたとしても、はっきり答えられないかもしれません。それほど大変な質問ですね。世界各国、どこでもそうですが、内向きになると人は強欲になり、自分たちのニーズだけを満たそうとするようになります。

 おそらく日本人の多くは、古き良きコミュニティを取り戻したいと思っているでしょう。おっしゃる通り、1970〜80年代における日本の成功は、コミュニティに寄って立っていた。それを再生することは必要です。

 しかし、今のような時代だからこそ意識しなくてはいけないのは、「コミュニティとネットワークは違う」ということです。ネットワークは単に人間関係をつなぐものですが、コミュニティはもっと相手に対する思いが伴うもの。現代は、ネットワークは増えてもコミュニティが増えないのが問題です。たとえば、SNSはコミュニケーションには有効ですが、コラボレーションの役には立ちません。

 同じ課題は、世界中が抱えています。大都市で孤立して生活する人が増えたこと、テクノロジーが進化したことによって、コミュニティが遮断されている側面もあります。たとえば、1メートルも離れていない自分の子ども、恋人、同僚らとEメールでやりとりするのは、おかしいのです。

 ただ、そんななかでも、社会的な生き物である私たちにとって、コミュニティは必要です。日本人は教授の講義を好むと言われますが、実はそうではない。インドも中国も同じで、やはりテーブルでディスカッションをしたいという思いはあり、それが自然なことです。それに対して、組織の中にある厳しい評価制度やヒエラルキーは、自然なものではない。そもそも不自然なのです。

リーダーシップとコミュニティを両立
ソニーやパナソニックが強かった理由

――トップマネジメントの強い会社でも、闊達なコミュニティはつくれるでしょうか。また、ミドルマネジメント同士で問題意識を共有できても、それを組織に戻ってからうまく生かすには、どうしたらいいでしょうか。

 強いリーダーの指導で強いコミュニティができるときもあれば、その逆もあります。たとえば、アップル社の故スティーブ・ジョブズCEOは、リーダーとしては非常に強力でも、強力なコミュニティをつくれるタイプではなかったと思います。

 それに対して、初期の時代のソニー、パナソニック、ホンダなどの日本企業は、リーダーシップもコミュニティも強力な企業でした。トップマネジメントが強いからコミュニティができない、ということはありません。

 また、ミドルマネジャーがシニアマネジメントに意見を言うのは、確かに難しいこと。しかし、企業の社会運動にミドルが参加し、変化を起こさないと、企業も変わりません。なかには、能力のないCEOを社員が追い出したというケースもあります。現状がダメだと思ったら、自らが動くしかありません。

 一方で、ミドルがトップの立場に理解を示すことも必要です。そもそもCEOは孤独であり、社内に広くコミュニティをつくることが難しい。トップの人間が、実は一番寂しいのです。ただ、社内でヒエラルキーが上がるほど孤立化していくという現実は、改善しないといけませんね。

苦境の原因は人を大切にしないこと
私は強い日本企業の復活を信じる

――それでは、シニアマネジャーやCEOもコミュニティに参加させ、一緒にリフレクション(内省)をさせるべきなのでしょうか。

 実際、ミドルが中心のコミュニティにCEOを入れることは難しいでしょう。大切なのは、進言などを通じて、グループの成果物にトップを関与させていく努力をすることです。コミュニティが弱くなっている企業の中でも、「コーチング・アワセルブズ」のようなメカニズムをもって、それを復活させることは可能です。

――日本企業はコミュニティを復活させ、蘇えることができるでしょうか。

 米国でも日本でも、個人主義が蔓延し、人を「人材(資産)」としか見られない企業が増え続けています。それにより、多くの企業が苦境に陥っている。それを再生するために、皆さんには、ぜひともコミュニティを取り戻すという意思を持ってほしい。繰り返しますが、日本人にはそれを可能にする力があると思います。私は、強い日本の復活を信じています。
http://diamond.jp/articles/print/33888


 

JBpress

ライブドア事件と日本資本主義の「失われた7年」
日本経済に新陳代謝の復活を
2013年03月28日(Thu) 池田 信夫
 懲役2年半の実刑判決を受けて服役していた旧ライブドアの堀江貴文元社長が3月27日朝、収監先の長野刑務所から仮釈放された。とりあえずおめでとうと言いたいが、この事件は彼個人の問題を超えて日本経済に大きなダメージを与えた。

 ライブドア事件の起こった2006年ごろには、小泉政権の下で日本の資本市場でも動きが出ていたのだが、この事件後の村上ファンド事件などで企業買収を犯罪のように考える風潮が強まり、資本市場の改革も止まってしまった。それ以来の歳月は、日本資本主義の「失われた7年」だった。

ライブドア事件で資本市場は死んだ

 ライブドア事件で問われた粉飾決算は53億円と、2000億円を超えたカネボウなどに比べれば粉飾決算としては小規模であり、組織的犯罪でもなく悪質性も低い。それが実刑になった量刑の不自然さもさることながら、企業グループ内部の利益処分で刑事罰に問われたという事実が、多くの企業に恐怖を与えた。

 しかも当初は「暴力団がらみの大規模な犯罪」とか「海外まで含めたマネーロンダリング」などが取り沙汰されたが、結果的にはそういう事実は何も出てこなかった。当時の東京地検特捜部の大鶴基成部長は、事件を摘発した動機を次のように語っていた。

額に汗して働いている人々や働こうにもリストラされて職を失っている人たち、法令を遵守して経済活動を行っている企業などが、出し抜かれ、不公正がまかり通る社会にしてはならないのです。

 このような幼稚な正義感に基づいて「額に汗しないで儲けている」堀江氏や村上氏を摘発しようという検察の筋書きが、この事件の背景にあった。その結果として企業買収はほとんどなくなり、多くの企業が買収防衛策を定款で定め、日本の資本市場は死んだ。

 それ以来、日本で行われる企業買収の時価総額は世界の3%以下で、主要国で最低だ。特に海外からの買収額がGDP(国内総生産)の2〜3%と、極端に少ない。これは買収防衛策を講じるまでもなく、日本の企業には株式の相互持ち合いという強力な買収防衛策があるためだ。

日本企業の強みは「天皇制システム」だった

 このように日本の企業が株主の圧力を極小化するのは、その成り立ちが英米型の資本主義と違うためだ。日本では天皇制に象徴されるように、実際の意思決定を行うのは工場などの現場で、経営者はその利害調整を行うことが多い。

 これは戦争を防ぐために独裁的な強いリーダーを阻止する構造だが、それが結果的に所有と経営を分離し、専門的な経営者が株主の介入を受けないで経営を行う日本型経営者資本主義の成功する原因になった、というのが通説である。

 しかし所有と経営が分離すると、株主の多くは個人投資家なので経営者をコントロールできなくなる。この問題を解決するために、欧米では企業買収して子会社に命令する垂直統合が発達したが、これは命令される側のインセンティブを弱め、「大企業病」に陥りやすい。

 これに対して日本型の経営者資本主義は、従業員を会社に閉じ込めるため一体感が強く、命令なしで現場が自発的に動くので、資本主義の強欲を抑制した「長期的視野」の経営が行われる、と80年代には世界から賞賛された。

 日本企業の強さは、自動車・家電などの特殊な分業構造に依存していた。ここでは特殊な部品の補完性(相互依存性)によって互いを長期的関係にロックインし、系列内で協力を維持できる。

 しかし要素技術が標準化されてグローバルな市場が成立すると、ハードウエアの生産を新興国にアウトソースする水平分業によって大幅なコストダウンが可能になり、日本的なチームワークのよさが生きなくなった。

資本主義は新陳代謝のメカニズム

 天皇が形式的には最高権威であっても武力を持たず、実質的な権力は摂政・関白・将軍あるいは「事務局長」とか「幹事長」が持つ仕組みは、政治から経済まで日本社会のあらゆるところに遍在している。

 このようにトップを「みこし」としてまつり上げ、現場からボトムアップで意思決定を行うシステムを、丸山眞男は日本型デモクラシーと呼んだ。それは西洋型の民主政治とは違うが歴史ははるかに古く、平和を維持する制度としてはよくできていた。

 しかしこのシステムは、平時には適しているが、戦力を総動員する戦時には弱い。全体を統括すべき最高権力者に指揮権がないため、誰が意思決定を行うのかが分からなくなるからだ。

 企業が破綻の危機に瀕しているのに、会長と社長が別々に買収や提携の交渉を行い、先代の社長だった相談役まで出てくるシャープの混乱した状況は、日本型デモクラシーの末期症状である。

 この状況は、1980年代のアメリカ企業に似ている。当時は多角化して資本効率の低下した「恐竜」企業が企業買収の標的になり、LBO(負債による企業買収)で企業を買収して再構築する投資ファンドが登場した。

 彼らは形骸化した個人株主から株式を買い戻し、所有者=経営者になることで意思決定を単純化し、不要な部門を売却した。企業買収は、経営者を代えることで労使の暗黙の約束を破るメカニズムなのだ。

 行き詰まった日本経済を立て直す上で必要なのは、長期雇用の約束を破り、老朽化した会社を解体・再編する資本市場の活性化である。このように資本市場による企業の新陳代謝が進まないことが、経済停滞の大きな原因になっている。

 ライブドア事件以来、沈滞した資本主義を活性化し、人的・物的資本を流動化することが日本経済の復活する鍵である。堀江氏自身がそういう役割を担うことができなくても、彼が社会復帰した象徴的な意味は大きい。これを機に、日本にも資本主義の精神が復活することを祈りたい。


 
2013年03月26日 10:54 本
なめらかな社会とその敵
本書は2ヶ月ぐらい前に贈ってこられ、ちょっと読んだのだがよくわからなかった。その後、何人かが好意的な書評をしているので、もう一度、読んでみたが、やはりわからなかった。難解だというのではなく、何をいいたいのかがわからないのだ。

著者のいう「なめらかな社会」とは、組織の内部と外部を区別しないで、1人が多くのグループのメンバーになる社会、というほどの意味らしい。現在の日本がこの意味で「なめらか」ではなく、特に若者と女性を排除する構造がますます強まっていることは事実だ。これを解決することは容易ではなく、日本社会のほとんど全面的なオーバーホールを必要とするだろう。

ところが著者はこの問題を、ネットワーク社会の問題にいきなり一般化し、それをPICSYなる電子マネーで解決するという。これは昔、柄谷行人氏が立ち上げて失敗したNAMで実験されたそうだが、この種の擬似通貨の類が成功したことは一度もない。日銀券ともリンクせず、匿名性のない電子マネーは、銀行ごっこ以上のものにはならない。この部分の論理的な飛躍が大きすぎて、そのあとの話は意味不明だ。

著者の社会観・国家観は、ナイーブで古い。彼がなめらかな社会の「敵」と名指しているカール・シュミットのいうように、近代社会の根底にあるのは暴力装置としての国家であり、それは友/敵を区別して誰を殺すかを決める「決断」のシステムである。資本主義は暴力を所有権という形で標準化する制度であり、その魅力も危険も、それが「なめらか」ではなく、持つ者と持たざる者を峻別する点にある。

資本主義が不公正で不愉快なシステムであることは著者のいう通りだが、それは多くの人々の欲望を満たしてグローバルに発展してきた。それを電子マネーぐらいで「メジャーバージョンアップ」できると信じるのは、ユートピアニズムの名にも値しない言語遊戯というしかない。

追記:著者に指摘されたが、「NAMで実験されたそうだ」と書いたのは誤解だった。『NAM生成』という本の共著者と書かれているので、あの地域通貨をやったのかと思ったが、どっちにしてもあの手の実験は袋小路だ。
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人口動態と米国経済:みんなどこへ消えたのか?
2013年03月28日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年3月23日号)
人口動態で米国の景気回復の弱さを説明できるかもしれない。
 ミルトン・フリードマンはかつて、景気変動を板の上で引っ張られたゴム紐に例えた。ゴム紐は、どれくらい引っ張られたかによって、どれくらい跳ね返るかが決まる。同様に、景気後退の深さによって景気回復の強さが決まる、というわけだ。
 米国の最近の経験はこの「プラッキングモデル」に優しくなかった。景気後退は第2次世界大戦後最も深刻だったが、景気回復は期待外れに終わっている。2009年半ばに景気後退が終了してから3年間の平均成長率は2.2%と、それ以前の7回の景気回復の平均値4.2%の半分に達するのがやっとだ。
 その一因は、金融危機からの回復は通常の景気回復よりも大きな困難に直面することだ。消費者は過大な債務を抱えているし、企業はカネを使えないか、使う気がない。また、ダメージを受けた銀行システムは信用を抑制する。
 だが、バラク・オバマ大統領の経済諮問委員会(CEA)は3月15日に公表した年次経済報告で、それは一面的な見方だと主張している。プラッキングモデルは、経済は景気後退の後に、労働者、資本、技術の供給量によって決まる基本的なトレンド成長率に戻ることを前提にしている。
 これに対してCEAのエコノミストたちは、トレンド成長率は現在、これまでよりはるかに低くなっていると主張する。そのため景気回復は、しばしば描かれるほど期待外れではなく、米国人は目標を高く設定し過ぎているというのだ。
景気後退の前から始まっていた潜在成長率の低下
 米国の潜在成長率が低下しているという考えは新しいものではない。エコノミストの中には、危機それ自体が、革新的な企業から資金調達の手段を奪い、長期間の失業で技能が衰えた一部労働者を労働人口から追い出すことによって潜在成長率を弱めたと主張する者もいる。
 だが、CEAは異なる主張を展開する。トレンド成長率の低下は、景気後退が起きる前でさえ、かなり起きていたというのだ。
 報告書は、トレンド成長率の低下が弱い景気回復を説明する程度について、3つの試算を引用している。
 1つは、ハーバード大学のジェームズ・ストック教授(現CEA委員)とプリンストン大学のマーク・ワトソン教授が2012年に公表したもので、雇用や生産性といった変数の長期平均から米国の潜在成長率を弾き出している。この研究は、他の景気回復に比べて成長率が2ポイント不足している現状の8割は潜在成長率の低下によるものだと結論付けている。
 CEAのエコノミストたちも、景気循環調整後の実際の国内総生産(GDP)の長期平均を使って潜在成長率を推定した。彼らは、回復不足の半分強は潜在成長率の低下が原因だと述べている。
 3つ目の試算は、米連邦議会予算局(CBO)が昨年出したものだ。CBOは、労働力、資本、全要素生産性(TFP)の基本的な伸び率を割り出した。TFPは資本と労働力が使われる効率を捉える技術の代理変数で、CBOは回復不足の約3分の2は潜在成長率の低下に原因があるとしていた。
 CBOの試算を使うと、潜在成長率との比較では、米国経済は過去の7回の景気回復期と同じ成果を生み出すためには2.9%だけ成長すればいいことになる。これは米国がこれまで示してきた実績より高い伸びだが、4.2%からはほど遠いし、1981〜82年に起きた前回の深刻な景気後退の後に記録した5.8%よりはるかに低い。
失業率が予想以上に低下した理由
 潜在成長率の低下は、1つの謎を解く助けになる。経済が予想よりゆっくりとしか成長していないにもかかわらず、なぜ失業率は米連邦準備理事会(FRB)あるいはホワイトハウスが予想したより大きく低下したのか、という謎である。
 2007年末から16歳以上の人口は1160万人増加しているが、労働力人口(働いているか、もしくは仕事を探している人)はわずか160万人しか増加していない。その結果、実際の労働力人口の割合は66%から63.5%に低下している。過去30年余りの間に記録した最低水準に並ぶ低さだ。
 残る1000万人が、働きたいと思っているのにただ仕事を探していないだけだとすれば、彼らも失業者の中に含めるべきだろう。だが実際には、働きたいと言っているのはその5分の1に過ぎない。
 CEAは、人口動態がこのような労働力人口の減少を促していると考えている。労働参加率は、25〜54歳が最も高い。このため、25歳未満あるいは54歳超の人口の割合が高まれば、全体の労働参加率は低下する。
 これを示すために、CEAは年齢と性別グループごとの労働参加率を試算し、それを使って人口に占める各グループの割合の変化に伴う全体の労働参加率の変化を計算し、「トレンド」参加率を作成した。1980年代初めにベビーブーム世代と女性が労働市場に流れ込んだ時は、このトレンド参加率は2ポイント近く上昇した(図の左側参照)。

