「世相ブラ」にもアベノミクス？
連日のように報道される経済効果

 5月8日のヤフートピックスに大きく写真付きで掲載された「ブラノミクス」の記事をご覧になっただろうか。女性用下着メーカー「トリンプ・インターナショナル・ジャパン」が毎年行う変わり種の「世相ブラ」に、今年はやはり「アベノミクス」がキーワードとして選ばれたようだ。

 バストサイズが2％アップするパッドを付属したのは、「2％のインフレ目標」にかけているから。このほか、弁財天をイメージしたり金運アップの黄色を使うなど、なんとも華やかだ。これまでの「女性維新ブラ」（2012年11月）、「スーパーCoolブラ」（同5月）、「なでしこ応援ブラ」（2011年11月）などと比べても、ひときわ目立っている。

 世相を反映する明るいイメージの商品が出たことに、とりあえずホッとしている人も多いのではないだろうか。もちろんムードだけではなく、コンビニ各社の賃金ベースアップや全国百貨店の3ヵ月連続での売り上げ総額増（3月は前年同月比3.9％増の5447億円／日本百貨店協会調べ）など、アベノミクスの経済効果を告げるニュースは毎日のように目にする。

「今年1-3月期は、米国やユーロ圏などの主要先進国で景気の持ち直しが確認されつつあるが、その中でも日本の高成長ぶりは際立っている。安倍政権が打ち出した経済政策（いわゆるアベノミクス）によって、日本の家計および企業活動が活発化した可能性が高い」（三菱ＵＦＪモルガン・スタンレー証券／景気循環研究所レポート）と、元気づけられるレポートも多い。

 こうしたニュースを見聞きして感じるのが、あたかもアベノミクスが「最強の政策」であるかのような印象だ。

 しかし、安倍政権自身が言っているように、政策としてのアベノミクスの「真の効果」は、今すぐに出て来るわけではない。アベノミクスの金融政策のブレーン、浜田宏一・内閣官房参与の言葉を借りれば「世の中で期待インフレ率が上がって来ると、まず実質賃金の一時的な低下が起こり、その後緩やかな物価上昇の中で実質所得の増加が本格的に始まる」というのが景気回復のシナリオだ。また、株高や円安を演出し、何かと話題に上る大胆な金融政策ばかりでなく、経済復活には財政政策や成長戦略も必要不可欠となる。

 こうした経緯を経て、本格的に国民の所得が増え、消費が活性化し、日本経済が堅調な回復基調に乗るには、「少なくとも2〜3年の時間を要するのではないか」と指摘する専門家もいる。

企業の賃上げ、小売の売り上げ増は続く？
「期待」は庶民の間にも広がっているか

 つまり、現在報道されている企業の賃上げや一部小売業の売上増は、「景気回復期待」を背景にしたポジティブな兆候の第一歩に過ぎないと考えられる。この「期待」を腰折れすることなく持続させ、本格的な景気回復へとつなげるには、まだ時間を要しそうだ。

 そこで気になるのが、世の中では今、どれくらい景気回復への「期待」が盛り上がっているかだ。「アベノミクスで本当に景気が良くなるの？」と半信半疑の読者も多いかもしれないが、我々1人1人の「期待」こそが、日本経済復活のベースとなることを忘れてはならない。

 アベノミクスへの期待は、すでに庶民レベルにまで浸透しているのか。巷の報道や噂との乖離はないだろうか。そこで今回は、「街角景況感」を詳しく調べてみた。

 まずは、20〜50代までの男女50人に、書面と口頭でその実感を聞いてみた。（※年齢・職業などは自己申告によるもの）

 結果は、アベノミクスの経済効果を「感じている＝5人」「やや感じている＝12人」「感じていない＝33人」となった。報道での盛り上がりと比べると、現実はややさみしい結果となってしまった。

「感じていない」と答えた人の中には、「庶民レベルでアベノミクス報道に浮かれて買いものしている人は、ちょっとやばくないですか」（30代前半・男性／自営業）と違和感を露わにする人も。