 過去5年間は、ベビーブーム世代が退職し始め、女性の労働参加率が横ばいになるにつれ、トレンド参加率が1ポイント低下した。いずれの時期も、弱い経済の影響で、実際の労働参加率はこのトレンド参加率より約1ポイント低かった。
 この説明でも、まだいくつかの疑問が残る。人口動態の変化を考慮した後でも、25〜54歳の男性の労働参加率は過去10年間、米国の方が他の先進諸国よりもはるかに大きく低下している。このことは、米国が失業者、特に非熟練労働者を労働力人口にとどめておくのが下手であることを示している。
 あまりにも多くの人が、仕事に戻る見通しがほとんどないまま、傷病給付を受け取る結果になっている。
ウェブを非難せよ
 労働参加率の低下で、潜在成長率の明らかな低下をすべて説明できるわけではない。
 サンフランシスコ連銀のジョン・ファーノルド氏は別の論文で、潜在成長率を個々の構成要素――労働力、資本、TFP――に分け、労働力生産性とTFPの両方の伸びが景気後退前に減速し始めていたと結論付けた。特にTFPの伸びは2003年以降停滞している(前頁の図の右側参照)。これは生産性を向上させるインターネットの影響が徐々になくなり始めた時期だ。
 「2000年代半ばまでに、もぎとりやすい果実が摘み取られたと見るのが妥当だろう」。こう話すファーノルド氏は、米国の長期成長率が、景気後退前の20年間の平均値3%に比べて、今はわずか2.1%しかないかもしれないと考えている。
 政策立案者たちは、別のインターネットを発明して長期成長率を再び高めることはできないが、労働者の供給を増やすことはできる。オバマ大統領は、移民の受け入れを増やしたいと思っている。傷病手当を改革することや退職年齢を引き上げることも助けになるだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37454


10. 2013年3月31日 01:12:29 : GnRfb4ci8o

イノベーションと雇用創出

研究員 中野 諭

人口減少を背景に国内市場が縮小し、グローバル化した経済のもとでは外国企業との競争によって国内外の市場シェアが奪われていく。この状況がすべての財・サービスにおいてあてはまるという訳ではないが、分配可能なパイ(所得)のサイズが縮小し続ければ、労働者の豊かな生活のためにいくら労働政策によって労働者間の不公平や格差が解消されるようなシステムが整備されたところで、いつかは限界を迎えるだろう。そうした労働供給側の政策の方向性は、否定されるべきものではない。ただ、現在の日本においては、労働者が分かち合えるパイのサイズを拡大するという視点も欠くことのできないものである。

パイのサイズを大きくする源泉の1つをイノベーションに求めるならば、イノベーションが雇用にどのような影響を与えるかを検証する必要がある。ここでは、イノベーションを次の2つに大別する。1つは、プロセスイノベーションであり、財・サービスの生産・販売・輸送といったプロセスの革新によって、効率化を通した費用の減少や品質の改善をもたらすものである。もう1つは、プロダクトイノベーションであり、まったく新しい財・サービスを生み出し、消費者の価値観の変化をも伴うようなものである。

Vivarelliによるサーベイ論文(注)では、イノベーションが雇用に与える影響を考えた場合、プロセスイノベーションによる初期の労働節約的な効果に対し、それを相殺するような以下の6つの補償メカニズムが働くと整理されている。

労働力を資本に代替するプロセスイノベーションは、代替される資本財を生産する企業の雇用を創出する。
労働力の削減によるプロセスイノベーションは、単位生産費用を減少させるため生産財価格が低下し、財需要が増えることで新たな生産や雇用が生まれる。
技術進歩による費用減少幅とその結果としての価格下落幅にはギャップがあるが、競争によるギャップ解消には時間を要するため、イノベーティブな起業家は利潤を蓄積し、それを投資に振り向けるかもしれない。それが、新たな生産と雇用をもたらす。
労働節約的技術によって労働市場が効率化されれば、需給バランスを通して賃金が低下し、労働需要を増加させる。
技術進歩の成果の分配に関して労働組合が交渉することで所得が増加し、消費(財需要)の増加に繋がる。結果として、雇用が増加する。
技術進歩によるプロダクトイノベーションを通して新たな財が生み出されることで、雇用が創出される。
もちろんすべての場合において、これら6つのメカニズムが働く訳ではない。重要なのは、どのような状況においてどのメカニズムが働き、結果として雇用が増加しうるのかという点を明らかにすることである。加えて、雇用が消失した事業所や企業で雇用が創出されるとは限らないため、雇用の質やミスマッチの問題も考慮しなくてはならないだろう。

日本では、この課題について局所的に捉えたものはあったとしても、研究の蓄積はほとんどないと言って良い。その理由にはデータ利用の制約の問題があるが、イノベーションと雇用とを結ぶプロセスが複雑であり、6つのメカニズムのようなロジックフローを作れても、なかなか関連する変数をすべてコントロールして分析することが困難であることも原因だろう。

イノベーションと雇用とを結ぶプロセスを政策で考えてみても、教育・科学技術、産業、及び労働と複数の省庁をまたぐことになる。こうした横断的な課題に応えていくためには、研究にしても、政策にしても、個々のものを繋ぎ、繋いだ結果から個々にフィードバックさせるという仕組み(マクロ的視点)が必要ではないだろうか。

注) ^ Marco Vivarelli (2012) Innovation, Employment and Skills in Advanced and Developing Countries: A Survey of the Literature, IZA Discussion Paper, No. 6291, http://ftp.iza.org/dp6291.pdf

(2013年3月29日掲載)

 


格差問題を超えて−格差感・教育・生活保護を考える
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/130329_01.pdf
はじめに
2011年 9月に“We are the 99%”をスローガンに米国のウォール街で発生した反格差デ
モが瞬く間に世界へと波及したことはまだ記憶に新しい。その背景には、格差問題、リー
マンショック後の景気停滞の長期化、経済政策への不信等がある。
また、2012 年にはいくつかの国で政権を巡る選挙、首脳等の交代があり、格差問題が大
きなイシューとなった。
このように多くの先進国や隣国(韓国・中国)では引き続き格差問題に焦点があたって
いるのに対し、わが国はどうか。2006〜2007 年にかけて、わが国でも格差問題で大きな論
争があった。市場原理主義の結果、格差が拡大したとか、格差の拡大は、他の世代に比べ
て格差が大きい高齢者層の人口に占める割合が拡大した結果で見せかけのものである等々。
その後、何が変わって、何が変わらないのか。また、諸外国と比べて、わが国の格差問
題にはどのような特徴があるのか。それらを踏まえて、どのような政策対応が求められる
のか。以上のような問題意識のもと、我々の研究プロジェクトはスタートした。
本書は総論 2章と各論 3章の 2部構成となっている。総論(第 1・2章)ではデータに基
づき 2000年代半ばから後半までのわが国の所得格差について総括を行った。その結果、@
所得分配前では格差は緩やかに拡大しているが、所得分配後では拡大していない、A高所
得者の所得が高まるというアングロサクソン型の格差拡大も見られない、Bむしろ高所得
者層も低所得者層もより貧しくなっている、という 3つの重要なエビデンスが得られた。
@については、それでも格差が意識されるのは「格差感」が重要な役割を果たしている
のではないか、Aについては、アングロサクソン型拡大がないことは良いことなのか、大
学教育へのインプロケーションは何か、Bについては、貧困化対策として重みを増してき
た生活保護政策はどうあるべきか、最低賃金との関係はどうか、といった問題意識が生ま
れ、それぞれ第 3章、第 4章、第 5章で掘り下げて議論を行った。
本書が、わが国の格差問題・貧困問題についての客観的かつ包括的な認識を深める一助
になれば幸いである。
21世紀政策研究所研究主幹
鶴 光太郎


(1)所得格差の現状
所得格差を計測する際、最も利用される指標はジニ係数であり1
、これを用いて日本の所
得格差の推移を見たのが図表 1、2である2
。図表 1、2から明らかなとおり、1980年以降、
日本の世帯所得の格差は緩やかに拡大する傾向がある。これに対して図表 3では世帯所得
と労働所得の格差の推移を見た図となっている。この図は、雇用者の労働所得格差は世帯
所得よりも大きいが、その格差が拡大する傾向は見られないことを示している。


次に世帯主の年齢階級別の所得格差について見ていく。図表 4から、近年になるほど 60
歳以上の高齢層で所得格差が縮小していること、そして、30 歳未満の若年層では 2004 年
まで格差の拡大が続くものの、2009 年になると格差が縮小していることがわかる。また、
図表 5から、高齢層ほどジニ係数が縮小し、中年、若年層ほどジニ係数が拡大する傾向に
あることがわかる。


次に再分配後の等価可処分所得を用いた格差指標の推移を見ていく。先ほどまでは再分
配前の所得を用いていたが、等価可処分所得を用いた場合、どのようにジニ係数等の格差
指標の傾向が変化するのかを確認する。図表 6 は等価可処分所得を用い、各種の格差指標
がどのように推移しているのかを示している。各値を見ると、いずれの格差指標でも 2000
年以降必ずしも上昇しているわけではなかった。
このように等価可処分所得では格差拡大傾向が見られないが、その背景にはどのような
要因があるのだろうか。この点については、世帯所得分布の変化が大きな影響を及ぼして
いると考えられる(小塩、2010)。図表 7を見ると、近年になるほど 100-300万円未満の低
所得者層の割合が増加していることがわかる。さらにカーネル密度推計による等価可処分
所得の分布を示した図表 8を見ると、世帯所得分布の重心が経年的に左方向へシフトする
と同時に、分布の山の尖り程度が高まり、全体的に世帯所得は低下する傾向にあった。こ
のように、世帯所得分布が低下すると同時に分布のバラつきが縮小するようになったため、
近年の格差指標が拡大しなくなったと考えられる。小塩(2012)の「私たち日本人はみん
な貧乏になっている」(「みんな仲良く貧乏になった」)ことは近年の所得分布の変化を考え
る上で重要な指摘といえよう。


(2)所得格差の原因
前項では所得格差の現状について確認してきたが、本項ではその所得格差の変化に影響
を及ぼす高齢化、単身世帯の増加、非正規雇用の増加といった各要因について検証する。
図表 9は二人以上世帯のジニ係数と 1989年から 2009年までの世帯年齢別シェアの変化
幅について見ている。この図から明らかなとおり、ジニ係数の値が高い高齢者世帯ほどシェ
アの上昇幅が大きい。また、図表 10の単身世帯、二人以上世帯のジニ係数と各世帯のシェ
アの変化幅を見ると、ジニ係数が高い単身世帯のシェアが上昇する傾向があった。さらに、
図表 11 の所得格差の要因分解について見ると、2004 年までは年齢構成の変化、つまり高
齢化による影響が最も格差拡大に寄与していた。次に図表 12の労働所得格差の要因分解に
ついて見ると、正規・非正規の構成比の変化、つまり非正規労働者割合の増加が最も格差
拡大に寄与していた。

(3)貧困の拡大と要因
先に指摘してきたように近年では格差拡大というよりも全体的に貧乏になるという状況
もあって、貧困化がより着目されるようになってきている。図表 13、14を見ると、生活保
護世帯比率はバブル崩壊以降、上昇傾向があり、相対的貧困率も緩やかに上昇する傾向に
ある。また、図表 15から年齢階層別の相対貧困率を見ると、男性、女性とも若年層と高齢
層で値が高くなっていた。さらに図表 16から貧困拡大の原因について見ると、高齢者世帯、
単身世帯の増加やこれまで貧困率の低かった 2 人以上の大人のみの世帯内の貧困率の上昇
が寄与していた。これらの結果から、我が国では徐々に貧困が拡大していると言える。

(4)所得再分配の効果
図表 17、18を見ると、近年になるほど再分配政策によるジニ係数の改善幅が上昇し、そ
の改善は主に税ではなく、社会保障によって達成されていた。図表 19、20 から、60 歳以
上の高齢層ほど再分配政策による効果が大きいことがわかる。しかし、図表 21から税・社
会保障負担から社会保障給付を引いた純負担を見ると、若年・中年層では累進的な純負担
となっているが、低所得階層でも純負担額はマイナスになっておらず、税や社会保険料負
担が必要となっている点で問題がある。

4. OECD 諸国の所得格差の現状と日本の位置付け
(1)OECD加盟国の所得格差の現状
前節では主に日本の所得格差の現状について確認してきたが、他国ではどのように状況
にあるのだろうか。OECD 諸国のさまざまデータを用い、所得格差の現状を確認していく。
図表 22、23 から、G7 各国や北欧及びオセアニア地域の国ではジニ係数が上昇傾向にあ
り、所得格差が拡大していることがわかる。また、図表 24からチリ、メキシコ、トルコの
各国のジニ係数は高いものの、近年減少傾向にあることがわかる。その他ヨーロッパ各国
のジニ係数はアイルランドで減少傾向にあるものの、それ以外の国ではあまり大きな変化
が見られなかった(図表 25)。また、図表 26から各国のジニ係数の変化を見ると、多くの
国において所得格差が拡大する傾向にあった。

それではこの所得格差の拡大は主にどの所得階層で発生しているのだろうか。図表 27
から上位 1%所得階層の所得シェアの変化を見ると、アメリカ、イギリス、カナダといっ
たアングロサクソン系の国で上昇割合が高い傾向にあった。さらに、図表 28、29から第 9
十分位層の世帯所得の変化や第 1十分位層の世帯所得の変化を見ると、特に日本の値が注
目される。日本の場合、いずれの世帯所得の変化ともかなり低く、所得の伸びが OCED 所
得の中でも最低に近い。

(2)OECD加盟国内における日本の所得格差
OECD諸国と比較した場合、日本の所得格差はどの程度なのだろうか。この点を図表30、
31から見ると、日本の所得格差は OECD 諸国の中程度から若干高くなる傾向がある。図表
32a、32b、32c から長期的な変化を見ると、日本のジニ係数は上昇している。また、十分
位所得比率で所得格差の動きを見ると、日本は他の OECD 諸国と比較して、所得階層間の
格差が大きい傾向がある3
(図表 33、34)。以上から、日本の所得格差は OECD諸国の中に
おいて中程度の水準であり、近年若干上昇する傾向にあると言える。
次に図表 35、36から世代別の所得格差について見ると、OECD 諸国では世帯所得の格差
は退職世代の方が現役世代よりも小さいが、日本の場合、退職世代の格差の方が大きい傾
向にある。これには日本の高齢者の就業率が高いといった背景があると考えられる。

(3)OECD加盟国内における日本の貧困
OECD 諸国の中で日本の貧困の状況はどの程度なのだろうか。この点を図表 37、38から
見ると、我が国の相対貧困率は先進国の中でもアメリカに次いで高く、OECD諸国の中で
も 4番目に高い。年齢別の相対貧困率を見ても、日本の値は OECD平均よりも高くなって25
いる(図表 39)。
また、就業と貧困の関係を見ると、日本は、現役世代の中で就業者が 2人以上いても貧
困に陥る割合が特に高いといった特徴がある(図表 40)。さらに、日本の場合、大人 1 人
の世帯だと他の OECD加盟国と比較して貧困率が高く、就業の有無によって貧困率が大き
く変わらない傾向がある(図表 41)。これらの結果から、日本の場合、他の OECD 諸国と
比較して就業が貧困からの脱出策として有効に機能していない可能性がある。

(4)OECD加盟国内における日本の再分配政策効果
OECD 諸国と比較して、日本の再分配政策は効果的なのだろうか。この点を図表 42、43
から見ていくと、日本の場合、再分配前のジニ係数は OECD平均よりも若干低い値となっ
ているが、再分配後の値を見ると OECD 平均よりも高くなっていた。また、図表 44 から
再分配政策の効果を公的移転と税に分けると、日本の場合、その効果は最も低いグループ
に属していた。これらの結果から、我が国の再分配政策の効果は、OECD 諸国の中でも最
も低いグループに属し、あまり有効ではないと言える。


5. まとめ
本章では(1)1990 年代以降の所得格差研究のサーベイを行い、今までの研究によって
我が国の所得格差について明らかになっている点を整理する、(2)2000年以降の所得格差
の現状や他の先進国と比較した際の日本の所得格差の現状について整理する、といった 2
点を目的としてきた。この結果、次の 4点が明らかになった。
1 点目は、先行研究のサーベイの結果、我が国では確かに所得格差が拡大する傾向にあ
るが、その背景には高齢化や単身世帯の増加といった要因が大きく影響を及ぼしていた。
また、研究の流れを見ると、2000年代前半までは「所得格差は拡大したのか」、「格差拡大
の原因は何か」という問題意識の研究が多かったが、最近では貧困の拡大に注目した研究
もが増加してきている。
2 点目は、2000年以降のジニ係数の推移を見ると、再分配前の所得では緩やかに格差が
拡大する傾向にあるが、再分配後の可処分所得では格差が拡大する傾向は見られなかった。
この背景には、高所得層が減少し、低所得層が増加しており、全体的に貧困化するといっ
た動きがあると考えられる。
3 点目は、我が国の所得再分配政策によって所得格差の改善幅が年々高まってきている
が、その効果は主に 60歳以上の高齢者で見られ、若年・中年層では限定的であった。また、
他の OECD諸国と比較すると、我が国の所得格差は、再分配後に相対的に大きくなる傾向
があるため、再分配政策が十分に機能していない可能性がある。
4 点目は、我が国の所得格差は、OECD 諸国の中では中程度であるものの、先進国の中
では高いグループに属し、相対貧困率も OECD 諸国の中で 4番目に高い。


11. 2013年3月31日 11:39:19 : GnRfb4ci8o

 

地方財政の健全化は進んだのか?−その1:財政収支の動向
2013/03/29


石川 達哉 

1――はじめに
2――「国民経済計算」ベースで見た地方政府の財政赤字
1│1990年代半ば以降は国とは対照的に収支が改善
2│地方の財政収支改善は投資減が主因
3――個別の地方公共団体毎に見た財政収支
1│会計ベースの財政収支
2│都道府県と市町村の財政収支
3│市町村合併と財政収支改善の関係
4――おわりに

■introduction

決算指標を通じて、財政状況の健全度に対する自己点検をすべての地方公共団体に求め、警戒水準を超えて悪化が進んでいる団体には早期是正を促すルールを明確化した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(地方公共団体財政健全化法)の本格施行が始まったのはちょうど5年前の2008年4月である。しかし、この年に生じたリーマンショックによる世界的な景気後退に伴って、翌年度以降は税収が激減し、また、2011年には一部の地方公共団体が東日本大震災の深刻な被害を受けるなど、財政運営を巡る過去5年間の環境は決して良好なものだったわけではない。こうした状況を踏まえたうえで、長期的に見て地方財政の健全化は進んでいるのかどうか、当レポートでは、最も基本的な指標である財政収支に焦点を当てて、検討を行う。特に、国に対する集合体としての「地方」という観点からだけではなく、都道府県と市町村、あるいは、政令指定都市と一般都市、町村という現実の地方公共団体をイメージできるレベルに視線を据えて、財政収支の動向と変化の要因を明らかにする。

1――はじめに
決算指標を通じて、財政状況の健全度に対する自己点検をすべての地方公共団体に求め、警戒水準
を超えて悪化が進んでいる団体には早期是正を促すルールを明確化した「地方公共団体の財政の健全
化に関する法律」(地方公共団体財政健全化法)の本格施行が始まったのはちょうど5 年前の2008 年
4 月である。しかし、この年に生じたリーマンショックによる世界的な景気後退に伴って、翌年度以
降は税収が激減し、また、2011 年には一部の地方公共団体が東日本大震災の深刻な被害を受けるなど、
財政運営を巡る過去5 年間の環境は決して良好なものだったわけではない。こうした状況を踏まえた
うえで、長期的に見て地方財政の健全化は進んでいるのかどうか、当レポートでは、最も基本的な指
標である財政収支に焦点を当てて、検討を行う。特に、国に対する集合体としての「地方」という観
点からだけではなく、都道府県と市町村、あるいは、政令指定都市と一般都市、町村という現実の地
方公共団体をイメージできるレベルに視線を据えて、財政収支の動向と変化の要因を明らかにする。
2――「国民経済計算」ベースで見た地方政府の財政赤字
1|1990 年代半ば以降は国とは対照的に収支が改善
地方公共団体の財政状況を示す指標としては、普通会計決算統計をはじめ、地方公共団体財政健全
化法によって定められた4 種類の健全化判断比率など数多くの統計・指標が公表されている。これら
は、現実の地方行財政の遂行結果としての決算に基づくものであり、裏返して言えば、決算やその前
提となる予算の内容は財政運営を映す鏡だと言える。しかし、意外なことに、国・地方を問わず、「財
政収支」という名称の項目は日本の予算・決算資料の中には存在しない。
いわゆる「財政収支」、例えば、目標値が設定される中期財政フレームや財務省から毎年公表される
財政関連資料の中で「国・地方の財政収支(赤字)」とされているものは、すべて「国民経済計算(SNA)」
ベースの数値であり、様々な会計の歳入・歳出項目が組合せられ、複雑な概念調整が施されたうえで
算出されたものである。非常に残念なことではあるが、個別の地方公共団体の財政関連資料は豊富に
あるのに、財政収支を直接表す統計や項目がないため、我々が直接知ることができるのは、国民経済
計算ベース、集合体としての「地方」の歳入・歳出に関するデータが二次加工、三次加工されたうえ
で算出された「財政収支」のみにとどまっている。地方公共団体の歳入・歳出に関する詳細な項目を
含んだ普通会計ベースの決算統計に基づいて「財政収支」を把握する試みは次節での分析に委ね、ま
ず、正式な数値として使われる国民経済計算ベースの「財政収支」の推移を国と地方について比較す
ることとしたい。
図表−1が示すとおり、いわゆる「バブル崩壊」に伴って日本経済が長い低迷の時代に入ると、急
減に財政収支が悪化し、90 年代半ば
まで赤字が拡大したことは、国にも
地方にも共通している。しかし、90
年代後半になると、地方の赤字幅が
少しずつ縮小したのに対して、国の
赤字はさらに拡大し、両者の動きは
対照的なものに変わったのである。
2000 年代に入っても、地方の収支
は緩やかながらも改善傾向を示して
いる。2006 年度に黒字化した後、
2009 年度以降は景気後退や東日本
大震災の影響で小幅悪化しているが、
基調に変化がみられるというほどで
はない。財政収支から利子の支払と
受取を除外した概念、すなわち、プ
ライマリーバランスで見ると、2003
年度以降、地方は黒字を続けている。
一方、国は今日に至るまで30 兆円前後の財政赤字を続けている。
こうした推移に対しては、「国は地方の赤字を肩代わりしている」、「地方が収支均衡に至れたのは、
国が赤字を引き受けているから」という指摘もしばしばなされる。国と地方の間には、制度的に様々
なルートを通じた財政移転、資金移転が行われる関係があり、国の収支と地方の収入をそれぞれ独立
したものであるかのような見方をするのは、確かに適切ではない。例えば、国から地方へは毎年16
兆円前後の地方交付税が交付されているから、地方の財政収支に対して地方交付税は16 兆円もの黒字
要因として働いていることになる。
ただし、こうした国からの資金移転が地方財政を支えていることと、その構造が強まったか否かと
は峻別したうえで、収支改善の主因を探るべきであろう。前述のとおり、国民経済計算における財政収
支を構成する各項目は、会計ベースの歳入・歳出項目に単純に対応している訳ではなく、また、国民
経済計算概念に固有の表象方式もあるため、厳密な検証を行うことはできない。しかし、国民経済計
算における各項目を適切に整理・統合すれば、会計ベースの歳入、歳出を構成する主要項目に対応す
る系列を幾つか得ることができるi。このうち、歳入に対応する項目を、地方税等、国からの経常移転
および資本移転、他部門からの経常移転および資本移転、財産所得受取の4 つに統合して推移を見た
のが、図表-2 である。
会計ベースでの地方交付税・地方
特例交付金・国庫支出金などの資金
移転額は、国民経済計算では、「国か
らの経常移転および資本移転」に反
映されており、地方の財政赤字縮小
が顕著に進んだ1990 年代半ばから
2000 年代半ばにかけての期間に着
目すると、1999 年度以降はむしろ減
少しており、国からの資金移転額が
増えたことによって、地方の財政収
支が改善したと見るのは難しい。
2006 年度以降に限れば、「国から
の経常移転および資本移転」は大幅
な増加傾向を示している。ただし、
これに先立つ2002〜2007 年度の期
間において、三位一体の改革による
国からの税源移譲と景気拡大局面で
の税収増加を反映して「地方税等」が増加した際は、この項目は大幅に減少した。そして、その後の
景気後退による地方税収減の際に増加するというように、全期間を通じて、「国からの経常移転および
資本移転」は「地方税等」とほぼ正反対の動きをしている。個別の地方公共団体に対する地方交付税
が「基準財政需要額と基準財政収入額の差額」として算定される仕組みがあり、地方交付税が地方税
を補う関係が総額ベースでも成り立っていると見ることができるii。
なお、国税としての所得税率が引き下げられて、その分、個人住民税率が引き上げられる税制改正
は2007 年度に実施されたが、その後は景気後退によって課税所得自体が減少してしまったため、地方
税収が平常時においてどれだけ増えたのかを現時点の国民経済計算統計で判断することはできない。
いずれにしても、1990 年代半ば以降の大きなトレンドとして、地方全体の財政収支が改善してきた
ことの主因を歳入面に求めることは、困難である。
2|地方の財政収支改善は投資減が主因
一方、国民経済計算ベースにおけ
る財政収支に対する受取項目と会計
ベースの歳出項目の呼称や概念の違
いは歳入項目以上に大きい。
しかし、項目間の統合によって、
図表-3 のように、財産所得の支払、
経常移転および資本移転(支払)、社
会扶助給付、最終消費支出、資本形
成等(固定資本形成、在庫品増加、土
地の純購入)の5 つに整理すれば、集
計対象や金額面での差異は残るもの
の、普通会計ベースにおけるそれぞ
れの関連項目である公債費中の利子、
補助費、扶助費、人件費・物件費・
維持補修費、投資的経費と概ね対応
づけることができる。
このうち、全期間を通じて財政収
支とほぼ同じ動きをしているのが資本形成等である。ピークの1995 年度には31 兆円に達したが、2011
年度には12 兆円まで減少している。社会扶助給付は増加傾向を続けていることもあって、ピーク時か
らの資本形成等の減少幅は財政収支の改善幅をも上回っており、公共投資の縮減が地方の財政収支改
善の主因と言える。
3――個別の地方公共団体毎に見た財政収支
1|会計ベースの財政収支
以上の議論は、集合体としての地方公共団体に関するものであり、都道府県と市町村に分けて見た
とき、あるいは、個別の地方公共団体毎に見た時にも当てはまることとは限らない。国と地方の財政
状況に対して国民の関心がかつてないほど高まっているにもかかわらず、このような基本的な事実が
明らかではないのは、冒頭で述べたように、地方公共団体毎の「財政収支」を直接表す統計が存在し
ないからである。言い換えると、地方公共団体毎の「財政収支」を把握するには、公表されている決
算統計の項目を組み替えることにより、国民経済計算概念での「財政収支」に相当する額を算定する
作業が必要となる。
財政収支は多種多様な項目の加算と減算の結果として算定されるため、そのひとつひとつを会計ベ
ースの項目と対応づけることは困難である。しかし、収支尻としての側面に着目すれば、フローとス
トック間には以下の関係が成り立っている。
財政収支=「政府の現金・金融資産残高−政府の負債残高」の前年度からの変化幅
あるいは
財政収支=「現金・金融資産増、負債減をもたらす取引」−「現金・金融資産減、負債増をもたら
す取引」
これらの関係式は、地方公共団体の普通会計決算統計にも当てはめることができる。まず、ストッ
ク統計からは次式が得られるiii。
財政収支=「積立金残高+実質収支−地方債残高」の前年度からの変化幅
また、フローの決算統計からは、次式が得られるiv。
財政収支=「金融資産増・負債減をもたらす取引」−「金融資産減・負債増をもたらす取引」+「歳
入−歳出」
=「歳入において金融資産減・負債増をもたらす項目以外の項目」−「歳出において金融
資産増・負債減をもたらす項目以外の項目」
=「歳入総額−地方債−財産収入−諸収入−繰越金」−「歳出総額−地方債元金償−積立
金−投資・出資・貸付金−前
年度繰上充用金」
図表-4 は、都道府県と市町村と合わせた
ベースで、普通会計決算に基づくストック
統計とフローと統計を利用して、財政収支
を算定し、国民経済計算ベースのそれと比
較したものである。概念の統一が完全では
ないため、金額の不一致は残っているが、
普通会計決算ベースでも国民経済計算ベー
スの動きをほぼ再現できることが分かるv。