「アベノミクスって新しいスイーツですか？ くらいに何もないです」（30代前半・男性／会社員）

「残念ながら効果は感じていません」（20代後半・男性／医療系職員）

「大企業や貿易ビジネスに関わってないと、あまり実感できないものなのでしょうか……」（20代後半／男性／ウェブ関連）

 ――このように、聞いたことが申し訳なくなるような回答もあった。

円安による物価上昇で逆に苦しい
今は「アゲノミクス」の印象が強い

 飲食・小売店関係者などに聞いても、効果を実感している人は少ない。

「ターゲット層が大学生のメンズということもあるので、そもそもアベノミクス自体が認知されているのか疑問」（30代前半・男性／アパレル）

「景気回復をまだ信じていない人が多い。（店舗経営者は）円安による物価上昇で逆に利益が苦しいと聞く」（30代後半・男性／一般公衆浴場経営）

「正直、あまり良い話は聞きません」（30代後半・男性／飲食・賃貸業など）

「良くなったと言う意見は回りでは皆無です。むしろ、オイルの値段が上がったり、いろんな物の値段がはねあがっているので、困ってます」（40代前半・男性／自営業）。

 さらに、一部の繁華街や後述する話題の大型商業物件近の近隣に位置する業者以外では、景気回復には「まだ先は長い」と感じている声が多い。

「直接的恩恵を受けるのはまだ時間がかかると思っています。とにかく今はアベノミクス＝アゲアゲムードづくり。アゲノミクスですね！」（40代前半・男性／自営業）

「私たちの世代はまだまだ冷めているかと思います」（30代前半・女性／会社員）

 多くの人が、株高や円安だけで街角の景気までよくなると期待するのは、まだ早いのではないかと感じているようだ。ただ、「感じていない」と答えた人の中でも、今後、特に今年の後半以降に期待する声はあった。

「さすがに、目に見える効果については早計すぎるのではないかと。2013年後半頃には中小企業が多少潤い初めて、来春の決算はだいぶ良くなっていくんじゃないでしょうか。そこで給与が上がったり、求人倍率が上がるような気はします」（40代前半・男性／自営業）

「夏のボーナスあたりから、プチプチと効果が見えてきそうではありますが」（30代前半・男性／会社員）

「6月のボーナスが少し楽しみ」（40代後半・男性／会社員）

百貨店、タクシー、夜の店もホクホク？
実は多い「周囲に聞いた景気のいい話」

 一方、自分自身はアベノミクス効果を感じていない人でも、景気の良さをニュースだけではなく周囲の雰囲気から見聞きしているという人は、回答者のうち半数程度いた。

「夜業態の店で高いお酒が出始めている。ブランデーやらウィスキーやら。一部の人にプチバブル？」（30代前半・女性／食品メーカー）

「同年代の友人が本気でマイホーム購入を検討し始めた」（30代前半・女性／再保険ブローカー）

「安売り店よりも、デパートなどの高級店での販売が伸びていると聞いています。若者向けの店舗よりも、年輩向けの店舗が調子が良いらしい」（30代後半・男性／眼鏡販売）

「飲み屋が平日でも混雑しているし、実際に客が増えていると聞く」（30代後半・男性／会社員）

「金曜夜の電車の混み具合。タクシーのつかまりにくさ」（40代後半・男性／会社員）

「外国人観光客や外国人労働者が増えたような気がする。最近再び都内で目立つ」（30代前半・男性／会社員）

「大手百貨店では高級時計がとても売れている、と知り合いのコンサルタントが話していました」（20代後半・女性／会社員）

「前職の製菓販売店では、連休に帰省客向けの手土産があまり売れなかったそう。お金があったら国内外に旅行へ行ってしまうのかなと話していた」（30代前半・女性／医療系事務）