2|都道府県と市町村の財政収支
そこで、普通会計決算のストック統計に
基づいて都道府県と市町村の財政収支を試
算した結果を示したものが、図表-5 である。
これを見ると、全般的な推移は似ているも
のの、市町村の方が1990 年代半ば以降の赤
字は小さく、2005 年度以降は黒字を維持し
ていることがわかる。
さらに、市町村の内訳については、市町
村合併時に適正な試算結果が得られないス
トック統計の替わりにフロー統計を利用し、
政令市、一般都市、町村、特別区(東京23
区)に分けて、財政収支の推移を示したの
が、図表-6 であるvi。
これを見ると、大きな変化の方向性、特
に、1990 年代半ばまでの悪化とその後の改
善に関しては、政令市、一般都市、町村、
特別区に共通の傾向が見られる。ただし、
年々の振幅も1990 年代半ばから近年に至
る改善幅も、一般都市が特に大きく、町村
がそれに次いで大きい。また、市町村全体
の変化に対する影響は大きくないが、特別
区は2000 年度頃から黒字に転じている模
様である。
3|市町村合併と財政収支改善の関係
地方全体の財政収支の改善傾向を支えて
きた主因が、歳出における公共投資の縮減
であることは既に見たとおりである。ここ
では、都道府県と市町村、あるいは、市町
村を政令市、一般都市、町村、特別区と分
けたうえで、全体と同じことが当てはまる
のか、確認したい。
まず、図表-7 は、国民経済計算ベースの
投資(固定資本形成、在庫投資、土地純購入の
和)と、普通会計決算統計ベースの投資的経費
(普通建設事業費、災害復旧事業費、失業対策
事業費)とを対比させたものである。概念や集
計対象の違いはあるものの、地方全体の金額
は非常に似通っている。また、都道府県につ
いても、市町村についても、全体と同じく、
1990 年代半ば以降の減少傾向が続いている。
図表-8 は、市町村を政令市、一般都市、町
村、特別区に分けて、投資的経費の推移を見
たものである。一般都市、町村、特別区のピ
ークが少し早かったことを除けば、2003 年度
頃までの低下のトレンドは全体と大きく異な
らない。
しかし、2003 年度から2005 年度にかけて、
町村の投資的経費が大きく減少しているのに
対して、一般都市は2003 年度以降も横ばい圏
の中での変動にとどまるなど、市町村全体と
は異なる動きもある。
実は、この時期は、「平成の大合併」によっ
て、市町村の数が激減した時である。個々の
地方公共団体の規模を一定水準以上に大きく
することで行財政運営の基盤強化と効率化を
意図したもので、2003 年度時点で2443 あっ
た町村は2005 年度には1044 にまで減少して
いる。一方、一般都市は同時期に676 から763
に増加している。
そこで、一般都市と町村に焦点を当てて、1
団体(1 市町村)当たりの投資的経費の動きを
示したのが、図表-10 である。
これを見ると、1993 年度をピークに低下へ
と転じたことは一般都市と町村に共通してい
る。しかし、一般都市に関しては、2003 年度
までのトレンドの方が顕著であるものの、そ
の後も緩やかな減少傾向が続いているのに対
して、2003 年度以降の町村はほぼ横ばい圏の
中での変動にとどまっている。

したがって、2003 年度から2005 年度にかけての町村全体の投資的経費急減は、町村数の減少によ
るものだと分かる。一方、一般都市の方は団体数が増えたものの、1 団体当たりの水準がこれを相殺
するように低下したため、一般都市全体の投資的経費は横ばいにとどまったものと言える。2000 年代
半ば以降も市町村全体の投資的経費が減少傾向を続けてきた背景には、このような合併に伴う影響が
少なからず反映されている。
一般的には、地方公共団体には、その規模にかかわらず必要とされる施設や支出が存在するため、
市町村合併が行われれば、市町村数減少に伴う必要施設総数減少の効果が出やすいと考えられる。そ
の反面、1 市町村の規模は大きくなるので、1 市町村当たりの歳出は増えても不思議ではない。しかし、
一般都市については、1 都市当たりの投資的経費も低下した。これについては、合併対象市町村がそ
れぞれ従前から保有していた施設が効率よく組み合わせられることで新設投資が節約されたためと解
釈することもできるが、合併とは無関係に投資減が続いている可能性もある。
公共投資に関して重要なのは、投資の結果としてのストックの水準であり、住民が受ける便益とそ
のためのコストが他の公共サービスに対する支出と比べて適切かどうかが問われるべきである。言い
換えると、単純に歳出額の変化だけを見て、かつてのフローの投資水準が過剰であるとも、現在の投
資水準が過小であるとも言うことはできない。社会資本の分野毎に物理的な数量単位でストックの水
準が妥当かどうか、老朽化によってサービスが低下していないかどうか、別途検証することが必要で
あろう。
4――おわりに
地方の財政収支については、以下のように総括できる。
第1 に、長期的に見ると、集合体としての地方は、1990 年代半ばから改善傾向を続けている。2009
年度以降は景気後退や東日本大震災の影響で小幅悪化しているが、基調に変化がみられるというほど
ではない。
第2 に、決算統計を利用して、都道府県と市町村の別に財政収支を試算すると、推移は似ているも
のの、市町村の方が良好で、2005 年度以降黒字を維持している。さらに、市町村を政令市、一般都市、
町村、特別区に分けると、一般都市と町村は2000 年代以降も顕著な改善がみられる。
第3 に、財政収支改善の主因は、公共投資の大幅な縮減を続けてきたことにある。2000 年代半ば以
降は、合併によって市町村数が減少したことも総額の減少につながっている。
このように、地方の財政収支で見た財政健全化は長期的には進んでいるが、ごく最近に限れば、ど
のような団体、どのような区分から見ても顕著な改善が見られるという状況ではなくなっており、引
き続き動向を見守っていくことが必要である。決算統計を利用すれば、都道府県、市町村、あるいは
政令市、一般都市、町村、特別区という区分による集計値だけではなく、個別地方公共団体の財政収
支を試算することが可能であり、住民の立場で監視の目を向けることが最も重要だと思われる。
もちろん、財政収支は財政状況の一端を示すに過ぎないのも事実である。歳入、特に地方税や地方
交付税、健全化判断比率などの面では、財源基盤の強化や健全化が必ずしも進んでいるとは言えない
部分もあり、それらの点については次回、次々回のレポートで検討することとしたい。

http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report130329-3.html


12. 2013年4月03日 00:10:26 : xEBOc6ttRg
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2 調査結果の概要

1.国や社会との関わりについて
(1) 国を愛する気持ちの程度
 他の人と比べて,「国を愛する」という気持ちは強い方だと思うか聞いたところ,「強い」とする者の割合が58.0%(「非常に強い」18.3%+「どちらかといえば強い」39.7%),「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合が36.4%,「弱い」とする者の割合が5.7%(「どちらかといえば弱い」5.1%+「非常に弱い(全くない)」0.6%)となっている。
 前回の調査結果(平成24年1月調査結果をいう,以下同じ)と比較して見ると,「強い」(55.4%→58.0%)とする者の割合が上昇している。
 性別に見ると,「強い」とする者の割合は男性で,「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「強い」とする者の割合は60歳代,70歳以上で,「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合は20歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「強い」とする者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の70歳以上で,「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合は男性の30歳代,女性の20歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「強い」とする者の割合は自営業主,その他の無職で,「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合は雇用者で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「強い」とする者の割合は農林漁業職で,「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図1,図2,表1−1(CSV形式:3KB),表1−2(CSV形式:3KB))

(2) 国を愛する気持ちを育てる必要性
 今後,国民の間に「国を愛する」という気持ちをもっと育てる必要があると思うか聞いたところ,「そう思う」と答えた者の割合が79.8%,「そうは思わない」と答えた者の割合が10.1%となっている。なお,「わからない」と答えた者の割合が10.1%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,大きな変化は見られない。
 都市規模別に見ると,「そうは思わない」と答えた者の割合は町村で高くなっている。
 性別に見ると,「そうは思わない」と答えた者の割合は男性で高くなっている。
 年齢別に見ると,「そう思う」と答えた者の割合は60歳代,70歳以上で,「そうは思わない」と答えた者の割合は20歳代から40歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「そう思う」と答えた者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の70歳以上で,「そうは思わない」と答えた者の割合は男性の20歳代から40歳代,女性の30歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「そうは思わない」と答えた者の割合は雇用者で高くなっている。(図3,図4,表2−1(CSV形式:2KB),表2−2(CSV形式:1KB)),表2参考(CSV形式:1KB))

(3) 社会志向か個人志向か
 国民は,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」という意見と,「個人生活の充実をもっと重視すべきだ」という意見があるが,このうちどちらの意見に近いか聞いたところ,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と答えた者の割合が53.3%,「個人生活の充実をもっと重視すべきだ」と答えた者の割合が34.2%となっている。なお,「一概にいえない」と答えた者の割合が11.6%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」(55.2%→53.3%)と答えた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と答えた者の割合は大都市で高くなっている。
 性別に見ると,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と答えた者の割合は男性で高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と答えた者の割合は男性の30歳代,60歳代で高くなっている。
 職業別に見ると,「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と答えた者の割合は管理・専門技術・事務職で,「個人生活の充実をもっと重視すべきだ」と答えた者の割合は生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図5,図6,表3−1(CSV形式:2KB),表3−2(CSV形式:3KB))

(4) 社会への貢献意識
 日頃,社会の一員として,何か社会のために役立ちたいと思っているか,それとも,あまりそのようなことは考えていないか聞いたところ,「思っている」と答えた者の割合が66.7%,「あまり考えていない」と答えた者の割合が30.9%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,大きな変化は見られない。
 都市規模別に見ると,「思っている」と答えた者の割合は大都市,中都市で,「あまり考えていない」と答えた者の割合は小都市,町村で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「思っている」と答えた者の割合は男性で,「あまり考えていない」と答えた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「思っている」と答えた者の割合は30歳代から60歳代で,「あまり考えていない」と答えた者の割合は70歳以上で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「思っている」と答えた者の割合は男性の40歳代から60歳代,女性の40歳代から60歳代で,「あまり考えていない」と答えた者の割合は男性の70歳以上,女性の70歳以上で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「思っている」と答えた者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職で高くなっている。(図7,図8,表4−1(CSV形式:2KB),表4−2(CSV形式:2KB))

 ア 社会への貢献内容
 日頃,社会の一員として,何か社会のために役立ちたいと「思っている」と答えた者(4,064人)に,何か社会のために役立ちたいと思っているのはどのようなことか聞いたところ,「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護,身の回りの世話,給食,保育など)」を挙げた者の割合が36.9%,「町内会などの地域活動(お祝い事や不幸などの手伝い,町内会や自治会などの役員,防犯や防火活動など)」を挙げた者の割合が35.1%,「自然・環境保護に関する活動(環境美化,リサイクル活動,牛乳パックの回収など)」を挙げた者の割合が33.3%と高く,以下,「自主防災活動や災害援助活動」(26.5%),「自分の職業を通して」(25.3%)などの順となっている。(複数回答,上位5項目)
 都市規模別に見ると,「町内会などの地域活動(お祝い事や不幸などの手伝い,町内会や自治会などの役員,防犯や防火活動など)」を挙げた者の割合は町村で,「自主防災活動や災害援助活動」を挙げた者の割合は小都市で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護,身の回りの世話,給食,保育など)」,「自然・環境保護に関する活動(環境美化,リサイクル活動,牛乳パックの回収など)」を挙げた者の割合は女性で,「自主防災活動や災害援助活動」,「自分の職業を通して」を挙げた者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護,身の回りの世話,給食,保育など)」を挙げた者の割合は50歳代,60歳代で,「町内会などの地域活動(お祝い事や不幸などの手伝い,町内会や自治会などの役員,防犯や防火活動など)」を挙げた者の割合は60歳代,70歳以上で,「自然・環境保護に関する活動(環境美化,リサイクル活動,牛乳パックの回収など)」を挙げた者の割合は40歳代で,「自分の職業を通して」を挙げた者の割合は20歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護,身の回りの世話,給食,保育など)」を挙げた者の割合は女性の30歳代から60歳代で,「町内会などの地域活動(お祝い事や不幸などの手伝い,町内会や自治会などの役員,防犯や防火活動など)」を挙げた者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の60歳代で,「自然・環境保護に関する活動(環境美化,リサイクル活動,牛乳パックの回収など)」を挙げた者の割合は女性の30歳代,40歳代で,「自主防災活動や災害援助活動」を挙げた者の割合は男性の30歳代から60歳代で,「自分の職業を通して」を挙げた者の割合は男性の20歳代から50歳代,女性の20歳代,40歳代で,それぞれ高くなっている。(図9,図10,表5−1(CSV形式:6KB),表5−2(CSV形式:3KB))

(5) 国民全体の利益か個人の利益か
 今後,日本人は,個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだと思うか,それとも,国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだと思うか聞いたところ,「個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合が53.5%,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合が28.2%となっている。なお,「一概にいえない」と答えた者の割合が16.5%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだ」(55.4%→53.5%)と答えた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は大都市で,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は町村で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は男性で高くなっている。
 年齢別に見ると,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は20歳代,30歳代で高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は女性の40歳代で,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は男性の20歳代,女性の30歳代で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「国民全体の利益よりも個人個人の利益を大切にすべきだ」と答えた者の割合は販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で高くなっている。(図11,図12,表6−1(CSV形式:2KB),表6−2(CSV形式:2KB),表6参考(CSV形式:1KB))

(6) 現在の地域での付き合いの程度
 地域での付き合いをどの程度しているか聞いたところ,「付き合っている」とする者の割合が70.3%(「よく付き合っている」19.1%+「ある程度付き合っている」51.3%),「付き合っていない」とする者の割合が29.6%(「あまり付き合っていない」24.1%+「全く付き合っていない」5.5%)となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,大きな変化は見られない。
 都市規模別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は小都市,町村で,「付き合っていない」とする者の割合は大都市,中都市で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は女性で,「付き合っていない」とする者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は50歳代から70歳以上で,「付き合っていない」とする者の割合は20歳代から40歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の50歳代から70歳以上で,「付き合っていない」とする者の割合は男性の20歳代から40歳代,女性の20歳代,30歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は自営業主,家族従業者,主婦,その他の無職で,「付き合っていない」とする者の割合は雇用者で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「付き合っている」とする者の割合は農林漁業職で,「付き合っていない」とする者の割合は管理・専門技術・事務職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図13,表7−1(CSV形式:3KB),表7−2(CSV形式:1KB))

(7) 望ましい地域での付き合いの程度
 地域での付き合いは,どの程度が望ましいと思うか聞いたところ,「住民全ての間で困ったときに互いに助け合う」と答えた者の割合が44.0%,「気の合う住民の間で困ったときに助け合う」と答えた者の割合が26.7%,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民がみんなで行事や催しに参加する」と答えた者の割合が16.1%,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民の間で世間話や立ち話をする」と答えた者の割合が5.1%,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民の間であいさつを交わす」と答えた者の割合が6.1%,「地域での付き合いは必要ない」と答えた者の割合が0.7%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,大きな変化は見られない。
 都市規模別に見ると,「住民全ての間で困ったときに互いに助け合う」と答えた者の割合は町村で高くなっている。
 性別に見ると,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民がみんなで行事や催しに参加する」と答えた者の割合は男性で高くなっている。
 年齢別に見ると,「住民全ての間で困ったときに互いに助け合う」と答えた者の割合は50歳代,60歳代で,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民がみんなで行事や催しに参加する」と答えた者の割合は30歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「住民全ての間で困ったときに互いに助け合う」と答えた者の割合は自営業主で,「気の合う住民の間で困ったときに助け合う」と答えた者の割合は主婦で,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民がみんなで行事や催しに参加する」と答えた者の割合は雇用者で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「住民全ての間で困ったときに互いに助け合う」と答えた者の割合は農林漁業職で,「困ったときに助け合うことまではしなくても,住民がみんなで行事や催しに参加する」と答えた者の割合は生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図14,表8−1(CSV形式:3KB),表8−2(CSV形式:1KB))

2.東日本大震災後の意識について
(1) 震災前と比べた,社会における結びつきの意識変化
 東日本大震災前と比べて,社会における結びつきが大切だと思うようになったか聞いたところ,「前よりも大切だと思うようになった」と答えた者の割合が77.5%,「特に変わらない」と答えた者の割合が21.3%,「前よりも大切だとは思わなくなった」と答えた者の割合が0.6%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「前よりも大切だと思うようになった」(79.6%→77.5%)と答えた者の割合が低下し,「特に変わらない」(19.7%→21.3%)と答えた者の割合が上昇している。
 都市規模別に見ると,大きな差異は見られない。
 性別に見ると,「前よりも大切だと思うようになった」と答えた者の割合は女性で,「特に変わらない」と答えた者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「特に変わらない」と答えた者の割合は70歳以上で高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「前よりも大切だと思うようになった」と答えた者の割合は女性の20歳代から60歳代で,「特に変わらない」と答えた者の割合は男性の20歳代,30歳代,50歳代から70歳以上で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「前よりも大切だと思うようになった」と答えた者の割合は主婦で,「特に変わらない」と答えた者の割合はその他の無職で,それぞれ高くなっている。(図15,表9−1(CSV形式:2KB),表9−2(CSV形式:1KB))

(2) 震災後,強く意識するようになったこと
 東日本大震災後,強く意識するようになったことは何か聞いたところ,「家族や親戚とのつながりを大切に思う」を挙げた者の割合が64.5%と最も高く,以下,「地域でのつながりを大切に思う」(60.0%),「社会全体として助け合うことが重要だと思う」(46.5%),「友人や知人とのつながりを大切に思う」(43.3%),「自分のことは自分で守らなければならないと思う」(41.5%)などの順となっている。(複数回答,上位5項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「家族や親戚とのつながりを大切に思う」(67.2%→64.5%)を挙げた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「家族や親戚とのつながりを大切に思う」,「社会全体として助け合うことが重要だと思う」,「友人や知人とのつながりを大切に思う」,「自分のことは自分で守らなければならないと思う」を挙げた者の割合は中都市で高くなっている。
 性別に見ると,「家族や親戚とのつながりを大切に思う」,「地域でのつながりを大切に思う」,「社会全体として助け合うことが重要だと思う」,「友人や知人とのつながりを大切に思う」,「自分のことは自分で守らなければならないと思う」を挙げた者の割合は女性で高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「家族や親戚とのつながりを大切に思う」を挙げた者の割合は女性の20歳代から50歳代で,「地域でのつながりを大切に思う」を挙げた者の割合は男性の50歳代,女性の40歳代から60歳代で,「社会全体として助け合うことが重要だと思う」を挙げた者の割合は女性の20歳代から60歳代で,「友人や知人とのつながりを大切に思う」を挙げた者の割合は男性の20歳代,30歳代,女性の20歳代から50歳代で,「自分のことは自分で守らなければならないと思う」を挙げた者の割合は女性の40歳代から60歳代で,それぞれ高くなっている。(図16,表10−1(CSV形式:4KB),表10−2(CSV形式:1KB))

3.社会の現状に対する認識について
(1) 現在の世相(明るいイメージ)
 現在の世相をひとことで言えば,明るいイメージとしては,どのような表現があてはまると思うか聞いたところ,「平和である」を挙げた者の割合が54.8%と最も高く,以下,「おもいやりがある」(19.3%),「安定している」(18.0%)などの順となっている。なお,「特にない」と答えた者の割合が17.4%となっている。(複数回答,上位3項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「平和である」(48.1%→54.8%),「安定している」(14.1%→18.0%)を挙げた者の割合が上昇し,「おもいやりがある」(21.7%→19.3%)を挙げた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「安定している」を挙げた者の割合は中都市で高くなっている。
 性別に見ると,「おもいやりがある」を挙げた者の割合は女性で,「安定している」を挙げた者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「平和である」を挙げた者の割合は40歳代,50歳代で,「安定している」を挙げた者の割合は60歳代,70歳以上で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「平和である」を挙げた者の割合は男性の50歳代,女性の40歳代,50歳代で,「おもいやりがある」を挙げた者の割合は女性の20歳代,30歳代,50歳代,60歳代で,「安定している」を挙げた者の割合は男性の60歳代,70歳以上で,それぞれ高くなっている。(図17,図18,表11−1(CSV形式:4KB),表11−2(CSV形式:4KB))

(2) 現在の世相(暗いイメージ)
 現在の世相をひとことで言えば,暗いイメージとしては,どのような表現があてはまると思うか聞いたところ,「無責任の風潮がつよい」を挙げた者の割合が41.7%と最も高く,以下,「ゆとりがない」(37.9%),「自分本位である」(35.7%),「連帯感が乏しい」(28.9%),「活気がない」(28.1%)などの順となっている。(複数回答,上位5項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「無責任の風潮がつよい」(43.9%→41.7%),「活気がない」(30.2%→28.1%)を挙げた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「無責任の風潮がつよい」,「自分本位である」,「連帯感が乏しい」を挙げた者の割合は大都市で,「ゆとりがない」を挙げた者の割合は中都市で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「無責任の風潮がつよい」,「連帯感が乏しい」を挙げた者の割合は男性で,「ゆとりがない」を挙げた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「無責任の風潮がつよい」を挙げた者の割合は40歳代,60歳代で,「ゆとりがない」を挙げた者の割合は40歳代から60歳代で,「自分本位である」,「連帯感が乏しい」を挙げた者の割合は50歳代,60歳代で,「活気がない」を挙げた者の割合は30歳代,40歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「無責任の風潮がつよい」を挙げた者の割合は男性の40歳代から60歳代で,「ゆとりがない」を挙げた者の割合は男性の40歳代,50歳代,女性の40歳代から60歳代で,「自分本位である」を挙げた者の割合は女性の60歳代で,「連帯感が乏しい」を挙げた者の割合は男性の50歳代,60歳代で,「活気がない」を挙げた者の割合は男性の30歳代,40歳代,女性の30歳代,40歳代で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「無責任の風潮がつよい」,「自分本位である」,「連帯感が乏しい」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職で,「ゆとりがない」,「活気がない」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図19,図20,表12−1(CSV形式:4KB),表12−2(CSV形式:3KB),表12参考(CSV形式:2KB))

(3) 日本の誇り
 日本の国や国民について,誇りに思うことはどんなことか聞いたところ,「治安のよさ」を挙げた者の割合が54.2%,「美しい自然」を挙げた者の割合が52.6%,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合が50.1%と高く,以下,「長い歴史と伝統」(46.3%)などの順となっている。(複数回答,上位4項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「治安のよさ」(45.5%→54.2%),「すぐれた文化や芸術」(48.3%→50.1%)を挙げた者の割合が上昇している。
 都市規模別に見ると,「治安のよさ」,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合は大都市,中都市で高くなっている。
 性別に見ると,「治安のよさ」を挙げた者の割合は男性で,「美しい自然」,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「治安のよさ」を挙げた者の割合は30歳代から50歳代で,「美しい自然」を挙げた者の割合は50歳代,60歳代で,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合は20歳代から50歳代で,「長い歴史と伝統」を挙げた者の割合は50歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「治安のよさ」,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合は雇用者で,「美しい自然」を挙げた者の割合は家族従業者,主婦で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「治安のよさ」,「すぐれた文化や芸術」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職で高くなっている。(図21,図22,表13−1(CSV形式:4KB),表13−2(CSV形式:3KB),表13参考(CSV形式:2KB))

(4) 社会の満足度(満足している点)
 現在の社会において満足している点は何か聞いたところ,「良質な生活環境が整っている」を挙げた者の割合が38.2%と最も高く,以下,「心と身体の健康が保たれる」(25.4%),「人と人とが認め合い交流しやすい」(16.1%),「向上心・向学心を伸ばしやすい」(14.9%),「女性が社会での活躍を志向しやすい」(13.7%)などの順となっている。なお,「特にない」と答えた者の割合が25.8%となっている。(複数回答,上位5項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「良質な生活環境が整っている」(34.0%→38.2%),「心と身体の健康が保たれる」(22.8%→25.4%)を挙げた者の割合が上昇している。
 都市規模別に見ると,「良質な生活環境が整っている」を挙げた者の割合は大都市,中都市で,「心と身体の健康が保たれる」,「向上心・向学心を伸ばしやすい」を挙げた者の割合は大都市で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「良質な生活環境が整っている」を挙げた者の割合は男性で,「人と人とが認め合い交流しやすい」,「女性が社会での活躍を志向しやすい」を挙げた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。(図23,表14−1(CSV形式:4KB),表14−2(CSV形式:2KB))