「連休は旅行をしている人が多かった」（30代前半・女性／メーカー）

年始に買ったガンホー株が何倍にもなり
数千万円の車を現金で買った友人がいる

 このうち、株価の話を挙げたのは13人。

「友だちから塩漬けにしていた株が持ち直したとか、ＲＥＩＴで儲かったとか聞いて真剣に投資を始めようかと思いました」（30代前半・女性／ライター）

「同級生が株で大もうけしていてムカつくと話している年長の知人がいた」（30代前半・男性／自営業）

「年始に買ったガンホー株が何倍にもなり、数千万の車を現金で買った友人がいる」（30代前半・男性／会社経営）

 株については、自分自身が儲けたという人も数人いた。

「株でまとまった利益が上がったため、450万円くらいの車を買いました」（30代前半・男性／会社役員）

「リーマンショック以来、塩漬けにしていた株を5年ぶりにチェックしてみたら、プラスになっていた」（40代後半・男性／会社員）など。

 実際に自分でアベノミクス効果を感じている人、もしくはアベノミクス効果を感じて多少生活スタイルが変わったという人の意見は、次のようなもの。

「強いて言えば、今しかチャンスはないのではないかと思い、マンションを見に行った。仕事で広告案件が増え始めた」（30代前半・女性／ライター）

「ボーナスでヨーロッパ旅行を申し込んだ」（30代前半・女性／外資系保険）

「これまであまり買わなかった『ＲＦ1（アール・エフ・ワン）』のサラダを買ってしまった。豆乳を通常のものではなく『特濃』にしたり、飲み会の帰りに1人でもう1軒行くことも」（40代後半・男性／会社員）

「円安で商品が数年ぶりに売れ始めた。再び円高になる前にできるだけ稼ぎたい」（30代後半・男性／個人事業主）

 選択肢で「感じていない」を選んだものの、実際には株で儲かっていたり、周囲から景気の良い話を見聞きしたという人も少なくなかった。バブルを知らない世代は景気の良い話に懐疑的なため、実際に見聞きしても少しのことではアベノミクスを信じる気にならないかも知れない。あなたの実感に近いコメントはあっただろうか。

震災後の自粛傾向の反動もあり
お金を使おうという空気が生まれた

 経済ジャーナリストの荻原博子氏は、現在の状況について次のように分析する。

「震災後の自粛傾向や不安要因により、消費者はお金を使うのを控えていた、もしくは我慢していたところがあります。アベノミクスによって『使ってみようか』という空気が生まれた。特に年配層は『買ってみよう』という気持ちが強いでしょう」

 お金を使うのは本来楽しいことでもある。一部の人には、晴れてお金を使う楽しさが少しだけ戻ってきたという側面もあるのかもしれない。街角までとはいかないが、都市部の目新しいインフラや大規模商業施設が、彼らの消費ニーズを盛り上げそうだ。

「アベノミクスが今後、どうなっていくかはわかりません。ただ、アメリカの景気が持ち直していることなど、安倍政権への追い風となる要素は多いと思います。その1つがヒカリエ、スカイツリーなどの大型商業施設に加え、歌舞伎座の再開場、副都心線と東急東横線の相互直通運転が始まった新宿三丁目駅など、数年前から計画されてきた事業がここ1年で次々にオープン、スタートしていること。これらのスポット近辺では、それなりに経済効果があるはず」（荻原氏）

 大阪では、ＪＲ大阪駅北側に260以上の店舗や施設を持つ「グランフロント大阪」が開業。伊勢神宮で行われる20年に一度の「式年遷宮」、出雲大社で60年ぶりに行われる「大遷宮」も国内観光客を集めそうだ。

東証1部上場企業の夏季賞与は減少
あなたはアベノミクスを信じるか？

 気になるのは、こうした消費活性化の「原資」を捻出する消費者の懐事情だが、冒頭でも述べたとおり、収入増までにはまだ時間がかかりそうだ。

 一般財団法人「労務行政研究所」が4月末に発表した調査によると、東証1部上場企業139社の今年の夏季賞与・一時金は、前年同期比で0.6％の減少。2012年に引き続きマイナスとなってしまった。「一般企業はまだ数字的に上向いていない気がする」（30代前半・男性／メーカー）という予測が、今のところ当たっている。

 バブルを知らない世代は「金を使う楽しさを知らない」と言われることもあるが、この世代が積極的に「お金を使おう」と思えるようにならなければ、景気回復もないはず。景気回復に懐疑的な層の心の壁が取っ払われ、堅調な「期待」が醸成されることに期待したい。

 あなたは巷の報道や噂に溢れる「アベノミクス効果」最強伝説を信じるだろうか。

あんたえらそうに言ってるけど、株をやったことがないよな？