(5) 社会の満足度(満足していない点)
 現在の社会において満足していない点は何か聞いたところ,「経済的なゆとりと見通しが持てる」を挙げた者の割合が41.7%,「若者が社会での自立を目指しやすい」を挙げた者の割合が40.0%と高く,以下,「家庭が子育てしやすい」(27.9%),「働き方を選択しやすい」(27.3%)などの順となっている。なお,「特にない」と答えた者の割合が10.7%となっている。(複数回答,上位4項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」(45.2%→41.7%)を挙げた者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」,「若者が社会での自立を目指しやすい」,「家庭が子育てしやすい」を挙げた者の割合は中都市で高くなっている。
 年齢別に見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」,「家庭が子育てしやすい」を挙げた者の割合は20歳代から50歳代で,「若者が社会での自立を目指しやすい」を挙げた者の割合は40歳代,50歳代で,「働き方を選択しやすい」を挙げた者の割合は20歳代,40歳代,50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」を挙げた者の割合は男性の20歳代,40歳代,50歳代,女性の30歳代から50歳代で,「若者が社会での自立を目指しやすい」を挙げた者の割合は男性の30歳代から50歳代,女性の40歳代,50歳代で,「家庭が子育てしやすい」を挙げた者の割合は男性の30歳代,40歳代,女性の20歳代から50歳代で,「働き方を選択しやすい」を挙げた者の割合は男性の20歳代,50歳代,女性の40歳代,50歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」,「若者が社会での自立を目指しやすい」,「家庭が子育てしやすい」,「働き方を選択しやすい」を挙げた者の割合は雇用者で高くなっている。
 職業別に見ると,「経済的なゆとりと見通しが持てる」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,「若者が社会での自立を目指しやすい」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職で,「家庭が子育てしやすい」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職で,「働き方を選択しやすい」を挙げた者の割合は販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図24,表15−1(CSV形式:5KB),表15−2(CSV形式:2KB))

(6) 社会全体の満足度
 現在の社会に全体として満足しているか聞いたところ,「満足している」とする者の割合が53.4%(「満足している」5.8%+「やや満足している」47.6%),「満足していない」とする者の割合が46.1%(「あまり満足していない」37.6%+「満足していない」8.5%)となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「満足している」(44.4%→53.4%)とする者の割合が上昇し,「満足していない」(54.9%→46.1%)とする者の割合が低下している。
 都市規模別に見ると,「満足している」とする者の割合は大都市で高くなっている。
 年齢別に見ると,「満足している」とする者の割合は70歳以上で,「満足していない」とする者の割合は20歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「満足している」とする者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の70歳以上で,「満足していない」とする者の割合は男性の20歳代から50歳代,女性の40歳代,50歳代で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「満足している」とする者の割合は農林漁業職で,「満足していない」とする者の割合は販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図25,表16−1(CSV形式:3KB),表16−2(CSV形式:1KB))

4.国の政策に対する評価について
(1) 国の政策への民意の反映程度
 全般的にみて,国の政策に国民の考えや意見がどの程度反映されていると思うか聞いたところ,「反映されている」とする者の割合が26.6%(「かなり反映されている」1.6%+「ある程度反映されている」25.0%),「反映されていない」とする者の割合が69.7%(「あまり反映されていない」54.3%+「ほとんど反映されていない」15.4%)となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「反映されている」(15.5%→26.6%)とする者の割合が上昇し,「反映されていない」(81.9%→69.7%)とする者の割合が低下している。
 性別に見ると,「反映されている」とする者の割合は男性で,「反映されていない」とする者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「反映されている」とする者の割合は60歳代,70歳以上で,「反映されていない」とする者の割合は30歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「反映されている」とする者の割合は男性の60歳代,70歳以上,女性の70歳以上で,「反映されていない」とする者の割合は男性の30歳代,40歳代,女性の30歳代から50歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「反映されている」とする者の割合は自営業主,その他の無職で,「反映されていない」とする者の割合は雇用者で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「反映されている」とする者の割合は農林漁業職で,「反映されていない」とする者の割合は管理・専門技術・事務職,販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,それぞれ高くなっている。(図26,図27,表17−1(CSV形式:3KB),表17−2(CSV形式:2KB))

 ア 国の政策への民意の反映方法
 国の政策に国民の考えや意見が「ある程度反映されている」,「あまり反映されていない」,「ほとんど反映されていない」と答えた者(5,770人)に,どうすればよりよく反映されるようになると思うか聞いたところ,「政治家が国民の声をよく聞く」と答えた者の割合が28.8%,「国民が国の政策に関心を持つ」と答えた者の割合が23.3%,「国民が参加できる場をひろげる」と答えた者の割合が14.7%,「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合が13.1%,「政府が世論をよく聞く」と答えた者の割合が12.2%,「マスコミが国民の意見をよく伝える」と答えた者の割合が5.5%となっている。
 前回の調査結果と比較して見ると,「国民が国の政策に関心を持つ」(20.2%→23.3%)と答えた者の割合が上昇している。
 都市規模別に見ると,「政治家が国民の声をよく聞く」と答えた者の割合は小都市,町村で,「国民が国の政策に関心を持つ」と答えた者の割合は大都市で,それぞれ高くなっている。
 性別に見ると,「政治家が国民の声をよく聞く」,「政府が世論をよく聞く」と答えた者の割合は女性で,「国民が国の政策に関心を持つ」,「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「政治家が国民の声をよく聞く」と答えた者の割合は70歳以上で,「国民が参加できる場をひろげる」と答えた者の割合は20歳代から40歳代で,「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合は60歳代,70歳以上で,「政府が世論をよく聞く」と答えた者の割合は40歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「政治家が国民の声をよく聞く」と答えた者の割合は主婦,その他の無職で,「国民が参加できる場をひろげる」と答えた者の割合は雇用者で,「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合は自営業主,その他の無職で,「政府が世論をよく聞く」と答えた者の割合は主婦で,それぞれ高くなっている。
 職業別に見ると,「国民が国の政策に関心を持つ」と答えた者の割合は管理・専門技術・事務職で,「国民が参加できる場をひろげる」と答えた者の割合は販売・サービス・保安職,生産・輸送・建設・労務職で,「国民が選挙のときに自覚して投票する」と答えた者の割合は農林漁業職で,それぞれ高くなっている。(図28,図29,表18−1(CSV形式:3KB),表18−2(CSV形式:3KB))

(2) 良い方向に向かっている分野
 現在の日本の状況について,良い方向に向かっていると思われるのは,どのような分野か聞いたところ,「医療・福祉」を挙げた者の割合が27.5%,「科学技術」を挙げた者の割合が25.7%と高く,以下,「防災」(19.6%),「治安」(15.6%)などの順となっている。なお,「ない,わからない」と答えた者の割合が21.6%となっている。(複数回答,上位4項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「医療・福祉」(22.5%→27.5%),「科学技術」(23.1%→25.7%),「防災」(15.2%→19.6%),「治安」(13.6%→15.6%)を挙げた者の割合が上昇している。
 都市規模別に見ると,「科学技術」を挙げた者の割合は中都市で高くなっている。
 性別に見ると,「医療・福祉」を挙げた者の割合は女性で,「科学技術」,「防災」を挙げた者の割合は男性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「医療・福祉」を挙げた者の割合は20歳代,70歳以上で,「科学技術」を挙げた者の割合は20歳代で,「防災」を挙げた者の割合は20歳代から40歳代で,「治安」を挙げた者の割合は60歳代で,それぞれ高くなっている。
 従業上の地位別に見ると,「科学技術」,「防災」を挙げた者の割合は雇用者で高くなっている。
 職業別に見ると,「科学技術」,「防災」を挙げた者の割合は管理・専門技術・事務職で,「治安」を挙げた者の割合は販売・サービス・保安職で,それぞれ高くなっている。(図30,図31,表19−1(CSV形式:6KB),表19−2(CSV形式:3KB))

(3) 悪い方向に向かっている分野
 現在の日本の状況について,悪い方向に向かっていると思われるのは,どのような分野か聞いたところ,「雇用・労働条件」を挙げた者の割合が39.1%,「国の財政」を挙げた者の割合が39.0%と高く,以下,「景気」(36.1%),「外交」(35.9%)などの順となっている。(複数回答,上位4項目)
 前回の調査結果と比較して見ると,「雇用・労働条件」(49.3%→39.1%),「国の財政」(54.9%→39.0%),「景気」(58.7%→36.1%),「外交」(37.9%→35.9%)を挙げた者の割合が低下している。
 性別に見ると,「国の財政」,「外交」を挙げた者の割合は男性で,「景気」を挙げた者の割合は女性で,それぞれ高くなっている。
 年齢別に見ると,「雇用・労働条件」,「国の財政」を挙げた者の割合は40歳代から60歳代で,「景気」を挙げた者の割合は30歳代から50歳代で,「外交」を挙げた者の割合は50歳代で,それぞれ高くなっている。
 性・年齢別に見ると,「雇用・労働条件」を挙げた者の割合は男性の40歳代,60歳代,女性の40歳代,50歳代で,「国の財政」を挙げた者の割合は男性の30歳代から60歳代で,「景気」を挙げた者の割合は女性の30歳代から60歳代で,「外交」を挙げた者の割合は男性の20歳代から60歳代で,それぞれ高くなっている。(図32,図33,表20−1(CSV形式:7KB),表20−2(CSV形式:3KB))

http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-shakai/3.html


13. 2013年4月09日 18:30:47 : xEBOc6ttRg


「派遣いいじゃん!」は遠い記憶 減る給料、仕事に忙殺…契約が突然終了
2013.4.7 12:00

 派遣労働者保護の動きが高まっているが、彼らの生活は苦しくなる一方のようだ。将来を描けず、思い悩む彼らの声を拾っていく。

 2008年秋のリーマン・ブラザーズの倒産が引き金となった、世界的な金融危機。日本にも多大な影響を及ぼし、経営不振に陥った企業は、大規模リストラに踏み切った。真っ先に対象となったのが派遣労働者たちだった。

 「雇用の調整弁」として製造業で働く派遣契約者を中心に、いわゆる「派遣切り」によって多くの人が職や住まいを失った。08年末には日比谷公園に「年越し派遣村」が出現し、人々に衝撃を与えた。

 今でこそ「派遣受難」 の時代だが、昔からそうだったわけではない。

 「短大卒業後、寮のある会社で正社員として働いていたんですけど、1人暮らしもままならないほど給料が安かったんです。派遣のほうが、収入がよくなるので派遣で働くようになりました」

 38歳の女性、藤田めぐみさん(仮名)は、1999年に派遣社員になったきっかけをこう語る。

 当時の時給は1800〜1900円が主流、1日8時間労働で月20日勤務すれば約30万円の収入となる。20代半ばの事務職の女性で、これだけの収入を確保するのは困難だろう。しかも、残業した分も支払ってもらえる。

 しかし、それが景気の悪化とともにみるみる下がっていき、今の派遣先での時給は1650円だという。

 「どんどん目減りしていきました。交通費込みで1600円台はまだいいほう。昔に比べると随分変わりましたね」

 と溜め息をつく藤田さん。同じく38歳の女性、中村千早さん(仮名)も、「確かに昔は断然、『派遣のほうがいいじゃん!』って感覚がありましたね」。

 と、かつての様子を振り返る。中村さんは短大卒業時に就職氷河期に見舞われた。内定を得ることができず、社会人1年目から地元の広島で派遣として働くこととなった。当時は腰掛け程度の軽い気持ちだった。99年に上京し、派遣で働いた後にそのまま正社員として7年半在籍。その会社を退職してからは、再び派遣での勤務を続けている。

 そんな中村さんは横浜市内で1人暮らし。派遣では別途交通費は支給されないことが多い。時給が下がれば、その分交通費を捻出するのが苦しくなる。

 「以前働いていた会社は、1日7時間勤務でした。それで1カ月約3万円の定期代が自腹となるとかなり厳しいので、1日8時間以上働ける職場に変わることにしました。もう少しお金に余裕があれば、趣味を持ったり、友達と気軽に飲みにいったりすることもできるのですが……」

 中村さんによると、横浜市内の時給相場は、都内と比べて100〜200円は違う。需要も都内のほうが圧倒的に多いが、都内に住めば生活費がかさむ。だから中村さんは交通費を多めに負担してでも、都内での仕事を選ぶことにしている。

 彼女たちは派遣先で長く働き、職場で実力を認められても、時給が上がることは滅多にない。人材派遣会社に登録し、そこから企業に派遣されていて、直接の雇用関係にあるのは人材派遣会社。時給の値上げを希望する場合、人材派遣会社に申し出なくてはいけない。中村さんは思い切ってかけあってみたことがある。

 「『今、派遣業界は凄く厳しいんだから、そんなことを言ったところで、うちが切られるのがオチですよ』と言われ、値上げ交渉に応じてもらえませんでした」

 人材派遣会社としても、得意先である派遣先企業の機嫌は損ねたくはない。もっと安い人材派遣会社に変えられてしまっては元も子もないからだ。

 派遣先企業から人材派遣会社に「負担が増えてもいいから、時給を上げてやってくれないか」と申し出てもらえることもあるが、極めて稀なケースだ。

 「契約は基本的に3カ月更新なのですが、大丈夫なはずと思いつつも、更新時期はいつも気になってしまいます」

 と藤田さんが語るように、時給を上げてもらいたくても、契約更新のことが頭をよぎり、結局は何も言い出せないまま働き続けるしかないのだ。

 収入3割減で実家に出戻り

 大手メーカーのシステム部門でエンジニアとして働き続けてきた坂本義信氏(仮名)。雇用形態は請負契約だが、16年もの間にわたって、本社に常駐して日々の業務をこなしていた。

 「請負といっても、決まった仕事だけすればいいというわけではありません。1人で打ち合わせや出張にも行きますし、基本的には社員と全く同じ。雇う側からすれば1番使いやすい形でしょうね。システムの運用から開発まで何でも頼めますし。外注すればお金がかかりますから」

 そんな坂本氏はリーマン・ショック後にある日突然、契約の終了を言い渡された。まさに青天の霹靂だった。それまで自分が請負契約であることを意識することもなく、「この状態がずっと続くはず」と漠然と考えていた。在職中に、安定した正社員になるために、あえて別の会社を探すこともしなかったという。

 ただ、「社員にならないか」と誘われたことは何度かあった。

 「今の仕事はなくなりそうになかったですし、正社員になる必要性を特に感じていませんでした。むしろ社員になると収入が下がりますし、異動の可能性も出てきますから」

 あっけなく契約終了を迎え、知り合いに声をかけるなどして新たな仕事を探し始めた坂本氏。

 しかし、リーマン・ショックの影響が大きすぎて仕事は皆無。インターネット経由で人材派遣会社5社に登録したが、徒労に終わった。当時の坂本氏は45歳で、数少ない求人を見つけても、35歳以下という条件に阻まれた。

 「私が若い頃は未経験者歓迎で、若い人を自社で育てるというのが前提でした。でも、今の企業は即戦力を求めています。新卒より経験のある人をいい給料で採用するほうが、効率がいいからです。しかし、即戦力の人材は年齢が上がるにつれて、仕事が少なくなっていく。SE業界にはそんな悪循環がありますね」

 契約終了から3カ月後、坂本氏は何とか新しい仕事に就くことができた。ただし、派遣契約で収入は約3割減。それまで自宅の家賃と実家の住宅ローンを両方支払っていたが、1人暮らしをやめ、実家に戻らざるをえなくなってしまった。

 ようやく新たな職を見つけても、いつかまた切られるのではないかという不安は常につきまとう。

 「同じような条件で働く同僚が何人かいます。なかには精神的に病んでしまい、会社に来なくなった人もいますね」

 正社員であれば残業が一定時間を超えると、産業医によるカウンセリングを受けられるといったフォローがあるが、派遣には一切ない。あくまで自己責任だ。少ない人数で仕事をこなしているため、休みも確保しづらい。個人の負担は、精神的にも肉体的にも増す一方だ。

 坂本氏は、システム部門を派遣の人材に頼る危うさも指摘する。

 「景気が悪くなると、特に中小企業では情報システム部門は真っ先にコストダウンの対象になります。派遣や請負の技術者に任せきりだったのが、次々と入れ替わり、やがて辞めさせられてしまいます。引き継ぎが不十分で現場の正社員もシステムを把握できないようになり、大きなトラブルを起こす危険性も高まります」

 坂本氏を含む現場の人間は、自らの雇用や将来、システムへの不安を抱えつつ、日々の仕事に忙殺されている。(吉川明子=文)

涙のハケン社員「私たちのお金、夢、結婚……」

正社員と同じ仕事で給料半分。なんとかならないか

年収別に試算「一体、手取りはどれだけ減るのか?」
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130407/ecd1304071202002-n1.htm


ゆとり世代とバブル世代 アラウンド25・50の常識から見る日本社会
2012年12月27日 (9300文字)
企業給料若者
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25歳周辺のゆとり世代が「努力をしてもムダ、お金よりも情報、自分のやりたいことを優先し、身体を壊してまで仕事をしない」と言えば、「努力をすれば報われる、経済成長や出世こそ大事で、残業しても働く」と50歳周辺のバブル世代。水と油ほど異なる価値観の持ち主が同じ社会で机を並べる。生まれた時代、育った環境が違えば生き方が違ってくるのも当然だが、村上太一、香山リカら、それぞれの世代の声を聴きつつ、世代交代していく日本社会のこれからを見据える。


◎50歳の常識、25歳の常識
 高度経済成長やバブル景気を経験してきた「アラウンド50」世代。
 物心ついたときから不況しか知らない「アラウンド25」世代。働き方、家族観、目指す社会の姿まで全く違う。新政権が直面する社会の実態――。

 午前6時に起きて、ブログの更新。1カ月前に生まれた娘に授乳する妻の横で、朝ご飯を作り、掃除、洗濯もこなす。スーパーでの買い物は、「家族で月2万円以内」に食費を抑える『ゲーム』を楽しむ感覚。昼と晩のご飯作りも担当し、合間を縫ってネットで仕事をする。
 こんな毎日を過ごすのは、プロブロガーのイケダハヤトさん(26)だ。高度経済成長の代名詞「所得倍増計画」を唱えた池田勇人元首相と同姓同名。でも、主張は真逆だ。
 ソーシャルメディアや新しいテクノロジー関係の話題、鋭い社会批評などを書き込むブログが人気で、月間読者は約32万人。ブログを通して広告やアフィリエイト収入が月20万〜25万円ほどある。忙しい時期は、講演や企業のコンサルティングなども行っていたが、いまは「育休モード」と決め、できるだけ仕事を減らし、「家族3人が快適に暮らすため」、年収300万円程度に働くことを心がける。

◎年収150万円の幸せ
 「住宅ローンもなければブランド品も買わないし、外食もほとんどしない。そうすれば、生活コストはそんなにかかりません。不必要なお金を稼ぐために家族との時間を削り、うつ病になるほど会社で働くのは無意味だと思います」
 イケダさんの、この価値観の原点は就職だ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、2009年に大手半導体メーカー、ルネサステクノロジに入社した。就職活動は、リーマン・ショック直前の売り手市場で、「大手志向」に疑問を抱いていなかったという。だが、新人研修中の4月16日、日経新聞の1面で会社が合併されることが報じられた。寝耳に水の話に、自分の人生を会社に預けたらどうなるかを考えさせられた。
 その後、ブログを見たベンチャーの社長から声をかけられ、転職。仕事は楽しく、やりがいもあったが、自分が本当にやりたいブログでの情報発信やNPO支援に時間が割けないことに悩み、フリーランスとなった。
 当然、収入は不安定になったが、自由度が増え、ストレスも減った。今年、著書『年収150万円で僕らは自由に生きていく』も出版。自分たちの世代は「年金で悠々自適な老後」など全く期待できないので、定年なしで一生働き続けることになると考える。「低収入でも本当にやりたい仕事」にシフトしたのは、長く働き続けるための環境整備でもあるという。


◎お金より情報に価値
 「大企業もあてにならない時代ですから、僕らの世代は『貧困がデフォルト(規定値)』になる。そういう時代に必要なのはお金ではなく、お金がなくても生きていける力だと思います」
 実際、そういう社会の変化を感じるという。SNSなどで個人のスキルを提供し合いボランティアをする動きも進む。住宅費を抑えるため、同世代の友人の中にはシェアハウスを利用する人も珍しくない。子育てには高い教育費が必要と言われるが、ネット上にはスカイプを使った英語スクールなど格安で教育を提供するサービスもある。快適な暮らしのために必要なのはお金ではなく、「情報やつながり」だと確信している。
 「極端に言えば、情報やつながりがあってお金を使わない人が豊かで、情報やつながりが乏しいためにお金を使うしかない人は貧しい、という価値観の転換が起こるかもしれません・・・
http://astand.asahi.com/webshinsho/asahipub/aera/product/2012122500008.html?ref=recd

年収別に試算「一体、手取りはどれだけ減るのか?」
所得税、住民税、年金……怒涛のアップでどうなる
2012年12月10日(Mon) 井戸 美枝
消費税がアップしなくても、試算の結果、どんな家庭も確実に手取りが減ることがわかった。最も損をするのはどの年収か?

2003年には厚生年金保険料に総報酬制が導入、04年には保険料率のアップと配偶者特別控除の廃止、06年には定率減税の税率変更、翌年廃止と、給与から天引きされる額は年々増加してきました。さらに11年から実施されたのが、扶養控除の減額。それまで15歳までの子で38万円あった控除が廃止、16〜23歳まで63万円の控除が減額となっています。その影響で11年から子をもつ世帯の所得税が、12年からは住民税が増税となっています。

扶養控除の廃止は児童手当(旧子ども手当)の財源確保のためですが、11年4月に1人1万3000円で始まり、2倍になるはずだった支給額が、同年9月からは3歳未満が1万5000円、3歳〜小学校卒業までの第1、2子と中学生が1万円、3歳〜小学校卒業までの第3子以降が1万5000円となっています。

さらに13年から25年間、復興増税として所得税が2.1%、14年からは住民税が1000円上乗せされることが決まっているほか、厚生年金保険料は17年度まで段階的にアップするなど、すでに手取り額の減少が約束されています。加入する健康保険によっては、保険料が年々引き上げられているケースもありますし、消費税率のアップが決まれば、家計へのダメージはさらに膨らむでしょう。

今回はすでに決まっているものだけを反映して試算しているほか、個別性の高い生命保険料控除などは考慮していませんが、かなり手取りが減っていること、今後も減っていくことを感覚的につかんでおくことが重要です。

高収入の人にとっては、手取りの減少は実感が薄いかもしれませんが、その分、いつの間にか家計に余裕がなくなったということになりがちです。もともと家計に余裕がない世帯では、なおさら危機感を持たなければなりません。

たとえば年収500万円で15歳以下の子供2人の場合、夫の手取りは11年から年8万7600円のダウン。月にならすと7000円程度の減少であまり気付かないかもしれませんが、年収で考えると家族旅行をやめざるをえないというほどのインパクトがあります。

一方で、児童手当が支給されますが、就職率の低下などを考えると、子供に返済義務のある奨学金などを利用させるのは避けたいところ。手当は初めからないものとして、教育費の準備に回すのが得策です。

毎年の収入減はボディブローのようにきいてきており、「もう切り詰めるところがない」という世帯も少なくないようです。かといって会社員の年収を増やすのは難しい状況。そうなれば、妻の収入を増やすことを考えたほうが現実的です。

扶養控除を受けるために、妻はあえて扶養の範囲内で働いている家庭は少なくありませんが、パート労働者でも一定の要件を満たす人には厚生年金、健康保険の適用が拡大される方向で検討されています。年金についても専業主婦に該当者が多い第3号被保険者は、いつも槍玉に挙がっており、将来的に保険料がかかる可能性もないとはいえません。

目先のことだけを見れば、中途半端な収入では社会保険料がかかって損をするのでは、と考えがちですが、健康保険に加入すれば病気で休職しても傷病手当金(給与の6割程度を給付)が受けられる、厚生年金に加入すれば老後資金が増えるなど、恩典も少なくありません。なにより、夫と妻の両方が収入を得て、収入の分散を図れば、安心感が増します。「扶養の範囲内で働いたほうが得」という考えを捨てて、少しでも収入アップを図るべきです。

まずは手取りが年々減っていく現状を認識し、夫婦で危機感を共有すること。家計を支えるために働くのは辛くても、子供のためとなれば働く意欲が湧くお母さんも多いようですから、「子供の将来のため」というキーワードで話し合ってみてはいかがでしょうか。

手取りが減っていると同時に肝に銘じたいのは、将来のために準備すべき金額は多くなるということです。公的年金については、支給開始年齢が68〜70歳に引き上げられたり、年収が高い人では支給額が頭打ちになる可能性もあります。手取りが減っていくのに対応しながら貯蓄に力を入れる必要があるわけです。

そのためには、年間の手取り額と、1年間で貯蓄できた額を確認し、いくらあれば生活できるかを把握します。さらに教育費や老後のためにいくら貯蓄が必要かを具体的に計算。年収が高ければ手取りの3割は貯蓄したいところです。

共働きは収入が多い分、支出も膨らみがちですが、お互いの稼ぎや、どの程度のペースで貯蓄しているかは透明化すべき。いやなら、家庭のために貯蓄する額を決め、実行の具合を確認し合える口座をもつなどの方法を考えましょう。

今後、サラリーマンの手取りは確実に減っていきます。「茹でガエル」にならないよう、現実を知ることから始めましょう。

年収500万円

控除の大幅カットで「扶養妻」は限界に


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年収500万円世帯の家計
妻が専業主婦、15歳以下の子供が2人の場合、2011年に15歳以下の扶養控除(年少扶養控除)が廃止され、12年から住民税が増えるため夫の手取りが減少(所得税は11年から負担増)。厚生年金保険料も毎年増えている。

子供2人で年額24万円の児童手当が支給されるが、子供のために全額使うと生活費には回せない。夫のみの手取り400万円前後では楽ではないが、会社員が収入を増やすのは難しい時代。妻が働きに出るなどの方法で収入アップを図りたい。

シングルの場合、もともと扶養控除がないため、扶養控除廃止の影響は小さく、手取り額の減少は社会保険料のアップによるもののみとなる。ここでは30代の例で、介護保険料負担はない。

年収800万円

月1万円のマイナスで削るのは父の小遣いか塾代か


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年収800万円世帯の家計
年収800万円では所得税の税率が20%(課税所得330万円超695万円以下のケース)と高くなり、11年は15歳以下の扶養控除が廃止されたことによる所得税増税の影響が大きかった。12年は住民税にも影響が及ぶほか、社会保険料負担も増し、夫の手取りは約8万6000円ダウン。2015年にはさらに社会保険料負担が増え、11年に比べると月額で1万円以上手取りが減る。

子供の年齢が異なると手取りにも違いが生じる。子供が高校生なら扶養控除が受けられ、子供が中学生のケースより税負担が軽減。

また妻が年収200万円なら、扶養を外れるため社会保険料がかかるが、12年の手取りは約162万円。世帯合計は約776万円となり、専業主婦家庭を引き離す。

年収1000万円

稼ぐ妻か専業主婦かで夫の減少幅は4割も変わる!


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年収1000万円世帯の家計
年収800万円と1000万円では所得税率が3%しか変わらない(課税所得695万円超900万円以下の税率)ため、年収差200万円に対して所得税額の差は約30万円。年収800万円に比べて、働き甲斐が感じられるのでは。

2011年との変化では、社会保険料のアップ、子供2人の扶養控除廃止による住民税の負担増(所得税は11年に増)により、手取りは9万円以上ダウン。

妻が年収500万円、子供が高校生1人のケースでは、児童手当の支給もないが、手取りの世帯合計は1100万円を超え、かなり余裕があると言えるだろう。

2つのケースで夫の手取りが同じになったのは、上の家庭は妻の分だけ、下の家庭は子供の分だけ扶養控除され、ともに同額のため。

年収1200万円

年間15万円超減。高収入でも油断は禁物


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年収1200万円世帯の家計
2010年の夫の手取りは約886万円。15歳以下の扶養控除(38万円)が廃止されて11年から控除額が減り、税率が高い(課税所得900万円超1800万円未満で33%)高年収の人は影響が大きく、11年には手取りが18万円も減っている。12年からは住民税へも影響し、さらに9万円以上、15年にはさらに6万円減ることが決まっている。税率が高い分、税制改正の影響を受けやすいことを知っておきたい。

一方、子供なしの高収入同士のディンクスでは、所得税の変化は小さい。子供がいないので、もともと扶養控除がなかったためだ。妻の年収800万円を合わせると15年は11年より手取りで約15万円ダウンするが、それでも約1430万円と余裕がある。

計算の仕方
(1)年少扶養控除、特定扶養控除の上乗せ部分廃止。
(2)厚生年金保険料は毎年0.354%ずつアップ。
(3)復興税が2013年から所得税に2.1%、14年から住民税に1000円上乗せされる。
(4)健康保険料は東京都の協会けんぽに準拠。
(5)ボーナスは年4カ月分として計算。
(6)住民税の均等割り額は、11年は夫婦どちらかが4000円、12年は1人が4000円、一方が2000円、13年以降は2人とも4000円負担として計算。

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正社員と同じ仕事で給料半分。なんとかならないか
職場で冷遇、まさかの事態−契約社員
2013年03月21日(Thu) 高木 侑子
毎年契約を更新して勤続10年の契約社員Aさんの悩み。「正社員と同じ仕事をしているのに、給与は半分。正社員には出ている通勤手当も出ない……」。

総務省の統計によると、契約社員、パート社員、派遣労働者等の非正規労働者が労働者全体に占める割合は、35.2%と過去最高となった(平成23年男女平均)。この非正規労働者の大半が、雇用の期間を数カ月や数年と定められた有期契約の労働者だ。「有期」とはいっても、更新によって勤続年数が5年、10年と長期に及ぶ者も少なくない。

正社員と非正規労働者の年収分布を比較すると、前者が200万円から999万円の層に幅広く分布しているのに対し、後者はその80%近くが100万円から299万円の層に集中しており、その差は歴然だ。

もっとも、非正規労働者の多くは就業場所や従事する業務の内容等を限定され、短時間勤務のこともあるので、会社の命令で転勤や配置転換、業務内容の変更等がなされる正社員と単純に比較することは難しい。

ただ、非正規労働者の給与は労働者の能力や勤続年数よりも業務内容にリンクするため、正社員のように昇給という概念がない。そのため給与は頭打ちとなり、Aさんのような不公平な事態は起こりやすい。

このような事態を受けて、12年8月10日、労働契約法の改正がなされた。第20条を新設して、会社が有期契約であることを理由に不合理な労働条件を定めることを禁止したのだ(施行日は13年4月1日となる見通し)。これによって、同一の会社内では、正社員と有期契約の非正規労働者との間で、「労働条件」、つまり給与や労働時間、服務規程および教育訓練の適用、福利厚生等の一切の待遇について、不合理な格差を設けることはできなくなった。

格差が「不合理」かどうかは、(1)業務の内容、(2)これに伴う責任の程度、(3)転勤等の人事異動の有無とその範囲、また業務内容や責任の程度について変更がありうるかとその範囲、(4)労使間の慣行その他の事情という4つの観点から判断される。

給与も手当も請求できる


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賃金だけでなく福利厚生などにも差があってはいけない
さらに厚生労働省は、この新第20条を民事的効力のある規定であると解釈する通達を出しており、この点もポイントとなる。つまり同条によって、不合理な労働条件の定めは無効となり、かつ有期契約労働者の労働条件は基本的に正社員と同じものと解釈されるのだ。また不合理な労働条件の定めを置くこと自体が会社の不法行為となるため、損害賠償の対象となる。したがって、有期契約労働者は、会社との間の雇用契約または不法行為に基づいて、会社に対して給与の差額分の支払いを請求することが法的に可能となる。

Aさんとしては、正社員と自分の業務内容や責任の程度が同等であること等を主張して、会社に給与額の是正を求め、会社が応じない場合には、正社員の給与との差額分の支払いを求めて提訴できる。また新第20条の「労働条件」には通勤手当や食堂の利用、安全管理等も含まれる。正社員に通勤手当が出ているのであれば、Aさんは併せてその支払いを会社に求めることができる。

ただし、先述したとおり有期契約の労働者は就業場所や従事する業務の内容、責任等が限定されていることも多く、その労働条件は必ずしも上記の4つの観点を満たすとは限らない。また、会社との紛争を抱えることになるため、同じ会社で継続して働くことを希望する人にとっては、会社を訴えることへの心理的な抵抗は決して小さくないだろう。今回の改正労働契約法を受けて、会社が積極的に不合理な格差を解消する措置をとっていくことが望まれる。


 


PRESIDENT Online TOP > ニュースファイル

涙のハケン社員「私たちのお金、夢、結婚……」
2012年01月04日(Wed) 清水 直子
突然の派遣切り。解雇で失意の同僚は自殺

石井 宏(仮名)49歳
商社経営→倒産→自己破産→離婚→寮付き派遣→派遣切り→強制退寮

石井宏さん(49歳・仮名)が、2009年1月に派遣切りにあい、仕事と住まいを失ってから1年が経った。いまは支援団体の協力で、生活保護を受け、アパートで暮らしながら求職活動を続けているが、書類選考で落とされてしまい、面接までなかなかたどり着けないでいる。

北海道出身の石井さんは、30歳のときに貿易関連の会社を起業。当初は順調に売り上げを伸ばしていたが、為替の乱高下に振り回され、事業に失敗。親から受け継いだ70坪ほどの二世帯住宅と土地を売却したが、すべての負債は返せず、自己破産の道を選んだ。

「借金をしていた親戚から、『女房をスナックで働かせて借金を返せ』と言われ、やむをえず離婚しました。幼い子ども3人は、妻が引き取りました」

住まいを失った石井さんは、住み込みの仕事を転々。派遣会社の寮に入り工場などに派遣されて働くようになる。派遣先である自動車部品会社で、2年間の勤務後、「もう契約更新はできない」とだけ伝えられ、派遣切りにあった。

当時の月収は約16万円。そこから社会保険料や寮費、寮備え付けのエアコンなどのレンタル料を差し引かれると、手元に残るのは6万円ほど。貯金をする余裕はなかった。

すぐに失業給付の手続きを進めようとしたが、派遣会社には、「離職票を発行するまでに3週間はかかる」と言われた。宿泊先のあてはなかった。

なんとかハローワークに家賃1万円の市営住宅を紹介してもらえたが、交通の便が悪く、ハローワークへの片道の交通費だけで1000円以上もかかる。また照明や暖房、風呂釜は未設置だった。求職活動もままならないなか、布団にくるまって寒さに耐えた。2月末、テレビのニュースで支援団体の存在を知った。すぐに連絡を取り、生活保護の手続きを進めた。所持金は5000円だった。

住み込みや寮付きの仕事を辞めるとき、いったん身を寄せる家族がいないと、いきなり住まいを失う恐れがある。高齢であればなおさらだ。

石井さんは、派遣会社で同僚だった60代の男性が、派遣切りにあって悩んでいる、と人づてに聞いた。「相談できる団体がある。生活保護も受けられる」と伝えようと、寮の部屋を訪ねたところ、男性が首を吊って亡くなっているのを見つけた。死後1週間が経過していた。

「寮に住んだまま雇用保険や生活保護を受けることができれば、家を失う恐怖はだいぶやわらぐと思います。同じ派遣会社にいて離職票も受け取らずに追われるように寮を出た人たちは、どうなってしまったのか……」

現在、石井さんは、家を失った仲間の力になりたいと、かつての同僚たちに連絡を取り、支援団体への紹介を進めている。

13年間勤続も「一言」で使い捨てにされる

三浦孝一?36歳
受験失敗→学費のためバイト→13年間違法派遣→派遣切り

「派遣ではどんなに頑張って働いても、簡単にクビになってしまいます」

こう語るのは三浦孝一さん(36歳)。三浦さんは、高校卒業後、大学受験に失敗。学費を貯めるために短期のアルバイトを始めたが、そのまま受験せずにアルバイトを続けた。21歳のとき派遣会社へ登録。機械部品会社で、包装や箱詰めなどのピッキングの仕事を始めた。時給は1400円で、月収は手取りで19万円ほどだった。

働き始めてすぐに、三浦さんは、派遣先の社員が仕事中にひっきりなしに吸う煙草の煙に困るようになった。子どもの頃にぜんそくを患ったことがあり、煙草が苦手だった。

勇気を出して、派遣先の上司に「換気扇を回してもいいでしょうか」と許可を求めると、上司は「換気扇は、火災のときにしか回してはいけない」と認めようとしなかった。

交渉してなんとか換気扇を回す許可を得たものの、それからは故意に近くで煙草を吸われたり、「電気代がもったいない」とたびたび換気扇を止められたりした。仕事中、言いがかりをつけられて胸ぐらをつかまれ、首を絞められたこともあった。

勤務を始めてから3年ほど経った頃、派遣先の常務から「正社員になる気はあるか」と聞かれた。正社員になることをひとつの目標にしていた三浦さんは、すぐに「ぜひお願いします」と答えた。

契約時、三浦さんの業務は「貿易事務」とされていた。原則として、派遣期間が3年を超える派遣社員に対し、派遣先企業には直接雇用に切り替える義務がある。ただし政令で定められた26種類の業務には例外的に3年以内の制限がない。「貿易事務」は期間制限のない専門業務にあたるが、三浦さんの業務の実態とは異なる。この企業は違法派遣をしていたのだった。

勤続13年が経った08年7月、久しぶりに常務の姿を見かけ、あらためて正社員化の話を尋ねた。常務からは、「経営が苦しいから無理だったわ」の一言だけだった。

この頃、派遣先では、喫煙者の割合が増えた。喫煙者は職場内で1日に何度もいっせいに煙草休憩をとっていた。三浦さんは、昼食時以外に休憩はとっていなかったが、煙に耐えられなくなり、煙草休憩に合わせて、自分も休憩をとってその場を離れるようにした。換気扇を止めるという上司の嫌がらせは相変わらず続いていた。

煙草休憩に合わせて席を立つようになった三浦さんに対し、上司は「おまえ、そんなことをしていると次の休憩はないぞ」と吐き捨てた。その言葉のとおり、三浦さんは、08年9月に期間満了として解雇されてしまう。三浦さんは、派遣という働き方をこう振り返る。

「13年間も繰り返し契約を更新していたのに、職場環境の改善を求めたら契約満了。簡単に使い捨てられる、奴隷のような働き方だと思います」

語学マスターの専門職も50代で紹介ナシ

河本陽子(仮名)55歳
外資系正社員→派遣登録→時給ダウン→派遣切り

16年間、派遣で貿易事務の仕事をしてきた河本陽子さん(55歳・仮名)には、この1年間仕事の紹介がなく失業状態が続いている。

大学卒業後、外資系企業などで正社員として働き、貿易事務の仕事に携わってきたが、リストラにあい退職。体調を崩し2年ほどの静養を経てから、1994年、派遣として働き始めた。38歳だった。

当初の時給は1800円。自費で英会話講座の受講を続けるなど、スキル向上には力を尽くしたが、契約更新や派遣先が変わるたびに時給は下がった。06年には1700円、08年には1650円。運よく派遣先が途切れずに働けても、年収は400万円程度だったという。

「正社員なみの給与があるようにも見えますが、派遣の不安定さをカバーできる待遇ではありません。ボーナスはなく、交通費すら出ませんから」

仕事には多数の専門知識が必要とされる。貨物船を2週間借りて、北米の2カ所で木材を積み込み、日本の8カ所の港でおろす。そのために航行ルートや荷物の積み降ろしの順序、燻蒸の場所などを決め、顧客と交渉する。資金の回収を行うこともあった。素人には務まらない。

「仕事はやりがいのあるものでしたが、派遣だというだけで、成果は自分の実績になりません。プロジェクトの途中で派遣契約が終了することもありました」

同じ派遣先での勤務は平均で1年。契約期間は約3カ月で、3回ほどの更新で「期間満了」となる。

「長くて3カ月のスパンでしか雇用が保証されませんから、口頭で契約を更新すると言われていても、契約書が送られてくるまでは不安でした」

将来設計が立てられないまま、09年2月に契約満了したのを最後に、ついに仕事が途切れた。いまは正社員のときの退職金を取り崩して生活している。

「募集されている貿易事務の求人のほとんどは、自分にできる仕事です。でも現場の上司は自分より年下の人なのでしょう。求人票には『30代が活躍しています』『派遣先の上司は45歳です』とそれとなく希望年齢が書いてある。私が申し込んでも、まったくひっかかりません」

この2月には雇用保険の失業給付も切れるが、生活の見通しは立たないままだ。

派遣会社は「派遣はスキルを生かして自由に働ける」と宣伝してきた。しかし、いくらスキルを身につけても、40代、50代になると仕事がなくなってしまう。生涯を通した働き方としては成り立たず、話が違うと立ちすくむ派遣労働者は数多い。

派遣会社の業界団体は、派遣のメリットを「非雇用」、つまり、雇わずに働かせることができることだとうたっている。派遣を活用している企業は雇用責任を負わない。しかも切り捨て御免――そんな処遇が、派遣社員の生活や未来を破壊している。

※すべて雑誌掲載当時

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